長野大学紀要

長野大学紀要
第30巻第4号(通巻第116号)
長
野
大
2009年3月
学
長野大学紀要
第3
0巻第4号(通巻第1
1
6号)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
目
<論
次
文>
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
投与の初期に自殺した老年期うつ病の検討
…………………………………………………………………………上 平 忠 一………1
大学初年次生のための文章表現指導プログラム
―評価作文をもとにメタ認知活性化方略の有効性を検証する―
…………………………………………………………………………金 子 泰 子………9
ティム・バートン試論
―「フリークス」の孤独から「家族」の神話へ― その2
…………………………………………………………………………小 林 一 博………2
1
社会福祉施設における地域交流に関する研究
…………………………………………………………………………鈴 木 政 史………3
1
生命倫理学から安全・安心の議論をつくる試み
…………………………………………………………………………徳 永 哲 也………4
3
社会福祉理論の源流にみる公的扶助と社会政策
─大河内一男の場合─
…………………………………………………………………………野 口 友紀子………5
1
<研 究 ノ ー ト>
社会科(歴史)教育における実践と課題
…………………………………………………………………………塚 瀬
進………5
9
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析(2)
…………………………………………………………………………坪 井
真………6
7
長野大学紀要
第3
0巻第4号
1―8頁(2
3
1―2
3
8頁)2
0
0
9
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
投与の初期に自殺した老年期うつ病の検討
A Study on Geriatric Depression with Suicide During SSRI Treatment
上
平
忠
一*
UWADAIRA Chuichi
といわれ、うつ病の急性期治療、維持療法、再発
目 次
予防のいずれの時期においても、精神科医に汎用
Ⅰ
はじめに
され、大きな成果を得ている30)。SSRI は世界で
Ⅱ
症例提示
最初に上市された fluvoxamine(1983年)をはじ
症例 80歳代の男性、反復性うつ病性障害、
め、現在では6種類が利用可能であり、選択的セ
精神病症状を伴なう重症エピソード(F33.
3)
ロトニン再取り込み阻害作用をもつ抗うつ薬であ
兼高尿酸血症兼内痔核
る。SSRI は従来の抗うつ薬に比べると、①抗う
Ⅲ
考察
つ作用がすぐれていること、②即効性であるこ
Ⅳ
おわりに
と、③副作用が少なく安全性が高いこと、を目標
に開発が進められている途上で誕生してきた薬剤
¿ はじめに
である31)。
現在、わが国において年間3万人を越える自殺
その一方で、Teicher15)らが fluoxetine によっ て
者数が1998年以来継続している。2007年の自殺者
希死念慮が強まり自殺をする患者の症例報告を
数は33,
099人である。同年の自殺死亡率(人口10
行ったことを契機として、SSRI の副作用として
万対)は25.
9である。その大部分がうつ病やうつ
自殺の危険性が注目されるようになった2)。
状態に罹患していると考えられている。私たちは
今回、私たちはうつ病に罹患した高齢者に生じ
これまで自殺に関連する研究を行ってきている。
た自殺既遂における、SSRI の activation syndrome
うつ病やうつ状態に関係する研究を述べると、大
の可能性を検討する症例を経験したので、若干の
量服薬による抗うつ剤急性中毒を呈した単極性う
考察を加えて報告する。
つ病症例報告20)や醤油の多量飲用により高ナトリ
ウム血症を生じた自殺未遂に至ったうつ病患者報
告23)および自殺企図後に症状が劇的に改善した難
24)
À 症例提示
症例 80歳代の男性、無職
治性うつ病の症例報告 などが詳細に検討されて
【診断】
きた。
精神病症状を伴なう重症エピソード F33.
3)兼
うつ病の薬物療法は、SSRI(selective serotonin
老年期うつ病(反復性うつ病性障害、
高尿酸血症兼内痔核
reuptake inhibitor,選択的セロトニン再取り込み
【家族歴】
阻害薬;以下 SSRI と略す)が第一選択薬の薬物
である。
*社会福祉学部教授
― 1 ―
妻が不安神経症で A 病院に通院中
2
3
2
長野大学紀要
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0巻第4号 2
0
0
9
【既往歴】
十二指腸潰瘍
が小さく、元気がない。些細なことで自分を責め
【生活歴】
地方都市に2人同胞の長男として出
ている。家の家計のことで過度の心配し、憂うつ
生し、弟がいる。弟は現在同じ地方都市に住んで
感を伴ない、「申し訳ない」と急に泣き出したり
いる。父親は小売業を経営していた。本人が小学
することが認められた。
校2年生の時に、父方の伯父の家に養子に入り、
80歳の4月に、心悸亢進が出現し、心電図の検
現在の居住地に転入した。地元の小学校、旧制中
査を実施するが、著変を認めなかった。不眠に
学校を出て、旧軍人養成学校に進学した。しか
は、ブロチアゾラムやアルプラゾラムを服用する
し、終戦を迎え、旧制高等学校に編入された。
が、短時間しか眠れないと訴えた。
22歳の時に、地元近くの小学校教員に1年間勤
務する。その後、退職し自宅で農業を営んでい
また、地域の世話役の係を急に辞めるなどの問
題行動がある。
た。26歳の4月から再び、教職につき、以後36年
間教員生活を送っていた。教えた主な教科は社会
X 年5月中旬、本人と妻と長男の3人で、精神
科を受診する。
科、英語、美術である。27歳時に見合い結婚し、
初診時主訴は不眠、食欲低下、憂うつ感、意欲
二人の子どもをもうけた。長女は現在結婚し、同
低下、自責感、体重減少(2ヶ月で6Kg)であ
じ地方都市に住んでいる。長男は現在独身で県内
る。
の別の都市に住み、製造業の会社に勤務してい
【初診時所見】
る。60歳の時に、義務教育の管理職を最後に退職
する。
疎通性は良好であり、意識は清明である。血圧
は、140/80mmHg である。身体的には高尿酸血
その後は、自宅にて、小規模農業(畑100坪、
症および内痔核がある。
田圃400坪)に従事しながら、地域の活動に参加
していた。
問診に対して、次のような訴えがある。
「甥の初公判が近々ある。甥の弁償をしなくては
病前性格は外向性、几帳面、人と話をすること
いけない。しかし、家の経済状況を考えた時に、
が好きである(メランコリー親和型性格)。
気が滅入り気分が落ち込んでいる。我が家のこれ
【現病歴】
から先はどうなるか心配だ。ご先祖様の遺産を
77歳の5月頃、内痔核からの出血があり、身体
失ってしまう。」「何のために生まれてきたか」
の変化および老化に対する不安、憂うつ感が数ヶ
「二番目に心配なことは、元教師をしていたが、
月出現する。
子どもたちに申し訳ないことをした気持ちにな
79歳の7月頃、めまいにて A クリニックを受
る。公のところに顔を出せる人間ではない。それ
診する。B 病院にて、諸検査を施行するが、異状
で、公務員 OB の次期支部長を辞退したり、保育
を認めなかった。同年9月に、父親のくも膜下出
園の理事を辞退した。」
血死亡を思い出して、耳鳴り、難聴が気になる。
「教え子にとんでもないことをしてしまった。誰
その頃から、Dr ショッピングが始まる。
とも会いたくない時に、教え子の亡くなった親た
同じ年の秋頃、甥の詐欺事件が発覚し、本人が
1,
400万円の金銭的援助を行う。
ちの告別式に1000円しか出さなかった。こんなこ
としてはいけないことだと思う。」
80歳の3月頃より、不眠、便秘が重なり、C 診
と不安、罪責感、無価値感を訴え、抑うつ気分や
療所を受診する。同診療所の処方は、オメプラ
貧困妄想、罪業妄想を認める。さらに、それら妄
ゾール20mg,ブロチアゾラム0.
25mg,アルプラ
想に基づく行動が認められる。
ゾラム0.
6mg である。それらに加えて、漢方薬
さらに、「法に触れることをした人間が、子ど
の「半夏瀉心湯」が投与された。この頃、毎日く
もたちに法を説いていたので、気持ちが余計沈み
らい「俺は悪い男だ。財産がなくなるじゃない
こみ、申し訳ない気持ちになった。」と語る。
か」と妻に訴える。
「どこにも出たくない感じで、ぐっすり眠りた
さらに、長男宅に電話が入り、その時の様子が
い」と希望を述べる。
おかしいことに息子は気付く。いつもに比べて声
― 2 ―
また、「一切合切死んだほうが楽になる」とか
上平忠一
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)投与の初期に自殺した老年期うつ病の検討
「自分の人生のまとめ方を考えてみたい」と自殺
2
3
3
亡を確認する。
念慮が認められた。
この際に、家族から次のような質問が出た。
睡眠障害については、寝つきはよいが、早朝覚
「診察のときに、自殺のことを話題としたが、そ
醒があるという。食欲低下では、
「味がわからな
のことで死が早まったのではないか」という疑問
い」という。
が提出された。
【診断とその根拠】
それに対して、主治医は「自殺のことを話題に
反復性うつ病性障害では重症のエピソードに特
したからといって、死が早まることはないし、む
定されるうつ病のエピソードが反復し、躁病の診
しろ話題にしないほうが本人の気持ちを汲まない
断基準を満たす気分高揚と過活動性の独立したエ
こととなり、自殺を予防することが困難となる」
ピソードの病歴を欠くことによって特徴づけられ
と返答した。
るという。本例はこの項目の診断基準に該当す
る。さらに、重症うつ病性エピソードでは睡眠障
<症例の小括>
害、食欲低下などの身体症状、ならびに制止、苦
1 80歳の元地方公務員の男性で、診断は反復性
悩、激越など精神症状を示し、自尊心の喪失や無
うつ病性障害、現在精神病症状を伴なう重症エ
価値感や罪責感を持ちやすく、自殺の危険性が高
い。本症例は同時に貧困妄想や罪業妄想を存在し
ピソード(F33.
3)である。
2
初診時の所見は、貧困妄想、罪業妄想を伴う
ている点から、精神病症状を伴なう重症うつ病エ
抑うつ病態であり、希死念慮を認めた。治療は
ピソードであるという診断基準に該当する。した
薬物療法と支持的精神療法であり、抗うつ薬と
がって、本症例の診断は反復性うつ病性障害、現
在精神病症状を伴なう重症エピソード(F33.
3)
して SSRI(フルボキサミン)を使用した。
3
である。
初診時から、6日目に自殺企図(縊死)を起
こしている。その間、初診から3日目に受診し
治療方針は本人や家族の意向も踏まえて、外来
ているが、抑うつ状態は持続傾向を示してい
通院治療とした。具体的には薬物療法と支持的精
神療法である。薬物療法では、SSRI を主な抗う
た。
4
自殺とフルボキサミンの因果関係について述
つ薬として服用した。抗うつ薬は、フルボキサミ
べると、フルボキサミン7
5mg/日を投与し、
ン75mg/日とミアンセリン10mg/日である。
自殺企図の発現のリスクが増加した可能性は否
【外来経過】
定できず、今回、SSRI による Activation
syn-
2回目(X 年5月)の診察は初診時から3日目
drome の可能性を指摘した。さらに抗うつ薬に
に本人のみが受診する。この時には、
「気持ちは
よる jitteriness や akathisia との鑑別が重要であ
大分すっきりした。しかし、まだまだ」と語り、
る13)。
「自分は小心者の性格であることに気付いた」
Á 考察
「計画性のない性格だとわかった」と自己嫌悪を
述べ、「妻が病身だ」と気を使っている。自責、
1.症例報告の意義
不 安、焦 燥 感 を 認 め た。心 理 検 査 で は、SDS
老年期うつ病とは、老年期に初発するうつ病で
(Self-Rating Depression Scale)の結果が65点であ
ある。本疾患が内因性うつ病の晩発型なのか、独
り、中等度以上の抑うつ傾向を示した。抑うつ状
立した特殊なうつ病なのかは論議のあるところで
態が持続していた。
ある。老年期うつ病は、下記のような特徴を有し
便秘傾向ということで、下剤を投与する。
ている。症状は他の年代のうつ病に比べて、抑う
次回の診察日を告げて、自殺しないことを約束
つ気分よりも身体愁訴の比重が増し、口渇、動
悸、疼痛、倦怠感、食欲不振などを執拗に訴える
して、診察を終えた。
X 年5月中旬(初診から6日目)の午後、自宅
ことが多い。不安・焦燥も強くしばしば自殺企図
にて、縊死しているところを家族に発見される。
し、心気・貧困などの妄想形成の傾向が強い。ま
後日、主治医が患家に電話を入れ、家族から死
た、せん妄、仮性認知症などが出現することがあ
― 3 ―
2
3
4
長野大学紀要
る。自殺率が高いことが指摘されている8)。
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0巻第4号 2
0
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9
び過呼吸発作が消失した境界例の一症例(1
997
本症例は老年期になって初めてうつ病が発病し
27)
、パラコート(農薬)中毒の1症例(2005
年)
ている。些細な身体的変化を契機として、不安や
28)
である。私たちのこれまでに報告した1
1例
年)
抑うつ感が出現し、執拗にめまい、耳鳴り、動悸
の精神障害をみると、統合失調症が6例と過半数
など身体症状を訴え、ドクター・ショッピングを
を占め、次にうつ病が3例であり、境界例と症状
繰り返し、問題行動が前景に出て、精神科を初診
精神病がそれぞれ1例ずつであった。
している。したがって、本症例は老年期うつ病の
自殺者のなかに占める精神病者の割合は、自殺
特徴を備えている。また、不幸な転帰をたどった
者の約9割が自殺時に精神障害を有しているとい
ことも一致しており、老年期うつ病の治療の困難
われる。2002年の WHO の報告を調べると、自殺
さを改めて確認させられる結果となった。これら
時の精神障害の分類では、多い順から並べると、
の点を踏まえれば、老年期うつ病の治療には慎重
う つ 病 性 障 害30.
2%、ア ル コ ー ル・薬 物 依 存
さが要求され、本報告の意義がある。
17.
6%、統合失調症圏(統合失調症様障害、統合
さて、本症例を ICD‐10の診断基準を当てはめ
失調感情障害を含む)14.
4%であり、うつ病性障
てみる。本症例は貧困妄想や罪業妄想を認めてお
害が最も高い割合である。一方、自殺時に精神障
り、うつ病のエピソードを反復している。その結
害なしと記載される割合は約4.
3%である。
次に、精神障害者における自殺率を調べると、
果、本症例の診断は反復性うつ病性障害、現在精
神病症状を伴なう重症エピソード(F33.
3)とな
表1に示してある。気分障害が15%、統合失調症
る。
10〜20%、アルコール・薬物依存15%、境界性人
格障害5〜10%であり、精神障害は高い自殺率を
2.自殺とうつ病
有している。
1998年に自殺者数が年間3万人を突破して以
来、今日まで10年間にわたり、年間3万人以上の
自殺者数を継続している。このような異常な高水
表1
精神障害者における自殺率(%)
精神障害者
自殺率
気分障害
準が今や社会問題となって、自殺を予防すること
統合失調症
が国民的な課題となり、2006年6月に自殺対策基
1
5%
1
0〜2
0%
アルコール・薬物依存
本法が成立した。この法案の基本理念は、
「自殺
境界性人格障害
1
5%
5〜1
0%
対策は国、自治体、医療機関、事業主、学校、民
こ こ で、自 殺 に つ い て 精 神 障 害 別 に 述 べ
間団体など関係機関で相互に連携して実施しなけ
30)
1,
4,
12,
30)
ればならない」というものである 。
。
る
私たちは、これまで自殺関連行動(注1)およ
<気分障害における自殺>
びそれに係わる精神障害に関する調査研究を行っ
うつ病患者では、そうでない人たちに比べて自
ている。それらのタイトルを年代順に列挙する。
殺の危険性が5倍である。双極性障害において
18)
、自殺に至った慢性
自殺と医療過誤(1
990年)
も、明らかに自殺の危険性は高く、躁とうつの相
19)
、大量服薬による抗う
分裂病の症例(1
991年)
が入れ替わる時期がとくに危険である。抑うつ状
20)
つ剤急性中毒の1症例(1
992年) 、自殺に至っ
態のときに、絶望感を伴い自殺の危険が高い。と
21)
、有機リ
たループス精神病の1症例(1
993年)
くに、うつ病の初期や回復期に多い。
22)
ン中毒を呈した精神分裂病(1994年) 、醤油多
量飲用により食塩中毒を呈した自殺未遂の2症例
躁状態の時には自殺はめったに起こらない。
<統合失調症における自殺>
23)
、精神分裂病男性患者の自殺未遂症
(1994年)
25)
、自殺企図後に劇的に症状
例の検討(1
995年)
自殺によって亡くなった統合失調症の男女比は
4:1である。
24)
、ア
が改善した難治性うつ病の検討(199
5年)
ルファ ー 昏 睡 を 呈 し た 急 性 薬 物 中 毒 の1症 例
統合失調症の自殺者の特徴を述べると、次のよ
うになる。
26)
、自殺企図後に急性ジストニアおよ
(1996年)
― 4 ―
①
主に単身者で、仕事をしていない。
上平忠一
②
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)投与の初期に自殺した老年期うつ病の検討
慢性期の最初の10年にあたる。
2)自殺は予告なしに行なわれる。
{誤った考
③ 45歳以下、通常男性は30歳前、女性は40歳
え}
前である。
④
事実:自殺者の大多数は何らかの形で予告を
自殺した患者のうち50%は以前に自殺企図
している。
の既往がある。
⑤
結論:このような予告や「助けを求める声な
多くの患者では、精神症状よりも焦燥感が
き声(cry for help)」を聴くことが重
目立っている。
⑥
2
3
5
要である。
自殺時に「自ら苦しみについて語ること」
3)自殺をしようとする人は強い死の決意を
「病気や精神的な崩壊に気づくこと」
「絶望
持っている。{誤った考え}
感」が認められる。
事実:大多数の自殺者はかなり曖昧な態度を
<アルコール・薬物依存における自殺>
もっており、
「生」と「死」の選択に
アルコール・薬物依存は若年の自殺率の30〜
おいて迷っていることが多い。
70%に認められる。
結論:救われた自殺未遂者はあとで、命を助
これは、1次的な疾患として単独に認められる
けられたことに感謝する例が圧倒的に
場合もあれば、ほかの主要な精神疾患との合併の
多い。
形でみられることもある。
4)自殺しそうな気配がなくなり始めたら安心
自殺の予防のために、【自殺予防の1
0か条】を
してもよい。{誤った考え}
記述する。
事実:気分の転換があって、快方に向かった
1.うつ病の症状に気をつけよう。
とき、本人は元気を取り戻すが、同時
(気分が沈む、自分を責める、仕事の能率が
に自殺を決行するだけの元気も回復し
落ちる、決断できない、不眠が続く)
てくる。
2.原因不明の身体の不調が長引く。
結論:自殺しそうな気分が消えて快方に向
3.酒量が増す。
かったと思われ始めてから3ヶ月間が
4.安全や健康が保てない。
最も危険な時期である。
(行動の変化、家出、失踪、借金等)
5)自殺について話をすることは危険だ。
{誤
5.仕事の負担が急に増える、大きな失敗をす
解}
る、職を失う。
自殺をしたいという絶望的な気持ちを打ち明け
6.職場や家庭でサポートが得られない。
る人と、打ち明けられる人の間に信頼関係が成立
7.本人にとって価値のあるもの(職、地位、
していて、救いを求める叫びを真剣に取り上げよ
家族、財産)を失う。
うとするならば、自殺について率直に語り合うこ
8.重症の身体の病気にかかる。
とのほうがむしろ自殺の危険を減らすことにな
9.自殺を口にする。
る。うつ病者は、希死念慮をもっていること自体
10. 自殺未遂に及ぶ。
に罪責感を持っていることが多く、誰もそれにふ
れてくれないのは、やはり希死念慮は悪いことで
ここで、よくみられる自殺に関する誤謬と事実
に関して陳述する3)。
あると心のなかで思っているようである。それを
訊いてくれたこと、それを聴いてくれたことに関
1)自殺をよく口にする人ほど、なかなか実行
しないものである。{誤った考え}
して、「わかってくれた人がいた」と安心するこ
とが多い。
事実:10人の自殺をした人のなかで8人近く
医療関係者のなかでも、自殺の話をすると、自
までが、自分の自殺についてそれとな
殺願望が顕在化し、かえって自殺という行動を後
く仄めかしている。
押ししてしまうのではないかという同じような不
結論:自殺を口にする人には充分な注意を支
払う必要がある。
安をもっている人が多いが、それは間違ってい
る。
― 5 ―
2
3
6
長野大学紀要
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3.SSRI による activation syndrome
療受けた患者65,
103例と自殺および自殺企図との
SSRI の能書によれば、その重大な副作用とし
関連を検討した。その結果、抗うつ薬開始から6
て、①痙攣、せん妄、錯乱、幻覚、妄想の出現、
ヶ月以内に自殺した者は31例、深刻な自殺企図を
②ショック、アナフィラキシー様症状の出現、③
行った者は76例であった。自殺企図リスクは子ど
セロトニン症候群、④向精神薬との併用により、
もでは1
00,
000例あたり3
14例であり、成人では
悪性症候群29)、⑤白血球減少、血小板減少、⑥肝
100,
000例あたり7
6例であった。自殺による死亡
機能障害、黄疸、⑦抗利尿ホルモン不適合分泌症
リスクは服薬開始後1ヶ月とその後の期間で差が
候群(SIADH)が列挙 さ れ て い る。同 時 に、効
認められなかった。また、FDA 諮問委員会が自
能・効果に関連する使用上の注意として、抗うつ
殺と関連があるとした新規抗うつ薬10剤について
薬の投与により、1
8歳未満の患者で、自殺念慮、
旧来の抗うつ薬と比較して、自殺リスクの上昇と
自殺企図のリスクが増加するとの報告があるた
の関連が認められたのは旧来の抗うつ薬であっ
め、抗うつ薬の投与にあたっては、リスクとベネ
た。以上の結果に基づいて、新規抗うつ薬の開始
31)
フィットを考慮することが記載されている 。
後に自殺や自殺企図のリスクが上昇するというこ
ここで、抗うつ薬と自殺念慮、自殺企図との関
とは確認できなかったと結論付けている。
一方、Juurlink ら7)は、高齢者に対する SSRI 投
連について検討する。
SSRI と自殺に関する問題を最初に指摘したの
15)
与時の自殺リスクを検討した。その結果、SSRI
は1990年の Teicher ら の報告であ る。彼 ら は6
の初期投与により、投与1ヶ月間の自殺リスクが
人の患者において fluoxetine 投与により2〜7週
他の抗うつ薬よりも高いことを示した。
間後に強い希死念慮が出現し、この希死念慮の状
このように現時点では、SSRI が自殺行動にお
態が fluoxetine 投与中止後3日〜3月間持続した
よぼす影響についていまだ確実な結論が出ていな
という。これらの患者のいずれもが他の向精神薬
い。したがって、新規抗うつ薬を投与する場合
の投与で同様の状態を経験したことがなかった。
に、自殺関連行動の出現の可能性を十分に認識し
6人の患者のうち4人が akathisia の出現と関連
た上で、使用することが肝要である。
して希死念慮が認められ、akathisia の惹起が主な
次 に、Activation
原因のひとつであると述べる。
2,
5,
6,
10,
14,
16,
17)
syndrome に つ い て 述 べ
。
る
わが国では、18歳未満のうつ状態、うつ病の患
Activation syndrome の概要を述べれば、SSRI の
者に対してパロキセチンの投与が禁忌とされた。
投与初期に現れる不安、焦燥感などを特徴とする
しかし2007年11月、厚生労働省の諮問機関である
中枢神経系の有害事象であり、重症になれば、希
薬事・食品衛生審議会、医薬品等安全対策部会に
死念慮、自傷行為、攻撃性、アカシジア、躁状態
おける審議の結果、英米での対応と同様に、パロ
が現れることがある。つまり、抗うつ薬による行
キセチンの添付文書「禁忌」の項目から、18歳未
動毒性である。
満の大うつ病性障害患者を削除し、
「警告」の項
Activation syndrome の定義は、抗うつ薬により
に「海外で実施した7〜18歳の大うつ病性障害患
出現する一連の中枢刺激様症状で、抗うつ薬の有
者を対象としたプラセボ対照試験において有効性
害作用としての行動毒性 behavioral
が確認できなかったとの報告、また、自殺に関す
る。
Activation syndrome の病態は、次のようなこと
るリスクが増加するとの報告もあるので、本剤を
18歳未満の大うつ病性障害患者に投与する際には
toxicity であ
が考えられている。
適応を慎重に検討すること」との注意を追記する
1)抗うつ薬の副作用として生じる jitteriness
ことに変更となった。この警告では、若年者への
syndrome あるいは akathisia-like
抗うつ薬の投与に関して注意深く観察することを
ある。
syndrome で
2)躁状態あるいは混合状態への移行状態であ
勧告している。
最近 Simon ら11)は、一般住民の医療記録をもと
に、1992年1月から2003年6月までに抗うつ薬治
― 6 ―
る。
3)うつ病が悪化した状態である。
上平忠一
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)投与の初期に自殺した老年期うつ病の検討
4)子どものうつ病特有の症状あるいは併存障
害の顕在化である。
重要となる。私た ち は、SSRI の activation
2
3
7
syn-
drome の可能性が否定できないと考えた。その根
Activation syndrome の主要症状は、易刺激性、
拠として、SSRI の投与初期に症状が出現してい
脱抑制や衝動性であり、早発性の症状として、不
る点、および初診時にはみられなかった焦燥感の
安や焦燥、パニック発作、不眠、アカシジアが認
症状が付加している点を取り上げた。本研究が
められ、長期投与により起こる遅発性の症状とし
activation syndrome の洞察に1つの寄与を与える
て、易刺激性や敵意、衝動性が指摘されている。
と考える。
起因薬剤では、セロトニン(5‐HT)選択性の
最後に、SSRI の投与により、2
4歳未満の患者
高い薬剤が有力である。SSRI として、fluoxetine
で、自殺念慮、自殺企図のリスクが増加する報告
(Prozac),paroxetine(パ キ シ ル),fluvoxamine
があるため、リスクとベネフィットを考慮するこ
(デ プ ロ メ ー ル、ル ボ ッ ク ス)が 挙 げ ら れ、
とと能書に記載されている。しかし、本報告例の
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込
ように、8
0歳以上の高齢者においても、希死念慮
み阻害薬)として milnacipran(トレドミン)があ
のある症例に対してもリスクとベネフィットを考
る。
慮した投与が望まれ、特に治療初期には慎重な観
13)
治療は原因薬剤の減 量・中 止 で あ る 。し か
し、急速な断薬は離脱症候群を惹起する危険性が
あるので、症状緩和のために他の抗不安薬や気分
察・ケアが必要であると思われる。
 おわりに
安定薬の併用が必要である場合が多い6)。焦燥・
自殺とうつ病、SSRI と自殺関連行動の関係に
不安・不眠に対して、BZD(ベンゾジアゼピン系
ついて考察を加え、SSRI による activation
抗不安薬)の併用。不眠に対し て、5‐HT2受 容
drome との鑑別が重要であることを指摘した。う
体アンタゴニスト作用を有するトラゾドンの投与
つ病の高齢者に対する SSRI の治療にも、特に治
も有効である9)。攻撃性や軽躁状態に対して、気
療初期には慎重な観察・ケアが必要であることを
分安定剤や非定型抗精神病薬の投与。さらに、自
強調した。
syn-
殺衝動や自殺の危険性が高まっているようなら
ば、入院加療の必要性が生じる。
本論文の要旨は2007年5月に東京都港区台場で
また、SSRI の投与により、薬物投与開始直後
から1〜2週間の比較的早期や薬物を増量した時
開催された第1
04回日本精神神経学会総会におい
て発表した。
に あ る い は 他 の 薬 剤 と 併 用 し た 時 に activation
注
syndrome が発現しやすいと言われている。
ここで、本症例に見られた抑うつ状態に伴なう
注1
自殺関連行動とは、自傷行為、自殺企図、自殺
を示している。
不安、自責感、焦燥感について、それらが SSRI
の activation syndrome の症状である可能性につい
て検討する。上述のように、SSRI による activa-
文献
tion syndrome は、SSRI の投与初期あるいは用量
1)張賢徳『人はなぜ自殺をするのか−心理学的剖検
調査から見えてくるもの−』勉誠出版、東京、2
0
0
6
変更時に現れる不安、焦燥感などを特徴とする中
枢神経系の有害事象であり、重症になれば、希死
念慮、自傷行為、攻撃性、アカシジア、躁状態が
年
2)ディヴィ ッ ド・ヒ ー リ ー(田 島 治 監 修 谷 垣 暁 美
訳)
『抗うつ薬の功罪−SSRI 論争と訴訟−』みすず
現れることがあると指摘されている17)。したがっ
書房、2
0
0
5年
て、SSRI の投与初期に生じる不安、焦燥感など
3)布施豊正『自殺と文化』新潮選書、東京、1
9
8
5年
軽症と思われる症状の解釈が問題となる。つま
4)稲村博『自殺学.その治療と予防のために』東京
り、これらの軽症の症状をうつ病にみられる症状
と一部であるとするのか、またはそれらの症状を
大学出版会、東京、1
9
7
7年
5)井上賀昌、寺尾岳、岡本龍也ほか「抗うつ薬と自
SSRI の副作用とみなした場合には、その鑑別が
― 7 ―
殺行動:SSRIs を中心に」臨床 精 神 薬 理
第7巻、
2
3
8
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
頁
2
0
0
4年、1
4
9
‐
1
1
5
4頁
6)石郷岡純、伊豫雅臣、神庭重信 ほ か『Antidepressant discontinuation syndrome[SSRI を中心に]
』エム
1
8)上平忠一「自殺と医療過誤」上田市医師会報
1
9)上平忠一「自殺に至った慢性分裂病の症例−その
ディエス株式会社、2
0
0
7年
治療経過をめぐって−」精神経誌
7)Juurlink, D., Mamdani, M.M., Kopp, A., et al : The risk
of suicide with selective serotonin reuptake inhibitors in
第9
3巻、1
9
9
1年、
1
1
5頁
2
0)上平忠一、滝沢謙二、彦坂愛子「大量服薬による
the elderly. Am J Psychiatry Vol.
1
6
3,pp.
8
1
3
‐
8
2
1
抗うつ剤急性中毒の1症例.−その臨床症状と治療
8)神庭重信「特別な気分障害」山内俊雄、小島卓也、
−」精神科治療学
倉知正佳編『専門医をめざす人の精神医学』第2版.
第7巻、1
9
9
2年、7
9
1
‐
7
9
6頁
2
1)上 平 忠 一、遠 藤 謙 二、神 林 章 子「自 殺 に 至 っ た
医学書院、2
0
0
4年、4
0
7
‐
4
1
0頁
ループス精神病の1症例.−その臨床症状と治療経
9)Kaynak, H., Kaynak, D., Gözükirmizi, E., et al : The ef-
過−」精神科治療学
fects of trazodone on sleep in patients treated with stimulant antidepressants. Sleep Medicine Vol.
5,2
0
0
4,pp.
1
5
田市医師会報
1
0)尾鷲登志美、大坪天平「Activation
Syndrome と自
第2
4巻、1
9
9
4年、1
2頁
2
3)上平忠一、遠藤謙二、遠藤利治ほか「醤油多量飲
用により食塩中毒を呈した自殺未遂の2症例」精神
第3
6巻増刊号、2
0
0
7年、
科治療学
9
2
‐
9
7頁
1
1)Simon, G., Savarino, J., Operskalski, B., et al : Suicide
第8巻、1
9
9
3年、5
8
7
‐
5
9
1頁
2
2)上平忠一「有機リン中毒を呈した精神分裂病」上
‐
2
0
殺関連行動」臨床精神医学
第9巻、1
9
9
4年、1
3
9
5
‐
1
4
0
0頁
2
4)上平忠一、遠藤謙二「自殺企図後に劇的に症状が
risk during antidepressant treatment. Am J Psychiatry
改善した難治性うつ病の検討」長野県医学会雑誌
Vol.
1
6
3,2
0
0
6,pp.
4
1
‐
4
7
第2
6巻、1
9
9
5年、7頁
1
2)高橋祥友『自殺の危険.臨床的評価と危機介入』
2
5)上平忠一「精神分裂病男性患者の自殺未遂症例の
検討」精神科治療学
金剛出版、東京、1
9
9
2年
1
3)田島治「SSRI の功罪−新規抗うつ薬の光と影−」
精神経誌
の1症例」臨床脳波
1
4)田中輝明、井上猛、鈴木克治ほか「抗うつ薬によ
第1
0巻、1
9
9
5年、1
0
1
9
‐
1
0
2
7頁
2
6)上平忠一「アルファー昏睡を呈した急性薬物中毒
第1
0
9巻、2
0
0
7年、3
8
1
‐
3
8
8頁
第3
8巻、1
9
9
6年、7
2
5
‐
7
2
9頁
2
7)上平忠一「自殺企図後に急性ジストニアおよび過
る activation syndrome の臨床的意義−双極スペクトラ
呼吸発作が消失した境界例の一症例」精神経誌
ム障害の観点から−」精神経誌
9
9巻、1
9
9
7年、7
1
1頁
第1
0
9巻8号、2
0
0
7
第
2
8)上平忠一「パラコート(農薬)中毒の1症例」上
年、7
3
0
‐
7
4
2頁
田市医師会報
1
5)Teicher, M.H., Glod, C., Cole, J.O. : Emergence of intense suicidal preoccupation during fluoxetine treatment.
的検討」長野大学紀要第2
8巻第1号、2
0
0
6年、4
9
‐
6
1
Am J Psychiatry Vol.
1
4
7,1
9
9
0,pp.
2
0
7
‐
2
1
0
も併発し、非典型的な軽躁状態を呈した双極Ⅱ型障
害の1症例」臨 床 精 神 薬 理
第3
5巻、2
0
0
5年、1
3
‐
1
5頁
2
9)上平忠一「悪性症候群を2回発症した症例の縦断
頁
1
6)辻敬一郎、田島治「SSRI による activation syndrome
3
0)吉村玲児「自殺予防の観点から見たうつ病の治療」
精神経誌
第8巻、2
0
0
5年、4
8
3
‐
第1
0
9巻、2
0
0
7年、8
2
2
‐
8
3
3頁
3
1)渡邉昌祐「SSRI のプロファイルの違いとその使い
4
8
8頁
1
7)辻敬一郎、田島治「抗うつ薬による activation syndrome」臨 床 精 神 薬 理
第
2
0巻、1
9
9
0年、3‐5頁
第8巻、2
0
0
5年、1
6
9
7
‐
1
7
0
4
― 8 ―
分け」臨床精神薬理
第1
0巻、2
0
0
7年、2
9
5
‐
3
0
7頁
長野大学紀要
第3
0巻第4号
9―2
0頁(2
3
9―2
5
0頁)2
0
0
9
大学初年次生のための文章表現指導プログラム
―評価作文をもとにメタ認知活性化方略の有効性を検証する―
A Writing Program for First Year College Students
: Effectiveness of Metacognitive Learning
金
子
泰
子*
Yasuko Kaneko
ら、指導者を含む学習コミュニティの中で育まれ
1.研究の目的と方法
る意識の一体感を醸成する努力をした。
本論の目的は、論者が構築し、実践を継続して
以下、まず、プログラムの全容と実施条件を示
いる「大学初年次生のための文章表現指導プログ
し、次に、プログラム展開の具体的方法とメタ認
1)
において、メタ認知2)活性化方略がどの程
ラム」
知活性化方略の機能について時系列で述べる。最
度学習効果を上げているかを検証することにあ
後に、プログラムの中で学習者が書いた三(診断
る。
・形成・総括)評価作文を分析し、文章表現スキ
本プログラムは、文章表現に関する知識・スキ
ルの伝達と、練習・活動時間の確保、および学習
者の意識・感情面への配慮という三つの柱を軸と
している。文章表現学習は、一つの軸だけでは容
易に効果が出せないため、三つの柱を軸としてプ
ルが半年間の学習でどの程度定着したかを検証し
ていく。
2.プログラムの実際
2.
1. プログラムの実施条件
実践校での「課題探求力Ⅰ」は、社会福祉学部
ログラムを構成した。
スキルの習得には、理解と同時に練習の継続・
所属の約200名の初年次生対象に前期半年間(毎
反復といった学習活動が不可欠である。しかし、
週1回90分授業が14回)開講される必修の基礎科
それが、機械的なものでは効果は期待できない。
目で、作文の基礎力向上を目標としている。
学習者同士が互いの作文を読み合い、認め合うと
異なる専門領域の教員4、5名が1クラス20名
いった経験を通して、達成感や満足感を抱いた時
前後を各1ないし2クラス担当する。指導に当
にこそ、スキルについての深い理解とさらなる学
たっては、国語科教育学を専門とする筆者が考案
3)
習への意欲が生まれるのである 。
したプログラムと、従来、筆者が実践で用いてき
そこで筆者は、教室で共に学び合う仲間を学習
コミュニティ4)として重視した。授業の目標や練
たテキスト5)を併用し、担当教員が足並みを揃え
て取り組んだ。
習課題の問題意識を共有しつつ、学習者間の相互
交流が継続的に行われる中でこそ、学習意欲が持
プログラムの全容は次に示す資料1の通りであ
る。
続する。学習活動をスムーズに継続させるため、
クラス通信やグループ別批評会などを活用しなが
*非常勤講師
―9―
2
4
0
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
2.
2. プログラムの全容
資料1
長野大学2
0
0
7年度初年次生対象文章表現指導プログラム
長野大学2
0
0
7年度「課題探求力Ⅰ」半期1
4コマの授業計画
前半期
1.授業目標と方針の説明/クラス通信創刊
* 文章表現に対する事前意識調査
「入学までの作文学習を振り返る」→ 診断的評価
表現スキル ①題 ②書き結び文(次回の講評で)
2.前回の作品の講評と表現スキルの復習/クラス通信2号
練習用二百字作文解説 二百字作文課題1「自己紹介」または「大学紹介」 表現スキル ③文体の統一
④平易な言葉
3.前回の作品の講評と表現スキルの復習/クラス通信3号
二百字作文課題2「わたしの大好物」 表現スキル ⑤五感やスケールの活用 ⑥首尾(書き出し・書き結
び)の照応
4.前回の作品の講評と表現スキルの復習/クラス通信4号
書く生活を築くための番外課題一:三行日記(記録)
二百字作文課題3「風景描写」 表現スキル ⑦文の長さ ⑧叙述の順序(空間)
5.前回の作品の講評と表現スキルの復習/クラス通信5号
二百字作文課題4「人物描写」 表現スキル ⑨叙述の順序(時間)⑩的確な語選択
6.前回の作品の講評と表現スキルの復習/クラス通信6号
二百字作文課題5「ある日の出来事」 表現スキル ⑪文末の変化 ⑫推敲
7.グループ別批評会/クラス通信7号(二百字作文批評会の要領・批評文の書き方) → 相互評価・自己評
価
「二百字作文学習を振り返る」→ 形成的評価
*前半期表現スキルに関する意識および達成度調査
*個別評価(添削指導)は毎回実施。
後半期
8.授業目標と方針の説明/クラス通信8号
書く生活を広げるための番外課題二「書簡文:恩師に御礼と近況報告の手紙を書く」
次回からの意見文の課題案募集
9.意見文の構成モデルと課題案1.2.3紹介/クラス通信9号
意見文課題1「二段落作文」
(構成の型・対比的思考) 表現スキル ①段落の書き分け ②事実と意見
1
0.前回の作品の講評とスキルの復習/クラス通信1
0号
意見文課題2「二段落作文」
(取材・構想を練る) 表現スキル ③題をつける(ボトムアップ思考)
1
1.前回の作品の講評とスキルの復習/クラス通信1
1号
意見文課題3「二段落作文」
(題から主題文へ) 表現スキル ④主題文を書く(トップダウン思考)
1
2.前回の作品の講評とスキルの復習/クラス通信1
2号
意見文課題4「二段落から五段落への展開」 表現スキル ⑤アウトラインを作る ⑥草稿を書く
1
3.前回の作品の講評とスキルの復習/クラス通信1
3号
意見文課題5「寝かせて(時間をかけて)推敲」 表現スキル ⑦推敲 ⑧説得のレトリック
1
4.グループ別批評会/クラス通信1
4号(意見文の批評文の書き方例示・個人文集(ポートフォリオ)−期末レ
ポート−作成要領) → 相互評価・自己評価
*後半期表現スキルに関する意識および達成度調査
*最終レポート「半年の文章表現学習を振り返る」 → 総括的評価
*文章表現に対する事後意識調査
*期末レポート(ポートフォリオ)提出(これをもとに成績評価、後日コメントをつけて返却)
2.
3. プログラム展開の具体的方法
分し、各期、および全体の目標は次の通りであ
2.
3.
1. プログラムの目標
る。
半期14回の授業は前半期と後半期7回ずつに二
前半期目標:二百字作文で気楽に練習を繰り返し
―1
0―
金子泰子
大学初年次生のための文章表現指導プログラム
ながら、種々の叙述形態による課題
2.
3.
3. 後半期の意見文作成を中心にした練習
の作成を通して基礎的文章表現スキ
ルを習得する。
2
4
1
後半期は、前半期に取り上げなかった議論(意
見・論 証)文 を 取 り 上 げ、基 本 構 成 モ デ ル
後半期目標:意見文完成までのプロセスを小分け
して練習しながら、考えを深め、ま
(4.
2.
4.で詳述)をもとに千字程度の意見文を書
く学習を行う。
とめるという思考・表現機能を理解
前半期で一段落(二百字作文相当)がまとめら
し、まとまりのある文章を書き上げ
れるようになれば、次に行う学習のステップは、
るための基本構成モデルを習得す
段落を積み重ね、いかに思考を展開させるかであ
る。
る。後半期では、スモールステップで部分練習を
全体目標:文章表現の創造的な楽しさを知ると同
繰り返しつつ文章作成のプロセスを丁寧にたど
時に、目的と読み手に合わせて達意の
る。後半期は、構成モデルを使った意見文を一つ
文章が書けるように、作文の基礎力を
仕上げるのみであるが、ステップを踏んだ丁寧な
身につける。
文章作成学習はスキルの理解と習得を確実にす
2.
3.
2. 前半期の二百字作文を中心とした練習
る。
書くことは、認知的負荷の大きい言語行為であ
学期末に、「半年の文章表現学習を振り返る」
る。聞くことや読むこと、話すことに比べて、よ
と題した最終レポートを、構成モデルを使って応
り大きなエネルギーを必要とし、熟達するには継
用練習させると、ほぼ1
00%の学習者がまとまり
続的な努力が必要である。そのため、書くことの
のある文章を書きあげる。
学習には、動機づけとその維持に何らかの対策を
講ずる必要がある。心理学においては、学習者が
3.積み上げ、継続練習の成果
書くことに対してポジティブな感情が持てるよう
プログラムは、書けない学生を書けるようにす
に配慮する必要があり、書くことに対して不安や
るために、小分けしたステップによる積み上げと
嫌悪感があると、書くために必要な思考や記憶の
反復練習を指導の基本方針としている。
次頁の資料2において紹介する二つの作文は、
検索が妨害されるという研究成果もあがってい
6)
る 。
作文能力においてかなり低いレベルと判断できる
そのために、プログラムの前半期には、二百字
7)
学習者の、授業前に書いた診断的(事前)評価作
限定作文 (以後二百字作文とする)を練習作文
文 A とプログラム終了後に一人で書き上げた最
として活用した。二百字作文は原稿用紙の一マス
終レポート(総括的評価作文)B である。プログ
目から書き始め、二百字ちょうどを句点で終わら
ラムの効果を示すものとして提示する。
せる作文である。学習者の書くことに対する必要
以上の緊張感と構えを解きほぐし、気軽にゲーム
感覚で練習を繰り返し、書くことに慣れさせる仕
4.プログラムにおけるメタ認知活性化方
略の具体的機能
2.
2.の資料1、長野大学2007年度初年次生対象
掛けである。
なお、前半期には、叙述の四基本形態(説明・
文章表現指導プログラムから、メタ認知活性化方
描写・叙事・議論)から、説明、描写、叙事文の
略(太字部分)を取りだし、その具体的機能を示
練習を二百字作文で行った。
す。
さらに、各課題には、学習者が緊張感を保って
練習が継続できるように、課題遂行に役立つ表現
4.
1. プログラム前半期のメタ認知活性化方略
スキル(4.
1.
7.で詳述)を付加した。基礎スキル
4.
1.
1. 前半期の授業目標と方針の説明
が身につくと自信がつき、やがて意欲となって現
学習者が主体的に学習に取り組むためには、授
れる。その意欲が学習の推進力となる。二百字作
業目標と方針の自覚が必要である。出席者はもち
文は、知識が生きる土台として用意したものであ
ろんのこと、欠席者や遅刻による聞き漏らしにも
る。
対処するため、目標と方針は、クラス通信に掲載
―1
1―
2
4
2
資料2
長野大学紀要
A:診断的評価作文
第3
0巻第4号 2
0
0
9
B:総括的評価作文
A:診断的評価作文(授業初回、記述時間3
0分)
入学までの作文学習を振り返る (3段落、2
0
0百字)
ママ
今までの作文の学習を振り返ってみたら、私は作文学習のことをあまり思えていない事がわかりました。そ
れは私が作文などを書く事があまり好きではないからだと思います。
マ マ
私が私の作文を読むとぜんぜんおもしくないし、書くのがとても遅いので作文は嫌いです。
でも作文はうまくはなりたいです。自分の気持ちをしっかりと文にできるように、これから気合をいれてい
こうと思っています。
B:総括的評価作文(最終レポート、自宅学習)
半年間の文章表現学習を振り返る (6段落、7
6
0字)
中学、高校での私は、とにかく文章はどうやって書くものなのかぜんぜん解らなかった。なので、いつも作
文などの宿題が出る時は友だちや親に助けを求めるか、途中で諦めて怒られるかのどっちかで、文章を書くこ
とは嫌いになる一方だった。
大学生になって、初めて課題探求力の授業を受ける時は、すごくやりたくないと思っていた。でも、先生は
そんなに厳しそうではなかったし、丁寧に教えてくれたので、意外と頑張ることができた。
毎回、違うことを書いて大変だったが、その中でも、風景描写やいじめ、引きこもりの事は、特に大変で、
風景描写は四行程度しか書けなくて、いじめと引きこもりは何を書けばいいのか、ぜんぜん思いつかなかっ
た。それにみんな書くスピードが速くてとてもうらやましく思ったけど、自分もそのうち早くなるだろうと
思っていた。
比較的、書きやすかったテーマは、私の大好物と高齢化社会で、私の大好物を書いた時、私はお腹がいっぱ
いだったので、そうでなければもっと書きやすかったかもしれない。高齢化社会のテーマ(の二段落作文;筆
者注)では、自分の家の祖父の自慢を書いて、自慢したいことが沢山あったので、一生懸命書けた。
原稿用紙二枚半も書く意見文「高齢化社会」でも、祖父のことを書いた。諦めてしまえばいいやと思う誘惑
と戦いながら、とても時間はかかったけど、一人で完成させることができて、自分で自分を誉めてあげたい気
持ちだった。それに今までに比べて少し文を書くことがうまくなったような気がしてきた。
家でも文を書く練習をすれば一番良いと思うけど、たぶんそれは無理なので、これからの授業で、今までよ
りも気合を入れて、今の自分より少しでも文を書くことがうまく、そして好きになればいいと思う。
し、学習コミュニティ内の共有事項とする。指導
(自分を含む)の作文は、学習意欲を喚起し、
者と学習者が授業目標と方針を共有すれば、学習
「やる気」を維持する糧ともなるのである。
活動は円滑に進む。初回授業においては、全体目
なお、創刊号では、授業目標や方針の説明に加
標とともに、とりわけ前半期の目標と方針をわか
えて、次号から使う通信の愛称をクラスに募り、
りやすく説明することが重要である。
学習コミュニティ意識醸成のための第一歩として
4.
1.
2. クラス通信8)の発行
役立たせている。
通信では、前時のスキルを復習し、適切に運用
4.
1.
3. 文章表現に対する事前意識調査
された学習者の作文を選んで紹介する。全文掲載
ばかりでなく、部分紹介を多くし、受講生全員
プログラムの開始時に、学習者の文章表現に対
する事前意識調査を実施する。
が、学期中に複数回掲載機会を得られるよう配慮
している。
指導者は、学習者の意識を基に指導法が工夫で
きる。一方、学習者は、調査票の質問や選択肢の
通信はテキストに準ずる教材というよりむし
語彙などから、文章表現に関するメタ認知的知識
ろ、指導者を含む学習コミュニティのオリジナル
を得る。さらに、通信で発表される調査結果は、
な主教材と言える。
学習者に、学習コミュニティ内の相互評価と同時
また、通信を使って行われる指導者の講評は、
相互評価・自己評価の規準やモデルともなる。さ
に、自己評価の手掛かりを与えるものとなる。
4.
1.
4. 診断的評価
らに、オリジナリティーあふれるクラスメート
―1
2―
どのようなプログラムも、出発点はまず実態把
金子泰子
大学初年次生のための文章表現指導プログラム
2
4
3
握である。診断的評価で、学習者が自ら問題だと
ので、これで良いか不安になるほどだった」と感
感じている点を自己申告的に自由記述させると、
想を記している。課題の設定条件が明確なため、
個別の学習目標が確認でき、指導者はそれを基に
書き手のもつ知識が効率よく探索・吟味され、ま
して指導方法を、学習者は学習方法をともに考え
た、参考にした表現スキルが迷いを払い、記述速
ることができる。
度を高めたものと推測できる。
本プログラムでは、以下の三評価を課題作文と
4.
1.
7. 表現スキル11)
して実施し、題目は以下のように設定している。
各課題で学習者は、一つないし二つの表現スキ
形 成・総 括 的 評 価 に つ い て は、そ れ ぞ れ
ルに挑戦する。スキルは、課題遂行を容易に、し
4.
1.
10.、4.
2.
7.において述べる。
かも質を高めるためのもので、スキルの習得その
・診断的評価「入学までの作文学習を振り返る」
ものが練習の主眼ではない。
表現スキルは筆者が長年の実践を通して、課題
(プログラム開始日に実施)
・形成的評価「二百字作文学習を振り返る」
(中
の開発と同時に、それぞれの課題にふさわしいも
のを精選してきた。配列も入学間もない初年次生
間時点−7コマ経過後−に実施)
・総括的評価「半年間の文章表現学習を振り返
の学習ニーズに合うよう系統性をもたせた。学習
る」(プログラム終了後に実施)
者が、プログラムの課題とそれらに配されたスキ
以上、4.
1.
1.から4.
1.
4.までの四点がプログラ
ルをステップを踏んで一つずつ練習しながら、次
ムの出発点である。
の課題と表現スキルに挑戦していくシステムであ
4.
1.
5. 記述活動(書く練習)
る。また、たとえ与えられた課題でその時のスキ
90分授業のうち、毎回終わりの30分を必ず記述
ルが習得できなくても、どのスキルも文章の表現
活動に当てている。前時の復習、本時の新しい知
技術として普遍性があるため、以降の課題におい
識・スキルの説明にそれぞれ3
0分を当て、「畳の
ても挑戦することが可能である。このように、学
上の水練」とならぬよう、記述活動を授業の中心
習者が課題を一つずつクリアしていけば、プログ
に据える。そこから産み出された学習者の作文そ
ラム終了時には文章表現の基礎的なスキルが身に
のものが、もっとも魅力的かつ効果的な教材と
つく仕組みである。
なお、スキルは、文脈から離れた形で機械的に
なって次の授業を創り出してくれる。
4.
1.
6. 練習課題の設定条件
練習させても学習の動機づけが弱く、定着度が低
毎回の作文練習においては課題の設定条件を明
9)
が述べる学習者の
確にし、杉本(1991)
キーマ
い。学習者自らの文脈の中で効果的に運用され、
説得ス
それが指導者によって認められて通信に載った
を喚起した。状況(読み手と目的)が明
り、あるいは批評会でクラスメートに認められた
らかであれば、書き手の関連知識が呼び起こさ
りして自信をつけることが、スキルの理解をいっ
れ、統合も促進されて、説得のための表現上の工
そう深め、積極的に運用しようとする姿勢につな
夫が可能となる。
がっていく。
課題1「大学紹介」を例に述べる。課題の設定
4.
1.
8. 個別評価
条件は「後輩に今の自分の大学を紹介し、進路と
個別評価とは、指導者によるいわゆる添削(赤
して積極的に勧誘する」というものである。進路
ペン)指導のことで、種々の評価の中でも、最も
決定から入学に至る経緯は、新入生には生々しい
個別、直接的に学習者に届くメッセージである。
記憶で あ る。そ れ ら を 効 果 的 に 伝 え る ス キ ル
コメントは、指導した事柄に限定し、抽象論より
(1.題材を絞る−具体的なタイトルをつける
学習者の表現に即して具体的に指摘、訂正すると
−、2.読みやすくわかりやすい言葉で書く)と
効果が出る。また、添削(校正)記号を学習者と
10)
に従っ
アラン・モンローの「動機づけの順序」
共有し、学習者自身が再考のチャンスを得られる
て書いた実例(以前の学生作文)を示すと、学習
ものにするとよい。指導者の一方的な訂正は、時
者は実に容易に文章を書 き 上 げ、「例 文 を 真 似
間と労力がかかる割には学習者に届かないことが
て、スキルを参考にしただけでスムーズに書けた
多い。学習者自身が考え、気づき、自分なりに書
―1
3―
2
4
4
資料3
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
中レベル学習者の形成的評価作文
二百字作文学習を振り返る (記述時間2
0分)
この授業は「文章力をつける授業」と聞いて、ものすごく嫌だなあと、苦手意識を持っていた。
最初、文章の書き出しがなかなか決まらず、戸惑っていた。しかし、授業が進んでいくにつれ、文を考えるこ
とが楽しくなった。文章は書かなければ文章のおもしろさがわからないということが、二百字作文を通して分
かった。
まだまだ、文章を書くペースはゆっくりだが、自分のペースで文章を書くことに慣れながら授業を受けていき
たい。
(3段落・2
6
0字)
き直す経験が書くことの喜びにつながるのであ
に受け止めているか、指導者が自らの指導を評価
る。
するものであると同時に、学習者自身にとって
学習者が十分に練り上げた表現を肯定的に(◎
も、プログラム全体の中で、学習活動がどのよう
や花丸で)評価することが、学習者の意欲を大き
に推移しているか、自らの学習過程を客観的に捉
く喚起する。なお、◎や花丸評価の理由は、学習
え直すための一つのきっかけとなるものである。
者に十分伝わるように、文章で書き添えることが
資料3に、授業開始当初は作文に自信の持てな
望ましい。
かった中レベル学習者の、形成的評価作文を示
4.
1.
9. 二百字作文グループ別批評会(前半期終
す。
了時)
4.
1.
11. 表現スキルに関する意識および達成度
調査(前半期分)
二百字作文で練習した五つの課題から各自よく
書けたと思うものを一つ選び、既習のスキルを観
表現スキルに関する意識および達成度は、前半
点にしてグループで批評し合う。各自の作文(十
と後半にそれぞれの期分のスキルをまとめて調査
分に練り上げたもの)を直接に介した批評会は、
している12)。指導改善を目指す評価であると同時
主体的にならざるを得ない学習活動の場となる。
に、学習者が既習の表現スキルについて復習、自
そして、その活動は、他者との考え方の違いを実
己評価して再確認する機会と考える。説明を受け
感することをはじめ、自らの作文や批評文が理解
てから、練習を通して運用し、さらには、調査と
され、認められることの喜び、達成感、それに伴
いう形で、スキルに再度スポットを当てること
う自信の回復、学習意欲の喚起、など、指導者の
が、知識の定着や運用力の促進にもつながると考
力を超えた成果が期待できる。この批評会は、前
えるからである。
半期の学習活動の総まとめと位置づけられるもの
4.
2 プログラム後半期の指導上の工夫
である。
「課題の設定条件」や「表現スキル」、「添削指
4.
2.
1. 後半期の授業目標と方針の説明
導」などが、書き手の内省を促す外側からの働き
前半期最後に実施した批評会において、前半期
かけと考えるならば、批評会は、他者の文章を理
の練習で、一段落(二百字)相当の文章をまとめ
解した上でそれに対する読み手としての考えを批
る力が十分ついたことが確認し合える。後半は一
評文として書き手にわかるように表現するとい
段落では書ききれない、ある程度まとまった思想
う、内側からの主体的な表現行為であり、学習者
を、段落を積み重ね、関係づけながら長い文章と
間で互いの思考や表現を伝え合う契機となる。
して仕上げるまでの過程をステップを踏んで練習
4.
1.
10. 形成的評価
することを説明する。学習者が、前半期の二百字
前半期終了時(プログラムの中期)に、「二百
(一段落)作文練習との間にギャップを感じるこ
字作文学習を振り返る」と題した形成的評価作文
とがないように、まずは「二段落」
、次に「三段
を実施する。初回から7回の授業を経て、二百字
落」と順を追って学習を進めることを十分に説明
作文を用いた課題作文練習を、学習者がどのよう
する。
―1
4―
金子泰子
資料4
1
2
3
大学初年次生のための文章表現指導プログラム
三段階5段落基本構成モデル
2
4
5
デルとした。初年次生には、この一つの型で、ま
ずは一つのまとまりある文章を仕上げるまでの練
始め(序論)
:書き出し部 ……………第1段落
中①対比事例…第2段落
中(本論)
:展開部
中②対比事例…第3段落
中③中まとめ…第4段落
終わり(結論)
:書き結び部 …………第5段落
習を行う。
授業では、基本モデル の「中」の「二段落」
(中①と中②)の書き分けを、三つの課題で三度
繰り返し、習熟練習を行う。これは、学習者の
もっとも苦手とすることが「段落の書き分け」と
4.
2.
2. 生活との連携を見据えて
「段落の配置(配列)
」だからである。また、中
前半期は五月の連休を挟む期間に日記指導を、
の展開部にもさまざまな方法があるが、これにつ
後半期は、受講生の所属する学部の施設実習に配
いても、まずは比較・対照の内容を配置して、そ
慮して書簡文(礼状)を取り上げている。書く力
こから意見を導く練習に絞った。
は週一回の授業でつくものではなく、日々の生活
本プログラムの目標は基礎力の養成である。そ
における実践と密接に関っていることを学習者自
のため、まずは一つの構成モデルを確実に理解
身に気づいてもらうためでもある。
し、体得することを目指して、応用への第一歩と
4.
2.
3. 練習課題は興味・関心のあるものを
した。
「自分が興味、関心のあることを書くのは楽し
4.
2.
5. 意見文のための表現スキル
い」という学習者の表現意識は、事前・事後の意
意見文のための表現スキルも段階を踏んで進め
識調査や三評価(診断・形成・総括)作文からも
る。始めは①「段落の書き分け」練習から。一度
裏付けられている13)。後半期の意見文課題作文の
目はできなくても、二度、三度と繰り返すと全員
場合も、内容は各自の興味や関心をもとにした具
ができるようになる。②「事実と意見」の区別
体的体験事例をもとにして、意見を導くよう助言
も、学習者の作文から選んだ実例を基に確認しな
する。意見文の練習課題は、受講生から募り、三
がら説明すると理解が深まる。スキル③、④で
つに絞ったものであるが、最終的に仕上げる意見
は、主題を絞り込むために、まずは「題」をつ
文は、各自がもっとも取り上げたいと思う課題で
け、次にその題をもとに「主題文を書く」ことへ
書くことを認めている。調査や情報収集の時間を
と進む。同時に、クラス通信で互いの考えを交流
設けていないこのプログラムにおいては、学習者
し深め合いながら、各自が自らの意見文について
自身が書きたいという意欲を伴う課題(すでに十
全体構想を練る。
分な経験と知識を有する事柄)が、もっとも説得
三回の練習が終わり、基本構成モデルと二段落
力ある文章に仕上がるからである。
の関係を理解し、文章の全体像が見通せるように
4.
2.
4. 基本構成モデルと二段落作文
なったら、いよいよ5段落の配列を示す⑤「アウ
段落の書き分けと配置が文章構成の基本であ
トラインの作成」学習に進む。
「書き出し部」・
る。前半期で「一段落」がまとめられるように
「中①」・「中②」・「中③」・「書き結び部」
なったら、後半期は、「三段階5段落」の基本構
の5段落を並べて、全体像(部分と全体の関係)
成モデ ル14)を 手 掛 か り に、比 較・対 照 の「二 段
を確認するのである。
落」の書き分けから意見文の練習を始める。資料
4が本プログラムの基本構成モデルである。
以上の過程を経て、アウトラインに沿って⑥
「草稿」が書けたら、残るスキルは⑦「推敲」と
三段階モデルは、中の部分の調節でどのような
⑧「説得のレトリック」である。
「推敲」で大事
長文にも応用できる安定した構成モデルである。
なことは時間をおくことである。次のグループ別
千字の意見文では、中の展開部を三分割し、上記
批評会に向けて、草稿の完成から少なくとも一週
のように中①、中②を比 較・対 照 に よ る「二 段
間の余裕を持って推敲できるように授業を組む。
落」とし、中③はそれらをまとめる「中まとめの
時間が、自らの作文を客観的にチェックする目を
段落」とした。プログラムでは、これに始めと終
生んでくれる。また、既習のスキルは「推敲」の
わりをつけた「三段階5段落」構成を基本構成モ
観点として活かすことができる。
―1
5―
2
4
6
資料5
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
批評会後の自己評価文二例
1.読み手を説得しなければならなかったので、どのように書いたらよいのかとても苦労した。しかし、自分の
実体験を書いたので、読み手に伝えたいことがきちんと伝わったと思う。
この作文を書いて、他者を説得することの大変さを体験できた気がする。また、説得の仕方も少しはわかる
ようになったのではないかと思う。
2.最後は、自分の書きたい題材にしても良かったので非常に書きやすかった。二百字作文とは違って、書く文
章が長く、何をどう書いたらよいのか迷ってしまいそうになったが、アウトラインのおかげで書きやすかっ
た。もっと自分の意見がうまく書けるようになりたいと思うようになった。
(ともに、記述時間1
0分)
書きたい主張が明らかになり、文章の全容が見
る。構成については、すでに授業で十分に練習を
えてくると、読み手を説得する表現を工夫しよう
行ってあるため、取り上げる内容面について簡単
とする余裕が生まれる。ここまで来て、ようやく
なアドバイスをするだけで、ほぼ全員がまとまり
学習者は文章表現のおもしろさに気づき始めるの
のあるレポートを書き上げる。自力で書き上げる
である。レトリックは、本基礎プログラムの最終
ことが学習者の大きな自信につながるようであ
段階のスキルで、本来は、次のレベルの指導プロ
る。(資料2B 参照)
グラムにおいて本格的に取り上げるものであろう
4.
2.
8. ポートフォリオによる個人文集の作成
が、文章表現のおもしろさの一端を基礎レベルで
学習者は、半年間に書いた全ての作文(下書き
垣間見ることは意義のあるものと考えている。
メモ、草稿など、すべて含む)および配付資料
152
(「説得のレトリック」の詳細はテキスト5)p.
(主としてクラス通信)をポートフォリオ(ファ
を参照されたい。)
イル)に綴じて個人文集を作成する。
大多数の学習者は、千字の意見文を書き上げる
ポートフォリオは、作文や資料をもとに学習の
のが精一杯である。しかし、クラスメート(読み
プロセスをたどり直すことができるため、学習者
手・説得相手)の存在が、推敲意欲を高め、叙述
自身が個々の問題点や意識の変化を捉えやすく、
の工夫に目を向けさせてくれる。
自己評価活動の拠り所として重要である。
4.
2.
6. 意見文グループ別批評会(後半期終了時)
また、ポートフォリオは、教師と学習者の双方
プログラムの総まとめの学習活動となるのが、
に学習の成果(コミュニティ内における通信、お
この意見文グループ別批評会の時間である。二百
よび各自の作文)の共有を可能にするため、指導
字の練習から積み上げて完成させた5段落の意見
(学習)効果が高まり、評価を容易にする。
文が、どこまで読み手に伝わるか。同時に、他者
なお、ポートフォリオ効果については、上記
の意見文を、どこまで実証的に分かりやすく批評
「最終レポート」の成果からも確認できる。
できるか、学習成果を発揮する時間である。批評
4.
2.
9. 表現スキルに関する意識および達成度調
文の書き方についても、例を示して事前に十分な
査(後半期分)
、文章表現に対する事後意識調
指導を行ってから臨む。
査
批評会の成果は、自己評価文から一部をうかが
後半期分の表現スキルに関する意識および達成
うことができる。資料5に自己評価文を二例示
度調査とプログラム終了時点における文章表現に
す。
対する事後意識調査を実施する。前半期と同様の
4.
2.
7. 総括的評価(最終レポート)
調査(4.
1.
11.および4.
1.
3.参照)を実施するこ
最終レポート「半年の文章表現学習を振り返
とにより、半年後の、学習者の表現スキルや文章
る」(総括的評価作文)は半年間の学習の集大成
表現に対する意識の変化が明らかになる。意識の
といえる。基本構成モデルを使って、独力で書き
変化や達成度の確認は、学習者自身のメタ認知を
上げる。学習者自身がポートフォリオとして保管
促進し、さらなる学習への展望につながる。指導
している診断的評価、形成的評価作文も題材とな
者は、調査項目を精選し、質問文を練りあげるこ
―1
6―
金子泰子
大学初年次生のための文章表現指導プログラム
とにより、経年的に活用できる調査票の作成が可
5.
3. 検証結果(グラフ内の数値は%)
能となる。
メタ認知的知識(形式面)の変化
4.
2.
10. ポートフォリオによる成績評価
①
2
4
7
文字・表記(原稿用紙の使い方含む)
成績評価はポートフォリオによって行う。すで
に課題ごとの個別評価および二度の批評会の評価
はすんでいる。そのため、この時点での指導者の
主な評価対象は、最終レポートということにな
る。ポートフォリオの良さは、通時態的に、一学
習者の変容の様子が捉えられる点にある。評価
も、それまでの規準からそれる恐れがない。
なお、ポートフォリオは、学習者にとって貴重
な学習の記録であるため、一人ひとりに学習成果
形成的評価で「できる」が倍増、総括的評価で
と今後の課題を示すコメントをつけて返却してい
「できない」は0になる。書き慣れていないため
る。
に、診断的評価時には「できる」が33%であった
上記、4.
2.
6.から4.
2.
10.までがプログラム終
着点といえる部分である。
が、知識を得て練習を繰り返し、学習コミュニテ
ィの中で評価し合うことで形式面は有意に改善さ
れる。
5.学習成果の検証とまとめ
②
文法・用字・用語
本プログラムが、学習者の文章表現能力向上に
どの程度寄与しえたか、診断・形成・総括的評価
作文におけるスキルの定着度と意欲面の変化を見
ることによって検証する。
5.
1 検証対象:筆者担当の2クラス4
3名分の以
下の三評価作文
診断的評価作文「入学までの作文学習を振り返
る」
形成的評価作文「二百字作文学習を振り返る」
これも①「文字・表記」同様、練習を重ねるご
総括的評価作文「半年の文章表現学習を振り返
とに上達し、総括的評価では「できない」
(意味
る」
が取れない)が0となる。ただし、不十分の比率
5.
2. 検証項目と方法
は33%となお高く、正確さ、的確さを求めるに
・メタ認知的知識(形式面)
は、さらなる継続的な練習が必要である。
①文字・表記(原稿用紙の使い方含む)②文法
③
文体の統一
・用 字・用 語③文 体 の 統 一④記 述 量⑤構 成
(二百字作文のタイトルと首尾の照応、意見
文の形式段落分け)
・メタ認知的活動(思考面)
⑥表現スキルに関する意識
⑦まとまり(主題の明確さと内容的深まり)
・感情的経験(意欲面)
⑧苦手意識の解消と自信の回復
上記の三側面、⑧項目に関して、三作文を3段
「文体の統一」は、一度の説明でほとんどが
階(できる・ややできる・できない、など)で評
「できる」ようになる。しかし、形成的評価で
価した。
「不十分」あるいは「できない」学習者10%は、
―1
7―
2
4
8
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
総括的評価においてなおその半数のそれぞれ5%
が学習困難者として残っている。しかし、この学
習者たちを除けば、学習効果は90%と顕著であ
る。
④
記述量
る。それは、総括的評価においてもほぼ同様であ
る。このことからも、スキルは訓練によって確実
に意識化されるとともに運用力に転ずることがわ
かる。ただし、最後まで意識の持てない学生も
13%残る。内省的メタ認知を可能にするには、③
記述量は、診断的評価から65%の学生が十分な
数値(30分で400字目安)を示した。形成的評価
「文体の統一」同様、ある程度の知的能力の必要
性が推定できる。
では初回と同じ30分の記述時間が確保できず20分
いずれにしても、評価ごとの急増は、スキルに
になったことが記述量の伸びの悪さとなってグラ
対して学習者側に強い渇望感が存在したことの証
フに表れた。しかし、総括的評価では、自宅学習
明であり、同時に、スキルが意欲的に運用される
ながら、79%が目標量 の1000字 を 達 成 し、残 り
様子も作文によって確認できた。
21%も800字を超すことができた。「不足」判定は
⑦
まとまり
0となり、大幅な進歩とみる。
⑤
構成
まとまりも評価ごとに順調に向上する。総括的
評価では「ややあり」を含めると1
00%の学生が
構成も回を追って上達した。形成的評価では、
まとまりのある作文を仕上げ、まとまり「なし」
「題をつける」「首尾の照応」など、二百字作文
の学生は0となった。形成的評価で62%の「やや
でのスキル学習の効果が現れた。総括的評価で
あり」も21%に減少する。
「アウトラインの作成
は、「アウトライン作成」によって、構成できな
方法を学んで構成が容易になり、作文をまとめや
い学生は0となった。ただし、
「ややできる」レ
すくなった」と総括的評価作文で自己評価した学
ベルの学生が38%と依然多く、段落構成の継続的
生が多く、アウトライン作成スキルを習得し、定
練習の必要性がうかがえる。
着したことが明らかである。
メタ認知的活動(思考面)の変化
感情的経験(意欲面)の変化
⑥
⑧
表現スキルに関する意識
苦手意識の解消と自信の回復
診断的評価において表現スキルに関する意識を
意識面では、苦手意識を回復「できた」が診断
示す記述は4%のみであるが、前半期7回の授業
的評価の9%から形成的評価の81%(ややできた
で集中的に表現スキルを導入することで、形成的
を含めると98%)へと大幅な改善がみられる。総
評価ではスキルに関する記述が76%にまで急増す
括的評価では「できた」のみで92%にも昇る。⑥
―1
8―
金子泰子
大学初年次生のための文章表現指導プログラム
2
4
9
回宮崎大会−2
0
0
6.
1
0.
0
1−では、「診断的・形成的・
総括的評価を通して見た大学生の文章表現能力の考
察」を口頭発表した。
2.メタ認知の定義について、三宮真知子(1
9
9
6)は
次のように述べている。
……自分あるいは他者に固有の認知的傾向、課題
の性質が認知に及ぼす影響、あるいは方略の有効性
についての知識をメタ認知的知識と呼ぶ。そして、
認知プロセスや状態のモニタリング(監視 monitor-
「表現スキルに関する意識」を上回る大幅な上昇
ing)
、コ ン ト ロ ー ル(制 御 control)あ る い は 調 整
傾向である。スキル習得が苦手意識を解消し、自
(regulation)を実際に行うことをメタ認知的活動あ
信の回復がさらなるスキル習得につながる好循環
るいはメタ認知的経験などと呼ぶ。そして、こうし
がうかがえる。
たメタ認知的活動を効果的に行える技能をメタ認知
的スキルと呼ぶことがある。……
「思考におけるメタ認知と注意」
『認知心理学4思
5.
4. まとめ
考』東京大学出版会、1
9
9
6年、p.
1
5
8
大学初年次生のための文章表現指導プログラム
において、
「知識・活動・意識」を三基軸とした
3.①
河野順子「説明的文章の学習指導改善への提
案−『メタ認知の内面化モデル』を通して−」
『国語
メタ認知活性化方略がどのように学習効果を上げ
科教育』第5
1集、2
0
0
2年、p.
6
7は、メタ認知概念 を
たか、三つの評価作文をもとに検証を試みた。学
活用した学習者主体の学びを提案している。
習者による授業評価とも言える作文を、指導者
②
が、プログラムの成果検証のために分析するとい
山元隆春「読みの『方略』に関する基礎論の
検討」
『広島大学学 校 教 育 学 部 紀 要』第Ⅰ部、第1
6
う、異なる視点からの二重、三重の評価作業と
巻、1
9
9
4年、pp.
2
9
‐
4
0は、メタ認知は他者との関係
なった。
において活性化されることを論じている。
本論で取り上げた文章表現指導プログラムは、
③
Flavell, J.H “Cognitive Monitoring.” In Cickson,
学習コミュニティを基盤とした、知識、練習活
W.P., (Ed). Childrens Oral Communication Skills, 1981,
動、意識・感情面への配慮の三基軸に加え、明確
pp.35-60, New Yrk, NY : Academic Press. も、メタ認知
な課題設定、各種評価の組合せなど重層的構造を
的知識を育成するためにはメタ認知的活動との相互
持つものである。診断から形成、総括に至る評価
作用が必要であり、さらにそのメタ認知活動には感
情的経験が必要だと指摘している。
作文が、5.
3.の通り、スキルの高い定着率と意欲
の大幅な向上を実証したことから、プログラムの
4.大塚雄作は「学習コミュニティ形成に向けての授
有効性は十分に証明し得たのではないかと考え
業評価の課題」溝上慎一・藤田哲也編『心理学者、
大 学 教 育 へ の 挑 戦』ナ カ ニ シ ヤ 出 版、2
0
0
5年 の 中
る。
で、「実践コミュニティは、 あるテーマに関する関
ただし、本論ではプログラムの全容紹介を兼ね
心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技
たため、論点への切り込みや、検証の甘さが反省
能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の
点である。今後、さらなるプログラムの改善を目
集団 」p.
2
7、「実践コミュニティが対象とする領域
指し、詳細な調査と考察によって補強を目指した
を学習の場とするとき、それは学習コミュニティと
い。
呼ぶことができる」p.
2
8と述べている。
5.中西一弘 編『新 版 や さ し い 文 章 表 現 法』朝 倉 書
注
店、2
0
0
8年
1.短期大学における2
0年間の実践は、全国大学国語
6.Kellogg, R.T. The psychology of writing. Oxford Uni-
教育学会第1
1
0回岩手大会−2
0
0
6.
5.
2
8−において、
「大学における文章表現指導−そのプログラム開発
versity Press. (Sd) ; New Ed. 1999, pp.111-115
7.藤原与一『国語教育の技術と精神』新光閣書店、
に向けて(1)
−」
、資料:「短期大学における文章表
現指導プログラムの検討」として発表。続く、第1
1
1
1
9
6
5年、p.
1
2
0
8.藤田哲也・溝上慎一「授業通信による学生との相
―1
9―
2
5
0
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
互 行 為Ⅰ・Ⅱ」
『京 都 大 学 高 等 教 育 研 究7』
、2
0
0
1
である。
年、pp.
7
1
‐
8
7・pp.
8
9
‐
1
1
0は、授業通信の発行が学習
①金子泰子「文章表現に関する大学生の意識− 0
6事
者の
やる気
前・事後、および表現技術についての調査結果を
を維持することを証明している。
中心に−」2
0
0
7年5月1
3日
9.杉本明子「意見文産出における内省を促す課題状
号、1
9
9
1年は、「 説得スキーマ
大阪国語教育研究会
第2
2
0回5月例会において口頭発表
況と説得スキーマ」
『教育心理学研究』第3
9巻第2
②金子泰子「大学初年次生のための文章表現指導−
を喚起しやすい課
題状況を与えて文章を書かせると、産出された文章
再履修生の実態とその評価−」
『長野大学紀要』第
は統括性が向上し、書き手の主張が明確で一貫した
3
0巻第2号、2
0
0
8年9月
ものになる」p.
4
0、また、「説得という課題状況から
いずれ、プログラム全体を総括する論文の中で全
説得スキーマ
容を示す予定である。
が喚起され知識の明確化・統合が
1
4.「基本構成モデル」は次の三冊を参考にした。
促進される」p.
4
1と述べている。
1
0.「動機づけの順序」森岡健二『文章構成法』至文
①
ハ イ ン リ ッ ヒ・ラ ウ ス ベ ル ク 著・萬 澤 正 美 訳
『文学修辞学−文学作品のレトリック分析』東京
堂、1
8
9
1年、pp.
8
0
‐
8
3
都立大学出版会、2
0
0
1年
1
1.資料1.
前半期①〜⑫、後半期①〜⑧に相当。
1
2.「表現スキルに関する意識および達成度調査」の結
果については、前半期と後半期分をまとめて別稿で
②
③
発表する予定である。
1
3.事前・事後の意識調査と評価作文の分析結果は、
以下の①②において、その一部をそれぞれ発表済み
―2
0―
井上尚美『レトリックを作文指導に活かす』明
治図書、1
9
9
3年
市 毛 勝 雄『説 明 文 の 読 み 方・書 き 方』明 治 図
書、1
9
8
5年
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
1―2
9頁(2
5
1―2
5
9頁)2
0
0
9
ティム・バートン試論
―「フリークス」の孤独から「家族」の神話へ―
その2
An Essay on Tim Burton : Transformation of an Artist
―From Allegory of Lonely Freaks in Suburbia to Myth of Family― Part2
小
林
一
博*
Kazuhiro Kobayashi
前稿では初期短編『ヴィンセント』
(Vincent,
ンクに近い、南カリフォルアでロケーション撮影
1
9
8
2)と『フランケンウィニー』
(Frankenweenie,
されたが、
『シザーハンズ』はフロリダ州タンパ
1984)を 中 心 に、映 画 監 督 テ ィ ム・バ ー ト ン
にセットを組んで行われた。こうした違いによっ
(Tim Burton,1958−)にとっての「郊外」の意
てか、前者は「郊外」のリアルな風景を背景にし
味を検討したが、本稿ではさらに『シザーハン
て展開されるホラー・ファンタジーになったのに
ズ』(Edward Scissorhands,1990)における「郊
対して、後者はいい意味でよりつくりものじみた
外」のあり様と主人公「エドワード・シザーハン
「郊外」の風景のなかで展開される、より象徴的
キャラクター
i)
ズ」の性格設定を分析する 。
で寓話的なファンタジーとなった。
その寓話性は映画の冒頭のシーンでも如実に顕
『シザーハンズ』の「郊外」
われている。
「昔話」の枠組みをそのままに、祖
はじめての劇場用長編映画『ピーウィー・ハー
母が孫に思い出話を語るという冒頭のシーンで
マンの大冒険』
(Pee Wee Herman’s Big Adventure,
は、物語における2つの重要な場所、すなわちヒ
1985)で商業的成功を手にしたあと、ティム・
ロ イ ン「キ ム」(ウ ィ ノ ナ・ラ イ ダ ー)の 住 む
バートンは、スティーブン・スピルバーグ監督と
「郊外」と主人公「エドワード」
(ジョニー・デ
の TV アニメーションの共同制作ii)やワーナーブ
v)
ップ)の住む「 お城」
が示され、両者の、隣接
0世紀フォ
ラザースでの映画製作iii)などを経て、2
すれども決して交わらず、という関係性が示され
ックスの出資で『シザーハンズ』の制作・監督に
る。小高い丘、あるいは山のうえに位置する古城
とりかかる。
とそのふもとの庶民の町という位置関係もまた、
マンション
初期の代表作ともいうべきこの作品は、自伝的
昔話の「魔物」の住居と人間の住居の構図の反復
要素の濃い作品で、モチーフ的には『フランケン
である。オープニングからタイトルまでのシーク
ウィニー』と重なる部分も少なくない。ともにア
エンス、2
0世紀 FOX のロゴに降り積もる雪と夜
メリカの「平均的な家族」が住む「平均的な住宅
の郊外の様子、パンするキャメラによって示され
街」iv)に舞台が置かれている。ということで必然
るお城の内部の朽ち果てた様子は、その後に展開
的に映画の舞台は「郊外」もしくは「サバービ
される物語をそのまま暗示している。
「雪」はか
ア」と 呼 ば れ る 地域 と な る。
『フ ラ ン ケ ン ウ ィ
つて、エドワードが下界に降りてきたことの証で
ニー』の撮影は、ティム・バートンの地元バーバ
もあるvi)。
*環境ツーリズム学部准教授
―2
1―
2
5
2
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
【図版1:アメリカの典型的な郊外住宅。高速道路を挟んで同じような規格の家が並んでいる】
本来はまじわることのない二つの世界、丘のう
リカの中位クラスの住む定型的な住宅地である。
えのお城と郊外がまじわるきっかけをつくったの
冒頭のシークエンスでは青空のもと、淡い色合い
はキムの母親ペグ(ダイアン・ウィースト)であ
の緑や青や黄色、そしてピンク色に塗られた住宅
る。ペグは郊外の住宅地に住む主婦であるが、と
地が映し出され、そこがある種、ロマンチックな
同時に化粧品のセールスパーソン「エイボン・レ
感情を抱かせる場所であることが示唆される。住
ディ」として働くキャリアウーマンで、郊外の戸
民たちはパステルカラーの住宅地で、庭木に水を
建て住宅をひとつひとつ訪問し、実演販売をして
やり、芝を刈り、ときには屋根の修理などをし
いる。彼女の客となるのは彼女と同じく郊外に住
て、のどかにゆったりと自分たちの時間を楽し
む女性たちで、その多くはペグとは対照的に専業
む。
主婦である。顔馴染みや子供相手ではセールスが
パステルカラーの郊外はもちろん、ティム・
なかなかうまくゆかないと悟った彼女は販路拡大
バートン的な誇張である。観客に提供される郊外
のために、普段は足を踏み入れることのない郊外
の風景には、ペグの車の窓からそれを眺める鋏少
の周縁、「お城」に赴く。そしてそこで孤独に暮
年エドワードの視線が重ねられている。彼の視線
らす両手が鋏の少年と出会い、彼のことを気の毒
には不安と期待と、そして何より戸惑いが入り混
に思って、善意から郊外の自宅に連れ帰るのであ
じっているが、スクリーンの上ではことさらにそ
る。
ののどかさが強調されていることに注目しておき
ペグとその家族の暮らす家は、同じような規模
たい。
『シザーハンズ』の郊外はかつてのアメリ
の同じような規格の家々が立ち並ぶ住宅街の一角
カ人たちの「夢」(例えば映画『リトルショップ
にある。その規模や規格から、彼女たち一家の住
viii)
の不幸な花屋の店員オード
・オブ・ホラーズ』
む住宅地は、かつての荒野に第二次世界大戦後に
リーなどが憧れた「夢の戸建て住宅」
)が実現し
vii)
造成されて発達した「パッケージ・サバーブ」
た場所である。そうした場所として意識されてい
と呼ばれる種類のものであることがわかる。アメ
るからこそ、パステルカラーに塗られているのだ
―2
2―
小林一博
ティム・バートン試論
2
5
3
【図版2:ビル・オーエンス「無題(7月4日、独立記念日)
」
(1
9
7
1)郊外住宅地でのパーティの様子。
『シザーハンズ』のボッグス家でのパーティの様子と見事に重なる光景】
ともいえる。そして、
「郊外」のファンシーでロ
うペグのセールストークに対して「私の見た目を
マンチックな外見は、グロテスクでゴシックな、
変えるですって、そりゃ傑作ね」といい、彼女の
モノトーン、モノクロなエドワードの「お城」の
訪問を鼻先で笑う。もうひとりの専業主婦ジョイ
外見との対比によっていっそう際立つものにな
ス(キャシー・ベイカー)はヘレンとは違って自
る。
らの魅力に自信満々で、日常生活では得られない
『シザーハンズ』の「郊外」もまた、『フラン
刺激を求めている。ペグの訪問の際には食器洗い
ケンウィニー』や『ヴィンセント』の「郊外」と
機の修理人(スティーブ・ビル)を誘惑しようと
同様に、その外見とは相反する内実を抱え持って
あの手、この手である。
いるが、そうした内実はやはり『フランケンウィ
一見、対象的に見える二人だが、ある一点では
ニー』と同様に、ペグ一家の隣人たちの姿を借り
共通している。彼女たちは郊外の生活に退屈して
て表現される。映画において、郊外の隣人たちの
いるのだ。そんな彼女たちであるから、郊外で起
暮らしぶりは「エイボン・レディ」ペグの訪問と
こる新奇なことに対する関心は高い。ペグがお城
ともに少しずつ明らかにされる。
か ら 連 れ 帰 っ た「珍 し い お 客 さ ん(unusual
専業主婦のヘレン(コンチャータ・フェレル)
guest)」の噂は同じく専業主婦のマージー(キャ
ヘレンは『フランケンウィニー』に登場するエプ
ロリン・アーロン)のヘレンへの電話がきっかけ
スタイン夫人(ロズ・ブレイバーマン)のように
となって、あっというまに郊外の住宅地に広が
でっぷりと太った中年の女性。自分の外見に自信
り、誰もが知るところとなる。「彼は誰?」「女性
がなく、自らを磨こうという気持ちすら失ってい
陣はあなたがみんなに隠しているお客さんのこと
るらしい。そんな彼女は、頭にカーラーをまいた
で興奮しているわ。いつまでも秘密にしとくわけ
ままの寝巻姿でペグを迎える。新製品を試して
にはいかないわよ」という主婦たちの圧力によっ
「見た目を変えましょう(changing looks)」とい
て、ペグはエドワードのお披露目パーティを開か
―2
3―
2
5
4
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
なくてはならない羽目に陥る。休日の午後に開か
ツと灰色のズボンにサスペンダーといった服に着
れたと思しきボッグス家のホームパーティは大変
替えるのも、異質な個性を同質的な外見によって
ix)
なにぎわいをみせる 。
みえなくするための作業であり、同質化のための
アメリカ人はさまざまな理由で自宅に客を招く
努力であるといえる。同質性を絶対条件とする
が、それぞれのコミュニティで行われるホーム
「郊外」のコミュニティのなかで、鋏の手を持つ
パーティは、新参者にとっては、そのコミュニテ
少年エドワードは最初「例外 的(exceptional)」
ィに参加するための大切な機会である。それはコ
な存在として受け入れられ、最終的には拒絶され
ミュニティの人びとに存在を認めてもらうための
ることになる。
ある種の通過儀礼であり、と同時に面接試験でも
あるのだ。極端な言い方をすれば、試験に合格し
キャラクター
「エドワード・シザーハンズ」の性格設定
なければ、その人物はコミュニティの一員として
ここで、改めて映画の主人公であるエドワード・
は正式には認められない。認められるための鍵と
シザーハンズの性格設定について検討しておこ
なるのは、ひとつは同質性である。近年の郊外の
う。すでによく知られているように、
「シザーハ
変化によって、多様性が出てきたを指摘する論
ンズ」はティム・バートンが「ずっと前に描いた
x)
文 もあるが、そうした論文のなかでも、少なく
一 枚 の 絵」(Salisbury,87)か ら 発 想 さ れ て い
とも人種的な同質性については確認されている。
る。
「ホワイト・サバーブ(White
Suburb)」という
言葉に代表されるように、郊外に住む住民、郊外
そのイメージはほとんど潜在意識的なものに
のコミュニティの構成員のほとんどはコーケイジ
なっていて、触れたいものに触れられないキャ
ャン、いわゆる白人種なのであるxi)。
ラクター、創造的であると同時に破壊的でもあ
『シザーハンズ』では「同質性」はその家並み
るキャラクターに結びついた。(Salisbury,87)
だけでなく、行動様式や生活様式によっても表現
されている。この架空のサバービアに住む夫たち
ティム・バートンはエドワード「シザーハン
は、同じような家に住み、同じような時間に同じ
ズ」像についてこのように語るxiii)。エドワードは
ような車(これもパステルカラーに塗られてい
創造性と破壊性をもった両義的なキャラクターと
る)に乗って、郊外の住宅地から近接する都市の
して設定されているわけだが、この両義性は、彼
仕事場に出かけてゆく。妻たちは夫たちや学校へ
の特異性、あるいは異質性の象徴であり、と同時
行く子供たちを送り出したあと、退屈しのぎに電
に具象でもある「鋏」によって集約されていると
話をかけたり、お互いを訪問したり、おそらくは
いってよい。エドワードの「鋏」は新奇な庭木の
地域活動に参加したりして、時間をつぶす。
刈り込みや犬のトリミング、女たちの髪のカット
同質性が求められる郊外のコミュニティにおい
といった創造的な側面でも活躍するが、と同時
て、異質であることは困難なことであり、映画の
に、ウォーターベッドに穴を開け、サスペンダー
なかでもそれは宗教的異端者エスメラルダの姿に
を切り、壁紙を切り裂き、傷つけたくない人を傷
よって確認できる。同じ郊外の住宅地に住んでい
つけてしまうといった破壊的な側面も持ってい
ても彼女は主婦のコミュニティからは孤立してい
る。創造的な働きをするときにはエドワードが鋏
るxii)。その名前から明らかなように彼女はラテン
を自由自在にコントロールしているが、破壊的な
系で、おそらくはカトリックであり、人種と宗教
働きをするときには、エドワードは鋏をコント
の点からみて、明らかにマイノリティである。
ロールできない。そして、こうした鋏の破壊性は
マイノリティがマジョリティに受容されるため
エドワード自身にも傷を残している。エドワード
にはある種の「白人化」が必要であり、マイノリ
の顔の傷跡はただの傷跡ではなく、コントロール
ティが自らの異質性を主張したまま、マジョリテ
できなかった鋏の痕跡であり、肉体の傷跡である
ィに溶け込むことは難しい。映画のなかでエド
と同時に心の傷跡でもあるのだ。
ワードが顔の色合いを変え、傷を隠し、白いシャ
―2
4―
ところでエドワードはなぜ、両手が「鋏」xiv)な
小林一博
ティム・バートン試論
2
5
5
【図版3:ティム・バートンが描いた「シザーハンズ」のコンセプトアー
ト:「お城」のエドワードと「郊外」のエドワード】
のか。他の部分は彼の生みの親である「発明家」
と変貌してゆく様が示される。
(ヴィンセント・プライス)や郊外に住む人びと
物語の冒頭で年老いたキムが孫娘に「発明家は
と同じような外見を持ちながら、どうして腕の先
彼に内側を与えたの。頭脳も心もすべてね」と語
の部分だけが鋏なのか。映画のなかではその理由
るように、エドワードは、彼のもともとの特性で
はエドワード自身の回想によって明らかにされ
ある「鋏」以外のすべてを与えられた存在として
る。
設定されている。ところが、両手が鋏というフ
発明家のラボにはさまざまな機械が置かれてい
リークな外見のまま「発明家が彼を完成する前に
る。攪 拌 す る、捏 ね る、型 押 し す る、焼 く…と
亡くなってしまった」ために「僕はまだ完成して
いった具合に、それぞれがオートメーション化さ
ないんだ(I’m not finished)」という意識を抱いた
れ、分業化された作業工程の一部を担っている。
まま、ペグがやってくるまでの年月をたったひと
ラボにおかれた機械はいずれもどこか人間的な風
りですごすことになるxvi)。
貌を持ち、オートマトン(機械人形)のようでも
池 田 敏 春xvii)が 指 摘 す る よ う に「自 分 は 普 通
あり、見方によっては工場のなかで分業をこなす
じゃないという思いは、多かれ少なかれ誰にでも
人間たちそのもののようにもみえるxv)。エドワー
ある。特に人間関係でそんなぎこちなさが現れる
ドはもともとそうした機械のひとつであり、鋏の
時、人は往々にして傷つく」
(柳下、135)。なに
手であらゆるものを刻む役割を担っていた。それ
より「普通じゃない」という思い込みは多感な思
が、機械に「心」を持たせるという発明家の思い
春期に は あ り が ち な も の だ が、エ ド ワ ー ド の
つきのために、すこしずつ機械から人間へと変え
「鋏」はそうした感情をダイレクトに反映したも
られていったのである。ほぼ完成に近づいたエド
のだともいえる。ティム・バートンはエドワード
ワードに対して、人としてのエチケット、詩を読
の性格設定について、ティーンエイジャーだった
むこと、ユーモアを理解することを教える発明
ころの自分自身と二重写しになるところがあるの
家。その傍らには発明家の手による「設計図」が
を認めて、以下のようにいう。
置かれ、目も鼻もない生産ラインの機械が人間へ
―2
5―
2
5
6
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
僕はほんとうに自分がコミュニケートできない
るかもしれない。次稿ではまず『バットマン・リ
人間だって思っていた。人が自分に抱くイメー
タ ー ン ズ』
(Batman Returns,1992)『テ ィ ム・
ジが実際の自分とは違っているっていう気持ち
バートンのナイトメアー・ビフォア・クリスマ
だった。…(中略)…だからエドワードのアイ
ス』(Tim Burton’s Nightmare Before Christmas,
ディアは、イメージと物事の受け取られ方に関
1993)を中心にバートンの主な映画における「フ
係しているんだ。(Salisbury,87)
リーク」たちの描かれ方を検証し、そのうえで
「家族」をキイワードとして考察する。
エドワードは思春期の若者のある意味一般的な
感情の具現化であると同時にティム・バートン自
【引用参照文献】
身のティーンエイジャー的経験の形象化でもある
のだ。
Fraga, Kristian, ed. Tim Burton : Interviews. Jackson :
University Press of Mississippi,2
0
0
5.
バートンはさらに「アメリカ」では「学校」に
おいても「ハリウッド」においても、ほとんど第
Hanke, Ken. Tim Burton : An Unauthorized Biography of
the Filmmaker. Los Angeles : Renaissance Books,1
9
9
9.
一印象で人びとを「カテゴライズ」する傾向があ
Jurca, Catherine. White Diaspora : The Suburb and the
ると指摘し、『シザーハンズ』はそうした傾向に
Twenty-Century American Novel. Princeton and Oxford :
対する「反動」(Salisbury,87―89)だと語る。映
Princeton University Press,2
0
0
1.
画において「エドワード・シザーハンズ」をカテ
ゴライズするのは「郊外」の人びとである。エド
Salisbury, Mark, ed. Burton on Burton. New York & London : Faber and Faber,1
9
9
5: Revised ed.2
0
0
6.
ワードの内実とは関わりなく、彼らはその外見、
「鋏」によってエドワードを規定し、評価する。
Smith, Jim and J. Clive Matthews. Tim Burton. London :
Virgin Books,2
0
0
2.
発明家によって生み出されてから人と直接交わる
McMahan, Allison. The Films of Tim Burton : Animating
機会のなかったエドワードは、世間知がなく無垢
Live Action in Contemporary Hollywood. New York &Lon-
な存在、邪悪なところや好色なところがない存在
don : Continuum,2
0
0
5.
でもあるが、それゆえに返って、人びとがそれぞ
Merschmann, Helmut. Tim Burton : The Life and Films of
れに抱く欲望の対象となり、それぞれの視点から
a Visionary Director, trans. by Michael Kane. London :
のエドワード像がつくりあげられてゆくxviii)。
Titan Books,2
0
0
4.
すでに述べたように、彼は基本的には「例外
的」な存在として「郊外」のコミュニティに受け
Woods, Paul A., ed. Tim Burton : A Child’s Garden of
Nightmares. London : Plexus,2
0
0
2.
入れられるのだが、その受容はうわべだけのもの
であり、だからこそあっさりとコミュニティは彼
大場正明『サバービアの憂鬱
を切り捨てる。本論でもすでにとりあげたボッグ
リーの光と影』東京書籍、1
9
9
3年。
ス家のホームパーティでのコミュニティの人びと
とエドワードのやりとりをみてもそれは明らかで
アメリカン・ファミ
奥出直人『アメリカンホームの文化史』住まいの図
書館出版局、1
9
8
8年。
ある。
『ト ラ ン ス ナ シ ョ ナ ル ア メ リ カ』岩 波 書
『シザーハンズ』は異端者、フリークなエド
店、1
9
9
1年。
ワードが郊外で家族を得ようとして、異端性ゆえ
に周囲から拒絶されて、家族作りに失敗する話で
カイエ・デュ・シネマ・ジャポン編集委員会『幻想
のアメリカ』勁草書房、2
0
0
0年。
もある。ティム・バートンにとって「家族」は隠
された映画のモチーフになっていて、初期の作品
戸谷英世『アメリカの住宅生産』住まいの図書館出
版局、1
9
9
8年。
では、異質な者同士が家族となる話として解釈で
き る 作 品『ビ ー ト ル ジ ュ ー ス』
(Beetlejuice,
中野雅博「アメリカのサバービア考」
『立命館国際研
0
5頁。
究』第1
3巻2号、立命館大学、2
0
0
0年、8
5―1
1988)があり、『シザーハンズ』は、家族作りと
いう点ではそれとは対照的な作品となったといえ
柳下毅一郎編『ティム・バートン』キネマ旬報社、
2
0
0
0年。
―2
6―
小林一博
ティム・バートン試論
1クールで早々に打ち切られた。
ステファニー・クーンツ(岡村ひとみ訳)
『家族とい
う神話
アメリカン・ファミリーの夢と現実』筑摩書
2
5
7
iii)
『ビ ー ト ル ジ ュ ー ス』と『バ ッ ト マ ン』
(Batman,1
9
8
9)
。前者は1
5
0
0万ドルという低予算で7
0
0
0
房、1
9
9
8年。
万ドルを稼ぐスマッシュヒットとなった。『ピーウ
マーク・ソールズベリー(遠山純生訳)
『バートン・
ィー・ハーマンの大冒険』からはじまるヒット作の
オン・バートン』フィルムアート社、1
9
9
6年。
マーク・ジャンコヴィック(遠藤徹訳)
『恐怖の臨界
連発で、ティム・バートンはハリウッド・メジャー
ホラー映画の政治学』青弓社、1
9
9
7年。
のなかでもメジャーな作品(『バットマン』
)を任さ
れる監督のひとりとなってゆき、同時に「ながいあ
【引用参照サイト】
い だ 大 切 に 育 ん で き た 映 画」
(Salisbury,8
4)
『シ
America on the Move : http : // americanhistory. si. edu /
ザーハンズ』をつくる自由も得る。
iv)
「平均的な」家 庭 像 や 住 宅 街 は 実 は TV の フ ァ ミ
onthemove/
Internet Movie Database
(IMDb)
: http : //www.imdb.com/
リードラマによってつくられたフィクションであ
Internet Movie Script Database( IMSDb )
: http : // www.
り、存在しないという説もある。TV 等のメディアに
imsdb.com/
よってつくられた家庭像とリアルなアメリカの家庭
New York Times Online : http : //www.nytimes.com/
像のギャップについてはステファニー・クーン ツ
Tim Burton Collective : http : //timburtoncollective.com/
『家族という神話
アメリカン・ファミリーの夢と
現実』を参照のこと。
Wikipedia : http : //wikipedia.org/
v)
『シザーハンズ』の台詞は International Movie Script
【図版出典】
Database(IMSDb)に掲載されたトランスクリプト
1 ) Wikipedia : http : / / en . wikipedia . org / wiki / Suburbia #
(映画からの書写)による。
vi)
「彼がこの町にやってきてから降るようになった」
Suburbia
2)Benjamin Genocchio, “The Soul of Suburbia, Captured
という「雪」は、エドワードがキムを想ってつくる
th
0
0
8.
on Film,” The New York Times, January1
3 ,2
(The New York Times Online,1
1/2
2/0
8)http : //
彫像を彫る際に生じることになっている。
vii)
『アメリカンホームの文化史』によれば「パッケー
0
0
8/0
1/1
1/nyregion/
www.nytimes.com/imagepages/2
ジ・サバーブ」とは FHA(Federal Housing Admini-
1
3artsli.web.html
stration:連邦住宅局)の奨励によって「一九四七年
3)Mark Salisbury, p.
8
6 and p.
8
8.
か ら 開 発 さ れ 始 め た 大 規 模 な 郊 外 住 宅」
(奥 出、
1
9
0)を指す。第二次大戦後に造成された郊外住宅地
注
では、合理的で効率的かつ可能なかぎり安価な家を
i)
「ティム・バートン試論」は3部構成の予定で「そ
たてるために、工場生産の規格化された建築資 材
の1」でも予告したように当初は『シザーハンズ』
(2×4の木材と4×8の合版)が使用された。こ
を主材料として、「フリーク」をキイワードにして
うした家は「トラクト・ハウス」
(tract housing)
」ま
『バットマン・リターンズ』や『ティム・バートン
たは「クッキー・カッター・ハウス(cookie
のナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の分析を
housing)
」と呼ばれた(戸谷、1
1
6 ならびに Wikipe-
盛り込む予定であったが、『シザーハンズ』の分析が
それなりのボリュームになったために他の作品の分
cutter
dia 参照)
。
viii)フランク・オズ監督『リトル・ショップ・オブ・
析は次稿に譲ることとした。
ホラーズ』
(Little Shop of Horrors, 1
9
8
6)は1
9
6
0年に
ii)
『世にも不思議なアメージング・ストーリー』
(The
つくられた同名のホラー映画(ロジャー・コーマン
Amazing Stories,1
9
8
5)のなかでアニメーション「フ
監督作品)の再映画化。ミュージカル仕立ての映画
ァ ミ リ ー・ド ッ グ」
(The Family Dog,1
9
8
5)を 製
のなかでオードリー(エレン・グリーン)は「どこ
作。そのタイトルとは裏腹に、主人公の犬は家族に
かの郊外(somewhere that’s green)
」の「一戸建て住
理解されず常に虐げられる。こうしたアイロニカル
宅(a tract house)
」で夫と娘、それにペットの核家族
なキャラクター設定だったためか、一般受けせず、
として「『ベター・ホーム・アンド・ガーデン・マガ
―2
7―
2
5
8
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
ジン』に出てきたような」暮らしに憧れる。
るが、それぞれが同じくマイノリティでもあるエド
ワードに対して重要な役割を果たしている。エスメ
ix)ペグとビル(アラン・アーキン)夫妻のボッグス
家で2回のパーティが開かれるが、もう1回のパー
ラルダはエドワードの異質性を郊外の住民たちに主
ティはこれとは対照的である。彼らが開いたクリス
張し、老人はエドワードに同質性を見出す。巡査は
マスパーティにはコミュニティの人びとはやってこ
ない。エドワードがキム の ボ ー イ フ レ ン ド、ジ ム
窮地に陥ったエドワードを救う。
xiii)キム「抱きしめて(Hold me)
」エドワード「でき
(アンソニー・マイケル・ホール)に騙されて、家
ないんだ(I
宅侵入の罪を犯してしまい、エドワードの異質性=
シーンで主人公とヒロインが交わすこの台詞に『シ
怪物性が周囲の人びとに改めて恐怖を呼び起こした
からである。
can’t)
」
ロマンチックで切ないラブ
ザーハンズ』のすべてが要約できるかもしれない。
xiv)もともとのイメージではエドワードが持つのは
x)たとえば、ニューヨーク州とペンシルヴェニア州の
「もっと鋭利な何か」であったらしいが「日常的に
郊外都市3か所のデータ を も と に し て「郊 外 住 宅
よく目にするもの」で「郊外的なもの」ということ
(サバービア)
」の詳細な分析をしている中野雅博の
で「鋏に落ち着いた」とティム・バートンは DVD に
論文でも、8
0年代以降の「多様化」の波を指摘しな
収録されたオーディオ・コメンタリーで語って い
がら、その一方で郊外のコミュニティを構成する人
る。エドワードが人びとに受け入れられるひとつの
種のほとんど が「白 人」
(最 低 で も9
5%以 上)で あ
要因としてそうしたある種の日常性、普遍性もある
り、その数値には長年変化がみられないことを確認
している。
のかもしれない。
xv)その意味ではこの映画はチャールズ・チャップリ
ン『モ ダ ン・タ イ ム ス』
(The
xi)郊外住宅の同質性は売り手である宅地開発業者た
ちの販売戦略にも影響を受けている。戸谷英世 は
Modern
Times,
1
9
3
6)の末裔であるということもできる。
「ライフスタイルが類似している世帯が集住すれ
xvi)ペグが初めてお城にやってきたとき、彼女が目に
ば、それに呼応した施設も効率的に建設することが
するマントルピース(なかにはベッドが置かれてい
できた。そのために住宅地開発業者の側でも、ライ
てエドワードが寝床にしている)には新聞や雑誌型
フスタイルごとに特化した住宅地の開発に傾斜する
の切り抜きがあり、それらはお城の外に世界に対す
ようになった」
(戸谷、1
2
2)と指摘する。戦後開発
るエドワードの関心を示しているが、もっとも目立
された郊外型住宅の典型であるシカゴのパークフォ
つ切り抜きのひとつは「生まれながらにして目のな
レストの広告でもそれを確認できる。「あなたは帰属
い少年、手で読む(Boy born without eyes reads with
感を持つことができます。私たちの町に足を踏み入
hands)
」と 読 め る。エ ド ワ ー ド が 人 と し て の 心 を
れるや否や、あなたは気づくでしょう。あなたは温
持ってから、自らの身体の欠落部分に対して自意識
かく受け入れられ、大きなグループに仲間入り で
的で、手に対する興味関心と憧れを持っていたこと
き、孤独な大都会にかわって、友情に溢れた小さな
が窺える。その記事の傍らにはマリアとキリストの
町で生活することができ、あなたなしではすませな
聖母子像の切り抜きもあり、エドワードが決して持
い友人を持つことができ――そしてその人たちと交
つことがなかった「母」への思いも感じさせる。
際を楽しむことができることを」
(大場、1
2
5)
。パー
xvii)
「「手がハサミになっている男の話」をやろうとし
クフォレストの歴史に関してはスミソニアン博物館
た理由」
(柳下、1
3
0−1
3
5)
。池田はのちに『ハサミ
の サ イ ト で も あ る「ア メ リ カ・オ ン・ザ・ム ー ブ
男』
(2
0
0
4)というサイコスリラー映画を豊川悦司、
(“America on the Move”)
」の1
5章が分かりやすい。
麻 生 久 美 子 で 撮 っ て い る。殊 能 将 之 の 同 名 小 説
xii)エスメラルダは「ひとりぼっちのイカレタおばは
(1
9
9
9)の 映 画 化 だ が、モ チ ー フ の 点 で テ ィ ム・
ん(an old lonely loony)
」と好人物のビルにすら言わ
バートンの『シザーハン ズ』を ま っ た く 意 識 し な
れる。『シザーハンズ』では、人種的なマイノリティ
かったといえば嘘になるだろう。池田は上記の小論
としてはアレン巡査(ディック・アンソニー・ウィ
を書いた時期にはすでに『ハサミ男』の脚本にとり
リアムズ)
、属性的なマイノリティとしては引退した
か か っ て い る。『ハ サ ミ 男』の 主 人 公「知 夏」
(麻
老人(スチュアート・ランカスター)が登場してい
生)とエドワードのキャラクターには「自分で自分
―2
8―
小林一博
ティム・バートン試論
を傷つけてしまう」という点で重なる部分がある。
2
5
9
かした存在である。
xviii)ジョイスの目からは、うぶなエドワードは、落
バートンが自ら明らかにするように、確かにこれ
としやすい性的欲望の対象として映る。エスメラル
らの「エドワード像」はエドワードの内実とは大き
ダにとっ て 彼 は「悪 魔(a
demon)
」で あ り「悪 魔
くかけ離れている。エドワードは十代の若者の典型
(satan)の力を持った」忌むべき存在となる。引退
としても性格設定されているが、彼のそうした部分
した老人の目にはエドワードは自分を同じく「ハン
や本質的な善良さや純粋さをきちんと理解するの
ディキャップ」を背負った存在として映る。彼は自
は、映画のなかではボッグス家の女性たち(ペグと
らの脚につけた義足とエドワードの手を同一視す
キム)だけである。キムのボ ー イ フ レ ン ド の 台 詞
る。キムのボーイフレンドにとっては家宅侵入のた
(「この怪物野郎!」
)に集約されるように、郊外の
めの「道具」であり、弟のケヴィンにとっては学校
コミュニティは、結局彼を外見で判断し、最終的に
の授業(“Show and Tell”)でクラスメートにみせびら
「フリーク」の烙印を押し、追放する。
フ
―2
9―
リ
ー
ク
長野大学紀要
第3
0巻第4号 3
1―4
1頁(2
6
1―2
7
1頁)2
0
0
9
社会福祉施設における地域交流に関する研究
A Study of Community Interaction in Social Welfare Institutions
鈴
木
政
史*
Masashi Suzuki
その家族と地域とを分断してしまっている、③今
¿.はじめに
の社会には、障害児・者およびその家族と地域と
社会福祉施設ではその規模、通所型・入所型・
多機能型という施設の形態にかかわらず地域社会
を結びつける仕組みがない」ことを指摘している
(定藤2003:237‐8)。
との関わりを保つため、施設の社会化活動、地域
また、吉本(1987:71、74‐5、149)は共生福
交流活動や共生ケア1)など様々な取り組みが行わ
祉の観点から「しょうがい」を持つ児童教育の孤
れ て い る(東 京 都 社 会 福 祉 協 議 会1980;平 野
立性として「物理的孤立性」と「教育的孤立性」
2005;文 部 省1989;日 本 知 的 障 害 者 福 祉 協 会
をあげている。「物理的孤立性」とは「しょうが
2006:45‐7)。しかし、現在の日本における社会
い」を持つ児童の教育環境が「地理的、空間的
福祉制度では宅老所、宅幼老所や富山型に代表さ
に、一般社会から孤立しているということであ
れる小規模多機能デイサービスなどを除けば、多
る」としており、
「教育的孤立」とは「教育集団
2)
を持
くの社会福祉施設が高齢者、「しょうがい」
としての質の問題」であり、
「しょうがい」を持
つ人、児童などの分野別に利用できる人が限られ
つ児童が幼少期から成人期まで、全寮制の教育機
ており、社会福祉施設の構成員は利用者とその家
関に在籍し、「しょうがい」を持つ児童だけで生
族、職員、ボランティア、地域社会の一部の人な
活しているため、
「しょうがい」を持たない児童
どに限定されている。このため施設外活動、地域
との交流がないことであると定義している。さら
交流活動などを除けば社会福祉施設における日常
に「しょうがい」を持つ児童教育の専門性を、
的な活動・生活の多くは参加者・構成員が限定的
「障害に着目し、障害児を集め、効率よく教育す
な施設内完結型であり、日常的な地域社会との関
るための知識と技術」である「閉ざされた専門
わりが十分に確保されているとはいえない状況で
性」と「障害児である以前に児(子ども)である
ある。
ことに着目し、障害を、らしさ=個性として、一
事実、定藤らは高齢者に対する支援活動はある
般の子どもの中に吸収するための知識と技術」で
程度の 基 盤 が 整 備さ れ て い る と し な が ら も、
ある「開かれた専門性」の2つに分類しており、
「しょうがい」を持つ人が共に生きる活動モデル
前者の「閉ざされた専門性」からは「障害のある
が育たない要因として、「①社会の仕組みが、障
なしにかかわらないふれあいは生まれてこない」
害児・者およびその家族と地域を分断してしまっ
として、「しょうがい」を持つ児童教育が孤立し
ている、②今の社会の意識が、障害児・者および
た環境で行われ専門性を重視するあまり幼少期よ
*社会福祉演習・実習室助手
―3
1―
2
6
2
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
り一般社会から隔離され、他の児童との自然な交
わりが阻害されてきた現状がある。そして、こう
した孤立性は他の社会福祉施設においても同様で
À.社会福祉施設における地域交流と地域
共生
あり、社会福祉施設が「物理的に、地理的に、一
社会福祉施設にはこれまで社会的支援が必要な
般の人々との交流がしにくい環境におかれてい
人を保護の対象として収容し、地域社会から孤立
る」との見解を示している。
させてきたという反省から、地域社会との関係性
こうした状況は、古川(2001:28)が「職員を
を確保し社会福祉施設の孤立・閉鎖性を解消して
除けば、社会から分離された障害者だけから構成
利用者の生活の質を向上するとともに、地域福祉
されている障害者施設という存在は、社会一般か
の充実を図るという命題が課せられているといえ
らかけ離れた存在であった。このような指摘は、
る。この地域社会とのつながりを確保する手法と
児童施設や高齢者施設についてもそのままあては
して用いられているのが社会福祉施設における地
まるであろう」と述べているように、社会的支援
域交流や富山型に代表される小規模多機能デイ
が必要な人が利用する社会福祉施設の生活が高齢
サービスにおける共生ケアである。
者、「し ょ う が い」を 持 つ 人、児 童 等 だ け の グ
社会福祉施設における地域交流は1975年頃から
ループやその家族と一部の支援者だけで営まれて
老人福祉施設とりわけ特別養護老人ホームを中心
おり、地域社会との接点が社会資源の利用・活用
として始まった施設の社会化を契機として発展し
や地域社会との交流活動などに限られていること
ていった(小國1999:102)。東京都社会福祉協議
に起因している。すなわち、多くの社会福祉施設
会が設置した「施設と地域問題研究委員会」の昭
の構造が施設内完結型であり、地域から隔離され
和49年度問題別委員会報告(東京都社会福祉協議
た状況に置かれ、社会福祉施設を利用する社会的
会1980:3)では、施設の社会化を「施設を地域
支援が必要な人が地域の一員として共に生活する
の多様な生活機能の一部として位置付け、利用者
ことができる共生システムが確立されていないと
の処遇向上をはかり、地域住民の福祉をたかめる
いうことである。
ために、施設と地域の関連を深めていくこと」と
Bengt(=2004:25‐8)が提唱したノーマライ
定義しており、施設の社会化における具体的実践
ゼーションの原理では人生観や生活の社会化は、
事例を、①広報活動、②場・器材の提供、③ボラ
隔離された社会からではなく、できるだけノーマ
ンティアの受け入れ、④後援会・利用者団体の活
ルな社会の人々との接触を通じて得られるべきで
動、⑤地域交流事業、⑥教育啓発活動、⑦相談助
あり、医療機関や教育機関、社会福祉施設を孤立
言指導、⑧専門機能の提供、⑨福祉運動提唱等で
した場所に設置してはならないと定義している。
あるとしている。そして、社会福祉施設における
つまり、社会福祉施設が地域社会から孤立した状
地域交流は施設の社会化の一端としておこなわれ
態にあり、社会福祉施設に関わる人が、高齢者、
ており、その代表的な事例3)は地域住民への講習
児童、「しょうがい」を持つ人とその家族、職員
会・学習会・講座・教室、イベント(施設祭、映
・ボランティアなど、一部の関係者だけで構成さ
画会、スポーツ大会、バザー等)
、施設開放・公
れ、地域社会から隔離されている状態はノーマル
開、広報誌による広報活動、ボランティアの受け
ではなく、今後の社会福祉施設における地域社会
入れ、利用者・職員の地域活動への参加などであ
との関わりは地域住民を含めた多様な人と共に活
る。つまり、社会福祉施設における地域交流とは
動・生活するという視点が不可欠である。
「社会福祉施設の利用者、職員、関係者と地域の
そこで、本研究では、社会福祉施設における地
様々な施設・機関とそれに関わる人、地域社会、
域交流・共生の課題に対処するために、社会福祉
地域住民などが日常的・非日常的に関わりを持
施設における地域との関わりの現状を把握すると
ち、地域交流活動を通じて社会福祉施設の構成
ともに課題を考察し、社会福祉施設と地域社会が
員、地域住民の双方が地域社会、地域活動、施設
共に歩むことができる地域共生モデルを提示した
活動等に参加すること」であるといえる。この社
い。
会福祉施設における地域交流には社会福祉施設が
―3
2―
鈴木政史
社会福祉施設における地域交流に関する研究
2
6
3
日常的・非日常的に地域社会と関わりを保つこと
おける地域交流が必ずしも有効に機能しているわ
で、社会的支援が必要な人の経験拡大や社会性の
けではない。また、宅幼老所、富山型小規模多機
向上、地域生活の豊かさ・質の向上、地域住民の
能デイサービス等の共生ケアではサービス利用の
理解の促進等の効果が期待できる。
対象者を限定していないが、社会的支援が必要な
これに対して、地域共生とは宅幼老所、富山型
人以外に社会福祉施設に関わる人は交流・ボラン
小規模多機能デイサービス等の小規模社会福祉施
ティアによる地域住民であり、社会福祉施設の構
設における共生ケアに代 表 さ れ る よ う に、
「年
成員以外の人との共生は実現されていない。
齢、性別、社会的支援の有無等に関わらず、地域
このように社会福祉施設における地域社会との
社会の様々な人が双方向的な関わりを日常的に保
交流・共生に関する取り組みの多くは社会的支援
ちながら共に活動・生活すること」であるといえ
が必要な人、家族、職員、ボランティア等の関係
る。また、地域共生では社会福祉施設で行われて
者だけでおこなわれ、社会福祉施設に関わる地域
いる余暇活動・文化活動・作業活動などの日中活
住民は一部の人に限定されており、社会福祉施設
動と地域社会で行われているサークル・クラブな
の構成員の多様性が確保されていない。つまり、
どの諸活動における協働、住居型施設の地域移行
現状では社会福祉施設において地域社会との日常
に代表される隣接住居による包括的コミュニティ
的な関わりが十分に保たれている状況には至って
の形成(河東田・孫・杉田ほか2002:41‐2)に
おらず、従来型の地域交流、共生ケアでは地域社
よって、社会的支援が必要な人と地域の多様な
会における地域共生モデルの実現は困難である。
人々が日常的かつ双方向的に協働・共生すること
以下、社会福祉施設における実際の地域交流の
が必須である。
取り組みを検証し、地域交流モデルから地域共生
これまでの社会福祉施設は貧困や自立、生命の
モデルへの転換を必要としながらも地域共生の仕
維持などの生活全般を支援するという歴史的役割
組みが育たない要因を探りたい。
や社会福祉施設が生活困窮者や児童、高齢者、心
Á.社会福祉施設における地域交流の実践
身に「しょうがい」のある人への支援など分野別
に制度が整備され、その分野別・機能別施設整備
1.「青葉園」の実践4)
過程において専門支援が発展した背景から社会福
身体に重い「しょうがい」を持つ人が利用する
祉施設の構成員が限定されてきた。しかし、ノー
通所施設「青葉園」では施設を拠点とした日中活
マライゼーションの理念の普及、発展により、こ
動と並行して「地域で生きる通所者一人ひとりを
れまでの施設収容主義から社会的支援が必要な人
地域のみんなで支えていく(清水・寺谷・桑村
と地域住民が共生可能な地域生活環境を構築し、
1993:66)」という視点から、地域住民や各関係
社会福祉施設、社会的支援が必要な人と地域社
団体と連携しながら重い「しょうがい」を持つ人
会、地域住民が日常的かつ双方向的で自然な関わ
が地域生活の主体者として豊かな生活を送ること
りを確 保 す る こ と が 求 め ら れ て お り(小 笠 原
ができるように「地域社会参加活動」を実施して
1999:4‐14)、この地域共生では前述の地域交流
地域社会との交流を図っている(図1)。
における効果に加えて、社会的支援が必要な人の
青葉園における「地域社会参加活動」とは「通
社会的排除や社会福祉施設の孤立性(地域社会内
所者一人ひとりが地域の生活主体者として受け止
孤立)等を解消することが可能である。
め支えられるよう地域へ出向いて行き、社協活動
しかしながら、現状では社会福祉施設における
と連携・連動していこうとする活動(清水・寺谷
地域交流の多くが社会福祉施設単独開催のイベン
・桑村1993:67)」であり、地域と連携できる拠
ト・活動、施設の利用者・職員・関係者による地
点を確立するために、地域の人が集う公民館を利
域社会資源の単独利用や社会福祉施設内における
用した「重度障害者のつどい」や重い「しょうが
喫茶・販売スペースの設置、特定のボランティア
い」を持つ人への理解促進のためのパネル展、交
や実習生との交流など、社会福祉施設主体で対象
流会・学習会の開催、機関誌の発行、施設一日体
者が限定された地域交流であり、社会福祉施設に
験、市民文化祭・地区運動会への参加などを行っ
―3
3―
2
6
4
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
職員が仲介する)
、③地区社協の障害者問題につ
いての学集会などに職員あるいは通所者・親を派
遣し、課題提供をする、④地区役員などが青葉園
で一日通所者と活動を共にし、懇談する『あおば
実践福祉講座(1日体験)』の実施、⑤園通所者
・親・地域の方々・関係者そして研究者が一同に
会して共に重度障害者の地域での生活を考える
『あおば地域福祉講座(西宮がすきやねん)
』の
出典
開催、⑥青葉園での生活の様子や園通所者の地域
清水・寺谷・桑村(1
9
9
3:6
7)
図1
生活の問題点などを伝える機関誌『はじめの一
青葉園における地域交流事業
歩』を地区役員を通じて地域へ配布」といった取
ている。「地域社会参加活動」では地域社会資源
り組みが行われている(清水・寺谷・桑村1993:
の利用、施設行事の開催、地区行事への参加など
68)。このような地区社会福祉協議会の活動は、
を通じて地域住民との自然な交流を図ることが可
「①重度障害者の生活を知り、問題・課題等を理
能であり、これらの地域交流活動によって地域住
解する、②重度障害者を地域の一員として地域の
民の受容的・支持的態度を形成し、地域住民に重
諸活動や日常の中に受け入れ具体的に何ができる
い「しょうがい」を持つ人の日常的な生活問題の
のかを明らかにしてく、③地域で重度障害者がい
理解を促進することを目指すものである。その効
きいきと豊に暮らしていくための問題・課題を共
果として、「通所者自身の地域への参加活動を推
に明らかにし、その課題解決に向けて行動し、作
進していくことが通所者自身の生活圏を広げ、生
り出していく」という段階を経て地域交流活動が
活の質そのものを高めていき、また通所者自身が
展開されている(清水・寺谷・桑村1993:68)。
抱えている問題・状況を地域の人々が理解し、地
なお、現在は重い「しょうがい」を持つ人の地
域の一員として、地域の課題として受け止め、引
域生活における課題が西宮市社会福祉協議会の
き受けていくことにつながる」としている(清水
「障害者福祉委員会」(2001年の組 織 改 革 で 解
・寺谷・桑村1993:68)。
散)で議論され、委員による施設見学や研修会を
この青葉園の「地域社会参加活動」における特
実施すると共に、各支部・分区の役員を中心とし
徴としては、施設外活動の拠点として地域の公民
た施設利用者宅への家庭訪問や「しょうがい」を
館を利用した「重度障害者のつどい」である。
持つ人の地域行事(地区運動会や盆踊り等)への
「重度障害者のつどい」とは公民館の近隣に居住
参加支援が進められている。こうした実践が「障
する施設利用者、家族、ボランティア、施設職員
害者福祉委員会」で報告されることで地域社会参
が集まり、リハビリテーションや外出、外食、レ
画プログラム(地域社会参加活動)は市全体へと
クリエーションなどを行う地域交流活動である。
広がっており、施設見学だけでなく、「一日体
この「重度障害者のつどい」では施設利用者自身
験」への参加が促進され、地域内に居住する施設
の住む地域で地域交流活動を実施することで地域
利用者、保護者と地域住民との地区懇談会、学習
住民との自然な関係が形成されやすく、公民館で
会、交流会を開催する地域や、施設利用者と地域
活動する他のサークルの人などがボランティアと
住民が協働でサークルを組織し共に活動するな
して参加するなど地域住民との関わりが保たれて
ど、多様な地域社会参画プログラム(地域社会参
いる。
加活動)が実施されており、社会福祉協議会役員
また、青葉園では地区社会福祉協議会と連携
をはじめ多くの地域住民と施設利用者との関わり
し、「①地区社協からの園見学の受入れと見学時
は広が り を み せ て い る(西 宮 社 会 福 祉 協 議 会
におけるスライド等による説明会、②地区役員に
2008)。
よる地区内園通所者家庭への訪問活動等を推進す
るコーディネート(地区役員と通所者家庭との園
―3
4―
鈴木政史
社会福祉施設における地域交流に関する研究
2.富山型小規模多機能デイサービス
2
6
5
模施設を小・中学校区に設置し、対象者を限定せ
富山型小規模多機能デイサービスとは、高齢
ず様々な人が社会福祉施設を利用することで、地
者、「しょうがい」を持つ人、児童を対象とした
域社会との日常的で自然な関わりを保つことを可
日中及び、夜間の介護、介助、保護、機能訓練、
能にしている。しかしながら、公民館や地域の社
余暇活動などのサービスを提供する定員10から20
会資源等の利用による地域交流では、双方向的な
名程度の小規模施設である。特筆すべきはサービ
関わりを常に保つことは困難であり、社会福祉施
スの対象者を限定しておらず、要支援者等も受け
設や他施設・機関、団体との合同イベントによる
入れている点であり、富山県、富山市及び滑川市
地域交流では、交流の継続性を維持することが困
及び砺波市並びに富山県上新川郡大山町及び東砺
難であるという側面がある。一方で、富山型小規
波郡福野町による富山型デイサービス推進特区の
模多機能デイサービスでは幼児、児童、
「しょう
「構造改革特別区域計画」によると富山型デイ
がい」を持つ人、高齢者へのサービスとして「交
サービスには、「①住み慣れた地域でサービスを
流・預かり」を提供し、地域住民が「交流・ボラ
受けることが可能になる、②高齢者、障害者、障
ンティア」として社会福祉施設に関わることで、
害児が同一の空間でより家庭的なサービスを受け
社会的支援が必要なサービス利用者間による共生
ることが可能になる、③指定通所介護事業所等の
と、社会福祉施設に関わる一部の地域住民とのつ
利用率向上につながり、効率的で質の高いサービ
ながりが確保されている(図2)。しかし、社会
スの提供が可能となる、④NPO 等の事業者の参
福祉施設の主体者は利用者とその家族、職員等で
入の拡大が図られ、地域の福祉ビジネスの創出に
あり、多様な人との日常的な共生は実現されてい
つながる。」といった効果があるとしている(富
ない5)。すでに述べてきたとおり、限られた地域
山県2005:2)。
住民との交流、社会的支援が必要な人に限定され
また、「富山型小規模多機能デイサービスにつ
たサービス提供では社会的排除や孤立のない共生
いて(図2)」で示されているとおり、地域社会
社会の実現は極めて困難である。
との関わりが保たれる要因として、①社会福祉施
Â.社会福祉施設における地域交流の課題
設を利用者の身近な地域である小・中学校区にデ
イサービス施設を設置している、②サービスの対
社会福祉施設は当初、未分化な救済施設である
象者に高齢者、児童、「しょうがい」を持つ人だ
混合収容型であったが、1869年以降に孤児院、知
けでなく、要支援者も含めている、③空き家・空
的に「しょうがい」を持つ人の総合施設、家庭学
き店舗等を利用し、地域社会の中に社会福祉施設
校や保育施設が創設され、1929年の救護法制定に
を設置しているといった点が挙げられる。この富
よって分類収容型へと転換してきた。その後、社
山型小規模多機能デイサービスではこれまで分野
会福祉関係法が整備され社会福祉施設体系が形成
別に分断されていた各施設を統合し、地域住民が
されたことによって、社会福祉施設の専門分化に
交流、ボランティアとして参加することで、高齢
より細分化された。1970年代には高齢化社会の到
者、児 童、
「しょう が い」を 持 つ 人 と の 共 生 と
来と都市部への人口集中や核家族化によって社会
サービスの対象者と地域住民との日常的で自然な
福祉施設が不足したことから「社会福祉施設緊急
関わりが確保されている。
整備5ヵ年計画」が策定され、これまでの1法人
このように社会福祉施設では地域社会との関わ
1施設から1法人多施設あるいは1法人多事業化
りを確保するために様々な地域交流や共生ケアな
と1984年の身体障害者福祉法の改正によって社会
どの取り組みが行われている。青葉園における公
福祉施設の総合化が推進された。そして、1970年
民館を利用した地域交流活動や小学校との合同運
代以降の施設の社会化、施設機能の地域開放、居
動会の開催は、地域住民への「しょうがい」を持
住型施設の収容の場から生活の場への転換、グ
つ人に対する理解を深め、地域社会とのつながり
ループホームの創設や小規模多機能施設の設置と
を確保している。また、富山型小規模多機能デイ
いった施設の地域化へと段階を経て変革してき
サービスでは、民家・空き店舗等を利用した小規
た。現在は専門分化、総合化、社会化、地域化が
―3
5―
2
6
6
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
伊藤(2
0
0
5:1
9
4)より抜粋
図2
富山型小規模多機能デイサービスについて
―3
6―
鈴木政史
社会福祉施設における地域交流に関する研究
2
6
7
同時進行しており、社会福祉施設が本格的に地域
員、ボランティア、一部の地域住民等に限られて
化するのには時間がかかると考えられている(小
いた。このため社会福祉施設における地域交流の
國1999:101‐3)。
多くが内部の関係者と一部の地域住民だけでおこ
このように分野別・専門機能別に発展し地域社
なわれ、
「地域社会との関係性を確保する」とい
会から隔離され孤立していた社会福祉施設ではそ
う地域交流の本来の役割が有効に機能していない
の施設収容主義への反省から社会福祉施設との関
状態であった。こうした地域交流の課題に対処し
係性が重要視され、1
970年代以降、施設の社会
社会福祉施設と地域社会との自然な関係性を確保
化、地域交流活動、共生ケアなどを実践すること
するためには、社会福祉施設を地域社会に組み込
によって地域社会との関係性を確保し、社会福祉
み地域の多様な人と日常的かつ双方向的な関係性
施設、社会的支援が必要な人を地域社会の中に組
を維持することができる社会福祉施設構造が必要
み込み、包み支えあう社会の実現を目指して社会
であり、社会福祉施設における日中活動・余暇活
福祉施設運営が展開されてきた。こうした社会福
動、居住機能、就労機能等を地域社会に組み込
祉施設における取り組みは社会的支援が必要な人
み、日常的な活動・生活レベルで共に歩むことが
の生活の質の向上、地域生活の充実ひいては地域
できる共生社会の実現が不可欠である。
福祉の発展、共助コミュニティの形成に寄与して
Ã.地域共生モデルの検証
きた。しかし、社会福祉施設における地域交流、
社会的支援が必要な人と一部の地域住民に限定さ
社会福祉施設が地域社会との共生を実現するた
れた共生は、地域社会と「関わり(つながり)を
めには、社会福祉施設が地域社会の一部となるよ
保つ機能」であり、地域社会と「日常的かつ双方
うに整備し、社会的支援が必要な人が地域住民の
向的な関わり(つながり)を保つ機能」は有して
一員となることが求められる。そのためには高齢
はいない。勿論、社会福祉施設と地域住民との直
者、児童、「しょうがい」を持つ人などに分離さ
接的な交流や社会的支援が必要な人が同一施設で
れた既存の社会福祉施設を地域社会に組み込み、
サービスを利用し、一部ではあるが地域住民が社
多様な人が参加できる「地域共生モデル」を構築
会福祉施設に関わることは社会福祉施設の利用者
することが有効である(図3)。
への理解の促進、地域住民との関係性の確保、社
地域共生モデルの概念は「社会福祉施設を地域
会福祉施設の閉鎖性・孤立の解消などに一定の効
社会に組み込み、社会福祉施設における活動およ
果が期待できる。しかしながら、社会的支援が必
び地域社会における活動を多様な人が参加できる
要な人や一部の地域住民に限定された地域交流で
形態へと転換し、地域社会の誰もが共生可能な地
は、地域社会との関わりを維持するのに限界があ
域環境を構築すること」である。この地域共生モ
るのも否めない。すなわち、社会福祉施設におけ
デルを実現するためには社会福祉施設の構成員が
る地域交流には、①社会福祉施設の利用者は社会
サービスの利用者とその家族、職員、関係者等に
的支援が必要な人に限定されている、②社会福祉
限定されるのではなく、地域住民が参加して協働
施設に関わる人が利用者とその家族、職員、ボラ
できる社会福祉施設構造・活動を構築・設定する
ンティア、一部の地域住民等に限定されている、
と共に、住居等においても共生できる仕組みや、
③社会福祉施設における地域交流の多くは社会的
居住型(入所型)社会福祉施設も地域社会に組み
支援が必要な人と社会福祉施設の関係者、一部の
込む必要がある。そのためには共生ケアにおけ
地域住民だけで行われており、構成員の多様性が
る、「高齢者、子ども、障害者という対象上の制
十分に確保されていないといった課題が厳存して
約を与えることなく(平野2
005:14)」という社
いる。
会的支援が必要な人と一部の地域住民に限られた
これまで社会的支援が必要な人が分野別に分断
され、社会福祉施設が地域社会から隔離されてき
社会福祉施設の相互利用だけでなく、遍く地域住
民を共生の対象に含めなければならない。
たことによって、そこに関わる人も必然的に分野
この地域共生モデルに必要な要素は、①社会福
別の社会的支援が必要な人とその家族、施設の職
祉施設における諸活動、地域で活動するサークル
―3
7―
2
6
8
長野大学紀要
図3
第3
0巻第4号 2
0
0
9
地域共生モデル
・クラブ等の活動、学校の授業を、高齢者、児
社会的排除・孤立を解消できる、③日常的・双方
童、「しょうがい」を持つ人、地域住民など多様
向的な関わりや、幼少期からの関わりは社会的支
な人が参加可能な形態へと転換する、②これまで
援が必要な人への理解を深め、差別・偏見等の解
地域社会から隔離された状態で活動・生活してい
消が可能となる、④これまで分野別に分断されて
た人が地域社会に参加し共生する、③社会福祉施
いた家族、職員、関係者、実習生、ボランティ
設を公共施設、商用施設等の社会資源が混在する
ア、地域住民等が共生することで社会福祉施設の
地域社会の中に設置し、多様な人が参加・共生可
関係者の多様性が確保されるといった点が挙げら
能な地域環境を構築することである。また、この
れる。
地域共生モデルの効果として、①多様な人との日
地域共生モデルの効果では、
「地域社会との日
常的・双方向的な関わりが確保できる、②社会福
常的・双方向的な関わり」によるノーマライゼー
祉施設の孤立・閉鎖性、社会的支援が必要な人の
ションの理念の具現化、
(Bengt=2004:25‐8)、
―3
8―
鈴木政史
社会福祉施設における地域交流に関する研究
2
6
9
「社会的排除・孤立の解消」によるソーシャル・
取り組みが、社会福祉施設単独で行う活動や、広
インクルージョンの理念の具現化が期待できる。
報誌の作成・配布といった情報提供、ボランティ
また、日常的・双方向的な関わりや幼少期からの
ア・実習生の受け入れなど、交流の構成員・対象
関わりを保ちながら地域住民と共に過ごすこと
者が限定された地域交流であれば、地域社会との
は、地域住民に内在する社会的支援が必要な人に
関わりを確保するのは困難であり、社会福祉施設
対する意識・感情等に変化を及ぼし、社会的支援
を利用する社会的支援が必要な人の生活の質の向
が必要な人とのあたりまえの生活という概念を定
上、地域社会・住民との関係性の広がりは望めな
着させ、社会的支援が必要な人に対する「差別・
い。また、地域社会との共生を目的とした富山型
偏見の解消」を促進する。加えて、
「多様性の確
小規模多機能デイサービスは、サービスの対象者
保、関係性の広がり」は、これまで社会福祉施設
に高齢者、
「しょうがい」を持つ人、子どもに加
の利用者のみならず、その家族、職員、関係者等
え要支援者を含め、交流・ボランティアを通じて
も当然のように地域社会から隔離され、関わる人
地域住民が社会福祉施設を支え合う仕組みになっ
・場所が限定されてきた人達が地域社会の様々な
ているが、富山型小規模多機能デイサービスでは
人と関わることで、社会的支援が必要な人だけで
サービス利用の対象者は社会的支援が必要な人に
なく、地域の多様な人が共生できる地域社会の構
限定されており、地域住民が関わることがあって
築が実現可能となる。
も、地域の多様な人が参加・共生できる社会福祉
このように社会福祉施設で行われている文化活
施設構造は構築されていないといえる。このた
動や余暇活動、地域で開催されるカルチャース
め、社会福祉施設が地域社会の中に設置されてい
クール・講座などの様々なグループ活動、教育機
ても社会的支援が必要な人だけが地域社会から隔
関の授業・活動等において、地域社会の多様な人
離されるという地域社会内孤立が惹起される可能
が協働する、社会的支援が必要な人と地域住民が
性があり、現状の社会福祉施設構造では地域社会
共生可能な居住環境を整備するなど、
「地域共生
との継続的な相互関係を築くのは困難である。
モデル」を基盤とした地域社会の構築によって社
これまで社会福祉施設は地域社会から掛離れた
会的支援が必要な人と地域住民との日常的な関わ
非日常的な存在として社会的に孤立してきた。今
りが、幼少期から日常的におこなわれることで、
日では施設収容主義の反省から、施設の社会化や
地域社会の多様性が確保され社会的支援が必要な
地域移行(脱施設化)
、ソーシャル・インクルー
人に対する差別・偏見等が軽減されるだけでな
ジョンなど、社会福祉施設と地域をつなぐ様々な
く、重い「しょうがい」を持つ人や認知症の高齢
手法・政策・理念が導入されている。しかし、現
者などを含め地域社会で様々な人を包み込んで支
在の社会福祉施設の現状を鑑みれば施設の社会化
えていくことが可能になるのである。
や地域移行(脱施設化)
、共生ケアが必ずしも有
効に機能しているわけではなく、
「全ての人々を
Ä.おわりに
孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化
施設の社会化から始まった社会福祉施設におけ
的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員と
る地域交流は創意工夫が重ねられ、公民館を拠点
して包み支え合うための社会福祉(厚生省2000:
とした日常的な小規模地域活動、多様な地域交流
6)」というソーシャル・インクルージョンの理
活動、他施設・機関との合同活動など地域社会と
念はいまだ実現されていないといえる。今後の社
の関わりを保つために様々な取組みが行われてい
会福祉施設は地域社会との共生を通して日常的な
る。また、ノーマライゼーションや地域福祉の観
関わりを確保すると共に、社会的支援が必要な人
点から普及した富山型小規模多機能デイサービス
への差別・偏見を解消し、ひいては社会福祉施設
における共生ケアは、共に歩む共生福祉の理念を
の孤立や排除といった課題の解決につなげていか
実現し、社会的支援が必要な人の地域生活の質の
なければならない。そのためにはこれまでの社会
向上を実現している。
福祉施設における地域交流から地域共生へとパラ
しかしながら、こうした地域交流や共生ケアの
ダイムシフトし、誰もが共に歩むことができる、
―3
9―
2
7
0
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
他
共生社会の実現が喫緊の課題である。
訳編
『新訂版
ノーマライゼーションの原理−普遍化と
社会変革を求めて』
注
1)平野は共生ケアを「①地域のなかで当たり前に暮
現代書館)
Edwin Jones, Jonathan Perry and Kathy Lowe, et al(1
9
9
6)
らすための小規模な居場所を提供し、②利用の求め
Active Support-A Handbook for Planning Daily Activities
に対しては高齢者、子ども、障害者という対象上の
and Support Arrangements for People with learning Disabilities.(=2
0
0
3,中 野 敏 子
制約を与えることなく、その場で展開される多様な
人間関係を、共に生きるという新たなコミュニティ
クティブサポート−』
と し て 形 づ く る 営 み」で あ る と し て い る(平 野
相川書房)
河東田博・孫良・杉田穏子
2
0
0
5:1
4)
。
現状』
イメージがあり、諸外国では Handicapped(社会的不
社会福祉のあり方に関する検討会」報告書
定藤丈弘・佐藤久夫・武田裕子(2
0
0
3)
「障害者福祉実
践の課題と展望」
や「挑戦する人」といった表現も障害者を適切にあ
編
らわしているとは言い難い。そこで、本研究では法
律の条文や制度などの名称以外は仮に障害を「しょ
現代書館
厚生省(2
0
0
0)
『「社会的な援護を要する人々に対する
ら 新 た な 用 語 と し て Challenged Person(挑 戦 す る
人)などへと変容しているが、「ハンディを持つ人」
ほか(2
0
0
2)
『ヨーロッパ
における施設解体−スウェーデン・英・独と日本の
2)
「障害」という用語は「障」
、「害」ともに否定的な
利・ハンディキャップ)
、Disabled(障害者)などか
監 訳・編『参 加 か ら
始める知的障害のある人の暮らし−支援を高めるア
定藤丈弘・佐藤久夫・北野誠一
『現代の社会福祉[改訂版]
』
有斐閣
清水明彦・寺谷富和・桑村忠延(1
9
9
3)
「重い障害の人
たちの地域での豊かな暮らしをめざして−西宮社会
うがい」
、障害者を「しょうがい」を持つ人と表記す
福祉協議会・『青葉園』の実践−」
『地域福祉活動研
る。なお、今後、こうした表現は変更される可能性
‐76
究』
(兵庫県社会福祉協議会)1
0、6
5
があるため、括弧付けで表記する。
3)社会福祉施設における地域交流の実践事例に関し
清水明彦(1
9
9
7)
「重い障害のある人の地域での生活の
確立に向けて−西宮市「青葉園」の活動報告−」
ては、東京都社会福祉協議会(1
9
8
0)
、日本知的障害
厚生省大臣官房障害保健福祉部障害福祉課監修『地
者福祉協会(2
0
0
6)
、文部省(1
9
8
9)を参照した。
域で暮らす−精神薄弱者の地域生活援助』中央法規
4)青葉園の実践に関しては、清水明彦・寺谷富和・
‐76)、定 藤 丈 弘(1993:290‐
桑 村 忠 延(1
9
9
3:6
4
社会福祉法人
東京都社会福祉協議会(1
9
8
0)
「福祉施
設の社会化活動報告−社会化とは・活動事例・社会
3
0
6)および西宮市社会福祉協議会(2
0
0
8)を参照し
化現況調査報告」
た。
5)中小企業診断協会
富山県支部(2
0
0
5)は、富山
社団法人
成1
6年度
型デイサービスの課題として、地域社会福祉協議会
富山県支部(2
0
0
5)
『平
マスターセンター補助事業
富山型デイ
サービス実態調査報告書』
やボランティア団体、商店街や近隣住民との連携が
田中栄治(1
9
9
6)
『地域連携の技法−地域連携軸と社会
やや不十分であると指摘している。
実験』
今井書店
富山県、富山市、滑川市及び砺波市並びに富山県上新
参考文献
小笠原祐次(1
9
9
9)
「序章
英夫
編
⑦』
2
1
有斐閣,1‐
『社 会 福 祉 施 設
小國英夫(1
9
9
9)
「第3章
主体」小笠原祐次
川郡大山町及び東砺波郡福野町(2
0
0
5)
『富山型デイ
社会福祉施設の体系・制度
の再編と今日の課題」小笠原祐次
会福祉施設
中小企業診断協会
福島一雄・小國
これからの社会福祉
社会福祉施設の経営と経営
福島一雄
小國英夫
これからの社会福祉⑦』
編
『社
Bengt Nirje(1
9
6
7,1
9
6
9,1
9
7
0,1
9
7
1,1
9
7
2,1
9
7
6,1
9
8
0,
1
9
8
2,1
9
8
5,1
9
9
3,1
9
9
8)The normalization principle
橋本由紀子
構造改革特別区域計画』
西宮市社会福祉協議会(2
0
0
8)
「社会参画プログラム
(地 域 社 会 参 加 活 動)に つ い て」
(http : //www.n−
shakyo.jp/aoba/aoba0
3.
html#5,2
0
0
8.
4.
3
0)
平野隆之(2
0
0
5)
『共生ケアの営みと支援
のゆびとーまれ」調査から』
‐
有斐閣,9
5
1
2
0
papers.(=2
0
0
4,河東田博
サービス推進特区
富山型「こ
全国コミュニティラ
イフサポートセンター(CLC)
古川孝順(2
0
0
1)
『社会福祉の運営』
有斐閣
古山周太郎・土肥真人(2
0
0
0)
「精神障害者グループ
杉田穏子
―4
0―
ホームの地域交流の実態に関する研究」
『第3
5回日本
都市計画学会学術件研究論文集』
(日本都市計画学
鈴木政史
社会福祉施設における地域交流に関する研究
tion.(=1
9
9
6,中園康夫・清水貞夫
会)3
5(6)
、3
1
‐
3
6
編訳『ノーマ
リゼーシ ョ ン−社 会 福 祉 サ ー ビ ス の 本 質』
文部省(1
9
8
9)
「心身障害児と地域社会の人々との交
流」
2
7
1
学苑
社)
大蔵省印刷局
Wolf Wolfensberger(1
9
8
1)The principle of Normalization
吉本充賜(1
9
8
7)
『共生福祉論−障害者・保育・施設・
in human Services National Institute on Mental Retarda-
―4
1―
医療』
ミネルヴァ書房
長野大学紀要
第3
0巻第4号 4
3―5
0頁(2
7
3―2
8
0頁)2
0
0
9
生命倫理学から安全・安心の議論をつくる試み
An Attempt to Discuss Our Security and Feelings of Safety
from the Viewpoint of Bioethics
徳
永
哲
也*
Tetsuya TOKUNAGA
できた。テーマがタイムリーだったのと、私自身
1.はじめに
が幸いにも人脈に恵まれて興味深い問題提起をし
「安全・安心」という問題は倫理学のテーマに
なりうるだろうか。「戦争と平和」「テロリズムと
てくれるゲスト講師を揃えることができたことが
成功の要因だったと言える。
貧富差」といった話題なら政治学や国際関係論の
本論文では、この講座の構想・実行過程を紹介
テーマになるだろうし、「環境リスク」や「食の
しつつ、生命倫理学者として「いのちの論議」を
安全」なら環境学や農学のテーマになるだろう。
どうつくれたか、どのような課題が見えてきたか
「老後の安心」や「健康と保険制度」なら厚生経
を報告する。
済学や社会福祉学のテーマになるだろう。倫理
学、特に生命倫理学が「安全・安心」の議論をど
う射程に入れるかは、私にとってここ数年の関心
2.
「いのちを考える」講座から「安全・安
心」をキーワードとした新構想へ
哲学・倫理学者として私は、従来から哲学史の
事であった。
そんな折、2006年日本生命倫理学会第18回年次
ほか生命倫理や環境倫理を研究し講義にも反映し
大会の全体シンポジウムは「戦争・テロは生命倫
てきた。学生相手の講義のみならず市民講座や高
理の課題か」というテーマを掲げた。生命倫理学
校生向け授業でも、いのちのあり方と共同体倫理
者一般にとっても、「戦争・テロ」を議論の対象
をテーマとすることは多かったが、近年は特に、
とする時代になったのである。私はこのシンポジ
いのちを守り育てる土台としての「安全・安心」
ウムで特定質問者を依頼され、4名のシンポジス
をからめた議論を求められるようになった。
トの提題に対して、優生思想史などの観点から1
その背景には、国際的には2001年9月以降のテ
問ずつ質問した。
「戦争と生命倫理」というテー
ロリズムをめぐる恐怖があり、国内的には小学校
マに沿った議論形成に、多少なりとも貢献できた
への凶器所持乱入事件を代表例とする「犯罪社会
ようである。
化」への不安、さらには社会保障制度への不信や
こうしたテーマを私自身の教育と研究の課題と
医療崩壊への懸念がある。そこで私が問題と感ず
考えてあたためてきた企画が、長野大学2007年度
るのは、何かにつけて「治安・管理」が目 ざ さ
総合科目「安全・安心を問いなおす」である。
れ、「予防」が強迫観念のように要求されるとい
2007年度後期の地域開放講座として実施に至り、
う風潮である。アメリカの対テロリスト軍事行動
学生のみならず多くの地域民の聴講も得ることが
に対しては、まだ批判の目があるが、日常での
*環境ツーリズム学部教授
―4
3―
2
7
4
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
「不審者」監視だとか「心の闇」への心理カウン
セリングだとか、さらには高齢者の「介護予防ト
レーニング」といった政策に対しては、無批判に
3.過去に手掛けた地域開放講座と地域事
情
受け入れてしまいかねない時流が出てきている。
長野大学では、この「総合科目」という名称の
そこを私は問題視し、
「予防」思想が強者の論理
地域開放講座が1990年度ごろから存在していた。
で推進されやすいこと、困難を受け入れつつ解き
毎年、「国際化」や「情報」といったおおまかな
ほぐすのではなく「異分子」切り捨てになりかね
テーマを決めて2〜3名の学内教員が企画チーム
ないことを、今回も改めて訴えたいと考えた。
を組み、学内教員プラス外部講師で1人1〜2回
「倫」「理」とは「人間集団」の「筋道」で あ
のリレー講義を行うという伝統になっていた。私
るが、変化のスピードが緩やかで地域地域が閉ざ
が着任したのは1999年度であるが、先輩教員から
されていた時代には、格差や不平等があってもメ
すぐに2
000年度講座の企画立案を相談された。
スが入ることは少なかったし、異分子は発生しに
「生と死」をテーマとした1年通しの講座を漠然
くく、発生しても「村の掟」で目立たずに処理さ
と思い描いていたが、自分1人では具合的なメニ
れた。今は異文化理解が当たり前のように叫ば
ューが作れないので、生命倫理学者が来てくれた
れ、良くも悪くも「内向きの議論」だけでは事態
のなら一緒に考えてほしい、とのことだった。外
を解決できない時代である。哲学(哲学者)が、
部からの講師を私の裁量で増やしてもよいとの条
その中でも実践哲学・社会哲学に焦点を当てる倫
件で引き受け、現実には私が主に考えるプランづ
理学(倫理学者)が、この時代に果たしうる役割
くりとなった。全体のストーリー構想、講師との
があるとすれば、一方向に流れがちな世相に別の
交渉などに手間はかかったが、こちらの発案をほ
観点を与え、「倫」としての共同性を考え直す手
ぼ受け入れてもらえるという点では、やり甲斐の
掛かりを提供することではないか。この時代潮流
ある作業であった。
の中で、こうした視点から、哲学者とくに生命倫
こうして2
000年度には「いま、生と死を 考 え
理学者として何をすべきかと改めて考えたとき、
る」という講座を企画運営した。好評を博して続
今回の地域開放講座の立ち上げに思い至ったので
編への期待が地域からあったので、2004年度にも
ある。
「いのちの対話──ふたたび生と死を考える」と
長野大学の地域貢献として、そろそろ次の開放
いう講座を企画運営した。選んだ講師と依頼した
講座案を私が考えてもよい時期にあった。2006年
演題を並べるだけでも企画者の主張を浮き彫りに
生命倫理学会大会シンポにも触発されつつ、
「い
できるので、あえて紙幅を割いてここに一覧表を
のちを考える」講座を「安全・安心」をキーワー
示す。なお、講師の肩書はその当時のものであ
ドに掲げる中で批判的に考察できるゲストとの討
る。
議にしようと、企画立案したのである。
「別の観点を与える」という趣旨からすると、
《2000年度
「いま、生と死を考える」》
ある意味では「時流への反逆者」を意図的に外部
4月13日
ガイダンス
講師として起用することになる。私がリストアッ
4月20日
導入的総論──科学技術・情報化時代
学内講師全員
における生と死の倫理
プした講師陣は、個性が強すぎると見られるので
徳永哲也(本学助教授)
はないかと少し心配したが、幸いにも受け入れら
れ、企画は実現する運びとなった。現実には、総
4月27日
運営まで買って出てくれる教員がいるだけでも歓
5月11日
共生とケア
川本隆史(東北大学教授)
迎するという現状もあったが、とにかく私の目論
みが2007年度カリキュラムに採用されることに
生まれようとする命を選別しないで
佐々木和子(京都ダウン症児を育てる親の会)
合科目を担う教員が最近は減っており、提案して
5月18日
死に方と死に場所
矢嶋嶺(本学教授)
なった。
5月25日
―4
4―
元気な車椅子──障害者となっての後
徳永哲也
半生
生命倫理学から安全・安心の議論をつくる試み
横本勝(同志社高校教諭)
6月1日
5月13日
今の世に生まれ育つことの苦難──医
療にからめとられる生
山田真(小児科医)
6月8日
からだの生と死
6月15日
新たな健康観と地域医療
6月22日
フェミニズムから見た生と死
6月29日
都合のよい死・屈辱による死──安楽
人工生殖医療に投じる一石
根津八紘(諏訪マタニティークリニック院長)
5月20日
操られる私たちのいのちとからだ
中野冬美・佐々木和子
鈴木宏哉(本学教授)
(優生思想を問うネットワーク)
5月27日
池田忠(小川村国保診療所長)
マスコミはいのちの現場をどう伝えた
か
織井優佳(朝日新聞記者)
6月3日
今日の老い、病と死
6月10日
いまどきの子産み、いまどきの子育て
6月17日
現代史の中のいのち──歴史の事実か
古田睦美(本学助教授)
死について
7月6日
植の陥穽
河野伸造(本学教授)
立岩真也(信州大学助教授)
死の科学論・文化論──脳死・臓器移
梅村浄(梅村こども診療所長)
小松美彦(東京水産大学助教授)
7月13日
総括的討論(パネルディスカッショ
ン)
ら
小俣和一郎(現代医療史研究家)
6月24日
心の病といのち──「心の生と死」
7月1日
地域で育むいのち
7月8日
「福祉」「共生」の落とし穴
9月30日
デス・エデュケーション(いのちの教
前期学内講師全員
9月28日
デス・エデュケーション──死への準
備教育
杉山崇(本学非常勤講師)
小高康正(本学教授)
10月5日
いのちの行方
10月12日
子どもの死
10月19日
現代人にとっての生と死──臨床社会
五十嵐雅浩(本学助教授)
高橋卓志(神宮寺住職)
中島豊(本学助教授)
心理学の立場から
10月26日
小川憲治(本学教授)
篠原睦治(和光大学教授)
育)を考える
小高康正(本学教授)
10月7日
命の誕生そして性教育の現場から
10月14日
食のつながりといのち──他のいのち
死をめぐって──作家たちの思いから
!(本学教授)
佐々木
11月9日
芸術と死
11月16日
良寛の死生観
11月30日
ターミナルケアと精神保健
12月7日
死別の悲しみ
12月14日
長野いのちの電話──電話相談活動の
松川つぎ江(助産師)
窪島誠一郎(無言館館主)
をいただく私たちのいのち
横山孝子(本学助教授)
圓増治之(愛媛大学教授)
10月21日
藤原正子(本学助教授)
実際(座談風まとめ)
11月4日
死を考える──仏教ホスピス・ビーハ
ラとは
滋野真(浄楽寺住職)
11月11日
11月18日
11月25日
4月22日
薬害エイズ裁判とその後
5月6日
遺伝子の時代の希望と危険性
小林信や(東長野病院院長)
ターミナルケアと精神保健──ある知
的障害者施設の事例
12月2日
総論──生命倫理のダイアローグ
医療の中のいのち──移植・障害・が
ん
「いのちの対話──ふたたび生と死
を考える」》
いのちと音楽がふれあうとき
森川めぐみ(長野県音楽療法研究会)
渡辺恵(長野いのちの電話)
4月15日
いのちと向き合う子どもたち
石原剛志(本学講師)
小片富美子(本学教授)
《2004年度
2
7
5
生命、輝く、とき──ターミナルケア
の現場から
徳永哲也(本学助教授)
12月9日
上平忠一(本学教授)
今城慰作(愛和病院チャプレン)
リヴィングウイル
宮尾陽一(軽井沢病院院長)
川田龍平(松本大学非常勤講師)
12月16日
看取り──いのち尽きるその時まで
高遠三和(本学講師)
粥川準二(医療ジャーナリスト)
1月13日
―4
5―
いのち(生と死)を考えるということ
2
7
6
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
吉田俊雄(兵庫・生と死を考える会常任理事)
きた。
こうした特殊条件を踏まえつつ、その長所を評
2000年度、2004年度とも、前期7月までが私の
価しながらも批判的考察も加える議論を組み立て
コーディネート、後期9月からが共同企画者小高
ることには、それなりに気を遣うところもあっ
教員のコーディネートであった。講座の成果は、
た。ときとして、長野県民の「当たり前」に疑義
企画運営者の編集の下、講師陣の共著としてそれ
を呈する場面も出てくるからである。語り続ける
ぞれ残されている。また私個人は、2001年度と
ための信頼関係を保ちながら新しい議論の地平を
2005年度の『長野大学紀要』に報告文書を残して
地域民と共有する工夫は、2007年度講座において
いる。講座は両年度とも好評 で、学 生150〜250
も心がけていたことであった。
名、社会人1
00名前後という、他の年度の同様の
科目よりずっと多数の受講者を集め、新聞にも取
4.2
0
0
7年度講座の進行と反響
地域開放講座「総合科目」は、2005年度から色
り上げられた。
私は関西の出身で、長野県は初の赴任地だった
合いが変わった。主に後期に開かれる半年講座と
が、この地で「いのち」を語るには次のような特
なり、学部教務委員会企画として作られるものが
徴的な背景を踏まえておく必要があると思って
多くなった。従来の個人やグループからの発案
やって来た。
が、運営負担の大きさもあって出されにくくなっ
第1に、長野が健康長寿県であること。県別平
たからである。私も役職などが多忙で個人企画は
均寿命は、男性は第1位、女性もベスト5に入っ
難しかったが、過去の「実績」から要請もあっ
ている。寝込んだ晩年を差し引いた「健康寿命」
て、生命倫理の議論を「安全・安心」と結びつけ
が特に長く、1人当たりの医療費が安上がりで済
る形で、想定していた時期より前倒しで2007年度
んでいることを誇りとしている。
後期に企画することになった。2005年度から規模
第2に、地域医療先進県としての歴史を築いて
縮小で宣伝もあまりされず、社会人向けというよ
きたこと。「地域医療の神様」と称される、佐久
りは学生の講座を社会人も聴講できるというトー
総合病院の若月俊一や諏訪中央病院の今井澄、鎌
ンになったので、受講者数は学生約1
00名、社会
田實などの活躍は、全国マスコミにも取り上げら
人約20名であった。それでも、前後の年度の同様
れ、語り継がれている。そうした志を継ごうとい
の講座よりは社会人受講者数はずっと多かった。
う医療者や地域民は、今も諸市町村に存在する
社会人には1回のみの受講も申し出があれば認め
(小川村の池田忠医師が、地元密着で育ててきた
たので、例えばアルフォンス・デーケン講師の回
医療が市町村合併でできなくなったとして村を離
には、約50名の社会人が教室前方の列を埋め尽く
れる、という残念な事例もあったが)。
した。
第3に、高齢者福祉において先進的な事例を数
ここで、この2007年度講座の一覧表も示してお
多くもっていること。武石村の「ともしび」や真
く。後期のみの全12回講座で、企画運営者は私1
田町の「アザレアン真田」は、評価の高い福祉施
人である。
設として全国に情報を発信しており、見学者・研
修希望者が絶えない(両町村は最近、上田市に広
《2007年度
域合併され、今後の行く末が注目されるが)。
9月27日
「安全・安心を問いなおす」》
総論──治安・管理への問いなおしと
生命圏安全保障
第4に、諏訪マタニティークリニックの根津八
徳永哲也(本学教授)
10月4日
「靖国問題」と日本の安全
意深くアプローチし、2004年度の講座に講師とし
10月11日
イラクと日本、世界と日本、真の安全
て来てもらえることになった。講義の壇上で、ま
とは
紘の生殖医療における活動と発言。彼には、私と
高橋哲哉(東京大学教授)
は意見が異なる部分が多いことを認識しながら注
低限のコミュニケーションの橋は架けることがで
橋田幸子(戦場ジャーナリスト・
故・橋田信介夫人)
た終了後の対話で、私との議論は対立したが、最
10月18日
―4
6―
日本と世界の安全にとっての中東
徳永哲也
生命倫理学から安全・安心の議論をつくる試み
酒井啓子(東京外国語大学教授)
2
7
7
学生相手には単位認定という作業があるので、
10月25日
平和学がめざす安全
岡本三夫(広島修道大学名誉教授)
えば1本目のレポートでは、高橋講師の「靖国問
11月8日
グローバリゼーションとフードセキュ
題」に対して、現代史を十分には学んでいないと
リティをめぐって
11月15日
2〜3回に1本ずつレポートを書かせている。例
安井幸次(本学教授)
思われる学生たちが、
「靖国神社という存在の意
安心して死を迎えるために──デス・
図がよくわかった」
「命を国に捧げる思想がつく
エデュケーションの視点から
られる危険性を知った」などと書いてくれて、予
アルフォンス・デーケン(上智大学名誉教授)
想以上に教育効果を生んでいると判断できた。高
11月22日
果たして安心?これまでの暮らし方と
健康
橋講師とは、
「靖国と言って今の若者はすぐわか
るのか。どのレベルから始めて90分でどこまで話
横山孝子(長野大学地域共生福祉研究所)
11月29日
人は自分をどこで支えているのか──
冤罪事件での虚偽自白の心理から
だが、この準備が適度な成果につながったようで
ある。
浜田寿美男(奈良女子大学教授)
12月6日
せばよいか」と事前に綿密な打ち合わせをしたの
医療・福祉とこころの安全
5.
「安全・安心」というテーマと生命倫理
実は、私が「安全・安心」をテーマとした企画
藤本豊(東京都中部総合精神保健福祉センター)
12月13日
を立てて講義したのは、2007年度が初めてではな
「安心づくりと心の管理」への問い
小沢牧子(社会臨床学会運営委員)
1月10日
い。2001年9月11日の同時多発テロの直後、2002
年度開放講座案の相談を持ちかけられたとき、
健康と安全と福祉と安心
鷹野和美(本学教授)
「今回は全面協力する余裕はないが、部分的な企
画と講義担当なら」と答えて「いま安全を問う」
私が企画意図を伝える総論をしたうえで、第2
というコーナー企画を立てた。そして、沖縄基地
〜5回は「戦争と平和」というくくりで世界と日
返還訴訟に関わっている旧知の弁護士を招いて、
本の安全を考える局面、第6〜8回は身の回りの
「日本の安全を沖縄から考える」という講義をし
生活から安全と安心を考える局面、第9〜11回は
てもらった。私自身も「いのちの安全保障」と題
心理カウンセリング批判も伴いながら不安社会を
して最終回を担当し、日本と世界の安全問題を生
考える局面とし、最終回で長野県の医療・福祉を
命倫理・哲学から俯瞰する総括講義を行った。
見つめなおそうとした。私は毎回出席し、90分授
2006年度の日本生命倫理学会シンポは「戦争・
業の最後の10〜15分をいただいて、全12回の脈絡
テロは生命倫理の仕事か」と問うたが、私は今こ
を考えた質問を講師に投げかけ、フロアも交えた
の問いを、「安全・安心は生命倫理の課題か」と
討議を行った。
拡大翻訳して自らに問いかけている。そして、
反響は上々と言える。地元の信濃毎日新聞は、
「安全・安心問題を治安管理方法の議論にしてし
第1回の翌日に、
「例えば犯罪抑止のため監視カ
まわない方向で考えるのが生命倫理の責任だ」と
メラを設置するなど、現代は不安や危険への予防
答えようとしている。
線を張ることに懸命。しかし、不安があることを
特に哲学を研究してきた立場で言えば、人の生
前提としてそれを受け入れていくことが本当の人
き死にという根本問題を包括性・普遍性をもって
間社会ではないか」という私のコメントを入れ
語るのが哲学者の役割だと考えている。私自身に
て、大きく取り上げてくれた。第2回以降も口コ
そこまでの素養があるかは別である。それでも哲
ミで広まり、社会人や同僚教員の臨時聴講が続出
学者には、こうした問題への議論をコーディネー
した。聴覚障害学生が1人いてそのための要約筆
ターとしてまとめる役回りがあるのではないか。
記ボランティアを務めた社会人は、
「私自身が聞
諸々の専門学問や実践現場からの声を引き出し、
き入る講義ばかりで、むしろお引き受けしてラッ
つなぎ、いくつかの原理的ポイントを指摘する任
キーでした」と最終回に礼を述べてくれた。
務があるのではないか。私が労苦を厭わず何年か
―4
7―
2
7
8
長野大学紀要
第3
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9
に一度は地域開放講座の企画運営を買って出るの
「人間の弱さや迷い」をあるがままに見つめて上
も、こうした認識があるからである。
手に付き合う方途を編み出す形で取り組みたい、
哲学から生命倫理学に入ってきた者としては、
と私は常々思っている。
「い の ち」か ら「安 全」さ ら に「安 心」と い う
「安全・安心」は時代のキーワードになりつつ
テーマは、十分に連続して見える。つまり、いの
ある。しかしその注目のされ方もやはり、
「対策
ちはいのち単独の機能的存在物ではなく、生きる
を万全に」という方向になりがちである。私は、
という営みの継続そのものであるから、その継続
例えば食品の安全や先端医療の安全に技術的管理
の環境保障と精神的安定がカギになると考えられ
が不要だと言っているのではない。ただ、どんな
るので、いのちの議論は安全・安心の議論と親和
バランスで人間は納得して生きていけるのかとい
性をもつと見える。そして、戦争やテロが生命へ
う人間論的展望がないと、技術高度化と欲望再生
の最大の脅威であるなら、それらを政治学や国際
産の果てしない競争になるだけではないか、と警
関係論の文脈で語る以前に、いのちの哲学として
告を発しているのである。
語るべき部分は十分にあると思える。
そこでの生命倫理学者の役どころは、例えばリ
6.大学と地域と生命倫理
スクマネジメント論に埋没することではないと考
生命倫理の議論を「安全・安心」という時代の
える。むしろ、そもそもの「人間論」から人倫づ
キーワードとからめて講義に乗せるという実践報
くり、いのちを支え合うコミュニティづくりを論
告を、その経過や意味づけも含めて述べてきた
じ、そこで紡ぎ出される理念をまず確認してか
が、「地域開放講座」という存在様式についても
ら、技術や制度を整える方向性を批判的に考察す
言及しておこう。
まず、この2007年度講座、さらには2000年度講
ることが使命なのではないか。
2007年度開放講座の後半では「不安社会」や
座と2004年度講座も振り返って感じるのは、若い
「こころ」といったテーマを扱ったが、やはりそ
学生にとっての社会人受講生の存在意義である。
うした視点から論じている。つまり、
「不安」を
この種の講座で私はいつも初回の冒頭に、「学生
「危険分子」排除や心理カウンセリング充実と
諸君は社会人受講生の姿をしっかり見よ。そして
いった技術的対策で解消しようとするのではな
学ぶことを最優先できる身分のありがたさを思い
く、不安を抱えやすい人間本性を了解しあい、い
知れ」と呼びかけている。実際、前のめりで耳を
たわりあう議論をつくったうえで、それでもこぼ
そばだて質問も積極的にする社会人の姿勢は、学
れ落ちる部分があればどうするかを前向きに考え
生に居ずまいを正して聴く緊張感を与えている。
あう「磁場」を形成したいと考えているのであ
学生ばかりの授業と比べて、受講態度はよくな
る。
る。戦争体験のある高齢者が講師に戦争と平和に
私がこの先に見据えているのは、精神医療や心
理療法や脳神経科学をも相対化していく倫理的批
関する質問をするのを聴いているだけでも、大い
に刺激になっている。
判力の構築という課題である。──「例えば、大
また、最近の若者は、相手が高名な講師であっ
切な伴侶に先立たれて打ちひしがれている人に、
ても知らない場合がある。2004年度に招いた川田
脳治療で明るい気持ちにさせることを、われわれ
龍平講師ですら、18歳の若者には記憶にない人物
は選ぶのだろうか。むしろそこで必要なのは、死
となっていた。しかし、社会人たちが講師に注ぐ
別の悲しみはしっかりと受け止め、人との交流や
視線には何か重要なものを感じるらしく、例えば
共感によって時間をかけてゆっくりと立ち直るこ
2007年度のデーケン講師の回に飛び入りの社会人
とではないか」──拙著『福祉と人間の考え方』
受講生で教室が満杯になるといった状況を目の当
の150頁で私はこう述べた。平和づくり、安全・
たりにすると、自分たちが知るべきことがここに
安心づくりを語るとき、経済復興や技術対策の話
はあると覚悟するようであった。
に終始するのでなく、ましてや「悪いもの」を
他方、地域の社会人にとっても、このような開
「除去」すればよいと考えるのでなく、根底的な
放講座が大学にあることは意義深いようである。
―4
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徳永哲也
生命倫理学から安全・安心の議論をつくる試み
2
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大学は今や生涯学習の場であり、世論形成にもリ
も、まずまず成功したと見える。しかし、
「新た
カレント教育にも重要な役割を果たすべき地域の
な視点を得られて有意義だった」という反応の先
知的センターである。特に長野県のように大学数
に何を築いていくかは、これからの課題である。
が少なく市民教育機関が他にない地方では、その
講座の進行過程でも、質問するのは社会人ばかり
存在は貴重である。私もこの開放講座以外に社会
で学生は討議にまでは参加しない、という傾向が
人ゼミを開いたり、市民講座の招きに積極的に応
見られた。議論を形成していくには、例えばゼミ
じたりしてきたが、おかげで地域事情もわかり、
ナール形式を部分的に取り入れるなどが考えられ
学問研究の還元方法も磨きつつある。私の「常連
るが、諸条件からそこまでつなげられてはいな
客」とでも呼べそうな人たちも出てきて、この地
い。
で働いているという実感と責任意識を新たにして
いる。
私自身も、時流を批判する観点を提示すること
はできても、本物の対案を出せているわけではな
こうした環境を受け止め、より生かす形で講座
い。「その先をどうするのか。 哲学者
ならば不
を企画するといった知的営為は、これからの大学
安と迷いの中で思索することは得意だろうが、そ
人にはいっそう求められる貢献活動であろう。私
れでは安全装置を早く欲しがる
のような哲学者には、健康にすぐ役立つような医
寄り添っているとは言えないのではないか」とい
学的な助言はできないし、家族を介護するノウハ
う問いかけを、自分自身に向けている。生命倫理
ウを教える技術もない。ただ、根本理念から諸問
は、ある側面では医療批判としてここ数十年展開
題を統合的に捉える一つの見方を提示することは
してきたが、その次のステップを求められている
できるし、先にも述べたコーディネーターとして
のだと、肝に銘じている。
諸部門をつなぐ役割は果たしうる。私の現在の知
見と技量でその資格が十分あるかはわからない
が、「ああ言ってくれたおかげで話がスッと胸に
ひ弱な人間
に
7.いのちの論議の「開放」と「留め金づ
くり」
落ちました」と感謝される場面は多々あるので、
「いのち」というテーマは、ある意味では取っ
私の言説でも多少は役に立っているようである。
付きやすい。祖父母や親の看取りは多くの者が経
私が常に心がけているのは、物事を表からだけ
験するし、人生のカベで生き死にの意味を考える
でなく裏からも見ること、議論を他の専門分野と
場面は結構ありそうだから、
「いのち」について
も関連づけられるように開いていくことである。
は何らかのレベルで誰もが一家言をもちうる。答
一哲学者としての真理観や正義観も語ることはあ
えは一つに定まらないことが多いから、老若男女
るが、押しつけにならないように気をつけている
の誰でもそこそこの議論はできる。そうした議論
し、どの言説でも議論全体の中で相対化できるよ
の「開放」は、今回の地域開放講座でも一定の形
うに位置づけている。
をとることができた。
今回の開放講座を運営して改めて思ったのは、
しかし、
「いのち」というテーマは、多くの人
「生き死に」や「倫理」を世代をつないでともに
の情に訴えやすいだけに、感情レベルで拡散した
考えることには大きな意義がある、ということで
ままの議論に終わる可能性が高い。その人なりの
ある。若い学生が高齢の社会人受講者の言動か
思い入れがあるならそれでいいではないか、と評
ら、生き死にの実感を教えられたり、戦争の歴史
価を避けたまま複数の選択肢が投げ出されて、あ
を書物や映像とは違う体験として示されたりする
とは各人が勝手に選ぶしかない、という話で散会
ことには、教員がなす教育を越えた価値がある。
になりやすい。そうした「自由さ」を否定するわ
また、中高年の社会人にとっても、若者の無作法
けではないが、自由は「弁が立ち、腕がふるえる
ながらも素直な眼差しは、自分の人生を捉え返
者の自由」
「金と地位のある者の自由」に陥りや
し、何を残せるかを考えるきっかけになっている
すい。技術進歩で選択肢も環境も変わりつつある
ようである。
この時代には、もう少し議論を「回収」しておく
この講座は、学生のレポートなどの反応を見て
べきではないか。つまり、どことどこは踏み外す
―4
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長野大学紀要
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と弱者を追い詰めるような負の財産になってしま
重に比較考量する記事は、その時点では出なかっ
うかを留意し、ある箇所では議論を収束させてお
た。
く「留め金づくり」も必要ではないか。
こうした問題を、知識的にも補いながらオープ
例えば、
「長野県でいのちを語る背景」という
ンにつなぎ、議論のポイントを提示していく役割
話で言えば、ここには PPK という「県是」があ
が、私たち生命倫理の研究者に求められていると
る。ピンピンコロリすなわちピンピンと健康なま
考える。研究者間で哲学や医学や法律学などを架
ま生き延びて死ぬときはコロリとすぐ死ぬのが理
橋する営みは、生命倫理学会でも進められている
想だ、というのである。「健康寿命」を誇りとす
が、その議論をわかりやすく一般社会に「見せ
る長野県民らしい思想ではある。しかし、この思
る」努力と工夫は、もっと必要なのではないか。
想は一歩間違えば、病気や障害の受容を一切拒否
私が時々に開放講座を企画するのは、その必要を
し、要介護者を敵視するような排除主義に陥る。
感じればこそである。
関西の障害者団体の会合などで長野県の PPK 思
想を紹介するとすぐにこの負の側面に話が及ぶの
[参考文献]
だが、長野県でそこを問題視すると「非国民」な
徳永哲也
ら ぬ「非 県 民」扱 い さ れ か ね な い。こ う し た
2
0
0
7年
徳永哲也編著
『福祉と人間の考え方』
ナカニシヤ
出版 2
0
0
7年
ことが、総合的な倫理学者の「留め金づくり」へ
徳永哲也ほか編
『いま、生と死を考える』
郷土出
版社 2
0
0
2年
また例えば、今の日本社会で代理出産が話題に
『いのちの対話──ふたたび生と死
なるとき、根津八紘と向井亜紀がテレビに登場し
た翌週の世論調査では代理出産肯定派がぐっと増
ナカニ
シヤ出版 2
0
0
3年
障害者問題や ALS 患者問題、尊厳死や安楽死、
の貢献であろう。
晃洋書房
『はじめて学ぶ生命・環境倫理』
PPK 思想批判への反発を上手に受け止めつつ、
優生思想をも視野に収めた冷静な議論を展開する
『た て な お し の 福 祉 哲 学』
を考える』
高橋哲哉
郷土出版社 2
0
0
6年
『靖国問題』
筑摩書房 2
0
0
5年
えるという流動状態がある。腹は借り物で OK だ
『国家と犠牲』
NHK 出版 2
0
0
5年
が精子・卵子ドナーには否定的で「血縁信仰」が
『「心」と戦争』
晶文社 2
0
0
3年
強いという、日本の世論の傾向も出てきている。
橋田幸子
いったい代理出産の何が問題なのか、
「産んだ女
た日々』
性をまずは実母とする」という法律を先進諸国が
酒井啓子
あえて設けているのはなぜか、等々について一時
2
0
0
5年
中央公論新社 2
0
0
4年
『イラクはどこへ行くのか』
『イラク戦争と占領』
の感情だけではない冷静な議論を、知識整理もし
ながら「留め金」として示す必要があるだろう。
『覚悟──戦場ジャーナリストの夫と生き
岡本三夫
『平和学は訴える』
岡本三夫ほか編
8.結語
岩波書店
岩波書店 2
0
0
4年
法律文化社 2
0
0
5年
『平和学のアジェンダ』
法律文化
社 2
0
0
5年
いのち、医療をめぐる議論、そしてそこから安
全・安心に言及する倫理的議論は、さかんに行わ
アルフォンス・デーケン
と出会う』
『よく生きよく笑いよき死
新潮社 2
0
0
3年
アルフォンス・デーケンほか編
れているようでも実は部分的、局所的であり、感
リーフケア』
[新装版]
情論に流されているものも多い。マスコミの取り
浜田寿美男
上げ方は、どうしても断片的で、扇情的効果を生
藤本豊ほか編
みやすい。例えば「混合診療不認可に裁判所が疑
『<突然の死>とグ
春秋社 2
0
0
3年
『「私」とは何か』
講談社 1
9
9
9年
『よくわかる精神保健福祉』
[第2版]
ミネルヴァ書房 2
0
0
7年
義を呈した」という報道が2007年11月にあった
小沢牧子
が、事態の一面をセンセーショナルに取り上げた
2
0
0
2年
だけで、混合診療を認めた場合のデメリットも慎
―5
0―
『「心の専門家」はいらない』
洋泉社
長野大学紀要
第3
0巻第4号 5
1―5
8頁(2
8
1―2
8
8頁)2
0
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9
社会福祉理論の源流にみる公的扶助と社会政策
─大河内一男の場合─
The Origins of Public Assistance and Social Policy
: The Case of Okouchi’s theory
野
口
友紀子*
Yukiko Noguchi
けている5。この中には社会事業と社会政策との
1 はじめに
関係はもちろん、社会事業がどのようにあるべき
公的扶助の源流は、日本においては恤救規則と
かという方向性が明らかにされている6。本稿は
いわれている。ただし、恤救規則には国家責任が
救護法実施以降、すなわち公的扶助が整備されて
明記されていないことから、国家責任を明らかに
きた時期に、一方で社会福祉学理論が混沌とした
した救護法を公的扶助のはじまりと捉えることが
状況において、公的扶助が他の制度との関係でど
多い。救護法は貧困者救済に対する取り組みとし
のように考えられていたのかを検討する。この検
て、国家の責任で生存権を保障する制度として成
討により、戦前期の公的扶助に対する考え方のひ
立したと考えられている1。救護法制定時期にみ
とつを明らかにできる。このことは社会福祉学理
られる公的扶助を他の制度との関係からみていく
論の形成途上の初期にみる公的扶助概念のひとつ
ことは、日本における公的扶助の成立初期の段階
として、その後の公的扶助概念の変化の過程の中
での救護法の社会保障上の位置づけを分析するこ
に位置づくことになり、公的扶助概念の変遷を解
とになる。
明するうえで意義がある。
他の制度との関係を分析するにあたって、1938
年に発表された大河内一男の「わが国における社
2 大河内理論にみる社会事業論
¸
会事業の現在及び将来─社会事業と社会政策の関
大河内理論にみる社会事業と社会政策の代
替と並存
係を中心として─」とその後1940年に出版された
『社会政策の基本問題』を使う2。1938年の論文
大河内の1938年の論文は戦時経済統制下におけ
については、すでに社会事業史の新しい分析枠組
る社会事業の新しい進路について述べられたもの
みを提示するにあたって検討を行っているが、今
である7。大河内は社会事業を社会政策と並んで
回は公的扶助との関係からこの大河内論文を読み
統制経済遂行のための活動であると捉え、この当
3
直してみる 。この論文は、社会事業と社会政策
時の社会政策の欠如による社会事業のあり方に対
との関係を社会科学的に明らかにしたと評価され
する問題をとりあげ、社会事業の位置づけとその
ており、戦後の社会福祉理論の成立をめぐる論争
機能、社会事業の展望について検討している。
において出発点となったものである4。社会福祉
大河内によると、社会事業と社会政策はもとも
に関する理論の多くはこの大河内論文の影響を受
と資本主義社会においては異なる機能を果たすも
*社会福祉学部准教授
―5
1―
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8
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長野大学紀要
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のであり、明確な概念規定を有するものではない
の『代置』
」はわが国の本質的な現象であったと
が、その差異は明らかにできると考えていた。両
している14。このことは農村社会事業を新たな社
者の共通点は、「社会の、資本制的な経済社会の、
会政策と見なしたり、失業対策においても失業保
所謂『庶民』階級をその対象としている点」であ
険制度ではなく慈恵的な土木救済事業を代置し
8
る 。差異としては、社会政策が「その対象を何
て、経済的窮迫状態に対する救済としたりしてい
よりも生産者」としており、
「経済の平常的な循
ることにみることができると述べる。つまり、
環を円滑に遂行するためのひとつの手続き」であ
「社会政策は日本経済の発展に対する正常な補強
ることに対して、社会事業には「国民経済的な関
的役割を果さず、ただ国民経済からの脱落的要素
9
連性」は見いだせないことである 。そのため、
の処分を目的とする所の警察的治安と慈恵的救済
社会政策の中心となる労働者保護における保護の
との合成物に外ならなかった」のである15。
意味は「決してかの救貧策的乃至は社会事業的意
!
味に於ける『保護』乃至『教護』と同視せらるべ
10
社会事業と社会政策の理想と現実
本来の社会政策は、社会経済が円滑に生産的機
きではないのである」という 。
そして、社会事業の対象を「一般消費者」とし
能を果たすための人的要素への合理的配慮である
て理解し、「各自の自己救助のみを以ってしては
ため、その対象となるのは生産者である。その内
当該個人の肉体的ないし精神的生活が順当に保証
容は、「深夜業による過度労働と低賃金」とに対
11
し得ない場合」とする 。つまり、社会政策の対
する対策、そして失業に対する本来的な制度であ
象としての生産者の資格を喪失したこと、つまり
る「失業保険制度」
、そして失業保険制度ととも
国民経済とのつながりから切断されたことで、社
に存在する「職業紹介施設」、「労働者養成機関」
会事業の対象となるというものであり、このこと
! ! ! ! ! ! ! !
を大河内は「経済秩序外的存在」と呼んでいる12。
の完備である16。このような社会政策が完備され
また、「社会事業は社会政策の周囲に働き、社会政
れるのである。
ると、労働者の労働条件や生活条件一般が高めら
策の以前と以後にその場所をもつもの」であり、
では社会事業はどうあるべきか。本来の社会政
「社会政策の周辺からこれを強化し、補強するも
策的方策とはどのように関連しているのか。この
の」と捉えている13。そして、経済秩序外的存在
点について大河内は、社会事業は経済社会の変動
を経済秩序内的存在に切り換えることに社会事業
に係わりなく、
「最低限度の救恤・救済」をこれ
の特質があるのである。
まで通り継続していく必要があり、これが社会事
大河内によると、社会事業と社会政策とは並行
業の固定的部分であると理解している。そして、
的発展、あるいは相互補完的な関連があり、好況
それ以外に社会政策が欠如している場合には、労
期には社会政策に限界は顕在化せず、社会事業は
働者の保健問題への対応、あるいは婦人の職場進
慈善事業的存在となり産業社会の後方に退くと考
出を進めるための託児所などの経済的生産的機能
えられている。不況期には社会政策は停滞あるい
をもつ事業などを実施することになり、社会事業
は後退し、社会事業の必要性が増大し、社会政策
は社会政策的性格に近づくことになるという。特
の欠如を社会事業的活動によって補充、代位する
に失業者問題について失業保険制度を欠いていた
ことになる。
ときには、失業者が救護法、その他の社会事業的
しかし、実際には日本における社会事業と社会
救済に頼ることになり、救護法が生産的任務に近
政策との関係は特殊であったと捉えている。それ
づくことによって「社会政策を補強するのではな
は、社会政策の形成過程において労働者の自主性
く、本来的社会政策たる失業保険制度の欠如の罅
・自律性を許容しなかったために、社会政策を上
隙に入り込み、それに代位しなければならぬとい
からの慈恵として理解させ、労働者ではなく貧民
う関係が創り出される」のである17。つまり、社
一般として対象を考えたからである。また、労働
会事業は生産的任務を行うことで社会政策を補完
関連法の欠如は備荒儲蓄法等によって代置させら
できるが、社会政策が欠如ないしはゆがめられて
れており、「社会事業的『慈恵』による社会政策
いる場合には、社会事業は社会政策を代位するこ
―5
2―
野口友紀子
社会福祉理論の源流にみる公的扶助と社会政策
とになるということである。
2
8
3
り、これによってその雑多な活動領域を合理化
大河内は社会事業が社会政策を代位している場
(或いは『科学化』
)し、制度化し、またそれを
合や「社会事業的救恤」でしかないものが社会政
或る程度まで技術化することによって」社会的な
策として通用している場合は、「『労働力』の順当
広がりと意義を持つことができるとしている20。
な保全=再生産」が行われないし、また社会事業
この社会事業に対する科学化の推進ということに
の救済は恣意的であり、不均等に精神性を強調す
ついては、社会事業が科学化されていない状況に
ることが特質ではあるが、精神性は物質性の整備
あること、大河内の言葉でいうと「慈善的な救貧
の上にのみ成立できると考えている18。そして、
事業の著しい特質は、それの含む訓育的内容と扶
銃後施設の拡張整備と戦傷兵の保護が戦時社会事
助に際しての恣意性の介在」があることに対する
業の中枢的活動分野であり、最も社会事業らしき
「訓育的な道義主義の止揚」を取り払うことを指
活動であるが、
「軍事扶助法」の改正に伴う「傷兵
している21。
保護院」は社会事業的最低限度の必要であり、銃
また、「社会事業が社会政策に対する『代位』
後施設は国民精神総動員を適用するだけでは不充
的存在であることから、真の意味でのそれの補強
分であるとする。そして、社会事業の訓育的な道
的存在になること」が社会事業の進む道であり、
義主義を止揚し、物質性の合理的な制度化をはか
救恤的任務を一歩進めて社会政策の生産的機能を
ることによって、その救恤的色彩、経済秩序外的
外郭から補強するような事業を展開し、またさら
性格を生産的なものに変えていくことができ、社
に「遥かに高く一般的視野から、社会文化的生活
会政策を外郭から補強することができるのである。
一般の増進のための諸施設(図書館、公園、その
大河内によると、社会事業は「『上から』与え
他保健・衛生、教育、娯楽を中心とするもの)
」
ると言うこと、施与という観念、要救護者に対す
に事業を進めることが労働力の培養に結びつくと
る教説(マルサス的意味における)
、与えるに際
する22。大河内は社会事業の進むべき将来につい
して与えるものの個人的恣意性が介在すること、
て「消極的な要救護性への救恤行為」のみではな
特に社会事業における物質性の欠如ないし希薄化
いと捉えているのである23。大河内の社会事業と
が精神性の強調によって補われ得るという根拠の
社会政策の現状と理想をまとめると表1のように
ない社会事業上の伝統」といった諸要素を破棄し
なる。
なければならないと考える19。そして、「社会調査
や社会生活に関する科学的な客観性を基礎に持つ
!
ことによって、社会事業は始めて社会事業であ
本節では、
表1
社会事業の固定的な部分、予防的な部分
!、"に見た大河内の社会事業の捉
大河内の社会事業と社会政策の現実と理想
社会事業
社会政策
現実
・労働立法の欠如による社会政策の代置
・土木救済事業を経済的窮迫状態への救済とする
・職業紹介施設を社会事業的に利用する
・社会事業としての熟練工養成
・精神性の強調と物質性の軽視
・慈恵的性格
・対象を雇用契約に基づく労働関係の当事者とみず、
貧民と捉えられる
・社会事業が社会政策として登場する
・失業保険制度の欠如
理想
・慈善事業的なものから社会福利的なものへの移 ・労働力不足と失業について、職業紹介、労働者養成
行
機関の完備、失業保険制度の確立による社会政策と
・科学性
して解決させる
・最低限度の救恤・救済
・労働者の生産者としての資格に置ける保護を行う
・生産的労働に関する事業
・青年男子の労働時間短縮、最低賃金制、失業保険の
・社会政策の生産的機能をその外郭から補強
整備
・さらに一歩進んで社会文化的生活一般の増進の
ための諸施設に移行
―5
3―
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長野大学紀要
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え方の中に、公的扶助がどのように位置づけられ
民経済の再生産と関連を持たない、
「経済秩序外
ているのか、また社会政策との関係がどのように
的施設」であると捉えたのである27。これらのよ
なっているのかについて検討する前提となる大河
うに社会政策に代置させられた社会事業は社会政
内の社会事業論を詳細にみていく。
策のようにみえるか、あるいはそのように装って
大河内は前述の論文の中で、社会事業を論文発
表当時の社会事業の現状と、そして将来どのよう
いるが、実は社会事業的精神、慈恵策的性格を持
つものと大河内は考えているのである。
にあるべきか、について分析している。社会事業
社会事業は現状ではこのような慈恵的な性格を
の現状として、失業保険のような本来の社会政策
もつものであるが、社会政策に代位させられてい
が成立していない状況において、
「最近数年間に
るのであって、社会事業には社会事業の本来のあ
おけるわが国で社会政策と称ばれたものは、その
り方があるとする。このことを端的に示している
実、厳密な意味では社会事業であるか、少なくと
部分を大河内の論文の中から抜き出してみよう。
も社会事業的精神を担うものであった」と考えて
いる24。当時の社会事業の現状として、大河内は
「社会事業は、社会政策立法の把握の埒外に
こ の「社 会 事 業 的 精 神 を 担 う も の」あ る い は
落ち込んだ窮迫状態を<Caritas>的に救済し、
「『慈恵』策的性格」といわれる事業が、土木救
進んでその更生を図るとともに、他方におい
済事業、職業紹介事業、農村社会事業、備荒儲蓄
ては、一般に保健・衛生、教育等の領域にお
法、貧民救助条例、慈恵金制度であると記してい
いて、積極的な改善を図ってその要救護性の
る。これらは失業保険制度などの労働者保護法が
発生を予防しようとするものである。従って、
欠如していることから実施されており、このこと
社会事業は、一方では救貧事業的または慈善
を「代置」と表現している25。例えば、大河内に
事業的活動として既に生じた事態に対して救
よると農村社会事業の発 展 は 人 び と に「
『新 た
! ! ! !
な』社会政策の出発」と祝福されているが、農村
恤的に関係し、他方では福利事業的に要救護
に生じた保健・医療問題は、そもそも紡績業につ
積極的に『庶民』ないし無産者の経済的或い
いている女工が過度労働と低賃金のもとで働かさ
は一般文化的生活の指導更生を図るものであ
れて結核にかかり帰郷させられたことで農村に結
る28。」
性の増大を防ぎ予防的に活動するとともに、
核菌が散布されたことから、体力低下や慢性的栄
養不足等を生じさせたためであった26。つまり、
ここでは、活動領域として、社会事業の領域を
農村社会事業は社会政策の欠如の償い、尻ぬぐい
3つに整理している①救貧事業的または慈善事業
の意味をもつものなのである。
的活動として既に生じた事態に対して救恤的に関
そして、保健・医療施設の拡充を含む農村社会
係すること、②福利事業的に要救護性の増大を防
事業の展開が社会政策として装われたことに対し
ぎ予防的に活動すること、上記の①と②が進むこ
て、農村社会事業を本質上社会事業的なものと指
とによって、③積極的に「庶民」ないし無産者の
摘し、社会政策の代置としたのである。また、失
経済的或いは一般文化的生活の指導更生を図るこ
業対策である土木救済事業については、本来の失
と、である。そして、これらの関係は慈善事業的
業対策である失業保険制度が欠如しているため
な活動から社会福利的な活動へ発展していくこと
に、代置させられているのだが、この事業は労働
が順当であると捉えている29。この①から③を社
者に対する対応策と考えられたのではなく「経済
! !
的窮迫状態に対する救済」として考えられた、国
会事業の固定的部分、予防的部分、積極的部分に
表2
分けると以下のようになる。
社会事業の領域─3つの分類
①固定的部分…救貧事業的、慈善活動的活動として既に生じた事態に救恤的に関係
②予防的部分…福利事業的に要救護性の増大を防ぐ
③積極的部分…「庶民」
、無産者への経済的、一般文化的生活の指導更生
―5
4―
野口友紀子
社会福祉理論の源流にみる公的扶助と社会政策
①の救恤的に関係する領域については、経済社
会の変動に関わりなく継続されるべき社会事業の
2
8
5
3 大河内理論にみる公的扶助の位置づけ
大河内は、これらの論文の中で「公的扶助」と
固定的部分としての最低限度の救恤・救済がある
!、"
ということである。これは、労働力の健全な再生
いう言葉を使用していない。しかし、前節
産と保全といったこととは関わりなく必要な部分
でみたように社会事業の三つの分類から、大河内
である。これにあたるものが、所得保障としての
は社会事業に固定的部分があると捉え、その部分
救護法とその他の社会事業的救済、例えば「授産
は社会政策との関係においても変化しない部分で
事業や、内職紹介や、慈善団体による私的救恤
あると考えていたことが明らかになった。この固
30,
31
定的部分は、救恤的、あるいは既に生じた事態に
②の予防的な領域にみられる社会事業における
対するものとして表現されていたことから、貧困
要救護性とは、経済的、保健的、道徳的、教育的
に陥った人に対する対応策と捉えていたことが分
等の広範な側面から見いだされるものである32。
かる。この社会事業の固定的な部分が、公的救済
これらの広範な範囲に生じる問題の予防に努める
制度である救護法と私的な社会事業の両方にあた
ことが社会事業の2つ目の領域である。これは、
ると考えられる。
等」であると述べている
。
社会事業が「社会政策を背後から補強する」機能
大河内のこの論文は、言うまでもなく社会事業
であり、「社会事業における生産的ないし産業的
の固定的部分以外の領域を社会政策との関係から
機能」ということになる33。また、ここには①に
説明したものである。社会事業の固定的でない部
ある「慈善事業的」と対比した形で「福利事業
分についての当時の現状の分析としては、社会政
的」という言葉が使用され、また同じく①の「救
策の代置であり、代位していると捉えており、こ
恤的」と対比した形で「予防的」という言葉が使
れは本来の社会事業のあり方ではないと考えてい
われている。
た。固定的でない部分の社会事業については、先
③の積極的な領域とは、社会政策との対比から
述したように社会政策を背後から補強することと
社会政策が労働者、生産者を対象とすることに対
積極的な社会的文化施設・福祉施設を通しての啓
して、その対象を庶民、無産者とおき、一般文化
蒙と指導を将来の社会事業のあり方と考えていた
的生活という広範な領域への対応をも社会事業の
のである。大河内は、固定的でない部分を中心に
領域と考えている。これは社会事業を「一歩進ん
社会事業を分析しているが、ここでは、社会事業
で遥かに高く一般的な視野」にたつものと捉え、
の領域として示した①と②を比較しながら、①の
「積極的な社会的文化施設・福祉施設を通しての
固定的な部分に着目し、この部分に対する大河内
労働国民の啓蒙と指導」という生産者への対応を
の考えを読み取る。
行うことを社会事業の新しい方向性と考えている
34
からである 。
大河内は、先に触れたように「社会事業がこれ
まで果たしてきた最低限度の救恤・救済」を社会
社会政策との関係でいうと、社会事業の進むべ
事業の固定的部分と捉え、
「経済的な意味におけ
き方向性は社会政策の補強的存在となることであ
る『労働力』の不足の係わりなく必要とされるで
る。それは、例えば保育を行うために託児所を拡
あろう」と述べた36。労働力の保全という観点で
充することや住宅問題を解決するために労働者住
はなく、そもそも「労働力」とはならない状態に
宅を建設することは、これらによって子どもを持
ある人に対する救済の必要性を述べており、その
つ女性が仕事に出ることができ、また労働者の住
救済こそが社会事業の固定的部分であるとする。
む場所を確保することができる。このような事業
当時の法律としては、このような人の救済のため
は「単に戦時社会事業の一時的拡充と言うだけで
に「救護法」がある。大河内は、救護法について
なく、社会事業における生産的ないし産業的機能
この論文では2カ所で言及している。
ひとつには失業者対策としての職業紹介事業に
の発展、その限りでは社会政策への補強的作用を
行うものである」といえるのである35。
ついて検討したところである。失業者に対する職
業の紹介がうまく行かなかった場合、すなわち本
―5
5―
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長野大学紀要
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人の能力と職業内容が合わない場合においては、
難しい場合は授産施設や内職の助成による救済を
職を得ることができずに労働によって生計を立て
行う。軍需産業への転業不可能な者は、帰農や移
ることが難しくなる。特に戦時体制下においての
住、最後に官公営の土木事業、開墾事業、造植林
職業の紹介は、軍需産業に労働力を送り出すこと
事業などによる救済を行う。第二に、これらに
が主となるため、軍需産業、例えば戦車や兵器の
よっても救済し得ない者については、生業扶助や
一部を製造する工場といった仕事においては工場
生活扶助、その他の社会事業的活動による救済と
での仕事の経験がない人の場合、かなり就労継続
なっている。
が困難であると考えられる。大河内によると「工
救護法は大河内によると失業者という本来的に
場労働者以外の失業者、例えば商店従業員、自動
はその対象とならないはずの者が本来その対象と
車運転手、中小工業の事業主ならびに小売商店主
なる失業保険制度の未整備のために代位として機
の軍需工業への転換は事実上不可能」と述べてい
能させられてしまうと捉えている。
る37。そして、このような就労が困難な状況にあ
大河内は社会事業の固定的部分として経済社会
る人、「殊に後二者においては転換は極度に困難
の変動に関わりなく存在する最低限度の救恤・救
であり、従って多数の家族を抱えて救護法[今日
済があると述べていた。これは、経済社会の変動
の生活保護法]その他社会事業的救済に依頼せざ
と関わりなく生じる貧困の問題への対応である。
るを得なくなる場合が多いと見なければならぬ」
だが、失業保険制度が未整備であることで、社会
38
としているのである 。失業者に対する職業紹介
事業自体もその固定的な部分、すなわち救護法自
がうまく行かない時、失業保険制度がないため
体がゆらぐことになる。なぜなら大河内のいうよ
に、救護法による救済となる、という点である。
うに失業者対策の代位としての救護法ということ
このことはこの時代の社会政策の側からみると、
になれば、経済の変動によって生じた失業者が救
「救護法や一般慈善救貧事業の対象として、産業
護法の対象となるからである。
の軍事的編成替へに耐へ得なかった脱落的要素と
そのため失業者については、本来は社会政策で
して統制経済の埒外に追ひやられる」ということ
対応すべきものであるのだが、低所得者について
になるのである39。
は大河内論文からどのように読み取れるのか。低
もうひとつが、従来の土木事業のような失業者
所得者は実際にはこの時代には経済保護事業と呼
救済事業が実施できない時局においては、失業者
ばれる公設市場や公益質屋などによってその生活
に対して「救護法による救済や、授産事業や、内
困難を軽減していた。大河内によると、低所得者
職紹介や、慈善団体による私的救恤等が、その多
は低賃金労働者であるため社会事業ではなく社会
岐にわたる活動を行わねばならなくなるであろ
政策によってその問題を解決しなければならな
う」としているところである40。これは、失業者
い。低所得者が生活困難であるのは賃金が低いた
に対する土木救済事業の代わりのもののひとつと
めに生じる問題であるため、根本的には賃金問題
して救護法の救済があげられており、そのような
を解決するために最低賃金法という社会政策がそ
状態になると社会事業は生産的任務に近づいてく
の解決策となると考えられる。このことは大河内
るのだが、それはあくまでも社会政策である失業
の農村社会事業成立の要因となった女工の過度の
保険制度の欠如により代位しなければならない状
労働と低賃金の指摘にみることができる。
況におかれてしまうために、社会事業が生産的任
務に近づくだけであるとする。
4 大河内にみる救護法と社会事業の関係
このように、現状としての失業者の救済につい
大河内論文から社会事業と社会政策の現実と理
て、大河内は次のような順序で対応がなされてい
想の在り方を整理すると、大河内は社会事業と社
ると考えている41。第一に、職業紹介機関を拡充
会政策の対象者をそれぞれ経済秩序外的存在と生
して国営化して、就職斡旋を行い、また交代制に
産者とに区分しており、社会事業が社会政策の外
よる雇用量の増大をはかること、各種の職業輔導
郭を補強するものとした。社会政策とは、失業保
施設の拡充を行う。年齢や前職との関係で転業が
険制度、最低賃金制、労働条件の緩和、職業紹介
―5
6―
野口友紀子
社会福祉理論の源流にみる公的扶助と社会政策
2
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7
事業などによって生産者を貧民ではなく生産者と
救護法に着目して、大河内の社会政策と救護法と
して対策を立てることである。社会政策が十分に
の関係を検討した。現在では公的扶助は社会保険
整備されると、社会事業は固定的な領域である救
と並ぶ所得保障制度である。しかしながら、当時
貧事業に加えて、予防的な社会福利事業、そして
の大河内は所得保障制度の体系の中の公的扶助と
広く一般の人びとの社会文化的生活の向上をはか
社会保険としてそれらの関係に言及している訳で
るための積極的事業へと移行していく。このよう
はなかった。この当時の労働者への対策は貧困者
な状態では、社会事業と社会政策は並行的に展開
対策であるのだが、大河内はそうではなく労働者
することになる。
の貧困問題を労働者対策のひとつと捉えて、経済
しかし、現状は社会政策が不十分であるため、
社会事業が社会政策の代位をしている。現状の社
秩序の内側にいる者への対応として失業保険制度
の必要性を述べていた。
会政策は慈恵的な性格をもち、労働者あるいは生
しかし、社会事業をどのように捉え、その中で
産者としてその対象を捉えることはない。そのた
救護法がどのように位置づくのかを中心に検討し
めに失業者は社会事業や救護法によって貧民とし
ていたため、大河内理論の中心的な「生産力理
て救済されている。社会事業は、幅広い対象をカ
論」について触れることはできなかった。社会政
バーしており、土木救済事業や職業紹介事業、熟
策との関係、さらには失業保険制度との関係を考
練工養成といった社会経済の生産的な部分におけ
える上で、社会政策の本質的な意味について検討
42
る対策までも行っているのである 。
することは今後の課題となるだろう。
社会事業の3つの領域として、先にまとめた理
想の社会事業として①固定的部分、②予防的部
分、③積極的部分があった。公的扶助について
注
1
救護法に関する近年の実証研究としては寺脇隆夫
は、大河内は論文の中で特にとりあげてはいな
(2
0
0
8)
『救護法の成立と施行状況の研究』ドメス出
かったが、救護法に関する言及を分析すること
版がある。これは救護法の内容や実態という側面か
ら救護法を分析している。本稿では当時の理念にお
で、大河内が公的扶助をどのように社会政策との
ける社会事業と社会政策の関係を捉えているもので、
関係から位置づけていたのかをみることができ
た。
寺脇とは分析視角が異なる。
2
大河内は公的扶助である救護法については、経
社会政策については大河内と見解の異なる風早八十
二であるが、1
9
3
8年の大河内論文については、風早
済秩序外である者を対象とする社会事業と同等に
は社会事業なるものの固有性の領域と本質について
括っており、救護法の対象の特徴を労働能力のな
は「新たに附加すべき多くのものは存在しない と
いことと捉えていた。大河内にとっては、救護法
云ってよい」と評価している。風早八十二(1
9
3
8)
は社会保険とは明確にその対象が区分されてお
「社会事業と社会政策」
『社会事業』社会事業研究所
り、失業者は本来救護法の対象とはならない。し
かしながら、失業保険がない中では救護法や「公
第2
2巻第7号、p.
1。
3
社会事業史の分析枠組みに関する検討については、
私の社会事業的救済の対象に陥ち込まざるを得な
拙稿(2
0
0
7)
「社会事業史にみる『社会政策代替説』
いことになるであろう」失業者は、労働者ではな
と大河内理論─あらたな社会事業史の可能性─」
『長
野大学紀要』第2
8巻第3・4号、pp.
1
‐
1
2を参照のこ
く、貧困者という位置づけとなるのである43。救
と。拙稿では社会事業史研究が大河内のいう社会事
護法は公的救助義務を規定した法律であるが、大
業による社会政策の代替という見方を基礎として分
河内からみると、救貧事業的、慈善事業的活動と
して行われる社会事業のひとつとして考えられて
析されていることを明らかにしている。
4
大河内論文は、戦後の社会事業、社会福祉に対する
いたといえる。つまり、それは物質的側面が不足
見方に影響を与えた。例えば孝橋正一は大河内によ
した非科学的なものとみられていたのである。
る社会事業の対象者の捉え方を「伝統的見解」とし
5 おわりに
て批判し、別の社会事業の位置づけを提示した。孝
橋正一(1
9
6
2)
『全訂社会事業の基本問題』ミネルヴ
大河内論文からこれまで注目されてこなかった
―5
7―
ァ書房、p.
4
6
2
8
8
5
6
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
大河内論文の発表以前に、永井亨や桑田熊蔵らによ
18
同上 p.
1
3
2
る社会政策学からの社会事業の定義づけが行われて
19
同上 p.
1
3
3
いた。これらの社会政策学の側からの社会事業論争
20
同上 p.
1
3
4
の前段階については別途検討を行う。
21
同上 p.
1
3
3。社会事業が色濃い精神的側面を持って
大河内のこの論文や『社会政策の基本問題』は、表
おり、元来社会事業活動は「Caritas 的精神を未だに
記上「時局」
、「戦時経済統制の下」
、「銃後」などの
ふり捨てることを得ないでゐる」とも表現している。
大河内1
9
4
0、p.
4
2
0
言葉が使われている。これらの発刊は、社会事業史
7
8
においては戦時厚生事業の時代にあたる。この時期
22
同上 pp.
1
3
5
‐
1
3
6
の特殊性と戦後の間における大河内理論の連続性と
23
同上 p.
1
3
6
非連続性の問題が存在しているが、大河内自身は戦
24
同上 p.
1
1
6
前から戦後の自分の社会政策に対する考え方には一
25
同上 p.
1
1
6、p.
1
2
5。同様に、社会政策が社会事業的
貫性があると述べている。大河内一男(1
9
8
0)
『社会
なるものによって代置させられていることについて、
政策(総論)増補版』有斐閣、p.
2
「而も無料宿泊所、施療院、托兒所、公設浴場、生
この論文は戦時経済統制下という特殊条件と景気・
活に窮した憐れな『寡婦』の救済等は決して本来の
不景気という経済上の変化の2つが混在して論じら
社会政策の課題ではないのである。大規模な農村保
れている。
健国策をも含めて、それ等は総じて本来社会政策或
大河内一男(1
9
3
8=1
9
8
1)
「わが国における社会事業
は救貧策の対象あるべきものである」と述べている。
大河内1
9
4
0、p.
3
2
5
の現在及び将来─社会事業と社会政策の関係を中心
と し て─」
『大 河 内 一 男 集 第 一 巻』労 働 旬 報 社、
26
大河内1
9
3
8=1
9
8
1p.
1
2
4
p.
1
1
7
27
同上 p.
1
2
5
同上 pp.
1
1
7
‐
1
1
8
28
同上 p.
1
2
0
大河内(1
9
4
0)
『社会政策の基本問題』日本評論社、
29
同上 p.
1
2
6
p.
3
0
3
30
同上 p.
1
3
1
11
大河内1
9
3
8=1
9
8
1、p.
1
1
9
31
大河内は公的な救済と私的な救済を一括りにして社
12
同上 pp.
1
1
9
‐
1
2
0。大河内の述べた「経済秩序外的存
会事業の固定的部分と述べたが、一般的には公的、
在」という社会事業の対象の規定について、同時期
つまり制度としての救済と私的な救済活動は分けて
に社会政策と社会事業との関係を述べた風早八十二
考えられており、大河内論文以前の昭和初期には特
は「將來的潜在的労働力、もしくは労働能力缺如者」
に私的救済である私設社会事業の行き詰まりが指摘
9
10
と述べている。社会政策との関係でいうと「社会事
されていた。
業は将来において労働能力者たりうべき人口、若く
32
同上 p.
1
1
9
は資本の直接生産行程及びその近い周邊から脱落せ
33
同上 p.
1
3
5
る人口を主たる対象と」する。風早1
9
3
8、p.
9。ただ
34
同上 pp.
1
3
5
‐
1
3
6
し、永岡は「風早がより厳密な対象規定によって社
35
同上 p.
1
3
5
会事業を資本制経済機構総体の中に位置づけ、資本
36
同上 p.
1
2
8
による、しかも戦時的な『合理化』への警告、社会
37
同上 p.
1
3
1
事業の固有領域を守る主張をおこなったのに対し、
38
同上 p.
1
3
1。但し、[今日の生活保護法]という記述
は、後に書き加えられたものである。
大河内はその理論枠組から、社会事業の代替性の是
正よりも積極面=生産的任務への接近・補強の側面
39
大河内1
9
4
0、p.
3
9
7
に力点をおいて論じていた」と述べている。永岡正
40
大河内1
9
3
8=1
9
8
1、p.
1
3
1
己(1
9
7
9)
「戦前の社会事業論争」真田是編『戦後日
41
大河内1
9
4
0、p.
4
3
1
本社会福祉論争』法律文化社、pp.
2
8
2
‐
2
8
3。
42
例えば、熟練工養成といった職業訓練や職業教育に
13
同上 p.
1
2
0
ついて、単なる失業者救済施設として社会事業的で
14
同上 p.
1
2
3
消極的な意味を持たせるのではなく、生産力拡充の
15
大河内1
9
4
0、p.
3
8
1
ための積極的なものとして捉えるべきであると述べ
16
大河内1
9
3
8=1
9
8
1、pp.
1
2
4
‐
1
2
5、p.
1
2
7
17
同上 p.
1
3
1
ている。大河内1
9
4
0、pp.
4
4
4
‐
4
4
6
43
―5
8―
大河内1
9
3
8=1
9
8
1、p.
1
3
1
長野大学紀要
第3
0巻第4号 5
9―6
5頁(2
8
9―2
9
5頁)2
0
0
9
社会科(歴史)教育における実践と課題
Practice and Problems in Social Studies Education
塚
瀬
進*
Susumu Tsukase
いくさいに、自分たちが暮らす国や世界の過去に
目 次
ついての認識が浅くてよいものであろうか。社会
はじめに
を支える良識ある市民となるためには、自分を取
1
歴史教育の目的をめぐる議論
り巻いている状況が、どのような推移を経て現在
2
教養科目「東洋史」での実践
に至っているかを知る必要があると考える。
3
「社会科教育法」での実践
4
実践を通じて考えた課題
以下では、長野大学での教養科目である「東洋
史」を担当するうえで、どのような講義をするの
まとめにかえて
か、学生に何を主張するのか、筆者が実践してき
た事柄を述べたい。また教員資格の取得を目標と
はじめに
している学生が受講する「社会科教育法」におい
歴史研究者の課題としては、新事実の発掘や新
て、社会科(歴史)教育を行う際に留意する点を
たな歴史解釈の提唱という側面が主要であるが、
どのように説明しているのかについても述べてみ
歴史をどう伝えるのかという側面も重要だと考え
たい。
る。小・中・高の歴史教育では、どうしても歴史
本研究ノートでは、まず歴史教育の目的に関す
事実の習得(暗記)という側面が強くなってしま
る昨今の議論を整理する。ついで、筆者が行って
い、歴史から何を学ぶのか、歴史をどう考えるの
いる講義内容つまりは実践してきた社会科(歴
か、などの側面に重点を置く時間は少なくなって
史)教育の内容について述べ、最後にその実践を
しまう傾向にある。そのため大学生のなかには、
通じて筆者が考えた、歴史教育の課題や目的につ
「歴史は暗記科目だからきらいだ」、「歴史を学ぶ
いて述べてみたい。
ことは私には必要もないし、意味もない」、「大学
には専門科目を学びに来ているのであり、専門外
1 歴史教育の目的をめぐる議論
歴史教育を行うにあたって常に問題となってい
の歴史のことをどうして授業しているのか理解で
るのは、過去をどう評価するのかという、歴史認
きない」などの意見を述べる人もいる。
確かに歴史を学ぶことが、資格試験の突破や条
識、歴史評価についてである。中国、韓国などと
件のよい企業への就職など、多くの学生が心配、
の間で問題となっている、歴史教科書の記述問
目標としていることに、直接結びつくことはな
題、靖国神社参拝問題などは、歴史評価がそれぞ
い。しかしながら、一市民として社会生活をして
れの国で違うことから生じている典型的な問題で
*環境ツーリズム学部准教授
―5
9―
2
9
0
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
ある(1)。国が違えば同じ事実でも評価が違うこと
は、評価は学生各自が自分で考えるものであり、
は、豊臣秀吉の朝鮮への出兵についての評価が、
教師は学生の思想、価値観にふれる部分にはさわ
韓国と日本では異なることが代表的であろう。ま
らないという、学生の思想信条の尊重という考え
た広島、長崎への原子爆弾の投下について、核兵
がある。だが、評価を抜きにした歴史事実の解説
器の使用は適切だったと考えるアメリカ人は多数
に終始した授業は、いきおい無機的、事実の羅列
いるようだが、日本人で適切だったと考える人は
へと傾き、学生にとってはおもしろいものではな
(2)
ごくわずかであろう 。
くなる。
評価の観点が異なるため、その評価内容が違う
小学校、中学校、高校までの教育は基礎的な知
ことは日本国内でも見られる現象である。典型的
識の習得に重きを置いているので、評価に深入り
な事例として太平洋戦争をとりあげたい。歴史事
せず、過去の解説的な授業を行うこともやむを得
実は一つであり、日本がアメリカ、イギリスなど
ないと考える。しかし、大学教育においても過去
に宣戦布告して太平洋戦争が開戦した日時は1941
の解説的な授業をすることには、大きな疑問が残
年12月8日(日 本 標 準 時)で あ る。し か し な が
る。
ら、太平洋戦争がどのような性格の戦争であった
「学校教育法」第83条で規定されている、大学
かについては、さまざまな見解が存在する。日本
教育の内容は以下のようである。
「大学は、学術
の立場を擁護する見解では、日本はアメリカ、イ
の中心として、広く知識を授けるとともに、深く
ギリスの経済封鎖に苦しめられたので、それを打
専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用
破するために大東亜共栄圏の建設を企図して開戦
的能力を展開させることを目的とする」
。このな
(3)
に踏み切ったという主張がある 。一方、太平洋
かの、「知的、道徳的及び応用的能力を展開させ
戦争は日本の国策のゆきづまりを打開するために
ることを目的とする」という文言は重い。つまり
起こした侵略戦争であったという、まったく反対
高校までに習得した基礎的な知識を土台にして、
の見解も存在する(4)。こうした相反する歴史評価
応用力を向上させる考えが日本の大学教育の根底
が存在する太平洋戦争について、教室でどのよう
にはすえられている。歴史を学ぶ上での基礎と
な授業をすることが、学生たちに適切なのか、教
は、基本的な歴史事実の理解であり、応用力と
師はつねに思い悩む。
は、歴史を考え、評価する力だと考えられる。
歴史の授業がともなう最大の問題点は、歴史事
以上、歴史の授業における評価の問題、大学教
実の解説にとどまらず、歴史評価までをも教えて
育が目標とする内容について検討した。これらを
よいのかどうか、という点に収斂される。とくに
勘案して、筆者が考えた大学における歴史講義の
近現代史に関しては、歴史評価は一つではなく、
方法とは、歴史事実の解説を行い、次に代表的な
多数の評説が乱立している。授業時間数にゆとり
評価内容について説明し、学生各自に評価を考え
があれば、時間をかけてさまざまな評価について
てもらう。そして毎回ではないが教師自身の評
説明することはできるであろうが、現行の授業数
価、そのよってたつ理由を解説し、学生たちが評
では実現不可能であろう。
価を考える際の参考にしてもらう、という内容で
太平洋戦争を我慢の限界まで日本を追い込んだ
アメリカ、イギリスが悪かったのだと授業し、そ
うした評価、価値観をいまだ無垢の生徒に植え付
けてよいのか。反対に太平洋戦争は日本による侵
ある。以下では、こうした講義を具体的にはどう
行っているのか述べてみたい。
2 教養科目「東洋史」での実践
略戦争であり、二度と戦争を起こしてはいけない
すべての学生が教養科目として選択できる「東
と叫ぶことが、
「正しい」歴史教育なのか、一体
洋史」という科目を、赴任以来担当している。セ
その「正しさ」は誰が決めるのだろうか。
メスター制の導入に伴い、半期15回の講義で構成
歴史評価の問題から逃れるために、
「評価は教
することになり、前近代史、近代史、現代史の3
室には持ち込まず、歴史事実だけを説明する」と
科目に分けて講義している。以下ではこれらの講
いうやり方をする教員も多い。この方法の根底に
義をどのように行い、学生たちはどのように反応
―6
0―
塚瀬
進
社会科(歴史)教育における実践と課題
したかについて述べてみたい。
2
9
1
る。
近代史では明治から日中戦争までの日中関係史
以上の二つの史料を読み、解説を行うことで、
を中心に講義している。日中関係史を中心として
学生には西欧化、近代化の筋道は、明治政府が
いる理由は、教養科目として学ぶ学生たちに、中
行ったものだけではなく、多様な選択肢が存在し
国の近代史は日本近代史と深い関係があることを
たことに気づかせる。そして洋務運動は結果的に
認識して欲しい点にある。講義内容のすべてを紹
は明治政府の西欧化政策に比べて、西欧化の達成
介することはできないので、以下では日中の近代
速度、度合いという点ではおよばなかったが、果
化の差異についての講義を事例としてとりあげ
たして西欧化することが「よい」のか「わるい」
る。
のかという評価について考えることへと講義を進
この講義では日本では明治維新以後の西欧化政
める。その際、以下のような筆者が作成した論説
策、中国では洋務運動をとりあげ、両国の近代化
を読むことで、学生たちが評価を考えるとはどう
に向けての努力方向が異なっていた点を解説す
いうことなのか認識してもらい、各自の考えを文
る。その際、日本の西欧化政策については、多く
章化する作業へと講義を進める(7)。
の学生が高校までに学んだことがあるので、簡略
日本と中国の分岐点
に説明するに止め、洋務運動とはどのような運動
20世紀における日本と朝鮮、日本と中国の
であったのかの解説に重点を置いている。清朝が
関係は不幸な歴史であった。日本は1910年に
目指していた洋務は西欧化とは必ずしも同じでは
朝鮮を併合して植民地にした。中国とは1937
なかったことを、李鴻章が述べた以下の文章を読
年から1945年まで全面戦争をおこなった。し
(5)
むことでイメージしてもらう 。
かしながら、こうした非友好的な関係が歴史
機械製造は今日、自強の本であります。機械
的にいつも続いていたわけではなく、20世紀
のすぐれた点は、水や火の力を借りて、人
特有の現象でもある。
力、資財の浪費を省く点にあります。…中国
江戸時代の日本人には朝鮮、中国に対する
の文物制度は、外洋野蛮の風俗とは異なって
悪感情はなかったばかりでなく、中国に対し
います。危を転じて安となし、弱を転じて強
ては高い文化国としての評価が一般的であっ
とする道は、機械を模倣するほかないという
た。朝鮮・中国との関係が一変するのは明治
主張には賛成できません。…願いますところ
維新以後である。明治政府は西洋化をかか
は、外人の長技をとって中国の長技を完成
げ、国をあげて西洋文明の導入にやっきと
し、両者を比較して劣ることなく、うれいな
なった。西洋化の裏がえしとして、批判の対
きを期すことであります。
象となったのが朝鮮・中国であった。明治の
李鴻章「洋式鉄工所・機械の設置について」
日本人は、西洋には輝きわたり未来を象徴す
(1865年)
るものを、朝鮮・中国には時代遅れでもはや
また、明治政府の西欧化政策を中国人はどのよ
必要のないものをイメージしたようである。
うに見ていたかについて、初代日本公使何如璋の
こうした傾向には、中国が西洋列強に対して
意見を読み、中国人の欧米化に対する考え方につ
連戦連敗を続けているという状況が大きかっ
(6)
いてイメージしてもらう 。
たように思われる。
日本は小国だが列強の圧迫に奮起して、
「東
西洋の生み出した鉄による機械文明が、明
洋のイギリス」になろうとしている。しかし
治の日本人を引きつけたことは十分理解でき
天然資源に少なく、遠い将来を見通せる見識
る。人間のように疲れを知らず、人間には不
を持った人はいない。ひとたび欧米の新しい
可能な力仕事をしてしまう機械を手に入れた
事物を学ぶようになると、みながそれにつき
いと思うことは、現代の日本人も基本的には
従い、学ぶ必要のないもの、学んではいけな
同じである。しかし、明治の日本人は、やや
いものまでも、みさかいなく学びとり、ただ
急ぎすぎていた。さらに自分たちの行動を正
ひたすら欧米に似通った国になろうとしてい
当化するために、朝鮮・中国を引き合いに出
―6
1―
2
9
2
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
すという論法を使った。むろん、明治時代の
に、いちおうの安心感を得た。なぜなら筆者の目
厳しい国際環境、すなわち西洋による日本侵
標は学生たちに考えてもらうことであり、筆者と
略の脅威が、明治政府に一日もはやい西洋化
同じ評価を祖述することではないからである。と
をはからせていた、という状況も忘れてはな
はいえ、学生各自が自由に考えて欲しいという筆
らない。
者の要求に対して、
「日本の歴史に汚点はなく、
日本とは対称的に、中国は西洋技術の導入
中国・韓国は日本を叩きたいので、いろいろ過去
はしたが、自分たちの論理をも変えようとは
について日本を糾弾し、騒いでいるにすぎない」
しなかった。技術はしょせん技術であり、世
といった、その学生がこれまで考えてきたであろ
界の道理は中国文化により説明できるし、中
う内容を、何の省みもなく述べている評価もあっ
国文化以上の価値観など存在しないと考えて
た。つまり固定観念を強固に持つ学生に、筆者の
いたようである。急には変われない、いや変
講義はその学生自身の考えを見つめ直す機会とは
わる必要などないのだ、という中華思想的発
ならなかったのである。
想は、西洋化の達成という次元では日本に追
筆者の実践例で問題だと考えた事例は、講義を
い越される事態を生じさせた。だが、西洋化
する筆者の意見が学生たちの意見をひっぱり、制
が「早ければ○」、「遅ければ×」という基準
約しすぎてしまったことである。前近代史の講義
ははたして正しいのだろうか。
も日中関係を軸に行っているが、平清盛が活動し
結果的に明治以降の日本は、朝鮮・中国を
た日宋貿易をとりあげ、平清盛の人物評価を学生
踏み台にして国力の増進に努めた。しかし、
たちに考えてもらう講義をしている。講義ではこ
他者を犠牲にしての存続は、長い目で見るな
の時代、貴族や富裕層は中国からの舶来品を重宝
らばマイナスである。この主張の根拠は、今
がっていたが、朝廷は宋との交流、貿易には消極
日の日本と朝鮮・中国の関係にあらわれてい
的であったという時代状況を説明する。そうした
る。明治時代の日本は朝鮮・中国を身代わり
状況下ではあったが、平清盛は宋の皇帝に臣下の
にしてなんとか自らを救ったが、その負の影
礼をとることにより、宋との貿易を行い、莫大な
響は現在にも残っているからである。21世紀
富を得た経緯を解説する。そして平清盛がしたこ
に生きる我々には、自国をも豊かにすると同
とについて、各自の評価を考えてもらうのである
時に、他国をも豊かにする関係の構築が求め
が、その前に以下のような筆者が作成した文書を
られている。過去をふりかえることは、その
読んで、考える際の参考にしている(8)。
平清盛は善人だったのか悪人だったのか
ための有益な示唆を与えてくれる。
以上のような講義内容をふまえて、学生は「日
人物像はその時代を映す鏡の一つのように
本と中国の近代化」について各自の評価を考える
考えられる。たとえば室町幕府をつくった足
のであるが、学生たちの評価はさまざまである。
利尊氏は、明治時代以降では「悪者」のレッ
「何も近代化のスピードが速ければよいわけでは
テルをはられた。その理由は、明治政府が武
なく、自分たち国民がどのような国をつくるの
士政権の江戸幕府を打倒し、天皇を国家の主
か、それを考えてすすめることが大切だ」、「国の
柱にした点に起因する。鎌倉幕府の滅亡後、
運営は結果がすべてであり、外国との競争に勝た
天皇が中心となる国家が生まれようとする動
なければ国の明日はない。したがって明治政府の
きがあった。しかし足利尊氏はこれに抵抗し
政策は適切であった」、「中国のように固有のもの
て、武士政権である室町幕府をつくった。天
を大切にすることは必要だが、いつまでも伝統の
皇の側から見るならば、足利尊氏は天皇中心
延長だけでは国は発達しない。伝統を守りつつ
の国家を押し潰した「悪者」となる。
も、新しいものも導入する柔軟な選択が必要だっ
このため、明治政府は足利尊氏を非難する
たのではないか」など、必ずしも一方向からの評
キャンペーンを行い、学校教育のなかでも足
価に特化したわけではなかった。
利尊氏を「悪者」あつかいする教育を行わせ
筆者としては評価がさまざまに分かれたこと
―6
2―
た。足利尊氏の評価は、その人物そのものの
塚瀬
進
社会科(歴史)教育における実践と課題
2
9
3
姿からではなく、明治政府という政治権力の
会科教育法」で行った実践について述べてみた
都合により決められたのである。
い。
人物評価がその時の政治権力の都合により
決められるという傾向は、平清盛についても
3 「社会科教育法」での実践
あてはまりそうである。平氏を倒して鎌倉幕
「社会科教育法」は具体的にどのような授業を
府を開いた源氏は、自分たちの正当性を強調
するのか、教材研究、指導方法などについて、教
するため、平氏のしたことを、ことさらに悪
職を希望する学生に教える講義である。主に中学
く言っていた。つまり「悪者の平氏」を「正
校の歴史の教科書をとりあげ、教科書の記述をど
義の源氏」が倒したのだという主張をした
のように整理して生徒に伝えるのか、生徒に理解
かったのである。
して欲しい内容をいかに授業するのか、具体的な
平氏が一手に権力を掌握し、横暴なふるま
方法の講義に重点を置いている。そして学生に授
いをしていたのは事実である。だが、このこ
業計画、授業案を作成させ、最終的には模擬授業
とから平氏のすべての人々を「悪者」あつか
を行わせ、授業を行うことの厳しさや充実さを感
いできるのであろうか。むろん平清盛は日宋
じてもらうように進めている。
貿易による利益を手にしようと考えていた点
この講義で問題となるのも「東洋史」と同様
はまちがいないが、周囲の反感を覚悟で宋の
に、歴史評価まで授業をする必要があるのかない
家臣になるのは容易な決意ではない。時代が
のか、という点である。学生たちには教科書の記
どこへ向かおうとしているのか、何が新たに
述をきちんと教えることができるようにすること
必要なのか、平清盛は見抜く能力を持ってい
を強調しているが、では教師は意見を言わずに、
たと言えよう。このように考えてくると、平
ただ教科書を解説する授業でよいのかという質問
清盛を悪人として評価することはできなくな
が、毎年必ず学生のほうから出される。そのため
る。
筆者もこの問題と正面から向き合わなければなら
歴史上の人物評価は、時代により変わるも
なかった。
のである。過去の人物の事跡を、現代の目か
公教育の場における教師は、個人の思想を自由
ら見て○、×をつけるのは簡単である。なぜ
に持つ権利はあるが、政治家や運動家ではなく、
なら、過去の人物は現代人の評価に抗議でき
教師の思想を生徒に押し付ける権利はどこにもな
ないからである。「善」「悪」を下すのではな
い。とはいえ、これから市民となる生徒に理想を
く、現代にも通じる考えを過去からくみとっ
求める重要さ、現存する不合理さを改善していく
て欲しい。
大切さを説明することは、大事な教師のつとめで
筆者のねらいは、世間に流布する平清盛像とい
あると考える。そうした点について歴史教育も大
う先入観からではなく、学生各自で平清盛を評価
きな役割を果たしており、だからこそ公害に反対
して欲しい点にあった。しかしながら、学生の見
した田中正造が教科書にも記述されている。
解のほとんどは、
「平清盛は悪人ではなく傑出し
教師を目指す学生に、どのように歴史評価を考
た人物だと思った」、「平清盛は後世の源氏が行っ
え、生徒たちに教えることができるのか、この点
た悪者キャンペーンにより不当に悪者あつかいさ
を筆者は考えた末、以下のような講義を行った。
れてきた」という内容であった。つまり学生の評
題材として、1950年(昭和25年)に行われた吉田
価は多様化せず、教師の見解をなぞるものになっ
茂首相と南原繁東京大学総長の論争をとりあげ、
てしまったのである。考えるに、学生たちへの疑
理想と現実について生徒に考える場を提供すると
問 の 投 げ か け 方 が、「平 清 盛 は 悪 人 だ っ た の
いう設定で筆者が学生に模擬授業を行い、学生た
か?」というものでは、講義を受けた人々は「そ
ちに考えてもらうことにした。
まず授業でとりあげる吉田茂と南原繁がどのよ
うではなかった」という方向性しか出せなかった
うな人物、役職であったのかを説明する。ついで
のではと反省した。
次には、教員資格取得希望者が受講する、
「社
1950年当時の世界情勢、厳しい米ソの対立という
―6
3―
2
9
4
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
時代状況を解説する。そして当時争点となってい
各自の意見をよりよいものへとしていく」という
た、アメリカとの単独講和をとるのか、それとも
考えは、実際には難しい。だが、この考えを否定
ソ連を含めた全面講和論をとるのか、日本国内で
すると、
「教師は自分の意見は言わずに、歴史事
は論争になっていたことを述べ、吉田茂首相は政
実の解釈をしていればよい」という見解へと陥っ
治家として単独講和論を、南原繁東京大学総長は
てしまう。学生に影響をおよぼしつつも、学生の
教育者、学者として全面講和論を主張していたこ
考えを尊重し、その考えをよりよいものへとして
とを説明する。問題の核心となる両者の見解が
いくという、ある意味矛盾した思いのなかで日々
違ってくる理由として、吉田茂はソ連を含めた全
の講義をしているというのが、筆者の正直な状況
面講和は理想としては存在するが、現実には世界
である。
情勢がそれを許さず無理だと判断していたという
あらかじめ決められた評価を学生には押し付け
現実を優先させていたことを、これに対して南原
ない、学生各自が考える、教師はそのアシストを
繁は戦争に際して災禍をおよぼしたすべての国と
する役割だという方向性は、戦後の日本社会の民
講和してこそ、日本の戦争責任は果たせるのだと
主化とともに生じてきたと考える。戦前は国定的
主張し、理想を優先させていたことを述べる。こ
な見解が存在し、それを学生に教え込むことが教
うした舞台設定を用意して、学生たちにこの題材
師の役割であった。それが戦後になると、国定的
を教える時に、吉田茂の優先した「現実の政治」
な一つの見解はなくなったが、左翼や右翼などが
を重視するのか、それとも南原繁が優先した「理
あらかじめ用意した見解を教え込むという、つま
想の実現」を重視して授業をおこなうのか、各自
りは教え込む内容が変わっただけであり、教師の
の考えをまとめさせる、という模擬授業を行っ
役割自体に変化はなかった。
た。
ところが、冷戦構造の崩壊、日本社会の民主化
その結果は、多数の学生が「理想の重要性を重
により、教師の役割も教え込みから学生の考えの
視し、どのように現実との妥協点を見出すのが生
うながしへと変化している。その結果歴史評価の
きていく上では重要だ」という見解を書いてき
内容も多様化が認められた。ところが多様化の結
た。こうした結果が授業の「成功」かどうか断定
果、だれもが承服する、唯一、絶対的な評価はな
することは避けたいが、
「歴史評価を教室で伝え
くなり、各種の評価が正統性を争う様相を示し
る難しさ」について、学生は認識してくれたよう
た。「新しい教科書をつくる会」による教科書作
だ。
成は、こうした状況が生み出したことだと考え
る。
4 実践を通じて考えた課題
筆者は学生各自が汗をかいて考えること、その
大学での講義とはいえ、学生は教師の言動に左
結果導き出された評価がバランスのとれたもので
右される傾向があることを筆者は認識し、そのこ
あることを望んでいる。とはいえ、そうはなら
との恐ろしさも感じた。講義では学生各自が歴史
ず、多様な評価が出されることに不安と焦燥がな
評価を考えることの重要性を強調したが、教師の
いまぜとなったものを感じ、講義を終えている。
意見、評価にひっぱられ、学生が考える方向を予
め教師が準備してしまう結果に終わってしまうこ
まとめにかえて
ともあった。また、必ずしも学生が自分自身の歴
歴史教育に伴う歴史評価の問題について、筆者
史認識を考え直すまでに至る、重みを持った講義
の実践とのかかわりから述べてきたが、歴史評価
ができていないという事実も発見した。
を考える際には、歴史教育の目的は何なのか、と
筆者の根底には、歴史評価は各自各様のもので
いう点まで考えざるを得ない。過去の何年に、ど
あり、各自が考えたものであるならば問題ないと
こで、だれが、何をしたのか、という歴史事実を
いう考えがある。しかし、学生各自が考えると
たくさん暗記した人間を作り出すことが、歴史教
いっても、そこには限界があり、教師の意見がお
育の目的とは思えない。歴史を学ぶことを通し
よぼす影響も強い。
「教師の意見を参考にして、
て、「よき市民」として日本社会の発展や安定に
―6
4―
塚瀬
進
社会科(歴史)教育における実践と課題
2
9
5
寄与する人材を育てることが、大きな目的だと筆
覚により歩んでいく重要性を、過去の人類の経験
者は考えている。
を通して学ぶことが、歴史教育の目的だと考え
また国際化、グローバル化がすすむ現代は、か
る。
つて帝国主義列強が覇権を競ったような時代では
なく、各国の相互依存度は深まっている。した
がって、自分の国だけがよければよい、そのため
には他国に何をしてもよく、他国が自国の国益の
犠牲となるのはいたしかたない、というような考
え方には賛成できない。もとより現代の視点か
ら、帝国主義列強の争いに勝ち抜こうと懸命に努
力していた時代の人々を断罪する考えはないが、
かつての自国中心主義のもたらした結果を現代人
も参考にすることは必要であろう。
改めて述べるまでもなく、教師がどのような目
的で、何を語るかにより、どのような学生が生ま
れるのか、教師はその一端にかかわるのだという
認識を持つことが大事である。決められた枠のな
注
!
"
#
浦野起央『日中韓の歴史認識』南窓社、2
0
0
2年。
斉藤道雄『原爆神話の五〇年
すれ違う日本とア
メリカ』中公新書、1
9
9
5年
渡 辺 昇 一『渡 辺 昇 一 の 昭 和 史』ワ ッ ク 出 版 社、
2
0
0
8年。
$
%
&
家永三郎『太平洋戦争』岩波書店、1
9
6
8年。
西順造編『原典中国近代思想史』第二冊、岩波書
店、1
9
7
7年 6
5〜6
6頁。
鈴木智夫『洋務運動の研究』汲古書院、1
9
9
2年
5
4
2頁。
'
(
かにはめ込むのではなく、各自が各自の責任と自
―6
5―
筆者作成「東洋史 A」第3回配布プリント。
筆者作成「東洋史 C」第6回配布プリント。
長野大学紀要
第3
0巻第4号 6
7―8
9頁(2
9
7―3
1
9頁)2
0
0
9
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析(2)
An Analysis of the Homen-iin Records by Using Text Mining(2)
坪
井
真*
Makoto Tsuboi
キーワード群を本研究が設定した従属変数(方面
¿.研究目的と分析の対象・方法
委員による実践の内在的諸要素)と独立変数(方
本稿は、方面委員の「活動」(従属変数:実践
面委員の実践を取り巻く外在的要因)に基づき分
の内在的諸要素)に対する「場」(独立変数:実
類する。③キーワード群の分類状況から、当該事
践に対する外在的要因)の影響を共時的・通時的
例記録における実践の内在的諸要素(従属変数)
な側面から分析・考察する研究の一環である(坪
と実践に対する外在的要因(独立変数)を特定す
井2008a,20
08b)。具体的には、方面委員の事例
る。なお、事例記録から抽出したキーワード群を
記録における実践の内在的諸要素(従属変数)と
分類する基準は表1のとおりである4)。
実践に対する外在的要因(独立変数)を特定する
À.テ キ ス ト・マ イ ニ ン グ を 用 い た キ ー
ワード群の抽出と分析
ため、事例記録をテキスト型データ(具体的には
事例記録のキーワード群)に変換し、抽出した各
本稿が分析対象とした方面委員の事例記録を
データを共通のプロセスで分析する。
!
また、本稿で分析対象とする方面委員の事例記
WordMiner (テキスト・マイニングのソフトウ
録(全 日 本 方面 委 員 連 盟1
934−1942)は、拙 稿
エア)で分析し、キーワード群を抽出した。その
(坪井2008b)と同じく『方面委員叢書』各号に
結果は以下のとおりである5)。
掲載されたテキスト型データ(「一般取扱」「生業
扶助」「軍事扶助」「進展事例」の事例記録)であ
1.大阪府における事例記録の分析
008)では、方面
る1)。既に発表した拙稿(坪井2
(1)大阪府①『前非を悔いてぬかづく墓前―前
2)
委員の組織特性類型(Ⅰ〜Ⅷ)から代表事例を抽
科十三犯を精算して四十幾年目に―』
(一般
出し、その特性を分析した。そこで本稿は、上記
取扱1934)
の代表事例(大阪府・京都府・長崎県・東京府・
表2は、大阪府①の事例記録から抽出された
富山県・青森県・佐賀県)も含めた12行政 区 画
キーワード群(総数3
94)のうち、分類項目1〜
(道府県単位)の事例記録を分析対象とする3)。
8(表1)に該当するキーワードである。
さらに抽出した事例記録は以下のプロセスで分
!
(2)大阪府②
無題(進展実例1935)
析する。①WordMiner (テキスト・マイ ニ ン グ
表3は、大阪府①の事例記録から抽出された
のソフトウエア)を用いて、方面委員の事例記録
キーワード群(総数1
16)のうち、分類項目1〜
を分析し、キーワード群を抽出する。②抽出した
8(表1)に該当するキーワードである。
*社会福祉学部准教授
―6
7―
2
9
8
長野大学紀要
表1
番号
第3
0巻第4号 2
0
0
9
抽出したキーワードの分類基準
分類項目
分類基準
0
その他
下記1〜8に該当しないキーワード(ソストウエアの区切り方が不適切なキーワードなども
含む)
1
実践主体
方面委員個人・組織、社会事業・教育・医療・行政・軍関係者・組織に関するキーワード
2
実践の対象者 方面委員による実践の対象者(個人・家族)および対象者に関わるキーワード
3
実践の内容
方面委員個人・組織、関係者・組織の取り組み(活動・事業など)に関するキーワード
4
実践の目的
方面委員による実践の目的(対象者に対する指導方針など)を示すキーワード
5
実践の方法
方面委員による実践の方法(個別処遇など)を示すキーワード
6
政策・制度
救護法(生業扶助)・軍事扶助法(軍事扶助)など実践に関連する政策・制度のキーワード
7
所属組織
方面委員が所属する行政区画単位の組織や方面委員大会(組織的運動)などのキーワード
8
実践地域
方面委員が活動する地域(地名など)のキーワード
表2
番号
抽出したキーワード(大阪府))
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
常務委員 大阪府庁舎新築 XX婦人会 恩賜財団済生会 後援会役員会 再び府社会課
財団済生会 市立市民病院 A常務委員 B方面嘱託医 C委員 D委員 村役場 大阪府
庁舎 E委員 同婦人会 F書記 日本慈済会 婦人会訪問 府社会課 方面委員 方面後
援会 方面後援会役員会 方面事務所 方面事務所使丁 無給奉職 両委員
2
実践の対象者 月給参拾円 xx紡績守衛 ランプ外交員 医療生活 一面家賃滞納数ケ月 横領事件 横
領事件発覚 家屋明渡し 家賃滞納数ケ月 家庭状況 火災保険 学校入学 帰国云々 義
男xx 義男一家 義男帰宅 苦悩極度 兄弟親族 結核性骨髄骨膜炎 月間帳簿整理 月
給金参拾円 元年八月八日生 源吉 戸籍上 荒川政洋服店主 高等女学校入学 高木テル
ノ 骨髄骨膜炎 此間一児 再び罪 再発臥床 三度転居 死亡葬儀 死亡葬儀斡旋 事件
発覚 事務所使丁 自転車車用ランプ外交員 収入皆無 収入不足 就職先XX 就労不能
就労不能臥床 住吉義男 住吉小夜子 十一年退職 十三犯 十二月二十六日退職 所盲腹
炎 親族一統相集ひ一夜 親族一同 全治退院 掃除婦 相当借財 大正七年義男 大正十
一年退職 第一種カード 天地清浄極悪 同年末過労 内縁関係 内縁妻 二十六日退職
日給金七拾円 入学及生活 妊娠中 年末過労 発熱臥床 病臥中 病再発 不能臥床 夫
婦共稼ぎ 扶養関係者 文書偽造 紡績守衛 盲腹炎 洋服裁縫職 洋服店主
3
実践の内容
斡旋方交渉 衣類調製 援助及生活
明 前科抹消 葬儀斡旋 昼間保育
治療 方面救恤金 方面救恤金品等
4
実践の目的
斡旋調停
乳児保護
6
政策・制度
乳児保護資金
7
所属組織
方面委員会
8
実践地域
A市B町
向上更生 指導方針
物質的援助
援助不能 救恤金品等 交通杜絶 慈恵資金 身分証
帳簿整理 当方面救恤金 特別慈恵 入院施療 入院
生活費補助
慈恵
保護資金
A市C区
備考1)組織的運動に関する独立変数は7に含む。
2)
「実践の方法」は抽出されなかったため省略した。
―6
8―
失業者救済
生活安定
生活保証
精神的教化
坪井
真
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析
(2)
表3
番号
2
9
9
抽出したキーワード(大阪府*)
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
委員設置 恩賜財団済生会 救護施設 歳末診療班 済生会診療所 済生会大阪府病院
市立市民病院 市立託児所 施療機関 事業部訪問看護婦 社会事業団 助産婦 小児保健
所 嘱託助産婦 赤十字社病院施療 大阪朝日新聞社 大阪毎日新聞 A病院 同社歳末診
療 同社社会看護婦 同社社会事業部 乳幼児保護協会 病院夜間診療所 府市当局 府立
精神病院 保護協会 方面委員 方面委員設置 方面区域 訪問看護婦 夜間診療所
2
実践の対象者 区域内カード層
3
実践の内容
援助協力 建議折衝 産婦制度 市民病院建設
設 乳幼児保護 妊産婦乳児保護 調査研究
4
実践の目的
保護救済
6
政策・制度
助産婦制度
7
所属組織
常務委員会
結核病者
生活状態
特別カード
妊産婦乳児
事業団嘱託
病院建設
病院施療
病床増
備考1)組織的運動に関する独立変数は7の「所属組織」に含む。
2)
「実践の方法」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表4
番号
抽出したキーワード(大阪府+)
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
教誨師
A先生
担当区域
2
実践の対象者 義務教育 欠食児童 建築請負業 叉下請負 就學児童
土木建築請負業 服役中 野上文一 野上文子
3
実践の内容
方面事務所
4
実践の目的
教化指導
6
政策・制度
生業資金
8
実践地域
A町
教誨
方面委員
通學
通學区域
鉄道工事
家庭調査
教誨指導
善化指導
教化救済
B町
備考:「実践の方法」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表5
番号
抽出したキーワード(大阪府,)
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
A委員
私共方面委員
2
実践の対象者 家屋明渡
3
実践の内容
家賃一切保障
6
政策・制度
生業資金
8
実践地域
郷里岡山県
女子供
B委員
畳屋商売柄
早速援助
方面委員意識
畳表問屋
天引貯金
親戚縁者
長女清子
郵便貯金
貸附け
A区B
C町
来阪
備考:「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
(3)大阪府③『欠食児童の家庭調査より』
(一
(4)大阪府④『資金の融通に依る家運の挽回』
般取扱1938)
(生業扶助1938)
表4は、大阪府①の事例記録から抽出された
表5は、大阪府①の事例記録から抽出された
キーワード群(総数66)のうち、分類項目1〜8
キーワード群(総数87)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
(表1)に該当するキーワードである。
―6
9―
3
0
0
長野大学紀要
表6
番号
第3
0巻第4号 2
0
0
9
抽出したキーワード(大阪府-)
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
方面委員
援護組合
軍人援護會
2
実践の対象者 応召軍人 応召軍人家族 応召後 子供 宮田善次郎 宮田稔 軍人遺家族 軍人家族 原
田清子 自由結婚 収入皆無 出征前 父母 内妻 戦死後 二女秀子 入籍後 六十円程
月収
3
実践の内容
軍人遺家族相談所
6
政策・制度
軍事扶助法
8
実践地域
大阪市A
軍人会館
戸籍整理
御下賜金
説諭致し
其の間軍人援護
軍事扶助
軍人援護
軍事扶助手続
福井県
調停解決
紛議解決
来阪
備考:「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表7
番号
抽出したキーワード(大阪府.)
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
朝日新聞社 愛国婦人会 委員一同 後援機関 社会事業協会 全国方面委員 大阪厚生会
大阪朝日新聞社 婦人会大阪支部 方面委員 方面委員諸氏 社会事業方面事業
2
実践の対象者 入寮者總数
三十五才迄
3
実践の内容
堺母子寮 ファイバー草加工
各デパート 講習期間三ヶ月
授産所並に母子寮 進物容器
4
実践の目的
堺母子寮開設
8
実践地域
我大阪
二十七名 ミシン講習生 軍人遺家族 講習生人員五十名
自宅開業人 失ひ生活困難 入寮者總数二十五世帯 寡婦
自立向上
大阪府
此の人員三十六名
更生途上
ボロ継なぎ 講習期間 蓄貯銀行 下籠細工 家事余暇
授産所 最高一円十銭 最低三十銭 事業資金 授産事業
竹籠製作 籠細工 籠製作 請負制度
授産所開設
政策下請
保護指導
大阪方面
備考:「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表8
番号
抽出したキーワード(静岡県))
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
市当局
C市長
方面委員
方面委員A
2
実践の対象者 乙同意者
子女二名
富田喜十
下山某 家賃滞納常習者 過料減免 該婚姻届
実子二名 就学上 正式婚姻届 内縁妻方戸主
分家手続 両者共有犯者
3
実践の内容
戸籍整理
處理事項
8
実践地域
A郡B町
C市D町
共有犯者
不拘寄留
妻及実子
夫婦両者
妻方戸主
夫婦両名
E村
備考:「実践の目的」
「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
(5)大阪府⑤『内妻の戸籍整理と戦死後の紛議
解決』(軍事扶助1940)
キーワード群(総数1
52)のうち、分類項目1〜
8(表1)に該当するキーワードである。
表6は、大阪府①の事例記録から抽出された
キーワード群(総数100)のうち、分類項目1〜
2.静岡県に於ける事例記録の分析
8(表1)に該当するキーワードである。
(1)静岡県①『日蔭者にも救の手』
(一般取扱
(6)大阪府⑥『授産所と母子寮に付いて』
(進
1934)
展実例1940)
表8は、静岡県①の事例記録から抽出された
表7は、大阪府①の事例記録から抽出された
キーワード群(総数1
16)のうち、分類項目1〜
―7
0―
坪井
真
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析
(2)
表9
番号
3
0
1
抽出したキーワード(静岡県*)
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
委員就任
共農会
2
実践の対象者 カード階級
3
実践の内容
新興生活生殖館
4
実践の目的
衛生思想
福祉増進
奉祀記念事業
家庭不和合
原因多種多様
児童遊園場
勤倹力行
老少敬愛
方面委員
方面委員就任
他町民
乳幼児健康相談
経済更生
公益世務
納税組合
男女青年部
町民一般
妊産婦健康相談
指導精神
伝統的怠惰者
夫々救助
自他相互
精神更生
徹底勤倹貯蓄
備考:「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表1
0 抽出したキーワード(静岡県+)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
一致協力
事業助成会
2
実践の対象者 健康状態
4
実践の目的
将来復興計画
6
政策・制度
生業扶助
8
実践地域
当A市
事業恢復
担当区内
神経衰弱者
A委員
奮闘努力
生活状態
方面事業
誠実勤勉
方面事業助成会
稚雛売買
堀立小屋
養鶏失敗
生業資金
備考:「実践の内容」
「実践の方法」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表1
1 抽出したキーワード(静岡県,)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
方面委員
2
実践の対象者 下層階級
帰還軍人
4
実践の目的
強化善導
精神的指導
8
実践地域
静岡県A郡B村
主働者
銃後家庭
召集令状
石垣春郎
戦線
狼藉言語
老母
精紳指導
備考:「実践の内容」
「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
8(表1)に該当するキーワードである。
(表1)に該当するキーワードである。
(2)静岡県②『新興生活生殖館の建設』
(進展
(5)静岡県⑤『満十三年間一銭の寄附も仰が
実例1935)
ず』(進展実例1940)
表9は、静岡県②の事例記録から抽出された
表12は、静岡県⑤の事例記録から抽出された
キーワード群(総数78)のうち、分類項目1〜8
キーワード群(総数78)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
(表1)に該当するキーワードである。
(3)静岡県③『養鶏失敗による神経衰弱者を救
(6)静岡県⑥『囹圄の者生業資金の援助で更
助』(生業扶助1938)
生』(一般取扱1941)
表10は、静岡県③の事例記録から抽出された
表13は、静岡県⑥の事例記録から抽出された
キーワード群(総数55)のうち、分類項目1〜8
キーワード群(総数58)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
(表1)に該当するキーワードである。
(4)静岡県④『帰還軍人の精神指導と銃後家庭
3.京都府に於ける事例記録の分析
を強化善導』(軍事扶助1940)
表11は、静岡県④の事例記録から抽出された
(1)京 都 府①『救 療 施 設 に 就 て』(進 展 実 例
キーワード群(総数34)のうち、分類項目1〜8
―7
1―
1935)
3
0
2
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
表1
2 抽出したキーワード(静岡県-)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
愛国婦人会 国防婦人会
方面事業 労働者共済会
2
実践の対象者 禁錮 井戸端会議 一般労働者
朝鮮同胞 露店商人
3
実践の内容
相談相手
4
実践の目的
根本原因
6
政策・制度
軍事援護
社会問題
市政執行
生計指導
社会事業
借地借家
社会的施設
庶民金融問題
精神的応援
A市労働者共済会
清水市労働者
方面委員
中産階級
物質的方面
備考:「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表1
3 抽出したキーワード(静岡県.)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
或区裁判所
社会事業
方面委員
2
実践の対象者 カード階級者 一番働手 更生者
理髪組合 老夫婦 艱苦辛酸
3
実践の内容
御援助
4
実践の目的
一向更生
6
政策・制度
生業資金
7
所属組織
奈良県大会
方面事業
在監中
山田耕平
炊事婦
貧困生活
愈々困難
方面委員大会
備考1)組織的運動に関する独立変数は7に含む。
2)
「実践の方法」
「実践地域」は抽出されなかったため省略。
表1
4 抽出したキーワード(京都府))
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
府当局 医師会及薬剤師会 医師並に薬剤師 一般社会事業 A方面委員 B氏
救護施設 救療施設 社会課長社会事業 社会事業施設 医療救護施設 赤十字社京都支部
方面委員 本町診療所
2
実践の対象者 救療患者続出
3
実践の内容
医療救護
4
実践の目的
診療所開設
6
政策・制度
医療規程
7
所属組織
A市方面連合会
8
実践地域
B方面
救療問題
貧困患者
貧困病者
巡回診療
一致協力
規程最低料金
救療問題解決
根本方策
此の救療制度
方面委員制度
方面委員会
A市内
備考1)組織的運動に関する独立変数は7に含む。
2)
「実践の方法」は抽出されなかったため省略した。
表14は、京都府①の事例記録から抽出された
扱1938)
キーワード群(総数86)のうち、分類項目1〜8
表15は、京都府②の事例記録から抽出された
(表1)に該当するキーワードである。
キーワード群(総数98)のうち、分類項目1〜8
(2)京都府②『あまりにも悲惨な!』
(一般取
(表1)に該当するキーワードである。
―7
2―
坪井
真
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析
(2)
3
0
3
表1
5 抽出したキーワード(京都府*)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
委員取扱 結核療養所
學区方面委員 學校長
2
実践の対象者 阿川敏子一家
3
実践の内容
乳児預所
4
実践の目的
教訓的意味
7
所属組織
方面委員會
8
実践地域
A學区
済生會病院
労働者町
無料送付
長屋
一家救助
取扱條項
紙屑買
婦人會
治療困難
平安徳義會
殆ど暗黒世界
方面委員
密集地帯
佛教方面
両親共
乳児保護
極力救助
東西両本願寺
備考1)組織的運動に関する独立変数は7に含む。
2)
「実践の方法」
「政策・制度」は抽出されなかったため省略。
表1
6 抽出したキーワード(京都府+)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
委員一同
方面委員
3
実践の内容
健康相談所
6
政策・制度
生業扶助
7
所属組織
方面委員會
8
実践地域
A区B
塵埃焼却場
塵芥焼却
共同計画
其の採集権
廃物利用
備考1)組織的運動に関する独立変数は7に含む。
2)
「実践の対象者」
「実践の目的」
「実践の方法」は抽出されなかったため省略した。
表1
7 抽出したキーワード(京都府,)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
A委員
2
実践の対象者 湿地
6
政策・制度
B委員
溜り水
軍事扶助
担当区域
共同井戸
更生計画
方面委員
疾病回復後
更生資金
手傅
宿替
召集令状
生活問題
太田軍治君
生業資金
備考:「実践の内容」
「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
(3)京都府③『共同計画に依る生業扶助』
(生
業扶助1938)
表18は、京都府⑤の事例記録から抽出された
キーワード群(総数1
24)のうち、分類項目1〜
表16は、京都府③の事例記録から抽出された
8(表1)に該当するキーワードである。
キーワード群(総数55)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
4.北海道に於ける事例記録の分析
(4)京都府④『病後の妻と三児を残して応召』
(1)北海道①『働く者の喜び』(一般取扱1935)
(軍事扶助1938)
表19は、北海道①の事例記録から抽出された
表17は、京都府④の事例記録から抽出された
キーワード群(総数84)のうち、分類項目1〜8
キーワード群(総数38)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
(表1)に該当するキーワードである。
(2)北海道②
(5)京都府⑤『西陣賃織の向上を図る』
(進展
実例1940)
無題(進展実例1935)
表20は、北海道②の事例記録から抽出された
キーワード群(総数68)のうち、分類項目1〜8
―7
3―
3
0
4
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
表1
8 抽出したキーワード(京都府-)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
恩賜財団済生会 各委員 学区有力者 監督書記一名 京都共済会 京都府社会事業
A財団法人 四学区有力者 社会事業協会 昭和九年府費補助金 方面委員相協力
方面常務委員 法人京都共済会 社会事業
2
実践の対象者 少額生活者
3
実践の内容
共済会F託児所 済生会F救護所 社会施設 社会事業施設 F救護所 F職業練習所
F託児所 F隣保館 総合的社会事業 委員相協力 永久無償提供 屡々陳情 隣保館設置
隣保館建設 協会経営
4
実践の目的
生活刷新強化
7
所属組織
方面連合委員会
8
実践地域
B学区
西陣機業地帯
福利増進
C学区
西陣賃織業者
保護向上
四学区D
定員二十名
密集地帯
迷ふ母親等
要扶掖者
母子保護
A方面
備考1)組織的運動に関する独立変数は7に含む。
2)
「実践の方法」
「政策・制度」は抽出されなかったため省略。
表1
9 抽出したキーワード(北海道))
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
委員受持区域 係員或は本委員
小学校当局 本委員
乞ひ学校当事者
2
実践の対象者 明治十一年生れ 階級集団 窮迫状態 三人暮し
商 通学中 病歿 貧困階級 要保導者 両児童
3
実践の内容
救護継続
現品絵具
計画及経過 救護継続中
就学手続 食料品等現品
4
実践の目的
勤労更生
社会的措置
5
実践の方法
6
政策・制度
7
所属組織
8
実践地域
救護指令
保導台帳
市係員
市内小学校
社会事業
心身状態
生活状態
直接取調べ
発見保導
爾来行商
労働能力
行商方法
青物行
相談指導
生活扶助
A市内
道内
備考:組織的運動に関する独立変数は7の「所属組織」に含む。
表2
0 抽出したキーワード(北海道*)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
A学校長
社会事業
村長並に助役
2
実践の対象者 弟妹
3
実践の内容
相談相手
本村農繁期託児所
4
実践の目的
設立促進
歩合向上
8
実践地域
我北海道
郷土A
村費補助
農繁期託児所
農村部落
備考:「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
―7
4―
部落区長
處女会役員
坪井
真
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析(2)
3
0
5
表2
1 抽出したキーワード(北海道+)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
市当局者
区裁判所
2
実践の対象者 家屋明渡並に家賃
同情致し
家主負担
方面委員
カード階級者
家賃滞納
訴訟費用
支払請求
梅井一家
備考:「実践の内容」
「実践の目的」
「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため
省略した。
表2
2 抽出したキーワード(北海道,)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
方面委員
2
実践の対象者 雑巾刺
3
実践の内容
御同情金
6
政策・制度
物質的救護
親子心中
中漁業家
天秤担ぎ
相当調査
方面委員制度
備考:「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表2
3 抽出したキーワード(北海道-)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
市銃後後援会
2
実践の対象者 応召軍人
6
政策・制度
虐待防止法
受持区域
妻正子
児童虐待
軍事扶助
出征後
軍事扶助金
出征中
生活戦線
軍事扶助法
孫達
豆腐売り
児童虐待防止法
納豆売
老母
生業資金
備考:「実践の内容」
「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表2
4 抽出したキーワード(長崎県))
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
担任教員
2
実践の対象者 年齢不足
3
実践の内容
家庭訪問
8
実践地域
A市B
駐在巡査
悪兄
或料理屋
温順実直
海軍工作廠
現役満期後
病中
父宇平
娘ツル
備考:「実践の目的」
「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
(表1)に該当するキーワードである。
(5)北海道⑤『家業を持続させた体験』
(軍事
(3)北海道③『家主の温情に縋る』
(一般取扱
扶助1938)
1938)
表23は、北海道⑤の事例記録から抽出された
表21は、北海道③の事例記録から抽出された
キーワード群(総数49)のうち、分類項目1〜8
キーワード群(総数60)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
(表1)に該当するキーワードである。
(4)北海道④『困窮の母子を更生させる迄』
(生業扶助1938)
5.長崎県に於ける事例記録の分析
(1)長崎県①『悪兄の奸策を破る隣人愛』
(一
表22は、北海道④の事例記録から抽出された
般取扱1935)
キーワード群(総数25)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
表24は、長崎県①の事例記録から抽出された
キーワード群(総数62)のうち、分類項目1〜8
―7
5―
3
0
6
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
表2
5 抽出したキーワード(長崎県*)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
方面委員
満鉄病院
2
実践の対象者 看護努力
施療患者
8
実践地域
身売
肺出血
妹達
長崎県A
備考:「実践の内容」
「実践の目的」
「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表2
6 抽出したキーワード(長崎県+)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
社会事業協會
2
実践の対象者 製縄
洗ふ
3
実践の内容
共同作業
4
実践の目的
指導奨励
6
政策・制度
救恤資金
7
所属組織
方面委員會
8
実践地域
A町
方面委員一同
防貧事業
製繩 果物商 五人暮し 工場勤め 糸網作業 七家族
第一種カード第二種カード 田口正一 要救護者
製縄事業
十五家族
生活困窮
赤貧
米俵製造
生業資金
備考:1)組織的運動に関する独立変数は7に含む。
2)
「実践の方法」は抽出されなかったため省略した。
表2
7 抽出したキーワード(長崎県,)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
A委員
方面委員
2
実践の対象者 応召軍人家族
6
政策・制度
一時扶助金
8
実践地域
A市
金野三郎君
母子心中
軍事扶助
備考:「実践の内容」
「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
(表1)に該当するキーワードである。
表27は、長崎県④の事例記録から抽出された
(2)長崎県②『身売から救助して就職させるま
で』(一般取扱1938)
キーワード群(総数42)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
表25は、長崎県②の事例記録から抽出された
キーワード群(総数32)のうち、分類項目1〜8
6.広島県に於ける事例記録の分析
(表1)に該当するキーワードである。
(1)広島県①『貪慾男に虐げられる母子』
(一
(3)長崎県③『赤貧洗ふが如き生活困窮から更
般取扱1935)
生迄』(生業扶助1938)
表28は、広島県①の事例記録から抽出された
表26は、長崎県③の事例記録から抽出された
キーワード群(総数53)のうち、分類項目1〜8
キーワード群(総数68)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
(表1)に該当するキーワードである。
(2)広島県②
(4)長崎県④『応召軍人家族が危く母子心中一
歩手前で方面委員に救はる』(軍事扶助1938)
無題(進展実例1935)
表29は、広島県②の事例記録から抽出された
キーワード群(総数1
06)のうち、分類項目1〜
―7
6―
坪井
真
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析
(2)
3
0
7
表2
8 抽出したキーワード(広島県))
番号
分類項目
抽出したキーワード
2
実践の対象者 トタン屋根
排他的思想
バラック建
麦藁菰製作
農村カード者 穴グラ
麦藁倉庫 北村ヒデヨ
菰製作 三畳余り
北村親子 貪慾男
私生女児
4
実践の目的
農村社会施設(筆者注:実践者の要望)無料託児所(筆者注:同左)社会教化
8
実践地域
農村社会
酒瓶菰
備考:「実践主体」
「実践の内容」
「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表2
9 抽出したキーワード(広島県*)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
幹事各四十名 A氏 B翁 A市役所
知識階級 婦人方面委員 副会長二名
2
実践の対象者 家庭生活
3
実践の内容
保育部建築敷地 無料健康診断所 愛護週間行事
第一回相談会 乳幼児保育 保育期間 保育事業
4
実践の目的
保育思想普及
8
実践地域
B全市
左官職工
市内C町
生活戦線
市長夫人
保母二名
社会事業
方面委員
社会事業婦人会
理事十名
助手一名
六歳未満
会則諸規程
保育部建築
健康診断
児愛護週間行事
市内D町
備考:「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表3
0 抽出したキーワード(広島県+)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
受持範囲
県当局
防貧施設
2
実践の対象者 カード階級
殆ど小作農
3
実践の内容
御援助 経済的更生施設 防貧施設事業
兎及屠殺場 夜間組合工場 養兎
4
実践の目的
経済的更生
6
政策・制度
農村振興策
過剰労力
老人婦女
情操教育
農事実行組合
経済上恵まれざる部落民細貧者
隣保組織
農村振興農民精神
第三種カード階級
勤労教育
自然副業
疲弊困憊
遂に無限責任
隣保扶助
備考:「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
8(表1)に該当するキーワードである。
(5)広島県⑤『英霊の心になりて』
(軍事扶助
(3)広島県③『農村振興策としての防貧施設事
1942)
業』(一般取扱1938)
表32は、広島県⑤の事例記録から抽出された
表30は、広島県③の事例記録から抽出された
キーワード群(総数158)のうち、分類項目1〜
キーワード群(総数2
58)のうち、分類項目1〜
8(表1)に該当するキーワードである。
8(表1)に該当するキーワードである。
(4)広島県④『職業斡旋及生業資金により更
生』(生業1938)
7.滋賀県に於ける事例記録の分析
(1)滋賀県①『禍の
表31は、広島県④の事例記録から抽出された
を喜びの生活に
変ヘて』(一般取扱1934)
キーワード群(総数104)のうち、分類項目1〜
8(表1)に該当するキーワードである。
出生地
表33は、滋賀県①の事例記録から抽出された
キーワード群(総数1
05)のうち、分類項目1〜
―7
7―
3
0
8
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
表3
1 抽出したキーワード(広島県,)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
県衛生課
資金貸与機関慈善団体
2
実践の対象者 カード階級 カード患者 一種階級 準二種階級 月収二十円内外
修理見習 修理仕事 生活状況 長男並に次男 病気 扶養義務者
3
実践の内容
無料入院
4
実践の目的
医療救助
6
政策・制度
生業扶助
8
実践地域
A市内
健康相談所
幼児保育
受持区域
親盟会
斡旋及生業
方面委員
方面事業
治療扶養 自転車修理
奉公中 罹病者
高利貸撲滅職業斡旋
相談相手
生業資金
備考:「実践の方法」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表3
2 抽出したキーワード(広島県-)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
監督書記
社会事業
監督判事 関係者一同 刑事課長 憲兵除
社会事業婦人会 主任弁護士 弁護士会長
2
実践の対象者 國民學校 一生離籍 一男二女 応召出征 家庭事情 家庭状況 家庭生活 協議離婚
兄姉行方不明 妻君房代 山田正夫 山田和三郎 四年間家出 姉中川キク 関係者 失踪
宣告 出征前 召集後 召集令状 親族会議 親族入籍 生計不足 戦死後 大西利一
中川宗太郎 調印問題 長姉正路 同一戸籍 文書偽造 別居生活 放蕩無頼 勇躍征途
3
実践の内容
書類並離婚届
4
実践の目的
応援指導
研究調査
戸主更生
6
政策・制度
軍事援護
軍事扶助
軍事扶助金
7
所属組織
方面委員会
8
実践地域
軍都A市
承諾調印
調査中
検事主任
記名調印
御下賜金
更生資金
人事訴訟手続法
方面委員
人事訴訟
裁判所並監督
復興債券
人事訴訟法
法廷取調べ
訴訟手続法
備考1)組織的運動に関する独立変数は7に含む。
2)
「実践の方法」は抽出されなかったため省略した。
表3
3 抽出したキーワード(滋賀県))
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
信用組合
同家訪問
2
実践の対象者 生計費並に材料費 嫁探し 家計困難 山谷勘治 七十余歳竹籠製造
発育状態 半額返済 百円借入 裏長屋住ひ 両家諒解 籠製造
3
実践の内容
健康相談所
6
政策・制度
生業資金
数回貸付
A方面委員
方面委員
長男出生
二人暮し
頼母子講
備考:「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
8(表1)に該当するキーワードである。
(2)滋賀県②
(3)滋賀県③『母子心中の救助から更生へ』
無題(進展実例1935)
(一般取扱1938)
表34は、滋賀県②の事例記録から抽出された
表35は、滋賀県③の事例記録から抽出された
キーワード群(総数100)のうち、分類項目1〜
キーワード群(総数63)のうち、分類項目1〜8
8(表1)に該当するキーワードである。
(表1)に該当するキーワードである。
―7
8―
坪井
真
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析
(2)
3
0
9
表3
4 抽出したキーワード(滋賀県*)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
愛国婦人会支部 一般有志 救護施設
滋賀養老院 社会事業 社会事業協会
2
実践の対象者 窮就学児童
3
実践の内容
隔離病舎
4
実践の目的
思想善導
8
実践地域
A市部
就学児童
委託収容
貧窮生活者
県社会事業 市社会事業 滋賀県育児院
社会事業助成会 方面委員
貧民密集地
一般協力寄附掛け
共同浴場
御内帑金
収容扶助
備考:「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表3
5 抽出したキーワード(滋賀県+)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
検事局
2
実践の対象者 四人暮し
8
実践地域
A委員
方面委員
親子心中
予審判事
尋常五年生
母子心中
木挽小屋
弄火
藁小屋
滋賀県A郡
備考:「実践の内容」
「実践の目的」
「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表3
6 抽出したキーワード(滋賀県,)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
一般講員 解散決議 五峰興風会
日本赤十字社 法人五峰興風会
2
実践の対象者 山路弥三
協議離婚
3
実践の内容
頼母子講
弥三講
4
実践の目的
農村隣保扶助
6
政策・制度
飲食店取締規則
五人暮し
救護法施行
講員諸氏
弱き女
滋賀支部病院
生魚商兼仕出し屋
受持区域
貧乏
赤十字社滋賀支部
老母
生業扶助
備考:「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
(4)滋賀県④『不具の夫を護って健闘する妻』
(生業扶助1938)
キーワード群(総数37)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
表36は、滋賀県④の事例記録から抽出された
(2)東京府②『不幸なる一家を更生に導く迄』
キーワード群(総数86)のうち、分類項目1〜8
(一般取扱1938)
(表1)に該当するキーワードである。
表39は、東京府②の事例記録から抽出された
(5)滋賀県⑤『戦没者の父を生業扶助で精神教
化』(軍事扶助1940)
キーワード群(総数1
48)のうち、分類項目1〜
8(表1)に該当するキーワードである。
表37は、滋賀県⑤の事例記録から抽出された
(3)東京府③『生業扶助刻苦七年、中堅市民と
キーワード群(総数69)のうち、分類項目1〜8
なる』(生業扶助1938)
(表1)に該当するキーワードである。
表40は、東京府③の事例記録から抽出された
キーワード群(総数53)のうち、分類項目1〜8
8.東京府に於ける事例記録の分析
(表1)に該当するキーワードである。
(1)東京府①『貧家の死産を救ふ』(一般1934)
(4)東京府④『不幸な出征軍人家族の保護』
表38は、東京府①の事例記録から抽出された
―7
9―
(軍事扶助1938)
3
1
0
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
表3
7 抽出したキーワード(滋賀県-)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
援護會
2
実践の対象者 一家離散
八月応召
3
実践の内容
一時賜金
4
実践の目的
精神教化
6
政策・制度
軍事扶助
8
実践地域
A郡B町
受持区域
色々激励
音信不通
色々捜査
行方不明
方面委員
自由労働
七男三女
精神病者
石山金次郎
戦歿者
生業扶助
備考:「実践の方法」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表3
8 抽出したキーワード(東京府))
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
近所隣り
2
実践の対象者 出稼中
3
実践の内容
A医師宅
臨月
受持方面委員宅
産婆
方面委員
赤貧洗ふ
スピード救護
備考:「実践の目的」
「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表3
9 抽出したキーワード(東京府*)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
人事相談部
A警察署
同委員宅
B警察署
2
実践の対象者 安太郎 営業不振 家賃滞納 女給生活 窮迫状態勤勉努力 難病 復縁 婚姻解消 妻蓉
子 市内某カフェー 市立尋常小学校 疾病全快 屡々口論 屡々立退 取扱世帯構成員
深夜帰宅 尋常小学校使丁 正二一家 生来癇癖 専心疾病 痛々しき姿 独立経営
日給一円五銭 父子四名 歩行不自由 方面世帯 殆んど入質売却處分 幼児三名
3
実践の内容
父子ホーム
4
実践の目的
頽勢挽回
6
政策・制度
無料診療券
8
実践地域
C区D
交付手続
無償貸与
生活扶助
方面救助規程
備考:「実践の方法」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表4
0 抽出したキーワード(東京府+)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
方面事務所
2
実践の対象者 製材工場
4
実践の目的
復活更正
6
政策・制度
生業扶助
方面委員
屋外労働
月収六十圓
職工
刃物研ぎ
製本工場
中堅市民
生業資金
備考:「実践の内容」
「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
―8
0―
電話交換手
坪井
真
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析(2)
3
1
1
表4
1 抽出したキーワード(東京府,)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
A産院
方面委員
2
実践の対象者 カード階級
3
実践の内容
年末同情週間
6
政策・制度
軍事扶助
某病院
就学年齢
出征軍人家族
入院患者
備考:「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表4
2 抽出したキーワード(東京府-)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
東京府方面委員 委員T氏 区内有志 区内有力者 町会議員 同僚委員 日本赤十字社
保育職員 保母一名 方面委員 方面委員長方面事業 方面事務所 某侯爵
2
実践の対象者 要保護者生活
3
実践の内容
新築寄付 寄付金募集 寄付予定額 協力支援 設置運動 総合的施設 総合保護施設
第一次事業 第五次事業 第四次事業 第六次事業 貯蓄米 白米廉売所 払下米 保護施
設 保護事業 方面館設置運動
4
実践の目的
事業進展
6
政策・制度
方面委員制度
7
所属組織
方面委員会
8
実践地域
東京市A地域B区
経済的理由
事業発展
後備役陸軍砲兵
総合保護
其の母達
要援護者
要保護者
廉売収入
方面事業進展
備考1)組織的運動に関する独立変数は7に含む。
2)
「実践の方法」は抽出されなかったため省略した。
表4
3 抽出したキーワード(富山県))
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
慈済院保育部
2
実践の対象者 精神耗弱者
3
実践の内容
児童保護事業
4
実践の目的
社会問題
7
所属組織
B方面委員会
8
実践地域
A郡B村
社会事業
授産事業部
乳幼児救護院
方面委員
殆ど失業状態
授産事業
保護事業
児童保護
方面委員連合会
備考1)組織的運動に関する独立変数は7に含む。
2)
「実践の方法」
「政策・制度」は抽出されなかったため省略。
表41は、東京府④の事例記録から抽出された
8(表1)に該当するキーワードである。
キーワード群(総数34)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
9.富山県に於ける事例記録の分析
(5)東京府⑤『総合保護施設の出現迄』
(進展
(1)富山県①
実例1940)
無題(進展実例1935)
表43は、富山県①の事例記録から抽出された
表42は、東京府⑤の事例記録から抽出された
キーワード群(総数157)のうち、分類項目1〜
キーワード群(総数61)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
―8
1―
3
1
2
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
表4
4 抽出したキーワード(富山県*)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
事業助成會
2
実践の対象者 芸妓上
3
実践の内容
受持区域
方面委員
國防婦人會
従兄妹
出征軍人
召集令状
子供
監督指導
方面事業
藤田三郎
方面事業助成
日本帝國臣民
妊娠三箇月
監督輔導
備考:「実践の目的」
「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表4
5 抽出したキーワード(富山県+)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
受持委員
助産婦
助成會
2
実践の対象者 簡易アパート 給食児童 此の伝染病患者
皮膚病患者六畳二間 和田セツ 學生生活
6
政策・制度
失業女給
學用品
心臓麻痺
先づ転校手続
二種取扱
救護手続
備考:「実践の内容」
「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表4
6 抽出したキーワード(富山県,)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
取調べ官
2
実践の対象者 長女光子 改心自首 行方不明
夫宮本鉄三 國民學校
6
政策・制度
健康保険
受持巡査
A医師
山ロキミ
新聞配達
前科二犯
怠惰放蕩
長男孝吉
母子保護法
備考:「実践の内容」
「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表4
7 抽出したキーワード(青森県))
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
社会教育或は学校 学校教育 学校当事者 義務教育
十字社 社会事業家 青森県方面委員 A市方面委員
方面委員 方面精神 社会教育 方面委員設置
2
実践の対象者 子守本人
3
実践の内容
子守児童託児所
4
実践の目的
教育的意義
8
実践地域
B町
社会的障害
育児事業
教育的態度
青森県方面
出校不可能
教育経営 児童保護会 社会課並赤
赤十字社支部 担当区域 父兄有志
小学校小守児童
学校託児
教育的施設
尋常小学校
校外指導
弟妹
児童生活指導
養老救護院
生活指導
A市方面
備考:「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
(2)富山県②『不倫の養母を監督輔導し後顧の
憂をなくす』(軍事扶助1940)
表45は、富山県③の事例記録から抽出された
キーワード群(総数64)のうち、分類項目1〜8
表44は、富山県②の事例記録から抽出された
キーワード群(総数87)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
(4)富山県④『悲運な一家を見護りて』
(生業
(表1)に該当するキーワードである。
扶助1942)
(3)富 山 県③『失 業 女 給 を 更 生』(一 般 取 扱
1941)
表46は、富山県④の事例記録から抽出された
キーワード群(総数1
71)のうち、分類項目1〜
―8
2―
坪井
真
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析(2)
3
1
3
表4
8 抽出したキーワード(青森県*)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
方面委員
助成會
2
実践の対象者 カード階級
6
政策・制度
融和地区
少額生業資金
老孤独者
生業資金
備考:「実践の内容」
「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表4
9 抽出したキーワード(青森県+)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
済生會
担当区域
2
実践の対象者 一日十銭
6
政策・制度
生業扶助費
8
実践地域
A郡B村
方面委員
戸主初太郎
小製縄機
生活困窮
製莚機縄綯ひ
負債償還
扶助更生
備考:「実践の内容」
「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表5
0 抽出したキーワード(青森県,)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
軍事援護會
方面委員
2
実践の対象者 銃後家庭
豆腐製造
入営後
6
政策・制度
軍事援護
軍事扶助
生業扶助
8
実践地域
東北唯一
武運長久
満洲部隊
生活扶助
生業資金
備考:「実践の内容」
「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
8(表1)に該当するキーワードである。
後家庭を援護』(軍事扶助1940)
表50は、青森県④の事例記録から抽出された
10.青森県に於ける事例記録の分析
キーワード群(総数32)のうち、分類項目1〜8
(1)青森県①
(表1)に該当するキーワードである。
無題(進展実例1935)
表47は、青森県①の事例記録から抽出された
(5)青森県⑤『半島同胞出身もこの努力』
(進
キーワード群(総数140)のうち、分類項目1〜
展実例1940)
8(表1)に該当するキーワードである。
表51は、青森県⑤の事例記録から抽出された
(2)青森県②『老孤独者を救助し感謝の生活へ
導く』(一般取扱1938)
キーワード群(総数1
24)のうち、分類項目1〜
8(表1)に該当するキーワードである。
表48は、青森県②の事例記録から抽出された
キーワード群(総数16)のうち、分類項目1〜8
11.香川県に於ける事例記録の分析
(表1)に該当するキーワードである。
(1)香 川 県①『国 庫 の 補 助 必 要』(一 般 取 扱
(3)青森県③『生活困窮から扶助更生』
(生業
1941)
扶助1938)
表52は、香川県①の事例記録から抽出された
表49は、青森県③の事例記録から抽出された
キーワード群(総数31)のうち、分類項目1〜8
キーワード群(総数36)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
(表1)に該当するキーワードである。
(4)青森県④『生活扶助を生業扶助に変えて銃
―8
3―
3
1
4
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
表5
1 抽出したキーワード(青森県-)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
方面事業
慈恵会
上層階級
2
実践の対象者 王得侠 温良純朴 救護階級 屑物拾ひ
不良住宅群 扶掖救護階級 封建的気風
3
実践の内容
授産所兼講堂
4
実践の目的
国民的良心
隣保相扶
6
政策・制度
軍事扶助
8
実践地域
小商工都市A市
精神運動
慈恵
担当区域内
総力運動
自立独行
方面委員
方面地区
方面世帯地図
屑物買 生活問題 半島同胞 貧民部落
方面世帯 要救護者 要扶掖者
物質運動
銃後後援
祖国愛精神内鮮融和
扶掖救護
鞭撻救助
母子保護法
B平野
本州青森県
備考:「実践の方法」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表5
2 抽出したキーワード(香川県))
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
方面委員
2
実践の対象者 花売
3
実践の内容
任意保護
4
実践の目的
補助必要(筆者注:方面委員からの提案・要望)
6
政策・制度
救護法
始終呼吸器病
事業不振
丁稚奉公
夫婦共稼ぎ
籐細工
隨分気の毒
救助
備考:「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表5
3 抽出したキーワード(佐賀県))
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
A市方面事業
2
実践の対象者 市内生活困窮者
3
実践の内容
授産事業
4
実践の目的
生活困窮者救済
方面事業助成会
市内某鉄工場
第一授産場
失業者
第二授産場
生活困窮者
叺及繩
備考:「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
12.佐賀県に於ける事例記録の分析
(3)佐賀県③『沈淪の淵より一家を救出更生の
(1)佐賀県①『都市の部―A市方面事業助成会
首途ヘ』(一般取扱1941)
の授産事業』(進展実例1935)
表55は、佐賀県③の事例記録から抽出された
表53は、佐賀県①の事例記録から抽出された
キーワード群(総数44)のうち、分類項目1〜8
キーワード群(総数42)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
(表1)に該当するキーワードである。
(4)佐賀県④『二十年来苦心育成した三子と其
(2)佐賀県②『農村之部―佐賀県A郡B村隣保
老母』(軍事扶助1941)
事業』(進展実例1935)
表56は、佐賀県④の事例記録から抽出された
表54は、佐賀県②の事例記録から抽出された
キーワード群(総数50)のうち、分類項目1〜8
キーワード群(総数27)のうち、分類項目1〜8
(表1)に該当するキーワードである。
(表1)に該当するキーワードである。
(5)佐賀県⑤『夫の没後辛苦十年一家を更生』
―8
4―
坪井
真
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析
(2)
表5
4 抽出したキーワード(佐賀県*)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
学校職員
村篤志家
方面委員
方面委員長
3
実践の内容
講演講話
人事相談
貯金奨励
保健衛生
4
実践の目的
窮民救助
生活改善
7
所属組織
B村方面委員会
8
実践地域
佐賀県A郡B村
役場職員
隣保事業
農村之部
備考1)組織的運動に関する独立変数は7に含む。
2)
「実践の対象者」
「実践の方法」
「政策・制度」は抽出されなかったため省略した。
表5
5 抽出したキーワード(佐賀県+)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
助成會職業紹介所
方面委員
2
実践の対象者 所謂癩病
癩病患者
3
実践の内容
色々説諭
就學奨脚金
4
実践の目的
救出更生
8
実践地域
九州
親
市役所
中村八郎
癩収容所
道路工事
日傭稼
備考:「実践の方法」
「政策・制度」
「所属組織」は抽出されなかったため省略した。
表5
6 抽出したキーワード(佐賀県,)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
軍人援護會
2
実践の対象者 老母
3
実践の内容
特別賜金
6
政策・制度
軍人援護
女子師範學校
満期除隊
軍事扶助
備考:「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
表5
7 抽出したキーワード(佐賀県-)
番号
分類項目
抽出したキーワード
1
実践主体
銃後奉公會
方面地域
2
実践の対象者 長男入営前 奉公中 國民學校高等科 応召軍人遺家族 桶製造 下女奉公 家賃三間
義務教育 軍人遺家族 高等小學校卒業 自転車屋 性質温順 青物行 大森次郎
入隊者家族 國民學校 歿後辛苦
3
実践の内容
戸別調査
6
政策・制度
生活扶助
備考:「実践の目的」
「実践の方法」
「所属組織」
「実践地域」は抽出されなかったため省略した。
(生業扶助1942)
(表1)に該当するキーワードである。
表57は、佐賀県⑤の事例記録から抽出された
キーワード群(総数94)のうち、分類項目1〜8
―8
5―
3
1
5
3
1
6
長野大学紀要
第3
0巻第4号 2
0
0
9
ような特徴は、方面委員の実践が政策・制度に影
Á.分析結果のまとめ
響を受けていただけでなく、課題解決に応じた制
まず、分類項目1(実践主体)では、方面委員
が単独で活動している事例は少なく、複数の方面
度利用という側面も示唆しているのではないだろ
うか。
委員と連携している事例記録が多い。また、方面
分類項目7(所属組織)は、抽出された記録と
委員助成会や社会事業関係組織だけでなく、医療
未抽出の記録がある。さらに抽出された事例記録
(特に恩賜財団済生会や日本赤十字社の所謂施療
の殆どは方面委員と所属組織が関わっていた事実
機関)や行政・司法関係組織との連携もみられ
を示しているに過ぎない。唯一、「②方面委員の
る。
組織的運動」に関するキーワードを示している事
分類項目2(実践の対象者)は、多くの事例記
例記録は静岡県⑥(一般取扱1941)である。しか
録でキーワード数が最も多く、方面委員の事例記
しながら、静岡県⑥の事例記録も含めて、
「④所
録の特徴(すなわち実践の対象者と関連事項を詳
属組織の特性」を示すキーワードは抽出されな
細に記述している点)が明示されている。この項
かった。むしろ、幾つかの「進展実例」が当該組
目におけるキーワードを概観すると、失業や疾
織(事例記録を記した方面委員の所属組織)の特
病、心身の障がいなどの理由により生活課題を
徴を示しているといえよう。
もっている人が多い。また、分類項目6(政策・
分類項目8(実践地域)のキーワードが抽出さ
制度)と関連づけるならば、「生活扶助」の事例
れた事例記録は、当該事例にかかわる方面委員の
記録は救護法の制度的支援が主体であり、
「軍事
活動地域や担当地区を示している場合が多い。ま
扶助」に関する一部の事例も「生活扶助」関連の
た、実践の対象者の出生地や生活歴にかかわる
支援で 課 題 解 決 を 試 み て い る。一 方、
「一 般 取
キーワードも含まれている。
扱」の事例記録は対象者も多様であり、支援が失
このように各分類項目のキーワードは、事例記
敗している事例(たとえば広島県①の『貪慾男に
録単位で異なる特徴を示した。とりわけ、分類項
虐げられる母子』など)もある。
目2(実践の対象者)のキーワードは多種多様で
このような事例内容の多様性は、分類項目3
ある。また、分類項目1(実践主体)のキーワー
(実践の内容)にも示されている。この項目で
ドは、抽出された事例記録に限っていえば、方面
は、(必ずしも多くはないが)それぞれの事例記
委員が同僚委員や所属組織だけでなく、様々な関
録に関連するキーワードが事例を特徴づけている
係者や関係組織と連携を図っていることが理解で
といえよう。また、分類項目4(実践の目的)も
きる。
全般的にキーワードは少ないが、方面委員の実践
を特徴づける内容である。たとえば「教化指導」
注
「善 化 指 導」「教 化 救 済」
(大 阪 府/一 般 取 扱
1)①一般取扱:本研究では、『方面委員叢書第一号
1938)や「復活更正」(東京府/生業扶助1938)、
方面委員取扱実例集』
(全日本方面委員連盟1
9
3
4)の
「農村隣保扶助」(静岡県/生業扶助1938)、「強
「取扱事件に関する実例」
、『方面委員叢書第二号
化善導」「精神的指導」(静岡県/軍事扶助1940)
方面委員取扱実例集』
(全日本方面委員連盟1
9
3
5)の
など当該事例にかかわる方面委員の姿勢や対象者
「一般取扱事件に関する実例」
、『方面委員叢書第十
観を示唆するキーワードが示されている。一方、
号
分類項目5(実践の方法)に該当するキーワード
員連盟1
9
3
8)
、『方面委員叢書第十三号
は全ての事例記録から抽出されなかった。
例(方面委員取扱)
』
(全日本方面委 員 連 盟1
9
4
0)
、
分類項目6(政策・制度)は前述した救 護 法
一般取扱実話(方面委員取扱)
』
(全日本方面委
『方面委員叢書第十七号
一般取扱実
方面委員取扱実例集』
(全
(生活扶助)や軍事扶助法(軍事扶助)のキー
日本方面委員連盟1
9
4
1)の「一般取扱」
、『方面委員
ワードだけでなく、「児童虐待防止法」(北海道/
叢書第十九号
軍事扶助1938)や「母子保護法」
(青森県/進展
録』
(全日本方面委員連盟1
9
4
2)の該当事例を「一般
実例1940)などの関連制度も示されている。この
取扱」と総称する。
―8
6―
方面委員取扱実例集
まごころの記
坪井
真
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析(2)
3
1
7
②生業扶助:本研究では、『方面委員叢書第一号
組織の設立主体が行政機関以外、委員の名称が方面
方面委員取扱実例集』
(全日本方面委員連盟1
9
3
4)の
委員、行政区画の規模が市町村である。[類型Ⅷ]設
「生業扶助に関する実例」
、『方面委員叢書第二号
立当初における組織の設立主体が行政機関以外、委
方面委員取扱実例集』
(全日本方面委員連盟1
9
3
5)の
員の名称が方面委員、行政区画の規模が道府県であ
「生業扶助に関する実例」
、『方面委員叢書第九号
る。
生業扶助実話(方面委員取扱)
』
(全日本方面委員連
盟1
9
3
8)
、『方面委員叢書第十七号
3)分析対象の事例記録を抽出する論拠は、以下のと
方面委員取扱実
おりである。①行政区画単位の組織化に基づき方面
例集』
(全日本方面委員連盟1
9
4
1)の「生業援護」
、
委員の実践は進展してきたという先行研究の成果を
『方面委員叢書第十九号
ま
基盤とする。具体的には、本研究(第1章第4節)
ごころの記録』
(全日本方面委員連盟1
9
4
2)の該当事
方面委員取扱実例集
で分析した方面委員の所属組織特性類型(Ⅰ〜Ⅷ)
例を「生業扶助」と総称する。
のうち、複数の行政区画が属する類型(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ
③軍事扶助:本研究では、『方面委員叢書第十一号
・Ⅳ)から2つの行政区画を抽出し、単独の行政区
軍事扶助実話(方面委員取扱)
』
(全日本方面委員
画が属する類型(Ⅴ・Ⅵ・Ⅶ・Ⅷ)は当該行政区画
連盟1
9
3
8)
、『方面委員叢書第十二号
軍事援護実例
を抽出する。②原則として、3つの内容類型(
「一般
(方面委員取扱)
』
(全日本方面委員連盟1
9
4
0)
、『方
取扱」
「生業扶助」
「軍事扶助」
)が全て揃った行政区
面委員叢書第十七号
方面委員取扱実例集』
(全日本
画の事例記録を抽出する。Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳの類型で
方面委員連盟1
9
4
1)の「軍事援護」
、『方面委員叢書
上記の内容類型が揃った行政区画が3地域以上ある
第十九号
まごころの記録』
場合は、次の基準として「進展実例」の事例記録が
(全日本方面委員連盟1
9
4
2)の該当事例を「軍事扶
掲載された行政区画を抽出する。以上の論拠に基づ
助」と総称する。
き抽出した事例記録は下記のとおりである。
方面委員取扱実例集
④進展実例:本研究では、『方面委員叢書第二号
[組織特性類型Ⅰ]
(計1
2件)
方面委員取扱実例集』
(全日本方面委員連盟1
9
3
5)の
大阪府①『前非を悔いてぬかづく墓前―前科十三
「近隣の状況に鑑み方面委員として特に発達を促せ
犯を精算して四十幾年目に―』
(一般取扱1
9
3
4)
。大
る社会事業に関する実例」および『方面委員叢書第
阪府②
十六号
無題(進展実例1
9
3
5)
。大阪府③『欠食児童
方面委員取扱進展実例集』
(全日本方面委員
の家庭調査より』
(一般取扱1
9
3
8)
。大阪府④『資金
連盟1
9
4
0)に記載された事例記録を「進展実例」と
の融通に依る家運の挽回』
(生業扶助1
9
3
8)
。大阪府
総称する。
⑤『内妻の戸籍整理と戦死後の紛議解決』
(軍事扶助
2)拙稿(坪井2
0
0
8b)の分析結果に基づく組織特性類
1
9
4
0)
。大阪府⑥『授産所と母子寮に付いて』
(進展
型の特徴は次のとおりである。[類型Ⅰ]設立当初に
実例1
9
4
0)
。静岡県①『日蔭者にも救の手』
(一般取
おける組織の設立主体が行政機関、委員の名称が方
扱1
9
3
4)
。静岡県②『新興生活生殖館の建設』
(進展
面委員、行政区画の規模が道府県である。[類型Ⅱ]
実例1
9
3
5)
。静岡県③『養鶏失敗による神経衰弱者を
設立当初における組織の設立主体が行政機関、委員
救助』
(生業扶助1
9
3
8)
。静岡県④『帰還軍人の精神
の名称が方面委員以外、行政区画の規模が道府県で
指導と銃後家庭を強化善導』
(軍事扶助1
9
4
0)
。静岡
ある。[類型Ⅲ]設立当初における組織の設立主体が
県⑤『満十三年間一銭の寄附も仰がず』
(進展実例
行政機関、委員の名称が方面委員、行政区画の規模
1
9
4
0)
。静岡県⑥『囹圄の者生業資金の援助で更生』
が市町村である。[類型Ⅳ]設立当初における組織の
(一般取扱1
9
4
1)
。
設立主体が行政機関以外、委員の名称が方面委員以
[組織特性類型Ⅱ]
(計1
0件)
外、行政区画の規模が道府県である。[類型Ⅴ]設立
京都府①『救療施設に就て』
(進展実例1
9
3
5)
。京
当初における組織の設立主体が行政機関、委員の名
都府②『あまりにも悲惨な!』
(一般取扱1
9
3
8)
。京
称が方面委員以外、行政区画の規模が市町村で あ
都府③『共同計画に依る生業扶助』
(生業扶助1
9
3
8)
。
る。[類型Ⅵ]設立当初における組織の設立主体が行
京都府④『病後の妻と三児を残して応召』
(軍事扶助
政機関以外、委員の名称が方面委員以外、行政区画
1
9
3
8)
。京都府⑤『西陣賃織の向上を図る』
(進展実
の規模が市町村である。[類型Ⅶ]設立当初における
例1
9
4
0)
。北 海 道①『働 く 者 の 喜 び』
(一 般 取 扱
―8
7―
3
1
8
長野大学紀要
1
9
3
5)
。北海道②
第3
0巻第4号 2
0
0
9
無題(進展実例1
9
3
5)
。北海 道③
香川県①『国庫の補助必要』
(一般取扱1
9
4
1)
『家 主 の 温 情 に 縋 る』
(一 般 取 扱1
9
3
8)
。北 海 道④
[組織特性類型Ⅷ]
(計5件)
『困窮の母子を更生させる迄』
(生業扶助1
9
3
8)
。北
佐賀県①『都市の部―A市方面事業助成会の授産
海道⑤『家業を持続させた体験』
(軍事扶助1
9
3
8)
。
事業』
(進展実例1
9
3
5)
。佐賀県②『農村之部―佐賀
[組織特性類型Ⅲ]
(計9件)
県A郡B村 隣 保 事 業』
(進 展 実 例1
9
3
5)
。佐 賀 県③
長崎県①『悪兄の奸策を破る隣人愛』
(一般取扱
『沈淪の淵より一家を救出更生の首途ヘ』
(一般取扱
1
9
3
5)
。長崎県②『身売から救助して就職させるま
1
9
4
1)
。佐賀県④『二十年来苦心育成した三子と其老
で』
(一般取扱1
9
3
8)
。長崎県③『赤貧洗ふが如き生
母』
(軍事扶助1
9
4
1)
。佐賀県⑤『夫の没後辛苦十年
活困窮から更生迄』
(生業扶助1
9
3
8)
。長崎県④『応
一家を更生』
(生業扶助1
9
4
2)
召軍人家族が危く母子心中一歩手前で方面委員に救
なお、事例記録に記載された固有名詞の扱いは研
はる』
(軍事扶助1
9
3
8)
。広島県①『貪慾男に虐げら
究倫理の観点から配慮する必要がある。上記の事例
れる母子』
(一般取扱1
9
3
5)
。広島県②無題(進展実
記録を確認したところ、方面委員が支援する人達の
例1
9
3
5)
。広島県③『農村振興策としての防貧施設事
氏名は全て仮名で記載されていた。そこで本研究も
業』
(一般取扱1
9
3
8)
。広島県④『職業斡旋及生業資
原文のまま仮名を記載する。一方、本文と各表で記
金により更生』
(生業1
9
3
8)
。広島県⑤『英霊の心に
載した実践主体(実名)および事例記録の地名(道
なりて』
(軍事扶助1
9
4
2)
府県と市を除く固有名詞)は匿名に置き換える。
[組織特性類型Ⅳ]
(計1
0件)
滋賀県①『禍の
出生地
4)①組 織 的 運 動 に 関 す る 独 立 変 数 は7の「所 属 組
を喜びの生活に変ヘて』
!
織」に 含 む。②WordMiner の 分 析 で は「基 数2〜
(一般取扱1
9
3
4)
。滋賀県②無題(進展実例1
9
3
5)
。滋
3」
(単語を2〜3の範囲で組み合わせる)と設定し
賀 県③『母 子 心 中 の 救 助 か ら 更 生 へ』
(一 般 取 扱
たため、同じ語を含むキーワードが複数抽出さ れ
1
9
3
8)
。滋賀県④『不具の夫を護って健闘する妻』
る。分 類 項 目1〜8と 同 じ 語 を 含 む キ ー ワ ー ド は
(生業扶助1
9
3
8)
。滋賀県⑤『戦没者の父を生業扶助
「その他」に分類した。③時期(元号や年)に関す
で精神教化』
(軍事扶助1
9
4
0)
。東京府①『貧家の死
るキーワードは少ないため、別の分析方法(詳細は
産を救ふ』
(一般1
9
3
4)
。東京府②『不幸なる一家を
後 述)で 分 類 す る。ま た、表1で 示 し た 分 類 項 目
更生に導く迄』
(一般取扱1
9
3
8)
。東京府③『生業扶
は、下記のとおり拙稿(坪井2
0
0
8b)が設定した従属
助刻苦七年、中堅市民となる』
(生業扶助1
9
3
8)
。
東京
変数(方面委員による実践の内在的諸要素)と独立
府④『不 幸 な 出 征 軍 人 家 族 の 保 護』
(軍 事 扶 助
変数(方面委員の実践を取り巻く外在的要因)に該
1
9
3
8)
。東京府⑤『総合保護施設の出現迄』
(進展実
当する。
例1
9
4
0)
[分 類 項 目1:実 践 主 体]従 属 変 数 の「①実 践 主
[組織特性類型Ⅴ]
(計4件)
体」に該当する。
富山県①無題(進展実例1
9
3
5)
。富山県②『不倫の
[分類項目2:実践の対象者]従属変数の「②実践
養 母 を 監 督 輔 導 し 後 顧 の 憂 を な く す』
(軍 事 扶 助
の対象者」に該当する。
1
9
4
0)
。富 山 県③『失 業 女 給 を 更 生』
(一 般 取 扱
[分類項目3:実践の内容]従属変数の「③実践の
1
9
4
1)
。富山県④『悲運な一家を見護りて』
(生業扶
内容」に該当する。
助1
9
4
2)
[分類項目4:実践の目的]従属変数の「④実践の
[組織特性類型Ⅵ]
(計5件)
目的」に該当する。
青森県①無題(進展実例1
9
3
5)
。青森県②『老孤独
[分類項目5:実践の方法]従属変数の「⑤実践の
者を救助し感謝の生活へ導く』
(一般取扱1
9
3
8)
。青
方法」に該当する。
森県③『生活困窮から扶助更生』
(生業扶助1
9
3
8)
。
[分類項目6:政策・制度]独立変数の「①方面委
青森県④『生活扶助を生業扶助に変えて銃後家庭を
員に関連する政策」に該当する。
援護』
(軍事扶助1
9
4
0)
。青森県⑤『半島同胞出身も
[分類項目7:所属組織]独立変数の「②方面委員
この努力』
(進展実例1
9
4
0)
の組織的運動」と「④所属組織の特性」に該当する。
[組織特性類型Ⅶ]
(計1件)
[分類項目8:実践地域]独立変数の「③実践地域
―8
8―
坪井
真
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析
(2)
の特性」に該当する。
3
1
9
業扶助実話(方面委員取扱)
』全日本方面委員連盟
5)表2〜表5
7のキーワードには、現代日本の社会通
全日本方面委員連盟(1
9
3
8)
『方面委員叢書第十号
念上、不適切な表現も含 ま れ て い る。し か し な が
般取扱実話(方面委員取扱)
』全日本方面委員連盟
ら、分析対象の方面委員による実践特性を示すキー
全日本方面委員連盟(1
9
3
8)
『方面委員叢書第十一号
ワードとして、本稿は事例記録から抽出された原文
のまま記載した。
一
軍事扶助実話(方面委員取扱)
』全日本方面委員連盟
全日本方面委員連盟(1
9
4
0)
『方面委員叢書第十二号
軍事援護実例(方面委員取扱)
』全日本方面委員連盟
文
献
全日本方面委員連盟(1
9
4
0)
『方面委員叢書第十三号
坪井真(2
0
0
8a)
「方面委員に関する先行研究のメタ分
析」
『長野大学紀要』3
0(1)
、7
1−8
3
一般取扱実例(方面委員取扱)
』全日本方面委員連盟
全日本方面委員連盟(1
9
4
0)
『方面委員叢書第十六号
坪井真(2
0
0
8b)
「方面委員に関する先行研究のメタ分
析」
『長野大学紀要』3
0(3)
、7
1−8
6
方面委員取扱進展実例集』全日本方面委員連盟
全日本方面委員連盟(1
9
4
1)
『方面委員叢書第十七号
全国民生委員児童委員協議会(1
9
8
8)
『民生委員制度七
十年史』全国民生委員児童委員協議会
全日本方面委員連盟(1
9
3
4)
『方面委員叢書第一号
方面委員取扱実例集』全日本方面委員連盟
全日本方面委員連盟(1
9
4
1)
『方面事業二十年史』遠藤
方
興一解説(1
9
9
7)
「戦前期社会事業基本文献集5
4」日
面委員取扱実例集』全日本方面委員連盟
全日本方面委員連盟(1
9
3
5)
『方面委員叢書第二号
本図書センター
方
全日本方面委員連盟(1
9
4
2)
『方面委員叢書第十九号
面委員取扱実例集』全日本方面委員連盟
全日本方面委員連盟(1
9
3
8)
『方面委員叢書第九号
方面委員取扱実例集
生
―8
9―
委員連盟
まごころの記録』全日本方面
長野大学紀要
第30巻総目次
第3
0巻第1号(通巻第1
1
3号)2
0
0
8年6月
退職記念号の発刊によせて ………………………………………………嶋 田 力 夫
<論
文>
グラムシの教育思想 ………………………………………………………黒 沢 惟 昭………1
就労支援の援助技術に関する事例による考察 ……高 原 優美子・鳥 羽 信 行………1
1
現代日本自動車産業労働職場の実態調査研究の再検討その2
『日本のリーン生産方式―自動車企業の事例―』
(石田光男・藤村博之・久本憲夫・松村文人著 1
9
9
7)に寄せて
…………………………………………………………………………野 原
光………1
9
社会福祉的支援の根拠について …………………………………………樋 澤 吉 彦………3
5
時代に合った語学教育システムの開発および導入の必要性について
…………………………………………………………………ビラール イリヤス………4
7
双方向性テレビ電話コミュニケーションによる独居男性老人の精神的支援
河野 伸造・旭 洋一郎・佐藤 園美・野口友紀子
稲木康一郎・鷹野 和美・前川 道博………5
9
<研 究 ノ ー ト>
方面委員に関する先行研究のメタ分析 …………………………………坪 井
真………7
1
<研 究 業 績 一 覧>
2
0
0
7年 教員研究業績 ………………………………………………………………………………8
7
<そ
の
他>
天野勝行教授 略歴および主要著作 ……………………………………………………………………1
0
5
―9
1―
第3
0巻第2号(通巻第1
1
4号)2
0
0
8年9月
<論
文>
健常幼児および脳性まひ児における握力調整の特徴
………………………………葉 石 光 一・奥 住 秀 之・國 分
充
小 松
歩・北 島 善 夫・細 渕 富 夫………1
大学初年次生のための文章表現指導
―再履修生の実態とその評価―
…………………………………………………………………………金 子 泰 子………1
3
マルクスの主体形成論の再審
―「プロレタリアート」概念を視軸に―
…………………………………………………………………………黒 沢 惟 昭………2
7
上田小県地域の青年団活動と「社会的教養」
―『西塩田時報』を中心に―
…………………………………………………………………………長 島 伸 一………3
9
イノベーション創発の要因と概念的枠組み
…………………………………………………………………………森
俊 也………5
5
<2
0
0
7年度長野大学地域研究・一般研究助成金による研究報告>
(研究A)
「限界集落の実態に関する調査研究」報告書
…………………………………………………………………………大 野
晃………6
9
地域密着型サービスの展開と地域社会再構築の課題
―長野県下における実態調査を中心に―
…………………………………………………………………………栗 田 明 良………7
1
佐久鯉の稲田養鯉復活運動をめぐる地域環境学
―稲田養鯉の衰退要因と復活へのビジョン―
…………………………………………………………………………佐 藤
哲………7
7
対話から考える、いのちの安全保障の倫理学
…………………………………………………………………………徳 永 哲 也………8
1
インターネットをベースにした中国語 CALL 教材システムの構築と実用化
……………………………………………………………………ビラール イリヤス………8
5
―9
2―
(研究B)
上田市における中心市街地の復元と地域再生への取り組み
―柳町・原町を中心として―
……………………………………………………斎 藤
功・古 田 睦 美………9
1
「共生福祉」概念の構築とまちづくりにみる「共生福祉」の実証的研究
………………………………野 口 友紀子・越 田 明 子・佐 藤 園 美
清 水 貞 夫・海 野 恵美子・高 遠 三 和………9
7
(研究C)
デジタルフォレストプロジェクト
「恵みの森」の情報化
…………奥 村 博 造・佐 藤
哲・高 橋 大 輔・高 橋 一 秋…… 1
0
9
伝統技能の電子媒体記録による伝統技能・近代工業技術の結合
…………………………………野 原
光・田 中 法 博・森
俊 也…… 1
1
5
(地域研究・一般研究研究報告会―2
0
0
8年5月2
9日討論の記録) ………………………… 1
2
3
第3
0巻第3号(通巻第1
1
5号)2
0
0
8年1
2月
<論
文>
地域精神保健福祉活動における往診・訪問活動の意義の検討
…………………………………………………………………………上 平 忠 一………1
韓国における住居と台所の原初的概念
―朝鮮時代以前の住居と台所の変遷を通して
……………………………………………………禹
在 勇・田 中 法 博………1
5
中学生が考える過疎地域居住高齢者の生活問題と生活支援
―制度化されない生活支援に着目して―
…………………………………………………………………………越 田 明 子………2
5
三池闘争の終焉と現代日本
―組織された生産者社会の夢・市民的ヘゲモニーの形成―
…………………………………………………………………………黒 沢 惟 昭………3
7
竹内好と魯迅
…………………………………………………………………………佐 々 木
―9
3―
!………53
<研 究 ノ ー ト>
現代中国内陸部小都市<藁城市>の発展についての第一次報告
―日中共同研究のひとつの試み―
……………………………………………………小 川 勝 一・曽
貧………6
3
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析(1)
…………………………………………………………………………坪 井
真………7
1
ハワイ大学における障害学生支援 KOKUA プログラム
…………………………………………………………………………伊 藤 英 一………8
7
第3
0巻第4号(通巻第1
1
6号)2
0
0
9年3月
<論
文>
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
投与の初期に自殺した老年期うつ病の検討
…………………………………………………………………………上 平 忠 一………1
大学初年次生のための文章表現指導プログラム
―評価作文をもとにメタ認知活性化方略の有効性を検証する―
…………………………………………………………………………金 子 泰 子………9
ティム・バートン試論
―「フリークス」の孤独から「家族」の神話へ― その2
…………………………………………………………………………小 林 一 博………2
1
社会福祉施設における地域交流に関する研究
…………………………………………………………………………鈴 木 政 史………3
1
生命倫理学から安全・安心の議論をつくる試み
…………………………………………………………………………徳 永 哲 也………4
3
社会福祉理論の源流にみる公的扶助と社会政策
─大河内一男の場合─
…………………………………………………………………………野 口 友紀子………5
1
―9
4―
<研 究 ノ ー ト>
社会科(歴史)教育における実践と課題
…………………………………………………………………………塚 瀬
進………5
9
テキスト・マイニングを用いた方面委員による事例記録の分析(2)
…………………………………………………………………………坪 井
真………6
7
―9
5―
長野大学紀要編集規程
(名称および発行)
第1条 本誌を「長野大学紀要」
(以下「本紀要」という。
)
と称し、年4回発行することを原則とする。
(目的)
第2条 長野大学において教員が行っている研究および本学で実施された共同研究や受託研究の成果を学
内外に紹介し、長野大学の教育・研究活動の活性化に寄与することを目的とする。
(編集委員会)
第3条 長野大学図書館運営委員会のもとに、長野大学紀要編集委員会(以下「編集委員会」という。
)
を
置く。編集委員会委員長は図書館運営委員会委員長が兼ねる。
2.本紀要の原稿の募集・編集は編集委員会が行う。
(投稿資格)
第4条 投稿できる者は原則として本学の専任教員および実習助手とする。ただし、本学の非常勤講師等
も投稿することができる。
(投稿原稿)
第5条 本紀要に掲載する原稿は他に未発表のものに限り、種類は次の各号に掲げるものとする。
論 文
研究ノート
書 評
その他の編集委員会の認めたもの
(著作権)
第6条 本紀要に掲載された論文等の著作権の取り扱いは、以下のとおりとする。
著作権は著者に帰属する。
著者は著作物の複製権と公衆送信権の行使を大学に委託する。
(論文等のネットワーク上での公開)
第7条 本紀要に掲載された論文等は、原則として電子化し、長野大学ホームページ等を通じてネット
ワーク上に公開する。
(配布)
第8条 発行された紀要は専任教員、実習助手および非常勤講師等へ配布する。
(抜刷)
第9条 執筆者には抜刷5
0部を配布する。ただし、5
0部をこえる分については執筆者がその費用を負担す
るものとする。
(執筆要領)
第1
0条 原稿は別に定める執筆要領にしたがうこととする。
(改廃)
第1
1条 この規程の改廃は、評議会の承認を得なければならない。
附則
本規程は平成5年7月1日から施行する。
本規程は平成1
7年4月1日から施行する。
!
"
#
$
!
"
編集委員会
委員長
大野
委
神尾裕治,栗田明良,斎藤
員
晃
功,
シモンズ・マーガレット,野原
光
2009年3月31日
発行
長野大学紀要
第30巻第4号(通巻第1
1
6号)
編
集
発行所
長野大学紀要編集委員会
長
野
大
学
長野県上田市下之郷6
5
8−1
TEL (0
2
6
8)
3
9−0
0
0
5
印
刷
蔦 友 印 刷 株 式 会 社
長 野 市 平 林 1−3
4−4
3
TEL (0
2
6)
2
4
3−2
3
5
1
BULLETIN OF NAGANO UNIVERSITY
Vol.
3
0,No.
4,Ma
r
c
h2
0
0
9
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
CONTENTS
Articles
A Study on Geriatric Depression with Suicide During SSRI Treatment
UWADAIRA Chuichi ………………………………………………………………………1
A Writing Program for First Year College Students
: Effectiveness of Metacognitive Learning
Yasuko Kaneko………………………………………………………………………………9
An Essay on Tim Burton : Transformation of an Artist
―From Allegory of Lonely Freaks in Suburbia to Myth of Family― Part2
Kazuhiro Kobayashi …………………………………………………………………………2
1
A Study of Community Interaction in Social Welfare Institutions
Masashi Suzuki………………………………………………………………………………3
1
An Attempt to Discuss Our Security and Feelings of Safety from the Viewpoint of Bioethics
Tetsuya TOKUNAGA ………………………………………………………………………4
3
The Origins of Public Assistance and Social Policy
: The Case of Okouchi’s theory
Yukiko Noguchi ……………………………………………………………………………5
1
Notes
Practice and Problems in Social Studies Education
Susumu Tsukase ……………………………………………………………………………5
9
An Analysis of the Homen-iin Records by Using Text Mining(2)
Makoto Tsuboi ………………………………………………………………………………6
7