日中間観光交流 - JAFIT

日本国際観光学会論文集(第16号)March, 2009
日中間観光交流
――日中若者の観光意識比較――
き
り ねい
祁 李寧
流通経済大学大学院
社会学研究科社会学専攻博士後期課程2年
Targeting 111 students of Ryutsu Keizai University, Professor Kagawa carried out an investigation survey on tourist motivation
using a critical incident method. He found out that the tourist attitude to the destination country depends on the existence of
favorable features and tourist motivation depends on the attitude.
Using the same method of Professor Kagawa, we carried out a survey targeting Japanese and Chinese students individually. 193
Japanese and 262 Chinese responded. The result of correlation analysis of our survey is as same as that of Professor Kagawa. There
is a clear difference between Japanese and Chinese students in regard to the promoting factors and alienating factors in the case of
tourism exchange.
1.序論
ウンドの著しく不均衡状況から、
「中国で
人と目標との心理的距離に反比例する。す
2006年、日本の北海道で「第一回日中韓
は、日本と韓国への出国に障壁がある」
、
なわち、
観光大臣会合」が開かれてから、2007年に
あるいは、
「日本と韓国では、中国の受け
FPG=f
(VG / LPG)
は中国の青島で第二回会合、2008年には韓
入れに障壁がある」とみることができる。
ただし、
国の釜山で第三回会合が開かれた。三回の
中国人対象に発給される観光ビザの問題、
FPG=人
(Person)を目標
(Goal)に向かわせ
会合の主な骨子は、日中韓域内の相互観光
また、中国人の、日本と韓国への観光モチ
る力
(Force)
交流の振興、日中韓域内外の観光交流の振
ベーションといえるかもしれない。
VG=目標の誘意性
(Valence)
興、日中韓観光大臣会合の継続的な開催、
日中間観光交流における制度に関する障
LPG=人と目標との心理的距離
(Length)
である。2006年の第一回の会合では、2010
壁については、認識されているが、一方、
である。
年には日中韓域内交流人口を1700万人と
観光モチベーションの視点から、あるいは、
日本においては、観光者、観光客の観光
するとの目標が確認された。
心理学的に個人の「心」の問題として、十
行動を説明、予測、誘導することを目的と
2005年の時点で、日中韓観光交流人口を
分重視されていない。
する観光モチベーションに関する研究、香
計算すると、中国は136万人を送り出し、
観光モチベーションは、
「特定の場所を
川
(1979)
、香川
(1980)
、香川
(1988)
、香
694万人を受け入れている。日本は583万人
訪問したいという当人の気持ち」である。
川
(1989)
、の観光モチベーションモデル
を送り出し、240万人を受け入れている。
実際に当人が当該の場所を訪れるかどうか
と、梁
(2005)
の観光障壁モデル、が上げら
韓国は530万人を送り出し、315万人を受け
は、モチベーションを主要変数とする方程
れる。
入れている、日中韓の観光交流人口数は合
式
(=モデル)
によって予測される。観光者、
心理学者のハーズバーグ
(1966、1976)
計1249万人であった。2007年には、日中
観光客の観光行動を説明、予測、誘導する
は、臨界事象法を用いて、職場における従
韓観光交流人口を計算すると、中国は201
ことを目的とする観光モチベーションの研
業員の職務満足と職務不満の要因を洗い出
万人を送り出し、876万人を受け入れてい
究は、観光心理学の中で重要な位置を占め
し、それぞれを動機づけ要因と衛生要因と
る。日本は622万人を送り出し、354万人を
る。
名づけた。すなわち、前者は人を仕事に動
受け入れている。韓国は738万人を送り出
観光行動の生起に関わるモデルを構築す
機づけ、後者は人を精神的に健康にする。
し、331万人を受け入れている、三国間観
る際の準拠枠として参考にすべきモチベー
臨界事象法とは、ハーズバーグが従業員の
光交流人口数は合計1561万人となった。こ
ションの理論研究では、心理学においては、
意識を面接法で調査する際に用いた方法で
こから、三回の観光大臣会合の成果があっ
レヴィン
(1938→1956)の期待理論が始ま
あり、職務において例外的によく感じた時
たとよみとれる。
りである。彼のモデルによれば、人を目標
期の経験と、例外的に悪く感じた時期の経
しかし、中国のインバウンドとアウトバ
に向かわせる力は、目標の誘意性に比例し、
験について語ってもらい、回答された内容
−19−
日本国際観光学会論文集(第16号)March, 2009
を分析する手法であり、ここでは、
「職務
3.方法
満足」の反対は「没職務満足」であり、
「職
3−1 調査対象
務不満」の反対は「没職務不満」である、
日本では、流通経済大学の学生を対象に
の好き嫌い」
、
「対象国へ行きたいか」
、の
とされた。
調査が行われた。流通経済大学では、計2
6つとして、整理、分析するものである。
この臨界事象法を観光モチベーションに
キャンパス、5学部、8学科、の編成であ
応用し、観光の満足要因と不満要因、を分
り、在籍学部学生は計5412名である。この
3−3 調査時期
析に関する研究には、香川・他
(1996)
、王、
中、193名学生を調査対象として、調査を
日本での流通経済大学学生を対象とする
若月(2003)、香川
(2003)
、香川
(2004)
、王、
実施した。男女別内訳、男子114名、女子
調査は2007年7月に行われた。
(先生の許
若月(2005)、香川
(2005)
、香川
(2006)
、劉
79名である。
可を得て、授業時間を利用して、調査を行
中国では、首都経済貿易大学の学生を対
った。
)
川
(2007c)
がある。
象に調査が行われた。首都経済貿易大学で
中国での首都経済貿易大学学生を対象と
本論文では、以上の先行研究を踏まえつ
は、計2キャンパス、14学院
(学部)
、33学
する調査は2007年10月に行われた。
(協力
つ、日本から中国に旅行する日本の若者、
科、の編成であり、在籍学部学生は計9600
を得て、調査表を首都経済貿易大学の先生
また中国から日本に旅行する中国の若者を
余名である。この中、262名学生を調査対
のところに送り、調査を行ってもらった。
)
中心に、彼らの観光意識を比較しながら、
象として、調査を実施した。男女別内訳、
観光モチベーションを検討することを通し
男子107名、女子155名である。
4.結果
て、今後、日中間の観光交流を拡大させる
結果として、日本学生193名、中国学生
4−1 対象国について好きな点の有無
には、どの様な条件が必要であるかを明ら
262名、回収率は、それぞれ100%であった。
表2が示したように、
「対象国について
かにする。
従って、今回の分析対象となる。
好きな点の有無」を質問したところ、日本
(2006)
、香川
(2007a)
、香川
(2007b)
、香
点の内容」
、
「対象国への嫌いな点の有無」
、
「対象国への嫌いな点の内容」
、
「対象国へ
学生の場合、
「ない」と答える人は59.1%、
2.目的
3−2 調査事項
「ある」と答える人は40.9%であった。中国
臨界事象法を用い、111名の流通経済大
表1が示したように、調査事項は、香川
学の学生を対象とした香川
(2007a)の研究
(2007a)
の実験研究を拠りながら、
「対象国
では、変数間の相関から、好きな点の有無
への好きな点の有無」
、
「対象国への好きな
学生の場合、
「ない」と答える人は59.9%、
「ある」と答える人は40.1%であった。
x2検定の結果では、平均差の検定は、5
が態度
(好き嫌い)を規定し、態度
(好き嫌
表1 調査事項
い)の高低が観光意向を規定することが見
出された。しかし、この結論は一般化する
ことができるどうか、今回の調査では中国
若者について妥当化であるかどうか、再度
検討を加えることが調査の第一の目的であ
る。
日本と中国の観光交流人口数の現状を見
ると、中国の場合は著しく低いことから、
中国人の観光モチベーションが低いと仮説
できる。今回の調査では、中国の若者の観
光モチベーションの検証を通して、仮説を
検証することが調査の第二の目的である。
もし、中国の若者の日本観光へのモチベ
ーションが低いとすれば、それを高めるた
めには、どうすればいいのか。
「臨界事象
法」
、
「ハーズバーグの2要因理論」
、
「満足・
表2 対象国について好きな点の有無
不満理論」のアプローチの手法で、中国若
者の観光モチベーションの高めるための方
法を検討することが、調査の第三の目的で
ある。
−20−
日本国際観光学会論文集(第16号)March, 2009
%水準が有意で、有意な差はみられなかっ
4−4 対象国について観光意向の程度
象国について観光意向の程度に関して、差
た。すなわち、日本学生と中国学生は、対
表5が示したように、
「対象国について
が見られなかった。日本学生と中国学生と
象国について好きな点の有無について、
「な
観光意向の程度」を質問したところ、日本
ともに、対象国へ「行きたい」傾向である
い」か「ある」かは日中学生の考えが同じ
学生の場合は、
「行きたくない」と答えた
といえる。
ような傾向である。日本学生と中国学生と
人は21.8%、
「どちらともいえない」と答え
両側検定の結果では、日中学生間の有意
ともに、
対象国について好きな点が「ない」
た人は24.7%、
「行きたい」と答えた人は
な差が見られなかったが、x2検定の結果で
という傾向であることがわかった。
50.8%であった。中国学生の場合は、
「行き
は、5%水準が有意で、有意な差が見られ
たくない」と答えた人は29.0%、
「どちらと
た。すなわち、
「行きたくない」と「行き
4−2 対象国について嫌いな点の有無
もいえない」と答えた人は31.3%、
「行きた
たい」の割合は、日中学生で差があった、
表3が示したように、
「対象国について
い」と答えた人は39.7%であった。
中国学生は日本へのモチベーションは日本
嫌いな点の有無」を質問したところ、日本
両側検定の結果では、日中学生間が、対
学生のようり低いことがわかった。
学生の場合、
「ない」と答える人は42.5%、
「ある」と答える人は57.5%であった。中国
表3 対象国について嫌いな点の有無
学生の場合、
「ない」と答える人は30.5%、
「ある」と答える人は69.5%であった。
x2検定の結果では、平均差の検定は、1%
水準が有意で、有意な差はみられた。すな
わち、日本学生と中国学生は、対象国につ
いて嫌いな点の有無について、
「ない」
か
「あ
る」かは日中学生の考えが異なるようであ
表4 対象国について好き嫌いの程度
る。日本学生と中国学生とともに、対象国
について嫌いな点が「ある」という傾向で
ある。また、日中学生を比較したところ、
対象国について嫌いな点の有無に関して、
大きな差が見られた。つまり、中国学生が、
日本について「嫌いな点のある」人数は、
日本学生のほうより、高いことも分かった。
4−3 対象国について好き嫌いの程度
表4が示したように、
「対象国について
好き嫌いの程度」を質問したところ、日本
学生の場合は、
「嫌い」と答えた人は23.4%、
「どちらともいえない」と答えた人は
表5 対象国について観光意向の程度
48.7%、
「好き」と答えた人は27.9%であっ
た。中国学生の場合は、
「嫌い」と答えた
人は53.4%、
「どちらともいえない」と答え
た人は35.9%、
「好き」と答えた人は10.7%
であった。
両側検定の結果では、日中学生間が、対
象国について好き嫌いの程度に関して、大
きな差が見られた。
中国学生の場合、
「嫌い」
である53.4%に対して、
「好き」である答え
はわずか10.7%で、日本について「嫌い」
という傾向が強いとわかった。
−21−
日本国際観光学会論文集(第16号)March, 2009
図1 変数間の相関図/日本学生
図2 変数間の相関図/中国学生
は対象国への観光意向を規定
ズバーグの例に倣い、図3と図4をまとめ
する。
た。
一方、中国学生の場合は、図
ハーズバーグの「2要因理論」から、分
2に示したように、
「好き嫌い
かるように、若者たちの好きな点として、
の程度」と「好きな点有り」
「
、好
抽出されたカテゴリーは、それを充実させ
き嫌いの程度」と「嫌いな点
ることによって、対象国への観光動機づけ
有り」の相関を見てみると、
「好
となる。嫌いな点として、抽出されたカテ
きな点の有り」
(0.318)
、
「嫌い
ゴリーは、それを解消したらといって、嫌
な点の有無」
( –0.250)とでてお
いではない状態になるだけで、対象国への
り、この二つの相関係数から
観光動機づけとはならない。
見ると、中国学生は日本につ
したがって、日本学生の場合は、中国へ
いて、態度
(好き嫌いの程度)
の観光動機づけについて、接近、あるいは、
を規定する要因は「好きな点
観光魅力の要因になるのは、
「飲食」
、
「物
の有り」であり、
「嫌いな点の
価」
、
「歴史」
、
「自然」
、などである。これ
4−5 変数間の相関分析
有り」ではないことがわかった。
らのカテゴリーに含まれる要件を充足する
好きな点の有無、嫌いな点の有無、対象
次に、
「観光意向の程度」と「好きな点
と、日本学生が、中国への意向が増えるで
国への態度
(好き嫌い)
、対象国への観光意
有り」
、
「観光意向の程度」と「嫌いな点有
あろう。一方、解消しても嫌いではない状
向、相関係数を求めた。
り」の相関を見てみると、
「好きな点有り」
態にしかならない回避、あるいは、観光障
日本学生の場合、図1に示したように、 (0.325)
「嫌いな点有り」
( –0.236)と出てお
害の要因になるのは、
「衛生」
、
「対日感情」
、
「好き嫌いの程度」と「好きな点有り」
「
、好
り、この二つの相関係数から見ると、中国
「違法コピー」
、
「礼儀」
、などである。これ
き嫌いの程度」と「嫌いな点有り」の相関
学生は日本について、意向
(観光意向の程
らのカテゴリーに、いくらその問題を解消
を見てみると、
「好きな点の有り」
(0.385)
、
度)を規定する要因は「好きな点有り」で
したからといっても、中国への意向が増さ
あり、
「嫌いな点有り」ではないことがわ
せることにはなりえないと考えられる。ま
の二つの相関係数から見ると、日本学生は
かった。
だ、
「飲食」
、
「文化」
、
「中国人」に関しては、
中国について、態度
(好き嫌いの程度)
を規
また、
「好き嫌いの程度」と「観光意向
好きな点と嫌いな点の両方に出ているカテ
定する要因は
「好きな点の有り」
であり、
「嫌
の程度」の相関係数
(0.567)を見てみると、
ゴリーである。これらのようなカテゴリー
いな点の有り」ではないことがわかった。
中国学生は日本について、態度が観光意向
は、それ自体が観光の目的となる要素が含
すなわち、好きな点の有無は対象国への態
の規定する要因であることがいえるであろ
度を規定する、嫌いな点の有無は対象国へ
う。
の態度を規定しない。
以上、求めた変数の相関係数に関して、
もいれば、そこまでは思わない者もいる。
次に、
「観光意向の程度」と「好きな点
日本と中国の学生が同じような傾向がみら
また「中国人」に関しては、個人によって、
有り」
、
「観光意向の程度」と「嫌いな点有
れた。つまり、好きな点があれば、対象国
同じ物事について、違う見方を持つことが
り」の相関を見てみると、
「好きな点有り」
に好きになる、そうすると行こうという気
ありうる。したがって、好きな点としても、
持ちになる。これによって、香川
(2007a)
嫌いな点としても抽出される可能性もある
の結論が今回の調査からも確認できた。
のだ。
「嫌いな点の有無」
(–0.255)とでており、こ
(0.369)
「嫌いな点有り」
( –0.128)と出てお
り、この二つの相関係数から見ると、日本
まれていると考えられる。例えば、
「飲食」
、
「文化」に関しては、観光の目的とする者
学生は中国について、意向
(観光意向の程
同じように、中国学生の場合は、日本へ
度)を規定する要因は「好きな点有り」で
4−6 好きな点と嫌いな点
の観光動機づけについて、接近、あるいは、
あり、
「嫌いな点有り」ではないことがわ
日本また中国の若者が対象国への動機づ
観光魅力の要因になるのは、
「アニメ・漫
かった。すなわち、好きな点の有無は対象
けは、何か接近のモチベーションとなり、
画」
、
「経済技術」
、
「娯楽」
、
「自然」などで
国への観光意向を規定する、嫌いな点の有
何か回避モチベーションとなるのか、ある
ある。これらのカテゴリーに含まれる要件
無は対象国への観光意向を規定しない。
いは、何か観光魅力となり、何か観光障害
を充足すると、中国学生が、日本への意向
また、
「好き嫌いの程度」と「観光意向
となるのかついて、明らかするために、
「好
が増えるであろう。一方、解消しても嫌い
の程度」の相関係数
(0.716)を見てみると、
きな点の内容」
、
「嫌いな点の内容」を聞い
ではない状態にしかならない回避、あるい
日本学生が中国について、態度が観光意向
た。内容について、自由記述してもらった。
は、観光障害の要因になるのは、
「歴史問
の規定する要因であることがいえるであろ
記述内容を整理した結果、
「好きな点」
、
題」
、
「右翼・軍国主義」
、
「日本人」
、
「国民
う。すなわち、対象国への態度
(好き嫌い) 「嫌いな点」で抽出したカテゴリーをハー
−22−
性」
、なでである。まだ、日本学生と重な
日本国際観光学会論文集(第16号)March, 2009
る「文化」以外、
「娯楽」
、
「国民性」
、
「全
点であれば、異なる視点もある。同じ視点
述したように、
「政治」や「国民性」など
体的」に関しては、好きな点と嫌いな点の
は「文化」
、
「娯楽」
、
「飲食」
、
「自然」
、
「歴
をよくするとしても、若者を惹きつけるこ
両方に出ているカテゴリーである。
「娯楽」
史」に代表される、これらのカテゴリーは、
とにはならないのである。
に関しては、観光の目的とする者もいれば、
自らもっとアピールして、若者たちにもっ
すなわち、モチベーションの面から、日
そこまでは思わない者もいる。
「国民性」
、
て好きになってもらうことができれば、接
中若者観光交流を拡大させるためには、ア
「全体的」に関しては、他人を見る視点に
近のモチベーション、あるいは、観光魅力
プローチの対象としては、
「嫌いな点」で
よって、他人の長所また短所について、評
の拡大要素となる。異なる視点も同様に、
はなく、むしろ「好きな点」であることが
価するため、したがって、好きな点として
例えば、中国学生は日本の漫画・アニメが
示唆される。
も、嫌いな点としても抽出される可能性も
好きであることから、漫画・アニメをみさ
あるのだ。
せる、読ませることによって、日本のこと
5. 考察
以上のことからいえることは、日本学生
について、もっと理解してもらう、これも
5−1 結果の整理
と中国学生が、対象国を見るとき、同じ視
日本に惹きつける要素になれる。一方、前
調査結果としては、先行研究と一致した
ことを確認した。つまり、香川
(2007a)の
研究結果の中で指摘されたように、好きな
図3 日本学生/中国の好きな点と嫌いな点
点の有無が態度
(好き嫌い)
を規定し、態度
が観光意向を規定する。この結論は一般的
であることがといえた。
ただし、日中若者の調査結果の全体を通
して比較してみると、日中若者が対象国に
ついての態度
(好き嫌い)
、また観光意向の
差の大きさがはっきり見えたことによって、
日中間観光交流人口数の差の発生について、
これも一つ原因であるのではないか。
ここで、若者のモチベーション、とりわ
け、中国若者の日本への観光モチベーショ
ンを高めるたに、
「ハーズバーグの2要因
理論」
、
「満足・不満理論」から、ヒントを
得られるではないか。つまり、動機付け要
因を充実させることと衛生要因を解消する
ことである。とくに、中国若者を日本に呼
図4 中国学生/日本の好きな点と嫌いな点
ぼうとするなら、動機付け要因として、
「ア
ニメ・漫画」が一つ大きなヒントであるこ
が示唆された。一方、
「歴史問題」や「右翼・
軍国主義」など衛生要因に関しては、解消
しても動機づけに働く要因とはならないの
で、最低限解消していくことが理想である
ことが示唆された。
5−2 今後の課題
今回の調査対象は日中若者であり、日中
若 者 に つ い て の 分 析 結 果 で あ る。 香 川
(2007a)の結論の一般化については、異論
はないが、態度
(好き嫌い)
と観光意向の観
光モチベーションは日中観光客対象には一
般的には言えない。しかし、これから、若
者を受け入れするには、また傾向として、
−23−
日本国際観光学会論文集(第16号)March, 2009
一つの参考になるのではないだろうか。ま
outcomeの分類を中心に」
、
『大阪産業大学
日本政府観光局、2008、
『JNTO日本の国
た、今後、一般観光客に新たな調査を行う
産業研究所所報』
、No.2
際観光統計2007年』
、財団法人国際観光サ
必要がある。
香川眞、1980、
「Expectancy Theoryによ
ービスセンター
日中間観光交流人口の拡大について、中
る観光モチベーション研究
(Ⅱ)
;negative
日 本 政 府 観 光 局、2008、
『2008年 度 版
国人対象の観光ビザ緩和が必要であるとい
outcomeの分類を中心に」
、
『大阪産業大学
JNTO国際観光白書—世界と日本の国際観
う見方が少なくない。しかし、今回の調査
産業研究所所報』
、No.3
光交流の動向—』
、財団法人国際観光サー
結果では、日中学生の比較によって、中国
香川眞、1988、
「観光行動の予測と誘導;
ビスセンター
学生のほうが日本への観光モチベーション
目的地選択傾向について」
、
『大阪産業大学
梁春香、2005、
「観光動機の認知モデルと
低い傾向が強く見られた。
論集』
、No.73
その妥当性の検証」
、
『日本国際観光学会論
レヴィンのモデルによると、ある人があ
香川眞、1989、
「観光行動の予測と誘導;
文集』
、第12号
る目標へ近づこうとする力は、目標の誘意
宿泊施設選択行動について」
、
『大阪産業大
劉翔、2007、
「観光の満足要因と不満要因
性と、人と誘意性の間の距離との関数であ
学論集』
、No.74
—福建省を訪れた国内観光客への意識調
る。だだし、この二つの要因は必ずしも共
香川眞、1996、「観光行動の心理学的機制」、 査を通して—」
、
『流通経済大学大学院社会
に増大また減少するわけではない。言い換
香川眞編著、
『現代観光研究』
、嵯峨野書院
学研究科論集』
、No.14
えれば、目標の誘意性が増大また減少する
香川、神原ら、1996、
「観光満足の規定要
ハーズバーグ,F.、1966→1973、北野利信訳、
につれ、人と誘意性の間の距離が必ずしも
因に関する実証的研究」
、
『日本観光学会第
増大また減少するとは言えない。
73回全国大会発表要旨集』
彼の公式に準拠して、中国人の日本観光
香川眞、2003、
「観光の意味再考Ⅰ」
、日本
への観光動機は、観光ビザ緩和に比例し、
国際観光学会、
『第4回全国大会発要旨集』
ホフステード,G.、1991→1995、岩井紀子、
観光モチベーションに反比例するとみれば、
香川眞、2004、
「観光の意味再考Ⅱ」
、日本
岩井八郎訳、
『多文化世界−違いを学び共
観光制度、あるいは、観光ビザ緩和されて
国際観光学会、
『第5回全国大会発要旨集』
存への道を探る』
、有斐閣
も、観光交流において、実際に動いている
香川眞、2005、
「観光の意味再考Ⅲ—究極
レヴィン,K.、1938→1956、上代晃訳、
『心
人々、あるいは、中国若者が日本に対して、
目標から考える新しい観光—」
、日本国際
理学的力の概念的表示と測定』
、理想社
モチベーションが低い一方で、高めなけれ
観光学会、
『第6回全国大会発要旨集』
ば、観光交流拡大の実現は難航するであろ
香川眞、2006、
「観光の意味再考Ⅳ—観光
う。
モチベーションの視点からインバウンドの
こうした視点から、今後、日中観光交流
意味を考える—」
、日本国際観光学会、
『第
を促進するために、観光に関わる制度から
7回全国大会発要旨集』
のアプローチとモチベーションからのアプ
香川眞、2007a、
「態度と観光意向の決定要
ローチの二つが採られなければならない。
因: 日 本 人 若 者 の 中 国 観 光 」
、
『 第3回
GUPI GEOFORUM統一テーマ地域観光資
参考文献
源とビジター産業』学術報告書
香川眞、2007b、
「環日本海地域における
市川伸一、1991、
「測定値の性質」
、市川伸
観光ソフト・インフラの基盤整備に関する
一編、
『心理測定法への招待』
、サイエンス
研究—日中韓の観光交流拡大の視点から
社
—」
、
『環日本海地域における観光ソフト・
王偉、若月博延、2003、
「観光の満足要因
インフラの基盤整備に関する研究』
、梁春
と不満要因Ⅰ:甘粛の観光を事例として」
、
香
(研究代表者)
、平成16年度〜 18年度科
『日本国際観光学会論文集』
、第10号
学研究費補助金
(基盤研究B)
、課題番号
王偉、若月博延、2005、
「観光の満足要因
16330106、研究成果報告書
と不満要因Ⅱ:甘粛観光の現状と仮題」
『
、日
香川眞
(編)
、日本国際観光学会
(監修)
、
本国際観光学会論文集』
、第12号
2007c、
『観光学大事典』
、木楽舎
香川眞、1978、
「観光の諸効果」
、前田勇編、
佐々木土師二、2000、
『旅行者行動の心理
『観光概論』
、学文社
学』
、関西大学出版社
香川眞、1979、
「Expectancy Theoryによ
佐々木土師二、2007、
『観光旅行の心理学』
、
る観光モチベーション研究
(Ⅰ)
;positive
北大路書房
−24−
『仕事と人間性』
、東洋経済新報社
ハーズバーグ,F.、1976→1978、北野利信訳、
『能率と人間性』
、東洋経済新報社