第5章 フランスの職業教育訓練と教員・指導員の養成

第5章
フランスの職業教育訓練と教員・指導員の養成
夏目
達也
はじめに
本稿の目的は、フランスにおける職業教育訓練制度(初期・継続)、およびその実
施を担う教員・指導員の養成教育・継続教育の実態を明らかにすることである。
フランスでは、後期中等教育修了レベルの職業資格以上のなんらかの資格を同一年
齢層の全員に取得させるという方針が、1980 年代半ばに政府によって打ち出された。
その実現に向けた努力は現在も続けられており、学校修了後に責任ある社会生活や職
業生活を営めるように、質の高い職業教育訓練を提供することが政策的に追求されて
いる。
一方、企業従業員や一般社会人を対象とする継続職業教育訓練制度も活発に実施さ
れている。1970 年前後から、政府や労使や協議やそれを具体化する法令によって継
続教育・訓練制度が整備されてきた。今日、受講者は全国で 1,000 万人を超える水準
にまで達しており、多くの人がそれぞれのニーズに応じて教育訓練を受けている。
このような初期および継続職業教育訓練を担当するのが教員・指導員である。受講
者の置かれた諸条件をふまえて、その改善を支援できる質の高い教育訓練を提供する
うえで、彼らの担う役割は大きい。彼らはどのような教育訓練によって養成され、職
務能力を向上させているのであろうか。いかなる労働条件で勤務しているのであろう
か。さらに、質の高い教育・訓練を実現するために、政策担当者、各種の教育・訓練
機関、教員・指導員たちはいかなる課題に直面しているのであろうか。本稿では、こ
れらの問題を扱う。
5.1 では初期および継続職業教育訓練制度について述べる。5.2 では、教員・訓練
指導員の養成教育・労働条件等について明らかにする。
5.1 職業教育訓練の基本制度
5.1.1 初期職業教育訓練
(1) 初期職業教育訓練制度の概要
フランスの初期職業教育は、後期中等教育段階以上の各機関で行われている。1980
年代半ば頃までは、前期中等教育段階の途中から職業教育を開始するコースが設置さ
れていた。しかし、同コースが事実上成績不振の生徒向けのコースとして位置づけら
れたことや、その後の進路の幅が制約されることなどが問題とされた。そのため、全
員に共通の前期中等教育(修業年限4年)を保障することになり、同コースは廃止さ
れた。現在も一部に技術教育に重点を置いたコースが設置されているが、前期中等教
育段階での職業教育は基本的に行われていない。
職業教育は、後期中等教育段階のほか高等教育段階でも行われている。1980 年代
半ば以降の高等教育進学率の上昇の中で、高等教育段階で職業教育を受ける者は増加
している。とはいえ、職業教育を受ける者の多くは後期中等教育段階の教育機関に在
籍している。そのため、初期職業教育訓練制度については後期中等教育段階を中心に
記述する。
161
職業資格について簡単に説明しておこう。フランスの職業資格はその大半が国家資
格である。1980 年代半ばまでは職業資格の創設・改編は国家の専権事項であり、い
わば国家独占の状態が続いていた。1990 年以降、業界独自の資格である「職業能力
認定証」(Certification de qualification professionnelle, CQP)が認められるようになり、
増加傾向にある。国家資格は国家試験を通じて取得するが、取得のための準備教育は
多くの場合学校が担っている。各々の職業資格について準備教育を行う学校が決まっ
ており、その学校が学校階梯全体においてどのような位置を占めているか、とりわけ
学校の修業年限によって、職業資格が等級づけられている。職業資格と学校教育がい
わば連動している点がフランスの職業教育訓練の特徴の一つである。
表 5..1
第1・第2
水準
第3水準
国民教育省の所管する資格の水準と種類
大学第2期・第3期課程(バカロレア取得後3年以上)
の修了証、グランゼコールの修了証
バカロレア取得後2年の課程の修了証(大学第1期課程、
技術短期大学部、リセ付設中級技術者養成課程など)
第4水準
リセの最終学年・職業リセの職業バカロレア取得課程の最終学
年の修了(バカロレア取得)、バカロレア取得後2年課程の中退
第5水準
職業リセの修了(CAP・BEP)、リセ最終学年の中退
準第5水準
コレージュ第4学年修了、職業リセの中退など
第6水準
コレージュの第3学年履修、1年間の職業準備教育履修など
(2) 後期中等教育の構造
後期中等教育は、4年間の前期中等教育(コレージュ、collège)の課程を終えた生
徒を対象に行われる。主に、リセ(Lycée)と職業リセ(Lycée professionnel)によっ
て担われている。
リセは3年制の教育機関である。第 1 学年は基本カリキュラムが共通である。第 2
学年から大きく普通教育課程と技術教育課程に分かれ、両課程ともさらに専門によっ
て分化している。3年次の最後にバカロレア試験を受ける。普通教育課程の生徒は中
等教育バカロレア(別称、普通バカロレア)の試験を、技術教育課程の生徒は技術バ
カロレアの試験を受ける。バカロレアは後期中等教育と高等教育入学の基礎資格をあ
わせて認定する国家資格である。試験の合格率は例年 80%程度であり、合格者(バ
カロレア取得者)のほとんどは高等教育機関に進学する。生徒総数は 1,44.7 万人(公
立 1,13.7 万人、私立 31.0 万人)、学校数は 2,630 校(公立 1,567 校、私立 1,063 校)で
ある(MEN et MESR 2009, p.93.)。
一方、職業リセは2~4年制の教育機関であり、後期中等教育段階の職業教育の中
心を担っている。生徒総数は 70.3 万人(公立 55.1 万人、私立 15.2 万人)
、学校数は
1,672 校(公立 1,012 校、私立 660 校)である(MEN et MESR 2009, p.93.)。修業年限
は、短期の課程が2年である。
162
これらの学校教育のほかに、見習訓練制度(apprentissage)が設けられている。職
業リセの生徒と年齢等が重なる青年を対象としている。ただし、高等教育機関との制
度的な接続関係がなく、厳密な意味では後期中等教育機関とはいえない。
技術教育課程第2学年と職業リセ第2学年の生徒数は、両者の同学年生徒総数の
54%にあたる。これに見習訓練制度の訓練生を合わせると、その割合は 60%に達する(Rep。
p.101,111、149 の生徒数・訓練数から計算)。つまり、後期中等教育レベルでは職業教育を受け
ている者が多数を占めているのである。
前期中等教育から後期中等教育への進学先の学校種の選定(リセか職業リセ)は、
コレージュにおける進路指導(orientation)によっている。進路指導は、大雑把にい
えば、コレージュの学級委員会(conseil de classe、教員、生徒、父母の代表で構成)
が生徒の学業成績や本人の希望等を参考に、進むべき進路を勧告する。これを生徒側
が受け入れれば、それが決定となる。不服の場合には異議申し立てをすることができ
るが、正当性を認められない限り、学級委員会の勧告が決定となる(その場合に、生
徒側は留年を選択することができる)。
図 5.1
大
高等
教育
フランスの学校系統図
博士
(3年) <技師資格等>
学
修 士
(2年)
学 士
(3年)
職業
修士
上級
グ ラ ン 技術短期 テクニシャン
養成課程
ゼコール 大学部
職業
学士
<上級テクニ
<修了証> シャン免状>
IUT
(2年)
CPGE
(2年
<普通バカロレア> <技術バカロレア>
普通教育課程
<職業バカロレア>
職業バカロレア
準備課程
職業バカロレア
準備課程
BEP
準備
課程
(2年)
第1学年(共通課程)
リセ
職業リセ
コ レ ー ジュ
中等
(4年制)
教育
初等
教育
小
上級テクニシャ
ン
免状等
<職業バカロレア>
技術教育課程
後期
中等
教育
前期
STS
(2年)
技師資格等
学
校
(5年制)
163
CAP
準備
課程
(2年)
BEP
準備
課程
(2年)
見習訓練
CAP
準備
課程
(2年)
(3) 職業リセ
1) 職業リセの概要
職業リセには、BEP(職業教育修了証、Brevet d'études professionnelles)と CAP(職
業適任証 、Certificat d'Aptitude Professionnelle)という熟練労働者資格の取得準備教育
を目的としており、BEP 準備課程と CAP 準備課程(両課程とも修業年限2年)が設
置されている。この課程を修了すると、就職または進学をする。近年は就職よりも進
学を選択する生徒が増えている。両課程の上級課程である職業バカロレア準備課程
(修業年限2年)は、職業バカロレア取得のための準備教育を行っている。
2009 年2月 10 日付け国民教育省令により、2009 年度入学の生徒から、従来の BEP
準備課程と職業バカロレア準備課程が一本化され、3年制の職業バカロレア準備課程
(3年制)に再編された。CAP 準備課程(2年制)はそのままのため、2 コース編成
になる。
なお、就職を促進するために、職業資格取得後(=課程修了後)に、職域を特化し
てより実践的な職業能力を習得させるコースが設けられている。修業年限は通常1年
(教育訓練時間は最低 400 時間)であり、企業実習をはじめ職業教育が重点的に行わ
れ る 。 こ の コ ー ス を 終 え 国 家 試 験 に 合 格 す る と 、「 補 足 標 記 」( mention
complémentaire)を取得することができる。
2) 職業リセの教育課程
新しい職業バカロレア準備課程(3年制)の教育課程は、大きく物理・化学科を含
む専攻領域と第2外国語を含む専攻領域の2種類に分かれる。各科目と配当時間数は、
表 5.2 と表 5.3 のとおりである。
表 5.2 職業リセ職業バカロレア準備課程(物理・化学科を含む専攻領域)
の教育課程
3年間の総時間数
必修科目
職業教育
経済・経営
予防・保健・環境
仏語、数学、外国語、物理、化学、芸術
普通教育科目
仏語、歴史・地理、市民教育
数学、物理、化学
外国語
応用芸術、芸術文化
身体教育・スポーツ
合
時間
1152
84
84
152
計
個別指導
1年間の平均時間数
時間
384
28
28
50
380
349
181
84
224
126
116
60
28
75
2,690
896
210
70
【 注 】3年間は合計84週間で構成する。上記のほかに、企業実習を含む(3年間で計22週間)。
(資料出所)2009年2月10日付け国民教育省令、Bulletin officiel spécial no.2 19 février 2009,
http://www.education.gouv.fr/cid23841/mene0900061a.html,2010.01.20.
164
表 5.3
職業リセ職業バカロレア準備課程(第 2 外国語を含む専攻領域)の教育課程
3年間の総時間数
必修科目
職業教育
予防・保健・環境
仏語、数学、外国語、物理、化学、芸術
普通教育科目
仏語、歴史・地理、市民教育
数学、物理、化学
外国語(第1・第2)
応用芸術、芸術文化
身体教育・スポーツ
合
1年間の平均時間数
時間
計
個別指導
時間
1152
84
152
384
28
50
380
181
349
84
224
126
60
116
28
75
2,690
896
210
70
【
注 】3年間は合計84週で構成する。企業実習の扱いは、物理・化学科を含む専攻領域と同じ。
(資料出所)2009年2月10日付け国民教育省令、Bulletin officiel spécial no.2 19 février 2009,
http://www.education.gouv.fr/cid23841/mene0900061a.html,2010.01.20.
職業バカロレア準備課程と CAP 準備課程では、ともに企業実習が必修になってい
る。前者の場合、企業実習期間は3年間(合計 84 週間)で 22 週とされている。1年
間あたりの時間数は各学校の裁量で決定する。6期以上に分割すること、および1回
の期間を3週間以下とすることは認められない。企業実習では、実際の職場で業務に
従事することにより、学校では得られない実践的な知識・技能の習得をめざしている。
企業実習にあたっては、事前事後指導が行われる。
生徒の自主的・自発的な学習姿勢を引き出すような学習活動が重視されている。生
徒たちは、入学までの各学校段階で、多少とも学業不振に陥っており、留年を繰り返
している者も多い。職業教育を受けるための十分な学力、その前提としての学習意
欲・習慣をもっていない場合も少なくない。学習に対する消極的な彼らの態度を改め、
学習に積極的にさせるためには、普通教育コースの生徒以上に配慮が必要になる。も
ともと職業教育を受けるためには、数学や理科の基礎的な学力が不可欠であることを
考えれば、なおさらである。そのための工夫の一つがプロジェクト型学習である。こ
れは、複数教科にまたがる知識を総合する活動である。BEP 準備課程では普通教科、
職業バカロレア準備課程では職業教育科目を中心に実施される。
職業リセの生徒に対する配慮は学習活動だけでなく、勉学条件の整備の面でもみら
れる。その典型例は少人数指導の時間を多く確保していることである。職業教育科目
では座学だけでなく実習も含まれる。実習は安全性の確保、技能の確実な習得を図る
ために、生徒数を少なくして教員の監督・指導が行き届くようにすることが必要であ
り、そのためにはクラスサイズを小さくすることが不可欠になる。注目すべきは、職
業教育科目だけでなく、普通教育科目についても少人数指導の時間が設定されている
ことである。各学校には当該科目について、教員2名分の予算が追加配分される(必
ずしもクラスを半数ずつに分けるのではなく、生徒の特徴等をふまえて柔軟に人数を
165
配分することができる)。追加配分を行う基準となる生徒数は、準備課程の種類や科
目の種類によって具体的に定められている。
3) 職業リセの生徒の修了後の進路
1980 年代半ばまでは、職業リセで CAP や BEP を取得した後に、ほとんどの生徒は
就職していた。これは上級学校・課程との接続関係がなく、進路が事実上就職に限定
されていたことが大きい。しかし、1980 年代半ばに CAP 準備課程や BEP 準備課程の
上級課程として、職業バカロレア準備課程が創設されたことにより、状況が変化した。
同課程で2年間の教育を受けると職業バカロレア試験の受験資格が得られる。これに
合格すれば、高等教育機関に進学することもできる。現在は第 2 学年修了者の半数以
上が上級課程に進学している。職業バカロレア準備課程進学と技術教育課程への編入
学を選択した者は、2008 年度 54.2%である(MEN et MESR 2009, p.107.)。
2009 年度から職業バカロレア準備課程に一本化されたことにより、職業バカロレ
ア取得までに要する年数は、従来の4年から3年に短縮される。これはリセの生徒と
同様となる。そのため、職業バカロレアを取得する生徒の大幅な増加が予想される。
(4) 技術リセ
上記のように、リセは第2学年から、大きく普通教育課程と技術教育課程に分化す
る。このうち職業教育あるいはそれに類似した性格の教育を行っているのは技術教育
課程である。技術教育課程の在籍者はリセの同一学年全体の約 33%を占める。
技術教育課程は大きくは7科に分かれるが、これらのうちのいくつかはさらに複数
の専攻に分化している(ONISEP 2008)。
・工業科学技術科:機械、電子、電子技術、土木、エネルギー、物質、光学の7専
攻に分化
・工業科学技術・応用芸術科
・実験科学技術:実験物理・工業手法、実験化学・工業手法、生化学・生物工学の
3専攻に分化
・経営科学技術科(STG):通信・人的資源管理、マーケティング、会計・企業財
政、情報システム管理の4専攻に分化
・保健・社会福祉科学技術科(ST2S)
・音楽・ダンス技術科(TMD):楽器、ダンスの2専攻に分化
・ホテル科
このほか、一部にリセ入学の最初から専門分化するコースもあり、木材商工業科、
仕上げ科、建築研究・経済科、土木科、建築補助科等がある。これらは修了後に職業
資格(主にテクニシャン免状(Brevet de technicien,BT)
)を取得を目的としており、
職業教育としての性格を有するコースである。
166
1) 技術教育課程の教育課程
技術教育課程内では多様なコースが設置され、それぞれの専門に重点を置いた教育
が行われる。そのため、普通教育科目は共通するものもあるが、専門の科目や内容は
コースによって異なっている。たとえば、工業科学技術科の教育課程は7つの専攻分
野に分化しており、その教育課程は表5.4のとおりである。これをみると、専門教育
の比重がおおむね50%以上になっている。
表5.4
科
目
リセ技術教育課程工業科学技術科各専攻の教育課程
専攻
機械
学年
2
<必修>
数学
3
フランス語
3
哲学
歴史・地理
2
第1外国語
2
体育・スポーツ 2
モジュール
2
製造学習
7
工 業 技 術 シ ス テ 10
ム
物理・応用物理 3
<選択>
第2現代語
2
体育・スポーツ 2
芸術
2
電子
電子技術
土木
2
3
エ ネ ル ギ 物質
2
3
2
光学
3
2
3
2
3
3
4
-2
2
2
-7.5
11
3
3
-2
2
2
2
5
8
4
-2
-2
2
-4.5
10
3
3
-2
2
2
2
5
9
4
3
4
3
-3
-- 3
2
-- 2
--2
-- 2
2
2
2
2
2
2
2
2
-2
-- 2
4.5 7 7.5 5
12 10 11 12
4
7
8
6
6
3
4
3
4
3
4
6
7
2
3
3
2
3
3
2
3
3
2
3
3
2
3
3
2
3
3
2
3
3
2
3
3
2
3
3
2
3
3
2
3
3
2
3
3
2
3
3
4
4
3
--- 3
2
-- 2
--- 2
2
2
2
2
2
2
--- 2
5.5 7 7.5
13 10 11
2
3
3
4
3
--- 2
2
-2
2
2
2
2
-5
6
10 11
【 注 】選択科目は最高2科目履修できる。「モジュール」の2時間のうち、1時間は数学に、他の1時間は
学校選択の教科にあてる。「第2現代語」は外国語または地域語。「芸術」は造形芸術、シネマ・オーディオ、
芸術史等7科目の中から選択。
(資料出所)ONISEP 2008, , Après la 2e de générale et techonologique, ONISEP, p.15.
技術教育課程の生徒は、1980年代半ばまで就職を目的に掲げていたが、以後は本格
的な職業教育を高等教育段階(とくに2年制の短期高等教育)で行うとして、リセ段
階では進学準備を目的とする教育が重視されている。そのため、修了後の就職準備を
目的に職業関連の知識・技能を教授する職業教育としての性格は全体に後退している。
ただし、一部に就職を目的として、第1学年から重点的に職業教育を行うコースも設
置されている。
リセの第3学年の最後に、バカロレア試験を受験する(一部の科目は第2学年終了時
に受験)。技術教育課程の生徒は技術バカロレアを受験する。合格率は例年80%程度
である(2008年は80.3%で、過去10年間ではじめて80%を超えた。
MEN er MESR 2009, p.233.)。
167
2)「職業専門リセ」の設置
就職の可能性のある職種について重点的に教育を行うなど一定の条件を備えてい
る学校は、「職業専門リセ」(Lycée des métiers)として認定される。これは、国民
教育省が2001年に打ち出したものであり、既存のリセの技術教育課程や職業リセのう
ち、一定の基準を満たした学校を特別に職業専門リセとして認定するものである。そ
の主な基準は、以下のようなものである。
・専門学科の改編など設置する学科に工夫をこらすことにより、学校の特徴を明確
にすること。たとえば、専門分野が同じ学科を設置する(販売、ホテル、自動車
など)、関連する専門分野の学科を設置する(衣料、繊維産業、繊維芸術・モー
ド、車両・エンジンのメンテナンスなど)。
・多様な生徒の入学を認めること。通常のコースだけでなく、見習訓練や継続教育
のコースも設けること。
・各専門分野の職業資格の準備教育を行うこと。後期中等教育2年修了レベルから、
同3~4年修了レベルの資格、さらには高等教育2年レベルまでの資格を取得で
きるようにする。
・地方公共団体や企業との連携を行っていること。
・中学校(コレージュ)の生徒向けに進路指導の活動を行っていること。
・早期に離学した生徒の継続的な指導を行っていること。
つまり、専門とする職種が重なる職業リセと技術教育課程同士が連携して、幅広い
資格の取得を促すこと、これにより水準の高い職業教育を行うことが企図されている。
また、技術教育課程と職業リセの間の相互交流を活発化させ、職業リセの生徒にリセ
への転学や、高等教育進学を促進することも企図されている。認定の有効期間は5年
間とされている。
認定を行うのは大学区である。認定を受けた学校は2007年4月には全国で331校で
あったが、2008年12月には561校にのぼっている(Eduscol 2009)。
(5) 見習訓練生養成センター(CFA)
1) 見習訓練制度の概要
職業資格は職業リセやリセのような学校教育ばかりでなく、その他の手段によって
も取得することができる。その一つが見習訓練制度(apprentissage)である。見習訓
練制度とは、企業における実地訓練と教育機関における理論教授を組み合わせた教
育・訓練により、職業資格の取得をめざす制度である。通常の学校における職業教育、
とくに後期中等教育レベルの職業リセとは、対象者のプロフィールやめざすべき職業
資格の種類等が重なり合っている。
まず、見習訓練を受けている訓練生(apprenti、以下、訓練生と略す)の数の推移を
みる。訓練生数は、2007年度現在約42.5万人である。1960年代前半には約30万人ほど
であったが、義務教育年限の延長(1967年から従来の14歳までが16歳までになった)
や訓練期間の短縮(3年間から2年間へ)等の事情により減少し、1974年には15万人
にまで減少した。その後増加に転じ、1980年以後1993年に至るまで、ほぼ20~22万人
の間で推移してきた。1994年から増加が顕著になっており、1996年に30万人を超え、
2001年35.2万人、2005年38.6万人と推移し、2007年には42.5万人に達した(表5.5)。
168
表5.5.
CAPその他・
BEP
MC
職業免状
職業バカロレア
上級テクニシャン免状
高等教育資格
合
計
見習訓練生数の推移
(単位:人)
1980
1985
1990
1995
2000
2007
222,838
-
208,739
-
194,331
8,802
6,712
4,223
1,229
-
189,591
36,129
6,432
25,678
15,632
12,539
7,511
185,843
52,974
6,516
35,951
33,404
27,800
23,386
185,734
48,604
4,956
50,758
44,995
45,000
45,115
362,928
425,162
222,838
208,739
215,367
293,512
注 】MCとは、「補足標記」(Mention complementaire)をさす。これはCAP、BEP、職業バカロレア等の取
得者を対象に、より特化した領域の職業能力の習得を認定する資格である。職業リセや見習訓練での1年制コ
ース(訓練時間は最低400時間)と国家試験を通じて取得する。「職業免状」は、職業従事者を対象に高度職業
能力の習得を認定する資格である。主に見習訓練による準備教育(訓練時間は最低400時間)と国家試験を通じ
て取得する。
数値は1980~1995年まではフランス本土のみ、2000年以降は海外領土を含む。
(資料出所)Ministère de l'Education nationale et Ministère de l'enseignement supérieur et de la recherche, 2009,
Repères et références statistiques sur les enseignements, la formation et la recherche, p.149
【
近年における特徴は、多様な職業資格の取得をめざす訓練生が増加していることで
ある。1980年代半ばまで、見習訓練制度を通じて取得できる職業資格は、CAPに限定
されていた。1987年の法律改正により、CAP以外の資格も取得できるようになった。
最近では、CAP準備コース以外で訓練生の増加が目立っている。とくに職業バカロレ
アや上級テクニシャン免状(Brevet de technicien supérieur、BTS)の準備コースの訓
練生が増加しており、そのことが訓練生総数の増加につながっている。さらに、近年
では高等教育レベルでも見習訓練コースを設置する機関が増えている。もともと実学
指向のグランゼコールだけでなく、伝統的に実学志向ではない大学でも最近は設置さ
れるようになっている。しかも、有名な大学・グランゼコールでもそのような例がみ
られる。
その結果、CAPやBEP等の準備コース在籍者の割合は、1990年94.3%、1995年76.9%
から2007年55.1%へと大幅に低下している。
2) 見習訓練契約の内容等
訓練は訓練契約に基づいて行われる。訓練契約は労働契約の一種であり、教育訓練
を受けるというやや特殊な立場ではあるが、通常の従業員と同様の利益を享受する権
利を有する。見習訓練の対象者は16歳以上26歳以下の青年である(16歳は義務教育終
了年齢)。ただし15歳の者でも、前期中等教育(コレージュ)の4年間の課程を終え
ていれば訓練を受けることができる。
基本的にすべての企業が訓練生を雇用することができるが、雇用主が県労働・雇
用・職業教育訓練局(DDTEFP)に所定の届け出をしていることが条件となる。訓練
生を雇用しているのはほとんどは民間企業であるが、公的法人も一定の条件の下で、
訓練生を雇用することが認められている。
169
雇用主は、訓練の実施に必要な措置を講ずることを宣言するとともに、企業の施
設・設備、使用する技術、労働・衛生・安全等の条件、教育訓練担当者の職業能力、
教育能力、人格が教育訓練を行う上で十分な水準にあることを保障しなければならな
い。これらの宣言は、最初の訓練契約の際に作成されることになっている。
訓練期間は教育訓練の期間と同じかそれ以上に設定されており、通常は職種や取得
を希望する職業資格の種類によって1~3年である。しかし、見習訓練を受ける前の
教育・訓練歴によって3年以下あるいは3年以上とすることもできる。
3) センターの設置・管理・運営、財政
企業における実地訓練以外の教育を担当しているのは、見習訓練生養成センター
(以下、養成センター略)である。雇用主は、訓練生を見習訓練養成センターに登録
することを義務づけられている。どのセンターに登録するかは訓練契約に規定される。
訓練生はセンターで教育を受けることが義務づけられている。
センターの設置主体は以下のとおりである。①経営者及び労働者組織が同数で管理
する教育訓練機関、②手工業会議所、③商工会議所、④公立教育機関(主に中等教育
学校)、⑤私立教育機関、⑥国と契約を結ぶ私立学校、⑦企業および企業グループ等
である。目的とする資格水準ごとに設置者の状況は、表5.6のようである。
表5.6.
見習訓練生養成センター設置者・職業資格別の見習訓練生数(2007-08年)
第5水準 第4水準
人
企業提携NPO
手工業会議所
商工会議所
公立教育機関
私立教育機関
農業教育機関
その他
110,626
58,349
19,503
13,847
4,340
12,509
20,120
合
計
239,294
構成比( %) (56.5 )
第3水準
人
人
第2水準
人
計
第1水準
人
人
47,038
15,158
10,397
7,496
1,654
6,848
7,162
30,429
1,543
10,772
4,145
992
3,705
3,991
11,105
60
3,532
502
180
89
1,730
13,260
-2,032
113
92
471,796
212,458
75,110
46,236
26,103
7,258
23,198
32,799
95,753
(22.6)
55,577
(13.1)
17,198
( 4.1)
17,340
( 4.1)
423,162
(100.0)
【 注 】その他には、地方公共団体立、農業会議所、研究機関等を含む。
(資料出所)Ministère de l'Education nationale et Ministère de l'enseignement supérieur et de la recherche, 2009,
Repères et références statistiques sur les enseignements, la formation et la recherche, p.149
見習訓練生養成センターは、訓練契約に定められた教育を提供するとともに、訓練
生が講義に出席し、職業資格試験を受験することを監督する。センターでは一般教育、
専門教育および実習を行う。訓練は、通常はセンター内で行われるが、それ以外にも
公私立学校や地域圏(数県で構成する広域行政単位)と契約を結ぶ各種教育訓練機関
に設置される見習訓練科や、センターが独自に契約する各種私立教育訓練機関の見習
訓練科でも行うことができる。
センターで行われる教育時間はコースごとに法令で定められている。CAPとBEPの
170
各取得コースが年間平均400時間以上、職業バカロレアや上級テクニシャン免状の各
取得コースが2年間で1,500時間以上とされている(夏目 2007)。
4) 見習訓練制度の特徴
専攻領域別の在学者数の状況を、同レベルの職業教育を行っている職業リセと比較
してみると、以下のような特徴を指摘できる。①工業系が全体の3分の2を占めてい
る(職業リセでは工業系は全体の43%にすぎない)、②農業・食品の在籍者が多い反
面、一般・精密機械や電気・電子等の工業系の在籍者は少ない、③商業系では理美容・
エステの在籍者が多い反面、会計・管理、秘書・事務の在籍者は少ない。全般的に、
大企業向けの就職につながる専攻領域に関しては在籍者が少なく、中小企業得向けの
専攻領域で多い傾向がみられる。
その他の面における両者の差異として、第1に設置者の違いがある。見習訓練生養
成センターの設置・運営主体は、その多くが民間企業・NPOである。学校職業教育の
場合には、公立が主体である。
第2に、教育・訓練時間数である。上記のように、CFAで行われる教育時間はコー
スごとに法令で定められている。CAPとBEPの各取得コースが年間平均400時間以上と
されている。これに対して、職業リセ・CAP準備課程の場合、授業時間数は週あたり
32時間で、年間1,152時間である(32×36、通常1年間は36週で編成されている)。学
校教育と比較すると、見習訓練の教育時間は大幅に少ない。
第3に、職業資格試験の合格率の点である。公立学校と見習訓練の両者の合格率は、
CAPでは公立学校81.4%に対して見習訓練79.0%、BEPでは74.7%と74.6%、テクニシ
ャン免状等では78.0%と64.1%、上級テクニシャン免状等では78.1%と70.3%という状
況である(2008年度)。全体に公立学校が優位にある。とはいえ、1994年や2002年当
時と比較すると、その差はかなり小さくなっている(表5.7参照)。
表5.7.
職業資格試験の合格率
1994年
2002年
2008年
見習訓練 公立学校 見習訓練 公立学校 見習訓練 公立学校
CAP
BEP
職業免状
テクニシャン免状等
上級テクニシャン免状等
%
59.2
60.1
-46.7
51.0
%
74.6
66.1
-66.2
69.1
%
71.9
67.6
70.4
60.9
64.4
%
77.2
72.0
--76.1
75.3
%
79.0
74.6
73.6
64.1
70.3
%
81.4
74.7
-78.0
78.1
(資料出所)Ministère de la jeunesse, de l'Education nationale, l'enseignement supérieur et de la Recherche,
Repères et références sur les enseignements et la formation edition 1996年度版 p.139、2003年版 p.201、
2009年度 p.237,241.
(6) 高等教育段階の職業教育訓練
職業教育は主として後期中等教育レベルで行われているとはいえ、高等教育レベル
でも行われている。このレベルで職業教育を受ける者は、近年増加している。
171
1) 高等教育の種類
フランスの高等教育制度の大きな特徴の一つは、多種多様な高等教育機関の存在で
ある。大きくは長期教育機関(修業年限は3年以上)と短期教育機関(修業年限は主
に2年)に区分される。
長期教育機関は大学とグランゼコールである。大学はバカロレア取得者に対して原
則として無選抜で入学を認めており、バカロレア試験の合格者はどの大学にも入学で
きる(実際には、入学定員との関係で、さまざまな入学制限が行われている)。
グランゼコールは、バカロレア取得後にグランゼコール準備級(CPGE)で2年間
の準備教育を経てグランゼコール入学試験に合格することにより入学できる。大きく
は技師の養成を行う技師学校と、経済・経営系の商科学校に分かれる。代表的な技師
学校には、エコール・ポリテクニク、国立鉱山学校、国立橋梁学校、国立高等化学学
校、国立高等先端技術学校等がある。一部は国立大学にも付設されている。代表的な
商科学校には、高等商科学校(HEC)、パリ高等商科学校、高等商科経済学校(ESS
EC)等がある。その他にも中等教育や高等教育の教員養成を行う学校(エコール・ノ
ルマル)や、高級官僚等を養成する高等行政学院(ENA)などもある。一般に、グラ
ンゼコールは実学志向であり、企業や官公庁の幹部等の養成を目的に高度な職業教育
を行っている。
一方、短期教育機関は技術短期大学部(IUT、大学に付設)、上級テクニシャン養
成課程(STS)、グランゼコール準備級(CPGE、STSとともに主要なリセ=高校に付
設されたいわば専攻科)等である。IUTとSTSはともに上級テクニシャンの養成を目
的とする職業教育を行っている(後述)。
2)大学における職業教育
大学以外の高等教育機関がおおむね実学志向で、職業教育を目的としているのに対
して、大学、とくにその学士課程では各専攻分野の基礎教育を中心に行っている。
2000年代はじめまで、大学の教育課程は第1期課程(第1・2学年)、第2期課程
第3・4学年)、第3期課程(第5学年とそれ以上)というように、3つの課程で構
成されていた。しかし、欧州高等教育圏の構築を目指すといういわゆるボローニャ・
プロセスに呼ばれる改革によって、学士課程(第1~3学年)、修士課程(第4・第
5学年)、博士課程(第6~8学年)という3つの課程に再編された。
学士課程や修士課程では、上級課程への進級準備を目的とするアカデミックコース
が主体であるが、一部に職業教育を行うコースが設置されている。近年の高等教育在
学者の増加の中で、卒業後の進路が多様化していること、それを受けて学生の職業教
育志向が高まっていることなどの事情が背景にある。職業教育コースの学位は学士課
程が職業学士(職業リサンス、Licence professionnelle)、修士課程が職業修士(
Master professionnel) である。職業リサンスのコースは、第2学年の課程を修了した
者(大学だけでなく、技術短期大学部や上級テクニシャン養成課程の修了者を含む)
を対象に、1年制の教育を行っている。長期間の企業実習(12~16週間)を含んでい
る。
172
3)技術短期大学部
高等教育レベルの職業教育機関として大学以上に注目されるのは、技術短期大学部
(Instituts universitaires de techonologie、IUT)である。国立大学付設の短期高等教育機
関(修業年限2年)であり、1966年に創設された。2008年度現在全国に116校設置さ
れており、在籍者は11.7万人で大学生総数140.4万人の8.3%を占める(数値は2007年度)。
商工業の上級テクニシャンの養成を目的としている。学科は第2次産業系と第3次
産業系系に大別される(前者15学科、後者10学科の合計25学科)。在籍者数は、第2
次産業系4.8万人に対して第3次産業系6.9万人と後者の方がやや多い。女子の比率で
は第2次産業系23.9%に対して、第3次産業系51.7%と、かなりの開きがある。在籍
者の多い学科は、第2次産業系が電子工学・工業情報科学(7,800人)、機械工学(6,
900人)、生命工学(6,400人)、第3次産業系が企業・行政経営(21,000人)、商業
化技術(21,000人)、情報科学(8,500人)となっている(2008年度、MEN et MESR
2009, p.177)。
大学付設でありながら大学とは異なり、入学者選抜(書類選考)を行っている。そ
のため学生の学力は一定水準以上に保たれている。加えて教員一人あたりの学生数が
少ないこともあり、一般に大学よりも恵まれた教育環境にある。
教育課程は「全国教育プログラム」(Programme Pédagogique National)と称するも
のを、各学科ごとに国民教育省が定めている。たとえば電子工学・工業情報科学の同
プログラムの構成をみると、表5.8のようになっている。
表5.8
全国教育プログラム(電子工学・工業情報科学)の目次
1.教育の概要
1.1 目的とする職業的および技術的コンピテンス
1.2 職種および活動領域
2.教育
2.1 教育の構造
2.2 国際的な開放
2.3 就職を目的とする教育
2.3.1 産業界の参加
2.3.2 学生の個人的・職業的計画
2.3.3 チューター付きプロジェクト学習
2.3.4 工業実習
2.4
入学条件
2.5
評価と修了認定
3.教育の組織
3.1 全体の枠組み
3.2 教育単位ごとの教科目のリストと時間配分
3.3 セメスターごとのモジュールのリストと時間配分
3.3.1 第1セメスター
3.3.2 第2セメスター
3.3.3 第3セメスター
3.3.4 第4セメスター
4.教育内容記述カード
4.1 モジュールの記述
4.1.1 コンピテンス中心のモジュールの記述カード
・代数学・三角法の基礎
・分析の基礎
173
・積分と微分
(以下、32種類)
4.1.2 補足的モジュールの記述カード
・確率と統計
・英語の能力証明
・交流による機械
(以下、20種類)
【 注 】 2008年7月24日付け省令による規定。
(資料出所)Ministère de l'enseignement supérieur et de la recherche, Programme Pédagogique National du DUT « Gé
nie Electrique et Informatique Industrielle »
http://media.enseignementsup-recherche.gouv.fr/file/DUT_-_Programmes_pedagogiques_nationaux/39/8/PPN_Genie_electri
que_informatique_industrielle_Rentree08_32398.pdf, 2010.03.22
この全国教育プログラムの特徴は、教育の目的や内容を詳細に規定していることで
ある。教育課程を通じて形成すべき学生のコンピテンスについては、職業遂行に関連
するものと技術に関連するものとに分類したうえで、前者に関して以下のように詳細
に規定している(同書p.5)。
「このコースは、学生がヨーロッパ域内で職務を遂行するために必要なコンピテン
スを習得すること、生涯にわたり進歩しその知識を更新することを可能にするために
設計された。職業生活において、テクニシャンは企業の特殊性にみずからを適応させ
ることができなければならない。(中略)。テクニシャンの職務は主に以下のような
ものである。
・職務表を分析したり作成したりすること。
・信頼度と質を統合しつつ、技術的な解決策と製品を作成したり選択すること。
・中期的なプロジェクトを遂行すること。
・施設の設置、調整、保全、修理すること。
・小集団を活性化すること。
・顧客に対して企業を代表すること。」
また、各セメスターごと、履修すべき科目の種類、各科目の単位数、授業時間数(講
義・演習・実習ごと)等が定められている。さらに、複数の科目で構成するモジュー
ルごとに、目的、習得すべきコンピテンス、履修条件、内容、実施方法、今後の展開
等が規定されている。
所定の単位数を取得すれば技術短期大学部修了証(Diplôme universitaire de technol
ogie, DUT)を授与される。中級技術者の需要は大きく一般に就職は容易であるが、
上級資格を求めて上級課程への進学希望者は多い。
上級課程として専門技術修了証 (diplômes nationaux de technologie spécialisés,
DNTS、1994年創設)の取得コースが設置されている。このほかにも、職業リサンス(l
icence professionnelle、1999年11月17日付け省令による創設)の取得コースが設置され
ている。職業リサンスは学士学位(リサンス)の一部であり、学位制度における位置
づけが明確である。そのような事情もあり、近年は進学希望者のほとんどは後者に進
んでいる。
174
4)上級テクニシャン養成課程
上級テクニシャン養成課程(Section de technicien supérieur、STS)も、高等教育レ
ベルの職業教育機関としての一翼を担っている。
STSは、商工業の上級テクニシャンの養成を目的とする機関であり、主要なリセに
付設されている。リセの通常課程を修了しバカロレアを取得した後に進む課程であり、
日本の高校専攻科にあたる。入学にあたっては、主に書類選考による入学選抜が実施
される。
修業年限は2年である。教育課程は、CAP(職業適任証)、BEP(職業教育修了証)、
職業バカロレア、技術バカロレア等と同様に、国民教育省に設置されている職業諮問
委員会(commission professionnelles consultatives, CPC。職種ごとに14委員会が設置さ
れている)が決定している。2年の最後に国家試験を受け合格すると、上級テクニシ
ャン免状(BTS)を取得することができる。
STSの専攻領域は、大きく工業系とサービス系に分類され、さらに工業系は29専攻、
サービス系は17専攻に分類される。両系以外として、音楽・興業芸術専攻がある
(1994年6月21日付け省庁間政令による分類)。在籍者数は工業系が7.9万人、サービ
ス系が15.5万人である。在籍者の多い専攻は、工業系では「工業製造指示技術」
(1.3万人)、「電気・電子」(1.1万人)、「基本工業製造」(1.1万人)等である。
商業系では「商業・販売」(4.2万人)、「会計・経営」(3.1万人)、「ホテル・旅
行」(1.5万人)、「秘書・事務」(1.4万人)等である。
上級テクニシャン免状の国家試験の合格率は、工業系78.1%、サービス系65.5%、
両者の平均68.4%である(2008年。IUTの2年間での修了率は66.0%(2004年度入学生)。
MEN et MESR 2009, p.241、p.247)。
STSとIUT(技術短期大学部)はともに、上級テクニシャンの養成を目的としてい
ること、バカロレア取得者を対象とした高等教育機関として位置づけられていること、
という点で共通している。しかし、以下の点で大きく異なる。
①IUTは大学付設機関であるために大学に近い雰囲気があるのに対して、STSはリ
セ校内に設置されており、教員も基本的に重なることから、リセ教育の延長・中
等教育としての雰囲気を残している。
②IUTはすべて国立であるのに対して、STSは私立も少なくない(在籍者数でみる
と32%が私立。数値はとくに断らないかぎり2008年度で、以下同じ)。
③IUTの修了は大学と同様に、所定の単位数を取得することにより認定されるのに
対して、STSの場合には第2学年の最後に行われる国家試験に合格し上級テクニ
シャン免状(BTS)を取得することにより認定される。
④学生数ではIUTの11.7万人に対してSTSの23.4万人であり、技術短期大学部の約2
倍である(MEN et MESR 2009, p.165)。
⑤高校の課程別ではIUTは普通教育課程の出身者が大半を占めるのに対して、STS
では技術教育課程出身者が全体の47%を占め、職業リセ出身者も13%を占める
(普通教育課程出身者は20%。MEN et MESR 2009, p.185.)。
⑥女子学生の比率はIUTの40%に対してSTSの51%と、STSの方が女子比率が高い
(MEN et MESR 2009, p.177、p.185)。
175
5.1.2 継続職業教育訓練制度
(1) 継続職業教育訓練制度の概要
初期職業教育訓練が就業前の青年、とりわけ後期中等教育段階の青年を対象として
いるのに対して、継続職業教育訓練は職業の従事している人、転職・再就職をめざす
人、学校を離れ休職中の人、経済的社会的に不利な条件を抱えつつ状況改善を求める
人など、多様な人々を対象としている。
継続教育・訓練の目的は、一般に以下のように考えられている。①労働者の就職や
再就職の促進、②雇用の維持、③職務能力向上と多様な資格へのアクセスの促進、④
経済・文化的条件の改善と社会的昇進の促進(Pommier 2008, p.5)。
継続教育・訓練制度は、第2次大戦後に徐々に整備されてきた。現在の制度の骨格
を定めたのは1971年7月16日付け法律である。この法律は1960年代後半の継続教育訓
練制度に対する国民の要求が高まる中で、1970年に国・労使(企業、経営者・従業員
組合)間で成立した協定の内容を具体化させたものである。継続教育・訓練を労働者
の権利として認める画期的なものであった。
この協定にみられるように、国(1980年代からは地方自治体としての地域圏も加わ
る)と労使が協議を重ね合意事項を制度に反映させてきたこと、現在もそれが踏襲さ
れていることが、大きな特徴となっている。さらに、対象者の地位(在職者、休職者)
や年齢(26歳以下、26~45歳、45歳以上)によってアクセスできる教育訓練が多様に
用意されていることも、特徴の一つとして指摘できる。
(2) 求職者向けの継続職業教育訓練制度
この教育訓練の管理・運営にあたっているのは、主に国、地域圏、商工業雇用協会
(Associations pour l'emploi dans l'industrie et le commerce、ASSEDIC)である。とく
に地域圏の役割が大きい。国は、主に社会的・経済的に不利な地位にある就職に困難
を抱える人を対象とする教育訓練の運営にあたっている。商工業雇用協会は、失業保
険に一定期間加入していた人が、再就職のために教育訓練を受講する際の経費を支給
している。
1980年代から、歴代政府は主に失業中の青年向けの各種の教育訓練プログラムを設
けてきた。当該の青年の多くは、学業不振に陥って職業資格を未取得のままに学校教
育を離れているため、学力や自信を回復させたり、進路の見通しをもたせること、そ
のうえで教育訓練を受けさせ職業資格を取得させることを目的としている。しばしば、
教育機関等での教育と企業での実地訓練を組みあわせた、いわゆる交互教育方式を採
用している。また、受講者に最低賃金(SMIC)との関係で設定された金額の手当を
支給している。現在、このようなプログラムは「職業能力獲得契約」(contrat de
professionnalisation)として実施されている。
一方、さまざま障害をかかえる人、外国人労働者、非識字の人などの教育訓練につ
いては、国が中心的な役割を担っている。
(3) 在職者向けの継続職業教育訓練制度
企業の従業員は、企業の規模・業種・形態等に関係なく、教育訓練を受講する権利
をもつ。この教育訓練は、①企業の意向によるもの、②従業員の個人的意向によるも
の、③個人の意向によるが経営者の合意を必要とするものの3者に大別される。①は
176
企業が作成する教育訓練計画(Plan de formation)に基づいて行われるもので、従業
員は職務として受講する。後述のように、継続教育・訓練制度の財源を確保するため
に、企業に財政負担が義務づけられている。しかし、従業員に対して教育訓練をみず
から実施するあるいは他機関に委託して実施する義務は負っていない。従業員に対し
て教育訓練を実施する企業は2006年現在、全企業の40%といわれる(CEDEFOP 2008,
p.42)。
②の従業員の個人的意向による教育・訓練制度は、法律で認められた従業員の権利
である。経営者の意向に関係なく、みずからの選択する教育訓練を受けること、その
ために休暇を取得することを認めるものである。雇用契約の種類(期限付き、非期限
付き)を問わず、契約の終了後でも取得できる。このタイプの種類として、「個人教
育訓練休暇」(CIF)、「社会経験認定制度利用休暇」(CVAE)、「能力評価休暇」
(CBC)がある。
③の個人の意向によるが経営者の合意を必要とするものは、「教育訓練個人権利」
(Droit individuel à la formation、DIF)と呼ばれる。勤続1年以上の従業員に認めら
れるものであり、事前に経営者の合意を得ることを条件に、教育訓練受講のために年
間20時間の休暇を申請できる(取得しない年は次年度以降に繰り越し・累積できる。
最高で6年間、合計120時間)。経費は経営者が負担する。
(4)継続教育・訓練の財源
継続教育・訓練の財源を賄うために、企業に対しては規模に応じて一定比率の拠出
金が課せられている。その比率や使途については、表5.9のように設定されている。
表5.9
企業に課せられる教育訓練関係拠出金の比率と使途目的
企業の規模等
拠出金比率
(対給与総額比率)
使途目的
従業員10人未満
0.55 %
従業員10~19人
1.05 %.
・0.15%:教育訓練個人権利
・0.9%:教育訓練計画に基づく教育訓練
従業員20人以上
1.6 %
・0.2%:教育訓練休暇
・0.5%:教育訓練個人権利
・0.9%:教育訓練計画に基づく教育訓練
期限付き契約従業
員雇用の全企業
1.0 %
・期限付き契約従業員の教育訓練休暇
・0.4%:教育訓練予算
・0.15%:業界の優先する教育訓練
(資料出所)R.Pommier 2008, Metier:Formateur, Dunod, pp.9-10から筆者作成。
企業による拠出金を厚め管理する各種の機関が設置されている。これらは政府の認可を受けて運営されている。
これらは、一般に「教育訓練保険基金」(Fonds d'assurance formation, FAF)や「認定労使共同回収機関」(Orga
nismes paritaires collecteurs agréés, OPACA)と呼ばれる。
177
(5) 継続教育・訓練の実施状況
継続教育・訓練全体の状況をみてみると、受講者は2007年度1,081万人である。199
9年からの8年間で7割程度増加しており、継続教育・訓練に対する社会一般の需要
は拡大しているとみることができる。
図5.2 継続教育の受講者数と平均受講時間数の推移(1999-2007年)
受講者数(単位:千人)
平均時間数(単位:時間)
【 注 】 受講者数は棒グラフで左のスケールで示し、平均受講時間数は折れ線グラフで
右のスケールで示している。
(資料出所)DARES, Premier synthèse information, no.404, octobre 2009, "L'offre de formation continue en 2007", p.
5.
継続教育・訓練機関は、大きくは公立機関と民間機関に大別できる。公的機関には、
以下のようなものがある。
a.全国成人教育訓練協会
b.国民教育省管轄の教育機関(中等教育機関、国立工芸院)
c.その他の省庁によるもの
公立機関以外には、商工会議所・手工業会議所等の会議所立の機関や半官半民の機
関があり、さらに民間機関も多数ある。民間機関には、営利目的の機関と営利を目的
としない機関とがある。
これらの継続教育機関について、機関数の内訳、教育訓練経費、受講者数、延べ教
育訓練時間数をみてみよう。2007年度の状況を示したものが表5.10である。
178
表5.10
教育訓練機関別の受講者数・売上高・教育時間数(2007年度)
機関数
間
(自然数)
合
計
<教育機関の性格>
・民間・営利
・民間・非営利
・個人
・公立・半公立
<売上高別規模>
・~7.5万ユーロ
・7.5~15万
・15~75万
・75~150万
・150~300万
・300万~
<活動開始時期>
・1990年以前
・1990~2000年
・2000年以後
14,164
%
35
28
31
6
売上高
受講者数
(百万ユーロ)
(千人)
6,354
%
39
31
4
26
%
50
14
24
6
4
2
%
16
32
52
10,812
%
39
33
9
19
%
3
3
19
15
16
44
%
39
31
30
%
延べ教育時
(千時間)
745,494
%
37
23
9
31
9
6
23
13
18
31
%
6
6
24
15
13
36
%
35
30
35
%
34
40
26
(資料出所)DARES, Premier synthèse information, no.404, octobre 2009, "L'offre de formation continue en 2007", p.
2.
これによると、継続教育機関は全国で1.4万か所にのぼる。民間機関が半数以上を占
めており、営利目的の機関が非営利目的の機関よりも若干多い。売上高や受講者数の
面で、両者は全体の70%程度を占めている。
これに対して、公立・半公立の機関数は全体の6%とごくわずかであり、売上高、
受講者数で20%前後を占めるにとどまっている。つまり、継続教育訓練の分野では、
圧倒的に民間優位な状況になっている。
売上高別の教育訓練機関の規模でみると、売上高7.5万ユーロ(1,200万円、1ユー
ロ=160円として計算)以下の機関が全体の半数を占めている。300万ユーロ以上の機
関はわずかに2%に過ぎない。大半の機関が小規模であることがわかる。受講者数で
は、逆に300万ユーロ以上の機関が31%、150~300万ユーロの機関と合わせると全体
の半数に達する。延べ時間数でも同様の結果となっている。売上高でも、300万ユー
ロ以上をあげている機関が全体の44%を占めており、150万ユーロ以上の機関と合わ
せると、全体の60%に達する。つまり、大規模機関は数の上では少ないが、多数の受
講者を集めて、経費の高い、また長期間にわたる教育訓練を提供している。
事業開始時期をみると、半数以上は2000年以後となっている。つまり、教育訓練機
関は数は多いけれども、その大半は小規模な経営であり、しかもまだ事業開始後まも
ないことがわかる。
さらに、各機関の教育訓練売上高の状況を、経費負担者別にみてみよう。表5.11は
179
2007年度の状況を示している。これによると、公立機関の中では、国民教育省および
「グレタ」(中等教育機関の連合体。後述)が12.0%であり多くを占めている。一方、
AFPAは3.9%とその割合は限られている。
表5.11
教育訓練機関別の教育訓練経費の支出者(2007年) (単位:
企業 基金回
収機関
AFPA
他の公・半公立
教育省・グレタ
個人
会議所立
民間・営利
民間・非営利
合計
%)
行政 行政 個人 他の教 その他 全体
自職員 非職員
育機関
2.1
1.5
8.1
4.5
2.5
55.3
26.0
6.8
1.9
8.0
4.5
2.5
42.7
33.6
0.1
58.3
6.4
2.5
0.7
23.6
8.4
8.1
6.3
20.1
1.7
1.7
17.1
45.0
0.7
3.2
24.2
3.7
2.4
44.6
21.2
100.0
100.0
100.0
100.0 100.0
0.1
3.5
7.4
23.9
1.8
39.4
23.9
1.4
8.0
9.8
2.0
3.2
33.0
42.6
100.0 100.0
3.9
7.7
12.0
4.2
2.2
38.8
31.2
100.0
【 注 】「行政自職員」とは行政機関が自ら雇用する職員向けの継続教育訓練を示し、「行政非職員」とは同職
員以外の者(求職者等)向けの継続教育訓練を示す。
(資料出所)DARES, Premier synthèse information, no.404, octobre 2009, "L'offre de formation continue en 2007",
p.3.
表5.12は継続教育訓練機関別の受講者の立場を示したものである。これによると、
従業員が全体の64.6%と大半を占めている。選択した教育訓練機関をみると、従業員
の場合には民間(営利)がもっとも多く、従業員全体の半数近くに達している。従業
員の場合、企業の訓練経費の負担割合が高いため、教育訓練機関の選定にも企業の意
向が反映されやすいと考えられる。求職者の場合では、同じ民間でも非営利が求職者
全体の半数になっている。
公立・半公立を多く選択しているのは個人である。しかし、受講者中に占める個人
の割合は6.2%と少ない。
表5.12
教育訓練機関別の受講者の地位(2007年度)
従業員
求職者
個人
<教育機関の性格>
・民間・営利
・民間・非営利
・個人
・公立・半公立
%
46
24
11
19
27
48
5
20
%
24
23
6
47
合
計
水準別占有率(%)
100
64,6
100
14.5
100
6.2
%
その他
%
19
64
8
9
100
14.7
全体
%
39
33
9
19
100
100,0
(資料出所)DARES, Premier synthèse information, no.404, octobre 2009, "L'offre de formation continue en 2007", p.
4.
180
教育訓練機関別の受講対象教育訓練の水準については、表5.13のとおりである。義
務教育レベルが全体の半数を占めているが、高等教育(2年および3年以上)も約3
割を占めている。とくに高等教育3年以上は、近年増加傾向にあるもので、とくに20
06年は前年比20.9%と大幅に上昇している(DARES 2008, p.5)。これは、1980年代
半ば以降高学歴化が進んできており、初期教育で高等教育を受けている受講者が増加
したことが影響していると考えられる。
機関別でみると、公立・半公立は後期中等教育3年でもっとも多くの受講者を集め
ており、後期中等教育2年でもそれに近い結果になっている。これはグレタが全国的
に整備されていることによると思われる。それ以外は全般に低調である。全体に民間
(営利・非得折り)は7割以上を占めるなど占有率が高い。とくに高等教育3年以上
ではその割合が8割と顕著である。公立機関として、国立大学には継続教育部門が設
置されているが、これらは必ずしも十分に活用されていないことを示している。
表5.13
継続教育機関別の受講対象教育訓練の水準(2007年度)
高等教育
3年以上
<教育機関の性格>
・民間・営利
・民間・非営利
・個人
・公立・半公立
合
計
水準別占有率(%)
%
27
52
7
14
100
13.7
高等教 後期中等 後期中等 義務 その 合計
育2年 教育3年 教育2年 教育 他
%
46
20
14
20
%
34
21
8
37
100
5.3
100
5.0
%
27
39
6
28
100
10.2
%
40
28
11
21
100
53.6
%
38
48
5
9
100
12.2
%
37
34
9
20
100
100.0
(資料出所)DARES, Premier synthèse information, no.404, octobre 2009, "L'offre de formation continue en 2007",
p.4.
私立機関や公立・準公立機関をあわせた受講者について、受講する教育訓練を職種
別に見ると、表5.14のとおりである。もっとも受講者の多いのは一般教育であり、次
いで財産・個人の安全・警察・警備、進路指導・社会・就職支援などとなっている。
これら上位10職種で、受講者全体の60%、延べ受講時間数で48%を占めている。
181
表5.14
受講者の多い職種の受講者数・延べ受講時間数等(2006年度)
受講者
一般教育
財産・個人の安全、警察・警備
進路指導・社会・就職支援
交流・経営の諸専門
輸送・運搬・倉庫
教育・訓練
保健
情報・データ改編・ネットワーク
商業・販売
行動力・関係力向上
上位10職種の合計
延べ受講時間数
8.1 %
8.1
7.9
7.8
6.6
5.8
5.1
4.6
4.2
3.5
. 61.7
11.5 %
4.7
3.3
3.9
1.3
5.4
3.3
2.9
8.8
2.7
47.8
平均受講時間数
96.9 時間
40.2
28.1
34.2
13.4
63.8
44.0
43.6
141.8
52.5
52.9
(資料出所)DARES, Premier synthèse information, no.404, Novembre 2009, "L'offre de formation continue en 2007",
p.7.
(6) 全国成人教育訓練協会
全国成人教育訓練協会(Association française de formation des adultes, AFPA)は、
労働省(現在は労働・社会関係・家族・連帯省。以下、とくに断らない限り「労働省」
と略す)の管轄所管する機関であり、フランス最大の職業教育訓練機関である。1949
年の創設以来、労働者の職業教育訓練を実施している(AFPA 2009)。2008年の利用
者は18万人である。主に以下の4領域で活動を行っている。
①成人の教育訓練
企業の意向による教育訓練、個人向け職業教育訓練プログラム、「社会体験認
定制度」、有給休暇制度等に対応している。在職者・求職者、性別、障害の有無、
居住地域等に関係なくすべての人が利用できる。
②企業、各種団体へのコンサルテーション
各企業の人事政策や教育訓練計画を策定するほかに、業界レベルでのコンサル
テーションを行う。
③経済・社会の変化への対応
個人、企業、自治体の業務の指導にあたる。
④他の機関と協力して、職業資格の管理を担当する。
建設業、工業、サービス・行政関係等幅広い分野にわたる300以上の職種につい
て職業教育訓練を提供する。これを通じて主として労働省が管轄する公的職業資格
やその他の資格の取得を支援している。
全国186カ所にセンターを設置している。多様な教育訓練を提供している。1)適職
を発見するための予備教育訓練、2)職業資格取得のための教育訓練(熟練労働者資格
から上級テクニシャン資格まで)、3)短期技能向上研修(1~5日間)、4)一般教養
講座などある。
職員は、各職種の専門家である訓練指導員、労働心理相談員(psychologues du
travail)700 人、技師700人、宿泊施設支援者600人、受付担当職員200人、社会・教育
活動担当者(animateurs socio-éducatifs)130人である。
182
労働者、テクニシャン、技師などの職務や職種ごとに多様な内容の教育訓練(500
種類、約300の職種に対応)を提供している。各教育訓練プログラムは、全国の各セ
ンターごとに提供する内容が定められており、それぞれ受講の最低年齢や目指すべき
職業資格の水準が示されている。
これらは、センターに通って受ける通常の教育訓練のほかに、通信教育も行ってい
る。このほか、職業や教育訓練に関する情報の提供、学校教育や職業経験等を踏まえ
た個人の教育訓練ニーズの調査、それに基づく教育訓練の受講計画の立案や、教育訓
練の選択・受講に関するアドバイス等のいわゆる職業指導を行っている。身体の障害
など大きな困難を抱える個人に対しては、個別に職業指導を実施している。
同協会は、パリ近郊にある本部のほかに、業務を行うためにセンターや研究所を全
国各地に設置している。情報提供や職業指導のためのセンターは192か所、教育訓練
センターは266か所である。年間の利用者は、職業指導を受けた者が12.2万人、教育訓
練の受講者が14.9万人である。利用者は、失業者や企業の従業員が大半で、とくに前
者は過半数(64%)を占めている。企業従業員の場合は、企業の教育訓練計画に基づ
いて受講している。
受講している教育訓練の水準は、高校2年修了程度が約70%、高校3~4年修了程
度が約20%で、この両者で全体の90%を占めている。
受講者のうち、ほぼ半数にあたる47.6%が終了後になんらかの職業資格を取得して
いる。公共職業安定所(ANPE)と連携して訓練終了後の就職促進に努めていること
もあり、教育訓練終了後6か月以内に就職した者の割合は75.8%とかなり高い(数値
はいずれも1999年度)。
(7) 国民教育省管轄の教育機関における継続職業教育訓練
1) 中等教育機関による継続職業教育訓練
同省の教育機関中もっとも大きな役割を担っているのは、中学校(コレージュ)や
高校(リセ、職業リセ)を中心とする普通の学校である。これらは、近隣同士の学校
でグループを形成し、職員や施設・設備等を共同で利用しつつ、地域の企業や住民の
教育訓練ニーズに応えようとするもので、通常の時間外に活動を行っている。このグ
ループはグレタ(groupement d'établissements,GRETA、直訳は「学校グループ」)と呼
ばれている。
グレタの基本的使命は、以下のように設定されている。すなわち、①地域住民の継
続教育に関する要求に応えるべく彼らを受け入れること、②職業に関連する計画やそ
の実現のための教育履修計画の作成を支援すること、③計画に基づき教育を提供する
こと、である。
グレタで教育訓練を受講しているのは、主に企業の従業員、地方公共団体、行政、
病院の従業員、求職者、各種の職業教育訓練プログラム参加の青年等である。これら
の人々は勤務先企業の教育訓練計画に基づいていわば業務命令で受講している場合
と、みずからの意志で受講している場合とがある。彼らの幅広いニーズに対応した教
育訓練を提供しており、その主なものは以下のとおりである。語学学習、各種職業資
格(職業適任証(CAP)から上級テクニシャン免状(BTS)まで)取得の準備教育、
各種試験の準備教育、資格水準向上(上級資格取得)のための準備、知識・技能の向
上、自分の能力内容・水準の評価、職業計画の立案、転職の準備等。
183
グレタには、継続教育訓練指導員(後述)等の職員が配置されており、受講者のニ
ーズをふまえて提供する教育訓練の内容を決定している(Academie de Grenoble, ME
N a 2008)。
2007年度についてみると、グレタは全国で235カ所があり、加盟校総数は6,500校に
上る。受講者総数は45.7万人である。受講者数の内訳は国の職員10.4万人(全体の22.
7%)、地域圏の職員14.7万人(32.2%)、企業の職員及び個人20.6万人(45.1%)で
ある。延べ時間数は5,570万時間であり、その内訳は国7,200万時間(全体の12.9%)、
地域圏2,820万時間(50.6%)、企業及び個人2,030万時間(36.4%)である。受講して
いる教育訓練の水準は、高校2年修了程度が約53.9%、次いで高校3~4年修了程度
が13.5%で、この両者で全体のほぼ65%を占めている(MEN et MESR, p.211)。
2) 国立工芸院
国民教育省も継続職業教育に関して、伝統的に大きな役割を担っている。同省の機
関としては、まず国立工芸院(Conservatoire national des arts et métiers、CNAM)があ
る。
1794年に創設されすでに200年以上の歴史をもつ機関である。現在は、継続教育、
高等教育・研究開発、知識・文化の普及という大きく3種類の活動を実施している。
高等教育機関としては、300人の教員が配置されており、単独で、あるいは他の高等
教育機関との連携によって大学院レベルの教育を行っており、博士学位を授与してい
る。知識・文化の普及活動に関しては、博物館を中心に活動を展開しており、年間約
20万人の入場者、各種のセミナー約500回を開催しており、年間約3万人が参加して
いる(CNAM a)。
継続教育については、以下のとおりである。全国各地に150カ所の教育センターを
設置しており、450の職種に対応するコースを設置している。約8.7万人の受講者に対
して、高等教育レベル(修業年限1年から8年まで)の修了証337種類を授与してい
る。在籍者は2007年度で8.7万人である。在籍者の5分の1程度は遠隔教育で教育を受
けている(CNAM b)。経済・経営、人文・社会科学、情報科学、数学、工学等の幅
広い分野にまたがる。
受講生の実情に対応して柔軟な教育システムを採用している。短期間で資格取得を
めざす人、復学する人、以前に別機関での学習成果を考慮した教育課程編成・授業時
間編成を採用していること、遠隔教育での履修も可能である(在籍者の5分の1が利
用)が特徴になっている。さらに、取得した単位累積制度や「社会経験認定制度」(社
会体験により得た知識・技能の評価により資格を授与する制度。後述)による修了証
取得に便宜を図っている。CNAMの教員の多くは企業の出身者である。
(8) その他の省庁によるもの: 農業省関係の教育訓練機関
国民教育省の管轄する教育訓練機関は、商工業を中心としていた教育訓練を担当し
ている。農業関係の教育訓練は農業省の管轄になっている。その教育訓練機関や職業
資格は国民教育省と対応したものが多い。たとえば、農業リセ(lycées agricoles、正
式にはlycées d'enseignement général, technologique et professionnel agricole (LEGTA))
が設置されており、農業CAP(CAPA)、農業BEP(BEPA)、農業バカロレア、農業
上級テクニシャン免状(BTSA)などの資格取得の準備教育を行っている。
184
農業系の継続教育機関として「国立農業通信教育センター」(Centre National d'En
seignement Agricole par Correspondance、CNEAC)が設置されている。この機関は、
家族や本人の事情、地理的な問題等なんらかの理由により学校で農業教育を受けられ
ない青年を対象として、通信教育の手段によって教育を提供する機関である。いわば
学校教育の補完機関としての役割を担っている。1987年に設置され、農業省の管轄下
に置かれている。学校教育と同様に、農業職業教育修了証(BEPA)、農業職業バカ
ロレア(Bac Pro CGEA)、農業上級テクニシャン免状(BTSA)等の職業資格の取
得に向けた準備教育を行っている(CNEAC)。
そのほかにも、成人向けの農業関係の継続教育機関としてシャトファリーヌ農業セ
ンター(Centre de formation de Châteaufarine )が農業省によって設置されている。す
でに50年以上の歴史をもつ教育機関である。これは、見習訓練方式の教育によって、
各種の職業資格(農業職業適任証(CAPA)から農業上級テクニシャン免状およびそ
れ以上)を取得するための準備教育を行っている(初期教育として学齢期の青年も在
籍している。Centre de formation de Châteaufarine)。
(9) 民間機関による継続職業教育
民間の教育訓練機関のうち大規模なものとしては、CEGOS、DEMONS、CESI等が
ある。このうち、CEGOSは、フランス国内だけでなく、ドイツや中国等28カ国に進出
する国際企業である。パリ市内だけで5教育訓練センターと150カ所の支店があり、
年間1万種類のプログラムを開講し受講者は延べ5万人にのぼる。訓練指導員はグル
ープ全体で約1,000名である(CEGOS)。
5.1.3 資格制度
フランスにおいて、職業資格の創設・改編は、1980 年代半ばまでは国家の専権事
項であった。1990 年以降、業界独自の資格である「職業能力認定証」が認められる
ようになり増加傾向にあるが、現在のところ、いまだ国家資格が大半を占めている。
国家資格は国家試験を通じて取得するが、修得のための準備教育をする学校が決まっ
ており、学校の修業年数によって職業資格が階層づけられている。職業資格と学校教
育が連動していることがフランスの職業教育訓練の特徴の一つといわれる。
フランスでは、1969 年にすでに5レベルの資格制度が導入されていたが、2002 年
に全国職業資格委員会(CNCP)が設立され、フランス NQF(国単位の資格枠組み)
の構築に進んだ。CNCP は、関係省庁、地域政府、労使、商工農会議所の代表と専
門家から構成され、フランスの民間資格は、CNCP の定めた質基準に合致して初め
て NQF に包含される。また、2009 年以降、公的機関が新資格を構築しようとする
場合には、CNCP の助言を受ける必要がある。
フランスでも、EQF(欧州資格枠組み)のインパクトは大きく、CEDEFOP 報告
書(2010)も、フランス NQF も多分(probably)、概ね 8 レベルの枠組みに替わる
だろうと予測している。フランスの資格レベル説明指標(descriptor)も、「スキル」、
「知識」、「能力(competence)」からなるが、その最初に、「スキル」が置かれてい
るのが特徴である。これは、労働市場のニーズに適合した資格を開発する重要性を強
調する政治的シグナルとして見ることができる、と上記報告書は言う。
185
EQF との関係では、フランス NQF の最低レベル(レベル5)が EQF の2ないし
3に相当している。移行期間を付けて、EQF の3レベルだけに相当するものに改編
して行く予定である。なお、フランスでは、VET と高等教育の明確な違いがなく、
高等教育資格はすでにフランスの枠組みに統合されている。
5.2 教員・指導員の養成・研修制度
5.2.1 初期職業教育訓練の教員・指導員
初期職業教育訓練の教員・指導員は、大きく以下の種類がある。
①職業リセ教員
②リセ技術教育課程の教員
③見習訓練生の指導担当者
④成人向け継続職業教育機関の指導員
以下では、これらについて、人数・役割・労働条件(給与・報酬)、資格、養成教
育訓練内容、カリキュラム等について述べる。
(1) 職業リセ・技術教育課程の教員
1) 人数、役割、給与・報酬
職業リセ教員の人数は、57,910人である。全員が職業リセに配属されているわけで
はなく、リセやコレージュにも配属されている。内訳は職業リセ41,312人(全体の71.
3%)、リセ13,758人(同23.8%)、コレージュ(中学校)2,840人(同4.9%)である。
担当教科別の職業リセ教員とリセ教員の人数は表5.15のとおりである。
正教員としての雇用率が平均95%以上と高いことが注目される。職業教育科目の一
部では20%以上になっているものもあるが、それらは例外である。
表5.15
リセ教員・職業リセ教員の専門領域別人数・正職比率(2008年度)
担当教科
普通教育科目
哲学
文学
言語
歴史・地理
経済・社会科学
数学
物理・化学
生物・地学
音楽
造形芸術
応用芸術
バイオ技術・工学・生物
身体教育・スポーツ
小計
職業リセ教員
人
15
10,359
141
36
9
5,389
64
15
4
5
1,925
66
2,765
20,793
186
リセ教員
人
3,905
15,590
22,233
9,931
3,884
16,747
13,305
6,311
191
501
1,578
1,513
6,422
102,111
非正職比率
%
2.0
1.8
2.4
1.0
2.8
1.8
1.0
1.2
4.1
11.7
17.7
12.8
0.6
2.2
技術・職業領域:工業系
テクノロジー
実習室指導・工業
工業工学
科学工学
土木工学
熱学工学
機械工学
電気工学
バイオ技術・保健・環境・生物
ホテル・
小計
人
18
-3,309
127
1,683
672
4,793
2,987
3,083
766
17,439
人
5
-1,404
58
1,296
444
7,817
4,563
1,150
636
1,7363
2.7
0.0
19.1
6.5
17.6
21.6
5.4
2.9
13.6
7.4
8.2
技術・職業領域:サービス系
実習室指導・サービス
情報科学・電気通信
グラフィック産業
その他:運転、ナビ
芸術、工芸、特殊技芸
団体
パラメディカル・対人ケア
経済・経営
ホテル・サービス・観光
小計
人
-1
150
510
338
64
1,390
8,223
642
11,318
人
1
199
135
80
137
15
1,708
15,745
758
18,778
100.0
1.5
35.3
12.9
37.6
23.6
23.1
4.6
5.5
7.8
6
その他
合
計
49,556 人
7
18,778 人
%
%
79.2
3.5 %
(資料出所)Ministère de l'Education nationale et Ministère de l'enseignement supérieur et de la recherche, 2009,
Repères et références statistiques sur les enseignements, la formation et la recherche, p.297
2) 資格、養成のための教育訓練内容、カリキュラム
職業リセや技術教育課程で教えるためには、職業リセ教員資格あるいは技術教育教
員 資格を取得することが必要である。この資格を取得するためには、国民教育省が
毎年実施する教員資格試験に合格する必要がある。この資格試験のための準備教育は、
主として「大学付設教員教育センター」(Instituts universitaires de formation des
maîtres 、以下、I.U.F.Mと略す)に入学し、そこで教育を受けることが必要になる。
とはいえ、IUFMへの入学は必ずしも義務ではない。入学しない場合には、大学、国
立遠隔教育センター(CNED)、エコール・ノルマル・スペリウール(グランゼコー
ルの一部)等で教育を受けることもできる。IUFMの入学者選抜は一般には書類選考
であり、口述試験が行われる場合もある。
IUFMに入学するための基礎資格は、大学4年の課程を修了しているか、同課程に
在籍していることである(この入学の基礎資格は2010年度から適用される。それ以前
は大学3年の課程修了(学士学位の取得)が条件であった)。IUFMへの入学に先駆
けて、大学によっては、将来教職を志望する学生向けに第2学年から特別の授業を実
施している(IUFM a)。
IUFMはすべての大学区に設置されているが、職業リセ教員や技術教育教員の養成
コースは、どのIUFMにも設置されているわけではない。専攻が細分化されているこ
187
ともあり、専攻領域によっては入学すべきIUFMが限定される。
職業リセの教員になるためには、専門の資格である「職業リセ教員資格」
(certificat d'aptitude au professorat de lycée professionnel,CAPLP)を取得することが必
要である。職業リセ教員資格を取得すると、普通教育科目(数学・物理、文学・歴史、
外国語・文学等)や、職業教育科目(土木工学、販売、ホテル・レストラン等)を教
えることができる。取得した資格が普通教育科目であるか職業教育科目であるかによ
って担当科目数が異なる。普通教育科目担当の場合には2科目を、職業教育科目担当
の場合には1科目をそれぞれ担当する。職業リセは生徒の就職を促進する観点から、
各コースとも企業実習を重視しているため、教員は企業と緊密に連絡を取りながら教
育を行うことになる。
リセ技術教育課程で職業教育を教えるためには、専門の教員資格である「リセ技術
教員資格」(certificat d'aptitude au professorat de l'enseignement technologique,CAPET)
を取得することが必要である。この資格を取得すると、1つの職業教育科目を担当す
る。
担当科目数は異なるが、勤務時間数は職業リセ教員と技術教育課程教員とも週18時
間とされており、両者間に格差はない。
3)
IUFMにおける教育カリキュラム
職業リセ教員や技術教育課程の教員になるための準備教育は、主としてIUFMで行
われる。IUFMのカリキュラムは各校により内容が異なるが、一般的に第1学年の教育
は、主として教科横断的な教育、教科教育、学校での観察実習の3者で構成される。
教科横断的教育は全員必修であり、全体で25時間が配当される。多人数での一斉講
義「フランスの教育制度:組織と運営」(全9時間)と、少人数演習「フランスの教
育制度:問題と論争」(全12時間)と「教育目的:なぜ教えるのか」(4時間)で構
成される(IUFM Bourgogne, pp.22-24)。
今後は、IUFMの入学までに必要な大学教育の修業年限が4年に変更されたことを
受けて、大学在学中から教育実習を実施することになっている。
4) 入職後の研修・訓練
教員採用後の教育訓練(在職研修)にも、IUFMが参加している。IUFMは、教員が
就職した時から、彼らが職務を適切に遂行できるように支援することを目的に継続教
育を提案している。IUFMの代表、教員の代表、行政機関の代表が協議して、大学区
レベルで研修計画を作成する。それに基づいて、教員の研修が行われる(IUFM b)。
2006年度における中等教員向けの現職研修のプログラムの種類・数・受講者数は、
表5.16のとおりである。受講者数別の研修期間は3日以内が全体の84%、3~6日が
15%、6日以上はわずか1%にとどまっている。全体に短期間で行われている。
188
表5.16
中等教育教員向けの現職研修のプログラム数と受講者数(2006-2007年)
現職研修の目的
・職務能力の向上
・情報・コーディネート・活性化
・教育活動に関連する能力の向上
・資格取得のための教育
・資源の開発
・職務への適応促進
・その他
合
計
研修プログラム数
受講者数
12,056 人
1,005
933
615
404
352
663
313,670 人
50,447
8,689
7,176
7,332
13,547
24,263
16,028
425,124
(資料出所)Ministère de l'Education nationale et Ministère de l'enseignement supérieur et de la recherche, 2009,
Repères et références statistiques sur les enseignements, la formation et la recherche, p.327.
5)
教員・指導員の質管理
国民教育省は教員の評価を行っており、これにより教員の質の管理を行っている。
行政面(全体の40%)と教育面(同60%)の両面で行う(MEN b)。
行政面の評価は勤務先の校長の提案に基づき大学区総長が行う。
教育面の評価は、中等教育や職業リセ教員の場合には地域圏教育視学官が行う。一
般教員のほか、管理職教員の評価も行っている(MEN c)。
(2) 見習訓練の指導担当者
見習訓練生の指導を担当するのは、以下の人々である。
①見習訓練生養成センターの指導員(センター長、訓練指導主任、訓練指導員)
②見習訓練指導者
③企業実習指導員
以下では、これらの指導担当者のそれぞれについて、初期教育と継続教育について
概観してみよう。
1) 見習訓練生養成センター指導員
見習訓練生養成センター(CFA)教員の多くは、それぞれの専門職種で一定年数の
在職経験を有する者である。CFAとの契約職員であったり、フリーの教員である。
見習訓練指導員の資格は「見習訓練生養成センター訓練指導員証」(le titre de for
mateur en CFA)である。国立工芸院(CNAM)が授与するものであり、政府の全国
職業資格委員会(CNCP)が管理・運営する全国職業資格総覧(RNCP)に登録されて
いる資格である。資格水準は第3水準(高等教育2年制課程修了レベル)である(CNA
M c)。
この資格を取得するための準備教育は、「見習訓練活動者能力開発センター」(Inst
itut de Professionnalisation des Acteurs de l'Apprentissage、IP2A) が担当している。同セ
ンターは、首都圏イル・ド・フランス地域圏において継続教育を行う3機関が共同で
2004年に設置した組織である。この準備教育は、イル・ド・フランス地域圏の訓練セ
ンターに勤務する訓練指導員のみが受講できる。それ以外の希望者は社会体験認定制
189
度を通じて同資格を取得する道が開かれている(IP2A、CNAM d)。.
資格の目的は以下のように設定されている。
・企業と見習訓練生養成センターとで行われる交互教育を提供するための教育能力を
獲得すること。
・交互制の職業訓練プログラムを管理したり、見習訓練を現場に即したものにするた
めに必要な知識と技能を獲得すること。
・訓練指導員職として必要な能力を獲得するうえで不可欠な方法を習得することは、
準備教育の主要目的とされており、指導員が自分の所属する見習訓練生養成センタ
ーの計画をふまえて、教育活動を行うための手法を獲得させることを目的としてい
る。
<準備教育の目的>
準備教育の目的は、以下のように設定されている(IP2A)。
・企業とCFAで交互に行われる質の高い教育を訓練生に提供できること。
・教育を組織したり、資格取得や能力向上に必要な知識を提供したりするために、訓
練生 の得た諸経験を開発すること。
・見習訓練コースで行った教育訓練を評価すること。
訓練指導員資格取得のための準備教育は2年間にわたって行われ、教育時間は全体
で600時間である。その内訳は表5.17のとおりである。
190
表5.17
見習訓練指導員資格取得の準備教育の内容
<全体の構成>
・勤務先における教育:200時間
・企業における教育:
100時間
・その他の教育:
300時間
<「その他の教育」の内容>・
①交互教育の教授学:
52時間
・交互教育訓練制度の特徴を把握し、それを教育実践に活かす。
・見習訓練の状況の構成する諸要素を把握する。
・担当する訓練を準備、指導、評価するための教育技術の習得を確実にする。
・職業能力基準(le référentiel métier)と資格取得基準(le référentiel diplôme)とを関
連づけるために必要な方法論の要素を習得する。
・見習訓練プログラムに関連する多様な関係者とその役割を明確にする。
・企業との関係を築く。
22時間
②訓練対象青年に関する知識:
・訓練対象青年の変化と社会の変化との関係を理解できる。
・青年との関係において訓練指導員の果たすべき役割を適切に理解する。
・自分と他者を複雑な関係の中で位置づける。
・葛藤を処理することを教える。
30時間
③教育とマルティメディア:
・新技術の機器を見いだす。
・その機能と使用方法を理解する。
・シナリオを書く。
・情報を探索し処理する。
・特殊な用語を習得する。
・マルティメディアのリソース活用の妥当性を分析する。
④見習訓練制度の制度的側面: 14時間④見習訓練制度の制度的側面:
14時間
・見習訓練制度の多様な関係者とその役割を理解する。
・訓練センターの組織と機能に関する主要な事項について明確にする。
・見習訓練制度に関する主要法令を理解する。
⑤行動計画:
34時間
・訓練センターにおける訓練の強みと弱みを診断する。
・交互教育の教育活動計画の問題点を明確にする。
・計画の実行に必要な方法論の諸要素を獲得する。
・計画の実行可能性を確認する。
⑥「交互教育の戦略」実習:
80時間
・テーマは、訓練指導員が用意した計画との関係で設定する。本実習では、交互教育
の戦略を立てたり、担当する訓練を活性化するために使う教育方法を習得する。
191
⑦方法的な指導:
68時間
・方法論の支援、教育活動計画の作成を行う。
・審査委員会による口頭試問の準備をする。
(資料出所)CNAM, "CNAM - Sciences du travail et de la societe- 2009-2010",
http://formation.cnam.fr/pdf/dipCPN43--1.pdf
2) 見習訓練生養成センター教育主任
「見習訓練生養成センター教育主任」(responsable pédagogique、以下、教育主任と
略)の資格は「見習訓練生養成センター教育主任」(titre de responsable pédagogique
en CFA)である。この資格の水準は第2水準(高等教育3年以上の課程相当)である。
訓練センターですでに教育主任の職に就いている者、あるいは訓練指導員の中で教育
主任の職を希望する者を対象としている。パリ第5大学が資格取得コースを開設して
いる(Université Paris Descartes)。
2006年6月14日付け国民教育省令に基づき、同大学が独自の裁量で授与する資格で
あり、ヨーロッパ諸国の共通学位(学士(リサンス)、修士、博士の各学位)とは区
別される。訓練希望者や訓練受講者の訓練ニーズの診断、ニーズにあった教育の種類
やコースの選定、訓練の財源の確保、訓練計画書の作成、教育活動の評価、関係各方
面との連絡等の業務を担う。
同資格所得のための準備教育の対象者は、「訓練指導者」(後述)としての経験を
有すること、高等教育3年制課程の修了証を有するか、それ相当の知識を有すること
を証明する書類を提出することとされている。受講申請にあたって、訓練指導主任と
しての今後の職業計画の提出が求められる。受講審査は書類と面接によって行われる。
表5.18
訓練センター教育主任資格取得教育の内容(パリ第5大学、2009年度)
教育の種類
共通基礎教育
(270時間)
授業内容
配当時間
・受講者の状況把握、質問への応答
・法令の社会学
・組織の機能
・職業専門化
・教育訓練のニーズ分析と目的の設定
・教育訓練プログラムの構築の原理
・エンジニアリング手法の方法論
(作業・活動・実践の分析、観察、面接)
192
30時間
42
48
36
36
30
48
選択教育
(120時間)
教育実践の指導
・見習訓練制度の諸規則:制度、予算、法制
・交互教育の手法・交互教育の教授学
(交互教育、企業との連携、訓練生の指導等)
・計画の実施・遂行(教育計画、機関の計画等)
・訓練センターの教育チームの管理
24
36
・職業活動の振り返りセミナー
・チューターによる個別指導
・論文作成のための指導
30
24
36
(資料出所)Université Paris Descartes、"DU Responsable de formation (diplôme certifié niveau II)" より筆者作成。
http://www.univ-paris5.fr/spip.php?page=imprimer&id_article=711, 2010.01.10
授業料は、所属機関が支払う場合には5,800ユーロ(約75万円、1ユーロ=130円で
計算)、個人が支払う場合には4,000ユーロ(約52万円)であり、社会経験認定制度を
利用する場合の料金は2,500ユーロ(約33万円)である。
教育は1月初旬から11月末までの13週間にわたって、全455時間(理論教授230時間
と実習230時間)で行われる。以下の内容で構成される。①共通基礎教育(270時間)、
②専門教育(選択、120時間)、③訓練センターにおける実習(420時間)、④個別指
導および集団指導(65時間)。
評価は、教育期間中の平常点(総点の40%)、レポート(dossier de formation、同2
0%)、論文の作成と口頭試問(同40%)の3項目で行われる。
3) 見習訓練の指導担当者に対する入職後の研修・訓練
見習訓練指導員に対する入職後の研修・訓練についても、見習訓練活動者能力開発
センターが訓練センターの職員(センター長、教育主任、訓練指導員、訓練開発担当
者等)を対象に、30種類の研修を実施している。研修は、あらかじめ同センターが提
示した日程(年間日程表)に合わせて同センター内で開催するものと、訓練センター
側の希望で訓練センター内あるいは見習訓練活動者能力開発センター内で開催する
ものとがある。イル・ド・フランス地域圏以外の訓練センターに対しては、見習訓練
活動者能力開発センターが関係者との相談のうえ特別研修を開催している。
イル・ド・フランス地域圏の訓練センターに対しては、各種の研修、セミナー、実
践交流会等を実施している。研修は以下の4つのテーマで構成されている。
①訓練センターのマネジメント・経営
②交互教育の教授学
③訓練対象青年との関係
④企業との関係
研修期間はテーマ等によって1~4日間と幅がある。同地域圏の居住者は無料で受
けられる(経費は地域圏が負担する)。
193
表5.19
見習訓練活動者能力開発センターによる訓練指導員等のための研修
研修のテーマ
対象者
期間
1.訓練センターの行政・財政の管理・経営
1-1 見習訓練の制度的側面の知識
特定せず
1日
1-2 経営陣と教育チームの市民・刑法上の責任
〃
1日
1-3 見習訓練青年の受入・継続に向け差別防止
〃
1日
1-4 教育チーム内の紛争の理解・調整
訓練センター長・責任者
1-5 計画遂行に向けたチームの活性化
〃
1-6
〃
特別な見習訓練組織:契約・法令の問題
1-7 訓練センターの活動計画の立案
特定せず
1-8 訓練センターの管理と変化の指導
訓練センター長・責任者
1-9 障害のある訓練生のセンターへの受入
1-10 訓練センターの発展方策
特定せず
〃
2日
2日
3日(半日)
2日
2日
2日
2日
2.見習訓練の教授学
2-1 基礎的交互教育の教授学を開始する
訓練指導員・教育責任者
2-2 教育コースを個別化・多様化する
2-3
特定せず
訓練生の学習支援:いかに行うか
訓練指導員・教育責任者
2-4 教育上の進歩を築く
〃
2-5 企業とともに訓練生の能力を評価する
2-6
〃
訓練センターと企業の電子的交信手段
〃
3日
2日
2日
2日
2日
2日
2-7 企業見学
〃
1日
2-8 模範的な訓練指導員:その使命とは
〃
1日
2-9
企業での訓練生の経験を考慮する
特定せず
2日
2-10 適切な指導のために実践を分析する
〃
2日
2-11 個別化の手段としてのリソースセンター
〃
2日
2-12
〃
2日
2-13 ブログを管理する
〃
2日
2-14 相互評価の手段を創造する
〃
2日
PowerPointを用いた手段を管理する
2-15 本研修受講の訓練指導員を指導する
訓練指導員チュータ
2日
3日
3.訓練対象青年との関係:青年を取り込む
194
3-1 訓練期間中の紛争・暴力・攻撃の管理
特定せず
2日
3-2 面接の実施、積極的な傾聴の促進
〃
2日
3-3 訓練中の青年の理解
〃
2日
3-4 傾聴の管理と注意の困難:集中
〃
2日
3-5 青年の自己評価の促進
〃
1日
3-6 非識字の青年の特定と能率的支援
〃
2日
3-7 新技術の世代:訓練生の教育の課題
〃
2日
4.企業との関係:企業を取り込む
4-1 躊躇する企業の説得、企業の信頼回復
訓練促進担当者・指導員
2日
4-2 能率的共同関係の構築、グループ活性化
〃
2日
4-3 企業調査の方法の組織と開始
〃
2日
4-4 企業説得方法:活動基準の活用
〃
2日
4-5 決裂防止のため紛争と障害の管理
〃
2日
4-6 交流の活動促進と交互教育の質評価
〃
2日
(資料出所)Institut de Professionnalisation des Acteurs de l'Apprentissage, Offre Régionale de Formation des personn
els des CFAJanvier - Décembre 2010, pp.6-16
http://www.ip2a.fr/ressources/Catalogue%20ORF%202010.pdf 2010.01.10
4) 見習訓練指導者と企業実習指導員
訓練生の訓練にあたって主に企業側で責任を負っているのは訓練指導者(maître
d'apprentissage)や企業実習指導員(tuteur en entreprise)である。両者とも、公的な職
業資格は設けられていない。また、義務となる教育訓練も設定されていない。
訓練指導者は見習訓練生養成センターと連携しつつ、訓練生が取得を希望する職業
資格に対応する職業能力を習得できるように指導する責任を負っている。指導者は成
人であり、かつ人格的に優れていることが条件とされているが、それを満たせば企業
内での身分は問われない。企業主であってもよいし、企業の従業員であってもよい。
また、以下の能力を保持することを証明する必要がある。
① 訓練生が取得を希望する職業資格の職種に関して資格を取得していること、
あるいはそれと同等の能力を有すること。
② 職業資格と関連する職種において3年以上の職業経験を有すること、それ以外
の職種の場合には5年以上の職業経験と最低レベルの職業資格を有すること。
①の条件を満たせない場合には、県雇用・就職委員会(la commission
départementale de l'emploi et de l'insertion)の指定する最低限の資格を有すること、当
該職種での5年以上の経験を有することを証明しなければならない(l'Apprenti a )。
見習訓練指導者は、資格取得に必要な能力を習得できるように訓練生を支援する責
任を負う。具体的には、以下のような任務を果たすことが求められる(l'Apprenti b )。
a.企業に訓練生を受け入れる。
b.企業の職員や活動を訓練生に提示する。
c.企業の全規則やその施行について訓練生に説明する。
d.職業の理解を促すために訓練生を指導する。
195
e.訓練生用の仕事を組織し計画する。
f.仕事に従事するために必要な職業知識を訓練生が習得できるようにする。
g.訓練センターの教育内容や得られる成果について訓練生に説明する。
h.訓練センターの指導担当者の企業訪問を受け入れる。
i.訓練生の職業能力の習得状況を評価する。
企業実習指導員は、見習訓練の一部としての企業実習の際に訓練生の指導を担当す
る。企業の従業員の中から、多様な基準で選抜される。たとえば、職業経験が豊富で
あるとか、見習訓練生のめざす資格と同じ職種の資格を取得しているなどの事情が考
慮される。
上記のように、訓練指導者には義務的な資格は設定されていないが、全仏商工会議
所連合会(L'Assemblée des Chambres Françaises de Commerce et d'Industrie (ACFCI) )
等の団体は、独自に「会議所見習訓練指導者証書」(Le titre consulaire de Maître d'ap
prentissage, TCMA)を設けている。この資格は2003年に創設された比較的新しいもの
である。この資格を取得するには、職業能力証明書連盟 (Association pour la Certificat
ion des Compétences Professionnelles、ACCP)が管理する企業能力証書「チューター
担当」(Certificat de Compétences en Entreprise «exercer le rôle de tuteur» を取得する
こと等の手続きが必要である(ACCP)。
5.2.2 継続職業教育訓練の教員・指導員
(1) 資格、養成のための教育訓練内容、カリキュラム
継続教育訓練の指導員の所属機関、職務の内容・勤務・条件等の実態はきわめて多
様である。そもそも訓練指導員の名称には統一したものはなく、所属機関によってき
わめて多様である。名称は同じでも職務内容がまったく異なる場合もあるし、その逆
の場合もある。所属機関も、必ずしも教育訓練機関とは限らない。一般企業に所属し
て、従業員向けの人事・労務関係の部署で教育訓練を担当する者もいる。さらに、フ
ルタイムで訓練指導員の職務に従事する者のほかに、他の職務に従事しながらパート
タイムで訓練指導員の職務を担当する者もいる(とくに企業の従業員など. Centre
INFFO, p.37)。このように、訓練指導員の実態は複雑であり、その実態を把握する
ことは困難である。そもそも訓練指導員の正確な人数も把握されていない。CentreIN
FFO(継続教育情報開発センター、後述)によれば、継続職業教育訓練の教員・指導
員(以下、訓練指導員と略)の人数を正確に把握することは難しいとしつつも、教育
訓練を主たる業務とする者の数を12万人と推計している(CentreINFFO, p.20-21)。
ただし、訓練指導員資格・称号は、雇用主にまだ十分に認知されているとは言い難
いといわれる。この種の教育訓練が始まったのが比較的最近であり、したがって訓練
指導員の資格も同様であることによる(最初の資格は1990年頃。Centre INFFO 2006
b, p.71)。
国立統計経済研究所(INSEE)の雇用調査では、「教育訓練担当者および人事募集
担当者」(Formateurs, Recruteurs)という職種に分類されている。これによると、両
職の従事者は1982年の約40万人から1992年の約100万人、2002年の170万人というよう
に、過去20年間に4倍と急増している。本来の教育訓練の従事者は13万人で、残りは
「教育訓練・人事募集担当幹部職員」である。
両者の資格水準をみると、表5.20のとおりである。これによると、訓練指導員の資
196
格諮詢が全般に向上していることがわかる。1990年には高等教育2年以上の資格取得
者は47.8%と半数に満たなかったが、2002年には57.0%と過半数に達している。また
義務教育修了資格以下の者は1990年14.7%から2002年9.6%と減少している。とくに
30歳未満ではこの傾向は顕著であり、高等教育2年以上は71.1%に達する(DARES n
d, p.2)。
表5.20 訓練指導員の資格水準
(単位: %)
30歳以下
1990年
無資格
義務教育修了資格
CAP・BEP
普通バカロレアのみ
技術バカロレア
高等教育2年修了
高等教育3年以上修了
【 注 】 人事募集担当者を含む。
(資料出所)DARES nd, "Les familles
recruteurs", p.2
nd
nd
nd
nd
nd
nd
nd
2002年
1.8
7.0
1.8
10.0
8.3
17.4
53.7
全体
1990年
8.4
6.3
15.9
10.9
10.6
13.4
34.4
2002年
4.3
5.3
15.6
10.9
7.9
18.3
38.7
professionnelles-donnees de cadrage 1982-2002, Formateurs,
訓練指導員の初期および継続教育訓練は、多種多様である。大きくは以下のように
分類される。これらの教育訓練は、公立・民間の多様な機関によって実施されている。
必ずしも、教育訓練機関が雇用する訓練指導員に対して、いわば自前で提供するわけ
ではない。むしろそのような例は少ないようである(例外は国民教育省。後述)。
①訓練指導員関係の資格取得のための教育訓練
②資格取得を伴わない教育訓練(長期)
③指導能力向上のための教育訓練(短期)
(2) 訓練指導員関係の資格取得のための教育訓練
このタイプの教育訓練を行っている機関は、全国に2,000以上あるといわれる(Cen
treINFFO, p.72)。大きくは公立・半公立、各種会議所(商工会議所、手工業会議所、
農業会議所等)、民間の3種類に区分される。これらの機関が行っている教育訓練の
内容は、以下の6種類に分類される。①教育・教授学(全体の60%)、②教育管理(3
5%)、③チューター・交互教育(25%)、④マルティメディア(10%)、⑤特別支
援(10%)、⑥継続的指導(10%)である(同一機関が複数項目に回答しているため
に、合計は100%を超えている)(表5.21)。
197
表5.21
養成教育の専攻分野
①教育・教授学
②教育管理
訓練指導員の養成教育の専攻分野と主な内容・項目
養成教育の主な内容・項目
教授学、教育方法・手段の概念・知識、知覚教育の手法等
監査、ニーズ分析、経営、教育計画立案、教育総合企画、法
律、教育訓練プログラム、教育担当者養成、品質、教育機関の
経営
③交互教育チューター
交互教育の管理、企業チューター
④マルティメディア
教育関係マルティメディア機器の概念・活用
⑤特別支援
異文化間教育活動、非識字者支援、特殊支援対象者支援
⑥継続的指導
職業指導・就職相談、能力評価、社会体験認定指導
(資料出所)Centre INFFO 2006 b, p.72-73
1)
大学による訓練指導員資格取得のための教育
CentreINFFOは、大学が授与する訓練指導員関連の資格について調査している。資
格取得のための教育を行っているのは2006年現在全国で103大学にのぼり、これらの
機関が合計320種類の資格を授与している(CentreINFFO 2006 b, p.75)。
訓練指導員関連の資格と一口に言っても、大学が授与するのは通常の学位である学
士学位(リサンス、Licence)、修士学位(マステール、master)、大学免状(diplôme
universitaire)等の課程修了証である。つまり、受講者は学士課程や修士課程の訓練
指導員関連の専攻領域で所定の教育課程を修了し、その修了証を取得することになる。
学士学位は、大学3年間の課程を修了することにより取得できる学位であり、修士
学位は、学士学位取得後の2年間の課程を修了することにより取得できる学位である。
学士課程と修士課程には、通常のアカデミックな教育を行うコース(上級課程への進
学等を目的とする)のほかに、修了後に就職を念頭に置く職業教育を重点的に置くコ
ースが置かれている。後者は職業学士学位(職業リサンスLicence professionnelle)、
後者は職業修士学位(master professionnel)と呼ばれる(博士課程進学の準備コース
で授与されるのは研究修士学位(master recherche)と呼ばれる)。学士学位や修士学
位はヨーロッパ諸国共通の学位であり、政府(高等教育管轄省。現在は高等教育・研
究省)の管理下で各大学が授与している。これに対して、大学免状は各大学の独自の
裁量で授与できる、国内限定の学位である。当然ながら、通常の学位と比べて効力は
制限される。
専攻領域としては、教育科学が最も多いが、文学(言語の教授学等)、心理学、継
続教育サービス等も一定割合を占める。これらの教育は通常の形式によるもののほか、
通信教育によっても行われる。
資格の名称、教育カリキュラム、実施形態、機関、経費等はきわめて多様である。
訓練提供機関同士が相互に連携を取り合って実施することはまれである。例外として、
レンヌ第2大学、ツール大学、ナント大学の3大学が同一の修士学位「成人教育戦略・
ingenierie」修士学位(SIFA)を授与している。同様に、ツールーズ第2大学とアビニ
198
ョン大学が「南部地域訓練指導員大学免状」(DUFRES)を授与している。
表5.22
資格種類
計
教育訓練指導員資格の種類と専攻分野(2006年度)
教育
科学
教育・ 訓 練 指 就 職 ・ 継 教育
導員職 続 指 導 ・
教授学
進路指導 経営
マ ル チ教 育 ・
メ デ ィ知 覚 心
ア等
理
39
27
3
8
1
0
0
0
職業学士
12
0
2
2
6
1
1
0
研究修士
41
25
11
1
0
2
0
2
職業修士
82
2
24
16
13
14
7
6
大 学 免 状 125
等
3
60
14
29
10
8
1
7
6
0
1
0
0
0
0
12
5
2
4
1
0
0
0
102
(21)
46
(14)
50
(16)
27
( 8)
16
( 5)
9
( 3)
学士
博士
その他
合 計
318
68
構成比(%)(100) (33)
【 注 】 「大学免状等」には同等資格を含む。「その他」には、大学第4学年課程修了証 (メトリーズ)、大学
付設職業教育センター・準技師資格等を含む。
(資料出所) Centre INFFO 2006 b, p.79.
2)成人向け継続職業教育機関における指導員養成教育
AFPA(全国成人教育訓練協会)が行っている訓練指導員養成のための教育訓練は、
①成人向け訓練指導員、②就職相談員、③就職技術指導員等である。
表5.23 成人向け訓練指導員資格取得のための教育の内容と期間
【教育の内容】
・オリエンテーション
1週間
・企業実習
3週間
・モジュール1「教育活動の準備と活性化」
・企業実習
11.6週間
6週間
・モジュール2「訓練プログラム作成と受講指導」
10.8週間
0.6週間
・職務能力の評価
199
【モジュール1「教育活動の準備と活性化」の内容】
・教育活動の進行表の作成(訓練生のニーズ等を考慮)
・訓練生を支援するための具体的な教育シナリオや必要な資源の準備
・集団による授業の活性化
・学習者の学習成果の評価
・学習の阻害要因となる各個人の問題への対策
・教育活動評価・総括表の作成
・教育を受けるための条件の整備
・教育・技術・営業・環境の諸側面から職業訓練の監督への参加
・職業実践の分析
・職業活動に関する社会的・職業的責任の理解促進
【モジュール2「訓練プログラム作成と受講指導」の内容】
・訓練プログラムの作成への貢献と訓練過程の指導
・個人のニーズへの対応を最適化するtが目のネットワークの活用
・多様な様式と教育状況を組み合わせた訓練プログラムの作成への貢献
・教育コースと進路の最適化への貢献
・就職のための計画と手続きについて学習者への指導
・教育コースの作成と実施への指導
・訓練プログラムの評価への貢献
・教育を受けるための条件の整備
・教育・技術・営業・環境の諸側面から職業訓練の監督への参加
・職業実践の分析
・職業活動に関する社会的・職業的責任の理解促進
(資料出所)AFPA、"Fiche formationFormation diplômante, Formateur professionnel d'adultes",
http://www.centre.afpa.fr/formations/les-offres-de-formation-et-vae/formation-diplomante/fiche/9625/programme/formateurprofessionnel-d-adultes.html?url=,
2010.01.11
①成人向け訓練指導員(Formateur professionnel d'adultes)
この指導員の基本的な職務は、職業訓練の受講希望者に対して、職業能力を習得・
向上させることにより就職できるように支援することである。受講希望者のニーズや
各職業の就職条件を考慮して、適切な教育訓練プログラムや受講の形態等を考案する。
それを受講者に提案して、彼らを職業資格の取得へと導く。この資格の取得者は、公
的および民間の各種教育訓練機関や企業で働く。身分は従業員、契約職員、自営業者
など多様である。多くの場合、各機関でチームの一員として働くことが多く、企業と
の関係も緊密である(AFPA a)。
この資格は第3水準(高等教育2年制課程修了レベル)に位置づけられている。取
得準備教育の総授業時間数は1,155時間であり、約8か月間にわたって行われる。2種
類のモジュールと2回の企業実習で構成される。
200
②就職相談員(Conseiller en insertion professionnelle)
この仕事の職務内容は、就職が困難な人々に対して、就職までの手続き・順序等を
教えたり、関係各方面と協力して彼らが実際に就職できるように支援することである。
資格水準は第3水準である。資格取得のための教育は、総時間数1260時間であり、約
9か月にわたって行われる。4種類のモジュールと4回の企業実習で構成されている
(AFPA b)。
③就職技術支援員(Encadrant technique d'insertion)
この仕事の職務内容は、就職を控えた人に対して、企業の期待する職業行動を習得
させるために、多様な職業経験をさせること、就職・再就職の計画を強固なものにす
るために、職業で求められる基準を理解させることである。通常は就職支援企業等に
勤務する。資格水準は第4水準(後期中等教育修了レベル)である。資格取得のため
の教育は、総授業時間815時間であり、約6か月にわたって行われる。3種類のモジ
ュールと3回の企業実習で構成されている(AFPA c)。
(3) 資格取得を伴わない教育訓練(長期)
このタイプの教育訓練は、主に教育訓練指導員の職に就いている人を対象に、知
識・技能を向上させることを目的に行われる。教育訓練は、公的機関(国立工芸院等)
と民間機関の両方で行われている。
教育訓練のレベルに応じて受講条件(資格水準や在職年数)等が設定される場合も
ある。修了までに擁する教育時間は280~500時間であり、多くの場合教育訓練機関に
おける座学と企業実習が行われる(ちなみに、修業年限2年の職業修士の教育は250
~900時間、Centre INFFO 2006 b, p.80,85)。専攻の種類は、教育訓練総合企画、訓
練受講者受入・進路指導・継続的指導、情報科学等多様である(Centre INFFO 2006
b, p.85-89.)。
(4) 能力向上のための教育訓練
このタイプの教育訓練も、主に教育訓練指導員の職に就いている人を対象に、知
識・技能を向上させることを目的に行われる。期間は1~5日間程度のものが中心で
ある。受講者の職務内容や勤務形態等によって、提供する教育訓練の内容は異なる。
フルタイムの教育訓練指導員の場合には、法令知識、教授技術の向上(新しい教育
方法、マルティメディア教材、教育機器の使用方法等)、雇用情勢・各種教育訓練情
報などが主たる内容となる。パートタイム指導員の場合には、受講者集団の指導技術、
対面方式の指導、各種支援準備等が主な内容となっている(Centre INFFO 2006 b,
p.89)。
(5) 国民教育省管轄下の継続教育・訓練機関の指導員
以下では、国民教育省管轄下の継続教育・訓練機関(グレタ)の訓練指導員に対す
る養成教育の内容についてみてみよう(EDUSCOL a )。
1) グレタの指導員
継続教育訓練指導員(conseiller en formation continue)は、主にGRETAで教育を担
当している。業界や個別企業の従業員向けの訓練ニーズの分析。顧客と緊密に連携し
201
ながら、従業員の必要に応じた教育活動を構想する。企業の訓練部門の担当者や継続
教育基金管理を行う労使共同管理組織との間で、訓練料金について交渉を行う。また、
グレタは求職者、社会参加や就職に困難を抱える人々等に対する教育・訓練、各種支
援を担当するため、関連の組織(地方公共団体の雇用・訓練担当者、職業安定所、N
PO等)と連携して、業務に当たることも求められる。
グレタを組織する学校の校長たちとともに、チームを結成し、これを中心に各種の
教育訓練プログラムを作成したり実施したりする。教育訓練を提供する場所は学校と
は限らず、企業に出向いて行うこともある。継続教育は多種多様な組織・個人が参入
しており、一大市場を形成している。グレタもその競争的な環境のなかで、組織の維
持をかけて活動することを余儀なくされている(政府等から、活動経費のための補助
金等は交付されていない)。
2) 継続教育・訓練指導員の能力基準
職務能力基準(Référentiel d'activités et de compétences du Conseiller en Formation C
ontinue )が作成されている。これらは大きく、①企画、②マーケティングリサーチ・
商業活動・渉外活動、③内部での指導・助言、④教育訓練活動実施の4項目で構成さ
れる(表5.24参照)。
継続教育指導員の募集は、大学区単位で行われる(大学区は教育行政の地方単位で
あり、近隣の数県で構成される。一般広域行政の地域圏(région)と地理的にほぼ重
なる)。直接の担当は大学区継続教育代表部(délégations académiques à la formation
continue)である。同代表部は採用のスケジュールを決定する。基本的に現職者が退
職した後のポスト補充という形で募集が行われる。毎年、全国で100名程度の募集が
ある。
応募できるのは、公務員A級(教員、進路指導相談員、管理職等)のポストに正職
員としてまたは契約職員として就いている者であるが、そのほかにも高等教育3年制
課程の修了証以上の資格を有することを条件に民間企業やNPO等に所属する者にも
開かれている。採用は書類選考と面接により行われる。正式任官の後は、空席があれ
ば、他の大学区に異動することができる。
2006年12月現在、指導員数は1,330人である。
表5.24
大項目
①教育総合企画
継続教育・訓練指導員の職務能力基準
主な活動内容の基準
・教育関係の法令、方法・手法、機器等の管理
・手法の分析
・勧告提案の作成
・手段に基づいた教育の提案
・結果・効果の評価手続き
・機器・経験の活用
202
②マーケティングリサーチ・ ・教育訓練市場の監視
商業活動・渉外活動
・グレタの営業政策立案への貢献
・営業活動の計画と実行
・営業交渉の実施と締結
・連携の促進
③内部での指導・助言
(conseil à l'interne)
・グレタ発展計画の立案、評価、修正への貢献
・人事政策の立案・実施への貢献
・グレタの予算案の立案・調査への貢献
・教育訓練プログラム開発への貢献
・質の高い政策の目的・公約の決定への貢献
④教育訓練活動実施
・管理職・教育チームの活性化
・諸活動のための経済的組織化・手段の確保
・研修受講者の受入・募集の推進
・諸活動の管理・財政上の調査への貢献
・提供するサービスの質の評価・調査・改善への貢献
【 注 】職務能力基準表では、上記の「主な活動内容の基準」の各項目について、さらに
詳細な活動内容やそれ
を担当するために必要な知識・技能が明記されている。
(資料出所)Ministère de l'éducation nationale, de l'enseignement supérieur et de la recherche Direction de l'enseignem
ent scolaire Bureau de la formation continue des adultes, nd, Référentiel d'activités et de compétences du Conseiller e
n
Formation Continue, p.5
http://media.education.gouv.fr/file/Formation_continue_adultes/98/4/CFC_referentiel_114984.pdf 2010.01.11
3) 初期教育・継続教育
採用が決定した者は、1年間は試用期間であり研修生として勤務する。この期間に
は初期教育訓練が行われ、採用された者は研修生として教育訓練を受ける。この教育
訓練は、GRETAでの勤務と理論教授を組みあわせたいわゆる交互制方式で行われる。
教育訓練のプログラムの内容は、指導員の採用時の職務経験等を考慮して決定される。
おおよその内容は、教育科学、社会学、心理学等である。このほか労働権、学習権、
マネジメント等についても学ぶ。これらを通じて、国民教育省の継続教育訓練のネッ
トワークの意義について理解させることも企図されている(EDUSCOL c)。初期教育訓
練の期間中は、先輩の指導員がチューターとして各自の指導を行う。
1年後に審査を受け正式任官する(任官を拒否される場合もある)。審査は審査委
員会(審査委員は大学区大学部の代表やGRETAの責任者)が担当し、以下の項目に
ついて行われる。①1年間の活動状況(相談員の職務能力基準に照らして評価)、②
相談員が提出する論文の内容およびそれについての口頭試問の結果である。この審査
に合格できれば正式任官が認められ、指導員として活動ができる。
一方、継続教育は指導員の職務能力向上を目的とするものであり、大学区の人事政
策の一環として行われる。
203
指導員の初期教育および継続教育は、主に大学区継続教育センター(centres
académiques de formation continue, Cafoc) が担当している。
5.2.3 教育・訓練指導員の労働条件等
教育・訓練指導員の労働条件等は、全国教育訓練機関団体協約(Convention collect
ive nationale des organismes de formation)によって、大枠が定められている。経営者
団体の設置する教育・訓練機関等の一部を除き、すべての教育・訓練機関に適用され
る。1998年3月16日付け労働省令は、1988年11月9日付けの労使合意の内容を労使双
方が遵守することを規定している。
これによると、教育・訓練機関に勤務する従業員は、職務内容、担当する教育訓練
の内容、職務遂行能力という基準によって、AからEまでの5レベル段階と各レベル
内1級と2級に分類される。それより上級のFからIまでの4レベルは幹部職員である。
訓練指導員は、DレベルからHレベルまでに位置している。各レベルごとに最低賃金
が決定されており、従業員の給与はそれ以上とすることが規定されている。
各レベルごとに全職務に共通する基本的条件が示され、さらに各職務についてやや
具体的に示されている。たとえばDレベルでは、特殊な状況に於いては自らの判断で
対応できるための一般的・技術的知識と経験を有すること、下位職務にある職員の指
揮・支援を行うことが、全職務に必要とされる。訓練指導員については、多様な環境
において、自分の専門の枠内で、受講者に対して教育訓練を行うこととされている(表
5.25参照)。
AFPAの訓練指導員の給与・報酬は、訓練指導員の職務内容により異なる。各種手
当を除いた最低給与(年間)は、27,440~36,620ユーロ、訓練指導責任者が35,413~
38,112ユーロ、センター長が41,771~60,979ユーロとされている(Centre INFFO 2004,
p.19)。
国立統計経済研究所(INSEE)の雇用調査では、フルタイム勤務で訓練指導員の平
均給与(月額)は、1,758ユーロ(2002年)である(DARES nd, p.3)。
表5.25
団体協約に記された職務水準と訓練指導員の主な職務内容
レベル
必要な資格・水準
訓練指導員の主な職務内容
Aレベル
国民教育省資格第6
水準
該当なし
Bレベル
国民教育省資格第5
水準:CAP、BEP等
該当なし
Cレベル
国民教育省資格第4
熟練テクニシャン 水準:バカロレア等
1級
テクニシャン免状
該当なし
Dレベル
国民教育省資格第3
熟練テクニシャン 水準:
2級
BTS、DUT、DEUG
・多様な環境において、自分の専門の枠内で、
受講者に対して教育訓練を行うこと。
Eレベル
高度熟練テクニ
・プログラム・教材を使用できる。
・受講者の要求に対応して教材等を改善できる。
国民教育省資格第1
・2水準:技師資格
204
シャン
等
・予算枠を考慮しつつ研修予算問題を解決する。
・訓練に関する経営問題に関与する。
Fレベル:
幹部職員
国民教育省資格第1
・2水準:技師資格
等
・教育訓練の立場から、全体の研修計画立案に
関与する。
・予算を考慮して教育・経営問題に関与する。
Gレベル:
幹部職員
国民教育省資格第1
・2水準:技師資格
等
・教育・技術・経済面の責任を負って、機関プ
ロジェクトの診断・交渉を行う。
Hレベル:
幹部職員
国民教育省資格第1
・2水準:技師資格
等
・高度な専門的水準の指導員・コンサルタント
として職務を担う。
(資料出所) Centre INFFO 2006 b, p.79.
5.3 代表的な職業教育訓練研究機関(体制・研究内容)
5.3.1 資格調査・研究センター(Centre d'études et de recherche sur les
qualifications 、CEREQ)
職業教育訓練研究機関として、まずあげるべきは資格調査研究センター(CEREQ)
である。CEREQは、国民教育省、経済産業省、労働省の共同管轄による機関である。
主な業務内容は、①雇用状況に関する統計調査を行うこと、②職業・資格等の問題に
関する研究を行うこと、③地域圏、国、国際レベルでの各機関が政策立案を行うに際
して専門的見地から助言を行うことである。上記の省庁だけでなく、農業省、青年・
スポーツ省のためにも必要な情報提供を行っている。
センターの本部はフランス南部のマルセイユに設置されている。パリにも支所が置
かれている。職員は142名であり、ほとんどは研究員として雇用されている。2010年
度の予算は1,170万ユーロ(約15億2,000万円。1ユーロ=130円で計算)である。
以下の3つの研究部門が置かれている。1)職業生活参入・変化研究部(DEEVA)、
2)労働・雇用・職業化研究部門、3)教育・資格研究部門。
1)職業生活参入・変化研究部(DEEVA)
この部門では、国の労働力政策や企業の人事労務政策との関係で、国・地域・家
庭等の多様なレベルで、就職の条件・態様や教育訓練の役割の評価を行うことを目
的としている。また、青年向けの初期教育訓練や学校と職業の移行に関する政策の
評価に資することを目的としている。具体的には以下のような研究を行っている。
a.各学校段階の卒業者の職業経歴に関する分析
各世代の学校卒業者について、就職後3、5、7年後の状況に関する統計調査
(=調査名称は"Génération”)を行う。
b.学校から職業生活への移行様式に関する国際比較
量的調査と質的調査により、就職の条件、教育訓練の効果と労働市場の機能の
評価・分析)を行う。
c.成人の職業経歴に関する長期間の追跡調査
「生涯学習」(formation tout au long de la vie)という用語の適切性の検討、
確実な職業経歴を保障する教育訓練の条件に関する研究を行う。
2)労働・雇用・職業化研究部門 (DTEP)
205
この部門の目的は、技術・組織・社会的生産・人間等の観点から労働の変容状
況を調査すること、分業、職業能力・職業の変化、労働力の活用、職業資格の創
設・内容に対してこの変容が与える影響を測定することである。具体的には主に
以下の4つの研究 を行っている。
a.職業資格政策の観点から、労働の内容や条件に関する研究。
b.企業等の組織内における労働と教育訓練の関連を明らかにする観点から、職
業従事者の職業能力の習得・向上の過程等に関する研究。
c.企業・業界等における雇用創出や労働者の新規交代の様式に関する研究。
d.量的・質的な側面から職業や職業能力の将来予測。
3)教育・資格研究部門(DFC)
この部門は、フランス及びヨーロッパレベルの生涯学習政策や、「社会経験認
定制度」(後述)の実施状況・方法等について分析している。具体的には以下のよ
うな研究を行っている。
a.各種の職業資格・称号の創設・提供に関する分析、教育訓練と職業資格・修
了証の評価、研究データベースに基づいて職業資格等の系統図・リストの作成、
教育政策が労働力形成に与える影響・効果の分析(ヨーロッパ、国、地域レベ
ル)。
b.フランスの継続教育訓練政策の観察と分析。関係研究・調査機関(国内、ヨ
ーロッパ)と協力して、関連の統計データの収集。
c.継続教育訓練の関係者や政策に関する分析。企業・個人・教育訓練提供機関
間の関係の実態および変化の分析。
これらの調査・研究成果は、センターのホームページで公開しているほか、書体ベ
ースで、各種研究シリーズ、雑誌、ニューズレター等でも公開している。これらの研
究データは質量とも豊富である。
5.3. 2 継続教育・訓練情報開発センター
継続教育・訓練情報開発センター(Centre pour le developpement de l'information
sur la formation permanente, Centre INFFO)は、継続教育全般について研究するとと
もに、各種の情報提供を行っている(Centre INFFO b)。経済・産業・雇用省の管轄下
の機関であり、センターの活動方針や予算等を審議・決定する評議会は、国・地域圏・
社会的パートナー(企業・各種団体・労働組合等)の代表や学術経験者によって構成
され、政府から派遣される公務員が議長を務める(2003年6月4日付け政令第3条)。
勤務する職員は105名であり、法制度、文書管理、教育訓練実践等の専門家、ジャ
ーナリスト、教育・マルティメディアの専門家で構成されている。
主要な業務は以下の3つである。
①情報提供
フランス全国レベル、各地方レベル、ヨーロッパレベルでの継続教育訓練の情報の
収集と提供を行うとともに、政府・地方公共団体・社会的パートナーが行う情報キャ
ンペーンに参加するなどの活動を行っている。さらに、これらの活動を通じて収集し
た情報に基づいて、継続教育訓練に関するデータベースを作成している。
②情報の分析・総括・公表
職業教育訓練に関する分析・総括を行うとともに、その結果を公刊する。公共及び
206
民間の職業人の訓練ニーズに関する研究成果を発表する。さらに、ヨーロッパレベ
ル・国際レベルで専門家の研究・情報交流を行っている。
各種の情報は、ホームページやメールマガジンで提供するほか、各種の書籍や定期
刊行物(雑誌等)を通じて提供している。
③教育訓練の提供
各セクターの活動家がみずからの専門的知識を習得・向上させるための指導・支援
を行っている。そのための各種教育訓練の機会を提供している(セミナー、遠隔教育
等の開催)。これらには年間2,500人が利用しており、延べ教育訓練時間は23万時間に
のぼる。
5.3.3 その他
(1) 雇用研究センター
雇用研究センター(Centre d'études de l'emploi、CEE)は、労働・社会関係・家族・
連帯省および高等教育・研究省の管轄する公的行政機関である。
基本的使命は、①労働市場・技術等の進展をふまえた雇用・労働・社会保障に関す
る調査・研究を行うこと、②政府の雇用政策の評価を行うこと、③これらを通じて、
政府の政策立案や改善に貢献すること、④政府・各種社会団体の活動を支援すること
等である(Centre d'études de l'emploi 2010)。
センターの運営方針は管理評議会や研究評議会によって決定される。前者は政府の
代表や学術経験者、政府の資格調査・研究センターの代表により構成され、後者は主
に学術経験者で構成されている。
研究成果は、研究報告書として発刊されている。またセンターのホームページ、メ
ールマガジン、ニューズレター等を通じても、研究成果の概要や関連する情報を提供
している。
(2) 研究・調査・統計推進局
研究・調査・統計推進局(Direction de l'Animation de la Recherche, des Etudes
et des Statistiques (DARES))は、労働・社会関係・家族・連帯省および経済・産業・雇
用省の両省にまたがる組織である。労働・雇用・教育訓練の領域における研究を促進
したり、定期的な統計データ・各種研究成果を発表したり、政府の関連政策について
の評価活動を行っている(DARES,2008)。
基本業務は、政府や公的・民間の関連団体にとって有用な各種統計データを作成し
普及することであり、そのための各種の調査を実施している。労働・雇用・教育訓練
の領域におけるデータベースを作成する主要な機関の一つである。
また、これらの活動や政府による各種政策の評価を通じて、両省の各種政策の策
定・実施や各種法令の改正、関連する各種団体の活動を支援している。
任務遂行に必要な評価手法の開発・改善・実施を担当している。
労働・雇用・教育訓練に関する研究プロジェクトを募るなどの方法により、研究を
促進している。同局には独立した研究者や両省の代表で構成する研究委員会が設置さ
れており、ここが中心となり研究プロジェクトの進行状況の点検や評価等を行う。ま
た、計画委員会(comité des programmes)も設置されており、両省のニーズをふまえ
てDARESの調査研究や統計等の計画を立案している。関連して、職業教育訓練等の国
207
立研究機関である、資格調査研究センターや雇用研究センター(Centre d'études de l'
emploi、CEE)の共同管理も担当している。
(3) リール大学経済・生涯教育センター
リール大学経済・生涯教育センター(Centre Université-Economie d'Education Perma
nente, CUEEP)は、1968年に設置された組織である。継続教育訓練に関する研究と実
践を行っている。研究としては、継続教育訓練における諸問題を扱っており、定期刊
行物を通じて研究成果を発表している。実践については、教育訓練指導員資格の取得
のための教育訓練をはじめ、バカロレア段階の各種資格、社会人向けの大学特別入学
資格(Diplôme d'Accès aux Etudes Universitaires)の取得にむけた教育訓練を行ってい
る(CUEEP 2010)。
5.4 指導員・教員養成をめぐる問題・課題
5.4.1.指導員の身分保障
訓練指導員・教員の養成や条件改善に関する課題は多い。まず指摘すべきは、訓練
指導員の労働条件の改善の問題である。
教育訓練指導員職は臨時雇用の割合が相対的に高い。職場の移動や新たな環境への
迅速な適応を伴うため、職業紹介所(ANPE)では、性格的に問題を抱える求職者に
はこの職への就職を勧めないといわれる(Centre INFFO 2006 b, p.97)。
CEREQの調査(2002)によれば、第3次産業従事者全体のパートタイム労働者は21%
であるのに対して、訓練指導員職では33%になっている。同様に、期限付き契約によ
る従事者の場合、全体6%に対して17%に達する。
教育訓練機関の性格によっても訓練指導員の身分は異なる。公財政による機関の場
合自らが雇用する職員が全体の82%を占めているのに対して、企業からの財政で賄わ
れている訓練機関の場合はその割合は52%にとどまっている。その分、他企業の従業
員等の外部人材への依存が大きい(表5.26)
身分が安定しないために、教育訓練機関間の移動や他業種からの移動が多い。職歴
は全体に短い。教育訓練機関間の勤務期間が1年以内の従業員は訓練指導員全体の2
6%に達する。一方、10年以上勤務している職員は26%にとどまっている。
表5.26
訓練指導員の身分
主に従業員教育実施機関
(企業の財政による)
教育訓練機関雇用の従業員
52
外部人材
・個人業者
・他企業の従業員
48
17
31
%
%
主に従業員教育実施機関
(公財政による)
82
%
18
8
10
%
(資料出所)CEREQ 2004,CEREQ BREF no.213, "Statuts des formateurs et marchés de la formation continue".
訓練指導員の身分が不安定では、提供する教育訓練の質に影響が及ぶ可能性は否定
208
できない。彼らの身分を改善することは、職業資格の取得をめざし実際にそれを可能
にするような質の高い教育訓練を求める人々のニーズに適格に応えるうえで不可欠
である。
公的財政により運営されている教育訓練機関の訓練員の身分は相対的に安定して
いるとはいえ、最近では変化も見られる。現在政府はAFPA(全国成人教育・訓練協
会)の改革を進めている。そこでは、従来から公財政で賄われていた運営を見直し、
実績ベースによる補助金交付方式に切り替えることが企図されているようである。こ
の状況の中で、従来のような教育訓練を提供できるかどうか疑問の余地なしとしない。
5.4.2 社会体験の認定による職業資格取得を可能にする制度の問題
フランスでは、職業資格取得にはそれぞれに対応する教育訓練制度が整備されてい
ることが一大特徴である。近年、この点に関して大き変更が加えられている。「社会
経験認定制度」(Validation des Acquis de l'Expérience, 以下VAE制度と略)と呼ばれ
る制度である。
VAE制度とは、一定の条件を満たした成人に対して、通常とは異なるルートによる
職業資格取得を認めるものである。すなわち、教育機関外での多様な活動を通じて、
成人が形成してきた諸能力を評価し、それが職業資格付与に値すると判断された場合
には、教育訓練を受けていなくても付与する制度である。
歴代の政府は、職業資格の重要性に鑑み、これをできる限り多くの人々に取得させ
ることを目標としてきた。後期中等教育2年修了程度の資格以上のなんらかの職業資
格を同一年齢層の全員に取得させるという方針が、1980年代半ばに打ち出された。そ
の後も同様の目標を法令で規定するなど、政府は職業資格取得の促進を重視してきた。
にもかかわらず、基礎的な職業資格でさえ取得していない成人は依然多い。とくに
年齢の高い層でそれが顕著である(2008年現在、いかなる資格も保持しない者の全年
齢人口中の割合は平均28.0%、50~64歳では33.2%である。後期中等教育2年修了程
度の資格以下の資格保持者との合計でみると、それぞれ35.1%、42.5%に達する(INSE
E 2009)。
資格を取得していないか、取得していてもその水準の低い、したがって市場価値の
乏しい資格しかもたない成人に対して資格の取得を促すために、政府は継続教育制度
を整備したり各種の職業教育訓練プログラムを実施してきた。さらに1990年代からは
新たな方策を打ち出した。その一つが、職業経験で獲得した知識・技能を評価するこ
とにより資格を取得させる制度である。VAE制度はこの政策の延長線上にある。職業
資格取得の正規ルートである学校教育や資格試験を経ることは、成人労働者にとって
決して容易なことではない。時間的にも経済的にも、教育を受けたり試験準備をする
ことは難しい。非就業者であっても、学校を離れてから時間の経過している場合には、
教育を再開することには困難を伴う。VAE制度は、学校教育や資格試験を経由しない
で、職業生活や社会生活を通じて日常的に形成する知識・技能を評価することにより、
彼らにも職業資格の道を開こうとするものである。この方法であれば、就業・非就業
を問わず成人にとってはるかに資格取得は容易であり、資格取得の意欲ももちやすい。
VAE制度は政府にとって資格取得促進という目的に適った制度であり、成人にとって
も好都合な制度となる可能性は高い。
しかし、この制度は、教育訓練制度の整備を進める観点からは問題をはらんでいる。
209
教育訓練を受けなくても職業資格が取得できるとすれば、社会人がわざわざ時間と経
費をかけてまで教育訓練を受けることはなくなる。教育訓練機関の経営に大きな支障
をきたす可能性がある。もちろん、そこに働く訓練指導員の職務も同様の問題を抱え
ることになる。
現在は、VAE制度で資格を取得する者はまだ限られているが、今後利用者が増加す
ることも予想され、その動向は看過できない。
5.4.3 職業リセ教員の労働条件の改善
職業リセ教員の労働条件の改善も課題であろう。かつては職業リセ教員は、養成教
育システムや応募条件等が中等教員とは異なり、労働条件も全般に恵まれていなかっ
た。1990年代前半の改革により、訓練システムが統一されたことに伴い、労働条件も
改善され、ほぼ両者は同じになった。しかし、普通教育科目担当の職業リセ教員の場
合には、2種類担当が課せられている。この点は、他の中等教員との比べて不利であ
る。職業リセには学業不振等の学力問題を抱える生徒が少なくないため、授業を始め
生徒の指導にはリセ以上の困難がある。その点を考慮すれば、少なくとも担当科目数
を両者で同じにすることが必要であろう。
5.5 まとめと日本への示唆
5.5.1 まとめ
本稿では、フランスにおける職業教育訓練(初期・継続)制度、およびこれを担当
する指導員・教員の養成教育・継続教育の制度と実態を明らかにしてきた。これまで
の記述内容を通じて明らかになったことをまとめると、以下のとおりである。
(1) 職業教育訓練は、基本的に後期中等教育段階から開始される。後期中等教育段階
では職業教育を受ける生徒は全体の6割程度と、普通教育よりも多い。この段階の職
業教育を重視する政府の方針を反映させたものと考えることができる。
(2)政府の職業教育重視の方針の背景には、青年の失業問題がある。フランスは若年
層の失業率が他のOECD諸国の中でも高い水準にあることから、失業対策に取り組ん
できた。職業資格の有無が就職機会や就職後の労働条件に大きく影響することから、
後期中等教育修了レベルのなんらかの資格を同一年齢層の全員に取得させるとの目
標を1980年代半ばに掲げ、その実現に努めてきており、それは現在も変わっていない。
後期中等教育修了レベルの資格やそれ以下のなんらかの資格を取得せずに学校を離
れる者は1980年代半ばには同一年齢層の15%であったが、1998年9.3%、2005年7.6%、
2007年7.7%と減少している(MEN et MESR 2009, p.257)。そのほかにも、EU統合
により域内の労働力の移動が促進され、各国間の経済競争を有利に進める必要から、
国民の教育水準・資格水準の向上を図る必要性が高まっていることも、職業教育重視
の背景として指摘できる。
(3)職業教育コースは普通教育コースと比較して、以前から不人気であった。その理
由の一つは高度な職業資格の取得につながる高等教育への進学機会が制限されるこ
とにある。政府は、この改善に努めており、職業教育コースからの高等教育進学を可
能にする方策を講じている。
(4)見習訓練制度も整備されている。教育機関による教育と企業での実地訓練を組み
210
あわせた訓練方式により職業資格をめざす制度である。かつては、学校職業教育を受
けられない青年向けのコースとしての位置づけであったが、多様な職業資格の取得を
認めるという政府の政策の影響で、近年では高等教育機関の中にもこのコースを設置
する機関もあり、イメージは大きく変わっている。職業資格の取得率をみると、学校
職業教育との格差は縮小されている。訓練を担当する指導員を養成する教育訓練や、
在職者に対する継続教育訓練も、国民教育省の教育機関を中心に整備されている。
(5)継続教育・訓練制度も整備されている。一定人数以上の従業員を雇用する企業に
は従業員の継続教育・訓練を保障するための財源として、各種の財政負担が課せられ
ている。そのことが、企業が職務命令として従業員に受講させる教育訓練を促すだけ
でなく、従業員の個人的意志に基づく教育訓練の機会を提供するうえでの重要な条件
となっている。
(6)普通教育コースと比較して、職業教育コースにはさまざまな点で困難を抱える生
徒が多い。彼らに勉学意欲をもたせ職業資格取得にまで導くには、高度な専門性を備
えた教員が多数必要になる。職業リセや技術教育課程で教員として職務に従事するた
めには、教員資格を取得しなければならない(他の学校種・教科目担当の教員も、こ
の点では同様)。これらの資格を取得するためには、大学教育3年修了後に選抜を経
て進む大学付設教員教育センターという教員養成教育の専門機関で2年程度の教育
訓練が必要とされている。つまり、正教員の資格を取得するためには、高等教育5年
間の教育を要する。しかも、教員養成教育の1年は教員資格取得試験の準備教育であ
るが、もう1年は資格試験に合格したうえで試補教員としての教育訓練であり、さら
にその終了後に再度試験が行われる。正教員資格を取得し、正式任官するまでには、
幾重にも選抜が課せられている。つまり、この過程において教員としての資質が審査
され、資質が一定水準以上に保たれる仕組みになっている。
(7)同じ初期教育・訓練でも、見習訓練制度の指導員等の資格や養成教育は、必ずし
も整備されているとは言い難い。見習訓練生養成センターの指導員の資格は、職業リ
セ等の教員資格と比較すると取得に要する修業年限が短い(資格水準が低い)。企業
で訓練生の指導にあたる指導者や実習指導員には資格は必要とされていない。とはい
え、関係の団体が称号を創設したり、在職者向けの教育訓練を実施している。これに
より、指導員の能力・資質の向上を図ることがめざされている。
(8)継続教育・訓練の指導員の場合には、学校による初期教育訓練ほどの厳密な養成
制度や資格制度が設定されているわけではない。修士レベルの資格も一部にあるとは
いえ、多くは高等教育3年の学士学位レベルの資格である。しかも、それは継続教育
訓練指導員の専門資格、つまり指導員として職務に従事するうえで取得が義務づけら
れた資格として設定されているわけではない。それらは関連専攻領域のごく一般的な
学士・修士の学位にすぎない。訓練指導員の職の実態・待遇等はきわめて多様である。
所属する機関によって名称や職務内容は大きく異なっていることも、固有の資格を創
設したり取得準備教育訓練を整備したりすることが困難にしているとみることがで
きる。
(9)こうした教育訓練指導員の資格・養成教育の差異は、国民教育省と労働省という
管轄省庁の差異ということでもある。同じ初期教育訓練でも、主として労働省が管轄
する見習訓練制度の指導員は、未整備の面も少なくない。公立学校教員(職業リセだ
けでなく、保育学校=幼稚園からリセまで)の教員は、国民教育省に所属する国家公
211
務員であり、同省の予算規模が大きいことなどが、同省関係の教員・指導員の資格制
度や初期・継続教育・訓練制度の整備を可能にしている背景にある。
(10)近年、教育訓練指導員の初期教育の水準は全般に上昇している。初期教育は、多
くの場合大学で行われている。修業年限としては3年程度が多い。にもかかわらず、
その待遇は必ずしも良好とは言いがたい。教育機関の正式職員として雇用される者ば
かりでなく、フリーで一時的雇用として従事する者も多い。正式職員として採用され
る場合でも、期限付きの契約による雇用であることが多い。労働条件は、公立・半公
立機関と、私立機関で少なからぬ格差が生じている。もっとも条件が恵まれているの
は国民教育省であり、大学付設教員教育センターという初期教育・継続教育機関を国
民教育省はもち、対象者に教育訓練の受講や能力の形成・向上の機会を提供している。
(11)継続教育・訓練の領域では、国民教育省や労働省関係の公的・半公的機関の担う
役割は相対的に小さい。受講者数・売上高の面の多くは民間企業(営利目的・非営利
目的)が担っている。受講者の獲得に関しては、教育訓練機関間でいわば競争状態が
生じている。それを反映するかのように、訓練指導員の初期教育・継続教育では受講
者のニーズ動向の把握・対応の教育なども行われている。
(12)教員・訓練指導員の一部については職務能力基準が設定されている。訓練指導員
の提供する教育訓練の質を保ち、訓練指導員職の社会的信用を担保することが目的と
みられるが、訓練指導員養成のための初期教育の内容を決定したり、適格者の選抜に
も試用されている(国民教育省の継続教育訓練指導員)。
5.5.2 日本への示唆
このフランスの事例を通じて得られる日本への示唆は以下のようなものと考える。
(1)職業教育訓練整備に関する行政の責任
フランスでは、後期中等教育教育段階で、同一年齢層の約6割が職業教育訓練を受
けている。これは学校制度や独特の進路指導制度も大きく影響しているが、同様に職
業教育を重視しその整備に努めてきた行政の取組も看過できない。日本では、高校の
専門学科に学ぶ生徒は全体の2割程度にすぎない。普通教育を偏重し職業教育を軽視
してきた結果である。もちろん、その背景には、大学進学準備を重視しそれに有利な
普通高校を選択する国民の意向・要求があることは否定できない。しかし、施設・設
備面で経費のかかる職業教育の整備を怠ってきた行政の責任も指摘されるべきであ
る。
(2)職業教育訓練を担当する教員・指導員の初期・継続教育訓練制度の整備
生徒・学生、社会人訓練生の教育訓練の成果を実りあるものにするうえで、教員・
指導員の役割は大きい。したがって彼らの提供する教育訓練やそれに付随する各種の
指導・サービスの質を高めるためには、彼らの教育・訓練も充実させる必要がある。
(3)教員・指導員養成のための公立機関の役割の検討
質の高い教育訓練指導員の養成やそれを通じた受講者のニーズに対応した教育訓
練の提供を行うためには、私立教育訓練機関では困難な面も少なくない。公的教育訓
練機関ですべてを提供することが難しいとすれば、公的機関と私立機関との分担を明
確にすることが必要になる。公的機関でしか担えないもの、ふさわしいものが何であ
るのかの見極めが必要になる。公財政の逼迫の中で、公的機関を活用するためには、
その合理的な根拠を明確にすることも必要になる。公的機関が優位にあるようにみえ
212
るフランスでも、継続教育訓練に関しては厳しい状況にあり、これらの点が厳しく問
われている。教育訓練指導員の待遇が相対的に劣る私立機関でも、提供する教育訓練
について品質保証をする活動は行われており、公的機関のそれと遜色がないというこ
とであれば、公的機関を存続させる根拠は乏しくなる。
(4)職業教育訓練指導員の職業資格の創設、その正統な位置づけ。
フランスでは、教員・指導員の修業年限・レベルや資格水準を、初期教育訓練と継
続教育訓練で比較すると、後者は相対的に低い位置づけになっている。そのことは、
初期教育訓練と比較して、継続教育訓練が一段低く位置づけられていること、その教
員・指導員の職も同様であることを示している。継続教育訓練の指導員の立場が全般
に弱いことにも関係している。継続教育訓練の指導員の資格水準および資格取得のた
めの準備教育の修業年限等をいかに設定するのが適切なのかの検討が不可欠である。
(5)教育訓練制度の整備・受講機会増加に必要な財源の確保
継続教育訓練を受ける人数を増やすだけでなく、多様な人々に開放すること、多様
な内容の教育訓練を多様な機会に提供することを可能にするためには、言うまでもな
く財源が必要である。その財源として、企業(少なくとも一定規模以上の企業)に対
して財政負担を求めることは、現実的な政策的な選択肢として検討の対象になり得る。
【注】
高等教育の管轄省庁は、政権等によってしばしば変更されており、国民教育省(高
等教育局)であったり高等教育・研究省であったりする。2010年3月現在、高等教育・
研究省が管轄している。しかし、本稿では煩雑さを避けるために、国民教育省で統一
した。
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