大容量超低温冷却装置の開発

大容量超低温冷却装置の開発
●Development
of Ultra-low Temperature Refrigeration Unit with Large Capacity
要旨
非共沸混合冷媒を使用した大容量の超低温冷却装置NeoCold RCT760を2006年
4月に商品化した。この商品は、塩素原子を含まずオゾン層を破壊しない冷媒成
分のみを使用したシリーズの2機種目であり、先行の下位機種と装置寸法も、圧
縮機も同一としながら、冷却能力や効率を大幅に向上させた。
本報では、主に混合冷媒システムにおける冷媒混合比率などの設計因子と冷却
能力などとの関係、このシステムの特徴などについて報告する。
八木 昌文
*
清水 寛正
*
ABSTRACT
We commercialized the NeoCold RCT760 Ultra-low Temperature Refrigeration Unit with large capacity
using zeotropic mixed refrigerants on April 2006.
This product is the second model of the series that
contains no chlorine atoms and uses only refrigerant components causing no destruction of the ozone
layer.
Its system dimensions and compressor are the same as those of the earlier lower-class model,
but its cooling capability and efficiency are substantially improved.
高橋 正幸
*開発センタ
This report mainly describes the relationship between design factors such as the mixing ratio of refrigerants
in the mixed refrigerant system and the cooling capability, as well as the features of this system.
1
まえがき
現在、産業界のさまざまな場面で環境負荷低減のための
取組みが進められている。なかでも特に、オゾン層保護や
地球温暖化防止に関するものは急務であるといわれている。
当社では、1980年代末から−100∼−150℃に到達する超
低温冷却装置を製造、販売しており、これらには、フロン
系の数種類の物質を含む非共沸混合冷媒を使用してきた。
また、オゾン層保護のためのフロン類の規制に従って、使
1)
図1 超低温冷却装置の設置例
トラップとしてのクライオコイルは、高真空に保たれる
2004年4月には、
用する冷媒の成分を適宜変更してきた 。
空間領域内に設置される。クライオコイルは銅などの金属
塩素原子を含まずオゾン層を破壊しない成分のみを使用し
管で形成され、両端は超低温冷却装置の冷媒供給口と戻し
たNeoCold RCT752(以下、RCT752)を業界に先駆けて発
口に直結される。クライオコイル表面は、内部を流れる冷
売した。また、2006年4月には、RCT752をベースとして冷
媒により超低温域まで冷却され、真空排気時の残留ガスの
却能力および効率を向上させた大容量機種であるNeoCold
主成分である水蒸気3)を捕捉する。
RCT760
(以下、RCT760)を商品化した2)。
本報では、当社の超低温冷却装置NeoColdの概要と、
RCT760の開発について報告する。
クライオコイル表面に保持できる水分量には限界がある
ので、表面に堆積する霜状の水を定期的に除去するための
昇温が必要である。また、バッチ式の真空成膜装置では、
バッチごとに真空槽を大気開放するので、クライオコイル
2
超低温冷却装置の概要
2-1 超低温冷却装置の真空成膜装置への設置例
を常温まで短時間で昇温する機能が必要となる。本冷却装
置には、クライオコイルを短時間で昇温するデフロスト機
今回報告する超低温冷却装置は、真空成膜装置の一要素
能を備えるタイプがラインアップされている。昇温は、超
機器であり、真空槽内の水蒸気を捕集するためのトラップ
低温冷媒のクライオコイルへの供給を遮断し、代わりに圧
を冷却する用途に使用される。本冷却装置をレンズの光学
縮機吐出直後の高温のガス状冷媒を供給することで行う。
膜や自動車用部品の装飾膜などを形成する真空成膜装置に
2−2 超低温冷却装置の仕様
用いると、タクトタイム短縮や薄膜の品質向上がはかれる。
真空成膜装置への設置例を図1に示す。
2
近年、真空槽の大型化や樹脂ワークの増加傾向により、
1バッチあたりに必要な水分除去量が増えている。そのため、
新明和技報 No.29 (2007)
クライオコイルおよび、超低温冷却装置には、より大きな
おいても組成や相比率とともに温度が変化し得ることから、
水分除去能力が要求されるようになってきた。真空槽内の
超低温冷却装置への適用が有効である5)。今回報告する超低
水蒸気排気速度は、分子流状態の水分子の冷却面への入射
温冷却装置では、常温域から超低温域の沸点をもつ数種類
しやすさに依存するので、クライオコイルの表面積に比例
の冷媒を混合した独自のHFC(HydroFluoroCarbon)系非
4)
すると考えられる 。一方、クライオコイルへの入熱は周囲
共沸混合冷媒を使用している。
からの輻射が主であり、その量も表面積に比例すると考え
本冷却装置の冷凍サイクルを図3に示す。本冷却装置の
られる。そのため、水蒸気排気速度を高めるためにクライ
核となる熱交換器ユニットの構成は、複数の気液分離器、
オコイルを大きくすると、それに用いる冷却装置には、入
熱交換器、高圧側と低圧側を隔てる減圧器(キャピラリチ
熱が増える分大きな冷却能力が要求される。通常の真空成
ューブ)からなる。
膜装置においては、冷却装置のクライオコイル冷却能力は、
入熱の数倍程度とすることが多い。その理由は、冷却能力
に余裕を持たせると、所定温度まで短時間で冷却でき、また、
熱負荷に変動が生じても安定した温度に保つことができる
からである。このことをふまえ、RCT760の標準クライオ
コイルのサイズと冷却能力を決定した(表1)。この仕様に
対し、RCT752をベースとして冷却能力向上のための改良
図3 冷凍サイクル
を加えることにより、達成することとした。両機種の主な
圧縮機から高温・高圧のガスとして出た冷媒は、水冷コ
仕様の比較を表1に示す。また、RCT760の外観を図2に
ンデンサにより常温付近まで冷却され、沸点の高い成分を
示す。
中心に一部が液化される。気液二相となった冷媒は、気液
分離器で気相と液相に分離される。気相冷媒はつぎの熱交
表1 超低温冷却装置の主な仕様
型 式
外形寸法〔mm〕
質量〔kg〕
電源
圧縮機出力〔kW〕
サイクル
冷媒
到達温度〔℃〕
冷凍機油
冷却能力〔W〕
RCT752
RCT760
W900×D665D×H1,630
450
460
3φ200V 50/60Hz
5.5
4段気液分離混合冷媒サイクル
非共沸7種混合冷媒
−140
エステル系合成油
900(−120℃) 1,200(−120℃)
標準クライオコイル面積〔m2〕
0.5
0.7
-3
3
-3
3
(1.22×10 m ) (2.13×10 m )
(体積)
換器の高温側(高圧側)に導かれ、液相冷媒は減圧され温
度が降下した後に同じ熱交換器の低温側(低圧側)に導か
れる。熱交換器では相互に熱交換が行なわれ、低温側冷媒
は減圧されたことにより低温で蒸発し、効率よく高温側冷
媒を冷却してその一部を液化させる。再び気液二相となっ
た高温側冷媒は、次の段の気液分離器で相分離され、前述
と同様な過程を繰り返す。このようにして高圧側の冷媒は
次第に低温化し、最終のキャピラリチューブで減圧される
ことにより、−150℃以下にも達する超低温の冷媒となる。
当社において非共沸混合冷媒に採用した物質の変遷を
表2に示すが、上の行にあるほど沸点の高い物質である。
図2 RCT760外観
2−3 冷凍サイクルと冷媒
非共沸混合冷媒は、単一冷媒とは異なり、一定圧力下に
CFC系使用時
CFC-11
CFC-12
CFC-13
FC-14
CH4
Ar
HCFC系使用時
HCFC-141b
HFC-152a
HFC-23
FC-14
CH4
Ar
現 在
HFC-245fa
HFC-134a
HFC-23
FC-14
Kr
CH4
Ar
表2 使用冷媒の変遷
3
大容量超低温冷却装置の開発
最も高沸点の成分の選定は、高圧下で常温の冷却水によ
3−2 混合冷媒封入量と混合比の検討
り凝縮可能となるように標準沸点(大気圧下での沸点)が2
0℃前
混合冷媒の封入量と混合比を変化させたときの、冷却能
後のものを選ぶ。最も標準沸点が低いのは−186℃のアルゴ
力への影響を確認したことについて述べる。試験用冷媒の
ンであり、成分間の最大の標準沸点差は200℃以上となる。
構成例を図5に示す。冷媒AはRCT752標準組成のもの、
その間隔をほぼ等間隔に区切るように他の成分の種類と数
冷媒Bは冷媒総量を減らし低沸点冷媒の組成比を多くした
を決定する。なお、非共沸混合冷媒は、成分や合計封入量
もの、冷媒Cは冷媒Bの低沸点冷媒のみを増量したものであ
が同じであっても、混合比率次第で性状が大きく変化する。
る。これらを用いた試験結果のうち、冷却性能曲線を図6に、
そのため、圧縮機や熱交換器などの機器の条件が一定であっ
圧縮機吐出圧力を図7に示す。
ても、冷媒の条件次第で性能は変化する。成分の数が増え
図7より、いずれの冷媒構成でも熱負荷と吐出圧力は概
るほど冷媒選定の自由度は高くなり、所定の到達温度や冷
ね比例関係にあるが、高負荷域においてコイル平均温度と
却能力を得るための冷媒の構成は幾通りも存在し得る。そ
吐出圧力がともに急上昇する傾向にある冷媒Aに対し、冷
の中で、効率や圧縮機の吐出温度・圧力のような他の特性
媒B、およびCでは安定している。このような傾向は低沸点
も総合的に考慮し、最適な比率と封入量を決定する。
冷媒の比率に関係しているためと見ることができ、ある程度
低沸点冷媒の比率を上げることが吐出圧力の安定に有効と
3
冷却能力向上策の検討
考えられる。
余地があるかを見極める試験を行った。サイクルの構成と
圧縮機は変更しないものとし、変更する因子は、冷媒の量、
混合比、キャピラリチューブの流れ抵抗とした。また、ク
ライオコイルのサイズを大きくすることの影響、および必
混合比率(%)
RCT752を試験機として用い、どの程度冷却能力向上の
要な対策についても検討した。
高沸点冷媒 中沸点冷媒 低沸点冷媒
3-1 試験装置の構成
冷媒区分
試験装置の構成を図4に示す。熱負荷を定量的に与える
図5 試験冷媒構成例
続し、クライルコイルには電気ヒータを接触させ、その電
力を調整する構成とした。試験装置の冷却能力は熱負荷と
クライオコイルの平均温度の相関で評価することとし、試験
装置に供給する冷却水はRCT752の標準と同じの水温25℃、
コイル平均温度(℃)
ため、試験機には断熱された銅管製のクライオコイルを接
1時間あたりの水量09
. m3とした。
熱負荷(W)
吐出圧力(MPaG)
図6 試験結果(熱負荷−コイル平均温度)
熱負荷(W)
図4 試験装置
4
図7 試験結果(熱負荷−吐出圧力)
新明和技報 No.29 (2007)
冷媒の増量が有効であると言える。ただし、吐出圧力や吐
出温度の上昇を招く傾向があるので、それらとのバランス
を考慮する必要がある。製品化の段階では、圧力や吐出温
度などの値を装置の信頼性を確保できるレベルに収める必
要がある。当社が本製品に適用する基準を表3に示す。
出圧力を示す。
−120℃時冷却能力(W)
図6より、冷却能力の向上には、冷媒総量、特に低沸点
表3 温度・圧力の基準
基 準
130以下
ゲージ圧2.5以下
負圧にならないこと
3−3 キャピラリチューブの検討
キャピラリチューブの長さや内径を変更すると、流れ抵
抗の変化により流量が変化する。流量の変化に応じてその
封入冷媒量/RCT752冷媒量
図8 キャピラリ容量・封入量と冷却能力
吐出圧力(MPaG)
項 目
圧縮機吐出温度〔℃〕
圧縮機吐出圧力〔MPa〕
圧縮機吸込圧力
段の冷却能力が変化し、また同時に温度降下幅が変化する。
単一成分の冷媒として広く使われるHCFC-22などでは、キ
ャピラリチューブの長さや内径から冷却能力の目安を得る
封入冷媒量/RCT752冷媒量
図9 キャピラリ容量・封入量と吐出圧力
ための線図が整備されている6)。しかし、混合冷媒の場合、
図8より、クライオコイルが05
. m2の場合、キャピラリ容
流量が変化すると混合比率や物性も変化するので、キャピ
量0.75Qでは、1.00Q(RCT752仕様)の場合と比較して、
ラリチューブの寸法から冷却能力を予測することは困難で
冷却能力が大幅に低下していることが分かる。この条件で
ある。また、本シリーズの構成では、1本のキャピラリチ
はキャピラリの流れ抵抗が大き過ぎることにより、各熱交
ューブを変更するとサイクル全体に複雑な変化をもたらす
と考えられる。そのため、実験により1本ごとに最適化す
ることも困難と予想されるので、本検討では、気液分離器
後の4本のキャピラリチューブについて、下記のパラメー
タが一定の比となるように寸法を変更し、その影響を評価
した。このパラメータは、キャピラリチューブのある寸法
に対する前述の文献6)のHCFC-22の線図から読み取れる
換器の低温側の液冷媒が不足し、十分な冷却が行われない
ためと考えられる。12
. 5Qの場合も若干低下する結果となっ
たが、これはつぎのように考えられる。キャピラリの流れ
抵抗が小さくなったことにより各熱交換器での冷却は改善
され、07
. 5Qの場合より冷却能力は向上した。しかし、全体
の冷媒循環量がさほど増えないまま上流側のキャピラリの流
量が増えたため、クライオコイルの冷媒流量が減少し、冷却
能力が低下した。なお、図9に見られるように、12
. 5Qの場
冷却能力である。ここでは、RCT752のキャピラリチュー
ブの寸法における値をQ(W)として表すこととする。以
下ではこのパラメータをキャピラリ容量と称す。
の比率を増すなどの方法で冷却能力向上の余地が残ってい
ると考えられる。
キャピラリ容量を変化させた場合の冷媒封入量とクライ
オコイルにおける冷却能力の関係を図8に示す。横軸は
RCT752の冷媒封入量に対する封入量比(%)であり、縦
軸はクライオコイルの平均温度が−120℃となる時の熱負
荷の値(W)である。模擬クライオコイルは、RCT752の
2
合は、10
. 0Qより吐出圧力に余裕があり、冷媒の低沸点成分
2
クライオコイルのサイズの違いについては、キャピラリ
容量1.00Qの場合で比較すると、
0.7m2では0.5m2より冷却能
力の低下が見られる。これは、クライオコイルの内容積が増
えた分、低沸点冷媒の滞留量が増え、低温部で熱交換に寄
与する冷媒が減少したためと考えられる。また、クライオ
標準である表面積0.5m のものと、開発仕様の0.7m のもの
コイル内の気相冷媒の体積比が増して伝熱を阻害すること
とを比較するため併用した。冷媒の混合比率は前節の冷媒
も原因の一つとして考えられる。以上のことから、クライ
Cと同一とした。また、図9には、各条件での圧縮機の吐
オコイルを大きくする場合には、つぎの対策が有効と言える。
5
大容量超低温冷却装置の開発
(1)低温部の冷媒循環量を増やすために、低沸点冷媒を増
量する。
減して効率を向上させるため真空断熱材を採用した。また、
冷媒封入量を低減しながらクライオコイルへの冷媒循環量
(2)クライオコイルでの液冷媒の比率を高めるために、キャ
を確保し、併せて圧縮機吐出圧力も低減するため、コイル
ピラリチューブの調整などにより各熱交換器での冷却
直前のキャピラリチューブを調整した。このような機器側
能力を改善する。
の変更に伴い、混合冷媒の最適バランス点は常に変化する
2
0.7m のクライオコイルにおいてキャピラリ容量を1.56Q
ので、冷媒の再調整が必要となる。今回の場合、クライオ
とした場合、冷媒量が増すにつれて冷却能力の大幅な向上
コイルの到達温度の上昇を招いたため、低沸点冷媒を増量
が見られた。これは、キャピラリの流れ抵抗の減少と冷媒
した。一方、圧縮機吐出温度が許容レベルを超えないことを
封入量の増加が相まってクライオコイルを含めた全体の循
確認しながら高沸点冷媒の低減を行った。また、吐出温度抑
環量が増加したことによるものと考えられる。この条件に
おいて冷媒封入量を増やした場合、上述の対策(1)、
( 2)と
同等の効果が得られたものと考えられる。
制のために液インジェクション回路の見直しも併せて行った。
決定した冷媒の混合比率を、RCT752と予備試験時点の
ものとの比較を図11に、また、それぞれの冷却性能曲線を
図8に示す条件のうち、キャピラリ容量15
. 6Q、封入冷媒
比112%、クライオコイル表面積0.7m2の場合の予備試験結
果の詳細を図10に示す。ここには、冷却性能曲線、および
熱負荷と吐出圧力の関係を示す。冷却性能は表1の仕様を
図12に、圧縮機吐出圧力を図13に示す。これらの改良・調
整の結果、12
, 00W以上の高負荷域において圧縮機吐出圧力
は01
. MPa以上低減され、冷媒封入量は約33
. %低減された。
冷却能力も若干向上する方向となった。
満たし、吐出圧力をはじめとして、表3の特性にも基準を
満たす。しかし、製品化にあたっては、吐出圧力と冷媒封
混合比率(%)
吐出圧力(MPaG)
コイル平均温度(℃)
入量のさらなる低減を目指すこととした。
高沸点冷媒 中沸点冷媒 低沸点冷媒
冷媒区分
総熱負荷(W)
図10 予備試験結果
図11 冷媒組成比の変化
4 製品試作と開発結果
予備試験結果を受けて、RCT760の試作機を製作した。
達成するため、つぎの改良と調整を行った。
(1)混合冷媒の封入量と混合比率の調整
(2)クライオコイル直前のキャピラリチューブの調整
(3)真空断熱材の採用による熱損失の抑制
コイル平均温度(℃)
本試作機において、表1の仕様を満たしつつ前節の課題を
(4)圧縮機モータ冷却、および吐出温度低減のための液イ
ンジェクション回路キャピラリチューブの調整
総熱負荷(W)
4−1 最終調整結果
RCT760試作機では、熱交換器ユニットへの侵入熱を低
6
図12 最終結果(熱負荷−コイル平均温度)
新明和技報 No.29 (2007)
たと考えられる。
吐出圧力(MPaG)
これらの機種のコイル平均温度が−1
20℃時のCOP(Coefficient
Of Performance:冷凍機の効率を示す値で、消費電力に対
する冷却能力の比)を表5に示す。RCT760は、侵入熱対
策の強化や圧縮機負荷の抑制を重視した冷媒などの調整の
結果、従来機種と比較して効率が大幅に向上していること
が分かる。
総熱負荷(W)
図13 最終結果(熱負荷−吐出圧力)
表5 COP比較
RCT-75 RCT752 RCT760
コイル−120℃時のCOP 0.149
0.151
0.167
4−2 従来機種との比較
今回開発したRCT760と、従来機種RCT752および、
5 あとがき
1993年に開発した当社のHCFC系冷媒を用いた同クラス冷
非共沸混合冷媒を用いた超低温冷却装置で、従来機種よ
却装置RCT-75との概略比較を表4に、冷却性能の比較を
りも冷却能力と効率を向上させた大容量機種を開発した。
図14に示す。
装置寸法と圧縮機を先行の下位機種と同一としながら、冷
表4 機種比較
圧縮機出力〔kW〕
圧縮機吐出量〔%〕
標準コイル表面積〔%〕
RCT-75 RCT752 RCT760
5.5
104
100
100
22
71
100
媒封入量と混合比率とキャピラリ容量に重点を置いて検討し、
目標仕様を達成した。また、記述してはいないが、信頼性
に関わる他の特性も満足することができた。
また、今回の開発をとおして、混合冷媒サイクルにおけ
るキャピラリ容量や冷媒などの多数の設計因子と、冷却性
能や他のさまざまな特性との関係を把握することができた。
コイル平均温度(℃)
本商品は、現在稼働中の規制冷媒を使用した超低温冷却
装置と問題なく置換えることができ、オゾン層を破壊しな
い冷媒成分のみを使用しているので、今後、広く市場に普
及することを期待している。
参考文献
1)池田昌彦:冷凍,68(785),pp.73-76(1993)
総熱負荷(W)
図14 冷却能力比較
表4に示すとおり、RCT-75はRCT760に比べ圧縮機吐出
量が大きく、標準クライオコイルの表面積は小さい。これ
らの点から見ると、クライオコイルの冷却能力を高めるに
2)高橋正幸,清水寛正,八木昌文,室谷育克:「超低温冷却装
置の開発」,第40回空気調和・冷凍連合講演会講演論文集,pp.
61-64(2006)
3)熊谷寛夫,富永五郎,辻泰,堀越源一:
「真空の物理と応用」,
第8版,pp.152-153,裳華房,東京(1983)
はRCT-75の方が有利な条件であったと考えられる。しかし、
4)低温工学協会・関西支部,海外低温工学研究会,低温工学ハ
低負荷域ではRCT-75の方が低温に達するものの、指標とな
ンドブック編集委員会 訳:
「低温工学ハンドブック」,pp.
る−120℃近傍では、RCT760のほうが高い冷却能力を得て
338-340,内田老鶴圃新社,東京(1982)
いる。両者の違いとしてRCT-75は、到達温度を下げる方向
で調整された結果、クライオコイルを含む低圧側の圧力が
低くなり、冷媒循環量が抑えられたと考えられる。これに
対し、RCT760は、キャピラリ容量を増した結果、低圧側
5)日本冷凍協会編:
「上級標準テキスト 冷凍空調技術」,pp.6566,日本冷凍協会,東京(1988)
6)日本冷凍協会編:
「冷凍空調便覧」
「
,
巻,pp.139-140,日本
冷凍協会,東京(1993)
圧力が上昇して循環量が増し、それが冷却能力向上につながっ
7
新製品紹介
(2)短時間で反射膜を作製できます。
真空排気と反射膜作製時間を短縮した
スパッタリング法に用いる電源の最適化とターゲッ
『バッチ式スパッタ・ プラズマ重合装置』
ト(成膜材料)の冷却能力向上により、成膜速度を向
上させました。これにより、反射膜の作製時間が短縮
VRSP900AD
しました。
近年、自動車の生産量増加、低コスト化、形状の多様化
*1)機能膜:光源の反射機能を持たせた反射膜と、耐環境
に伴い、自動車用ランプにも低コスト化や生産性向上への
性の機能を持たせた保護膜から構成される複合膜。反
要求が高まっています。そのため、自動車用ランプのリフ
射膜はスパッタリング法で、保護膜はプラズマ重合法
レクター部品においても、樹脂製リフレクターの表面に短
で成膜する。
時間で機能膜
*1)
を作製できる真空成膜装置が望まれていま
す。
そこで、従来よりも短時間で真空排気と反射膜の作製が
行えるスパッタ・プラズマ重合式真空成膜装置を開発しま
≪装置構成≫
した。
スパッタリング用の電極、
冷凍機、
≪特長≫
重合用の電極、
メインバルブ・本引き用ポンプ、
DC/MF電源、
粗引き用ポンプ
電源盤
(1)真空排気が短時間で完了します。
従来よりも低真空で安定したスパ
ッタ成膜ができるようにしたこと、
および排気用ポンプの最適化を行っ
たことで真空排気に掛かる時間を短
縮できるようになりました。従来は
充分に真空排気を行わないと、真空
槽内およびリフレクターに内在する
残留ガスの影響で反射膜の品質が悪
化していました。
≪主要諸元≫
装置全体
スパッタ用機器
プラズマ重合用機器
排気機器
装置寸法〔mm〕
W5,700×D4,900×H3,200
チャンバ内寸〔mm〕
φ1,000×H1,600
基板ホルダ
左右扉に各1式装備
電 源
DC電源
電 極
マグネトロン方式
ターゲットサイズ〔mm〕
W127×D1,320
電 源
MF電源
電 極
マグネトロン方式
ロータリーポンプ〔台〕
2
メカニカルブースタポンプ〔台〕
1
油拡散ポンプ〔台〕
1
冷凍機〔台〕
1
23
新製品紹介
成膜時の基板温度上昇を抑えることができる
≪装置構成≫
『基板冷却機能付真空蒸着装置』
VCD1300AD
デジタルカメラや携帯電話用カメラに使用される光学部
品の材料(基板)は、ガラスに替わって樹脂が用いられる
ようになってきました。
樹脂は安価、軽量で成形しやすいのですが、耐熱温度が
低いので多層膜を蒸着すると基板が熱応力で変形し膜にク
ラックが入るという問題がありました。
そこで、当社では成膜中の樹脂基板を冷却して温度上昇
全 景
を抑えることによって膜にクラックが入るという問題を解
決できる真空蒸着装置を開発しました。
≪特長≫
(1)成膜中に基板を冷却できます。
基板を搭載して回転する基板搭載治具(以下ドーム)
冷却水
ドーム回転部
を成膜中に冷却できます(図1)。例えば、10∼20℃の
冷却水をドームの内部に流すことで、樹脂基板に40層
の成膜(成膜時間約5時間)をしても膜にはクラック
膜厚計
冷却ドーム
が発生しません(図2)。
図1 冷却機能付きドーム
(2)アシスト源を用いると高特性の膜が作れます。
アシスト源としてSPDイオンコーターを用いると、
高い密着力と耐環境性(波長のシフト量:微小)に優
れた光学膜を作製できます。
(3)短時間でドームを取り替えられます。
冷却機能を必要としない場合や、通常のドーム(冷却
機能なし)を用いて生産性を上げたい場合には、30分
程度でドームの交換が可能です。
冷却機能なし
(クラック有り)
冷却機能あり
(クラック無し)
図2 樹脂成膜サンプル
24
≪主要諸元≫
真 空 槽〔mm〕
φ1,300×H1,450
基板治具(冷却ドーム)
〔mm〕
φ1,100
排 気 系
クライオポンプ,粗引きポンプ
基 板 加 熱
ハロゲンランプヒーター
膜 厚 モニタ
光学式膜厚計,水晶式膜厚計
蒸 発 源
電子銃、抵抗加熱
SPD電源
高周波電源、DCバイアス電源
真 空 計
ピラニ真空計、ペニング真空計、
電離真空計
ガ ス 導 入
自動圧力コントローラー(APC)、
自動流量コントローラー(MFC)