ワイヤレスマイクロホンの比較

Field Study News
January 2015
ワイヤレスマイクロホンの比較
騒音レベルの高い環境下で発揮する Roger の優れた聞こえのパフォーマンス
騒音が多い環境下での言葉の聞き取りを改善させるために、聞きたい音の近くでワイヤレスマイクロホンを設置する
という方法が長年用いられてきました。この研究では、ある新しいワイヤレスマイクロホンと Roger ワイヤレスシス
テム(以下、Roger)を比較し、静寂下と騒音下における言葉の聞き取りテストを行いました。Roger は周囲の騒音に
応じてレベルを調節する適応型利得など、いくつかの音声強調機能を採用しています。静寂下、55 dB(A) / 65 dB(A) /
75 dB(A) / 80 dB(A)の騒音環境下において、聴力低下を抱える 7 人に言葉の認識テストをしました。他の機器設定と比
較すると、Roger を使用して行った言葉の認識テストでは、騒音レベル 65 dB(A)でスコアが 25%改善し、75 dB(A)で
は 49%も改善するという結果になり、Roger を騒音レベルの高い環境下で使用すると、言葉の聞き取りが著しく改善
することが分かりました。
はじめに
過去 15 年間にわたり、補聴器のテクノロジーは大きな
進化を遂げてきましたが、患者は未だ遠くの言葉や騒
音下での聞こえに悩まされ続けています。事実、
Kochkin (2011)で 11 個の音質要因が調査されると、騒音
下での補聴器のパフォーマンスに関する満足度は成人
の補聴器ユーザーの間で一番悪い結果でした。補聴器
のみでは聞こえの要望を満たさない場合、これまでは
アナログの FM 補聴システムの使用を推奨してきまし
た。しかしながら、今日ではアナログの FM システム
の代わりにワイヤレスのデジタル無線周波数テクノロ
ジーを使用する傾向にあります。今日では 2.4 GHz 帯
のデジタルワイヤレスマイクロホンを補聴器と使用す
ることが可能です。このワイヤレスマイクロホンは、
補聴器ユーザーが身に着けた中継器を介して、もしく
は直接補聴器に音声信号を伝送するのに、デジタル無
線周波数送信を利用します。これらのアクセサリーマ
イクロホンは従来の FM システムよりコストが安いも
のの、音声強調機能は搭載されていません。
聞こえをサポートしてくれるその他のワイヤレスマイ
クロホンとしてフォナック Roger があります。Roger は
補聴器に装着させた小型受信機を介して装用者がマイ
クロホンからの音声信号を受け取ることが出来るフォ
ナック独自のデジタルワイヤレステクノロジーです。
Roger は ISM バンド1の 2.4 GHz 帯で送信します。学校環
1
2.4GHz 帯を利用する ISM (ISM:Industry-Science-Medical) バンドで、産業科学医
療用機器(ISM 機器)とも呼ぶ
境で使いやすい Roger inspiro や個人のコミュニケーシ
ョンツールとして使いやすい Roger Pen など、Roger テ
クノロジーはユーザーのニーズや要望に合わせて異な
る様々なマイクロホン(送信機)を利用することがで
き、それによってティーンエイジャーや成人が抱える
幅広い聞こえに対するニーズを満たします。Roger Pen
は通常の送信機と異なり、言葉の認識を高める状況依
存型サウンドエンリッチメント機能を搭載しています。
環境適応型利得コントロールが有声休止時に存在する
周囲の騒音レベルを監視し、それに合わせて受信機の
利得を調節します。具体的に述べると、受信機の利得
は周囲の騒音レベルが上がると自動的に増加されます。
この機能は補聴器に内蔵されたマイクロホンからの聞
こえを損なうことなく、騒音下における言葉の理解を
改善させるよう設計されています。以前行った研究
(Thibodeau, 2014 と Wolfe, 2013)の中で、従来の固定型
利得の FM および環境適応型のアナログの FM に対し、
環境適応型の Roger の方が優れたパフォーマンスを発
揮している事が証明されています。
また、Roger Pen には空間上の方向を感知する加速度セ
ンサーが内蔵されています。この加速度センサーによ
り、機器の使用状況に合わせてその時一番適切なマイ
クロホンモードを予測し切り替えます。使用環境の特
徴や Roger Pen の装着位置が変化することで、環境適応
型ノイズキャンセラー、ビームフォーマー、適応型利
得が聞こえを最適にします。
この研究では、2 種類のワイヤレスマイクロホンテク
ノロジーのメリットを評価することを目的としました。
静寂下と騒音下において、補聴器のみで検証する 2 パ
ターン、補聴器とマイクロホンテクノロジーで検証す
る 2 パターン、合計 4 パターンで文章認識テストを行
いました。この研究で使用したワイヤレスマイクロホ
ンテクノロジーは次のものです:
1) マ イ ク ロ ホ ン か ら 補 聴 器 に 直 接 音 声 信 号 が
2.4GHz 帯でストリーミングされる他社のデジ
タルワイヤレスマイクロホンアクセサリー
2) 完全環境適応型ビームフォーマーとデジタル
騒音抑制/音声強調処理を組み合わせた 2.4GHz
帯で送信するフォナックの環境適応型デジタ
ルワイヤレスマイクロホン Roger Pen
Roger Pen はフォナック ボレロ Q 補聴器と Roger 受信機
で使用されました。
研究方法
本紙では研究に参加した 7 名の成人被験者の平均結果
をまとめています。全ての参加者は中等度~重度の感
音難聴を抱えており、異なる補聴器を使用しています。
参加者の平均聴力は図 1 から確認できます。
右
左
はフォナック ボレロ Q90 に装着して Roger Pen のネッ
トワークに追加しました。65 dB 標準音声を補聴器のマ
イクロホンとワイヤレスマイクロホンに同じように入
力した時に、補聴器の出力が合致するよう各補聴器と
適切なワイヤレスマイクロホンテクノロジーがプログ
ラムされました(透音性獲得のため)。この手順は
HAT が出版する AAA のガイドラインに記載されていま
す(2008)。
被験者たちはカーペットが敷き詰められた 4.7m×6.8m
の教室環境下でテストを行いました。4 つのスピーカ
ーを教室の四隅に設置し、拡散されたカフェテリアノ
イズを提示しました。被験者の正面 0 度に置いたスピ
ーカーからは、検査音 AzBio sentences を提示しました
(Spahr ら, 2012)。テストには静かな部屋、騒音レベル
が低い部屋(55 dB(A))、普通の部屋(65 dB(A))、高い部屋
(75 dB(A)/80 dB(A))が用意されました。他社のワイヤレ
スマイクロホンと Roger Pen は、検査音を提示するスピ
ーカーの中心 15 ㎝下に吊り下げて設置されました。こ
れは主となる話し手がマイクロホンを首から下げたり、
クリップで襟元に留めたりするような実際の使用場面
をシミュレーションする目的でこのように設置されま
した。Roger Pen のビームフォーマーはこのような環境
下での使用を予想しており、聞きたくない騒音を抑制
する一方で、聞きたい音声にはフォーカスするマイク
ロホンのポーラパターンを提供します。テストで使用
した文章のレベルはワイヤレスマイクロホン位置で 80
dB(A)、被験者位置で 65 dB(A)になるよう設定されまし
た。2 種類のワイヤレスマイクロホンと被験者の耳位
置で騒音レベルが等しくなるよう絶えず測定されまし
た(図 2)。
騒
騒
音
音
騒
音
15cm
AzBio Sentences
図 1 被験者 7 名に実施した右耳(赤)と左耳(青)の平均気導閾値。
縦の黒線は標準平均誤差。
他社送信機
補聴器は 2 種類ともハウリングキャンセラーを有効に
しましたが、その他の高度信号処理機能(例:デジタ
ル騒音抑制、指向性マイクロホン、風騒音抑制、反響
音抑制、適応型環境分析など)は全てこの検証では無
効にしました。他社のワイヤレスマイクロホンは他社
補聴器とペアリングし、ユニバーサル受信機 Roger X
L1
Roger Pen
騒音レベル:
L1=L2
5.5m
6.8m
参加者たちには両耳にフォナック ボレロ Q90 SP の耳
かけ型と他社のプレミアムクラスの補聴器を装用して
もらいました。Audioscan verifit を使用し、両耳の補聴
器の出力が NAL-NL1 で処方した標準スピーチ入力 55 /
65 / 75 dB SPL の目標利得と合致するよう、実耳測定が
行われました。MPO の目標利得は超えることはありま
せんでした。実耳カプラ差特性(RECD)が参加者それ
ぞれに対して測定されました。2 種類の補聴器を使っ
た各入力レベルでの語音明瞭度指数(Sll)において、差
は 2 ポイント未満でした。
被験者
騒
音
騒
音
L2
4.6m
図 2 検証環境。各ワイヤレスマイクロホン位置と被験者の耳の位置
で測定した静寂下、騒音下 55 dB(A) / 65 dB(A) / 75 dB(A) / 80 dB(A)を条
件下に設定。音声はワイヤレスマイクロホン位置で 80 dB(A)、被験
者の耳の位置で 65 dB(A)で提示。
Phonak Field Study News | ワイヤレスマイクロホンの比較 2
結果と考察
% Correct
正答率%
図 3 は各機器と環境設定ごとに騒音機能を測定した平
均スコアです。相互に繰り返し測定を行う分散分析
(ANOVA)を使いデータが分析されると、聞こえの環境(F
[4,24] =314.5, p=<.0001)や機器(F [3,18] =115.5, p<.0001)
に対して大きい効果があったことが分かりました。ま
た、機器と騒音の間にも大きな相互作用があったこと
が分かりました(F [12,72] =26.4, p<.0001)。
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
他社補聴器
Competitor
hearing aid
フォナック
ボレロ
Phonak Bolero
hearing aid
他社補聴器 hearing
Competitor
+マイクロホン
aid
+ microphone
フォナック
ボレロ
Phonak
Bolero
+Roger
+
RogerPen
Pen
静寂下
Quiet
55 dBA
65 dBA
75 dBA
この研究では、静寂下や騒音下での言葉の認識改善に
おけるワイヤレスマイクロホンテクノロジーの潜在的
メリットについて強く述べてきました。研究の結果、
特に静寂下や聞き取りを阻害する騒音が低い騒音下に
おいて、それぞれのワイヤレスマイクロホンシステム
が言葉の認識を改善させるということが分かりました。
しかし、騒音レベルが普通~高い場合、他社のワイヤ
レスマイクロホンよりも、Roger Pen で行った言葉の認
識テストのスコアの方が非常に良い結果となりました。
Roger Pen を使用して得られるこの優れたパフォーマン
スは、Roger Pen が提供する環境適応型ビームフォーマ
ーと組み合わせた環境適応型利得変動によるものであ
ると考えられています。フォナックでは、教室、レス
トラン、スポーツイベント、会議など、普通~高いレ
ベルの騒音が起きるような複雑な音環境下で言葉の聞
き取りに苦しむ聴力低下を抱える全ての人に Roger テ
クノロジーを推奨しています。
参考文献
80 dBA
Listening
Conditions
騒音レベル
図 3 設定が異なる 5 つの環境下で 4 種類の機機を使用して測定した
グループパフォーマンスデータ。縦の黒線は標準平均誤差。
一対比較を行うため、事前のテューキー・HSD 検定を
使った多重比較テストが行われました。静寂下では、
どの機器にも大きな差は見られませんでした(p >.05 )。
騒音レベルが低い(55 dB(A))場合、フォナック ボレロ Q
のみの使用と比較して、Roger とフォナック ボレロ Q
を組み合わせて使用すると言葉の認識テストで非常に
良いスコア(P =.001)が得られました。同じように、他
社の補聴器のみで使用するよりも、ワイヤレスマイク
ロホンと補聴器を一緒に使用した方が言葉の認識テス
トで良いスコアが得られました(p <.0001)。騒音レベル
が低い場合の評価において、他社の補聴器とワイヤレ
スマイクロホンに対し、フォナックの補聴器と Roger
で得た言葉の認識テストのスコアに大きな差はありま
せんでした。騒音レベルが普通(65 dB(A))~高い場合、
他社のワイヤレスマイクロホンを使用した時よりも、
Roger を使用した時の方が言葉の認識テストで非常に良
いスコアが得られました(p < .01)。
これらの結果から、静寂下においては、異なる 4 種類
の機器が聴力低下を抱えるユーザーにほぼ同等の効果
を与えることが分かります。騒音レベルが低い場合(SN
比+10 もしくはそれ以上)、補聴器のみで使用するより
も、Roger マイクロホンや他社のワイヤレスマイクロホ
ンと一緒に使用した方が、より良い言葉の聞こえを得
られました。しかし、騒音レベルが普通~高い(65~80
dB(A))場合、他社のワイヤレスマイクロホン音声通信ア
クセサリーと比較して、Roger を使用すると騒音下 65
dB(A)でのスコアは 25%改善され、また 75 dB(A)では
49%も改善されました。
American Academy of Audiology (2007) AAA Clinical
Practice Guidelines: Remote Microphone Hearing Assistance
Technologies for Children and Youth Birth-21 Years.
www.audiology.org
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Vol. 63(1),11-19.
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Thibodeau, L. (2014) Comparison of speech recognition with
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Journal of the American Academy of Audiology, 23(2), 201210.
Wolfe, J., Morais, M., Schafer, E., Mills, E., Mülder, H.E.,
Goldbeck, F., Marquis, F., John, A., Hudson, M., Peters, B.R.,
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cochlear implant recipients using a personal digital adaptive
radio frequency system. Journal of the American Academy of
Audiology, 24(8), 714-724.
Authors:
Jace Wolfe, Ph.D., Director of Audiology at the Hearts for
Hearing Foundation
Mila Morais-Duke, Au.D., Audiologist at the Hearts for
Hearing Foundation
Christine Jones, Au.D., Director of Pediatric Clinical Research,
Phonak US
Aniket Saoji, Ph.D, Senior Manager of Clinical Research,
Phonak US
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