1 通貨と決済、金融の基礎 1. 通貨(貨幣)の機能 ① 交換媒体 ② 価値の

通貨と決済、金融の基礎
1. 通貨(貨幣)の機能
① 交換媒体
② 価値の尺度
③ 価値の保存
図表 1
貨幣を媒介とした取引と「欲望の二重一致」の必要性の克服
(a)物々交換
(b)貨幣取引
A
B
A
B
リンゴ(S)
リンゴ(D)
リンゴ(S)
リンゴ(D)
ミカン(D)
ミカン(S)
ミカン(D)
バナナ(S)
(注)実線の矢印はモノの動きを表す。破線の矢印は
貨幣の動きを表す。
(出所)酒井良清・鹿野嘉昭『金融システム(第 4 版)』
82 ページ。
C
ミカン(S) バナナ(D)
貨幣(通貨)を媒介とすることにより、取引がいちじるしく円滑化する。しかし
① 何をもって貨幣とするのか、誰がそれを決めるのかという問題あり。
② 現金以外の決済手段がないと、広域の取引や複雑な取引は困難。
2. 銀行を通じた決済
銀行が仲立ちをすることにより、現金の移動を伴わない決済や、遠隔地間の取引が
可能になる。具体的には、送金、手形、小切手等による決済がある(内国為替)。
① 銀行口座(の残高)が実質的に通貨の役割を果たす。
② 銀行は決済機能に加え、必然的に取引先の審査や与信機能も負うことになる。
1
図表 2
「交わし」と為替
大 阪
東 京
商品 1
A社
B社
1 億円
商品 2
C社
D社
1 億円
B社
A社
「交わし」
1 億円
1 億円
D社
C社
A社
1 億円
1 億円
B社
銀行
C社
D社
1 億円
1 億円
2
3. 中央銀行の役割
中央銀行が民間銀行間の決済を仲立ちすることにより、決済が効率化する。また、
中央銀行が発券銀行を兼ねることにより、誰が通貨の供給主体たるべきかという問題
が解決される。
図表 3
中央銀行を通じた決済
商品
B社
A社
A 社の預金口座
B 社の預金口座
X 銀行
Y 銀行
X 銀行の預金口座
Y 銀行の預金口座
中央銀行
① 民間銀行に顧客に対する与信機能や審査機能が期待されるのと同様に、中央銀行
は民間銀行に対する与信・審査機能が期待される。中央銀行がこれらの役割を果
たさないと、決済システムや金融システムの安定が維持されないからである。
② 多くの国々において、かつては金・銀等をもとにした鋳造貨幣、それらとの交換
を保証された兌換紙幣が主たる通貨だったが、今日の中央銀行券の大半は不換紙
幣(fiat money、貴金属等との交換を保証されない紙幣)である。現代の経済の決
済手段の中で紙幣や硬貨が果たす役割は必ずしも大きなものでなく、銀行の要求
払預金(普通預金や当座預金)口座、それらから振り出される手形や為替が重要
3
な役割を果たす。不換紙幣はそれ自体の価値がないため、国民にそれを交換や価
値保存の手段として受容させるためには、慎重な管理が必要となる。
③ 中央銀行の通貨発行権と指定通貨の強制通用力は政府によって付与されたもので
ある。したがって法律上その立場がどのように規定されていても、中央銀行は政
府の代理人ないし使用人にすぎず、政府から独立ということはありえない。しか
し政府が通貨価値の維持を最優先して行動するとは限らず、中央銀行との間に潜
在的な利害の対立がある。
④ 決済システムの効率性と安定性の間にはトレードオフの関係がある。たとえば図
表 3 において、各銀行のレベルでさまざまな決済をプール(集約)し、中央銀行
はそれらを相殺した収支尻だけを決済する方が効率的である。しかしそうすると
個々の取引と決済のタイミングがずれるだけでなく、単一の決済の不履行が決済
システム全体に波及する可能性がある。今日ではモノやサービスの売買より金融
資産の売買にまつわる決済が増加しており、この点はきわめて重要である。

マネタリーベース(ベースマネー):中央銀行が供給する通貨。日本の場合、「流
通現金(民間金融機関保有分を含む)+民間金融機関の日銀当座預金残高の合計」

マネーサプライ(マネーストック):(中央銀行を含む)金融部門がその他の部門
に対して供給する通貨。民間金融機関の預金や流動性の高い金融資産をどこまで
通貨とみなすかによっていくつかの定義がある。
図表 4
マネタリーベース
通貨の分類
中央銀行当座預金
現金通貨
M1
M2
民間金融機関預金(普通預金等)
民間金融機関預金(定期預金等)
(注)M1 や M2 などのマネーストックは民間銀行の保有する現金通貨を含まない。
4
4. 国際間の取引と決済
国内で決済(資金の移動)を行うことやその手段を内国為替と言うのに対し、国際
間(異なる通貨の間)で決済を行うことやその手段を外国為替と呼ぶ。後者の例とし
て、外貨の現金、銀行預金、旅行小切手などが挙げられる。
図表 5 では、日本の A 社がアメリカの B 社に商品を販売し、代金を円貨で受け取
るケースを考えている。仮に円貨で契約した支払額が 1 億円、決済日の為替レートが
1 ドル=100 円だとすると、ドル換算した支払額は 100 万ドルである。
図表 4 の中段では、上段の取引を銀行を経由する一連の決済に「交わす」方法を考
えている。B 社はもともと円で支払うことを約束しているが、「金融機関にドルを支
払ってそれを円に換え、その円を取引先に送金するよう依頼する」ことは、実質的に
「ドルを支払って円の送金依頼を行う」ことと等しい。
下段では、中段の「交わし」の具体例として、C 銀行が A 社の口座に 1 億円を入金
し、B 社の取引先銀行である D 銀行が E 銀行にある C 銀行の口座に 100 万ドルを入
金するケースを示している。E 銀行を C 銀行のコルレス銀行と言う。日本の民間銀行
のコルレス銀行は、自社の海外子会社である場合もある。この場合、最終的な決済は
アメリカの中央銀行に当たる連邦準備制度(Federal Reserve System、12 の地域別の連
邦準備銀行から構成される)において行われる。
図表 5 において、C 銀行は B 社から 100 万ドルを受け取って A 社に 1 億円を支払
っているため、為替リスクを負担している。また、この取引の結果、C 銀行ではドル
資産が増えて円資産が減少する。C 銀行が為替リスクや資産構成の変化を望まない場
合、他の金融機関などを相手にドルを売却して円を購入する必要がある。外国為替市
場とは、このような金融機関間(インターバンク市場)あるいは金融機関と個人や事
業会社の間(対顧客市場ないしカスタマー市場)の間で行われる通貨の売買ないしそ
れを行うネットワークの総称である。株式市場などと異なり、特定の取引所が存在す
るわけではない。銀行が顧客の外為取引に応じるためには流動性のあるインターバン
ク市場が機能している必要がある1。
1
詳細は講義資料「外国為替市場と通貨の取引」を参照。
5
図表 5
「交わし」と外国為替
東 京
ニューヨーク
商品
A社
B社
1 億円(=100 万ドル)
B社
A社
「交わし」
100 万ドル
1 億円
D 銀行
C 銀行
A社
1 億円
C 銀行
E 銀行
D 銀行
C 銀行の口座
B 社の口座
100 万ドル
アメリカの中央銀行
6
(参考)プルーデンス政策(信用秩序維持政策)とは何か
従来の考え方(ミクロ・プルーデンス)
 金融機関は本質的に脆弱
 銀行は、①決済システムの担い手、②元本保証のある貯蓄手段の提供者、③金融仲介の主
役として、社会的に重要な役割を果たしている
 一つの銀行が破綻すると、それが他の銀行に波及し、上記の①-③の機能に甚大な影響が
及ぶ可能性がある
 銀行を金融機関の中で特別な存在と位置づけ、個別行の破綻を防止する政策を採ってきた
世界金融危機後の考え方(マクロ・プルーデンス)

銀行とそれ以外の金融機関の境界が曖昧になっている

銀行以外の金融機関の破綻も決済システムや金融仲介に甚大な影響を及ぼす可能性があ
る

金融の国際化が進み、一国の金融危機が直ちに外国に影響を及ぼすようになった

金融機関は放っておくとマクロ経済の変動を助長する行動をとってしまう可能性がある

金融システム全体の危機防止の視点から規制政策を設計するとともに、国際間の規制の
調和を図る取り組みが行われるようになっている
7
図表 A1
事業会社と金融機関のバランスシート
(a)事業会社
(b)金融機関
負債
負債
資産
資産
自己資金
自己資金
(注)白地は短期間のうちに取り崩せる(される)可能性がある資産や負債を表す。
灰色は流動性の低い固定資産や負債、返済義務のない自己資金を表す。
図表 A2 証券化と資産担保証券
(a)金融機関
住宅ローン
負債
その他の
資産
新しい資産
負債
その他の
自己資金
資産
自己資金
(b)証券化機関・特別目的会社
シニア
住宅ローン
メザニン
住宅資産担保証券
エクイティ
8