人生の夢に思う ジャック・マイヨール 人間は夢を持ち、追い続ける。若年

人生の夢に思う
ジャック・マイヨール
人間は夢を持ち、追い続ける。若年時に描いた夢を、一生を通して追い求めることができる人
は幸せな人生と言える。ソチ五輪では、多くの若者や壮年が夢を実現させた。夢の実現の陰には、
人の何倍もの努力があったことは言うまでもない。
ANA の機内誌にジャック・マイヨールと佐賀県唐津市との関わりについてルポ記事が掲載さ
れていた。ジャック・マイヨールは素潜りの世界記録を作り、イルカとの共存を訴えたフランス
のフリー・ダイバーである。マイヨールは建築技師として上海のフランス租界で働く父親等と共
に、幼少の時に避暑地として唐津市を訪れ、漁師から素潜りを教わった。そして、10 歳の時に唐
津の七ツ釜で潜っていた時にイルカに出会う。そのイルカとの出会いがマイヨールにイルカとの
共存を思い立たせる原点となる。そして、1976 年にはイタリアのエルバ島で、人類史上初めて素
潜りで 100m を超える記録を樹立した。僅か 10 歳の時のイルカとの出会いが、彼の後の人生に
大きく影響を与えたのである。海の中でイルカと出合うこと自体は劇的な体験であることは疑う
余地もない。しかし、その出会いを通して、イルカとの共存を思い立つ人は多くはない。マイヨ
ールは、人間はイルカと同様に、いつの日にか海の中で生活できるかもしれないと夢を追い求め
た人である。奇想天外な考えであるが、マイヨールにとっては真剣な話であり、それが素潜りの
世界記録保持者へと彼を駆り立てたのである。幼少の時に夢を持ち、それを生涯貫いていく。そ
の夢の内容自体は他人から見た時にどんなに奇想天外であろうとも、本人からすれば幸福な人生
であったと言えるであろう。
ぞうさん
「ぞうさん
ぞうさん
おはながながいのね
そうよ
かあさんも
ながいのよ」
誰でもが知っている童謡の詩を書いた「まど・みちお」さんが、104 歳で亡くなられた。国際
アンデルセン賞も受賞している日本を代表する詩人である。小象さんのお鼻は長いねとからかわ
れたら、小象がお母さんのお鼻も長いんだぞと自慢したという意味の詩だそうである。
この何十年かを見ると、500 万枚も売れたと言われている「およげたいやきくん」
、400 万枚近
い売り上げの「だんご 3 兄弟」、300 万枚近い売り上げの「黒ネコのタンゴ」など、子供向けの歌
が大ヒットすることがある。しかし、世代を超えて、時代を超えて歌い継がれる童謡となるとそ
んなに多くはない。
その中で「ぞうさん」は多分、歌い継がれていくのであろう。それは、まず、ゾウは子供にと
って極めてインパクトがある動物であるからである。また、ゾウの中で最も目につくのは長い鼻
であるからである。また、子供にとって最も親しみのある「かあさん」という言葉が入ったフレ
ーズが出てくる。極めて短い詩で、子供の心をくすぐり、想像力をかきたてている。親しみがあ
り、分かりやすいので全国の幼児に歌い継がれていく。先ごろ亡くなられた「やなせたかし」さ
んによるアンパンマンも同様な理由により子供に愛されている。ゾウやアンパンなど、身近にあ
り、子供にとって親しみやすい素材を材料にして、極めてわかりやすい形で子供に夢を与える仕
事をした二人は本当に豊かな人生を生きたと言える。
ナイチンゲール
ウクライナ情勢が緊迫している。国の分裂やロシアの介入も懸念されている。ウクライナと言
えば、クリミア戦争の舞台になったクリミア半島が黒海に突き出ている。クリミアには、ソビエ
ト連邦解体後も地中海に睨みを利かせる黒海艦隊の母港があるが、黒海艦隊はウクライナ海軍と
ロシア海軍で分割している。ロシアにとってクリミアは軍事上の要衝であるとともに、クリミア
地域の住民の 7 割近くがロシア系であるということも事態を複雑にしている。
クリミア戦争の時には、フローレンス・ナイチンゲールが看護婦として活躍している。敵味方
を問わず看護した姿が、後に国際赤十字のアンリ・デュナンに高く評価され、近代看護学の普及
へと結びついている。ナイチンゲールは生涯を通して近代看護学や衛生理論の確立や普及に努め
ていったが、別に若年期に敵味方を問わない看護を夢見たわけではない。彼女は単に神の声を聞
いただけである。17 歳の時に、「私のところに来て奉仕しなさい」という神の声を聞いた。そし
て 24 歳の時に看護への道を志し、34 歳でクリミア戦争に従軍看護婦として赴く。ナイチンゲー
ルにとって、看護婦は神の声に対する一つの選択肢であったと言える。しかし、その行動が、今
日の看護の基礎を築いたのである。偉大な一歩がクリミアの地にあった。ウクライナ情勢は緊迫
の度を増しているが、クリミアの地を再び血で汚すことのないように願う。
なお、ナイチンゲールは神の声に耳を傾けたが、
「まど・みちお」はキリスト教の人間中心主義
から離れて自然に寄り添う詩を多く書いた。
弥生
2 月は大雪に見舞われて大変なひと月であった。その寒かった 2 月も終わり 3 月を迎えた。3
月は弥生である。弥生の由来は、草木がいよいよ生い茂る月が詰まってのものである。まさに草
木が生い茂る時期、今一度、多くの人に感動を与える夢を探し、追い求めていきたいものである。
ジャック・マイヨールはイルカにあこがれ、まど・みちおは子供を喜ばすことにあこがれ、ま
た、フローレンス・ナイチンゲールは神からの声にあこがれた。人様々であるが、それぞれの人
生を生き抜いた人たちである。小さな夢であっても、真面目に追い続ける 3 月でありたい。
平成 26 年 3 月 1 日
矢田部龍一