この資料は、流通科学大学の 2005 年度学生懸賞

この資料は、流通科学大学の 2005 年度学生懸賞論文
に応募した論文「イノベーションと革新的商品の定義」
のファイルです。
この論文は、『日経ビジネス』の以下の記事をきっかけに
して行なった研究活動の成果です。
「 2004 年 ヒット商品ランキング
主役はおばさん消費」
(2004 年 12 月 13 日号)
「時流超流 ななめドラム式洗濯乾燥機」
(2005 年 1 月 10 日号)
「ユニバーサルデザイン」
(2005 年 3 月 14 日号)
(担当教員・清水信年)
2005年度
学生懸賞論文
『イノベーションと革新的商品の定義』
<論文要旨>
世の中にはたくさんの商品があるが、ヒット商品と呼ばれるものは限られている。消費
者に選択されるヒット商品の共通点は何なのかを、近年実際にヒットした 4 つの商品を取
り上げて検証した。そこから 5 つの共通点を見つけ、さらに仮説検証をし、実証した。
氏名
金子太一
三原大輝
竹本麻美
杉山頼子
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イノベーションと革新的商品における定義
金子太一
三原大輝
竹本麻美
杉山頼子
<目次>
1.
研究背景・・・・・・・・・P2
2.
イノベーションとは
3.
ケーススタディ
4.
仮説検証
5.
まとめ
1.
研究背景
・・・・P2
・・・・・・P3
・・・・・・・・・P10
・・・・・・・・・・P12
現代には多くのものがあふれている。そうした中でも毎日のように新商品が世の中に送
り出されている。今の状況でも十分不自由なく生活できる私たち消費者は、なぜ物を購入
するのだろうか?それは人というのは常に変化しているからだ。時代と同じように人の好
みやセンスなども変化する。それと共に欲しいものや必要なものも変化するのだ。このよ
うな状況の中で、ヒットする商品というのは極限られている。
そこで我々は、「なぜ、ヒットするのか?」「ヒットする商品としない商品の違いは何な
のか?」と興味を持った。
私たちはゼミで「イノベーション」について研究している。イノベーションというのは
今までに存在しなかったものを生み出すことだと思っていたが、既存のものに何らかの付
加価値をつけることによってもイノベーションになるということを学んだ。
そこで我々は、消費者のためのイノベーション、つまり「Innovation for
Consumers」
をキーワードに、実際にヒットした商品を取り上げてケーススタディを行い、まず共通点
を見つけることにした。
その結果、ヒット商品の5つ共通点が浮かび上がった。それが我々の中でイノベーショ
ンの定義として成り立った。
2.
イノベーションとは
国語辞典に記載されている「イノベーション」の意味とは、(1) 新機軸。革新。(2) 新製
品の開発、新生産方式の導入、新市場の開拓、新原料・新資源の開発、新組織の形成など
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によって、経済発展や景気循環がもたらされるとする概念。また、狭義には技術革新、で
ある。日本語では『革新的』という言葉に置き換えられ、従来の技術やアイデアをそのま
ま使い続ける『保守的』という言葉とは対になるものである。「イノベーション」とは何も
それまで世の中になかった全く新しい用途や製品を開発するときにのみ使われる言葉では
なく、同じ用途の商品をより使いやすく、また既存の製品での新規ユーザーの開拓をする、
などといった意味でも使われている。「イノベーション」には広く様々な革新的要素が含ま
れているのである。
<成功を収めたイノベーションの例>
「イノベーション」とは新しい技術やアイデアを開発・導入する事で、一企業の利益が
アップし、経済発展や景気循環に繋がっていくものである。
従って、裏を返せばそれらの新しいアイデアが成功を収めないとイノベーションとは呼
ぶことは出来ないことになる。そこで、我々は世の中で実際にヒットした商品を取り上げ、
その商品がなぜヒットしたのか、どのようなところに革新性があったのかを調べることに
した。以下に挙げた4つは、近年それぞれ目立った売り上げの上昇幅がなく市場が飽和状
態にあった部門の製品である。しかしこれらの部門からヒット商品が生まれたことから、
市場全体の売り上げをも上昇させた。
3.
ケーススタディ
ケース1
キヤノン「Eos kiss」
ケース2
日本ミルクコミュニティ「MEGMILK」
ケース3
LOTTE 「ボトル入りガム」
ケース4
松下電器 「ななめドラム洗濯乾燥機」
ケース1 キヤノン「Eos kiss Digital」
発売日:2003 年 9 月
正式名称:デジタル一眼レフカメラ
キヤノン Eos kiss Digital
価格:118,000 円
特徴:小型・軽量、簡単操作
ターゲット:初心者ユーザー、一眼レフカメラを持たなかった主婦
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【キヤノン HP より抜粋】
一眼レフカメラのイメージとは、どちらかというとプロ向きで高価格だという風に捉え
られていた。しかし、このキヤノンの「Eos kiss Digital」は一眼レフカメラのイメージを
刷新した。ターゲットを今まで一眼レフカメラを持つことのなかった女性層や初心者ユー
ザー中心とし、本体を軽量化させた。また、コアなユーザーがこだわるような様々な撮影
モードの組み合わせによる撮影は本体機能から敢えて無くし、ある程度カメラ任せにする
事で操作も簡単にできるようにした。価格の面では、一眼レフカメラの最大の特徴である
レンズ交換が出来るなど性能を落とさずに価格を 118,000 円に設定したことで、それまで
200,000 円を超える価格が当たり前であった一眼レフカメラ市場において、競合する他社に
大きな衝撃を与えた。この製品のヒットにより、キヤノンは一時デジタル一眼レフカメラ
市場でトップシェアを獲得し、他社が同じ価格帯で商品を投入するまで半年間独走を続け
た。キヤノン「Eos kiss」は、価格・ターゲット・操作性を従来の製品に対し大きく変更さ
せたところに成功の鍵があったと言える。
ケース2 日本ミルクコミュニティ「MEGMILK」
発売日:2003 年 1 月
正式名称:MEGMILK 牛乳
価格:230 円(1000ml)
特徴:パックを赤にしたこと
ターゲット:雪印の顧客、新規ユーザー
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【日本ミルクコミュニティ HP より抜粋】
MEGMILK は、雪印の不祥事の後を受けて、再出発を期して全国農協直販・ジャパンミ
ルクネット・雪印乳業の市乳部門の出資によりできた日本ミルクコミュニティが発売した
製品である。従来の牛乳市場ではあまり例のなかったパックを赤にするという大胆な発想
で話題となり、このパッケージは日本ミルクコミュニティの企業業績やブランド構築への
高い貢献を評価され日経 BP デザイン賞の特別賞を受賞した。この赤いパッケージは、商品
自体を目立たせるという効果はもちろん、外光を遮断し風味の劣化を抑え、新鮮な品質を
維持する効果もあり一石二鳥であった。さらにトレーサビリティー(生産履歴の追跡)システ
ムを日本の牛乳部門で初めて導入し、消費者が購入したメグミルク牛乳の製造日付を HP
上で検索できる「けんさく君」のサービスを提供するなど品質の管理を徹底化した。こう
して雪印の悪いイメージを払拭した「MEGMILK」は発売してからわずか半年で明治乳業
の「明治おいしい牛乳」とシェアトップを争うブランドに成長した。
ケース3 LOTTE ボトル入りガム
発売日:2002 年 5 月
正式名称:LOTTE キシリトールガム <ライムミント>ボトル
価格:800 円(100 粒入り)
特徴:置きガム、シーンを提供
ターゲット:集団向け
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【ロッテ HP より抜粋】
この「ボトル入りガム」は偶然により生まれた商品である。LOTTE のある研究者が試薬
品を分析かける際、余っていたガムを試薬瓶にガムを詰めて置いていたところ、通りかか
る人がガムをつまんでいくという現象が起きた。ここから、ボトルタイプにすれば手が伸
びやすくなるのでないかという提案から開発された商品である。多くの机が隣接しあうオ
フィス市場をうまく取り込んだことや、車のドリンクホルダーにも入る大きさにしたこと
でトラックやタクシーの運転手の間でも人気が出た。実際の購買層も、大人の男性の購入
者が全体の 56~57%(首都圏のコンビニエンスストアにおける動向)と高い。また、家庭内
でもある特定の場所にボトルを据え置くことで、以前のパケットタイプよりも人々が生活
の中でガムを噛むことが習慣化した。この商品は、新しいガムの食べ方を世間に提案した
のである。
ひとつひとつ包み紙を大量消費する従来の方法から脱したことで環境の面でも社会貢献
に一役買い、日経 BP デザイン賞の銅賞に選ばれた。当初は「大容量のガムが売れるわけが
ない」と小売店側に困惑された商品だったが、蓋を開けてみると世間に大きく認知される
大ヒット商品となった。
ケース4 松下電器 「ななめドラム洗濯乾燥機」
発売日:2003 年 11 月
正式名称:ななめドラム洗濯乾燥機
Lab NA-V80
価格:140,000 前後
特徴:ユニバーサル性、ななめ 30°のドラム
ターゲット:幅広い年齢層
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【松下電器 HP
より抜粋】
「ななめドラム洗濯乾燥機」は、従来の洗濯機の常識を覆し、洗濯機内のドラムを 30°
傾けたことにより大ヒットした商品である。誰にでも使いやすく、受け入れられやすい形
を追求したユニバーサルデザインを取り入れている。
この製品に関しては、後に詳しく説明する。
以上の4つのケーススタディから、ヒット商品にはいくつかの共通点があると考えられ
る。それは、以下の通りである。
①、新しい市場の開拓
②、使いやすさ
③、安心感
④、インパクト(価格・CM・デザイン・ネーミング)
⑤、新しさ
①、「新しい市場の開拓」
このケーススタディで取り上げた4つの商品の市場は、今後もう伸びることがない、つ
まりこれから低迷していく市場だと思われていた。それは、機能・性能的に行き着くとこ
ろまで来ていたり、もともと変わりばえのしない活気のない市場だったからだ。しかし今
回取り上げた商品が誕生したことによって、それぞれの市場は瞬く間に成長した。それは、
高齢化や女性の社会進出、個人の生活シーンの多様化などといった、時代の変化にマッチ
したからだ。
つまり、現在もう成長することがないと思われている市場ほど、時代の流れや状況にマ
ッチさせ何らかの付加価値を付けることによってヒット商品が生まれる可能性が高いとい
うことが言えるだろう。
②、「使いやすさ」
誰が、いつ、どんなときに、どんな生活シーンにおいてでも簡単に、気軽に使うことが
できるということである。そのために、操作や手順、表示の方法が分かりやすくないとい
けない。その上、誤ってしまうことがないよう対処・防止することができなければならな
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い。これは、性別や年齢、体格などの違いをこえてみんなにとって使いやすいものでなけ
ればいけない。
③、「安心感」
これも誰が、いつ、どんなシーンにおいてでも気軽に使えるという点では、
「使いやすさ」
と少し重なる部分があるが、それだけではない。新商品という言葉に日本の消費者は敏感
だが、新しいということは今まであった既存の商品とは違うので、「失敗したくない・・・」
という気持ちから、使ってみる前から、その商品を警戒してしまう場合が多い。これは価
格が高くなればなるほど言えることだ。
しかしこれは、送り手が消費者へのメッセージとして伝えることによって解消される。
ケーススタディの中で取り上げたものを例に挙げてみると、メグミルクの品質にこだわる
トレーサビリティーや、パッケージを赤にすることによって風味劣化をカットしたり、松
下電器産業のななめドラム式洗濯乾燥機ではユニバーサルデザインを重視していたり、こ
れらは全て消費者に品質や性能において安心感を届けるための手段なのだ。
④、「インパクト」
需要が供給を上回っている時代なら、どんなものを世に送り出しても消費者は商品をど
んどん購入してくれただろう。しかし、供給が需要を上回ることを如何ともしがたい現代
では、商品の機能や性能がいいからといって、消費者に支持されるわけではない。単に「い
いだけの商品」は消費者に見過ごされてしまう可能性が非常に高い。見過ごされないため
には、やはりインパクトが重要になってくる。メグミルクなら赤いパッケージ、ボトルガ
ムならガムの食シーンの変化、キャノン「Eos kiss」なら初心者ユーザーに低価格で提供
した点、などライバル商品と差別化を図ることが重要だ。それがその商品の強みとなり、
世に浸透したり、認知される源になるのだ。だから、デザインにしろ、ネーミングにしろ、
CM や価格など、何かにインパクトがないと世に出ることは難しいと言えるのではないだろ
うか。
⑤、「新しさ」
このケーススタディで取り上げた4つの商品は今まで世の中になかったものではなく、
既存の商品に+α(=付加価値)をすることによって生まれた商品だ。しかしほとんどの消費
者は今まであったものとは違う、「新しい商品」と捉えているのではないだろか。それはこ
れらの商品が誕生することによって、新しい市場や新しいターゲットにもその商品が認知
されるからだ。そうすることによって、商品を購入したそれぞれの消費者に新しい生活シ
ーンが提供できたり、新しい発見をしてもらうことができるからだ。
しかし、ケーススタディで取り上げた4つのヒット商品の共通点は、あくまでも我々の
仮説である。この仮説が本当にヒット商品の共通点になるのかを実証するために、再び、
松下電器産業の「ななめドラム洗濯乾燥機」を取り上げて、じっくり検証していきたいと
思う。
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<松下電器産業「ななめドラム洗濯乾燥機」>
2003 年 11 月に松下電器から「ななめドラム洗濯乾燥機」が発売された。しかし、この以
前の 1997 年に同じく松下電器から日本で初めて「ドラム洗濯乾燥機」が発売されていた。
当時は 24 万円という高価格ということと、ドラム式が浸透していなかったため、大きな反
響は得られず、失敗に終わったのだが、2002 年頃から乾燥機一体型のドラム式の洗濯機が
浸透し始めたので、松下電器は再びドラム式への再参入を決定した。当初、「ななめドラム
洗濯乾燥機」の価格は 20 万円弱であった。そして特徴である、〝誰にでも使いやすい〟と
いうユニバーサルデザインと〝日常的な手入れのしやすさを配慮したデザイン〟であるク
リーンスタイルの 2 点を前面に押し出した。この双方を高めつつ、豊かな暮らしを創造す
ることが使命であることを強調した。その活動から生まれた「ななめドラム式洗濯乾燥機」
は 2003 年グッドデザイン金賞、「クリーンスタイルデザイン」商品群は新領域部門でグッ
ドデザイン賞を受賞している。
ユニバーサルデザイン
ユニバーサルデザインと混同して使われる言葉にバリアフリーデザインがある。現在で
はバリアフリーという言葉は、さまざまな場所で使われているが、「高齢者や身障者など、
特定の人に対する特別な対策」であり、すべての人々の多様な関係や平等性、見た目の自
然さにまで踏み込まないという問題点が指摘された。つまり、あからさまに、「高齢者、身
障者のためのバリアフリー」として受け止められているのだ。しかしそのように受け止め
られてしまうことによって、「高齢者、身障者用」と名づけられたバリアフリーのものを利
用するのに抵抗がある人もいるだろう。
そうではなく、もう一歩先を行って、年齢や障害の有無に関わらず、誰でもが平等に、
公平に使えることがユニバーサルデザインの重要な要素といえる。バリアフリーは基本的
に、健常者が現在使っているものを、高齢者や身障者の方にも使えるものにしようという
考え方である。それに対し、ユニバーサルデザインは、高齢者対応、身障者対応を図りな
がら、健常者や子供たち、年代や、性別、体格などの違いをこえて、誰にでも使いやすい
こと、みんなが優先という発想である。つまり「すべての人たちのデザイン」を意味し、
それを出発点に、見てわかりやすい、聞いてわかりやすい、操作が簡単、安心して使える
こと、動作の負担が少ないことをまとめて総称した呼び方がユニバーサルデザインである。
クリーンスタイル
ユニバーサルデザインと共に松下電器産業の白物家電におけるデザイン戦略で、利用者
が使いやすいよう、無駄な造形を排し、日常的な手入れのしやすさやきれいな状態を長く
保つことにも配慮したデザインを製品全体の共通デザインコンセプトとして浸透させよう
という取り組みである。品位あるデザイン表現に、デザイン思想(ユニバーサルデザイン、
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エコ、クリーン)を加えた考え方である。
この「ななめドラム洗濯乾燥機」の中で松下電器産業が考え出したイノベーション(=付
加価値)は、
『ドラムを 30°傾ける』ということだった。ドラムを 30°傾けることによっ
て誰にでも使いやすいユニバーサルデザインと一台で年間 50 ㌧、水道料金 8,400 円も減ら
すことができる、高い節水と衣類を傷めずにしっかり洗浄できるということを実現させた。
これらがななめドラム洗濯乾燥機の特徴である。
4.仮説検証
<製品政策
PRODUCT>
上記の定義は果たして本当に当てはまるのか、検証する必要がある。そこで我々は、先
ほども例に挙げた松下電器のななめドラム洗濯乾燥機の製品特徴をマーケティング政策に
おいて重要である4P にあてはめて考えてみた。
まず製品政策であるが、松下電器はユニバーサルデザインを採用している。松下電器は
ユニバーサルデザインをななめドラム洗濯乾燥機にも採用することで、誰にとっても使い
やすい商品にした。松下電器にとってユニバーサルデザインは、商品作りの核となるもの
だった。
まず、このななめドラム洗濯乾燥機に採用されているユニバーサルデザインの特徴のひ
とつに、楽な姿勢への工夫が挙げられる。ななめにすれば、洗濯物を洗濯機に入れる姿勢
が楽になり、子供、高齢者、障害者、主婦までもが腰の負担を少なくして利用できる。次
に、見やすさ・読みやすさへの工夫を行った。どの色とも混合しにくい黄色をスタートボ
タンに採用し、表示文字を大きくし、光る文字によってみやすいという新操作パネルを取
り入れた。ドラム内にライトを搭載することで衣類の取り忘れを防いでいる。そして安心
への工夫も配慮した。洗濯機のふた部分の窓を大きく透明にすることで、中身が見える安
心感を我々にもたらしている。丸みを帯びた形と柔らかな色で、優しい表情も演出してい
る。こうした点は、松下電器ではクリーンスタイルと呼んでいる。
製品の機能面の特徴では、洗濯機ではなく洗濯乾燥機にして全自動化することで、消費
者に『乾燥までがお洗濯』という考え方を定着させようとしている。さらに、ドラムを 30
度ななめにすることで少量の水で洗濯が可能となり、高い節水力、省エネ性能実現が可能
となった。30 度に傾けたのは、5 度刻みで角度を変えた実験を行い、30 度が一番効率のい
い傾斜角度となったから、30 度なのである。
これらの点から、松下電器は、「みんな優先」という考え方を持って、誰でも使いやすい
商品を我々に提供している。ひとりひとりにとっての使いやすさがこのななめドラム洗濯
乾燥機一つに凝縮されているのだ。
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<流通政策
PLACE>
松下電器は、発売前に販売促進用のプロモーションキットの設置を全国の大型量販店・
系列店に依頼した。松下電器が作ったプロモーションキットとは、洗濯機そっくりに見立
てた、ダンボールでできた洗濯機である。これを用いて、実際にお客様にななめドラム洗
濯乾燥機を体験してもらい、商品の特徴を理解してもらうというものだ。実際お客様は商
品の特性を知ることができ、商品に対するイメージが沸きやすい。ダンボールだからスペ
ースをとらないし、大幅なコスト削減ができる。環境への配慮も考えている。
そして、松下にはナショナル・パナソニックのお店という独自の系列店ネットワークを
持つ強みがある。「町の電気屋さん」と呼ばれる系列店は現在、大型量販店などにシェアを
奪われつつある。しかし松下電器の系列店は、長年修理を手がけたり、無料でアフターサ
ービスを行ったり、家庭訪問をしてセールスしたりなど、地域密着型のサービスで固定客
を獲得している。小売ネットワークによって販売箇所が増え、商品の位置づけもしやすく
なる。
<価格政策
PRICE>
洗濯乾燥機は洗濯機に比べて価格が高い。乾燥機自体が高いということもあって、価格
を安くすることは難しい。松下の洗濯乾燥機は、安くても 13 万で、高くて 20 万弱する。
これだけ高価格なのにヒットする理由は、製品の付加価値である生活提案や生活ノウハ
ウが消費者の支持を得てきたからではないだろうか。「全自動化」というニーズに答えたこ
とで、価格を下げないまま多くの指示を得たのだろう。
また、洗濯乾燥機の持つ製品機能や、お客様の生活におけるノウハウを考慮すれば、こ
の価格は仕方がない。逆にいえば、高価格であるがために、それだけの価値があるという
潜在意識にもって行きやすい。
<広告政策
PROMOTION>
松下は、発売直後に一気に売り上げをのばすために、予約セールを展開した。予約セー
ルスを行うことは、白物家電では異例である。しかし、予約セールを行えば、本当に欲し
い人の手元に確実に届けることができ、さらに、予約をしないと買えないぐらい価値があ
る商品なのかと連想させることができる。これによって、松下は予約販売だけで 1 万台の
注文を確保した。
そして、松下は宣伝活動を通常よりも 2~3 ヶ月早く行った。より早く宣伝することで、
発売前に製品の認知度を十分に上げることができる。さらに、松下はお客様に、洗濯機の
買い替えではなく、新しいものを買うというモチベーションを期待した。白物家電はしょ
っちゅう買い換えるものではないが、洗濯機から洗濯乾燥機に買い換えてもらうという期
待をもって、この商品を開発した。
これらの4P の結果、松下のななめドラム洗濯乾燥機は、発売から 15 ヶ月で 30 万台を
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販売した。業界 4 位のポジションから、トップシェアを獲得したのだ。その割合は 50%に
も及ぶ。この洗濯乾燥機は、使いやすさ・安心といったユニバーサルデザイン、ドラムを
ななめにしたという斬新なインパクトをもとにヒットした。
洗濯機の購入機会は、壊れて使えなくなったときがほとんどである。その需要を、松下
電器は、買い替えではなく新しいものを購入するという考え方にシフトさせ、新たな購入
価値を生み出した。つまり、洗濯ビジョンの進化を遂げた。また、働く多忙な主婦増加に
よる乾燥を含めた全自動化に対する消費者のニーズの高まりと、松下電器のななめドラム
洗濯乾燥機の販売時期がぴったり合っていた。
洗濯機の購入動機
壊れた
20.8
引越し
40.5
結婚
24.1
家電製品に対する消費者評価と有望価値の考察
社団法人
日本電気工業会
白物家電の購入動機
参照
5.まとめ
以上の仮説検証により、売れる商品には、使いやすさ・安心・価格・インパクト・新し
さが共通することがわかった。この共通点は革新の定義だといえる。この定義がすべて当
てはまる商品を開発することに成功すれば、その商品は革新的かつお客様に受け入れても
らえる商品となるだろう。商品開発の結論として、商品は使う人の立場になって行うべき
だ。これは当たり前なことであるが、お客さまのニーズに答えることができなければ意味
がない。商品のコンセプトを明確にし、そのコンセプトをもとにターゲット設定をしてい
く。付加価値はお客様のために存在するのだ。また、コンセプトを明確にすることはお客
様の企業に対する安心感をもたらし、企業のブランド価値もアップする。Win-win の関係
を築き上げていかなければならない。そして、使いやすさ・安心・価格・インパクト・新
しさを重視するべきである。これが私たちの生み出したヒット商品が売れる理由である。
現代の社会、たくさんの商品が毎日いくつも開発・販売され、モノが溢れかえる社会で
ある。時代は次々と変わり、消費者ニーズであったり、企業の販売形態・商品の開発方法
であったりなど、目まぐるしく進化していく。今回私たちが発見したヒットの定義もこれ
から変化していくだろう。私たちの研究もここでとどまることなく、さらなる研究が必要
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である。
<参考文献・参考記事>
『日経ビジネス』記事
・2004 年 12 月 13 日号/44~45 ページ/「2004 年ヒット商品ランキング」~主役はおば
さん消費~
・2005 年 1 月 10 日号/16 ページ/「時流超流」~ななめドラム式洗濯乾燥機について~
・2005 年 3 月 14 日号/183 ページ/ユニバーサルデザインについて
・石井淳蔵著/2002年/『1からのマーケティング』/碩学舎出版
<参考URL>
・『松下電器産業ホームページ』http://www.panasonic.co.jp/
・『日経テレコン』http://telecom21.nikkei.co.jp/nt21/service/
・『MEGMILKホームページ』http://www.megmilk.com/
・『LOTTEホームページ』http://www.lotte.co.jp/top.html
・『Canon ホームページ』http://canon.jp/
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