ユーモアとジェンダー

ユーモアとジェンダー
S.M. (ブルガリア)文学部
要旨: 「ユーモア」と「ジェンダー」という概念の相互的な影響について進化的及び社会学的な
視点から述べる。ユーモアは人間の社交性を促進することによって、人間社会の進化に重要な寄与
をしたと思われる。そしてジェンダーはその進化した社会の中で始まった概念として、ジェンダー
の意味がコンテクスト、相互作用の中などで決まってしまうものであろう。そこで、人間のコミュ
ニケーションの助長者として重要な機能を果たしたユーモアは「ジェンダー」という多義語に染め
られた会構造の中でどのような新たな機能を果たし始めたかを論じる。
キーワード:
ユーモア、ジェンダー相違、社会進化、比較、アクチュアリティ
1.はじめに
ユーモアとは人間の日常生活やコミュニケーションで非常に重要な役目を果たす:ユーモア
はストレスを開放するばかりか、人間の差し向かいでの相互作用も容易にする顔面のメカニズムで
ある。しかし、こういう人間関係に欠かせないユーモアはジェンダーに依存するだろうか?つまり、
ジェンダーによってユーモアの使い方や分かり方などが違うのではないかと考えた。そして、その
ため、ユーモアは性特殊的な機能を果たしていると思われた。とすれば、こういう機能はユーモア
の共通の機能に深い関係があるだろう。そこで、ユーモアとジェンダーは現代社会においてどのよ
うに互いの意味を決めるのかについて述べたい。
2.ユーモアとは何か?
ユーモアというよく使われている概念は内容的に定義するのが困難である。なぜかというと、
ユーモアはコンテクストや文化の特徴と習慣に依存している上、各個人によっても違いがあるから
である。しかし、ユーモアは行為者の意図や聴衆の反応によってほぼ確実に確認できる;反応は笑
いと笑顔で、つまり人間の共通の顔つきの一つである。笑いと笑顔は文化、性別、年齢などを問わ
ず、すべての人々にとって、幸せ、満足、喜びの信頼性のある表現だろう。ここで問題となるのは、
笑顔や笑いを相手に伝えるため、視線を交わすのが必要であるということである。しかし、動物の
世界では、動物が会った時、直接目を見るのは敵対心を示す行為である。それでも、人間は視線を
合わせるのを楽しんできた - 自分の親、子供、恋人など、親しんでいる人と話す時、直接目を
見るのはその親しみの感情を表す行為であることは言うまでもないだろう。つまり人間は動物の世
界でこの方面から見ると、ユニークに進化してきたといってもいいとだろう。
それは笑いや笑顔が人々を緊張から解放するメカニズムとして、人間が会った時、視線を交
わすのを維持させて来たのではないだろか。ユーモアを表現する笑顔と笑いは「私は敵ではない;
私はあなたに対して悪い気持を持っているわけではない」という心情を相手が信じるように、相手
に伝えるのに大変重要な役割を果たしたと思われる。このように、人間の差し向かいでの相互作用
がプリミティブな身振りだけで実現したユーモアにより促進されて、徐々に人間の社交性の進化が
行われたと思われる。
ユーモアは緊張から解放する機能によって、人間が新しい環境の刺激(つまり、他の未知の
人間)に会う時本能的に浮かぶ恐怖を緩和する。そこで、人間はユーモアを使って、グループの中
にしても、個人の間にしても、結束や信頼をつくるようになって来た。現代も、「緊密に人々を結
びつける」というユーモアの機能は働き続いている。
しかしながら、社会学的な視点から見れば、ユーモアは「真剣のモード」に対立している講
話のモードの一つであると考えられる。敷衍していえば、ユーモアは真剣な話に反して、現実を誇
張したり歪曲したり、不調和にしたりする講話のモードである。ユーモアは上記の様々な方法で確
立したパターンや関係の慣例に従わない解釈をして、このことによって、「リアリティーを侵害」
することができる。そしてこのように社会文化的な要素を再構成してしまう。とはいえ、ユーモア
は同時に社会文化的な規範に焦点を絞って、規範について新たな知識の獲得を可能にする。換言す
れば、ユーモアは相手との間に敵対関係を作らずに、一般に批評するのは駄目だと思われている社
会の禁忌的な規範やパターンを、解体批評できるものとして社会の発展において重要な役割を果た
している。つまり、ユーモアは上に述べた「コンストラクティブ」(建設的な)役目の上、「ディ
コンストラクティブ」(解体批評主義の)役目も果たしていることを忘れてはならないであろう。
3.ジェンダーとは何か?
ジェンダーもユーモアと同様に、科学研究に限らず、日常会話においても、幅広く使用され
ている言葉となってきた。それにかかわらず、ジェンダーの定義は捉えにくい。そこで、ジェンダ
ーを固定な概念よりも、多義の体系として扱ったほうがいいだろう。ジェンダーとは社会構造やコ
ンテクスト、及び相互作用の中で特定の意味が決められた後、人々はそのまった意味を無意識的に
内面化してしまう;さて、ユーモアは社会的な相互作用の戦略としてジェンダーの特定の意味の内
面化を促進する。このように、ユーモアはジェンダーの社会の中で「いい」と思われている解釈を
個人のレベルで強化するメカニズムとして働いているわけである。しかし、ユーモアは上記のよう
に、リアリティを解体批評する方式としても役割を果たせる。ジェンダーはこういう「リアリテ
ィ」に含まれているものであるので、ユーモアはジェンダーの伝統的な定義に挑戦することも珍し
くない。
ジェンダーは、いうまでもなく、ほとんどの現代社会において、非常に重要な意義体系であ
る。それはどうしてかというと、ジェンダーは性別によって正式で好ましい態度や話し方を強要す
ることをはじめ、威力や物質的な資源のアクセスまで少なからず影響を及ぼしているといっても過
言ではないだろう。平等主義のことが頭から離れない社会においても、ジェンダーに関する様々な
問題や議論が出現する。ここで、ジェンダー研究方法に関しての大きな問題の一つに注目させたい
だろう。確かに、多数の研究や心理学実験によると、人間の様々な活動、考え方、意思決定などで
はジェンダーに関わる異相が観察されたが、研究そのもののため、ジェンダーの異相だけに焦点を
当ててしまうこと、いわゆる「自己達成的な予言」の恐れがある。そこで、ジェンダーの大切さを
もちろん無視せず、社会科学研究のアプローチの理想的な性質も忘れてはならない:つまり、科学
は多くの場合に幾つかのカテゴリー、または主題しかとれずに、それを孤立させた後、選択した問
題について仮説を提供することになる。
しかしながら、ジェンダーは他の社会構造の要素から切り離せない。それ自体をジェンダー
の解釈の多様性の理由の一つとして指摘できるだろう。ジェンダーと言うと、最初に頭の中に浮か
ぶイメージは生物的なジェンダーの意味でのジェンダーのイメージだろう。けれども、ジェンダー
とは単純に性別の解釈に還元できない;生物的なジェンダーよりも、「ジェンダーアイデンティテ
ィ」という概念は研究で観察したジェンダー異相を説明する時に役立つようになるのである。ユー
モアの使い方や分かり方等のジェンダー異相の研究の時もジェンダーアイデンティティはなくては
ならない。
それでは、ジェンダーアイデンティティとは何かというと、人々は自分の性別を問わず、自
己に男性的あるいは女性的な特性を付与する。ベムという心理学者につくられた分類によると、あ
る人は、(男性か女性を問わず)ほとんど男性的な特性を自己属性としがちであるし、他の人は、
逆に、女性的な特性を自己属性であるとしがちである;こういう人のジェンダーアイデンティティ
はそれぞれ、男性的なアイデンティティと女性的なアイデンティティである。更に、女性的な特性
と男性的な特性を両方とも自己属性としがちな人もある ― こういう人はいわゆる両性のアイデ
ンティティを持っている。それから、中性的なアイデンティティの人もある―つまり、男性的な特
性も女性的な特性も、どちらも自己属性としにくい人である。「しがち」という言葉はここで「平
均の制限を越える数値」の意味で利用されているものである。上記のジェンダーアイデンティティ
の分類を見れば、ジェンダーはユーモアと同様に複雑な概念であることにすぐ賛成できるだろう。
そのためジェンダーとユーモアとの相互影響も複雑な方法で実現されることになる。
4.ユーモアの機能
ユーモアは今までのところ、人間との相互作用を助ける講話のモードとして定義されたが、
ユーモアはこういう「補助の役割」を様々な機能によって果たしている。この機能は、3つのカテ
ゴリーに分類される: 1)結束に関わる機能 2)権力に関わる機能 3)心理的な機能
1)はユーモアの原初の機能だと考えられ、つまり、グループの中や個人の間に信頼をつくる機能
である。その後、社交性の発展とともに、この基本的な機能を基にして、権力や威力、自己の心理
などに関わる、より複雑な2)と3)の機能が進化して来たと思われる。
2)の「権力に関わる機能」は、人の間にヒエラルキーの関係をつくったり維持したりする
ユーモアに言及している。それは、詳しく述べると、自分が他の人に対して持っている支配力を示
すユーモア、または他の人と意識的に対立を呼び起こすユーモアなどは、自分または自分が所属す
るグループの優位を強化するため使われているユーモアである。3)の「心理的な機能」は人間の
自己認識に結びついている。それらは対処戦略の機能と自己保護の機能に分けられる。対処戦略と
してのユーモアとは自分がある文脈での問題あるいは一般的な問題に対峙するために使われるユー
モアである。また、ユーモアによって自己を保護することもできる;例えば、自分が愚かな、ある
いは、雑なことをしてしまったことに気付いた時、他の人から批評を受けないように、自分のこと
を嘲る。
しかしながら、上記の様々なユーモアの機能は、女性の場合と男性の場合では、使い方が大
分異なるということが分かる。それだけではなく、グループの性別構成もユーモアの使い方や機能
に重要な影響を及ぼす、つまり同性別のグループと異性別のグループを比べたら、ユーモアに関し
て異なる傾向が見られる。
5.性特殊的なユーモアの機能の異相
様々な言語学の研究の成果によると、男性と女性の会話のやり方は大分違うわけである。女
性のスタイルは支持的であるが一方男性のスタイルは競争的である(エデルスキー、1981;フ
ィッシュマン、1983、など)。女性は自分の体験を共にして、他の人と親密や結束の関係をつ
くる傾向があって、男性は、逆に、自分の地位を誇示したり、他の人と競争したりしがちである。
同じ区別はユーモアの使い方にも見られる。エルビン‐トリップやランペルトの1992年の研究
の成果で、女性は合作で、いわゆる「重ねた」ユーモアを使う傾向がある;つまり、他の人の話や
コンテクストを基にしてユーモアを創作する傾向である。男性のユーモアは、逆に、合作ではなく、
コンテクストや他の人の所見とほとんど関係がなく、耳新しく、おおげさである。その上、男性は
女性より冗談を始めるのに対し、女性はユーモアを維持するとのことである。
女性と男性に好まれるユーモアのタイプも異なりそうである。女性はたいてい逸話風のユー
モアが好きであるのに、男性は多くの場合に、ドタバタ喜劇のユーモア、そして敵意のある(セク
シズムの、人種差別主義の)ユーモアを享楽する(クローフォルドやグレッソリー、1991)。
それは男性と女性の会話スタイルの異相と深く関係があると言えるだろう。女性は自分の体験を共
有したがるので、相手に面白く、体験が伝わるのに一番適当な逸話の形でのユーモアのほうが好き
であるは当然なことであろう。男性は、女性とは違い、会話のスタイルがパフォーマンスのようで、
自分の能力や地位を示すのが一番重要なので、それらが伝わるアグレシッブなユーモアを好んでい
る。しかし、グループの性別の構成によって、男性と女性の使っているユーモアの特徴が変わって
しまう。
ユーモア自体はアグレッシブな行為として社会の中で考えられて、女性はユーモアを使うこ
とによって社会的な性別ヒエラルキーを破壊するようになる。だから、セクシズムのなど敵意のあ
るユーモアをいうまでもなく、ユーモアを使うこと自体女性には合わない活動として考えられてい
るだろう。男性の場合にも、女性がいるかどうかということによって、態度を変えて、したがって、
ユーモアの使い方も変えてしまう。このように、グループの構成は利用しているユーモアに大きな
影響を及ぼすのである。
もし、グループが同性同士であった場合には、グループのメンバーは結束を作るために、
色々な戦略を採用したり、女性も男性も含まれるグループでの制限を越えたりする。例えば、セク
シズムのユーモアが好きではない女性が、女性だけで構成したグループの中で、このタイプのユー
モアもよく利用することになるわけである。ユーモアのタイプばかりか、ユーモアの使用の頻度も
グループの構成に依存しそうである。コセル(1960)とグーヅマン(1992)の研究による
と女性は一般に、女性だけのグループで自由にユーモアを使うが、異性別のグループで、ユーモア
の利用を避ける。
しかし、グループが異性別であったら、皆は他の人の感情を害しないように、相手のことを
考えて、相手に自分の態度や話を合わせて、どんなユーモアを使うか、どのように使うか、という
ことを決める。このように、グループの中にある男性と女性のサブグループの間に象徴的な境界線
がつくられてしまう。
自分が所属するグループを他のグループから分けるため、そしてグループの中に結束をつく
るため、男性と女性は異なる方法でユーモアを利用するのである。男性は他の人と分かち合った過
去の体験の思いでに耽ったり、共通の経験を強調したりするのに対し、女性は個人的な体験の形で
新たな情報を共にする傾向がある (ヘイ、2000)。このジェンダーの異相はいわゆる「相互
作用を基にした vs. 任務を基にした」のジェンダーの区別 (パーソンスとベイルス、195
5)のためと言えるだろう。つまり、男性にとっては、達成や活動が高い価値を持っていて、その
ためこれを中心にしたユーモアも結束をつくるために一番いい。女性は逆に、人間関係が一番大切
なものだと考え、自分の日常生活の実際的な価値を持っている経験を逸話の形で伝えがちである。
6.終わりに
ユーモアは人間の社会の中においての相互作用に欠かせないものであり、個人や集団の間に
しても、グループの中にしても、上手くコミュニケーションを手伝っている。結束をつくったりヒ
エラルキーを維持したりなど、ユーモアは講話の中に様々な役目を果たしている。しかし、ユーモ
アが促進した人間の社交性で創造したジェンダーの概念はユーモアの使い方及び分かり方に重要な
影響を及ぼしている。だが一方、ジェンダーの影響に染められたユーモアも、ジェンダーの解釈を
感化するだろう。つまり、ジェンダーの影響で選択した特定のユーモアの使い方や解釈が、はね返
って、時には、ジェンダーの伝統的な解釈を強化するが、時には、新しい解釈をつくらせることに
もなると思われる。このように、ユーモアはそのジェンダーとの特別な関連によって、現代の社会
構造においての社会文化的な規範の進展の一つの重大な要因となるのであろう。
参考文献:
Brodzinsky, David M., Barnet Karen, and Aiello, John R., 1981. Sex of subject and gender identity as factors
in humor
appreciation. Sex Roles 7(5): 561-573.
Cantor, Joanne R., 1976: Summer. What is funny to whom? The role of gender. Journal of Communication.
164-172.
Coser, Ruth, 1960. Laughter among colleagues: A study of the functions of humor among the staff of a
mental hospital. Psychiatry 23: 81-95.
Crawford, Mary, 2003. Gender and humor in social context. Journal of Pragmatics 35: 1413-1430.
Crawford, Mary and Dianne Gressley, 1991. Creativity, caring and context: Women's and men's
accounts of humor preferences and practices. Psychology of Women Quarterly 15(2): 217-231.
Edelsky, Carole, 1981. Who's got the floor? Language in Society 10: 383-421.
Ervin-Tripp, Susan and Martin D. Lampert, 1992. Gender differences in the construction of humorous
talk. In: K. Hall, M. Bucholtz and B. Moonwomon, ed., Locating power: Proceedings of the second
Berkeley Women and Language Conference April 4 and 5 1992, vol. 1, 108-117. Berkeley: Women
and Language Group.
Fishman, Pamela, 1983. Interaction: The work women do. In: B. Thorne, C. Kramarae and N. Henley,
eds., Language gender and society, 89-101. Rowley, MA: Newbury.
Goodman, Lizbeth, 1992. Gender and humour. In: Bonnet, Goodman, Allen, Janes and King, eds, Imagining
women: Cultural representations and gender, 296-300. Cambridge: Polity.
Hay, Jennifer, 2000. Functions of humor in the conversations of men and women. Journal of Pragmatics 32:
709-742.
Landis, Carney, 1933: May. Humor and its relation to other personality traits. Journal of Social Psychology;
Political, Racial and
Differential Psychology, 4(2): 156-175.
Leventhal, Howard and Cupchik, Gerald, 1976: Summer. Laughing matter / A process model of humor
judgment. Journal of
Communication.
Martin, G. Neil and Gray, Colin D., 1996. The effects of audience laughter on men’s and women’s responses
to humor. The
Journal of Social Psychology 136(2): 221-231.
O’Quin, Karen and Aronoff, Joel, 1981: Dec. Humor as a technique of social influence. Social Psychology
Quarterly 44(4): 349357.
Parsons, Talcott and Robert F. Bales, 1955. Family, socialization and interaction processes. New York:
Free Press.
Porteous, J., 1989 (July). Humor and social life, Philosophy East and West, 39:3: 279-288.
Stephenson, Richard M., 1951: May. Conflict and control functions of humor. The American Journal of
Sociology 56(6): 569-574.
Ziv, Avner and Gadish, Orit, 2001. Humor and marital satisfaction. The Journal of Social Psychology 129(6):
759-768.