消費生活相談情報にみる保険契約の現状と課題

消費生活相談情報にみる保険契約の現状と課題
A Review of Consumer Inquiries regarding Insurance contracts
Through PIO-NET to Identify Issues
磯村 浩子
Hiroko ISOMURA
要約
生命保険、損害保険、その他の保険は、生活経済の中で、大きな位置を占めるが、長期
にわたる契約、複雑な契約形態、難解な契約約款などにより、消費者は、自身の契約につ
いてさえ十分に把握していない。保険金請求時、契約解除時に関心を持ち、初めて問題点
を見出すことになる。2010 年 4 月、これまで商法にあった保険に関する規定が見直され、
新たに保険法として施行された。この間の消費生活相談情報を分析すると、保険契約には
契約・解約に関する相談が多いが、販売方法、接客対応と関連する相談が多く、生命保険
とその他の保険では、販売方法がより問題とされ、損害保険では、接客対応がより問題と
されることが分かった。さらに自身の保険契約について問う相談が目立ち、契約・解約に
関連して販売方法、接客対応が問題とされる背景に、説明不足を示唆する傾向がみられた。
保険法は、保険契約者、保険金受取人の保護を図り、一部条文は、契約者等に不利な約款
を無効とする。保険法に伴う改定で業界は、理解しやすい保険商品、分かり易い契約約款
を用意し、販売時の説明力を高めることが必要とされる。消費者自身も保険契約に関心を
持ち、必要な保険商品を主体性を持って購入し、生活経済の危険に備えることが望まれる。
キーワード:生活経済の危険、生命保険、損害保険、保険法、販売方法、接客対応、
説明不足、約款
1.はじめに
2008 年 6 月に保険法が創設され、2010 年 4 月から施行されている。1899 年(明治 32 年)
に、商法の中に保険に関する規定が置かれて以降、約 100 年ぶりに、商法から独立した「保
険法」として改正、施行された。国民にとっても分かり易い法律になったといわれる。
一方、生命保険、損害保険、その他の保険は、生活経済のなかで、非常に重要な位置を
占め、先に起きた未曾有の東日本大震災にあっても、不幸な出来事の中で、地震保険をは
じめとする保険の意義を再認識させることとなった。その生活における保険の位置を示す
客観的なデータは多いが、我々が実感しやすいものとして捉えるなら、家計調査、全国消
費実態調査などにより示される、家計データの数字であろう。
そこでまず生活経済における保険の実態を統計的に把握し、生活の中でいかに大きな位
置を占めるかを認識する。その上で、このように大きな位置を占める保険が、生活の中で
どのような問題を抱えているかを、消費生活相談の中から探り、検討することとする。
『消費生活相談統計』によれば、
「全国消費生活情報ネットワーク・システム」
(Practical
Living Information Online Network System;PIO-NET)における保険の相談は、多くの商
品・役務の中で、毎年上位にランク付けされる。「保険会社の説明不足や解約、クレーム
への対応などに関する相談が目立つ」ことも、保険に関する相談の特徴とされている。1
本稿は、保険法改正を機会に、保険に関する相談事例を分析し、その実態を明らかにす
るとともに、保険法改正との関連を検討し、消費者にとって、保険を生活の中で実質的に
活かすことができるよう、課題を見出すことを意図している。
2.研究方法
生活経済における保険の位置づけについては、『家計調査年報』家計収支編、貯蓄負債
編により、世帯主年齢階級別に実態を把握する。消費生活相談にみる保険の実態について
は、独立行政法人国民生活センターに情報公開を求めた、20010 年 4 月から 8 月までの全
国消費生活相談からの、生命保険 3,496 件、損害保険 1,659 件、その他の保険 678 件の事
例分析により相談の傾向を具体的に見出し、保険法に関連する事例も検討する。さらに生
命保険、損害保険の相談マニュアルなどにより、保険業界の取り組みを知り、保険業界、
保険会社、消費者自身それぞれにつき、今後の方向への検討をすすめる。
3.生活経済における保険の位置づけ
(1)生活経済における保険
かつて家庭経済学の視点から「家庭の構成員である家族および財産の存在を傷つけ、脅
かすなど家庭経済に不利益をもたらす可能性とその状況」を生活危険と定義し、所得、消
費、資産の面から分類して、次のようにとらえた。2
1)所得の喪失あるいは減少をもたらす危険
稼得者の死亡・疾病・傷害・失業・高齢
2)消費の拡大をもたらす危険
①稼得者および家族の死亡・疾病・傷害・高齢、②稼得者および家族の損害賠償責任
③消費財(サービスを含む)の契約トラブルあるいは欠陥
3)金融資産の減少をもたらす危険
①金融資産の投資リスク、②金融資産の契約トラブル
4)実物資産の減少をもたらす危険
①実物資産の投資リスク、②実物資産の契約トラブル
このような内容を持つ生活危険は、その語が示すように、生活の場において発生するた
め、一定の生活水準を保ち、安定した生活を営むことを目的とする家庭に大きな影響を及
ぼし、生活を不安定にする。 保険は、このような生活における危険の多くに対応する手
1
2
独立行政法人国民生活センター編『消費生活年報2010』独立行政法人国民生活センター、2010 年、
PP.38~39
馬場紀子・磯村浩子「家庭における生活危険とその対応―家庭経済学の立場と視点から―」
『家庭経済
学』No.5(社)日本家政学会家庭経済学部会、1992 年、PP.25~29
段の一つである。このような視点で検討を進めることとする。
(2)生活経済における保険の保有・利用
生活経済における保険の位置の一端を、貯蓄保有としての保険、および家計収支にみる
保険取金(掛け捨てでない保険の取金)
、保険掛金、保険純増などで示す。
まず、
「図表―1 世帯主年齢階級別貯蓄現在高」は、
『家計調査年報』貯蓄負債編により、
二人以上の世帯において、世帯主の年齢階級別に貯蓄性「生命保険など」の 1 世帯当たり
現在高を示したものである。2009 年には、全世帯平均で、年間収入の 60%にあたる貯蓄性
の<生命保険など>、377 万円の現在高がみられ、50~59 歳代では 460 万円、56%、60~
69 歳代でも 489 万円、89%にのぼっている。
図表―1 世帯主年齢階級別貯蓄現在高
出典:『家計調査年報』貯蓄負債編、二人以上の世帯
第8表
世帯主の年齢階級別貯蓄及び
負債の 1 世帯当たり現在高
また、図表―2の勤労者世帯の年平均 1 か月あたりの収支においても、40 歳・50 歳代に
占める保険掛金の位置は大きく、40 歳代で 32,237 円、50 歳代で 34,697 円にもなる。60
歳代以降における保険取金の位置も 60 歳代 16,050 円、70 歳代 12,023 円と大きい。生活
経済において保険が大きな位置を占める実態の一例を示している。
図表―2 世帯主年齢階級別保険取金・保険掛金・保険純増
平均
保険取金
個人・企業年金保険取金
他の保険取金
保険掛金
個人・企業年金保険掛金
他の保険掛金
保険純増
個人・企業年金保険純増 他の保険純増
実収入
4,370
2,098
2,272
28,007
3,529
24,478
23,637
1,431
22,206
518,226
~ 29歳 30 ~ 39 40 ~ 49 50 ~ 59 60 ~ 69 70歳 ~
86
23
63
11,585
1,192
10,393
11,499
1,169
10,330
368,619
601
152
449
21,251
2,652
18,599
20,649
2,499
18,150
463,113
3,071
159
2,912
32,237
4,481
27,756
29,166
4,322
24,843
567,000
出典:総務省統計局『家計調査年報』家計収支編、二人以上の世帯
世帯当たり 1 か月間の収入と支出
勤労者世帯、
3,709
602
3,107
34,697
4,769
29,927
30,988
4,168
26,820
595,540
第 3-2 表
16,050
12,931
3,119
22,561
1,340
21,221
6,511
-11,591
18,102
405,811
12,023
10,506
1,518
15,637
180
15,457
3,614
-10,325
13,939
347,409
世帯主の年齢階級別 1
4.消費生活相談情報にみる保険
(1)情報公開による保険に関する消費生活相談情報
独立行政法人国民生活センター(以下、国民生活センターという)が管理する、全国消
費生活情報ネットワーク・システム(Practical Living Information Online Network
System;PIO-NET)における保険の相談は毎年上位に位置づけられる。最近でみると、商品・
役務別にみて生命保険は、2008 年度に8位で、13,511 件(1.4%)3、2009 年度に 11 位で
11,368 件(1.3%)、損害保険は、2008 年度に 23 位、5,927 件(0.6%)となっている。4
特に生命保険について、相談につながる何らかの要因があるものとみられる。そこで保険
法が施行された時期に、何らかの変化がみられるのか、あるいは指摘される問題の継続が
認められるのか、
保険法が施行された 2010 年 4 月から 8 月まで 5 か月間の消費生活情報に
つき、保険に関する情報を入手し、その分析を試みた。対象とした消費生活相談情報は、
「生命保険」「損害保険」「その他の保険」に関する PIO-NET における、件名、内容別分
類である。その件数は、図表―3のとおりであった。併せて、2010 年度の同条件による件
数を掲げる。この中分類は、大分類、金融・保険サービスに含まれる。
図表―3 対象となる保険の消費生活相談情報
中分類
2010 年 4 月~8 月(件数)
2010 年度(件数)
生命保険
3,496
10,004
損害保険
1,659
4,746
678
1,823
その他の保険
出典:独立行政法人国民生活センターPIO-NET における全国の消費生活相談情報
そしてこの保険に関する相談情報を相談内容によって分類したものが、図表―4であり、
図表―5は、同じ分類で、事後に国民生活センターのウェブ上で公表されているデータか
ら、
筆者が作成した 2010 年度の保険に関する消費生活相談情報とその内容分類を示したも
のである。(複数内容を含む)
まず情報公開を受けた対象が、2010 年度で集計したもの比較し、どのような特徴があ
るかを見る。相談内容の多い順に内容を並べると、対象分の「生命保険」と「その他の保
険」では、①契約・解約、②販売方法、③接客対応、④価格・料金、⑤法規・基準という
順序であるのに対し、2010 年度分も同じ順位を示しており、この間の問題に大きな変化は
なさそうである、一方「損害保険」は、対象分で、①契約・解約、②接客対応、③価格・
料金、④販売方法、⑤法規・基準の順であるのに対し、2010 年度分は、①契約・解約、②
接客対応、③販売方法、④価格・料金、⑤法規・基準と、③、④の順が逆転している。し
かしこの件数は近似しており、ほぼ同等の問題を持つと考えられる。こうしてみると、対
象分と 2010 年度分では大きな傾向の変化は認められない。
3
4
括弧内は全体の中での割合
独立行政法人国民生活センター編『消費生活年報2009』独立行政法人国民生活センター、2009 年、
pp.38~39 および独立行政法人国民生活センター編『消費生活年報2010』独立行政法人国民生活セ
ンター、2010 年、pp.38~39
図表―4
保険種類別相談内容 (2010年4月~8月)
相談内容
生命保険
割合(%)
件数
安全・衛生
12
0.3
品質・機能・役務品質
85
2.4
法規・基準
181
5.2
価格・料金
607
17.4
計量・品目
5
0.1
表示・広告
61
1.7
販売方法
1277
36.5
契約・解約
2949
84.4
接客対応
997
28.5
包装・容器
1
0.0
施設・設備
2
0.1
件数
3,496
100.0
損害保険 その他の保険
件数
割合(%)
件数
割合(%)
28
101
164
310
4
38
301
1,284
611
0
4
1,659
1.7
6.1
9.9
18.7
0.2
2.3
18.1
77.4
36.8
0.0
0.2
100.0
12
31
44
78
1
35
209
555
186
2
1
678
1.8
4.6
6.5
11.5
0.1
5.2
30.8
81.9
27.4
0.3
0.1
100.0
出典:独立行政法人国民生活センターPIO-NET における全国の消費生活相談情報
図表―5
保険種類別相談内容
相談内容
生命保険
割合(%)
件数
安全・衛生
34
0.3
品質・機能・役務品質
251
2.5
法規・基準
555
5.5
価格・料金
1,589
15.9
計量・品目
2
0.0
表示・広告
217
2.2
販売方法
3,688
36.9
契約・解約
8,390
83.9
接客対応
2,644
26.4
包装・容器
4
0.0
施設・設備
2
0.0
件数
10,004
100.0
件数
(2010年度)
損害保険 その他の保険
割合(%)
件数
割合(%)
75
297
396
832
3
92
860
3,675
1,725
0
4
4,746
1.6
6.3
8.3
17.5
0.1
1.9
18.1
77.4
36.3
0.0
0.1
100.0
22
57
117
222
1
91
600
1,514
446
1
3
1,823
1.2
3.1
6.4
12.2
0.1
5.0
32.9
83.0
24.5
0.1
0.2
100.0
出典:独立行政法人国民生活センターPIO-NET における全国の消費生活相談情報
図表―6 保険種類別相談傾向
相談内容
生命保険
損害保険
その他の保険
販売方法と契約・解約
988(28.3)
217(13.1)
150(22.1)
接客対応と契約・解約
751(21.5)
385(23.2)
134(19.8)
販売方法と接客対応
293(8.4)
82(4.9)
44(6.3)
販売方法と接客対応と契約・解約
291(6.6)
60(3.6)
34(4.9)
3,496(100.0)
1,659(100.0)
678(100.0)
件数
しかし、保険の種類による傾向では、「生命保険」「その他の保険」と「損害保険」の
間では、やや違いがみられる。
「生命保険」「その他の保険」では、「契約・解約」に次いで、「販売方法」そして「接
客対応」に相談の重点があるが、「損害保険」は、「契約・解約」に次いで「接客対応」
そして「価格料金」と「販売方法」に相談の重点があるようである。
これは図表―6の結果からみても同様である。重複する項目の状況を見ると、生命保険
とその他の保険には、販売方法から契約を問題にする事例、次いで接客対応から契約を問
題にする事例が多く、損害保険は接客対応から契約を問題にする事例が多い。
(2)保険に関する主な相談内容
上記の相談内容の傾向より、各種保険の相談内容の特色を示す例を掲げる。
・生命保険
「母が 4 年前、銀行に生命保険のようなものと勧められ、変額個人年金保険を契約、解約し
ようとしたら大幅に目減り、納得いかない。」(販売方法、契約・解約)
「入院中の妻が契約する養老保険。給付金を申請し、他社は、3 週間後に支払われたのに、
当該保険会社は数か月待たしている。」(接客対応)
・損害保険
「夫が自動車の追突事故に遭い相手の過失割合が 100%なのに、相手の損保会社が医療費等
を出さないといい納得できない」(接客対応)
「火災保険の更新手続きをしようとしているが、新しい商品に変わったという理由で高い料
金を請求された。こんなことがあり得るのか。」(価格・料金、販売方法、契約・解約)
・その他の保険
「身に覚えのない共済から、二人の娘あて「金を返すから返送して」という手紙が届いた。
信用性は?」(販売方法)
「息子名義の医療共済。5 年前に息子が入院給付金を求めた所、給付対象か否かの説明が担
当により異なった。根拠を示した説明希望。」(契約・解約、接客対応)
上記の相談内容を見ると、件名に示された範囲では、保険の種類により、問題点が大き
く異なるのではなく、保険種類により相談傾向の状況に違いが表れているといえる。情報
公開に当たって、すべての情報を求めておらず、詳細を見ることは難しいが、国民生活セ
ンターが公表する資料を参考に、保険関連相談の傾向を見る。(この場合、2008 年度まで
と 2009 年度からでは商品・役務の分類が異なるため、主要な部分にとどめる。)
保険関連の相談の 2004 年から 2008 年までの件数の推移をみると、生命保険は 2004 年の
7,523 件から 2007 年の 15,458 件まで上昇し 2008 年にやや減少した。損害保険も 2004 年
の 3,155 件から 2006 年の 6,842 件まで上昇し、2007 年、2008 年にやや減少した。両者は、
件数は異なるものの類似した推移を見せる。5 そして 2009 年度、生命保険の商品・役務別
順位は、2008 年度の 8 位から 11 位へ後退、損害保険も 2008 年度の 23 位から 25 位以下に
後退し、両者とも改善の流れが示されたようである。また相談の特徴を見ると、2009 年度、
生命保険相談の特徴は、相談者は男女ほぼ半数、契約当事者は 40~70 歳代、契約金額は男
5
独立行政法人国民生活センター編『消費生活年報2009』独立行政法人国民生活センター、2009 年、
pp.38~39
性 505 万円、女性 402 万円、キーワードは①説明不足、②解約、③家庭訪販、④契約書・
書面、⑤クレーム処理、⑥返金、⑦契約変更、⑧他の接客対応、⑨信用性、⑩約束不履行
の順に多いとされ、特に、保険会社の説明不足や解約、クレームへの対応などに関する相
談が目立つ、とされる。6 2008 年度の特徴もほぼ同様であった。損害保険の特徴について
は、2008 年度、相談者は男女ほぼ半数、契約当事者は 30 歳以上の各年代、契約金額は男
性 79 万円、女性 27 万円、キーワードは①説明不足、②補償、③クレーム処理、④解約、
⑤他の接客対応、⑥返金、⑦契約書・書面、⑧信用性、⑨約束不履行、⑩契約更新の順に
多いとされ、特に、保険会社の説明不足や解約、返金などに関する相談が目立つ、とされ
る。7
こうしてみると、対象事例でみるように、生命保険と損害保険の相談傾向は、同様
の内容を持つが、その時点の業界状況により、異なった面が強く示されるようである。そ
して、販売方法、接客対応の問題が強く示されるとともに、両者に共通の、説明不足のキ
ーワードが、問題として浮かび上がる。
(3)保険法に関連する相談内容
保険法の施行を契機に、保険に関する相談の実態把握を目的としたが、施行から 5 か月
間で直ちに結果が表れる性質のものではない。また保険の性質上、過去に締結された契約
が問題にされることが多く、さらに件名の範囲で分かることは少ない。変更点に関連する
事例としてのみ掲げる。
イ)適用範囲
・保険法が「共済契約」にも適用されるようになった。
「医療共済に加入後、体調を壊し入院、診断書等を添えて書類申請したがなかなか保険
金が下りない」
ロ)契約締結とその後
・保険証券等の交付義務(保険契約の説明と認知)
「銀行員に勧められ、定期預金の満期金を豪ドル建て個人年金保険にしたが、リスクの
ある商品とは思わなかったので取り消したい」
・告知義務 自主的な申告義務から、
告知を求めてきた事項への質問応答義務となった。
「医療保険に加入した。治療中であることを告知しているにもかかわらず告知義務違
反で保険金支給を拒否された」
ハ)保険事故発生と給付
・保険給付の支払時期 保険金の支払時期についての規定を新設
「入院中の妻が契約する養老保険。給付金を申請し、他社は 3 週間後に支払われたが当
該保険会社は数か月待たせている」
・保険給付請求権の消滅時効 改正前の 2 年から 3 年に変更された
「父が生命保険を掛け、自宅の金庫に証書を保管し、満期に気付かず放置していたもの
が出てきた。保険金を出してほしい」
6
独立行政法人国民生活センター編『消費生活年報2010』独立行政法人国民生活センター、2010 年、
pp.38~39
7 注 5 の同掲書
5.保険契約と消費者、事業者
消費者は、生活の中で多くが保険契約を締結していながら、自身の関係する保険契約
について熟知しておらず、事業者との間の情報格差が大きい。その差を埋める保険契約
ルールの見直しは、理解を促すきっかけとなる。新しい保険法によって、保険契約が分
かり易いものとなり、保険業法、金融商品販売法、金融商品取引法、消費者契約法とと
もに、トラブルを減少させるルールが整ったといえよう。保険業界では、保険法に対応
すべく約款が改訂されるとともに、生命保険では約款のほかに「ご契約のしおり」を、
損害保険では、「重要事項説明書」(契約概要・注意喚起情報)などを使用し、重要な
点を理解しやすくまとめ提示しているとする。さらには、保険法を基に、保険商品の複
雑さや特約が整理され、各保険商品の共通点、相違点が比較しやすくなるとともに、生
命保険の営業職員、損害保険の代理店など募集人が説明力を高めることが求められる。
それにより、消費者が少しでも保険に対して理解を深めることが期待されるが、消費者
自身も、生活の中での保険の役割を理解し、生活設計の中に保険商品を位置づけ、主体
的に契約をすることが求められる。
6.まとめ
消費生活相談情報の事例によれば、保険商品に対する説明不足、理解不足から、契約
内容への認識違いが生じ、保険給付金に対する不満、解約希望となる。保険募集人、保
険会社の対応への不満にもつながるようだ。保険法により、情報格差に基づく契約者、
被保険者、保険給付受取人への保護が打ち出され、保険契約のルールが整備され、理解
しやすくなったとされるが、この機会に複雑な保険商品の内容を見直し、直接渡される
保険約款、その他の関連書面を整理し、分かり易くし、十分な説明が受けられるような
システムづくりが望まれる。消費者自身も生活に大きな位置を占める保険契約にさらに
関心を持ち、基本的な知識を身につけ、主体的に、必要に応じた契約を結びたい。
なお、強制力がある強行規定、片面強行規定に反するものは保険法で無効となるが、
保険法の任意規定と異なる条項、保険法に規定しない条項については、消費者契約法の
適用を受ける。適格消費者団体による約款の差し止め請求など、問題提起も必要である。
(参考文献)
落合誠一・山下典孝編『新しい保険法の理論と実務』
(別冊金融・商事法判例)
、2008 年 10 月(株)経
済法令研究会
桜井健一・坂雄一郎・丹野美絵子・洞澤美佳『保険法ハンドブック―消費者のための保険法解説』
、2009
年 6 月、日本評論社
生命保険文化センター『生命保険・相談マニュアル』2010 年 6 月、財団法人生命保険文化センター
社団法人日本損害保険協会『そんぽ
相談ガイド』2010 年 12 月、社団法人日本損害保険協会