熱流体力学講義(PDFファイル) 第1章

第1章
熱流体の物理的な性質
-1-
第1章 熱流体の物理的な性質
水、空気などで代表される液体と気体を総称して流体といい、これらの流体
はそれ自身が熱量を保有しかつ運動している場合が多い。本章では、このよう
に熱量を保有している流体、すなわち「熱流体力学」で扱う重要な物理量の単
位、流体の特性を表す物性値の定義、流体の分類などについて学習する。
1.1 熱流体の定義
流体(fluid)とは、水、油、化学薬液などの液体(liquid)と水素、酸素、空気、
都市ガスなどの気体(gas)を総称したものであり、流体それ自身は固有の熱量
(heat)を保有している。流体それ自身は定まった形をもたず、鉄、木材、コ
ンクリートなどの固体(solid)のように外部から加えられた力に抵抗し、もとの
形に戻ろうとする性質、すなわち弾性を示すことがない。したがって、流体は
固体と比べてわずかな力で容易に変形しやすく、変形が進むことに対しては抵
抗を示し、運動する性質をもっている。この流体の運動を流れ(flow)という。
1.2 熱流体力学とは
熱流体力学(thermo and fluid dynamics)とは、各種物体、構造物まわりの熱
流体の流れや、伝熱、各種管路、機械装置内の流体の流れとそれに伴って生じ
る抵抗力、モーメント、運動量、エネルギ損失などを解明する学問であり、流
体の静止力学および動力学的現象を総合的に取り扱う。さて、熱流体を対象と
する学問として、古くから、水理学、水力学、流体力学、流体機械、熱力学、
熱機関などの多様な分野があり、経験的事実あるいは実験と理論的研究を背景
としてこれらの学問分野は発展してきた。近年、工学上問題となる熱移動を伴
う流体の運動に関して、諸問題を解決し、応用展開していくという観点からは、
これまで細分化されてきた熱または流体という学問分野を統合し、理論と実験
を総合的に取り扱う学問としての「熱流体力学」が求められている。
この分野は、水・空気を利用する日常生活(風呂、流し台、クーラー、洗濯
機、電熱器など)などの機械工学、航空宇宙工学、燃焼問題、海洋・船舶工学、
エネルギ問題、環境問題、生命・生物工学などへの応用が考えられる。
1.3 熱流体力学などで扱う物理量の単位
熱流体力学などで使用される速度、圧力、密度などの単位は、長さ、質量、
時間など、基準となる基本単位を定めると、それらの物理量はその定義や法則
のもとに組立てることができる。この組立てられた単位を組立単位といい、基
本単位と組立単位を総称して単位系という。またこの組立単位の指数を次元
(dimension)という。
-2-
1.3.1 国際単位
国際単位(SI)は表 1.1 および表 1.2 に示すように、7個の基本単位とそれ
から得られる組立単位から構成されている。熱流体力学でしばしば使用される
基本単位は、長さ( m )、質量( kg )、時間( s )、温度( K )である。国際単位におい
て、例えば力は組立単位の一つであり、ニュートン( N )で表される。ニュート
ンの運動の第2法則によれば力=質量×加速度であるから、力の組立単位は

 
1N   1kg  1 m s 2  1 kg  m  s 2

(1.1)
と表される。
表 1.1
表 1.2
基本単位(SI)
量
名称
記号 次元
m
メートル
L
キログラム kg
M
s
秒
T
長さ
質量
時間
組立単位の例と次元(SI)
量
記号
面積
m
体積
m3
m s
速度
電流
アンペア
A
I
加速度
熱力学温度
ケルビン
K

物質量
モル
光度
カンデラ
2
次元
L2
L3
L1T 1
L1T 2
密度
m / s2
kg / m 3
M 1 L3
mol
動粘度
m2 / s
L2T 1
cd
体積流量
m3 / s
L3T 1
さて、組立単位の中には、固有の名称を持った単位があり、表 1.3 にその一例
を記す。なお、単位量の 10 の整数乗倍については、基本単位に接頭語をつけて
表す。これを表 1.4 に示す。
表 1.3
量
固有名詞をもつ組立単位の例
名称
記号
定義
次元
2
力
ニュートン
N
kg  m  s
圧力(応力)
パスカル
Pa
エネルギ
ジュール
J
N / m2
N m
仕事率
ワット
W
J /s
M 1 L2T 3
電荷
クーロン
C
A s
I 1T 1
電位・電圧
ボルト
V
J /C
M 1 L2 I 1T 3
電気抵抗
オーム

V/A
M 1 L2 I 2T 3
静電容量
ファラド
F
C /V
M 1 L2 I 2T 4
-3-
M 1 L1T 2
M 1 L1T 2
M 1 L2T 2
表 1.4
10 の整数倍の接頭語
記号
読み
意味
記号
読み
意味
E
エクサ
1018
d
デシ
10-1
P
ペタ
1015
c
センチ
10-2
T
テラ
1012
m
ミリ
10-3
G
ギガ
109
μ
マイクロ
10-6
M
メガ
106
n
K
キロ
103
p
ピコ
10-12
h
ヘクト
102
f
ファムト
10-15
da
デカ
101
a
アト
10-18
10-9
ナノ
参考として、これからしばしば引用するギリシャ文字のアルファベットと発音
の一覧を表 1.5 に示す。
表 1.5
大文字
小文字
Α
α
Alpha
Β
β
Beta
Γ
γ
Δ
ギリシャ文字と発音
アルファベットと発音
大文字
小文字
Ν
ν
Nu
(ヌー)
Ξ
ξ
Xi
(グザイ)
Gamma (ガンマ)
Ο
ο
Omicron(オミクロン)
δ
Delta
Π
π
Pi
(パイ)
Ε
ε
Epsilon (イプシロン)
Ρ
ρ
Rho
(ロー)
Ζ
ζ
Zeta
(ゼータ)
΢
σ
Sigma
(シグマ)
Η
η
Eta
(イータ)
Σ
τ
Tau
(タウ)
Θ
θ
Theta
(シータ)
Τ
υ
Upsilon(ユプシロン)
Ι
ι
Iota
(イオタ)
Υ
φ
Phi
(ファイ)
Κ
κ
Kappa
(カッパ)
Φ
χ
Chi
(カイ)
Λ
λ
Lambda(ラムダ)
Χ
ψ
Psi
(プサイ)
Μ
μ
Mu
Ψ
ω
Omega(オメガ)
(アルファ)
(ベータ)
(デルタ)
(ミュー)
アルファベットと発音
1.3.2 工学単位系(重力単位系)
工学単位系は、従来、工学の分野でしばしば用いられてきた単位系であり、
重力単位系とも呼ばれる。すでに、国際単位(SI)に移行したが、学生が行う工学
実験や機械設計の分野で、例えば、バネはかり、圧力計、体重計などの目盛り
はこの工学単位系が現在でも使用されている。表 1.6 に示されるように、基本
単位として、長さ( m )、力( kgf )、時間( s )が用いられる。この単位系の特徴は、
力、すなわち重さ(重量)を基本単位の一つと使用していることである。質量
1 kg の物体の重さを1重量キログラム(1 kgf )といい、地球上ではニュートン
-4-
の運動の法則から質量1( kg )の物体には重力加速度 g が働き、物体に作用する
力(重さ)はつぎのように表される。
(1.2)
1kgf   1kg  g m s 2  1kg  9.80665 m s 2  9.80665N 
2
ここで、 g は重力加速度で、通常は国際標準値 g  9.80665 m / s の値を使用す






る。参考として、工学単位系の基本単位および組立単位の例を、表 1.6 に示す。
表 1.6 工学単位系
1.3.3 電気分野の単位の紹介
分 類
量
単 位
国際単位(SI)では表 1.1 に示
m
長さ
したように7つの基本単位の中
kgf
力
に電流、アンペアがある。そこ
基本単位
s
時間
で、電気系の分野で重要となる
温度
K
電荷、静電容量、電圧および電
気抵抗の単位について簡単に説
明しておく。
1)電圧 V と電気抵抗 R の単位
電圧 V は単位電荷 C を移動さ
組立単位
質量
kgf  s 2 / m
密度
kgf  s 2 / m 4
圧力
kgf / m 2
kgf  m
仕事
kgf  m / s
せるために必要なエネルギ J で
仕事率
あり、その定義から、V  J C で
与えられる。また、電気抵抗  はオームの法則から、電流を A として   V A で
与えられる。これらをまとめると、
電
圧V 
J
J
N  m kg  m 2
J


; V の組立単位  
C A s
A s
C
A  s3
J C
J
kg  m 2
V

 2 3
;  の組立単位 
A
C A A s
A
2)電荷 C と静電容量 F
電荷を C (クーロン)、電流を A 、時間を s とすれば、電流の定義より、
A  dC ds で表される。したがって、電荷 C の単位は
電気抵抗  
電
荷 C   Ads ; C の組立単位  A s
となる。なお、参考までに、静電容量 F(ファラド)は、電圧を V として F  C V
より、その組立単位は以下のようになる。
静電容量 F 
A s
A2  s 2
A2  s 4
C


; F の組立単位 
J A  s 
J
V
kg  m 2
となる。これらの組立単位の定義と次元を表 1.3 に付記した。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆1.3.3 電気分野の研究課題
-5-
1.磁束 Wb (ウエーバ)および磁束密度 T (テスラ)はそれぞれつぎのように
定義される。すなわち、磁束は Wb  V  s 、磁束密度は T  Wb / m 2 である。
これをもとに、それぞれの組立単位を求めよ。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------1.4 熱流体で使用する物理量の定義と性質
1.4.1 密度、比重量および比重
密 度(density):単位体積あたりの物質の質量で、通常、記号  で表す。
比重量(specific weight):単位体積あたりの物質の重さ(重量)で、通常、記
号  で表す。
比
重(specific gravity)
:任意物質の密度と水の密度との比であり、無次元
量である。すなわち、比重はつぎのように定義される。
任意物質の比重 
任意物質の密度
(無次元量)
水の密度(4℃,1気圧)
(1.3)
こ こ で 、標準大気圧下における 水の密度は 4  C のとき最大 で、その値は
1000 kg / m 3 である。表 1.7 に標準大気圧下における液体、気体の密度および比
重量の一例を示す。
表 1.7 密度、比重量の例
分類
液体
気体
物質
(温度 300 K 、圧力 101.325 kPa )
密度  (SI)
kg / m 
密度  (工学)
3
kgf  s
2
/ m4

比重量 
kgf / m 
3
水
996.62
101.63
996.62
ガソリン
746
76.07
746
潤滑油
867
88.41
867
酸素
1.301
0.1327
1.301
水素
0.0818
0.00834
0.0818
空気
1.176
0.1199
1.176
注意1)空気など気体の密度は温度と圧力に強く依存して変化する。一方、水
など液体の密度は、温度や圧力にあまり依存しない。
注意2)密度  (SI)と比重量(工学) の数値は等しい。注目しておくこと。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------☆1.4.1 密度、比重量などの研究課題
1.温度が高くなると空気の密度は大となるか小となるか。
2.圧力が上がると空気の密度は大となるか小となるか。
3.では問題1.2.を総合して任意温度 T (K ) 、圧力 P(kPa) における空気の密
度はどのような式で表されるか考察せよ。ただし、温度0  C で圧力が大気
-6-
圧(101.325 kPa )のとき、空気の密度  は1.293 kg / m 3 とする。
解答:   1.293 


273.15
P

T
101.325
4.工学密度  の単位が kgf  s 2 / m 4 となることを証明せよ。
5.水の密度は温度や圧力によってどのように変化すると考えられるか。
6.標準状態(温度 15  C 、圧力 101.325 kPa )における酸素の比重量は 1.429
kgf / m 3 である。酸素5 kgf はどれだけの体積を占めるか。
7.地球上で体重 60 kgf の人が地球の 1/6 の重力加速度を有する月面上に行っ
たとき、その人の月面における工学質量、物理質量、月面重量はそれぞれ
いくらになるか。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------1.4.2 比容積
比容積(specific volume)
:単位質量( kg )または単位重さ( kgf )当たり物
質が占める体積で、通常、記号 v で表す。比容積 v と密度  の間には
比容積 v 
m
1
1

密度 
3
/ kg

(1.4)
という反比例の関係がある。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆1.4.2 比容積の研究課題
1.表 1.7 を参考にして、つぎの空欄を数値で埋め、表を完成せよ。
物質
比容積( m 3 / kg )
水
1.003×10-3
1.34×10-3
ガソリン
酸素
比容積( m 3 / kgf )
0.769
0.850
空気
注)温度 300 K 、圧力 101.325 kPa
---------------------------------------------------------------------------------------------------------1.4.3 等圧比熱および等積比熱
第4章で述べるように、比熱(specific heat)には、等圧比熱 C p と等積比熱 C v
があり、質量 1 kg の物質の温度を温度差で1  C (=1 K )上昇させるのに必要
なエネルギ(熱量)として定義される。すなわち、
エネルギ
J /kg  K 
比熱 
(物質質量)

(温度差)
(1.5)
なお、ジュールの熱と仕事に関する実験から、仕事 J と熱量 kcal は相互に換算
でき、その関係は第4章に示すように、1 kcal =4186 J である。
-7-
表 1.8
液体・気体の等圧比熱の例
分類
液体
気体
(温度 300 K 、圧力 101.325 kPa )
等圧比熱 C p
等圧比熱 C p
kJ /( kg  K )
kcal /( kg  K )
水
4.179
0.998
ガソリン
2.09
4.993×10-4
潤滑油
1.88
4.492×10-4
水素
14.31
3.419×10-3
酸素
0.920
2.198×10-4
空気
1.007
2.406×10-4
物質
表 1.8 に液体および気体の等圧比熱の値を示す。ここで、固体や液体の比熱は
圧力によってほとんど変化しないが、気体の比熱は体積を一定にした等積の場
合と圧力を一定にした等圧の場合では、その値が異なる。そこで、比熱の数値
を扱う場合にはその条件に注意することが大切。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆1.4.3 比熱などの研究課題
1.体積が 330 m 3 である教室の温度 15  C 、標準大気圧(101.325 kPa )におけ
る空気の重さを求めよ。ただし、0  C における空気の密度は 1.293 kg / m 3 で
ある。
2.この教室の温度を 15  C から 20  C まで上昇させるのに必要なエネルギは何
kcal か。ただし、空気の比熱は 1.007 kJ / kg  K  とする。
3.0.5 kW の電気ポットに 15  C の水を 0.8 リットル入れるとき、沸騰開始する
までの時間を求めよ。ただし、電気ポットに供給された電力の 75%が有効
に使用されるものとする。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------1.4.4 ガス定数
気体の状態変化を調べたボイル&シャルルの法則から、絶対圧力を p 、比容
積を v 、絶対温度を T としたとき、気体はつぎの状態変化の法則に従う。
(1.6)
pv  RT
これを完全ガスの状態方程式といい、 R をガス定数(gas constant)という。ガ
ス定数 R の物理的な意味は、気体1 kg を温度差1 K 上昇させるのに必要なエネ
ルギであり、比熱と同じ単位である。また、アボガドロの法則から、ガス定数 R
に気体の分子量 M をかけた値はすべての気体に対して同一の値となり、これを
~
一般ガス定数(universal gas constant)という。ここで、一般ガス定数 R の値は
-8-
~
R  MR  8315
J / kmol  K 
(1.7)
である。式(1.7)から、任意の気体のガス定数 R は、気体の分子量 M がわかって
~
いれば R  R / M から容易に求められる。表 1.9 に気体のガス定数の値を示す。
表 1.9
分類
気体
気体のガス定数
物質
分子量 M
ガス定数 R
kJ / kg  K 
ガス定数 R
kgf  m / kgf  K 
水素
2.016
4.124
420.57
酸素
31.999
0.260
26.49
窒素
28.013
0.297
30.27
空気
28.964
0.287
29.27
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆1.4.4 ガス定数の研究課題
1.家庭用ガスとして使用されるプロパン C3 H 8 のガス定数はいくらか。ただし、
炭素および水素の原子量は C  12 、 H  1 とみなす。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------1.4.5 粘性、粘度および動粘度
実在する流体には固有の「粘さ」があり、これを粘性という。つまり、流体
が運動していると、粘性による抵抗が生じる。例えば、図 1.1 に示されるよう
に、高さ H で上下の板に挟まれた流体を考え、面積 A(m 2 ) の上部の板を速度
U (m / s) で移動させるには流体の粘性による抵抗力に等しい力 F を加えなけれ
AU
と考えられるから、
H
その比例定数を  とおいて、 F  AU H となる。  を粘度(viscosity)または粘
ばならない。この力 F は、速度分布が直線の場合 F ∝
性係数という。
力F
液体または
気体
上部板面積
A m2
速度Um/s
速度u
H
y
図 1.1
粘度と動粘度
-9-
上式の両辺を上部板の面積 A でわると、
y
F
U

A
H
となる。ここで F / A はせん断応力  に相当して
いるので、

F
U

A
H
速度u
(1.8)
壁面等
となる。なお、図 1.1 に模式的に示したように、
上下平板間の速度分布が直線となるような流
れをクエット流れ(Couette flow)という。
図 1.2 せん断応力と速度分布
一方、図 1.2 に示すように流体が壁面に
沿って流れ、壁面に垂直方向の速度分布が直線でない場合には、せん断応力  は
速度こう配 du dy に比例し、次式で表される。
 
du
dy
(1.9)
この式(1.9)をニュートンの粘性法則という。また粘度  を流体の密度  でわっ
たものを動粘度または動粘性係数(coefficient of kinematic viscosity)といい、通
常、記号 で表す。すなわち、
動粘度  
粘度 
=
密度 
(1.10)
表 1.10 に代表的な液体および気体の粘度および動粘度の例を示す。
表 1.10 液体・気体の粘度および動粘度の例
分類
液体
気体
物質
粘度  (SI) 粘度  (工学)
Pa  s   10
6
kgf  s / m 10
2
6
動粘度
m s10
2
水
854.4
87.12
0.857
ガソリン
488
49.76
0.654
潤滑油
10200
1040
11.80
水素
8.96
0.914
109.5
酸素
20.72
2.123
15.93
空気
18.62
1.899
15.83
6
(温度 300 K 、圧力 101.325 kPa )
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆ 1.4.5 粘度および動粘度の研究課題
1.粘度  および動粘度 の単位を SI で導き、表 1.10 に記された単位となる
ことを確認せよ。
2.空気および水の粘度と動粘度は温度に対してどのように依存するか考察せ
- 10 -
よ。
3.未知の新しい流体の粘度  または動粘度 を調べる実験装置を設計せよ。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------1.4.6 体積弾性係数および圧縮率
気体等を加圧すると図 1.3 に示すように体積変化が生じる。このような流体
の性質を圧縮性という。
圧力P+△P
加圧
体積V
圧力P
図 1.3
体積
V-△V
体積弾性係数と圧縮率
このとき、圧力変化 P と体積ひずみ V / V の関係はつぎのように与えられる。
V
dV
;または dP   K
(1.11)
V
V
K を 体 積 弾 性係 数 ( bulk modulus ) とい い 、 そ の 逆 数  ( 1 / K ) を 圧 縮率
P   K
(compressibility )という。ここで、マイナス(-)の符号は、加圧するときに
P  0 にとれば、体積は減尐するので V  0 であり、そのとき密度は増加し、
  0 と考えるからである。さらに加圧前後で質量は一定であるから次式が成
り立つ。
V  V (    )  V
この式で2次の微小量 V   を無視すれば  V / V   /  となり、体積弾性
係数はつぎのように密度変化率すなわち圧縮性と関係づけられる。
1
P
K 

 
表 1.11
(1.12)
水の圧縮率βの値
0℃
10℃
20℃
 ( 1 / Pa )
 ( 1 / Pa )
 ( 1 / Pa )
1~25 気圧
5.18×10-10
4.94×10-10
4.84×10-10
25~50 気圧
5.09×10-10
4.85×10-10
4.70×10-10
気
圧
ちなみに、水の圧縮率  の値を表 1.11 に示す。ここで、   0 または K =∞の流
体、すなわち、密度  が一定な流体を非圧縮性流体という。
- 11 -
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆コーヒーブレイク:水の体積を 5%圧縮するには?
液体の圧縮率は気体に比べればかなり小さいが、固体金属に比べればかなり
大きい。水は 1 気圧の空気に比べれば圧縮率は約2万分の1であるが、鋼の 80
倍である。ちなみに、水の体積を5%減らすには約 1200 気圧の圧力が必要で、
ほとんどの場合、液体は非圧縮性流体とみなしてよい。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------1.4.7 温度
熱は流体や物体を構成する分子の分子運動によるエネルギの一形態であり、
温度(temperature)は分子運動エネルギの活発さを量的に表したものである。
疑問:ヘアドライヤーや温風サウナの温度は 100  C より高かったりするがなぜ
やけどをしないのかな?
摂氏℃
100℃
373.15K
212°F
0℃
273.15K
32°F
-273.15℃
0 K
ケルビンK
図 1.4
-459.7°F
華氏°F
温度計
さて、温度の量的な表示として、セルシウス(Celsius)による摂氏度(  C )、
ファーレンハイト(G.D.Fahlenheit)による華氏度(  F )、熱力学で用いられる
絶対温度ケルビン(Lord Kelvin)( K )等がある。いま、摂氏をt(  C )、華氏
を F (  F )、絶対温度ケルビンを T ( K )で表すと、それぞれの関係は
9
5
F  t  32 ; t  F  32; T  t  273.15
5
9
である。これらの関係が図 1.4 の温度計において示されている。
- 12 -
(1.13)
-------------------------------------------------------------------------------------------------------☆1.4.7 温度の研究問題
1.摂氏と華氏の温度計において、目盛りの数値が一致するところがあるか。
あるとすればその数値はいくらか。
2.摂氏は水の氷点と沸点間を 100 分割したもの。では華氏はどのようなもの
かな?
解答:氷と水と塩化カルシュームの混合物(当時の最低温度を0  F とした。
ちなみに 96  F はおおよそ人体の温度である。)
--------------------------------------------------------------------------------------------------------1.4.8 熱量
流体それ自身は何らかの熱エネルギを保有しており、熱エネルギを物理量と
して扱うとき熱量とよぶ。通常、熱量の単位にはキロカロリ( kcal )が用いられる。
そこで、1 kcal とは標準状態、(温度 15  C 、圧力 760 mmHg )において、純水
1 kg を 14.5  C から 15.5  C まで、温度差で1  C 高めるために必要な熱量とし
て定義される。したがって、任意の質量 m の流体または固体を温度 T  C 上昇
させるのに必要な熱量 Q は、式(1.5)の比熱の定義から
Q  mCT J 
(1.14)
で表される。ここで m は流体の質量、C は流体の比熱、 T は流体の基準点から
の温度差である。
1.5 流体の分類
実在する流体はほとんどの場合、粘性と圧縮性を持っているが、流れの場を
ある程度理論的に解析または予測するために、従来から粘性や圧縮性に対して
様々な近似がなされてきた。例えば、自由空間に設置された固体壁面に沿って
流体が流れる場合を考えると、壁の近くでは速度が小さく粘性の効果が大きい
が、壁から遠く離れると相対的に粘性の効果は小さくなり、粘性を持たない流
れとみなすことも可能である。そこで、ここでは流体が持つ性質をもとに流体
を分類してみる。
1.5.1 粘性流体と非粘性流体
実在する流体に対して、粘性を持つ流体(  ≠0)とみなして理論的に扱う
流体は粘性流体(viscous fluid)と呼ばれる。一方、粘性を持たないとみなして
扱う流体(  =0)は非粘性流体(inviscid fluid)とよばれる。
1.5.2 ニュートン流体と非ニュートン流体
粘性流体をさらに細分化すると、空気、水、油などニュートンの粘性法則が
成立する流体、すなわち、ニュ-トン流体(Newtonian fluid)と、水あめ、ゴ
- 13 -
ム液、マヨネーズ、粘土、砂と水の混合液などのようにニュートンの粘性法則
が成立しない流体、非ニュートン流体(non-Newtonian fluid)に大別される。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆1.5.2 ニュートン流体の研究課題
1.縦軸にせんだん応力  、横軸に速度こう配 du dy をとりニュートン流体の特
性をグラフ表示せよ。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------1.5.3 圧縮性流体と非圧縮性流体
実在する流体に対して、圧縮性を持つ流体(  ≠一定、  ≠0)とみなして
扱う流体は圧縮性流体(compressible fluid)とよばれ、一方、圧縮性を持たな
いとみなして扱う流体(  =一定、  =0)は非圧縮性流体(incompressible
fluid)とよばれる。
すでに述べたように、静止した流体に対しては圧縮率が圧縮性の指標となる
が、流体は通常運動をしており、速度をもって流れている場合が多く、その場
合の圧縮性を評価する指標としてマッハ数 M (Mach number)がある。マッハ
数はつぎのように定義される。
マッハ数 M の定義(無次元数)
M 
U
a
(1.15)
ここで、U は流れの代表速度、a は流体の音速(sonic speed)である。音速は体積
弾性係数 K と流体の密度  を用いて、次式から求められる。
a K 
(1.16)
マッハ数の大小によって流れを分類すれば次のようになる。
亜音速流れ(subsonic flow)
M <1
遷音速流れ (transonic flow)
超音速流れ (supersonic flow)
M >1
極超音速流れ(hypersonic flow)
M >5
ところで、流れている流体の密度変化 d  は流れのマッハ数の2乗に比例する
M ≒1
ことが知られている。すなわち、圧縮性の程度は、流速ではなくマッハ数によ
って決まり、一般に、 M <0.3 のとき圧縮性の影響は小さく、非圧縮性流体と
近似することがあり、例えば空気流れでは、約 100 m / s 以下のとき、非圧縮性
流体とみなすことができる。
☆例題
1.表 1.11 に示した数値を利用して、水(1気圧、20  C )の音速を求めよ。
- 14 -
解答: K 
a
1

K

=

1
 2.07  10 9 ( Pa )
4.84  10 10
2.07  10 9
 1438.7
1000
(m/ s )
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆1.5.3 マッハ数の研究課題
1.空気(1気圧、20  C )の音速は約 340 m / s である。体積弾性係数 K はいく
らとなるか。
2.地球の半径は 6375 km である。海水中で鯨が仲間を呼んだとき、その音が
地球を1周して戻ってくるのには何秒かかるか。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------1.5.4 理想流体と実在流体
粘性がない流体を非粘性流体とよび、粘性がある流体を粘性流体という。圧
縮性を含めてこれらまとめて、流体を分類すると、図 1.5 のようになる。
非粘性流体
(粘度μ =0)
粘性流体
(粘度μ ≠0)
非粘性流体
(粘度μ =0)
粘性流体
(粘度μ ≠0)
理想流体
非 圧 縮 性 流 体
流 体
密度ρ =一定とみなせる
流体
圧 縮 性 流 体
実在流体
密度ρ ≠一定である流体
図 1.5
流体の分類
ここで、
理想流体(ideal flow)
:粘性および圧縮性がないと考える流体。
実在流体(real flow):粘性および圧縮性があると考える実在する流体。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆第1章 総合演習問題
1.ある油2 m 3 の重量が 1742 kgf であるとき、この油の比重量、比容積、工学
密度および比重を求めよ。ただし、重力加速度は 9.807( m / s 2 )とする。
2.水銀の比重が 13.6 であるとき比重量、比容積、密度(SI)を求めよ。
3.標準大気圧、温度-20  C における空気の密度(SI)を求めよ。ただし、空
気のガス定数を 287 J /( kg  K ) とする。
4.平板に沿って流れる流体の速度分布が次式
- 15 -
上部板面積
A m2
力F
液体または
気体
速度Um/s
速度u
H
y
2y y2

)
H H2
で与えられるとき平板上 y  0 mm、および y  25 mmにおける速度こう配
とせん断応力を求めよ。ただし、 y は平板表面から測定した垂直方向の距
u U(
離、U  3 m / s 、平板間隔 H  50 mm 、流体の粘度  は   1.6  10 3 Pa  s と
する。
5.水の体積を 0.2%減尐させるために必要な圧力を求めよ。ただし、水の体積
弾性係数は 2.2 GPa とする。
6.標準大気の比熱はおおよそ 0.23kcal /( kg  K ) である。300 m 3 の教室に学生 40
人が静かに勉強しているとき、教室の空気は1時間で何度  C 上昇するか。
ただし、教室と外気との間に熱の授受はないものとし、空気の密度は
1.3 kg / m 3 、学生1人が1日に消費(発散)する熱量は 2400 kcal とする。
7.つぎの表の空欄を埋め物理量の単位、次元および定義を明らかにせよ。
物理量
比熱
単位
J / kg  K 
次元
LT 
2
2
粘度
動粘度
ガス定数
Pa  s
1
L2T 1
kg  m 2 /( kg  s 2  K )
定義
----------------------------------------------------------------------------------------------------------
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