県内水域における溶存有機物の動態に関する研究(第2報) --

県内水域における溶存有機物の動態に関する研究(第2報)
藤平蔵
芳光
新村
行雄
信里
匡昭
富山湾海域における汚濁機構を解明するため、昨年に引き続き溶存有機物の実態を調査
するとともに、非イオン性交換樹脂を用いた分画法により、溶存有機物の存在形態を検討
した。また、県内主要河川の小矢部川及び神通川についても、同様の調査を行い河川水の
影響を検討した。
調査地点の全溶存有機物濃度は 0.4∼1.8mgC/L で、平均は 0.8mgC/L であった。また、
溶存有機物の各成分濃度の経月変化は、沿岸部と外洋の調査地点間に大きな差が見られず、
富山湾の溶存有機物は、富山湾全体に均一に分布していているものと考えられる。
全溶存有機物と相関関係が認められたのは、クロロフィルaで相関係数が 0.436 であっ
た。また、各成分との間では、疎水性中性成分とクロロフィルaについて相関関係が認め
られ、相関係数は 0.438 であった。
各成分間では親水性成分と疎水性中性成分の間に相関関係が認められ、相関係数が
-0.498 と逆相関の関係を示した。このことから、クロロフィルaの増減に親水性成分及び
疎水性中性成分が深く関与しているものと考えられる。
河川水の海域に与える影響について検討したが、河川水の影響を把握することができな
かった。
1
はじめに
2
近年、海域において赤潮が発生し、富栄養化
調査概要
2.1
現象による水質汚濁の進行が懸念されており、
(1)
富山湾海域においても、対策が検討されている。
調査方法
調査地点及び調査期間
海域の調査地点は、沿岸部の st. 1∼st. 7、湾
富山湾海域での COD が上昇してきているこ
入口部の st.8 及び外洋の st.9 である。また、河
とについては、藻類増殖による内部生産が大き
川の調査地点は、小矢部川河口の st.A及び神
な原因であると考えられているが、汚濁機構に
通川萩浦橋の st. Bである。
ついては不明な点が多い状況である。
調査地点を図 1 に示す。
また、閉鎖性水域において溶存有機物の増加
調査期間は、平成 15 年9月∼16 年3月まで
による COD の悪化現象が報告され、溶存有機
月1回の調査を実施した。
物に関し調査の重要性が認められている。
(2)
本研究では、富山海域の汚濁機構を解明する
試薬及び器具
・ 非 イ オ ン 性 交 換 樹 脂 : SUPELCO 社 製
ため、溶存有機物の実態を調査するとともに、
Supelite
DAX-8 樹脂を 0.1M水酸化ナトリウ
非イオン性交換樹脂を用いた分画法により、溶
存有機物の存在 形 態 や 他 の 水 質 項 目 と の関 係
ム溶液に 24 時間浸漬し、上澄み液を捨てる操
作を5回連続して行い、その後メタノール、ジ
について検討した。また、富山湾に流入してい
エチルエーテル、アセトニトリル、メタノール
る県内主要河川 の 小 矢 部 川 及 び 神 通 川 につ い
の順に各々24 時間浸漬洗いしたものを使用し
ても調査を行い、その影響について検討した。
た。
・ カ ラ ム : VARIAN 社 製 BOND ELUT
RESERVOIR(容量 3mL)を使用した。
8
・試薬:メタノール、ジエチルエーテル、ア
2.2
セトニトリル、水酸化ナトリウム及び塩酸は和
(1)
光純薬社製特級を用いた。
調査内容
富山湾海域における溶存有機物の実態
富山湾の沿岸海域7地点、湾入口部1地点及
・ブランク水:Millipore 社製 Milli-Q 純水製
び外洋 1地 点 の9 地 点 に お い て サ ン プ ル を 採
造装置で精製した水を使用した。
取し、これらのサンプルについて非イオン性交
・溶存有機物濃度:島津製作所製 TOC5000
型全有機炭素計を用いた。
換樹脂 を 用 い た 分 画 法 に よ り 疎 水 性 溶 存 有 機
物と親水性溶存有機物に分別し、各地点におけ
(3)
る 溶 存 有 機 物 の 存 在 形 態 及 び 濃 度 等 の 特 性に
サンプルの前処理法
サンプルは、各調査地点において表層(0.5m
ついて検討した。
層)及び2m 層で採取し、等量混合したものを
(2)
溶存有機物の各成分と TOC、DCOD、クロ
孔径1μm のテフロンろ紙でろ過し、溶存有機
物測定用試料とした。なお、直ちに測定できな
ロフィルaとの関係について検討した。
い場合は、試料をポリエチレン製ビンに入れ冷
各測定項目の測定方法は次に示すとおりで
蔵保存した。
(4)
溶存有機物とその他の水質項目の関係
ある。
溶存有機物の分画方法
分画カラムは非イオン性交換樹脂 3mL をカ
ラムに詰め、試料通水前に 200mL のブランク水
・TOC:JIS
K0102
22.1
・COD:JIS
K0102
17
・クロロフィルa:海洋環境調査法(日本海
で 洗 浄 し 、 更 に 0.1M 水 酸 化 ナ ト リ ウ ム 溶 液
洋学会編集)
200mL、0.1M塩酸溶液 200mL の順に洗浄した
(3)
ものを使用した。
河川水の影響
県内の主要河川である小矢部川及び神通川
試料 200mL を塩酸でpH2に調整し、1mL/
分で通水した。このとき、カラムに捕捉された
の河川水にお け る 溶 存 有 機 物 の 成 分 組 成 と 河
川 流 入 地 先 海 域 に お け る 溶 存 有 機 物 の 成 分組
ものが、疎水性酸成分と疎水性中性成分であり、 成から、河川水の溶存有機物が海域に与える影
通過したものが 親 水 性 成 分 と 疎 水 性 塩 基成 分
響について検討した。
である。
次に、このカラムに逆方向から 0.1M水酸化
ナトリウム溶液 10mL を 0.3mL/分で通水し、樹
脂から疎水性酸成分を溶出させた。なお、疎水
性中性成分は、分画カラムに捕捉されたまま溶
出されない。
溶存有機物の形態別成分として考えられて
いる物質は次に示すとおりである。2)
・疎水性酸成分
:フミン酸、フルボ酸等
・疎水性中性成分:炭化水素、農薬、LAS 等
・親水性成分及び疎水性塩基成分:糖類、
タンパク質等
9
図1 調査地点図
3
結果及び考察
0.2mgC/L∼0.8mgC/L の間でばらつきながら推
移していた。疎水性酸成分濃度は各地点とも
0.2mgC/L 前後で推移し調査期間中に大きな変
動は見られなかった。疎水性中性成分濃度は、
3.1
(1)
富山湾海域における溶存有機物の
実態
成分組成
各調査地点における海水中の溶存有機物及び
その他水質項目の調査結果を表1、図2に示す。
調査期間中における調査地点の全溶存有機物
濃 度 は 0.4mgC/L ∼ 1.8mgC/L で 、 平 均 値 は
0.8mgC/L であった。
多少ばらつきが見られるものの、9月から 11 月
まで低下し、その後は横ばいに推移する傾向を
示した。
(3) 地点間の差
溶存有機物各成分濃度の経月変化については、
非イオン交換樹脂によって分画した各溶存有
機成分の濃度は、親水性成分が 0.2mgC/L∼
0.8mgC/L で平均値が 0.6mgC/L であり、疎水
性酸成分が<0.1mgC/L ∼0.3mgC/L で平均値が
0.2mgC/L であった。また、疎水性中性成分が
沿岸部の調査地点と外洋の調査地点間に大きな
差が見られず、各成分割合もほぼ一定であるこ
とから、調査期間中の富山湾の溶存有機物は、
富山湾全体に均一に分布していているものと考
えられた。
0.0mgC/L∼1.1mgC/L で平均値が 0.2mgC/L であ
った。
(2) 経月変化
全溶存有機物濃度の経月変化は、多少ばらつ
きが見られるものの、各調査地点とも9月から
沿岸部の地点については、9月及び 10 月にお
いて全溶存有機物に占める疎水性中性成分の存
在割合が高い状況を示した。このことについて
は、クロロフィルaの経月変化が同様の傾向を
示していることから、クロロフィルaが疎水性
翌年の3月にかけ、徐々に低くなる傾向を示し
た。親水性成分濃度は、調査期間において
中性成分濃度に影響を及ぼしている可能性が推
察された。
10
表1 調査結果
溶存有機物
D-COD クロロフィルa
全溶存
親水性
疎水性
疎水性
有機物(A) 成分(B) 酸性分(C) 中性成分(D)
D=A-B-C
(℃) (mgC/L) (mgC/L) (mgC/L) (mgC/L) (mgC/L)
(mg/L) (μg/L)
25.5 1.6
1.1
0.2
0.2
0.7
2.0
1.1
25.8 1.5
1.1
0.6
0.2
0.3
1.8
6.7
25.2 1.4
1.3
0.2
0.2
0.9
1.1
4.9
24.8 1.4
1.4
0.4
0.2
0.8
2.0
9.1
25.2 1.3
1.1
0.5
0.2
0.4
1.3
5.2
25.1 1.6
1.1
0.4
0.2
0.5
1.2
0.8
24.9 1.3
1.0
0.4
0.2
0.4
1.4
1.0
--1.6
1.0
0.6
0.2
0.2
1.0
0.5
--1.4
1.2
0.5
0.3
0.4
0.9
0.3
21.0
1.6
1.8
0.6
0.1
1.1
1.7
1.7
21.0
1.7
0.9
0.8
0.1
0.0
2.0
4.0
21.6
1.4
1.1
0.7
0.2
0.2
1.2
4.8
20.8
1.8
1.0
0.7
0.1
0.2
2.1
2.4
19.7
1.1
0.8
0.6
<0.1
0.2
1.8
6.2
20.8
1.5
1.2
0.7
<0.1
0.5
1.3
1.3
20.3
1.4
0.9
0.6
0.1
0.2
1.2
1.6
--1.8
0.7
0.7
0.2
0.0
2.4
0.3
--1.3
0.8
0.5
0.1
0.2
1.6
0.2
18.5
1.3
0.6
0.5
0.2
0.0
1.3
0.6
19.0
2.8
0.9
0.6
0.2
0.1
1.4
0.5
19.2
1.3
0.8
0.4
0.2
0.2
1.4
0.7
18.6
1.3
0.9
0.6
0.3
0.0
1.4
1.9
18.7
1.3
0.8
0.7
0.2
0.0
1.4
2.1
18.4
1.4
0.6
0.5
0.2
0.0
1.5
1.7
19.0
1.4
0.5
0.6
0.1
0.0
1.5
0.9
--1.3
0.7
0.8
0.2
0.0
1.4
0.3
--1.2
0.7
0.6
0.2
0.0
1.0
0.5
15.2
1.1
0.9
0.6
0.2
0.1
0.9
0.3
14.9
1.4
1.0
0.6
0.2
0.2
0.7
0.3
14.5
1.3
1.1
0.6
0.3
0.2
1.3
0.7
13.8
1.3
0.8
0.5
0.1
0.2
1.2
0.4
14.4
1.2
0.8
0.4
0.1
0.3
1.1
0.8
13.4
1.1
0.8
0.8
0.1
0.0
0.6
1.0
15.0
1.1
0.8
0.7
0.1
0.0
<0.5
0.5
--1.5
0.9
0.7
0.2
0.0
0.7
0.2
--1.6
1.0
0.6
0.3
0.1
<0.5
0.2
12.2
1.2
0.7
0.5
0.1
0.1
1.2
0.6
13.0
1.2
0.8
0.8
0.1
0.0
1.1
0.3
11.5
1.2
0.6
0.6
0.1
0.0
1.0
0.7
12.6
1.1
0.8
0.8
0.1
0.0
1.0
0.6
12.1
1.2
0.6
0.6
0.1
0.0
1.0
0.4
11.9
1.3
0.7
0.6
0.1
0.0
0.9
0.5
12.2
1.2
0.7
0.5
0.1
0.1
0.9
0.3
--1.1
0.7
0.5
0.1
0.1
<0.5
0.7
--1.1
0.9
0.6
0.1
0.2
0.8
0.3
9.8
1.1
0.7
0.5
0.1
0.1
1.4
2.0
10.8
1.2
0.7
0.5
0.1
0.1
1.3
3.4
10.2
1.1
0.7
0.5
0.1
0.1
1.5
0.8
11.0
1.2
0.7
0.5
0.1
0.1
1.1
1.3
9.7
0.9
0.7
0.6
0.1
0.0
1.5
0.7
10.7
1.1
0.8
0.8
0.1
0.0
1.4
0.6
11.4
1.1
0.7
0.5
0.1
0.1
1.3
0.8
--0.9
0.9
0.5
0.1
0.3
1.3
0.2
--1.1
0.7
0.5
0.2
0.0
1.1
0.1
10.2
1.4
0.7
0.5
0.1
0.1
1.2
0.8
10.5
1.4
0.8
0.5
0.2
0.1
1.3
1.0
9.1
1.4
0.9
0.7
0.1
0.1
1.7
0.7
10.4
1.2
0.7
0.7
0.1
0.0
1.4
1.1
8.3
1.1
0.6
0.5
0.1
0.0
1.5
0.5
10.0
1.5
0.6
0.4
0.1
0.1
1.1
0.4
10.4
1.7
0.4
0.5
0.1
0.0
1.1
0.4
--2.6
0.5
0.5
0.2
0.0
1.4
0.3
----------------25.8
2.8
1.8
0.8
0.3
1.1
2.4
9.1
8.3
0.9
0.4
0.2
<0.1
0.0
<0.5
0.1
16.0
1.4
0.8
0.6
0.2
0.2
1.3
1.4
調査月 調査地点 水 温
平成15年
9月
10月
11月
12月
平成16年
1月
2月
3月
最大値
最小値
平均値
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1
2
3
4
5
6
7
8
9
TOC
11
親水性成分
2
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
9月
st.1
st.2
st.3
濃度(mgC/L)
濃度(mgC/L)
全溶存有機物
st.4
st.5
st.6
st.7
st.8
st.9
10月
11月
12月
1月
2月
3月
2
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
9月
st.1
st.2
st.3
st.4
st.5
st.6
st.7
st.8
st.9
10月
11月
2
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
9月
st.1
st.2
st.3
st.4
st.5
st.6
st.7
st.8
st.9
10月
11月
12月
1月
2月
3月
2
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
9月
2月
3月
st.1
st.2
st.3
st.4
st.5
st.6
st.7
st.8
10月
11月
12月
1月
2月
3月
st.9
成分組成
クロロフィルa
st.1
st.2
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
st.3
st.4
成分割合(%)
濃度(μg/L)
1月
疎水性中性成分
濃度(mgC/L)
濃度(mgC/L)
疎水性酸成分
12月
st.5
st.6
st.7
120
疎水性中性成分
100
疎水性酸成分
親水性成分
80
60
40
st.8
20
st.9
0
9月
10月
11月
12月
1月
2月
3月
st.1 st.2 st.3 st.4 st.5 st.6 st.7 st.8 st.9
調査地点
図2 溶存有機物の経月変化及び成分組成
3.2
溶存有機物とその他の水質項目の関係
では親水性成分とクロロフィルaとの間には負
溶存有機物と水質項目の相関係数を表2に示
す。
全溶存有機物と相関関係が認められた水質項
目は、クロロフィルaで相関係数が 0.436(有意
水準1%で有意)であった。
の相関関係にあると報告 5)したが、今回の結果
は、それとは異なると結果となった。また、溶
存有機物の各成分間では親水性成分と疎水性中
性成分の間に相関関係が認められ、相関係数が
-0.498(有意水準1%で有意)と逆相関の関係
また、溶存有機物の各成分と水質項目の間に
は、疎水性中性成分とクロロフィルaについて
相関関係が認められ、相関係数は 0.438(有意水
準1%で有意)であった。今回の調査結果では
溶存有機物とクロロフィルaとの間には正の相
を示した。このことから、クロロフィルaの増
減に溶存有機物の親水性成分及び疎水性中性成
分が深く関与しているものと考えられた。散布
図を図3に示す。
関関係があることがわかった。昨年の調査結果
12
表2 溶存有機物と水質項目の関係
水温
TOC
全溶存有機物
親水性成分
疎水性酸成分
疎水性中性成分
DCOD
クロロフィルa
水温
TOC
全溶存有機物
親水性成分
疎水性酸成分
疎水性中性成分
DCOD
1.000
0.403
0.665
-0.243
0.569
0.645
0.411
0.581
1.000
0.133
-0.033
0.307
0.120
0.232
0.021
1.000
-0.091
0.366
0.849
0.138
0.436
1.000
-0.148
-0.498
-0.038
-0.117
1.000
0.181
-0.073
0.143
1.000
0.219
0.438
1.000
0.419
2
クロロフィルa
1.000
1.2
疎水性中性成分(mgC/L)
全溶存有機物(mgC/L)
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
クロロフィルa(μg/L)
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0.0
10.0
2.0
4.0
6.0
8.0
クロロフィルa(μg/L)
10.0
図3 散 布 図
3.3 河川水の影響
河川水の調査結果を表3及び図4に示す。
(1) 成分組成
調査期間中の全溶存有機物濃度は、小矢部川
濃度であった。
(2) 経月変化
調査期間中における溶存有機物濃度の経月
変化は、全溶存有機物の場合、多少ばらつきが
が 0.7mgC/L∼1.5mgC/L で、神通川が 0.4mgC/L
∼1.2mgC/L であった。溶存有機物の各成分の
う ち 、 親 水 性 成 分 は 小 矢 部 川 が 0.1mgC/L ∼
0.8mgC/L で、神通川が 0.1mgC/L∼0.6mgC/L
であった。疎水性酸成分は小矢部川が
見られるものの、両河川とも徐々に低下する傾
向を示した。親水性成分は、小矢部川の場合、
9月から 10 月に上昇し 12 月までは一定の値を
示しその後低下していた。また、神通川の場合
は9月から 12 月まで低下し、その後ほぼ横ば
0.2mgC/L∼0.5mgC/L で、神通川が 0.1mgC/L
∼0.3mgC/L であり、疎水性中性成分は小矢部
川が 0.0mgC/L∼0.8mgC/L、神通川が 0.0mgC/L
∼0.6mgC/L であった。このように、河川水に
含まれている全 溶 存 有 機 物 は 海 水 と ほ ぼ同 じ
いの傾向を示した。疎水性酸成分は、両河川と
も調査期間をとおしてほぼ一定の値を示した。
疎水性中性成分は、ばらつきが見られるものの、
両河川とも9月から 12 月にかけ低下し、その
後は低い値で推移していた。
13
(3) 河川水と河口地先海域との比較
海域の溶存有機物に対する河川水の影響を
河川水の影響を強く受けているといえるが、今
回の調査結果では両河川とも、その河口地先海
検討するため、河川水及びその河口地先海域に
おける溶存有機物の成分割合を比較した。その
結果を図5に示す。
河川水及び海域における溶存有機物の成分
割合に同じような傾向があれば、その海域では
域との成分割合に類似性が見られず、河川水の
影響について把握することはできなかった。な
お、この調査については、次年度も継続して実
施する予定であり、その結果から再度考察する
ことにしている。
河川水の調査結果
調査月
溶存有機物
D-COD クロロフィルa
全溶存
親水性 疎水性
疎水性
有機物(A) 成分(B) 酸性分(C)中性成分(D)
D=A-B-C
(℃) (mgC/L) (mgC/L) (mgC/L) (mgC/L) (mgC/L)
(mg/L) (μg/L)
21.1
2.5
1.0
0.1
0.2
0.7
2.5
--21.3
1.9
1.2
0.6
0.3
0.4
1.6
--17.5
2.7
1.5
0.8
0.2
0.8
3.9
0.6
15.6
1.9
0.6
0.5
0.1
0.0
2.3
0.6
14.8
3.7
1.2
0.8
0.2
0.2
4.6
2.9
14.2
2.3
1.1
0.2
0.3
0.6
2.2
1.4
9.0
3.0
1.3
0.8
0.5
0.1
4.4
0.6
6.5
2.0
0.4
0.1
0.2
0.1
1.6
0.7
7.0
3.7
1.0
0.6
0.3
0.1
3.2
5.3
6.2
2.3
0.6
0.3
0.2
0.1
1.9
4.4
8.2
2.5
0.7
0.5
0.2
0.0
3.4
2.3
6.2
2.2
0.4
0.2
0.1
0.1
1.8
3.0
7.4
3.5
0.8
0.4
0.4
0.0
3.7
1.7
6.1
2.2
0.5
0.3
0.2
0.0
1.2
1.7
調査地点 水 温
9月
A
B
A
B
A
B
A
B
A
B
A
B
A
B
10月
11月
12月
1月
2月
3月
TOC
親水性成分
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
濃度(mgC/L)
濃度(mgC/L)
全溶存有機物
st.A
st.B
9月 10月 11月 12月 1月
2月
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
st.A
st.B
9月 10月 11月 12月 1月
3月
濃度(mgC/L)
疎水性酸成分
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
st.A
st.B
9月 10月 11月 12月 1月
2月
3月
疎水性中性成分
2月
3月
図4
濃度(mgC/L)
表3
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
st.A
st.B
9月 10月 11月 12月 1 月
溶存有機物の経月変化
14
2月
3月
親水性成分
st.2
(%)
3月
20
0
0
3月
図5
12
月
40
20
11
月
60
40
神通川
10
月
60
9月
80
2月
80
1月
100
12
月
3月
(%)
(%)
100
11
月
2月
3月
B
A
小矢部川
10月
2月
0
1月
20
0
疎水性中性成分
1月
20
12月
40
9月
40
2月
60
1月
60
12
月
80
11
月
80
10
月
100
9月
100
9月
疎水性酸成分
神通川河口地先海域
11
月
疎水性中性成分
小矢部川河口地先海域
10
月
(%)
親水性成分
st.4
疎水性酸成分
溶存有機物の成分割合
4 まとめ
aについて相関関係が認められ、相関係数は 0.438
富山湾海域における有機汚濁の実態を解明する
(有意水準1%で有意)であった。また、溶存有機
ため、溶存有機物及び非イオン性交換樹脂を用いた
物の各成分間では親水性成分と疎水性中性成分の
分画法により存在形態別の溶存有機物ついて検討
間に相関関係が認められ、相関係数が-0.498(有意
を行ったところ、次のような知見を得た。
水準1%で有意)と逆相関の関係を示した。このこ
・調査期間中における調査地点の全溶存有機物濃
とから、クロロフィルaの増減において溶存有機物
度は 0.4mgC/L∼1.8mgC/L で、平均値は 0.8mgC/L
の親水性成分及び疎水性中性成分が深く関与して
であった。また、溶存有機物各成分濃度の経月変化
いるものと考えられた。
については、沿岸部の調査地点と外洋の調査地点間
・河川水における溶存有機物の各成分割合と河口
に大きな差が見られず、各成分割合もほぼ一定であ
地先海域における海水の成分割合を比較すること
ることから、調査期間における富山湾の溶存有機物
により、河川水の海域に与える影響について検討し
は、富山湾全体に均一に分布していているものと考
たが小矢部川、神通川の両河川地先海域とも河川水
えられた。
との成分割合に類似性が見られず、河川水の影響を
・全溶存有機物と相関関係が認められた水質項目
把握することができなかった。なお、この調査につ
は、クロロフィルaで相関係数が 0.436(有意水準
いては次年度も継続して実施する予定であり、その
1%で有意)であった。また、溶存有機物の各成分と
調査結果によって再度考察することにしている。
水質項目の間では、疎水性中性成分とクロロフィル
15
参 考 文 献
1)福島武彦、石橋敏昌、今井章雄、尾崎則篤、
4)福島武彦、今井章雄、松重一夫、井上隆信、小
西井祥則:広島湾における溶存有機物の動態、
澤秀明:湖水溶存有機物の紫外部吸光度:DO
水環境学会誌第 23 巻第 6 号(2000)
C比の特性とそれの水質管理への利用、水環境
2)今井章雄、福島武彦、松重一夫、井上隆信、
学会誌第 20 巻第 6 号(1997)
石橋敏昌:琵琶湖湖水及び流入河川水中の溶
5)藤平蔵芳光、石崎隆一、水畑剛:県内水域にお
存有機物の分画、陸水学会誌 59 巻 1 号(1998)
3)今井章雄、福島武彦、松重一夫:溶存フミン物
ける溶存有機物の動態に関する研究(第 1 報)、
富山県環境科学センター年報第 31-2 号(2003)
質の藍藻 Microcystis Aeruginosa の増殖に及
ぼす影響、水環境学会誌第 22 巻第 7 号(1999)
Dynamics of dissolved organic matter in local aria waters(Ⅱ)
Yoshimitsu
TOHEZO
Yukio Shinmura
Masaaki Nobusato
The organic matters dissolved in the sea area of Toyama Bay were fractioned with a
nonionic resin into hydrophilic component, hydrophobic acids, hydrophobic neutral
component. A similar investigation was also made for Oyabe and Jinzu rivers to
examine the effects of the dissolved organic matters (DOM) in the two rivers on
Toyama Bay.
The concentration of the all DOM in the investigation spots ranged from 0.4 to 1.8
mgC/L and their average was 0.8 mgC/L. There were very little differences between
the monthly changes in eachi component of the DOM in both the coa st and the open
sea spots. The results suggest that the DOM in Toyama Bay was distributed
homogeneously.
The correlation relationship was observed between chlorophyll a and the total DOM
(factor:0.436) or hydrophobic neutral components (0.438) and between hydrophobic
components and hydrophobic neutral components (-0.498). These results suggest that
the concentration of chlorophyll a changes closely with those of hydrophilic a n d
hydrophobic neutral components.
We could not grasp no obserbations that the inflow of the rivers affects the pollution
of Toyama Bay.
16