25917 JAP no photos.qxd

Sakhalin Energy
環境、社会並びに
健康に対する
影響評価の
概要
目次
1 序論 ................................................................................................................................................4
2 サハリン II プロジェクト ................................................................................................5
3 フェーズ 2 プロジェクト ................................................................................................6
4 影響評価の背景 .....................................................................................................................8
5 社会的影響評価 .....................................................................................................................9
5.1 序論 ............................................................................................................................................9
5.2 方針実施要綱.............................................................................................................................9
5.3 一般的影響...............................................................................................................................10
5.4 地域社会に対するプロジェクトの影響.................................................................................12
5.5 累積的影響...............................................................................................................................16
6 環境影響評価 .........................................................................................................................18
6.1 序論 ..........................................................................................................................................18
6.2 共通の影響...............................................................................................................................19
6.3 資産ごとの影響.......................................................................................................................22
6.4 累積的影響と国境を越える影響 ............................................................................................27
6.5 結論 ..........................................................................................................................................30
7 健康影響評価 .........................................................................................................................31
7.1 序論 ..........................................................................................................................................31
7.2 プロジェクトの影響と軽減措置 ............................................................................................31
8 結論 ..............................................................................................................................................33
注記 ..............................................................................................................................................34
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
3
1 序論
サハリンエナジー投資株式会社(以下、サハリンエナジーという)は、サハリン II プロジェ
クト(プロジェクト)のフェーズ2としてロシア連邦のサハリン島の沖合の油田とガス田の
開発を計画している。これは、大型の、総合的石油・ガス開発であり、サハリン地域及びそ
の他の地域に有意義な経済社会的恩恵をもたらすものと期待されている。
サハリンエナジーは、フェーズ 2 プロジェクトの環境、社会及び健康影響管理は企業の管理
の不可欠なる一部であると考えている。サハリンエナジーは、フェーズ 2 プロジェクトがロ
シアの法律及び規則条件に準拠し、さらに、これらの主要な条件を前提として、世界銀行の
ガイドラインが基準として使用される国際規格にも、原則的に準拠することを保証している。
ロシアの規則と国際基準及びガイドラインの間の関係及び相違点は、第 1 巻の環境影響評価
(EIA)の第 2 章で説明した。
プロジェクトの詳細影響評価は、国際的な最善の手法にしたがって実施した。評価の実施規
模から予測されるように、影響評価は、詳細にわたり、長くなる。まとめると、2000 ページ
以上にもなる。本書は、主要な環境、社会及び健康上の問題点及び影響の要約として、また、
それぞれの項目ごとの詳細な情報源について紹介するために作成された。
本書の内容は、以下のとおりである。
• サハリン II プロジェクトの簡単な紹介(セクション 2)
• 提案するフェーズ 2 プロジェクトの簡単な説明(セクション 3)
• フェーズ 2 プロジェクトのための実施された影響評価の背景(セクション 4)
• 社会、環境及び健康問題の主要な影響及び提案する軽減措置の簡単な説明
(セクション 5 〜 7)
• 結論(セクション 8)
本「概要」及び環境、社会及び健康影響評価(EIA、SIA、HIA)は、公開文書である。サハリ
ンエナジーの公開ウェブサイト(www.sakhalinenergy.com)を通じて、ロシア語と英語版を
入手できる。[email protected] に依頼すれば、企業から CD ROM 版を入手
できる。本「概要」の日本語版も入手可能である。
4
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
2 サハリン II プロジェクト
サハリン II、フェーズ 2 プロジェクトは、1994 年付でロシア連邦政府、サハリン州当局及び
プロジェクト・オペレータであるサハリン投資会社が締結した生産分与協定(PSA)にした
がって推進されている。サハリンエナジーの現在の株主は、ロイヤルダッチ/シェル(55%)、
三井(25%)並びに三菱(20%)である。
サハリン II 認可区画は、オホーツク海のサハリン島北東海岸沖、約 15km の 2 ヶ所の鉱区で
ある。Piltun-Astokhskoye 鉱区は、主として原油とコンデンセートを埋蔵している。
Lunskoye 鉱区は、主としてガスを埋蔵している。双方を合わせると、原油は約 6 億トン、
ガスは 7000 億 m3 以上に及び、ロシアの現在の約 1 年間の原油輸出量、また、ヨーロッパ向
けガス輸出量のほぼ 5 年分に相当するものとなっている。
サハリン II は、段階を追って実施される。フェーズ 1 は、油田だけの開発であり、Molikpaq
海上生産プラットホームの周囲に建設された Vityaz 生産コンプレックスで 1999 年から生産
を開始した。ここでは、無結氷月(約 180 日/年)に、石油を生産している。石油は、
Molikpaq からフローティング貯蔵・積み出し施設に移送され、ここからオイルタンカーに
移送されて、アジア−太平洋地域の市場に出荷される。
フェーズ 1 プロジェクトからは、サハリン地域及び周辺地域に実質的な恩恵がすでにもたら
されている。2002 年度末、サハリンエナジーは、ロシア連邦に 2 億 7500 万米ドル以上の税
金、ロイヤルティ及びボーナスを支払い、2002 年 9 月迄に、ロシアの企業と 8 億米ドルを
超える 4000 以上の契約を締結した。例えば、Molikpaq 海上プラットホームのコンポーネン
トであるスペーサーは、3500 万米ドルの契約にしたがって、Komsomolsk-na-Amur の造船所
で製造された。
フェーズ 1 は海上操業が中心であるという観点から、重要な環境問題は、したがって、海上
操業の管理に関係してくる。石油の流出の予防、軽減措置と対策、廃棄物の管理及び野生生
物のモニタリングと保護措置が、フェーズ 1 の主要な環境問題だった。サハリンエナジーは、
これらの問題がフェーズ 1 の実施期間及び操業の最初の 3 年間、賢明かつ慎重に処理される
ように配慮した。企業は、この期間、大きな安全上の問題や、環境事故を起こさなかった。
サハリンエナジーは、フェーズ 1 の経験と成功を土台として、フェーズ 2 プロジェクトを実
施する。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
5
3 フェーズ 2 プロジェクト
サハリン II プロジェクトのフェーズ 2 は、年間を通して石油とガスを生産することができる
総合的石油・ガス開発である。プロジェクトは、2 基の海上プラットホーム、海岸までの石
油とガスのパイプライン及び陸上処理施設の建設を含んでいる。石油とガスは、サハリンの
南側 800km のところに位置するアニワ湾内のプリゴロドノエの処理・輸出施設まで移送さ
れる。ここには、ロシアで初めての液化天然ガス(LNG)プラントが含まれる。各 LNG 処理
ユニットまたはトレーンは、年間キャパシティが 480 万トンで、これまで建設された最大級
の施設となる予定である。
LNG プラントは、2 基の貯蔵タンクを有し、液化ガスは、アニワ湾内の 850m のジェッティ
から輸出される。石油輸出ターミナルは、アニワ湾の同じサイトの LNG プラントの東側
500m のところに位置する。施設は、複数のタンクに石油を貯蔵することもできる。石油は、
4.5km の海底パイプラインを経由して、アニワ湾内の沖合に位置するタンカー・ローディン
グユニットから輸出される(図 1 参照)。
フェーズ 2 は、2006 年から生産を開始する計画である。プロジェクト全体(フェーズ 1 と
フェーズ 2)からの原油/コンデンセートのピーク生産量は、約 180,000 バレル/日(約
820 万トン/年)となる。LNG は年間約 960 万トン、25 年以上にわたって生産される。石油
とガスは、アジア‐太平洋地域及びその周辺地域の市場に出荷される。プロジェクトは、国
内にもガスを供給することが可能である。
サハリンの現在のインフラ施設では、計画された石油ガス開発の実施を支援することができ
ない。したがって、サハリンエナジーは、インフラ施設の整備のために数億ドルを投じて、
プロジェクトの重要な基盤造りを行う予定である。これには、道路、橋梁及び排水渠排水渠
の改修と交換が含まれている。例えば、プロジェクトの建設期間中に、47 ヶ所の橋梁と約
180km の公道が改修、補修され、あるいは再建され、プロジェクトのために利用することが
できない道路については、新しい道路が建設されることになる。港湾及び鉄道も、必要に応
じて改修する。大方の場合、工事は、公有または公共資産に対して、地元の自治体の協力を
得て実施されることになる予定である。
サハリンエナジーは、サハリン II 開発に 100 億米ドルを超える資金を投入し、ロシアで最大
の単一外国投資プロジェクトとなる。プロジェクトは、ロシア連邦とサハリン州に直接的な
利益をもたらし、建設及び操業時に雇用機会を創出し、その他の直接的及び間接的恩恵をも
たらすことにより、サハリンの将来的な発展のために重要な役割を果たすことが期待されて
いる。大半の労働力と資材は、ロシア連邦内で調達する。これらの恩恵については、SIA に
詳述した通りである。
6
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
図 1 :フ ゚ ロシ ゙ ェクト・スキーム付サハリン島地図
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
7
4 影響評価の背景
サハリン II プロジェクトのフェーズ 2 に関する環境、社会及び健康影響評価は、国際的に認
知された影響評価の最善の方法にしたがって準備された。
サハリンエナジーは、英国のコンサルタント会社である Environmental Resources
Management Limited と折衝し、詳細な、国際的手法による環境影響評価(以下、EIA という)
を行うよう契約を締結した。
EIA は、サハリンエナジーのスタッフが外部アドバイザーの支援を受けて実施した社会・健
康影響評価(以下、SIA、HIA という)によって補足された。
サハリンエナジーが独自の SIA と HIA を実施するという決定は、全体的計画プロセスに社会
及び健康管理上の問題を統合しやすくするために下された。この決定により、社会及び健康
チームは、サハリン自治体及びその他の自治体の主要な関係者と実践的な業務関係を構築す
ることができ、プロジェクトが建設段階に移行するにつれて自治体及び企業にとって有益と
なる重要な制度上の知識を蓄積することができた。SIA と HIA の作業の大部分は、地元スタッ
フの協力を得て実施された。このことは、今後の展望と経験を確保するだけでなく、地元の
能力の構築にも役立った。
3 種類の影響評価は、1992 年に遡る様々なプロジェクトの段階ごとに作成された一連の影響
評価書類(例えば、公開諮問のために作成され、ロシア連邦の規則にしたがって承認された
EIAs)を基礎としている。この経緯は、EIA の第 1 巻の第 1 章に詳述されている。フェーズ 2
については、このプロセスで最も重要な要素は、ロシアの法規要件にしたがって予備的 EIA
を準備することであった。この EIA は、ロシア連邦の法律にしたがって公開諮問を受けた後、
2002 年に更新され、2002 年に TEO-C(ロシア・プロジェクト実施調査)の一部としてサハ
リン島の監督機関に提出された。この書類は、その承認が得られれば、フェーズ 2 プロジェ
クトを実施できるようになる連邦監督機関に提出された。事前 EIA と TEO-C の EIA 及び関連
公開諮問プロセスから受領した重要なフィードバックは、この国際的手法による最終 EIA の
基礎となっている。EIA のプロセスは、EIA の第 3 章に記述した。
潜在的な影響は、個別の EIA、SIA 及び HIA 報告書で取り上げている。多数の問題点は、これ
らの個別報告書に共通している。例えば、水中及び空気中における排出物が健康に与える影
響は典型的であるが、また環境条件にも影響を与えるなどである。これらの複数の領域にわ
たる問題点は、外部アドバイザーの協力を得て、様々な影響評価チームとのワークショップ
及び会議で取り上げた。これらの問題点は、必要に応じて該当書類を相互に参照している。
8
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
5 社会的影響評価
5.1 序論
社会的影響評価(SIA)は、本目的のために 2001 年下半期にサハリンエナジーが招聘した独
立系の国内の社会学者と経済学者並びに国際的専門家のグループによって実施された。サハ
リンエナジーは、さらに、先住民族専門家のグループをつくり、先住民社会の調査プログラ
ムを実施した。SIA は、社会グループが実施した調査の範囲、協議協議、ベースラインデータ
の収集及び評価について記述している。協議は、2003 年まで継続される予定である。
SIA のプロセスは、サハリンの多数の住民との協議を含み、52 に上る地域社会を対象とし、
仮設建設施設とプロジェクトの常設施設が建設される、あるいは建設される可能性がある 22
の地域社会を中心とした。サハリンの 52 の地域社会の 5000 人以上の住民を対象として協議
が行われ、ベースライン情報が収集され、地域社会の有する主要な問題点が洗い出された。
5.2 方針実施要綱
2001 年と 2002 年、SIA が実施されている間、サハリンエナジーは、数多くの方針、手順及び
要件を策定し、採用した。これらのうち最も重要なものを下記にリストアップし、要約した。
項目
目的
追加支援の方針(補償)
とプログラム
プロジェクトの用地の必要性が現在の土地使用者の経済状況に悪影響を与ええてはな
らない。プロジェクトの終了後には、住民の経済状況は同じか、あるいは改善される
見込みである。
ロシアの雇用と事業
の発展に対する公約
ロシアからの調達を最大化する。実際にできる範囲内でサハリン州とプロジェクト
関連地域社会の労働者を雇用し、同地域の業者を活用する。ただし、労働者は適格な
資格を有し、業者は価格、品質、信頼性、入手可能性及び納期についてプロジェクト
に必要な財貨サービスを提供する能力を有していなければならない。
狩猟、漁業及び収穫
に関する方針
建設期間中における生計のための漁業、収穫及び狩猟に対する潜在的影響を制限/
最小限にする。
行動規範の方針
建設労働者の行動規範及び活動の監視基準を定める。
Uilta のトナカイ飼育者
継続的な協議により影響/不都合を最小限にする。トナカイの放牧地域内における
活動については、請負業者の管理計画が必要である。
サハリンエナジーの
割当用地内における
不発弾の発見と汚染除去
に関する方針
サハリンエナジー地雷行動基準プログラムの後、建設期間中に不発弾が発見された
場合には、潜在的なリスクを最小限に抑える。
建設期間中における
戦死者の発見に関する方針
建設期間中に、ロシア連邦の戦後プログラムの間に発見されなかった戦死者が発見
された場合には、適切な処置を施す。
文化遺産の処置
建設期間中における資料の発見、考古学的監視及び対策プログラムの最低基準を
定める。
サハリンエナジーによる
請負業者の社会経済的計画
の精査と承認
個別請負業者がプロジェクトが決定する社会経済対策措置及び公約事項をどのよう
にして採用し、実施し、管理するかを記述する。
請負業者の自治体連絡(CLO)
スタッフに関する要件
自治体連絡担当者を指名し、サハリンエナジー自治体連絡担当者、その他のスタッフ
及び自治体と相互に連絡をとるように請負業者に要求する。
キャンプの管理に関する方針
労働者の健康と安全に関する最低基準を定める。地元自治体のインフラ施設に対する
ストレスを最小限にするようにキャンプの最低限の基準を定める。
地域社会との協議の継続
長期的に協議を実施し、地域社会と相互に連絡を取り合う。
潜在的社会経済的影響の
モニタリング
サハリンエナジー地域社会連絡組織及び社会評価協議・モニタリングプログラムを
定める。
苦情処理手順
国際的に認知された最善の方法にしたがって低/無費用の苦情処理手順を定める。
永続的発展に関する方針
サハリン島の永続的発展を支援するサハリンエナジーの長期的公約事項を定める。
公開協議と開示計画
継続中の協議と開示に関するサハリンエナジーの公約及び計画を記述する。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
9
5.3 一般的影響
プロジェクトは、サハリン島全体に一定の影響を与えるものと予測される。パイプライン、
建設キャンプ、その他の施設などは、提案する陸上パイプラインの用地沿いの 9 つの地区
及び州都 Yuzhno-Sakhalinsk に直接的影響を与える。
州に対して予測される主要な社会的影響は、概して肯
定的なものである。
• サハリン州に対する財政的恩恵
• 雇用と事業の機会
• 州に対するガスの供給
さらに、サハリンの自治体は、インフラ施設整備プロ
ジェクト(IUP)にしたがって実施される道路、橋梁、
鉄道の改修など、インフラ施設の整備から恩恵を受け
る予定である。IUP は、SIA または HIA では取り上げら
れていないが、その環境に対する影響については、EIA
の第 6 巻に解説されている。
サハリンエナジーは、建設期間中にインフラ施設の整備のために約 3 億米ドルを投入する。
これには、道路と鉄道の改修、橋梁と排水渠の改修及び交換、港湾の拡充及び廃棄物管理の
改善が含まれる。サハリンエナジーは、Exxon Neftegas(ENL)が操業するサハリン I 開発と
費用を分担する可能性がある。さらに、海岸までの石油及びガス・パイプライン、処理施設、
陸上パイプライン及び輸出施設等の新規石油・ガスインフラ施設の開発は、将来的な石油・
ガスプロジェクトの実現のために役立つ予定である。
サハリン II プロジェクトは、ロシアで初めての海上石油・ガス開発である。プロジェクトと
関連インフラ施設の開発は、他の海上石油及びガス・プロジェクトのための道を切り拓き、
サハリン州内の 300 億バレルを超える(原油換算)海底炭化水素資源を開発できるようにな
る。サハリン II PSA の成功は、国内の石油ガス関連産業の発展等、ロシアに対する将来的な
外国からの直接投資の触媒として作用することになる(いわゆる「多重効果」)。
5.3.1 経済的背景
サハリンは、長いことロシア連邦の周辺資源地域であり、ほとんど処理されない天然資源の
抽出と輸出の中心であった。北サハリンは、1920 年代から陸上石油・ガス産業の中心地で
ある。しかしながら、大半の経済活動は、不凍港、鉄道の中心地、大都会などがある南部で
行なわれている。
サハリンは、旧ソ連時代から戦略的な要衝であり、助成金と補助金を受け取っていた。1990
年代にロシア連邦の経済が衰退するとともに、大半の産業は閉鎖に追い込まれ、社会的支援
は縮小され、価格は高騰し、大量の移住が始まった。サハリンの経済は、主として、サハリ
ン島の合計投資額の半分以上及び外国投資の 80% 以上を占める海上石油及びガス開発のお
かげで 1999 年から改善し始めた。しかしながら、経済の近代化はゆるやかである。
国家統計資料によると、2000 年にサハリン島の生活水準が初めて改善されたことを示して
いる。生活水準は、Yuzhno-SakhlinskとNogliki 地区では高くなっている。平均賃金は、Nogliki
と Okha 地区が最も高くなっている。大半の住民が石油及びガス産業に雇用されているから
である。事業活動からの収益も増加した。
生活水準は、都市よりも農村の方が低く、大半の農村の住民は貧しい生活をおくっている。
最低生活水準以下の住民の比率(2000 年には 36%)は、ロシアの平均よりも高くなってい
る。漁業、狩猟と収穫及び農耕の自然経済が農村生活の中心である。
Yuzhno-Sakhalinsk、Korsakov、Kholmsk などの大都市では、医療センターが新設された。し
かしながら、健康対策は、農村では乏しく、医療施設は人口流出や資金不足のために閉鎖さ
れている。インフラ施設、住宅、ユーティリティ、社会サービスの条件は、悪化し続けてお
り、特に農村ではそれが顕著である。
10
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
5.3.2 サハリン州に対する財政的恩恵
プロジェクトの結果、実質を伴った財政的恩恵がサハリン州にもたらされる予定である。
サハリンエナジーの生産分与協定(PSA)は、プロジェクトの利益をどのようにしてロシア
当局(連邦と州)及びサハリンエナジーの間で配分するかを規定している。すでにプロジェ
クトのフェーズ 1 から発生した利益は、連邦政府にとってだけでなく、ロイヤルティを通じ
て、サハリン州にとっても重要な資金源となっている。
ロイヤルティ
サハリンエナジーの現在の認識では、プロジェクトの利益は、ロシア連邦とサハリン州の
間で折半される。6% のロイヤルティは、損益を考慮しない一切の炭化水素生産物の販売量
を基本としている。
これまでのところ、フェーズ 1 の開発からの夏季限定の石油生産がサハリンエナジーの唯一の
収益源であり、唯一のロイヤルティの源である。ロイヤルティ収入は、フェーズ 1 の生産が
1999 年から開始されて以来、年間 1000 万〜1200 万米ドルの間で推移している。ロシア連邦
への支払いは、年間 500 〜600 万米ドルのロイヤルティとして州に戻ると見積もられている。
2002 年 9 月 30 日の時点で、サハリンエナジーは、5560 万米ドルをロイヤルティとして支払っ
ている。ロイヤルティは、フェーズ 1 開発の通年生産が開始され及び且つフェーズ 2 が生産を
開始すると、増加する。
収益税
ロイヤルティの支払い後の残存所得は、サハリンエナジーの開発及び操業費用をまかなうた
めに使用される。サハリンエナジーは、石油とガスの価格によるが、2010 年から 2015 年ま
での間に開発費用の全額を回収できるものと期待している。サハリンエナジーの収益には、
32% の収益税が課税される。
国際石油価格が 16 米ドル/バレル及び 20 米ドル/バレルの場合、プロジェクト期間中、そ
れぞれロイヤルティ及び収益税として 390 億米ドル及び 490 億米ドルを支払うことになる。
390 億米ドルの内訳は、次のとおりである。70 億米ドルがロイヤルティ、80 億米ドルが利
益配当及び 240 億米ドルが収益税である。収益の現在の予測分配方式によると、サハリン州
は、プロジェクト期間中、ロイヤルティを含み、180 億〜250 億米ドルを受け取ると期待す
ることができる。実際の収益は、世界の市場のエネルギー価格によって変動する。
ロシア連邦のその他の収入源は、税収入(社員の所得への所得税を含む)
、ボーナス及びサ
ハリン開発基金に対する 1 億米ドルの拠出金を含んでいる。この基金は、サハリン島の開発
を支援し、とりわけ、児童クリニック、病院及び 3 ヶ所の学校を建設するために使用されて
きた。サハリンエナジーは、さらに、過去の開発費用をロシア連邦に返済している。
5.3.3 雇用と事業の機会
雇用と事業の機会の創出は、SIA の協議期間中に確認された地域社会の主要な問題点であった。
協議が行われた大半の住民は、プロジェクトによって雇用の機会が増加することを期待する
と答えている。
住民の技術力と事業に関する情報は、ベースライン調査のときに収集された。農村では、雇
用の機会は当該地域の住民の移動性や、関連する資格の不足に起因して限定されていること
が明らかになった。その結果、満たされない雇用期待の問題は重要と思われる。十分に活か
されていない事業も確認された。
PSA では、サハリンエナジーは、プロジェクトの期間中、ロシアの労働力、資材、設備及び
請負業者の活用率 70% を達成することに最善を尽くすことを公約している。PSA に基づくロ
シア企業活用に対するこの公約は、ロシアの雇用と事業の開発を支援する主要な手段の一つ
である。大半の建設作業員は、サハリン島及びロシア本土の労働力市場から雇用されること
が期待されている。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
11
2002 年から 2008 年の間に、数ヶ月から 2 〜3 年の、多数の臨時及び短期間の建設作業のた
めの雇用が創出される。国内の財貨サービスに対する需要が増加する結果、大量の二次雇用
が創出される。
フェーズ 2 開発の結果、サハリンエナジーでは、約 1000 〜1500 件の新規長期雇用が発生し、
地元住民には約 900 件の契約社員需要が発生すると予測される。
合計すると、平均して 5000 人から 8000 人の要員が建設期間中に雇用され、2004 年の建設
のピーク時には約 13,000 人の労働力が必要になると見積もられている。潜在的請負業者は、
労働力の 70 〜95% がロシア人になることを期待すると報告した。
サハリンエナジーは、以下のような公約をしている。
•
実際に可能な範囲内でサハリン州とプロジェクト関連地域社会の労働者を雇用し、業
者を活用する。ただし、労働者は適格な資格を有し、業者は価格、品質、信頼性、入
手可能性及び納期についてプロジェクトに必要な財貨サービスを提供する能力を有し
ていなければならない。
•
事前に地域社会に雇用の機会に関する正確な情報を提供し、期待をより現実的なもの
とし、地元住民が適切な訓練と教育を計画できるようにする。
•
適切な訓練及び教育プログラム及び対策を支援する。
5.3.4 サハリン州に対するガスの供給
サハリンの住民を対象としたサハリンエナジーの協議では、大半のサハリンの住民は島内の
ガス化を期待しており、このことはサハリンエナジーの責任であると考えていることを示し
ている。
ロシア連邦と地元政府は、ロイヤルティと利益配当権をガスとして、あるいはガスがない場
合には、石油または現金として受け取る。収益税は、現金で直接支払うことができる。サハ
リン住民へのガス供給に必要なインフラ施設の開発はロシア当局の責任である。サハリンエ
ナジーは、ガス取出点にあわせて、陸上ガス・パイプライン沿いにブロックバルブを取り付
ける予定である。
サハリンエナジーの協議は、この件の現状をサハリンの住民に説明することも含んでおり、
このことは、建設期間中も継続することが期待されている。
5.4 地域社会に対するプロジェクトの影響
サハリン地域社会に対する潜在的なプロジェクトの影響の評価は、SIA の主目的の一つであ
った。協議は、パイプラインの用地及び常設施設ルート沿いの 52 の地域社会を含んでいた。
これらの地域社会のうち、建設キャンプ予定地または常設施設建設予定地の地域社会は、集
中協議及びベースラインデータの収集の対象となった。検討した地域社会の問題点を下記に
要約する。
• 立地に起因する影響
地域社会に対する影響は、提案するサイト及び常設施設を注意深く選定することにより
最小限にした。できる限り、サイトは、既設褐色地(つまり、開発地)から選定した。
これらのサイトの清掃は、最終的に環境及び社会的恩恵をもたらす。
• 建設キャンプに起因する影響
地域社会に対する影響、とりわけ、建設期間中の影響は、SIA の中心論点だった。特に、
建設労働力の流入が既存インフラ施設を圧倒する潜在的可能性がある農村で、大きな悪
影響が生じることが確認された。
• 孤立した小数の先住民に対する影響
先住民との協議プログラムは、とりわけ、Val、Nogliki 及び Chir-Unvd の小数の孤立した
先住民を中心として行った。一般的に、彼等の関心事は、同じ地域社会の一般的な住民
と同じ関心事を反映していた。
12
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
•
雇用を求める住民の移入に起因する影響
建設キャンプにともなう問題点は、特に、仕事を求め又は役務を提供しようとキャンプ
を訪れる人々に関連する懸念並びに住宅、食糧及び給水に対する潜在的影響である。こ
れは、協議を行った大部分の地域社会では大きな問題とはみなされていない。
5.4.1 地域社会の問題を処理するために採用された軽減措置
協議の間、個々人は、プロジェクトについて幅広い関心事を表明した。最も頻繁に取り上げ
られたのは、雇用、漁業とベリー収穫地に対する影響及び補償であった。サハリンエナジー
は、これらの関心事を処理するために多数の方針とプログラムを採用した。主要なものを下
記に要約する。
• 地域社会に対する影響の軽減対策及びモニタリング
請負業者は、サハリンエナジーが精査し、承認できるように、請負業者が SIA に規定され
た軽減対策をどのように実施するのかを記述した社会経済的活動計画を作成しなければ
ならない。この計画の実施は、サハリンエナジー地域社会連絡組織がモニターする。
さらに、サハリンエナジーは、食料品の価格、医療及び住宅を含むこれらの地域社会に対す
る潜在的な影響を個別にモニターする。サハリンエナジーは、問題点をサハリンエナジーに
直接提起することができる低/無費用の苦情処理手順について地域社会を啓蒙する。
• 請負業者による社会的問題の対策
建設キャンプ及び建設作業員の活動の管理は、建設にともなって地域社会に与える影響
のうち大きな問題点である。サハリンエナジーは、すべての請負業者が行動規範に準拠
するように要請する。これには、次のような要件が含まれる。
•
•
•
•
•
•
•
•
サハリンエナジーの「事業規範(Business principles)」を遵守する。
地域社会に対する潜在的な悪影響が最小限になるようにキャンプを管理する。
作業員が公共の場で適切な行動をするように保証する。
狩猟、漁業及び収穫の厳格な方針(セクション 5.4.3)を含む、サハリンエナジーの
方針を実施する。
作業員が野生動物や家畜を攻撃しないように保証する。
自然環境の破壊を制限する。
作業員が考古学上の遺物や、その他の文化財を許可を受けずに収集したり、破壊した
りしないように保証する(セクション 5.4.5)。
廃棄物は、適正な方法で処分する。
サハリンエナジーは、事前入札の提出時に、考古学的及び文
化的資源などの問題を取り扱う事前社会経済管理計画を入札
書に添付するように潜在的請負業者に要求した。社会経済条
件も、最終入札の審査のときに取り上げた。
プロジェクトの契約の成約後、サハリンエナジーは、請負業
者の社会経済管理計画を検討し、承認し、建設期間の間、地
域社会連絡組織を通じて、請負業者と地域社会の関係をモニ
ターする。
5.4.2 補償とプロジェクト用地の必要性
建設には、約 7,500 〜8,200 ヘクタールの用地が必要であり、このことは、10 地区内のおよ
そ 50 〜60 世帯、農業 25、木材業 12、季節漁業者 2、その他の 18 業種及び 19 自治体に影響
を与える。
影響を受ける可能性がある 50 〜60 世帯のうち、最大 14 戸までの農家、住宅または別荘は、
建設または土地利用上の制約のため移転することになるかもしれない。これらの世帯のうち
6 戸は、プリゴロドノエの LNG プラント/石油輸出ターミナルに位置しており、移転される
ことになる。残りの 8 戸については、現在、調査中である。これらの 14 戸の他に、約 42 世
帯が、建設期間中、庭園、ジャガイモ畑または牧草地がなくなり、一時的な影響を受ける。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
13
直接的な影響を受ける土地利用者数は、サハリン II プロジェクトの規模の大きさに対して驚
くほど少ない。これは、パイプラインの敷設を、人口密度の低い地域及び農業活動があまり
行われていない地域においては、地域社会から少なくとも 300m 離れた場所、あるいはすで
に鉱業企業が使用している地域、あるいは伝統的に軍事活動が行なわれている地域で行うよ
うに規定している厳格なロシア連邦の規則に負うところが大きい。
フェーズ 2 プロジェクトの土地の補償は、ロシアの監督システム及び世界銀行グループのガ
イドラインに完全に準拠している。両者の間には相違点があり、この点は SIA で取り上げら
れている。この相違点を処理するため、サハリンエナジーは、2002 年半ばに追加支援プロ
グラムを採用し、実施した。プログラムは、影響を受ける土地利用者を対象とする幅広い協
議を基本としている。
この補償プログラムは、プロジェクトの影響を受ける各住民がプロジェクトの実施後も、少
なくとも実施前と同じ生活を享受することを保証するもので
ある。追加支援には、例えば、次のようなものがある。
• 資産の物理的な移転
• 家庭菜園などの資源を復旧するために一時的な労働力の
提供
• 建設期間中、別の漁場/狩猟場/ベリー収穫場に移動す
る信頼できる移動手段の提供
• Korsakov ‐提案する LNG プラントのサイト‐に代替公共
レクリエーション用地の開発
5.4.3 漁業、収穫及び狩猟
漁業、収穫及び狩猟は、サハリン中央部及び北部の農村における重要な、生計を支える経済
活動である。協議の初期に、住民は、漁業の為の河川や湾、ベリー収穫地域及び場合によっ
ては狩猟地域に対する潜在的なプロジェクトの影響について不安を表明した。
一部の地域社会では、住民は、ベリー畑に対する潜在的損害のため、及び/またはキャンプ
のフェンスが漁場や収穫場までの道路を横切るため、提案された建設キャンプの位置に反対
した。これらの不安は、フェンスの場所を変更したり、提案するキャンプの形状を変更した
りして解消された。
地域社会では、さらに、狩猟、漁業及び収穫に関する企業の方針策定についても協議を行っ
た。サハリン中央部及び北部では、大半の住民は、建設作業員が地域社会の近くで釣りや、
収穫や、狩猟を行うことを望んでおらず、作業員に魚やベリー製品を販売することの方を希
望していた。南部では、大半の住民は、プロジェクトの作業員にそのような制限を加えるべ
きではないと感じていた。
協議の結果定められた狩猟、漁業及び収穫に関する方針は、サハリンエナジーのすべての請
負業者及び下請業者の従業員に適用される。次のような規定である。
• プロジェクト作業員は、サハリン北部または中央部では釣り、収穫または狩猟を行って
はならない。
• サハリン南部では、プロジェクト作業員は、許可があれば釣りをすることができるが、
収穫または狩猟は禁じる。
この方針は、必要に応じてモニターし、調整する。
5.4.4 Uilta によるトナカイの飼育
サハリン北東部の Val 村では、現地の先住民 7 世帯の、平均して 20 人がトナカイの飼育をし
ている。トナカイ飼育者は、プロジェクトの潜在的影響、とりわけ、Val の北部における春
と夏の放牧地に対する影響を心配している。サハリンエナジーは、トナカイ飼育者を対象と
して集中的な協議プログラムを実施し、トナカイの飼育について以下のような一定の公約事
項を定めた。
14
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
•
•
•
請負業者は、行動規範を採用し、建設期間中における春季/夏季放牧地またはその周辺
地に対する潜在的影響の管理計画を作成しなければならない。地域社会連絡担当者は、
トナカイ飼育者と協力し、建設期間中の連絡手順を定める。
サハリンエナジー及び請負業者は、建設期間中におけるトナカイの放牧地に対する影響
を可能な範囲内で最小限に軽減し、トナカイ飼育者との協議に基づいて土壌再生計画を
作成し、事前にトナカイ飼育者に建設スケジュールを連絡し、安全措置及び緊急対応計
画について教育し、訓練を行う。
サハリンエナジーは、補償に関する不安に耳を傾け、対応し、必ずしもプロジェクトと
は関係していない活動でも、支援の提案書を住民が提出するように奨励する。
5.4.5 遺跡資源
サハリン島の遺跡資源は、幅広い先史時代及び有史時代の資源、ならびに先住民にとって信
仰上の重要性を有した地域を含んでいる。陸上パイプライン・ルート内及びそのごく近くで、
約 40 の文化的資源、先史時代及び有史時代の資源が確認されている。これらの資源は、旧
石器時代初期から第 2 次世界大戦までの資源を含んでいる。主要なものは、先史時代の居住
地の遺跡、軍事キャンプ、戦場及び 20 世紀の日本の建築物の遺物である。難破船も、記録
されている。計画された建設地では、不発弾が発見される危険性もある。
5.4.5.1 文化遺産
プロジェクトの影響を受ける文化資源と歴史資源の大部分については、すでに対策が講じら
れている。28 の文化/歴史資源は、追加保護措置が必要である。さらに、3 〜6 ヶ所の遺跡
については、陸上パイプラインの最終ルートによっては追加掘削が必要となるかもしれない。
サハリンエナジーの文化遺産処理計画は、プロジェクトの建設作業から潜在的な影響を受け
る文化財の処置に対するサハリンエナジーの公約事項にしたがって手順を定めている。
5.4.5.2 戦没者
プロジェクトは、主として第 2 次世界大戦の戦没者が眠っていると考えられる地域にも影響
を与える。ロシアの法律では、戦没者の調査は、ロシア連邦政府の責務となっている。しか
しながら、サハリンエナジーは、地元政府がそれぞれの責務を履行するのを支援するため財
政支援を提供した。人道的行為として、サハリンエナジーは、さらに、プロジェクトの実施
期間中に発見されたすべての戦没者の身元が確認されていない遺骨の最近親の探索及び連絡
並びに軍葬の礼に則った埋葬を支援するため財政支援を提供した。
2002 年の夏と秋には、3 名のロシア人と 6 名の日本人戦没者の遺体が発見され、掘り出され
た。ロシア人の戦没者は、名誉の戦死者として埋葬されるのを待つ間、軍事兵站部に移送さ
れた。日本人の戦死者は、承認された手順にしたがって荼毘に付し、日本で埋葬される。
建設中に戦没者が発見された場合には、サハリンエナジーは、その近くの工事を中断し、適
切な機関に連絡するように請負業者に要求する。関係機関のチームは、それぞれの担当者を
適宜派遣し、軍事兵站部のみの協力の下に対応する。
5.4.5.3 不発弾
歴史的資料に基づいて、サハリンエナジーは、計画された建設ルート内で不発弾(UXO)を
発見する危険性を確認した。2001 年末、幾つかの計画建設サイトで小数の爆弾とその他の
UXO が発見され、サハリンエナジーは UXO プログラムを策定するに到った。
サハリンエナジーは、すべての工事をロシア及び国際的に認知された基準にしたがって実施
するように要求し、独自の地雷活動規格を策定し、作業するときに注意するように呼びかけ
た。サハリンエナジーは、陸上における不発弾の処理プログラムを支援するため、サハリン
島の住民 200 名を対象とする能力養成・訓練プログラムを導入した。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
15
請負業者は、サハリンエナジーの直接的な指導の下に、請負業者のチーム及び下請業者に
サハリンエナジーの手順を責任を持って実施させなければならない。この手順には、以下
の要件が含まれる。
• サハリンエナジーの方針とガイドラインを採用すること。
• UXOの処理に関するサハリンエナジーの規格を理解していることを実証し、必要に応じて、
サハリンエナジーの地雷活動基準を採用し、実施すること。
• 連絡と処分については、連邦、州及び地方自治体の要件にしたがうこと。
• ロシアの規則にしたがって地方自治体に連絡し、協力すること。
• プロジェクトの手順と方針及び地方自治体の法律をどのようにして建設計画に統合した
かを説明する計画書を作成すること。
• 記録と資料を保管すること。
サハリンエナジーは、UXO について次のような公約事項を定めた。
• サハリンエナジーの職員、請負業者及びサハリン II プロジェクトの関係者が UXO の危険
にさらされるレベルを建設前の調査と検査により許容範囲にまで抑えることを保証する
こと。
• ロシア当局と協力して、安全な方法で汚染を軽減し、処分する対策に合意すること。
• EOD 専門分野における訓練奨励契約を組成し、地元における開発と雇用の機会を積極的
に推進すること。
5.4.6 社会的影響の管理とモニタリング
プロジェクトの建設工事から最も影響を受けやすいと思われるサハリンの地域社会に関す
る基本的情報は、これらの地域社会をモニターし、プロジェクトの短期的及び長期的影響
を査定する基礎となる。このことにより、サハリンエナジーは、適切な軽減措置を講じ、
苦情を処理することができるようになる。
社会的影響及び苦情は、サハリンエナジーの地域社会連絡担当者のネットワークを通じて
モニターし、解決する。特に、地域社会連絡担当者は、補償の要求、地域社会内の社会的
問題、物価、雇用及び文化財をモニターする。プロジェクト期間中、サハリンエナジーは、
必要に応じて第三者による独立した見直しの実施を決定することができる。これらの見直
しは、国際的に認知された慣行にしたがって実施し、結果は将来的な計画及び意思決定の
際に考慮する。
5.5 累積的影響
サハリンは、現在、9 つの海上石油・ガスプロジェクトが存在しており、それぞれ進行段階
が異なる。サハリン州当局も、35の既存・提案プロジェクト・リストを有しており、現在の
投資プロジェクトは、木材、石炭、漁業、食糧、建設、電力、輸送及び観光プロジェクト
を含み、合計すると3500万米ドルになる。その大半は、今後 10年以内に完了する見込みで
ある。当局も、地元での炭化水素の処理量を増加する計画を立てている。
並行的開発は、プラスの経済的影響及び開発の機会を増強している。プラスとマイナスの
累積的影響の広がりと規模は、これらのプロジェクトの具体的な実施及び時期によって異
なる。
比較的せまい地域経済における石油/ガス産業に対する大型投資の影響は、他の海上プロ
ジェクトの実施にともなって大きくなる。時期によっては、大型石油・ガスプロジェクト
の建設を他の提案された経済開発プロジェクトと組み合わせて実施すると、島の長期にわ
たる永続的発展をもたらすことがある。このことは、サハリン II などの単発プロジェクト
の建設に見られることがよくあるにわか活況を部分的に軽減することができる。
最も顕著な累積的影響は、サハリン II と同年(1996 年)に開始され、同年の 2045 年に完了
する予定のサハリン I プロジェクトから発生すると見込まれている。サハリン I とサハリン II
16
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
の直接的な累積的影響を受ける主要地域は、プロジェクトが事務所を開設し、輸送機関が頻
繁に使用されるサハリン南部地域及びインフラ施設が両方のプロジェクトによって建設され
る Nogliki 地区である。
サハリン I プロジェクト及びサハリン II プロジェクトの建設、操業及びインフラ施設の改善
に関する要求は、同時に発生することが予測される。一部のインフラ施設、例えば、道路、
橋梁、Nogliki 空港などは、両方のプロジェクトが使用する可能性があるので、交通量と事故、
騒音及びほこりの影響が大きくなる。場合によっては、両方のプロジェクトは、同じ地域社
会で施設を建設するので、流入する労働者数とこれに関連する社会的影響については、社会
的モニタリング・軽減手順を計画する際に、両方のプロジェクトが検討する必要がある。
作業が同時進行する場合には、熟練工に対する需要が重複する。その場合には、建設が地域
社会に与える潜在的な影響をモニターすることになる。あるいは、同時進行しない建設作業
を行うことにより、地元のにわか活況を部分的に軽減することができる。
幅広く経済的影響を行き渡らせ、収益を再投資し、島の幅広い社会経済的発展を軽減するの
はロシア連邦政府の責務である。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
17
6 環境影響評価
6.1 序論
環境影響評価のプロセスの詳細は、環境影響評価(EIA)報告書に記述した。各プロジェク
ト資産またはプロジェクトの影響を受ける地域は、個別に検討し、同 EIA のそれぞれの該当
する報告書にまとめた。現状の環境及びプロジェクトについては、できる限りプロジェクト
の計画に不可欠な軽減措置を含み記述した。
下記の 4 段階の有意性レベルを使用し、同 EIA の第 1 巻の第 3 章に有意性の基準を詳述した。
• 影響なし
• 小さな影響
• 中程度の影響
• 大きな影響
EIA は、国内の専門家からの幅広い情報及び監督機関その他の関係者からのフィードバック
を含む、サハリン II プロジェクトのために作成された一連の初期 EIAs を基礎としている。
プロジェクトのための主要な環境評価活動の経緯は、EIA の第 1 巻の第 1 章に紹介した。初期
EIAs のために行なわれた協議は、同巻の第 4 章に記述した。これらの活動は、こうして EIA
の目的の一つ、すなわち、EIA にとって最も重要と思われる事項に対する関係者と監督
機関の情報を紹介している。
複数の資産に共通する潜在的影響範囲がある。EIA は、資産ごとの影響及び情報の食い違い
を要約する前に、これらの共通する影響について検討している。累積的影響は、最後に査定
している。
EIA の一般的結論は、プロジェクトの避けがたい環境に対する悪影響はあるが、サハリンエ
ナジーは、これらの影響を可能な限り小さく軽減する効果的な措置を特定したとなっている。
疑問のまだ残る部分に関しては、EIA は、追加調査及び査定による今後の手順を明確にして
いる。したがって、大半の問題点は、効果的な軽減措置により無視できる、あるいはごく小
さな残留的影響となると査定された。掘削泥水と掘削土の処分が、そのよい例である。サハ
リンエナジーは、フェーズ 2 プロジェクトはオイルベース泥水を投棄しないという原則を公
約した。さらに、水性泥水は、初期試験掘削井の掘削時にしか投棄しない。将来的な試掘及
び一切の生産用掘削から発生する水性泥水は、再注入される。したがって、潜在的な投棄か
ら生じる残留的な影響は、非常に小さくなる。
また、サハリン島における廃棄物管理能力の予測される拡充及びサハリンエナジーの調査及
びモニタリング・プログラムの結果による一定の植物相と動物相に関する知識の充実などを
含み、環境に対するプラスの影響も多数ある。これらのうち主要なものは、サハリンエナジ
ーが拠出した広範囲にわたる西コククジラの調査である。技術移転の支援も、ロシアの調査
団体の能力の向上に役立っている。
多くの中立的影響と小さな影響は要約されていないが、その代わり、潜在的な中程度の影響
と大きな影響及びこれらの影響を制限するために提案された軽減措置を中心としている。
18
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
6.2 共通の影響
共通の影響は、一般的に全社レベルと各資産レベルの管理計画で処理される。これらの計画
は、現在、作成中である。これらの計画は、プロジェクトの成功に不可欠な問題点を管理す
るための重要なツールである。主要な潜在的影響を及ぼす重要な問題点とは、以下のような
ものである。
• 請負業者の管理
• 廃棄物の管理
• 建設キャンプ
• 採石場
• 土壌の再生と浸食
• 西コククジラ
• 石油の流出
これらの問題点は、順を追って後述する。
6.2.1 請負業者の管理
標準的な工業慣行に基づいて、サハリンエナジーは、計画した建設工事の大半についてエン
ジニアリング・調達・建設(EPC)契約戦略を採用する。国際的な EPC 契約の特徴は、環境
管理活動を含み、請負業者が企業に代わって一定の活動を管理するという点にある。例えば、
建設キャンプ、電力、水道、廃棄物処分施設などの準備及び環境に配慮して、それぞれを管
理するというようなことである。このようなアプローチを成功させるには、幾つかの要素が
不可欠である。
• 指定される前に、EPC 請負業者は、適切な有資格スタッフ、同等の工事のこれまでの実績、
成功例などを提出して、自己の工事の遂行能力と実績を実証しなければならない。
• 請負業者の履行最終責任は、サハリンエナジーにある。
• EPC 請負業者は、サハリンエナジーの独自の HSE 管理システムと整合する、健康、安全及
び環境(HSE)管理システムを整えなければならない。契約履行能力は、監査及び点検シ
ステムを通じて、サハリンエナジーが厳格にモニターする。サハリンエナジーは、この
環境管理システムのためにガイドブックを作成しており、契約不履行/懈怠行為に対す
るペナルティを契約規定として組み込み、請負業者を直接管理する。
上記にしたがえば、請負業者の管理にともなう問題は、ごく小さなものになると期待される。
例外は、インフラ施設の整備プロジェクト(IUP)の請負業者である。サハリンエナジーは、
これまで、IUP 工事を実施する関係者と直接的な契約関係を持っていない。これは、整備さ
れる資産を管理する地方自治体の担当である。例えば、市町村及び連邦の道路や橋梁を改修
する場合には、環境管理に対するサハリンエナジーの管理権は、最善の国際的手法を推奨し、
トレーニングや、その他の能力養成手段を提供して、地方自治体に対する働きかけをするこ
とに制限されている。サハリンエナジーは、IUP 請負業者の管理は潜在的なリスクであり、
好ましくないほど大きな影響を及ぼす潜在的な可能性があることを認識しており、現在、サ
ハリン当局と協力して、これらの問題点を処理している。
6.2.2 廃棄物の管理
サハリンエナジーは、固形廃棄物管理計画を作成しており、この計画は、EPC 請負業者が資
産ごとに廃棄物管理計画を作成することを要求する。既存の廃棄物処分施設は、建設段階で
使用するために改造されることになる。したがって、操業段階では、用途に合わせて設計さ
れた施設を建設する。これらの施設は、サハリンエナジーは操業しないが、適正に管理され
るように保証する。できる限り、廃材は、排出源別に分離し、再利用するか、リサイクルす
るか、処理し、貯蔵し、残留物は処分する。
廃棄物は、サハリンエナジーの固形廃棄物管理計画にしたがって管理し、廃棄物処分施設は
適切な方法で設計し、操業すると想定すると、固形廃棄物にともなう残留的影響は、ごく小
さくなると考えられる。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
19
6.2.3 建設キャンプ
建設キャンプの設計と配置を決定するエンジニアリングの
詳細が不足し、請負業者の管理に潜在的な問題があると、
建設キャンプに関係する影響の詳細な評価を行うことがで
きない。これを中心とする重要な問題点は、工法、水と電
力の供給及び廃棄物の管理である。
サハリンエナジーの健康、安全及び環境管理システムは、
個別資産及び問題点の管理計画を作成し、実行することに
より、環境の影響管理の基盤を形成する。キャンプにとも
なう一般的な影響は、キャンプの最終位置によっては、ごく小さいか、あるいは中程度の
影響となると思われる。
ただし、この時点では、IUP及び最も遠隔地のキャンプの影響、例えば、原生環境へのアクセ
スが改善されるなどして、陸上処理施設の周囲の生態系に発生する不可避の影響などを正確
に予測することは不可能である。さらに、改善されたアクセスは、サハリンエナジーの関係
者だけでなく、狩猟、漁業、ベリーの収穫などに第三者も利用すると考えるのが妥当である。
このような不確実性を考慮して、慎重なアプローチを取れば、これらの影響は中程度の影響
になると考えられる。
6.2.4 採石場
アクセス道路、建屋の建設、埋戻材の必要性は、大量の骨材を必要とする。以下の 4 種類の
資材が必要である。
• 建設用の盛土
• 堤防の盛土及び補助基層のための砂、砂利及び砂/砂利混合物
• コンクリート用骨材
• 特殊材料‐例えば、構造用コンクリート、補強用石材
サハリンエナジーは、これらの材料を許可を受けた一連の採石場から調達し、新しい専用採
石施設を開発する計画である。バルク材料の調達戦略は、2002 年に作成されており、5 年間
で、約 1500 万 m3 の材料が必要になることを示している。さらに、このプロセスの一環とし
て、約 600 万 m3 の不適切な材料(主として、ピートと軟土)を掘削し、処分することにな
る。
島内の天然材料の合計生産量は、現在、100 〜 200 万 m3/年なので、プロジェクトの必要
性にあわせて、4 倍に増強することが必要である。
サハリンエナジーは、採石戦略を作成しており、この作業は、地元の生産量と追加資源に関
する詳細な知識を必要とする。この作業は、現在、進行中である。
このような不確実性を考慮すると、採石と骨材の供給及び不適切な材料の処分にともなう潜
在的な影響は、中程度の影響から大きな影響になると考えられる。
ただし、これらの問題は、影響を可能な限り小さく軽減するように詳細設計で取り上げる。
地域の骨材と採石の潜在的な生産能力はかなり大きい。その上、生産は、既存のインフラ施
設や、より発展し、人口の多い地域でよく見られるように、計画上の制約条件による制約を
受けていない。したがって、良質な生息環境を損なったり、その他の許容できない影響を生
じたりしない方法で既存の資源及び新しい資源を活用することができる。したがって、残留
的な影響は、ごく小さく軽減できると考えられる。
6.2.5 土壌の再生
プロジェクトは、一連の地盤条件で大規模な土木工事を必要とする。サハリンの気候及びこ
れらの活動の性質は、土壌を極めて脆弱化し、浸食や圧密作用によって傷める。この問題を
処理するため、サハリンエナジーは、事前土壌再生・浸食保護計画(土壌計画)を作成した。
現在のところ、この計画は、生態系の再生よりも土壌の保全を中心としている。場合によっ
ては、この計画は、特に無脊椎動物及びその従属種に対する「障害」となる可能性がある。
20
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
この問題を踏まえて、土壌計画は、建設工事がはじまる前に更新し、建設サイトごとに詳細
サイト別土壌計画を作成する。土壌の復旧後に予測される影響は、したがって、地元の条件
により小さい影響から中程度の影響となると思われる。モニタリングによって管理を必要と
する地域を洗い出すと想定すると、全体的な影響は、土壌条件が回復する時間の経過ととも
に小さくなる。
6.2.6 西コククジラ
コククジラ Eschrichtius robustus の北西太平洋の個体群は、ロシア連邦のレッド・データ・
ブックにカテゴリー I(絶滅の危機にさらされた)種としてリストアップされている。個体
群は、最近、IUCN-世界保存連合によって重大な絶滅の危機にさらされた種(極めて高い絶
滅の危機)として再分類された。西コククジラが夏の時期を過ごし、採餌をする地域として、
現在確認されている地域は、サハリン島の北東海岸の沖合、主として Piltun 湾の近くの海域
である。
サハリンエナジー、ENL 及びその他が資金拠出したモニタリング調査を基本とする最近の推
定によると、Piltun 湾の沖合で夏を過ごす頭数は、個体群の相当の比率を占めており(現在
の処、不明ではあるが)、およそ 100 頭であるということである。西コククジラの全個体群
の規模及び西コククジラが現れる地域は、今のところ未確認である。また、西コククジラが
利用する移動ルートも今のところ未確認であるが、大半の専門家は、西コククジラの大部分
は宗谷海峡からサハリン島の南側を移動して、東海岸に到ると考えている。そうであれば、
夏に採餌する場所に移動するために北上する途中及び冬に繁殖する場所に移動するために南
下する途中で Lunskoye 海域を通過することになる。
繁殖個体群数が十分に確認できていないため、西コククジラの邪魔をしたり、追い出したり
するような活動は、慎重に検討しなければならない。
サハリンエナジーは、一連の調査(西コククジラを中心とする技術的 EIA を含む)及びモニ
タリング・プログラムを通じて西コククジラの保護の問題を取り上げ、プロジェクトのフェ
ーズ 2 についても西コククジラ保護プログラムを継続して策定する。このプログラムは、西
コククジラに対する妨害を最小限に軽減する一連の対策であり、あらゆる海事活動に適用さ
れる。
モニタリング活動は、サハリン II プロジェクトの建設及び操業段階を通じて継続する。この
活動は、西コククジラの生体に関する知識に貢献し、軽減措置が効果を現す規模を査定し、
必要に応じて調整を施すことができる。
これらの詳細かつ広範囲にわたる評価及びその結果決定される対策に基づくと、これらの種
に対する影響は、中程度の影響になると考えられる。
6.2.7 石油の流出
石油の流出にともなうリスクの管理は、あらゆる石油及びガス工業の開発、あるいはこの種
の大型プロジェクトには不可欠である。石油の流出に関係する影響を軽減する第 1 段階は、
言うまでもなく、「安全設計」による流出の予防である。このリスクを踏まえ、サハリンエ
ナジーは、ロシア連邦の要件にしたがって資産ごとに石油流出対応計画を策定した。、個別
計画は、中心的となる集団石油流出対応計画によって支援される。各計画は、操業の開始の
少なくとも 6 ヶ月前迄に更新される。石油の流出にともなう潜在的影響は、流出の規模及び
サイトごとの基準によって、ささやかな影響から大きな影響まである。
サハリン地域における操業にともなう環境リスクは、特に重要である。石油の流出のリスクに
最もさらされやすい生息環境及び種は、海岸の干潟と潮間帯沼沢地、鳥及び幼魚個体群を含ん
でいる。アザラシ、鯨及び成魚は、石油の流出地域を避ける能力が発達しているので、あまり
弱くはない。サハリンの中央部と北部では、海岸地域は、一般的に岸沿いに形成される海氷が
石油バリアとして機能して、保護される。しかしながら、海氷の割れた海域で石油の流出が発
生すると、清掃にともなう後方支援が難しいため環境の被る被害は大きくなる。サハリンエナ
ジーは、現在、海氷状況において石油を清掃するための最適な方法を研究中である。
国境を越える影響は、脅威だが、低く、滅多に発生することのない大量の石油が流出すると
きにしか起こらない。オホーツク海の高エネルギー環境は、通常、油膜を比較的短時間で分
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
21
断し、簡単に石油を風化し、分解することができる。にもかかわらず、日本の海上保安庁は、
石油流出時の対応についてサハリンエナジーと協議を行っており、必要なときには、共同対
応できるように覚書が存在している。
大量の石油の流出は稀だが、慢性的な少量の流出(例えば、建設作業期間中)が環境に対し
て集合的な大きな影響をもたらすことがよくある。この問題は、サイト管理と海上操業を含
み、サハリンエナジーの請負業者管理方針で処理することになっており、この管理方針は、
恐らく、プロジェクトの請負業者にも分かりやすいものである。操業期間中における少量の
慢性的流出の潜在的可能性は、最先端の電子検出器を使用するだけでなく、定期的マニュア
ル検査も行う、感度の鋭い流出検出システムによって軽減する。
サハリンエナジーは、石油流出対応資源及び設備に多額の投資を行い、操業地域内の戦略的
な、高リスク・エリアに配置する。さらに、石油流出対応訓練プログラムを実施して、担当
者(及び現地ボランティア)が石油の流出に効果的かつ効率的に対処するために必要な技術
を習得できるようにする。
6.3 資産ごとの影響
EIA は、プロジェクトの様々な資産の建設、コミッショニング、操業及び解体にともなう幅
広い潜在的な影響を洗い出した。サハリンエナジーは、一連の軽減措置を実施して、プロジ
ェクトの潜在的影響を軽減することを公約した。これらの措置は、ロシア連邦及び国際的規
則とガイドライン、業界の最善の手法及びサハリンエナジーの方針に準拠し、プロジェクト
の個別環境管理計画によって実施する。大半の資源と受容体については、工事の性質及び軽
減措置は、残留的影響を小さくするものでなければならない。
しかしながら、潜在的な影響が中程度なものから大きなものまで、まだ数多くの問題が残っ
ている。この点については、資産ごとの概要を下記の表にまとめた。詳細については、EIA
の第 7 巻の第 2 章を参照。
6.3.1 プラットホーム、海底パイプライン及び上陸地点
影響
コメント
海洋性哺乳類の妨害、損傷または
死亡(例えば、パイプラインの敷
設期間中における船舶の騒音、衝
突、採餌活動の中断または移動ル
ートの妨害)
中程度の影響。絶滅の危機に瀕した、あるいは極めて高い絶滅の危機に瀕した海洋性哺乳類
に対する影響はすべて予防レベルの中程度の影響と定義される。プロジェクトのために実施
する軽減措置及びモニタリング計画は、該当種に対する影響を妥当な範囲内でできる限り小
さくするように計画する。
海底(深海)生息環境、植物相及
び動物相
小さな影響から中程度の影響。海底生息環境及び種は、プロジェクトのあらゆる段階、とり
わけ、プラットホームとパイプラインの建設期間中に影響を受ける。影響は、小さいと判断
される。
上陸地点の建設の視覚的影響
小さな影響から中程度の影響。パイプライン上陸地点の建設、とりわけ、Lunskoye パイプラ
イン上陸地点では、陸上処理施設の建設のために海岸陸揚施設が建設され、サハリン島のこ
の部分の敏感な景観資源に対して中程度の影響を与えることになる。影響は、一時的なもの
であり、長期にわたる影響は小さい。
海洋資源及び沿岸資源に対する
石油の流出の影響
小さい‐中程度の影響。船舶、プラットホームまたはパイプラインからの少量の炭化水素の
流出が海洋及び沿岸資源に対して与える影響は小さいと思われる。大量の重油または生産さ
れた石油が流出した場合には、影響は、流出の規模、環境における石油の動向、影響を受け
る資源の敏感さ、石油流出対応計画の有効性によって異なる。大量の石油の流出リスクは極
めて低く、敏感な沿岸資源に対する影響の確率も低いが、大量の石油が沿岸に影響を与え、
敏感な沿岸の湾内及び干潟に流入すると、影響は大きくなる可能性がある。石油流出対応計
画を効果的に実施することにより、影響を小さな影響から中程度の影響に軽減することがで
きる。
海氷形成期に石油が流出すると、石油は海氷とともに南下し、分散する可能性がある。これ
は、国境を越えた影響を与える可能性があるが、高エネルギー環境であることを考慮すると、
国境を越える受容体に影響を与える石油の流出の起こる可能性は低い。
22
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
6.3.2 陸上処理施設(OPF)
影響
コメント
建設期間中における沿岸地域の土
砂の利用及び直接的な生息環境の
破壊
中程度の影響。建設される OPF の大半は、絶滅の危機に瀕した動物種を含むことが確認され
た地域には影響を与えないが、一部、絶滅の危機に瀕した種が中心である沿岸地域には影響
が出る。影響は、短期間、限定的な個体群に影響を与える限りにおいては小さいが、絶滅の
危機に瀕した動物種は、価値が高いと考えられる(国際的に重要)。したがって、影響は中程
度の影響と判断される。
建設期間中の照明、騒音及び動き
小さな影響から中程度の影響。OPF の建設期間中における土砂の利用及び直接的な生息環境
の破壊が敏感な沿岸の生息環境に影響を与えるのと同じように、照明、騒音及び動きの影響
も、同地域で感じられる。ここでも、これらの刺激によって引き起こされる種に対する妨害
の規模は、低いと考えられ、(絶滅の危機に瀕した)種の価値は高い。しかしながら、騒音、
照明及び動きの影響は、土砂の利用及び生息環境の破壊ほど破壊的ではないので、影響は小
さい影響から中程度の影響と考えられる。
交通量の増加
中程度の影響。OPF 地域は、現在、すでに、Kaigon 港から砂丘の砂地道路を経由してアクセ
スできる。しかしながら、この砂地道路は、速度が出せず、通過するのには 4 輪駆動車が必
要である。南寄りのアクセス道路が新設されれば、OPF サイトと周辺地域は一般人もずっと
アクセスしやすくなる。OPF サイトの道路と出会う南側アクセス道路の境界でのアクセスを
制御すれば、サハリンエナジーは、地域へ流れ込む交通量を軽減することができるが、南側
アクセス道路は、公道なので、サハリンエナジーは、この道路を利用する人を停止すること
はできない。交通量の増加の影響は、局地的なものとなる。しかしながら、国際的に重要な、
絶滅の危機に瀕した種の狩猟や、密猟の可能性はある。したがって、影響は、中程度の影響
として分類される。
景観と視覚的影響
小さな影響から中程度の影響。OPF サイトの視覚的敏感さは、見る人がいないので低いと分
類される。景観の敏感さは、手を入れられていないその質と、Lunsky 湾と Nabilsky 湾に近い
という点から中程度と分類される。影響の規模は、低いから中程度で、景観は中程度に変化
する可能性があるが、見て、それがわかるのは、ごくわずかな人だけである。したがって、
全体的な影響は、小さいから中程度と分類される。
浜辺の陸揚施設の流体力学
中程度の影響。浜辺の陸揚施設のある沿岸地域は唯一無二でもなく、過度に敏感でもないと
はいえ、固定桟橋が沿岸線のダイナミクスに与える影響については大きな不確実性がある。
桟橋は、OPF 建設の後、除去されるので、影響は限定的なものとなる。しかしながら、流体
力学的な不確実性があるため、影響は、中程度の影響として分類される。
浜辺の陸揚施設の堆積物の処分
中程度の影響。浜辺の陸揚施設から浚渫された堆積物のストックは、ストックのために必要
な地域にだけ影響を与える。しかしながら、浚渫場所の近くで発見され、投棄される汚染堆
積物については、明確な海上投棄場所が確認されていない。堆積物の投棄の影響は、したが
って、小さいから中程度と分類される。汚染堆積物の適切な投棄場所が確認されれば、影響
は小さくなる。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
23
6.3.3 陸上パイプライン
24
影響
コメント
肥沃度の低下と生物学的多様性の
損失をもたらす土壌の浸食、混合、
圧密及び表土の損失
小さいから中程度の影響。復旧時期は、土壌の生産性、使用する復旧方法及び優
勢な気候条件などの要素によって異なる。しかしながら、影響の大きさは時間の
経過とともに小さくなると考えるのが妥当である。影響の重要性の最終的分類は、
サハリンエナジーの土壌再生・浸食予防計画の全面的な実施の後、改めて査定す
る必要がある。土壌の生産性に対する中程度の影響は、より難しい土壌、つまり、
土壌の圧縮を避けるのが難しいことが実証された、けわしい斜面や浸水地域など
の土壌についてだけ予測される。
水文学及び河川水系生態学を変化
させる地表水の物理的混乱
中程度から大きな影響。サケ科の魚は、経済学的にも、生態学的にも、サハリン
の河川の最も重要な魚である。サハリンエナジーは、河川を通過するパイプライ
ンの建設の全体的影響を最小限に軽減するため河川通過戦略を策定した。この戦
略は、調査及び 2003 年に計画されている詳細モデルの作製後、詳細に策定される。
仮設建設キャンプ、ガス取り出し
ターミナル及びブースタステー
ション #2 からの処理済排水の
放流にともなう淡水の水質に
対する影響
小さいから中程度の影響。一般的に、これらの排水は、規制値にしたがって監視
され、放流されるので、残留的な影響は小さいが、河川の稀釈能力が小さい場合
には、影響は中程度の影響となる。
建設または操業期間中における重
油、石油または化学薬品の流出に
起因する地下水資源の汚染
中程度の影響(パイプラインが交差する 10 ヶ所の取水衛生保護地域)。中程度と
いう分類は、パイプライン・ルートが 10 ヶ所の既設取水衛生保護地域を通過する
建設段階についてだけの分類である。一般的に、標準的流出予防・対応手順が、
潜在的な影響をごく小さくすることができる。
パイプライン ROW の存在にともな
う景観及び目に映る心地良さに対
する影響
中程度から大きな影響。けわしい傾斜及び側面の傾斜では、復旧のために段丘構
造が利用され、景観に対する影響は、大きく見積もっても中程度の影響である。
既設インフラ施設から離れた森林地帯も、中程度の影響を受けるが、焼失しない
第一級森林地帯については、大きな影響が生じる可能性がある。
視覚的心地良さについては、景観に対して大きな影響が生じる数ヶ所では、中程
度の視覚的影響があるかもしれないが、少数の人々に限定される。
生息環境の変化/損失/崩壊、
交通量の増加及び混乱
中程度の影響。傾斜面及び河川の渓谷の天然の稠密な針葉林、天然の指定開放針
葉林及び氾濫原と河川の渓谷の連続する落葉林には、中程度の影響が生じると考
えられる。これらの森林は、パイプラインの通過地域の約 54% を占める。
コミッショニング活動の間におけ
るガス取り出しターミナル及び
ブースタステーション(BS) #2 から
の騒音(フレアでのガスの燃焼)
中程度の影響。コミッショニングにともなう残留的影響は、コミッショニング時
期が近付いたところで実施される騒音モデル調査によって決定される。
コミッショニング期間中における
BS#2 からの大気排出物
中程度の影響。ロシア・モデルによると、ブースタステーション #2 のコミッショ
ニングの間、短期間、排出レベルが最大許容排出レベルを超えることが予測された。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
6.3.4 液化天然ガス(LNG)プラント、石油輸出ターミナル(OET)、LNG ジェッティ及び
タンカー・ローディングユニット(TLU)
影響
コメント
LNG/OET 施設の操業期間中の大気
質(燃焼生成物)
中程度の影響。LNG/OET 施設からの排出は、モデル化した。予測される施設敷地外の濃度は、
中程度の影響を表している。
建設期間中の堆積物の流出が水資
源(Mereya 川)に与える影響
中程度の影響。Mereya 川は、サケが産卵する重要な場所である。建設期間中、とりわけ、サ
イトの清掃及び整地活動の間に流出する堆積物は、この敏感な川に中程度の影響を与えると
予測される。最善の建設サイト管理方法によって、この影響を妥当な範囲内でできる限り小
さくすべきである。
建設及び操業期間中における水資
源への石油の流出
中程度の影響。Mereya 川は大型河川なので、建設期間中または操業期間中における重油など
の流出は、潜在的な中程度の影響となる。流出管理計画により、この影響を妥当な範囲内で
できる限り小さくすべきである。
サイトの整備が別荘に与える視覚
的影響
中程度の影響。別荘は、海抜約 80m のところにあり、LNG プラント/輸出ターミナルは別荘
から見えるところに位置する。住宅地区なので、視覚的影響は、中程度の影響と考えられる。
限定的軽減措置の実施も考えられる。
コミッショニング期間中にフレア
からのガスの燃焼が別荘に与える
視覚的影響
中程度の影響。フレアでのガスの燃焼は、夜間を含み、10 日間ずつ 2 回行う。別荘からはフ
レアが見え、夜間には火炎に目が引き付けられると思われる。影響は、短期間なので、中程
度と考えられる。限定的軽減措置の実施も考えられる。
操業期間中にサイトが別荘に与え
る視覚的影響
大きな影響。LNG プラント/石油輸出ターミナル施設の存在は、別荘からの眺めを恒久的に
変化する。別荘は眺めがよく、しかも、住宅地区なので、影響は大きいと考えられる。限定
的軽減措置の実施も考えられる。
建設期間中の浚渫が魚に与える
影響
中程度から大きな影響。浚渫は、3 年継続して、サケの産卵期に実施される。浚渫場所は、
Mereya 川の近くなので、影響は中程度から大きいと考えられる。詳細設計時にこの影響の管
理方法を検討し、影響を妥当な範囲内でできる限り小さくすることが必要である。
建設活動、操業期間中の船舶及び
排他水域が商業漁業に与える影響
中程度の影響。アニワ湾は、商業漁場として使用されており、LNG /石油輸出ターミナル・
サイトは、現在、魚の缶詰作業のために使用されている。この影響を妥当な範囲内でできる
限り小さくするには、漁業の規模及び内容に関する詳細な情報が必要である。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
25
6.3.5 インフラ施設の改修プロジェクト(IUP)
影響
コメント
土壌:
陸上処理施設サイト
海岸アクセス道路
中程度の影響。陸上処理施設サイトとその周辺及び海岸アクセス道路沿いに見ら
れる沼沢地及び浸水地は、土壌に対する残留的影響が中程度を意味している。し
かしながら、建設期間中における土壌の損傷を最小限に軽減するために提案され
た広範囲にわたる軽減措置及び提案された改善措置の結果、残留的影響は、妥当
な範囲内でできる限り小さくなると考えられるので、これ以上の提案は行わない。
水資源:
陸上処理施設サイト
LNG サイト
南側アクセス道路
連邦道路 & 橋梁
中程度の影響。陸上処理施設サイト、LNG プラント/石油輸出ターミナル・サイ
ト、南側アクセス道路及び連邦道路と橋梁の工事が計画されている地域では、工
事は、サケが産卵する重要な河川に残留的影響を及ぼす。影響は、堆積物の放流
から生じ、また、化学薬品の流出の結果、河川の潜在的汚染が生じる可能性があ
る。大半の IUP 工事については、残留的影響を緩和するため、広範囲にわたる軽
減措置が提案されている。しかしながら、連邦道路と橋梁の工事(サハリンエナ
ジーの IUP に対する管理が制限される)については、地表水に対する影響の規模
について一定の不確実性がある。IUP が能力養成訓練を行ない、総合的軽減措置を
連邦道路と橋梁の工事に適用することを提案する。
生息環境、動物相及び植物相:
連邦橋梁の建設
陸上処理施設サイト
LNG /石油輸出ターミナル・
サイト
中程度の影響。連邦道路と橋梁の新設にともなう土砂の利用は、生息環境及び植
物相に中程度の残留的影響を与える。連邦道路と橋梁の工事は、敏感な生息環境
である可能性がある保護森林の植生地帯(グリーンゾーン)に影響を与える。IUP
に対するサハリンエナジーの影響力は限定されているので、総合的軽減措置が連
邦道路と橋梁の工事に適用されるかどうか不明である。水資源(上述)と同じ提
案事項。
中程度の影響。保護鳥類種は、陸上処理施設サイトと LNG プラント/石油輸出タ
ーミナル・サイトの両方で見られる。これらの種を妨害する可能性があるので、
これらのサイトにおける IUP 工事の残留的影響は、中程度と考えられる。しかし
ながら、両方のサイトについては総合的軽減措置を提案し、影響は妥当な範囲内
でできる限り小さくすべきという原則にしたがうのが望ましい。したがって、こ
れ以上の提案は行わない。
中程度の影響。Nogliki/Lunskoye 地域では、IUP 工事のアクセス道路が建設される
ため、地域へのアクセスは、陸上処理施設サイトの建設及び操業関係労働者及び
一般人にとって著しく改善される。このことは、リクリエーション、狩猟、漁業
及びベリーの収穫のために地域の人的利用が増加するため、地域の生息環境、動
物相及び植物相に影響を与える。アクセスの増加にともなう長期的影響を正確に
予測するのは不可能である。しかしながら、サハリンエナジーは、公共地域への
アクセスに対して管理権をもっていないので、影響を軽減するのは難しい。した
がって、残留的影響は中程度と考えるべきである。
新しい採石場の開発
26
中程度の影響。新しい採石場の開発は、地質、土壌、景観及び人に残留的影響
(騒音と大気質)を与える。開発される新しい採石場の正確な数、場所及び規模に
ついては不明であり、提案されている採石場サイトの既存の環境に関する情報は
ない。新しい採石場については、具体的な軽減措置を策定しなければならない。
新しい採石場が最終決定され次第、各採石場サイトの既存の環境に関する認識に
基づいて考えられる影響の詳細な評価を実施することを提案する。
固形廃棄物の管理
中程度の影響。廃棄物管理の残留的影響は、バッテリー、石油、その他の化学薬
品などの危険廃棄物に原因している。危険廃棄物は、サハリンの廃棄物管理施設
が改築されるまで、IUP 建設サイトに保管することを提案する。これは、土壌、水
資源、動物相及び植物相に対する影響のリスクを増加する。これらの要素につい
ては、サハリンエナジーの管理権が制限されているので、適切な廃棄物の管理基
準を保証することができない。環境が廃棄物からの影響に特に敏感な地域、たと
えば、連邦道路と橋梁の工事がカテゴリー II と III の河川を交差する地域などは、
明確な不確実地域である。したがって、IUP の廃棄物の全体的な残留的影響は、中
程度と考えられる。IUP の期間中に、追加危険廃棄物管理措置を実行することを提
案する。
緊急事態‐炭化水素の流出
小さいから中程度の影響。大半の IUP の要素については、炭化水素の流出の影響
は小さいと考えられる。しかしながら、IUP 工事の連邦道路と橋梁要素については、
管理権は限定されており、環境は、サケが産卵する河川があるため極めて敏感で
あり、重油または石油の流出の影響は、中程度と考えるべきである。地表水路の
保護について取り上げたように、この件については能力養成訓練を実施して、総
合的軽減措置を採用し、流出を予防し、制御することを提案する。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
6.4 累積的影響と国境を越える影響
EIA の第 7 巻の第 3 章は、プロジェクトに関係する累積的影響と国境を越える影響を査定して
いる。
累積的影響とは、プロジェクト外の活動(例えば、近隣または商業漁業における現行または
計画中の大型計画)の影響であり、あらゆる影響の合計が部分集合よりも大きくなるように、
プロジェクトの影響を累積し、相互に影響しあい、あるいは累計する影響として定義されて
いる。累積的影響は、地球規模、地域/国家及びサイト・レベルで査定した。プロジェクト
の枠内の様々な活動の累積的影響(例えば、IUP 工事のパイプラインの建設の影響など)は、
各プロジェクト資産に関する個別 EIA で取り上げている。
国境を越える影響は、1991 ESPOO 条約(国境を越える環境影響評価条約)にしたがって、重
要な国境を越える悪影響を引き起こす可能性がある何らかの提案された活動からの影響とし
て定められている。
6.4.1 地球規模累計的影響
地球規模レベルにおける主要な問題は、温室効果ガスの排出である。プロジェクトは、以下
の 2 段階で温室効果ガスを発生する。
• 探査及び生産活動からプロジェクト自身が発生する排出
• 生産された炭化水素の利用の結果発生する排出
後者については、サハリン II フェーズ 2 プロジェクトは第一義的にガス・プロジェクトであ
り、現在、部分的に石炭燃焼発電に大きく依存している地域のガス化に貢献するので、プロ
ジェクトは、マイナスの影響よりもプラスの影響の方が大きいと考えられる。
プロジェクト自体から発生する排出、とりわけ、操業段階における排出については、排出源
は、海上プラットホーム、陸上処理施設、パイプラインのブースタステーション、LNG プラ
ントと石油輸出ターミナル及びタンカー・ローディングユニットにおけるオイルタンカーを
含む。絶対ピーク・キャパシティにおける合計温室ガスの排出量は、二酸化炭素(CO2)換
算年間 320 万トン相当量と査定された。これは、1996 年度のロシア連邦の排出量の約 0.16%
に相当する。地球規模 CO2 の排出量は、2010 年には 79 億(US)トンになると見積もられて
いるので、サハリン II フェーズ 2 プロジェクトの貢献は微々たるものである。
6.4.2
地域/国家の累積的影響
地域レベルでは、主要な累積的影響は、二酸化硫黄(SO2)と窒素酸化物(NOx)の排出から
の影響であり、主として日本、韓国、中国などの近隣の工業諸国からの排出物に累計される。
サハリンエナジーは、発電に低 NOx ガスタービンを使用するなどして、可能な限り排出量
を最小限に軽減する努力をした。プロジェクトからの合計排出量は、NOx は 5,000トン/年
(サハリンの排出量の 28%)及び SO2 は 2,000トン/年(サハリンの排出量の 8%)と見積も
られている。
プロジェクトからの排出量は少量であり、且つサハリン島からの地域に対する貢献は小さい
ので、地域レベルにおけるプロジェクトの累積的影響は、無視できる程度と考えられる。
6.4.3 サイト・レベルの累積的影響
EIA は、地元の累積的影響を増強するサハリン地域の活動を洗い出した。これらの影響につ
いては、海上と陸上に分けて、下記に要約する。
6.4.3.1 海上の累積的影響
主要な海上の累積的影響は、サハリンの大陸棚で行なわれている他の石油開発からの影響で
ある。とりわけ、サハリン II の建設と操業活動の一部は、サハリン北東沖の Chayvo 鉱区と
Odoptu 鉱区の開発を実施するサハリン I と同時進行する。主要な累積的影響は、開発海域の
コククジラの存在並びにサハリン開発に関わる石油の流出の累積的リスクと関係している。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
27
さらに、サハリン島は、ロシア極東地域における第 3 の漁業生産地域である。継続的な漁船
団と年間捕獲量の増強は、海洋資源及び自然環境に対する圧力を高めると考えられる。これ
には、海洋性哺乳類に対する騒音と妨害も含まれる。
最後に、捕鯨は、20 世紀に西太平洋のコククジラ個体群を激減させた。今でも捕鯨から保
護されているとはいえ、西コククジラの不法捕鯨は、最近でも日本で行なわれていることが
確認されており、重大な絶滅の危機に瀕している種に対するさらなる脅威となっている。
サハリンエナジーは、他の関係者と協力してこのような潜在的な影響に対する確固たる措置
を実施してきており、今後も継続する。西コククジラなどの回遊種については、サハリンの
大陸棚地域外からも協力者を関与させている。サハリン I とサハリン II の事業主は、協力し
て、例えば、調査を実施し、軽減措置を講じて、海洋性哺乳類に対する影響を軽減するなど
して、環境に対する影響を軽減することを公約している。同等の軽減措置は、漁業産業及び
商業海運業と協力して採用する。潜在的な石油の流出については、サハリンエナジーは、基
本的にサハリンエナジーの石油流出対応戦略について記述している EIA の第 1 巻の第 6 章に
規定されているように、増加するリスクに対処する。
このような努力にもかかわらず、コククジラに対する累積的影響は、妥当な範囲内でできる
限り低いと考えられるとはいえ、いまだに中程度という評価である。石油の流出については、
潜在的な累積的影響は、流出の規模と場所により小さいから大きいまである。サハリンエナ
ジーがこれまで従いまたしばしば上回ってきた石油及びガス業界の安全記録に基づけば、石
油の流出にともなう累積的影響は、一般的に小さい、あるいは限定的と予測される。
サハリンの大陸棚におけるその他の石油開発は、サハリン II 開発にともなう石油の流出を含
む累積的影響にさらに累加すると予測される。他の工業開発(陸上開発を含む)及び船舶
(石油関係及び非石油関係)からの流出も、地域における石油の流出の累積的影響にさらに
影響を累加すると予測することができる。
他の石油及びガス開発の記録は、大多数の石油の流出は少量の流出であり、自動車の燃料補
給や、ポンプのメンテナンスなど、操業上の流出が原因になっていることを示している。フ
ェーズ I におけるサハリンエナジーの Vityaz 生産コンビナートからの石油の合計流出量は、
生産が開始された 1999 年以来、約 0.3m3 と、ごくわずかである。サハリンエナジーの設計
及び操業に対するアプローチは、環境保護措置及び優れた管理を通じて、流出量をゼロにす
ることを目的としている。
効果的な安全プロトコルと手順を導入すると想定すると、潜在的な累積的影響は、流出の規
模と場所により小さいから大きいまでとなる。サハリンエナジーがこれまで従いまたしばし
ば上回ってきた石油及びガス業界の安全記録に基づけば、石油の流出にともなう累積的影響
は、一般的に小さい、あるいは限定的と予測されている。
6.4.3.2 陸上の累積的影響
陸上の累積的影響は、主として建設による障害、バルク材料の管理、陸上の土砂の採取、操
作上の排出、放出物と固形廃棄物及び製品の操作上の持出しにともなって発生する。
建設による障害については、サハリン I とサハリン II プロジェクトの両方と関係する活動が
集中し、同時発生する陸上の場所は、1 ヶ所しかない。この場所は、サハリンの北東部の
Garomay 開拓地から半径 15km の範囲内に位置し、道路交通量が増加する可能性がある。こ
れは、地方自治体と協力して実施するサイト別軽減措置の課題であり、サハリンエナジーは、
サハリン I プロジェクトと協力して、そのための手順を作成する。累積的影響は、小さいと
予測される。
他のプロジェクトからの砂利の潜在的需要などその他の活動の結果、バルク鉱物資材に対す
る需要が大きくなる。このような影響を軽減するためには、バルク鉱物資材の管理を共同実
施することが必要となる。サハリンエナジーは、現在、鉱物管理戦略(セクション 6.4.2)
を実施しており、永続的管理を行うため地方自治体及び他の当事者と協力している。鉱物資
材の正しい調整は残留的影響を小さくすると期待されている。
28
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
土砂の採取の問題は、サハリン I 並びに他の計画されてい
るプロジェクトによる採取については未確認であるため、
査定するのが難しい。しかしながら、影響を最小限に軽減
し、インフラ施設を共有すると想定すると、土砂の採取に
対する累積的影響を小さくして、これらのプロジェクトを
実施することが可能になる。
将来的な石油とガス業界の発展をはじめとして経済活動が
活発化すると、発生する廃棄物量と種類が増加し、サハリ
ン島に処分場が必要になる。したがって、島全体のより戦
略的なレベルでは、廃棄物管理は、石油及びガス業界から
発生する新しい種類の廃棄物との調整が、とりわけ、対象
となる絶対量の観点から、重要な問題となる。サハリンエナジーの廃棄物が計画にしたがっ
て管理され、他の石油及びガス事業主も同等のアプローチを採用すると想定すると、影響は、
小さくなると期待される。
タンカーによる石油の輸出量の増加は、タンカーの交通量の増加につながり、潜在的石油の
流出リスクなどの影響の増大につながる。サハリンエナジーの石油流出対応計画(セクショ
ン 6.2.7)は、流出した石油を管理し、これに関係する設備を潜在的な第三者の石油の流出
に利用できるようにする。その他の当事者、例えば、サハリン I プロジェクトも、同等の対
策を備える。さらに、海上交通調査を実施し、現在確認されていない航行上のリスクの有無
を明らかにする。
6.4.4 国境を越える影響
サハリン II フェーズ 2 プロジェクトからの潜在的な国境を越える影響は、主として近隣諸国
に影響を与える大気汚染及び石油の流出に関係している。サハリン地域に最も近い国は、日
本である。北海道は、幅が 41km の宗谷海峡によってサハリン島から隔たれている。
サハリンエナジーは、様々な気象条件を考慮して、プロジェクトから放出され、近隣諸国に
到達する排出物の影響を算定した。この評価によると、汚染物質が国境を超えて北海道まで
伝播されても、記録するに値する大気汚染は生じない。
国境を越える主要な、潜在的な累積的影響は、したがって、大量の石油の流出、とりわけ、
冬季に発生する石油の流出が原因となる。石油は、海氷に取り込まれ、日本の海域に向か
って南下する可能性がある。大量の石油の流出は、以下のような原因から発生する可能性
がある。
• 掘削及び生産活動
• パイプラインの破断
• タンカーの操作及び航行
石油及びガス業界は、石油の流出の発生する可能性を最小限に軽減する重要な軽減措置とし
て「安全のための設計」を使用している。いずれの場合も、流出した石油を食い止め、管理
するために作成された石油流出対応計画が用意されている。
サハリン II フェーズ 2 開発から発生する大量の石油の流出の予測される軌道並びに結末は、
フェーズ 2 の石油流出対応計画の一環として評価した。
日本の領海及び北側沿岸は、タンカーへのローディング及びタンカーそのものから発生する
石油の流出の潜在的影響を受ける海域内に位置している。しかしながら、設計思想、石油流
出対応計画及び上述の航行リスク評価から導き出される措置の適用を通じて、国境を越える
影響リスクは、妥当な範囲内でできる限り小さくなると予測される。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
29
6.5 結論
EIA は、フェーズ 2 プロジェクトのために実施した一連の影響評価の最新版である。2002 年
末における設計と実施計画の状況を反映している。重要な目的の一つは、詳細設計段階また
は現在継続中の管理を通じて、今後、取り上げなければならない問題点を洗い出すことであ
る。
サハリンエナジーは、英国の独立環境コンサルタント企業 Environmental Resources
Management Limited.によって実施された EIA のあらゆる段階に緊密に関与した。所見と提案
事項は、現在、実施中である。
環境に対する影響の軽減は、企業全体ですでに実施されている、サハリンエナジーの健康、
安全及び環境(HSE)管理システムの枠内で実施する(第 1 巻、第 6 章)
。EIA の所見及びこ
こから生まれる計画及び活動は、次の 3 つの主要メカニズムを通じて、HSE 管理システムに
統合する。
1. 集合的 HSE 管理システムと HSE 計画
2. 資産別 HSE 管理システムと HSE 計画
3. サハリンエナジー全体の重要な問題別計画(例えば、西コククジラ保護プログラム)
しかしながら、一部の重要な環境問題は、多数の資産に影響を及ぼし、サハリンエナジー
全体にとって極めて重要な問題として洗い出されている。これは、次のような問題を含む。
• 西コククジラ
• 石油流出時の対応
• 廃棄物の管理
• 請負業者の管理
• 河川及び水路の交差
• 土壌保護
• 採石場
自社の実績及び計画について開示することは、公開協議及び情報公開に対するサハリンエナ
ジーの公約の一環である。
30
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
7 健康影響評価
7.1 序論
健康影響評価(HIA)は、サハリンエナジーとサハリン島保健コミュニティーが協力して実
施した。HIA は、サハリン II フェーズ 2 プロジェクトの建設及び操業期間中における島の住
民の健康に対する影響を取り上げている。
サハリンエナジーの目的は、労働者の健康状態及びコミュニティーの健康状態の改善を推進
することである。HIA は、プロジェクトの実施前に、プロジェクトが健康状態に与える影響
を予測し、悪影響を軽減または予防し、プラスの影響を増大させることである。
HIA は、業務外健康問題を中心としており、労働者の業務被曝、例えば、騒音に対する被曝
などは取り上げていない。業務被曝は、場所ごとの健康リスク・評価の中で確認され、査定
されている。
サハリンエナジーは、多数の公衆衛生・環境健康ベースライン調査に注目し、1999 年〜
2000 年の期間に追加ベースライン調査を計画した(HIA、セクション 5)。これらの調査は、
ロシア連邦全体、とりわけ、サハリン島の健康状況が変化しつつある社会経済状況と関係し
ていることを明らかにしている。政治及び経済システムの変化は、医療システム、飲料水供
給システム及び廃棄物管理システムを含み、ロシア連邦の管理下にある重要なあらゆる公共
サービスの構造に影響を与えているのである。中央管理体制によって計画された健康サービ
スから地域システムへの移行は、サハリン地域の健康サービスの自立を促したが、中央政府
からの財政的支援は縮小した。財源の縮小は、島内の保健機関の質的低下、とりわけ、職員、
設備、機材、医薬品及びメンテナンスの低下を引き起こした。その結果、健康基準は低下し、
罹病率と死亡率が高くなった。このことは、サハリン島、ロシア連邦及び世界保健機構の統
計資料によって実証されている。
2001 年まで、健康に関する基本的要件、例えば、信頼のおける上水道の供給、適切な下水
処理及び廃棄物管理、良質の食料及び医薬品など、は不十分だった。2000 年以降、一部の
都市では、状況が幾分改善された。伝染病、とりわけ、伝染性の寄生虫に起因する下痢症、
性感染症及び結核などは、高い感染の危険性がある。
健康システムに携わる人々が提起した特定の問題は、医療設備が整っていないため、診断、
治療及び救急車の能力が制限されているということである。コミュニティーの問題は、熟練
を要する医療の不足、開業医の態度に対する不満、高い喫煙率とアルコールの摂取及び上水
道の水質の悪化などを含んでいる。
7.2 プロジェクトの影響と軽減措置
サハリン社会、サハリンエナジーの従業員と請負業者及びそれぞれの家族は、プロジェクト
から健康に対してプラスの影響とマイナスの影響を受ける可能性がある。HIA は、その他の
特定のグループ、例えば、キャンプを取り巻く人々などの健康に対する影響も取り上げて
いる。
健康に対する主要な影響は、以下のとおりである。
• プロジェクトに従事する地元住民がヘルスケアを受けやすくなる。
• 輸送システムが改善され、一般的にヘルスケアが受けやすくなる。
• プロジェクトに直接従事する人々の生活条件が向上する。
• 労働者の喫煙度が低下する。
• 薬物の使用頻度、B 型及び C 型肝炎、HIV 及びその他の性感染症が増加する。
• 流入してくる労働者の結核の危険性
• 労働者の水質に起因する病気の危険性
• 交通事故の増加
• 労働者の動物及び昆虫に原因する病気、例えば、ライム病などの危険性
• ヘルスケア・システムに対する需要の増加
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
31
プロジェクトから健康に与える影響は、主として、建設作業員など、建設段階のときに流入
してくる人々と関係している。人口の一時的増加は、すでに満杯状態のヘルスケアシステム
に対する需要を増加する可能性がある。
しかしながら、公衆衛生に対する直接的な影響は、極小と思われる。キャンプ施設は、自給
自足し、建設期間中には水源の汚染の危険性を最小限に軽減するため広範囲にわたる措置が
講じられる。
健康に対するプラスの影響は、生活条件の改善がもたらすと予測される社会経済状況の改善
と関係している。
キャンプの管理のために講じられるアプローチによっては、肝炎、性感染症、HIV 及び結核
などを含む伝染病の蔓延などが労働者とキャンプを取り巻く人々の間で増加する可能性があ
る。一部の住民層の社会経済的状況の変化は、薬物やアルコールの乱用などを含み、ライフ
スタイルに起因する病気の発生に悪影響を与えることもある。
悪影響を緩和するための措置を実施し、地元支援プログラムを中心とする。地域社会に対す
るキャンプ住民の影響は、キャンプ内の人々に適切な施設を提供することによって最小限に
軽減するというサハリンエナジーのキャンプ管理方針を策定した。
変化によっては、自治体に対してプラスの影響とマイナスの影響を与えることがある。例え
ば、ヘルスケアシステムの構造の変化及び輸送システムの改善は、治療を受けやすくするが、
プロジェクトに関連して予想される交通量の増加は、建設期間中における交通事故の増加を
意味する。サハリンエナジーは、組織的移動管理プロセス、道路・自動車規格を策定し、交
通事故のリスクを軽減するため、地域社会を通過する通行順路を検討した。
開発地域の地理的条件のため、プロジェクトの影響をまったく受けない地域社会を特定する
境界は明確ではなかった。健康に対する影響は、労働人口の変動と関係する。労働力の流入、
主としてロシア本土からの流入は、サハリンの熟練工を補充するために必要となる。
HIAは、自治体の健康に関して洗い出された影響はいずれもプロジェクトの大規模な変更を正
当化するものではないことを確認している。間接的な影響、とりわけ、建設期間中における
「新興都市」作用に関係する影響を最小限に軽減するには、地方自治体との緊密な協力体制
が必要となる。改善は、一般人にとっては、社会経済状況の改善及びヘルスヘアを含むイン
フラ施設に対する財源の増加などを含む。大きな不安は、伝染病の蔓延と交通事故の増加で
ある。しかしながら、洗い出された健康に対する影響を適切な方法で管理すれば、フェーズ 2
プロジェクトの実施に関係して健康に対する大きな直接的悪影響が生じるとは思われない。
キャンプを適切に管理し、サイトで一時的処置及び応急処置を行えば、労働者の全般的な健
康状態は向上すると思われる。同様に、二次健康施設の改善を支援することにより、サハリ
ンエナジーは、健康部門の永続的発展に貢献し、島の自治体に恩恵をもたらすことになる。
サハリンエナジーは、プロジェクトの労働者及び受入自治体の双方の健康状態を改善するこ
とを目的とする戦略的健康管理プロセスを策定し、確立する機会を得た。健康インフラ施設
の改善よりも、確認された地域社会の健康優先プログラムに対する協力と支援を中心とする。
ただし、緊急対応施設がサハリンエナジーの必要性に対応できるようにするには、一部の病
院の緊急支援を改善するため、企業からの一定額の投資が必要となる。これらの投資は、他
の関係者及び産業提携機関と協力して行うことができる。
サハリンエナジーは、HIA の結果報告を受けて、活動計画を策定し、サハリン健康コミュニ
ティーの関係者と検討する。サハリンエナジーは、サハリン島の健康コミュニティーと緊密
に協力し、健康を最も費用対効果の優れた方法で最適化する。
32
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
8 結論
サハリンエナジーは、現在、恐らく世界で最大の総合石油・ガスプロジェクトを実施してい
る。本プロジェクトは、社会経済条件(セクション 5.1)及び環境問題(セクション 6.1)な
どの数多くの課題に直面している。
サハリンエナジー、政府内のパートナー及び株主は、投資利益だけでなく、プロジェクトが
実施される地域社会に直接的恩恵をもたらすことを強く期待している。
開発の展望からすると、プロジェクトの全体的な影響は、圧倒的にプラスである。実質的な
恩恵は、サハリンエナジーからのロイヤルティと税金、プロジェクトに関係する雇用と契約、
地元のインフラ施設の改善及びガスと石油の供給としてサハリン州にもたらされる財政的利
益から、サハリン地域及びその周辺地域にもたらされる。これらの直接的恩恵は、さらに、
ヘルスケアの利便性の改善などの間接的恩恵をもたらし、新しい事業の創出を通じて二次的
経済効果ももたらす。
プロジェクトの避けがたい悪影響もあるにはある。とりわけ、環境に関する影響である。し
かしながら、独立環境コンサルタントが実施した EIA は、効果的な軽減措置の適用により、
影響を妥当な範囲内でできる限り小さくできることを実証した。したがって、大半の潜在的
影響は、小さな影響に軽減され、相対的に少数の影響は中程度の影響であり、ごくわずかな
ケース(例えば、石油の流出)が潜在的に高い重要性を有することとなっている。
サハリンエナジーは、プロジェクトから発生する環境、社会及び健康に対する影響の管理を
自己の主要な責務の一つとして認識している。サハリンエナジーは、フェーズ 2 プロジェク
トをロシアの法的要件、独自の高水準の基準及び国際的に認知された最善の慣行に準拠して
実施することを公約している。フェーズ 2 プロジェクトの全期間を通して、サハリンエナジ
ーは、環境、サハリン島の住民及びフェーズ 2 プロジェクトのあらゆる関係者に対する悪影
響のリスクを最小限に軽減し、株主、ロシア連邦及びより幅広い地域社会に対する潜在的恩
恵を最大にすることを目指している。
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要
33
注記
サハリン II フェーズ 2 プロジェクトの為の「環境、社会並びに健康に対する影響評価」は、
サハリンエナジー投資株式会社により、サハリン島地元当局、サハリン地域社会の住民の皆
さん、非政府組織、サハリン II フェーズ 2 プロジェクトの融資元となりうる金融機関など多
くの利害関係者との協議の結果を受けて、委託製作又は準備されたものです。サハリンエナ
ジーは、これら協議の中で提起された諸点を影響評価作成の際に盛り込むべく努力しました
が、いただいたご提案の全てを反映することはできませんでした。
本「概要」並びにそれぞれの影響評価書類は、英語で作成されています。サハリンエナジー
は、それぞれの書類のロシア語版も発行しております。英語版とロシア語版に齟齬があった
場合には、英語版が正となります。
「環境、社会並びに健康に対する影響評価」は、公開文書であり、3 文書をまとめた非技術
的要約である本「概要」と共に、そのコピーが、サハリン島内の主要な公共図書館に配布さ
れ、サハリンエナジーのウェブサイトに掲載されています。サハリンエナジーに申し出るこ
とによって、これら書類のコピーを書面又は CD ROM の形で入手することができます。申請
者 1 件に対し、コピー 1 部は無償で提供されます。2 部以上のコピーが必要とされる場合に
は、サハリンエナジー社の独自の判断によって、2 部目以降のコピーには若干の費用をご負
担いただくことがあります。
「環境、社会並びに健康に対する影響評価」は、現在進行中のサハリン II フェーズ 2 プロジ
ェクトに関わる公開協議プロセスの一環として作成されたものです。これらは、ご関心のあ
る方々への情報として提供されるものであり、サハリンエナジーは、これに対しなんら責任
を負うものではありません。これらの中に含まれる影響評価、あらゆる情報、意見などを、
その本来以外の目的に使用することはご遠慮ください。
連絡先: [email protected]
Julian Barnes
External Affairs Manager
35 Ulitsa Dzherzinskogo,
693000 Yuzhno-Sakhalinsk
Russian Federation
34
S A K H A L I N E N E R G Y I N V E S T M E N T C O M PA N Y • 環 境 、 社 会 並 び に 健 康 に 対 す る 影 響 評 価 の 概 要