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第15期
情報化推進懇談会
第4回例会:平成15年8月27日(水)
『2003 年IT市場の動向を占う』
〜2003年上期の市場動向の
評価と特徴から要予測まで〜
講
師
BCN総研
常務取締役
田
中
繁
廣
氏
財団法人 社会経済生産性本部
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『2003 年IT市場の動向を占う』
〜2003年上期の市場動向の
評価と特徴から要予測まで〜
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プロフィール ―
BCN総研
常務取締役
田中
繁廣
氏
1954 年生まれ
中央大学卒
IT 流通の専門紙である週刊『BCN』編集長を経て、大手家電販売店とタイアップした業
界横断型のデータベース事業を担当。
主なデータベースとして、下記の3種類がある。
大手家電店 700 店舗のPOSデータを集信し、国内の家電店頭市場全体の約 35%の販売動
向を日次のリアルデータでみられるPOSデータベース『BCNランキング』
メーカーから大手家電店に出荷される商品の毎日の出荷台数、単品ごとの店頭の在庫台数
を国内で始めて横断的なデータベースに集約した「BCNStockChart」。
複数の大手販社の顧客カード情報を横断的に蓄積し、約 1000 万人の過去5年の購買履歴
から、属性別の分析や購買傾向など分析できる「顧客属性データベース」。
上記のデータベースをもとに、IT市場を対象にしたデータベースマーケティング事業
を展開している。
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『2003 年IT市場の動向を占う』
〜2003年上期の市場動向の
評価と特徴から要予測まで〜
1.BCNのご紹介
私どもは、1981 年に「週刊BCN」というパソコン関連の流通をテーマにした
新聞を出しました。当時、アメリカではすでに「PC WEEK」や「InfoWorld」と
いった素晴らしいメディアがありましたが、日本とアメリカの専門紙のいちばん
の違いは、アメリカのメディアは自分たちできちんとデータを積み上げて、その
裏づけのもとに記事を書くことです。ですから、広告クライアントに厳しい論調
でも、客観的なデータに裏付けられた内容であれば、堂々と紙面に掲載すること
ができる。私どももそういう新聞を作りたいと思い、立ち上げ時からいろいろな
データを蓄積してきました。
現状、私どもはいくつかの種類のデータベースを持っています。その一つが「B
CNランキング」です。これは、パソコン・家電専門店の販売データを日次で収
集し、約 100 アイテムについての実売台数、シェア、単価の変動などをデータ化
しているもので、ビッグカメラ、ラオックス、ソフマップなど、店頭市場の約 35%
をカバーしています。
また、製品ごとの仕入台数や店頭の在庫台数を同じようにデータベースにして
います。販売データはPOSデータをつかめば全部出てきますが、在庫台数とい
うのは販売店にとっても経営の根幹にかかわる資料です。これをデータベース化
するのはなかなか難しいのですが、私どもでは毎日の仕入れと販売の実数、棚卸
しの実数を頂いて、製品ごとに何の在庫がどれだけ滞留しているかが分かるよう
になっています。
実は、日本のIT市場のいちばんの問題は、この在庫の問題だと思っているの
です。市場が右肩上がりのときには、大手メーカーはどんどん製品を出し、在庫
を積み上げてシェアを取り、それをもとに戦略を立てていました。しかし、ここ
2〜3年はそういう絵が描けずに、せっかくシェアでトップを取っても、在庫処
分のために数百億が損金で落ちていくようなことになっています。アメリカのI
T革命は日本より 10 年ほど先行していますが、そこでいちばん生産性向上に貢献
したのはサプライチェーン・マネジメントによる在庫管理です。在庫を圧縮し、
売る方も作る方も高回転で商品を回していったわけです。在庫管理ができなけれ
ば、流通における本当の意味での生産性向上はありません。日本も在庫の問題を
根本的に解消できなければ、市況が回復しても利益を上げるのは難しいのではな
いかと考えています。
三つめに、販売店と一緒に One to One マーケティングのいろいろなデータベー
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スマーケティングの試みを行っています。これは、まず契約した販売店から会員
カードの中の基本属性(年齢、性別、住んでいるエリア等)や過去5年間に何を
買ってきたかといった行動分析に使うデータを頂きます。そして、例えばパソコ
ンの拡販をする場合には、DMを出してお店に来ていただくわけですが、そのエ
リアの消費者の層や競合店との状況によって、どんな特売品を幾らで提供するか
を考えていくのです。成果はかなり上がっており、ある大手家電量販店の場合、
DMの発送件数を 10 分の1にし、しかもヒット率は 40%というところまできてい
ます。
2.企業業績に見る日米IT不況の現状
IT不況とはどういうもので、それはどのように今の日米の企業に影響を及ぼ
しているのでしょうか。発端は 2000 年4月、NASDAQ のネット株のバブル崩壊でし
た。通信のインフラ系、.com 企業への過剰投資が結果的に過剰在庫の積み上げを
生み、ハードのデフレを引き起こした。これによってアメリカのニューエコノミ
ー関連企業の債務が一気に膨らんで設備投資全体に急ブレーキがかかった。これ
がIT不況のいちばんの発端です。ネットによって景気が常にスパイラルに拡大
するというのは幻想であったということが、ここで露呈したのではないかと思っ
ています。
世界のIT企業における日本企業の位置づけを 2002 年の売上高から見てみると、
1位がGE、2位がIBM、3位がHP、4位以下は日立、ソニー、松下、東芝、
NEC、富士通と、日本のIT関連企業は非常にいいところにいます。ただ、伸
び率でいえば、今、これら日本企業に続くデルやサムスンが急激に伸びており、
一方でマイクロソフト、インテル、モトローラといったIT専業メーカーは、不
況からの脱出に苦労しているというのが今の状況です。
次に、バブル崩壊以前の 2000 年に比べて、2002 年、2003 年の決算でどれぐら
い売り上げが増減しているかを見ると、成長しているのはデル1社です。3年目
のIT不況も、そろそろ回復の兆しが見えてきたというのが最近の話題ですが、
まだまだ傷は深いというのが、このあたりではっきりしているかと思います。
アメリカのITメーカー4社(IBM、HP、デル、サン・マイクロ)の売上
高と純損益の推移を 2000 年、2001 年、2002 年と並べると、二つのグループに分
かれます。IBMの純損益は 2000 年が 80 億ドル、2002 年で 35 億ドル、デルは
2000 年の 21 億ドルから 2001 年に少し落としましたが、2002 年にはまた戻してい
ます。この2社は確かに景気変動の影響を受けていますが、非常に余剰体力が大
きいといえます。
それに比べて、HPは 2002 年の段階でまだ赤字のまま、サン・マイクロも大き
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く落ち込んで赤字です。サン・マイクロは UNIX のサーバーのメーカーとして強か
ったのですが、LINUX のオープンシステムに対抗して自分たちのOSを囲い込もう
とし、独自性を持っていたその収益源が逆に足かせになっています。つまり、I
T産業はもはや成熟化の段階にきており、その中でまだ伸びるだけの体力を維持
しているメーカーというのは、独自のビジネスモデルを堅持できているところだ
といえます。逆に、サン・マイクロがここまで落ち込んだのは、自分たちのモデ
ルが崩れたからだといえるでしょう。
同じことを日本のメーカー(NEC、富士通、日立、東芝)について見てみる
と、収益はV字回復しています。ただ、これで本当に回復軌道に乗ったかという
と、まだまだ紆余曲折がありそうです。ITへの依存度が高いNECと富士通は、
確かにV字にはなっているけれども、新しい収益モデルが作れたかというと、ま
だそこは見えない状況です。逆に、日立、東芝は、パソコンだけに依存していな
いという強みが、黒字を達成できた大きな要因ではないかと思います。
日本メーカーはV字回復をして、アメリカはデルとIBMを除いて非常に厳し
いと言いましたが、売上高に占める収益率は、日本のメーカーはまだまだ低いの
が現状です。デルが6%、IBMが 4.4%に対して、ソニーは 1.5%ありますが、
日立、東芝は 0.3%です。これから新しい投資をしたり、新しいデジタル家電なり
通信系の事業を始めるとき、この体質をどこまで改善できるかが日本のメーカー
の大きなテーマとなります。デルやIBMが自分たちのモデルを持っているのに
比べて、日本のメーカーの場合はどうしてもハード関連に重点が置かれています。
収益率の格差はそこのところで出ているのではないかと思います。
次に、総合家電メーカーの売上高、収益率の推移を見ると、それぞれ半導体や
通信もやっておられますが、IT不況の中でそれほどの影響は受けていません。
売り上げも収益も割となだらかな動きになっています。これは、「新三種の神器」
のデジタルAV機器関連事業が下支えしているのではないかと思います。
まとめると、従来のITビジネスモデルだけでは、今後幾ら景気が回復したと
しても、昔のような右肩上がりの成長は難しいのでないかと思っています。アメ
リカでも、ポストITを真剣にやらないと、次のアメリカの強みは出てこないと
いう話が盛んにいわれています。IBMの場合、ハードのデフレに影響されない
だけのソリューションのビジネスモデルを持っていますし、デルは価格変動や在
庫リスクに影響されない顧客直結モデルを持っています。また、サムスンは巨額
の集中投資で先行者利益を取ってしまうというように、単に従来のITビジネス
というだけではなく、本当に自分たちの強みのモデルを持っているところがこれ
から急激に回復してくるでしょう。そうでないところは、新しい自分たちの事業
構造を作っていく必要があります。
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今後、右肩上がりで躍進を続けていくためのカギとなるのは、コンピューター
メーカーであっても、デジタルAVに絡めた独自の収益モデルをどう作っていく
かです。
例えば、いちばん売れているメモリーは、パソコン用ではなく携帯やデジカメと
パソコンを結ぶためのメモリーカードです。つまり、デジタルAVとの連携のと
ころでのビジネスが売り上げの牽引役になっているということなのです。IT関
連でも、このあたりの複合戦略をやっていく必要があるでしょう。
3.前年割れ続く日本のパソコン市場
パソコン市場は、惨たんたる状況です。環境要因としては金融不安、業績悪化、
アジアへの生産移転による価格低下、個人消費が上がってこないことなどがあり
ますが、本質的な問題はこういった外的要因ではありません。これからの回復時
期の中では、むしろパソコン購入者層の変化、普及率の壁、デジタル・ディバイ
ドの拡大といったパソコン市場の構造的な要因が大きな問題になってくると思い
ます。
JEITAの統計によれば、パソコンの出荷台数は 15 年度の第1四半期によう
やく対前年比が 100%を上回りましたが、それまでの2年間は二けたのマイナスが
続いていました。台数でいえばピーク時の約3割減になっています。価格も、平
成 11 年から見ると 30%減です。中国やアジアに生産移転しても、市場価格の低下
のほうが大きくて、収益を拡大するのが難しい状況です。ただ、ここ1四半期ぐ
らいで戻りそうな気配が出てきていますので、今後どういう付加価値がついてい
けば本当にここが立ち直ってくるのかを模索している段階だと思います。
私どもが持っている顧客の購買データから、2002 年1月を 100 としたパソコン
購入者の指数の推移を見ると、いちばん落ち込んだのが 2002 年の 10 月で、2002
年1月に比べて7割という状況でした。このころ、あちらこちらでIT関連企業
の業績が悪化するなど、市況としては底だったのではないかと思います。その後、
年末、年度末で少し上がって、あとは下がっていくのが例年のパターンなのです
が、今年はそれが5月で踏みとどまり、6月からは従来よりも急な角度で上がり
始めています。最近、パソコンの景気が変わってきたとよくいわれますが、確か
にそういう傾向は現れています。
ただ、ここ2年ほどで購入層、あるいはパソコンの利用者層が少し変わってき
ているのは特筆すべき点です。私どもの顧客購買データからパソコン購入者の性
別を時系列で出してみると、2002 年1月には 16.5%あった女性の比率が、今年7
月には 10.6%に落ちています。Windows95、あるいは Windows 2000 のころには、
女性の比率が 30%を超えたことがありました。それだけ新規の需要層が入って市
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場が拡大していたという好循環を描いていたわけですが、今、その逆のことが起
こっているのです。ここの構造的な変化が変わらないと、本当の意味での市場の
活性化は難しそうです。
年齢層別の分析でも、新規需要の比率が多い 20 代、30 代の購入者が、2002 年
1月の 57%から今年7月には 52%に下がっています。ここでの5%というのは非
常に大きいです。新規にパソコンを買ったり、あるいは、ちょうど子供さんが小
学校に入って、ビデオを買い、デジカメを買い、パソコンでプリントアウトして
というふうに、パソコンに対する活用意欲のある層が減っているというところが、
今のパソコンの冷え込みを象徴しているのではないかと思います。
ここで一つ、普及率の問題が出始めたということがあります。アメリカでは 10
年ほど前、パソコンの普及率が 50%で止まった時期がありました。このままでは
所得格差の大きいアメリカでは普及率が伸びないということで「1000 ドルPC」
を打ち出し、2年ほどして一気に普及率が上がりました。日本の場合、所得格差
はそれほど大きくないといわれますが、やはり消費者の属性には大きなギャップ
があり、70%の壁を越えるかどうかというあたりでは思った以上にそれが大きく
かかわってきます。
また、パソコン所有者と非所有者の間にはどのような違いがあるかということ
を調べたところ、例えばパソコン所有者のいちばんのボリュームゾーンの最終学
歴は、大学・大学院卒で、45%を占めています。一方、非所有者では高校卒が 51.8%
と、大きな違いが出ました。世帯年収で見ても、パソコン所有者では 500 万〜1000
万円未満がいちばん多くて 50%、次に多いのが 500 万円未満なのですが、非所有
者では 500 万円未満が 54.3%、次が 500 万〜1000 万円未満です。ここの差が、パ
ソコンが新規顧客層を拡大できない一つの壁になっているといえます。では、一
体どこでパソコンが売れているのかというと、実は一部のパソコンを持っている
人たちの買い替え需要、あるいは買い増し需要で、かろうじて対前年比3〜4%
の減少に収まっているというのが現状です。
同時に、パソコン非所有者に対して、なぜパソコンを購入しないのかという質
問をしてみました。どんなユーザー層からもまず出てくるのは、値段が高いとい
うことです。もし、これがパソコンを買わない圧倒的理由であるとすれば、アメ
リカが 1000 ドルPCで 50%の壁を破ったように、日本もすでに7〜8万円のパソ
コンは当たり前にありますので、それを安くすれば売れるはずです。しかし、「難
しい」「周囲に教えてくれる人がいないと使えない」「キーボードなしで入力でき
るようにならないと困る」といった答えもあり、単に値段を安くしただけは、こ
の人たちにパソコンを新たに売っていくのは難しそうです。5〜6年前までは、
パソコンを買ったら表計算をして、年賀状を作って、家計簿もつけてというふう
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にソフトをどんどん買い替えていました。ところが、ここ3〜4年、パソコンを
買って一度ソフトを2本ほど買うと、あとは買わない。それ以上使い方が広がっ
てこないというのが最近の目立った傾向になっています。それだけパソコンの用
途が広がっていないということです。この人たちにパソコンを買ってもらうには、
単に値段を下げるだけではなく、やりたいと思っていることが今のパソコンでで
きるようにすることが必要です。
しかし、一方では、パソコンを所有していない人たちの 76.3%が、実はパソコ
ンを持っていないことに不便や不安を感じているという結果も出ています。男女
別に見ると、男性では 80%、女性も7割以上がパソコンを持っていないことに対
して不便や不安を感じ、また、高年齢になればなるほどそういう答えが多くなっ
ています。基本的に、パソコンを通して社会の新しい情報に触れたいという意欲
は随分あるのです。どういうところで不便を感じるかというと、いちばん大きい
のはインターネットにアクセスできないことです。パソコン非所有者の中には当
然会社でパソコンを使っている人たちもいますから、全くパソコンを使えないと
いうことではありません。パソコンは高いし難しそうだからわざわざ買いはしな
いけれども、インターネットを使えないことによる不便というのは非常に感じて
いるのです。7割以上の人はインターネットの様々な情報サービスについて具体
的に知っていて、3割ぐらいは自分たちでやってみたいと言っていることから、
表計算やワープロといった利用分野とは別に、インターネットをいかにうまく使
って家で新しい知識や情報に触れるかというあたりは、これからパソコンの新規
購入層を増やすうえでいちばんのキーコンテンツになってくると思います。
4.ブロードバンドはPC復調の切り札となるか
今、ブロードバンドが急激に伸びています。総務省の統計では、この5月に 1000
万世帯を突破しました。普及率でいうと 22.3%です。実際にブロードバンドの利
用がどれぐらい広がっているかというと、この4月、ブロードバンド環境による
インターネットへのアクセスがそれ以外の環境(ナローバンド)を超えました。
ブロードバンドを使ってインターネットにアクセスするというのは当たり前の環
境になってきているのです。今までパソコンを持っていなかった人たち、買わな
かった人たちも、ブロードバンドについての意識は非常に高いものがあり、ネッ
ト・アクセスの価格も安くなっていることから、インターネット、ブロードバン
ドはこれからのパソコン需要回復のいちばんのキーコンテンツになってくると思
います。
パソコンは売れなくなったといわれます。しかし、パソコンを使っている人た
ちに聞いてみると、ここ1年間で利用時間が増えたという人が6割もいます。で
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すから、市場は沈滞傾向だけれども、実際にパソコンに対する活用意欲は高まっ
ていることが分かります。面白いのは、女性のほうが増えたと言っている人が多
いことです。ネットによるオンライン予約などは女性のほうが多いという話もあ
るので、そのあたりとも関連しているのだと思います。69%の人がここ1〜2年
でインターネットの回線をブロードバンドに変更しており、便利で速くなったこ
とによってパソコンの利用が大幅に増えたということです。
5.見えはじめたパソコン回復への道筋
このように見てくると、パソコンには普及率 70%の壁があり、新規の需要層も
減っているという課題はありますが、インターネットが普及し、意識が高まり、
あるいはアクセスの価格が安くなって利用頻度も上がっているということで、確
実にパソコン需要回復への道筋はできつつあると思います。実際の足取りがどの
ように始まっているかというと、まず、2年ぶりにパソコンに関連するいろいろ
な数値がプラスに転じ始めています。また、パソコンだけではなく、関連するメ
モリーやディスクの市況というのは一足早くプラスに転じています。パソコンが
プラスになってきたということはここ1〜2か月で盛んにいわれるようになった
のですが、パソコン市場全体では、それより少し早い段階から回復基調がはっき
り現れています。そのあたりを引っ張っているのがデジカメやメモリーカードで、
これからデジタルAVの関連製品が牽引役になってくるだろうということです。
2001 年を 100 とした販売台数と金額の指数で見てみると、ずっと水面下にとど
まっていたものが5月から少し上がってきています。前年同期比でも、販売台数
は6月に2%増、7月には7%増で、金額もぎりぎりですが増になりました。し
かし、残念ながら夏休みに入る前あたりからの悪天候の影響で、8月に入ってマ
イナスに転じていますので、回復基調にあるとはいってもそれほど腰が強いわけ
ではない。これからも前年を割ったり戻したりしながら、少しずつ回復してくる
のではないかと思います。
金額を戻してきているいちばん大きな要素は、パソコンとデジタルAV機器と
の融合です。テレビ機能や記録型DVDなど、パソコン自体がAV機能を持ち、
デジタルAV機器と融合しつつあるというのが今の傾向で、これがパソコンの単
価の上昇にうまくつながっています。デジタル家電自体がパソコン機能を持つよ
うになる一方で、パソコン自体もデジタル家電化しつつあるのです。
ディスクや周辺機器も含めてパソコン市場全体で見てみると、実は今年の1月
ぐらいから、台数ベースではちらほらと前年を上回り、指数で見てもかなりいい
感じで上がってきています。パソコン本体は対前年を上回ったり下回ったりしな
がら少しずつ上がってきているのですが、むしろ周辺関連のほうが早く立ち上が
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りつつあるということです。今年の5月、6月、7月における対前年比を見ても、
パソコンは6月に台数が上がって7月に2けたの伸びを示していますが、液晶デ
ィスプレー、メモリーカードなどのPC関連拡張機器、デジカメなどの画像関連
機器は、すでに 30〜40%も伸びています。このように、AV関連とパソコンをつ
なぐものがパソコン本体に先行して伸びてきていますので、これからデジタルA
V機器が市場を伸ばしていく中、パソコンとデジタルAV関連商品というのは相
互補完しながら伸びていくだろうとみています。
今年の5月から6月のところで伸びているジャンルの商品としては、ノートパ
ソコンが対前年比 12%の伸び、デジカメは 70%増、外付けのハードディスクは約
2倍になっています。複合プリンターについては、デジカメを買った人の2割は
3か月以内にプリンターを買い替えているという顧客分析の結果もあり、そのあ
たりの相関で伸びています。また、デジカメ画像を落とす記録型のDVDも4倍
ぐらいの勢いで伸びているという状況です。デジカメの面白いところは、ほかの
商品は普及し始めると価格が下がるのに対して、デジカメの価格はいい線をキー
プしていることです。普及機クラスの価格が下がる一方で画素数はどんどん上が
っているために、画素数単位で見れば価格は急激に下がっているのですが、商品
の単価としてはなかなか落ちないわけです。このことは今のデジカメメーカーの
業績、あるいはデジカメに関連したAVメーカーの業績に非常に大きく貢献して
います。
また、ここのところ、半導体に対する日本の景気も急激に回復してきています。
今まで、日本の半導体メーカーは中国や台湾に後れをとってきたのですが、2003
年の成長率では北米、ヨーロッパ、アジアを抑えて日本がいちばん高いと予測さ
れています。これは、システムLSI、あるいはメモリーカード用の特別なメモ
リーなど、今までのDRAMから日本の得意分野である高付加価値型メモリーの
ところに需要がシフトしており、それに対する生産の投資が日本の半導体を非常
に大きく引き上げているということです。また、ITに対する投資についても、
日本は 2003 年から 2004 年で 3.3%増と予測されています。
半導体の回復、デジタルAVの立ち上がり、IT投資ということで、パソコン
を中心にしたIT市場というのは一けたながら上昇基調を描けるまでに回復して
きたといえますが、懸念材料が一つあります。パソコンの在庫のABC分析をす
ると、全体の売り上げ構成比の7割を占めるAランクの商品が在庫の6割を占め、
これが非常に高回転で動いて収益を上げていくという構造になっています。とこ
ろが、ここのところ売り上げ構成で 10%しか売れないCランクの商品の在庫が店
頭に約 10 週分たまっていて、これはちょっと多いなという感じがしています。
これを出荷と在庫の推移で言うと、夏物の新商品が出る5月の頭ごろから在庫
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を積んで、夏休みで売り切って在庫が落ちてくるというのが例年のパターンなの
ですが、今年は夏が非常に悪かったためにこの在庫が消化されないでたまってき
ており、10 月には年末向けの新商品が出てきますので、また夏商戦モデルの在庫
が過剰になると、年末商戦用の商品を2〜3週間ずらして出さざるをえない状況
も危惧されます。指標が好転し、メーカーは強気になってかなり増産をかけてい
ますが、実際にはまだそれほど足腰は強くない。そこに商品をどんどん出してい
くと、どこかで値崩れを起こす可能性もありますので、今はあまり強気にやらな
いほうがいいのではないかと思います。
また、私どもは今年度、パソコンは 105%から 107%で振れるだろうと予測して
います。店頭の方は年末年始二けたで伸びると思いますが、業務用はそう簡単に
追いついてこないだろう。特に年度末までは予算が非常に厳しいですから、店頭
と業務用を合わせると、手堅く考えれば 105%、およそ 1030 万台。上で振れれば
1050 台。ですから、去年に比べて 40 万〜70 万台の増というところではないかと
考えています。
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