収益型インフラ(下水道)におけるPFI・コンセッションの推進

ARES 不動産証券化ジャーナル(H28 年 1・2 月号) 掲載
収益型インフラ(下水道)におけるPFI・コンセッションの推進(座談会)
国土交通省下水道管理指導室長
藤川
眞行
浜松市上下水道部次長・上下水道総務課長
髙田
勝弘
橫浜市環境創造局下水道施設部下水道設備課長 長谷川
輝彦
上下水道コンサルタント
政彦
西澤
地方自治体における厳しい財政状況や職員数の減少のもとで、下水道事業に
おいても PPP/PFI による民間の資金・人材・ノウハウの活用が重要となってい
ます。
下水道事業については、典型的な社会資本である一方、長期に安定した収益事
業の側面も持っており、民間にとっては新たなビジネス機会や投資機会創出の
可能性も秘めています。
本座談会では、下水道における PFI・コンセッションの具体的事例に基づいて、
実態をご紹介いただくとともに、官民連携のあり方についてもお話いただきま
した。(日時:平成 27 年 12 月 2 日(不動産証券化協会
藤川
会議室))
不動産証券化協会の方から、収益型インフラである下水道における
PFI・コンセッションの取組の実態について、座談会形式で、分かりやすく説明
を行ってほしい旨のご依頼がありました。
PFI については、自治体のいわゆるハコモノの建設・管理を中心に実績が積みあ
がってきており、また、平成 23 年の法改正で創設されたコンセッションについ
て、空港の管理運営で実例が出てきています。
下水道事業については、現在、自治体の下水道担当職員の数がピーク時に比べ
3 分の 2 になるなど減少が続いており、巨大なストックを維持し、巨大なプラン
トを動かす装置産業として、執行体制が大きな課題となっています。
このような課題に対応するために、下水道事業においても、PFI の事例が増加
してきており、また、コンセッションの具体的検討が進められています。また、
PFI・コンセッションではありませんが、処理場の管理でいうと、民間への委託
が 9 割、性能発注で包括的に民間へ委託する発注(包括的民間委託)が 2 割と
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他のインフラに比べても相当民間活力の導入が進んでいます。さらに、今後と
も、深刻化する執行体制の課題に対応していくために、さらなる民間活力の導入
が求められています。
また、そもそも論になりますが、下水道は、オーソドックスなインフラで、事
業規模も非常に大きいものです。平成 25 年度の全国のマクロの数字で見ると、
管理運営費(維持管理費+資本費)ベースで 2.8 兆円、うち浸水対策を除く水再
生部分で 2.2 兆円、さらにそのうち基本的に料金で充当すべきとされている部
分は 1.6 兆円です。
基本的に料金で充当される部分のうち、実際に料金で充てられている割合(経
費回収率)は、この 10 年間くらいの間に、①浸水対策部分に加え水再生部分の
一部に一般会計からの繰入金制度が認められたこと、②高金利の地方債のペナ
ルティなしの繰上償還制度が時限的に認められたこと、③包括的民間委託の導
入など様々な経営の効率化策が推進されたこと等により、10 年前の平成 17 年度
では約 65%であったものが、平成 25 年度は 92%になるまでに改善が進んでき
ています。ただ、節水機器・設備の普及や人口減少等により、この先は予断を許
しませんが。
いずれにしても、このように下水道事業は非常に大きな事業規模を有してい
ますので、新成長(ニュー・グロース)の観点からも PFI・コンセッションなど
民間活力の導入に大きな期待がかけられている状況にもあります。
ただ、下水道事業は、他の事業とは違って、国民生活と密接な関係があるイン
フラであり、料金についても公共料金としての制約があり、また、水再生だけで
なく、市街地の浸水対策も併せて行っている事業であるなど、固有の特色を有し
ています。このため、PFI・コンセッションの事業化に当たっては、他の事業に
も増して様々な検討課題があります。
(下水道事業の仕組みや、PPP/PFI・コンセ
ッションの全体的な動向については、
「下水道事業における PPP/PFI 事業の導入
について-コンセッション方式を中心に-」(ARES 不動産証券化ジャーナル 21
号(平成 26 年 10 月発行))参照。)
下水道は、資源・エネルギーの宝庫
藤川
導入部分は以上にして、本日の座談会では、下水道事業における PFI・
コンセッションの内容をより実践的に見ていくこととし、資源・エネルギー利用
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に関して様々な PFI の事業化を行われている横浜市の長谷川課長と、我が国初
めての下水道事業のコンセッションの事業化に向け具体的な検討を行われてい
る浜松市の髙田次長から、それぞれお話をうかがっていくことにします。また、
併せて、民間の立場から見たご見解をうかがうために、水関係のコンサルタント
である西澤さんにも、参加いただきます。
まず、資源・エネルギー利用関係の PFI の話から入らせていただきますが、そ
の前に、下水道事業における資源・エネルギー利用については、最近よくテレ
ビ・新聞報道で取り上げられるようになってきましたが、まだ一般的には馴染み
の薄い話かも知れません。しかしながら、実際、下水道は資源・エネルギーの宝
庫です。ただ、まだ「宝の持ち腐れ」といえる状況で、今後の資源・エネルギー
の活用については非常に大きなポテンシャルがあるといえます。
具体例でいうと、まず、再生水は、1年間で約 145 億㎥(H25)発生しますが、
現在は約 1 パーセントしか活用されていません。
水再生の過程で発生する下水汚泥ですが、1 年間で約 226 万トン(H25)、これ
は、発電可能量でいいますと約 40 億 kWh で、約 110 万世帯の年間電力使用量に
相当するといわれています。しかし、エネルギー利用の割合は約 1 割にとどま
っています。施設箇所でいうと、消化ガス発電が 55 箇所(H26.3)、固形燃料化
が 10 箇所(H27.3)です。
下水熱も、年間を通して温度が一定なので、ヒートポンプにより非常に効率的
に空調等を行うことができ、利用可能熱量は約 540Gcal/h で、約 80 万世帯の年
間熱量に相当するといわれています。しかし、下水熱利用は、13 箇所(H27.3)
にとどまっています。
リンは、農業肥料等に必要な物質で、国際的な戦略物質といわれますが、下水
道に流入するリンは、1 年間で約 6 万トン、我が国のリン輸入量の約 1 割に相当
するといわれています。しかし、利用されているリンの割合は、約 1 割にとどま
っています。
下水道事業の資源・エネルギー利用について、民間のお立場から、西澤さんに
補足説明していただければと思います。
西澤
人の体に例えると、水道は都市の「動脈」、下水道が「静脈」です。下
水道は使ったものを排出して、濾過する役割があり、人間の都市活動で生じた不
要なものが下水には濃縮されます。その中には資源となる様々な物質が含まれ
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ます。
そもそも、水そのものにも資源価値があるため、下水処理水は昭和 50 年代か
らトイレ用水や修景用水として再利用されてきました。
また、下水は人間活動から発生した熱を含んでいます。藤川室長がご担当され
た昨年の下水道法改正により下水道管内に熱を取り出す設備の設置が可能とな
りましたので、今後は、下水熱利用も本格的に進んでいくことでしょう。
さらに、下水を濾過してこしとった後に残る「下水汚泥」にも栄養分が豊富に
含まれます。昔から肥料分を活用する緑農地利用が行われていましたが、現在で
は、下水汚泥の固形燃料化もありますし、下水処理のメタン発酵により生じる消
化ガスで発電する方法もあります。さらに、水素を取り出してエネルギー源とし
て使う取組も出てきました。
今後は、例えば、食品残渣なども下水処理場に持ち込んで、下水汚泥とともに
バイオマスエネルギーとして利用する事例が増えていく可能性もあります。下
水処理場が地域の資源やエネルギーの循環利用の核になっていく、そのような
時代が到来しており、今後ますます進展していくのかと思います。そのような方
向の中で、官民連携が進んでいければよいと思っています。
藤川
平成 27 年 3 月には福岡市が「水素リーダー都市プロジェクト」により
下水から水素を作り水素自動車に供給する施設を稼働しました。北海道の恵庭
市や富山県の黒部市では、少し前から、生ごみと下水汚泥を一緒にしてバイオガ
ス化して、エネルギー利用を行っています。リーディング・プロジェクトがうま
くいって、徐々に普及していき、設備のコストも下がって、さらに普及していく
という好循環になればいいと思っています。
資源・エネルギー化事業における PFI
藤川
全国で見ると、資源・エネルギー化事業における PFI はいくつかあり
ますが、消化ガス発電事業(汚泥を発酵させた消化ガスで発電する事業)、汚泥
燃料化事業(汚泥を燃料チップにして再利用する燃料化事業)、改良土プラント
事業(下水汚泥の焼却灰をプラントで改良土にして再利用する事業)という 3 つ
の事業を PFI で行っているのは横浜市だけです。資源・エネルギー化事業を PFI
で行っている背景について、長谷川課長の方からご説明願います。
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長谷川
資源・エネルギー化事業は、当初、横浜市が設計・工事・維持管理の
それぞれについて民間に委託して、建設・維持管理を行ってきました。このため、
当然のことながら、施設の仕様は、設計段階で細かく決められるため、性能発注
でなく仕様発注です。
3 つの事業については、各々が施設の老朽化に伴って更新時期を迎えていまし
た。そして、消化ガス発電事業であれば、事業開始から 20 数年たち機械の更新
を検討する段階で、一層の効率化、コスト削減といった課題がありました。汚泥
燃料化事業については、汚泥を灰にする焼却炉の更新を検討する段階で、温室効
果ガスの削減と汚泥の資源化といった課題がありました。改良土プラント事業
については、改良土の販路の拡大が課題となっていました。このような諸課題に
対して、PFI を導入することにより、民間の創意や工夫を入れていこうとしたの
が、ことの発端です。
なお、時期的には、改良土プラント事業が PFI 事業の最初ですが、これは、平
成 11 年の PFI 法施行後すぐの平成 14 年に開始した事業です。当時の政策にお
いても PFI をはじめとする民間活力の導入が掲げられていたことも背景として
あるところです。
消化ガス発電事業における PFI
藤川
それぞれの事業について、簡潔に事業内容をうかがっていきます。ま
ず、消化ガス発電事業は、BTO(Build Transfer Operate)
・サービス購入型です
が、その事業内容について、教えてください。
長谷川
横浜市は 11 箇所の水再生センターで発生する汚泥を、北部汚泥資源
化センターと南部汚泥資源化センターの 2 箇所の資源化センターで集約処理を
しています。消化ガス発電 PFI 事業は、北部汚泥資源化センターで行っていま
す。
資源化センターで汚泥を処理する過程で、副産物として消化ガスが発生しま
す。その消化ガスはメタンを約 60%含むバイオガスです。これを燃料としてガ
スエンジン発電設備を動かし発電をしています。本事業については、PFI 事業者
がガスエンジン発電設備 5 台を建設して、建設をしたものを本市に移管してい
ただきます。運営期間は、平成 22 年度から平成 41 年度までの 20 年間で、市は
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その間に燃料である消化ガスを無償で供給する一方、発電した電気は市が無償
で利用して、余った電力は FIT(固定価格買取制度)で売却し、その収入は市の
管理費に充てます。
藤川
横浜市で使用する電力以外に電力会社に売る分もあるのですか。
長谷川
はい。汚泥資源化センターの隣にはゴミ工場があり、ここでも発電し
ています。センターの電力については、この安価な電気を使うこともできるた
め、センターで発電する電力は余ることになります。
藤川
全体事業費や、横浜市から事業者に支払う金銭は、どのようになってい
ますか。
長谷川
全体事業費は、約 83 億円です。建設費は国土交通省からの交付金を
活用しており、建設費のうち補助裏と維持管理費は、サービス購入料として 20
年間の割賦払いで横浜市が事業者に総額約 59 億円を支払います。維持管理費の
中には、20 年間の管理運営に係る点検費用や交換部品代も全て含まれます。
汚泥燃料化事業における PFI
藤川
次の汚泥燃料化事業も、BTO(Build Transfer Operate)
・サービス購入
型ですが、その事業内容について、教えてください。
長谷川
汚泥燃料化事業は、南部汚泥資源化センター内において行うことと
しています。老朽化している汚泥焼却炉(150 トン/日)を解体して、その敷地
に新しく燃料化施設を PFI 事業者が設計・建設し、建設後に施設を横浜市に移
管していただきます。運営期間は、平成 28 年度から平成 47 年度までの 20 年間
です。PFI 事業者は、横浜市から汚泥を有償で購入するので、市にはその収入が
入ります。PFI 事業者は、横浜市から汚泥を購入し、燃料化炉に入れて燃料化チ
ップをつくり、利用先まで運搬してもらいます。利用先は、石炭の代替物として
使用するボイラーや発電所を想定しています。燃料化チップの販売による儲け
は、PFI 事業者の収入となります。
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藤川
全体事業費や、横浜市から事業者に支払う金銭は、どのようになってい
ますか。
長谷川
全体事業費は約 150 億円です。建設費は国土交通省からの交付金を
活用しており、建設費のうち補助裏と維持管理費は、サービス購入料として 20
年間の割賦払いで横浜市が事業者に総額約 119 億円を支払います。維持管理費
の中には、20 年間の管理運営に係る点検費用や交換部品代も全て含まれます。
藤川
消化ガス発電事業では電気を FIT で売るお金が横浜市に入りましたが、
ここでは汚泥を買い取ってもらうのが横浜市の収入になるわけですね。
長谷川
そうです。しかし収入の期待よりも、将来 20 年間に資源化を保証さ
れている意義がむしろ大きいです。汚泥は廃棄物としての処理は考えられませ
ん。埋めるところがないので、資源化しか道はないのです。買い取り価格が高け
れば収入の足しにはなりますが、売買なので、廃掃法の適用がないことに一番の
意味があります。
髙田
一つ教えてください。20 年間には大小の修繕や改築更新も出てきます
ね。その費用負担は当初に予測できないと思いますが、契約の中でどう処理され
ているのでしょうか。
長谷川
20 年間の事業継続に必要な全ての修繕も含めて契約の中に入ってい
ます。横浜市は、これまで 20 数年間管理してきた実績があるので、おおよその
予測は可能なのです。
髙田
当初の契約金額の中に、修繕を含めたオペレーション費用が全て含ま
れているという理解でいいですか。
長谷川
その通りです。発電施設の稼働期間が増えれば、定期点検等のコスト
もかかってくるので、そのあたりは、シビアに計算されていると思います。
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西澤
新設の場合は、民間提案で事業者側が全て把握できるのでいいですが、
途中で施設を事業者が引き継ぐ場合だと、管理運営に難しいことはありません
か。
長谷川
今回は、新設のようなイメージです。
改良土プラント事業における PFI
藤川
最後の改良土プラント事業は、BTO(Build Transfer Operate)
・独立採
算型ですが、その事業内容について、教えてください。
長谷川
下水汚泥の焼却灰は、土を良質なものにする石灰分が多く含まれて
おり、また土の水分を吸収する効果をもっています。この焼却灰の性質に目を付
けて従来から改良土を製造していました。改良土とは、下水道工事等で掘削され
た土に焼却灰を約 5%混合して良質な埋め戻し材とした土のことです。
焼却灰が増えたため設備の増設を行うこととし、これまで直営だった事業を
PFI 事業にしました。PFI 事業者が改良土プラントの増設費用を出して、能力ア
ップした施設を無償で横浜市に移転していただき、横浜市は平成 15 年度から平
成 25 年度までの 10 年間とその後 5 年間延長していますが、PFI 事業者に施設を
無償でお貸しして、PFI 事業者は改良土の販売で得た収入により改良土プラント
施設の点検・維持管理、資本費を賄っていただくスキームです。
全体事業費のうち、建設費は約 4 億円ですが、独立採算型なので、横浜市が国
から受け取った補助金分の約 2 億円以外、市には実質的な負担は発生していま
せん。
改良土は、以前は、市の下水道工事のために使っていましたが、焼却灰が増え
たので販路の拡大が必要となり、市の下水道工事だけでなく、道路工事や水道工
事でも使ってもらうように働きかけました。ここは、市が PFI 事業者に協力し
ている部分です。
藤川
改良土の民間受け入れはありますか。
長谷川
民間のガス工事で受け入れてもらっていますが、民間は数パーセン
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トといったところです。やはり、公共工事が 9 割以上です。
PFI 事業の具体的なメリット
藤川
それぞれの事業を PFI で行ったことの具体的なメリットについて、VFM
(Value for Money)を含め、ご説明ください。
長谷川
消化ガス発電事業は VFM で 8.4%、金額にして約 4.2 億円のコスト縮
減につながっています。また、低公害、省エネ型のエンジンを採用しているので
従来に比べて CO2 の排出量も約 25%削減されています。事業期間の 20 年間、横
浜市は定期修繕や故障といった管理リスクから解放されますし、割賦払いのサ
ービス購入であれば支払額も変動しません。PFI 事業者にとってもコンスタント
に収入があるので優良なスキームだと思います。
汚泥燃料化事業も全く同様で、VFM で 20%、金額にして約 23 億円のコスト縮
減につながっています。この事業では汚泥の資源化が 20 年間保証されたことで、
最終処分を行うことがなくなりました。汚泥の燃料化はこの先も永遠に続く保
証はありませんが、市に次の資源化方法を考える期間として 20 年間与えられた
意味は大きいです。
藤川
改良土プラント事業は、民設民営ですから、VMF(Value for Money)で
はなく、コスト削減額でどのくらいでしょうか。
長谷川
市が直営で委託していた時に比べて、
10 年間で約 2 億円になります。
ファイナンス面の比較
藤川
ファイナンス面では、民間資金の PFI と公的資金の DBO(Design Build
Operate)との比較についてはいかがでしょうか。これは、いつも論点になる話
ですが、民間金利と比べれば地方債金利は安いはずです。PFI として民間資金を
活用したのはなぜでしょうか。
長谷川
横浜市は、資金調達は基本的に市場での公募債が多く、10 年後に元
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金一括で返済するパターンが主流ですが、PFI だと事業者への支払いが平準化さ
れるのが最大のメリットです。市全体としての起債残高の制約もあるので、平準
化のメリットがあります。
藤川
民間資金であると、事業者が金融機関からモニタリングを受けるメリ
ットもあるという話も聞きますが、実態はどうなのでしょうか。
長谷川
我々の他にも金融機関のモニタリングが行われれば、事業の安定化
に効果があると思います。
藤川
長谷川
他に、DBO と比較した PFI のメリットはありますか。
DBO の場合、設計・建設、運営・維持管理にあたりの契約がいくつか
に分かれるのが実態です。その点、PFI は一つの契約で全部決まり、体系的でや
りやすいと思います。さらに、横浜市では「共創」と言っていますが、行政と民
間のコラボをサポートする共創推進室の協力もあり、PFI を推進しています。
藤川
資源・エネルギー化事業における官民連携は、技術革新の進展やその普
及により、様々な方式で今後ますます進んでいくと思われますが、民間の立場か
ら見た見通しについて、どのようにお考えですか。
西澤
今後、様々な方式の普及が進んでいくと思っています。消化ガス発電に
ついて最近注目されているのが民設民営方式です。民間が自己資金で発電施設
をつくり、消化ガスを処理場から買って発電・売電して、投資資金を回収し、利
益を得ていくというものです。FIT の利用が前提ですが、公費負担は一切ありま
せん。ここ約 2 年で 20 件程普及しています。
藤川
普及の背景には、何があるのでしょうか。
西澤
公的主体が FIT を利用する場合には消化槽まで事業認定を得る必要が
あるなど、仕組みがやや複雑ですが、民設民営の消化ガス発電は FIT の認定が
比較的容易に受けられることもあり、民間が積極的に乗り出しています。
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藤川
理念系で考えても、それで制度が問題なく回るなら、官民連携の究極の
到達点は、完全な民営化ですよね。官が関与する理由が何もなければ、官は関与
してはいけませんね。事業期間はどのくらいでしょうか。
西澤
15~20 年が主流です。設備投資に対応するだけ事業を継続しなければ
資金回収は困難です。何か奇抜な技術革新や制度設計があって民間の知恵がも
っと出てくれば、さらに面白い取組も増えてくるのではないでしょうか。
今のところ、汚泥利用で PFI 方式を採用することは、小規模事業にとっては
難しい。ただ、最近、民間事業者が小規模事業を対象にした資源利用方策を考え
ていますし、小型で採算が取れるものも遠くない将来できてくると思います。昨
年の下水道法改正で、広域化・共同化を後押しする協議会制度も創設されまし
た。汚泥利用についても、広域化・共同化に向けた取組が進められると、さらに
普及がしやすい環境ができると思います。
さらに、長期的なビジョンですが、下水道という枠を超えて、下水処理場にバ
イオマス全てを持ち込んでエネルギー回収をする方向にだんだん向かっていく
と思います。未来都市では、処理場が資源・エネルギー利用の拠点となっている
ことでしょう。
藤川
国においては、一昨年 7 月に下水道の新たなビジョンを策定し、昨年 2
月に社会資本整備審議会から、新たな下水道政策の方向性が示されましたが、大
きな柱の一つが「資源・エネルギー利用」です。下水道の資源・エネルギー利用
をさらに大きな流れにしていくためには、制度の合理化をはじめ様々な課題も
あるわけですが、今後とも、自治体、民間事業者の方々と連携して、未来都市に
向けて歩みを進めたいものです。
処理場の維持管理へのコンセッションの導入
藤川
以上で、PFI の話は、終わりにして、次は、コンセッションの話に入っ
ていこうと思います。
コンセッションについては、空港事業において、関西国際空港・大阪国際空港、
仙台空港で事業開始に向けた手続きが進められている状況にあるなど、取組が
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進んでいます。空港事業のコンセッションは、これまで別組織で行われていた滑
走路、エプロン等に係る航空系事業とターミナルビル、駐車場等に係る非航空系
事業を一体化することにより、非航空系事業であげた収益を活用して着陸料等
の値下げを行い、LCC などの空港利用を促すことでさらに利益を増やし、空港全
体で事業の活性化を図っていこうとするものです。
他方、下水道事業については、国民生活の非常に密着したインフラであり、公
共料金としての規制もある中で、どちらかというと、現在想定されているのは、
職員数の減少で執行体制が脆弱化している自治体において、下水道の維持管理
や施設の改築更新等について、公権力の行使等の行政固有業務以外の業務を包
括的に、かつ、概ね 20 年といった長期間で民間事業者に担ってもらうことによ
り、民間の活力を最大限導入し、下水道事業の維持を図っていこうとするもので
す。
イメージ的にあえて言えば、前者が、リスク・リターンが比較的高いのに対し、
後者は比較的低いといっていいのでしょうか。構造としては、前半で議論した資
源・エネルギー化事業 PFI と比べても、その傾向が強いと思います。
また、下水道事業については、水再生だけでなく、浸水対策も行っていますし、
また、下水道法に基づく様々なルール、補助金制度、地方財政制度等が複雑に絡
み合って仕組みができています。
このようなことから、下水道事業におけるコンセッションの具体化は、全く新
たな制度設計を行う話であり、様々な制度との調整をはじめ、いろいろ綿密な検
討が求められます。
現在、浜松市においては、全国初の取組として、事業化に向けた具体的な検討
を進められていますが、まず、浜松市がコンセッションの具体的な検討を始めら
れた背景について、髙田次長にお話をうかがいます。
髙田
浜松市は面積が 1,558k ㎡で、これは高山市に次いで日本で二番目の面
積になります。政令指定都市といえども山間部を抱え半分は過疎の状態で、市街
地に加えて、山、川、湖ありで、
「国土縮図型都市」といえると思います。裏を
返すと、浜松市でコンセッションが一定の成果を収めることができれば、全国の
市町村の参考となるのではないでしょうか。
検討の大きな背景としては、大きく 3 つあります。まず、施設の老朽化が進ん
でいて今後の更新需要が増えていくこと、次に、人口減少と節水機器の普及で使
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用料収入が減ってきていること、さらには、市の職員の減少による今後における
技術承継の懸念です。このため、市では平成 23 年度から上下水道事業で何か新
たな官民連携の手法が導入できないか研究を始めました。
そして、静岡県が管理していた西遠流域下水道が本市に事業移管されること
になり、これを機に、より具体的な検討に入っていきました。本年度は、まだ静
岡県が管理していますが、合併特例法の猶予期限となる平成 28 年 4 月には県か
ら市に移管されます。
この西遠流域下水道は、市内処理水量の 6 割を占める市最大の処理区です。
移管に伴い、この事業に従事する職員の新たな配置が必要となりますが、下水道
事業においても行財政改革の一環として組織のスリム化に取り組んでおり、技
術系職員も減少している中で、西遠処理区を運営するために大幅な増員は難し
い状況にあります。また、この移管を機に一層の効率化を進める必要もありま
す。ちょうど、平成 23 年には改正 PFI 法により、コンセッション方式が創設さ
れ、平成 26 年には国土交通省から、下水道事業に関するガイドラインが公表さ
れたところでもあり、このような流れを踏まえ、西遠流域下水道事業の管理手法
として、具体的にコンセッションを念頭においた検討が始まりました。公による
ピンチを民間との連携により、新たな運営手法を生み出すチャンスに変えられ
ないかという発想です。
コンセッションの基本スキーム、今後のスケジュール
藤川
先ほども申し上げましたが、空港事業と違って、下水道事業のコンセッ
ションは、何か大きく収益を向上させるというのでなく、維持管理、改築等の業
務を長期間まとめて民間事業者に任せることにより、維持管理等の効率性を向
上させていこうとするものですが、浜松市が考えられておられるコンセッショ
ンの基本スキームについて、今後のスケジュールを含めご説明をお願いします。
髙田
平成 27 年 6 月に実施方針の素案を公表したところ、400 件以上のご意
見をいただきました。関心も非常に高く様々な意見があったので、それらを参考
にさらに検討を重ね、現在、実施方針の公表に向け作業を進めています。年度内
には実施方針・募集要項を取りまとめ、公表に漕ぎ着けたいと考えています。
西遠流域下水道の対象施設には西遠浄化センター(20 万トン/日)と 2 つの中
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継ポンプ場(浜名、阿蔵)があります。これらの施設の維持管理と改築更新を 20
年間にわたってコンセッション方式で進めようというものです。コンセッショ
ンの導入は平成 30 年度からを計画していますが、来年度には県から市に移管さ
れるため、当初 2 年間は、修繕費も含めた包括的民間委託のレベル 3 で対応し
ようと考えています。
コンセッションの対象業務は、維持管理、施設・設備の改築更新、利用料金収
受等で、これらは「義務事業」と位置付けています。また、
「附帯事業」として
既存の処理工程にとらわれない新たな処理工程による事業、さらには、民間事業
者が自らの創意工夫により独立採算で行う「任意事業」が含まれます。
本事業は、改築更新において国庫補助を受け補助裏を起債する、いわゆる「混
合型コンセッション」であるため、運営権対価はなかなか見えにくいスキームだ
と思います。しかしながら、運営権対価については、応募者には創意工夫による
効率化で、零円以上での提案を期待するところです。
藤川
コンセッションは、民間事業者が別途利用者から利用料金を徴収する
という仕組みですが、下水道事業については、どうしても行政固有の業務が残り
ますので、行政から徴収する使用料と二本立てになると整理されています。もち
ろん、運用上は一体的に徴収することになると思われますので、家庭サイドから
見た違いは少ないと思いますが。いずれにしても、具体的に、利用料金、 使用
料をどう設定するかの課題もありますね。
あと、維持管理だけのコンセッションなら、その問題をクリアしたら、基本的
には、現在の包括的民間委託の延長線上で考えられるので、山頂が見えてくるよ
うな感じもしますが、改築更新を含むコンセッションだと、そのあたりの制度設
計が難しいですよね。エベレストでいうと、8,000 メートルを超えたデスゾーン
に突入ですか(笑)。
髙田
当初案では、下水道事業の複雑な収入構造を考え、維持管理の部分だけ
でコンセッションができないかとも考えました。しかし、それですと、改築更新
部分は実質 DBO 方式になってしまい、民間の創意工夫による効率化が限定され
てしまいます。
そこで、対象業務には改築更新も含めますが、改築更新のファイナンスは、国
庫補助 5 割、地方債 4 割、民間事業者調達 1 割とする仕組みを考えました。こ
14
の仕組みは、「混合型コンセッション浜松方式」とでも申せましょうか。
藤川
民間事業者の創意・工夫として、期待されているのは、具体的にどのよ
うなところですか。
髙田
施設の維持管理と改築更新とセットにしたことによって、業務範囲に
おけるスケールメリットが働きます。維持管理で得たノウハウを基にムダのな
い効率的な改築更新を行っていただき、その後の維持管理の効率化も図ってい
ただくという相乗効果を期待しています。事業期間は 20 年ですから、期間的に
もスケールメリットが出てくると思います。包括的民間委託では、長くても 5 年
間というのが相場ですので、20 年間という長期間による効果は大きいと思いま
す。さらに、民間提案による「附帯事業」、
「任意事業」にも期待したいですね。
藤川
ムダのない効率的な改築更新ができる仕組みをいかに構築していくか、
下水道政策全体から見ても、大きな課題ですね。現場の人の話を聞くと、よく、
維持管理を実際に触っている人でなければ、オーバースペックとならない、いい
提案はできないと言われます。確かにそういうことがあるのでしょう。
また、包括的民間委託を請け負っている事業者からは、よく、現在の契約期間
の相場は概ね 3 年くらいだが、長くしてくれると、業務全体を大きく効率化で
きるという話もお聞きします。
他方、先ほどもありましたが、契約期間を長期化することについては、どのよ
うに、行政と民間事業者の間でバランスの取れた適正なルールをつくるかとい
うことが難しい課題となりますね。
髙田
相当難しい世界に足を踏み入れたことに間違いありません。
今回は西遠流域下水道という具体の課題に直面して、コンセッションの実施
を決めましたが、対外的なコンプライアンスにも、しっかり対応できるように、
一つ一つ課題をクリアしていかなければなりません。先ほど申し上げたとおり、
民間の資金調達を 10 分の 1 組み込む等により、官民バランスの取れた制度を構
築していきたいと思います。
10 分の 1 の民間投資部分については、PFI のところでも議論がありましたが、
金融機関からのファイナンスも考えられますので、その場合には、金融機関によ
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る経営モニタリングにも期待をしています。事業の持続性や安全性が担保でき
ればいいと思います。
浜松市は、市長の方針の下、行財政改革が積極的に推進されており、上下水道
部でも委託化や事業の効率化を積極的に推し進め、平成 17 年の合併から平成 26
年までの 10 年弱で、下水道の職員は約 40%削減、水道の職員は約 25%削減して
います。このようなことから、西遠流域下水道のコンセッションに限らず、他の
10 処理区についても、様々なエリアの特徴にあった形で官民連携を推進し、下
水道事業の持続を確保していきたいと思っています。
藤川
国土交通省としても、引き続き、支援を行ってまいりたいと思いますの
で、今後とも、現場の声を聞かせていただければと存じます。
それでは、コンセッションの議論の最後として、民間の立場から見た今後の見通
しについて、どのようにお考えですか。
西澤
政府、国土交通省が、コンセッション案件形成に大変尽力されている中
で、浜松市は大規模な流域下水道の移管という話を契機として、トップランナー
を走っておられます。
やはり、その背景としては、自治体職員の不足という全国共通の事情がありま
す。しかし、自治体職員を増やしていく状況にはなく、どうしても、民間との連
携を探っていくという道しかないのだと思います。
また、もう一つは、これも全国共通の事情ですが、下水道は一時期に投資して
いるため、改築も一時期にきて、財政負担の大きな山ができることになります。
地方財政の厳しい状況の中で、うまく財政負担を平準化していくことが不可欠
ですし、そのためには、維持管理と計画的な改築を一体化してマネジメントする
能力が求められます。もし、市町村ではなく民間がした方が効率的ならば、必然
的に、民間に委託するという方向になりますね。
そのような中で、浜松市が全国の先陣を切って、下水道コンセッションの浜松
モデルを提示していただければ、全国の下水道事業体が雪崩を打って追随する
可能性もあると思っています。
官民連携の抱負と期待
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藤川
だいたい議論も尽きてきたと思われますので、以上で、コンセッション
の話は終わりにして、最後に、皆様方から、下水道事業全般における今後の官民
連携のあり方について、考え・抱負、期待など、何でも結構ですので、いただけ
ればと思います。
長谷川
横浜市は PFI も包括的民間委託もしていますが、いずれもコスト縮
減を求める傾向が強くありました。もちろん、VFM も重要な点ではありますが、
新しい管理方法や汚泥の価値創造といったイノベーション的なものを導入して
いくという観点が重要です。そして、その分野は民間の力が勝っていると思いま
す。
そのような民の力を十分発揮してもらうよう官民連携をもっと広げていく必
要がありますが、そのためには、民間事業者が手を挙げやすいように事業の内容
と規模をよく見極めた上で、適切なリスク分担を行うことがカギになると思い
ます。それには、情報提供の仕方も工夫が必要です。包括的民間委託では、既に
請け負っている事業者と新たな事業者では情報に格差があります。稼働中の PFI
では、施設を設計した事業者の方が有利になります。事業者の枠を広げ、競争を
促進する上でも、バランスの取れた競争環境の整備が重要と考えています。
藤川 「リスクの適正な分担」、
「情報開示」と言えば、それまでなのですが、
細部の仕組みをどのように設計するかということは、実務としての本当に難し
いところですね。もちろん、いろいろなことを慎重に考慮して具体的な検討をし
ていくのですが、最後は、トライアル・アンド・エラーでやっていくしかない部
分もあるのかも知れません。
髙田
浜松市は、市長の「民でできるものは民で」という基本姿勢があります
し、また、上・下水道合わせて 300 人足らずの職員で運営している現状の中では
官民連携の推進は必然の流れです。
ただ、1点だけ留意しないといけないのは、官民連携を推進する中にあって
も、市職員の技術力を喪失させず、維持していくことです。包括的民間委託でも、
PFI でも、コンセッションでも、市職員の事業者に対するモニタリング能力がな
ければ、必ず支障が生じてきます。官民連携を強力に推進する一方、市の職員の
技術力を派遣や研修等を通じて育成していくことも、しっかり取り組んでまい
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りたいと思います。
藤川
極めて重要な点ですね。市町村の上下水道の管理者に民間企業から就
任される方もおられますが、そのような方から、行政プロパー職員よりもむし
ろ、市職員の技術力の維持を考えない単純なコスト削減策に対して強く疑問を
呈されることがありますね。どんな事業であれ、最後は、人づくりになるのでし
ょうが、「人なくば、立たず」の信念でやっていく必要がありますね。
西澤
どちらかというと、これまでの官民連携の構図は、官の窮地を民に救っ
てもらうという向きがあったのではないでしょうか。しかし、時代は、お互いの
自立した関係の中で、民から有意義な提案を官にしてもらい、官民がともにウィ
ン-ウィンになる関係を築くことに変わりつつあります。PFI 法第 6 条には民間
提案の規定もあり、民としても最大限活用していくべきでしょう。
加えて、これまでの議論でもありましたが、官民連携事業については、民間企業
のビジネスとして成り立たせる工夫が必要です。一つは、広域化・共同化です。
昨年の下水道法改正で協議会制度ができたことは非常によかったと思います。
今後、国や都道府県がイニシャチブを取って、市町村の取組を促進していくこと
を期待しています。あと一つは、事業期間の長期化です。安定的な収益の面や、
人の確保の面で、事業期間の長期化は非常に重要です。コンセッションに限ら
ず、包括的民間委託についてもいえますが、契約期間の長期化について、官民が
ウィン-ウィンの関係で話し合っていく余地は大きいのではないでしょうか。
藤川
貴重なご提案を含め、いろいろなお話を頂戴し、ありがとうございまし
た。
下水道事業の PPP/PFI・コンセッションと金融マーケット
藤川
最後に 1 点だけ、少し話はそれますが、不動産証券化協会の事務局か
ら、下水道事業の PPP/PFI・コンセッションと金融マーケットとの関係について
見解をいただけないかとのお話がありました。本日のメンバーとしては若干射
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程から離れることかと思いますが、実は私は、課長補佐として、J リートの立ち
上げや、協会の設立にたずさわった経験もありますので、ご依頼ということで、
あくまで個人的な見解となりますが、簡単にお話したいと存じます。
下水道事業の資金調達については、簡単に言えば、国庫補助金と補助裏部分等
に係る地方債が基本となっています。そして、地方債については、横浜市のよう
に市場での公募債により資金調達を行うところもありますが、多くは、公的金融
を活用した長期のファイナンス(例:5 年据置き・30 年償還)です。
今後、PFI・コンセッションが拡大していけば、当然のことながら、民間事業
者の資金調達分については、民間金融が活用されることとなり、その部分が拡大
していくことになろうかと思います。現行の PFI では、金融機関のプロジェク
ト・ファイナンスが主流でしょうか。もちろん、民間における資金調達方法は、
これと決まったものがあるわけでなく、資金調達を行う事業の特性に応じて、仕
組金融を含め様々な方式があるのでしょうから、当たり前のことですが、ニーズ
があれば、中長期的に金融マーケットでいろいろな受け皿ができてくるのでし
ょう。
投資法人等は受け皿になる余地はあるのかとのご質問もありましたが、ちょ
っとよく分かりません。PFI・コンセッションの話は横において資産の切り離し
ニーズという話なら、制度的な整理は平成 14 年に国土交通省において行われて
いて、公物管理法上も一定の条件を満たせば否定されないことになっています
が、はたして、現在の地方財政制度、公的金融制度の下で想定されるのか否か。
そういう話ではなく、コンセッションの運営権の証券化みたいな話なら、仮に、
運営権対価として当初に莫大な資金が必要となるようなケースなら、資金調達
の議論として何か出てくるような気もしますが、ただ、現在のところ、空港でさ
え莫大な運営権対価を当初一括で徴収するという話にはなっていませんよね。
いずれにしても、まず、前門の虎である導管性要件という大きな課題があるので
しょうから、それを破るだけの強力なニーズ・必要性が出てくるかが課題となる
のでしょうか。その点、再生エネルギー発電設備を対象とした投資法人の組成が
時限的に認められたとのことですので、今後どれくらい活用されていくのか注
目したいものです。
それはさておき、水事業運営ビジネスと金融マーケットとの関係について言
えば、よく、下水道の維持管理を行っておられる比較的大きな会社のトップの方
から、欧米に調査に行くと、水事業運営会社の株式は、ペンション・ファンドの
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投資先として結構人気があるということを聞きます。公共料金が基本的な収入
源ですので収益が安定していて、ミドルリスク・ミドルリターンのいい投資対象
になっているということです。
この点について、ざくっと言えば、不動産投資と似通った性格があると言って
もいいのでしょうか。昔話になって恐縮ですが、私が課長補佐で不動産証券化を
担当していた時、先進地ということでオーストラリアに視察に行ったことがあ
りました。いろいろな人に話を聞いたのですが、皆さん、年金基金の有力な投資
対象に不動産証券化商品-LPT とか言ってましたでしょうか-、がなっており、
リタイアした人が高い配当を得て非常に安定した実りの多い老後を暮している
とかいう話を聞いたりしました。日本も成熟した社会にするためには、こういう
ことも必要なのかな、と感じたことを思い出します。
我が国の年金の運用のあり方については、様々難しい問題があるのだと思い
ますが、長期投資の安定した受け皿として、ミドルリスク・ミドルリターンの厚
みのある投資先環境をつくっていくことは、超高齢化する我が国において大変
重要な話ですよね。不動産投資については、引き続き、いろいろがんばっておら
れ、徐々に成果があがってきているのだと思いますが、水事業運営ビジネスにつ
いては、ポテンシャルはどのくらい見込まれるのかどうか。
脱線ついでに、これは我が国における現実的な投資評価みたいな話になりま
すが、私が不動産証券化を担当していた時は J リートの立ち上げ期で、当時の
大臣が J リートの普及に非常に熱心な方であったこともあり、私もいろいろの
投資家筋の説明に回りました。今はどうなっているのか知りませんが、ミドルリ
スク・ミドルリターンの商品を想定していますと綺麗に書いたパワーポイント
の資料を持っていって説明すると、イメージがわかないとか結構冷たく言われ
たものです。しかし、いろいろ話をしていると、安定的な公益事業を行う企業の
株式イメージで配当性向の高い「配当株」と言われたら分かると言われたりしま
した。もちろん、電力業界は大変動がありましたので、配当株といっても具体的
なイメージは変わってきているのかも知れませんし、また、Jリートが現在マー
ケットでどのような評価を受けているかも詳しく承知していませんが、水事業
運営ビジネスについて言えば、水事業運営もやっておられ、将来的にこの分野の
事業拡大を目指している会社が、最近、東京証券取引所に上場されましたが、初
めて、企業分類上、公益事業(電気・ガス業)のグループに入りました。今後、
電力事業・ガス事業の自由化が進展すると見込まれる中で、不動産投資を含め、
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将来の我が国の投資市場における「ミドルリスク・ミドルリターン投資」は、ど
のようになっていくのでしょうか。
脱線が過ぎました。まぁ、いずれにしても、そのあたりの評価は、すべてマー
ケットが決めることが基本なので、そのことを肝に銘じる必要がありますが、プ
ロジェクト・ファイナンス、インフラ・ファイナンスという話だけではなく、水
事業運営ビジネスという観点から見ても、将来的に、いろいろおもしろい展開が
あるのかも知れません。
水事業運営ビジネスのポテンシャルに関しては、今回の座談会では、インフラ
輸出の話は対象になりませんでしたが、下水道も、国・自治体・民間等が連携し
てプラットフォームを立ち上げ、アジア諸国の中心に、一生懸命がんばっていま
す。日本は、膜技術等、相当のシェアを確保している分野もありますが、できれ
ば、単品製品に加え、水事業運営ビジネスとしてコミットメントしたい。ただ、
民間事業者の方から、包括的民間委託が始まってそんなに長い時間がたってい
るわけでもないので、まだ事業運営のノウハウが確立していないという話を聞
くこともあります。官民連携の推進は、今後のインフラ輸出にも資するところが
あるのだと思います。
脱線につぐ、脱線になってしまいましたね。時間もだいぶ超過してきましたの
で、そろそろ締めの言葉とさせていただきたいと思いますが、本日、皆様方のお
話をお聞きして強く感じたことは、官民連携の要は、
「協働」
・
「コラボレーショ
ン」にあるのではないか、ということです。これらの言葉は、もう新味はなくな
ってきたのかも知れませんが、現場実務の観点から見ると、なんのなんのそうで
はなくて、非常にエキサイティングな言葉でありまして、まさに厳しい時代状況
にあっても、というかそういう時代であればこそ、官民が真の意味で、協働・コ
ラボレーションしていかなければいけない、ということだと思います。それも、
評論家的に抽象論で言っていても始まらない。実務家が一つ一つ具体的な取組
を積み上げて環境づくりをしていくことしか、前進はありません。
「千虚、一実
に如かず」です。その点、歴史に裏付けられた知恵があるヨーロッパは、官民の
ネットワークも使って、具体的に手堅くやっていますよね。日本にはいろいろな
制約がありますが、日本人には官民の現場力がありますし、下水道には長年の民
間委託の歴史もあります。明確な旗印の下にオール・ジャパンで取り組めば、乗
り越えていけるのではないでしょうか。
最後に、下水道システムの持続と革新に向けて、益々、官民が連携(協働・コ
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ラボレーション)していくことを祈念いたしまして、座談会の締めとさせていた
だきます。長時間、ありがとうございました。
(なお、下水道政策をめぐる各種論考等については、専用のサイト
(http://www.gk-p.jp/gkp2/library-pro.html)がありますので、ご関心のある
方は適宜ご参照ください。)
(なお、本稿の意見にわたる部分は、参加者の個人的見解であり、所属する組織
の見解でないことをご了承ください。)
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