電気モータの制御性を生かした電気飛行機の プロペラ推力のモデル化と

IIC–13–094, MEC–13–094
電気モータの制御性を生かした電気飛行機の
プロペラ推力のモデル化と制御の基礎検討
高橋健一郎∗ ,藤本博志,堀洋一(東京大学),小林宙,西沢啓(宇宙航空研究開発機構)
Modelling of Propeller Thrust for Electric Airplanes and Control using Advantage of Electric Motor
Kenichiro Takahashi∗ , Hiroshi Fujimoto, Yoichi Hori (The University of Tokyo)
Hiroshi Kobayashi, Akira Nishizawa (Japan Aerospace Exploration Agency)
Abstract
Electrical airplanes (EA) have become practical in the recent years. Considering the increase of demand on smaller
aircraft and the attention to environmental issues, the demand on small EAs is expected to grow in the coming
decade. However, the accident rate of small aircrafts is higher than that of larger aircrafts, so ensuring higher safety
of EA is very urgent. In this paper, the new thrust control method based on new EA propeller plant is proposed.
This method can be applied to new advanced flight control systems of EA, which can be expected to improve the
safety of EA. The effectiveness of the proposed method is verified through simulations and experiments.
キーワード:電気飛行機, 電動化航空機, 推力, プロペラ
(Electric Airplane, Electrical Aircraft, Thrust, Propeller )
1.
はじめに
〈1・1〉 研究背景
近年,特に海外においてビジネス用
航空機などの小型機が急激に増加している (1) (2) 。しかし,
ビジネス用航空機は 27 トン以上の大型商用ジェット機に比
べ 10 倍程度死亡事故率が高く (2) (3) ,安全性の向上が求め
られる。また,小型航空機に限らず気象に起因する事故は
非常に多く (4) ,対気象安全性を高めることは急務である。
現在,環境問題やエネルギー資源の問題から,電気飛行
機が注目されている (5) (6) 。さらに,環境面に対する優位性
だけでなく,電動モーターには以下に示す特長がある。
• トルク応答が内燃機関に比べ,2 桁早い。
• モータ電流から,出力トルクが正確に算出できる。
• 分散配置・独立制御が可能であるため,制御の自由
度と機体設計の自由度が高い。
• 運動エネルギーを電気エネルギーに回生できる。
特に電気自動車においてはこれらの特長を生かした研究が
数多く行われている (7) (8) 。
以前より航空機の制御と自動車の制御は相互に技術交換
を行なわれており (9) ,航空機の電動化が進むことにより電
気自動車における高度な運動制御の航空機への適応が期待
できる (10) 。
〈1・2〉 研究目的
電気飛行機を含め,現在の航空機
は安定性や制御性を少しでも高めるような機体設計がされ
ている。例として,主翼の翼平面形を後退翼や上反翼にす
る,垂直尾翼や水平尾翼を大きく設計する等がある。しか
し,これらの構造は抗力の増加や,強度を確保するための
重量増加などにより燃費の悪化につながる。また,以前よ
りエンジン機の推力制御を用いた運動制御は研究されてき
たが (11) (12) ,出力トルクの制御が困難であり,制御系が複
雑であるため応答速度も遅い。また,主・副操作舵面と併
せても,計 6 自由度の制御には制限がある。
一方,電気飛行機では動力源がモータであるため,上述
のモータの特徴から推力制御が容易となる。推力制御の実
現により,さらに正確な速度制御が可能になり,電気飛行
機の安全性向上が期待される。さらにモータは分散配置・
独立制御が可能であるため,従来の航空機にはなかった制
御手法の実現が考えられる。そこで本稿ではまず基礎検討
として推力制御系を提案する。また,提案した推力制御系
の有効性をシミュレーション及び実験により検証する。
2. 電気プロペラ単発飛行機のモデル化
本章では電気プロペラ単発機のモデル化を行う。まず,
プロペラの推力,反トルクを決定するプロペラの力学につ
いて説明し,次にプロペラや機体の運動方程式を導出する。
最後に,それらの元にプロペラのモデルとしてブロック図
にまとめる。
〈2・1〉 推力・プロペラ反トルクを決定するプロペラの
力学
プロペラの中心(ハブ)から距離 r の点でのプロ
ペラの断面の運動について考える。飛行中はプロペラが回
転しているため,プロペラの各断面はプロペラの回転方向
と飛行機の前進方向の運動を合成した運動を行う (13) 。した
がって,プロペラの各断面は螺旋を描くように進む。図 1
にプロペラの運動とプロペラに作用する力を示す。プロペ
ラの回転数を n,飛行機の対気速度ベクトルを V とする。
対気速度とは空気と機体の相対速度である。本稿では対気
速度はプロペラの軸と同じ方向であるとする。プロペラの
断面の速度は式 (1) のように回転速度ベクトル 2πrn (n は
大きさ n で回転方向のベクトル) と V を合成したプロペ
1/6
図 2 プロペラモデル
Fig. 2. Propeller model
図 1 プロペラの速度とプロペラに作用する力 (13)
Fig. 1. Physics of propeller cross section (13)
な関数である。
ラ断面対気速度ベクトル Vr となる。したがって,気流は
−Vr の方向からプロペラ断面に侵入する。
Vr = 2πrn + V · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (1)
この時,プロペラには空気抵抗 R が作用する。R は式 (2)
の様に機体の進行方向の推力ベクトル F とモータに作用す
るプロペラ反トルク Q に分解される。
R = F + Q· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (2)
プロペラ断面は翼形になっているため,主翼などに用いら
れる一般的な翼と同様,受ける空気抵抗 R は翼に気流が侵
入する角度である迎角 α に依存することが知られている。
一般的な翼においては,翼にかかる力のうち,対気速度に平
行な成分の力は α に対して下に凸な増加関数であり,直角
な成分の力は α に対しピークを持つような関数となる (14) 。
合成ベクトル Vr とプロペラ回転面のなす角 φ を前進角
と呼ぶ。プロペラの断面とプロペラ回転面の角度を β とす
ると,迎角 α は式 (3) で表される。
α = β − φ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (3)
{
}
1
V
= β − arctan
·
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · (4)
2πr n
すなわち,式 (4) より迎角 α は V /n の関数である。ここ
で,V /n をプロペラ直径 Dp により無次元化した進行率 J
を式 (5) のように定義すると,F と Q は J の関数になる。
J=
V
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (5)
nDp
以上より,プロペラ反トルク Q, 推力 F を,無次元係数
であるトルク係数 CQ ,推力係数 CF を用いて式 (6),式 (7)
の用に表すと,係数 CQ と CF は進行率 J に関する非線形
Q = CQ ρn2 Dp5 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (6)
F = CF ρn2 Dp4 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (7)
ρ は空気密度である。
〈2・2〉 プロペラや機体の運動に関する運動方程式
プ
ロペラの回転運動方程式,機体の運動方程式は式 (8),(9)
で表される。
Jω ω̇ = T − Q,
ω = 2πn · · · · · · · · · · · · · · · · (8)
M V̇E = T − D · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (9)
Jω はプロペライナーシャ,ω はプロペラ角速度,M は機
体質量,VE は地面から見た航空機の速度である対地速度,
D は抗力である。
抗力 D は抗力係数 CD 用いて式 (10) のように表せる (14) 。
CD =
D
1
ρV 2 S
2
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (10)
S は主翼面積である。
また,対気速度,対地速度,追い風速度の関係は式 (11)
のようになる。
V = VE − U · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (11)
V は対気速度,U は追い風の速度である。
式 (8)–(11) より,プロペラ単発機の運動は図 2 のモデル
で再現できる。
3. 電気プロペラ単発機の推力制御系設計
本章ではインナーループにプロペラ回転数制御系を持つ,
推力制御系を提案する。また,
〈3・4〉
節では提案法の比較対
象としての従来法について説明する。
2/6
Fig. 3.
図 3 回転数制御系
Revolution speed controller
〈3・1〉 プロペラ反トルクオブザーバの設計
本節で
はプロペラ反トルクオブザーバを提案する。式 (8) より,プ
ロペラ反トルク Q は式 (12) で表せる。
Q = T − 2πJω ṅ· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (12)
これにより,モータトルク T と回転数 n が検出可能であれ
ば図 3 に示すようにプロペラ反トルクオブザーバを構成す
ることで,プロペラ反トルク Q̂ が推定可能である。なお,
本稿ではモータの電流制御系が十分速いと仮定し,モータ
トルク指令値 T ∗ を推定に利用する。プロペラ反トルクの
推定値を予めモータトルク指令値に加えることで,プラン
トは CTO のローパスフィルタのカットオフ周波数 ωC 以
下の帯域で式 (13) の様にノミナル化される。
1
n=
T · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (13)
2πJωn s
〈3・2〉 回転数制御系の設計
本節では提案する回転数
制御系について説明する。回転数制御系を図 3 に示す。回
転数制御は比例制御器で行う。比例制御器のゲイン C1 は極
が −ω1 となるよう極配置法によって決定する。このときプ
ラントは式 (13) で示したノミナルプラント P1n := 1/2πJωn
とみなす。回転数指令 n∗ から n までの伝達関数は式 (14)
の様になり,これを Gnn∗ とおく。
n
C1 P1n
ω1
=
=
= Gnn∗ · · · · · · · · · · · (14)
n∗
s + C1 P1n
s + ω1
〈3・3〉 推力制御系の設計
本節では推力制御系につ
いて説明する。推力制御は図 4 に示す 2 自由度制御で行う。
式 (7) より,CF を進行率 J の 2 次関数で近似することが
できる。すると,推力 F は係数 aCF , bCF , cCF を用いて式
(15) の様になる。
(
)
F = aCF J 2 + bCF J + cCF ρn2 Dp4
= cCF ρDp4 n2 + bCF ρDp3 V n + aCF ρDp2 V 2 · · · (15)
ここで,式 (15) の回転数 n と推力 F の関係を関数 f を用
いて次式で表す。
F = f (n) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (16)
ただし,実際は推力 F は対気速度 V の関数でもあるので,
f は V によって変化する非線形な関数である。
図 4 推力制御系
Fig. 4. Thrust controller
フィードフォワード制御器 C3 について説明する。推力
F は回転数 n∗ に対して式 (17) のような関数によって表す。
F = f (Gnn∗ · n∗ )· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (17)
すなわち,n∗ は式 (14) より式 (18) となる。
−1
(F )
n∗ = G−1
nn∗ · f
s + ω1 −1
=
f (F ) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (18)
ω1
式 (18) は非プロパーなので式 (19) に表される規範モデル
G0 (s) を用いてフィードフォワード制御器 C2 とする。
G0 (s) :=
ωg
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (19)
s + ωg
n∗ = f −1 (F ) · G−1
nn∗ · G0 (s) · · · · · · · · · · · · · · · (20)
ここで,ωg は規範モデルの極である。f −1 (F ) は非線形であ
り V によって変化するため,フィードフォワード制御器 C2
は式 (20) に示すような非線形な可変コントローラである。
次にフィードバック制御器 C3 について説明する。フィー
ドバック制御器の指令値には推力指令値 F ∗ に対して規範モ
デル G0 (s) をかけた FF∗ B := G0 (s)F ∗ を用いる。テイラー
展開により,f (n) を動作点 n0 周りでテイラー展開をし,1
次までの項で近似する。その時の 1 次の係数を aF (n0 , V ),1
次の係数を bF (n0 , V ) とし,式 (21) を得る。
F ≈ aF n + bF · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (21)
ここでは回転数制御系の極は十分速い,すなわち n = n∗ で
あるものとして考える。フィードバック制御器は指令値と
出力の差分として考えるため,bF を定数とみなせば式 (22)
をプラント P2 として得る。
P2 :=
∆F
∆F
=
= aF · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (22)
∆n∗
∆n
推力制御は積分制御器を用い,式 (22) のプラントに対して
極が −ω2 となるよう極配置法によりゲインを決定する。た
だし,aF は n0 ,V の関数であり,逐次 n0 に n を代入した
可変コントローラとする。
〈3・4〉 プロペラ単発機の推力制御法(従来法)
本節
では,提案法の比較対象としての従来法について説明する。
従来の内燃機関を動力源とするプロペラ小型飛行機は,
プロペラ回転数を指令値を与えることはできるが,推力指
3/6
Propeller Diameter Dp
178 mm
Propeller Inertia Jω
1.06×10−5 kg·m
Air Density ρ
1.180 kg/m3
0.2
0.015
0.15
F
0.02
0.01
C
CQ
表 1 プロペラパラメータ一覧
Table 1. Parameters of propeller
0.005
0
0
0.1
0.05
0.5
J
(a) J − CQ Curve
1
0
0
0.5
J
1
(b) J − CF Curve
図 5 プロペラの特性
Fig. 5. Propeller characteristics
令を与えることはできない。そこで,提案法の比較対象の
ために内燃機関を用いた従来の推力制御系を以下のように
設定する。
パイロットが推力指令値及び対気速度から回転数指令値
を遅れなしでフィードフォワード的に生成できるものとす
る。また,回転数の応答速度はレシプロエンジンにおいて
通常時定数 2–3 秒程度である。これは,空燃比の整定時間
により安全上確保しなければならない時間である。
本稿ではシミュレーション及び実験において回転数制御
系は
〈3・2〉節で説明した回転数制御系と同じ構造のものに対
し,極を変更してレシプロエンジンの回転数制御系を模擬
した。この時の極を ω0 とする。回転数指令値は関数 f −1
により生成した。
4.
シミュレーションによる比較検討
3 章で提案した推力制御系の有効性を 2 つのシミュレー
ションにより確認した。シミュレーションに用いるプラン
トは,プロペラの力学のみを考慮に入れ,機体のダイナミ
クスを考えずに任意の対気速度中での推力制御を行った。
回転数制御系の極を ω0 = 0.4 rad/s, ω1 = 100 rad/s, 推
力制御系の極を ω2 = 50 rad/s, 規範モデルの極を ωg = 50
rad/s となるようゲインを設定した。
シミュレーションモデルは APC 7x6 SF 型の模型プロペ
ラのパラメータを用いた。各パラメータを表 1 に示す。こ
のプロペラの J–CQ 曲線を図 5(a),J–CF 曲線を図 5(b) に
示す。
〈4・1〉 ステップ推力指令追従性能
ステップ推力指
令を与えた場合のシミュレーションを行った。まず,対気
速度を固定した状態でステップ状の推力指令を与えた。
対気速度 V は V = 7 m/s とし,プロペラ回転数 n = 85.4
rps ,推力 F = 0.60 N の定常状態からシミュレーションを
開始する。t = 1.0 s で 0.60 N から 1.20 N へののステップ
状の推力指令を与えた。
シミュレーション結果を図 6 に示す。従来法に比べ,提
案法では推力 F の応答が速く推力指令値 F ∗ に追従してい
ることが分かる。同様に回転数に関しても速い応答と追従
性が見られる。わずかに推力のオーバーシュートが見られ
るが,これはプロペラ反トルク Q が n や V の関数で,反
トルクオブザーバーが高周波域では反トルクを補償しきれ
ないためと考えられる。
〈4・2〉 追い風外乱抑制性能
次に,推力指令を一定値
に固定した状態で追い風を想定して対気速度をステップ状
に変化させた。
推力指令 F ∗ は F = 1.0 N とし,プロペラ回転数 n = 99.6
rps,対気速度 V = 7.00 m/s の定常状態からシミュレーショ
ンを開始する。t = 1.0 s で対気速度を 7.00 m/s から 6.00
m/s へののステップ状の変化を与えた。
シミュレーション結果を図 7 に示す。従来法,提案法と
も対気速度が落ちると一瞬推力が上がる。従来法では対気
速度の変化により回転数指令値が落ち込み,回転数がゆっ
くりと追従している。それに伴い推力も指令値に戻る。一
方提案法ではより積極的に回転数を落とすことで素早く推
力を落とし,より早く指令値に復帰することがわかる。
5. 実験による比較検討
3 章で提案した推力制御系の有効性を2つの実験により
検証した。
〈5・1〉 実 験 機
本節では本研究のために制作した
実験機の説明を行う。実験機を図 8 に示す。実験機はリニ
アガイド,力センサ,モータマウント,モータ,エンコー
ダ,プロペラ,風速計,風洞からなる。モータの軸にプロ
ペラが接続されており,プロペラで発生した推力は力セン
サによって計測される。プロペラは風洞の開口部から 5cm
離れた位置に,プロペラの軸と風が平行になるよう設置す
る。風速計は風洞の開口部に固定されている。風洞の開口
部の大きさは 20 mm × 20 mm である。
風速計はプロペラの前に設置されるため,風洞の出力が
一定でもプロペラを回転させると風速計の表示が大きくな
る。実際の飛行機でもプロペラの前方の風速は機体の対気
速度より大きい。本実験機ではプロペラに対して風洞が十
分大きくないため,プロペラの出力がゼロの状態での風速
の値を対気速度とした。
回転数の取得には,モータのインクリメンタルエンコー
ダの角度情報を擬似微分し,さらに 3 次のローパスフィル
タを用いてエンコーダの量子化誤差によるリップルを取り
除いた値を利用した。
なお,各コントローラの極はシミュレーションと同様の
値とした。各パラメータを表 1 に示す。
〈5・2〉 ステップ推力指令実験
まず,対気速度を固定
した状態でステップ状の推力指令を与えた。対気速度 V は
V = 7 m/s とし,推力 F = 0.60 N の定常状態から実験を
開始する。t = 1.0 s で 0.60 N から 1.20 N へののステップ
状の推力指令を与えた。
実験結果を図 9 に示す。図 9(a) を参照すると,従来法で
はシミュレーションでは想定していなかったモデル化誤差
4/6
110
1.2
0.05
105
0.045
100
0.04
T*
Q
1.1
0.9
0.8
Torque [Nm]
n [rps]
F [N]
1
95
0.035
0.03
90
0.7
F*
F(Proposed)
F(Conventional)
0.6
0.5
1
1.5
Time [s]
2
2.5
3
0.025
n*(Proposed)
n(Proposed)
n*(Conventional)
n(Conventional)
85
80
0.5
1
(a) Propeller thrustF
1.5
Time [s]
2
2.5
0.02
3
0.5
1
1.5
Time [s]
2
2.5
3
(c) Torque T ∗ , Counter torque Q
(b) Revolution speed n
図 6 ステップ推力指令を与えた時のシミュレーション結果
Fig. 6. Simulation results for step thrust command
7.5
1.15
99
6
0.025
0.024
Torque [Nm]
n [rps]
1.05
97
96
1
1.5
Time [s]
2
2.5
3
0.95
0.5
(a) Airspeed V
1
1.5
Time [s]
2
2.5
(b) Thrust F
3
0.022
0.02
94
5.5
0.5
0.023
0.021
95
1
T*
Q
0.026
98
1.1
6.5
n*(Proposed)
n(Proposed)
n*(Conventional)
n(Conventional)
100
F [N]
V [m/s]
7
101
F*
F(Proposed)
F(Conventional)
0.019
93
0.5
1
1.5
Time [s]
2
2.5
(c) Revolution speed n
3
0.018
0.5
1
1.5
Time [s]
2
2.5
3
(d) Torque T ∗ , Counter torque
Q
図 7 ステップ対気速度変化を与えた時のシミュレーション結果
Fig. 7. Simulation results for step airspeed change
図8
実験機
による定常誤差があり,応答も遅いことがわかる。一方,
提案法では推力の振動的な変化があるものの,推力指令値
F ∗ に対し,推力 F が追従していることが分かる。
この振動の原因としてプロペラの軸ズレなどによる実験
機全体の振動が力センサに伝わっていることが考えられる。
また,エンコーダの角度情報の量子化誤差,標本化誤差に
よって図 9(b) のように回転数に僅かなノイズが乗ること
で,その微分値を利用した反トルク推定値が図 9(c) のよう
に振動してしまい,トルク指令値の振動を起こしているこ
とが分かる。これにより推力が振動していることも考えら
れる。
〈5・3〉 追い風外乱実験
次に,推力指令を固定した状
態で追い風を想定して対気速度を変化させた。
推力指令 F ∗ は F = 1.0 N とし,対気速度 V = 7.00 m/s
の定常状態から実験を開始する。およそ t = 1.0 s で風洞の
入り口を塞ぐことで対気速度を変化させた。対気速度は最
終的に V = 0.36m/s まで変化した。
実際の対気速度は計測不可能であるため,回転数制御器
は V に対して不変なコントローラとした。
実験結果を図 9 に示す。図 10(b) を参照すると,従来法
では対気速度の変化により推力が上昇し,指令値通りに追
従していないことが分かる。一方提案法では,推力の上昇
は一瞬で,すぐに指令値通りの推力に落ちることが分かる。
推力指令 F ∗ と推力 F の差を検出すると,図 10(c) に示さ
れるようにすぐに回転数指令が落ち,それにともないトル
ク指令も落ちている。結果的にトルク,回転数が落ち,推
力が指令値通りに戻っている。
6. ま と め
本稿では電気飛行機の運動制御性の向上のため,電気プ
ロペラ単発機の推力制御系を提案した。まず最初に,電気
プロペラ単発飛行機のモデル化を行った。次に,提案した
モデルを元に回転数制御をインナーループに持ったプロペ
ラ推力制御を提案した。シミュレーション及び実験を行い,
推力指令値に対して早い応答が得られ外乱に対してロバス
トであり,提案した制御系が有効であることを確認した。
5/6
1.4
110
1.3
0.05
100
n [rps]
1
0.9
0.8
0.7
0.045
Torque [Nm]
1.1
F [N]
T*
Q
0.055
105
1.2
95
90
85
0.6
F*
F(Proposed)
F(Conventional)
0.5
0.4
0.5
1
1.5
Time [s]
2
2.5
3
75
0.5
1
(a) Thrust F
1.5
Time [s]
2
2.5
0.03
0.025
n*(Proposed)
n(Proposed)
n*(Conventional)
n(Conventional)
80
0.04
0.035
0.02
0.015
3
0.01
0.5
1
1.5
Time [s]
2
2.5
3
(c) Torque T ,Counter Torque Q̂
(b) Revolution Speed n
図 9 ステップ推力指令を与えた時の実験結果
Fig. 9. Experiment Results for Step Force Control
8
1.8
1.6
0.026
0.024
95
Torque [Nm]
n [rps]
1.3
90
1.2
85
1.1
3
1
2
2
Time [s]
3
4
(a) Measured Airspeed
5
0.8
0.5
0.022
0.02
0.018
0.016
0.014
80
0.9
1
T*
Q
0.028
1.4
4
1
0
0.03
n*(Proposed)
n(Proposed)
n*(Conventional)
n(Conventional)
100
1.5
5
F [N]
V [m/s]
6
105
F*
F(Proposed)
F(Conventional)
1.7
7
0.012
1
1.5
Time [s]
2
2.5
(b) Thrust F
3
75
0.5
1
1.5
Time [s]
2
2.5
(c) Revolution Speed n
3
0.01
0.5
1
1.5
Time [s]
2
2.5
3
(d) Torque T , Counter Torque
Q
図 10 対気速度変化を与えた時の実験結果
Fig. 10. Experiment Results for Airspeed Change
今回は紙面の都合上割愛したが,本稿で提案した推力制
御を用いた追い風による墜落を防ぐ対気速度制御も考案し
たので,今後の発表を予定する。
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