ASAP - Breault

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ASAP
テクニカル ガイド
...................................
1
光学モデリング ソフトウェア
ASAP の波動光学
BREAULT RESEARCH ORGANIZATION, INC.
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ASAP は、Breault Research Organization, Inc. の商標です。
BRO-0919(2004/02/11)/TG_wave_optics.fm
ASAP テクニカル ガイド
3
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目次
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ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
基本原則 10
9
10
ガウス ビームの伝搬 10
ガウス ビームの重ね合わせ
12
ASAP 波動光学の基本的な方法 13
ガウス ビーム集計の利点と制約
UNITS CM 15
PARABASAL 4 15
BEAMS COHERENT DIFFRACT
波動光学用語
14
16
16
WAVELENGTH 1 UM 16
WIDTHS 1.6 16
PLOT BEAMS 17
SPREAD NORMAL 17
円形開口からの回折 : アイリー ディスク
18
COHERENT 解析ツール : FIELD および SPEAD NORMAL
20
SPREAD NORMAL と FIELD 22
SPREAD NORMAL 22
FIELD 23
SPREAD DIRECTION、SPREAD POSITION、および SPREAD APPROX
電界の導波路モードへの結合
24
27
結合効率 28
入射電界とモードの入れ替え
34
偏光電界の結合 34
マルチモード光ファイバへの結合 36
IRRADIANCE コマンド 36
PROPAGATE コマンド 36
BEAMS COHERENT DIFFRACT モードでの偏光分析 40
POLARIZ コマンドと FIELD...DELTA オプション 40
ASAP テクニカル ガイド
TOC-5
COHERENT 光源
43
グリッド光源
43
グリッド光源内のビーム別光束
45
GAUSSIAN コマンド 46
GAUSSIAN 簡略形 47
ガウス ビーム、ビーム ウェスト、および発散の ASAP 定義
GAUSSIAN 詳細形 50
WIDTHS パラメータ 51
ビーム数 54
RAYSET コマンドを使用した基本ファイバ モードの作成
偏光光源の作成 60
警告とエラー
49
59
62
COHERENT モード内の警告とエラー 62
光源作成のエラー 63
光線追跡中の光線中断警告 64
ロングサイド 64
エバネッセント波(TIR) 65
SPREAD または FIELD 計算中の警告とエラー
光学的不変量
65
66
確実性違反 69
電界の分解
69
サンプリング不足の光学面用の DECOMPOSE POSITION 70
開口サンプリング用の DECOMPOSE POSITION 76
切り取り境界線としてのオブジェクトの使用
傾斜または曲率位相をもつ電界の分解
波面の曲率半径の概算
80
83
84
DECOMPOSE を使った任意の電界のモデル化 85
ウィンドウとピクセルの詳細
89
非常に小さい電界用の DECOMPOSE DIRECTION 92
エバネッセント波
93
DECOMPOSE DIRECTION を使った、強く発散する小さな光源の作成
フレネル係数の正しいモデル化 101
偏光電界の分解 103
参考文献 - ガウス ビーム
TOC-6 ASAP テクニカル ガイド
103
99
.....
ビーム伝搬法(BPM) 105
FIELD コマンドの第 2 の形態
BPM の手順 106
105
1. システムの幾何形状と媒体を構築する 106
2. 適切な WAVELENGTH コマンドと UNITS コマンドを発行する 108
3. 開始電界として使用するファイルを指定する 109
4. BRO009.DAT ファイルに保存する FIELD パラメータを選択する 110
5. 伝搬距離を選択する 111
フォーマット タイプ 1 111
フォーマット タイプ 2 112
6. 使用する境界条件を指定する(または、デフォルトの吸収境界条件を使用する) 112
7. 精度の設定を選択する(または、デフォルトの ACCURACY LOW 設定を使用する) 114
8. FIELDBPM コマンドを発行して、電界の伝搬と分析を実行する 116
電界結合 117
2 次元での伝搬 117
BPM とガウス ビーム ASAP 間の移行
例 118
付録 A: BPM の例
例1
例2
例3
例4
118
119
119
122
124
127
ASAP テクニカル ガイド
TOC-7
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ASAP
の波動光学
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本テクニカル ガイドでは、Breault Research Organization, Inc. の ASAP™ (Advanced
Systems Analysis Program)を使った波動光学計算の実施について詳細を説明してい
ます。このトピックは幾何学光線追跡プログラムの範囲を超えているように思われ
るかもしれませんが、そうではありません。少数の新しいツールとユーティリティー
を追加すると、ASAP の中核の基本的、非順次光線追跡エンジンを使用して、干渉、
回折、部分的コヒーレンス、その他の波動現象をモデル化することができます。
幾何光線光学では、光線は局在的な波面法線を意味すると考えられます。ASAP は、
光学系を通じてこれらの幾何光線を追跡します。このことが、多くの結像システム
および非結像システムの解析用に必要なすべてですが、弊社は首尾一貫してこれら
の光線の位相を無視してきました。
ASAP は、ガウス ビーム集計として知られている方法を使ってこの制約を克服しま
す。これは次の項以降でさらに詳細に説明されていますが、この方法の骨子は比較
的簡単です。ガウス ビームは、近軸波動方程式の解で、自由空間を伝搬する多く
のレーザー ビームを適切に記述します。ガウス ビームのビーム半径は、そのウェ
スト部分で最も狭く、伝搬するにつれて拡張します。ガウス ビームの伝搬は詳し
く把握されているので、少数の簡単なパラメータで簡単に記述できます。さらに、
ガウス ビームは、特定の制約下で、幾何光線追跡法により、光学系を通じて追跡
できることがわかります。
しかし、ガウス ビームの伝搬の単純性を利用して、さらに一般的な光源をモデル
化できるのでしょうか ? レーザー ビームは、結局のところ、波動特性を示す興味
深い光源の小さなサブセットです。答えは「はい、できます」です。どの複素電界
もガウス ビームの重ね合わせとして表現可能で、この観察が、ASAP の波動現象研
究の基盤になっています。
ASAP には、2 種類の波動光学伝搬法が用意されています。従来から使用されてい
るガウス ビームの伝搬と、最新のビーム伝搬法(BPM)です。BMP は、従来のガ
ウス ビームの伝搬では処理できない微構造に対応する目的で導入されました。こ
のテクニカル ガイドでは、両方の方法を扱います。
ASAP テクニカル ガイド
9
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
ガウス ビームの伝搬
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基本原則
ガウス ビームの伝搬
先に、ガウス ビームは幾何光線追跡法によって追跡できると主張しました。
ASAP は、基本光線としてのビームと、
「パラベーザル」光線として知られている
4 つの追加光線を記述することで、このことを達成します。これらは、
「パラベー
ザル光線」で示されています。
「パラベーザル(parabasal)」という語は、基本光線
に対して近軸の光線を意味しています。
発散光線
ビーム
直径
ビーム
包絡線
ウェスト光線
基本光線
パラベーザル光線
注意 名前が示すように、パラベーザル光線は、基本光線の方向に対して近軸である必要
があります。この条件が必要になるのは、ガウス ビームは一般的な広角波動方程式では
なく近軸波動方程式の解であるからです。ガウス ビームの発散が急速すぎると、ビーム
は伝搬時にガウス型ではなくなります。この点が念頭に入れて置くべき重要な制約であ
る一方で、ASAP は、この近似に違反しているときにその旨を通知することによって支
援します。さらに、この近軸の制約は、自身の基本光線に対するパラベーザル光線に関
してだけ適用されます。ビームの重ね合わせを使用する ASAP は近軸電界に制約されま
せん。どの波面をモデル化して、大部分の光学系で伝搬することも可能です。
基本光線はビームに関連した主光線です。これは、「パラベーザル光線」で示すよ
うにビームの中心に位置し、ビーム伝搬の方向に向いています。また、ビームの参
照光線です。このことは、LIST RAYS や STATS のような ASAP コマンドは、シ
ステムの基本光線を参照することを意味します。
10
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
近軸光線の 2 本は「ウェスト光線」です。そのうちの 1 本だけが図に表示されてい
ます。もう 1 本は、ページ面の外にあります。ウェスト光線は基本光線と平行して
始まりますが、少し中心から外れています。これらはビームの半径を描きます。
ウェスト光線が 2 本あるので、2 本の直行軸内の別のビーム幅(すなわち、非対称
ビーム)を定義することができます。
その他の 2 本のパラベーザル光線は「発散光線」で、その方向がビームの漸近発散
角度すなわち遠視野発散角度を定義します。ここでも、2 本の発散光線が非円対称
の(すなわち、楕円形状の)ガウス ビームを描くのに必要ですが、10 ページの「パ
ラベーザル光線」には面内の光線だけが表示されています。
この図には、ガウス ビームの伝搬時にビーム幅がどのように拡張するかを示す
ビーム包絡線も表示されています。
理解するべき重要点は、基本光線と 4 本のパラベーザル光線を幾何学的方法によっ
て追跡して、後で新しいガウス分布を回復することができるということです。この
ことは「幾何学的方法を使った光線追跡」で例示されています。
出力ビーム直径
入力ビーム直径
光学システム
幾何学的方法を使った光線追跡
5 本の光線はすべて、スネルの法則に従って光学面で屈折、反射します。光線追跡
の間のどの時点でも、基本光線とパラベーザル光線から現在のガウス ビームの特
徴を入手することができます。ビームの伝搬時に、元のパラベーザル光線は「幾何
学的方法を使った光線追跡」で例示されているように逆転する場合があることに注
目してください。この図では、元の発散光線が新しいウェストを定義して、元の
ウェスト光線が新しい発散を定義しています。
ASAP テクニカル ガイド
11
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
ガウス ビームの重ね合わせ
ガウス ビームが幾何光線追跡によって伝搬できることを見ましたが、このテク
ニックだけでは、対処できる問題のセットが限定されています。ASAP は、任意の
波動電界をガウス ビームの重み付けされた和に分解することによって、この方法
を拡張します。その結果生まれる集合内の各ガウス ビームは、先に示された場合
と同様に、1 本の基本光線と 4 本のパラベーザル光線によって表わされます。その
後、光学系を透過する構成要素のビームを幾何学的方法により個々に光線追跡しま
す。光線追跡が完了すると、ASAP は、任意の 2 次元の光学面上にある任意の点光
源の個々のビームを合計して、その位置の電界を記述します。「任意の波動電界の
分解」はこの機能を例示しています。
中間領域
焦点領域
入力領域
任意の波動電界の分解
この図の左端の部分には、
「入射電界」という名前が付いています。9 本のガウス
形ビームを使って、その上部にほとんど矩形の包絡線ができています。この包絡線
は、ほとんど平坦なエネルギー分布を表わしていて、かなり切頭平面波に近いもの
になっています。9 本のビームからなる光線は、右に向かって追跡する際に、正の
レンズに出会います。
レンズの真右のグラフ(「中間電界」という名前が付いています)は、光線がレン
ズを出た直後の光線電界を表わしています。中間電界のプロット内では、元の 9 本
のガウス ビームが、この新しい中間電界で新しい形状と位置を示しています。伝
搬のために、個々のガウス ビームは今、さらに低く広くなっていて、互いに近付
いていることに注目してください。
12
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
この図のさらに右側では、中間電界は負のレンズを通って伝搬し、最後に「焦点で
の電界」という名前の付いた平面上で焦点が合っています。ここでは個々のビーム
は、開始時よりも広くなっている半面、すべて同じ位置にあることに注目してくだ
さい。レンズは焦点面上で遠視野状の分布を生成するので、このことは理にかなっ
ています。
要約すると、ASAP は、電界をガウス ビームの集合に分解することによって、複雑
な光学系を通じてエネルギー電界を伝搬することができます。ASAP はその後、幾
何光線追跡法によってこれらの個々の小ビーム群を伝搬します。この方法は、補足
説明、14 ページの「ガウス ビーム集計の利点と制約」でさらに詳細に説明されて
います。ガウス ビーム集計と伝搬の理論的基礎について詳細は、103 ページの「参
考文献 - ガウス ビーム」を参照してください。
AS A P 波動光学の基本的な方法
ASAP の使用時に波動光学を考慮する際、どのような変更が必要になるのでしょう
か? 幾何光線追跡を行っているので、ASAP で学んだツールとテクニックの多くは
依然として適用されます。本テクニカル ガイドを読み進むにつれて、次のことが
わかります。
• ASAP での幾何作成と光学的性質割り当てについて学んだことすべてが依然と
して妥当です。
• 光源定義について学ぶことがいくらかありますが、大部分はすでに馴染みのあ
ることです。
• 光線追跡は同じように実施されますが、追跡されるビームの状態について密接
に観察し続ける必要があります。時には、作業を中断して、中間電界を計算し
た後、新しいセットのビームに分解してからシステム内で作業を継続すること
が必要になります。
• エネルギー計算用の SPOTS および STATS に取って替わる新しい基本解析
ツールを導入する必要があります。これは、これらのコマンドが幾何光線に関
してだけ機能するからです。
• 幾何光線用に使ったグラフィックツールと視覚化ツールは依然として適切に機
能します。
ASAP テクニカル ガイド
13
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
ガウス ビーム集計の利点と制約
ASAP でガウス ビームの伝搬を使用した場合の主な
ガウス ビームは、その特徴により、ASAP のようなア
制約は、ガウス ビームの伝搬がさまざまなベクトル
プリケーションでの使用に理想的です。ガウス ビー
成分を分離させたスカラー波動方程式の解に基づい
ムは、近軸領域で基本形を保つ(つまりガウス型のま
ていることです。そのため、キルヒホフ型の境界条件
ま伝搬する)点で平面波や球面波と同じです。さらに
(つまり、電界は、開口の幾何学的陰影部ではゼロで、
ガウス ビームには、光学系での伝搬を平面波や球面
開口の透過部分では変わらない)が適用されます。
波より簡単にする属性があります。平面波の場合、波
マックスウェル方程式の厳密解を実施し、開口の明示
面法線は、角度が広がらないまま伝搬しますが、平面
波エネルギーは全空間に広がります。球面波の場合、 的な材料属性(複雑な屈折指数)を含めると、より厳
密な解が求まります。しかし、このような解は、計算
エネルギーは単一の点から発生しますが、波面法線は
にかかる時間がずっと長くなります。
球面全体に発散します。一方、ガウス ビームは、空
間的に局在する、発散しない理想的な形をとります。 スカラー法に固有な制約が問題となるのは、主に次の
2 つのケースです。
波面法線の角度の広がりは、ビーム幅が与えられてい
るときに波動方程式で計算される最小許容値に等し
• 開口の大きさ(またはオブジェクトの空間周波数)
くなります。ビームのエネルギーは、主に伝搬軸付近
が、放射波長に近いか、それ以下である場合、ス
に集中し、軸から離れるにしたがって急速に減少しま
カラー法は機能しません。
す。このような属性があるため、ガウス ビームを使
• ASAP は、偏光効果には対応していますが、偏光成
用すると、光学面の局所サンプリングが実施できま
分(s と p)は個別に処理されます。
す。これは、高次構造を持つ光学面で重要です。同時
一方、ASAP は、急速に収束または発散する(非近軸)
に、ガウス ビームは、光学系内を伝搬しても大きく
光線の回折に対応しています。ガウス ビームは近軸
なりません。
波動方程式の解でしかありませんが、この解が意味す
ガウス ビームの伝搬のもう 1 つの利点は、前述のよ
るところは、個々の光線(基本光線に対するパラベー
うに、幾何光線追跡によって簡単にすばやく光学系内
ザル光線)の発散が近軸でなければならないというこ
を伝搬できることです。
とです。電界全体の収束角度には制約がありません。
14
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
波動光学問題の考察を始めるために必要な基本的変更を、短い ASAP スクリプトを
書いて切頭平面波を作ることによって例示することができます。この単純なスクリ
プトは、「サンプル スクリプト : 切頭平面波の作成」で示されています。
サンプル スクリプト : 切頭平面波の作成
コマンドの一部にはすでに馴染みがあるはずです。その他のコマンドは馴染みがな
いか、または少なくとも波動光学のコンテキストでの追加説明の価値があります。
UNITS CM
幾何光線追跡で無視されることがある UNITS コマンドは、波動光学を行う場合は
常に使用する必要があります。これは、ビーム光路長を適切に拡大縮小する目的
で、(次に記述されている) WAVELENGTH 単位と共用されます。
PARABASAL 4
PARABASAL コマンドは、パラベーザル光線数を設定します。実質的にすべての
場合で、この値は、前項で記述された2本のウェスト光線と 2 本の発散光線を得る
ために、4 に設定する必要があります。PARABASAL 8 の設定がありますが、これ
はいくつかの発展的な場合のみ有益です。8 本のパラベーザル光線を使用すると、
光線追跡の速度が落ち、一定の実際の問題が隠されることになる場合もあります。
ASAP テクニカル ガイド
15
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
BEAMS COHERENT DIFFRACT
BEAMS COHERENT DIFFRACT コマンドを発行すると、ASAP に対して
「波
COHERENT モードで動作するように指示していることになります(補足説明、
動光学用語」を参照)
。COHERENT モードは、PARABASAL コマンドの発行時に自
動選択されるのが普通ですが、明示的にコマンドを発行することを推奨します。こ
のため、 BEAMS COHERENT DIFFRACT コマンドを明示的に発行するように推
奨します。
WAVELENGTH 1 UM
波 動 光 学 の 効 果 は 波 長 依 存 な の で、光 源 放 射 の 真 空 波 長 を 指 定 す る た め に
WAVELENGTH コマンドを発行する必要があります。波長の数値以外にも、波長の
単位(この例では、マイクロメーター)を明示的に指定する必要があります。
WAVELENGTH コマンドで数値の後に単位が指定されていない場合は、デフォルト
単位はシステムの単位がデフォルト 単位になります。希望の波長の単位を使用す
るためには、 WAVELENGTH コマンドでその単位を明示的に指定してください。
WIDTHS 1.6
WIDTHS パラメータは、隣接ガウス ビーム間の重複量を制御します。これは、ガ
ウス分布の絶対幅ではありません。後で光源を詳細に記述する際に、このパラメー
タの正確な意味を詳述します。
波動光学用語
ASAP コマンドを文字通りに解釈しようとすると、混
乱する可能性があります。この混乱は、特に波動光学
で使われるコマンドの一部について当てはまります。
たとえば、コマンド BEAMS COHERENT DIFFRACT
で ASAP 内で波動光学をオンにします。ASAP は、こ
の状態に入ると、非コヒーレントから完全コヒーレン
トまでのどのコヒーレンス度でシステムをモデル化
するために使用することも可能なので、この ASAP
モードの名前は少し紛らわしいものです。また、これ
は回折以上のことを行うことができます。これは、波
動方程式の解である複雑な波動関数を処理するので、
WAVE OPTICS」と呼んだ方がいいかもしれません。
16
ASAP テクニカル ガイド
BEAMS COHERENT DIFFRACT が ASAP で使うコ
マンド シンタックスであるので、厳密に光学的には
意味することではないにもかかわらず、この ASAP
モードを記述するために包括的用語「コヒーレント」
が使われることがあります。このため、混乱を避ける
ために、本書では、ASAP の波動光学モードを記述す
るために使われるときは、
「COHERENT」と大文字に
なっています。「コヒーレント(coherent)」が光学的
な意味で使われる場合は、小文字になっています。同
様に、ASAP 光束計算コマンドである FIELD(23 ペー
ジ参照)は大文字ですが、一般的な「電界(field)」は
小文字で表記されます。
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
次の 2 つのコマンドは、Z 軸にそって向けられた GRID 光源を定義します。この光
源タイプは、初期の ASAP 作業から馴染みのあるものであるかもしれませんが、
21x21 グリッドの各位置は現在、単一の光線ではなくガウス ビームで占められてい
ます。これらのビームの重ね合わせにより、目的の切頭平面波が得られます。この
タイプおよびその他のタイプのコヒーレント光源は 43 ページ ページから始まる
「COHERENT 光源」で詳述されています。
PLOT BEAMS
このコマンドは、COHERENT ASAP ビーム解析で使われるグラフィック オプショ
ンです。結果は「PLOT BEAMS グラフィック オプションの結果」で示されていま
す。各環は、集合を構成する各ガウス ビームの現在の幅を表わしています。この
図では、ビームが作られたときに有効であった WIDTHS コマンドが要求する重複
だけが表示されています。ただし、理論上、波面の伝搬時にビームが拡張すること
がわかっています。光線追跡の多様な時点で PLOT BEAMS およびその他の解析
ツールを使って、光学系内の幾何を依然として正確にサンプリングしていることを
確認します。
PLOT BEAMS グラフィック オプションの結果
SPREAD NORMAL
SPREAD NORMAL コマンドは、ASAP 内の波動光学計算に固有です。これは、以
前の SPOTS POSITION で実行していた光束密度の計算に使われます。ただし
現在、各光線が運ぶ光束だけでなく、個々のビームのコヒーレント合計も計算され
る必要があります。実際には、このことは、各ビームの電界(振幅と位相の両方)
が合計され、その合計を 2 乗してエネルギー密度を獲得することを意味します。
ASAP は、現在の WINDOW に関して各 PIXELS の中心でこの計算を行います。
ASAP テクニカル ガイド
17
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
「ISOMETRIC プロットでの電界分布の視覚化」は、ASAP が計算した分布の一般的
な表示法です。このケースでは、上部が均質で、その後急速に落ちている切頭平面
波が示されています。比較的平坦な上部は、441 の個々のビームが結果に寄与して
いる形跡をほとんど示していません。先細りの側面は、個々のガウス ビームの有
限幅によって生じています。
ISOMETRIC プロットでの電界分布の視覚化
グリッド光源で何本のビームが必要か、および電界を計算する際いくつのピクセル
を使う必要があるかの問題は、さしあたって無視することにします。これらの重要
な問題点は、本テクニカル ガイドの後半部で完全にカバーされています。
円形開口からの回折 : アイリー ディスク
ASAP の波動光学については、単純で、馴染みのある例を作成するに十分なことは
すでに学んでいます。作成した平面波が回折制限レンズによって検出器上に焦点が
定まることを可能にします。この例は、円形開口による典型的な回折問題に変化を
加えたものです。
18
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
完全な ASAP スクリプトは、
「アイリー ディスク用のスクリプト」で示されていま
す。18 ページの「ISOMETRIC プロットでの電界分布の視覚化」で定義されている
平面波光源を使用し、一定の幾何(レンズと検出器)および TRACE コマンドだけ
を追加しました。
アイリー ディスク用のスクリプト
ASAP テクニカル ガイド
19
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
この追跡から計算された結果値としての電界は、
「アイリー ディスク パターンのエ
ネルギー密度の平方根」で示されています。 FORM 0.5 コマンドを使って、結果
値の平方根を得たことに注目してください。このように電界の絶対値をプロットし
ました。この目的は、グラフィック内で弱い方の環を持ち出すためでした。この
SPREAD 計算の結果の数値に注意してみると、アイリー環最小限度が理論で予想
された位置に表示されていることがわかります。
アイリー ディスク パターンのエネルギー密度の平方根
CO HE RE NT 解析ツール : F I E L D および SP EA D N O R MA L
ASAP プロジェクトでは、通常「解析」を最後の 4 番目の段階として提示しました。
ただし、 COHERENT 作業ではしばしば、光源とその特性を、作成され次第確認し
ます。光線追跡の間、中間の場所で電界を計算、解析することが必要になる場合も
あることもわかっています。このことは、たとえば、電界がシステム内を伝搬する
際元のセットのガウス ビームが依然として幾何を適切にサンプリングしているこ
とを確認するために行います。このため、ASAP 内の COHERENT 作業の詳細の説
明は、解析ツールの検討から始めます。
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ASAP テクニカル ガイド
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ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
ASAP では、電界特性の計算用に、 FIELD... および SPREAD NORMAL の 2 つ
のコマンドが使用できます。両方とも、複素電界計算の基本的タスクを、個々のガ
ウス ビームの重ね合わせによって行います。これらは、以前 INCOHERENT モー
ドの光束分布の計算用に使用していた SPOTS POSITION コマンドに取って替
わるものです。しかし、同じ基本的放射量を計算するのにどうして新しいコマンド
が必要なのでしょうか ?
光束計算は、次の理由で COHERENT モードでさらに複雑です。
INCOHERENT モードでは、各光線は空間内の点光源にすぎず、その光束はすべて
その点光源内に局在しています。光線が検出器平面内の特定のピクセルに入ると、
そのピクセルはその光線の光束を含むことになります。そのピクセル内の他の光線
は、バケツ内の水滴をバケツに加えるように、加えられます。ただし、COHERENT
モードのビームは有限です。
(技術的には、ガウス分布は無限ですが、その有意領
域は有限です。)このため、ビームは多くのピクセルの電界に有意的に寄与できま
す。さらに、オブジェクト上の正確な光束を決定するには、そのオブジェクトをか
ろうじて外しそこなったビームを考慮する必要が生じる場合があります。
INCOHERENT モードでは、各光線はその光束を全光束に追加します(すなわち、
1+1=2)。ただし、 COHERENT ビームは、同じ大きさの振幅を有し、同じ位置にあ
る 2 本のビームが、その相対的な位相関係に基づいて、異なる全光束値をもたらす
ように、振幅と位相が合計される必要があります。たとえば、それらを破壊的に加
算してゼロ光束をもらすことが可能ですが、その一方で、もしそれらの位相がまっ
たく同じであれば、個々の各ビームの光束と比べ、4 倍の結果をもたらします。
INCOHERENT モードでは、特定のピクセル内のすべての光線用の光束を合計して
そのピクセル用の全光束を獲得します。この光束値は、そのピクセル内での光線の
配置のされ方にかかわらず同じ値です。結果値は分布ファイルに書き込まれ、その
ピクセルの平均光束密度に対応します。 COHERENT モードでは、各ピクセルの中
心の光束値だけが計算されます。この計算は、その点光源のすべてのビームからの
寄与をコヒーレントに合計しながら行います。ASAP は、ピクセルの中心の電界を
サンプリングしながらこの計算を行うので、結果値は、そのピクセル内の他の場所
の光束値についての情報はいっさい示しません。
これらの複雑性のために、INCOHERENT 光束コマンド(SPOTS、STATS、PATHS、
そ の 他)は、 COHERENT ビームの正確な光束をもたらしません。これらの
INCOHERENT コマンドは依然として、中心軌跡の位置と方向、顕著な光路などに
ついての情報を入手するために使用できますが、それらがもたらす光束値は不正確
です。
ASAP テクニカル ガイド
21
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
SPREAD NORMAL と FIELD
SPREAD NORMAL と FIELD は両方とも、電界のエネルギー密度を計算すること
ができますが、2 つのコマンドには重要な違いがあります。SPREAD NORMAL コ
マンドは、エネルギー密度だけを計算して、一般的に少数のオプション パラメー
タだけを有しています。 FIELD コマンドはもっと一般的で、エネルギー密度以外
にも、
(位相や係数など)多くの電界パラメータの計算を可能にします。次の使用
規則は、両方のコマンドの機能を示しています。
次のコマンドを指定された状況で使用してください。
• 光束密度(光束 / 面積)または放射照度のみを計算する場合は、 SPREAD
NORMAL を使用
• 複雑な電界パラメータを計算する場合は、FIELD を使用(23 ページの「FIELD」
を参照)
• 偏光効果を考慮する必要のある場合は、 FIELD を使用
• 異なる波長をもつ光源を非コヒーレントに合計する(エネルギー密度を合計す
る)場合は、 SPREAD を使用
• 異なる波長をもつ光源をコヒーレントに合計する(振幅と位相を合計する)場
合は、 FIELD を使用
次の 2 つの項では、各コマンドをさらに詳細に説明しています。
SPREAD NORMAL
SPREAD NORMAL コマンドは、前述のように、各ピクセルの中心のエネルギー密
度に対応する実数配列を生成します。これを使って、放射照度を計算することもで
きます(36 ページの「IRRADIANCE コマンド」を参照)。
最後の WINDOW コマンドは、SPREAD 計算が行われる面積を定義します。最後の
PIXELS コマンドは、計算が行われる点光源の数を決定します。
SPREAD NORMAL コマンドを使用すると、ASAP は、同じ波長のビームをコヒー
レントに合計します。異なる波長をもつビームは、その後非コヒーレントに合計さ
れます。
注意 SPREAD NORMAL コマンドの複数波長動作は、部分的コヒーレンスをモデル化
するために使用される場合があります。分散熱源の各点光源は空間的に非コヒーレント
なので、それを、各々少し異なる波長をもつ一式の点光源としてモデル化することがで
きます。下流では、 SPREAD NORMAL コマンドを使ってその光源からの電界を正確
に計算することができます。この方法は、レーザーダイオード配列のモデル化でも用途
があります。
22
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
オンライン ヘルプの SPREAD コマンドを参照すると、NORMAL オプションに代替オ
プションがあることがわかります。DIRECTION、POSITION、および APPROX オ
プションがあります。しかし注意が必要です。補足説明、
「SPREAD DIRECTION、
SPREAD POSITION、および SPREAD APPROX」が説明するように、SPREAD のこ
れらのバージョンは、期待する機能を果たさない可能性があります。他の ADD や
DOWN のような SPREAD オプションは非常に便利である場合があります。
FIELD
FIELD コマンドは次の 7 つの形態で発行可能です。
FIELD AMPLITUDE
• 電界の符号付係数
FIELD PHASE
• ラジアン内の電界の位相
FIELD MODULUS
• 電界の係数
FIELD WAVEFRONT
• 波動内の電界の波面
FIELD REAL
• 電界の実数部分
FIELD IMAGINARY
• 電界の虚数部分
FIELD ENERGY
• 電界の平方係数(エネルギー密度)
これらのケースすべてにおいて、コマンドの特定形態の値(ENERGY、 PHASE な
ど)は、ファイル名 BRO009.DAT をもった実数(各ピクセルに 1 つの実数)の配
列に保管されます。スポット図の後での場合のように、引数を後に続けないで
DISPLAY コマンドを発行することにより、その実数の配列内の値にアクセスする
ことができます。これに加えて、複素数の配列が常に BRO029.DAT という名前の
ファイル内に作成されます。この複合配列には、電界を記述するのに必要な情報す
べてが含まれています。それゆえ、 FIELD コマンドのいずれかの形態をすでに発
行した場合は、
「DISPLAY 29 [Quantity name]」の形態のコマンドを発行
することで、他のどの電界量にアクセスすることも可能です。たとえば、
「DISPLAY
29 PHASE」では、最初の計算にどの形態の FIELD コマンドが使われていたとし
ても、位相データが利用できるようになります。この機能のために、異なる電界量
を獲得するために電界計算をやり直す必要はありません。
ASAP テクニカル ガイド
23
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
SPREAD DIRECTION、SPREAD POSITION、および SPREAD APPROX
SPREAD は、最初 COHERENT コマンドとして紹介
されたので、 SPREAD は ASAP で波動光学計算を行
うときだけに使用するものとお考えかもしれません。
しかしそうではありません。ここで挙げる SPREAD
の 3 つのバリエーションのうち、 SPREAD APROX
だけ が ま れ に COHERENT 光 線 に 使 用 さ れ ま す。
SPREAD APROX は、光線の非点収差効果を無視して
計算時間が節約できる場合にのみ、使用します。
そ の 他 の SPREAD DIRECTION と SPREAD
POSITION は、実際には INCOHERENT (幾何光線追
跡)コマンドです。この2つは、SPOTS DIRECTION
24
ASAP テクニカル ガイド
と SPOTS POSITION の代替コマンドで、幾何光線
を空間的に限定します(「広幅光線」ともいいます)。
どちらの代替コマンドも、分布を「平滑化」するため
に使用されることがあり、追跡される光線の数が少な
すぎて良い統計量が計算できない場合にピクセル間で
の変動を減少させます。もちろん、このようにして視
覚化した結果は、存在し得るノイズ レベルでの実際の
変動を隠してしまうため、誤解を招く可能性がありま
す。 SPREAD DIRECTION と SPREAD POSITION
もまれにしか使用されません。
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
DISPLAY をともなった FIELD の使用は、「サンプル スクリプトと出力 : DISPLAY
をともなった FIELD の使用」と 26 ページの「サンプル スクリプトと出力 : DISPLAY
をともなった FIELD の使用(続き)」で例示されています。 SPREAD NORMAL の
かわりに FIELD ENERGY 5 を使い、BRO009.DAT ファイルから派生したすべての
量を図式化するコマンドを追加しながら、アイリー環スクリプトを編集しました。
エディタ
サンプル スクリプトと出力 : DISPLAY をともなった FIELD の使用
ASAP テクニカル ガイド
25
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
サンプル スクリプトと出力 : DISPLAY をともなった FIELD の使用(続き)
FIELD コマンドも、浮動小数点「奥行座標」を受入れます。「サンプル スクリプ
トと出力 : DISPLAY をともなった FIELD の使用(続き)」では、FIELD ENERGY
5 を使いました。「5」は、システムの単位内の(WINDOW コマンドで使用されて
いない軸である)3 番目のデカルト軸にそった値です。最後のウィンドウ コマンド
は WINDOW X Y であったので、FIELD は、Z=5 面上の X-Y ウィンドウ内で計算
さ れ ま す。こ れ は 検 出 器 平 面 の 場 所 で、奥 行 き が 指 定 さ れ て い な い 場 合 は
(CONSIDER コマンドでビームだけが選択されていることを前提にして)これをデ
フォルト値として使うことになります。ただし、上で定義した奥行座標を使って、
任意の Z 面の電界を、その面へのビームを実際に追跡することなしに、検討するこ
とができることに注目してください。ダミー面を構成したり、追加の段階的光線追
跡を行う必要がありせん。奥行座標は、その座標が指定する面内の各ビーム用に
適切な光路長(OPL)を自動的に使用します。ただし、このアプローチは、光線
追跡とは 1 点だけ明確に異なります。介入光学的要素(反射、媒体変化など)は
無視されます。ビームは単に軌線にそって移動するだけで、その OPL は適切に調
整されます。
26
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
「サンプル スクリプトと出力 :
奥行座標を使った FIELD 計算面の変更の例は、
FIELD をともなった奥行座標の使用」で示されています。先の例では、以前のよ
うにビームを検出器平面にビームを追跡しました。その後、焦点ぼけの効果を示す
ために、Z 軸にそって 3 つの異なる位置の電界を計算しました。
エディタ
サンプル スクリプトと出力 : FIELD をともなった奥行座標の使用
電界の導波路モードへの結合
ASAP の重要な機能の 1 つは、ASAP 電界を導波路のモードに結合するときの結合
効率を計算する機能です。この計算には、FIELD コマンドに COUPLE オプション
を組み合わせます。ASAP は、コマンドの指示にしたがって現在の光線セットの電
界を計算し、その電界と、選択した基本ファイバ モードまたは BRO029.DAT に保
存された電界を結合したときの結合効率を計算します。ASAP では、広く普及して
いる重複積分を使用して結合効率が計算されます(補足説明、28 ページの「結合
効率」を参照)。
ASAP テクニカル ガイド
27
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
結合効率
結合効率
は、「重複積分」によって次のように計算されます。
上の式で、 η は入射光線のエネルギーのうちで出力
ファイバに結合される部分、Ei(x,y) はファイバ モード
の複素振幅、Ef(x,y) はファイバ モードの複素振幅です。
ここでいう「ファイバ」は、一般的な意味で使用され、
あらゆる導波路を指します。分子の被積分関数は、ファ
イバ上の入射電界とファイバ モードの積です。した
がって、結合効率は、入射電界がファイバ モードにど
れほどよく合致するかを表す測度ということになりま
28
ASAP テクニカル ガイド
す。完全に合致する場合、結合効率の値は 1 です。振
幅または位相のいずれかが合致しない場合、結合効率
の値は 1 より小さくなります。振幅が合致しないのは、
入射電界が原因であるか、ファイバ モードの形状(空
間的分布)または位置(空間的移動)が異なるためと
考えられます。位相が合致しないのは、傾斜や焦点ぼ
けなどの整合ミスによって生じる低次項、または収差
によって生じる高次項が原因と考えられます。
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
補足説明の前に記したとおり、現在の光線セットから計算された電界は、選択した
基本ファイバ モードか、BRO029.DAT に保存されている電界に結合することができ
ます。使用するコマンドは、通常の FIELDSUM(または FIELDBPM)コマンドの
後に COUPLE を付けたものです。このコマンドの例を次に示します。
警告 : 2 つの電界は、WINDOW のサイズ、PIXELS、WAVELENGTH が同じでなけ
ればなりません。 WINDOW は、寸法が同じであっても、元の電界での位置からは
移動しています。この移動は、入射電界と導波路の間のずれをモデル化するのと等
価です。
導波路モードが円形のステップインデックス型光ファイバまたは GRIN ファイバの
基本モードである場合、モードをあらかじめ作成しておく必要はありません。これ
らのモードに光線セットの電界を結合するには、コア半径と正規化周波数(V パラ
メータともいう)を指定する必要があります(V パラメータについては以下で説明
します)。GRIN ファイバの場合、勾配屈折率を表すべき数(たとえば平方なら 2)
も指定する必要があります。次に例を示します。
サンプル スクリプト : FIELD と COUPLE の計算
V パラメータは、次のように計算されます。
,
上の式で、λ0 は真空波長、r はファイバのコア半径、n2 はクラッディングの屈折率
(ステップインデックスの場合は)コアの屈折率、または(GRIN ファ
です。nl は、
イバの場合は)コアの軸 / ピークの屈折率です。
ASAP テクニカル ガイド
29
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
2 つのスクリプトを使って、基本ファイバ モードと BRO029.DAT の現在の電界に結
合する 2 つのケースを、
「サンプル スクリプト : 基本ファイバ モードへの結合」と
次のスクリプト「サンプル スクリプト : 基本ファイバ モードへの結合」で見てみ
ましょう。.
サンプル スクリプト : 基本ファイバ モードへの結合
サンプル スクリプト : BRO029.DAT の現在の電界への結合
電界を結合した後、ASAP は、コマンド出力ウィンドウで次のように結合効率の値
を返します。
30
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
コマンド出力ウィンドウに表示された結合効率
任意の導波路モードに結合する場合は、FIELD... COUPLE コマンドを発行す
る時点でそのモードを表す電界が BRO029.DAT に入っていなければなりません。
30 ページの「サンプル スクリプト : BRO029.DAT の現在の電界への結合」のよう
に、結合効率を計算しようとした時点で導波路のモードがすでに BRO029.DAT に
入っていることもあります。多くの場合、電界は導波路を通って光学系に入り、
結合する形で同一の出力導波路へと戻ります。入力導波路モードを表す FIELD
を計算し、その後、他に FIELD を計算していない場合、光線が出力導波路に達
し ても 導波路を表す電界は BRO029.DAT に入ったままです。このような場合、
FIELD... COUPLE コマンドを発行して結合効率を得ることができます。
それ以外の場合は、光線が光学系内を伝搬すると、中間電界が計算されます。中間
電界が計算された場合、光線が出力導波路に達した時点で、出力導波路のモードは
BRO029.DAT 内に存在しなくなります。導波路のモードを表す電界が存在するうち
に、あらかじめ $COPY コマンドで電界に別の名前を付けて保存しておくことがで
きます。後で結合効率を計算するときに、保存した電界を再び $COPY コマンドで
BRO029.DAT に戻します。コマンドを次に示します。
サンプル スクリプト : $COPY コマンド
警告 FIELD コマンドの直後に $COPY コマンドを使用するときは、FIELD コマンド
に奥行座標を含める必要があります。そうしないと、ASAP が FLD> モードで奥行座標
を待機したままの状態になります。この状態で $COPY コマンドを発行すると、前の電
界がコピーされてしまいます。奥行座標によって FIELED コマンドが完了し、ASAP
が ASAP> モードに戻ります。代わりに、 $COPY コマンドの前に DISPLAY コマン
ドを 発 行す る(FLD> モ ード を DIS> に切 り 替え る)か、 $COPY コマ ン ドの 前 に
RETURN コマンドを発行する(FLD> モードを ASAP> モードに切り替える)こともで
きます。
ASAP テクニカル ガイド
31
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
あらかじめ保存したモードへの結合については、33 ページの「サンプル スクリプ
トと出力 : あらかじめ保存したモードへの結合」でさらに詳しい例を示します。こ
の例では、まず入力導波路と出力導波路の両方のモードを表すガウス電界を作成し
ます。これを後で出力導波路モードとして使用するために、 $COPY コマンドで
BRO029.DAT から WG_MODE という名前のファイルにコピーします。次に、光線
が出力導波路の平面へと追跡され、そこで再び電界が計算されます。最後に、再び
$COPY コマンドを使って WG_MODE にある電界を BRO029.DAT へコピーしま
す。すると、この電界が FIEDL...COUPLE コマンドでモード用に使用されるよ
うになります。 COUPLING_PLANE OBJECT と光線追跡がなくても同じ結果を
得ることができます。これは、平面 z=.15 における、導波路モードに結合する前の
最初の光線に基づき、.15 の奥行座標によって電界が計算されるためです。
32
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
サンプル スクリプトと出力 : あらかじめ保存したモードへの結合
ASAP テクニカル ガイド
33
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
入射電界とモードの入れ替え
重複積分をよく見てみると、入射電界とファイバ
モードを入れ替えても、結合効率の値が変わらないこ
とがわかります。ASAP で結合効率を求めるときに入
射電界とモードを入れ替えられるなら、便利なことも
あるでしょう。結合効率の値以外の要素も重要である
場 合 は、入 れ 替 え を 行 う 際 に 注 意 が 必 要 で す。
FIELD...COUPLE コマンドは BRO029.DAT 内に
電界を作成しますが、この電界は、適切な減衰電界を
モードの形で表したもので(前の BRO029.DAT)、入
射電界の形を取りません。
偏光電界の結合
偏光電界の場合、結合効率の計算は、わずかに複雑になります。直交偏光モードの
セット(たとえば X、Y、Z)を選択した場合、全結合効率は、個々の結合効率の
和に等しくなります。この場合、全結合効率を求めるには、偏光成分ごとに結合効
率を計算してから、すべての結合効率を加算する必要があります。
35 ページの「サンプル スクリプト(上)とコマンド出力(下): 偏光電界の結合」
を参照してください。
34
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
サンプル スクリプト(上)とコマンド出力(下): 偏光電界の結合
ASAP テクニカル ガイド
35
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
マルチモード光ファイバへの結合
マルチモード光ファイバは、シングルモード光ファイバと異なる方法で扱う必要が
あります。コア直径が数百波長以上あるファイバは、多数のモードを伝搬するの
で、幾何光線追跡でのモデル化が適しています。モードが少ないマルチモード光
ファイバの場合は、シングルモードやモードの多いマルチモードに比べて結合効率
の計算が複雑になります。まず最初に、さまざまな伝搬モードを計算します。これ
は ASAP で実施することができないので、オフラインで行います。次に、それぞれ
のモードの ASAP FIELD を作成し、それを後で結合するために保存しておきます。
導波路に結合する電界は、各モードに個別に結合する必要があります。すべての結
合の結合効率の和が全結合効率となります。
IRRADIANCE コマンド
ASAP での COHERENT 計算と INCOHERENT 計算の間のもう 1 つの基本的差異
は、エ ネ ルギ ー 密 度 で は な く 放 射 照 度 を 計 算 す る の に 必 要 な 追 加 段 階 で す。
INCOHERENT 光線が斜めの角度で検出器平面に当たると、ASAP は、各ピクセル
内のすべての光線の光束を合計して、このピクセルの全光束を決定します。このタ
イプの「バケツ計算」は、光線が進んでいる方向とは無関係に、正確な放射照度を
得ることができます。これは、検出器平面に斜めに当たっている光線グループは、
大きな面積に広がるからです。
このような入射効果角度の「自動」矯正は、ガウス ビームを追跡する際には適用
されません。デフォルトでは、 SPREAD NORMAL と FIELD ENERGY は、計算
面の電界のエネルギー密度に比例する値を計算します。 SPREAD NORMAL と
FIELD ENERGY の両方のコマンドは、 FIELD または SPREAD 計算に先立って
IRRADIANCE コ マ ン ド を発行することにより、(光学面法線の方向のエネル
ギー密度の成分に比例する)放射照度を計算するように構成できます。このコマン
ド は、
「IRRADIANCE OFF」コマンドが発行されるまで、その後の FIELD
ENERGY または SPREAD NORMAL コマンドすべてに対して有効です。
IRRADIANCE コマンドは、各ビームを解析面に投影することにより機能します。
電界全体を面に投影することが理想的です。このコマンドは、方向が個々のビーム
の方向と一致する電界だけに該当します。傾斜した平面波に対して適切に機能しま
すが、焦点での電界には機能しません。
PROPAGATE コマンド
PROPAGATE コマンドは、角スペクトルを使った自由空間伝搬を実施します。コ
マンドは、まず光線セットから FIELD を計算し、その電界で高速フーリエ変換
(FFT)を行って角スペクトルを求めます。次に位相伝搬関数を適用し、結果を逆
変換してさらに先の点での電界を求めます。光線を物理的に移動させるのではない
ため、主に ASAP で使用される他のテクニックを交差検証する際に役立ちます。
36
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
光源の視野は、一様であり、正方形に切られています。そのため、光源から 5 mm
離れた電界は、PROPAGATE コマンドを使って 2 回生成されます。最初は、FIELD
ENERGY 0 PROPAGATE 5 で光源から 5 mm 離れた電界を生成します。この電界
の対数エネルギーの画像と、 FIELD ENERGY 0 PROPAGATE 5 コマンドを実
行したときにコマンド出力ウィンドウに表示される応答を図に示します。図を見る
と、電界は、ビームを考慮してまず Z=0 で計算され、次に上述の伝搬テクニック
を使って 5 mm 離れた電界が計算されています。
PROPAGATE コマンドの使用については、38 ページの「サンプル スクリプトと出
力 : PROPAGATE コマンドの使用 パート 1(上は Editor、中央はコマンド出力、下
は Display Viewer)」と 39 ページの「サンプル スクリプトと出力 : PROPAGATE コ
マンドの使用 パート 2」に解説があります。
ASAP テクニカル ガイド
37
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
サンプル スクリプトと出力 : PROPAGATE コマンドの使用 パート 1(上は Editor、
中央はコマンド出力、下は Display Viewer)
38
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
2 回目は、 FIELD ENERGY 4 PROPAGATE 1 で光源から 5 mm 離れた電界を
生成します。この電界の対数エネルギーの画像と、コマンド出力ウィンドウの結果
を図に示します。図を見ると、電界は、ビームを考慮してまず Z=4 で計算され、次
に上述の伝搬テクニックを使ってさらに 1 mm 離れた電界が計算されています。ど
ちらの結果も、ほぼ同じです。
サンプル スクリプトと出力 : PROPAGATE コマンドの使用 パート 2
パート 1 とパート 2 に見られる微妙な差は、ガウス ビームの伝搬と PROPAGATE
テクニックの違い、そしてそれぞれの計算に固有なパラメータによって生じたもの
です。パラメータの最適化を図ると、差をさらに小さくすることができます。どち
らの場合も、ビームは Z=0 の位置にあります。
ASAP テクニカル ガイド
39
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
BEAMS COHERENT DIFFRACT モードでの偏光分析
POLARIZ コマンドと FIELD...DELTA オプション
FIELD は、COHERENT モードで複素電界を計算するために使用できます。これは、
スカラー場と、偏光を含むベクトル場の両方に適用できます。スカラー場の場合
は、ピクセルごとに 1 つずつの複素電界値が計算され、偏光の場合は、ピクセルご
とに 3 つの複素電界値(グローバル座標 X、Y、Z の偏光成分につき 1 つずつ)が
計算されます。そのため、COHERENT 偏光分析で使用できるピクセルの最大数は、
各 次 元 で 3 の 平 方 根 の割合で減少します。SPREAD NORMAL コマンドでは、
COHERENT のスカラー場について電界エネルギーを計算することができます。ただ
し、偏光が考慮されないため、偏光電界に使用すると正しい結果が出ません。偏光
電界のエネルギーは、FIELD ENERGY コマンドで計算します。このコマンドでは、
X、Y、Z 成分の 2 乗が正しく合計され、全電界エネルギーが求まります。
ある偏光の電界について、さまざまな電界成分を ASAP で検討するためには、まず
POLARIZ コマンドを発行して検討する成分を指定する必要があります。(前に紹
介したとおり、このコマンドには、後で光源を作成するときのために偏光状態を設
定する機能もあります。)この作業は、前述のようにすべての成分を平方して合計
する FIELD ENERGY を除き、すべての電界パラメータで必要です。何らかの形で
FIELD コマンドを発行した場合は、次の例に示すコマンドを使って各成分の位相
を調べる必要があります。
POLARIZ X
DISPLAY 29 PHASE
!! displays x-pol phase
POLARIZ Y
DISPLAY 29 PHASE
!! displays y-pol phase
POLARIZ Z
DISPLAY 29 PHASE
40
ASAP テクニカル ガイド
!! displays z-pol phase
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
POLARIZ コマンドでは、各成分に含まれるエネルギー量を特定することもできま
す。FORM 2 コマンドとともに使用して振幅(または係数)の値をピクセルごとに
2 乗すると、特定の偏光成分のエネルギー マップが作成できます。
その例を次に示します。
POLARIZ X
DISPLAY 29 AMPLITUDE
FORM 2 !! generates array of x-pol energy values
POLARIZ Y
DISPLAY 29 AMPLITUDE
FORM 2 !! generates array of y-pol energy values
POLARIZ Z
DISPLAY 29 AMPLITUDE
FORM 2 !! generates array of z-pol energy values
ASAP テクニカル ガイド
41
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
FIELD コマンドと DELTA オプションを併用すると、楕円偏光のプロットが作成で
きます。PLOT POLAR コマンドの場合とは異なり、FIELD...DELTA コマンドで
作成したプロットでは、該当する相対位相を使ってビーム電界の重なりが総計され
ます。これにより、ビームが正常ビームと異常ビームに分かれた後でも、楕円偏光
が正しくプロットされます。その例を次に示します。
同じ電界を PLOT POLAR コマンドと FIELD...DELTA コマンドの両方で検討した例
42
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
CO HE RE NT 光源
本項では、 COHERENT 光源の作成について説明します。2 つの光源タイプをある
程度まで詳細に検討します。
• 面または球面波のモデル化に使用する GRID 光源
• 非点収差のエルミート - ガウス型電界モデル化に使用する GAUSSIAN 光源
RAYSET コマンドを使って COHERENT のシングルビーム光源を作成することも
できます(59 ページの「RAYSET コマンドを使用した基本ファイバ モードの作成」
を参照)。
DECOMPOSE コマンドを使うと、電界データから任意の光源タイプが作成できま
す(69 ページの「電界の分解」を参照)。
大きく発散する小さな光源は、DECOMPOSE DIRECTION で作成します(99 ページ
の「DECOMPOSE DIRECTION を使った、強く発散する小さな光源の作成」を参照)
。
EMITTING 光源(EMITTING RECT、 EMITTING OBJECT など)は、ここで
は機能しません。以前は分散光源をモデル化するために使用されたこの光源クラス
全体は、 COHERENT モードでは許可されていません。
ビーム重ね合わせ法を使う際にモデル化する COHERENT 光源に共通する次の 2 つ
の固有な問題を扱います。
• WIDTHS コマンドの実際の機能は何か? また通常 1.6 が正確な値であるのはな
ぜか ?
• 集合で使われるビーム数は ?
グリッド光源
前項では、COHERENT 法の紹介として、ASAP GRID 光源の例が使われました。グ
リッドの正確な間隔とグリッド内のビームの場所は、単純な幾何光線追跡の場合よ
りも、はるかに重要な影響を波動光学解析に対してもたらす場合があります。この
タイプの情報はしばしば、小ビーム群の集合で幾何を適切にサンプリングしている
かどうかの決定に関して非常に重要になります。
先に見たように、 GRID RECT コマンドは、 COHERENT モードで使われると、
SOURCE DIRECTION で共用される際に切頭平面波を作成します。GRID は、面
内に矩形のビーム配列を作る一方で、 SOURCE は、グリッド内のビームに方向を
割り当てます。このコマンドは、幾何光線の INCOHERENT グリッドに対して使っ
た形態とまったく同じです。
「COHERENT モード内の GRID RECT」は、基本的パラ
メータとその意味を示しています。
ASAP テクニカル ガイド
43
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
x 方向の最小お
よび最高延長
x および y 方
向のビーム数
GRID RECT Z z x x' y y' n n'
ソース軸と
軸にそった
位置
y 方向の最小お
よび最高延長
y'
y' - y
x
x'
s
s/2
y
x' - x
COHERENT モード内の GRID RECT
44
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
光源のサイズは、x'-x と y'-y の差によって定義されます。光源の面積はそれゆえ、
次のように表わされます。
光源面積 = ( x' – x ) ( y' – y )
これは、光束規格化(補足説明、
「グリッド光源内のビーム別光束」を参照)の観
点から重要なことです。ただし、
(27 ページの 44 ページの「COHERENT モード内の
GRID RECT」三角形でマークされている)光線は、光源面積境界線のエッジまで
ずっと広がっていません。個々のビームは、最も近いビームから(いずれかの軸
の)光源ウィンドウのエッジまでの距離がその軸の隣接ビーム間の距離のちょうど
半分になるように、間隔が開けられています。ビームの分離は、次のように表わさ
れます。
( x' – x )
( y' – y )
sx = ----------------- および sy = ----------------n
n'
ただし、幅の縁は、光源面積のまわりの x- 方向で s x ⁄ 2 で、y 方向でs y ⁄ 2 です。
この分離により、遠視野回折パターンのサイズが光源ウィンドウのサイズに対応す
るようになります。
GRID ELLIPTIC コマンドの機能は GRID RECT と大体同じですが、ただ、矩
形ではなく楕円形の切頭を生み出す点が異なります。両方の場合とも、光源を構成
している光線は、前述のように矩形のグリッド上で間隔が開けられています。
グリッド光源内のビーム別光束
GRID 光 源 の ビ ー ム 別 光 束 を 計 算 す る 方 法 は、
COHERENT ASAP の 場 合 と は 異 な り ま す。
INCOHERENT の場合、光線別光束の割り当ては、
COHERENT の場合のビーム別光束の割り当てよりも
かなり簡単です。これは、COHERENT の光束計算プ
ロセスは、前述のように、INCOHERENT の場合よ
り も 複 雑 で あ る か ら で す(20 ペ ー ジ か ら 始 ま る
「COHERENT 解 析 ツ ー ル : FIELD お よ び SPEAD
NORMAL」の COHERENT 光 束 の 一 般 的 説 明 を 参
照)。INCOHERENT モードでは、光線別光束は、
1 単位の面積(システム単位の 2 乗)につき 1 単位の
光束を持つ光源を生み出すように割り当てられてい
ます。N 光線をもつ INCOHERENT グリッド光源で
は、光線別光束は次のように表わされます。
INCOHERENT flux per ray =
source area
N
COHERENT モードでは、ビーム別光束は、1 のエネ
ルギー密度値をもつ光源を生み出すように割り当て
られています。ビーム別光束は、次のように表され
ます。
COHERENT flux per beam =
source area
2 Nw2
ただし、N は合計ビーム数、w は現在の WIDTH パラ
メータ値です。この公式は、w 2 因数をもたない単一
ビームからなる光源以外は、成り立ちます。
ASAP テクニカル ガイド
45
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
これらの同じグリッドを SOURCE POSITION または SOURCE FOCUS ととも
に使って切頭球面波を作ることができます。 SOURCE POSITION は、指定の位
置から発散するように見えるビームを作る一方で、 SOURCE FOCUS は、指定の
点光源に収束するように見えるビームを作ります。もちろん、回折はこの幾何学的
点光源に焦点を合わせることを妨げますが、これが「最適焦点」の場所です。
「サ
ンプル スクリプトと出力 : 切頭球面波の等角プロット」は、GRID ELLIPTIC と
SOURCE POSITION によって作成されています。
エディタ
サンプル スクリプトと出力 : 切頭球面波の等角プロット
GAUSSIAN コマンド
GAUSSIAN コマンドは、その全電界もガウス型またはエルミート - ガウス型電界
分布である個々のガウス分布のグリッドを作ります。一般的にこれは、典型的な
レーザー ビームをモデル化するために使われます。 GAUSSIAN は、 COHERENT
モードでのみ使うことができます。
46
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
ASAP 内でガウス ビームをモデル化するのになぜガウス ビームの集合が必要なの
でしょうか? 1 つで十分なのでは? 実際のところ、自由空間伝搬をモデル化するに
は、1 つのビームで十分です。ただし、単一のガウス ビームでは十分ではないタイ
プの状況が 2 つ存在します。
1
高次光学面の大きすぎる領域をサンプリングするガウス ビームは、ガウス型としてとどまり
ません。ビーム数が多い場合、各ビームは小領域をサンプリングするので、この問題は回避
されます。
2
開口回折が関与します。後述のように、開口の中心を通過する単一のガウス ビームは開口の
形状を無視します(57 ページから始まる「開口サンプリング用の DECOMPOSE POSITION」
を参照)。基本光線が通過すると、電界全体が通過します。開口の効果は、開口の形状を模擬
するグループ分布をともなった一式のビームが開口の場所から伝搬することを許可されてい
るときに明らかになります。このことは、最初のビームが複数のガウス分布から成り立って
いる場合のみ、可能です。
GAUSSIAN コマンドは簡略形と詳細形で使用できます。
GAUSSIAN 簡略形
この形態のシンタックスは、
「サンプル スクリプトと出力 : GAUSSIAN コマンド(簡
略形)」で例示されています。
左右対称軸に
そったビームの
開始場所
左右対称軸と
伝播方向
ウェストの場所
ウェストサイズ
各方向の
ビーム数
0.456 ポイントで定義された幅
代替形態
発散 1/2 角度(ラジアン)
発散 1/2 角度(度数)
サンプル スクリプトと出力 : GAUSSIAN コマンド(簡略形)
ASAP テクニカル ガイド
47
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
この簡略形により、放射状対称で非点収差を有しない基本モード(0,0)エルミー
ト - ガウス ビームが可能になります。次のパラメータを指定する必要があります。
X、Y、または Z
ガウス ビームの対称軸です。この軸は、同時に伝搬方向です。
x、y、または z
対称軸のビームの開始場所です。
xí、yí、また
は zí
対称軸にそったビーム ウェストの場所です。 GRID 光源用の
SOURCE POSITION および SOURCE FOCUS の場合のよ
うに、ビームは、どの面でも作成可能ですが、指定のウェス
ト場所に向かって発散または収束しているかのように振舞い
ます。
n
対称軸に垂直の各軸内のビーム数です。この値は、 GRID
ELLIPSE で指定された値に似ています。簡略形の GAUSSIAN
コマンドでは非対称は許可されていないので、各方向の光線数
は同数である必要があります。このため、1 つの値で十分です。
a
ビームのウェスト半径または発散の半角です。これらの 2 つ
の量はガウス ビームに関して相関しているので、一方を指定
すると必然的に他方が指定されます。ウェスト半径と発散角
度の 1/2 間の関係は次の通りです。
λ
θ = -----4a
系の単位において、 λ は波長、a はウェストの半幅です。
1/2 角度の θ は、コマンド入力ウィンドウでの指定に応じて、
度数またはラジアンのいずれかで表現可能です(30 ページの
47 ページの「サンプル スクリプトと出力 : GAUSSIAN コマン
ド(簡略形)」を参照)。ビーム発散角度用のこの式は多くの
テキストで提示されたものとは異なることに注目してくださ
い。この差は、ASAP が振幅内のビーム ウェストを定義する
π
π
–2
ために e . ではなく e – --4- ポイント(エネルギー用には – --2- )
e
を使っている結果生まれています。詳細については、補足説
明、32 ページの 49 ページの「ガウス ビーム、ビーム ウェス
ト、および発散の ASAP 定義」を参照してください。
GAUSSIAN コマンドは、ビーム方向を指定するために、SOURCE コマンドを必要
としません。集合内のビームに方向を割り当てるために必要なすべての情報は、
GAUSSIAN 指定に提示されています。
48
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
ガウス ビーム、ビーム ウェスト、および発散の ASAP 定義
物理学と数学では、ガウス分布を定義するために多く
の規則が存在します。ASAP では、全出力積分を簡略
化するバージョンを使います。この結果、ASAP のガ
–2
ウス分布の半幅は、電界の振幅が一般的な e 倍率
π
点ではなく、 – --4- の因数で換算される点として定義さ
れます。PLOT BEAMS を使用する際プロットされる
π
のはこれらの e – --4- 振幅の輪郭であることに注目して
ください。これらの 2 つの規則の差異は、次にまとめ
られています。
e
一般
ASAP
ガウス定義
(振幅)
r
2
πr
– ----2-
U = U0 e
幅定義
(振幅)
w
r
U = U0 e
2
– ----2-
U = U0 e
2
– -------2-
w
= U0 e
r=w
–1
= 0.368 U 0
U = U0 e
−
4a
π r2
4 a2
= U0 e
−
π
4
= 0.456U 0
r=a
ガウス定義
(パワー)
I = U 2 = I0 e
幅定義
(パワー)
I = I0 e
-2
−2
r2
−
w2
I = U 2 = I0 e
r2
w2
= I0 e
−2
= 0.135 I 0
I = I0 e
−
π r2
2 a2
θ e−2 =
λ
π w0
ただし、λ は波長で、w0 は
半幅。
ビーム ウェスト :
a0 =
π
w0 = 0.886 w0
4
= I0 e
−
π
2
= 0.208 I 0
r =a
r =w
遠視野
発散
π r2
2a2
θ asap =
e−2 ビーム ウェスト
λ
4a0
ただし、λ は波長で、a0 は
半幅。
ビーム発散 :
θ asap =
e
−
π
4 ビーム ウェスト
π
θ −2 = 0.886θ e−2
4 e
ASAP テクニカル ガイド
49
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
GAUSSIAN 詳細形
GAUSSIAN コマンドの 2 番目の形態(詳細形)は、より一般的です。基本的シン
タックスは、
「サンプル スクリプトと出力 : GAUSSIAN コマンド(詳細形)」で示さ
れています。
非点収差の補正ビーム
の1番目と2番目の場所
軸とビーム
の場所
非対称ガウス ビーム
モード指定
各軸にそった
ビーム数
非点収差の補正ガウス ビーム
0.95
エルミート-ガウス 0 1 モード
ウェストまた
は発散
1.05
エルミート-ガウス 2 1 モード
サンプル スクリプトと出力 : GAUSSIAN コマンド(詳細形)
50
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
詳細形は、次の 4 種の柔軟性を追加します。
1
ビームは非点収差が可能です。ビームが Z 方向に伝搬している場合、Z にそって 2 つのウェ
スト場所を(1 つは X に、もう 1 つは Y に)指定することができます。
2
各方向のビーム数は別々に指定できます。(最適のビーム数の選択については、37 ページか
ら始まる「ビーム数」でさらに詳細説明があります。
)
3
4
(0,0)以外のエルミート - ガウス ビーム モードの指定が可能です。
ビームは非対称でありえます。ビームが Z 方向に伝搬している場合、X および Y 方向に異な
るビーム ウェストまたは発散を指定することができます。
非点収差のビーム、非対称ビーム、および 2 つの高次エルミート - ガウス モード
も、33 ページの 50 ページの「サンプル スクリプトと出力 : GAUSSIAN コマンド
(詳細形)」で例示されています。各ビームの下には、それを作成した GAUSSIAN
コマンドが示されていて、該当のパラメータが強調表示されています。
WIDTHS パラメータ
11 ページから始まる「ASAP 波動光学の基本的な方法」で紹介されたコマンドの
1 つは 13 ページ WIDTHS でした。このパラメータは、隣接ガウス ビーム間の重
複量を制御します。
実質的にすべての COHERENT ASAP 光源はグリッド内のビームの集合から成り
立っているので、このパラメータは光源の性質を確定する上で重要な役割を果たし
ます。GRID または GAUSSIAN 光源のいずれを使って光源を定義している場合で
も、この役割は変わりません。定義上、ASAP WIDTHS パラメータが 1.0 に設定さ
π
れている場合は、隣接ガウス ビームは、振幅がその最大値の e – --4- = 0.456 倍に減少
された場所で接触します(補足説明、32 ページの 49 ページの「ガウス ビーム、
ビーム ウェスト、および発散の ASAP 定義」を参照)。
ASAP テクニカル ガイド
51
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
幅パラメータは線形です。このため、
「WIDTHS 2.0」コマンドは、WIDTHS 1.0
π
の 2 倍の幅をもつビームをもたらします。WIDTHS 2.0 では、e – --4- 輪郭は、隣接
ビームの中心を通過します。両方の場合が、ビームの 5x5 グリッド上の PLOT
BEAMS を使った「WIDTHS パラメータ」で示されています。
WIDTH PARAMETER 1.0
.65,.885507
Y
X
-.65,-.885507 mm
WIDTH PARAMETER 2.0
.65,.885507
Y
ASAP Pro
X
-.65,-.885507 mm
ASAP Pro
WIDTHS パラメータ
π
PLOT BEAMS コマンドが生成する円は、e – --4- ビーム振幅輪郭です。これらはまた、
各ビームと関連したウェスト光線の開始オフセットをマークします。「光源上の
ビーム幅の効果」を参照してください。
光源上のビーム幅の効果
52
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
この図では、切頭平面波を表わすように意図したビームの 10x10 配列をもった
GRID RECT を使って、3 つの光源が作られています。3 つの光源は、1.3、1.6、お
よび 1.9 に設定された各 WIDTHS パラメータの値以外は同一です。
52 ページの「光源上のビーム幅の効果」は、値がより大きな WIDTHS パラメータ
で作られた光源は、頂点がより平坦(波紋がより少ない)ですが、光源の切頭エッ
ジの側面は、 WIDTHS 値がより小さい光源ほどの傾斜度がありません。大部分の
場合、1.6 の値が、これら 2 つの背反する要因の妥協点であると思われます。かす
かな波紋がある程度存在しますが、この波紋の振幅は、37 ページから始まる「ビー
ム数」で説明されているように、集合内の光線数を増やすことで減らすことができ
ます。
GRID 光源内では、個々のビームの半径は、次の公式に従って決定されます。
a=




1
2 grid dimension in one axis
number of beams in same axis

×w


π
– ---
ただし、a は計算面内のビーム半径( e 4 ポイント)で、w は WIDTHS パラメータ
の値。このポイントは、WIDTHS 1.6 の光源ウィンドウ 1 mm x 1 mm 内のビーム
の 4 x 4 配列に関して、
「サンプル スクリプトと出力 : 光源ウィンドウ内のビームの
配列」で例示されています。
GRID RECT Z 0 [email protected] 4 4
SOURCE DIRECTION 0 0 1
4 X 4 Beams on a 1 mm X 1 mm GRID
.75,1.02174
a = 0.2
x-x' =1 mm
X
Y
-.749999,-1.02173 mm
y-y' = 1 mm
ASAP Pro
サンプル スクリプトと出力 : 光源ウィンドウ内のビームの配列
ASAP テクニカル ガイド
53
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
53 ページの公式を使うと、
「サンプル スクリプトと出力 : 光源ウィンドウ内のビー
ムの配列」(同じく 53 ページ)用のビーム半径 a は次のように表わされます。
1 ⁄ 2 × 1mm
a =  -------------------------- × 1.6 = 0.2mm (両軸で)
4
オンライン ヘルプでは、 WIDTHS コマンドをもつ 2 番目のパラメータ h も示され
π
ています。このスケール因子により、e– --4- ポイントに相対的にウェスト パラベーザ
ル光線を移動することができるようになります。ウェスト光線を少し基本光線に近
づけることが有益になりえる例が少数ありますが、不適切に使用すると深刻なエ
ラーが発生する場合もあります。一般的には、2 番目の WIDTHS パラメータはそ
のデフォルト値の 1 にしておくように推奨します。
ビーム数
COHERENT ASAP 光源の確立時に使用すべき正しいビーム数に関しては、一般的
な規則はありません。数が多いほど適切なことがよくあります。ビームの数が多す
ぎると、個々のビームの幅が小さくなりすぎる場合もあります。これにより、
(非
常に小さいビームが大きな発散角度をもつので)この方法の基礎になっている近軸
前提が崩れます。また、ビームの数が大きいとそれだけ追跡時間がかかるので、必
要以上の数のビームを作らない方がいいでしょう。最後に、次の各項では、光学系
のフロントエンドで最適に機能するものがビームのシステム内伝搬時に理想的で
あるとはかぎらないことが示されています。本項では、実行可能な最初の光源を生
成することに集中し、サンプリング中の光学系全体に使った最初のビーム数に合わ
せるための大体の指針だけが提示されています。本書の後半で、ASAP が伝搬中に
問題の警告をする場合にビームを修正する方法を学びます。
54
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
51 ページから始まる「WIDTHS パラメータ」では、グリッド内のビーム数を増や
すと、波紋効果を減らし、切頭平面波のエッジ斜面を増やすことができることが示
唆されました。この効果は、
「ビーム数増加の効果」で示されています。ビーム数
を 10x10 から 40x40 に増やすことにより、切頭平面波の側面の傾斜度がさらに高く
なり、頂点領域がさらに均質になります。
ビーム数増加の効果
上の図では、2 つの ASAP GRID RECT 光源からの電界の等角表示が示されていま
す。左側の光源は、10x10 ビーム グリッドでできていて、斜面エッジと残っている
いくらかの波紋を示しています。右側の光源は、40x40 グリッドを使い、かなりの
改善が示されています。 WIDTHS パラメータは両方のケースとも、1.6 です。
ASAP テクニカル ガイド
55
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
使用ビーム数が少なすぎると、電界の均質性だけでなく、その全エネルギーにも影
響を及ぼします。この結果は、
「計算済みエネルギー密度の比較」で示されている
ように、2x2 ビームの GRID RECT 光源用に計算されたエネルギー密度を 41x41
ビームのエネルギー密度と比較することでわかります。
計算済みエネルギー密度の比較
最高エネルギー密度は、グリッド内のビーム数によっても影響を受けます。左側の
例は 2x2 グリッドのビームでできています。これは、切頭平面波の貧弱なシミュ
レーションであるだけでなく、右側の 41x41 ビーム グリッドで達成されているよ
うな、期待される単位 エネルギー密度にはるかに及んでいません。光源は、単位
面積を占めるので、1 のエネルギー密度をもっているはずです(補足説明、28 ペー
ジの 45 ページの「グリッド光源内のビーム別光束」を参照)。ただし、この図で
は、2x2 ビームで生成された電界の最大エネルギー密度値は 0.716 にしか過ぎず、
均質ではありません。これはガウス型のように見えます(4 本のガウス ビームから
成り立っているので、このことは驚くべきことではありません)。
56
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
その反面、41x41 ビームの電界は、最大値が 1 で、均質です。この動作は、57 ペー
ジの「模擬平面波の全エネルギー」で詳細に示されています。この図では、ウィン
ドウ内の全エネルギーが GRID 光源内の(軸別の)ビーム数の関数としてプロット
されています。電界の全光束は、ビーム数が多いほど正確になります。
模擬平面波の全エネルギー
高い空間周波数の複雑な電界を正確に記述できるようにより多くのビームを使う
ようにも強制されています。同様に、高傾斜度の曲率または高い空間周波数をもつ
システム内の開口、レンズ、その他の光学的要素を適切にサンプリングするため
に、より多くのビームが必要とされています。これらの状況は、「サンプリングの
改善を目的としたビーム サイズの縮小」と 58 ページの「小ビーム群を使った開口
サ ン プ リ ン グ の 改 善」で例示されています。本ガイドの後半で DECOMPOSE
POSITION を説明する際に、サンプリングについてさらに詳しく説明します。要
約すると、大部分のシステムは、ビームの数が多いほど、それだけうまくシミュ
レートがなされます。
ASAP テクニカル ガイド
57
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
サンプリングの改善を目的としたビーム サイズの縮小
サンプリングされている光学面の空間周波数と比べて大きなビームは正確な結果
をもたらしません。
小ビーム群を使った開口サンプリングの改善
開口をサンプリングするために使うビームの数が少なすぎる場合(上の図の左側を
参照)、個々の各ガウス分布はそのエネルギーのすべてをともなって通過するか、
または開口によって吸収されて、障壁の背後の電界に何も寄与しないので、不正確
な結果が得られます。ビーム数を増やすと、より適切な結果が得られます。開口の
範囲の外側に鋭利なカットオフをもった新しい一式のビームに電界を分解するこ
とで最高の結果が得られます。これは、69 ページから始まる項、
「電界の分解」で
説明されています。ただし、使用するビーム数が多すぎると、次の 3 つの重要な問
題が生じます。
5
定義するビーム数が多いほど、それだけ光線追跡とその後の電界計算に時間がかかります。
6
集合を構成している個々のビームが波長と比較して小さくなりすぎる場合があります。グ
リッド光源のビーム数を増やすと、個々のビームのサイズは必然的に小さくなります。ビー
ムがどれだけ小さくなれるかについては、基本的近軸前提の一部が崩れてしまう限界があり
ます。
58
ASAP テクニカル ガイド
7
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
最初小さいビームは、発散角度が大きく、プロセス内で後で多きくなりすぎる場合があり
ます。
最初の問題(光線追跡と計算の速度)は、数が多いほどよい一方で時間がかかりす
ぎることのあるモンテカルロ光線追跡アプリケーションでよくある問題です。2 番
目の問題(個々のビーム サイズ)はもっと微妙です。ASAP は、集合内の個々のガ
ウス分布のビーム ウェストが 1 以下の波長である場合、警告を出します(63 ペー
ジの「Warning *** Beam height in waves...」を参照)
。
GAUSSIAN コマンドにより、多くの状況でこの小ビーム群拘束を克服することが
できます。ビーム開始場所をウェストからかなり下流に指定することにより、小
ビーム群の大グリッドを非常に小さい面積に締め付けることを避けることができ
ます。電界は依然としてウェストで正確ですが、個々のビームは、十分な幅をもっ
て確立するので、問題なく伝搬します。
注意 このテクニックは、全ガウス ビームがビームの波長と同程度であるときは、不適切
な場合があります。光源を作成して任意の形状の小電界を表わすには、 DECOMPOSE
DIRECTION コマンドを使ってください。これは、69 ページから始まる「電界の分解」
で説明されています。
要約すると、最適な光源へのビーム数割り当て法は、適切な全光束をもつ、低波紋
波面を生み出すのに必要な最低限数を使うことです。これを確認するために、光源
が作成され次第、 SPREAD NORMAL または FIELD ENERGY 計算を実行して、
結果の ISOMETRIC のプロットを作って光源の動作を確認することができます。
ビームをシステム内に通過させるとき他の問題が発生します。たとえば、システム
内の光学的要素を正確にサンプリングできるように、ビーム数を増やす必要がある
場合があります。ASAP は、問題が発生している場合、プロセスの各時点で警告と
エラー メッセージを発行します。これらの問題は次項で説明されています。
RAYSET コマンドを使用した基本ファイバ モードの作成
COHERENT ASAP での RAYSET コマンドの用途のうち、最も一般的なものの 1 つ
は、基本ファイバ モードに合った光源の作成です。ステップインデックス型光ファ
イバの基本モードの振幅は、ベッセル関数です。ガウス ビームは、多くの応用例
で基本ファイバ モードのよい近似として使えますが、この 2 つの関数には、特に
振幅の低い裾の部分で大きな差があります。ファイバ クロストークなどの効果を
モデル化する場合、ビームの裾が隣接経路に重なるために、正しいファイバ モー
ドの使用には、リスクがあります。基本ファイバ モードを作成するときの RAYSET
コマンドのシンタックスを次に示します。
RAYSET Z z
x y f x' y' k s
コマンド シンタックスの最初の行には、光源面とその場所が含まれます。2 行目に
は、光源面の他の 2 つの座標(x と y)の値、初期ビーム光束(f)、.2 つのコア半
ASAP テクニカル ガイド
59
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
径(x′ と y′)、形状パラメータ(k)、および正規化周波数(V パラメータともいう。
「電界の導波路モードへの結合」の項を参照)の値が含まれます。この光源は、円
形コ ア フ ァイ バ専 用な ので、x′ は y′. に等しくなければなりません。光源が
COHERENT であることを表すため、形状パラメータの前にマイナス符号を付ける
必要があります。基本ファイバ モードの場合、形状パラメータは、名前の FIBR .
または番号の -9 を使って指定します。コア半径が 4.1 系単位、V パラメータが
2.135 である基本ファイバ モードの光源の例を次に示します。RAYSET コマンドの
後には、続けて SOURCE DIRECTION コマンドを使用する必要があります。
サンプル スクリプト : RAYSET コマンドと後続の SOURCE DIRECTION コマンド
偏光光源の作成
偏光光源を作成する前に、POLARIZ コマンドを発行する必要があります。このコ
マンドによって、その後に作成される光源の偏光が設定されます。POLARIZ コマ
ンドで指定された偏光状態は、
別の POLARIZ コマンドが発行されるまで有効です。
POLARIZ コマンドは、個々の電界成分 X、Y、Z の属性を調べるためにも使用でき
ます。この 2 つめのタイプの POLARIZ コマンドの応用は、本テクニカル ガイドの
解析に関する章ですでに説明されています(40 ページの「POLARIZ コマンドと
FIELD...DELTA オプション」の項を参照)。
一般的に使われるジョーンズ ベクトルでの表記と同様、POLARIZ コマンドの場合
も、光の偏光状態は、2 つの直交偏光の状態の複素振幅を特定することで表します。
意図した状態の偏光を作成する ASAP シンタックスを次に示します。
POLARIZ 光源の例
POLARIZ という語に続けてグローバル軸の X、Y、Z のいずれかを入力します。a
の値は、そのグローバル軸方向での偏光成分の複素振幅を指定するものです。a 項
に続く a′ 項は、a 偏光成分と光線方向の両方に直交する偏光成分の複素振幅です。
ROTATE または SOURCE DIRECTION は、光線の作成後に適用され、光線の伝搬方
向に直交であり続ける偏光方向を生成します。POLARIZ コマンドを使っていろい
ろな偏光状態を指定する例を次に示します。
60
ASAP テクニカル ガイド
横方向の線状
Horizontal
linear
Left-hand
circular
左回りの円形
縦方向の線状
Vertical linear
Right-hand
Circular
右回りの円形
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
POLARIZ コマンドで 4 つの偏光状態を指定した例
3 つのグローバル軸のいずれかに沿って偏光する線形偏光状態は、a と a′ の値を明
示的に設定せずに指定できます。その例を次に示します。
POLARIZ X
同じ偏光状態を指定する方法が他にもいくつかあります。たとえば、次に示す 3 つ
の POLARIZ コマンドは、すべて同じ X 偏光の状態を指定しています。
POLARIZ X
POLARIZ X 1 0
POLARIZ Y 0 1
ASAP の光源作成コマンドである GRID、GAUSSIAN、RAYSET および DECOMPOSE
は、完全偏光した光を作成します。前述のとおり、偏光状態は、ジョーンズ ベクト
ルと似た形式で POLARIZ コマンドを使って入力します。部分偏光状態を作成する
には、
偏光の異なる光源の組み合わせを非コヒーレントに集計する必要があります。
ASAP テクニカル ガイド
61
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
警告とエラー
COHERENT モード内の警告とエラー
ASAP で取り組む波動光学問題の多くでは、光線追跡は単純で明解です。アイリー
ディスクでの例のように、ビームは、問題なくシステム内を通過して、正確な結果
をもたらします。ただし、他のケースでは、ASAP では、方法の基本的前提が崩れ
たことを知らせる警告またはエラーメッセージを発行します。
警告とエラー メッセージは、次の場合を含む各時点で表示される場合があります。
• 光源の作成時
• 光線追跡の間
• 電界計算の間
これらのメッセージは、作業努力を放棄する必要のあることを意味することはまず
ありません。大部分の場合、解決法が存在します。エラーの原因を理解して、矯正
処置を取った後で解析を続行する必要があるだけです。
62
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
光源作成のエラー
Warning *** Beam height in waves...
このエラーは、ASAP が新光源に光線を作成しようとする際に発生します。このエ
ラーは、個々のガウス ビームが小さくなりすぎているときに発行されます。
1 mm 波長の、各側面が 0.02x0.02 mm の空間に 17x17 グリッドを作成してみてくだ
さい。
WAVELENGTH 1 UM
WIDTH 1.6
GRID RECT Z 0 [email protected] 17 17
SOURCE DIRECTION 0 0 1
光源が作成され次第、コマンド出力ウィンドウに次の警告が表示されます。
--- GRID RECT Z 0 [email protected] 17 17
Warning *** Beam height in waves = .9411765
これらの条件では、近軸波動方程式に組み込まれている「ゆっくりと変化する包絡
線」の前提が崩れています。おおまかな規則としては、個々のビームの半径は、少
なくとも放射波長の 2.5 倍である必要があります。
この問題の解決方法は次の通りです。
• 光源作成のために GAUSSIAN コマンドを使っている場合は、ビーム ウェスト
に最初の光源を作成する必要がないことに留意してください。光線の最初のグ
リッドをウェストから少し離れた場所、おそらくは最初の光学的要素の直前に
定義するようにしてください。電界は依然として、非常に小さなウェストから
伝搬した電界と同じ特徴をもっています。
• 同様に、グリッド光源は、 SOURCE POSITION または SOURCE FOCUS を
使って、光線が非常に小さな面積を占める点光源から離れたところに光線を作
成することができます。
• 最初の光源に多数のビームが必要ですか? 最初に近軸の警告によって少数のビー
ムを使うように強制されなかった場合は(65 ページの「SPREAD または FIELD 計
算中の警告とエラー」を参照)、少数のビームを使うようにしてみてください。電
界を拡張した後、その電界上の DECOMPOSE POSITION を使って後でさらに
ビームを追加することができます。このコマンドは、69 ページから始まる「電界
の分解」で詳細に説明しています。
ASAP テクニカル ガイド
63
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
光線追跡中の光線中断警告
ASAP の INCOHERENT 光線の作業から光線中断警告には馴染みがあることで
しょう。光線追跡中に光線が突然中断すると、ASAP は、光線追跡の終了時に、光
線が停止した場所とその理由を伝えます。光線追跡中に停止する COHERENT ビー
ムの 2 つの追加理由が次の表に示されています。これらは、表の既存の欄にも表示
されています。
ロングサイド
ロングサイド(Wrong-side)エラーは、光線追跡後の光線中断警告の一部です。
Total of
Obj
1
1 PARENT warnings
Total
1
Missed
Multiple
After
Bounce
Wrong
Low
Evanescent
Wrong
Side
Flux
(TIR)
Direc
1
Absorbed
After
SPHERE
INCOHERENT モードでこの警告を受けたときは、インタフェース コマンド上にリ
スト化されているどの媒体も、そのインタフェース上の光線の現在の媒体に一致し
ないことを意味します。
COHERENT モードでは、ロングサイド中断警告は、追加の意味をもつ場合があり
ます。基本光線とそれと関連した 1 本以上のパラベーザル光線は、分離が広がりす
ぎると、まったく異なる光学的要素内の光路を取る場合があります。ASAP では、
パラベーザル光線が基本光線と同じ順序で同じ光学面と相互作用するようになっ
ています。プログラムは光学面を無視し、パラベーザル光線方向を逆転して、パラ
ベーザル光線がその基本光線と同じ順序で同じ光学面と相互作用するように、記述
された境界を超えて数学的に光学面を拡張さえします。ただし、論理が複雑になり
すぎて、ASAP が問題を解決できなくなる場合もあります。基本光線とそのパラ
ベーザル光線のうちの 1 つが反対方向から光学面に達したように見える場合は、
ASAP は、ロングサイド エラーを発行します。
ロングサイド エラーが表示されたら、その原因は、システム内の大範囲の光学面
法線をもった光学面(球体「ボール」レンズなど)または異なる光学面法線をもっ
た 隣接光学的要素(角立方体の面など)である可能性があります。ロングサイド
エラー数を排除、または少なくとも減らすためには、一般的に、問題光学面を追跡
する前にパラベーザル光線を基本光線の近くに移動する必要があります。このこと
は、最初の光源のビーム数を増やすことによって達成することができます。ただ
し、光線追跡が始まってから最初のビームがかなり発散している場合は、これによ
り、状 況 が 悪 化 す る 場 合 が あ り ま す。こ の 場 合 の よ り 適 切 な 解 決 方 法 は、
DECOMPOSE POSITION を使って、問題の光学面の直前に新しいビームを作成
することです。
64
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
もう 1 つの解決方法は、WIDTH コマンドに 2 番目のオプション パラメータを含ま
せることです。特定のガウス ビーム用のパラベーザル光線は、0.456 振幅点光源で
始まることを説明しました。2 番目の WIDTH パラメータにより、基本光線により
近い、高振幅点光源にパラベーザル光線を作成することができるようになります。
トレーシングの後、電界計算実行時に、ガウス分布の幅が正しい値に調整されます。
警告 一般的に、パラベーザル光線を基本光線に近づけすぎることは推奨しません。個々
のガウス ビームは効果的に光学面をサンプリングせず、他の警告とエラーを隠すことが
あります。ただし、このパラメータにより、緊密な空間で「コーナー」に接近して作業
できることがあります。
エバネッセント波(TIR)
内部全反射(TIR)された光線中断警告は、光線追跡の後、1 つ以上の光線が特定
の光学面で停止したことを示唆するために表示されます。INCOHERENT 光源を使
用したとき、光線は、完全に内部反射されたので停止しましたが、光線分割が発生
することを許可しませんでした。 COHERENT ビームに関しては、この警告は、パ
ラベーザル光線が全反射の対象になった一方で、基本光線はその対象にならなかっ
たことも意味する場合があります。
光線中断警告の原因と解決方法は、前述のロングサイド エラーの場合と同様です。
SPREAD または FIELD 計算中の警告とエラー
COHERENT システム解析の間に発生する最も一般的なエラーは次の通りです。
• 近軸の近似からの離脱
• 直交光線セットからの最大限離脱
これらのエラーは、しばしば「近軸離脱違反」と呼ばれています。ASAP は、光源
を構成している個々のビームがもはや GAUSSIAN でないことを伝えています。
ASAP は、理想的にはゼロの値をもっているべき 2 つの光学不変量をテストして、
この条件を検出します(補足説明、66 ページの「光学的不変量」を参照)。この概
念を理解するための最善の方法は、単純例を引用することです。
「球面ミラーの下
軸に向けられた光線のグリッド」では、高速(f/1)の球面ミラーの下軸に向けられ
たグリッドを示しています。ミラー直径はわずか 7.5 mm です。
ASAP テクニカル ガイド
65
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
3D ビューア
球面ミラーの下軸に向けられた光線のグリッド
光学的不変量
ガウス ビームの位相は二次的です。二次位相のビーム
が光学構成要素と交差すると、その後の電界位相上の
効果は、ほぼ入射電界の位相項と光学的要素が導入す
る位相項の数学的合計です。この結果、ガウス ビーム
が二次以上の位相項をもつ光学的要素と相互作用す
るとき、光学的要素の後の電界の位相も、高次項を含
んでいます。電界はもはやガウス型ではありません。
もちろん、小さなエラーは許容できます。さもない
と、このタイプの解析に適した唯一の光学的要素は、
軸で交差した面と放射状光学面になるでしょう。他の
光学面は、べき級数で展開されたとき、高次項をもち
ます。本文で指摘したように、この問題の解決方法
は、各ガウス分布が光学的要素の十分に小さな面積を
サンプリングして、許容レベルの精度で局在的に二次
的にとどまるようにすることです。
二次位相からの離脱を査定できるように、ASAP で
は、SPREAD NORMAL または FIELD を実行するた
びに、いくつかの不変量をテストします。このテスト
66
ASAP テクニカル ガイド
は、光線対光線ベースで行われます。ASAP がコマン
ド出力ウィンドウに送る警告には、次の 2 つの意味が
あります。
• 近軸の近似からの離脱
パラベーザル光線が基本光線について線形領域にと
どまる場合は、複素近軸光学不変量はゼロと等しい必
要があります。いろいろな理由で、パラベーザル光線
が発散して線形でなくなる場合があります。複素近軸
不変量が規定値(デフォルトは 0.1 ウェーブ)を超え
るときはいつも、このメッセージが印刷されます。
• 直交光線セットからの最大限離脱
パラベーザル光線が基本光線について線形領域にと
どまる場合は、複素近軸光学不変量以外にも、いく
つかの直交不変量もゼロに等しい必要があります。
これらの不変量が規定値(デフォルトは 0.1 ウェー
ブ)を超えるときはいつも、このメッセージが印刷
されます。
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
以下の光源で、1 µm 波長の無限の点光源をモデル化しました。
サンプル スクリプト : SPREAD NORMAL 光源
上記のスクリプトでは、11 ビームだけ離れている楕円形のグリッドを使いました。
これらの光線がミラー外で反映することを許可すると、この光源で作成した 97
ビームはすべて、最適の焦点を少し超えた場所にある検出器まで進みました。ただ
し、SPREAD NORMAL 計算をすると、48(ほぼ半分)のビームが次のような警告
をコマンド出力ウィンドウに発行します。
Departure from paraxial approximation for beam
76 is 0.26
waves
Max departure from orthogonal ray set for beam
76 is 0.26
waves
最後の数字(0.26)は、理想的にはゼロであるべき特定の不変量の波長単位の離脱
です(補足説明、66 ページの「光学的不変量」を参照)。この例では、エラーの範
囲は、0.10 ウェーブ(警告の最低しきい値)から 0.26 ウェーブまでです。離脱が
1 ウェーブより小さいかぎり、これらはエラーではなく、警告です。ASAP は依然
として計算を完了し、結果の表示を可能にします。実際には、ビームが 1 ウェー
ブ以上のエラーをもたらすときにのみ、計算が終了します。
Departure from paraxial approximation for beam
2 is 1.6
waves
Error *** Due to previous message, calculation truncated at beam 2
注意 警告と終了値のしきい値を設定することができます。詳細については、オンライン
ヘルプの VIOLATION コマンドのトピックを参照してください。
ASAP テクニカル ガイド
67
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
警告だけが表示されるときでも、通常、答えを信頼することはできません。ただ
し、警告の数と深刻度によります。また、解析中の特定のシステムと必要とされ
る精度にもよります。球面ミラーの問題では、光源内の各ガウス ビームは、この
深い、球面ミラーの大きすぎる面積をサンプリングしています。この問題は、よ
り多数のより小さいビームで矯正することができます。
「一次元光源内のビーム数
(11 および 41)の関数としての全光束」は、GRID コマンド内のビーム数を 7x7 か
ら 41x41 まで増やしたときに何が起こるかを示しています。電界内の全光束は、使
用ビーム数が少なすぎると、不正確になる場合があります。
この点以降は
警告なし
一次元光源内のビーム数(11 および 41)の関数としての全光束
グラフは、11x11 および 41x41 のケース用のエネルギー プロットも示しています。
結像のまわりの小ウィンドウ内の最大光束は増え、最終的に安定化します。元の
最高光束値は、15% だけ低いものでした。電界の等角プロット内に見える形成物
も、ビーム数が増えると消えます。明らかに警告は重要で、さらなる調査を必要
とします。
68
ASAP テクニカル ガイド
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ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
このクラスの問題の最適な解決方法は通常、各ビームがより小さな光学面の面積を
サンプリングするように、使用ビーム数を増やすことです。システムにある光学的
要素は 1 つだけだったので、問題の診断、矯正が簡単でした。システムの光学的要
素の数が多い場合はどうなるのでしょうか ? 検出器上で電界を計算するまでエ
ラー メッセージが表示されない場合、システム内すべてにビームを得ることがで
きるまで元の光源のサイズを増やしつづける必要があるのでしょうか? これはうま
くいくかもしれませんが、最も効率的な処理でない可能性があり、また不可能な場
合もあります。次項で説明される DECOMPOSE コマンドは、多くのケースでより
適切な解決方法をもたらします。さらに多くのビームを必要とする 1 つ以上の構成
要素を確定できる場合は、問題のある構成要素内を追跡する直前に、電界を新しい
小ビーム群のセットに分解することができます。
注意 光線追跡の間の光学的要素の不適切なサンプリングにより問題が発生しましたが、
次の FIELD または SPREAD 計算までこのクラスの問題について警告が発行されませ
ん。この時点で初めて光学不変量のテストが行われるためです。
確実性違反
前 述 の パ ラ ベ ー ザ ル 離脱のように、確実性違反 の 警告とエラーは、 SPREAD
NORMAL または FIELD ENERGY 計算の間に発行されます。どのガウス ビームの
エネルギー密度も、基本光線からの放射状の距離関数として、小さくなっていくは
ずです。ただし、特定のビームに実行された電界計算が基本光線からの放射距離と
ともに増えるエネルギー密度値をもたらすような場合があります。このビームは、
明らかにもはやガウス型ではありません。確実性違反が起こると、常に計算が終了
します。
このエラーの原因は、近軸または直交軸離脱の場合と類似しています。1 つ以上の
光学面との相互作用により、方法の基本的前提が崩れています。解決方法も、パラ
ベーザル離脱に関して記述された方法と同じです。
電界の分解
DECOMPOSE により、元の ビームと同じ電界を表わす個々のビームの新セットを
作成することができます。 DECOMPOSE の実行は、既存の小ビーム群が光学面ま
た は 開 口 を 正 確 に サ ン プ リ ン グ す る に は 適 し て い な い と き に 行 い ま す。
DECOMPOSE コマンドのその他の応用例は、次のとおりです。
• 任意の電界データから光源を作成する
• 大きく発散する光源を作成する
• 正しい FRESNEL 透過係数および反射係数を求める
ASAP テクニカル ガイド
69
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
2 つの形態の DECOMPOSE コマンドは次の通りです。
• DECOMPOSE POSITION
• DECOMPOSE DIRECTION.
DECOMPOSE POSITION が、2 つのうち使用と理解がより簡単です。サンプリン
グ中の光学面または開口が、各ビームの半径が放射線波長の 2 ~ 3 倍以上の一式の
ビームで適切にサンプリングするのに十分大きいときはいつも、このコマンドを
使ってください。電界が占める面積が DECOMPOSE POSITION を使うには小さ
すぎるときにだけ、 DECOMPOSE DIRECTION を使用します。
サンプリング不足の光学面用の DECOMPOSE POSITION
システム幾何の要素を適切にサンプリングするために、光線追跡内の途中で新セッ
トの小ビーム群を作成する必要があるときに、 DECOMPOSE POSITION コマン
ドを使ってください。このコマンドは、最後の FIELD コマンドの各ピクセルの中
心に新しいビームを作成します。適切なサンプリングに関して 2 つのクラスの問題
は次の通りです。
1
62 ページから始まる「警告とエラー」と、補足説明、66 ページの「光学的不変量」の「光
学不変量」で説明されたように、ガウス型でとどまるように、光学構成要素の小さな十分な
部分(
「局在的に 2 次的な」領域)をサンプリングするのに必要なビーム。
2
開口を通過した後適切な境界線をもつように、時折必要な電界の「切り取り」。この場合、
開口が小さすぎないことを条件にすると、 DECOMPOSE
POSITION も適切なコマン
ド で す。(非 常 に 小 さ い 開 口 に つ い て の 説 明 は、92 ペ ー ジ の「非 常 に 小 さ い 電 界 用 の
DECOMPOSE DIRECTION」を参照してください。
)
球面ミラーの例ですでにその経験がいくらかあるので、「局在的に 2 次的な」問題
の処理法を示す簡単な問題から始めます。
「検出器上で収束するビーム」では、比
較的高速のレンズを通過して、検出器平面上で収束している一式のビームが示され
ています。
70
ASAP テクニカル ガイド
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ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
3D ビューア
検出器上で収束するビーム
レンズの直径は 1 インチで、約 2 インチの焦点距離をもっています。1 µm の波長
で作業しています。ビームの元の光源は重要ではありません。検出器上の電界を計
算しようとする際、ここに到着する 45 本のビームのうち 18 本は、近軸離脱警告
(場合によっては 0.27 ウェーブ)を発行します。
Departure from paraxial approximation for beam
47 is 0.27
waves
Max departure from orthogonal ray set for beam
47 is 0.27
waves
今、これらのビームは適切な近似のガウス型ではなく、計算電界は疑わしいことが
わかっています。この問題の解決方法は、次の 3 段階のプロセスです。
1
近軸離脱解決方法 : 大きな離脱を引き起こした光学的要素を確定します。
71 ページの「検出器上で収束するビーム」では、システム内の唯一の要素である 1
つまたは両方の高速レンズに問題があることはすぐにわかります。有効な光源を作
成して、光源についての項で説明された方法でそれをチェックしていると想定する
ことができます。ただし、一般的に、多くの光学的相互作用が関与している可能性
があり、問題がどこから始まっているかを知る必要があります。これは、システム
のいろいろな場所で「ダミー面」を作成し、これらの場所で電界計算を実行しなが
ら行います。通常、
「要素の前後でのダミー面の使用」で示されているように、疑
わしい要素の直前と直後でチェックします。
ASAP テクニカル ガイド
71
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
DUMMY1
DUMMY2
要素の前後でのダミー面の使用
代わりに、 TRACE 0-LENS と奥行座標を使って該当する面の電界を計算するこ
ともできます。
このプロセスは、特定数の光学面を通じて、または命名された(または番号の付い
た)光学面までビームを追跡することを可能にする TRACE コマンドのオプション
によりさらに容易になります。このケースでは、光源(オブジェクト 0)から
DUMMY1 という名前の付いた面までの光線の追跡から始めます。
サンプル スクリプト : DUMMY1 という名前の面までの光線追跡
72
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
近軸逸脱の警告なしに、 DUMMY1 上の電界を計算することができます。結果とし
て得られる電界の等角表示は、
「電界の等角表示」で示されているように、正しい
切頭平面波のように見えます。これにより、ここまではすべて正確であると結論付
けることができます。
電界の等角表示
レンズ 1 の直前で、電界計算は依然として期待通りの結果をもたらしています。前
の図では、元の切頭平面波は、回折の兆候を見せるほど十分遠くまで伝搬していま
せん。
次に、レンズを通過して DUMMY2 まで追跡します。光源はレンズを十分満たして
いるので、SELECT コマンドを使って、レンズを通過して DUMMY2 に到達したこ
れらの光線だけの隔離も行います。
サンプル スクリプト : SELECT を使った光線の隔離
ただし、今回は、電界計算中に 18 の警告メッセージが即座に表示されます。
ASAP テクニカル ガイド
73
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
結果(「無効な電界位置」)は、電界がもはや有効でないことを確認しています。
LENS1 が問題の原因であることが今わかっているので、次の段階に進むことがで
きます。
無効な電界位置
電界が Lens 1 の直後で計算されると、ASAP は近軸の警告メッセージを発行しま
す。結果として得られる等角表示も、この位置の電界がもはや有効でないことを示
唆しています。
2
近軸離脱解決方法 : 問題のない最後の電界を分解し、さらなる小ビーム群を作成します。
この段階では、適切な電界をうまく演算した最後の場所に戻って、新しい光源を作
成します。この新しい光源は、この場所で元の電界と一致し、後に続く光学面を適
切にサンプリングするのに必要なビームから構成されています。ASAP では、どの
複素電界も新セットのガウス ビームに分解することができます。基本的な分解操
作は次の通りです。
サンプル スクリプト : 基本的な分解操作
まず、問題光学面の直前のダミー面を追跡します。この例では、最初から DUMMY1
まで追跡を反復しました。その後、 CONSIDER を使って、その面上の光線だけを
隔離しました。これで、新光源を作成する用意ができました。
74
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
分解プロセスでは、GRID コマンドが作成する光源に似た新しい光源が作成されま
す。ただし、ここでは、2 次元、球体、またはガウス型の電界に制限されていませ
ん。ASAP GRID 光源の場合のように、各軸にそったグリッドの空間的延長とビー
ム数を指定する必要があります。空間的延長は、最後の WINDOW コマンドで指定
されています。ASAP では、このウィンドウ内の各ピクセルの中心に 1 つのビーム
を作成します。新しい光源用の正確なビーム数を見つけるには、少し実験が必要で
す。目的は、近軸離脱違反なしにビームにこの光学的要素内を通過させることです。
次に、
分解の準備として、
この新しいグリッドの電界を演算します。
どの DECOMPOSE
コマンドでも、最後の FIELD コマンドが作成した現在の BRO029.DAT ファイルに
保管されている電界データから新しいセットのビームが作成されます。
注意 FIELD コマンドだけがこのファイルを作成します。 SPREAD NORMAL はこの
ファイルを作成しないので(その結果は BRO009.DAT に収まります)、 SPREAD
NORMAL を使って DECOMPOSE 用の電界を生成することはできません。
古いビームを破棄するには、通常、実際の分解を実行する前に、
「RAYS 0」コマ
ンドを発行します。本書の例では、元の 226 ビームは、ダミー面の電界を演算する
ために使われたとき、最後の有効な機能を果たしました。これらは、次の光学面の
サンプリングにさらに適したセットと置き換えられようとしています。
注意 古いビームを保持する必要がある場合には、利用できるオプションがあります。一
旦発行されると、DECOMPOSE コマンドは、最初の光源が依然として存在する場合に、
2 番目の光源を作成します。その後、ビームをさらに伝搬する前に、 SELECT ONLY
SOURCE 2 を使用することができます。後で SELECT ONLY SOURCE 1 で元
のビームに戻ることができます。
最後に、DECOMPOSE +POSITION コマンドで新しいビームを作成します。この
プラス符号は、光線が +Z 方向(ただし Z は、 WINDOW 指定に含まれていない座
標)に進んでいることを ASAP に通知するために含まれています。この符号が必要
なのは、電界の位相と振幅のみの情報には、電界の伝搬方向についての情報が含ま
れていないからです。 POSITION の前に符号がない場合、ASAP は、元の集合の
光線の 1 つから方向を推測します。ほとんどの場合、方向は正しく推測されます
が、BRO では、新しいビームが正しい方向に伝搬されるように符号を含めること
を推奨しています。
ASAP テクニカル ガイド
75
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
コマンド出力ウィンドウに次の結果が表示されます。
--- DECOMPOSE +POSITION
Opening OLD
distribution file
Creating beams with semi-widths
(
29:D:\Wave Optics\bro029.dat
4.7058824E-02
47.05883
4.7058824E-02
47.05883
waves)
940 Below HALT
1661 rays created by DECOMPOSE for a total of
1661
2,601(512
)のビームがすべて作成されたわけではありません。940 のビームでは、
注意
含まれる光束が現在の HALT の値によって設定されているしきい値を下回っているた
め、これらのビームは作成されません。
3
近軸離脱解決方法 : この点光源から光線追跡を継続します。
レンズの背後の電界が警告またはエラー メッセージなしに計算できることを確認
したら、光線追跡を継続することができます。この例では、新しいグリッドは、警
告を排除して、
「分解で矯正されたレンズ 1 の後(要素内のビーム追跡前)の電界」
で示されている電界を生成するのに十分でした。さらに複雑なシステムでの作業中
に、同じような処理を必要とする光学面に他にも出会う場合があります。このよう
にして、いろいろな状況において、正確なビーム数の予想に関して経験が豊かにな
ります。
分解で矯正されたレンズ 1 の後(要素内のビーム追跡前)の電界
開口サンプリング用の DECOMPOSE POSITION
DECOMPOSE POSITION コマンドのもう 1 つの一般的な用途は、開口サンプリ
ングです。単一のビームが自由空間内のガウス型電界の伝搬に十分であることを思
い出してください。単一のビームでできたガウス型電界が小開口に出会うと、すべ
ての関連電界はすべて、「サンプル スクリプトと出力 : 光源の定義(上)と三角形
の開口の前のガウス型電界基本光線とビーム サイズ(下)」で示されているように、
76
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
基本光線が開口部を通過する場合、切り取りなしに通過します。これは、さらに多
く の ビ ー ム を 使 用 す る か、または DECOMPOSE POSITION に続き FIELD
CLIP を用いて実行する必要があります。
基本光線
ビーム
サイズ
.
.
.
三角形の
小開口
サンプル スクリプトと出力 : 光源の定義(上)と三角形の開口の前のガウス型電
界基本光線とビーム サイズ(下)
開口は Z=0 にあり、直径が 4 mm の円に内接する正三角形です。
このビームを開口の中心に向ける場合、開口の後で電界を計算するとき、それは前
の電界と同一です。要するに、ASAP は開口を完全に無視しますが、これは明らか
に正しくありません。
電界のどの部分も開口で剥ぎ取られないのはどうしてでしょうか? COHERENT ロ
ングサイド エラー(62 ページの「COHERENT モード内の警告とエラー」)を説明
したとき、ASAP ではパラベーザル光線が基本光線と同じ順序で同じ光学面と相互
作用するようになっていることに注目しました。基本光線が小開口を通過する場
合、パラベーザル光線は、基本光線からのその距離とは無関係に、また通過時に出
会うオブジェクトとは無関係に、伝搬し続けます。その結果、開口と相互作用して
いる単一のガウス ビームは、完全に考慮するか、またはまったく考慮しないとい
う状況にあります。
ASAP テクニカル ガイド
77
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
「開口を外したガウス ビーム」で示されているように、基本光線が開口を外すと、
開口が占める面積内にかなりの電界エネルギーが存在するとしても、その背後には
電界が現れません。ここでも、このことは正しくありません。両方の結果とも、
DECOMPOSE を使って矯正できる形成物です。
基本光線
.
ビーム
サイズ
.
三角形の
小開口
開口を外したガウス ビーム
開口を通じてビームを正しく伝搬するときの目標は、開口をたくさんの小さなビー
ムで埋め、開口を通過するビームのパターン形状が開口の形状と近くなるようにす
ることです。開口へと伝搬する最初のビームが、この条件を満たすに十分な小ささ
であれば、 DECOMPOSE を使って新しいビームを作成する必要がある場合があり
ます。
ただし、ビームが開口に対して相対的に小さい場合でも、後続の電界の精度が重要
なときは、 DECOMPOSE を実行した方が有利な場合があります。このような状況
を正しく把握するためには、現実に開口を通過する電界と、ASAP で開口を通過す
る電界の違いを理解することが重要です。現実に開口を通過する電界というのは、
入射電界のうち、開口の境界内に入るもののみを指します。ASAP で開口を通過す
る電界は、ガウス ビームのうち、基本光線が開口の境界内に入ったものの離散的
な集合です。この離散的な集合に含まれるビームが開口に中心化されていない場
合、後続の電界計算でエラーが生じます。エラーの種類には、後続の電界計算にお
ける開口からの距離によって、位置のエラー、位相のエラー、または両方の組み合
わせがあります。DECOMPOSE POSITION コマンドは、最後の FIELD コマンド
の WINDOW に中心を持つ新しいビームのセットを作成するため、開口での中心化
に関するエラーを減らす目的で使用できます。
78
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
上記で説明した同じ三角形の開口を使い、開口をシミュレートする基本的な方法を
次に示します。
サンプル スクリプト : 開口をシミュレートする方法
開口を含むのにちょうど大きなウィンドウを指定して、PIXELS 101 を使いまし
た。このウィンドウとピクセルの値が、実行しようとしている電界計算の位置と解
像度を設定します。この値は、 DECOMPOSE が作成する新しい光源中のグリッド
延長とビーム数も定義します。
次の段階は、開口の境界線の正確な形状とサイズをともなったエッジ存在物の定義
です。POINTS コマンドを使って、実際の開口として同じ 2 mm 平方寸法の三角形
のエッジを原点(開口の位置)に定義しました。この存在物の目的は、それを超え
ると電界がゼロに設定される境界線を定義することにあります。
次に、 FIELD コマンドで新しい変化量を使います。ASAP では、電界の不必要な
部分を切り取るために、 FIELD コマンドに CLIP オプションが提供されていま
す。-.1 引数は、ASAP に対して、最後に定義された存在物を使って電界境界線を
定義するように指示します。この場合、これは直前に定義されたエッジベースの三
角形です。
注意 相対存在物のアドレス指定を使う際、ASAP は、 FIELD... CLIP コマンドに
先立って定義したすべてのタイプの存在物を含めて、指定数の存在物を逆カウントする
ことに留意してください。光学面ベースとレンズベースの存在物もこのプロセスでカウ
ントされます。
ASAP テクニカル ガイド
79
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
切り取り存在物内のマイナス符号は、境界設定存在物(テクニカル ガイド『Arrays
および Bounds』を参照)の場合と同様に、電界をエッジの内側に保持するように
ASAP に指示します。プラス符号は、切り取りエッジの外側の領域に電界を保持し
ます。存在物を切り取る際は、いつも明示的な「+」を使ってこの電界を指定して
ください。
FIELD コマンドの奥行座標を使って、Z=0 で電界を計算しました。これは、新し
いビームも作成される面です。ビームが開口の前のダミー面で停止した場合は、こ
れはビームの現在の場所である必要はありせん。ただし、これは、電界を計算し
て、新しいビームを作成するのに適した場所である、物理的な開口の場所です。
警告 前述のように、開口サンプリングと光学的要素のサンプリングの間の差が強調され
ます。サンプリング中のオブジェクトが開口でなくて光学面の場合は、ビームが正確に
光学面上で作成されないように、電界は光学面の前の少し離れた場所で計算されます。こ
れが、先のレンズ サンプリングの例で行ったことです。これを行わないと、幾何光線の
場合と同様に、ASAP に光線追跡の問題が引き起こされます。ただし、開口サンプリン
グでは、これは問題にはならず、ビームを開口部の面に作成することができます。
特別のエッジ存在物の定義は、切り取り境界線の唯一の定義方法ではありません。
実のところ、 WINDOW 自体が矩形の開口のシミュレーション用の理想的な手段で
す。ただし、エッジ存在物により、さらに複雑な切り取り境界線を指定することが
できます。エッジベースまたは光学面ベースの存在物のいずれから派生したオブ
ジェクトも、この目的用に使用することができます。ただし、多くの場合におい
て、エッジ存在物の方がより簡単で、便利です。詳細については、補足説明、
「切
り取り境界線としてのオブジェクトの使用」を参照してください。
切り取り境界線としてのオブジェクトの使用
本書の例では、エッジ存在物を使って、切り取り境界
線を定義しました。オブジェクトではなくエッジ存在
物を使った切り取りには、いくつかの利点があるので、
エッジを使った切り取りを推奨します。ただし、いず
れかのオブジェクトを使って切り取ることは可能で
す。 CLIP 引数の後に符号なしの数字(明示的なプラ
スまたはマイナス符号のない絶対 / 整数または相対 / 分
数のいずれか)が続く場合は、引数は切り取りに使わ
れるオブジェクトを参照しています。 警告 : オブジェ
クトによる切り取りは、切り取られたオブジェクトと
80
ASAP テクニカル ガイド
交差する電界部分を保持します。これにより、ミラー
とレンズに対して直感的な、オブジェクトと交差する
電界部分を保持する一方で、側面からあふれる部分を
破棄する結果が生み出されます。他方、切り取られた
開口のある、光を通さない面は、期待通りには動作し
ません。ASAP は、開口の光を通さない電界部分(オ
ブジェクトの論理的「true」の部分)を保持して、穴を
形成する部分(オブジェクトの論理的「false」の部分)
を破棄します。オブジェクト切り取りに関連した他の
問題のために、エッジがより適した選択肢です。
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
この手順の最後の段階は、切り取った電界の新しいセットの小ビーム群への分解で
す。「切 り 取 っ た 電 界 上での DECOMPOSE コマンドの実 行」は、元の電界と、
DECOMPOSE コマンドの前後の切り取った電界を示しています。開口切り取りは、
切り取り境界線外の電界をゼロに設定することによって、シミュレートされます。
DECOMPOSE POSITION コマンドは ASAP に、重ね合わされたときに、無限数
のビーム数で元の切り取った電界にかなり近似する新しいセットのビームを生成
するように指示します。新しい光源の「グリッド」
(ビーム数とその間隔)は、切
り取った電界の計算時に、 WINDOW および PIXEL 設定によって決定されます。
切り取った電界上での DECOMPOSE コマンドの実行
ASAP テクニカル ガイド
81
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
要約すると、ASAP は、切り取り境界線外の電界を(FIELD...CLIP で)ゼロに
設定し、切り取った電界にかなり近似する新しいセットの小ビーム群を提供しま
す。切り取りの後、新しいビームからの電界は元の電界と実質的に同じであること
に注目してください。これで、システムの残りの部分で新しいビームを追跡する用
意ができました。
「遠視野回折」では、回折制限レンズで焦点が定まった後のこの電界を示していま
す。ここでは、三角形の開口の期待される遠視野分布が示されています。
遠視野回折
「サンプル スクリプトと出力 : 光源の定義(上)と三角形の開口の前のガウス型電
界基本光線とビーム サイズ(下)」
(77 ページ)および「開口を外したガウス ビー
ム」(78 ページ)に表示される物理的な開口は必要ありません。ASAP は規定の切
り取り境界線外にはビームを作成しないので、幾何のその要素と交差するビームは
ありません。
「サンプル スクリプトと出力 : 光源の定義(上)と三角形の開口の前のガウス型電
界基本光線とビーム サイズ(下)」および「開口を外したガウス ビーム」で示され
ている元の例では、開口と相互作用するビームの、完全に考慮するか、またはまっ
たく考慮しないという性質を例示するために、1 つのガウス ビームから計算される
電界が使われました。これは、電界が単一のガウス ビームまたは小ビーム群の集
合で表わされるにかかわらず、ASAP の電界伝搬方法の結果を示す 1 つの極端な例
です。特定の小ビームと関連した電界は、その全体が伝搬するか、またはまったく
伝搬しないかのいずれかです。このような理由(およびこの項で先に説明した理
由)から、最も量的に正確な結果を得るには、電界が開口と交差する際はいつも上
記で提示されている方法を使ってください。
82
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
この項(69 ページの「電界の分解」)の冒頭で、使用頻度のやや低い応用例を 3 つ
挙 げ ま し た。任 意 の 電 界は、 DECOMPOSE POSITION または DECOMPOSE
DIRECTION に適用できます。残りの 2 つである、大きく発散する発散光源と回
折格子のサンプリングは、DECOMPOSE DIRECTION だけに使用されます。この
2 つについては、本項の後で説明します。
傾斜または曲率位相をもつ電界の分解
しばしば、新しい COHERENT ASAP ユーザは、次の問題に出会います。すなわち、
DECOMPOSE コマンドで作成した新しいビーム上で FIELD 計算をした後、新しい
電界が元の電界とは著しく異なっていることに気づきます。しばしば、この理由
は、計算ウィンドウ内で、著しい位相曲率または位相傾斜をもった電界では
DECOMPOSE が適切に機能しないからです。すべての電界は、いずれかの広域面
上で計算する必要がありますが、これは、常に DECOMPOSE を適用するのに理想
的な参照機構であるとはかぎりません。
ASAP は依然として、傾斜または曲率位相をもった電界上で DECOMPOSE を実行
することができます。傾斜と曲率が小さい場合は、ASAP は一般的にそれ自身適切
に機能します。面からの離脱が大きくなると、 DECOMPOSE POSITION コマン
ドには、 DECOMPOSE 使用時の結果をさらに強固にすることを可能にする特別の
オプションが 3 つあります。これを達成するオプションは、 CON、 DIV、および
PLA オプションです。
CON および DIV オプションは、それぞれ収束および発散する球面波の波面用で
す。DECOMPOSE POSITION x y z CON で、新しい光源が x y z の曲率の
中心点に収束する必要があることを ASAP に通知します。 CON オプションの使用
で方向が含蓄されているので、 POSITION には符号が必要ありません。
注意 一般的に、これらの目的には曲率半径の概算で十分です。ASAP は、DECOMPOSE
の実行中に全体曲率を削減するのに少し支援が必要です。補足説明、84 ページの「波面
の曲率半径の概算」を参照してください。
同様に、 DECOMPOSE POSITION x y z DIV を発行することで、 ASAP に
は、電界は曲率の中心点 x y z から発散する位相曲率をもっていることが通知さ
れます。両方のケースとも、ASAP は同じ曲率をもつ参照球体を取り去って、平坦
な(またはほぼ平坦な)位相を作成します。ASAP は DECOMPOSE を実行して、元
の位相曲率を新しいビーム セットに追加し戻します。 DIV オプションをともなっ
た DECOMPOSE POSITION の例は、101 ページから始まる「フレネル係数の正
しいモデル化」で示されています。
ASAP テクニカル ガイド
83
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
同様に、 DECOMPOSE POSITION a b c PLA により、 a b c によって得ら
れるその面に対する法線の方向余弦をもった、均等位相の面を記述することができ
ます。ASAP は、同じ傾斜をもった参照面を取り去って、傾斜内の位相を作成し、
DECOMPOSE を実行して、元の位相傾斜を新しいビーム セットに追加し戻します。
この状況で、 STATS DIR コマンドを使って、目的の面の方向余弦を得ることが
できます。
位相に曲率と傾斜の両方がある場合は、DECOMPOSE は、前述のように CON また
は DIV オプションとともに実行されますが、曲率の x y z 中心は、軸を離れた
点です。
波面の曲率半径の概算
次の例は、原点に中心を置き、1 m, 離れた面で測定さ
れた 1 mm 波長の光源からの球面波波面を示していま
す。(2 本の軸は異なるスケールでプロットされてい
るので、波面は球面のようは見えないことに注目して
ください。)曲率半径は、中心からエッジへの変動の
測定から得ることができます。r が位相曲率の頂点か
らの距離(システムの単位)、 δ が波数単位での波面
変化量で、 λ が波長(システムの単位)である場合、
曲率半径 r は、次の公式で得られます。
84
ASAP テクニカル ガイド
2
ρ + ( δλ )
r = -----------------------2δλ
2
この場合、測定される曲率半径は、予想通り 1000 mm
です。
波面
多くの場合において電界の位相曲率の概算半径およ
び中心を見つけるのに必要なものは、 FOCUS コマン
ドだけです。位相または波面のプロットからこれらの
量 を 概 算 す る こ と も で き ま す。ど の 形 態 で あ れ、
FIELD コマンドをすでに実行している場合は、これ
らの電界特性を再計算する必要がないことに留意し
てください。20 ページ から始まる「COHERENT 解析
ツール : FIELD および SPEAD NORMAL」で説明され
ているように、任意のバージョンの FIELD を使った
後、 DISPLAY 29 PHASE ま た は DISPLAY 29
WAVEFRONT を発行するだけで十分です。
δ = 0 .5 w a v e s
ρ = 1m m
ウィンドウ位置
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
69 ページの「電界の分解」の項で、使用頻度のやや低い他の 3 つの応用例を挙
げ ま し た。任 意 の 電 界 の モ デ ル 化 は、電 界 の サ イ ズ に 応 じ て DECOMPOSE
POSITION または DIRECTION で行います。この応用方法について、次に説明し
ます。他の 2 つの応用例(大きく発散する発散光源の作成と正しい FRESNEL 透過
係数および反射係数の計算)では、 DECOMPOSE DIRECTION が必要になりま
す。この 2 つについては、後で説明します。
DECOMPOSE を使った任意の電界のモデル化
ここまでは、切頭平面波、球面波、およびガウス ビームのモデル化についての方
法だけが説明されました。他の電界については何が可能でしょうか? たとえば、
測定または知られている関数の評価のいずれから面内に振幅と位相の情報があ
る場合、ASAP を使ってこの電界を伝搬する方法が存在します。 DECOMPOSE
POSITION コマンドが導入されたので、どの任意の電界もモデル化できるツール
が手元にあります。
DECOMPOSE POSITION の使用の最初の段階は、 FIELD コマンド内の複雑な
(実数と虚数の)電界を計算することだったことに留意してください。ASAP はこ
れを、BRO029.DAT のファイルに収めます。 DECOMPOSE POSITION コマンド
は、この電界をシミュレートする新しいセットのガウス ビームを生成します。独
自の BRO029.DAT ファイルを生成して、それを分解できるとしたら、どの電界を
シミュレートする小ビーム群のセットを生成することも可能でしょう。
ASAP テクニカル ガイド
85
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
エディタ
サンプル スクリプトと出力 : 位相と振幅データからのビームのセットの作成
「サンプル スクリプトと出力 : 位相と振幅データからのビームのセットの作成」は、
任意の複素電界の BRO029.DAT への収め方の例を示しています。1 mm x 1 mm ウィ
ンドウ内の電界の振幅と位相がわかっていると想定しています。この単純な例で
は、電界は近くのコヒーレント点光源からの球面波波面です。光源の波長は 1 µm
で、電界を定義する面から 1,000 mm 離れたところに位置しています。0.2 mm で分
離した 11x11 点光源のグリッドでの電界の位相と振幅がわかっていると想定して
います。
注意 この光源は、明らかに、グリッドのビームと SOURCE POSITION を使って作成
することも可能です。ただし、この光源の単純性により、幾何学原則から位相を確定し
て、 FOCUS コマンドのような単純なもので結果を確認することができます。
86
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
例で示された最初の段階は、新しい ASAP COHERENT 光源の重要なパラメータを
定義するために使う通常のコマンドです。
サンプル スクリプト : COHERENT に不可欠なパラメータの定義
次の行で ASAP を設定して、電界を記述するヘッダー ラインと数字データを受け
取ります。
DISPLAY -29
DISPLAY コマンドは馴染みのあるものです。 DISPLAY 29 PHASE または
DISPLAY 29 WAVEFRONT のようなコマンドは以前に見ましたが、今回は、
29 の前にマイナス符号がなく、キーワードが後に続いていません。この符号は、
ASAP に対して、ASAP が既存の分布ファイルをメモリに読み込む(DISPLAY コ
マンドの通常のタスク)のではなく独自の電界を定義することを通知しています。
その後の行は、その電界を定義するために使われます。
注意 BRO029.DAT の形式はバイナリなので、テキスト エディタを使ってこのファイルを
作成するオプションがありません。そのかわりに、ASAP コマンドを使って、このデー
タ ファイルを構築します。
次の行は、後に続くデータの形式を記述するヘッダです。
Z 0 FIELD Y -1.1
1.1
11 X
-1.1
1.1
11
ASAP テクニカル ガイド
87
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
ASAP は、BRO029.DAT を作成する際、現在のウィンドウとピクセル設定に基づい
た FIELD コマンドでこれを行うことに留意してください。その情報はすべて、こ
の行に含まれています。後に続くデータは、次のコマンド シリーズで生成される
形式と同じです。
サンプル スクリプト : FIELD コマンド
ヘッダに 2 度表示されるパラメータ 11 は、収められる複合データ配列のサイズで
す。ASAP は、11x11 ブロックの複素数を期待します。ここまでは簡単です。ウィ
ンドウを正確にするのは、もっと難しい場合があります。この例では、1 mm x 1 mm
グリッド上で 0.2 mm ごとにデータ ポイントがあります。ASAP ピクセル境界線は、
ウィンドウのエッジまで進んでいますが、必要な値は、ピクセル中心に対応しま
す。ウィンドウは、適切な x および y 座標を値に割り当てるために、すこし大き目
である必要があります。(補足説明、89 ページの「ウィンドウとピクセルの詳細」
を参照してください。)
次の 11 行では、電界データ、すなわち各行に 11 の複素数が含まれています。これ
らのデータ値に関しては、いくつかの形式が可能です。ASAP は最終的には、値を
各点光源の実部に対するものと虚部に対するものの2つの別個の配列として保管し
ます。ただし、大部分の実験室測定は、複素数を振幅と位相として書き表わしま
す。ASAP は、2 つの成分を分離するために使った文字に応じて、次のどちらの形
態の対になった数字を受け入れることもできます。
• 振幅と位相(角度): 2’3 は、振幅 2 度と位相 3 度の複素数を表わします。また
は、(ラジアンと指数の形式、2.0e0.052i に変換して)
• 実数と虚数 : 1.997`0.1047 は、実部と虚部で書き表わされた複素数(実
数 = Acos (φ) および虚数 = Asin (φ) 、ただし A は振幅で、φ は位相)と同じです。
多くの場合、1 つの問題が発生します。ASAP コマンド行は通常 128 文字に制限さ
れています。本書の例では、11 点光源しかなく、数字に精度がほとんどありませ
ん。その結果、128 文字制限内にとどまることは容易に可能です。実際の状況では、
さらに多数のサンプルとさらなる精度が使用できる場合があります。その結果、各
行に 128 文字以上を収める必要が出てくる場合があります。解決方法には次の 2 つ
があります。
1
コンマ文字(,)を使って、長い、連続するリストがコマンド スクリプト内で 1 レコード(行)
以上を占めることができるようにします。
2
88
ASAP テクニカル ガイド
$FAST を使って、実質的に無制限の長さの行を取り込みます。
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
ウィンドウとピクセルの詳細
しばしば、 WINDOW コマンドだけを使ってウィンド
ウ内のデータを自動的に見つけ、 PIXELS コマンド
を使って データのビンの仕方についていくらか制御
力を得ます。ただし、他の場合においては、これらの
パラメータをさらに理解して、制御する必要がありま
す。たとえば、ASAP 結果と他の独立した測定、予想
または要件の間で詳細な比較をしようとしていると
きに、この高度の制御力が必要になります。また、
データを ASAP 分布ファイルに手動入力する際に、
個々のピクセルの正確なサイズと場所について明確
な理解をすることが必要です。
メータを共用して、均一以外の垂直と水平寸法間
の比率を指定することができることに注目してく
ださい。)
• ピクセル座標の関数としてピクセル値をプロット
または印刷するコマンドは、ピクセルの中心の場
所を報告しています。
• データ ポイントを分布ファイルに手動入力する場
合、ウィンドウおよびピクセル設定は、データ ポ
イントに対応するピクセル値をもたらすように選
択する必要があります。
次の図では、WINDOW と PIXELS コマンドが共同機
能して、ASAP のサンプリング グリッドを確定する方
法が示されています。ASAP の機能を正確に知るに
は、次の点を念頭に置いてください。
WINDOW Y X
PIXELS 11
ピクセル中心
• PI X EL S コ マ ン ド が 指 定 す る ピ ク セ ル 数 は、
WINDOW コマンドが命名する最初の(垂直)軸(例
では Y)を表しています。このため、この次元の
ピクセルは、ウィンドウに正確に収まります。
• デフォルトではピクセルは正方形なので、整数ピ
クセル数は水平方向に収まらない可能性がありま
す。
「図 : WINDOW と PIXEL パラメータの制御」で
示されているこの状況は、側面の最も外側のピク
セルがウィンドウ境界線と重複する矩形のウィン
ドウの場合に、一般的に見られます。この効果は、
ウ ィ ン ド ウ の 両 側 面 に 対 称 的 に 現 れ ま す。
(PIXELS コマンドと 2 番目のオプションのパラ
y
...
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ウィンドウ境界線
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1つの「ピ
クセル」
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x
図 : WINDOW と PIXEL パラメータの制御
ASAP テクニカル ガイド
89
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
...
X1 実数 x1 虚数
X1 実数 x1 虚数
x2 実数
x2 実数
x2 虚数 ... X10 実数
x10 虚数
x11実数 x11 虚数
x2 虚数 ... X10 実数
x10 虚数
x11実数 x11 虚数
サンプル スクリプト : 無制限の長さの行を可能にする $FAST
「サンプル スクリプト : 無制限の長さの行を可能にする $FAST」に $FAST 法が例
示されています。このマクロは、ASAP に対してコマンド行法線の広範なエラー
チェックと解析を一時的にオフにするので、128 文字入力バッファの必要性を排除
して、コマンド スクリプトの行に無制限数の文字を収めることを可能にします。名
前が含蓄するように、 $FAST は、ASAP の長いリストの数字の読み取りおよび処
理速度を著しく高めます。ただし、この方法には 1 点短所があります。それは、複
素数の2つの成分間の区切り文字として [`] または ['] のいずれももはや使うことが
できないという点です。各値の間にはスペース、コンマまたはタブだけが許可され
ていて、データ形式は、実数 / 複素数の対である必要があります。振幅 / 位相デー
タの場合は、ASAP に入力する前に、外部変換する必要があります。マクロは、次
の形態で使用しました。
$FAST 11 11 COMPLEX
ASAP は 11 の複素対を期待するので、22 の値が各レコードに表示される必要があ
ります。各対の間にコンマを使ってこの形式をもっと読みやすいものにできます
が、コンマには、スペースやタブと同様に、特別な意味がありません。それらは、
$FAST の使用時に ASAP によって無視されます。
複素電界を BRO029.DAT に導入すると、残っている作業は、それを小ビーム群の
セットに分解することだけです。
WINDOW Y -1.1 1.1 X -1.1 1.1
DECOMPOSE +POSITION 0 0 -1000 DIV
90
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
この段階では、ASAP は、121 データ ポイントを 121 小ビーム群に分解し、電界を
シミュレートします。この場合、電界は(+POSITION をともなって)+Z 方向に
進み、Z 軸(0 0 -1000 DIV)上の -1000 で点光源から収束しているという追
加情報を ASAP に提供します。
10 ミクロン
直径空間フィ
ルタ
1 つのアイリー直径内の焦点の合った電界を隔離する円形開口
上の図では、結果としてもたらされる振幅とその交差部が示されています。本書の
例では、1000 mm 離れた場所の点光源から発散する電界に関して、元の位相が幾何
学的に確定されました。 FOCUS コマンドがこれを確認しています。
注意 91 ページの「1 つのアイリー直径内の焦点の合った電界を隔離する円形開口」は、
DECOMPOSE をともなった DIV または CON オプションの効果を例示しています。
DIV オプションがない場合、 FOCUS コマンドは、1000 mm ではなく 1044 の Z 位置
と、さらに大きなぼけた直径を返します。121 のデータ サンプルだけが入力され、精度
がほとんどないので、ASAP にさらに方向を与えない場合、これが期待できる限度です。
ASAP テクニカル ガイド
91
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
非常に小さい電界用の DECOMPOSE DIRECTION
ここで、非常に小さい開口が回折制限レンズの焦点に導入された状況を考慮しま
す。開口は、コヒーレント ビームの空間フィルタとして機能している場合があり
ます。この場合、空間フィルタの直径は、放射波長のサイズに近い可能性がありま
す。さらに、その小直径内で、焦点での電界は非均質光束分布をもっている場合が
あります。 DECOMPOSE POSITION を使って状況を処理しようとすると、原点
の時点から近軸の条件に違反するほど小さい個々の小ビーム群を作成する可能性
があります。
91 ページの「1 つのアイリー直径内の焦点の合った電界を隔離する円形開口」は、
このような状況を示しています。波長が 632.8 ナノメーターのコヒーレント平面波
は、f /6.25 レンズ システムにより、開口プレート上に焦点が合わさっています。ア
イリー直径内に含まれる電界を隔離するために使われた 10 ミクロン円形開口をモ
デ ル 化 す る 必 要 が あ ります。たとえば、41x41 ビームを使って DECOMPOSE
POSITION でこれを行うと、波長よりも小さい個々の小ビーム群が作成される可
能性があります。ASAP は、次の警告メッセージを発行します。
Warning *** Beam height in waves = .308347
1620 *** Beam height in waves = .308347
62 ページから始まる「警告とエラー」で注目したように、これらの小ビーム群は、
近軸波動方程式の解ではありません。ガウス ビーム集計法の限界に達したように
見えるかもしれませんが、DECOMPOSE DIRECTION コマンドは、このような状
況での解決方法を提示します。
DECOMPOSE DIRECTION コマンドは、角度空間の電界に対してフーリエ変換を
実行し、新しいセット小ビーム群を作成します。この方法は、原則的に、任意の複
雑性の電界は多様な伝搬方向の一式の平面波に分解できるというフーリエ光学の
方法に似たものです。DECOMPOSE DIRECTION が使われると、新しいビームは
すべて同じサイズで、その基本光線は同じ場所(元の電界分布の中心)にあります
が、各自の方向が異なります。各小ビームの光束加重は、元の電界のその構成要素
内の空間周波数内容に依存します。個々の小ビーム群は、元の電界よりずっと大き
な電界を表わしている場合がありますが、各小ビームは異なる方向または線形の
位相傾斜をもっているので、それらは破壊的に干渉して、必要に応じて、ゼロ電
界をもたらします。同じ WINDOW と PIXELS 用のこの新しいセットのビームに
注意して発行されたもう 1 つの FIELD コマンドは、元の分布とほぼ同一の光束
分布を返しますが、ただ例外として、かなりのエバネッセント波構成要素が存在
します(93 ページの「エバネッセント波」を参照)。
92
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
エバネッセント波
DECOMPOSE DIRECTION を使って ASAP で電界を
分解する際、作成された新しい各ビームは、元の電界
の異なる空間周波数構成要素を表わしています。それ
自体、各ビームは、格子方程式( sin θ = λξ 、ただし
λ は放射波長、ξ は空間周波数)で得られる空間周波
数に応じて、伝搬角度が異なります。ξ > 1 ⁄ λ の空間
周波数について、ξλ 積は 1 以上です。これは、1 以上
の方向余弦値と伝搬方向の構成要素の虚数方向余弦
に対応します。この虚数値の方向余弦項はこれらの波
の減衰指数成分を増加させ、これにより波は、その波
長程度の距離を伝搬した後、ほぼ完全に減衰します。
分解後の電界
ASAP は決してエバネッセント波構成要素を作成せ
ず、そのため、DECOMPOSE DIRECTION の後計算
した電界は、元の電界とは著しく異なるように見え
る場合があります(次の各図を参照)。しかしながら、
1 ~ 2 波以上下流のすべての点で観察すると、ASAP
電界は再び、実際に観察されるものと合致します。
分解前後の断面
分解前の元の切り取った電界
ASAP テクニカル ガイド
93
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
区間フィルタの電界上でこの方向性分解を実行するコマンドは、次に示されていま
す。平面波が、焦点距離 100 mm、直径 16 mm の理想的なレンズによって最適の焦
点にもたらされた後に、これらのコマンドが適用されます。
サンプル スクリプト : 電界上での方向性分解
要約すると、まずレンズ(EFL)の焦点距離の関数であるアイリー半径、システム
の単位に変換された光の波長(WL)、および結像レンズの直径を計算します。
その後、空間フィルタの境界線を定義するこの寸法をもつ円形切り取りエッジを作
成します。次に、 FIELD ENERGY... CLIP を使って、空間フィルタの適用後
に現れる電界を計算します。最後に、RAYS 0 の古い光線を削除して、
DECOMPOSE
+DIRECTION を使って、切り取った電界を新しいセットの小ビーム群に分解し
ます。
94
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
DECOMPOSE POSITION の場合のように、プラス符号は、新しい小ビーム群が
正の Z 方向(WINDOW 指定に含まれていない方向)に進むことを示唆します。結
果は、「切り取りアプリケーションの前後の電界振幅の等角プロット」で示されて
います。
切り取りアプリケーションの前後の電界振幅の等角プロット
最終的には、この分解の忠実度は、作成したビーム数とその角分布に依存します。
このプロセスの詳細は制御されますが、 DECOMPOSE POSITION よりもある程
度さらに複雑で、さらに曖昧な形でこの制御を行います。制御は、 WINDOW と
PIXELS コマンド、および DECOMPOSE DIRECTION コマンド自体の 2 つのオ
プションのパラメータを使って行われます。多くの場合、
(上記の場合のように)
DECOMPOSE DIRECTION によるデフォルト設定を使用しても、合理的な結果を
得ることができます。ただし、すべての場合において効率的、効果的にこのツール
を使うには、さらなる理解が必要になります。
ASAP テクニカル ガイド
95
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
最も一般的な電界を分解するには、新しいビーム セットで完全な前進波半球を形
成できる必要があります。これを達成するために、DECOMPOSE DIRECTION で
作成するビーム数は、元の FIELD コマンド(∆x および ∆y)内の空間サンプル間
隔と反比例します。元の電界で使用される WINDOW と PIXELS コマンドを使って
空間サンプリングを制御します。コマンドを正しく選択することにより、元の空間
とその後の角度に関して、適切なサンプリングを得ることができます。
全前進波半球を形成するために必要なビーム数の概算は次の通りです。
N2
λ
number of beams ≅ π  -----2 ∆ x ∆ y

ただし、N は ASAP 内で使用される FFT 配列の寸法(FFT のサイズは FTSIZE コ
マンドで指定)、λ は放射波長、∆x および ∆y は電界内のサンプル間隔。
∆x =
full width of window in x direction
number of pixels in x direction
∆y =
full width of window in y direction
number of pixels in y direction
このように計算したビーム数によって、このサンプリングで前進波半球を形成する
ために必要な数量が得られます。ビームによっては、計算された光束加重が HALT
または CUTOFF 設定以下になるか、またはそのエバネッセント波的性質(補足説
明、93 ページの「エバネッセント波」を参照)のために作成されない場合があり
ます。また、ASAP では、λ、∆x、および ∆y 値に関わらず、FFT 配列内の全ピクセ
ル数(FTSIZE コマンドの指定による)以上のピクセルが作成されることはあり
ません。∆x および ∆y が大きすぎて、角度サンプリング増分が小さい場合、半球を
形成する前に、 DECOMPOSE DIRECTION が FTSIZE によって制約されたビー
ム数に達し、ビーム作成を中止します。この場合、選択した ∆x と ∆y はおそらく電
界を適切にサンプリングするには大きすぎ、変更する必要があります。角度空間の
これらの極小の増分のもう 1 つの原因として、電界が実際には最初に DECOMPOSE
POSITION を使って排除するほど大きくなかったことが考えられます。
95 ページの「切り取りアプリケーションの前後の電界振幅の等角プロット」で行っ
た よう に、引 数 なし に DECOMPOSE DIRECTION コマンドを発行する場合、
ASAP は、半球を形成するのに十分なビーム数を作成します。ただし、このビーム
数がデフォルトの最大数(FTSIZE コマンドで設定した FFT 配列サイズの 10%)
を超えることはありません。DECOMPOSE DIRECTION コマンドの最初の(m)
オプション パラメータを使って、この動作を変更することができます。
(作成可
能な最大ビーム数用の)m パラメータは、作成可能な全ビーム数を表わす 1 以上
の整数、または FTSIZE コマンドで設定した最大数の比率を表す小数として入
力することができます。たとえば、 FTSIZE が 10 に設定されているとすると、
96
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
現在の FFT 配列サイズでの作成可能ビーム最大数を 209,175 に設定するには、m 値
として 209,715 または 0.2(つまり 0.2x(210)2 =209,715)を入力します。
注意 将来の ASAP のバージョンで一貫した動作を得るように、小数形式(すなわち、
209,715 ではなく 0.2)を入力するように推奨します。ファイルを異なる FFT サイズの
値で再実行すると、M の明示的な数値形式をともなった DECOMPOSE DIRECTION
コマンドは、FFT 配列 サイズとは無関係に、同数の最大可能ビームを作成します。同じ
合計ビーム数は、同じ空間周波数まで範囲を拡張しません。その結果、出力には、元の
バージョンの出力に存在した空間周波数情報の一部が欠如することになります。逆に、小
数形態の M 引数では、依然として元のバージョンと同じ全角度(空間周波数)空間をカ
バーするビーム数をもたらします。
ASAP は、コマンド出力ウィンドウ内ですべての DECOMPOSE DIRECTION の詳
細を報告します(「DECOMPOSE DIRECTION 詳細」を参照)。この情報、特に作成
ビーム数は、潜在的な問題に関してチェックする必要があります。詳細で、元の電
界と分解電界間の差異が説明される場合があります。
コマンド出力ウィンドウ
DECOMPOSE DIRECTION 詳細
ASAP テクニカル ガイド
97
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
警告 作成ビーム数が、m が指定または含蓄する数とちょうど同じ場合はいつも、注意を
払う必要があります。ASAP は、全前進半球を作成する前にビーム作成を終了している
はずです。このエラーは、元の電界に存在した高い空間周波数を排除しましたが、これ
は、シミュレートする電界の忠実度にとって重要である場合があります。最終的には、
FIELD コマンドを使って、プロセスの最終チェックとして、分解の前後のエネルギー
分布を注意深く比較する必要があります。
DECOMPOSE DIRECTION コマンドの 2 番目の引数は、新しいビームが作成され
る最大角度の 1/2 を表す a です。このパラメータは、分解したビーム セットの角度
範囲を故意的に制限するために使われます。その角度サンプリング周波数は、依然
として前述の方程式で示された N、λ、∆x、および ∆y の関数ですが、ビームの切
頭は a 以上で起こります。a パラメータは、作成されたビームがその後、レンズ、
ミラー、または切り口のような制限開口を通過する場合に有効です。この場合、開
口で終了し、最終結果に寄与することのない小ビーム群を作成、追跡するのに余分
な時間を費やす理由がないかもしれません。ただし、グラフを使ってこのような光
源の忠実性を確認しようとしても、誤解が生じる場合があります。
元の電界(上)と角度範囲が制限された分解電界(下)
98
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
98 ページの「元の電界(上)と角度範囲が制限された分解電界(下)
」は、小(6 ミ
クロン)空間フィルタがシステム内に置換され、電界を下流開口に対応する ±15 度
に制限するために a パラメータが使われた元の例の異形を示しています。ここで、
アイリー関数の中核の鋭利なカットオフは、鋭利なエッジをシミュレートするため
に高角度のビームを必要としています。しかし、角度を a パラメータで制限する場
合、分解後の電界は、元の電界とはほとんど類似点のないものになります。このこ
とは、先の結果ほど安心感を与えるものではありませんが、電界は、すぐに円形開
口で切り取り、15 度の 1/2 角度のみで対にする場合、依然として有効です。
現在検討しているケースで全前進半球を形成しようとするときでも、正確な電界を
回復することはありません。この例は、93 ページの「エバネッセント波」で示さ
れた例と同じです。8本のエバネッセント波ビームが作成されることは消してなく、
その欠如だけで、開口以降の電界の外観が著しく変わります。
DECOMPOSE DIRECTION を使った、強く発散する小さな光源の作成
DECOMPOSE DIRECTION コマンドを使うと、半導体レーザーのように強く発散
する光源を正確に表現することができます。光源の幅が波長の次元と同じか、それ
より小さいような、強く発散する小さな光源を作成する場合、個々の小ガウス ビー
ム群が近軸の条件を違反することになります。これは、ガウス ビームが、近軸波
動方程式の解に過ぎないためです。幅が 1 波長より短いガウス電界は、一般的な非
近軸波動方程式のモードではないため、伝搬するとガウス型でなくなります。
ASAP は、光源を作成した面から小ガウス ビーム群を下流に伝搬するとき、前述の
光線追跡テクニックを使用し、小ガウス ビーム群がガウス型のままになるように
します。そのため、伝搬の前に元の光源に DECOMPOSE DIRECTION コマンドを
適用しない限り、非常に小さい光源の下流にある電界を計算する上でエラーが発生
します。 DECOMPOSITION DIRECTION コマンドは、元の電界に対してフーリ
エ変換を実行し、新しい小ビーム群のセットを作成します。小ビーム群のセット
は、それぞれ、元の光源の空間周波数内容に基づいた異なる角度、異なる加重で進
みます。より重要な点は、新しい小ビーム群が、対応する元の電界の小ビーム群よ
り広く、したがって ASAP で正しく伝搬する点です。
DECOMPOSE DIRECTION コマンドをこの方法に従って使用すれば常に正しい
結果が得られますが、ASAP の実行に必要な手順と時間が増えることになります。
DECOMPOSE DIRECTION を使用する場合、その精度は、元の光源の幅が狭くな
るにつれて向上します。
どのような幅の光源において精度が大きく向上するかを、次の「サンプル スクリ
プトと出力 : 大きく発散する発散光源に DECOMPOSE DIRECTION を使用した
場合の精度の向上」に示します。スクリプトは、単一のガウス ビームを最初の光
源とし、1/2 幅を ASAP の 1/2 幅(0.5 ウェーブ)に設定しています。2 つのプロッ
トの曲線は、それぞれ 100 mm 伝搬した後のビーム プロファイルを表します。
ASAP テクニカル ガイド
99
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
一方のビーム プロファイルは、単一のガウス ビームで表された最初の光源に起因
し、もう一方のプロファイルは、伝搬の前に最初の電界に対して DECOMPOSE
DIRECTION を実行した結果、作成された最初の光源に起因します。左が、最初
の光源の 1/2 幅が 0.5 ウェーブである場合のプロットです。DECOMPOSE コマンド
を使用していない単一のガウス ビームによる光源と、DECOMPOSE DIRECTION
コマンドを使った正しい電界による光源とでは、曲線に大きな差が見られます。右
は、最初の光源の 1/2 幅が 2 ウェーブである場合のプロットです。DECOMPOSE コ
マ ン ド を 使 用 し て い な い単一のガウス ビームによる光源と、 DECOMPOSE
DIRECTION コマンドを使った正しい電界による光源の曲線に見られる差は、
0.5 ウェーブの場合よりずっと小さいことがわかります。
さらに、0.5 ウェーブの場合の正しい電界には、エバネッセント成分の減衰による
約 2 パーセントの損失が見られます。幅の広い 2 ウェーブの光源では、エバネッセ
ント波に起因する損失はごくわずかです。
100
ASAP テクニカル ガイド
光源の 1/2 幅 = 0.5 ウェーブ
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
光源の 1/2 幅 = 2 ウェーブ
グラフ
エネルギー
エネルギー
グラフ
DECOMPOSE DIRECTION 未使用
DECOMPOSE DIRECTION 使用
DECOMPOSE DIRECTION 未使用
DECOMPOSE DIRECTION 使用
サンプル スクリプトと出力 : 大きく発散する発散光源に DECOMPOSE
DIRECTION を使用した場合の精度の向上
フレネル係数の正しいモデル化
DECOMPOSE DIRECTION コマンドは、2 つの媒体の境界に入射する小さいビー
ムについて、フレネル透過係数およびフレネル反射係数を正しく計算するときにも
使用できます。フレネル透過係数およびフレネル反射係数を計算する方程式では、
媒体の境界に平面波が入射すると想定されます。ASAP は、各入射小ビームにフレ
ネル係数を適用します。個々の小ビーム、特に波長の長さに近い小ビームの場合、
平面波を想定するのは不適切です。そこで DECOMPOSE DIRECTION を使うと、
フーリエ変換によって元の小さい電界が等価な広いビームのセットに分解されま
す。新しく作成された広いビームは、異なる方向に進み、各ビームのエネルギー量
は、元の電界の空間周波数内容に従って加重されます。境界に入射する新しいビー
ムは、広いため、フレネル方程式がより正確に適用できるようになります。
また、新しいビームは、それぞれが異なる方向に伝搬するため、フレネル係数もそ
れぞれ異なる値になります。透過および反射した個々の小ビームから、正しい全透
過電界と全反射電界が求まります。
DECOMPOSE DIRECTION コマンドを使い、媒体の境界に入射する小さいビーム
のフレネル透過係数およびフレネル反射係数を正しく計算する例を、次の「サンプ
ル スクリプトと出力: DECOMPOSE DIRECTION コマンドを使った正しいフレネル
透過係数およびフレネル反射係数の計算」に示します。スクリプトは、単一のガウ
ス ビームを最初の光源とし、1/2 幅を ASAP の 1/2 幅(5 ウェーブ)に設定してい
ます。このビームは、42 度の角度で境界に入射します。単一の小ビームが面と交
差して 42 度分のフレネル入射係数だけが電界に適用される前に、電界をより広
い小ビームの円錐形のセットに分解します。この円錐形のセットの基本光線が、
ASAP テクニカル ガイド
101
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
図の光線追跡画像にある「入射電界」です。画像には、透過および反射した小ビー
ムのセットの基本光線も含まれています。
また、入射電界、透過電界、および反射電界のエネルギーのグラフも表示されてい
ます。エネルギーは、すべて面の境界(Z=0)で測定したものです。反射エネル
ギーの分布のピークは、ASAP のグラフでは横にずれていることがわかります。こ
のずれは、入射角度の関数である反射係数の位相に見られる変動から生じ、グース
ヘンヒェン効果と呼ばれます。
入射電界
反射電界
透過電界
入射電界
反射電界
透過電界
DECOMPOSITION DIRECTION コマンドを使って正しいフレネル透過係数とフ
レネル反射係数を求める
102
ASAP テクニカル ガイド
.....
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
偏光電界の分解
DECOMPOSE コマンドは、現在の BRO029.dat ファイルにある電界に対応するビーム
のセットを作成します。このコマンドと GRID、RAYSET、GAUSSIAN の 4 つは、
COHERENT 光源の作成に使用します。そのため、偏光分析を実行する場合は、
DECOMPOSE コマンドの前に POLARIZ コマンドを発行しなければなりません。ま
た、分解する電界に大量の直交偏光成分がある場合は、各成分に対して POLARIZ
コマンドと DECOMPOSE コマンドの組み合わせを発行する必要があります。
その例を次に示します。
POLARIZ X
DECOMPOSE POSITION
POLARIZ Y
DECOMPOSE POSITION
POLARIZ Z
DECOMPOSE POSITION
注意 ASAP で使用される方法では、偏光成分の 1 つが他の成分に比べてけた違いにエネ
ルギー量が少ない場合、その偏光成分を除外した方が正確な結果が出ることがあります。
言い換えれば、電界が X 成分と Y 成分で主に偏光していて、Z 成分が極小である場合、
Z 成分は省略して X 成分と Y 成分だけを分解した方が、精度が高くなる可能性がありま
す。エネルギー量の少ない成分があるときに、その成分を分解すべきか除外すべきかを
判断するためには、DECOMPOSE の前と後で全電界にどれぐらいの差があるかを調べな
ければなりません。
参考文献 - ガウス ビーム
• Arnaud, J. “Nonorthogonal Optical Waveguides and Resonators,” Bell System Technical
Journal (November 1970): 2311-2348.
• Arnaud, J. “Representation of Gaussian beams by complex rays,” Applied Optics 24, no.
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• Greynolds, A. “Propagation of generally astigmatic Gaussian beams along skew ray
paths,” Proceedings of SPIE: Diffractive Phenomena in Optical Engineering
Applications 560 (1985): 33-50.
• Greynolds, A. “Vector formulation of ray-equivalent method for general Gaussian beam
propagation,” Proceedings of SPIE: Current Developments in Optical Engineering and
Diffractive Phenomena 679 (1986): 129-133.
• Herlowski, R. et al. “Gaussian beam ray-equivalent modeling and optical design,”
Applied Optics 22, no. 8, (April 15 1983): 1168-1174. (Erratum, Applied Optics 22, no.
20, (October 15, 1983): 3151.)
ASAP テクニカル ガイド
103
ASAP の波動光学
ガウス ビームの伝搬
• Einziger, P. et al. “Gabor representation and aperture theory,” Journal of the Optical
Society of America (JOSA) A 3, no. 4, (April 1986): 508-522.
• Felson, L. “Real spectra, complex spectra, compact spectra,” Journal of the Optical
Society of America (JOSA) A 3, no. 4, (April 1986): 486-496.
104
ASAP テクニカル ガイド
.....
ビーム伝搬法(BPM)
ビーム伝搬法(BPM)
....................................................
光学に関する文献では、BPM(ビーム伝搬法)という用語が広く使われています。
BMP 法と呼ばれるものは、すべて光学電界を伝搬する方法には違いありませんが、
使用されるテクニックや、光学上のさまざまな問題にどのように対処するかには大
きな違いがあります。ASAP の BPM は、3 次元空間に等しい間隔で並んだ一連の面
での光学電界を計算します。スカラーまたは半ベクトルのヘルムホルツ方程式の解
は、有限差分法を使って求められます。連続する各面での電界は、前の面における
離散点から計算されます。必要に応じて高次の導関数を含めると、精度が向上しま
す。これにより、前の電界の計算点がさらにたくさん必要になるため、計算の速度
は低下します。BPM は、マックスウェルの方程式の完全解を求める有限差分時間
ドメイン法(FDTD)や有限要素時間ドメイン法(FETD)ほど精度が高くはありま
せんが、計算が高速です。
ASAP では、次元が波長程度の長さである微構造の中で電界を伝搬するときに BMP
を使用します。BMP は、ASAP のガウス ビーム法と比べて制約が多く、機能が少
ないため、光学素子が小さすぎてガウス ビーム法が使えない状況で BMP 法を使う
のが普通です。BMP には、ASAP のガウス ビーム法にない 3 つの主な制約があり
ます。
1
BPM は、電界のうち前進波だけを計算します。そのため、光学電界の位相と相対的なエネル
ギー分布はただしく計算されますが、絶対エネルギーは正しく計算されません。
2
高精度モードでは、電界の角度の広がりが約 40 度に限定されます。
3
BPM では、半ベクトルが使用されます。つまり、複屈折媒質の場合、光学軸がグローバルの
X、Y、または Z 軸に沿っていなければなりません。
BPM は、あらゆるファイバ(ステップインデックス、GRIN、マルチモード、二重
被覆、先端の形状に加工を施したものなど)の内部および外部での結合や、マイク
ロ光学デバイスおよび導波路を介した伝搬をモデル化することができます。BPM
の一般的な応用例には、電気通信部品や、統合光学機器、マイクロ光学デバイス、
光バンドギャップ材料など多数が挙げられます。
F IE L D コマンドの第 2 の形態
BPM の使い方は、簡単に習得できます。BPM は、個別のソフトウェアではなく、
ASAP の FIELD(または FIELDBPM)コマンドの中に備わっています。BPM の前
に BPM 用の開始電界を作成する必要がありますが、開始電界の指定や電界の実際
の伝搬、中間電界と最終電界の計算を含めた BPM の全過程は、FIELD(または
FIELDBPM)コマンドで実行します。これにより、マクロ光学デバイスからマイク
ロ光学デバイスへの移行を行い、同じ ASAP INR ファイル内に戻す過程が単純にス
ムーズに処理できます。
ASAP テクニカル ガイド
105
ビーム伝搬法(BPM)
BP M の手順
従来の ASAP 分析は、INCOHERENT(幾何学的方法)の場合も COHERENT(ガウス
ビーム法)の場合も、4 つの主要な段階から成ります。
1
システムの構築
2
光源の作成
3
光線追跡
4
分析
ただし、BPM は、この 4 段階モデルに完全には当てはまりません。BPM では、
ASAP の光源コマンドをまったく使用しません。その代わりに、伝搬する開始電界
が、BRO029.DAT ファイルと同じフォーマットでの複素数の配列として存在する必
要があります。各複素数は、単一のピクセルの電界値に相当します。また、光線が
ないため、光線追跡もありません。代わりに、FIELDBPM コマンドを発行すると、
有限差分 BPM を使った電界伝搬が行われます。さらに、ジオメトリは従来の ASAP
と同様に作成されますが、BPM の計算に使用されるのは、媒体の境界と媒体の指
数だけです。コーティングなどの面処理や散乱属性は無視されます。BPM で使用
できる分析コマンドは、FIELDBPM だけです。
BPM の手順は、次のとおりです。
1
システムの幾何形状と媒体を構築する。
2
適切な UNITS コマンドと WAVELENGTH コマンドを発行する。
3
開始電界として使用するファイルを指定する。
4
BRO009.DAT ファイルに保存する FIELD パラメータを選択する。
5
伝搬距離と、計算する中間電界の数を選択する。
6
使用する境界条件を指定する(または、デフォルトの吸収境界条件を使用する)
。
7
精度の設定を選択する(または、デフォルトの ACCURACY LOW 設定を使用する)。
8
FIELDBPM コマンドを発行して、電界の伝搬と分析を実行する。
8 つの各段階を、次の項でさらに詳しく説明します。
1. システムの幾何形状と媒体を構築する
前述のとおり、ジオメトリは従来の ASAP と同様に作成されますが、BPM の計算
に使用されるのは、媒体の境界と媒体の指数だけです。コーティングなどの面処理
や散乱属性は無視されます。ジオメトリは、CAD ファイルから作成されたもので
も、すべて使用できます。
BPM は、任意の複雑な媒体または GRIN 媒体を扱うことができます。単軸複屈折
媒質の場合、各媒体の光学軸がグローバルの X、Y、または Z 軸に沿っていなけれ
ばならない制約がありますが、このような媒体も BPM で処理できます。
106
ASAP テクニカル ガイド
.....
ビーム伝搬法(BPM)
注意 開始電界は、現在の IMMERSE コマンド内で指定されている単一の媒体の中に完全
に存在するものとみなされます。
そのため、2 つ以上の媒体にある最初の電界で開始することはできません。ただし、
開始電界面の下流にある計算面では、電界が複数の媒体に存在してもかまいませ
ん。その例を表 1 に示します。この表で対象となるジオメトリは、コア媒体と被覆
媒体から成るシングルモードのステップインデックス型光ファイバです。最初の電
界をファイバのわずか手前で、単一の ASAP 媒体である AIR に IMMERSE して開始
することができます。これを表したのが次の左側の配列で、開始電界のすべてのピ
クセルで媒体が AIR になっています。伝搬が開始されれば、後続の計算面には、
表 1 の右側の配列のように異なる媒体が含まれていてもかまいません。
表 1.ファイバを介して伝搬する場合、最初の電界は、左の配列のように単一の媒体(AIR)だけに IMMERSE
されます。伝搬が開始されると、電界は、右の配列のように複数の媒体から成る面へ進むことができます。
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
CLAD
CLAD
CLAD
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
CLAD
CORE
CLAD
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
CLAD
CLAD
CLAD
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR
AIR に IMMERSE された開始電界。
後続の計算面。
複数の異なる媒体。
BPM では、伝搬方向に垂直に生じる媒体の移行だけが検出されます。BPM 伝搬の
前に、媒体の移行を検出するために、横のピクセルのそれぞれに対して伝搬方向で
のテスト光線進行が行われます。そのため、媒体の境界が伝搬方向に平行な場合
は、検出されません。ボクセル(体積ピクセル)のいずれかで媒体の移行が検出さ
れた場合、テスト光線は、次のボクセルの波面に移動し、媒体の移行を検出するた
めの追跡を続行します。同じボクセル内で媒体の移行が複数回発生している場合、
このプロセスでは検出できません。そのような状況では、テスト光線が混乱し、次
の移行の際に MEDIA MISMATCH エラーが発行されます。この問題を、108 ページ
の「MEDIA MISMATCH エラーの例」で例示します。
ASAP テクニカル ガイド
107
ビーム伝搬法(BPM)
この例では、MEDIA 2 の下限が V 状の境界のところで終了し、1 つのピクセルで
2 回の遷移が発生していますが、ASAP はそれを検出していません。その結果、
MEDIA MISMATCH エラーが発生することがあります。
媒体2
媒体3
媒体4
テスト光線
媒体1
∆y
∆z
問題が
生じる時点
メッセージが
生成される時点
MEDIA MISMATCH エラーの例
ただし、この問題は簡単に解決することができます。この MEDIA MISMATCH の
問題を回避するには、問題の面に対する INTERFACE コマンドを次の 2 つの方法で
修正する必要があります。
1
INTERFACE コマンド内の 2 つの MEDIA の順序が重要になります。 MEDIA の順序は、テ
スト光線が出会う順序と同じでなければなりません。
2
2 つの MEDIA は、正しい順序に並べた上で、スペースを入れずにコンマで区切る必要があり
ます(ASAP の他の方法とは異なり、スペースで区切りません)
。
サンプル スクリプト : INTERFACE コマンド
2. 適切な WAVELENGTH コマンドと UNITS コマンドを発行する
BPM で は、ガ ウ ス ビーム ASAP に使用する BEAMS COHERENT DIFFRACT、
PARABASAL、WIDTHS のコマンドをユーザーが指定する必要はありません。ただ
し、ユーザーは、WAVELENGTH コマンドを発行する必要があります。波長の値は、
108
ASAP テクニカル ガイド
.....
ビーム伝搬法(BPM)
開始電界を記述したファイルに含まれていないためです。また、ASAP に波長に対
する相対的なジオメトリ サイズを知らせる目的で、WAVELENGTH コマンドの前に
UNITS コマンドを発行しなければなりません。
3. 開始電界として使用するファイルを指定する
BPM の開始電界は、従来の ASAP 光源コマンドとしてではなく、ファイルとして
指定します。
開始ファイルは、複素数の矩形の配列を含み、BRO029.DAT ファイルと同じフォー
マットでなければなりません。複素数の他には、WINDOW 座標、PIXELS の数、開
始面の位置を示す値が必要です。開始ファイルとしては、現在の BRO029.DAT ファ
イル、または保存してある任意のファイルが使えます。ファイルは、ファイル番号
かファイル名(ファイル拡張子も含む)を使って指定します。開始ファイルの指定
を 行 う 場 所 は、FIELDBPM の語の直後、かつ、どの FIELDBPM パラメータが
BRO009.DAT ファイルに保存されるかを指示する語の直前です。
サンプル スクリプト : 開始ファイルの FIELDBPM パラメータ
正しい ASAP フォーマットの複素数配列であれば、どれでも ASAP BPM 伝搬の開
始電界として使用できます。ガウス ビーム ASAP の項で任意の電界の入力につい
て説明したとおり、適切なヘッダとフォーマットで DISPLAY -29 コマンドを使え
ば、BPM の開始電界として使用する電界を定義することができます。ガウス ビー
ム ASAP とは異なり、BPM では、この任意の電界を伝搬前にビームのセットに分
解する必要がありません。また、ガウス ビーム ASAP または ASAP BPM で作成さ
れた FIELD は、保存しておき、BPM 分析の開始ファイルにすることができます。
電界の保存は、対象である電界を計算し、BRO029.DAT に入れた後に行います。た
だし、BRO029.DAT に入れた対象の電界を上書きするような別の電界が計算される
前に行わなければなりません。電界を保存するには、$COPY マクロ コマンドを発
行しますが、その際、コマンドの直後に 29(BRO029.DAT を指す)、次に保存ファ
イルに付ける名前を続けます。保存するファイルの名前に拡張子を付けなかった場
合は、デフォルトで .DAT 拡張子が使用されます。後で BPM の開始電界として指
定するときは、必ず拡張子を含めたファイル名を入力する必要があります。
$COPY のサンプル スクリプト
ASAP テクニカル ガイド
109
ビーム伝搬法(BPM)
注意 開始電界として使用する電界は、WINDOW サイズと PIXELS 数が適切でなければな
りません。
従来の ASAP とは異なり、BPM 計算で使用するウィンドウのサイズとピクセル数
は、最後の WINDOW コマンドおよび PIXELS コマンドから導かれません。その代
わりに、開始電界のファイル内にあるウィンドウのサイズとピクセル数と同じもの
が使用されます。BPM 計算ウィンドウの横のサイズが開始電界の WINDOW サイズ
と同じであるだけでなく、計算ウィンドウのサイズは、BPM の伝搬の間、常に一
定に維持されます。そのため、伝搬する間に電界の横の幅が広くなる場合は、開始
電界の WINDOW サイズが十分に大きく、BPM の伝搬につれて拡大する電界に対応
できることを確認してください。また、吸収境界条件が使用される場合は、ピク
セルの追加にも対応できるサイズでなければなりません。デフォルトの境界条件
では、各方向のピクセルの 3 分の 1(ピクセルのうち、各エッジに最も近い 6 分の
1 ずつ)を使って物理的吸収境界がモデル化されます。境界条件に関する詳細は、
112 ページの「6. 使用する境界条件を指定する(または、デフォルトの吸収境界条
件を使用する)」を参照してください。
4. BRO009.DAT ファイルに保存する FIELD パラメータを選択する
上述のとおり、開始ファイル名または開始ファイル番号の直後に続く語によって、
BPM 計 算 の 結 果 と し て BRO009.DAT ファイルに保存する FIELD パラメータ
(PHASE、WAVEFRONT、REAL、IMAGINARY、MODULUS、AMPLITUDE、または ENERGY)
が指定されます。DISPLAY コマンドを発行すると、この FIELD パラメータの値が
表示されます。ガウス ビーム ASAP の場合と同じく、結果として起こる FIELDBPM
計算のための複素電界の値は、すべて BRO029.DAT ファイルに保存されます。その
他の FIELD パラメータを表示するには、DISPLAY 29 コマンドの直後に該当する
パラメータを続けたものを発行します。偏光分析の場合は、まず POLARIZ コマン
ドを発行して該当する偏光成分を区別しておく必要があります。DISPLAY 29 を
使うことで、電界を再計算しなくてもすべての電界パラメータを表示できるのは、
重要な特長です。FIELDBPM 計算は、非常に時間がかかることがあるので、異なる
電界パラメータを表示するためだけに電界を計算し直す必要はありません。
サンプル スクリプト : FIELD パラメータの指定
110
ASAP テクニカル ガイド
.....
ビーム伝搬法(BPM)
5. 伝搬距離を選択する
フォーマット タイプ 1
伝搬距離は、BRO009.DAT ファイルのために選択した電界パラメータの後に指定し
ます。BPM の伝搬距離を指定するためのフォーマット タイプは 2 つあります。最
初のフォーマット タイプは、伝搬距離を表す 1 つの数値(単位は系の単位)で指
定するか、伝搬距離と計算面の数の 2 つの数値で指定します。このタイプで伝搬距
離を指定する例を次に示します。
サンプル スクリプト : フォーマット タイプ 1
上記の例は、いずれも開始電界を 5 単位だけ伝搬するように ASAP に指示していま
す。2 番目の例は、開始電界から 5 単位の距離内に等間隔に並んだ 3 つの面で電界
計算をするよう ASAP に指示しています。
複数の計算面が指定されている場合は、面の番号に応じて各面の電界パラメータを
個別に調べることができます。ある計算面の特定の FIELD パラメータを DISPLAY
で表示するためには、2 つの点を理解しておく必要があります。
デフォルトの計算面は、伝搬の全距離を進んだところにある最終面です。その面の
FIELD パラメータは、すべて通常の方法で表示できます。
サンプル スクリプト : FIELD パラメータの表示
N 個の異なる計算面を要求した場合、一般に、N+1 個の面の電界(N 個の計算面と
開始電界)が保存されます。この場合、面 1 は開始電界なので、最終計算面は、面
N ではなく面 N+1 です。この番号付けは、ガウス ビーム ASAP で FIELDSUM コマ
ンドを使い、複数の面での電界を計算する場合とは異なります。ガウス ビーム
ASAP は、最初の電界のファイルではなく、ビームのセットの電界を計算します。
また、BPM で複数面の電界を計算するときは、ガウス ビーム ASAP と違い、計算
時間が長くなりません BPM では、常に、最終的な伝搬距離に達するまで、連続す
る複数の面で電界が計算されるためです。任意の面での電界値は、前の平面での
電界値から導かれるため、複数の面での計算が不可欠になります。したがって、
ASAP テクニカル ガイド
111
ビーム伝搬法(BPM)
BPM で複数の計算面を要求することは、ASAP に、すでに計算されている中間面の
電界値を保存するように指示していることに他なりません。
この最初のフォーマット タイプを使い、複数の計算面のための伝搬距離を指定す
る例を次に示します。
サンプル スクリプト : フォーマット タイプ 1 と複数の計算面
フォーマット タイプ 2
BPM の伝搬距離を指定する 2 番目のフォーマット タイプでは、BRO009.DAT ファ
イルに対して選択した電界パラメータの直後に、3 つの数値を発行する必要があり
ます。3 つの数値は、それぞれ開始面の座標、終了面の座標、計算面の数を表しま
す。このフォーマット タイプは、ガウス ビーム ASAP で使用するフォーマットに
似ています。最初に入力した座標が開始電界のファイルにある値と異なる場合、
ASAP は、FIELDBPM コマンドにリストされている最初の座標値の位置に開始電界
を配置し、最初の 2 つの入力値の差を合計距離として伝搬を行います。これによ
り、開始ファイルに保存された電界の開始面が、作成時の座標値とは異なる新しい
座標値に効率的に移動されます。フォーマット タイプ 1 を使って複数の計算面を
要求する場合と同じく、N+1 個の面の電界(N 個の計算面と開始電界)が保存され
ます。また、フォーマット タイプ 1 で説明したとおり、DISPLAY で面の番号を使
う場合には、デフォルトの面である最終計算面が面 N+1 であることに注意してく
ださい。この場合も、開始電界は、面 1 です。FIELDBPM コマンドを使い、フォー
マット タイプ 2 で伝搬距離を指定する例を次に示します。
サンプル スクリプト : フォーマット タイプ 2 を使った FIELDBPM コマンド
6 . 使 用 す る 境 界 条 件 を 指 定 す る( ま た は 、デ フ ォ ル ト の 吸 収 境 界 条 件 を 使 用 す る )
BPM を使った電界計算の結果は、計算領域のエッジにある境界がどのように記述
されるか(境界条件、BC)を示す関数です。伝搬する電界が計算領域のエッジに
出会ったとき、ASAP は、電界が境界にどのように反応するかを知っている必要が
あります。2 つの光学媒体を隔てる実際の境界では、境界に交差する電界の一部が
反射します。反射した電界は、前進する伝搬電界の残りの部分と交互作用します。
112
ASAP テクニカル ガイド
.....
ビーム伝搬法(BPM)
多くの場合、BPM 計算の境界は、計算の延長を横に切り取ったものに過ぎず、モ
デル化の対象である実際の物理的状況とは関係がありません。このような場合は、
計算領域の境界に達しても電界が反射しない方が好ましいでしょう。ASAP では、
吸収境界条件を適用して反射を防ぎます。吸収境界条件に加え、ASAP では、周期
的なゼロ電界と完全反射境界条件が使えます。
吸収境界条件には、物理的なもの(BC 指定子がない場合のデフォルト)と数値的
なもの(BC 指定子があり、その後に数値がない場合)の 2 種類があります。物理
的な吸収の場合、境界のピクセルに吸収値が割り当てられ、ピクセルが計算ウィン
ドウのエッジに近づくにつれて吸収値が大きくなります。吸収値としては、境界の
反射を最小にするような値が割り当てられます。数値的な吸収境界条件の場合、計
算ウィンドウのエッジに近づくにつれて、ピクセル自体が長くなります。ASAP に
最初に導入されたのは数値的吸収境界条件ですが、多くの場合、物理的吸収境界条
件の方がよく機能します。そのため、境界条件を指定しなかった場合、デフォルト
で物理的吸収境界条件が使用されます。デフォルトの物理的吸収境界条件では、
ウィンドウの各次元ごとにピクセルの外側 3 分の 1(各エッジにつき 6 分の 1)に
物理的吸収層が適用されます。
上記のデフォルト以外の境界条件を適用するためには、BC という文字を明示的に
発行し、直後に FIELDBPM コマンド内で伝搬距離の記述の後にある数値を 1 つ、
2 つ、または 4 つ続けます。ユーザーが数値で境界条件を指定するときは、次の表
にある数値を使用します。
表 2. 境界条件の種類を指定するための数値
BC
< -1
物理的に吸収するウィンドウのピクセルの帯
BC
-1
周期的境界条件
BC
0
ゼロ電界
BC
1
完全反射電界
BC
>1
数値的に吸収するウィンドウのピクセルの帯
BC の文字の後に数値を 1 つだけ入力した場合、それに該当する種類の境界条件が、
計算ウィンドウの 4 つの境界すべてに適用されます。BC の文字の後に数値を 2 つ
入力した場合、最初の数値がウィンドウの両次元の最初のエッジに適用され、2 番
目の数値が両次元の 2 番目のエッジに適用されます。ウィンドウの 2 つの次元に異
なる境界条件を指定するためには、BC の後に数値を 4 つ入力する必要があります。
4 つの数値は、それぞれ、第 1 次元の第 1 エッジ、第 2 次元の第 1 エッジ、第 1 次
元の第 2 エッジ、第 2 次元の第 2 エッジに相当します。
ASAP テクニカル ガイド
113
ビーム伝搬法(BPM)
吸収領域のサイズを大きくすることで、反射量をさらに減らすことも可能です。吸
収領域が大きいと、吸収が緩やかになるため、反射が少なくなります。吸収帯のサ
イズは、デフォルトでは計算ウィンドウ全体との相対で 3 分の 1 ですが、もっと大
きくすることができます。それには、物理的吸収の場合は、−1 より小さい値では
なく、負の浮動小数点の値を入力します。数値的吸収の場合は、1 より大きい値で
はなく、正の浮動小数点の値を入力します。
周期的境界条件は、周期的構造をモデル化するときに役立ちます。この場合の BPM
計算は、計算ウィンドウがあたかも周期的構造で反復された多数のセルの 1 つであ
るかのように振舞います。周期的境界条件で正しい計算を行うためには、媒体と開
始電界(振幅と位相)が周期的でなければなりません。
モデル化する状況に対称性がある場合は、反射境界条件を適用すると BPM 計算の
時間が短縮できることがあります。これは、ウィンドウがどのように対称であるか
に応じて、ウィンドウの一方の次元の片側で行うか、または両方の次元の片側で行
うのが普通です。この場合、反射境界における電界は、境界の外の状況が境界内の
状況の鏡像であるかのように振舞います。
ゼロ電界の境界条件は、境界における電界値を強制的にゼロにします。
サンプル スクリプト : ASAP の境界
7. 精度の設定を選択する(または、デフォルトの ACCURACY LOW 設定を使
用する)
BPM の精度は、電界の伝搬角度が大きくなるか、連続するピクセル間での指数の
変化が大きくなるにつれて低下します。ASAP では、高次の導関数を含めることで
BPM 計算の精度を改善できます。それには、ACCURACY コマンドを使い、精度を
LOW、MEDIUM、HIGH のいずれかに設定します。精度を高く設定すると、計算時間
が長くなります。ただし、ASAP では、計算の実行中に残りの計算時間の概算が表
示されます。最初の 2 次元計算をもとにすると、どの ACCURACY が適切かを簡単
に決定できます。これについては、このガイドの 117 ページの「2 次元での伝搬」
で説明します。
114
ASAP テクニカル ガイド
.....
ビーム伝搬法(BPM)
次の表は、どのような場合に精度を高く設定するかを示すガイドラインです。
表 3. 高次精度の設定ガイドライン
演算子の
次数
軸からの
最大角度
LOW
1
10
MEDIUM
2
20
HIGH
3
40
ACCURACY
設定
注記
フレネル / 近軸 / 弱導波近似
広角および / または大きな、屈折率の変動
109 ページの「3. 開始電界として使用するファイルを指定する」にあるとおり、開
始電界のファイルにある WINDOW サイズと PIXELS 数によって、横のサンプリン
グ サイズが決まります。通常、横のサンプリングは、真空波長を最大率で割った
値の 4 分の 1 ~ 3 分の 1 以下でなければなりません。BPM 計算の開始時に、真空
波長、最小率、最大率、参照率、および参照率における横のサンプリング サイズ
(単位はウェーブ)がコマンド出力ウィンドウに表示されます。コマンド出力の表
示例を次に示します。
Vacuum wavelength = 1.300000
Propagation distance = 10000.00 UM
Performing initial scan of media and geometry ...
Refractive indices: min= 1.44968 ref= 1.45305 max= 1.45643
600 lateral sampling = 0.23 waves (at reference index)
前述のとおり、ASAP によって自動的に最適な縦のサンプリング サイズが選択され
ます。この選択は、ACCURACY の設定と横のサンプリング サイズ、および指数の
ステップの大きさに基づいて行われます。縦のステップの数も、BPM の開始時に
コマンド出力ウィンドウに表示されます。
サンプリング サイズと ACCURACY の設定が正しい結果を得るために適しているか
どうかは、計算の間にコマンド出力ウィンドウの [Relative Flux] に表示される 2 つ
の数値を見るとわかります。この 2 つの数値は、BPM 計算の実行中、間断なく変
化します。非吸収の場合は、値が計算の間常に 1 に近いままになります。ACCURACY
の設定を変えて同じ計算を行った 3 つの例を次に示します。ACCURACY の設定が
LOW から MEDIUM、そして HIGH へと変わるにつれ、Relative Flux(相対光束)の値
が 1 に近づき、計算時間が長くなります。
ASAP テクニカル ガイド
115
ビーム伝搬法(BPM)
精度の向上
Low Accuracy
Medium Accuracy
High Accuracy
速度の上昇
ACCURACY を低、中、高に設定した例
8. FIELDBPM コマンドを発行して、電界の伝搬と分析を実行する
実際の BPM 計算は、すべて FIELDBPM コマンドを発行して開始します。明示的に
BPM を指定せずに FIELD コマンドを発行した場合でも、FIELD の後に続くファイ
ル名やファイル番号によっては BPM が実行されることもあります。ただし、混乱
を避けるため、BPM の部分もコマンドに含めて FIELDSUM コマンドと区別するよ
うにしてください。ASAP は、前の 7 つの項で説明した情報を BPM 計算のパラメー
タとして使用します。ガウス ビーム ASAP で使用され、FIELDSUM に含まれる
FIELD オプション(ADD、MULTIPLY、COUPLE など)は、すべて BPM で使用で
きます。BPM 計算の結果は、BRO009.DAT ファイルと BRO029.DAT ファイルに保
存され、前の項で説明した方法で取得することができます。
最後に、特殊な問題について個別に解説します。
116
ASAP テクニカル ガイド
.....
ビーム伝搬法(BPM)
電界結合
BPM における電界の結合は、ガウス ビーム ASAP での電界の結合と似ています。
唯一の違いは、ASAP が、与えられた面の現在のビーム セットを BRO029.DAT の
内容に結合するのではなく、指定のファイルを伝搬し、BRO029.DAT に結合するこ
とです。
サンプル スクリプト : ASAP の境界
伝搬せずに結合することも可能です(ヌル BPM)。
サンプル スクリプト : 伝搬なしの結合
2 次元での伝搬
完全 3 次元での BPM 計算は、非常に時間がかかることがよくあります。モデル
化される状況が、対称な円柱形である場合は、2 次元で(直径を 1 次元、縦方向
を 1 次元として)モデル化すると計算時間を大幅に短縮できます。また、対称性の
ない状況でも、まず 2 次元モデルを作成すると、3 次元計算に最適なサンプリング
を簡単に決定することができます。2 次元計算を行うには、まず、ウィンドウが開
始電界の面における直径方向の切断面となるように WINDOW を設定します。それに
は、WINDOW で横方向の 2 次元のどちらかがゼロから最大計算半径まで延びるよう
に設定します。横方向のもう一方の次元は、1 ピクセルになるように小さく設定し
ます。すると、FIELDSUM がこのウィンドウで計算されます。伝搬軸の座標を含む
AXIS コマンドを発行します。このコマンドは、ASAP に、以後のデータを指定の
軸に対する円柱座標として出力するよう指示します。これで、2 次元 BPM が計算
できるようになります。
サンプル スクリプト : 2 次元 BPM
ASAP テクニカル ガイド
117
ビーム伝搬法(BPM)
BP M とガウス ビーム A SA P 間の移行
システムの中には、適切な ASAP モデルを作成するのに BPM 伝搬とガウス ビーム
伝搬の両方を行わなければならないものもあります。BPM が通常の ASAP コマン
ド構造に組み込まれていることから、BPM とガウス ビーム ASAP の間は簡単に移
行することができます。
ガウス ビーム ASAP から BPM へ移行するときは、最終的なガウス ビーム電界を保
存し、それを BPM の開始電界として使用するだけで簡単にできます。
BPM からガウス ビーム ASAP に移行するときは、必要な手順が 1 つ増えます。最
終的な BPM 電界を DECOMPOSE コマンドでガウス ビームに変換する必要があるた
めです。このコマンドについては、10 ページの「ガウス ビームの伝搬」を参照し
てください。
例
BPM のサンプル スクリプトについては、119 ページの「付録 A: BPM の例」を参
照してください。
118
ASAP テクニカル ガイド
.....
A: BPM の例
付録
...................................
A
この付録では、FIELDBPM を使った INR ファイルの例を 3 つ紹介します。
例 1
最初の例では、ビームをシングルモード光ファイバの内側から先端形状を通じて空中へと伝搬します。ファイ
バのジオメトリと INR ファイルは、次のとおりです。
UNITS UM
WAVELENGTH 1.55 MICRONS
MEDIA
1.4505 'CORE'
1.4447 'CLADDING'
SURFACE
PLANE Z 0 ELLIPSE 8.2/2
OBJECT 'ENTRANCE_PLANE.INNER
INTERFACE 0 1 AIR,CORE
SURFACE
PLANE Z 0 ELLIPSE 50 50 8.2/100
OBJECT 'ENTRANCE_PLANE.OUTER
INTERFACE 0 1 AIR,CLADDING
SURFACE
TUBE Z 0 8.2/2 8.2/2 50 8.2/2 8.2/2
ASAP テクニカル ガイド
A119
A
付録 A: BPM の例
OBJECT 'CORE
INTERFACE 0 1 CORE CLADDING
SURFACE
OPTICAL Z 50 -50 ELLIPSE 8.2/2
OBJECT 'CURVED_FACE.INNER
INTERFACE 0 1 CORE,AIR
SURFACE
OPTICAL Z 50 -50 ELLIPSE 50 50 8.2/100
OBJECT 'CURVED_FACE.OUTER
INTERFACE 0 1 CLADDING,AIR
PI=ACOS(-1)
V=2*PI/1.55*4.1*SQRT(1.4505^2-1.4447^2)
!! CALCULATE V# FOR FIBER MODE
PARABASAL 4
BEAMS COHERENT DIFFRACT
WIDTHS 1.6
RAYSET Z -1 !! start in air (default IMMERSE)
0 0 1 4.1 4.1 -FIBR (V)
SOURCE DIRECTION 0 0 1
PIXELS 141
WINDOW X -2@20 Y -2@20
FIELD ENERGY -1
ACCURACY MEDIUM
FIELD 29 ENERGY 1+100 50
PLANES
DISPLAY 29 20;PICTURE
DISPLAY 29 27;PICTURE
DISPLAY 29 29;PICTURE
DISPLAY 29 32;PICTURE
DISPLAY 29 51;PICTURE
!! PROPAGATE 50 UM BEYOND FIBER; 50 CALCULATION
ファイバの内部と空中を隔てる平坦な円形入射面は、内側に小さなディスクを含み、その片側に MEDIA AIR、
反対側に CORE があります。また、入射面の外側には、大きな環状の入射面があり、その片側は MEDIA AIR、
反対側は CLADDING となっています。
FIELDBPW で使用する初期の電界は、単一の媒体に IMMERSE されなければならないため、最初の RAYSET 光源
とファイバ モード ビームの形状パラメータ(V)は、ファイバより 1 ミクロン前で AIR(デフォルトのイマー
ジョン媒体)に IMMERSE されるように作成します。
A-120
ASAP テクニカル ガイド
.....
付録 A: BPM の例
この光源から FIELDSUM を計算した後、FIELDBMP コマンドは、29(現在の BRO029.DAT ファイル)を開始電
界ファイルとして使用し、ファイバの入射面から 100 ミクロン伝搬します。これは、同時に曲線状になったファ
イバの先端の頂点から 50 ミクロン先に位置します。さらに 50 の面の電界値が計算されます。5 つの異なる x-y
面で電界の画像が作成されます。これらの画像を次に示します。
y-z 電界の断面の画像も示します。これは、BRO029.DAT ファイルを 3D ビューアで開いて作成したものです
([File] > [Open] を選択し、[Open Files] ダイアログ ボックスでファイルを選択し、[Open mode] の隣にある [3D
Viewer] を選択します)
。
DISP 29 20
Z = -12.62
DISP 29 27
Z=1.52
DISP 29 29
Z=5.56
DISP 29 32
Z=11.62
DISP 29 51
Z=50.00
ファイバ面
Z=0
赤い矢印は、それぞれ断面画像内での電界の位置を示しています。先端が曲線状になっているために、ファイ
バ モードの焦点は、ビームが発散した後、頂点の 1 ~ 2 ミクロン手前の空中で比較的よく焦点が定まっている
ことに注目してください。
ASAP テクニカル ガイド
A121
A
付録 A: BPM の例
例 2
2 番目の例でも先端が曲線状のファイバを使用しますが、最初の例に比べるとずっと単純です。例 2 では、
例1で使用した5つの面のうち4つを取り除き、片側に CORE 媒体、反対側に AIR 媒体がある曲面だけを残します。
開始ビームは、CORE 媒体に IMMERSE されます。ビームを閉じ込めるための CLADDING 媒体がないため、曲面
のできるだけ近いところで開始する必要があります。
ジオメトリが例 1 ほど正確でないものの、結果は非常に近いものになります。次に、この例の INR ファイル、
形状、および結果として生成された y-z 電界の断面を示します。
UNITS UM
WAVELENGTH 1.55 MICRONS
MEDIA
1.4505 'CORE'
SURFACE
OPTICAL Z 0 -50 ELLIPSE 50/2
OBJECT 'CURVED_FACE.INNER
INTERFACE 0 1 CORE,AIR
PI=ACOS(-1)
V=2*PI/1.55*4.1*SQRT(1.4505^2-1.4447^2)
!! CALCULATE V# FOR FIBER MODE
IMMERSE CORE
PARABASAL 4
BEAMS COHERENT DIFFRACT
WIDTHS 1.6
RAYSET Z -5 !! start in core medium
0 0 1 4.1 4.1 -FIBR (V)
SOURCE DIRECTION 0 0 1
PIXELS 141
WINDOW X -2@20 Y -2@20
FIELD ENERGY -5
ACCURACY MEDIUM
FIELD 29 ENERGY 55 27 !! PROPAGATE 50 UM BEYOND FIBER; 50 CALCULATION PLANES
DISPLAY 29 3;PICTURE
DISPLAY 29 5;PICTURE
DISPLAY 29 8;PICTURE
DISPLAY 29 28;PICTURE
A-122
ASAP テクニカル ガイド
.....
付録 A: BPM の例
例 2 の出力を次に示します。
ファイバ面
Z=0
ASAP テクニカル ガイド
A123
A
付録 A: BPM の例
例 3
3 番目の例では、任意の形状の電界が、シングルモード光ファイバへ短距離だけ伝搬した後に、光ファイバの
モードへ収束する様子を調べます。まず、シングルモード光ファイバに正方形に切り取られて入射する平面波
から開始します。ファイバの形状と INR ファイルは、次のとおりです。
UNITS UM
WAVELENGTH 1.55 MICRONS
MEDIA
1.4505 'CORE'
1.4447 'CLADDING'
!! INDEX OF CORE @1.55 UM FOR CORNING SMF-28 FIBER
!! INDEX OF CLADDING @1.55 UM FOR CORNING SMF-28 FIBER
SURFACE
PLANE Z 0 ELLIPSE 8.2/2
OBJECT 'ENTRANCE_PLANE.INNER
INTERFACE 0 1 AIR,CORE
SURFACE
PLANE Z 0 ELLIPSE 50 50 8.2/100
OBJECT 'ENTRANCE_PLANE.OUTER
INTERFACE 0 1 AIR,CLADDING
SURFACE
TUBE Z 0 8.2/2 8.2/2 350 8.2/2 8.2/2
OBJECT 'CORE
INTERFACE 0 1 CORE CLADDING
SURFACE
TUBE Z 0 50 50 350 50 50
OBJECT 'CLAD
INTERFACE 0 1 CORE CLADDING
PARABASAL 4
BEAMS COHERENT DIFFRACT
WIDTHS 1.6
GRID RECT Z -1 -4@10 11 11
SOURCE DIR 0 0 1
A-124
ASAP テクニカル ガイド
.....
付録 A: BPM の例
PIXELS 231
WINDOW X -2@35 Y -2@35
FIELD ENERGY -1
ACCURACY MEDIUM
FIELD 29 ENERGY 300 50 !! PROPAGATE 50 UM BEYOND FIBER; 50 CALCULATION PLANES
DISPLAY 29 1;PICTURE
DISPLAY 29 11;PICTURE
DISPLAY 29 21;PICTURE
DISPLAY 29 31;PICTURE
DISPLAY 29 41;PICTURE
DISPLAY 29 51;PICTURE
例 1 のように、ファイバの内部と空中を隔てる平坦な円形入射面があります。入射面の内側には、小さなディ
スクがあり、その片側は MEDIA AIR、反対側は CORE です。また、平坦で大きな環状入射面があり、その片側
は MEDIA AIR、反対側は CLADDING です。残りの 2 つの面は、CORE と CLADDING、そして CLADDING と AIR
の間の境界となるチューブ状の面です。
この例では、伝搬がファイバの内部で終わるため、出射面の形状を作成する必要はありません。切り取られた
平面波は、ファイバの 1 ミクロン前に GRID 光源で作成されます。この光源から FIELDSUM を計算した後、
FIELDBMP コマンドは、29(現在の BRO029.DAT ファイル)を開始電界ファイルとして使用し、ファイバの内
部へ 300 ミクロン伝搬します。さらに 50 の面の電界値が計算されます。
ASAP テクニカル ガイド
A125
付録 A: BPM の例
A
5 つの異なる x-y 面で画像の画像が作成されます。次に、これらの画像と y-z 電界の断面を示します。赤い矢印
は、断面の画像内での各 x-y 電界の位置を示しています。
ビームが z 方向に伝搬すると、ファイバ モードに不要なエネルギー部分がコアから抜け出し、デフォルトの物
理的吸収境界条件に従って吸収されていきます。伝搬の最後で見られるファイバ内のビームが、正しいファイ
バ モードのビームになっています。
DISP 29 1
Z = -1
A-126
DISP 29 11 DISP 29 21 DISP 29 31 DISP 29 41 DISP 29 51
Z = 239
Z = 179
Z = 300
Z = 119
Z = 59
ASAP テクニカル ガイド
.....
付録 A: BPM の例
例 4
4 番目の例では、出射面を 8 度の角度で切ったシングルモード光ファイバに現れる電界の作成方法を示します。
ファイバの形状と INR ファイルは、次のとおりです。
SYSTEM NEW
RESET
UNITS UM
WAVELENGTH 1.55 MICRONS
MEDIA
1.4505 'CORE'
1.4447 'CLADDING'
SURFACE
PLANE Z 0 ELLIPSE 8.2/2
OBJECT 'FIBER.INNER1'
INTERFACE 0 1 AIR,CORE
SURFACE
PLANE Z 0 ELLIPSE 125/2 125/2 8.2/125
OBJECT 'FIBER.OUTER1'
INTERFACE 0 1 AIR,CLADDING
SURFACE
PLANE Z 20
ROTATE X 8 0 20
TUBE Z 0 8.2/2 8.2/2 50 8.2/2 8.2/2
OBJECT 'FIBER.CORE_TUBE'
INTERFACE 0 1 CORE CLADDING
BOUNDS -.2
ASAP テクニカル ガイド
A127
A
付録 A: BPM の例
SURFACE
PLANE Z 20
ROTATE X 8 0 20
TUBE Z 0 125/2 125/2 50 125/2 125/2
OBJECT 'FIBER.CLAD_TUBE'
INTERFACE 0 1 CLADDING AIR
BOUNDS -.2
SURFACE
PLANE Z 20 ELLIPSE 8.2/2
ROTATE X 8 0 20
OBJECT 'FIBER.INNER2'
INTERFACE 0 1 CORE,AIR
SURFACE
PLANE Z 20 ELLIPSE 125/2 125/2 8.2/125
ROTATE X 8 0 20
OBJECT 'FIBER.OUTER2'
INTERFACE 0 1 CLADDING,AIR
RAYSET Z -.0001
0 0 1 4.1 4.1 -9 2.1537
SOURCE DIRECTION 0 0 1
PIXELS 141
WINDOW Y -2@20 X -2@20
FIELD ENERGY -.0001
ACCURACY LOW
FIELD 29 ENERGY 60
DISPLAY ;PICTURE
ここでも、ファイバの内部と空中を、平坦な円形入射面が隔てています。入射面の内側には、小さなディスク
があり、その片側は MEDIA AIR、反対側は CORE です。また、平坦で大きな環状入射面があり、その片側は
MEDIA AIR、反対側は CLADDING です。その他には、CORE と CLADDING、および CLADDING と AIR の間の
境界であるチューブ状の面、そして入射面と同じ形状を 8 度傾けた、平坦な楕円形出射面があります。
A-128
ASAP テクニカル ガイド
.....
付録 A: BPM の例
ファイバの数分の一ミクロンのところで、基本のファイバ モード光源が作成されます。この光源から FIELDSUM
を計算した後、FIELDBMP コマンドは、29(現在の BRO029.DAT ファイル)を開始電界ファイルとして使用し、
ファイバの出射面から約 40 ミクロン超えた位置まで伝搬します。次に示すこの電界の画像を見ると、ビーム半
径が 1/e2 の値である 6.6 ミクロンまでわずかに拡大しています。また、8 度の傾きのためにビームの中心が y 方
向に約 2 ミクロン移動しています。
面が 2 つ、媒体が 1 つしかない場合は、次の INR ファイルに示すように、より単純な方法でほぼ同一の結果を
得ることができます。
SYSTEM NEW
RESET
UNITS UM
WAVELENGTH 1.55 UM
MEDIA
1.4505 'CORE'
SURFACE
PLANE Z 0 ELLIP 125/2 125/(2*COS[8])
ROTATE X 8 0 0
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A129
A
付録 A: BPM の例
OBJECT 'INPUT_FIBER.FACE'
INTERFACE 0 1 CORE AIR
SURFACE
PLANE Z 0
ROTATE X 8 0 0
TUBE Z -50 2@125/2 50 2@125/2
OBJECT 'INPUT_FIBER.EDGE'
INTERFACE 0 1 CORE AIR
BOUNDS -.2
IMMERSE CORE
RAYSET Z 0
0 0 1 4.1 4.1 -9 2.1537
SOURCE DIRECTION 0 0 1
PIXELS 141
WINDOW Y -2@20 X -2@20
FIELD ENERGY -10
ACCURACY LOW
FIELD 29 ENERGY 50
DISPLAY ;PICTURE
注意 この単純な方法では、ファイバの外側の媒体が AIR であるにも関わらず、最初の電界は CORE 媒体に
IMMERSE されます。この方法を使用した場合、ファイバから遠く離れ、ビームのエネルギーの大半がファ
イバ半径を上回る Y 値にまで広がると、精度が低くなる可能性があります。
A-130
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