太陽光発電・蓄電池付き電気自動車用急速充電器 「PV

Technical Explanation
技術解説
太陽光発電・蓄電池付き電気自動車用急速充電器
「PV-EV システム」の開発
Development of Electric Vehicle Quick-charger
with Battery and Photovoltaic
Power Generation System
伊
藤
堀
横
孝
恵
山
晋
典*
輔*
也*
道
小
芦
永
山
田
勝
博
久*
康*
治*
有
大
吉
詫
芝
本
間
正
健
隆
嗣*
太*
史*
Takanori Ito
Katsuhisa Michinaga
Masashi Oshiba
Keisuke Hori
Hiroyasu Koyama
Kenta Yoshimoto
Shinya Yokoyama
Yuji Ashida
Takafumi Takuma
Abstract
We have developed a clean energy system that consist of a photovoltaic power generation system (Below PV
system), Li-ion battery and an electric vehicle quick charger. Power generated by the PV system is stored in the
battery and later used to charge an electric vehicle. We have started test runs of this system to check its efficiency.
Key words : Quick charger ; Clean energy system ; Li-ion battery ; Photovoltaic power generation system ; Electric vehicle
1
まえがき
EV を普及させるには短時間で充電できる急速充電
器のインフラ整備が重要であるが,急速充電する際に
近年,低炭素社会の実現に向け,太陽光発電(以下
電力系統から高容量のエネルギーを受電するため,特
PV)
や電気自動車
(以下 EV)
への関心が高まっている.
別な受電設備が必要となる.今回,PV,蓄電池,急
PV は発電時に CO2 を排出しない,同様に EV も走
速充電器を組み合わせたシステムを開発した.PV で
行中に CO2 を排出しないクリーンカーであり,国や
発電したエネルギーを蓄電池に貯め,EV へ急速充電
各自治体により補助金制度の施策が積極的におこなわ
をおこなうことにより電力系統の負担を軽くすること
れている.
ができる.また太陽光をエネルギー源とすることで,
大幅な CO2 の削減が期待できる.本稿では,PV-EV
* 産業電池電源事業部
電源システム生産本部
システムの概要と実証試験の運用状況について報告す
開発部
© 2011 GS Yuasa International Ltd., All rights reserved.
る.
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GS Yuasa Technical Report
2
2011 年 12 月
PV-EV システムの概要
3
今回開発した PV-EV システムの概要を図 1 に示す.
第8巻
第2号
PV-EV システムの構成
本システムの構成は図 2 に示すように,太陽電池,
本システムは,PV,蓄電池,急速充電器を組み合わ
パワーコンディショナ,リチウムイオン電池,急速充
せ EV へ急速充電をおこなう.PV で得られた電力は
電器から構成される.パワーコンディショナは太陽電
パワーコンディショナを介して蓄電池に貯えられ,急
池の発電電力や電力系統からの受電電力をリチウムイ
速充電器によって EV へ充電される.本システムは電
オン電池へ貯え,電池状態により電力系統への逆潮流
力系統から直接 EV へ充電するのではなく,蓄電池に
や受電する制御をおこなう.電力系統へ逆潮流する際
貯えた電力を使用することで受電容量の低減を可能と
は,受電電力検出ユニットにより,電池に貯えられた
している.また EV の走行で消費されるエネルギーを
電力が逆潮流しないよう制御している.蓄電池は充放
PV で補うため,環境負荷の小さいシステムといえる.
電効率に優れたリチウムイオン電池を採用しており,
さらに蓄電池が満充電の場合には電力系統へ発電電力
パワーコンディショナを介して電力を貯蔵し,EV へ
を逆潮流でき,日射が少ない場合は電力系統から蓄電
の充電の他にも非常用電源として利用できる.貯えら
池へ電力を貯えることも可能である.
れた電力は電池管理装置によって電圧や温度が常時監
PV
パワーコンディショナ
電力系統
蓄電池
蓄電池箱
急速充電器
図 1 システム概要
パワーコンディショナ
(4.5 kW)
太陽電池
受電電量
検出ユニット
EV
電力系統
(単相3線式 200 V)
非常用コンセント
(AC 100V)
蓄電池箱
急速充電器
(19 kW)
EV
電池管理
装置
リチウムイオン電池
(16 kWh)
図 2 システム構成図
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GS Yuasa Technical Report
2011 年 12 月
3.2
視されている.急速充電器はリチウムイオン電池に貯
えられた電力を,EV へ急速充電する.
第8巻
第2号
急速充電器
急速充電器はリチウムイオン電池に貯えられた電力
通常 EV への急速充電には電力系統から三相交流の
を用いて,EV へ急速充電をおこなう.充電中は EV
受電を必要とするが,リチウムイオン電池を併設する
から指令を受け,必要とされる電力を供給する 1).本
ことで,一般的な低圧受電設備の単相 3 線式で対応可
体の表示画面はシステムの運転状況が一目で確認でき
能となる.
るように,電力の流れや PV の発電電力,電力系統か
本システムは太陽電池の発電から EV への充電まで
らの受電電力,蓄電池の充電状態を表示している.ま
全て直流電力であることから,電力変換の段数が少な
た EV への充電時間や充電量も表示しており充電状況
く,システム効率が高い.また本システムには非常用
が簡単に確認できる.急速充電器の外観を図 5,表示
コンセントを備えており,災害時にリチウムイオン電
画面を図 6,基本仕様を表 2 に示す.
池に貯えられた電力を利用することも可能である.
3.1 蓄電池箱
表 2 急速充電器仕様
蓄電池箱にはパワーコンディショナとリチウムイ
入力電圧
出力電圧
定格容量
効率
充電プロトコル
寸法
オン電池が収納されている.蓄電池箱の内観図を図
3,仕様を表 1 に示す.リチウムイオン電池を用いる
ことで蓄電池箱を小型・軽量化することができ,設置
場所の選定が容易である.リチウムイオン電池は図 4
DC 300 〜 360 V
DC 50 〜 500 V
19 kW
90% 以上(充電制御部を除く)
チャデモプロトコル
W 950 × D 700 × H 1600 mm
に示すようなモジュールを 11 個接続し,全体で約 16
kWh の容量となる.モジュールは各セルの電圧や温
度を監視しており,セルバランス機能により電圧のば
らつきを調整し最適な電池状態を保持している.
表 1 蓄電池箱の仕様
直流電圧
交流電圧
寸法
DC 230 V(入力)
DC 300 〜 360 V(出力)
AC 202 V
W 942 × D 168 × H 1655 mm
図4
リチウムイオン電池モジュール
図5
急速充電器
パワーコンディショナ
リチウムイオン電池
図3
蓄電池箱内観図
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GS Yuasa Technical Report
2011 年 12 月
PV-EV システムの動作モード
4
第8巻
第2号
5 実証試験状況
5.1
本システムの動作モードを表 3 に示す.動作モード
システム設置状況
は大きく分けて 6 種に大別され,電力系統が健全時と
実証試験システムの設置状況を図 7 に示す.システ
停電時,および太陽電池の発電状況や蓄電池の残容量
ムは蓄電池箱がコンパクトであるため狭い場所に設置
によって動作が異なる.
できる.また,蓄電池に貯えた電力で EV に充電する
表3
PV-EV 動作モード
動作モード
電力系統
動作図
動作説明
蓄電池容量が急速充電に可能な充
モード 1
電量である場合,蓄電池への充電
を太陽電池からのみ充電する
蓄電池容量が急速充電に可能な充
電量を下回っている場合,蓄電池
モード 2
への充電を太陽電池と電力系統か
ら充電する
健全
蓄電池が満充電時に太陽電池の発
モード 3
電電力を電力系統へ逆潮流する
夜間時に蓄電池容量が急速充電に
モード 4
可能な充電量である場合,待機す
る
モード 5
太陽電池から蓄電池へ充電する
停電
モード 6
蓄電池の残量により急速充電する
50
GS Yuasa Technical Report
2011 年 12 月
1400
1200
第8巻
充電回数:128回
1224 kWh
1000
電力量 / kWh
第2号
642 kWh
752 kWh
800
110 kWh
600
508 kWh
400
200
0
表示画面
図8
太陽電池(2 kW)
蓄電池状態 / %
電気自動車
蓄電池箱
電力系統
逆潮流
電力量
電力系統
受電電力量
実証試験における電力量の内訳
100
急速充電器
80
60
40
20
0
図7
EV充電
電力量
EV 充電開始
5
4
3
2
PV 電力
蓄電池充電
1
開始
0
-1
-2
系統電力
逆潮流開始
-3
-4
-5
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
蓄電池状態
電力 / kW
図6
PV電力量
時刻
実証試験システムの設置状況
図9
1 日の電力の動き
ため,電力系統の受電容量を変更することなく施工可
能である.
5.2
運用状況
充電終了後は PV と電力系統の双方からリチウムイオ
実証試験開始から 6 ヶ月間の PV の電力量,EV へ
ン電池への充電動作がおこなわれている.13 時頃に
の充電電力量,電力系統への逆潮流電力量(売電),
リチウムイオン電池が満充電になり,再び逆潮流して
電力系統からの受電電力量(買電)のグラフを図 8 に
いる.以上のことからシステムが良好に動作している
示す.運用状況は充電回数が 128 回であり,月平均で
と確認できる.
約 20 回の頻度で充電がおこなわれた.PV 電力の累計
6
は 1224 kWh であり EV への充電電力量 508 kWh を
まとめ
上回っている.電力系統への逆潮流電力量 752 kWh
についても受電電力量 642 kWh を上回り,2 kW の
本稿では PV,蓄電池,急速充電器を組み合わせた
太陽電池パネルを利用した PV-EV システムの電力収
PV-EV システムについて紹介した.本システムは蓄
支は 110 kWh の黒字となった.
電池に貯えたエネルギーを用いて EV へ急速充電する
本システムにおける 1 日の PV 電力,系統電力,蓄
ことにより,電力系統から受電する電力を軽減するこ
電池状態の動きを図 9 に示す.この日は快晴であり 6
とができる.PV で得たエネルギーを蓄電池に貯え,
時頃から PV の発電が始まっている.リチウムイオン
これを EV の走行に利用することで環境負荷の小さい
電池への充電が開始され満充電になると,電力系統へ
システムを実現することが可能である.また災害や電
逆潮流がおこなわれる.9 時頃に EV への充電がおこ
力系統の停電時には,PV と蓄電池を利用した非常用
なわれリチウムイオン電池が放電している.EV への
電源としても有効である.
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GS Yuasa Technical Report
2011 年 12 月
文
今後は EV の普及に伴うインフラ整備の拡大や再生
第8巻
第2号
献
可能エネルギーに対するニーズがますます高まること
1) 堀恵輔,道永勝久,大芝正嗣,伊藤孝典,小山博康,
から,様々な要求に対応できるシステムの改良・改善
芦田有治,山口雅英,GS yuasa Technical Report ,
に取組む予定である.
8 (1), 60, (2011).
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