3. 上海駐在員事務所レポート

3.
上海駐在員事務所レポート
∼最近の中国越境ECについて∼
1.はじめに
中国の消費意欲の勢いを形にしたのが11月11日の「光棍節(こうこんせ
つ)=独身の日」でした。日本でも中国から伝わり、楽天等が同様のイベント
を開催しています。
諸説ありますが、「1」が4つ並ぶこの「独身の日」は、「1」が独り身を
表すと言った意味に由来するもので、1990年代に南京市の学生の間で始ま
ったと言われています。この流れはネットで拡散、これに企業の販売戦略が乗
っかる形で話題となるイベントの日になった様です。
2015年11月11日の1日だけで1,061億元もの総取引額を記録し
た企業があります。それは、言わずと知れたアリババグループです。この金額
は日本の家電量販店大手の年間売上高を凌駕する金額です。因みに深夜0時か
ら始まったアリババのセールでは、1分余りで10億元突破、12分半後には
100億元突破、開始一時間で総取引額は261億元を超えました。アパレル
部門1位には、2期連続で日本のユニクロがランクインし、この日の売上は6
億元を突破しました。只、特筆すべきはその売上の68%がモバイル機器経由
で行われた事です。モバイル機器には電子決済アプリ「支付宝(アリペイ)」
をダウンロードし、銀行口座をコネクトする事でそこから決済が行われます。
そしてこの旺盛な中国の消費意欲は、海を越えて越境ECという形で全世界
を席巻しています。4月に改正された越境EC新税制についても触れながら、
中国ネット市場や越境EC市場についてお話させて頂きます。
2.中国のインターネット市場について
中国電子商務研究センターの発表によると、2015年の中国EC市場の取
引規模は前年比34.3%増の18兆元となっています。中国EC取引は増加
の一途を辿り、2015年のB2C市場も前年同期比41.9%増の4兆元と
なりました。また国家戦略として「インターネットプラス」行動計画が標榜さ
れた事により、今後益々各産業とインターネットとの融合が加速し、EC市場
の更なる発展促進が予想されます。
中国のネットショッピングユーザーも2014年で4.2億人と国民の約3
割を占めるに至っています。ネットショッピング環境整備、販促活動の活発化、
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モバイル端末を通じたネットショッピングの普及、中高年消費者層や農村市場
でのユーザー拡大がユーザー増加に繋がっています。
中国商務部は、国内生産、消費、就職推進拡大に資する「インターネット+
流通」行動政策を2015年5月に公表しました。今後1∼2年以内に5つの
目標達成を目指しています。①ECを取り入れた200の農村部をモデル県と
し、それらのモデル県のEC取引額を年平均で現在より30%成長させる、②
60ヵ所の国家レベルのECモデル地域、150社の国家レベルECモデル企
業、100個の地場ECブランドを育成、③EC向け海外倉庫100ヵ所を新
設、④地方を指導し、EC向け訓練地域50ヵ所を建設しEC関連トレーニン
グを50万人に実施、⑤2016年までにEC市場規模を22兆元、オンライ
ンショッピングを5.5兆元に成長させる。
以上の様に旺盛な消費意欲と国家の戦略が合わさる事でネットショッピング
を加速させています。今後も更なる市場規模の拡大が見込まれます。
3.中国の越境EC市場について
2015年の越境ECの取引規模は前年比30.9%増加の5.5兆元とな
っています。近年、越境ECに係る支援策が矢継早に発表される中、取引規模
も着実に増加してきています。中国越境ECのユーザーのうち、80%以上が
19∼35歳の年齢層に集中しています。うち25∼30歳のユーザーが最多
約40%を占めています。つまり、80後・90後と呼ばれる若者が中国越境
EC市場を牽引しているのです。
また中国B2C越境EC市場は、日本・アメリカ2ヵ国からの(B2C越境
EC)利用だけでも、2018年の市場規模は現状の722億元から約2.3
倍の1,660億元となるというレポートも出されています。インターネット
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や携帯電話の普及拡大、「インターネットプラス」政策との融合を受け、中国
の越境ECの更なる発展が期待されます。
【図3 越境EC取引規模】
【図4 中国国内と越境ECサイトのユーザー年齢状況】
(兆元)
6
5.5
16.2
15.7
19∼24歳
5
4.2
3.15
1.7
12.2
10.9
36∼40歳
2.1
41∼50歳
1.1
0
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
10.3
6.8
1.1
51歳以上
1
0
2015年
2.8
5
10
国内ECユーザー
15
20
25
30
35
越境ECユーザー
(中国電子商務研究センターデータに基づき作成)
(iResearchデータに基づき作成)
4.越境ECスキームについて
越境ECには注文毎に海外から商品を発送する「直送モデル」と中国政府推
奨の「保税区モデル」に大別されます。
まず「直送モデル」は、中国のインターネットユーザーから注文が入る都度、
個別配送で日本から商品を配達するスキームです。通関手続きも含めた配送期
間は1ヵ月と長く、送料も輸送コストから割高になるのが大半です。
一方「保税区モデル」は、2013年9月に上海を中心とした自由貿易区等
で試験的にネット通販向け保税倉庫活用のビジネスとして始まりました。海外
事業者はコンテナ船等を利用して一度にまとめて商品を安く中国に輸送し、通
関手続きをせずに中国国内の保税倉庫内に商品を保管出来ます。注文を受けた
らその都度、保税倉庫から出庫するので、中国の注文者の手元には1週間ほど
で配達する事が可能です。
通関手続きは商品が倉庫を出庫する際に行います。個人の注文者にとっても、
物流コストが低下した分、安く商品を購入出来るケースが増加します。
また最近ではこの保税区スキームに越境ECモールを併設していたりします。
ここでは実際に商品展示を行っており、実物(サンプル)を見たり触れたりす
る事が出来ます。消費者に安心感を与え、越境EC市場拡大に一役買っていま
す。これが所謂O2O(Online to Offline)と呼ばれ、ネッ
トで見る(オンライン)だけでなく、体験店で実物を見る事(オフライン)で、
消費者の信頼性満足度向上に繋がっています。
以上の様に、保税倉庫を活用した保税区モデルによる越境EC展開は、日本
の事業者にとっても販売の機会が拡大出来る可能性があり、且つ中国の個人消
19
39.7
24.3
25.3
31∼35歳
3
2
33.3
25∼30歳
4
0
0.9
0.6
18歳以下
40
費者にも一定のメリットがある為、中国越境EC市場拡大の一助になっていま
す。
5.越境ECの新税制について
4月8日から越境ECに対して新たな税制が適用されました。中国の消費者
が越境ECサイトで商品購入した際の租税強化が要旨となります。その為制度
適用前後では、実質増税になったり減税になったりするケースがあります。ま
た日本販売業者側では原産地証明が付される事から、これまで介在していた悪
質な業者の排除にも効果を発揮するものと思われます。
今回の新税制のポイントは6つあります。①一度の購入金額上限は2,00
0元までに引き上げる(現状は1,000元)、②一人の年間購入金額の上限
は2万元(現状通り)、③購入金額の上限以下の購入商品に関し関税率は0%
とするが上限金額を超える場合は一般貿易と同じ税率を適用する、④輸入に関
する増値税を30%減額し全てに適用する(増値税17%×70%=11.
9%)、⑤消費税がかかる場合(商品によっては消費税がかかるケースあり)
は30%減額する(消費税30%の商品の場合は30%×70%=21%)、
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⑥行郵税を廃止し現状の個人輸入関税50元までの免税措置廃止の6点になり
ます。
今回の税制改正のポイントは、行郵税が廃止され免税範囲が無くなった事で
す。然しながら全ての商品で税率が上がるわけではありません。行郵税率が2
0%だったアパレル、ファッション、電化製品などは250元以上の商品では
実質減税となります。また行郵税率が50%と高かった化粧品類は100元以
上の商品では実質減税となります。
中国政府は直送による税金逃れを防止する為の解決策として、保税区スキー
ムに於ける各制度を施行しました。税金逃れ、つまりは個人間輸入にも今回一
定の規制が入っています。越境ECに係る仕組みの認知度が上昇、利用企業も
拡大し、インフラも定着してきました。このタイミングで当初より志向してい
た「海外からの越境ECに対しての全課税」という目的を漸く実行に移したも
のと思われます。
6.終わりに
中国の越境EC市場急拡大をいかにして取り込み、売上に繋げていくのかと
いう事は日本だけでなく世界全体が取り組んでいる事です。世間を賑わし続け
ている爆買いが実物買い旅行から体験型旅行というモノからコトに変化したと
いうのも、越境EC普及による消費活動補完ゆえとも言えます。中国の人件費
増加が消費活動を活発化させ、越境ECという手段を得て世界中を席巻してい
ます。新税制適用は冷や水を浴びせたのではなく、ある意味で中国政府が越境
ECに対して長期的に本気で取り組む姿勢を明確化させたのではないでしょう
か。
越境ECは中国に現法設立もせず、また中国営業許可証も取得する必要が無
い間接的な海外進出です。中国進出・攻略の一つの手段として今後益々活用が
広がっていくものと思われます。
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(1元≒16.6円)
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西川
卓磨)