経済>Brexit~英国のEU離脱

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EVO Commodity Report
平成 28 年 7 月 1 日発行
Brexit ~英国の EU(欧州連合)離脱~
★ 英国民投票の結果
英国の欧州連合(EU)離脱か残留かを問う
国民投票は、23 日午後 10 時(日本時間 24 日
午前 6 時)から全国 382 カ所の開票所で開票作
業が行われ、離脱支持票が僅差で残留支持を
上回った。
なお、登録有権者数 4,649 万人に対して投票
率は 72.2%。離脱支持は 1,741 万票(51.9%)、
残留支持は 1,614 万票(48.1%)で、その差は
120 万票以上となった。
英国は 1973 年に前身の欧州共同体(EC)参
加以来、43 年にわたる EU 加盟に終止符を打
つことになり、域内第 2 位の経済大国の離脱に
よって欧州は分裂し、大きな岐路に立たされ、世界経済にも大きな混乱を招くと予想されており、実際に世界の株式
市場や為替市場に混乱が生じた。
ただ、英議会のウェブサイトで投票のやり直しを求めるオンライン請願に署名者が殺到し、25 日には 180 万人を超
えた。また、ネット上の別の署名サイトにはロンドンが英国から独立し、EU に加盟することを求める請願も出され、14
万人以上の賛同が得られている。
さらに、離脱派の間で「離脱への投票を後悔している」と告白する人が相次いでいる模様。株価下落など経済への
影響が一気に表面化し、危機感を強めたためで、報道によれば離脱決定後、選管に「自分の投票先を変えられない
か」との問い合わせが多数寄せられている。離脱派の急先鋒となった英独立党(UKIP)のファラージュ党首が、EU へ
の拠出金を医療費に充てるとの公約を「確約できない。公約したのは間違い。」と撤回したことへの反発の声も上がっ
ている。
★ 英国民投票の争点
EU 離脱の是非を問う英国民投票は、国民にグローバリズムかナショナリズムかを問いかけ、国民は後者を選ぶ形
となった。この国民投票の争点は複雑に入り組んでいるが、簡潔にまとめると「移民」と「主権」の 2 点に集約される。
事実上、英国経済は外国資本に支えられているといっても過言ではない。金融やサービスの大半を外国資本が占
めており、旧植民地からの移民労働者によって経済成長が進んだ。英国は 2004 年に EU が領域を旧共産圏の東欧に
広げたことをきっかけに移民の流入が加速。そして、移民なしでは成立しない経済構造が出来上がった。しかし、移民
の流入人口の増加によって、英国民が職を失うことも多く、そのため不満が募っていったとされ、これが「移民」という
言葉に集約される。
一方、「主権」は「政策決定権」と言い換えることもできる。EU 加盟国であるがために大きな規制に縛られ、不自由
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を感じる国民も少なくなかった模様。EU 内には官僚主義がはびこっていると言われ、離脱派はブリュッセル(欧州委
員会)からウエストミンスター(英議会)に権限を取り戻すことを訴え続けていた。また、EU 執行部による財政資金の無
駄遣いを批判する声も多く、離脱派勢力の増大を後押ししたと考えられる。
★ 欧州各国にとっての EU 加盟の意義
EU 主導国であるドイツとフランス、その他の多くの国にとって「欧州統合」は平和の実現という理想主義に基づく意
味合いが強かった。戦後のスペインやポルトガルなどの南欧は軍事政権下であったが、欧州統合で民主化に弾みが
ついた。冷戦終結後はロシアの脅威から逃れた中・東欧が EU に参加し、多くの国にとって単なる経済利益のための
共同体という存在に留まらなかった。
しかし、英国は実利主義によって欧州統合に参加したため、経済的な損得計算と感情論が強く、「脱 EU」の素地が
もともとあったとの見方もある。実際、英国民は EU に関して「ドイツを中心とする北部欧州に支配された機関」と感じて
いた部分も強く、下地があったからこそ離脱という結果に結びついたと見ることもできる。
今後の EU にとって、重要となるのは、他の加盟国が英国に続く「ドミノ離脱」とされているが、ドイツは即時対策を打
った。英国ショックの直後にはドイツの呼びかけによって 6 カ国緊急外務省会合や独仏伊首脳会談が行われた。経済
的に EU トップを走るドイツは、ナチス支配の反省から自らが突出することを避けてきたが、危機的状況に態度を変え
たと見られる。
しかし、ドイツ以上に役割の重要性が増すのはフランスとの見方が強い。ドイツ政府筋は「ドイツの欧州支配」という
印象を薄めるためには独仏の連携が必要と考えている様だ。一方、存在感が薄れつつあったフランスにとってみれば、
千載一遇のチャンスと見て、オランド仏大統領は「フランスが主導権を取る」と宣言している。
★ 英国経済、金融市場への影響
国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利し、英国経済を支えるロンドンの金融街シティーには激震が走った。世界
の資金を集める欧州の金融センターとして君臨してきたが、離脱後は「EU 域内」として受けてきた便益を失う懸念が
あり、金融機関の流出も現実味を帯びてきた。製造業が弱い英国では金融業が経済のけん引役で、国内総生産
(GDP)に占める金融業の比率は 8%と EU 平均比で 5 割ほど高い。シティーには世界の銀行や証券、保険、投資ファ
ンドなどが集中しており、強みを持つ外国為替の取引量は世界最大。離脱により、各国の金融関係者や投資マネー
を引き寄せてきた外為取引などに甚大な影響が出る恐れが浮上している。
特に市場関係者はユーロの決済機能に注視している。英国はユーロを採用していないが、ロンドン市場でのユーロ
の取引量は世界最大に膨らんでいる。この状況を危惧した欧州中央銀行(ECB)は 5 年前に圏外でのユーロ決済を制
限しようと画策したが、「同じ EU 加盟国への差別だ」といきり立った英財務省が訴訟を起こし、ECB が敗れた経緯があ
る。
だが、英国が EU を離脱するなら ECB はロンドンからユーロの決済機能を奪い取る公算が大きい。EU 高官の話に
よれば、英国の EU 離脱決定を受け、現在ロンドンにある欧州銀行監督機構(EBA)の拠点をパリもしくはフランクフル
トに移転させる見通しとなっている模様。英国に拠点を置くことで合意に達していたユーロ建て証券のクリアリングハ
ウス(清算機関)についても、欧州中央銀行(ECB)がユーロ圏内に拠点を置く主張を再燃させる見通しで、ロンドンの
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金融センターの影響力が低下する様相を呈している。
また、EU には金融機関の「パスポート制度」という仕組みがあり、域内の 1 カ国で認可を得れば別の国でも支店設
置や営業活動ができる。日米などの域外国には英国で認可を得て EU で事業展開している金融機関もあり、欧州の
本拠をシティーから EU 諸国に移して免許を取り直す動きが広がる可能性もある。米金融大手モルガン・スタンレーな
どは早くも英拠点従業員の削減や EU 諸国への異動を検討しており、離脱決定の影響は既に顕在化しつつある。
なお、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは 28 日、英国の 12 金融機関の信用格付け見通しを、
同国の収益が悪化するとの判断に基づき引き下げた。また、英国の金融システムに対する格付け見通しも「安定的」
から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げた。格付け見通しが「安定的」から「ネガティブ」に引き下げられたのは、バーク
レイズや HSBC、全英住宅金融組合など 8 金融機関。残る 4 機関も「ポジティブ(強含み)」から「安定的」などに引き下
げられた。また、S&P グローバル・レーティングは英国債の格付けを最上級の「AAA」から「AA」に 2 段階引き下げ、
見通しを「ネガティブ(弱含み)」とした。
★ 英国民投票後の流れ
キャメロン英首相は 2013 年に国民投票の実施を公約し、16 年 2 月の EU 首脳会議で、英国が求めた EU 改革案で
合意したのを受け、残留を訴えて今回の投票に臨んだが、結果は「離脱派」多数の敗戦となった。残留派を率いてき
たキャメロン首相は辞意を表明しており、今後の舵取りは次期首相に委ねられることになる。
英国は今後、EU 基本条約(リスボン条約)50 条の規定に従い、2 年間の交渉期間を経て離脱する運びとなる。キャ
メロン首相は声明で、新たな首相が交渉に当たり、その開始時期も決めるべきだと強調。10 月の与党・保守党大会ま
でに辞任する考えを示している。
英与党・保守党が 28 日に発表した党首選の日程によると、29 日から候補者の推薦の受け付けを開始し、30 日正
午(日本時間同日午後 8 時)に締め切られた。選挙結果は 9 月 9 日に発表されるため、離脱に向けた EU との交渉に
英国がどういう方針で臨むかは、次期首相が決定する 9 月まで延期され、英国では政治空白が続くことになる。
なお、保守党は下院で過半数を占めており、新党首が下院でキャメロン氏の後任首相に指名されるのは確実と見
られる。候補としては、国民投票で中心的役割を果たしたジョンソン前ロンドン市長や、残留派のメイ内相が有力視さ
れている様だ。
ただ、英メディアでは次期首相が就任後、総選挙に踏み切って国民の信を問うとの観測も浮上している模様。実際
にそうなれば、英国の政治空白は一段と長引き、EU との交渉も大幅に遅れることが懸念される。
★ 英国の EU 単一市場へのアクセス
英国は、EU との間に今後の両者の関係を定める新たな協定を結ぶ必要がある。世界が特に注目いているのは EU
単一市場へのアクセスを如何にして確保するかという問題になる。
他国が EU と結んでいる既存の協定が参考にされる可能性が高いが、それぞれに利点と難点が存在するため、交
渉は難航するものと考えられている様だ。
交渉の参考となるケースは 4 方式ある。ノルウェーはアイスランド、リヒテンシュタインと共に EU 加盟 28 カ国とつく
る欧州経済地域(EEA)を構成し、単一市場に参加している。これは欧州の EU 非加盟国との協定の例になるが、モノ
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の貿易では農業・漁業分野を除き関税が撤廃されているため、EU 加盟国と同等の恩恵を受けることが可能になる。
しかし、通関手続きなどの非関税障壁があり、大量の書類提出など事務コストが大きいため、自動車や電機メーカー
にとっては重荷となる。また、EU の法律や規則の順守、拠出金負担も求められるのに対して、政策の意思決定には
参加できないというデメリットもある。さらに、ノルウェーは「人の移動の自由」も受け入れているため、「主権回復」と
「移民制限」を訴えて勝利した英国の離脱派を納得させることは難しいだろう。
EEA に参加していないスイスは、EU 単一市場へのアクセス権がなく、分野ごとに EU と協定を結び対応してきた。し
かし、過去 20 年間で 120 以上の協定を結んでおり、時間とコストがかかる。新首相が決定する 9 月をスタートとして 2
年間ですべての分野の協定を締結することは不可能に近いと考えられる。
現時点で最も有力視されるのがカナダ方式であり、これは離脱派のジョンソン前ロンドン市長らが押すモデルにな
る。カナダは EU と工業品の関税撤廃などを盛り込んだ包括的経済・貿易協定(CETA)に合意しており、移民労働者
の受け入れ義務を含まず、拠出金負担もない。「主権回復」を求める離脱派にとってハードルの低い選択肢になるが、
カナダの場合でも合意には 10 年以上の時間がかかった。その上、英国の場合は経済以外にも司法や教育などの幅
広い分野で EU との協定を結ぶことが必要となるため、交渉長期化は不可避と見られている。
最後に、交渉が決裂した場合は、通商分野で WTO(世界貿易機関)のルールに頼る可能性も残る。EU への資金拠
出や人の移動の自由を受け入れる必要はないが、関税障壁の復活によって単一市場の恩恵を受けることはできなく
なる。
今後の英国は上記の 4 モデルを参考に、或いは全く新しい形での協定締結を模索する段階に入る。なお、離脱交
渉は原則として交渉開始後 2 年間で終了させなければならない。それ以降は EU 法の適用が停止するため、期間内
に経済や司法、教育などの多岐にわたる分野で新協定を結ぶ必要がある。
● 英国―EU の新通商関係の参考例
EU 単一市場へのアクセス
課題点
ノルウェー型
EEA に加盟
EU に資金を拠出するももの、政策に関与できず
スイス型
個別協定
100 以上の協定を締結/交渉時時間がかかる
カナダ型
包括的な協定
WTO 型
×
協定合意に時間がかかる/経済以外の分野が不透明
EU との関税障壁の復活
(各種資料を基に EVOLUTION JAPAN 作成)
★ EU 諸国の反応&EU 首脳会議(28~29 日)の内容
EU 諸国のみならず世界中が注目しているのは、英国に続き EU を離脱する動きが加速しないかどうかということに
なる。英スコットランド行政府のスタージョン首相は、スコットランドが EU に残留する意向を明らかにしたものの、その
余波が拡大することを恐れているのは間違いないだろう。
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特に 2017 年 3 月に議会選挙を控えるオランダや 5
月に大統領選挙が行われるフランスの動向が注視さ
れる。オランダの極右・自由党の党首ヘルト・ウェルダ
ース氏は、英メディアが国民投票の大勢を速報すると
「次はオランダの番だ」とツイッターに書き込んだ。25
日には、フランス大統領府であるパリのエリゼ宮でフ
ランソワ・オランド仏大統領と同国の極右・国民戦線
を率いるマリーヌ・ルペン氏が与野党緊急首脳会談を
行った。その際、オランド大統領は首を縦に振らなか
ったが、ルペン氏は「我々も国民に EU に残りたいかどうか問わなければならない」と発言している。
世論調査によれば、両国とも極右政党がナショナリズムに訴え、反 EU を掲げて支持層を広げている様で、特にフラ
ンスでは国民の政府への不満が強く、2017 年に政権交代となった場合には、EU 離脱の是非を問う国民投票が実施
されることを懸念する声も広がっている。
なお、欧米メディアや市場関係者の間では、英国の EU 離脱を「ブレグジット(Brexit)」と呼ぶのに対して、オランダ
(=ネザーランド)の離脱を「ネクジット(Nexit)」、フランスの離脱を「フレクジット(Frexit)」と呼んでいる模様。
EU 各国首脳は、英国の EU 離脱の決定を受けて市場の安定と不安拡大を阻止するために早急に牽制する発言を
行った。ドイツのメルケル首相は 24 日の記者会見で「正しい答えを出す上で、EU には十分な強さがある」と語り、危機
克服と EU の連携強化に尽力する決意を表明。英国の EU 離脱は極めて遺憾だとし、「欧州と欧州統合プロセスにとっ
て一つの区切りとなる」と指摘。性急な対応は欧州の分断を深刻化させかねないと述べ、事態の慎重な分析や協議
が不可欠だと訴えた。一方、欧州連合(EU)欧州議会のシュルツ議長は 26 日、国民投票で EU 離脱を決めた英国の
キャメロン首相は 28、29 両日の EU 首脳会議で離脱の意向を伝えるべきだとの考えを表明。離脱交渉が先送りされれ
ば、「欧州の不安定感が一層増す」と懸念を示した。
EU 首脳会議前の 27 日には、メルケル独首相が、ベルリンでオランド仏大統領、レンツィ伊首相と会談後、共同記
者会見し、3 首脳の合意事項として、英国から欧州連合(EU)に離脱の通告がない限り、「公式、非公式を問わず離脱
に関する交渉はしない」と断言。英国には、正式な離脱手続きに入る前に、EU 側との水面下のやりとりも行いながら、
新たな関係を見極めたいとの思惑があったと見られ、メルケル首相の発言は、こうした動きへの牽制と見られる。
ブリュッセルで開かれた 28 日の欧州連合(EU)首脳会議の夕食会で、キャメロン英首相から EU からの離脱の通告
について「10 月までに選出される次期首相に委ねる」と説明を受け、各国首脳も基本的に了承。投票後、混乱に陥っ
ている英国の政治や社会状況に配慮した形だが、引き続き早期の離脱手続き開始を求め、クギを刺した模様。
EU 側は、首脳会議前からトゥスク大統領が「通告がなければ交渉しない」との姿勢を明確にしており、今後も非公
式であっても交渉には応じない方針とされる。
29 日は英国を除く欧州連合(EU)27 カ国がブリュッセルで非公式首脳会議を開き、英国に対し「できるだけ早期に
離脱通告すべきだ」と求める声明をまとめた。また、声明は 27 カ国が EU の枠組みで引き続き結束する決意を表明。
ユンケル欧州委員長は、EU 離脱に関する英国との協議に関し「通告がなされるまで交渉しない」と改めて強調した上
で、英国民投票で EU 域内からの移民増加が離脱の世論を後押ししたことを踏まえ、「われわれの単一市場にアクセ
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スするには、すべての自由を受け入れる必要がある」と指摘。移民を受け入れなければ単一市場の利用を拒否する
意向を示した。
また、トゥスク EU 大統領は、EU 不信が示された英国民投票を念頭に、改革に向けた取り組みに着手する方針を表
明。具体化に向けて、9 月 16 日にスロバキアの首都ブラチスラバで、改めて 27 カ国首脳による非公式会議を開催す
ることを明らかにした。首脳会議から特定の国を排除するのは異例であるが、各国は 27 カ国での協議が必要と判断
し、英国も了承した模様。英国の発言力は急速に低下しており、EU の意思決定は今後、実質的に 27 カ国で行われる
ことになると見られている。
★ 英国の離脱による EU への影響
EU は世界最大規模の欧州単一市場を武器に世界で存在
感を示してきた。IMF(国際通貨基金)によると、物価水準を
調整し為替変動を除いた購買力平価ベースで見ると、EU の
域内総生産(GDP)は 19.2 兆ドル(約 1,960 兆円)に達し、世
界最大規模となる。しかし、英国が EU を離脱すれば約 18.0
兆ドルの米国に抜かれ、約 19.4 兆ドルの中国には引き離さ
れることになる。
人口に関しても EU は約 5 億 800 万人に上るが、英国が約
13%を占めており、国や経済圏の力を示す GDP や人口の減
少によって EU の統一市場としての魅力が薄れることが懸念
されている。
また、日米やアジア諸国と進める自由貿易協定(FTA)の
締結交渉にも影響を与える可能性がある。積極的に国を開
いて自由貿易を推進してきた英国が抜けることで、FTA 交渉
の推進力が鈍ることは避けられそうにない。
さらに、予算面での問題も浮上している。EU 財政報告書に
よると、2014 年に英国が EU 予算で負担した金額は 140 億ユ
ーロ(約 1 兆 6,000 億円)に上り、全体の 1 割強を占める。EU 加盟国で 4 番目の拠出額を誇る英国の離脱により、そ
の穴埋めが課題となるが、加盟国に新たな拠出を求めるは困難との見方が多く、共通予算の縮小となる公算が大き
い。そのため、域内農業への補助金や地域振興などの政策が滞り、域内成長を妨げることにつながりかねないとの
懸念も扶助している。
★ EU 以外の国、機関等の反応
英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利したことについて 24 日、世界各国の大手金融機関が加盟する国
際金融協会(IIF)のティム・アダムズ会長(元米財務省次官)は、「金融市場に対し短期的に破壊的な影響を与え、特
に英国の経済成長と雇用に長期的な制約をもたらす」と懸念を表明。また「英国と EU の政策決定者は、不確実性を
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抑え、投資・雇用を促すため、双方の長期的関係を速やかに明確にする責任がある」と訴えた。
また、グリーンスパン元 FRB(米連邦準備制度理事会)議長も 24 日、「現在、人々が思う以上に、問題ははるかに
困難だろう」と指摘し、スコットランドの独立運動などに発展するとの懸念は「氷山の一角だ」として、問題はさらに多岐
にわたると警告した。
林幹雄経済産業相も記者会見で、日本と EU が進める経済連携協定(EPA)締結交渉の年内合意目標について「厳
しくなったかもしれない」と発言。英国と EU の経済・政治関係の見直し協議が優先されることなどで、日・EU 交渉の早
期進展は困難との認識を示したものになる。日欧 EPA 交渉は 2013 年 4 月の開始から 3 年が過ぎたが、農産物の関
税撤廃や貿易・投資ルールをめぐり隔たりが残っている。英国は EU 加盟国の中で自由貿易推進派の筆頭格で、EU
離脱実現までは対日交渉に関与する見通しだが、「発言力は確実に低下する」と見られる。5 月の主要国首脳会議
(伊勢志摩サミット)では、日本と EU、英仏独伊の欧州 4 カ国の首脳が会談し、日欧 EPA 交渉について「合意に達す
る強い決意を再確認する」との共同声明をまとめたばかり。
29 日には、国際通貨基金(IMF)が、ドイツ経済に関する年次審査報告書の概要を発表し、英国の欧州連合(EU)離
脱が「金融市場の動揺や不透明性、投資の停滞を招く恐れがある」と、リスクに懸念を示した。IMF は「欧州統合懐疑
主義が台頭し、いくつかの国が EU 離脱や加盟条件の見直しに向かう可能性がある」と憂慮。ドイツの対英輸出、金融
投資額が大きく、独大手銀行がロンドンを主要拠点にしている点を挙げ、影響に警戒感を示した。なお、IMF はドイツ
の 2016 年の実質 GDP(国内総生産)成長率を 1.7%と見込み、4 月時点の予測から 0.2 ポイント上方修正。2017 年は
1.5%と 0.1 ポイント下方修正しものの、いずれも英国の EU 離脱の影響を反映させていない予測になる。
なお、米著名投資家ジョージ・ソロス氏は 25 日、英国の欧州連合(EU)離脱決定により「EU との政治経済の分離に
向けた長い複雑なプロセスの交渉が行われ、世界の金融市場の混乱が続く可能性がある」とした上で、実体経済に
及ぼす影響は 2007~08 年の金融危機に匹敵するとの見方を示した。
(7 月 1 日 企画部リサーチ担当 加治佐健 記)
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