1 1.土壌とは 1−1.植物と土壌 植物は、土壌中に根を - MASUNO-Club

1.土壌とは
1−1.植物と土壌
植物は、土壌中に根を伸長させ根系を形成し植物体を支持しています。また、根の表皮細胞(根毛を
含む)から土壌中の水分、養分を吸収し導管を通して地上部に送り、葉部において同化作用を行ない植
物体をつくっています。根が土壌中に伸長することにより、土壌の膨軟化が図られ、根から分泌する有
機物により地中の生態系を維持しています。
表 1-1 根および土壌の機能
根の機能
土壌の機能
① 養水分の吸収
① 生産者として陸上植物の生育を支え、それ
② 植物ホルモン(サイトカイニン,アブシジン
を起点とする植物連鎖によってすべての陸
酸など)の生産
生生物を養っています。
③ アルカロイド(ニコチンなど)の生産
② 分解者として生物の遺体や排泄物などの有
④ 炭水化物の貯蔵
機物質を分解し、元素の生物地球化学的循
⑤ 粘液性物質(mucilage)の分泌→根の伸長,
環をつかさどっています。
微生物の棲息の場
③ 地球上の水循環の重要な経路となって水圏
⑥ 地上部の固定
の生物の生育や物質の循環を調節する上で
⑦ 表土の浸食(erosion)の防止
大きな役割を担っています。
⑧ 土壌の酸化・還元
④ 大気圏との間でガス交換をし、大気組成の
恒常性の維持に寄与しています。
1−2.緑化と土壌
自然地の土壌は、生態系のバランスの中で、植物の生育に必要な物理性、化学性等の基本的要件が整
えられたものとなっています。しかし、人為的につくられる造成地の土壌は、腐植や土壌微生物などを
豊富に含んだ表層土を消失または改変され、未熟な礫質土壌によって造成され、重機等によって締め固
められ、透水性、保水性などの物理性が不良になっている場合が多く見かけられます。このような造成
地に緑化を行う場合、植栽基盤となる土壌環境を十分に確認し、植物の生育に最低限必要な土壌条件を
整えてやることが必要となります。
表 1-2 植栽地土壌の基本的条件
機能・役割
非
根
酸
水
養
有 害
の 伸
素の供
分の供
分の供
性
長
給
給
給
基本的条件
適正酸度、有害物質を含まない
根の伸長範囲における適切な軟らかさ
空気の移動
水の移動と保持
水の移動と養分供給、保持
1
1−3.土壌環境圧と土壌改良
植物の生育に影響をおよぼすストレスとしては、病害、虫害あるいは種々の環境要因があります。人
類は農薬の開発・普及、河川改修等による用水の確保等によりこれらのストレスを回避してきました。
土壌に関わるストレス(土壌環境圧)としては、土壌水分量の過不足による水ストレス、酸性・アルカリ
性土壌などといった化学的ストレスあるいは土壌の固結による根の伸長阻害などといったものが挙げら
れます。農産物の生産現場あるいは植栽工事現場においては、灌水装置など設備の設置、土壌改良資材
などの混和またはトラクターなどによる耕耘等を行ない、これらの土壌環境圧を緩和・排除するよう努
めています。
表 1-3 土壌環境圧と土壌改良
土壌環境圧
過
過
固
養
分
土 壌 反
有 害 物
改
乾
湿
結
不
足
応 の 不 適
質 の 存 在
良
保水性の向上
通気・透水性の向上
膨軟化と固結化の防止
養分の供給と養分保持力の向上
pH の改善
有害物質の除去、緩和、遮断
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1−4.日本の土壌
1)土壌の基本タイプ(分類)
日本の国土は、火山活動や地殻変動によって複雑な地形・地質が造りだされ、多様な気候と生物相で
成り立っています。そして、地表面においても多様な年代の土壌が複雑に入り組んで存在しています。
日本の土壌分類は、林野と農耕地に分かれて発達してきましたが、国土調査法による土地分類基本調査
では、土地利用にとらわれない包括的な土壌分類体系が策定され評価を得ています。
表 1-4 国土調査における主な土壌分類
土壌群
ポドゾル
褐色森林土
赤黄色土
土壌亜群
土壌統群
土壌群
乾性ポドゾル
乾性ポドゾル土壌
湿性ポドゾル
湿性ポドゾル土壌
乾性褐色森林土 乾性褐色森林土壌
乾性褐色森林土壌(黄褐系)
乾性褐色森林土壌(赤褐系)
褐色森林土
褐色森林土壌
褐色森林土壌(黄褐系)
褐色森林土壌(赤褐系)
湿性褐色森林土 乾性褐色森林土壌
乾性褐色森林土壌(暗色性)
グライ土
赤色土
黄色土
暗赤色土
グライ土
赤色土壌
黄色土壌
暗赤色土壌
細粒グライ土壌
グライ土壌
粗粒グライ土壌
灰色低地土
灰色低地土
細粒灰色低地土壌
灰色低地土壌
粗粒灰色低地土壌
灰色台地土壌
(灰色台地土)
土壌亜群
褐色低地土
褐色低地土
泥炭土
高位泥炭土
低位泥炭土
黒泥土
黒ボク土
黒ボク土
淡色黒ボク土
未熟土
岩屑土
残積性未熟土
残積性未熟土壌
粗粒残積性未熟土壌
砂丘未熟土
砂丘未熟土壌
火山拠出物未熟土 粗粒火山拠出物未熟土壌
風化火山拠出物未熟土壌
高山性岩屑土
粗粒風化火山拠出物未熟土壌
岩屑土
高山性岩屑土壌
岩屑土壌
図 1-1 日本の代表的な土壌の分布割合
3
土壌統群
褐色低地土壌
粗粒褐色低地土壌
高位泥炭土壌
低位泥炭土壌
黒泥土壌
厚層黒ボク土壌
黒ボク土壌
粗粒黒ボク土壌
多湿黒ボク土壌
粗粒多湿黒ボク土壌
黒ボクグライ土壌
淡色黒ボク土壌
粗粒淡色黒ボク土壌
2)特殊土壌
土質工学、農業土木、土壌学の分野で特殊土壌に分類される土壌を下表に示しています。特殊土壌
は、土壌学で定義された「土壌」でない場合が多く、土壌の母材または土壌を構成する1つの層であ
る場合が多い。日本は火山国であるため過半数が火山噴出物に由来し、その中の黒ボク、赤ボクは、
褐色森林土壌に次ぐ分布面積をもつ主要な構成層ですが、世界的に見れば、ローカルで特異な性質を
もつ土壌です。
表 1-5 日本の特殊土壌
名 称
シラス
ボ ラ
特殊土を伴う主な
土壌の分類
成 因
分 布
火山放出物未熟土(灰質) 姶良・阿多カルデ 南九州、十和田湖
黒ボク土
ラなどの火砕流堆 周辺など
積物
火山放出物未熟土(軽石 主に霧島・桜島の 南九州
質)
降下軽石
黒ボク土(礫質)
火山放出物未熟土(盤層 開聞岳の火山砂礫 開聞岳周辺
型)
層が硬化したもの
黒ボク土(盤層型)
火山放出物未熟土(灰質) 鬼界カルデラの約 主に九州・四国
黒ボク土
6300年前の火山灰
特 徴
砂質、灰白色、ガラス質の軽石流堆積物。
水食、崩壊を受けやすい
軽石の大きさは 0.5−3cm、厚さは 10−
100cm、耕地では除去が必要。盛土材料と
しても不適
コ ラ
厚さ 40cm 以上のところもある盤層。水中
で緩まず、根も通さないので耕地では除去
が必要
アカホヤ
広域テフラ、オンジ、イモゴも同じ火山灰
層。明黄褐∼橙黄色、火山性ガラス質で、
植物根の伸長を阻害
富士マサ
火山放出物未熟土(盤層 富士山の火山砂礫 山梨、静岡の富士 厚さ 5∼25cm の複数の盤層をなし透水、根
型)
が固結したもの
山麓
の伸長を阻害
黒ボク土(盤層型)
黒ボク
厚層または普通黒ボク土 主として火山灰の 全国
黒ノッポも同義。有機物含量多く、軽鬆で
土壌化により腐植
リン保持量が大きい。風食に弱く、工学的
を集積した層
には転圧が困難
赤ボク
淡色黒ボク土
火山灰が粘土化し 全国
赤ノッポも同義。軽鬆でリン保持量が大き
黒ボク土
た層
い。保水力は大きいが風食に弱く、工学的
には転圧が困難
おんじゃく
酸性型暗赤色土
玄武岩が不朽、変 佐賀県西北部の上 赤、赤紫、紫、灰、灰白など種々の色調の
質した層
場台地
ものがある。酸性が強く、作物栽培には物
理性、化学性とも劣る
重粘土
灰色台地土(細粒質)
段丘堆積物を母材 北海道、東北の台 固く締まり通気性、透水性が悪い。湿害、
にした湿性、重粘 地に多い
干害ともに受けやすい。農作業が困難
な土壌
砂丘土
砂丘未熟土
風積の砂、海成の 全国の海岸部
砂土のため保水力、保肥力、養分ともに乏
粗粒な堆積物を含
しいが、管理が容易なため水さえあれば
むこともある
種々の作物を栽培できる。飛砂防止、液状
化に配慮が必要
真砂土
花崗岩型陸成未熟土
花崗岩質岩石の物 全国、特に近畿、 砂礫土、砂土、砂壌土で水を含んで流動し、
理的風化物
中国、四国
流亡、崩壊しやすい
島尻マージ
石灰型暗赤色土
琉球石灰岩上に発 南西諸島
弱酸性∼中性の強粘質土壌であるが、保水
達した土壌
性が小さく、保水性の大きいクチャの客土
が行われている
ジャーガル
石灰質軟岩型陸成未熟土 第三紀泥灰岩(クチ 南西諸島
中∼アルカリ性を呈し、灰色の膨張性粘土
ャ)の風化土壌
からなり湿害を受けやすい。農作業困難
酸性硫酸塩土壌 硫酸酸性質グライ低地土 堆積岩(物)、火山 干拓地、土地改変 大気にさらされて強酸性を呈し、植物の生
硫酸酸性質灰色低地土
性堆積物中の硫化 地に散在
育を阻害するだけではなく、土木建築物、
物の酸化
配管などを腐蝕する
ヘドロ
還元型グライ低地土
内湾、湖沼、湿地 干拓地、後背湿地 、地盤として極めて軟弱、乾くと非常に収縮
斑鉄型グライ低地土
の水成堆積物
内湾、湖沼
する
泥 炭
泥炭土
湿性植物遺体の未 全国、特に北海道 、農業的には客土と排水が必要。地盤として
黒泥土
分解堆積物
東北、関東
は軟弱で不安定
黒 泥
黒泥土
湿性植物遺体の堆 全国、厳密な黒泥 農業的には客土と排水が必要。地盤として
泥炭土
積物が分解したも は極少ない
は軟弱で不安定
の
4
3)主な特殊土壌とその改良
① 真砂土
成
因
分
布
問 題 点
改
良
②黒ボク土
成
因
分
布
問 題 点
改
良
真砂土は、花崗岩質岩石の風化土で、褐色森林土や赤・黄色土に発達する初期段階にあ
るとされています。花崗岩質岩石は石英、カリ長石、斜長石、雲母などの粗粒な結晶か
らなり、石英は風化を受けにくいために粗粒な石英砂として残ります。土壌学的には、
礫含量 20%以上のマサ土が深さ 30cm 以内から出現するものを花崗岩型陸成未熟土に分
類しています。
領家型、広島型花崗岩などが帯状に配列する瀬戸内沿岸部などの西日本に広くみられま
す。地方によっては、サバ土(愛知)、おんつち・めんつち(香川)などの俗称もあります。
客土材料として広く利用されています。
転圧などにより固結しやすく、排水不良を招きやすく、また、保水性に乏しく、時には
浸食や崩壊を生じることもあります。化学的にも保肥力が乏しく、有機物もほとんど含
んでいないために肥料成分の欠乏を生じやすくなります。
真砂土の品質にはバラツキが大きく、土壌試験などにより性状を把握し、無機および有
機質の土壌改良資材により適切な改良を行う必要があります。
安山岩質の火山灰土にカヤ、ススキ、ササ等のリグニンやケイ酸含量が多い植物が繁殖・
堆積・腐植化して黒く着色しています。下層には、有機物をほとんど含まない火山灰土
の赤土がみられます。
関東から北日本を中心に広く分布しています。
軽しょうなために乾燥時には風食を受けやすく、霜柱の浮上による未定着根の損傷を引
き起こすこともあります。遊離のアルミニウムを多く含み、それ自身による生育阻害、
およびリン酸固定による有効態リン酸の欠乏をおこしやすく、塩基の流亡による酸性化
を招く場合もみられます。
リン酸肥料を施しますが、その際には、リン酸は土壌中での移動がほとんどないので十
分な混合・耕うんを必要とします。
酸性を呈している場合には、炭カル等の中和資材を混合します。
③酸性硫酸塩土壌
成
因 熱帯・亜熱帯のマングローブ林下などで、温帯では内湾などの湿原で、有機物の供給が
多く堆積物が還元状態になり、硫酸還元菌の作用で海水中の SO42-が還元されて S(-II)と
なり、同様に還元生成した Fe2+とから FeS を生成し、さらに元素状硫黄と反応しパイラ
イト(Pyrite;FeS2)を生成します。パイライトを蓄積した地層を含む地盤が陸化し、造成
などによってパイライトが地表に露出すると酸素の存在下でパイライトが化学的に酸化
され、さらに鉄・硫黄細菌による生物的酸化によって pH は 4 未満に低下します。
分
布 洪積層や第三紀層を含む台地や丘陵地での大規模な造成工事現場、八郎潟、有明、宍道
湖などの内湾やかつて内湾だった場所の干拓地、浚渫土による造成地、または比較的小
規模ですが火山性の硫黄化合物に起因して強酸性を示す土壌もあります。
問 題 点 植物に対しては通常の酸性土壌同様に可溶化したアルミニウムによる生育阻害を招きま
す。土質が重粘質な場合が多く、排水不良による生育不良も見られます
改
良 酸化の進んでいない土壌は、過酸化水素処理により強制酸化して究極の pH を測定して
判定を行います。既に強酸性を呈している場合には、炭カルなどを施用し適正 pH に改
善します。また、発生する塩類や酸性生成物を除去するために排水設備(暗渠排水など)
を設けます。土質が重粘質な場合には、パーライトなどの土壌改良資材により物理性の
改善を図ります。
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