第05号 平成16年05月

病院長ノート(No.05: 平成16年5月号)
杉原
國扶 プロフィール
杉原國扶
所属学会
昭和22年5月26日
日本臨床外科学会評議員
東京医科歯科大学医学部卒
日本消化器病学会関連地方評議員
医学博士(腫瘍外科専攻)
日本消化器外科学会認定医・指導医
日本消化器学会専門医・指導医
日本癌治療学会・日本乳癌学会など
今年のゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたか。当院でも5月2日から5日まで4日間
が外来休診でした。しかし、入院の患者さまや外来透析の方々には暦どおりの休みはありません
ので、職員も交代で出勤して治療や看護、介護のお世話に当たりました。
この休み中に介護病棟を訪れた際、多くのご家族が面会に見えており、入院されている方々が
いつにも増して表情豊かに、楽しそうに過ごしておられました。入院生活を余儀なくされていて
もやはり支えはご家族であることを強く感じました。私たちも、ご家族で過ごされるのと同じよ
うな環境での介護を目指して行きたいと考えておりますが、より暖かい介護生活が過ごせますよ
うに、ご家族の皆様には一層のご協力をお願いいたします。
舌は健康状態の窓口
今回はちょっと変わった、そして日常生活に直ぐ役立つお話をします。
それは舌です。ことわざや言い回しに目、鼻、口、耳はしばしば使われますが、舌が出てくるこ
とはあまりありません。せいぜい舌先三寸とか閻魔様に舌を抜かれる、舌切り雀ぐらいです。し
かし実は舌は健康状態を極めてよく表している窓口なのです。
50歳代以上の方々なら子供の時
に医者にかかれば必ずまず、”舌を出してごらん”と言われた憶えがあると思います。私も学生
時代に教授の回診についていた時に、この言葉を耳にして懐かしくなりました。その後消化器外
科を専攻しましたが、術後の患者さんを診る際に私自身必ずこの言葉を口にしてきました。舌を
見ることで術後の患者さんの状態をある程度知ることができるからです。
どうして舌の状態なのか
東洋医学的診断法では舌を見ることを舌診と称し、視診の中でも最も重要視されています。これ
は舌の状況が全身状態を極めてよく現しているからです。しかし舌の重要性は東洋医学に限った
ことではなく現代医学全体に共通したものです。口腔粘膜は新陳代謝が全身の中で最も活発で、
また様々な刺激を絶えず受けています。とくに舌は血流が豊富で常に動きをもっていますので、
身体全体の血液状態や粘膜の再生状態を極めてよく反映するのです。
以下に簡単にチェックポイ
ントを解説します。
舌の色:淡いピンク色が正常の色調です。これに対して淡白舌といわれる白っぽい舌は貧血状態
を現し、紅舌といわれる赤っぽい舌は血液の濃縮や発熱、水分不足や全身の消耗した状態を示し
ています。紫舌は紫ないし青紫の舌で鬱血(うっけつ:動静脈)、飲酒による障害、循環器呼吸
器障害などを現します。
舌の形:代表的な異常形態が歯痕と溝状舌です。歯痕とは舌の辺縁に歯の跡がついた状態ですが、
ストレスの亢進した状態や運動不足、水分取りすぎ、下痢や便秘などの消化不良などの際に見ら
れます。また溝状舌は舌粘膜にたての溝が2~3条見られるもので、粘膜の再生力が低下したこ
とを示し、栄養不足やストレスに対する抵抗力の低下、心身因子の亢進した状態を現しています。
舌苔:これが健康状態を現していることは皆さんもしばしば経験されていることでしょう。風邪
をひいたときや胃腸の調子が悪いときに白い舌苔がよく見られます。
舌苔の色調は口腔の環境状
態、細菌の状態をよく反映し、熱の有無や脱水などの体液の状況と大きく関連しています。舌苔
の量は上部消化管の状態と関連することがよく知られています。黄色味を帯びた舌苔は喫煙本数
が多い時などに出てきます。
以上述べたように、舌は健康状態をよく反映する窓口です。朝起きたときに鏡を見てご自分の舌
の状態を観察し、そのときの体調と比べてみると健康の自己管理につながります。
またいつもと違う舌の状態が現れれば生活状態を振り返ってみて、何か違和感があるようなら医
療機関で相談することで、重大な病気の早期発見と治療の契機にもなります。
舌は裏切りません。(だから閻魔様は舌を抜くのですね)