B 型肝炎の基本(110309)

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B 型肝炎の基本(110309)
普通に仕事をしていたら、避けて通れない疾患。基本は押さえておく必要がある。ガイドラインを
中心に復習。知識の整理をしておく。
基本

わが国では B 型肝炎ウイルス保有者(キャリア)は約 130~150 万人いるが、その多くは非活
動性の無症候性キャリアで、病変が進行して肝硬変・肝細胞癌に至るのはその約 1 割。

活動性の慢性肝炎は、長期間を経て肝硬変になり、肝細胞癌発生に至る可能性が高い。

HBV 持続感染の感染経路は、垂直感染(母児感染)と幼少時の水平感染に大別される。

成人の B 型肝炎ウイルス初感染では、通常は急性肝炎となりウイルスを排除して治癒する。

思春期以降に HBV に感染すると、多くの場合一過性感染で終わります。感染の原因のほと
んどは HBV 慢性感染者との性的接触によるものと考えられており、この他、十分に消毒して
いない器具を使った医療行為、入れ墨、ピアスの穴開け、カミソリや歯ブラシの共用、麻薬・
覚醒剤使用時の注射器の回しうちの際、HBV 持続感染者の血液が付着したままで次の人が
使用すると感染の可能性があります。HBV 感染後、一過性の急性肝炎を起こすことがしばし
ばありますが、その後大部分の人では HBV は排除され、慢性化しません。また HBV に感染
しながらも、急性肝炎の症状が出現せず、気づかないうちに HBV が排除される人も少なくあ
りません。3)

従来は健康な人に発症した急性 B 型肝炎は慢性化しないといわれてきましたが、近年ジェノ
タイプ A 型と呼ばれる、欧米型やアジア・アフリカ型といった外来種の HBV に感染すると比較
的高率に慢性化を起こすことも知られています。3)

(急性肝炎の場合)一般に数週間で肝炎は極期を過ぎ、回復過程に入ります。発症時には後
述の HBs 抗原、HBe 抗原が陽性ですが、1-2 ヶ月で HBs 抗原、HBe 抗原は陰性化し、その
後 HBe 抗体、HBs 抗体が順次出現します。3)

出産時あるいは幼少時までの感染では慢性肝炎に移行し、慢性肝炎から肝硬変への進展、
さらには肝癌発症の原因となりうる。

幼少期に垂直感染で HBV 持続感染が成立すると、90%以上が肝機能正常で高ウイルス状
態の HBe 抗原陽性無症候性キャリアとなる。

HBe 抗原は HBV の増殖に伴い HBV 粒子とは別に、可溶性蛋白として分泌される。(HBs抗
原はウイルスの外被蛋白。HBc抗原は血中では HBs抗原に覆われており、遊離の状態では
存在しない。HBc抗体は一般的には、低力価の場合は既往あるいは急性の感染、高力価の
場合は持続感染を意味する。)
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成長するに従い、HBV に対する免疫応答が完成化し、肝炎が発症する。HBV 感染肝細胞が
排除され、HBV DNA 量が減少する。

成人期までに 85~90%は HBe 抗原から HBe 抗体に変化し(セロコンバージョン)、HBe 抗体
陽性無症候性キャリアへ移行する。

一般に 10-30 才代に一過性に強い肝炎を起こし、HBV は HBe 抗原陽性の増殖性の高いウ
イルスから HBe 抗体陽性の比較的おとなしいウイルスに変化します。HBe 抗体陽性となった
後は、多くの場合そのまま生涯強い肝炎を発症しません。このように思春期以降一過性の肝
炎を起こした後はそのまま一生肝機能が安定したままの人がおよそ 80-90%、残りの
10-20%の人は慢性肝炎へと移行し、その中から肝硬変、肝臓癌になる人も出てきます。3)

活動性慢性肝炎における HBe 抗原から HBe 抗体へのセロコンバージョン率は、平均 5~
10%と報告されている。慢性肝炎における HBe 抗原から HBe 抗体へのセロコンバージョンは
年率 0.5~1%認められる。

B 型慢性肝炎では、ALT の上昇後に HBe セロコンバージョンが生じやすい。ALT 値の上昇は
予後不良の徴候だけでなく、その後 HBe セロコンバージョンをきたせば肝炎が鎮静化する予
後良好の徴候でもある。

自然経過でセロコンバージョンを来しにくく、進行する可能性が高い例は、①30 歳以上で肝
組織所見が F2/A2 以上、②HBV DNA 高値(107copies/mL 以上)、③肝硬変、④男性、⑤飲
酒など。

HBs抗原の消失を示す症例は一般に予後良好であるが、既に肝硬変・肝癌へ進展している
例もあるため、HBs抗原消失後も経過観察する必要がある。

長期間炎症が持続したら慢性肝炎では肝繊維化が進行し、年率 2%で肝硬変に進展する。
無症候性キャリアからの肝硬変進展率は年率 1%以下と報告されている。

肝癌の発生率は、無症候性キャリアでは年率 0.1~0.4%、慢性肝炎では 0.5~0.8%、肝硬変
では 1.2~8.1%(平均約 3%)と報告されている。

B 型慢性肝炎では、ウイルス量が 105copies/mL 以上となると、ALT 上昇を伴う肝炎の活動
性が見られ、肝発癌リスクも増大する。

B 型慢性肝炎では、必ずしも肝硬変を経ないで、軽度の肝障害から肝細胞癌の発生を来す
ことがあるので(HBV 遺伝子組み込みなどが原因)、肝発癌の高リスク群の設定がやや困
難。

ウイルスそのものの発癌ポテンシャルは HBV が HCV よりも高い。

無症候性キャリアからも肝癌の発生を認めることから、B 型肝炎の臨床的治癒の判断は困
難。臨床的には、HBV キャリアでは若年者でほぼ正常の肝臓からも肝癌が発症することがあ
る。

C 型肝炎に比べて多様性があり症例により経過が大きく異なる。

HBV の夫婦間感染:結婚後数年以上たち、これまで急性肝炎のなかった夫婦では、過度に
神経質になる必要は無く、配偶者の HBs抗体の検査を行い、陰性であれば HB ワクチンを接
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種する。

HBs抗原陽性血による医療事故時の対策:事故後 48 時間以内に HB 免疫グロブリン 1000
単位を投与し、HB ワクチンを追加投与する。
図 3 HBV キャリアにおける抗原・抗体出現時期の推移
(参考文献 3 より引用)
検査/診断

健診、献血、肝機能異常の精密検査などを契機に HBs抗原陽性であることが判明した場合、
以下の事項を確認する。
① 病歴聴取(特に家族歴、飲酒歴)
② 一般肝機能検査、CBC、プロトロンビン時間
③ HBV DNA 量
④ HBs 抗原、HBe 抗原、HBe 抗体
⑤ 腹部超音波と腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-Ⅱなど)

B 型慢性肝炎の外来経過観察
1.
HBe 抗原陽性または HBV DNA 量>105copies/mL の場合
①
ALT 正常であれば、HBe 抗原陽性無症候性キャリアとして、3~6 ヵ月ごとに定期検
査を施行する。
2.
②
ALT 異常であれば 1~3 ヵ月ごとに定期検査を行う。
③
ALT 変動が 6 ヵ月以上続けば慢性肝炎と診断し、肝組織検査を考慮する。
HBe 抗原陰性または HBV DNA 量≦105copies/mL の場合
①
ALT 値の変動が持続し、HBV DNA 陽性(プレコア変異ウイルス陽性)の慢性肝炎
状態であれば肝組織検査を考慮する。
②
ALT 正常が持続すれば、HBe 抗体陽性無症候性キャリアのことが多く、6~12 ヵ月
毎に定期検査を施行する。
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定期検査のポイント
① 一般肝機能検査に加え、CBC、プロトロンビン時間、ウイルスマーカー、腫瘍マーカーを
適宜追加する。
② 腹部エコーなどの画像検査も年 2~4 回は必要である。年 1~2 回、造影 CT や MRI 検
査を併用する。

慢性肝炎から肝硬変進展のポイント
① 慢性肝炎では AST<ALT であるが、肝硬変では AST>ALT と逆転することが多い。
② 血清アルブミン、コリンエステラーゼ、総コレステロールは肝硬変では低下する。
③ 繊維化マーカーであるⅣ型コラーゲン、血清ヒアルロン酸は肝硬変では上昇する。
④ 血小板数も C 型慢性肝炎ほどの相関を認めないが、肝硬変では低下(10 万~13 万/μ
L 以下)を示すことが多い。
予防

HB ワクチンは通常は、初回、1 ヵ月後、6 ヵ月後の 3 回投与を行う。2 回のワクチン接種で約
半数に HBs抗体陽転化を認めるが、その抗体価は低い。3 回目接種のブースター効果で、
より高い HBs抗体価が得られる。(3 回接種した場合、接種者の 91~96%において HBs抗体
の陽転化が得られる。)
治療

HBV キャリアの診療では、患者が治療対象になるかどうかを決定することが重要である。

我が国では、e 抗原陽性例が悪化し、e 抗原陰性例は悪化しないと考えられ、治療の目標が
e 抗原から e 抗体へのセロコンバージョンのみが考えられてきたが、こうした中で、世界は核
酸アナログの時代に突入した。核酸アナログの時代になると、e 抗原 e 抗体ではなく、
HBV-DNA の陰性化が治療のマーカーとなり、今後こうした HBV-DNA を中心とした治療が主
流になると考えられる。2)

治療の対象は、肝炎が発症し長期間経過した症例であり、自然経過の中で対症症例がどの
段階にあるか慎重に判断する。自然経過で病態がさらに進行する可能性が高い症例を治療
対象にする。

アジア太平洋地域における消化器肝臓疾患の予防と治療に関するコンセンサス(2000 年)に
おいて、抗ウイルス療法は ALT が正常値の 2 倍以上を対象とし、2~5 倍の場合は、IFN ま
たはラミブジン投与を、5 倍以上の患者は急性増悪とともに肝不全に陥る可能性があるため、
IFN ではなくラミブジン(ゼフィックス®)投与を勧めている。エンテカビル(バラクルード®)が認
可された現状ではラミブジンよりもエンテカビルしようが好ましい。

正常上限の 1.5 倍以上が 2 ヵ月以上持続すれば、IFN または核酸アナログでの治療が勧めら
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れている。

治療の目標はウイルスの増殖低下に伴う肝炎の鎮静化である。すなわち、HBV DNA の検出
感度以下への低下、血清 ALT 値の正常化である。さらに、HBe 抗原陽性例では、HBe 抗原
陽性から HBe 抗体陽性へのセロコンバージョンが必要である。

B 型慢性肝炎では、治療により B 型肝炎ウイルスを排除することは困難で、HBe 抗原を陰性
化させたり、HBV DNA を 105copies/mL 未満(HBe 抗原陰性例では 104copies/mL 未満)に
安定化させたりすることで肝炎を鎮静化させることが目的となる。

HBV のウイルス量が多くても、ALT が正常の症例では治療は不要であるが、経過観察を要
する。

長期にわたり、ALT 値変動を繰り返す症例では治療を考慮する。

B 型肝炎患者に対する治療の考え方は、年齢によって大きく異なる。

35 歳未満では自然経過でのセロコンバージョンが期待できること、若年であるために妊
娠などへの影響を考慮する必要があること。さらには核酸アナログ長期投与による耐性
株出現の問題などを考慮して、ステロイドリバウンド療法、インターフェロン療法などを
行う。急性増悪などで肝予備能力が低下した例や、重症あるいは劇症肝炎では短期的
な抗ウイルス療法を行う。35 歳未満で、HBe 抗原が陰性なら現在の時点での高度の
ALT 上昇などが無ければ経過観察でよい。

一方、自然経過での予備能力が期待できない 35 歳以上の患者では、積極的に核酸ア
ナログの投与を行い(ことに肝硬変の早期進展が危惧される場合は核酸アナログの適
応)、ALT 正常化、HBV DNA の検出感度以下を目指し、肝硬変、肝癌への進展阻止を
図っていく。さらに、核酸アナログ長期投与では高頻度に耐性株が出現し、肝炎が再燃
する例が多いが、現在ではアデホビルを併用することによって多くの例で再度 ALT、
HBV DNA の抑制を図ることができる。(厚生省班会議で平成 18 年に出されたガイドライ
ンによると)35 歳以上、HBV DNA 量が 7LGE/mL(107copies/mL)のレベル、HBe 抗原陽
性の有無でそれぞれ分類して治療方針が出されている。
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(参考文献 2 より引用)

B 型慢性肝炎に対しては、ウイルス量を抑制する治療が有効で、核酸アナログ製剤を長期に
使用するかインターフェロンを使用する。

現在、わが国では B 型慢性肝炎に対する抗ウイルス薬としてインターフェロンとラミブジン(ゼ
フィックス®)、アデホビル(ヘプセラ®)、エンテカビル(バラクルード®)の 4 剤が使用可能。

HBV を抑制するための治療法としては、インターフェロン長期療法、核酸アナログ(エンテカ
ビルなど)長期投与がある。インターフェロンは抗ウイルス作用がやや弱く、発熱などの副作
用を伴う注射薬であるが、耐性化は起こらない。

海外のランダム化した比較対象試験では、IFN 投与群で HBe 抗原の陰性化は 33%、HBV
DNA 陰性化は 37%であり、対照群ではそれぞれ 12%と 17%であった。
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IFN によって HBe セロコンバージョンが生じた場合、88%の症例においてセロコンバージョン
が持続する。

初回の IFN 治療が無効でも、2 回目の IFN 治療を行うと、肝機能の正常化や HBV DNA およ
び HBe 抗原の陰性化を効率に生じる。

IFN 投与による HBe 抗原の陰性化は生命予後の改善につながっている。また、肝細胞癌の
発症率は 17%で、未投与の 31%に比べて低値である。

ALT 値の正常な HBV 無症候性キャリアは IFN 治療の対象外である。

ChildB、C の非代償性肝硬変への IFN 投与は、肝不全の悪化も報告されており、IFN 投与を
投与するべきではない。

ALT 値が正常範囲内にある無症候性キャリアは治療効果が悪く、(核酸アナログ製剤の)適
応外である。正常上限の 5 倍以上なら、肝機能の急速な悪化を防止する治療が必要である。

正常上限の 1.5 倍で、肝組織の繊維化の程度が F2~F3 の場合は核酸アナログの適応。

核酸アナログの効果は 2~3 週目以降に現れる。

ラミブジンは副作用の少ない内服薬で、抗ウイルス効果も強いが高率に薬剤に対する耐性
化が起こる。

エンテカビルは空腹時に投与することが必要である。

グリチルリチンを主成分とした:強力ネオミノファーゲン C®:SNMC は ALT の低値安定化をも
たらす。B 型肝炎に対する治療効果の報告は少なく、一定の見解を得られていない(C 型慢
性肝炎例では、ALT の低値安定化、肝硬変・肝癌の抑制がもたらされるとの報告がある)。

ウルソデオキシコール酸:UDCA の B 型肝炎に対する効果としては、急性肝炎の遷延する高
度黄疸例に対してその有効性が報告されている。原発性胆汁性肝硬変、C 型肝炎をはじめと
する慢性肝疾患の治療に有効であると報告されている。

ALT が低値を持続する例では小柴胡湯を投与する。

興味深いことに、核酸アナログ治療では中止すれば多くの例で再燃するが、ペグインターフェ
ロンを単独または併用すると治療終了後でもその効果が持続する例が多く認められると言う
結果がでており、今後これらの薬剤の保険収載が期待される。
参考文献
1.
日本肝臓学会.慢性肝炎の治療ガイド 2008.東京,文光堂,2007.
2.
熊田博光.わが国の B 型肝炎のガイドラインを解釈する.肝胆膵, 60(2) : 157-163, 2010.
3.
独立行政法人国立国際医療研究センター肝炎情報センターホームページ
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