プラスチック材料の各動特性の試験法と評価結果

.j
安田 武夫*
2.プラスチックの
表1各種材料の屈折率
各種試験法(続き)
2−10.光学的性質
材 料 名
屈 折
材 料 名
屈 折
テトラフルオロエチ
1.338
ポリエチレン(PE〕
1.51
レンーヘキサフル
オロプロピ1ノン共重
合体
ポリ4ふっ化エチレン
(比重o.914)
(〃O.9965〕
ユ.545
製晶に応用するときもっとも重要
(PTFE〕
ポリプテン(イソタ
ユ.5125
な性質である。図1に示すように,
ポリトリフロロ
クロロエチレン
クチック)
ボリ1,3ブタジエン
2−10−5.屈折率
屈折率はプラスチックを光学的
媒体Bにまの角度で光をあてた
とき,これが境界面(S)で光の進
(〃O.94∼
O.945〕
ボリふっ化ビニリデン
天然ゴム
ポリ塩化ビニル
(PVDF〕
ポリ4メチルペンテンI
路が曲げられ角度γの方向に進
んだとすると,入射した角度(タ)
と屈折した角度(γ)との問に一定
の関係ができるが,sinタ/sinγを
媒質B(ここではプラスチック材
料)の媒質Aに対する相対屈折率
*工といい,Aが真空の場合にはこ
1.52
(十40%DOP)
ボリアクリロニトリル
セルロースアセテー
トブチレート
ポリメタクリロニトリル
1,52
1,52
1.52.
ポリブチルアクリレート
1.4631
ポリ1,3ブタジエン
ポリビニルアセテート
1.4665
(ハイシス)
セルローストリ
アセテート
1.47∼1.48
ポリメチルアクリレート
ポレプロピレン(PP)
のsin云/sinγをBの絶対屈折率
(アタクチック」:ヒ
という。プラスチックの屈折率の
重O.8575)
^Takeo YASUDA,
1,5!9∼1,52
ボリイソプレン
1.52ユ
ナイロン6
ユ.53
ナイロン66
ユ、53
ナイロン6ユO
ブタジエンースチレ
1,53
1.53
ンブロック共重合体
ERRラバー
1.4748∼1.4
セルロースアセテート
1.48∼1.50
ポリオキシメチレン
ユ.48
(30%ST)
セルロース
1.54
安田ポリマーリサーチ研究所所長
(POM)
ポリ塩化ビニル(PVC〕
ユ.54∼1.55
〒ユ68−0082東京都杉並区久我山
ポリビニルブチラール
尿素樹脂
ユ.54∼1.56
(ユリアーホルムァル
4−24−7
デヒド〕
ポリメチルメタクリ
レート
エポキシ樹脂
ポリクロロプレン
(PMMA)
1.55∼ユ.60
1,554∼1.558
ポリビニルアルコール
S(境界面)
(B,たとえば
プラスチック材〕
ボリジアリルフタレ
(PVA)
ポリウ1ノタン
1.5∼ユ.6
ポリビニルホルマール
ユ.50
ポリスチレン(PS〕
1.59∼1,592
セルロースナイトレート
ユ.5∼ユ.515
ポリ塩化ビニリデン
ユ.60∼1,63
ポリサルホン{PSU〕
1−633
ポリプロピレン(PP〕
フェノール樹脂
ユ.70
(比重0.9075)
(フェノールーホルム
アルデヒド)
ポリイソブテン
ート(DAP)
(Brandrup,他編1Polymer Handbook,3rd editi㎝,P,IV453−457,John Wiley&Sons
図1光の屈折
98
(1989)より抜粋)
プラスチックス
151
1.〕1
1.6000
1.50
指針アーム
1.5900
UV:紫外線
IR:赤外線
ガラス転位点
耕1.5冨OO
/
皐
興L5700
耕
焦
哩
1.5600
試料1ユーピロン(三菱エンジニアリングプラスチックス)
1.5500
一200 50 100 150 ’200
1.49
温 度(℃)
UV
図4 ポリカーボネートの屈折率の温度特性帥
可視部 一一一^一1R
1.48
3,OO0 4,O005.000 6,OO0 7,O00 8.000 9,OOO1O,Oα
3,OO0 4,O005.000 6,OO0 7,O00 8.000 9,OOO1O,OOO
図2アツベ屈折計 波 長1A〕
波
長ω
図3 メタクリル樹脂の屈折率と波長との関係則
測定には光源としてナトリウムランプのD
線*2を使うので,その屈折率を伽で表す。
プラスチックの物の値はだいたい1,4∼
1.6の範囲である(表1)。 アクリル板
アクリル板
■’ 宙 /4 ! 1 。 〃 ’ 。(・) 毛
JIS K7ユ05一。雪畠。によ.れば図2に原理図
を示すアッベ屈折計を使用して屈折率を測
’o
定する。 断面V字形彫刻
屈折率の値は,波長や温度によって変化
するカ㌔成形時の樹脂の分子配向によって@(
厚さ0115m
図6パイプライト効果を
光源
異方性を示し,高度の伸長(延伸)を与え (b〕
発揮させるよい設計例
たときはその差は特に著くな乱図3に 図5エッジライティング効果の原理
(ラジオ目盛板)
PMMAにおける屈折率と波長の関係を示
す。図4はPCの温度と屈折率との関係を
示すものであって,曲線の折れ曲がった点
はガラス転移温度である。このように屈折
率は物性の変化を理解する手段としても利
偏光板(A)
x波長板
コンデンサレンズ
偏光板(B) フィルム
またはスクリーン
絞り
日
日
光源
用することができる。
PMMAの透明板に文字や絵画などを彫
フィルタ
刻し・板の一端から光線を当てると,彫刻
レンズ レンズ
モデル 結像レンズ
(試料)
した部分で光線が反射してその部分が光っ
図7光弾性測定装置刀
てみえる。このような照明効果をエッジライティング
イプ内を通過しているように光ってみえるのでパイプ
(edge1ighting)といい,使い方によっては大変豪華な
ライト(pipelight)効果ともよぱれて,広告板やラジ
感じを出させることができる。
カセなどの目盛板などの照明に応用されている1〕。
その原理は図5に示すように板を透過した光線が入
2−10−6.複屈折および光弾性
射光6で入ったものが空気との境界面で屈折してγ
複屈折(birefri㎎ence)とは,光が透明物体に入射
の角度をとる。この境界面で全反射をするための臨界
角あは,sin九=1/〃の式にPMMAの屈折率〃」1.49
屈折光はそれぞれ方向と速度の異なる偏光である。偏
を代入して求めると,クo=4γ10’となる。したがって図
光とは,振動方向に常に進行方向を含む一平面に限ら
におけるθ=47,0’の角度内にある光線は全反射する
れる光波をいう。これに対して,あらゆる方向に振動
したとき,その屈折光が2重に分かれる現象である。
ので彫刻部分が光ってみえるのである。たとえば・図
し,かつその強さが同じである光波を自然光とよんで
6の’ように板の一端に光をあてると,あたかも光がパ
いる。方解石の結晶板を通して文字が二重に映るのは
刺:通常は単に屈折率と呼ぶ。
この複屈折の現象があるためである。
等方性の透明な固体は,これに外カを加えて内部応
”:ナトリウムD線の波長:5,893五.
Vo1.52,No.8
99
表3脂環式アクリル樹脂「オプトレッツ」の特性例
表2脂環式オ1ノフィン樹脂の特性
項 目
PMMA PC
ゼオネツクス
アートン
アペル
1.ユ9
1.0ユ
飽和吸水率(%)
2.O
O.4
<O.01
O.2∼O.4
〈0.01
全光線透過率(%〕
93
90
91
92
90
比重
屈折率(伽)
1.49 1.58
30
58
アツベ数
複屈折率(nm〕
〈20
ガラス転移温度CC〕
熱変形温度(℃)
(18.6㎏f/cm2)
ユ05
<眉5
140
93∼95 121
700
引張強度1㎏/Cm!)
アイゾット衝撃強
1
さ1㎏・Cmノ㎝)
1.53
54
1.5ユ
<25
<20
ユ40
ユ71
項 目
1.01
1.08
1.ユ9
1.54
57
162
123
〈20
141
129∼136
640
643
750
640
ユ2
72
2
6
比重
TI−1602〕 PCHDヨ〕
PCHE則
1.05
92
1.05
90
1.53
1−45
1.51
■
■
■
ユ.27
光線透過率 (%〕
屈折率
51
アツベ数
複屈折 (nm)
〈20
ガラス移転温度 CC)
■
熱変形温度I〕 (℃)
157
引張強さ (kgf/cm2)
670
曲げ弾性率 (GPa〕
4−9
アイゾット衝撃強さ (kg・cm/cm〕
(㎏f・Cmノ㎝=)
吸水率 (%)
屈折率(6線)
アツベ数〃
透過型屈折計
射出成形品の (nm)
複屈折(位相差〕(nm
光透過率1440㎜(%)
1540㎜(%)
1610㎜(%)
ゲート近傍
キャビティ部
分光光度計
成形平板13mm=
イェローネスインテツクス(%〕
成形平板13mm;
ガラス転移温度 (℃〕
DSC,吸熱開始点
飽和吸湿率 (%)
60℃,90%RH
同上
オプトレツツ
0Z−1310
1.5059
54
4
2
0Z−1330
1.5096
52
4
2
比較例
PMMA
1.4915
58
50
一5
87
90
91
91
92
92
92
92
4
130
ユ.O
1
110
1.O
92
<1
107
1.9
最近は,オプトエレクトロニクスの発達で,レンズ,
表4新規透明光学材料の特性
項 目
試験法
■
2.4
一
O−PET5〕
1.27
プリズムをはじめ各種の光ディスク(CD,DVD,レー
ザディスクなど)などの光学要素(光学機器)へのプ
89
ラスチックの進出が目覚ましい。最近のカメラやビデ
1.62
24
オカメラには,数多くのプラスチックレンズが使用さ
175
1
235
<20
125
その他の光学的特性が要求されるが,なかでも光ディ
150
183
ユ14’
■
■
4.0
6.1
2.3
2.O
2.O
一
一
■
■
9ユ
■
670
4.4
O.4
r注11〕 ユ8.5kqf/cm2
〔注〕1)ユ85kgf/cm2
れている。これらの品物には,.優れた透明性,屈折率
スクについては,複屈折の低いことが厳しく要求され
ている。複屈折を低くするためには,成形時に材料が
できるだけ低い圧力で金型内を流動し,また流動配向
が少なく,成形品の残留応力が極力低減されることが
きわめて重要である。]方,材料の面からは,流動性
が優れかつ複屈折の小さくなるような材料の使用が望
ましい。現在,多数の材料メーカーによって流動性が
2)Tト160:オレフィンーマレイミド交互共重合体
3〕PCHD1ボリ(1,3一シクロヘキサジエン)
4〕PCHE lポリ(シクロヘキサン)
5) O−PET:非晶ポリエステル
特に優れ,成形品の複屈折が小さく,他の光学的特性
力を発生させると,一時的に光学的異方性を呈し,複
最近開発された透明性プラスチックと既存の透明性
を損わないでディスクとして必要な機械的特性を保持
するような材料について盛んに開発が行われている。
屈折を示すようになる。この現象を光弾性(photoelas−
プラスチックのPMMA,PCとの物性を比較する5〕。
tiCity)とよんでいる。光弾性の利用により,プラスチ
ックの内部応力(残留応カ)の程度や分布状態を知る
まず最初に脂環式ポリオレフィン樹脂を紹介する。
ことができるので,材料力学の分野では有力な実験的
材料系列としては大きく3種類に分けられる。
一っは,エチレンとシクロオレフィンの共重合体
般に偏光が使用される。図7は光弾性装置の一例を示
(COC)で三井化学(アペル)とドイツのTICONA
(TOPAS)が開発している。COCに関しては台湾の工
すもので,偏光板A(偏光子)を通った偏光を試料に
業技術院でも開発したと発表されている・〕・㍗。
あて,透過光をさらにもう一枚の偏光板B(検出子)
を通すことによって試料中の応力の程度とその分布状
つぎは日本ゼオンが開発したノルポルネン系ポリマ
ーのゼオネックスである畠〕。さらにその系列にはノル
態に応じて干渉縞が観察される。このような装置は,
ボルネ.ン系ボリマーであるJSRのアートンが開発さ
応力解析法の一つとなっている。光弾性の測定には一
プラスチック成形晶に発生する残留応力を調べるのに
れている9〕。
応用できるが,橋梁などの構造物を透明プラスチック
で製作して荷重分布の状態を実験的に検討したりする
これらの材料とPMMA,PCの各種物性の比較を表
2に示す。これらの材料はPMMA,PCと比較して比
場合などに利用される。光弾性解析に使用されるプラ
重が低いのは大きな特徴といえよう。その他の物物で
スチツクとしてはPMMA,PC,注型エボキシ樹脂な
は,COCは,透明性はPC並み,複屈折性はPMMA
どがある。
並み,吸水率はPMMA,PCに比較し,一桁低いこと
100
プラスチックス
表6主な高屈折率プラスチック眼鏡レンズ
表5非晶性ふっ素樹脂の物性表
PMMA
サイトツプ
◎光学附性質
屈折率
発売隼
レンズ名
1982
Hi−Lord
84
HiLux2
ユ.49
メーカー
SEIKO
HOYA
PENTAX
屈折率
アツベ数
比重
1.60
32
1.38
1.56
40
1.27
1.60
34
1.54
光線透過率(%)
1.34
95
93
84
ストライトSuPer
アツベ数
90
55
85
NIKON
1.58
35
1.47
85
ニコンライトII
ハイプラッセル
旭硝子
1.58
37
1.47
86
ルミナスHI
東レ
1.61
86
Hi−Lord MX
SEIKO
1.60
32
1.38
87
ストライトHIX
ユ、60
36
1.35
88
HiLux EXC
1.60
36
1.35
88
プラックスII GX
SEIKO
ユ、55
38
1.27
88
ニコンライトm
プラッセルHiX
NIKON
ユ.60
36
1.35
旭硝子
ユ.60
36
1.35
1.55
40
1.17
1.60
33
1.17
◎物理的性質
ガラス転移温度(℃)
融点(℃)
密度
108
160
なし
2.03
吸水率(%〕60℃水中
105∼120
1一ユ9∼ユ.20
〈O.01
0.3
がわかる。
ゼオネックスは,透明性,複屈折性は
PMMA並み,耐熱性はPCと同等,吸水率は
きわめて小さい。アートンは複屈折性が低く,
一
90
一
92
PENTAX
HOYA
3ユ
1.41
ニコンライトDX m
NIKON
NIKON
アサヒライト11I
アサヒオプティカル
ユ.66
32
1.35
ニコンライトDX II
一
93
スーパーソブリン
SEIKO
1.66
32
1.35
EYAS
HOYA
1.60
42
1.32
脂環式アクリル樹脂「オプトレッツ」が日
一
ライトエフォート
NIKON
ユ.60
41
1.23
スーパールーシヤス
SEIKO
ユ.60
41
1.23
立化成により開発された。表3にこの材料と
一
97
テスラリッド
HOYA
ユ.7ユ
36
1.40
荷重たわみ温度に代表される耐熱性が非常に
優れていることが特徴である。
PMMAとの物性比較を示すlo)。PMMAより
優れた低複屈折性,低吸水性,耐熱性を兼ね
傭えた材料である11〕。
表7光学用プラスチックの長所と欠点
短 所
長 所
その他の新規透明性樹脂としては東ソーが開発した
・耐衝撃性に強い
・成形加工性に優れる
・低屈折率である
・アッベ数が小さい
オレフィン・マレイミド交互共重合体,旭化成が開発
・軽い
・材料群としてアッベ数の広がり
が狭い
・複屈折率が大きい
・吸湿性が大きい
したシクロヘキサン系ポリマー,鐘紡が開発した非晶
性ポリエステル樹脂,ユニチカが開発した新規ポリア
.リレート樹脂などがある。また,旭硝子では非晶性ふ
っ素樹脂「サイトップ」を開発して新親のプラスチッ
・染色が容易である
・量産性が高い
・コストが安い
・材料設計の自由度が大
きい
・耐熱性が低い
・表面が傷つきやすい
・表面加工膜との密着性に劣る
ク光ファイバの開発を行っている。これらの材料の代
表的なものの物性を表4,表5に示す川…〕。このなかで
ク物性入門」、日刊工業新聞社1996年1月3ユ日第3版1刷
サイトップの透明性が非常に良好なことが目立つ。透
発行
明樹脂の用途の一つである各種眼鏡用プラスチックレ
2)JIS K7ユ05一岨帥(プラスチックの光学的特性試験方法〕
3)「プラスチック成形加エデータブック」,p.17㈱日本塑性加
ンズではより薄く,軽くする要望が強い。そのため,
工学会編,日刊工業新聞社昭和63年3月25日初版第ユ刷発
眼鏡用プラスチックレンズの高屈折率が注目されてい
行
る。表6に主な高屈折率プラスチックレンズについて
示す1茗〕。
最後に光学用プラスチックの長所と欠点について表
4)「プラスチック・データブック」p.84旭化成アミダス㈱/「ブ
ラスチックス」編集都共編,㈱工業調査会,1999年12月ユ日
初版第1刷発行
5)安田武夫;プラスチックス,50(7),79(1999)
7に示す。透明性材料として古くから使用されてきた
6)三丼化学㈱技術資料
無機ガラスと比較して成形性などを中心に成形材料と
7)工業材料,49,2,1
して多くの特徴を有することがわか引叩。
21世紀は光関連産業の時代といわれており,これに
使用されるプラスチックも増加している。これらの用
途で要求される特性も種々あり,そこに沿った新規プ
ラスチック材料の開発も盛んである。適切な物性測定
によりよい材料が開発されることを望みたい。
<参考文献〉
8)日本ゼオン㈱技術資料
9〕JSR㈱技術資料
10〕丼手文雄「ここまできた透明樹脂」p.63,工業調査会,2001年
3月ユ日発行
ユ1)河合宏政,鈴木実,吉田明弘,日立化成レポートNo・28,p・
21 (ユ997−1)
ユ2)旭硝子㈱インターネット情報
13)湯川博「透明性プラスチックの屈折率制御」p.174,日本化学
会編,学会出版センター(1998)
ユ)廣恵章利,本吉正信;「成形加工技術者のためのプラスチッ
Vo1.52,No.8
101