生産者と消費者が向きあう農業とは∼可能性と課題を検証する∼

生産者と消費者が向きあう農業とは∼可能性と課題を検証する∼
青山 浩子
農業ジャーナリスト ■消費者との距離が接近
農業現場を歩き、取材するようになって12年
が経とうとしている。歩き始めた頃と今を比べ
■市場流通への危機感と消費者の成熟化
生産者と消費者の距離が近づいた背景には、
少なくとも次の3つのことが考えられる。
ると、生産者と消費者の距離は格段に縮まった
ひとつは、生産者の市場流通に対する危機感
ように感じる。消費者に近づこうという生産者
の現れだ。小売店同士の価格競争、オーバース
も増えているし、消費者もこれを前向きに受け
トア現象の影響で、農産物の市場平均単価は生
止めている。
産者にとって採算のとれるものではなくなって
生産したものをJA、あるいは卸売市場に出荷
いる。過剰供給の下で生き残るには、価値を認
すれば終わりという従来型の農業から比べると、
めてくれるお客さんを自ら探すしかない。行き
いまは農業のスタイルも多様化した。主なもの
先の分からない農産物を作っても儲からないと
として
いう意識をもつ生産者が増えた。
・生産物を自ら消費者にインターネットなど経
2つめは、消費者の成熟化だ。
「地元のものが
由し販売、あるいは農産物直売所で販売する
食べたい」と近くの生産者、産地の商品を買い続
・スーパーやレストランと契約して産地名、
けている人、商品の売り買いのみならず、生産者
生産者名を明示した上で販売する
・農村レストラン、農家民宿を運営し、農業
+観光という経営形態をとる
・生産者が消費者をほ場に招き、種まきや収
穫などの体験をしてもらい交流を図る
・生産者が地元の学校を訪ね、子供たちや保
護者を相手に食育を行う
と交流するために産地を訪れたり、オーナー制度
の会員になったりする人は確実に増えている。
日本人の胃袋はすでに満たされている。一方
で中国、ブラジル、インドなどの経済発展、バ
イオ燃料の需要増加のニュースをみるにつけ「い
まのこの豊かさが永遠ではない」と思う人も出
てきた。あらためて足元にある日本の農業を見
などが挙げられる。
つめ、できることから応援しようという意識の
12年前は自ら販路を開拓し、消費者や小売店
現れが元になっているのだろう。
と直接取引する生産者はいまほどポピュラーで
もっとも「いまの消費者は価格重視。安くな
はなかった。全国に約14,000 ヶ所といわれる農
いと買ってくれない」と嘆く生産者は多い。実
産物直売所も当時は多くはなかった。農家レス
際にそのとおりだろう。つまり、
“消費者”一言
トラン、農家民宿など観光的な要素を取り入れ
で括れなくなったということだ。多くの消費者
た経営をしている人も珍しかった。消費者との
の低価格志向は生産者の経営を圧迫しているが、
交流といえば、古くから消費者団体と交流を図っ
成熟化した消費者を相手にしている生産者には、
てきた生協がなんといっても有名だった。それ
提供できる商品、サービスの幅が広くなってきた。
がいまでは、個人農家も消費者や取引先を農場
3つめは情報の入手がしやすくなったことも
に招いて、情報交換をしたり、食事会をするよ
大きい。インターネットの発展によって、生産
うになった。農業の領域がどんどん広がってきた。
者は消費者に情報を自由に発信できるようにな
り、消費者も農業や食に関してほしい情報をい
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青山 浩子(あおやま ひろこ)
(農業ジャーナリスト)
1963年愛知県生まれ。86年京都外国語大学英
米語学科卒業。日本交通公社(JTB)勤務を経て、
90年から1年間、韓国延世大学に留学。帰国後、
韓国系商社であるハンファジャパン、船井総合
研究所に勤務。
99年より、農業関係のジャーナリストとして活
動中。1年の半分を農村での取材にあて、奮闘す
る農家の姿を紹介している。農業関連の月刊誌、
新聞などに連載。著書に
「強い農業をつくる」
「
『農』
が変える食ビジネス」
(日本経済新聞出版社)
「農
産物のダイレクト販売」
(共著、ベネット)など
がある。茨城大学農学部非常勤講師、農林水産
省食料・農業・農村政策審議会委員をつとめる。
くらでも探すことができるようになった。情報
で訪れた消費者が、山に添って植わっている果
技術の発展は農業ビジネスの進化に大きく貢献
樹を見て「素敵」といったことがきっかけとなっ
した。
た。「自分たち作業しにくいとしか思えない中山
農産物の価格低迷が常態化するいま、従来通
間地が消費者に感動を与えるとは…」と衝撃を
りJAや市場に出荷するだけでやっていけると考
受けた。1996年、農園を整備するとともに、も
える生産者はほとんどいないだろう。とはいえ
ぎたての果物を使ったケーキが食べられる喫茶
生産に特化してきた生産者がいきなり消費者と
店をつくり、観光果樹園としてオープンした。
接点を持つことは容易ではない。「頭では何とか
好きなだけもぎ取りをしてもらい、重量分の
したいと思っていても、実際に行動に移すのは
料金を払うというシステムだが、固定客をつく
難しい」という生産者もいる。
るための工夫もしている。それが独特のオーナー
先駆的に取り組んできた生産者、組織の事例
制度だ。一般的に果樹のオーナーになった消費
を紐解くことで、どうやって消費者と接点を持
者は1本につき数万円払い、選定や摘果の管理
ち、農業経営の幅を広げてきたのかをさぐって
をする代わりに、収穫物はすべて自分のものに
みた。
なるというスタイルが多い。だが頻繁に果樹園
に行けない人もいれば、少人数の家族の場合、
■消費者の視点に立った観光農園
「オーナー制度とか消費者は興味があるんです
か。農家に生まれた僕には農業があまりにも近
樹一本分の収穫物を消化できず、オーナー制度
に興味を持ちながらためらってしまう消費者は
案外多い。
すぎて、魅力がわからない」̶。浜松市で観
そこで末次さんはオリジナルの制度を考案し
光農園を営む若い農家がこうつぶやいた。確か
た。例えば、梨のオーナーになったら1本につ
に米や野菜が成長する様子、収穫の喜びも生産
き500円を払うだけ。その上で何度か農園を訪れ
者には当たり前だ。逆に、生産から遠くはなれ
てもらい、受粉作業や袋がけ作業を手伝っても
ている消費者の中には、興味津々という人がいる。
らう。収穫物はどうなるかというと、オーナー
そんな消費者の心をうまくつかんでいる生産
は通常の2割引で買うことができる。生産者に
者の一人が、福岡県で観光農園「やまんどん」
とっては固定客の確保につながるし、消費者に
を営む末次研二さんだ。梨、ぶどう、柿など一
とっては参加しやすいオーナー制度だ。
年を通じてもぎ取りできる観光農園を運営し、
実際にオーナーになった人から「梨ができる
もぎたて果物で作るケーキを出すカフェを併設。
までにこんなに手間をかけとるとね」と言われ、
年間5万人を集客する。
台風が来ると「うちの樹は大丈夫とね」と心配
末次さんは親の代から果樹を作り、軒先販売
で電話してくる人もいる。わずかではあるが作
をしてきた。だがバブル崩壊以降、果物の売れ
業に参加することで農業や生産者に共感を抱く
行きが落ちた。打開策を探ろうと自治体が主催
のだろう。
するグリーンツーリズムの勉強会に出た。そこで、
消費者と近づく果樹園経営を思いついた。交流
自家菜園や市民農園で作物を作るところまで
はいかないまでも「農業ってどんなものだろう」
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「なぜ農業にはいろんな問題があるのか」と関心
を 紹 介 し て も ら う よ う に 呼 び か け た。 す る と
を寄せる人は徐々に増えている。こういった消
2005年より、高知県内の量販店やレストランも
費者の変化を生かさない手はない。
この運動に賛同し、
「食べる週間」に合わせ、量
販店では米ナスの売り場拡充、レストランでは
■量販店、飲食店との連携
末次さんのように自らの農場を拠点にして消
米ナスを使ったコース料理を出すようになった。
高知市のレストラン、三木ドゥーブルは毎年、
費者との距離を埋めようとする取り組みが多い
食べる週間にあわせ各種米ナス料理を考案し、
が、飲食店や小売店を舞台にして地元食材の消
顧客に提供している。米ナスの産地も訪れ、生
費拡大を図ろうという動きもある。
産者と懇意になった三木竜太オーナーは、生産
その一例が、高知県の米ナス生産者たちが、
者に変わって素材の説明をする。
「米ナス農家た
飲食店や小売店の力を借りながら、米ナスの地
ちは農薬を減らし、
(益)虫で(害)虫をやっつ
元消費拡大を図っている取り組みだ。
けているんですよ」「より安全なナスづくりのた
高知県は米ナスの生産量が全国一だ。ところ
め、オランダまで勉強に行っているんですよ」
。
が業務用の需要が大半をしめる米ナスは、地元
まさに、産地と消費者をつなぐ役割を果たして
であまり出回ることがなく、高知県民でさえ「食
いる。
べたことがない」「全国一の産地ということも知
らない」という状況だった。
日頃から消費者に近いところにいるシェフが
情報発信をしてくれることは、生産者にとって
2002年、米ナスの産地のひとつ、嶺北地方の
メリットである。消費者に情報を伝える必要性
生産者らが「生産者自ら米ナス食べる週間」と
は痛いほど感じていながら、生産に追われ思う
題するPR活動を始めた。米ナスの出荷が始まる
ように身動きがとれないという生産者が実際に
6月第2週に、一週間米ナスを食べ続けるとい
は多いからだ。
うもの。
嶺北地方では天敵昆虫を使った農法を導入し、
生産者のみならずレストランにとってもメ
リットがある。静岡県富士宮市で農業生産とレ
化学農薬の使用量を大幅に減らしている。とこ
ストランの運営をしているビオファームまつき
ろが消費者のなかには、「生産者は出荷用には農
の松木一浩さんは「レストランが産地や生産者
薬を遠慮なく使うが、自分たちは無農薬の野菜
を特定して野菜を仕入れる傾向はもっと高まる」
を食べている」と思っている人もいる。「そうし
と見ている。
「レストランの競争が激しく、どこ
たことを言葉で説明するよりも、消費者に出荷
も他の店がやっていないプラスアルファを探し
するものと同じものを自分たちも食べている。
ている。なかでも差別化を図ることができる素
作っている人間だからおいしい食べ方も知って
材は野菜。この動きに呼応しようという生産者
いる」という点をアピールすることにした。「食
にとってものすごいチャンスですよ」と言い切る。
べる週間」の発案者は農業改良普及員。当初、
生産者に「1ヶ月食べ続けよう」と提案したが、
「さすがにそれは勘弁してくれ」と1週間に短縮
したそうだ。
ユニークな活動は地元メディアで大きく取り
上げ、消費者の反響をよんだ。産地側はこの勢
いに乗ろうと、消費者からも自慢の米ナス料理
■消費者の価値観の変化に対応
消費者と接点を持つ農業を以前から意識し、
仕組みを作り、実にうまく運営しているところ
は三重県伊賀市の伊賀の里モクモク手づくり
ファームではないかと思う。
三重県経済連の元職員2人が手づくりハム・
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ソーセージの製造販売からスタートさせ、いま
ではない。
では農業公園がある伊賀市を拠点に農業生産、
会員からモクモクに届く手紙は年間に1万通
加工、販売、飲食・宿泊と幅広いビジネスにま
を超える。商品やサービスへの要望、提案、ク
で発展させた。
レームなどさまざまだ。モクモクも1万通のお
事業全体の売上はおよそ50億円、公園への入
場客は50万人を誇る。6次産業化の先駆者とも
たよりが来ることだけに安住せず、要望によっ
て取り入れたり、改善を加えたりする。
いえる同社だが、創業当初(1988年)
、山の中の
モクモクでは公園以外に7店舗のビュッフェ
小さな工房でつくりはじめたハム・ソーセージ
式の農村レストランを運営している。定期的にメ
がまったく売れなかったという。
ニューを替えているが、新メニューの試食会にも
何とか人を呼ぶために企画したものが「手づ
会員の希望者は参加できる。しかも有料(500円)
くりウィンナーの体験教室」だった。消費者に
で参加する。ここでも会員の意見がメニューに反
集まってもらってウィンナーづくりの体験をす
映されることがある。要望すれば手応えがあるか
るというもの。当時、どこもやっていなかった
ら会員もさらに参加意識が高まる。
この試みは非常に評判となり、口コミで参加者
モクモクの商品は決して安くない。そのかわ
が増え、参加者が増えるとともに商品も売れる
り、体験教室やイベントはあまりお金をかけず
ようになった。
に楽しむことができる。イベントにかかる人件費、
リピーターが飽きないようにとマツタケ狩り
園内の動物たちの管理など「見えないところ」
や収穫祭などのイベントを企画すると、ますま
はモクモクがコストとして負担する。このため
す参加する人が増えた。それまでは余暇といえば、
消費者はお金も使うが、本人も楽しむことがで
都会に出て遊びにいくのが常識だった。ところ
きる。この点もリピーターが支持する理由だろう。
がバブル以降、田舎に来てのんびり時間を過ご
モクモクも当初からリピーターの囲い込みを
すことに価値を見出す人が出てきた。
戦略としてこれをとらえてきた。吉田専務は「事
価値観の変化を読み取った社長の木村修氏と
業と運動(事業以外の部分)のバランスをいか
専務の吉田修氏は“田舎にわざわざ来たくなる
にとるかを考えている」という。消費者を囲い
仕組み”をつくれないかと考えた。同時に「イ
込むための重要なポイントだろう。
ベントに参加してもらいながら、モクモクがど
んな組織で、何をしているのか知ってもらう。
これからやろうとしていることについて“理解”
■農業参入企業も消費者に着目
ところで、消費者との距離を縮めようとして
し、“共感”してもらう。そうすればモクモクの
いるのは生産者だけではない。農業参入した企
ファンになってもらえる」(木村社長)。この考
業のなかにも、消費者を意識した活動が目立っ
えのもと、モクモクは会員組織「モクモクネイ
てきた。
チャークラブ」を立ち上げた。
株式会社上野忠(大阪府)は柏餅や桜餅に使
う葉、ヨモギなどを和菓子店に納める業界トッ
■事業と運動のバランス
プの企業である。20年以上前に中国に進出して
会員は現在4万世帯。会員になると「公園に
農場を保有、柏や桜を育て、加工した葉を日本
無料で入場できる」、「公園内での飲食、買い物
へ輸出してきた。ただし、単に人件費を削るた
が割引になる」などの特典がある。だがそうし
めではない。上野晃富史社長は「より高品質、
た金銭的なメリットだけで会員になる人ばかり
より手間をかけた原材料を確保するための進出
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だった」と振り返る。
一方で、日本国内でも農場を運営するように
なった。
「石油高騰などエネルギー問題は深刻。
な が っ て い る。 取 り 扱 っ て い る 野 菜 の う ち、
10%ぐらいは自社農場で作った無農薬野菜を販
売できるようにしたい」と意気込んでいる。
中国で高品質な原料を作っても、日本まで運ぶ
コストが高くなれば元も子もない。将来を見通
した時、近くの産地確保も必要になるだろう」
■課題は環境をどう作るか
消費者との関係を重視する農業は今後どのよ
と上野社長は語る。現在、山形県と滋賀県でも
うな展開をみせていくか?農産物価格の低迷に
ち米などを栽培している。
歯止めがかからないいま、収益性のある農業を
日本での農場運営では収益が出ているところ
めざし、生産者は消費者との距離をいっそう近
まではいっていないが、農業参入によって、本
づけようと努めるだろう。前述したとおり、農
業が上向くなどトータルでみた場合の可能性を
業に参入した企業も同様の動きに出るだろう。
多いに感じているという。
ここで課題として挙げられることは2つ。消
同社は、和菓子原料を納めている和菓子屋の
費者に近づく農業をおこなうには一定の条件が
店員に「うちの農場にいきませんか」とほ場に
整う必要がある。小規模零細の生産者などはし
案内する。そこでもち米ができるまでのストー
ようにもできない。これをどうするかだ。
リー、それが和菓子になるまでの過程を話す。
直売所への出荷ならば、店さえあれば誰でも
店員たちは、原料がどうつくられているかとい
出荷できる。だが会員組織を作ったり、定期的
う背景を初めて知る。それによって、菓子を買
に交流をしようとすると一定規模の収益、スタッ
うお客さんへの接客の方法も変わり、商品に今
フの余裕がなければできることではない。少人
まで以上に愛着を持つようになるそうだ。「おか
数の家族経営が圧倒的に多い日本で、消費者と
げでうちが納める商品の売上は伸びています」
近い農業をすすめるにはどうすればいいか。考
と上野社長は顔をほころばせた。関係者に農業
えられることはJAや直売所などが拠点となって
を知ってもらい、巻き込んでいくことは商品価
消費者を巻き込んだ活動を行い、地元の農家も
値の引き上げにつながると上野社長は見ている。
その活動に参加するというスタイルだ。
青果卸および小売を営む大国フーズ(大阪府)
こうした取り組みをしているひとつが、佐賀
もやはり、府内の耕作放棄地を借りて無農薬栽
県佐賀市で直売所を運営する農事組合法人そよ
培で野菜を作っている。津田保弘社長は「中間
かぜ館(小野善隆代表理事)だ。中山間地域の
流通では利益が出ない。知り合いのスーパーが
活性化施設として2001年にオープン。大和町松
農業参入して意欲的にモノづくりしていること
梅地区の有志農家10名が1997年に立ち上げた直
を知り、“これからは販売する人が農業をする時
売所が前身となっている。02年には道の駅の指
代”と感じた」と参入経緯を語る。自ら作った
定も受けた。
無農薬栽培の野菜のおいしさに手応えを感じ、
そよかぜ館は直売活動以外にグリーンツーリ
自社農場では無農薬栽培にチャレンジ中だ。「こ
ズム事業にも乗り出している。組合員たちが「売
の領域のマーケットはまだまだ掘り起こしが見
り上げを伸ばすだけでなく、地域の活性化につ
込める」と若いスタッフとともに汗を流している。
ながる方法はないか」と検討した末、はじめた
同社も上野忠と同じように、野菜を納めてい
ことだそうだ。
る業者、小売店で買ってくれる消費者を畑に招
大和町は九州を代表する干し柿の産地。そこ
待している。「実際に畑を見ることで安心感につ
で行政と連携し、干し柿づくりの体験をしたい
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という消費者を募って、地元の農家が指導役と
店や加工業者との契約栽培、直売事業など多様
なり消費者に教える。その他、味噌づくり、ツ
な販路を確保しているJAとして知られている。
ルカゴづくり、手漉和紙などの体験教室を年間
消費者に直接販売する直売事業としては、本所
に10回以上開催している。小野代表は、「地域の
の敷地内に直売所を運営する他、都心の量販店
埋もれた特産品や観光地を都市生活者に紹介し
数店舗に「インショップ」といわれる直売コー
ていきたい」と意気込んでいる。また、農作業
ナーを構えている。地元の直売所に出荷するか、
の継続が難しい高齢農家から農地を預かり、都
量販店のインショップに出荷するかは生産者本
市生活者に農園として貸し出したり、同館のス
人が決める。物流はJAが担っている。
タッフがホテルや病院用の野菜を作るなど遊休
実は、インショップ事業は量販店に払う手数
農地の拡大防止にも一躍買っている。このよう
料が高いこともあり、単体で見ると収益は低い
に拠点があれば、そこを舞台にして生産者と都
という。配達や売り場管理など人件費もかかる
市生活者が交流できるし、地域活性化にもつな
からだ。だが、量販店に自分の品物が並んでい
いでいくことは可能だろう。
ること、消費者が“指名買い”をしてくれるこ
とにプライドを感じる生産者が多いため、イン
■事業全体での位置を明確に
2つ目の課題は、体験とか交流という事業単
体では収益を上げにくいという点だ。
消費者に直接関わる農業のうち、単体で収益
ショップ事業は継続している。JAにとってもイ
ンショップがあることで量販店との絆ができ、
インショップ以外の従来の青果売り場への取引
拡大も見込めるからだ。単体でみるのではなく、
を上げやすい形態は農産物直売所、農村レスト
事業全体をみて収益を上げていく。消費者との
ランだろう。農家民宿でも順調にいっていると
距離を縮める農業にも同じことが言えるのでは
ころもあるが、季節によって宿泊客に変動があ
ないか。
ること、一人当たりの宿泊費を低く抑えている
少子高齢化、人口減少社会は急速に進行して
ことなどから単体として見ると、収益をあげる
いる。価格より価値を重視する成熟化した消費
のは容易ではないという話を聞く。
者層を囲い込んでいくことは、意欲ある生産者
ましてや農業体験、生産者との交流という“ソ
であればだれもが狙う部分だろう。しかし収益
フト事業”に対して生産者も安めに価格を設定
を度外視して“消費者との距離を縮めなければ”
するし、消費者もそれを望む部分もある。
とボランティアで交流や体験プログラムを企画・
これらを考えると、個人あるいは産地が「消
運営していては経営にむしろマイナスになりか
費者と接近する農業をどう位置づけるか」をしっ
ねない。個人の経営のなかで、あるいは産地の
かりととらえていない限り、生産者が時間や手
戦略として、消費者と接点を持つ農業をどう位
間を費やす割には収益につながらないというこ
置づけるか、収益をどこで出していくか、これ
とになってしまう。
らの青写真をしっかりと描いた上で取り組んで
話が少しずれるが、千葉県のJA富里は、量販
いく必要がある。
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