(140分)/オリビエ・ダアン監督 「歌に込めた不屈の人生」

歌に込めた不屈の人生
松本侑壬子・ジャーナリスト
フランス語が苦手なせいか、シャンソンの歌詞
にどれほどの真情が込められているのかを知らな
かった。あるいは、演歌などで男性歌手が女の恨
み節のような歌詞を歌い上げるのを単なる“お約
束”のように聞く癖が無意識のうちに身について
しまっていたのかもしれない。
この映画で、名前だけはよく知っていたシャン
ソン歌手エディット・ピアフの壮絶な人生(1915
年~1963年)とともに、歌が人生そのものである
ことに深い感動を覚えた。歌の内容は、ピアフの
愛の体験であり思いであり、それを本人が歌詞に
し、歌っているのだ。とりわけ代表作『愛の讃歌』
の愛の激しさ、歓び、そして切なさは観客に感染
する。もちろん、他人の作詞・作曲のものもある
が、それでも「私の人生」と本人が納得する内容
なのだ。聞くうちにピアフの不屈の人生への共感
と励ましを得た思いが込み上がる。
ピアフとは、フランス語でスズメの意、と聞け
ば、日本では美空ひばり(1937年~1989年)を連想
する。いずれも国民的歌手にしては、つつましく
庶民的な芸名だが、共に少女期のデビュー環境と
関係がある。ピアフの場合、幼いころから大道芸
人の父について歩き、街角で歌って日銭を稼いだ。
小柄で庶民的で、抜群に歌のうまい少女にスズメ
の芸名を与えたのは、街角で彼女をスカウトした
パリの一流クラブのオーナーだ。二人とも40代と
50代の若過ぎる晩年には、入退院を繰り返しなが
ら死の数ヵ月前まで舞台に立った。まさに、命が
けで歌の人生を全うしたスズメとひばりだった。
しかし、大きく違うところは、ピアフの愛憎の
激しさである。母親との確執も手加減がない。歌
で自活できるようになった16歳のエディットに、
浮浪者まがいの姿の実母が施しを乞う場面があ
る。
「一曲歌うから恵んでよ」とすがる母親を冷た
く拒否し、罵る母親を振り切って立ち去る娘。
「一
卵性母娘」と呼ばれた運命共同体的なひばり母娘
とは対照的である。
ピアフは47年の短い生涯に、有名なイヴ・モン
タンやシャルル・アズナブールを含めて二十数人
もの恋人をもったと言われる。中でもピアフの「一
生の男」は、1947年ニューヨーク公演時に出会っ
たモロッコ出身のボクサー、マルセル・セルダン。
翌年にはミドルウェイト級世界チャンピオンの座
を勝ち取った強くてハンサムな紳士に、身も心も
虜になってしまった。しかし、マルセルには妻子
がおり、禁断の恋に悩みながらピアフがマルセル
への狂おしいほどの愛の思いを書き綴ったのが名
曲『愛の讃歌』である。マルセルはピアフの待つ
ニューヨークに向かう途上の飛行機事故で帰らぬ
人となる。その同じ時刻、マルセルの魂がベッド
でまどろむピアフを訪れて…。幸福の絶頂から絶
望の奈落へ。そこからマルセルに導かれるように、
ピアフはまばゆい舞台に立ち、
『愛の讃歌』を絶唱
する ―4分間のワンカットシーンに歌姫ピアフ
の気丈な心意気が光るすばらしい場面である。
映画の終わりにピアフは歌う。“いいえ、私は
何ひとつ後悔していない、人が私にしたよいこと
(『水に流して』)。ピアフが「こ
も、悪いことも…”
れこそ私の人生そのもの」と言う潔い歌だ。歌に
命あり。自分も頑張ろうという気になる。
フランス映画(140分)/オリビエ・ダアン監督
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『 エディット ・ ピアフ ~ 愛の讃歌 ~ 』
9月29日より有楽座他全国拡大ロードショー
c 2007 LEGENDE-TF1 INTERNATIONAL-TF1 FILMS PRODUCTION
〇
OKKO PRODUCTION s.r.o.-SONGBIRD PICTURES LIMITED
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