カルダモン供給

決断科学大学院プログラム
環境モジュール海外研修レポート
3 月 7 日(金)~3 月 13 日(木)
於 カンボジア
秋保亮太・久保裕貴・黒岩亜梨花・田中亘・寺本健太郎・中原亨・宮島健
決断科学大学院プログラム
訪問目的
① カ ン ボ ジ ア 南 西 部 の カ ル ダ モ ン 山 脈 に 位 置 す る 中 央 カ ル ダ モ ン 国 立 公 園 (Central Cardamom
Protected Forest/CCPF)は、自然資源が豊富で多様な生態系や水源を有している。また、同国立公園は
トンレサップ湖の流域に位置しており、トンレサップ湖周辺の漁業を支えている。カルダモン国立公園
は、道路アクセス向上等により、違法伐採、狩猟、森林開拓、土地拡張など熱帯林の破壊に直面してお
り、非常に脆弱な状況にある。カンボジア政府は、国立公園周辺に森林レンジャーを派遣して違法伐採・
狩猟に対する保全活動を、環境 NGO のコンサベーション・インターナショナル(CI)・カンボジアと協力
して行っている。これら森林保全活動に、国立公園周辺に住む住民たちの協力を得て、パトロールなど
を行っている。そこで、森林破壊に直面するカンボジアの国立公園において、森林保全策を森林レンジ
ャーや村落住民から聞き取り、国立公園の課題とその展望について理解する。
②日本の援助機関がカンボジアに対して行っている環境に関する援助の内容について、理解をする。
決断科学大学院プログラム
事前研修・準備
2月4日
顔合わせ
研修についての説明
リーダー決め
2 月 14 日
全体での諸連絡
学生の話し合い(係決め・報告書の担当決め・カンボジアで何をするか)
2 月 20 日
話し合い(カンボジアで何をするか・聞き取り調査での質問)
諸連絡
2 月 21 日
藤原先生による講義(熱帯林の現状・森林消失の原因・森林保有構造)
感染症等に係る講義
2 月 24 日
荒谷先生による小セミナー(生物多様性)
注意事項など
その他、Facebook 上で資料の公開や話し合い
決断科学大学院プログラム
実習スケジュール
3月7日
移動(福岡発、プノンペン着)
3月8日
プノンペンのセントラル・マーケットで必要品購入
移動(プノンペン発、Thmar Bang 着)
3月9日
Areng にて村人の方からの聞き取り調査
3 月 10 日
CI 職員、FA レンジャーの活動の聞き取り
森林保護区訪問
3 月 11 日
移動(Thmar Bang 発、プノンペン着)
3 月 12 日
JICA の内田さんよりカンボジアの水道事業と洪水対策について講義
UNDP のサイトウ氏より REDD+の概要及びカンボジアにおける策定状況について講義
移動(プノンペン発、福岡へ)
3 月 13 日
福岡着
決断科学大学院プログラム
環境モジュール 海外研修
文責:久保裕貴
システム生命科学府
2014 年 3 月7日(金)
第1日目
一貫制博士一年
9 時 30 分、福岡空港国際線チェックインカウン
ター付近に集合した。
搭乗手続き後、手荷物検査と出国審査を経て、
渡す必要があるが、査証とともに返還される際に、
名前を呼ばれるだけで顔写真との一致をさほど重
要視していないようだったので注意が必要である。
ロビーにて、研修参加者の学生・教員・職員から
名前も発音が正しいとは限らず、聞き取りにくい。
各 100 ドルを集めた。集めたお金は、ホテルの送
荷物受け取りのあと、Mittapheap Hotel が契約
迎バス、食事、寝具購入、C.I.カンボジアの Thma
している送迎バスに乗り込み、プノンペン中心部
Bang ステーション滞在の費用として使われた。
の当ホテルに向かった。
残りは最終日に返金した。
11 時 45 分、福岡空港からタイ国際航空 TG649
ホテルに着き、早々に現地入りしていた岩永さ
んと合流。チェックインを済ませ、一日を終えた。
便でバンコクのスワンナプーム国際空港へ向けて
出発し、タイ時間で 15 時 35 分(日本時間 17 時
35 分)に到着した。
所感
初めての海外渡航で不安と期待が入り交じって
タイ時間 18 時 25 分、スワンナプーム国際空港
いた。航空券や搭乗手続き、カンボジア現地での
からタイ国際航空 TG584 便でカンボジアのプノ
移動手段といった、少し難しいが重要な箇所を用
ンペン国際空港へ向けて出発し、カンボジア時間
意してもらえるような、研修というかたちで初海
で 19 時 40 分に到着した(タイとカンボジアに時
外を体験できたのはよかったとおもう。ちなみに
差はない。日本との時差は-2 時間である)
。機内で
Mittapheap は友情という意味である(トゥクトゥ
カンボジア査証を申請するための書類に記入を済
クの運転手談)
。
ませ、降機後、事前に用意した顔写真と 20 ドルを
提示し、査証を得た。一時、パスポートを職員に
決断科学大学院プログラム
環境モジュール 海外研修
文責:黒岩亜梨花
システム生命科学府
2014 年 3 月8日(土)
第2日目
一貫性博士 2 年
2 日目は、プノンペンのセントラル・マーケット
力をしようと思った。特に食べ物から感染するリ
にて必要品の買い出しを行った後、プノンペンを
スクのある A 型肝炎や、傷口から感染するおそれ
出発し Thmar Bang へ移動をする一日だった。
のある破傷風に注意をすべきだとアドバイスいた
だいた。
Mittapheap Hotel にて
食事の後は、フロントに集合をした。学生の一
一日のはじまりは朝食から。私はホテルのテラ
人が寝坊で遅れるというハプニングはあったもの
スにて、スタッフの布施健吾さん、支援室の内田
の、無事に全員揃うことができた。ここで、CI 職
さん、安益さん、そして CI ジャパンの浦口さんと
員の Toby さん、および Pengly さんと合流した。
共に食事をした。見える景色と少しの風が心地よ
ここで、プノンペンで買っておかなければならな
い、素敵な朝だった。初めての海外、どんな人に
いものを確認した。
出会って、どんなものに触れることができるのだ
ろう、期待に胸が膨らんでいた。
セントラル・マーケットにて
セントラル・マーケットに到着し、休憩用の蚊
帳付きハンモック、水浴びをするときに使用する
ためにクロマー、宿泊する Thmar Bang のステー
ションが夜は冷えるため、毛布を購入した。クロ
マーとは、カンボジアの伝統的な手織り物であり、
カンボジアの人々の生活に深く浸透している。巻
いて、包んで、拭いて、多様な使い方ができる万
能布であり、日本の風呂敷に通じる部分がある。
テラスから見えた景色
浦口さんから、予防接種をうけてきたかを尋ね
られた。私は、矢原先生および九大病院グローバ
ル感染症センターの豊田先生から、感染症の講義
を受けた。そこで、それぞれの場所でどのような
リスクがあるか、何に気を付けなければならない
かを教わったものの、実際に予防接種をうけるに
は至っていなかった。
「どんなに気を付けていても
病気にかかることはある、防ぐためにできるだけ
の努力はしないと」私はハッとした。次回の海外
研修の際には、自分の身を守るために最大限の努
首に巻く内田さん・頭にかけた池田先生
決断科学大学院プログラム
全体での買い物を終えた後、グループに分かれ
て必要なものを買いに出かけた。私のグループは、
車での移動
マーケットでの買い物を終えると、プノンペン
移動の車で食べるフルーツを入手することにした。
を出発し Thmar Bang へと向かった。車での移動
まず目に留まったのが、果物の王様ドリアンであ
が 2 日目の大半を占め、11 時ごろにはプノンペン
る。ドリアンはアオイ科に属する樹木であり、名
を出発したが、宿泊地に到着したのは夕方過ぎだ
前の由来にもなったトゲ(マレー語でドリ)が特徴
った。この移動中に見たもの、聞いたことについ
的である。味見をさせていただくと、確かにガス
て紹介する。移動は 2 台のバンを利用した。私が
のような強烈なにおいはするが、舌触りは非常に
乗ったバンの乗員は、学生が私、田中さん、寺本
なめらかで、甘みがある、やみつきになりそうな
くん、教員スタッフが岩永さん、布施さん、藤原
味わいである。
さん、鈴木さん、池田さんだった。
その隣には、果物の女王マンゴスチンがあった。
マンゴスチンは皮が赤紫色であり、染料として使
われることがあるという。マンゴスチンも味見を
すると、こちらは甘みに加えてほどよい酸味があ
街。バイクが非常に多い。
り、果汁も多く非常に美味しい。この二つを購入
した。ドリアンはその強烈なにおいから、マンゴ
車中、私は布施さん、岩永さんとクロマーにつ
スチンは皮の色素が落ちにくいことから、ホテル
い話した。先ほどのマーケットで布施さんが購入
への持ち込みを禁止しているところも多いそうだ。
したクロマーを、私がいくらで買い取るか。まず
別の店でロンガンというフルーツも買った。こち
4 種類の柄があったのだが、それを選ぶのが難し
らは甘味が強く、果汁が多く含まれていた。
い。私が優柔不断なことに加え、布施さんや岩永
さんは勧めるのが上手いのだ。これは汚れが目立
たないよ、これはあまり見ない柄で珍しいよ、こ
の色は秋にピッタリだね、さまざまな言葉に私は
惑わされた。悩んだ末、柄を決めると次は値段交
渉である。ここでも、クロマーがいかに有用であ
るか、非常に巧みに説明された。それを聞くと自
分の中で価値が上がっていって、いくらでも高い
値をつけられそうであった。結局、私は買い値を
決めることができなかったが、このやりとりの中
マーケットで見た風景
信心深さを強く感じた。
で、値切り方を教えていただいた。この経験は、
マーケットでの買い物の際に、非常に役に立った。
決断科学大学院プログラム
途中で寄ったガソリンスタンドで、布施さんが
トカゲを捕まえた。トカゲがおとなしいので驚い
ていると、ひっくり返して腹部を撫でるとおとな
しくなると教えていただいた。これは非常に興味
深い行動であり、メカニズムが気になるところで
ある。
ステーションにて
ステーションでも初体験が多くあった。まず、
水槽に貯められた水を桶ですくって水浴びを行っ
た。夜は気温も下がり、水をとても冷たく感じた。
蚊帳があるベッドを使用するのも初めてだった。
夕食には、パパイアを使った料理やポトフ、カン
ボジアのビールが並んだ。
ほとんど抑えていないのに、逃げ出さない。
ピンクの布は布施さんから購入したクロマー。
学生ミーティング
一日の最後に学生ミーティングを行った。翌日
休憩に降りたお店では、カノム・チャーックと
に控えた村人からの聞き取り調査で何を知りたい
いうお菓子をいただいた。これはヤシの葉で包ん
か、そのためにはどのような質問をすればよいか、
で焼いた餅である。里芋、ヤシの実、ココナツ、
話し合った。事前に、環境破壊はどれくらい深刻
糯米で作られており、ココナツの香りが香ばしく、
か、人々はその問題をどれくらい認知しているの
ほどよい甘味でモチモチしていて美味しかった。
か、守る側と伐採する側の対立の構図を考え、伐
採する側から守る側になった人がいるか、いた場
合そのきっかけは何か、などの質問を考えていた。
しかし、私たち自身がそもそも違法伐採について
知識はあっても、実際の問題として捉えられてい
ないのではないか、という意見があり、大きな目
標として「違法伐採を自分たちの問題として認識
すること」を掲げ、それを知るために各自が小さ
車中から見える景色も、変化していった。赤土
な質問をすることとなった。
はカンボジアを感じさせ、同じ木が立ち並ぶさま
を見て、今回の研修で学ぶ違法伐採を想起した。
感想
2 日目はほとんどが移動という一日であった。し
かし、その中でもたくさんの初体験、そして学び
があった。自分で見たもの、触れたもの、聞いた
こと、すべてが私にとって大切な経験となった。
この経験を風化させないよう、大切に記憶に、記
録に残しておきたい。
決断科学大学院プログラム
環境モジュール 海外研修
文責:寺本健太郎
システム生命科学府
2014 年 3 月 9 日(日)
第 3 日目
修士 2 年
カンボジア実習3日目。本日はカルダモン国立
はなさそうだ。そしていよいよ現地のコミュニテ
公園内にある村、アレンに訪問する日。朝食の後、
ィーレンジャーとして活動している方々との対面
CI のトビーからカンボジアにおける CI の活動、
だ。
カルダモン国立公園(カンボジア森林局)との関係、
村人の方々とは屋根だけある集会所のようなと
その保護区内に残っている村人たち(コミュニテ
ころで会談を行った。総勢 15 名程度来ていただき、
ィー)についての説明があった。印象的であったの
その中には私たちと同じくらい、もしくはもっと
は、現状として貧しいコミュニティーに森林伐採
若い方々や女性の方々もいた。お話を聴いていく
をさせないよう、コミュニティーレンジャーとし
中で印象に残ったのは、コミュニティーレンジャ
て報酬を与えるという対策をとっており、CI はそ
ーの方々が森林や動物たちを守ることができてう
こに資金援助をはじめ、技術提供を行っているの
れしい、と語っていたことだ。村の主要な仕事が
だが、これは持続的な森林保護としての解決策で
農業である中で、レンジャー活動をすることでよ
はない言われた点だった。貧しいコミュニティー
り収入を増やすことができるという大きな利点が
が森林を伐採せずに生活できる仕組み作りを、外
あることは肯定していたが、それでも自然を守る
部からの資金援助なしに実現することが大切なの
ことに意義、幸せを見出していることは、今後持
だと感じた。その後、車に乗り込み、いよいよア
続可能な自然保護を目指すうえでは重要なことで
レンへ向けて出発。
はないかと思う。
アレンへ向かう途中、アロワナの生息する溜り
会談の後は、レンジャーの方々と村の近くの川
のある川辺に行き、皆思い思いに探索した。その
へ。ここでは多くの学生と先生が川に入り、水遊
川は日本の川とは違い、川の流れがゆっくりだな
びを楽しんだ。特に楽しかったのは、岩の川底を
ぁ、と感じた。
ウォータースライダーのように滑り、落差 1 メー
昼前にアレンに無事到着し、レンジャーの使用
ター程度の滝から飛び込むという自然のアトラク
する施設で昼食を食べた。この施設には、皮を目
ションだった。若干名背中をすりむいたりしてい
的に密猟されるワニの保全を目的として、小さな
たが、現地レンジャーの方とともに楽しんだ。
ワニが多数飼育されていました。様々なバリエー
ションの皮を作り出すため、様々な土地のワニが
捕獲され、それらの間で交雑が行われているそう
だ。そのため、地域にネイティブな個体群を保全
するために、ネイティブだと思われる個体の卵を
巣からとってきて育てているそうだ。ここのワニ
はまだ1,2歳程度で小さくかわいかった。この
ワニは人間を襲うことはほぼないそうなので、ワ
ニの個体群を増やすことで人間に害が起こること
決断科学大学院プログラム
環境モジュール 海外研修
文責:秋保亮太 人間環境学府
2014 年 3 月 10 日(月)
第 4 日目
修士 2 年
Bird watching
クメール・ルージュ後,内戦の軍資金生成のため
海外研修第 4 日目の早朝 05:30,有志を募って近
に違法伐採が行われるようになった。この時は高
隣の河川へ赴いた。大自然の中,鳥の鳴き声に耳
価な木材のみが対象で,規模は大きくなかった。
を澄まして,その方向から姿を探し求めるひと時
ところが国の開拓に伴い,違法伐採は深刻化して
を過ごした。双眼鏡やカメラなど,各々の思う手
いった。当時,森林保護区とそれ以外の地区は法
段で観察を行い,大きさや色などを基に図鑑を用
律上の境界があるのみで,混乱に紛れた違法伐採
いて種類の同定を試みた。
が進められてきた。この問題に対処すべく活動を
日本には生息しない鳥をこの目で見ることが出来
始めたのが CCPF の前身である。
たのは勿論,カンボジアの自然へ存分に触れるこ
昨年 2013 年のカンボジア総選挙により,貧しい
とが出来て,貴重な経験となった。また,この体
人々に土地の使用権が分け与えられた。その結果,
験を通して,この環境を守っていく重要性を改め
誰がどこの土地を所有しているのか分からない状
て痛感した。
況の中,次々に開拓が行われてしまい,森林に深
刻な影響が出てしまうこととなった。この問題を
解決していくことが,喫緊の課題である。
環境破壊の背景と現状
朝食後,Convention International(以下 CI と略
記 ) の 方 々 か ら 話 を 伺 っ た 。 内 容 は , Central
Cardamom Protected Forest(以下 CCPF と略記)
がカンボジアの環境保護支援に至った歴史的背景,
現在も抱えている脅威,今後の展望など多岐に渡
った。その際,森林の違法伐採や保護動物の違法
狩猟についても触れられ,実際に押収されたもの
(違法伐採された木材や狩猟用の罠,移動や持運び
に使用した乗り物など)を目の当たりにすること
が出来た。その生々しさに一同言葉を失った。
決断科学大学院プログラム
Convention International の活動
森林保護区訪問
押収物見学後,CI の具体的活動について聞き取り
森林保護区に指定される以前からその地に存在し
を行う班と,現地の自然環境を直接観察し調査す
ているという村落を訪れた。水牛を飼う家や古い
る班の 2 組に分かれて活動を進めた。
寺院があり,その歴史の深さを感じさせた。
CI は,森林保護レンジャーの活動のモニタリング
その後,実際に森林内へ赴いた。道中,実演を交
が主な仕事となる。その際,各雇用者の仕事環境
えつつ土壌採取の基礎知識を学んだ。土壌採取で
向上のために労働環境や設備を整え,装備(ユニフ
は,その地の代表的な所を選択して 1m 程度を掘
ォーム,ブーツ,ヘルメットなど)を供給すること
ることになる。土の養分環境(粘度や色,炭素量や
も重要な責務の 1 つである。地理情報システム
窒素量),植物の根の張り方などを具体的に数値と
(GIS)や空間モニタリング報告ツール(SMART)な
して収集することで,土地の利用可能性,その妥
どの機器を使用しており,これによってパトロー
当性について検討を行うことが可能となる。
ルの作業効率の向上と共に労働状況の詳細なモニ
また,カメラトラップについても実際の機器を用
タリングを可能にしている。加えて,各アイテム
いてその基礎を学んだ。必要とされる感性は,写
の使い勝手について実際に使用者の話を聞きなが
真家というよりもハンターのそれに近い。撮影に
ら試行錯誤を行っており,より良い労働環境の生
おける留意点は,動物への配慮から写り方の拘り
成へ努めていた。その結果,パトロールの規模や
にまで及び,その難しさを垣間見ることが出来た。
検挙数は順調に拡大し増加しており,また,安定
一通りの見学を終えた後,有志のみ森林内に残り,
化に成功しているという。
夕食の時間まで森林保護区内の生態調査を行った。
違法伐採地訪問
昼食後,森林保護区へ向かう道中で違法伐採地の
様子を目の当たりにすることが出来た。およそ 1
年前に違法伐採されたとのことだったが,見た目
にはそのような荒廃が見られなかった。この地に
関しても,先述のように土地の区画整理が困難な
場所であり,自分の利用出来る土地だと勘違いし
た人々が勝手に開拓を進めたことがこのような現
状を招いたらしい。
決断科学大学院プログラム
環境モジュール 海外研修
文責:宮島健
人間環境学府
2014 年 3 月 11日(火)
第5日目
修士 2 年
ステーションとの別れ
プノンペンへの帰還
カンボジアに滞在すること 5 日目である。東日本
プノンペンへ向かう道中で,CI のトビーとジェ
大震災から 3 年となる節目の日を,まさかカンボ
レミーが食虫植物が群生している場所へと案内し
ジアで向かえるとは夢にも思わなかった。本日の
てくれた。モウセンゴケの仲間やウツボカズラの
主なイベントはステーションからプノンペンへの
仲間など,これも福岡ではなかなか目にすること
車での移動。ほぼ一日費やしての行程となる。
ができない植物である。ここにいると,幼いころ
朝は中原くんと事務の内田さんとバードウォッ
昆虫少年だったのを思い出せて,とても楽しかっ
チングをするため,
5 時過ぎに起床し支度をする。
た。プノンペンに戻るのがとても名残惜しい。し
wreathed hornbill (和名: シワコブサイチョウ)な
かし,車中では「学振・統計・研究」などの話題
ど,福岡ではお目にかかれない鳥たちを観察した。
で盛り上がった。うまく言葉にはできないが,世
サイチョウは飛んでいるとき「ブオッブオッ」と
界のどこにいて何をしていても,我々はやはり“研
いう独特な声(羽ばたきの音?)を出す。これま
究者”なのだと感じた。
では,その声を頼りにして飛行中のサイチョウを
探索していたが,このときは木の上にとまってい
るサイチョウを初めて観察することができた。1m
近くある黒くて大きな体とまるで恐竜のような派
手な顔立ちは圧巻である。
午前 9 時にお世話になったステーションの皆様
とお別れ会。サブリーダーの久保君が感謝の気持
ち,そして学んだことを英語で伝えた。その後,
一人一人がメッセージを伝える運びとなったが,
プノンペンに近づき,車窓から見える風景が都
私は思い通りに言葉を紡ぐことができず,とても
会のものへと変化するにつれ,まるで“初めて上
歯がゆい思いをした。彼らの英語を聞き取って理
京する大学生”のような気持ちになってきた。少
解することや,普段論文を読むことはそれなりに
しの間山の中にいただけで,たくさんの人をみる
できても,いざコメントを振られると,アドリブ
と少し不安になる。日本で 20 年以上生活してきた
では口を突いて出てこない。ご飯がとても美味し
にもかかわらず不思議なもので,身も心もカンボ
かったこと,親切にしてくれたことへのお礼,カ
ジアに染まってきたようだ。
ンボジアが抱える問題に日本人として如何に貢献
晩は,クメール料理に舌鼓をうつ。カエルにも
できるか深く考えたいという決意,カンボジアと
初挑戦した。濃いめの味付けも手伝ってか,抵抗
日本の良好な関係がいつまでも持続することを願
なく食べられた。鶏肉のようで美味である。明日
う気持ち,そして再び訪れたいという想い,もっ
は JICA や UNDP の方々とお会いする。日本とい
と多くのことを伝えたかった。英語での意思伝達
う集団が国際社会にどのように貢献したのか,ま
能力を高めることが今後の課題だと痛感した。
た今後どうすべきなのか。しっかり備えて臨みた
いと思う。
決断科学大学院プログラム
環境モジュール 海外研修
文責:中原亨
システム生命科学府
JICA 訪問
2014 年 3 月 12日(水)
第6日目
一貫性博士 2 年
カンボジアの水道事業と洪水対策
6 日目は、まず JICA のカンボジア事務所を訪問
気候変動緩和策・適応策
し、職員の内田東吾さんから JICA がカンボジア
プノンペンでは、洪水対策が発達している。近
で行っている事業について教えていただいた。
年まで、洪水が起こると水が引きにくいという状
JICA が行っている事業は、主に都市環境の改善や
況があった。水が引かないと衛生状態が悪くなり、
気候変動への対策である。
病気などが蔓延する。それを防ぐために、JICA は
輪重提の造成事業を支援し、首都圏への水の流入
都市環境改善事業
の防止と排水効率の改善を実現した。その結果、
カンボジアの首都プノンペンは、
「プノンペンの
2011 年の大洪水時には、プノンペンは水につから
奇跡」と呼ばれるほどに都市水道が発達しており、
ずに済んでいる。また、リバーサイドの護岸整備
日本の自治体よりも高水準である。これは、日本
も行い、ポンプの処理能力を超える水害があった
とフランスの支援(円借款事業)によって実現さ
ときに、水を流し込む空間を地下に作っている。
れた。北九州市から専門家を招いて従業員の教育
これらの工事の際には日本人とカンボジア人計
を行ったり、浄水場建設の援助を行ったりするこ
500 名の労働者が従事した。ところが現地の労働
とで、無収水率を約 20 年間で 70%から 5%程度ま
者の安全意識はきわめて低く、安全対策を一から
で劇的に低下させている。水質もよく、現在のプ
教育することでようやく工事を遂行することがで
ノンペンの水道水は直接飲めるほどに処理されて
きたようである。
いる。専門家の教育によって従業員の間でノウハ
ウが共有された現在では、水道事業は地方都市に
移行し、整備が進行している。
これらの環境対策は、従来は政府が基準を設定
し、事業者を監督するスタイルで行われるもので
一方で、廃棄物・ごみ・処理に関してはあまり
ある。しかしカンボジアには行政の技術的能力・
発展していない。首都プノンペンでさえ穴を掘っ
監督能力・マンパワーが不足しており、先進国が
て投げ込むだけというのが現状である。特に雨が
その役割を担わなければならない。しかし、水道
降るとごみが流れていくため、一斉にごみを捨て
分野では国内の専門家が育ってきており、国内の
るという悪習慣まである。ごみが捨てられると排
力で事業を行うことができるようになりつつとの
水溝が詰まり、洪水時に水が引かない原因ともな
ことである。私は、水道事業は、今後国が独自で
ってしまう。汚水処理に関しても、資金不足によ
他の事業を遂行していく際のモデルケースになる
り処理場の建設は実現していない。学校教育では、
かもしれないと思った。
ごみ問題などについて教えてはいるものの、未だ
ごみの分別などの考え方は浸透していないようで
ある。規制等も整備が間に合っておらず、法整備・
環境教育の浸透を一段落させるには、最低 10 年は
かかると内田さんは考えていらっしゃった。
決断科学大学院プログラム
環境モジュール 海外研修
文責:田中亘
2014 年 3 月 12日(水)
第6日目
博士1年
UNDP(国連開発計画)カンボジア事務所 訪問レポート
『UNDP のサイトウ氏より REDD+の概要及びカンボジアにおける REDD+の策定状況について講義』
講師(サイトウ
モエコ氏)略歴
済的価値の高いものにしようという試み.
・映画「風の谷のナウシカ」を見て環境保護を
志す(筆者注;漫画版は超おすすめ)
・大学では経済学専攻
国際的な仕事に就くた
め留学
・世界銀行森林部に就職
森林保護政策に携わ
る
・デンマーク大学に留学(世銀の職員として聞
いていた話と,研究者として体験した現地の森
林の実情の乖離を知る)
・外務省の JPO(ジュニア・プロフェッショナ
図 1.REDD+のインセンティブ概念図
ル・オフィサー)プログラムに応募し,UNDP
(国連開発計画)職員として,カンボジアの
REDD+成立までの経緯
REDD+の作成を支援する(現職)
1997 年 COP3(第 3 回気候変動枠組条約締約国会議)
冒頭略歴をうかがっただけで圧倒されるほどバ
イタリティにあふれた方でした.
京都議定書が採択され、森林部門の植林など
による二酸化炭素吸収,および伐採等による消
失分は排出量増加として炭素クレジットして算
入されることが定められ,今後の具体的な運用
について議論が開始される.
2005 年 COP11
パプアニューギニアとコスタリカにより,
「途
上国における森林減少と森林劣化による温室効
果ガス排出の削減」(REDD)および森林減少の抑
講義の様子
制を通じた炭素クレジットの取得が提案される.
2009 年 COP15
REDD+の概要
from
コペンハーゲン合意に「森林減少・劣化によ
Deforestation and forest Degradation)+とは
る温室効果ガス排出の削減が果たす役割の重要
「途上国における森林減少と森林劣化からの排
性と、森林による温室効果ガス吸 収を強化する
出削減並びに森林保全、持続可能な森林管理,
必要性を認識し、REDD+などの制度をただちに
森林炭素蓄積の増強」の略称で,途上国に対し
創設して、こうした行動に対して積極的なイン
森林保全に経済的インセンティブ(図 1)を提供
センティブを与え、先進国からの資金調達を可
することで、森林を伐採するよりも残す方を経
能にする必要があることに同意する」という文
REDD ( Reduction
of
Emission
決断科学大学院プログラム
現在,アジアにおいてもっとも REDD+への準
言が盛り込まれる.
2010 年 COP16
備が進んでいるのはベトナムでカンボジアは 3
コペンハーゲン合意を踏襲したカンクン合意
番手ぐらいの進捗状況である.しかし,カンボ
が採択.REDD+の実現に向けた具体的な作業へ.
ジアは丁寧に上記の準備手順を踏んでおり,施
行体系の質はアジアでは一番であるとのこと.
現在各国で REDD+の実施に向けた仕組みづく
りやパイロット地域での施行が進んでいる.
UNDP の支援
推進事務局の監視・助言,またセーフガード
カンボジアの REDD+の準備状況
のシステム構築のため,その基礎情報となるテ
REDD+の施行に向けたアウトカム(Outcome 4)
クニカルペーパーの作成などの業務を行ってい
1. Establishment of institutional arrangements
る.
(National
Management
and
stakeholder
engagement)
質疑・応答
森林の価値をカーボンクレジットの側面から
利害関係のある公共機関の調整(どこが推
のみで評価すると,天然林の伐採による新たな
進事務局の主査機関になるか各機関の仕事
植林事業などが行われ,森林の持つ生物多様性
分けなど)するとともに,森林のオイルプラ
などの価値が損なわれてしまうのではないかと
ンテーションへの置き換え防止のためのシ
の議論があった.
ステム作り(セーフガード)やインセンティ
ブの分配等をワーキンググループで議論.
2. Development of the REDD+ Strategy and
Implementation Framework
また,カンボジア政府の姿勢として,カンボ
ジア内での森林政策の研究成果に関してネガテ
ィブな情報を公表させない傾向があるため,カ
ンボジアで活動する研究者には,公表しない情
カンボジア国内での REDD+施行のフレー
報も含めて,研究者同士の横のつながりで情報
ムワークを作成する.
(e.g.インセンティブの
共有してほしいとの意見をサイトウ氏よりいた
分配メカニズムの確立,カンボジア国内での
だいた.
予算の確保,セーフガードシステムのフレー
ムワーク)
3. Development of REDD+ at subnational
level
課題など
カンボジアの森林における最大の脅威は,政
権による森林保護区におけるコンセッション
カンボジア国内の一部地域で REDD+を試
(利用権)の乱発であると,UNDP サイトウ氏
行する.Seima および Oddar Meanchey と
及び CI トビー氏などの認識は一致していた.先
いう地域で,地域コミュイニティや NGO の
のカンボジアの選挙(2013)では,現政権が人
協力のもと施行され,様々な二酸化炭素削減
気取りのため,コンセッションを乱発し,保護
効果が得られている.
林の減少を招いたようだ. REDD+により,森
4. Designing MRV & Monitoring system
林の保護再生に金銭的なインセンティブがつく
森林のモニタリングシステムを確立するた
とはいえ,森林保護区は反面,経済的なフロン
めに,事前情報として,衛星写真より森林の
ティアでもある.カンボジア政府・政権の利権
把握,既存の森林の登記データなどの収集を
も絡んでくる問題であり,どこまで本気で保護
行う.
対策ができるか疑問もある.
決断科学大学院プログラム
環境モジュール 海外研修
文責:久保裕貴
システム生命科学府
一貫制博士一年
7 日目は、バンコクのスワンナプーム国際空港
で迎えた。
カンボジア時間で 12 日の 20 時 40 分、
プノンペン国際空港からタイ国際航空 TG585 便
でバンコクのスワンナプーム国際空港へ向けて出
発し、タイ時間で 21 時 40 分に到着した。
タイ時間で 13 日の 1 時 00 分、スワンナプーム
国際空港からタイ国際航空 TG648 便で日本の福
岡空港へ向けて出発し、日本時間で 8 時 00 分に到
着した。
到着後、ゲート前で集合写真を撮影した。備品
扱いのハンモックと蚊取り線香皿は、職員の安益
さんが持ち帰り、後日決断科学大学院プログラム
支援室へ運んでくださることになった。なお、蚊
取り線香皿は、24 日に洗浄を済ませた。
所感
スワンナプーム国際空港から福岡空港までは 6
時間ほどあったが、機内ではほとんど眠ることが
できなかった。窓から見えた星空はとてもまばゆ
く、薄く明るんできたころに雲の上にいる、とい
うことでも、初めての海外を意識させられた。頭
の中では、カンボジア研修、とくに Thma Bang
やプノンペンでのインタビューを振り返り、反省
点を考えてばかりいたようにおもう。
2014 年 3 月 13 日(木)
第7日目