「抗HIV療法の ガイドラインを斬る(backbone編)」

第25回日本エイズ学会学術集会・総会
ランチョンセミナー5
「抗HIV療法の
ガイドラインを斬る(backbone編)」
座長
味澤 篤 先生(がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科 部長)
演者
潟永 博之 先生(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター 治療開発室長)
日笠 聡 先生(兵庫医科大学 血液内科 講師)
山元 泰之 先生(東京医科大学 臨床検査医学講座 臨床准教授)
開催日時:2011年12月1日
(木)12:00∼13:00 会 場:ハイアットリージェンシー東京(クリスタルルーム:第3会場)
NRTIは2つの薬剤を組み合わせて抗HIV療法に用いられ、
「バックボーン」
と呼ばれる、抗HIV療法にはなくてはならない要素です。
効果や安全性の点から、
近年ではTDF、
ABC、
3TC、
FTCの4剤がメインとして絞り込まれてきています。
特に服薬の簡便性の点から、
TDF/FTCとABC/3TCの2つの合剤が、
わが国での治療ガイドラインにおいて、
初回治療の第一選択となっています。
では、
この2剤は
どのような特徴を有し、
どのように使い分けるべきでしょうか? 近年では新たな課題として、
治療の長期化による患者さんの高齢化や、
さまざまな合併症への対応も必要とされています。今回のセミナーでは、HIV治療経験の豊富な先生方より、
この2剤の臨床成績や、
自らの治療経験をご紹介いただき、使い分けのポイントなどを議論いただきました。
〒151-8566 東京都渋谷区千駄ヶ谷4ー6ー15 GSKビル
EZXT0025 -D1202N
作成年月2012年2月
(MK)
共催:第25回日本エイズ学会学術集会・総会/ヴィーブヘルスケア株式会社
第25回日本エイズ学会学術集会・総会 ランチョンセミナー5
3TC、ABC、FTC、TDFが多く処方されています
(図3)。現在は、
図3 2009∼2011年に投与された抗HIV薬
初回治療としてABC+3TCが約2割、TDF+FTCが約8割を占め
潟永 博之 先生
演者
最近3年間に投与された薬剤
(NRTI)ACC data
ています。TDF+FTCを選択しても、腎障害が問題になる場合は、
国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター 治療開発室長
米国のガイドライン
(DHHS)
の推奨レジメンの変遷をみると、
バック
の研究班によるガイドラインとHIV感染症治療研究会による
「治療
ボーンとしてのヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
の選択肢
の手引き」では、
ファーストラインのレジメンをABC+3TC、TDF+
が最も多かったのは1999年です。AZT+3TC、
AZT+ddI、
AZT+
FTCとしています。
ABCの過敏症は、
HLA-B 5701が関連している
ddC、d4T+3TC、d4T+ddI、ddI+3TCの6種類の組み合わせが
ことが明らかになっており、
その発現頻度は、
欧州では5∼7%、
米国
推奨されていましたが、現在、3TC以外は全てファーストラインから
(白人)
及びオーストラリアではともに8%、
しかし日本や中国ではほぼ
外れています。2001年にddCが、
2003年にddIが糖尿病やミ
トコンド
0%と報告されています。
日本、
中国、
韓国は特異的にHLA-B 5701
リア障害によるリポジストロフィーなどの重篤な副作用によりファースト
を保有している人が極めて少ないと考えます。
また一般的に、
日本人
ラインから外されました。当時、d4T+ddIによるこれらの副作用が
は欧米人に比べ心血管疾患の発症が少ないという点が考慮され
問題になっていましたが、
d4Tは服用がしやすかったため、
ファースト
ています。
さらに日本人が小柄であるため、
TDFによる腎障害のリス
ラインに留まりました。2003年、
ファーストラインはAZT+3TC、
d4T+
クを否定できないことから、TDF+FTCとABC+3TCの、
2種類の
3TC、
TDF+3TCの3種類となりました。
この時、
TDFはまだ非ヌクレ
バックボーンをファーストラインとしています
(図2)。ACCデータによる
オシド系逆転写酵素阻害剤
(NNRTI)
のEFVとの併用のみでした。
初回治療に選択されたNRTIの年次推移をみると、1997年、AZT
プロテアーゼ阻害剤
(PI)
は、
後にファーストラインに組み込まれます。
+3TCの組み合わせが最も多く選択されていました。
その後、d4T
その後、
ミ
トコンドリア障害を避ける治療へと流れが変わり、2004年
の登場により、
2000∼2001年ではd4T+3TCが多く選択されますが、
にd4Tはファーストラインから外れました。徐々にTDF+3TCが用い
られるようになり、
1日1回投与(Once Daily)
の時代になってきます。
2009
2010
2011
ABC+3TCに切り替えるというケースも増えてきています。現在、治
3TC
871
862
790
療を受けている患者全体でみると、
ABC+3TCとTDF+FTCの選
ABC
765
788
741
択はそれぞれ5割ずつというのが現状です。
AZT
87
69
31
d4T
12
9
4
ddI
6
1
1
FTC
560
658
734
TDF
612
703
778
*
*
がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科 部長
り、両群における男女比、平均年齢、CD4陽性リンパ球数、HIV
ミ
トコンドリア障害によりd-drugはファーストラインには選択されなくなり
み合わせが最も多く選択されています
(2011年5月時点)。
しかし新
RNA量はほぼ同等でした。Key drugは、
TDF/FTC投与群では
ます。私たちの施設で2009∼2011年に投与されたNRTIをみても、
薬の登場により、2年前から新規患者に対しては、TDF/FTCと
ATV/r
(96例)
、
FPV/r
(22例)
、
EFV
(21例)
、
LPV/r
(6例)
、
FPV
DRV/rあるいはRALの組み合わせが増えてきました。
そのバック
(1例)
、
ABC/3TC投与群ではATV/r
(20例)
、
LPV/r
(10例)
、
EFV
ボーンにはTDF/FTCが86.0%
(117/136例)、ABC/3TCが9.6%
(5例)、FPV/r( 3例)、ATV(1例)でした。TDF/FTC投与群、
図1 米国ガイドライン
(DHHS及びIAS-USA)
の選択
TDF+FTCの2種類がファーストラインとして推奨されるようになります。
味澤 篤 先生
都立駒込病院では、TDF/FTCにATV/rあるいはEFVの組
2008年、
d-drugほどではないにしても、
AZTにもミ
トコンドリア毒性が
あることが明らかになり、
ファーストラインから外れ、ABC+3TCと
座長
DHHS・IAS-USA Guidelines
ミ
トコンドリア障害については、
NRTIはHIVの逆転写酵素を阻害す
ABC/3TC投与群ともにCD4陽性リンパ球数は投与直後から増え
(13/136例)
の割合で選択されています。
はじめ、
TDF/FTC投与群は投与後60カ月に500/μL以上を達成、
私たちは、2009年5月31日までに治療を開始した新規患者(185
preferred!
るだけでなく、
ミ
トコンドリアのDNAが複製されるDNA polymerase γ
ABC/3TC
も阻害することが明らかになっています。DNA polymerase γが
NRTIにより阻害されると、
肝臓のTCA回路や酸化的リン酸化から
ABC-HSR
CVD risk
のATPの産生が抑制され、
代わりに乳酸が産生され、
乳酸アシドー
TDF/FTC
シスが引き起こされます。d-drugの長期服用による乳酸アシドーシス
例)
におけるバックボーンの長期成績を調査したので紹介します。
ABC/3TC投与群は投与後48カ月に450/μLを達成しました。
また、
TDF/FTC投与群(146例:男性131例、女性15例)
は平均年齢
HIV RNA検出感度未満を達成した患者の割合は、TDF/FTC
40.7歳(20∼76歳)
、
CD4陽性リンパ球数 188/μL(3∼888)
、
HIV
投与群は投与後6カ月で90%、60カ月には100%、ABC/3TC投与
4
7
、
ABC/3TC投与群(39例:男性
RNA量 9.8×10(<400 1.2×10 )
群は投与後6カ月に100%に達し、48カ月後は約85%でした
(図1)。
35例、
女性4例)
は平均年齢41.9歳
(24∼72歳)
、
CD4陽性リンパ球
以上の結果から、
TDF/FTC投与群とABC/3TC投与群における
5
6
であ
数 188/μL(4∼519)
、
HIV RNA量 1.1×10(<50 3.1×10 )
です。乳酸アシドーシスは、
ミ
トコンドリア障害で最も急性で重篤な副
治療効果に大きな差はないと考えます。治療中止例は、TDF/
作用で、
欧米では死亡例が報告されたことから、
d-drugはファースト
図1 TDF/FTC及びABC/3TCを含むART中のHIV RNA検出感度未満達成率
ラインでは使用されなくなってきました。
ミトコンドリア毒性の強さは、
図2 厚生労働省研究班ガイドライン、
「治療の手引き」の選択
ABC/3TCを含むART中のHIV RNA検出感度未満達成率
TDF/FTCを含むART中のHIV RNA検出感度未満達成率
d4T、
ddI、
ddCなどのd-drugが最も強く、
次いでAZTです。現在使
厚労省研究班ガイドライン・「治療の手引き」
用されているNRTIのABC、
3TC、
TDF、
FTCは、
それぞれミ
トコンド
On Treatment
(%)
100
90
90
80
80
う組み合わせで使用されています。2008年から2009年までの間に、
70
70
60
60
米国の2つのガイドライン
(DHHS及びIAS-USA)
は、
ABC+3TCを
50
50
40
40
30
30
20
20
10
10
リア毒性が低いNRTIとされており、ABC+3TCとTDF+FTCとい
ABC/3TC
TDF/FTC
ファーストラインから外し、
TDF+FTCだけをファーストラインとして残
日本人では
HLA-B*5701:少
心血管イベント:少
これは、
ABCの重篤な副作用である過敏症や心血
しました
(図1)。
管系の副作用のリスクが明らかになったためです。
しかし、
英国ガイ
日本人では
TDF腎障害:多(?)
0
n
ドライン
(BHIVA)
と欧州ガイドライン
(EACS)、
日本の厚生労働省
1
On Treatment
(%)
100
0
0
3M
6M 12M 18M 24M 30M 36M 42M 48M 54M 60M
146
72
143
136
126
118
107
85
67
53
34
15
n
2
0
3M
6M
39
23
39
12M 18M 24M 30M 36M 42M 48M
38
36
37
33
31
20
7
第25回日本エイズ学会学術集会・総会 ランチョンセミナー5
FTC投与群は25.3%
(37/146例)、ABC/3TC投与群は17.9%
能障害(9例)
、
尿蛋白
(3例)
、
血清リン値低下(2例)
でした。TDF/
でした。TDF/FTC投与群における中止例の内
(7/39例)
(図2)
FTCを副作用のために中止した全14例はABC/3TCに変更し、
訳は、
死亡(非TDF/FTC関連死)
(1例)
、
転院(15例)
、
通院中断
腎機能障害(7/9例)
と尿蛋白
(2/3例)
は改善が認められました。
(3例)、副作用(14例)、
その他(4例)
でした。一方、ABC/3TC投
本調査により、
現在、
最も使用されているTDF/FTC及びABC/3TC
与群では、
転院(5例)
、
通院中断(1例)
、
その他(1例)
で、
副作用に
の有効性は高いこと、
またTDF/FTCは腎機能関連の副作用による
よる中止例はありませんでした。
中止例が多いことが認められましたが、
その際、
ABC/3TCが使用可
図1 FDAによる心筋梗塞発生リスクのメタアナリシス
FDA meta analysis
Study
TDF/FTCの副作用による中止例9.6%
(14/146例)
を検討した
能であり、
治療開始時より現在の方がABC/3TC使用の患者の割
ことが示されました。
合が増えている
(図3)
結果、
投与開始から平均23.5カ月
(11∼58)
で中止、
その内訳は腎機
図2 TDF/FTC及びABC/3TC中止例
TDF/FTC中止例
図3 ART新規投与におけるバックボーンの転帰
ART新規投与におけるbackbone
2009年5月31日までに治療開始185例の転帰
ABC/3TC中止例
治療開始時
●146例中37例
(25.3%)
死亡
(非TDF/FTC関連死) 1
転院
15
通院中断
●39例中7例
(17.9%)
転院
5
通院中断
1
その他
1
転院・中断
など
(25)
ABC/3TC
(39)
3
副作用
14
その他
4
現在
その他
(1)
TDF/FTC
(146)
ABC/3TC
(49)
TDF/FTC
(110)
ABC
n=9,832(5,028 ABC, 4,804 non-ABC)
non-ABC
non-ABC Worse
ACTG 368
COL30305
ACTG 372A
ACTG A5202
ABCDE
FIRST
ACTG 5095
ACTG A5110
STEAL
NEFA
CNAF3007
CNA30017
ESS40003
CNAA3006
NZTA4002
CNA109586
CNAB3014
ESS40002
BIOCOMBO
CNAB3002
EPZ104057
CNA30024
CNAC3005
ESS100327
CNAC3003
CNAB3001
0/140
(0%)
0/58
(0%)
4/116
(3.45%)
2/923
(0.22%)
0/115
(0%)
0/93
(0%)
6/758
(0.79%)
0/48
(0%)
4/178
(2.25%)
1/149
(0.67%)
1/96
(1.04%)
0/80
(0%)
0/51
(0%)
0/102
(0%)
0/150
(0%)
0/192
(0%)
0/165
(0%)
1/85
(1.18%)
1/167
(0.6%)
0/91
(0%)
1/343
(0.29%)
1/324
(0.31%)
1/262
(0.38%)
0/137
(0%)
1/156
(0.64%)
0/49
(0%)
ABC Worse
0/143
(0%)
0/29
(0%)
3/113
(2.65%)
5/925
(0.54%)
2/122
(1.64%)
0/89
(0%)
1/376
(0.27%)
0/53
(0%)
1/175
(0.57%)
0/311
(0%)
1/91
(1.1%)
2/127
(1.57%)
0/44
(0%)
0/103
(0%)
3/152
(1.97%)
1/193
(0.52%)
0/164
(0%)
0/166
(0%)
1/166
(0.6%)
0/93
(0%)
0/345
(0%)
0/325
(0%)
0/264
(0%)
1/141
(0.71%)
0/80
(0%)
1/50
(2%)
Risk Difference
(95% CI)
0
(−2.73, 2.87)
0
(−13.79, 6.38)
0.79
(−4.77, 6.54)
−0.32
(−1.08, 0.33)
−1.64
(−6.17, 1.64)
0
(−4.49, 4.13)
0.53
(−0.75, 1.5)
0
(−7.01, 8.34)
1.68
(−1.27, 5.17)
0.67
(−0.55, 4.04)
−0.06
(−5.23, 4.9)
−1.57
(−5.61, 3.38)
0
(−9.09, 7.08)
0
(−3.79, 3.88)
−1.97
(−5.94, 0.58)
−0.52
(−3.12, 1.55)
0
(−2.42, 2.4)
1.18
(−1.14, 7.08)
0
(−3.15, 3.11)
0
(−4.35, 4.19)
0.29
(−0.86, 1.75)
0.31
(−0.91, 1.86)
0.38
(−1.13, 2.29)
−0.71
(−4.27, 2.21)
0.64
(−4.21, 3.6)
−2
(−11.05, 5.37)
Mantel-Haenzel
0.01
(−0.26, 0.27)
−5%
−2.5%
有意差なし
−1%
0
1%
2.5%
5%
Risk Difference
GSK Trial
NIH Trial
Academic Trial
( )
=n
X Ding, et al. 18th CROI. 2011. Abstract 808.
ABC/3TCの選択を検討します(図3)。新規患者の背景をバック
例)
が腎障害によりABC/3TCへ変更しました。ABC/3TC投与群
ボーンごとに検討したところ、
HIV RNA量<100,000copies/mLの
では、転出14.3%
(2/14例)、受診中断7.1%
(1/14例)、
また7.1%
患者は、TDF/FTC投与群で75.0%
(18/24例)、ABC/3TC投与
(1/14例)が、治療開始21週目にHIV RNA量170copies/mLと
群で71.4%
(10/14例)でした。
また、TDF/FTC投与群のうち、
なったため、FPV/rからDRV/rへ変更しました。
ウイルス抑制効果
HBV陽性12.5%(3/24例)
、
ABC/3TC投与群のうち、
蛋白尿陽性
の点や副作用、
また患者の希望により治療の途中でKey drugの
21.4%
(3/14例)
、
クレアチニン値上昇14.3%
(2/14例)
が含まれてい
変更をすることがありますが、
TDF/FTCもABC/3TCもウイルス学的
れたこと、
またウイルス学的抑制を達成した患者の割合についても、
ました。
その後、
TDF/FTC投与群のうち、
12.5%
(3/24例)
が転出、
にははぼ同等の治療効果を得られると考えます。
わせが最も多く選択されています(2011年5月時点)。
この2年間、
TDF/FTCはABC/3TCに比べ有意に高いことがASSERT試験
8.3%
(2/24例)
が患者の希望によりKey drugを変更、4.2%
(1/24
Key drugとしてRALが最もよく処方されており、
次にDRV/rが処方
で示されたためです。
しかし、
TDF/FTCとABC/3TCのKey drug
されています。新規患者におけるバックボーンは、TDF/FTCが
としてともにLPV/rを選択したHEAT試験では、
治療開始時のウイ
63.2%
(24/38例)
、
ABC/3TCが36.8%
(14/38例)
です。
初回治療と
ルス量にかかわらず両群間にウイルス抑制効果の差は認められて
しての組み合わせは、T D F / F T CとR A Lが最も多く、次いで
いません。
したがって、
治療開始前のHIV RNA量によるウイルス抑
日笠 聡 先生
演者
兵庫医科大学 血液内科 講師
兵庫医科大学では、
TDF/FTCにEFVあるいはRALの組み合
ABC/3TCとRALが多くなっています。私がABC/3TCを選択する
制効果はKey drugにより差が出ると考えています。ABCは、
D:A:
際のポイントは、
患者が①B型肝炎ウイルス
(HBV)
のキャリアではな
D試験で、
TDFに比べ心筋梗塞の発症が高いことが報告されまし
*
いこと、②HLA-B 5701の保有者ではないこと、③治療開始前の
たが、
米国FDAによる最近のメタアナリシスでは、
ABCとnon-ABC
HIV RNA量が<100,000copies/mLであること、
です。治療開始
で差がないことが報告されています
(図1)。心血管系リスクに注意
前のHIV RNA量をABC/3TCの選択のポイントとしているのは、
する必要があるとは考えますが、
TDF/FTCを投与する場合はやは
一度ウイルス抑制を達成した患者のうち、
ウイルス学的失敗に至る
り腎障害を考慮しなくてはならず、腎機能が低下している症例には
患者の割合(ウイルス学的失敗までの期間を含む)がTDF/FTC
。
また髄液移行性という点からは、
TDF/FTC
選択できません
(図2)
はABC/3TCに比べ有意に少ないことがACTG 5202試験で示さ
は髄液移行性が低いため、HIV脳症や髄膜炎を認める症例には
3
図2 日本人の慢性腎疾患及び虚血性心疾患の危険因子
図3 バックボーンの選択
(ABC/3TC)
日本人の危険因子
慢性腎疾患
Backboneの選択 ABC/3TC
虚血性心疾患
● 年齢
● 年齢
● 喫煙
● 喫煙
● 高血圧
● 高血圧
● 肥満
● 肥満
● 耐糖能異常
● 耐糖能異常
● 高脂血症
● 高脂血症
● 血尿・蛋白尿
● メタボリックシンドローム
1. HBVキャリアではない
2. HLA-B*5701ではない
3. 治療前HIV RNA<100,000copies/mL
4. 心血管障害のリスクが少ない
5.(腎疾患のリスクがある)
● 冠動脈疾患の家族歴
6.(HIV脳症・髄膜炎?)
● ストレス
4
第25回日本エイズ学会学術集会・総会 ランチョンセミナー5
山元 泰之 先生
演者
東京医科大学 臨床検査医学講座 臨床准教授
東京医科大学では、
TDF/FTCにRALあるいはATV/rの組み
図1 HBV共感染患者における治療の現状
合わせが最も多く選択されています。
バックボーンの割合は、
TDF/
HBV共感染患者で使用している・してきた
抗HBV活性を有する逆転写阻害剤
FTCが58%、
ABC/3TCが31%です
(2011年5月時点)。新規患者
人数
における組み合わせは、TDF/FTCとRALが最も多く、Key drug
TDF/FTC
(Truvada) 55
ではRALが最も多く41.8%
(82/196例)、次いでDRV/r 16.3%
11
TDF+3TC
(32/196例)、EFV 14.2%
(28/196例)、ATV/r 11.2%
(22/196
TDFのみ
1
Virological Breakthrough
例)
、
FPV/r 10.2%
(20/196例)
、
LPV/r 6.1%
(12/196例)
です。
ま
3TCのみ
1
Virological Breakthrough
た、新規患者におけるバックボーンの割合は、TDF/FTCが71.9%
その他
1
2
Entecavir
(141/196例)
、
ABC/3TCが28.1%
(55/196例)
です。
今回は、
HIVとB型肝炎ウイルス
(HBV)
の共感染をしている患者
の治療の現状について紹介します。
当院外来における、
HIV/HBV
1例は腎障害、1例はイレウスで
TDF/FTCから変更
未治療
12
計
81
構築症候群(IRIS)
によるALT Flareが発現することがあります。
する必要があるからです。
また、抗HIV薬の骨代謝への影響も考
IRISによるALT Flareの明確な基準はありませんが、
ある論文によ
慮する必要があります。TDFの長期使用は、低リン酸血症を引き
ると、
ALT値が基準値の5倍以上、
あるいはALT値が200 IU/L以
起こすことがあること、
また、
EFVはビタミンDの活性を低下させるこ
上とされています。当院外来において、TDF/FTCあるいはTDF
とがあることが明らかになっています。多剤併用療法(ART)
におけ
+3TCで治療を開始したHIV/HBV共感染患者66例のうち19.7%
る骨密度(BMD)
の低下については、
いくつかのスタディがあります
(13/66例)
にこの基準を満たすALT値上昇が認められました。
が、
その中でTDF/FTCはABC/3TCよりもBMDの低下が著しい
治療開始後、1∼3カ月でALT値100∼1,000 IU/L程度まで上昇し
ことが報告されています(図3)。BMDが低下している場合、HIV
ますが、患者に自覚症状はなく
(T-BIL値:変化なし)、
その後、
RNA量があまり高くないのであれば、
ABC/3TCの選択を考慮しま
ALT値は急速に減少(Peak Out)
します。当院外来では、ALT
す。
また当院では、HIV脳症が疑われる患者にABC/3TCが選
Flareにより薬剤の変更が必要であった患者はいませんでした。
択されています。各抗HIV薬の中枢神経(CNS)への移行性を示
HIV/HBV共感染患者の治療では、
腎機能にも注意が必要です。
ス
すチャート
(スコアが高い方が移行性がよい)
では、
ABC/3TCの他
イスHIVコホートでは、
TDFは近位尿細管障害(PRT)
のリスク上昇
このように、患者の
にはDRV、LPV/rが選択されています
(図4)。
と関連があることが示されていることや
(図2)
、
ETVは糸球体濾過
状態に応じて薬剤を使い分けていくのがよいと考えます。
2
量(GFR)が50mL/min/1.73m を下回った場合には用量を調節
図3 ARTにおけるBMDの低下
の共感染患者は81例で、
うち69例が抗HIV療法を行っています
BMD Loss with ART-initiation: ~2-6% at 48-96 weeks
そのうち、
TDF/FTCによる治療を行って
(12例は未治療)
(図1)。
あります。
TDFのみを使用している患者
(1例)
と3TCのみを使用して
いる患者が最も多く79.7%
(55/69例)
、次いでTDF+3TCによる治
いる患者
(1例)
において、
Virological Breakthroughをきたしました。
療を行っている患者が15.9%
(11/69例)
です。HIV/HBV共感染
ETV(Entecavir)
を使用している2例のうち、1例は腎障害が発現
の治療では、劇症化を防ぐために早期に抗HIV薬と抗HBV薬を
し、
もう1例はイレウスによりTDF/FTCから変更しました。HIV/HBV
使用することがありますが、
この場合、
HBV耐性が生じる可能性が
共感染患者に、TDF/FTCを組み合わせた治療を行うと、免疫再
図2 スイスコホート:抗HIV薬による腎機能への影響
n
duration
(wks)
Gallant, 2004
602
144
TDF vs d4T
Spine:TDF:−2.2% ; d4T:−1.0%
Hip: TDF:−2.8%; d4T:−2.4%
Tebas, 2007
157
96
NFV vs EFV
−2.5% decrease in total BMC
Brown, 2009
106
96
LPV/r vs
AZT/3TC/EFV
−2.5% in total BMD
Duvivier, 2009
71
48
PI vs Non-PI
Spine:−4.1% , Hip:−2.8%
van Vonderen,
2009
50
104
AZT/3TC/LPV/r
vs NVP/LPV/r
Fem Neck:−6.3% vs −2.3%
Spine:−5.1 vs −2.6
269
96
TDF/FTC or
ABC/3TC with
EFV or ATV/r
Hip:ABC:−2.3%; TDF:−3.6%
EFV:−3.1%;ATV/r:−3.4%
Spine:ABC:−1.3%;TDF:−3.3%
EFV:−1.7%; ATV/r:−3.1%
Author, y
ART-type
スイスHIVコホート:TDFは近位尿細管障害(PRT)のリスク上昇と関連する
●スイスHIVコホート試験のクロスセクショナル解析(n=1202)
●PRT=以下の4つの指標のうち3つ以上の病理学的状況を有する:
リン酸塩もしくは尿酸の分画排泄率(FE)上昇、尿中のタンパク/クレアチニン比低下、腎性尿糖
McComsey
(A5224s),
2010
Study outcomes
●PRT発現率はTDF+PI投与患者で最も高かった
(TDFなし、PIなしとの比較)
:
OR: 7.1(95% CI:2.5-19.8;p<0.001)
図4 各抗HIV薬のCNS移行性
TDF+, PI+
TDF+, PI−
TDF−, PI−
(n=426)
(n=320)
(n=221)
5%
CNS Penetration-Effectiveness Ranks 2010
2%
12%
11%
17%
50%
18%
58%
NRTIs
4
3
2
1
Zidovudine
Abacavir
Lamivudine
Didanosine
Emtricitabine
Stavudine
9%
78%
NNRTIs
Nevirapine
Delavirdine
PIs
Indinavir-r
Darunavir-r
Atazanavir
Fosamprenavir-r
Atazanavir-r
Ritonavir
Indinavir
Fosamprenavir
Saquinavir
20%
103
(88-124)
Etravirine
Efavirenz
20%
97
cGFR中央値
(80-118)
(IQR)
Tenofovir
Zalcitabine
107
(88-127)
Lopinavir-r
Nelfinavir
Saquinavir-r
Tipranavir-r
■ PRT ■ FE(phos)
>20% ■ FE(phos)
>10%および低リン酸血症 ■ 機能正常
Entry Inhs
Integrase Inhs
Fux C, et al. CROI 2009. Abstract 743.
5
Vicriviroc
Maraviroc
Enfuvirtide
Raltegravir
CNS HIV Anti-Retroviral Therapy Effects Research https : //www. charterresource. ucsd. edu/
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