波動歯車装置の効率及び無負荷ランニング測定実験

波動歯車装置の効率及び無負荷ランニング測定実験
1.
目的
(1) 波動歯車装置の伝達原理を学ぶ
(2) 減速機の効率を理解し、機械効率の測定法を学ぶ
(3) モータ、トルク変換機、パウダブレーキなどの基本知識を学びながら、これら
の測定機器の使い方を覚える
(4) 機械性能を測定する技能を身に付ける
2.
精密減速機及びその機械性能
2.1 精密減速機波動歯車装置の紹介
波動歯車装置は大速比を持つ精密減速機の一種であり、1955 年に米国の C.W.Musser
氏によって発明され,現在では産業用ロボットの関節の他、ヒューマノイドロボットや
宇宙探査機の可動部分などに多用されている.特徴としてこの減速機は小型軽量、高伝
達精度、大減速比の3点が挙げられる.
波動歯車装置は図1に示す様に、フレクスプライン(Flex-spline)、サーキュラスプ
ライン(Circular spline)とウェーブジェネレーター(Wave generator)
、の 3 点の部
品(以降、WG、FS、CS と表記)から構成されており、特に FS は薄いカップ状の部品で、
弾性変形しながら回転する事で動力伝達を行う.図2は(株)ハーモニック・ドライブ・
システムズ社製波動歯車装置の WG、FS と CS の写真である.一般的に波動歯車装置は
CS を固定し、WG を入力軸とし、FS の Boss 部を出力軸として使用される.
FS
CS
Diaphragm
Boss
WG
図1
波動歯車装置の構造図
サーキュラスプライン(CS)
ウェーブジェネレーター(WG)
フレクスプライン(FS)
図2
波動歯車装置を構成する WG、FS と CS の写真(CSF40-100)
2.2 減速機の基本性能評価指標
減速機が完成された後、顧客に対する性能保障のために様々な機械性能評価試験が行
われている.例えば、減速機の振動・騒音レベルの測定、効率、伝達精度、ヒステリシ
ス特性(減速機のねじり剛性、バックラッシュー及びロストモーション)などの測定、
無負荷ランニングと増速起動トルク及び温度上昇などの測定試験が行われている。本実
験では、減速機の伝達効率と無負荷ランニングトルク測定だけを行う。具体的な内容を
次に示すように紹介する.
3.
減速機の伝達効率
3.1 仕事と仕事率について
高校物理の知識によると、仕事は,物体に力を加えて動かした時、
「仕事をした」とい
う解釈である.従って、仕事を式(1)で計算できる。
𝑊 =𝐹×𝑆
(1)
ここで、𝑊 :仕事 [J (ジュール)]; 𝐹 :力の大きさ [N]; 𝑆 :移動距離 [m]
1J (ジュール)とは、大きさ1N の力で物体を力の向きに 1m だけ動かしたときの仕事
である。
1秒間当たりにする仕事を仕事率という。仕事率を式(2)で計算できる。
P=
𝑊
𝑡
(2)
ここで、𝑃 :仕事率 [W (ワット)];
𝑡 :時間 [s]
仕事率の単位にはワット(W)を用いる。1W とは、1s 間に 1J の仕事をする時の仕
事率である.
以上の定義に元にして、物体回転運動の場合を考えてみよう。図3において、半径R
の円板が外周の接線方向にFの力を受けて、回転数nで回転する場合には、円板を回転
させようとする作用の大きさをトルクと言い、その大きさが接線力と回転半径の積で求
められる。即ち、
トルク=接線力×回転半径
n
R
●
F
(or 𝑇 = 𝐹 × 𝑅
) (3)
𝑅 : 円板の回転半径 [m]
𝐹 : 円板外周の接線力 [N]
𝑛 : 円板の回転速度 [rpm]
𝑇 : トルク [Nm]
図3
円板を駆動する時のトルク計算式
回転数 rpm の意味は rotation per minute(回転/分)であるので、ここで、1分間に
物体が円周方向に沿って移動した時に行う仕事 L を考えると、仕事L [Nm] = 力F [N]
×移動距離S [m]により、式(4)が得られる.
𝐿 = 𝐹 × 2π𝑅 × 𝑛 = 2𝜋𝑛𝑇
(4)
従って、高校物理により、仕事率を次に示す式(5)で計算できる.
仕事率(動力)P =
1 分間に行う仕事
1 分間
=
2𝜋×𝑛×𝑇
60(秒)
𝑛×𝑇
= 9.549
[W]
(5)
仕事率の単位を[W]から[kW]に変えると、式(5)を式(6)のように、書き直せる。
動力、回転数とトルクの間の関係:
𝑛×𝑇
[kW]
P = 9549
ここで、P: 動力
3.2
[kW];
(6)
T: トルク(Nm); n: 回転数(rpm)
伝達効率の定義及び測定法
減速機が負荷状態で回転する時には、減速機内部の部品間の摩擦や回転運動している
部品(例えば、歯車や軸受など)により,潤滑材の内部撹拌による損失などにより、減
速機の入力側から入力された運動エネルギーの一部分は熱に変換され、損失していく現
象が発生している.この運動エネルギーの損失により、減速機の出力側の運動エネルギ
ーは入力側の運動エネルギーより小さくなり、この損失の大きさは機械の効率という専
門用語で表現されている。
減速機の効率ηとは減速機内部の機械摩擦(ギヤやオイルシールなど)や潤滑剤の撹
拌運動などによる機械エネルギーの損失をいう.効率は入力回転数、負荷トルク、グリ
ース温度、減速比等により変化する.理論上、効率の計算はまだ難しい問題であるので、
減速機の効率は実測により判明することが殆どである。減速機の効率ηは次に示すよう
に定義されている.
効率η =
減速機出力側の動力
減速機入力側の動力
× 100%
(7)
減速機の入力側の回転数と負荷トルクをそれぞれ𝑛1 と𝑇1 で、減速機の出力側の回転数
とトルクをそれぞれ𝑛2 と𝑇2 で表す場合には、式(6)より、減速機の入・出力軸側の動
力を式(8)と(9)で求められるので、
減速機の入力軸側の動力=
減速機の力軸側の動力=
𝑇1 ×𝑛1
9549
𝑇2 ×𝑛2
9549
(8)
(9)
式(8)と(9)を式(7)に代入すれば、式(10)が得られる.
𝑇 ×𝑛
効率η = 𝑇2 ×𝑛2 × 100%
1
1
(10)
式(10)において、𝑛2 ⁄𝑛1 は減速機の速比であるので、この速比を𝑖とし、式(11)
を式(10)に代入すれば、効率の計算式(12)が得られる。
𝑛
𝑖 = 𝑛1
(11)
2
𝑇
効率η = 𝑇2 × 𝑖 × 100%
(12)
1
式(12)より、減速機の入・出力軸側の負荷トルクを測れば、減速機の効率が分か
ることができる.従って、減速機の入・出力軸側の負荷トルクの測り方を次に示すよう
に紹介する。
3.3 伝達効率の実験装置の紹介
図4は減速機の効率測定原理図である.図5と6はそれぞれ減速機の効率測定装置の
組立図と写真である.
①
⑥
②
③
⑦
④
⑧
⑨
⑤
⑩
⑪
図4
減速機の効率測定の原理図
① =モータ; ②=トルク変換機()
; ③=波動歯車装置;④=トルク変換機();
⑤=負荷装置(パウダブレーキ); ⑥、⑦、⑧と⑨=カップリング(継手);
⑩=EDS400(Interface)
;⑪=パソコン
⑤
③
②
①
⑥
⑦
図5
⑧
④
効率測定実験装置の組立図
⑨
⑪
⑩
⑥
①
⑨
⑦
③
②
図6
⑧
④
⑤
効率測定実験装置の写真
図4,5と6において、モータ①を使って、実験装置を全体回転させて、その時にパ
ウダブレーキ⑤を使って実験装置に負荷トルクを加える。実験対象である波動歯車装置
③の入力と出力軸側にそれぞれトルク変換機②と④を取り付けて、減速機の入力と出力
軸側のトルクを測る。トルク変換機は回転している軸に作用しているトルクを測るセン
サーである。
実験の際には、モータを回転させながら、パウダブレーキで負荷トルクを掛けて、そ
の時の減速機入・出力軸側のトルク信号をパソコンによりサンプリングし、サンプリン
グされたトルク波形をパソコンに保存させるように測定実験が行われる。そして保存さ
れた減速機入・出力軸側のトルク波形を式(12)に代入すれば、減速機の効率が算出
される。本実験の場合には、波動歯車装置の減速比は𝑖 = 1⁄100である。
4.
減速機の無負荷ランニング
4.1 無負荷ランニングの定義
無負荷ランニングトルクとは、減速機を無負荷の状態で回転させるために必要な減速
機入力軸のトルクを意味する.無負荷ランニングトルクを測ることにより、減速機内部
の回転摩擦損失の程度を知ることができるので、減速機の性能評価指標として減速機製
造現場に用いられている。
4.2 無負荷ランニングの測定実験
無負荷ランニングトルク測定実験は図7に示すように行われる。図7に示すように減
速機の出力軸に何も付けない状態で実験装置を回転させながら、減速機の入力軸のトル
クをトルク変換機により測定すればよいことになる。実際に実験を行う場合には、減速
機の出力軸側に取り付けられているカップリングやトルク変換機及びパウダブレーキ
を取り外す必要ではなく、図6に示すパウダブレーキの電源を切れば、パウダブレーキ
が無負荷状態になり、減速機の出力軸側にほぼ無負荷状態となるので、その時、実験装
置を回転させながら、減速機入力軸側のトルクを測ればよいことになる。
①
③
②
減速機の
出力軸
図7
5.
無負荷ランニング測定装置
課題
5.1 伝達効率及び無負荷ランニングの測定実験
実験時の役割分担:
(1) パウダブレーキコントローラの操作(トルク調整):1名
(2) モータの操作(回転数の調整)
:1 名
(3) パソコン操作(トルク波形データのサンプリング):1 名
実験が始まる前に、まず役割分担を決めて、その役割分担を順次に変えながら、ローテ
ーションで表1に示す実験を完成させよ。
表1:実験内容
実験1
実験2
実験3
実験4
回転数
トルク
回転数
トルク
回転数
トルク
回転数
トルク
[rpm]
[N.m]
[rpm]
[N.m]
[rpm]
[N.m]
[rpm]
[N.m]
300
0
300
50
300
100
300
150
500
0
500
50
500
100
500
150
700
0
700
50
700
100
700
150
900
0
900
50
900
100
900
150
本実験の実施場所:総合理工 2 号館 110 室(機械設計実験室)
6.
発表会資料及びレポート
発表会資料を PPT で作成し、発表会の後に、レポートとして提出する。また次に示す
ような内容を含むように資料を作成せよ。
(1) サンプリングされた入力軸と出力軸のトルク波形を図示せよ。
(2) 入力軸と出力軸のトルク波形により、トルクの平均値を算出し、その平均値を
使って減速機の効率を求める。
(3) 減速機の効率と回転数の関係を図示せよ。
(4) 各回転数において、トルクと効率の関係を図示せよ。