需要と供給(2)

経済学の基礎(古屋)
「プリント#4」
需要と供給(2)
需要の価格弾力性
・需要の価格弾力性: ある商品の価格 P が 1%変化した際, その商品の需要量 X が何%変化するかを表した指標.
需要量 X の変化率を価格 P の変化率で割ったものの絶対値
Xの変化率
Pの変化率
として計算される.
・<例 1>: 米価がキロあたり 800 円から 1000 円へ上昇したとき, 米の需要量が 500 万 t から 450 万 t へ減少.
価格 P の変化率 = (変化後の価格−変化前の価格)÷変化前の価格
=
(1000 − 800) 200 1
=
= = 0.25
800
800 4
(25%の上昇)
需要量 X の変化率 = (変化後の需要量−変化前の需要量)÷変化前の需要量
=
需要の価格弾力性 =
(450 − 500) − 50
1
=
= − = −0.1
500
500
10
(10%の減少)
Xの変化率
− 0.1 − 10
=
=
= − 0.4 = 0.4
Pの変化率
0.25
25
(価格 P の 25%の上昇が需要量 X の 10%の減少を招く⇒P の 1%の上昇が X の 0.4%の減少を招く)
・<例 2>: 渡航費が 8 万円から 10 万円へ上昇したとき, 海外旅行の需要量(渡航者)が 50 万人から 30 万人へ減少.
価格 P の変化率 = (変化後の価格−変化前の価格)÷変化前の価格
=
(10 − 8) 2 1
= = = 0.25
8
8 4
(25%の上昇)
需要量 X の変化率 = (変化後の需要量−変化前の需要量)÷変化前の需要量
=
(30 − 50) − 20
2
=
= − = − 0 .4
50
50
5
需要の価格弾力性 =
(40%の減少)
Xの変化率
− 0.4
− 40
=
=
= − 1.6 = 1.6
Pの変化率
0.25
25
(価格 P の 25%の上昇が需要量 X の 40%の減少を招く⇒P の 1%の上昇が X の 1.6%の減少を招く)
・上記二例の比較: 米(価格弾力性=0.4)は価格が上昇しても需要がそれほど大きく減らない一方, 海外旅行(価
格弾力性=1.6)は価格が上昇すると需要が大きく減少してしまう(需要が価格変化に敏感である).
⇒一般に, ①生存への必要度が高く(米など), ②代替品が少なく(塩など), ③所得に占める支出の割合が低い
(つまヨウジなど) 財の価格弾力性は低く, 逆に①’生存への必要度が低く(海外旅行など), ②’代替品が多く
(バターなど), ③’所得に占める支出の割合が高い(不動産など) 財の価格弾力性は高くなる傾向にある.
1
需要の価格弾力性と需要曲線の傾き
・需要の価格弾力性が低い⇒需要曲線の傾きが急(下図 1<例 1>参照)
・需要の価格弾力性が高い⇒需要曲線の傾きが緩やか(下図 1<例 2>参照)
図1
<例 1> 米の需要:ある程度価格が変化しても需要量はそれほど変わらない = 価格弾力性が低い
P
1000
B
1kg あたり
米価(円)
A
800
D
X
450 500
米の需要量(万トン)
<例 2> 海外旅行の需要:ある程度価格が変化すると需要量は大きく変わる = 価格弾力性が高い
P
1000
B
渡航費用(百円)
A
D
800
X
300
500
海外渡航者数(千人)
所得の変化と需要曲線のシフト
・所得が増加すると, 価格が同じでも需要量は増加する ⇒ 需要曲線は右側にシフトする
・<例>海外旅行の需要: 価格 P(渡航費)が 8 万円のままでも, 所得が増加すると需要量 X(渡航者数)は
50 万人から 75 万人へ増加. ⇒グラフ(図 2)では需要・価格の組み合わせが A 点から A’点へ右シフト
⇒A, A’点のような位置関係は価格 P が 8 万でなくどのような値でも成り立つ⇒需要曲線が D から D ’へシフト
図2
P
渡航費(百円)
800
A
A’
所得の増加は同価格でも海外旅行の
需要量を増やす
D
500
750
2
D ’
X
海外渡航者(千人)
選好の変化と需要曲線のシフト
・消費者の選好が変化すると, 価格が同じでも需要量は変化する ⇒ 需要曲線はシフトする
・<例(負の選好ショック)> 海外でのテロ懸念の増加 ⇒価格 P(渡航費)が同じでも渡航者数は減少
⇒グラフ(図 3)では需要・価格の組み合わせが A 点から A”点へ左シフトし, 需要曲線が D から D ”へシフト
図3
P
渡航費(百円)
海外テロ懸念の増加は同価格でも
A”
800
A
海外旅行の需要量を減らす
D
D”
300
X
500
海外渡航者(千人)
生産性の変化と供給曲線のシフト
・技術進歩の結果, 同量の生産物をより安く作れるようになった場合, 売値が同じでも収益性は向上するため,
企業は生産量を増やす ⇒ 同一価格における供給量が増加するため, 供給曲線は右側にシフトとする.
(生産性低下の場合は逆 ⇒ 供給曲線は左側にシフト)
・<例 1>ホウレン草の供給 −品種改良による水分・肥料吸収効率の改善(図 4)
価格 P が 300 円/kg のままでも供給量 X は 3 万 t から 4 万 t に増加
⇒ 供給・価格の組み合わせが A 点から A’点へ右シフト⇒供給曲線が S から S ’へ右シフト
<例 2>ホウレン草の供給 −天候不順による生産性低下[同量生産するためのハウスの光熱費などが増加](図 5)
価格 P が 300 円/kg のままでも供給量 X は 3 万 t から 2 万 t に減少
⇒ 供給・価格の組み合わせが A 点から A”点へ左シフト⇒供給曲線が S から S ”へ左シフト
図4
P
S
P
S‘
300
A
A‘
品種改良による
300
図5
S”
S
A”
A
生産性向上
3
生産性低下
X (万 t)
4
天候不順による
2
3
X (万 t)
応用例 (1) − 新興工業国での乗用車普及が原油市場に与える影響
P
P1
図6
S
E0
乗用車普及による原油需要の増大は
E1
需要曲線を D0 から D1 へと右シフトさせ
P0
均衡価格を P0 から P1 へ
D1
均衡取引量を X0 から X1 へと増加させる
D0
X0
X
X1
3
応用例 (2) − テロ懸念による採掘コスト増加が原油市場に与える影響
P
図7
S1
原油採掘コストの上昇は原油の
供給曲線を S0 から S1 へと左シフトさせ
S0
E1
均衡価格を P0 から P1 へ増加
P1
E0
P0
均衡取引量を X0 から X1 へと減少させる
D
X
X0
X1
(参考) 需要曲線と消費者の評価 [参考書 pp.134-136]
・パソコンの価格 P (万円)と需要量 [=購入人数] X (台)の間に
1
X = 11 − P
5
---(1) ⇔
P = 55 − 5 X
---(1) ’
という関係が成り立つとき, 価格と購入台数の値は下表 1 のようになる(←購入しても一人あたり 1 台).
表1
P (万円)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
X (台)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
購入者
山田
均衡
山田+鈴木
山田・鈴木以下七名+加藤
・いま, 供給方程式を
X =
1
P
6
---(2) ⇔
P = 6X
---(2) ’
とすると, (1)(2)より, 均衡価格は 30 (万円), 均衡取引量は 5(台)となる(上表も参照).
・以上の条件をグラフにすると, 下図 8 のようになる.
P (万円)
55
50
45
図8
山田
鈴木
30
表 1・図 8 より P =50 のとき X=1 で, 購入者は山田一人のみである.
このことより, 山田はパソコンに 50 万円支払ってもよいと考えて
S : P = 6X
いることがわかる. 同様に, 二人目の購入者(鈴木)はパソコンに
45 万円支払ってもよいと考えていることがわかる. 均衡価格
E
30 万円において, パソコンを購入しているのは五人だが, これら
15
五人は, パソコンに対してちょうど 30 万円ないし(山田・鈴木の
加藤
D : P = 55−5X
1234 5
8
X
ように)30 万円より多くの価値を見出しているはずである.
パソコンに 15 万円しか支払う意思のない加藤(八人目の購入者)
は 30 万円という金額を支払ってパソコンを買うことはない.
・上記より, 需要曲線は消費者のその商品に対する評価額を表わしたものとも解釈できる.
⇒需要曲線Dに沿って右下にいくほど需要量が増えるのは, 価格が下がるに連れてその商品に対する評価額の
低い消費者も購入するようになるから.
4