平成27年度 朝河貫一賞 最優秀賞論文【中学校の部】

平成27年度中学生・高校生の国際理解・国際交流論文
中学校の部 最優秀賞
差別のない社会へ
二本松市立二本松第一中学校
2年 五十嵐 由樹
「アメリカで、黒人男性が白人警察官に射殺されました。」
このニュースを聞いたとき、私は、殺人事件か何か凶悪事件の犯人が逮捕されたのだろ
う、と思った。しかし、本当は違った。尋問された黒人男性が、車を発進させようとした
ために、白人警察官に射殺されてしまったのだ。私は衝撃を受けた。人の命は、こんなに
も軽いものなのだろうか。もし男性が黒人ではなく白人だったら、同じように殺されてい
たのだろうか。
私は今まで、アメリカ合衆国の人種差別は完全になくなったと思っていた。リンカーン
大統領の奴隷解放宣言の後、さまざまな人たちが人種差別をなくすように訴え続け、つい
に黒人のバラク・オバマが大統領になり、人種差別は遠い過去のものになったと思ってい
た。だが、やはり今でも人種差別は残り続けている。実際にアメリカの世論調査では、黒
人の約80パーセントが、今なお差別が残っていると感じているとのことだ。
今年の夏、私はアメリカ合衆国へ研修に行ってきた。現地の空港を見渡すと、フライト
アテンダントや機長は白人ばかりだが、荷物検査のところにいる人たちは黒人ばかりだっ
た。私のことをとても優しく迎えてくれたホストファミリーも白人、大学の教授も圧倒的
に白人が多かった。私の目から見ると、体力的に大変な仕事や、賃金の安い仕事に就いて
いる人々は、黒人が多かったように思う。
私は、日本に帰ってきてから調べてみた。すると、昔、黒人は奴隷としてアメリカへ連
れてこられたため、教育も受けられず、安い賃金で過酷な労働をさせられていたことがわ
かった。
現在、良い教育を受け、良い仕事に就き、財をなすことができた一部の黒人がいる一方
で、今でも教育を受けられず、低賃金で働く人や、貧困のため犯罪に手を染めてしまう黒
人がいるということを改めて知った。すべての人々が平等に生活することはとても難しい
ということを強く感じた。
同時に私ははっとした。黒人への差別を理不尽に思う一方で、自分の中にも「差別」意
識があるのではないかと。
アメリカの空港で荷物検査を受けるときだった。私は黒人の検査官を見て真っ先に「こ
わい」と思った。そのせいか、相手は優しく接してくれているのにも関わらず、私はとて
-1-
も冷たく対応してしまった。相手の笑顔に笑顔で返すこともなく、言葉も怒ったようにぶ
っきらぼうで。検査官に対して、とても失礼な態度だったと思う。私が無意識のうちにと
っていた行動が、相手を不愉快にするだけでなく、差別になっていたということに、帰国
した今気づいたのだった。
「差別」とは、「無知」や「偏見」から生まれてしまうものだと思う。無知が誤解や負
の先入観を生み、偏った知識やうわさなどで、自分の中で作り上げた「偏見メガネ」で人
を見てしまうのだ。
だが、人は一人一人違っているし、住む国も違えば気候も環境も言葉も習慣も違ってく
る。だからこそ、お互いの文化をよく知り、学び、尊重し合うことが大切なのだ。そうし
て偏見メガネが消えたとき、人と人としての交流ができ、差別はなくなると思う。
昔から行われてきた人種差別をなくす運動の中で、たくさんの言葉が生まれた。その中
で私の心に響いた言葉がある。
「I have a Dream」
「私には夢がある」
キング牧師の言葉だ。初めてこの言葉を聞いたとき、私はそのままの意味で受け取った。
彼には夢があるのだと。しかし、その続きを聞いたとき、それまでの自分の考えが恥ずか
しくなった。彼の夢、それは、白人と黒人の子どもたちが手を取り合っているということ
だ。当時のアメリカでは、全く不可能と言っても過言ではないことだった。すぐには叶わ
ないかもしれないが、いつかは必ずそうなってほしい、そうなっていくために頑張ろう、
ということなのだ。必ず、差別や偏見のない、自由と平等の国にするのだという、彼の強
い意志の力を感じた。
東日本大震災が起こってから、4年以上が経つ。だが、今でも被害の爪あとははっきり
残されている。福島県には、大震災だけでなく、原発事故も起こった。とたんに福島県産
の農産物は売れなくなった。私自身も悲しい出来事に遭った。ホテルで荷物を送るために
住所を書いたときに、「福島県」と書いただけで従業員の顔がくもり、少し嫌そうな雰囲
気で冷たい態度をとられたのだ。人には放射性物質は付いていないのに、関東などの福島
から離れたところに住んでいる人たちには放射性物質の塊みたいに思われているというこ
とを体験し、日本でも「差別」が行われてしまっていることに気づいた。本当に悲しくて、
辛かった。
差別があるのはアメリカだけだと思っていたが、とても身近なところで起こっていた。
しかし、私も負けずに、キング牧師のように、福島県民と県外の人々、福島県民と世界中
の人々が、震災の前のように過ごせることを願い続けたい。
私は、人が楽しそうに笑っている表情が好きだ。二本松が大好きだ。福島が大好きだ。
だからこそ、日本、そして世界中の人々に知ってほしい。これからの社会に「差別」は一
番いらないものだ。すべての人が平等であり、尊重されるべきなのだ。
「I have a Dream」
私には夢がある。世界中の人たちが笑っていられる世界を、私たちの手で作ることだ。
志があれば、決して不可能なことではない。まず、私たち一人一人が、偏見メガネをはず
していこう。それが、差別のない社会への第一歩だと信じて。
-2-