図書館政策フォーラム 「電子書籍時代の図書館―次世代の文化創造に向けて

図書館政策フォーラム
「電子書籍時代の図書館―次世代の文化創造に向けて」
開催趣旨:
2010 年は「電子書籍元年」と言われ、iPad など各種デバイスの発売が話題になった。そ
して 2011 年は新潮社が新刊発売から半年後に全点電子書籍化すると発表するなど、出版界
における電子書籍の販売がいよいよ本格化しつつあると言えよう。
ところで日本の図書館における電子資料の取り扱いは館種によって大きな違いがある。
大学図書館や学術系専門図書館においては 1990 年代の電子ジャーナル出現以降、所蔵か
ら利用へと図書館資料の定義が大きく変化した。したがってその延長線上に洋書の eBook
の契約があり、国内の出版コンテンツについては「JapanKnowlege」がこの領域を切り拓
き、2007 年から「NetLibrary」に和書コンテンツが搭載されるようになってからは国内で
刊行された電子書籍の利用が注目されるようになった。
また公共図書館においては、2002 年から館内の特定端末で電子書籍が閲覧できるサービ
ス、2005 年から電子書籍専用端末を貸し出すサービスなどが開始され、2007 年には「千代
田 Web 図書館」によって非来館型の電子書籍貸出サービスが行われるようになった。さら
に 2011 年に大日本印刷・CHI グループによる電子図書館支援サービスを導入した堺市立中
央図書館の電子書籍貸出業務がスタートし、新たな展開を迎えることになった。
学校図書館では電子黒板を授業で活用するなどの教師用デジタル教科書の導入事例が相
次ぎ、生徒一人ひとりがデバイスを持つデジタル教科書時代が現実味を帯びてくる中で教
科と図書館を結び付ける新たな手法の開発が課題となっている。
一方、国立国会図書館では「近代デジタルライブラリー」
「デジタル化資料(貴重書等)
」
「インターネット資料収集保存事業(Web Archiving Project)
」「デジタルアーカイブポー
タル(PORTA)」「国立国会図書館サーチ」といった電子図書館事業を従来から行っている
が、2009 年からの所蔵資料大規模デジタル化(約 100 万点、うちインターネット公開は約
25 万点)、2010 年の「電子納本制度」導入の納本制度審議会答申などによって、デジタル
時代における国内の出版コンテンツの収集・利用・保存について中心的役割を担っている。
図書館政策的な側面から見ると、2010 年 12 月に始まった文化庁「電子書籍の流通と利
用の円滑化に関する検討会議」では、2011 年 4 月に国立国会図書館の所蔵資料について公
共図書館・大学図書館への公衆送信の権利制限を一定の条件下(①閲覧のみ、②プリント
アウトを認めない、③出版物の所蔵冊数を超える複数者の同時閲覧は不可)で認めること
で著作権者・出版者などの関係者で合意するに至った。送信サービスの対象出版物の範囲
として、
「基本的には相当期間重版していないなど、市場における入手が困難な出版物等」
とされている。
またほぼ同時期に開催されていた内閣府「知財戦略会議コンテンツ強化専門調査会」の
結論を受けてまとめられた「知財戦略推進計画 2011」では、
「我が国の知的インフラ整備の
観点から、国立国会図書館が有する過去の紙媒体の出版物のデジタル・アーカイブの活用
を推進する。具体的には、民間ビジネスへの圧迫を避けつつ、公立図書館による館内閲覧
や、インターネットを通じた外部への提供を進めるため、関係者の合意によるルール設定
といった取組を支援する。(短期)(文部科学省、経済産業省、総務省)」と明記されたのであ
る。
つまり、出版産業における紙から電子書籍への動向が確実に存在し、図書館界では館種
による取り組みの濃淡はあるものの、今後、電子書籍を図書館資料としていかざるを得な
い不可逆的な流れがあり、電子書籍をめぐる出版界と図書館界の利害調整が喫緊の課題と
なっているということである。
さらに電子書籍をどのように使いこなすかという次世代の文化創造の視点も重要である。
従来の紙媒体の資料とは異なる電子資料の特性を生かしたレファレンスサービスなど、図
書館のこれまでの在り方を変える側面を電子書籍それ自体が持っていると言えよう。
「図書館総合展フォーラム 2011」では、角川歴彦・角川グループホールディングス取締
役会長と田中久徳・国立国会図書館電子情報企画課長による出版界、図書館界からの基調
講演を受けて、文化庁、総務省の取り組み、そして大学図書館と公共図書館現場から電子
書籍サービスの実践例のご報告をお願いし、論点を整理した上で、
「図書館における実践的
電子書籍活用法」をテーマにパネルディスカッションを行う予定である。
次世代の文化創造に図書館がいかにかかわっていくべきなのか。当日のディスカッショ
ンにぜひ積極的に参加していただきたい。
(文責:湯浅俊彦)