施工に伴う初生すべり対応 –アルジェリアの東西高速道路を例として-

全地連「技術フォーラム2014」秋田
【30】
施工に伴う初生すべり対応
–アルジェリアの東西高速道路を例として応用地質㈱
1. はじめに
○高柳
朝一
3. 東西高速道路の施工概要
2008年4月~2012年6月の4年3ヶ月間、北アフリカのア
東西高速道路は、アルジェリア国の自己資本による発
ルジェリアで高速道路施工に伴う地質的問題点、特に地
注で、東のチュニジア国境と西のモロッコ国境とを結ぶ
すべり対応に関わる機会を得た。当地の地質は、泥岩主
ものである。全線の延長は約 1,200km であり、東側の約
体の軟岩であるが、著しく破砕されていた。事前調査で
400km を日本の共同企業体(Cojaal)が 2006 年 9 月に
は、この問題点の十分な認識ができていなかった。切土
受注した。道路規格は片側3車線、上下6車線、設計速
工によって、随所で初生すべりが発生した。日本では見
度は 120km/h(一部 100km/h)である。施工に際し7工
たことも無いような地すべりもあった。大規模な地すべ
区に区分され、筆者は2つの工区(延長約 80km)を担当
りの対策工は置き換え工や線形変更に伴う押え盛土工が
した。
主体となった。
ここでは、アルジェリアの気候・地形・地質の概要、
地すべりの発生状況、代表的な地すべり例を紹介する。
2. アルジェリアの地形及び気象
写真-1
アルジェリアは、国土面積が 238 万 km2 で、世界第
10 位の広さであり、我が国よりも 200 万
現地の代表的な地形と施工中の高速道路
km2 も広い。
国土の大半は広大なサハラ砂漠で、不毛の地である。
4. 切土に伴う地すべりの概要
サハラ砂漠の北側にアトラス山脈が東西に走る。アトラ
担当工区では、切土に伴って多数の地すべりや局所崩
ス山脈は、中央に平坦なアトラス高原があり、北側にテ
壊が発生した。工区には、本線の両側で合計171の切土
ル・アトラス山脈が走り、地中海に没する。
法面がある。切土中及び切土完了後に何らかの変状の発
人口は、地中海に面した僅かな平野に集中し、他には
アトラス高原中に点在する程度である。
生した法面は、93箇所と5割以上になる。この内、地す
べり土量が10万 m3以上の大規模なものは8箇所で生じ
地中海沿岸部の気候は、文字通りの地中海性気候であ
た。一方、1段の法面内での崩壊土量10m3程度の小規模
る。1年は乾期と雨期とに2分される。大方、5月から
な局所崩壊も多数発生した。小規模な局所崩壊は、完成
の乾期は、晴天の日々が続き、植生は枯れ、褐色の乾い
後法面でも2012年の雨期終盤の3月、4月に70箇所と多
た大地となる。乾期には、地表に無数の乾燥クラックが
数発生した。
生じる。最高気温は35℃を超え、時には45℃になること
地すべりの内、孔内傾斜計ですべり面深度を確定した
もある。しかし、湿度が低いため、日本の同じ気温と比
ものの地すべり形状比の特徴を図-2 に示す。日本の地す
較すれば遥かに過ごしやすい。
べりと比較して、同一すべり面深度に対して、地すべり
雨期は11月頃から始まり、厚くどんよりとした雲の
下、雨の続く日が多い。標高500m以高では、時には積
幅が大きくなる。日本の平均は W=6.0D であるが、アル
ジェリアの平均は W=12.0D と 2 倍である。
400
崖錐
色とりどりの草花が咲き始める。
350
砂岩/泥岩
地すべりの幅:W(m)
雪もある。2月頃からなだらかな台地には若芽が生え、
シスト/泥岩
300
泥岩
250
マール
アルジェリア
(ALG)
200
150
上野3)
(JPN)
100
平均値
(破線)
50
0
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
40.0
地すべり面深度:D(m)
図-1 アルジェリアの位置2)に加筆
図-2 地すべりの形状比の比較
全地連「技術フォーラム2014」秋田
5. 代表的な地すべり例 2 件
(1)
例1
国道近接部で抑止杭の下を通る地すべり
山と評価されていた。
掘削開始から半年後、背後斜面でクラックが発生した
本法面は、アルジェリア東部の主要幹線の国道3号線
(A ブロック)。このため、応急押え盛土工を行い、孔内
に近接する長大切土法面であるため、当初設計時から十
傾斜計、水位計を主測線沿いに設置した。本ブロックの
分な配慮を行った。空中写真判読で、尾根の両側に2つ
対策は、勾配変更による排土工とし、変更勾配 1:3.0
の地すべりブロックが認められた。両地すべりブロック
での粗掘削が開始された。しかし、掘削の進捗と伴に、
に対して、孔内傾斜計観測では変位が認められず、ボー
背後斜面に新たなクラックが発生した(B ブロック)。本
リングコア観察等から、すべり面深度を GL-18~20m と
ブロックは、法面背後の高圧線鉄塔を巻き込む大規模な
想定した。対策工は、排土工を基本とし、法面中段に幅
ものであった。
広小段を設け、土塊の除去を行うこととした。切土に対
本地区の地質は、泥岩中に大小様々な砂岩ブロックが
して国道保全のため、抑止杭(L=29m)を2列配置した。
存在するものであった。A ブロックは法面中央付近の巨
地すべり対策及び監視体制の確立後、本掘削が開始さ
大な砂岩の上面で生じ、B ブロックはこの砂岩の下面で、
れた。掘削の進行に伴って一部の傾斜計で変位が生じた
直線的に生じていた。ボーリングコアでは、砂岩と泥岩
ため、計測監理を強化して、施工は継続された。
との境界部では、破砕されており、これが地すべりの素
法面の掘削は、最下段の残り 1/3 程度となった所で、
因と判断される。
国道と抑止杭との間の孔内傾斜計の変位が 0.8mm/日と
対策工は、線形変更を主体とし、すべり面形状の大き
増加した。小段排水の目地の開口が目立ってきた。国道
く異なる2つの地すべりブロックに対して、バランスを
山側路側や背後斜面でもクラックを確認した。直ちに、
図った押え盛土工も併用した。
応急押さえ盛土工が施工された。新鮮部の地山は、軟岩
程度の固結度であったが、無数の微細な割れ目があり、
鏡肌も顕著であった。
本地すべりと元地形との関連性は認められず、掘削に
よる上載荷重の除去で生じた初生すべりであると言える。
応急押え盛土工によって、孔内傾斜計の変位は大きく
減少した。対策工は線形変更とし、応急押え盛土工をさ
らに嵩上げすることとした。
図-4 例2の地すべりの平面図、断面図
6. おわりに
アルジェリアの東西高速道路施工現場で、切土に伴う
大小様々な地すべり等を体験した。これらは、日本で見
た挙動とは大きく異なるものであった。最初の頃は、日
本での経験が不適切な判断を導くこともあった。既往資
料の乏しい海外で業務を行うことの難しさを痛感した。
《引用・参考文献》
1)谷澤
図-3 例1の地すべりの平面図、断面図
2)二宮
(2)
例2
巨大砂岩の上下で発生した地すべり
本地区は、傾斜 5~10°の緩斜面である。事前のボー
リング調査では、泥岩中に硬質な砂岩を挟む安定した地
房朗:アルジェリア東西高速道路における地す
べり,基礎工,pp.52~54,2011.1.
道明:高等地図帳最新版,二宮書店,pp.20~21,
2000.3.
3)上野
将司:切土のり面の設計・施工のポイント,理
工図書,p.71,2004.12.