こちら

Vilma Remundo 氏講演会
2012/6/7
武蔵野プレイス
ヴィルマ・レイモンド氏講演会
記録(2014/10/20 作成)
~多言語環境で育つ子どもたち~
親が母語で子育てする意義
先駆的な取り組みをしているカナダの経験から学ぼう!
講師紹介:ヴィルマ・レイモンドさん
オンタリオ子育て支援センター・主任。フィリピン・マニラ生まれ。5年間小学校教員を務めたのち
カナダへ移住。4人の子育てをしながら保育士として幼児教育に30年以上従事。
日時:2012 年 6 月 7 日(金)19:00-21:00
会場:武蔵野プレイス4階スペース C
共催:ピナット/子どもと母語と日本語の会/インターナショナル・マザーズ・グループ(IMG)
講演内容:(講演は英語で行われました。これはヴィルマさんの講演を書きおこし、それを日本語に
翻訳し、読みやすいように若干の編集を加えたものです。全 6 ページ。編集責任者鈴木庸子(ICU))
みなさんこんばんは。以前からいただいていたみなさんの質問にできるだけ答えられるよう
に今日のプレゼンを用意しました。オンタリオの子育て支援センターについても話すのですが、
どちらかというと母語を子どもに教えることがいかに大切か、そしてその幼年期における子育
てをどのように行ったら良いかということに焦点をあててお話します。なるべく皆さんの質問
を受けられるように、そして、私が所属する Early Years Center についての情報を共有できれば
と思います。
【OEYC の設立】
オンタリオ州で 2002 年に OEYC(Ontario Early Years Center)は設立されました。それ以降、
これまでに 204 もの Early Years Center が設立されました。資金面はオンタリオ州政府によって
援助を得ています。私がいるトロントは、様々な国から人々がやって来る多国籍な都市です。
私が幼年期の教育に興味を持ったのは、そのトロントでお母さん方があまり英語を話せないこ
とで、いろいろなところで悩んでいたのを見て、そういった人々を助けたいという思いが生ま
れ、そのサポートをしたいと思うようになったからです。
【OEYC の設立の背景】
それでは、実際に州政府を動かした過去十年の統計をお見せしたいと思います。カナダでは
11.9%が英語またはフランス語が話せません。みなさんご存知かもしれませんが、カナダでは
バイリンガル教育を行っていて、よってフランス語と英語の両方で教育をしています。なので、
英語が話せない子どもたちは大変な苦労をすることが想像できるかと思います。中ではフラン
ス語だけで教育を行っている機関もあるので、そこではフランス語が話せない子どもが苦労す
ることが想像できます。トロントでは、32%が家では英語とフランス語以外を話しています。
トロントの 2006 年のデータでは、総人口は 250 万 1440 人、子どものいる家庭の数は 44 万
9535 世帯、0~6 歳の子どもは総人口の 8%に当たります。トロントの文化の多様性とコミュニ
ティーについてお話しすると、5%は英語もしくはフランス語が全く分からない人々で、32%は
家庭では英語以外の言語を話しています。そして 50%、総人口の半分が移民です。私たちはよ
く冗談で言うのですが、トロントの街中ではカナダ人の方が移民より少ないという状況があり
ます。カナダで使用される英語・フランス語以外の言語トップ 3 は、中国語とタミル語とペル
シャ語です。中国語は中国と香港からくる人々が使い、タミル語はスリランカの言語で、ペル
シャ語はイランの言語です。それ以外は、韓国語がかなり増えてきています。インドのウルド
ゥー語とグジャラート語、ルーマニア語、アラビア語、ロシア語なども話されています。フィ
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リピン語も 10 位以内に入っています。そして、イタリア語スペイン語と続きます。日本語はと
ても少ないので統計には入っていません。
【幼児教育の必要性・重要性】
就学前の幼児教育に関する言語とコミュニケーションに関してなのですが、ここで利用する
データは幼年期発達研究プログラムによって得られたデータです。このプログラムはテストを
実施して、幼児を 5 つのドメイン、情緒的なものや認知力、健康などの 5 つの分野で測定しま
す。このプログラムは正確なデータが得られることで知られています。なので、皆さんの中で
興味のある方は、ウェブサイトでこのデータを見てみてください。このデータでわかるのは、
ABC の単純な読み書きができるということが分かるだけではなく、情緒的な面でその子たちが
どのように発達しているかということも見られるので、非常に役立ちます。そして、こちらの
結果で分かったのは 21%の子どもたちがコミュニケーションスキルや一般的な知識のレベルが
低いということです。この背景には家族、特に子供と一緒にいるお母さんたちが英語を話せな
いという理由があって、どうやって子どもに英語を教えようかということで母親たちが苦労し
ていることがわかります。ただし、35%の子どもたちは、高いレベルのコミュニケーションス
キルや一般知識を持っているので、海外から来る子どもたちの中にも、しっかりとした英語能
力を持ってカナダにやってきている子たちも多くいることが分かります。
トロントでは 50%を超える幼児たちが、家では英語を第二言語として話しています。その事
実が、オンタリオ政府にサポートの必要性を促しています。さらにオンタリオ州政府がこの教
育を可能にしてくれた背景には、脳科学の研究のフレイサー先生とマケイン先生の 3 冊の本が
あります。その本の中では、幼い子にはしっかりと教育させるべきであると書かれていて、統
計を取ったところオンタリオの幼児教育は 21 位なのです。そこで、やはりもっと多くの子ども
たちに教育を与えるべきだということで、このプランをすることになりました。そして今のサ
ポートが生まれ、今まで以上にしっかりと移民のお母さん、子どもたちをサポートしようとい
う形をとりました。
グローバル化の時代において、多言語および多文化の資源にアクセスできる社会は、世界の
舞台で重要な社会的役割を担う力において有利です。要するに、小さいころから子どもたちに
教育させるべきだと私は考えています。ですから、もっとそういった子どもたちを教育して、
社会に出てからも海外でも活躍できるようにしたいと思います。
【家庭言語を教える意義】
では、ここから家庭言語についてどう教えたら良いかということについてお話したいと思い
ます。ここでのポイントは、母語を教えるということがその国の第一言語を教えないという意
味ではないということです。母語を教えることも重要なのですが、その国の言語も同時に教え
るということを考えています。
子どもが幼い時に家庭言語を教えることの意義ですが、4 点あります。まず 1 点目が、子ど
もの言語の認知力の発達に良い影響を与えるということ。2 点目が、家庭言語が奨励されると
いうことが他の言語能力および発達に良い影響を与えるということ。3 点目が、豊かで多様な
言語体験が子どもたちの脳に良い影響をおよぼすということ。これについては後程また説明し
たいと思います。そして 4 点目が、その言語をうまく話せる人と話すことによって、よりよく
学べるということです。
① 認知力の発達への影響
家庭言語を教えることが、子どもの認知発達に良い影響を与えるということについて、例を
挙げます。あるインド人のお母さんが 3 歳半の子どもに対して、チューチュートレインという
おもちゃのことをまず母語であるウルドゥー語で説明します。そしてその後に、英語で説明し
ます。そうすることによってその 3 歳半の子どもはしっかりと母語、そして英語でもチューチ
ュートレインは何かということが理解できます。ですので、この男の子はまだ 3 か月しかこの
施設にいませんが、このひとつの単語をしっかり覚えているので、毎回彼が施設に来るときは
このおもちゃを置いてあります。
② 家庭言語とほかの言語能力との関係
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二つ目の点についてですが、親御さんは子どもたちに同時に二つの言語を教えてしまうと混
乱してしまうのではないかということを心配されると思います。しかし子どもは 0 歳~3 歳お
よび 6 歳まではいろいろなことを吸収して二つの言語を混乱させることはありません。むしろ
2 言語を教えることで、より吸収し、より発達することができます。これについても後程また
話します。子どもが唯一混乱するのは、親が二つの言語をちゃんぽんで話している状態のとき
です。私はフィリピン人でタガログ語を話すのですが、親が自分の言語をしっかり話せる状態
であれば、子どもにとっても良い影響になります。ですので、自分がその言語をしっかり話せ
ない状態でちゃんぽんで話してしまうと、子どもに悪影響を及ぼしてしまいます。施設に2歳
半の子どもがいるのですが、その子は実は四つの言語が話せます。どうしてこのようなことが
可能かというと、その子のおじいさんが二つの言語を話すことができ、ご両親が二つの言語を
話すので、計四つの言語を話しています。その親御さんたちはしっかりとその言語を話してい
るので、子どもは混乱することなく四つの言語を習得することができました。
③ 豊かで多様な言語体験と脳の発達
続いて、多国籍のお母さんと子どもが週 2 回、2 時間集まって行っている遊びの時間につい
てお話します。ここで具体的に行うことは、まず英語で歌ったり踊ったりします。そしてもし
似たリズムの曲が母語であれば、お母さんが母語で子どもに歌ってあげます。そして EDI のプ
ログラムですが、子どもが表現力や感情などをもっと発達させたいという場合は、45 分間子ど
もたちを自由に遊ばせてみます。その子どもに合わせた様々な遊びをさせています。そうする
ことで、子どもにとっては 45 分間遊ぶ時間になりますが、私たち大人にとってはしっかり勉強
している時間になります。私たちのセンターでは多くのプログラムを親子向けに実施していま
す。
●OYEC の実践例
実はカナダでは 12 か月お父さんが休むことがあるのですが、親と子が仲良くなるプログラム
では、できるのであれば父と母と子ども 3 人がそろって参加できる場を提供しています。子ど
もにとって親が 2 人ともいるかということはすごく差が出ることなんです。また、お父さんが
仕事で来られないという場合があるので、夕方、および土曜日にもこういった遊べる場を作っ
ています。土曜日に行われているあるプログラムでは、4 人のお父さん方と 2 人とおじいさん
が参加していました。彼らはまずスポーツなど男性ならではのお話をしています。このプログ
ラムでは体を動かすアクティブなプログラムなど、お父さんならではのことをやっています。
今では 14 人のお父さんが参加していて、その間お母さんは買い物なり自分の自由時間を楽しん
でいます。実はお父さんと子どもというのは良いコンビネーションで、例えば子どもがものを
落とした時にお母さんは「私が拾ってあげるね」というようなことをするのですが、お父さん
は自分で拾わせて自分でやらせるというお母さんとは異なる役割を果たしています。
45 分間の音楽の時間には、幼稚園児など様々な子どもが参加しています。参加する子どもは
6 歳までなので、主に 0 歳から 4 歳の子どもが多いのですが、家族と一緒に過ごすということ
でファミリータイムとも呼ばれています。このプログラムの特徴は 45 分間終わった後に、おか
たづけの時間というのを設けています。2 歳児から強制的におもちゃを取りあげてしまったら
当然泣いてしまいますが、おかたづけの時間を設けることで、何分かかっても良いのですがお
もちゃをかたづけなければならないという行為に移ります。また、おかたづけの時間に合わせ
て歌も歌います。ここでの親の役割は、最初は子どもを手伝っても良いのですが最終的に子ど
もに自分でやらせるというのが大切になります。おもちゃのかたづける棚にはおもちゃの写真
が貼ってあるので、どこにおもちゃをかたづければ良いのか把握できるようになっています。
ある女の子は 3 つの言語を話せます。中国語、スペイン語、そしてアフリカの方言が強いク
レオール語で、彼女はその 3 つを上手に使います。そしてお母さんとこの 3 つの言語を使って
コミュニケーションをし、一緒にペアルックをするなど、しっかりお母さんとの会話を通して、
自分がどの言語を話すのかを理解して自分を確立していきます。
また違う例では、子どもたちに例えば小学校など先にその場所に行って、その環境に慣れて
もらうということをやっています。そうすることで自分が実際に幼稚園から小学校に上がった
っときに、環境の変化が少なく、しっかりと準備ができるので、子どもたちには良い影響を与
えることができます。実際にそういった子どもたちは学校に入ってから問題なく過ごしていま
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すし、英語が多少できなくても学校に行くことができています。
④ 脳に刺激を与えること、語りかけることの重要性
次は脳の発達についてですが、3 歳児にいろいろな経験をさせて脳に刺激を与えると、脳細
胞のつながりが増えて 6 歳児並みの脳に発達することがあります。また、いろいろな言語を話
したり公園で新しい友達を作ったりすることで、さらに脳細胞のつながりが増えて子どもの脳
の発達を促します。脳細胞のつながりの重要性について例を挙げたいと思います。例えば家の
中で電気を使おうと思っても、それをつなぐワイヤーなどがなければ使うことができません。
それと同じで脳細胞もコネクションがないといけません。フレーザーという研究者によると、
脳には 1000 億の細胞があり、子どももそれだけの細胞を持っているのですが刺激を与えられて
ないとそれがつながらないのです。つまり子どもに刺激を与えるたびに、どこかでつながりが
生まれているわけです。子どもに話しかけたりすることで刺激が生まれるので、逆にベッドに
寝かせつけておくだけでは刺激になりません。したがって、3 歳までの子どもにいろいろな経
験をさせて刺激を与えることは、非常に重要になってきます。刺激を受けていない子どもは、
すぐに黙り込んだり自分を抑え込む行動をする傾向にあります。例えばずっと指をくわえるな
どと言った行動です。
さらに重要なのは、五感を使って刺激をするということです。例えば家であまり子どもに話
しかけなくなると、今まで作られてきた脳細胞のつながりが使われなくなり、それが失われて
いってしまいます。ここで重要なのは繰り返し五感を使って刺激が与えられることです。使わ
れないと失われていくというのが成長の特徴です。子どもの頃にいろいろな体験をすることに
よって後々にその体験が活きてきます。すなわち幼い時に脳内のつながりを作っておくことで、
将来に活きてくるということです。
今回一番言いたいのは、乳幼児に話しかけ続けるということが重要であるということです。
教育において重要な時期、臨界期というのがあり、0 歳~10 歳が言語を学ぶのに非常に大切な
時期です。子どもたちに同時に複数の言語を教えようとすると混乱してしまうのではないかと
思いがちですが、その時期であれば同時に学ぶことができます。言語能力において、0 歳~3 歳
までが一番重要な時期です。また、子どもたちの成長過程を見ると多様性があることに気づき
ます。例えばある子は 2 歳までにうまく言葉を話せるようになっていれば、他の子は歩くこと
ができるようになっているけれど、話すことはまだ苦手であったりといった多様性が見られま
す。そこで私たちはそれぞれの子どもの能力を個別に見て、それぞれに合ったプログラムを提
供できるように、子どもたちの能力を見極められるスタッフを施設に配置しています。また粘
土のようなもので遊ばせることで、子どもが自分で想像力を働かせて何か作っていき、いろい
ろな発見があり、それが刺激となり子どもの成長を促します。親の中には子どもが 3 歳になっ
てしまい、もう手遅れだとおっしゃる方もいますが、まだやれることはたくさんあります。今
まで幼い時にやるべきと申し上げたことを続けていくこと、そして多くの時間を子どもと一緒
に過ごすことが重要です。
【社会的側面、感情的側面の教育について】
社会的な面そして感情的な面での教育もまた大切だということは申し上げておきます。例え
ば子どもたちが自分で着替えることができたり、自分でお風呂に入ることができたりといった
ことができない子どももたくさんいるので、それを教育することも重要です。私がよく言うの
は、子どもが遊んでいるときに親がスプーンでごはんを食べさせてあげてしまうことで、遊び
ながら食べるということが普通になってしまい、ちゃんと食べるときは食べるといったマナー
ができなくなってしまいます。なので、親御さんにお願いしたいのは、自分のやっている教育
がいつも一貫性を持っていること、例えば時々食べさせてあげるといったことはせずに、いつ
もしっかりマナーなどを教えてあげることをして欲しいということです。そして一番重要なこ
とは愛情を注ぐことです。それによって子どもたちの成長が促されてしっかりとした人に成長
していきます。
【その言語に浸る言語環境を作る】
今まで親は自分の得意な言語を使って子どもに教えるべきだといってきましたが、一つだけ
補足せてください。例えば食事をするときはみんなでこの言語で話そうと決めて話し、そして
台所にいるときはもう一つの言語で話そうといったルールを決めて、言語環境を作ってあげて、
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その環境に子どもを浸らせることも大切です。学校に行ってしまうと学校で使われる言語が主
流となり、家庭の言語を忘れてしまうのではないかと心配するかもしれませんが、幼い時に覚
えて言葉は忘れません。私の子どもたちはみんな 20 歳を超えていて、みんな英語環境に移って
しまったのですが、彼らはみんなちゃんとフィリピン語を覚えています。彼らが来るときはフ
ィリピン語の CD などをかけています。もちろん彼らは嫌がるのですが、家庭言語を大事にし
たいのでそうしています。そのお陰で、この前彼らがフィリピンに来たときは、彼らは周りの
人が何を言っているのか理解し、会話についていけなくなるようなことはなく自分たちの家と
してフィリピンに帰ってくることができました。
ここでトロントで年に 1 回行われる行事について紹介したいと思います。トロントのアリー
ナに年に 1 度人々が集まり、様々な文化を紹介するお祭りがあります。内容としては、自分た
ちの国の食事を持って来たり、自国の服を着てみたり、とにかく差別をなくし人々にいろんな
文化に触れてもらう機会が提供されています。
最後に、やはり大人は子どもをしっかり育てる責任があると思うので、1 番子どもにとって
幸せなことは、子どもも幸せで大人も幸せであることだと思います。ありがとうございました。
【翻訳者注:用語についての補足】
・ビルマさんは父母のことを parents だけではなく、care giver, care taker という単語を使って説
明しています。
・また、お父さんが一緒に遊ぶプログラムでは、attachment, bonding という言葉を使い、密着す
るとかつながりを持つとかそういった意味です。
・おかたづけの話では、play と learning という言葉が使われ、子どもは遊び、親から見るとそ
れは学びであるという話をしていました。
・おかたづけからまた次の遊びに移ることを transition という言葉を使っています。
・子どもが歩く、はいはいする、しゃべるといったようなことは、領域、domain という言葉を
使っています。
・immersion:言葉のシャワーを浴びせるというイメージ。浸されているというように訳されて
いる。
【Q&A】
Q.0 歳から 10 歳と 0 歳から 3 歳の区別について
A.0 歳から 10 歳というのは、言語発達の時期であって会話力を発達させるのに重要な時期です。
0 歳から 3 歳、4 歳というのは言語を学習する時期、つまり言語を吸収するのに大切な時期で、
その 3 歳 4 歳までの時期に言語の基礎を学んで、その後言語能力を発達させていくことになり
ます。
Q.私もフィリピン人で、子どもをバイリンガルに育てたいと思うのですがカナダとは異なり日
本はモノリンガルの国で、なかなか他の言語に触れる機会がないと思いますが、親、教育者と
してのアドバイスはありますか。
A.家庭言語を教えることは簡単なことではないですが、他言語を話す人つまり、あなたが大事
だということは頭に入れておいてください。違う言葉を話す親、つまり韓国語を話す人、タガ
ログ語を話す人、ポルトガル語を話す人などのコミュニティーを作って、その中で協力し合い
教材を見つけることなどが大切です。また、家庭で CD やインターネットを使ってその言語に
触れさせることが有効で、そしてあなた自身がしっかりと子どもに母語で話していれば、学校
に行ってから日本語を学ぶことも難しくありません。私たちもこのプログラムに 10 年費やした
ので、簡単なところから少しずつやっていければ良いと思います。日本の場合は難しいと思い
ますが積極的に自分で動くことも大事です。
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Q.情報はどこで手に入れられますか。
A.www.ontarioearlyyears.ca など。
Q.まだ結婚していないのですが、将来子どもに複数の言語を話してほしいと思っているのです
が、例えば 2 時間英語の CD を聞かせて、2 時間フィリピン語の CD を聞かせてといったような
ことは有効なのでしょうか。
A.有効ですよ。子どもがおなかの中にいるときからでも、歌を聞かせたりするのは良いことで
す。
Q.家庭の言語が大切だとおっしゃっていましたが、子どもが学校へ行くようになって学校で使
われている言語を学習して、子どもはその言語を覚えるけれど親は分からず、親子間でコミュ
ニケーションうまくいかなくなるといった場合は、どのように対応したらよいのでしょうか。
Q.3 歳を過ぎてもいろいろな働きかけをすれば大丈夫というお話がありましたが、日本ではそ
ういう働きかけが行われずに中学生になってしまい、日常会話はできても授業についていけな
い子どもがいるのですが、そういった子どもに対して私たちはどのようなことができるでしょ
うか。
Q.母語でも第二言語でも読み書きができない子どもに対しては、どちらの言葉から教えたら良
いのでしょうか。また、日本では多言語の子どもたちの状況などが十分に把握されていないと
思いますが、その中で言語に起因する問題なのか、環境の問題なのか、知能の問題なのか分か
らない中で、多くの外国人の子どもたちが小さいころに知能の発達問題があると判断されてし
まうのですが、カナダでは多言語の子どもたちの発達がどのように捉えられているのか教えて
ください。
A.3 つの質問にまとめてお答えします。トロントでは学校にやってきた移民の子どもたちに対
して、セトルメントワーカーというその子どもたちをサポートする人がいます。彼らはカナダ
がお金を出して雇っています。その人たちは第二言語としての英語を 1 年間かけて子どもに教
え、他の子どもたちに追いつけるような教育をします。先ほどの質問で言えば、その国の言語
を教えて追いつくようにするということになります。セトルメントワーカーは、子どもたちに
まずアンケートをして、どのようなニーズがあるかということの把握をします。そしてそれを
もとに 1 年間の教育をします。中学生でも大丈夫かという質問がありましたが、大丈夫だと言
えます。ただし、幼いころに教える場合と比べて学ぶスピードは遅くなってしまいます。
親子間のコミュニケーションギャップについては、トロントの場合はそういった人たちのた
めにサポートプログラムがあって、図書館やコミュニティーセンターでも自分の家庭言語、ル
ーツの言語について学べるヘリテージランゲージプログラムがあります。それによって親子の
コミュニケーションを促進したり、子どもたちが自分の母語を学べることができたりというよ
うになっています。私の場合、自分の子どもたちがフィリピン語で話すことができなくなって
しまいましたが、私がフィリピン語で言うことは理解できているので、それだけでも十分なの
かなという気もしています。
Q.小学校で中国の子どもに教育をしています。そういった子どもたちの中には、日本にいる時
間が長いのに日本語も中国語もあまりしゃべれない子が多く、お母さんも自分の中国語に自信
が持てない二世三世の人が増えてきています。そういった人たちにどうやって自信を持たせた
らよいでしょうか。
A.先ほど申し上げた、ヘリテージランゲージプログラムで親も学べるということで、そこで二
世三世の親たちの問題も解決しようとしています。18 歳を過ぎると子どもも自分でその言語を
学びたいか選ぶ権利もあり、自分で考えることもできるので、その場合は子どもの自由にさせ
ても良いのではないかと思います。ただし、今まで申し上げてきたとおり幼年期に覚えた言葉
は、その後使っていなくてあまり話せないようになることはあるのですが、完全に忘れること
はなく理解できる程度には保たれます。また、二世三世の人が誇りを持つためには、そういっ
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た人たちのコミュニティーを作る必要があります。コミュニティーを作らないとヘリテージク
ラスも作れないですし、自信を持つためには人々をつなげないといけないかもしれません。
司会者:これまでの話でカナダではこういうのがあるという話を多く、聞くにしたがって、日
本には何もないと思われるかもしれませんが、ビルマさんに「カナダは良いですね」と言うと
「20 年もかかったのよ」と言われます。私たちは今の現状からいろいろ働きかけをしなければ
ならないかと思いますが、カナダを一つのモデルとして学んでいくことはできると思うので、
今日の勉強会を通してそれに希望を持ちながらそれぞれの現場で頑張っていく勇気をもらえた、
という気持ちになっていただければ良かったかなと思います。
ビルマさん:日本は実はとても恵まれている国だと思います。子育て支援と子育て環境に関し
ては日本は世界でトップクラスにいて、カナダでは子育て環境に関しては世界で 21 位です。ぜ
ひこの場を活かしてみなさんでつながりを作ってください。お母さんがサポートされるとなる
と、子どもたちもしっかりサポートされ、しっかりサポートされる子どもたちはすごく幸せで
す。ぜひこの場でみなさん情報共有をして、コネクションを作って、幸せな子ども育ててくだ
さい。本日はありがとうございました。
以上
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