両耳連動指向性™IIと空間認識

両耳連動指向性™IIと空間認識™
ジェニファー・グロス, M.A
概要
者にとって興味の対象となる音は、補聴器のシステ
二つの耳で聞くことは、片耳よりも優れているという
ムによって正確に決定できるという前提に基づいて
事実は定着している。ヒトの聴覚システムは両耳から
る。これは非常に誤った前提であるというだけでな
の情報を統合することで、音の強さ、音の方向感、
く、脳が両耳聴覚処理を自然な方法で行うことを阻
音質、雑音抑制、音声の明瞭度、および騒音下での
害する考えである。
聞き取りという点に利点がある。大勢の人の声の中
から特定の人の声だけを聞き分けるなど、特定の音
補聴器の両耳処理は一般的に、2つの補聴器が通信
を選択的に対応できるという能力は、両耳聴の最も
し、環境内で最も大きい音声信号を特定してその信
驚くべき、そして最も重要なメリットの 1 つである。
号を向上させる。現代の補聴器技術により、補聴器
は装用者に対してあらゆる方向から受信する音を選
両耳聴のメリットは、健聴者に比べ絶対的に能力が
択して増幅できるだけでなく、これを自動的に行うこ
劣る聴覚に損傷がある人でも得られる。実際に聴覚
とができる。図1は、こうしたシステムの音響特徴が、
の手がかりが増幅によって提供されれば、難聴者に
各補聴器によって選択された信号から抽出されるこ
対する両耳聴のメリットの大きさは、健聴者のそれと
とを示している。これらの特徴の比較と分析が行わ
ほとんど変わらない。それにも関わらず、両耳連動
れ、その結果「音響シーン」が生成される。音響シー
補聴器にある特定の要因により、いまだに両耳聴の
ンでは環境内の音の種類が分類されるだけでなく、
手がかりが妨害されることがある。
特定の音や特定の音声の一般的な方向も分類され
る。補聴器システムでは音響シーンに基づいて、指
両耳連動指向性™Ⅱと空間認識™は、両耳聴覚処理
向性、雑音抑制、一番大きい音声信号の優先的増
をサポートしている。リサウンド・リンクス で導入さ
幅などの技術が適用される。
2
れた第 4 世代 2.4 GHz ワイヤレス技術を使用した両
耳連動指向性™Ⅱは、装用者への良いきこえと認識
最良の信号を脳に伝達し、音源定位と音質を向上さ
せることを目的に、末梢聴覚システムでの自然な処
理をモデル化した空間認識™によって補完される。こ
のようにして、脳は、他の補聴器システムでは決して
特徴検出器
特徴検出器
特徴検出器
特徴検出器
環境クラシファイア
力を自然な方法で向上する。両耳連動指向性™Ⅱは、
実現しなかった機能を容易に使うことができる。補
聴器の装用者は環境内で自分の位置を把握し、興味
を持った音に自ら注意を向け、複数の音の中から対
象となる音を選ぶことが容易にできる。
www.gnresound.jp
*MKD0818*
MKD0818 LS 11 1505A-15055K
図 1. 両耳処理を備えたほとんどの補聴器は、補聴器使用者の意思を考慮
せずに、環境内で最も大きな音声を特定して増幅しようとする。
両耳処理と補聴器
このような方式の根拠は、一方の耳または1つの方
補聴器での「両耳処理」という用語は、補聴器装用
向からの音声を増幅し、もう一方の耳や他の方向か
者がメリットを得られるよう信号処理を向上させるこ
らの雑音を減衰することで、より優れた聞き取りを
とを目的に、左右の補聴器間で交換された情報を使
サポートするという考えである。表面的にはこれは正
用することを指すようになってきた。しかし、補聴器
しいように思われる。この方式では自然に発生する
に関する両耳処理のほとんどの例では、補聴器装用
現象が模倣される一方、補聴器装用者はSN 比が最
は、聞き手が聞きたい音に対してその音をより良く聞
適な状態となり、近くの音声が聞き取りやすくなるよ
くするために自然と行われる動作である。頭を動かす
うに、頭を動かしたり、対象の話者に向かって体を
と、追加で音響の手がかりが得られ、脳はこの手が
くために動くことで、SN 比が良くなる側の耳をあて
傾けたりする。このような戦略の場合、耳が良ければ、
かりを前述の目的のために効率的に使用することが
にして聞くことである。それぞれの耳の耳介効果に
8dB以上のSN 比を向上させることができる 。しか
できる。特定の信号や、別の方向から聞こえる実際
よって作り出される自然な指向特性が「より良い状態
し、システムが補聴器装用者の代わりに、特定の時
の信号を向上させる補聴器技術が適用される場合、
点において環境内で最も明瞭な音が何かを特定しよ
補完的な頭の動きにより、装用者は聞きたい音の方
うとする場合に問題が発生する。
向をすばやく特定し直すことができると想定してい
頭の角度︵度︶
1
軌道例(無指向性モード)
で聞く」ことに貢献している。そして、陰影効果も重
要な役割を果たす。指向特性を持った左右の耳から
提供される音が脳に伝わると、脳はこれらを組み合
る。このため、騒がしいレストランの例では、この動
わせ、聞きたい音を SN 比が改善した状態で聞くこと
このように実行される補聴器の両耳処理は、補聴器
きで、装用者は自分の周りの会話についていくこと
ができる 3。この SN 比を改善する指向性効果に加え、
装用者にとってほぼすべての聞き取り環境でデメリッ
ができると見なされる。
時間(秒)
トになることを示す例にしかならない。なぜなら、実
脳は両耳から入ってきた音により周囲の聴覚シーンを
形成することもできる。このようにして、聞き手は周
軌道例(指向性モード)
際の世界では聞き取り環境は動的なものだからだ。
Brimijoinら は、状況に応じて指向性の強弱いずれ
囲の認識を維持する。言い換えれば、聞き手は周り
興味の対象の信号とそれと競合する雑音は移動し、
かの指向性マイクを装備した補聴器を被験者に装用
で何が起こっているかを知ることができるのである。
さらには変化する可能性もある。ある時点での興味
させ、頭の動きを追跡した。これは指向性が自然な
の対象は、次の時点では競合する雑音になるかもし
音の方向を特定するための頭の動作を複雑にしてい
れない。騒がしいレストランは、前に述べた補聴器
るのではないかという考えをテストするためのもの
の両耳処理がメリットになる例として頻繁に取り上げ
だ。彼らはガヤガヤと騒がしい環境で特定の話者の
られる。状況が静的なままで、そして補聴器装用者
位置を特定するように被験者へ依頼した。その結果、
の興味の対象が 1 人だけで特定の方向からのみ話を
強く指向性のかかった補聴器を装用した被験者は対
していれば、この方式は望ましいものといえるだろう。
象の話者の位置を特定するのに長い時間がかかるだ
しかし、興味の対象が補聴器装用者の右から左へ移
けでなく、頭の動きが大きく、対象の位置を特定す
動してもう一度右に戻った場合、あるいはウエイター
るまでに、話者とは異なる向きに頭を動かしているこ
など興味の対象となる新しい話者が背後から現れた
とがわかった。これは、強く指向性のかかった補聴
場合、補聴器装用者には、補聴器システムによって
器を装用した場合と、指向性がほとんどかかってい
重要と決定された情報しか与えられない。
ない、あるいは無指向性の補聴器を装用した場合で
ら得られる音響情報はもう一方の耳では利用できな
は、明確な違いがあることを示している。非常に強
い。両目を開くと鼻の両側が見えるが、それぞれの
2
く指向性がかかったマイクを被験者が装用している場
う用語をよく耳にする。これは、指向性処理により、
合、彼らは単に音の方向を特定するための動きとい
特定の方向(通常聞き手の前方)から聞こえる信号
うよりも、より複雑な探索動作を行っていた。研究
に対するSN 比の向上を定量化することである。しか
者たちは、長い時間、複雑な探索動作を行うと、騒
し、現実の聞き取り環境の特定の際しばしば発生す
がしいレストランで複数の話者が会話をしているよう
るように、対象の信号が別の方向から聞こえた場合
な状況では、新しいターゲット信号を喪失してしまう
はどうなるだろうか。焦点からずれた信号は選択的に
可能性が高くなると示唆した。つまりこのようになる
改善されないだけでなく、実際には抑制されること
と、聞き取りがより困難になるということである。こ
さえある。これが発生する程度は、信号を受け取る
れは、指向性処理によって得られる望ましい効果と
角度とシステムの指向特性に左右される。焦点から
完全に相反している。
ずれた信号が興味の対象の信号の場合、指向性処理
の効果は「指向性の欠点」となる。つまり、目的の
音を聞き取るための障害になるということである。
頭の角度︵度︶
補聴器装用者はだれでも、「指向性のメリット」とい
周囲の聞き取りを周囲認識法という。聞き手は聞き
たい音に合わせて「より良い状態で聞く」手法( SN 比
の改善 )と周囲認識法(周りの環境音聴取)を使い分
けることができる。
視覚領域にも、この 2 つの戦略と似たものが存在す
時間(秒)
る。通常の視覚処理能力を持つ人が右目を閉じると、
図 2. 無指向性モード
(A)
または指向性モード
(B)の際に、対象の話者の位
置を特定する頭の動きの軌道例。指向性モードの方が、頭の動きのパター
ンは複雑で、ターゲットの位置を特定するまでに時間がかかった。これは、
位置を特定するための単純な動作から、より労力を要する探索動作に行動が
シフトしたことを示している 2。
鼻の左側がくっきり見える。それは、鼻によってその
先の視覚情報が遮断されるからである。左目を閉じ
ると、反対の現象が生じる。鼻は、聴覚領域におけ
る陰影効果に似ている。陰影効果では、頭の片側か
目から得られる視野全体を組み合わせた画像も得ら
真の両耳処理のサポート
TM
れるという点で透過的である。鼻に集中するか、こ
は、自然なきこえを構築する哲学により作られたリサ
の視覚情報を無視して、視野内の別の何かに注目す
リサウンドのサラウンド・サウンド byリサウンド
ウンド独自の音声処理システムである。サラウンド・
サウンド byリサウンド™ の 技術は、自然なきこえ
をサポートするため(自然なきこえを置き換えるもの
ではない)、ヒト本来の自然な聴覚処理を模倣するこ
るか、選択可能となる。聴覚領域では、両耳聴取方
法により、向上した S N 比を活用して特定の音に集
中したり、頭の音響的な透過性により聴覚シーン全
体を監視したりすることができる。
とを模索している。両耳連動指向性™Ⅱと空間認識
™は、この思想を実証するものである。これは、補
聴器装用者がさまざまな聞き取り方を利用できる両
耳連動マイクを完全に包含しており、聴覚生理学と
オープンイヤー音響特性の知識に基づいて設計され
た聴覚に関する空間認識を向上させる。
両耳連動指向性™Ⅱ
両 耳連 動 指 向性™Ⅱを 使 用すると、脳はすべての
音入 力を受取り、聴覚シーンの中で特定の信号を
選 択することができるため、より良い耳で聞く方法
と周囲認 識 の両方の聴取法を使用できる。補聴器
こういった補聴器の両耳処理がもつ指向性に関する
装用者がこの2つの戦略を使用できるのは、補聴器
欠点と限界に対応するため、補聴器装用者は通常、
が音声環境に完全にアクセスできる場合だけである。
頭を動かすという動作をする。これは聞き手が頭を
小刻みに動かすことで、可聴環境を良くし、興味の
対象の信号の方向を特定し、その信号に集中しやす
両耳聴取法
両耳連動指向性™Ⅱは両耳の補聴器のマイクモードを
手法は「より良い状態で聞く」というものである。これ
れが唯一かつ真の両耳戦略で、科学的に証明された
前途した通り、聞き手が自然と利用している1つの
調節して、脳による両耳音声処理をサポートする。こ
聴取戦略を利用して、音響効果と聴覚の空間認識方
雑音下での音声認識に関する社内データが、さまざ
法を組み合わせる 3、4、5、6、7。
まなマイクモードに関する根拠の裏付けとなってい
試験条件
無指向性との比較時のメリット
応答に優位に働く条件の下、さまざまなマイクモード
るリサウンドの第4世代2.4G Hzワイヤレス技術を
でテストを受けた。音声が前方から、雑音が後方か
使用して、最適な両耳のマイクモードが得られるよう
ら聞こえる場合、両耳指向性モードが最もメリットは
に調整する。各補聴器の前後に搭載された音声検出
大きいと予想され、またこのような条件では、両耳
器は、聞き手に対する音声の位置を推測する。また
連動指向性™も両耳指向性モードに切り替わる。図
雑音の有無についての環境の分析も行う。一方また
3 は、このマイクモードがどのようにして S N 比を最
は両方の補聴器に対するマイクモードの切り替えが、
大限に向上するかを示している。
両耳間の 4 個の音声検出器が受信した入力に基づい
て、ワイヤレス転送を介して決定される。考えられる
無指向性との比較時のメリット
である。これらの結果は、さまざまな音環境におけ
音声
被験者
えられる各両耳のマイクモードに対する正当性を示し
ている。
両耳連動指向性
マイクモード
両耳無指向性
(空間認識™機能付き)
両耳指向性
左右
非対称
指向性
両耳連動
指向性TMⅡ
図 3. 被験者の前方から音声が、後方から雑音が聞こえる場合、両耳指向
性モードにより、指向性のメリットが最も大きくなる。両耳連動指向性™Ⅱを
使用すると、この条件下では両耳指向性モードに切り替わる。
研究結果
静かな環境では、両耳とも無指向性モードが
装用者によって強く好まれる 8、9 。
両耳指向性モードは、音声信号が主として装
トを得られる 10。
片耳を指向性モードにし、もう片耳を無指向
性モードにした場合、両耳指向性モードより
も聞き取りの自然さと周囲の認識力が向上す
る
左右
非対称
指向性
両耳連動
指向性TMⅡ
図 4. 音声が一方から、雑音が別の方向から聞こえる場合、左右非対称指向
性による指向性の欠点が明確になる。右耳は常に指向性になっている。両
耳連動指向性™Ⅱを使用すると、このような条件下でも左右非対称マイクモー
ドに切り替わるが、左耳は指向性になる。このため、指向性の欠点は発生せず、
無指向性と大きくは変わらない性能が得られる。
れる。静かな聴取環境下では、無指向性モードを好
む傾向が強く、この傾向は音質によるものだと考え
られる。サラウンド・サウンド byリサウンド™は、音
質という点で最高クラスの評価を受けてきた 16 が、さ
らに向上させることは可能だろうか?
マイクモードの調整の際には、どの聴取環境でも最
など、再生成された音における音質を検討してみよ
適なモードを選択することが重要である。4 週間にわ
う。その音がステレオ録音の場合、音が左から、右
たって補聴器を装用した 2 9 人の被験者からのデー
から、中央でなどと知覚することは可能であろう。し
タロギング結果では、マイクモードの調整により、さ
かし、これらの音は頭の中で発生しているかのように
まざまな聞き取り環境で望ましい結果が得られるこ
聞こえてしまう。たとえ高音質の音再生だと判断さ
とが裏付けられた。この結果では、補聴器使用期間
れたとしても、聞き手が実際に聞いたようには聞こえ
の78% が 空間認識™を使用した両耳無指向性モー
ることはない。このため、音は実際のきこえと比べ
ドで、22% が指向性モードのいずれかの形態(左
て空間性を欠くため、自然なきこえという側面が欠
右非対称指向性モード、または両耳指向性モード)
落することになる。
であることが示された。これは、無指向性処理が使
用者の前方から聞こえる場合に、最大のメリッ
無指向性と指向性
このような環境では、両耳無指向性モードが選択さ
音楽鑑賞時やステレオヘッドフォンを使って聞く音声
両耳指向性モード、または左右非対称指向性モード
査から取得したものである。表 1 は、可能性として考
較的静かな環境で過ごす可能性が高いと考えられる。
音声
被験者
試験条件
結果は、空間認識™を使った両耳無指向性モード、
る2 個の補聴器の最適なマイクモードに関する外部調
これまでに証明されたように、両耳連動指向性™Ⅱ
を利用した装用者は、その使用期間のほとんどを比
る。聴覚に障害がある聞き手が、理論的には特定の
両耳連動指向性™Ⅱは、スマートレンジ™チップによ
空間認識™を使った位置特定と音質の向上
。その際、指向性のメリットを大幅に低
11
下することはない
。さらに、騒がしい環
11、12
境で音声が装用者の側面から聞こえる場合、
音声のある側面の補聴器が無指向性モードで
反対側の補聴器が指向性モードとなり最高の
聞き取りやすさを実現できる
。
13、14
表 1. 最適な両耳マイクモードに関する研究成果は、両耳連動指向性™Ⅱの
4 つの両耳マイクモードの開発に大きく貢献した。
これとは対照的に、前方以外の位置から聞こえる音
用期 間の約70% で、指 向 性 処 理が残りの30% に
空間聴取とは、装用者の耳に届く音がはっきりとした
声は、指向性の面で欠点がある。音声が聞き手の右
有効であるという公開された研究結果とほぼ一致す
物として識別され、空間の中に位置づけることをいう。
側から聞こえ、雑音が左側から聞こえる場合、固定
る 。また、切り替え可能な指向性を備えた補聴器を
それによって、装用者はさまざまな音環境において
型の左右非対称指向性モードでは指向性の欠点が明
装用し、指向性機能を理解し、この機能を使用して
も聴覚シーンを形成することができる。聞きたい音は
確になる。このような条件では、右耳は常に指向性、
いる装用者からの調査結果と完全に一致する。この
各環境下において脳内でイメージとして形成される17。
左耳は常に無指向性になる。両耳連動指向性™Ⅱは
ような装用者は平均で、使用時間の78%を両耳無
例えば、台所では、冷蔵庫の扉を開く音、流しに水
このような条件下での非対称の応答を提供するが、
指向性マイクモードで過ごし、残りの22%を両耳指
が流れる音、また玉ねぎをみじん切りにする音などが
このシナリオの場合、左耳が指向性、右耳が無指向
向性モードで過ごしていると報告している 。
ある。装用者がこれらの音を描いて空間に配置(音
6
15
性になる。これにより、音声が確実に聞き取れるよ
を使って音環境地図を作るイメージ )ができると、そ
うになるため、補聴器装 用者はAwareness戦略を
使用することができる。この状況での両耳連動指向
のような環境下の中でも聞きたい音の方向へ耳を向
両耳連動指向性
TM
けたり、そこへ行ったりすることが可能となる。頭の
に対する両耳マイクモードの配分
性™Ⅱの性能は想定通りで、無指向性と大きく変わ
中で音が聞こえるのではなく、空間の中で音を聞き
らない。つまり、指向性の欠点が排除されたという
両耳無指向性
ことになる。
14%
8%
両耳指向性
78%
左右非対称指向性
(無指向性と指向性)
分けることは、より自然な音質をも形成する。
聴覚システムは、音響入力からの複数の手がかりを
組み合わせることで、このような空間表現を構築する
必要がある。これには、それぞれの耳に音が到達す
る時間の違い(両耳間 時間差 ーITD)、それぞれの耳
に達する音のレベルの違い(両耳間レベル差ーILD)、
そして耳介による手がかりなどがある。頭の動きも
図 5. 両耳連動指向性™Ⅱを使った、さまざまなマイクモード構成での平均使
用時間を示すデータロギングの結果
聴覚システムがこれらの手がかりの関係がどのように
変化するかをすばやく分析するため重要である。これ
ら手がかりのいずれかが阻害されると、空間聴取へ
の干渉が発生する。補聴器がこれらの手がかりの一
一般的にBT EやRI E補聴器が位置する場所で発生し
カプラレスポンス
部またはすべてを混乱させることはよく知られている。
裸耳
(オープン)
空間認識™は、空間的手がかりに干渉する可能性の
ウンド・サウンド by リサウンド™技術である。
1. 耳かけ型(BT E )や 外耳道 内レシーバ耳かけ 型
(RIE)はマイクが耳介より上に位置するため、耳
介による手がかりが失われる
。
18、19
2. BT EとRIEのマイクの 位 置 は 両 耳 間 レ ベ ル 差
-20
BTE マイク位置
能を模倣している。難聴の治療を行う多くの医師は、
聴覚系における蝸牛遠心性神経支配の効果をよく
空間認識™
知 っ て い る。こ の よ う な 効 果 は、耳 音 響 放射
(OA E )を測定することで明らかになる。一方の耳が
周波数︵
kHz
刺激を受けると、外有毛細胞の活動の抑制(OA Eの
振幅減少として反映される)が反対側の耳で観測され
kHz
︶
う 。
ウンド™、両耳間ラウドネス補正は健聴耳の生理機
角度(度)
周波数(kHz)
-40
(dB)
︶
ションでは、両耳間レベル差
(ILD)
を崩してしま
る26、27。この動作は、大きな音の反対側の耳に対す
21
角度(度)
空間認識™の動作原理
空間認識™は耳介効果の再現と両耳間のラウドネス
補正を取り入れ、聞き取り空間の手がかりを維持する。
耳介効果の再現
リサウンドの哲学によるサラウンド・サウンド byリサ
周波数︵
3. 個別に機能するワイド・ダイナミック・コンプレッ
耳介効果の再現
0
BT EとRIE で耳介より上にマイクを取り付けると、
ILD が歪む 。
この機能が有効になる。
kHz
(ILD)
を崩してしまう。
20
持しようとするため、裸耳のI LDに対応することが重
要である。図 6に示すように、耳介効果の復元により
周波数︵ ︶
ある 3 つの補聴器関連の問題を考慮した独自のサラ
た。両耳間ラウドネス補正のアルゴリズムはILDを維
る感度が低下することを示唆している。つまり、雑音
角度(度)
音圧
ワイヤレスを使った
情報交換
音圧
抑制はメリットがある場合があるということだ。この
図 6. 裸耳の右耳、BTEマイクの位置、および空間認識™による耳介効果の
復元に対して、さまざまな周波数の音が角度によって減衰する。濃い赤は
減衰がほとんどないか全くないことを示している。裸耳の状態の耳に対する
特徴的な減衰パターンを空間認識™によって模倣されているのが分かる。
耳介効果の再現は、耳介による手がかりの損失を補
種類の聴覚遠心性活動は、刺激を受けた耳から脳へ
と信号が伝達され、さらにもう一方の耳に制御信号
が送られた場合に発生する。この活動は両耳から脳
の両半球への情報の交差に依存している。有毛細胞
ゲイン補正
ゲイン補正
完し、補聴器装用者の鼓膜面上でより正確なI LDを
空間認識™のもう1つの要素は、両耳間ラウドネス
への損傷が原因で難聴となった場合、聴覚遠心性活
得られるようにする。この処理は、2つのマイクを使い、
補正である。このタイプの処理では、WDRC が個別
動が低下すると想定できる。両耳間のラウドネス補正
指向性処理と同じ原則で処理を行う。しかし、指向
に両耳装用した補聴器に適用された場合に減少する
に対するリサウンド方式は、補聴器でワイヤレスの両
性処理の目的は特定の方向から受信する音のSN 比
可能性のあるI LD の手がかりを維持する。音源から
耳間通信を使用して、脳を経由した両耳間の信号交
を最大限向上させることだが、耳介効果の再現の目
離れた側の耳に達する音は、音源から近い側の耳に
差を模倣するという点では独特なものだ28。ILDを維
的は任意の角度から受信する音に対して、オープンイ
達 す る 音 よりも 音 の 大 き さ が 小 さくな る た め、
持することを目的とした補聴器のゲインに対する補正
ヤー特性とよく似た指向性特性を提供することであ
WDRC は音源から遠い耳側では、より小さな音に対
は、最も強度が弱い信号を使って耳元で実行される。
る。空間認識™での耳介効果の再現アルゴリズムが
して比較的多くの利得を適用する。 ILD の手がかり
これは、聴覚の遠心性の抑制効果を模倣するためで
の周囲に複数のスピーカを配置し、どのスピーカから
どのように動作するかの一例を図 6に示す。この測
(周波数が高くなると、より明確になる)はIT D の手
ある。その他のワイヤレスの補聴器システムは、両
音が 聞こえるか、ラボテストを行った。その結果、
定は右耳で実施している。上の図は頭の周りのすべ
がかりと較べて位置の特定能力に関して果たす役割
耳のラウドネス加算効果だけを考慮した大きさを両
無指向性処理と比べて、空間認識™の方が明確なメ
ての角度から外耳道に届く音に対し、オープンイヤー
は小さいが、それでも IT D の手がかりと ILD の手が
方の補聴器上のゲインで補正することで両耳圧縮を
リットがあることが示された。図8は、10名の被験
特性による減衰(赤 = 減衰なし、青 = 減衰大)を
かりを自然な関係に維持することは、正確な空間認
実行する。
者の前方と後方の混同と、被験者が示した場所と音
示している。右側での減衰の発生は少なく、左側で
識を生むための重要な決定要因なのである
。
空間認識™の証明
聴覚障害者の位置特定能力を調査するため、被験者
が出力された場所とのエラー角度の両方が減少した
22、23
の減衰の発生が大きいという点に注意してほしい。
図 7. 補聴器間のワイヤレスリンクは、聴覚系の両耳間での信号の交差に例
えることができる。これにより、通常の聴覚処理と非常によく似た方法で、
ILD 維持の模倣がしやすくなる。
図7は、ILDを正確に評価するための耳介効果の再
ことを示している。前方と後方の位置特定の改善は
これは主として陰影効果によるものである。右側の
空間認識™の両耳間のラウドネス補正の要素は、一
現、両耳間の信号交差を模倣するためのワイヤレス
耳介効果の再現だけに起因するものだが、位置特定
頭の前方から後方への角度の場合、減衰パターンは
部は耳介効果の再現の精度に、また一部は両耳の補
による情報交換、聴覚の遠心性の抑制効果を模倣す
の全体的な改善は、空間認識™での複数のアルゴリ
主に耳介によるものである。左下の図は、BT Eや
聴器間による無線のデータ交換に依存している。鼓
るため、強度が最も弱い信号を使った、片耳に基づ
ズムの組み合わせによるものである。
RIEで一般的に、補聴器のマイクが耳介より上に配置
膜における音圧の大きさは、音源に対する角度によっ
くI LD の補正など自然なきこえを実現した後、空間
された場合の減衰パターンを示している。頭の同じ
て大きく影響を受けるため、周波数が高い場合、入
認識™がどのようにモデル化されるかを示している。
側の独特なパターンは、オープンイヤー時とは根本的
射角に応じて、I LDが最大 20 d B減衰する
に異なっている。これを右下の図と較べてみる。この
Udesenら は、外耳の周囲と外耳内とで46の異な
図の場合、空間認識™を有効にした状態で、マイク
るマイク位置のILD の効果を報告した。人間は、わ
を耳介より上の位置に配置して、測定を実施した。
ずか0.5d BのILD の変化に対しても敏感だが、音の
頭の右側の減衰特性パターンは、ほぼ完全に保たれ
入射角とマイクの位置の相互関係に応じて、30dB以
ているのがわかる。
上のILD 誤差が明らかになった。最も大きな誤差は、
24、25
。
20
まとめ
35
30
前方と後方の混同率(%)
脳は耳から受け取った入力に基づいてのみ、音環境
25
エラー角度(度)
の処理や分析をすることができる。2 つの補聴器を
20
どを最適化させる事もできるが、必ずしも音を自然
な両耳処理に導くわけではない。このようなシステム
15
で基本となる前提条件は、対象の信号が安定してい
10
て、予測可能であるということだが、現実の聞き取
5
0
無線通信する従来の方法は、聞き取りやビーム幅な
り環境ではほとんどの場合、このようなことはありえ
空間認識™を使用しない場合
空間認識™を使用した場合
図 8. 空間認識を使用すると、前方と後方の混同と、そのエラーの角度が
減少する。
また9名の被験者に対して、両耳連動指向性™がプ
ログラムされた補聴器と両耳連動指向性™Ⅱと空間
認識™がプログラムされた補聴器でのブラインドテス
トを行い、Speech, Spatial and Qualities of Hearing
(SSQ)29、およびそれぞれに対する客観的評価アン
ケートを行った。一般的な成果としては、被験者が
両耳連 動指向性™や両耳連 動指向性™Ⅱと空間認
識™を搭載した両耳連動指向性™Ⅱを評価している
かどうかにかかわらず、評価は肯定的な方向に集中
した。これは、両耳連動指向性を搭載したリサウンド・
リンクス™やリサウンド・バーソ™などの既存製品の
優れた性能とすばらしい音質を裏付けている。SSQ
に関する「聞き取りやすさ」と客観的評価アンケー
トの音調品質を除いて、条件間に大きな違いは見受
けられなかった。どちらの場合も、空間認識™を搭
載した両耳連動指向性™Ⅱの方に、非常に高い評価
が付けられていた。
ない。サラウンド・サウンド byリサウンド™音声処理
は、自然なきこえを提供するという思想によって導か
れている。このため、両耳連動指向性™Ⅱと空間認
識™は、補聴器や所定の対象信号ではなく、装用者
と自然な音声処理に焦点を置くことで、脳に最適な
音の再現を届けることができる。装用者はこの方法
により聞きたい音を自身で決定することができる。
さらに、空間認識™は方向感の手がかりを維持する
ため、本当の意味での空間認識とこれまでの補聴器
には無い最も自然なきこえを体験することができる
のである。
参考文献
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