教室における 補聴援助システムの役割

NETAC Teacher Tipsheet
教室における
補聴援助システムの役割
補聴援助システムとは?
静かな環境で補聴器を効果的に使っている学生でも、大学の大教室で受け
る講義情報をカバーするのは大変なことである。教室内での教員の声は、周
辺の雑音、室内の反響、距離によって減衰され邪魔される。そのため教室の
音響環境が悪いと、教員の声も、補聴器を使用していても聴覚を失うのと同
様に聞き取りにくくなる。ほとんどのALDS(補聴援助システム)では、
教員の口元近くにマイクまたはトランスミッタを置いて、無線またはケーブ
ルで学生が身につけたレシーバーに教員の声が送られるようになっている。
マイクを教員の口元近くに置くことでALDSは遠距離でもクリアな音を提
供し、反響を消し、環境からの雑音を少なくすることができる。ALDSが
ろう学生にとって効果的なツールであることはすでに証明されている。良好
な補聴環境を提供することは、一人ひとりの学生の学業達成にとって極めて
大きな要因となりうる。
ALDSにはいろいろなタイプがあるのか?
ALDSにはいろいろな技術が使われている。基本的にALDSには無線
のものとケーブルを使ったものとがある。無線ALDSでは、音の発信に電
波、光、磁気誘起エネルギーなどが使われている。ケーブルを使ったシステ
ムでは、直接接続したケーブルで音声信号を送るようになっている。どちら
のシステムにも、機能、利点、弱点などそれぞれの特徴をもっている。ここ
では3種類のALDS−FM、音響増幅、インダクション・ループシステム
を取り上げる。
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FMシステム(Frequency Modulated System)
FMシステムは、無線方式の、小型でバッテリー駆動の装置で、電波を使
って音響信号、すなわち人の話を発信器からレシーバーに送るものである。
ほとんどのFMシステムでは、講義する教員は発信器を腰につけ、それに接
続された襟用ピンマイクを胸につける。学生は、FM受信器を着ているもの
にクリップで留めて装着する。このFM受信器は、インダクション・ネック
ループシステムもしくは音声入力ケーブル経由で、学生の補聴器につながっ
ている。FMシステムの受信範囲は、出力やアンテナにもよるが30フィー
トから200フィート以上になる。FM電波は、壁や建物を透過するので隣
接した教室を使用する場合には複数の周波数帯が必要である。
近年FM受信器は目立って小型になった。FMやBTE(耳の後ろに掛け
る補聴器)システムでは、FM受信器は補聴器と同じケーシング内に組み込
まれている。補聴器メーカーからは補聴器のしたにはめ込む方式のFMブー
ト受信器が発売されている。適切なFMシステムの選択と設置に関しては聴
覚に関する専門の人の意見を聞くとよい。
音響増幅システム
音響増幅システムにおいては教員の声は、壁や天井に取り付けたラウドス
ピーカーで増幅され音になる。このシステムは、マイクとFMトランスミッ
タ、アンプ、1個以上のラウドスピーカーからなる。スピーカーは学生の隣
に置いてもよい。音響スピーカーは、障害学生が最もよく聞こえるような位
置を考えて設置すべきである。システムは、聴覚に関して専門の人、もしく
は教室の音響に詳しい人のガイドに従って導入するのが好ましい。
インダクション・ループシステム
インダクション・ループシステムは、発信に電磁波を使うものである。講
義者のマイクが音声を拾い、増幅され、ケーブル/ループを通ると、目に見
えない電磁場が発生する。学生の補聴器の内部にあるテレコイル(T-switch)
が信号に対する受信器の働きをする。ループは部屋全体を円形に囲み、イス
やテーブルの下側では小さく、反応しなくなる。大型のループを使用する場
合、ループが隣の教室まで及ばないよう注意しなければならない。磁場エネ
ルギーが漏れて干渉を引き起こすためである。最新の情報によれば、新型の
3次元ループは漏れの問題を解消しているということである。
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ALDSを使う利点
個人用補聴器より、ALDSの方が音響上明らかに優れている点は、音を
拾うマイクが講義者の口元近くにあるということである。このマイクの位置
により、学生と講義者の距離の遠近に関わらず、学生の立場からみて講義者
の音声レベルが安定している。イスを動かす音、ファンの回る音、学生たち
が話す声など部屋の雑音に負けることなく、講義者の声を明瞭に聞き取るこ
とができる。
・
ALDSは、教室から教室へ移動して使うこともできるし、固定的に設
置することも可能である。
・
ALDSは、教室全体を対象に使うときも、小グループで使うときも効
果的である。
・
ALDSは、単独で使うこともできるし、個人の補聴器と組み合わせて
使うこともできる。
・
ALDSは、聴覚の正常な学生(学習障害、注意欠陥多動性障害、中枢
聴覚障害の学生など)から、重度の難聴までさまざまなレベルの聴覚障害
の学生に適用できる。
・
ALDSは、VCRやテープレコーダー、ステレオなど聴覚、視聴覚用
機器を聴きながらでも有効である。
ALDSを使用する際のストラテジー
ALDSは、適切に使えば極めて大きなメリットが得られる。使用に際し
てのアドバイスをあげておく。
1.ALDSについてよく勉強しておくこと。聴覚に関する専門家やシステ
ムのメーカーによる実地研修を受けること。
2.ALDSがどのような状況で使われるのか学生と話し合うこと。
3.ALDSのマイクをどこに置けば講義が最も明瞭に聞き取れるか検討す
ること。マイクは、OHPなどノイズ源のそばに置いてはならない。襟ピ
ンマイクは、口元もしくは音源から3∼5インチ離すこと。声や音源の大
きさが大き過ぎないこと。音声信号が大き過ぎるとALDSに伝わる音が
ゆがんだり、過増幅されたりすることになる。
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4.ALDS受信器をどこに置くのがベストかを決める。
a
音響増幅システムの場合、スピーカーを置く場所は効果をよく考え
て決めること。スピーカーの最良の配置について、聴覚に関する専門
家や部屋の音響に関する専門家とよく相談すること。
b
頭の位置およびルームループからの距離は、補聴器内部に受信装置
としてテレコイルを装備している学生にとっては、検討すべき変数で
ある。受信器を教室のいろいろな場所に置いてみて最もよく受信でき
る場所を決定する。
5.授業にALDSがどのように使われるのかクラス全員に説明しておく。
ALDSを使う学生は、マイクを持っていない学生が提示した質問を聞き
取ることができない。このため他の学生からの質問やコメントは、必ずく
り返し話すこと。学生には二人以上同時に話させないようにする。もし可
能であればマイクとトランスミッタを学生に回してもよい。FM受信器に
ついた環境マイクのスイッチを入れて障害者のクラスメートと交信してみ
ようという学生がいるかもしれない。
6.補聴器をつけた学生に対応したときのテクニックをここに提示する。
a
学生とまっすぐに向き合うこと。ALDSがあれば比較的に距離が
あっても学生には聞き取れるが、障害学生は理解を補うために、視覚
によるキュー信号にことのほか頼っているものである。マイクが口の
動きを覆い隠していないか注意すること。
b
ゆっくり、はっきり話すこと。
c
できれば教員や黒板近くの席がよい。
7.可能ならば学生のALDSを視聴覚機器と接続する。
8.装置類は使うたびごとにテストする。
メンテナンス用作業内容とスケジューを整備しておく。
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教室で効果的に使えるALDSにはいろいろなものがある。制約のないテ
クノロジーというものはないし、すべての利用者のあらゆるニーズに応える
ことができるテクノロジーもない。どのALDSが最も適切か、聴覚に関す
る専門家や学生とよく話し合うことである。音響効果の悪い部屋でもALD
Sは音声信号を明瞭に復元することができる。したがって難聴の学生も教室
内の出来事をより充分に把握することができるのである。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was prepared by Catherine Clark,
audiologist, NTID, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a
faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
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