連語辞書の構築による機械翻訳の訳質改善

連語辞書の構築による機械翻訳の訳質改善
あらまし
佐良木 昌
古賀 勝夫
日本大学
クロスランゲージ
英語おける修辞技法は修辞学として体系化されていることから、自然言語処理の背景的知識として活用できる。対照・列
挙・前辞反復などという修辞技法により創案された対句は、等位接続型 A and/or/but B などの固定的な形式を採っており、特許英文に多
用されている。固定形式により統一性が強まって反義語や同義語の対句という修辞的連語となると共に、文法的には一つの品詞として機
能する。また特許英文では、前置詞単体がきわめて多義であることから、その多義性を一意に絞るために複合前置詞が、愛好されてい
る。等位接続型などの一般形式や複合前置詞の構成パターンを用いて、特許英文から修辞的連語や複合前置詞を大量に抽出すること
ができ、それらを辞書として編集し機械翻訳システムに実装することで、特許英文翻訳の訳質を改善可能できる。
キーワード 修辞技法、対照・同義語畳用・列挙・前辞反復、複合前置詞、機械翻訳
Compiling
the dictionary of rhetorical collocations and complex prepositions
in English patent documents
Masashi SARAKI
Katuo KOGA
Nihon University
Abstract
Cross Language Inc.
We have retrieved a lot of rhetorical collocations and complex prepositions, using the formulas of rhetorical expressions in
English patent documents, and have compiled the dictionary of the rhetorical phrases. Our attention in this paper is focused on the method of
vocabulary-building for rhetorical phrases and complex prepositions in the patent documents. Rhetoric includes many rules which can
control all prose composition and many techniques for expressing all matters relating to beauty or forcefulness of style. Writers prefer in
patent rhetoric to invent rhetorical phrases such as Antithesis, Catalog, Synonymy, or Anadiplosis. Alliteration and end rhyme are the
repetition of sounds in positions close enough to be noticed. Another aspect of such rhyming means that the words within the rhetorical
collocations have the same affixes which can be used for the purpose of retrieval of the rhetorical collocations. By implementing the
dictionary on a machine translation system, the system will be able to increase the quality of the translation thereof.
Keyword patent rhetoric, rhetorical collocations, complex prepositions, antithesis, synonymy, catalog, anadiplosis, machine translation
ポッツが指 摘 するようにクレーム定 義 方 法 を巡 る論 議 は、 J. S.
1. はじめに
1.1. 法律 と特 許 英 文
ミル[5]と W. ヒューエル[6]の論理学論争を源とする、属と種差
とによる定義法を論理学的背景としている。
特 許 英 語 は技 術 英 語 の一 種 ではあるが、例 えば、米 国 特
許制度では、特許明細書を法律文書としており,クレームの解
1.2.
釈は裁判所が行うこともあり、米国特許明細書は法律文書とし
特許 英 文 における論 理 と修 辞
この よう な 論 理 学 的 厳 密 性 は 、 た とえ ば米 国 特 許 書 式 に
て取 り扱 われている。あるいは、「特許 英語は技術英 語と法 律
反 映 されている。 クレームを本 質 論 とすれば、明 細 書 、とりわ
英語の複合乃至混血」[1]とも考えられている。
欧米の特許文書においては、近代論理学の適用を背景とし
け embodiment の記 述 は 具 体 的 現 実 論 であ り発 明 実 施 の
た上位概念・下位概念に基づく語彙の使用といった論理学的
現 実 性 がなければならないと規 定 されている。 論 理 学 的 厳
修辞を観ることができる。たとえば、文献公知のように、ポッツの
密 性 は、特 許 英 語 表 現 にも反 映 している。例 えば、クレーム
クレーム理 論 [2]における周辺限 定主義 /中心 限定主 義をめ
記 述 を 表 す 言 葉 は recite であ り 、 明 細 書 の 記 述 を 指 す 言
ぐるクレーム論議は、論理学論争の様相を呈していたし [3, 4]、
葉 は description で あ る と 言 わ れ て い る [7] 。 recite,
description は、ともにラテン語 起 源 であるが、前 者 はもともと
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法 律 文 書 におい て事 実 を 述 べる とい う原 義 であり、 後 者 は
的 な形 式 を採 っている。 この固 定 形 式 により統 一 性 が強 ま
フラン語 から借 用 され言 葉 で説 明 するという原 義 である。原
って修 辞 的 連 語 となると共 に、 文 法 的 には一 つの品 詞 とし
義 から視 て、この二 語 の使 い分 けには一 般 - 個 別 の論 理 、
て機 能 する。 同 義 語 を 反 復 する同 義 語 畳 用 synonymy や
換 言 すれば属 ( genus )- 種 (species )の論 理 系 統 樹 に基 づ
反 意 語 を並 べてる矛 盾 語 法 oxymoron という表 現 がある。
いてい る と言 え る 。 発 明 のエッセンス を 短 縮 し て 記 述 した も
これらは冗 長 に過 ぎる表 現 ではない。同 義 語 や反 意 語 の重
のを、 abstract (of disclosure) と呼 び、 明 細 書 とは別 個 に添
ね方 に は規 則 性 が あ り、 語 義 の 算 術 的 総 和 を 超 え 出 る意
付 する が 、 明 細 書 におい ては 、 クレー ムに 基 づ く 発 明 の 特
味 を表 現 している。 この種 のレ ト リッ クは、 英 語 が同 義 語 豊
徴 を summary (of the invention) [MPEP § 608.01(d)]と呼
かな言 語 であることから頻 用 される。 レトリックの知 識 があ れ
ぶことも、同 じ論 理 、すなわち属 (genus 一 般 )と種 (species
ば、 同 義 語 ・反 意 語 な ど によ り構 成 され た連 語 を 同 定 す る
個 別 )である。明 細 書 記 述 においても同 じく一 般 と個 別 との
手 掛 かりが得 られる。
論 理 に則 った記 述 が採 られる傾 向 を観 察 することができる。
特 許 実 務 家 によると、 米 国 特 許 明 細 書 の作 成 において
2.1. 修辞 的 連 語 の定 義
も、包 括 的 概 念 と個 別 概 念 との論 理 関 係 に踏 まえて、用 語
連 語 collocation の定 義 については、様 々 な論 議 がある。
を慎 重 に選 択 しながら起 草 すべきとい うプラクティス が重 視
ここでは BBI 連 語 辞 書 [11]を手 がかりに、自 然 言 語 処 理 の
されている。以 下 、引 用 する。
観点 から連 語について考えたい。
実 施 例 を記 載 するばあい、 ・・・各 要 素 、比 率 ないし条 件
に関 する包 括 的 概 念 、個 別 概 念 を支 持 する十 分 な数 だ
2.1.1 連語 の定義
け入 れておくべきである。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
BBI 辞 書 で は idioms に つ い て は 、 句 全 体 の 意 味 に 、
包 括 的 な記 述 の裏 づけとなる具 体 的 実 施 例 は少 なくと
個 々 の語 の意 味 が反 映 していないとの見 解 から、これを含 ま
も一 つは入 れておくべきである。とりわけ包 括 的 用 語 を充
な い と し て い る 。 一 方 simile に つ い て は 、 collocations と
分 に裏 づ ける た めには種 々 の 具 体 例 ない し 条 件 を 用 い
idioms との中 間 にあって過 渡 的 なもの( transitional )で、 句
た実 施 例 を 多 数 記 載 する の が 望 ま し い 。 包 括 的 用 語 で
全 体 としての意 味 に、個 々 の語 の意 味 が部 分 的 に反 映 して
表 現 し た要 素 の 具 休 例 を、 さら に 中 位 概 念 的 表 現 を 用
いるとの見 解 から、これは collocations として採 用 している。し
いていくつかのグループに分 類 したばあいは、各 グループ
かし BBI では、 simile を、 "miscellaneous" として扱 っている。
について少 なくとも 1 種 の具 体 例 を用 いた実 施 例 を記 載
本 稿 では、この BBI 見 解 を修 辞 学 の観 点 から見 直 し、修 辞
しておくのが望 ましい。 [8]。
的 連語 rhetorical collocation の概 念を導 入 する[12]。
個 別 事 例 を列 記 するには、 表 現 能 力 として、 同 義 語 ・類 義
語 ・関 連 語 についての豊 富 な語 彙 知 識 が求 められる。換 言
2.1.2 修辞 学の導 入
すれば、 個 別 事 例 同 士 の種 差 を見 極 め て、 それを語 彙 的
単なる結 合を越 えて統 一性 が強 固 であることが collocations
に充 分 表 現 できる能 力 が、求 められるのである。
の 成 立 条 件 で あ る 。 free combinations ― collocations ―
上 記 のように、 属 と種 との概 念 階 層 を利 用 して修 辞 的 技 巧
similes― idioms 、これらにおける結 合 度 に関 して、その結 合
を凝 らす必 要 がでてくる。論 理 と修 辞 とを統 合 して特 許 英 文
強 度 の測 定 基 準 として、 「頻 度 」「共 起 制 限 」「意 味 の 特 殊
の表 現 を工 夫 する傾 向 にあ る。 こういった論 理 = 修 辞 の観
化 」[ 13 ]が提 案 されている。 ここでは、この提 案 項 目 に加 え
点 から、特 許 英 文 の語 彙 運 用 の諸 特 徴 を視 るならば、特 徴
て、固 定 的 な形 式 と修 辞 技 法 的 な要 素 との二 つを、修 辞 的
的 な 語 彙 連 関 [9] が見 や す く な る と 思 わ れ る 。 前 項 に お い
連語 の基準 として設 定 する。
て、属 と種 との論 理 が特 許 文 書 の基 底 的 論 理 であると述 べ
英 語 には、対 句 "A and/or/but B", "A, B, and/or C" や、
たが 、 この論 理 は、 レ ト リッ クの 知 識 が あ れば、 修 辞 学 的 に
比喩 表現 "(as) ADJ as NP" などがあり、 等位 接続 詞 により
は、 部 分 と全 体 とを 置 き換 える 換 喩 metonymy ないし提 喩
同一 品詞 の語 が結合 される、あるいは従位 の接 続詞 により形
synecdoche であ る と 分 か る 。 類 概 念 と 種 概 念 と の 置 換 を 、
容 詞 と名 詞 (句 )とが結 合 される、という固 定 的 な形 式 を前 提
提 喩 と定 義 するレト リック論 [10] を採 用 するならば、 シネクド
としている。この固 定 形 式 によって、対 句 ・比 喩 として統 一 性
キは Patent Rhetoric の基 本 と言 えるだろう。 ただし、提 喩 を
が強 まり、文 法的 には一つの品詞 として機 能 する 。
捉 えるには、用 語 のタクソノミ taxonomy が必 要 であるが、 こ
ここでは、語 彙 的 かつ形 態 な規 定 を設 ける。たとえば、等
の点 は本 稿 の範 囲 外 にあり別 稿 の課 題 とする。
位 接 続 型 の修 辞 的 連 語 について、以 下 の規 定 を定 める。
2. 修辞 的 連 語 の抽 出 基 準
レトリックは、自 然 言 語 処 理 の背 景 的 知 識 として活 用 でき
る。対 照 ・列 挙 ・前 辞 反 復 などの修 辞 技 法 により創 案 された
対 句 は、たとえば、等 位 接 続 型 ”A and/or/but B”という固 定
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α )反 対 語 の並 列
β )同 義 語 の並 列
γ )類義語・関連語の並列
δ )同 じ語 の反 復
は一 覧 の意 がある。三 個 一 対 の形 式 triad が最 も均 衡 がと
2.2. 特許 英 文 における修 辞 的 連 語 の事 例
れており、同 語 源 の語 で統 一 される傾 向 が顕 著 である [15]。
ここで、個 々 の修 辞 表 現 について、解 説 すると共 に具 体
特 許 英 文 で は、 連 鎖 連 動 ・継 続 共 起 ・同 時 進 行 など の 表
例 を挙 げる。
現 に使 われている。 USP から抽 出 した列 挙 の事 例 を、 下 に
示 す。
2.2.1 「対 照 Antithesis 」
英 語 では、対 極 をなす二 つの語 (反 義 語 ・対 照 語 や反 義
[ 動詞トリアーデ] be accumulated, categorized, and disseminated;
の前 置 詞 ・副 詞 など)を and で結 合 することで、両 者 を統 合
collecting, organizing, and distributing the signals; be formulated,
して対 句 の形 で表 す。
executed, and coordinated; be re-compiled or re-assembled,
relinked, and reloaded
1) 例 えば 、 go up and down のよ うに反 意 の副 詞 を結 合
することで、統 合 的 な表 現 を工 夫 している。対 立 する二 語 が
[名詞トリアーデ] addition, subtraction and multiplication; application
明 示 されているので、 単 一 の抽 象 語 ( fluctuate )で表 すより
portability, interoperability, and interchangeability; stability,
も動 的 な 表 現 と なる ( 日 本 語 では漢 字 二 文 字 「 増 減 」で一
maneuverability and followability
括 した表 現 をするが[ 14 ]、これに対 応 するものといえる)。
2.2.4 「前 辞 反 復 Anadiplosis 」
2) 装 置 や処 理 過 程 に 備 わ る 反 復 動 作 は 、 その 動 作 方
同 じ語 を繰 り返 す形 で対 句 を構 成 する。
向 や動 作 位 置 のベクトルが正 ・逆 の両 方 であることが多 く、
特 許 英 文 では、両 方 向 の動 作 を一 括 して表 わすことが顕 著
[ 名 詞 対 ] devices and device drivers , both operating data
である。 装 置 の技 術 的 構 造 や動 作 ・処 理 の過 程 の説 明 は、
and debug data , key and key cylinder
反 復 動 作 や、 互 い に 反 対 方 向 に 進 む 経 過 を表 現 すること
上 で述 べた修 辞 技 法 の表 現 では、接 辞 が揃 う傾 向 が顕 著
がしばしばである。こうした技 術 的 表 現 には、二 極 対 立 を表
である。接 辞 が同 じであれば、同 時 に、頭 韻 あるいは脚 韻 が
す反 対 語 同 士 や、その上 位 概 念 の語 を用 いた修 辞 技 法 が
揃 う。 韻 律 を兼 ね備 えると、 すなわち韻 を踏 むと、その文 体
求 められ る 。 USP から抽 出 し た対 照 の 対 句 表 現 ( 加 除 ・増
的 効 果 が高 まり、句 のまとまりが強 められる。接 辞 の同 一 性
減 の過 程 や開 閉 動 作 など)を、下 に示 す。
は、修 辞 的 連 語 の抽 出 に利 用 できる [16]
[ 動 詞 対 ] add and delete, attach and detach, increase and
3. 複合 前 置 詞 の 定 義 と 来 歴
decrease, mount and demount, plug and unplug; turn on and off
[ 形 容 詞 対 ] enable and disable, open and closed, positive and
ここで は、 複 合 前 置 詞 complex preposition の定 義 と 来
歴 、そして諸 特 徴 を簡 単 に述 べる。
negative; directly and indirectly
[ 名 詞 対 ] acceleration and deceleration, activation and
deactivation, addition and deletion, connection and disconnection,
3.1. 複合 前 置 詞 の定 義 と諸 特 徴
compression and decompression, encryption and decryption,
3.1.1 定 義
inflation and deflation, thermal expansion and contraction,
本 稿 では、複 合 前 置 詞 を、 Quirk, Greenbaum ら(以 下 で
transmission and reception
は、単 に Quirk, et al. と記 す)の定 義 に従 い、「複 数 の語 か
ら成 る前 置 詞 」 [17] と定 義 する。 複 合 前 置 詞 は、 従 来 は群
2.2.2 「同 義 語 畳 用 synonymy」
前 置 詞 group preposition と も 句 前 置 詞 phrasal
同じ事柄を別の面から述べるために同義語同士や類語同士
preposition とも呼 ばれていた。 また、 学 校 英 文 法 でも群 前
を重ねる表現が、英語修辞法にはある。特許英文では、一連の
置 詞 と呼 ばれている。
処理過程や手順を述べるとき、関連語を重ねる。USP から抽出
した同義語畳用の組、および拡張した同義語畳用と見なしうる
3.1.2 構 成
関連語の組の事例を、同じく USP から挙げる。
Quirk, et al.は、複合前置詞を、2語構成と3語構成と分けて
[ 動 詞 の 組 ] decompile and decompress, plug and play, have
整理しているが、本稿では、3語からなる複合前置詞に P1 言及
been disclosed and described (herein/ in U.S. Pat. No.)
する。3語 構成を、一般 式 P1+NP+P2(P1, P2:前置詞)にて表
[形 容 詞 の組 ] open and uncovered
す。名詞句 NP とした理由は、名詞に冠詞や修飾語が付くもの
[ 名 詞 の 組 ] activation and initialization, disconnection and
も含めるためで、複合前置詞の範囲拡張を考慮している。ここ
reconnection, extraction and purification
で、複合前置詞の構成パターン[18][19]の一部を示す。
in+NP+of(in advance of)
2.2.3 「列 挙 Catalog」
in+NP+with (in love with)
同 義 語 ・類 義 語 ・関 連 語 を挙 げて同 一 対 象 の構 成 や性
at+NP+of (at the expense of)
質 を網 羅 的 に説 明 する、これが列 挙 である。同 義 語 畳 用 の
for+NP+of (for the sake of)
拡 張 とも言 え、 古 典 ギリシャ語 catalogue が語 源 で、 これに
on+NP+of (on account of)
65
3.1.3 用 法
のとおりであ る。 システム基 本 辞 書 ・専 門 用 語 辞 書 と共 に、
語 の結 合 である句 が、 一 つの前 置 詞 であ るかのように機
連 語 ユーザ辞 書 を使 うが、最 優 先 は 連 語 ユーザ辞 書 で、こ
能 する(文 法 化 grammaticalization の結 果 )。 複 合 前 置 詞
れを最 上 段 に置 く。次 は、基 本 辞 書 を置 く。ここまで の順 位
内 の名 詞 については、 意 味 が漂 白 化 bleaching し、それに
は不 動 とする。第 三 および 第 四 には、 専 門 用 語 辞 書 を置 く
伴 い、無 冠 詞 に推 移 する傾 向 が認 められる。
という序 列 にした。
Quirk1, et al.の指 摘 では、法 律 英 語 では目 立 って用 いら
れており、その法 律 文 ・官 庁 文 に顕 著 である。
[試 験 文 1] 実 施 例
In one preferred embodiment of the present invention,
3.1.4 語 彙 的 特 徴
five icons, each representing one of the subject matter
P1+NP+P2 の 複 合 前 置 詞 の 中 核 を 成 す 名 詞 は 、 多 く
categories, are displayed
and
may be selected and
は、 抽 象 名 詞 でありフランス語 からの借 用 語 である [20] 。
activated by the viewer manipulating the remote control.
本 稿 では、 動 詞 派 生 の抽 象 名 詞 を核 とした 複 合 前 置 詞 を
A) 連 語 辞 書 なしの機 械 翻 訳 による実 施 例 の和 訳 は、
中 心 に採 りあげる。
「1 つ の 本 発 明 の 好 適 な 実 施 例 に お い て 、 5 つ の ア イ コ ン
(内 容 カテゴリーの各 々 を表 している一 つ)は、表 示 されて、
3.1.5 意 味 的 特 徴
選 んでもよくて、通 って遠 隔 制 御 を操 作 している視 聴 者 をア
英 語 の GP の意 味 分 類 を、以 下 に示 す。
クティブにした。」
場 所 / 原 因 ・理 由 / 結 果 / 関 係
[評 価 ] A)の和 訳 は、
目 的 / 利 益 / その他
1)”be selected and activated ” の and の構 文 解 析 に失
単一前置詞の多くは多義であるが、複合前置詞は
敗 、助 動 詞 が activated を支 配 せず、と解 析 。
一 意 で あ る 。 た と え ば 、 with と in cooperation with と
2 ) by the viewer manipulating the remote control が 、
は、前者が多義(日本語の「と/と共に」に当たる)
受 動 態 の 意 味 上 の 主 語 で あ る こ と を 解 析 で き ず 、 the
であるのに対し、後者は一意(日本語の「と共同し
viewer を activated の目 的 語 とし 、 能 動 態 ・過 去 形 とし
て」に当たる)である。
て解 析 してしまった。
複合前置詞を構成する前置詞は、もっとも多義の
3 )した がって、 by を副 詞 とし て解 析 す ることに なり 「通 っ
部類にはいるが、複合前置詞が法律文でよく用いられ
て」と訳 出 した。
るということは、その多義を避けるという実務的目的
B) これに対 して連 語 ユーザ辞 書 を使 用 した場 合 、同 じ MT
によるものであろうと推定可能である。
システムでの訳 文 出 力 は、
「1 つ の 本 発 明 の 好 適 な 実 施 例 に お い て 、 5 つ の ア イ コ ン
(内 容 カテゴリーの各 々 の表 している一 つ)は、表 示 されて、
3.2. 複合 前 置 詞 の事 例
遠 隔 制 御 を操 作 している視 聴 者 によって選 択 ・起 動 されて
本 項 では in+NP+with のパタ ーン につい て の み事 例 を 挙
もよい。」
げる。
[評 価 ] B)の和 訳 は、
in accordance with, in collaboration with
in collusion with, in combination with
1) selected and activated が受 動 態 で、 may に支 配 され
in comparison with, in compliance with
ていると解 析 した 。 連 語 配 下 の諸 語 を単 体 とし て and の
in concert with, in cooperation with
構 文 解 析 は回 避 されている。
in connection with, in deliberation with
2)by が受 動 態 の動 作 主 を目 的 語 にとる前 置 詞 として正
確 に解 析 がなされている。
in partnership with, in league with
なお、 助 動 詞 may の訳 語 は システム基 本 辞 書 によ り「でき
in line with, in step with
る」に変 更 できる。
4. 連語 辞 書 に よ る 訳 質 改 善
[試 験 文 2] クレーム
以下に修辞的連語・複合前置詞を収録した辞書を
用いた機械翻訳の具体例を従来の処理と比較して示
12. A pressure controller device according to claim 1
す。同じ英日機械翻訳システムを使って、修辞的連語
wherein a grip is provided on the outside of the housing in
および複合前置詞を収録した辞書の非実装時/実装時
close adjacency to the handle.
の訳文を比較した。
C) 連 語 ユーザ辞 書 なしの MT によるクレーム文 和 訳 は、
「グリップがハンドルに緊 密 な隣 接 関 係 のハウジングの外 に
クロ ス ラ ン ゲ ー ジ 社 の 特 許 英 文 専 用 翻 訳 シ ス テ ム PATTranser を使 い、 ユーザ辞 書 に 修 辞 的 連 語 ・複 合 前 置 詞 な
設 けられている請 求 項 1に記 載 の圧 力 コントローラ装 置 。」
どを登 録 して USP 和 訳 実 験 を行 った。 実 験 の手 順 は以 下
D) これに対 して連 語 辞 書 を使 用 した同 じ MT の訳 文 は、
66
「グリップがハンドルに近 接 するハウジングの外 に設 けられて
参考 文 献
いる請 求 項 1に記 載 の圧 力 コントローラ装 置 。」
[1] 藤芳寛治(2004).「特許英語通信文と英文明細書作成へのガ
[評 価 ]
イド(12)-米国型英文クレームの作成-」パテント Vol.57, No.7, 62-84
C) の和 訳 は、 in close adjacency to を構 成 する語 の逐 語
[2] Potts, H. E. (1944). The Definition of Invention in
訳 「緊 密 な隣 接 関 係 の」である。
Patent Law. The Modern Law Review Vol. 7, No. 3 (Jul.,
D) の和 訳 は、 in close adjacency to を前 置 詞 とし て構 文
1944), Blackwell .113-123
解 析 してい る 。 訳 文 は「近 接 し て」とい う 訳 語 が生 成 され
[3]田 辺 徹 (1986) 『エンジニア・翻 訳 者 のための英 文 特 許 入
て、 C)のように逐 語 訳 にならない。
門 』アイピーシー 318-330, 332-346
[4] Wegner, H. C. (1997). The Doctrine of Equivalents after
5. 結論 的 所 感
Warner-Jenkinson. D.C. Bar PTC Section meeting at George Washington
・修 辞 的 連 語 および複 合 前 置 詞 を登 録 した辞 書 を参 照 す
University, March 14, 1997. Asia Pacific Legal Institute, International
ることで、等 位 接 続 の句 形 態 を一 つの形 態 素 として認 識 し、
Comparative and Intellectual Property Studies, Retrieved August 31, 2010
分 解 することなく構 文 解 析 を行 うことができる。その結 果 、統
from http://apli.org/ftp/warner.pdf
語 解 析 における誤 りの発 生 を抑 えることができる。
[5] Mill, J. S. (1874). A System of Logic (4 th ed.). Harper
・さら に、 修 辞 的 連 語 の場 合 、 辞 書 に格 納 されてい ない表
& Brothers. 105-120, 214-220
現 形 態 で あっ ても、 当 該 表 現 形 態 の 接 頭 辞 ・ 接 尾 辞 が 同
[6] Whewell, W. (1860). On The Philosophy of Discovery .
一 である とい う 条 件 判 断 を解 析 プロ グラ ム に加 え る こと に よ
Reprinted in 1971. Lenox Hill Pub. 238-291
り、 当 該 の表 現 形 態 を 一 つ の 句 形 態 とし て認 識 すること が
[7] 藤 芳 寛 治 (2004). 前 掲 同 書
可 能 になる。
[8] 朝比奈宗太(1992).「国際的調和時代における外国出願の留
・上 記 の二 つの方 法 により、 分 解 的 に解 析 すべきではない
意点と対応-米国を中心として-」通商産業調査会 41
句 形 態 について、その統 語 解 析 を回 避 することができる。解
[9]Collins, K. E. (2008, December). The Reach of Literal Claim Scope
析 を回 避 することにより、 文 全 体 の統 語 解 析 の精 度 を向 上
into After-Arising Technology: On Thing Construction and the Meaning
させることができる。
of Meaning. Connecticut Law Review. Vol. 41 No. 2. 493-559
[10]佐藤信夫(1983). 『レトリック感覚』講談社 138-175
[11] Benson, M., Benson, E. & Robert, I., Eds. (2010). The BBI
Dictionary of English Word Combinations: Your Guide to
Collocations and Grammar John Benjamins Pub Co; 3 Revised
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99(88), 9-14, 1999-05-26
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67