シャンゼリゼ委員会について

海外調査依頼内容
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回答日:平成 24 年 12 月 21 日
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依頼者名:大阪市支部
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調査依頼事項:シャンゼリゼ委員会について
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調査対象国又は対象地域等:フランス
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調査の趣旨(調査結果の利用目的・時期を含め具体的に):
現在、業務地区である御堂筋の淀屋橋~本町間へ、新たに商業や飲食等のにぎわい機
能の導入を検討している。本地区はイチョウ並木や景観など良好な都市環境を有してお
り、また大阪を代表する企業が集積する地域である。今後は、大阪の顔である本エリア
にふさわしい上質なにぎわい機能を導入したいと考えている。
このような中、本エリアにふさわしいにぎわい機能の誘導に関して、都市計画手法や
エリアマネジメント(テナント審査等)の方策について検討を行っている。
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調査内容
パリのシャンゼリゼでは、シャンゼリゼ委員会という組織があり、シャンゼリゼ通り
に出店するテナントに対して審査を行っていると聞いている。具体事例としては、数年
前H&Mに対して、委員会が出店拒否をしている。しかしその後、出店許可をせざるを
えなくなった様子である。このような中、以下の点について調査を依頼したい。
【参考記事】http://plaza.rakuten.co.jp/soreiu3/10007/
【調査依頼事項】
①シャンゼリゼへの出店にあたっての同委員会の影響力
・出店にあたっての委員会の権力はどの程度なのか
・法的な権限を持っているのか
②委員会に関して
・公的な権限を持った組織なのか、あくまで民間組織なのか
・委員会メンバーはどのようなメンバーなのか、また行政職員は入っているのか
③出店審査に関して
・どのような審査基準を持って、出店企業を評価しているのか
・出店に関して、どのようなフローで審査を行っているのか
(企業の出店情報が事前に委員会に入ってくる仕組みとなっているのか、法的に事
前に申請しなければならないルールとなっているのか等)
④出店拒否に関して
・H&Mは結局、出店許可せざるを得なくなったようだが、どのような経緯があった
のか
・他にも出店拒否をしている事案が結構あるのか(あれば理由や拒否した結果等につ
いて教えていただきたい)
⑤その他
・その他、委員会の活動について資料があればいただきたい
CLAIR パリ事務所
シャンゼリゼ委員会に関する調査
2012 年 12 月 14 日
シャンゼリゼ委員会に関する調査の回答
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調査内容の概要
H&Mのシャンゼリゼ通りへの出店の不許可とその後の許可については、依頼があった
「シャンゼリゼ委員会」ではなく、
「商業施設県委員会」La Commission
départementale d’équipement commercial (以下、CDECとする。)がその許可審査
を実施している。以下、H&Mのシャンゼリゼ通りへの出店の不許可とその後の許可の流
れについて概要を報告する。
CDECについて
1-1
フランスの商業地に関する規制としては、商業地域への個別の出店計画に対する事前許
可制をとっている。当時、300平方メートル(2008年の改革以降、1,000平方メートル)を
超える店舗面積をもつ(大規模店舗の)出店の際に、許可が必要となっていた。ゆえに、
2008年に法改正が行われる以前については、許可申請をCDEC(2009年1月1日以降は名称
が変更し、la Commission départementale d'aménagement commercial(CDAC)と
なっている。)に提出する必要があった。
CDECは、パリ県(パリは市と同時に県でもある)の地方長官(プレフェと呼ばれてい
る。ただし、地方長官自身は意思決定に参加できず、また票決権もないため、独立性を保っ
ている。)の下で、6人の委員から構成されていた。
※
委員の構成(当時)
1
パリ市長(店舗建設予定地の属する市町村の長)
2
シャンゼリゼ通りのある区の区長(予定地の属していた区)
3
パリ議会によって任命された区議会議員
4
商業・産業部門(商業、工業、サービスの利益を代表)の商工会議所の会頭
5
工業部門(工業を代表)の商工会議所の会頭
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県内の消費者団体の代表者
1-2
審査の過程について
スウェーデンの大企業H&Mは、シャンゼリゼ通りに2,800平方メートル規模の店を開く
ことを計画し、2006年にパリのCDECに許可申請書を提出した。CDECは、パリの地方長
官の下にある組織であり、彼らの下で申請書が審査された。
CDECは、申請書に対して二つの基準、すなわち「経済基準」
(多様性が尊重されている
か、雇用に関する規律が順守されているか、賃料が上がり過ぎないか等)と「都市整備基
準」をもとに、計画申請書を審査した。
CLAIR パリ事務所
シャンゼリゼ委員会に関する調査
2012 年 12 月 14 日
1-3
パリ市の反対
当時、H&M以外にもシャンゼリゼ通りへの出店計画があったが、その中でもファッショ
ン関係の店舗の比率が高く(ドルチェ&ガッバーナ、アバクロなど)、パリ市は反対してい
た(パリ市長もCDECの委員の一人であったため、CDEC全体に大きな影響を及ぼしたと
推測される)。
H&Mの出店に関する申請書が提出される以前から、シャンゼリゼ通りにおいては、
ファッション関係の店舗の割合は増加傾向にあり、シャンゼリゼ通りの魅力を脅かしてい
ると考えられていた。また、賃料についても、当時から法外につり上がっていた事情があ
る。パリ市としては、シャンゼリゼ通りが不動産投機による地価高騰と、ほかの(通俗的
な)通りとなんら変わらない平凡な商業地域になることを避けたいと考えていた。つまり、
(パリの象徴ともいえる)シャンゼリゼ通りのオリジナリティなるものが脅かされること
を懸念しており、一部の(伝統的な)映画館ではすでに賃料に収入全体を充てなければな
らないほどにつりあがっていることを主張した(スクリーン数は15年間で半減していた)
。
ゆえに、パリ市としては、シャンゼリゼ通りにおける文化面での多様性を保護すること、
及びシャンゼリゼ通りにおける地価の高騰を回避したかったと言える。
1-4
CDECの不許可(2006年)
CDECによる出店許可を得るためには、H&M許可申請に対して、CDECの委員の投票
の6票のうち4票を少なくとも取得する必要があった。シャンゼリゼ通りへの出店に対する
パリ市のネガティブキャンペーンの結果、CDECは、シャンゼリゼの通俗化を避けるため
に、2006年、H&Mに対する不許可を決断した。
1-5
CNECへの訴えと許可について(2007年)
H&M は、CDEC からの不許可を受け、「商業施設全国委員会」La Commission
nationale d’équipement commercial (以下、CNEC とする。)に訴えた。これは、
産業大臣の下において任命された8名(任期は6年)の委員から構成されているもの
であった。CNEC は、CDEC の不許可の判断に合理性がないことを指摘したうえで、
2007 年に H&M に対して許可を与える旨を決定した。
1-6
国務院(Le Conseil d’Etat)の判断(2008年)
パリ市は、これに対し、CNECの許可決定の取消を求めて、2008年1月にフランスの行
政最高裁判所にあたる国務院に訴えた。
国務院は、2008年中に最終的な判断を行い、H&Mに対して許可を行う判断を下した。
その理由としては、たとえ、出店計画はシャンゼリゼ通りであっても、
(当初CDECの不許
可の判断の根拠であった)すでにある商業の業種業態の多様性を著しく損なうものではな
い、という理由から判断されたものである。これによって、H&Mは、法的に出店が許可
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シャンゼリゼ委員会に関する調査
2012 年 12 月 14 日
されるに至っている。
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その後の動き
出店の際の許可申請については、2008年8月4日の経済の近代化に関する法律(la Loi de
modernisation de l'économie du 4 août 2008)により改正がされている(たとえば、
CDEC からCDACに名称変更されている等)。その目的は、基準を緩和することにより、
新たな市場参入の促進にあった。また、従来の二つの基準のうち、(H&Mの不許可の理由
となった)
「経済基準」については、平等性の侵害の点が懸念されたために、削除され、一
方、
「都市整備基準」については、その中にある、都市生活への影響、交通流量、環境保全
等の重要性が強調されることになった。
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質問項目について
<質問項目>
①シャンゼリゼへの出店にあたっての同委員会の影響力
・出店にあたっての委員会の権力はどの程度なのか
・法的な権限を持っているのか
②委員会に関して
・公的な権限を持った組織なのか、あくまで民間組織なのか
・委員会メンバーはどのようなメンバーなのか、また行政職員は入っているのか
③出店審査に関して
・どのような審査基準を持って、出店企業を評価しているのか
・出店に関して、どのようなフローで審査を行っているのか
(企業の出店情報が事前に委員会に入ってくる仕組みとなっているのか、法的に事前
に申請しなければならないルールとなっているのか等)
④出店拒否に関して
・H&Mは結局、出店許可せざるを得なくなったようだが、どのような経緯があった
のか
・他にも出店拒否をしている事案が結構あるのか(あれば理由や拒否した結果等につ
いて教えていただきたい)
⑤その他
・その他、委員会の活動について資料があればいただきたい
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シャンゼリゼ委員会に関する調査
2012 年 12 月 14 日
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質問項目への回答
シャンゼリゼ委員会や出店にあたっての同委員会の影響力について(質問項目①②)
シャンゼリゼ委員会(Le Comité des Champs-Elysée)は、非営利団体(une
association à but non lucratif、1916年設立)であり、シャンゼリゼ通りに出店する大
規模店舗を禁止する権限はない。シャンゼリゼ委員会の目的は、シャンゼリゼ通りを活
性化することにある。具体的には、1980年に初めてクリスマスの時期にあわせてシャン
ゼリゼ通りのイルミネーションを開始し、2008年から開始されたクリスマスマーケット
を作ったのも同委員会である。
なお、シャンゼリゼ通りで活動する店舗・団体の均衡を保ち、通りの活性化に向けて
努力しているが、それ以上何らかの法的拘束力をもつものではなく、上記1の通り、大
規模店舗の出店を許可する権限は、CDECである。
出店審査及び出店拒否について(質問項目③④)
CDECの出店審査に関しては、当時、
「経済基準」と「都市整備基準」の二つから構成さ
れていたが、現在では、「経済基準」はなくなり、「都市整備基準」のみとなっている。仕
組みに関しては、事前に、出店を希望する企業・団体から申請書・出店計画書の提出を求
めている。
なお、出店拒否とその後に出店を許可せざるを得なかった経緯については、上記1の通
り、法的な審査を経て決定されたものである。
2-2
参考資料
参考とした資料はほぼすべてフランス語である。
シャンゼリゼ委員会
URL:
http://www.comite-champs-elysees.com/accueil.html
2008年8月4日の経済の近代化に関する法律(la Loi de modernisation de l'économie
du 4 août 2008)
URL:
http://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000019283050
新聞報道等
URL:
http://www.suchablog.com/paris-ne-veut-pas-de-hm-sur-les-champs-elysees
http://archives.lesechos.fr/archives/2008/LesEchos/20265-26-ECH.htm
CLAIR パリ事務所
シャンゼリゼ委員会に関する調査
2012 年 12 月 14 日
http://lexpansion.lexpress.fr/economie/le-conseil-d-etat-autorise-h-m-sur-les-champs-el
ysees_163801.html
http://www.leparisien.fr/paris-75/h-m-ouvre-sa-boutique-phare-aux-champs-elysees-05
-10-2010-1095449.php
http://www.lexpress.fr/styles/mode-beaute/mode/h-amp-m-enfin-sur-les-champs-elysee
s_925984.html
http://www.lejdd.fr/Style-de-vie/Mode/Actualite/H-amp-M-arrive-sur-les-Champs-2228
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http://tempsreel.nouvelobs.com/societe/20080926.OBS2932/h-m-va-pouvoir-s-installersur-les-champs-elysees.html
また、日本語で参考としたものとして、クレアレポート『現代フランス都市計画の手法
(2)』
「第3章都市計画規制」がある。
URL:
http://www.clairparis.org/img/pdf/research/report/clairreport/clairreport087.pdf
以上