標準化による 開発プロセスの 最適化

BUSINESS
ETAS
アニヤ・ライヤ
標準化による
開発プロセスの
最適化
第7回ETASユーザー技術交流シンポジウム
今年7月12日∼14日、第7回ETASユーザー技術交流シンポジウム(CES)が、シュトゥットガルト近郊のルート
ヴィヒスブルクにあるForum am Schlosspark culture and convention centerで開かれました。同セン
ターで初の開催となる今回のシンポジウムは、日程を従来の2日間から3日間に拡大し、自動車メーカやサプライヤ
からの参加者約130名が詳しい情報やアイデアを交換できる機会となりました。
年は、ETASが包括的なライフサイク
今
その結果、現状の問題点が早くも明らかに
ル戦略を掲げた最初の年です。これは
なりました。Robert Bosch GmbHのDr.
開発ツールと故障診断やサービス用のソ
マーティン・フリッツは、サービスの分野で
リューションの統合を図る試みであり、今
今後発生すると思われる大きな障害を克服
回のシンポジウムのトピックでもありまし
していくには、システム開発者のレベルで
た。初日は、ECUの故障診断をテーマとし
有効な対策を講じるしかないという点を強
た内容に特化し、特に故障診断がシステム
調しました。それには、システムの診断能
Softing AGマーケティングマネージャ、
開発者にもたらすと思われる課題について
力を開発早期に評価するとともに、その後
ベルント・ロッシュ:「車の開発からアフ
討議が集中しました」と、ETAS Customer
も最新の試験技術を取入れてシステムの最
ターサービスに至る幅広い領域を網羅する
Services Original Equipment(欧州)副
適化を図っていく必要があります。
ODXプロジェクトは、自動車メーカ間の垣
「
社長ローランド・ヨイターは説明していま
根を越えるため、
す。さらに今回の議論を通じて1つの単純な
車両電子制御シ
ステムの信頼性
診断は保険のようなもので、もしもの事態
GM Europe GmbH診断システム部門プリンシパルエン
ジニア、Dr.ガンゴルフ・ファイター:「診断プロセスには
が起こらない限りは必要に迫られないとい
標準規格が必要です。それゆえ業界で標準化サミットを開
く向上させま
うことです。
いて、目標とターゲットを取り決めていく必要があります。
す。
」
事実が浮き彫りになりました。つまり故障
と効率性を著し
診断プロセスにおける重複や冗長性、非互換性といった問
題に対処していくには、この方法しかありません。
」
Robert Bosch GmbH高度診断ソリューション部門プロジェクトマ
ネージャ、Dr.マーティン・フリッツ:「車載システムの複雑化・高
度化、また車載ネットワークの容量拡大により、診断技術の重要性
また診断の手法とプロパティを統合して活
Softing AGのベルント・ロッシュによれ
が高まっています。サービスエンジニアは単なるシステムの専門家と
用することは、現在のシステムとそのデー
ば、診断データを交換するためのオープン
いう従来の立場から、テスト装置を巧みに使いこなすユーザーへと方
タ出力にメリットをもたらすため、データへ
規格ODXが将来的に故障診断の標準規格に
向転換していくことになります。これは技術者の全般的なスキル向上
のアクセスを共有できない既存の「スタン
なるとのことです。メーカに依存しないとす
にもつながります。
」
ドアローン」方式より格段に優れた作業効
るODXプロジェクトの目的は、エレクトロ
率の実現につながるということを、GM Eu-
ニクスの診断に関するプロセスチェーンを
今回のシンポジウムは、開発者と診断専門
rope GmbHのDr.ガンゴルフ・ファイター
標準化し、開発・生産・サービス各分野の
家の双方にとって、それぞれの立場で経験
は明確に説明しました。ただしその実現に
統合を図ることです。現在同社ではドイツ
している課題を確認し合う機会となりまし
は、標準化を強力に推し進めなければなら
の自動車メーカ2社に向けて、このODXの
た。
ない点も指摘しています。
実装に取り組んでいます。
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RT J 2 . 2 0 0 5
BUSINESS
約130名の参加者を
迎えた第7回
ETASシンポジウム
マに進められ、オープンシステムアーキテク
チャが自動車産業にもたらすメリットにつ
いて、さまざまな点から発言されました。こ
こで明らかになったのは、各種のOSや組込
みソフトウェア、マイクロコントローラ、ソ
フトウェアコンポーネントが混在する現状
で、それらの統合に要する膨大なコストを
削減することが、AUTOSARの活動の狙い
であるということです。AUTOSARの課題
は、メーカに依存しない標準システムプラッ
トフォームを構築できるように必要な仕様
の策定に取り組んでいくことです。
その実現により、パワートレイン、シャー
シ、安全性、テレマティクス、ヒューマン・
マシンインターフェース、ボディ/快適性と
いった6つの領域において、業界標準が確立
することになります。今回のシンポジウムで
は、これらの領域
で開発されるソフ
Robert Bosch GmbH
トウェアやハード
診断・ディーゼルシス
ウェアコンポーネ
テム開発部門長、Dr.
ントは、アーキテ
ウォルター・レーレ:
クチャが標準化さ
ETAS診断サービスツール部門のビジネスデ 「サービス工場のスタッフは十分な訓練が必要です。彼らのレベルが
れ、互換性のある
ベロッパー、ドン・ギルマンは車両の騒音・
低ければ、トラブルシューティングを対話形式で進められるような、
ものでなければな
振動を識別するソリューションについて論
より高度で精密な故障診断機能を備えた装置が必要にとなります。
」
らないという点で
じました。同 社 の NVH アナライザ MTS
意見が一致しまし
4100は、騒 音 ・ 振 動 ・ ハーシュネス
(NVH)の原因を特定するための装置です。 的な前提条件となります。ひとつのAISを構
た。
またAUTOSARが果たすべきその他の役割
ある自動車メーカは、この装置の導入によ
築する場合、そのプロセスは理論免疫学と
りNVH関連の保証・修理費を年間で
人工免疫システムに共通の手法を観察する
ンターフェースの仕様開示、製品ライフサ
16.9%節約、120万ドルのコスト削減を達
ことから始まりますが、その目的は、異な
、エレクトロニクスと
イクルの管理(PLM)
Carmeq GmbH社
成しました。
る種類の免疫細胞と
ソフトウェアのアップデートにおける安全要
長、 Volkswagen
件などについて意見交換されました。
AG E/Eアーキテク
分子を説明できるモ
として、新たなバスシステムの標準化とイ
ETASイノベーションセンターのDr.ケネス・
A ・マルコと同センター長のDr. ビル・ミ
デリング体系を導き
Vetronix(ETAS
出 すことにありま
グループ)診断
担当、AUTOSARス
ラーは、現在取組んでいる革新的なアプロー
す。そしてこの作業
サービスツール製品グループ長、Dr.ベルント・リヒテンベルク:
ポークスマン、 Dr.
チについて発表しました。2名の科学者が描
に続き、関連性のあ
「将来の診断ツールには、対話型のトラブルシューティング機能を
トーマス・シャルンホ
く将来像によれば、
「異常検出」や「免疫シ
る発見内容を単一の
盛込む等の徹底した高度化が求められます。当社はこうした診断プ
ステムエンジニアリング」といった極めて抽
メソッドの中で具現
ロセスを最適化するノウハウを有しており、すでに開発段階に入っ
ルスト:「AUTOSAR は自動車業
象的な数学的手法の導入により、従来に比
化できるよう、免疫
ています」
界が標準化を推進す
べ不具合の特定が容易になるとのことです。
の原理、理論、プロ
るまたとない機会を提
つまりシステムは基準値とのずれを自動認
セスについての基本
供しています。業界がこのチャンスをどのように活かすか、我々は冷
識できるようになるのです。複雑な問題の
的な演算方法を研究します。
静に見極めねばなりません。これまでのところセグメントの仕様は策
免疫システム(AIS)の原理を導き出すこと
2日目、3日目は一貫してAUTOSAR(車両
技術的に成熟して2008年にはAUTOSARモジュールを組込んだ最
が「免疫システムエンジニアリング」の基本
のオープンシステムアーキテクチャ)をテー
初の制御ユニットが市場に出る予定です。
」
チャ・コンセプト開発
定され、現在はテストの実装に取組んでいます。2006年末までには
解決を意図したツール開発では、ある人工
➔
■
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J 2 0 0 5 . 2 RT
イベントと
並行して製品の
デモンストレーションを
実施
Robert
Bosch
GmbH、Divisional Board of Chassis Systems Brakes
所属、ギュンター・
プラップ:「 ETAS
の 開 発 ツ ー ル
は、電子システムの信頼性を向上させるべく設計されてきました。た
ギュンター・プラップやDr.ユルゲン・ボル
X2E GmbHの創業者かつCEO、Dr.カール
だしこのようなツールのインターフェースは、競合メーカやベンダー
トラツィが紹介したAUTOSAR規格を実装
ハインツ・ヴァイスは、これに関連してAU-
のソフトウェアに対してもオープンであるべきです。それが結局は
していくための献身的な取組みは、ETASに
TOSAR準拠のソフトウェア開発をあまり性
ユーザーを効果的に増やしていくことにつながり、ETASは元より顧
とって特別な意味を持っています。それは
急に行なうべきではないと指摘しました。ま
客に対しても新たなビジネスを生み出すメリットをもたらすのです」
ETASが自動車業界向けのシステムアーキテ
たハードウェアがタイムリーに供給される必
クチャのパイオニアとしてすでに相当の投資
要性や、開発期間の短縮化が進む一方の現
を行っているからです。またこれは将来有
状から、プログラマブルロジックの果たす重
Robert Bosch GmbHのギュンター・プ
望な新規市場に対して投資することでもあ
要性が以前に増して高まっていることに触
ラップは、高品質なソフトウェアシステム
ります。その他、LiveDevices (ETAS グ
れました。
を開発する上で社内のエンジニアが使用し
ループ)のクラウス・ベックが紹介した例
ているツールやプロセスについて発表しまし
は、AUTOSARが理論の域を脱しているこ
た。その中で特に、AUTOSAR準拠のソフ
とを改めて納得させました。完全に実装さ
LiveDevices(ETASグループ)
トウェアを開発する際にコンポーネントサ
れたAUTOSARベースのコンポーネントと
ゼネラルマネージャ、クラウス・
プライヤが直面する課題について強調しま
最初のインプリメンテーションに関するそ
ベック:「AUTOSARはゼロか
した。
の報告は、将来的にデファクトスタンダー
らスタートしたのではなく、先行
ドが実装されていくであろうことを具体的
的なプロジェクトが多数すでに存
に証明するものといえます。
在していました。 ETAS では、
INTECRIOやASCETといった弊
Daimler Chrysler AGのDr.ユルゲン・ボル
トラツィは自動車メーカの視点から、同じ
テーマについてアプローチしました。同社で
社製品において、つねに新しい
DaimlerChrysler
AG ソフトウェア開
はAUTOSARに準拠したソフトウェアの統
規格に対応するように継続的な開発を行なっています。同様に
合のみならず、統合の際の安全性もきわめ
LiveDevicesでも最新規格に対応するコンポーネントの提供に取
発部門ディレクター
て重要な要素と認識しています。
組んでおり、お客様はターンキーソリューションを享受すること
Dr.ユルゲン・ボルト
が可能になります。
」
ラツィ:「現在当社
は、2011年モデル以降の量産車にAUTOSAR規格の導入を計画し
ています。車は複雑化する一方で、次世代車が機能を十分に発揮す
Volkswagen AGソフトウェアコンポーネント・通信ネットワーク部門長、
るには、適切な汎用性を備えた強力な業界標準が不可欠になります。
」
ヘニング・ハルブス:「当社は、自動車メーカ間の垣根を越えた規格を求め
ており、AUTOSAR規格の導入に多大な投資を行っています。私達はでき
るだけ近い将来にAUTOSAR準拠のモジュールを統合する予定で、このプ
」
ロセスを加速させるためにETASと会合を重ねています。
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ETASのスヴェン・ゴーベルは、車両の生産
Ferrari社:
工程で診断機能の検証を自動化するツール
量産工程で
について発表しました。 LABCAR-AU-
診断機能の検証に
TOMATIONを用いて自動化を実装した初
の自動車メーカFerrari社では、このツール
の導入により、OBDのガイドラインで定義
された電装系の量産車評価(PVE)テスト
LABCAR-AUTOMATIONを用いた
最初の自動車メーカ
の大幅な自動化に成功しました。
ETAS LABCARおよびファンクション&ソフ
トウェア開発 /診断ツールのビジネスデベロッ
パー、スヴェン・ゴーベル:「LABCAR-AUTOMATIONは、テストの自動化を図る際の強
力な標準化プラットフォームであり、お客様は
最適なテスト戦略を定義し、それを効率的に実
行することが可能になります。
」
Robert Bosch GmbHのマルクス・ファル
ETASカスタマーサービス(欧州)
ヌングは、再利用可能なファンクションの
副社長
今年のシンポジウムも例年同様に、専門家
クラスを活用したことで、開発コストをど
ローランド・ヨイター
や実際のユーザー、自動車メーカやサプラ
れほど削減できたかを発表しました。氏に
イヤの意志決定者の方々にとって、最新の
よれば、モデルベースの開発手法と自動コー
情報や意見を交換し合う貴重な機会が提供
ド生成機能の活用により、現在すでに大量
Robert Bosch GmbH、ASCET担当、 され、業界の今後の方向性を見据えた多彩
生産の開始が可能になったとのことです。
マルクス・ファルヌンク:「当社の開発手
な情報の発信に加え、参加者、発表者、主
法を大規模なプロジェクトに展開させるに
催者ETASにとってそれぞれの経験を分かち
は、ASCETの性能の向上が求められます。
合う場となりました。
ASCET V5.1.2最新版にはかなりの改善が盛り込まれていますが、今後は
MATLAB®/Simulink®のような他のCASEツールとのインターフェース
を強化して、プラントモデルの統合を可能にしていく必要があります」
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