Vol.29, No.2(April2005)

The Journal of the International Society
for Prosthetics and Orthotics
Prosthetics and
Orthotics
International
論文和文要旨
April 2005, Vol.29, No. 2
Contents
/Demography and function of children with limb loss
四肢欠損又は切断児における統計結果(訳:小杉 多絵子)
/Transition from sitting to standing after trans-femoral amputation
大腿切断者の座位からの起立動作(訳:赤澤 康史)
/Socket versus bone-anchored trans-femoral prostheses: Hip range of motion and sitting comfort
ソケット型と骨直結型大腿義足との比較;股関節可動域と座位時の快適性(訳:内田 充彦)
/Sand-casting technique for trans-tibial prostheses
下腿義足におけるサンドキャスティング(砂粒を用いた採型)方法(訳:滝 吏司)
/Are Canadian prostheses used? A long-term experience
カナディアン義足は装着されているか?(訳:深谷 香奈)
/Trans-femoral amputee gait: Socket-pelvis constraints and compensation strategies
大腿切断者の歩行:ソケット-骨盤の制限要因と代償戦略
(訳:島村 雅徳)
/Removable rigid dressings versus soft dressings: a randomized, controlled study with dysvascular, trans-tibial
amputees
着脱可能なリジットドレッシングとソフトドレッシングの比較:血管原性下腿切断者に対するランダム化
比較研究(訳:村原 伸)
/Demography and function of children with limb loss
四肢欠損又は切断児における統計結果
K.YİĞİTER, Ö.ÜLGER, G.ŞENER, S.AKDOĞAN, F. ERBAHÇECİ, &K.BAYAR
Prosthetice and Biomechanics Department, School of Physical Therapy and Rehabilitation, Hacettepe University, Ankara,
Turkey
要約
本研究は 1982 年から 2002 年における 232 名の義肢製作記録をもとに小児の四肢欠損又は切断部位・左右、
切断肢、年齢、性別、義肢機能部位の評価を行った。下肢欠損又は切断児 72%(195 名)、上肢欠損又は切断
児 28%(77 名)であった。年齢は 1 歳から 15 歳におよび、平均年齢は 9.90±2.32 歳である。本研究より小児
の四肢欠損又は切断の主要要因は先天性四肢欠損症であることがわり、最も多い部位はそれぞれ下腿欠損又は
切断、前腕欠損又は切断であった。女児より男児(60%)の割合が多く、全体の 84%は片側欠損又は切断であ
り、左側(46%)より右側(54%)の方が優位であった。下肢欠損又は切断児の 96%は補助なしで機能的歩行
を獲得でき、上肢欠損又は切断児の 88%は日常生活において自立可能であった。
はじめに
統計学的研究で先天性欠損と後天性切断の割合は 2:1 で先天性が大半を占める(Masada 1986、Vannah 1999)。
先天性四肢欠損の明確な原因は分かっていないが、上肢欠損は下肢欠損の 2 倍である(Hirons 1991)。
先天性四肢欠損は切断端に似た状態で遠位が失われる横断型、遠位骨格要素が残存する縦断型に分けられる
が、四肢欠損の発生経緯は分かっていない(Bryant,Pandian 2001)。
国際的な論文によると、小児の外傷による切断原因の主なものは電動工具や機械、自動車事故、銃創、熱傷、
感電などである(Krebs 1991)。
腫瘍は小児にとって切断理由の第一要因であり、他に血管奇形(リウマトイド血管炎)、神経的病変、稀に
水痘などがある(Carnegie 1999;Pandian 2001)
。
方法
小児 232 名の四肢欠損又は切断者において、統計および機能的到達度の評価を行った。初回来院時は理学療
法士により荷重評価、筋力評価、関節可動域及び安定性の評価を行った(Carnegie 1999;Esquenazi and Meier
1996)。
手術後義肢装着前の段階では、義肢装着のため良肢位確保、弾性包帯固定、断端強化を中心に術後の断端管
理と機能訓練のリハビリテーションが行われる。先天性四肢欠損児は義肢装着の有無にかかわらず日常生活向
上のため残存肢の機能改善を目的に治療が行われる。義肢のデザインおよび材料の選択は、切断部位や切断方
法等によって個々に考慮する必要がある。下腿部より遠位を除いた下肢欠損又は切断児は SACH 足部付のモジ
ュラー式下腿義足、上肢欠損または切断児には随意開き式能動ハンド付のモジュラー式もしくは機械式の義手
が供給される。
下肢欠損又は切断児において、膝継手は安全に歩けるようになるまで使用しない。大腿部欠損又は切断児に
おいては、初めての義足では機能的膝継手を使用しない。一方を断端ソケットにもう一方を足部となる前後径
約 12cm に合わせて作ったポリプロピレン容器に Rigid Pedilen Foam と硬化剤を混ぜたものを流し入れシャンク
と足部を一体に作る。3~4 歳頃の児童に用いる 15cm 以下の足部を在庫に抱えるのは不経済なので、歩き初め
の子供用の義足として上記の方法は考案された。
義肢装着の初期では、断端とソケットの適合を確認してから下位部品を取り付ける。スタティックアライメ
ント調整後、歩行による皮膚の炎症及び義肢の破損はないか動的評価を行う。そしてアライメントやソケット
の調整を行いながら歩行訓練を行う。
義足の場合、義肢装着訓練は自由歩行から始め、バランス保持、体重移動、階段坂道昇降、障害物、床から
物を拾う、乗物の乗り降りなどの歩行活動へと移行する。
義手の場合、手部の開閉訓練から始め、衣服の着脱、整容、歯磨き、食事などの自己管理、受話器や紙の把
持、ドアの開け閉めなどの日常生活活動(ADL)訓練を通して行う。
義肢を装着する児童は一日 4 時間の訓練を 3 週間行い、訓練終了時に日常生活活動(ADL)能力を下記の 4
段階で評価する。
・4 自立
補助なしで活動可
・3 補助ありで自立 歩行補助具や自助具を使用して活動可
・2 一部自立
人の補助ありで活動可
・1 自立不可
結果
232 名の義肢記録調査を行い、男児 140 名(60%)、女児 92 名(40%)であった。年齢は 1~15 歳におよび、
平均年齢は男児 10.50±1.92 歳、女児 9.90±2.32 歳であり、男女比は 1.5:1 であった。
小児期の四肢欠損の第一要因は先天性四肢欠損症であり、次に交通事故が続く。先天性の四肢欠損は 75 人
(32%)、後天性の四肢切断は 157 人(68%)であり、先天性と後天性の比は 1:2 であった。後天性の四肢切
断児 157 名の内、下腿部 112 名(71%)、前腕部 45 名(29%)であった。
片側欠損又は切断児 195 名の内、下肢 139 名(71%)、上肢 56 名(29%)であり、多くは右側(54%)であ
った。また下肢では下腿欠損又は切断 43%、上肢では前腕欠損又は切断 44%であった。
先天性四肢欠損児 75 人の内、5 歳以下 29 名、7~13 歳 46 名であった。この 5 歳以下 29 名の内、1~3 歳 11
名、3~5 歳 18 名であった。
先天性四肢欠損児 75 名の内、縦断型は下肢 16 名、上肢 11 名であり、横断型は下肢 33 名、上肢 15 名であ
った。
義肢装着開始年齢は、下肢の場合 12 ヶ月~15 歳、上肢の場合 5 ヶ月~10 歳であった。7 名は生後 12 ヶ月で
義肢を装着しており、4 名はパッシブハンド式の義手であった。
義肢装着開始年齢が 13~15 歳であった者は 14 名おり、彼らの切断理由は職業性外傷(6 名)、腫瘍(5 名)、
電車事故(2 名)銃創(1 名)であった。
義肢装着後の機能評価の結果、下肢欠損又は切断児の 96%で自立歩行が可能であり、2 名は歩行補助具を必
要とした。
上肢欠損又は切断児は 88%で日常生活が自立し、近位部および両側欠損/切断等の理由により 9 名は自助具
使用により自立可能であった。
考察
国際的な論文と同様に(Kuyper et al.2001;Scotland and Galway 1983)、本研究も四肢欠損又は切断の主要要
因は先天性疾患であった。
本研究では先天性の欠損と後天性の切断の比は 1:2 であったが、他の文献では 2:1 であった。
この後天性の割合が高いということは、就学児童が危険にさらされ、より多くの教育的、経済的な障害児が
いるということである。先天性四肢欠損児は残存肢を使うことで障害を乗り越えようとし、治療や義肢を経験
しないが、将来の計画をもっとしっかりするべきである。
他の研究では先天性四肢欠損について、トルコで未だ習慣として残る近親婚といった家族歴が指摘されてい
る(Sener et al. 1999)。この結果は教育的な公衆衛生計画を立てる上で非常に重要である。
今回の研究では片側下肢欠損又は切断 71%、片側上肢欠損又は切断 29%であったが、上肢欠損又は切断は
下肢より起こる確率が高いと他の研究者達は指摘している(Kuyper et al. 2001;Scotland and Galway 1983)。こ
の研究結果より、下肢を失うと日常生活は困難になり、親は子供の移動手段がなくなるので足をとても気にし
ている。
家族の記録欄からは、義足がなくても、子供たちは自分の膝で這って移動する傾向があった。
片側上肢欠損又は切断児の場合、日常生活は補助なしでほぼ可能であるが、下肢の場合、親は障害克服のた
めより多くの努力を必要としていた。
小児四肢切断の第二の要因は交通事故である。親や地域での健康管理教育の不足、安全で守られるべき公園
やスポーツ施設などの不十分な計画を考えると、驚くことではない。
片側欠損又は切断では後天性の四肢切断が 90%、そのうち下肢切断は 60%であった。後天性の四肢切断で
の男女比は 2:1 である(Bryant and Pandian 2001 年;Vannah et al.1999 年)。本研究では、片側切断 84%、男児
60%であり、おそらく男児は女児より活発であり、怪我をする機会が多いことが原因と考える。
国際的な文献では、片側下肢切断は成人で多いが、多肢障害は先天性四肢欠損の 20%に見られる。これらの
障害は先天性大腿骨短縮症などの先天性によるものと主に考えられる(Bryant and Pandian 2001;Hirons et al.
1991; Kuyper et al. 2001)。筆者の結果では、両側欠損又は切断児 34 名(15%)、三肢欠損又は切断児 3 名(1%)
であった。
もっとも多い切断部位は上下肢それぞれ、前腕切断(44%)
、下腿切断(43%)であり、次に大腿切断(27%)、
上腕切断(23%)が続き、他の文献結果と同様であった(Bryant and Pandian 2001; Kuyper et al. 2001)。
下肢欠損又は切断児の 8 名は歩行補助具を使用しており、96%は自立歩行可能である。上肢欠損又は切断児
の 88%で日常生活活動は自立しており、両側欠損又は切断児の 10 名は自助具を要する。
本研究結果より、リハビリ訓練で機能を改善する際、小児の場合大人と比べ動機付けが容易であるため機能
的に義肢を使いこなせるようになる(Pruitt et al. 1999)。
義肢リハビリテーションに関する文献では、小児の場合いかなる種類の欠損又は切断でも義肢を製作する。
欠損又は切断が多肢や近位部の場合、頭や体幹、残存肢を利用して代償する(Kuyper et al. 2001;Sener et al. 1999)。
しかし、自然に発達する代償運動は日常生活を容易にする。思春期になると装飾用義肢をつけたがり、外観も
踏まえたものでないと義肢装着の受入れが困難になる。このことは彼らが学校や社会に適応する際非常に重要
である。
今回対象となった子供の大半は比較的遅くに義肢を製作しているが、日常生活動作をうまく獲得し、容易に
義肢を受け入れてくれた。
適合の良い義肢でのリハビリテーションが活動的な日常生活を送る上で大切であり、子供にとって最優先
されるべき項目である。
/Transition from sitting to standing after trans-femoral amputation
大腿切断者の座位からの起立動作
HELENA BURGER¹, JERNEJ KUŽELIČKI², & ČRT MARINČEK¹
¹Institute for Rehabilitation, Ljubljana, Slovenia and ²Faculty of Electrical Engineering, Ljubljana, Slovenia
要約
起立動作は重要かつ日常的な動作であり、歩行の前提条件である。高齢者や機能障害者の多くが座位から立
位への遷移すなわち起立動作に問題を持つ。本研究の目的は起立動作特性における大腿切断者と健常者の差異
を同定することである。5名の若年大腿切断者と5名の健常者がこの研究に参加した。起立動作時の身体運動
が Optotrak(非接触光学式システム)により記録され、座への荷重およびモーメントが JR3(6軸ロボット手関節
センサー)により記録された。また床反力が2台の AMTI 床反力計により記録された。大腿切断者は健常者よ
りゆっくり立ち上がっていた。また、切断側の股・膝・足関節角度が非切断側や健常者のそれらと異なってい
た。さらに、荷重量についても切断側と非切断側で大きな差異があった。大腿切断者と健常者の起立動作は異
なると結論づけられる。これらの差異は、多くの高齢切断者が立ち上がり時に直面する問題点の原因を示唆し
得る。
はじめに
米国では高齢者が 200 万人を超え、起立不能は自身の生活を制限するだけでなく介護者の負担も大きくする
ことが問題である。切断者の起立動作に関する基礎研究は見当たらなかったが、機能評価として使用されてい
る。
本研究の目的は、適切な訓練プログラムの開発や起立能力の改善を図るため、起立動作において大腿切断者
と健常者との間に差異があるかどうかを見定めることである。
被験者
大腿切断者5名および健常者5名。切断者は上肢を用いず数回起立できる者とした。全ての切断者は1年以
上の義足使用期間があり、問題なく歩行が可能であった。
表1に被験者属性を示す。大腿切断者は28-51歳。切断後8-33年経過。表2に各被験者の義足の特
徴(ソケット形状・膝継手・足部)を示す。健常者は24-29歳ですべて活動性の高い者であった。
方法
身体運動は Optotrak により記録された。標点は矢状面内における足関節・膝関節・股関節・肩関節の各中心
に付けられた。被験者は膝関節中心高さの90%に設定された自転車シート(サドル)に座った。シート下に
設置された JR3 力センサによりシートに作用する力およびモーメントを計測した。足部は2枚の床反力計上に
置くこととした。
腕は胸の前、足の位置は被験者自身に調節させた。自然かつ快適な速さで、10回ずつ、1~2分ごとに起
立させた。計測項目は次の通りである。
1. シートオフ時間(起立動作が開始されてからシート荷重がなくなるまでの時間)
2. シートオフから起立完了(直立静止)までの時間
3. 起立時間(動作開始から起立完了まで)
4. 両側の股関節・膝関節・足関節角度、および3平面における体幹角度
5. シート荷重および両側床反力
動作開始は床反力前後成分の総和の微分がピークピーク値(最大振幅)の 2.5%を超える時。シートオフの
瞬間はシート荷重が最大値の5%以下になった時とした。静止立位は、床反力垂直成分と体重による床反力と
の差が1%以下になった時とした。
結果
大腿切断者は健常者よりシートオフ-起立時間が長く、全動作時間も長かった(表3)。
シートオフ時に切断者は健常者より大きく両側の股関節と義足膝を伸展させていた。義足足継手の背屈は小
さかった(表4)。一人を除いて切断者は患側股関節が直線状であり、5人中 3 人が義足膝を非切断側より伸
展させていた。義足足継手角度変化は比較的小さかった(表4、図1)。切断者の起立姿勢は非対称であった。
切断者は起立完了までほとんど義足に荷重しなかった(図2)。一人を除く健常者の床反力の左右差は体重
の 10%未満であり、切断者の左右差は体重の 70%を超えていた(表5)
。荷重量が最大値の5%および 95%に
なる時の膝・股角度は切断側・非切断で有意差があり、義足の膝・股角度についても両時刻でそれぞれ有意差
があった(表6)。
切断者はシートオフ時に、より大きく前傾し(表4)、その後、さらに前傾するとともに非切断側へ体幹を
曲げていた(表7)。
図3は股・膝・足関節モーメントを示している。起立動作時にモーメントを発生している義足膝継手はなか
った。
考察
膝屈曲角度や足部の位置を含む初期設定が各研究によって異なる。本研究ではシートの高さと腕の位置のみ
規定した。本研究の健常被験者はほとんどの先行研究の健常被験者と同様の起立時間を示した(表8)。腰痛の
ある被験者を除き、障害者の方が健常者より多くの時間を要した。本研究の切断者の起立時間は、全ての被験
者中、2番目の長さだったが、Kralj ら(1990)の健常者より短かった。本研究の被験者は60歳以下であるが、
Hughes & Schenkman(1996)、Millington ら(1992)、Yoshida ら(1983)の高齢者より時間がかかった。また、シート
オフから起立完了までの時間は切断者が健常者より有意に長かった(表3)。
一人を除き、健常者のシートオフ時の下肢関節角度に有意な左右差はなかった(表4)。また床反力にも差
はなかった(表5)。一方、切断者においては大きな左右差があった。
義足膝継手はモーメントを発生しなかった(図3)。本研究の被験者は筋肉固定縫合 myodesis を行っていな
かったので十分な股関節モーメントを発生できなかった可能性があり、普段から代償動作を獲得していたので
あろう。体幹を深く屈曲すると、膝・足関節角度には影響しないが、膝・股関節伸展モーメントが減少するし、
大殿筋やハムストリングスなど股伸展筋群の活動が増加するが、大腿直筋と内側広筋の共収縮も生じる。大腿
切断では大腿直筋と内側広筋は切断されており、大転子に固着される大殿筋の一部のみが切断されずわずかに
力を発生する。これらより、大腿切断者において、とりわけ二関節筋の myodesis は歩行のみならずその前提で
ある起立動作にとって重要であることがわかる。Hughes らは起立動作の二つの方法、はずみ式起立 momentum
transfer と安定式起立 stabilisation transfer について述べている。はずみ式では急速な体幹の前方移動が膝伸展を
補助する。myodesis していない切断者にとってこの方法は重要であろう。安定式では、臀部前方移動と股屈曲
と足部の後方配置とにより重心位置および支持基底面の関係を変化させることで不安定な時間を減らすよう
にする。膝折れを防止しなければならない大腿切断者にとって安定式もまた重要である。大腿切断者がどちら
の方法も用いていることが本研究からわかる。表4より、シートオフ時に健常者より体幹を屈曲させ股関節も
より大きく屈曲させていた。ただし、足部をより後方に置いてはいなかった。有意ではないが、動作開始から
シートオフまでの時間はやや長かった(表3)。両方の方法を用いることで大腿切断者は膝伸展筋の不足を代
償していた。膝伸展筋は通常、シートオフの瞬間に最も活動する。大腿切断者は義足膝の安定にも気をつけな
ければならなかった。これは、膝がほぼ完全伸展するまで体重の5%を超えて義足に荷重することがなかった
こと(表6)の重要な要素である。95%荷重時の義足膝角度の被験者間の差が小さかったし、膝継手の種類
の影響も見られなかった。しかしながら、膝タイプの影響を論じるためにはさらに多くの被験者で計測する必
要がある。そして起立動作中の種々の筋の筋電位を計測することも大切である。
本研究では被験者の数が少ない上、健常者と大腿切断者の年齢差もあった。また、重要な付加情報となる筋
電図も採取しなかった。しかし、そのような制限の下にも次のように結論づけられる。大腿切断者の起立動作
は対称的ではなかった。すなわち、義足膝継手がほぼ完全伸展してから切断側に荷重し始める、また、健常者
よりゆっくり立ち上がる。このことは大腿切断者は起立動作に大きな問題を抱えている可能性を示している。
血行障害による大腿切断で歩行に問題がある高齢者は、起立動作において本研究の被験者よりさらに困難を伴
うと推測される。起立不能は日常生活を強く制限するほか介護者に大きな負担を強いることになる。義肢士/
技術者はさらに努力し、大腿切断者がよりたやすく立ち上がることのできる義足膝継手を開発すべきである。
/Socket versus bone-anchored trans-femoral prostheses: Hip range of motion and
sitting comfort
ソケット型と骨直結型大腿義足との比較;股関節可動域と座位時の快適性
K.HAGBERG¹,²,E.HÄGGSTRÖM²,M.UDEN³,& R.BR NEMARK¹
¹ Department of Orthopaedics and ² Department of Prosthetics and Orthotics,Sahlgrenska University Hospital,
Göteborg,Sweden,and ³Roehampton Rehabilitation Centre, Queen Mary’s Hospital,London,UK
目的
本論文はソケット型大腿義足の装着時、非装着時および骨直結型大腿義足(osseointegrated bone-anchored
prosthesis)により訓練が行われた者との比較が行われた最初の研究報告である。さらに、義足を着けて座っ
た際の不快感についても両方のグループで検討した。対象は、血管疾患による切断を除き、片側切断であり、
少なくとも 2 年間は義足を使用していること、20 から 70 歳、少なくとも 100m は義足を使用して歩けること
などとした。ソケット型義足のユーザーはスウェーデンにある4つの義肢装具製作所から集められ、骨直結型
義足のユーザーはスウェーデンまたは英国で 1999 年 3 月以降に手術を受けたものとした。
研究方法
対象者を、ソケット型義足を装着しているグループ(S グループ)(n=43,平均年齢 51 歳、74%男性)と骨
直結型義足を装着しているグループ(OI グループ)
(n=20,平均年齢 46 歳,71%男性)に分けて評価を行った。
ゴニオメーターにより自動的股関節 ROM を計測し、座位時の不快感についてのアンケートを行った。自動的
股関節の可動域の計測は AAOS 法に従って行われ、両側股関節についての計測を行った。切断側の義足装着
時を最初に計測し、その後義足を外して計測を行った。スウェーデンから一人、イギリスから一人の良く訓練
された理学療法士により、同じ標準化されたプロトコールに基づいて計測を実施した。
アンケート調査は、普段の義足の使用状況と座位時の不快感について Hagberg らによる大腿切断者質問票
(Q-TFA)を利用して行った。座位時の不快感については、過去 4 週間での義足を装着して座った際に不快感
を感じたかどうかを 5 段階の Likert scale を用いての評価を行った。
S グループと OI グループの変数の比較は、連続型変数については Mann-Whitney U-test を、2 分変数につい
ては Fisher’s exact test にて統計的解析を行った。
結果および考察
ソケットの装着時には、非装着時に比べて、全ての方向において股関節の関節運動は減少した(P<0.001 前
運動方向)そして、被験者の 37%は義足装着時の股関節屈曲の可動域は 90%以下であった。座位時の不快感
は S グループにおいて 44%(n=19)より報告され、股関節の屈曲可動域が 90°以下の場合においてはより顕
著であった(P=0.025)。OI グループにおいて、義足の装着による可動域の制限は見られず、90 以下の股関節
屈曲可動域の者は見られなかった。座位では、5%(n=1)の者が不快感を訴えた。本研究により、ソケット型
大腿義足は明らかに股関節の関節可動域を減らし、座位時の不快感をもたらしているといえる。さらには、骨
直結型義足を装着している者には、股関節の関節可動域の制限は見られず、座位時の不快感もまれであること
が判った。
/Sand-casting technique for trans-tibial prostheses
下腿義足におけるサンドキャスティング(砂粒を用いた採型)方法
J.STEEN JENSEN, P.A.POETSMA, &N.H.THANH
ISPO, Copenhagen, Denmark
要約
下腿義足ソケットのためにサンドキャスティング(砂粒を用いた採型)を用いた顆上ソケットを 28 人の下
腿切断者に適用し、従来の石膏ギプスを用いた採型方法より良好な評価を得ることができたことを報告してい
る。
サンドキャスティングの方法について記す。まず断端に断端袋を履かせる。その際に過敏な箇所に、圧除去
のためのリリーフを取り付ける<図 1-(a)>。そしてナイロンストッキングとビニール袋を被せる。その際に顆上
ブリムを取り付ける<図 1-(b)>。顆上ブリムはテープで取り付ける<図 1-(c)>。断端をシリカ砂粒で流動化され
ている容器に入れて、真空状態にする。<図 2-(a)>。薄いナイロン袋を容器の上から被せ密閉する。そしてブリ
ムを残して断端を外す。それが陰性モデルの内側となる<図 2-(b)>。
(陽性モデルの材料を入れた後に)容器内
の真空状態を解除し、ブリムが付着された状態の陽性モデルを取り外す<図 2-(c)>。
上記の陽性モデルから透明なプラスチックで作製されたチェックソケットとトライアルソケットを用いて
フィッティングチェックを行う。その際のソケット装着は 3 枚(2~5 枚)の断端袋を用いて装着する。
ブリムを用いたサンドキャスティングは生体力学とインターフェース組織についての知識を持ち、訓練と教
育された義肢装具士の注意を必要とする。ソケット作製の前に、いくつかの若干の修正も行わなければなりま
せん。
結論としては、従来の石膏ギプスに替わる採型方法を経験しましたが、義肢装具士にとって完全な代替には
なるものではない。しかし正しい方法であれば、一貫した良好な適合になる可能性がある。また製作時間の 1
時間未満になる可能性がある。しかし真空装置を使用することによる電気コスト的なこともある。
/Are Canadian prostheses used? A long-term experience
カナディアン義足は装着されているか?
A.FERNÁNDEZ&J.FORMIGO
Unidad dePrótesis,Servicio de Medicina Fisicay Rehabilitación,Hospital Universitario Central de
Asturias,Oviedo,Spain
カナディアン義足は 1954 年にカナダの ColinMcLauren によって考案され、後にアメリカの JamesFoort によ
って改良された。この義足は片側骨盤切除、股関節離断、大腿切断極短断端に用いられる。このソケットは前
方で骨盤を締め付けるため、注意深くモールドする必要がある。機械的股関節軸は、生理的股関節軸よりも前
下方に位置し、膝継手は後方で安定位に組まれる。
リハビリテーションの分野において下肢義足の機能評価はいくつかあげられているが、股関節離断における
明確な機能評価はない。この報告では、16 年間で切断者がカナディアン義足を使用したか否かの分析を行う。
サンプルは 1987 年 1 月から 2002 年 12 月までに AsturiasCentralHospital の義肢班によって処置された切断者
から得た。16 年間に 1433 名の下肢切断があり、その内 23 名がカナディアン義足となった。
研究では性別、年齢、切断原因、切断レベル、切断者と義肢適合の遅延、義肢装着における自立、家事や地
域活動、義肢の受け入れ、の項目による変化を調査した。全ての切断者に対し、リハビリテーション終了から
少なくとも 1 年間評価をいった。変化は SPSS8.0 データベースによって示し、義肢を受け入れた切断者と受け
入れなかった切断者を比較する。質的変化の比較は Mann-Whitney テストを用いた。
切断者は 12 名が男性、11 名が女性で、切断時の年齢は 52.26±19.71SDyear であった。切断レベルは片側骨盤切
除が 2 例、股関節離断が 20 例、極短断端大腿切断が 5 例であった。切断原因は 13 例が腫瘍、5 例が感染、4
例が外傷、1 例が先天性欠損であった。
カナディアン義足は切断から 16.5±9.45SDweeks に装着された。それぞれの義足の特徴は表 1 に示す。
研究段階では 8 名が義足を装着し、1 日に平均 12.5 時間の使用であった。義足を使用した切断者の年齢は装
着をしなかった切断者より多少若かったが、統計上重要な相違があるとは言えない。性別は義肢の装着には関
係がなかった。切断原因と義肢装着の関係は表 2 に示す。
年齢、性別、切断原因、切断レベル、全身状態などが義肢の受け入れに大きく影響することは既に知られて
いる。カナディアン義足は高齢者には受け入れにくいとする研究があるが、本研究でも装着者は未装着者より
若干若い傾向が見られた。切断原因は義肢受け入れに大きく影響する。過去の研究は、腫瘍によって切断した
場合、義肢の受け入れが他と比較して良好であるとしている。義肢を装着して訓練することで、腫瘍と戦うモ
チベーションを得ることが出来るのではないかと推測される。また義肢の訓練を行うことは、全身状態の改善
にも繋がる。
カナディアン義足の歩行は腰椎周辺の筋を使用するため、しばしば腰痛を引き起こす。その上ソケットの適
合や懸垂が難しいため立脚相で不安定感が生じ、装着者が不安になる。適合の悪さは義肢の受け入れを悪くす
る大きな原因である。また、切断が近位であるほどエネルギー消費が上がり、カナディアン義足の歩行では 80
から 250%までエネルギー消費があがるとされる。これも義肢の受け入れが悪い原因の一つである。
義肢の使用に関する明確な評価の定義はなされていない。また、下腿義足や大腿義足に関する研究は多くさ
れているが、カナディアン義足の装着者を長期に渡って研究した例はほとんどない。Menagar らは 1996 年に
118 例のカナディアン義足装着者の研究を行ったが、その後 118 名が義肢を受け入れたか否かは不明だ。Denes
と Till は 61 例のうち 43%が使用したとし、Unruh らは 38 例中誰も装着しなかったとしている。Davies と Datta
に至っては、
切断レベルが近位で年齢が高齢になると、義肢を装着してから 1 年で活動度が下がるとしている。
本研究では、3 分の 1 以上にあたる 34,7%の切断者がカナディアン義足の装着を続ける事を選んでいる。
/Trans-femoral amputee gait : Socket-pelvis constraints and compensation strategies
大腿切断者の歩行 : ソケット-骨盤の制限要因と代償戦略
M.RABUFFETTI,M.RECALCATI, &M.FERRARIN
Centro di Bioingegneria FDG, Fondazione Don Carlo Gnocchi IRCCS, Milan, Italy
この論文は大腿切断者が自身の適応によって獲得した運動(歩行)の戦略を明らかにすることを目的として
いる。その適応とは、ソケットと骨盤(部分的には坐骨結節)との間の接触面によって引き起こされる股関節
の運動制限への代償として獲得された運動パターンである。
大腿切断者である 11 人の被験者(そのうちの 2 人は 2 つの異なった義肢を装着している)が 14 例のサンプ
ルを提供してくれた。そして、それらは歩行分析のプロトコルに沿って研究された。この論文では、足部接地
時の骨盤-大腿の運動力学に焦点をあてて分析がなされている。
分析の結果、義足側(患側)では股関節の運動において、同側、反対側のそれぞれの足部接地において、顕
著に屈曲が少なく、また伸展も少ないことがわかった。さらに、健側の足部接地において、骨盤の前傾は有意
に大きかった。また、14 例中の 12 例において、健側を前とした歩幅が減少していることが示された。
著者らはこれらの結果を機械的な運動制限と代償動作の複合による結果であると解釈している。それは、以
下のようなものである。義足側の股関節伸展の減少は、ソケットと骨盤接触面の機械的制限によって引起され
ていることが特定された。そして骨盤の前傾の増大と健側の股関節屈曲の増大は同時に起こっており、これは
切断者の適応による、代償戦略によって引き起されていることが分かった。その目的は機能的に歩幅を増大さ
せ、大腿の運動を対称的にすることにある。
それらの要素は、機能的でかつ、正常歩行よりもわずかに遅いだけの、そして左右の非対称性に気づかれに
くい歩行パターンを形成することに寄与している。その一方で著者らは、骨盤前傾の増加が脊柱、とりわけ腰
部に大きな負担を強いていることも発見した。それらは、機能的な歩行パターンを獲得した代わりに、切断者
が頻繁に腰痛を起こすことにも関連している可能性がある。
/Removable rigid dressings versus soft dressings: a randomized, controlled study with
dysvascular, trans-tibial amputees
着脱可能なリジットドレッシングとソフトドレッシングの比較
~血管原性下腿切断者に対するランダム化比較研究~
ANNKE DEUTSCH, ROWAN D.ENGLISH, TAMMY C.VERMEER, PAMELA S. MURRAY, and
MICHAEL CONDOUS
Ballarat Health Services ,Ballarat, Australia
本研究では,50 名の血管原性下腿切断者を対象として,ランダム化比較研究手法を用いて,標準的なソフト
ドレッシング(SSD)と,着脱可能なリジットドレッシング(RRD)の比較を行なった。
いずれのドレッシング方法も切断術直後に実施し,取り外しは,傷んだドレッシングの交換のときのみ行なっ
た。くじを用いて,被験者を RRD グループと SSD グループに振り分けた。
結果,RRD を行なった群は,SSD 群よりも約 2 週間早い断端の創治癒が認められた。すなわち,RRD=
51.2±19.4 日(n=17),SSD=64.7±29.5 日(n=14),危険率 7%であった。これは Vigier ら(1999)による報
告を支持する結果となった。すなわち,RRD にシリコーンスリーブを併用した群の創治癒期間 71.2 日,対照
標準群で 96.8 日であった。Vigier らの研究と本研究では,RRD の創治癒期間に違いを生じた。これは,Vigier
らの研究では,RRD 群にシリコーンスリーブが併用されていること,1 日最大 5 時間しか装着していないこと,
および切断術直後からの装着ではないことから,これらの違いのどこかに,創治癒速度が全体としては緩やか
になった原因があるかもしれない。Wu ら(1979)は,RRD 群は SSD 群より創治癒期間が大幅に短縮したと報
告している。すなわち,RRD=46.2 日,SSD=109.5 日であった。しかし,彼らの創治癒の定義は,最初の義
肢が要求された時としており,創治癒期間を正確には反映していない可能性がある。
本研究では,他の計測項目(義足装着までの期間,入院期間,断端形成失敗の発生率,断端容積の安定にか
かる期間)においては,RRD と SSD との間に有意な差は認められなかった。
今後,より大きな母集団に対して統計的な検証の継続は必要であるが,RRD の明確な成功により,本研究の
くじ引きで残った半数の切断者にも RRD を実施してゆくべきだと思われる。
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