2011 年の HDD 業界展望 - IDEMA Japan(日本HDD協会)

「2011 年の HDD 業界展望」
~多様化するストレージの世界~
IDEMA 協賛会員・HORI Technology Office
ストレージアナリスト 堀内義章
1
はじめに
先行き不透明さを抱えた世界経済は、やや米国の持ち直し、欧州の強弱(ドイツ)の差と PIIGS(ポルトガル、
アイルランド、イアタリア、ギリシャ、スペイン)財政赤字の不透明感、日本の政治の混迷と国内の名目成長の
低下など先進国の低成長に対し、BRICs(中国、インド、ロシア、ブラジル、最近は s を南アフリカとして加え
ている)や新興国の高成長、インフラ整備による投資、中東の原油価格の高騰により持ち直しなど、それぞれ先
進国と新興国・発展途上国と大きく二極化されてきている。
一方、ストレージ業界は、圧倒的に伸びてきたハードディスクドライブ(HDD)に、携帯情報端末(スマート
フォン、タブレット PC、電子書籍)
、フラッシュメモリや SSD の低価格化・大容量化により、これらを用いた
ノートパソコン(例えば米アップルの iMAC や 35 ㌦パソコン)など、小型・軽量で高速処理・低消費電力など
で台頭してきている。これは、ひとへに携帯電話が 3.9 世代の高速アクセス(LTE<Long Term Evolution>で
100Mbps)が可能になったことに起因する。光記録もブルーレイの容量が現状では 100GB で、近々に 128GB/
枚の発売が予定されている。磁気テープはバックアップやアーカイブ用に用いられ、その容量も 3TB/巻(圧縮
時)まで伸びている。
これら多様化するストレージに対して、HDD の方は、地上デジタルハイビジョンの世界的な普及の兆しや 3
次元
(3D)映像、クラウドコンピューティング発展によるデーターセンターの拡張など、
益々増加する情報量
(2020
年には 73ZB<10 の 21 乗>、ガートナー調べ)に対し、小型で大容量の HDD が更に求めれられて来ている。そ
のため面記録密度を高める研究開発がさらに進められている。
そこで、これら多様化するストレージ業界の動きを整理し、世界的な経済や社会の動きを考慮して、2011 年
の HDD の現状と将来を展望してみる。
2
世界の経済動向と今年の主な行事
(1) 世界の経済動向
世界経済は、大きく 2 極化しており、先進国が財政赤字とデフレ、失業率の増大で、実質経済成長率(GDP)
が 1~2%台であるのに対し、中国を初めとした BRICs、新興国は 5~10%台の高成長を続けている。その具
体的な予測を表 1、表 2、表 3 に示す。発表資料は全地域同時でないので、資料発表時期には前後があるが、
その地域で新しいものを示している。今後は、これら BRICs や新興国向けノートパソコンやインフラ整備に
多くの投資が進むものと思われる。ただ、名目 GDP で見ると米国が約 1,500 兆円と中国や日本の 500 兆円弱
に比べると約 3 倍あり、やはり米国の経済の回復が大きな消費の鍵を握るといえる。
表 1 先進国の経済見通し(OECD 、2010 年 11 月 19 日 日本経済新聞)
2010 年
2011 年
2012 年
日本
3.7
1.7
1.3
米国
2.7
2.2
3.1
ユーロ圏
1.7
1.7
2.0
フランス
1.6
1.6
2.0
ドイツ
3.5
2.5
2.2
英国
1.8
1.7
2.0
1
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2011 年の HDD 業界展望
OECD 加盟国全体
表2
2.3
2.8
ASEAN 諸国の実質経済成長率(OECD、2010 年 11 月 9 日 日本経済新聞)
03~07 年平均
10 年見込み
11~15 年平均(予側)
インドネシア
5.5
6.1
6.6
マレーシア
6.0
6.5
5.5
フィリッピン
5.7
6.0
4.5
シンガポール
7.5
14.0
4.7
タイ
5.6
7.0
5.2
ベトナム
8.1
6.8
7.1
6.1
7.3
6.0
6 ヵ国平均
表3
(2)
2.8
2010 年・成長市場・新興国(IMF 統計資料、2010 年 9 月 26 日 日本経済新聞)
国名・地域
DGP 成長率(%)
人口(億人)
日本
2.4
1.3
米国
3.3
3.1
台湾
7.7
0.2
中国
10.5
13.4
インド
9.4
12.2
インドネシア
6.0
2.3
フィリッピン
6.0
0.9
国内外の主な行事
今年度の各資料(2011 年 1 月 1 日 日本経済新聞、1 月 5 日 朝日新聞、週刊ダイヤモンド「2011 年総予側」
2010・2011 年 12 月 25 日・1 月 1 日合併号より作成)から関連する国内外の動きを抜粋してまとめたものを
表 4 に示す。
表4
1月
1日
6~9 日
ルのルセフ新大統領が就任。エストニアがユーロ圏参入
家電見本市「CES」(米ラスベガス)
無人補給船「HTV」2 号機打ち上げ
21 日
IDEMA JAPAN Q セミナー
月内
4~6 日
世界経済フォーラム年次総会(スイス・ダホス)
オバマ米大統領が一般教書演説
EU 臨時首脳会議(ブリュッセル)
14~17 日
世界携帯電話会議(スペイン・バルセロナ)
14~17 日
G20 財務相・中央銀行総裁会議(パリ)
3月5日
26 日
月内
3月
中国と台湾、経済協力枠組み協定(ECFA)の優先実施項目の関税下げ開始。ブラジ
20 日
26~30 日
2月
2011 年の国内外の主な動き*1)
1~5 日
1~13 日
中国・全国人民代表大会開幕
任天堂が 3D 対応携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」発売
米予算教書
情報通信見本市「CeBIT」(独ハノーバー)
ジュネーブ国際自動車ショー
3 月 12 日
九州新幹線鹿児島ルートが全線開通
21~26 日
フィギャースケート 世界選手権(東京)
24~25 日
EU 首脳会議(ブリュッセル)
3 月 31 日
家電エコポイント制度終了
2
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2011 年の HDD 業界展望
月内
4月
10 日/24 日
IMF・世界銀行総会(ワシントン)
19 日
上海自動車ショー
29 日
英ウイリアム王子とケイト・ミドルトンさんの結婚式
3~6 日
JAX(宇宙航空研究開発機構)が水循環変動観測衛星「GCOM-W」打ち上げ。NTT ド
コモ、携帯電話に「SIM ロック」解除機能搭載
アジア開発銀行年次総会(ハノイ)
11~13 日
データストレージショー(東京ビックサイト)
25~27 日
無線技術の見本市「ワイヤレスジャパン」(東京)
27 日
31 日~6 月 4 日
5 月末
5 月内
6月
統一地方選挙
16 日
月内
5月
NASA の水星探査機「メッセンジャー」が水星の周回軌道に入る
6日
7~9 日
26~7 月 14 日
24 日
EU と旧ソ連諸国による東方パートナーシップ首脳会議(ブタペスト)
コンピューテック TIPEI(台湾)
古川聡宇宙飛行士、ロシアの宇宙船ソユーズで国際宇宙ステーション(ISS)へ
主要 8 ヶ国(G8)首脳会議(フランス・ドービル)。全面改装意中の JR 大阪駅がウラ
ンドオープン(三越伊勢丹開業)
ASEM 外相会議(ブタペスト)
ゲーム見本市「E3」(米ロサンゼルス)
女子サッカーW 杯(ドイツ各地)
EU 首脳会議(ブリュッセル)
サッカー国際試合「コバ・アメリカ 2011」。政府が農業対策の基本方針決定。国際決
月内
済会議(BIS)年次総会(スイス・バーゼル)。政府・与党が消費税含む税制抜本改
革案を策定。
7月
1日
6~9 日
水泳 世界選手権(上海)
7 月 24 日
地上デジタル放送へ完全移行
2~3 日
8~12 日
27~28 日
月内
9月
2~7 日
9~10 月 23 日
ASEAN 外相会議、ASEAN 地域フォーラム(インドネシア・バリ島)
DISKCON JAPAN 2011 フォーラム・展示(大田区産業プラザ)
ASEAN 経済相会議(インドネシア・マナド)
陸上 世界選手権(韓国)
東京電力の浮島太陽光発電所が運転開始
家電見本市「IFA」(ベルリン)
ラクビー・ワールドカップ(ニュージーランド)
中旬
DISKCON US(IDEMA)
12~16 日
IAEA 理事会(ウシーン)
15~17 日
東京ゲームショー(幕張メッセ)
13 日
24~29 日
10 月
国際オリンピック委員会総会で 18 年冬季 5 輪開催都市を決定(南アフリカ・ダーバン)
16~31 日
中旬
8月
欧州連合(EU)と韓国自由貿易協定(FTA)が発効。中国共産党建党 90 周年
1日
4~8 日
7~16 日
19~21 日
21 日
第 66 回国連総会開幕(ニューヨーク)
ASEAN 首脳会議、東アジアサミットなど一連の関連会議(バリ)
地球温暖化対策課税(環境税)導入。北京ー上海間の旅客専用高速鉄道開通
電機・IT の国際見本市「CEATEC ジャパン」(幕張メッセ)
世界体操選手権開幕(東京体育館)
琵琶湖環境ビジネスメッセ(滋賀県長浜市)
IDEMA JAPAN Q セミナー
3
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2011 年の HDD 業界展望
24~29 日
月内
11 月
3~4 日
ASEAN 首脳会議、東アジアサミットなど(バリ島)
ノーベル賞の発表。EU 首脳会議。
20 ヶ国・地域(G20)首脳会議(フランス・カンヌ)
12~13 日
アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議(米ホノルル)
16~18 日
国際放送機器展(幕張メッセ)
17~18 日
IAEA 理事会(ウシーン)
28 日~12 月 9 日
第 17 回国連気象変動枠組み条約締約会議(COP17、南アフリカ・ダーバン)
30 日~12 月 11 日
東京モーターショー
12 月
月内
中国初の火星探査機「蛍火 1 号」打ち上げ
2日
IDEMA JAPAN 合同技術部会
世界貿易機構(WTO)定期閣僚会議。東京スカイツリー(634 メートル)完成。パキ
月内
スタンが中国と共同で通信衛星「Paksat-1R」打ち上げ。EU 共通の電気自動車用充電
設備の規格が採用。G8 サミット(フランス)。EU 首脳会議。住宅エコポイントの期
限。中国電力の島原原発 3 号機が営業運転開始
(3)
エレクトロニクス関連市場の 2011~20 年の「未来年表」*2)
エレクトロニクス関連市場の 2020 年までの予測を「2011 年の総予側」
(週刊ダイヤモンド 2010・2011 年
12 月 25 日・1 月 1 日合併号)の資料を引用して表 5 に示す。
表 5 エレクトロニクス関連市場の「未来年表」*2)
2011 年
(年)ソーシャルメディアが発展(スマートフォン等での利用が進展)
(年)クラウド型分析基盤技術の活用が拡大
(年度)家庭向け光ファイバー加入者数が 2 千万件超える
(年度)IP 放送加入件数が 100 万件を超える
2012 年
(年度)ブロードバンド回線の加入件数[*1]が約 3,500 万件に
(年度)電子書籍端末の国内累計販売台数が約 580 万台に(電子コンテンツ市場[*2]
は約 1,500 億円に)
(年度)電子マネー市場が約 3 兆円に
(年度)デジタルサイネージ市場が約 1 千億円に
2013 年
(年)大規模データを活用した分析アプリケーションが増加
(年度)BtoC の電商取引が[*3]10 兆円を超える
(年度)インターネット広告市場が 8 千億円を超える
(年度)家庭用サービスロボット[*4]市場が約 100 億円に
(年度)携帯電話端末の需要台数が全世界で約 15 億台に
2014 年
(年)企業ポイント(ポイントマイレージ)市場が約 1 兆円に
(年)薄型テレビの出荷台数が全世界で約 2.5 億台に
(年度)ワイヤレスブロードバンド契約件数が約 800 万件に
(年度)SaaS/ASP 市場が 1 兆円を超える
(年度)有料ビデオ・オンデマンド市場が1千億円を超える
2015 年
(年)リアルタイム性の高い情報分析ニースが増加
(年)音楽配信市場[*5]が 1 千億円を超える
(年度)ブロードバンド回線の加入件数[*1]が約 3,700 万件に
(年度)電子書籍端末の国内累計販売台数が約 1,400 万台に(電子コンテンツ市場[*2]
は約 2,400 億円に)
(年度)データセンター市場は約 1.7 兆円に
4
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2011 年の HDD 業界展望
(年度)国内で販売される携帯電話の 70%以上がスマートフォンに
2020 年
(年)エコカーの販売台数が全世界で 1 千万台規模に(乗用車販売台数は約 7,800 万
台)
* 地域、国名が明記されていない場合は、日本国内市場
[*1] 光ファイバー、ADSL、CATV 回線の合計(企業向けを除く)
[*2] 新聞を除く
[*3] オンライントレードやネットバンキングなどの金融サービス市場および、デジタルコンテンツ、オークショ
ン、公営競技は含まない
[*4] 自律的に部屋の中を巡回する掃除ロボットやホームセキュリティ、遠隔監視など
[*5] 携帯電話およびインターネット経由
3
ストレージの動き
ストレージは、大きく 4 つのカテゴリーがあり、その現状と今後のターゲットを表 6、主な用途を表 7 に示す。
圧倒的に有利であった HDD が、フラッシュメモリ・SSD の大容量化・軽量化・省電力化により、比較的容量
の低い製品にはフラッシュメモリ・SSD が、大容量が必要な製品には HDD が、また書込み読み出し速度は早
いため両方(SSD と HDD)を複合的に用いてサーバーやパソコンなどに用いられている。
表 6 ストレージの現状の容量と今後の見込み*3)
ストレージの種類
HDD
3.5 型ディスク
光(DVD、BD) 5 型ディスク
ホログラム
5 型ディスク
半導体メモリ
NAND 型
発表または予定
今後のターゲット
667GB
750GB/1TB
2.5 TB
25/50/100GB
SSD 型
磁気テープ
現状(枚)
LTO
128~1024 GB(多層膜) 1 TB?(ニアフィールド記録)
300GB
0.8/1.6TB(重ね記録)
3.9 TB
~512GB
多値、3~4 ビット
1TB
512GB
多値、3~4 ビット
1TB
3.0TB(圧縮)
6.0TB(圧縮) (25/50TB
12.8 TB
発表)
DAT(8mm 幅)
320GB(圧縮)
640GB(圧縮)
1.24 TB
AIT
800GB(圧縮)
1.6TB(圧縮)
3.2 TB
表 7 ストレージの各用途・製品
PC、サーバー、データセンター、インターネット TV、監視カメラ記
HDD
録装置、外付け HDD、ホームサーバー、各種コンシューマ応用製品、
リムーバブル HDD(iVDR、ポータブル HDD など)
光(DVD/BD/ホログラム) リムーバブルディスク、オートチェンジャーアーカイブディスク
音楽用、サーバーの複合使用(HDD/SSD)、PND、USB メモリ、デジ
半導体メモリ
カメ、iPad、携帯電話、レコーダー、35 ㌦パソコン、iMac、ノート
パソコン
磁気テープ
バックアップ用、アーカイブ用
5
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2011 年の HDD 業界展望
4
HDD 業界と携帯情報端末の動向
(1) HDD 業界全体の動き
昨年の情報機器端末(スマートフォン、タブレット PC、電子書籍)の出現、特に米アップルの「iPhone」や
「iPad」の出現は、HDD 業界でだけでなく、従来型の携帯電話や書籍業界、新聞業界に大きな変革をもたら
している。特にスマートフォンは、筆者が6年前から携帯電話と PDA は融合する予測していたが、それが昨
年は現実化した形となった。この背景には、やはり応答速度が早く、通信速度がパソコン並みの早くなり、携
帯電話でも大量の情報が短時間に送れるようになったことによる。またタッチパネルの出現もこれを加速して
いる。
指先一つですべてを操作できる点は小型軽量の携帯情報端末を生み出す要因にもなっている。また
「iPad」
は、パソコンの世界を揺るがす商品になっている。これには HDD は搭載せずに、すべてフラッシュメモリ(現
状で最大で 64GB)になっている点で、HDD の脅威になっている。また、電子書籍は、活字離れが進む書籍業
界にさらにパンチを浴びさせていて、各書店も電子書籍の導入を避けられない状況となっている。これは新聞
業界も同じである。全てが電子書籍にはならないが、活字文化へ新たなメディアとして侵食し、しかもリアル
タイムであり、今後、フレキシブルなペーパータイプ(折り曲げられる)の液晶ディスプレイが出てくれば、
新聞にとって代わる可能性もあるだけに、その動向は注目される。またタブレット型 PC は、ボード(板)型
PC とも呼ばれ、キーボードレスで、SSD を搭載して使えるのが特徴で、小型・軽量・低消費電力・応答速度
が迅速などの特徴があり、昨年、既に HDD タイプのノートパソコンの領域に影響を及ぼし、後半期待された
ノートパソコンの伸びの鈍化の一因になっている。また、携帯電話は、順次スマートフォンタイプへ切り代わ
って行くと思われる。いずれにしろ、昨年は携帯電話が約 12 億 5 千万台、HDD が約 6 億 6 千万台、液晶テレ
ビが約 2 億台弱の生産台数で、情報家電のビック 3 の生産量を誇っている製品である。
HDD が今後、さらに成長を続けて行くためには、これらの新しい携帯情報端末機器と部分的には対応してい
かねばならない。すなわち、
① 携帯情報端末(スマートフォン、タブレット型 PC、電子書籍)
② フラッシュメモリ・SSD を搭載したノートパソコン
最近のメールは、殆ど仕事を除いて携帯電話かスマートフォンでの利用が多い。これは主に簡単な連絡が主
であり、仕事とは切り離して考える方が良い。また、パソコンと連動して、パソコンへ来ている情報を見るこ
と可能で、この様なサブ的な使い方が主になろう。従って、スマートフォンは、ノートパソコンと両立すると
考えてよい。電子書籍やタブレット PC は、フラッッシュメモリを搭載(~64GB)しており、特にタブレッ
ト PC は、2 画面で表示をし、ケースによっては片方にキーボードをディスプレイして使用可能な製品もでて
いる。大きさも 7~11 型で、小型のノートパソコンに近い。これには基本的に HDD を搭載していないので、
大容量情報には向かないが、手軽に持ち運べる大きさで、モバイルとしては適した商品で、今後、HDD を搭
載したノートパソコンとの大きな対抗馬になる。もう一つの対抗馬が、米アップが発売した SSD 搭載した超
薄型で 11 型ノートパソコン「マックブックエンド(SSD・64GB)」
(999 ㌦<約 8 万 8 千円>)である。SSD
で価格が 10 万円を切ってきたことに意味がある。
現在、
ビジネス用として HDD を搭載したノートパソコンは、
容量が 250GB~2TB 搭載が増えているが、果たしてここまで必要かの問題もある。従って、この辺は、今後
のユーザーの使い勝手と、その普及状況に注目したい。
実際に SSD を搭載したノートパソコンは、
東芝、Samsung
電子などから発売されているが、容量が大きいこともあり、価格がまだ高い。また、ノートパソコンやサーバ
ー用に、SSD と HDD を混載した複合型の構成で、OS 部分の立ち上げを早くするためにた通常の動作に SSD
を用い、大容量は HDD へ蓄積するタイプが、特にサーバー系に増えてきている。
以上が、対抗馬としての携帯情報端末とフラッシュメモリ・SDD 搭載品について述べたが、今後の製品展
開を考えると、これらの携帯情報端末に USB 端子を付属して(現在は付属していない)
、外部から容易に高容
量化が可能になり、ノートパソコンの位置付けが変わる可能性がある。
一方、クラウドコンピューティングの発展も、HDD 搭載のノートパソコンに不利な状況にある。これはち
ょうど、一時企業で情報漏洩対策としてシンクライアントが進められた状況に近い。一応、SSD の低容量で
6
IDEMA Japan News Vol.100
2011 年の HDD 業界展望
使い、必要に応じてクラウドを利用する方法になる。個人的には、余り外部に情報を出したくないが、中堅・
中小企業等は経費の面から企業の IT 化が導入しにくかったが、クラウドを用いれれば容易に企業の IT 化に拍
車がかけられるメリットがある。その裏には、大容量を必要とするデータセンターの発展が重要となる。
明確なのは、年々増加する情報量に対して、HDD は大容量化を進めることが重要となる。また、個人用途
と企業での用途は異なり、個人ユースには携帯情報端末、仕事用には HDD 搭載のノートパソコンと棲み分け
され、また両方を所持してケースケースで用いる状況になると思われる。従って、携帯情報端末やフラッシュ
メモリ・SSD の影響はあるが、HDD としては、さらに成長は続けると思われる。
参考までに表 8 に携帯各社の高速通信サービスの状況を、表 9 に主な電子書籍向け端末やタブレット型情報
端末の比較を示す。今年は、さらに多くの企業が参入を予定している。
表 8 携帯各社の高速通信サービス(2010 年 12 月 21 日 電波新聞)
NTT ドコモ
現行方式
LTE
フランド名
FOMA ハイスピード
Xi
開始時期
2008 年 4 月
2010 年 12 月
7.2Mbps
75Mbps
フランド名
WIN ハイスピード
未定
WiMAX
開始時期
2010 年 11 月
2012 年 12 月
2009 年 7 月
9.2Mbps
75Mbps
40Mbps
受信最大速度
KDDI(au)
受信最大速度
ソフトバンクモバイル
フランド名
ウルトラスピード
開始時期
11 年 2 月以降
受信最大速度
イー・モバイル
その他
ー
XGP
未定
2009 年 10 月
42Mbps
20Mbps
フランド名
G4
未定
開始時期
2010 年 12 月
12 年
42Mbps
未定
受信最大速度
ー
表 9 主な電子書籍向け端末(2010 年 11 月 30 日 日本経済新聞)
多機能型(カラー)
機種名
ガラパゴス
会社名
シャープ
大きさ
重さ(g)
米アップル
Samsung 電子
/ソフトバンク
/NTT ドコモ
リーダー
キンドル
米アマゾン・ドッ
ソニー
ト・コム
10.8 型
9.7 型
7型
5型
6型
6型
220
765
680~
382
155
215
247
5 月 28 日
11 月 26 日
54,800 円
48,800 円~
3 万円前後
10.8 型で新
30 万種類以上
聞や雑誌も読
み易い。
12 月 10 日
価格
39,800 円
配信サービス
ギャラクシータブ
5.5 型
発売日
特徴
iPad
電子書籍専用型(白黒)
5,5 型は 7
時間駆動
新聞ほか書籍、マンガ、雑誌
など 2 万冊
12 月 10 日
2 万円
8 月 27 日
2 万 5 千円
139 ㌦~
基本ソフトに「アンドロイ
電子ペーパー採用。通常
最新型日本
の豊富なアプリを
ド」最新版を搭載、
使用で 1 万ページ分の
語表示にも対
配信中
処理能力が高い
読書が可能
応
書籍、動画、音
実験サービス中。来春
楽、ゲームなど幅
に書籍やマンガ、雑誌
広く用意
など提供
英文書 70 万
文芸や実用書等書籍 2
冊以上。日本
万冊
語書籍の提
供は未定
7
IDEMA Japan News Vol.100
2011 年の HDD 業界展望
(2) HDD 業界の各社動向
HDD 業界各社にも大きな動きがあり、特に部品メーカーは、HDD のタイプが 2.5 インチへ移行していること
から、ガラス基板メーカーは各社増産を急いでいる。表 10 に HDD 業界の主要 HDD・部品メーカー一覧を、
表 11 に HDD メーカーの主要部品調達状況を示す。各社の動きは、以下の通り。
ドライブメーカー関連
① 2010 年(Q1~Q3)
・HDD の生産台数トップは、Western Digital(以後 WD)で、Seagate を上回る。10
年 Q1(WD/Seagate=5,110 万台/5,025 万台)
、Q2(同=4,974 万台/ 4,680 万台)、Q3(同=5,070 万台/4,970
万台)で、僅かであるが初めて HDD 生産台数でトップを占める。
② 日立 GST は今年度・米国で上場予定、逆に Seagate は、上場廃止を検討中。
③ 米国 IDEMA で、日立 GST、米 Seagate、米 WD の HDD 3 社は、次世代技術の研究開発で提携。名称は
ADVANCED STORAGE TECHNOLOGY CONSORTIUM (ASTC)。記憶容量を大きくするパターンド・メディ
アや熱アシスト方式など開発ロードマップを共有し、規格化などでも協力する。世界シェア上位 3 社が連携
するのは異例だが、
次世代品の事業には巨額な投資が必要で、
費用削減を狙う。参加は 12 社(Tier 1=日立 GST、
Marvell、Seagate、Western Digital、 Xyratex、Tier 2 =LSI、TI、Fuji Electric、Heraeus、Intevac,、KLA-Tencor、
Veeco)。
④ ウェスタンデジタルは、ブラジルで HDD の生産を開始すると発表。同社はブラジルのエレクトロニクス・
メーカ Digitron と連携する。Digitron の Manaus Free トレードゾーンにあるノート PC の量産工場が WD 製
品の生産に当てられる。
⑤ 東芝と富士通は昨年末、HDD の設計・開発をする東芝ストレージデバイス(東京・港区、資本金 3 億 5 千
万円)に関して、東芝が同社の全株式を取得し、完全子会社化したと発表。
⑥ 日立 GST は業界初となる 2.5 インチ HDD で 1 枚 500GB(面記録密度は 636Gb/in2 で、実用化では業界最
大の値)を実現。
「Travelstar Z5K500」シリーズの出荷を開始。回転数 5,400rpm、厚さ 7mm を実現。薄型、
軽量モバイル機器のデザイン自由度の拡張をサポート。500/320/250GB を提供。外付け HDD からノート PC、
ブレードサーバーまで、幅広いアプリケーション薄型への移行を先導。
フラッシュメモリ・SSD 関連
① 米アップルの情報端末「iPad」のパソコンヘの影響と超薄型ノート型パソコン「マックブックエンド(SSD・
64GB)」
(11 型で 999 ㌦<約 8 万 8,800 円>)の新機種を発売。画面は 2 サイズ(11 と 13 インチ)
。独自の
無料ビデオ通話サービスに対応。10 万円を切る衝撃的な製品。
② 東芝は米インテル、韓国 Samsung 電子と次世代半導体の製造技術を共同開発する。半導体材料の世界シェ
アで過半を握る日本メーカーを加え、国際的な研究組織を設立。2016 年までに回路の線幅を現在の最先端品
の半分以下の 10nm 台にすることを目指す。経済産業省を資金などを支援し、次世代製品での日本の競争力
確保を担う。
③ サンディスクは切手より小型の iSSD を発売。スレート型 PC や超薄型ノート PC に最適。さらに、
「Google
TV」などの薄型テレビ、セットトップボックス(STB)などにも活用可能。STB は、現在 300GB など大容
量の製品と、ストレージをもたない製品のほか、中間層として 4/8/16GB と小容量の製品が出ている。16GB
までなら、HDD よりも SSD の方がコストが安くなる。
④ Samsung 電子は、エンタープライズ・ストレージ向けとして、3.5 インチ型で、容量が 100GB/200GB の
SSD の量産を開始したと発表。最初の顧客は米 EMC で、ミッドレンジ製品への採用決定。「同 SSD は高性
能、低消費電力を特徴としており、データセンターや企業のストレージ環境に最適の価値を提供する」
。
⑤ EMS の台湾・鴻海精密(フォックスコン)が中国四川省成都市の新設工場で、米アップルのタブレット PC
「iPad」の量産を開始。1 日当たりの生産台数は 1 万台で出荷も開始。フォックスコンでは今後、成都工場
に iPad の生産ラインを約 50 本整備し、年間 4 千万台の生産能力を確保する計画。
⑥ 東芝は、小型・薄型のステックタイプ SSD モジュール「Blade X-gale」を発売。容量 64GB(2.5 万円)
、
8
IDEMA Japan News Vol.100
2011 年の HDD 業界展望
128GB、256GB(8.5 万円)
。主にモバイルノート PC 向け。インターフェースは SATA2.6 を採用。転送速度
は、読み出し 220Mbps、書込み 180Mbps。重さは 9.8g(256GB 品は 13.2g)
。
⑦ Kingstone Digital は 、 MLC 1.8 イ ン チ SSD を 発 表 。「 SVP180S2/64G ( 64GB )」( 1.8 万 円 前 後 )、
「SVP180S2/128G(128GB)」(3.3 万円前後)、
「SVP180S2/256G(256GB)」(7.8 万円前後)
。インタフェ
ースは microSATA、SATA 3Gbp。重量は 48g。転送速度はリード 230Mbps、ライト最大 180Mbps を実現。
部品メーカー関連
メディア・ブランク材メーカー
① 昭和電工はメディア完成品の現状生産 2,200 万枚/月を 2011 年 7 月に 2,700 万枚/月体制へ。
② 富士電機デバイステクノロジーズは、国内の開発・生産・営業を海外拠点のマレーシアに移管集約、メデ
ィアの海外生産は 1,800 万枚/月。
③ HOYA がメディアを Western Digital へ売却し、ガラスブランク材専業へまた生産キャパを現状の 3,200 万
枚/月を 11 年春に 5,200 万枚/月へ(設備投資 100 億円)
。
④ 古河電工(アルミブランク材)もガラスブランク材に参入し、100 万枚/月の体制を 2013 年度中に 2,000
万枚/月へ(設備投 100 億円)
。
⑤ オハラはガラスブランク材の生産を現状の 1,400 万枚/月から、2010 月に 1,800 万枚/月、2011 年 7 月に 2,100
万枚体制へ。
⑥ コニカミノルタはガラスブランク材の生産を現状の 900 万枚/月から 1,600 万枚/月体制へ。
磁気ヘッド関連
① TDK は、面記録密度の開発での最高値を昨年の CEATEC で single write recording にて 1.2 Tb/in2(684kTPI
×1750kBPI)を、PMR+DTM(昭和電工の DTM ディスク使用、トラックピッチ 37nm)で 1.1Gb/in2(605kTPI
×1840kBPT)を実証した。
② サンコールはサスペンションの現状生産 800 万個/月を 2011 年春に 1,400 万個/月へ(設備投資 10 億円)。
③ サスペンションのマイクロアークチュエーターは、容量が 2.5 インチ HDD で 500GB、3.5 インチ HDD で
750GB から導入予定。
スピンドルモーター
① 日本電産は 300 億円を投じ、フィリッピンに HDD 用精密小型モータの新工場を建設。2012 年春に同国の
生産能力を現在の 1.5 倍の年産 3 億6千万台に。2013~14 年に HDD は 10 億台を超すと見込み、年間 8 億
台のモータ生産目指す。また、神奈川県川崎市に総額 150 億円をかけて「モーター基礎技術研究所」を建設
する。第 1 期棟は 2012 年 7 月に、第 2 期棟は 2014 年 7 月に竣工予定。売上高の 1~1.5%を研究開発に充
てる。70 項目の研究テーマ。各種モーターを始めとする駆動技術全般と基礎研究から応用まで行う。特に主
力事業のモーターで求められている省エネ、省資源、軽薄短小、高効率化を実現する材料、素子、ソフトウ
エアなどの基礎技術研究開発に力を入れる。
② ミネベアは、HDD 用モーターを現在のタイのパイパイン工場からナワナゴンへ移し
(部品加工工場に転換)
、
キャパは 700 万個/月(前期比 16%アップ)へ。
表 10
HDD 業界の主要 HDD・部品メーカー一覧*3)
HDD 関連分野
HDD
ヘッド
(5 社)
(4 社)
メディア(5 社)
サブ基板
会社名
Seagate、WD、日立 GST、東芝、Samsung 電子
専業
1社
TDK
内製
3社
Seagate、WD、日立 GST
専業
2社
昭和電工、富士電機
内製
3社
Seagate、WD、日立 GST
Seagate、WD、日立 GST、昭和電工、富士電機、
アルミ
7社
東洋鋼鈑、Kaifa
9
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2011 年の HDD 業界展望
ガラス
4社
コニカミノルタ、シチズン精密、旭硝子、HOYA
アルミ
3社
古河電工、神戸製鋼所、日立 GST
ガラス
5社
HOYA、旭硝子、古河電工、オハラ、コニカミノルタ
スピンドルモータ
専業
3社
日本電産、ミネベア、アルファーナテクノロジー
(4 社)
内製
1社
Samsung 電機(Samsung 電子クグループ)
ブランク材
サスペンション(4 社)
ニッパツ、Hutchinson、TDK、サンコール
表 11
◎自社生産のみ
HDD メーカーの主要部品調達状況*3)
〇自社生産以外にも他社からも購入
HDD メーカー
×自社生産なし
HDD
ヘッド
メディア
スピンドルモーター
Seagate
◎
○
○
×
Western Digital
◎
○
○
×
日立 GST
◎
○
○
×
東芝
○
×
×
×
Samsung 電子
○
×
×
○
(3) 面記録密度の高密度化技術
HDD としては、如何に小型で大容量化を行うかが鍵で、面記録密度を如何にあげるかにある。現在、この面
記録密度の最大の値は、開発で、昨年の CEATEC にて TDK が発表した single write recording で 1.2 Tb/in2
(684kTPI×1750kBPI)を実証 したものと、PMR+DTM(昭和電工の DTM ディスク使用)で、トラックピッ
チ 37nm で 1.1Gb/in2(605kTPI×1840kBPT)を実証した。実用化では、日立 GST が昨年 12 月中旬に出荷を
開始した 2.5 インチ HDD で、1 枚当たり 500GB の「Travelstar Z5K500」シリーズ。面記録密度は 636Gb/in2
で、実用化での業界最高値を実現している。
面記録密度の高密度化の研究開発は、各社研究機関屋やコンソーシアム、大学等で進められているが、現状の
垂直磁気記録の面記録密度の限界が1Tb/in2 と言われているが、一説には 1.5~2.0Tb/in2 の可能性もあると論
議も上がっている。がいずれにしろ、限界が見え出してきている。次世代技術としては多くの技術開発が進め
られている。すなわち、
「single write recording」
「CPP GMR」
「DTM」
「BPM」
「熱アシスト記録(HAMR、MAMR)」
およびこれらの組み合わせ。いすれも 5~10Tb/in2 を目指す技術であるが、現時点では商品化が難しく(高価
格になる)
、量産化に適した技術開発が望まれる。また、表 12 には、各社の近接場素子での開発状況を示す。
表 12
HDD 記録技術(*4)
ベンチマーク
Seagate
TDK
日立 GST
NIMS/日立 GST
発表年月
2009 年
2010 年 10 月
2010 年
2010 年
スピンスタンドデモ、他
245Gb/in2
1Tb/in2
~250Gb/in2
1Tb/in2
51nm
50nm/12.7nm
80nm
~25nm
ロイポップ
三角型
C-アパーチャ/ナノピーク
C-アパーチャ/ナノピーク
Grating+SIM
SSC(?)
SSC(Spot Size Converter)
SSC
MWW(Magnetic
Write Width)
近接場素子
光伝送系
媒体
FePt 合金
Hc=16kOe
CoB/Pd 人工
CoB/Pd 人工
格子
格子(BPM)
2.5Tb/in2
450Gb/in2
総合
シュミレーション
88nm/17nm@S/N=0
FePIC(粒径
Hc=16.5kOe
D=6.1nm,σ=
1.8nm、Hc=37kOe)
さらに、上述の技術とは観点を変えた開発では、以下の技術が上げられる。
・
東京大学の大越慎一教授らは、光を当てるだけで色が変わる新物質を発見。チタンを含む酸化物の微粒子で、
光を当てるたびに黒色と茶色の間で色が交互に変化する。新物質を応用すれば、BD の 1 千倍以上のデータ量を
保存する記録媒体が実現する。微量子の大きさ 5~25nm。緑色レーザー光を当てると、微粒子を作る原子の結
びつきが分かり、色が変化する。光で色が変わる材料は記録媒体になる。最も小さい 5nm を使えば、25Tb/in2
10
IDEMA Japan News Vol.100
2011 年の HDD 業界展望
のデータが記録できる。
・ 物質・材料研究機構と大阪大学のグループは代表的なナノテク素材であるフラーレン(球状炭素分子)の薄膜
に高密度で情報を記録する新技術を開発。190Tb/in2 の記録が可能。これは現在の HDD 記録密度の約 1 千倍、
基礎研究レベルの先端技術と比べも従来の 10 倍以上と言う。
・
東芝は、HDD の容量を現行の 5 倍に増やせる高密度化技術を開発。15 年以降に製品化。磁気ディスクに細い
溝を作り、特殊なプラスチックを流し込んで熱すると、プラスチックに含まれる成分が微細な粒となって残る。
この粒をもとにディスク表面を削って微細な磁性粒子を作り、データの読み書きを実現する。磁性粒子の直径は
10nm。試作した磁気ディスクを使い、動作検証に成功した。新技術を使えば 2.5Tb/in2 に向上する見通し。
電子機器のエリオニクス(東京都八王子市、牧内昌幸社長)は世界最高密度のハードディスクを作れる原盤の
製造装置を開発した。電子線を当てて原盤に微細な穴を加工する方式で、ディスクには約 2Tb/in2(従来の 4 倍)
の情報を記録できる。映像の記録用などで大容量ハードディスクの需要が拡大しており、世界のディスクメーカ
ーに新装置を売り込む。新装置は電子線でシリコンウエハーに超微細の凹凸をつける「電子線マスタリング装置」
の一種。ウエハー上に電子線で規則正しく凹凸を加工する。先ず直径 15~25nm の穴を 35nm の間隔でつくり、
へこんだ部分に高分子を塗って新たな突起を設ける二重の加工を施す。高分子の大きさを半文以下にして、記憶
容量を 4.5Gb/in2 に引き上げることも可能。ディスク容量が 1Tb/in2 になると、現在の 2.5 インチディスクを 2
~3 枚搭載している外付け HDD の容量を 6~8TB まで高められる。装置の価格は約 10 億円で、既にハードディ
スクメーカー2 社と納入契約を結んでいる。日本メーカーも採用を呼びかける。
図 1 に面記録蜜密度の開発と実用化の推移を、表 10 には、タイプ別の容量の現状と今後についてを示す。
10000
Development
1000
Product
100
10
01
Q
1
20 Q
02 3
Q
1
20 Q
03 3
Q
1
20 Q
04 3
Q
1
20 Q
05 3
Q
1
20 Q
06 3
Q
1
20 Q
07 3
Q
1
20 Q
08 3
Q
1
20 Q
09 3
Q
1
20 Q
10 3
Q
1
Q3
1
20
・
2
図 1 面記録密度の実用化と開発の推移(Gb/in )
11
IDEMA Japan News Vol.100
2011 年の HDD 業界展望
表 13
各タイプ別容量の現状と今後(単位:GB)
インチ別
現状
発表・導入方向
目標
1.8inch
250
320
500
2.5inch
500
750
1000
3.5inch
667
1000
2500
(4) HDD の予側
① パソコンの買換え需要、新興国向けの伸びにより、HDD は増加の傾向。特に新興国は富裕層が増加し、購
買力が旺盛で期待できる。
② 情報量の年々の増加(2020 年には 73ZB、米ガートナー調べ)により、クラウドコンピューティングや仮想
化技術により、データセンターが増加傾向。
③ 小型・大容量サーバーによりブレードサーバー系(2.5 インチ HDD)が増加。またモバイル製品の増加によ
り 2.5 インチ HDD が増加。
④ 3D テレビの販売開始やデジカメの高解像度(1000 万画素)により、保存写真の容量は増加し、更なる大
容量の HDD が必要。
⑤ USB 接続による外付け HDD の増加やリムーバブルの iVDR の普及により保存メディアは増える傾向。特に
今後の携帯情報端末に USB 端子が付属されると、大容量の外付け HDD が必要になってくること。
⑥ 携帯サーバーやホームサーバー、車載サーバーが定着すれば、HDD の用途は増加。
⑦ デジタルサイネージ(電子看板)
、遠隔医療制度、遠隔農業・管理によるサーバーの増加。
⑧ Web 系の増加により内蔵容量(HDD、メモリ)は、順次インターネットや無線 LAN で、サーバーへ送信し、
キャッシュの役目になっていく。
参考までに、三つの情報保存方法の特徴を表 14 に示す。
表 14 三つの保存方法の特徴
項目
オンラインストレージ
USB メモリ
外付け HD
容量
△バックアップなら「無限」のもの
△数十 GB までが主流
◎圧倒的に大きい
転送速度
×一度に数百 MB 程度まで実用的
◎実用上困ることはない
◎実用上困ることはない
セクリティ
△パスワードの厳密管理が必要
△無くし易い
○小型で持ち歩きもある
データの渡し易さ
◎相手がネットにつながるならどこに
いても OK
○小さいので手渡し OK
△小型では持ち運び可能
だが、大型は無理
データの壊れにくさ
◎同時に消えることは無理
○耐衝撃性に優れる
○故障しにくなっ来てる
コスト
◎高くとも月額数百円、無料
○数千円ものものが主流
×数千円のものが主流
以上から、図 2 に 2014 年までの HDD のインチ別予測を、図 3 に用途別 HDD の予測を示す。2010 年の HDD
実績は 6 億 5,744 万台の見込みで、2011 年は 7 億 8,075 万台を予測している。2011 年には 3.5 インチ HDD よ
りも、2.5 インチ HDD の方が生産量では多くなる。
12
IDEMA Japan News Vol.100
2011 年の HDD 業界展望
1400000
1.3インチ以下
1.8インチ
2.5インチ
3.5インチ
1200000
(千 台 )
1000000
800000
600000
400000
200000
図2
20
14
20
13
12
20
20
11
10
20
20
09
08
20
07
20
06
20
05
20
04
20
03
20
02
20
20
01
0
HDD のインチ別トレンド*3)
1400000
Mobile
CE
Desktop
Ent. ATA
Enterprise
1200000
(千 台 )
1000000
800000
600000
400000
200000
14
20
13
20
12
20
11
20
10
20
09
20
08
20
07
20
06
20
05
20
04
20
03
20
02
20
20
01
0
図 3 用途別 HDD の予測*3)
(5) 今後の製品のキーワードと展開
今後の製品のキーワードは、「クラウドコンピューティング」「携帯情報端末(スマートフォン、電子書籍、
タブレット PC)」
「インターネットテレビ」
「3次元(3D)テレビ」
「マルチメディア放送レコーダー」
「外付
けストレージ(HDD、フラッシュメモリ、iVDR)」
「データーセンター」
「デジタルサーネージ(電子看板)」
「無
線 LAN」
「サーバー(ホーム、携帯、車載、船舶)
」
「インターネット遠隔医療診断システム(電子カルテ)」
「監
視カメラレコーダー」
「介護関連」
「無線 IC タグ」
「在宅勤務・在宅スクール・在宅セミナー」
「無人化コンビ
ニエンスストア」
「全対応 ID カード」など。
現状の情報家電製品には、殆どの製品が HDD やフラッシュメモリを搭載しており、それらの製品は、更に容
量をアップする程度であるが、今後、大きく期待できるのは、
13
IDEMA Japan News Vol.100
2011 年の HDD 業界展望
① 地上デジタルハイビジョン放送切り替え(7 月 24 日)による大容量レコーダー
② 来年(2012 年)から始まるマルチメディア放送による携帯型メディアレコーダー
③ 携帯情報端末へ USB 端子を搭載した製品展開による外付けストレージの増加
④ インターネットテレビの増加による HDD 内蔵テレビの増加
⑤ 世界規格化された手軽な iVDR の拡大(リムーバブルで、色んな用途に使用可能)
⑥ 各家庭に 1 台必要なホームサーバー(10TB)の普及
⑦ 携帯情報端末の無線 LAN 化による遂次送信による情報保管の携帯サーバーへ
などが上げられ、上記キーワードと合わせて、大容量に強みのある HDD は益々真価を発揮していくと思われ
る。
5
まとめと今後の展望
多機能携帯端末(スマートフォン)や米アップルのタブレット PC「iPad」、電子書籍などの新しい情報機器の
出現により、ノートパソコン市場にも大きな変化が生じ、またクラウドコンピューティングの発展により、パソ
コン一辺倒から多様な使い方が出てきている。さらには、フラッシュメモリ・SSD のサーバーやパソコンヘの
普及により従来の HDD のエリアを侵食し始めている。しかし、年々増加する膨大な情報は、小型で大容量の HDD
に負う所が大きい。従って、HDD の今後の展望としては
① 多様なストレージに対しては、個人的用途とビジネス用途とは分けて考えられ、二つを所持して使い分けて
使用するので、ノートパソコンとしては依然と必要になる。
② 用途に応じての使い分けが進むと、スマートフォン、電子書籍、ノートパソコンの 3 種類を所持する方向に
なる。
③ 携帯情報端末に USB 端子または、無産 LAN 機能が付くと外付けストレージまたは携帯サーバーの必要とな
る。
④ クラウドコンピューティングの発展により、中堅・中小企業が IT への負担が軽減で出来るので、このクラ
スの企業の活用が拡大し、データセンターが益々増加の一途をたどる。ただし、携帯情報端末ユーザーがク
ラウドを利用するかどうかは、今後の進展を見ないと不透明なところがある。個人的には、個人情報は手元
に持ちたい気持ちが強いので、その意味ではホームサーバーか携帯サーバー保管となる。
⑤ 情報量は年々増大し、オリジナル情報に対し、コピー情報はその数倍はあると思われ、2020 年にはガード
ナーの予測では 73ZB(10 の 21 乗で、TB-PB-ZB の順、米ガードナー調べ)とされ、その意味で小型・大容
量の HDD のニーズは、更に強力な要望となる。その意味での高録密度記録技術の開発は必須事項である。
⑥ 高画質化する映像保管(テレビ録画、デジタルカメラ写真、ムービー映像、各種情報など)には、ホームサ
ーバー(情報の整理ダンス)は一家に 1 台必要な時期が必ず来る。
⑦ HDD の生産台数は、2010 年実績は 6 億 5,744 万台の見込みで、2011 年は 7 億 8,075 万台を予測している。
2011 年には 3.5 インチ HDD よりも、2.5 インチ HDD の方が生産量では多くなる
(提出:2011 年 1 月 12 日)
参考資料
*1)
2011 年 1 月 1 日 日本経済新聞、1 月 5 日 朝日新聞、週刊ダイヤモンド「2011 年総予側」
(2010・2011
年 12 月 25 日・1 月 1 日合併号)より作成
*2)
「2011 年の総予側」
(週刊ダイヤモンド 2010・2011 年 12 月 25 日・1 月 1 日合併号)
*3)
堀内義章「最新の HDD 業界動向」
(第 31 回関西磁気記録懇談会、2010 年 12 月 3 日)
*4)
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と東北大学電気通信研究所の「次世代大容量省電力
ストレージ技術のための革新的技術開発」の合同成果報告会(2010 年 10 月 29 日開催)
14
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