不思議な新聞記事から読み解く〜比・旅行会社支店長、射殺事件の闇

intelligence & investigation
情報と調査
速報・解説
NO: 113
2015 年 11 月号
<深層レポート>
不思議な新聞記事から読み解く
比・旅行会社支店長、射殺事件の闇
殺人請け負い詐欺
今年 10 月 20 日の読売新聞に「殺人請け負い現金詐欺」と題する小さな記事が載った。
この要旨は、殺人を依頼した歯科医から金をもらいな
がら、実際には殺してなかったというもので、依頼し
たのも、依頼を受けたのも日本人だが、舞台はフィリ
ピンだという。
これだけだと、殺されることもなかった詐欺事件、
それも海外での日本人同士のゴタゴタが、いかにベタ
記事とはいえ、なぜ新聞に載ったのか背景がわからな
いと、見逃してしまいそうな事件だ。
背景に日本人歯科医の認知騒動
ところが、舞台となったフィリピンの日本人社会では、「昨年のあの射殺事件か」と、ち
ょっとした話題になっている。まずは、この事件の発端となった 1 年半前の事件から振り
返る。
昨年 2014 年 5 月 6 日夜、日系旅行会社、フレンドシップ社の岩崎宏支店長が、乗用車で
移動中に何者かに射殺される事件が起きた。当初は、同氏が旅行以外でかかわっている不
動産や介護、農園などの取引をめぐるトラブルとか、ビザの取扱いにからむ利権などとも
噂されていたが、翌月になって意外な展開を見せてきた。
日本で働いたことのあるフィリピン人女性が、日本人歯科医との間に生まれたとする子
供 2 人の認知と、日本国籍の取得を求めてきたという。困った歯科医はこのトラブルの処
理を岩崎氏に相談し、岩崎氏が紹介したのが冒頭の記事に載った日本人とそのフィリピン
人妻というのだ。このもみ消し処理に歯科医は、1,650 万円を払い、
「終わった」と思って
いたという。ところが、この「終わったはず」の女性から訴えが出され、1,650 万円は騙さ
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NO: 113
2015 年 11 月号
れて払い損になったとして、仲介人などを難詰したという。
殺された岩崎氏の会社は、日本の旅行会社からガイドやホテルの手配などを引き受ける
オペレーターのなかでは老舗で、旅行業界では比較的知られた存在だ。また、岩崎氏自身
も在比 30 余年、社交的な性格と夫人もフィリピン人ということで、日本人社会でも知られ
た人だった。殺される前の晩にかかってきた長電話の後、ふさぎ込んでいたとか、普段は
ドライバーに運転してもらって帰るのに、この日はなぜか自分で運転していた、などとい
ったミステリーじみた話も出ている。
犯人はわかっている
一方、今回逮捕された日本人とフィリピン人妻は、以前ダバオ市内で日本食材店を開い
ていたということで、こちらもダバオ市内では、ちょっとした話題になっている。
この事件を精力的に取材している、マニラの邦字紙・まにら新聞の関係者などによれば、
歯科医に、今回逮捕された日本人を紹介したのが岩崎氏で、1,650 万円の行方をめぐって
仲介料などのトラブルに巻き込まれたのでは
ないかという。
その一方で、
「私は殺した人を知っているか
ら、絶対に捕まえて」と言っていた岩崎氏の
妻がその後、セキュリティのしっかりした新
居に転居したり、
「不確かな人を被告にしたく
ない」とトーンダウンしたこともあり、やや
手詰まりな印象を与えてきた。
しかし、この間、フィリピン国家警察(P
NP)が日本の警視庁とも捜査協力を進めな
がら、今回の逮捕にこぎつけたようだ。
在比 30 余年というある日本人は、
「せっか
くアキノ現政権による改革や、来春の天皇ご来訪予定で、フィリピンに対するイメージが
以前より良くなりつつある今だからこそ、依頼者も直接手を下した者も逮捕して、こうし
た闇はすっきりさせて欲しい」と語る。
殺人請け負い詐欺という、いわば別件での逮捕、起訴から、どこまで真相に迫れるか注
目されている。
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