第37回酪農海外現地実務研修会報告フランス、ベルギーの3農場で研修

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トピックス…②
第37回酪農海外現地実務研修会報告
フランス、ベルギーの3農場で研修
今回の研修
(平成21年10月17日∼29日)
では、フランス・ノルマンディー地方カルヴァドスのPATIS
(パティス)
農場、同ルーアン近郊のCRESPIN(クレスペン)農場、ベルギー・ゾッテゲム(ブリュッセル近郊)のクリス農場の
計3カ所を訪問した。今号では農場研修の概要について報告する。
● パティス農場はミルクジャムなど加工が主体
有料で教育ファーム実践、年間140団体訪問
パティス農場は、労働力4人(夫婦と従業員。従業
員は作業・教育ファーム担当が1人、加工担当が1人)
で40頭程度の乳牛を飼養しており、年間平均で1頭当
たり6,300㍑を搾乳している。
農場のあるノルマンディー地方は農業・畜産業が盛
んで、フランス国内でも最も農業の比率が高い地域で
あり、それを裏付けるようにAOC(原産地呼称統制)
が12ある。農場はその中のオージ地域にあり、「カマ
ンベール」「リヴァロ」「ポン・レヴェック」といった
有名なチーズのAOCがある。
研修参加者とパティス農場にて
は有料で、一人当たり4∼4.5ユーロ(約500∼550円)
パティス農場の土地は48㌶。周辺の農場の平均が80
を負担する。教育ファームを始めたきっかけは、乳製
㌶なので比較的小規模である。この農場は20年程前か
品加工の衛生基準が厳しくなり、加工施設の改造が必
らミルクジャムなどを製造・販売しており、生乳生産
要になってしまったためである。基本的には国の補助
よりも乳製品の加工がメーンとなっている。
は無かったが、唯一、教育ファームを行えば補助が貰
えたので開始したとしている。
フランスでも、都市化などによって農業・家畜に接
点のない子供が増えており、ミルクがどこから来るの
か知らない子供も多い。「小麦粉とミルクを混ぜると
バターが出来る、と思っている子供もいた」という話
を聞いて、わが国で酪農教育ファームを実践している
酪農家に聞いた話と似ていると感じた。
● クレスペン農場は民宿を経営
週末はパリ近郊利用者で埋まる
パティス農場で加工、販売するミルクジャム
また、10数年前ごろから教育ファームとして学童の
クレスペン農場では乳牛75頭、耕地180㌶(内牧草
地30㌶、トウモロコシ25㌶、その他はほとんど小麦)、
受け入れを行っており、現在では年間140グループ程
年間60万㍑のクオータ(生産枠)を持っていて、その
度、多い月には50グループが訪れるという。受け入れ
地域の平均的な規模である。
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ク
レ
ス
ペ
ン
農
場
の
民
宿
クリス農場の牛舎
増させたいと意欲的だが、他から生産枠を購入する場
合は1㍑当たり80セントと非常に高価なため、
「若い酪
その他に、2部屋の民宿経営を行っており、「ジッ
ト・ド・フランス」(農村民宿組織)に加盟している。
農家にはとても払えない。クオータ制度は廃止してほ
しい」と主張していた。
冬場以外はほぼ毎週末、利用者で埋まっており、多く
クリス氏は研修団に日本の乳価や計画生産の仕組み
はパリ近郊在住者が多い。民宿の料金は1泊朝食付き
を逆質問するなど、非常に積極的に勉強しようとする
で48ユーロ(約6,000円)、売り上げは酪農部門の10%
姿勢が印象的だった。
にも満たない程度である。
余談だが、宿泊者に提供しているという自家製シー
この農場でも、アイスクリームやヨーグルトなどの
加工・販売、子供たちを受け入れる教育活動を行うな
ドル(リンゴから作る発泡酒)は、大変美味しかった。
ど生乳生産以外の部門で収益を上げていた。
● クリス農場は機械化で高い生産性実現も
● クオータ制度で規模拡大できず経営は厳しい
● 3農場とも生産部門以外で収益確保
わが国の6次産業化の検討材料にも
クリス農場はベルギー北部ブリュッセル近郊のゾッ
農場研修全体を通して最も印象的であったのは、3
テゲムで、110頭(成牛と子牛半々)を飼養しており、
農場とも、それぞれ生乳生産部門の収支は最近の乳価
年間平均で1頭当たり1万1,000㍑を搾乳している。
低迷で落ち込んでいるが、加工・販売や教育ファーム
この農場は、その日の午前中に訪問したPackoInox-
等それ以外の部門を持つことで収益源の多様化を図
Fullwood(パコイノックス・フルウッド)社のバルク
り、農場全体としての収益を維持している点である。
クーラーや搾乳ロボットなどを牛舎新築に合わせて導
こうした多角化の取り組みを、何らかの条件を基に国
入しており、非常に生産性の高い機械化された農場で
や地方自治体が支援することで酪農経営の多様性を生
あった。
み、結果として酪農経営の安定と持続性を持たせてい
しかし、生乳クオータ割当で生産規模が拡大できな
ると考えられる。
いため、新設した120頭規模の牛舎には50∼60頭しか
わが国酪農政策においても、「6次産業化」を目指
飼養できず、設備投資の負担を規模拡大で補えない問
す方向性が打ち出されているが、それらを進める支援
題がある。このため、生産コストが100㍑あたり32セ
の検討材料として、酪農教育ファームや酪農家のチー
ントで、ベルギー平均の26セントを上回っており、経
ズ製造・販売など既に見られる多様化の萌芽は無視で
営収支は大変厳しいとのことであった。研修で対応し
きないのではないだろうか。
てくれたクリス氏は若い後継者で、これから規模を倍
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