脂質異常症におけるレムナントリポ蛋白、small dense LDL

脂質異常症におけるレムナントリポ蛋白、small dense LDL-C、
およびアポリポ蛋白 B-48 の意義
大学院修士課程 2 年 川原 泉
指導教員
内藤 通孝 教授
【背景・目的】
sdLDL-C やレムナントリポ蛋白および ApoB-
た。2 群間の比較では対応のない 2 群間の t 検定
48 は脂質異常症や冠状動脈硬化を引き起こすこ
を行い、危険率 5%未満を有意とした。単変量解
とが報告されており、注目されている。
析ではピアソンの相関係数を用いて、危険率 5%
本研究においては、脂質異常症患者におけるレ
未満を有意とした。
ムナントリポ蛋白、small dense LDL および Ap
【結果】
oB-48 の血液・尿・身体項目との相関を検討し、
<群間比較>
新たな病態の指標の可能性を探ることを目的と
身体計測
する。
体脂肪率(%)
【方法】
<対象>
特定保健審査・指導で高血糖、高トリグリセラ
イド(TG)血症、低 HDL-C 血症、高血圧、高尿酸
血症のいずれか、もしくは複数と判定され、N 市
民病院の外来を受診した者(男性 30 名、女性 37
名)を対象に早朝空腹時に採血、採尿および身体
測定を行った。
女性で有意に高かった(p<0.001)。
血液検査
TC、ApoB
女性が有意に高かった(p<0.01)。
TG
男女間に有意な差は見られなかった。
γ-GTP
男性が有意に高かった(p<0.001)。
<測定項目>
<単変量の回帰分析>
〔身体計測〕
TG
身長、体重、BMI、体表面積、ウエスト周囲径、
男女とも TG と RLP-C は非常に強い正の相関を
臀部周囲径、体脂肪量、体脂肪率、内臓脂肪断面
示した(男性 r=0.938、p<0.001、女性 r=0.872、
積、血圧、R-CAVI、L-CAVI、R-ABI、L-ABI
p<0.001)。
〔血液検査〕
TC、TG、HDL-C、LDL-C、RLP-C、RLP-TG、
FFA、VLDL-TG、sdLDL-C、ApoA-Ⅰ、ApoB-48、
ApoB、 LPLmass、FPG、HbA1c、IRI、Alb、GOT、
男女とも TG と RLP-TG は、非常に強い正の相
関を示した(男性 r=0.948、p<0.001、女性 r=0.933、
p<0.001)。
男女とも TG と VLDL-TG は非常に強い正の相
GPT、γ-GTP、UA、HOMA-IR、HOMA-β
関を示した(男性 r=0.988、p<0.001、女性 r=0.933、
〔尿検査〕
p<0.001)。
UP(定性・量)、U-Glu(定性・量)
、U-Cr
<結果の解析>
統計解析には、IBM SPSS Statistics 19 を用い
男性では TG と sdLDL-C はやや弱い正の相関を、
女性ではやや強い正の相関を示した(男性 r=
0.378、p<0.05、女性 r=0.587、p<0.001)。
男女とも TG と ApoB-48 は非常に強い正の相関
を示した(男性 r=0.813、p<0.001、女性 r=0.842、
<多変量の回帰分析>
sdLDL-C を従属変数として、男性では LPL
p<0.001)。
mass の 1 項目が、女性では ApoB、VLDL-TG、
RLP-C
LDL-C およびγ-GTP の 4 項目が採択された。
男女とも RLP-C と RLP-TG は非常に強い正の相
sdLDL-C における最も有意な影響力のある項目
関を示した(男性 r=0.931、p<0.001、女性 r=0.817、
は、男性では LPLmass が負の影響力となり、女
p<0.001)。
性では VLDL-TG が正の影響力を示した。
男女とも RLP-C と VLDL-TG は非常に強い正の
ApoB-48 を従属変数として、男性では RLP-TG
相関を示した(男性 r=0.934、p<0.001、女性 r=
の 1 項目が、女性では VLDL-TG の 1 項目が採択
0.871、p<0.001)を示した。
され、ApoB-48 における最も有意な影響力のある
男性では RLP-C と sdLDL-C はやや弱い正の相
関を、女性ではやや強い正の相関を示した(男性
r=0.385、p<0.05、女性 r=0.551、p<0.01)。
男性では RLP-C と ApoB-48 において非常に強
項目となり、いずれも正の影響力を示した。
【考察】
TG と ApoB-48 が正の相関を示したことから、
空腹時にも ApoB-48 を含むリポ蛋白は腸管から
い正の相関を、女性ではかなり強い正の相関を示
常に代謝されているか、前日からの TG の代謝遅
した(男性 r=0.837、p<0.001、女性 r=0.779、
延が生じている可能性が考えられる。TG と sdLD
p<0.001)。
L-C の相関と TG と ApoB-48 の相関より、sdLD
RLP-TG
L-C は血中の滞在時間が長く、酸化されやすく、
男性では RLP-TG と sdLDL-C は有意な相関を示
動脈硬化を引き起こしやすいという報告がある。
さず、女性ではやや強い正の相関を示した(r=
このことから、TG の増加により sdLDL-C が産生
0.486、p<0.01)。
され、代謝遅延が引き起こされたと推察される。
男女とも RLP-TG と ApoB-48 はかなり強い正の
外因性の指標である ApoB-48 と内因性の代謝
相関を示した(男性 r=0.788、p<0.01、女性 r=0.768、 物質である VLDL-TG に正の相関がみられたこと
p<0.001)。
男性では RLP-TG と LPLmass は負の相関を示し
(r=-0.418、p<0.05)、女性では有意な相関を示さ
なかった。
VLDL-TG
男性では VLDL-TG と sdLDL-C においてやや弱
から、内因性の代謝が空腹時における ApoB-48
の基礎分泌や代謝異常に影響をおよぼす可能性
が推察される。
sdLDL-C は、男性においては CM や VLDL を
分解する酵素が影響し、女性では脂肪肝や内因性
の物質が影響を示し男女間で異なる結果となり、
い相関を示し(r=0.362、p<0.05)、女性ではやや
女性では肝臓を経由した内因性代謝が sdLDL-C
強い相関を示した(r=0.572、p<0.001)。
形成に関与していることが示唆された。
男性では VLDL-TG と ApoB-48 においてかなり
強い相関を示し(r=0.786、p<0.001)
、女性では非
【まとめ】
本研究では、脂質異常症患者におけるレムナン
常に強い相関を示した(r=0.819、p<0.001)。
トリポ蛋白、sdLDL-C および ApoB-48 を測定す
sdLDL-C
ることにより脂質代謝の面からの影響を知るこ
男女とも sdLDL-C と HOMA-IR および、
HOMA-βは、有意な相関を示さなかった。
男では sdLDL-C と ApoB-48 において有意な相
関を示さず、女性ではやや弱い正の相関(r=0.346、
p<0.05)を示した。
とができ、病態の把握に有効である可能性を示し
た。