ドイツの新しい受信料制度 その概要と問題点

放送文化基金『研究報告』
平成 23 年度助成(人文社会・文化)
ドイツの新しい受信料制度
その概要と問題点
代表研究者
鈴木 秀美 大阪大学大学院高等司法研究科
教授
目
的
ドイツでは、2013 年 1 月 1 日から従来の受信料制度に代わって新しい受信料制度がスタ
ートした。従来、日本と同じく、テレビを自宅に設置することにともない、受信料を支払
う義務が生じる仕組みが採用されてきた。ところが、インターネットの普及によって放送
を取り巻くメディア環境が大きな変容を遂げ、とくに、パソコンや携帯電話でテレビ放送
を視聴できるようになったことが大きな要因となり、ラジオを聴いたり、テレビを視聴し
ない人々を含めて、すべての世帯から放送負担金(Rundfunkbeitrag)が徴収されることに
なった。本研究は、日本の受信料制度改革の参考とするため、放送負担金制度の概要を明
らかにすると共に、新制度の問題点に検討を加えた。
方
法
ドイツの新しい受信料制度は、ラジオを聴いたり、テレビを視聴しない人々を含めて、
すべての世帯から放送負担金を徴収するものであり、個人の住居だけでなく、企業や商店
などの事業所もその対象となる。新しい制度の根拠となる州際協定は 2010 年にすべての州
の間で締結され、各州議会の承認を得て、2013 年1月 1 日から施行された。今回の制度改
革は、ハイデルベルク大学キルヒホフ教授の鑑定書(2010 年)がその根拠となっている。
この鑑定書は、インターネットを通じて公表されているほか、単行本としても刊行されて
いる(参考文献①)。受信料制度の改革にあたっては、公共放送を税金によって賄う方法など
も提案されたが、連邦制の下で放送についての立法権限を有する州の首相らは、放送負担
金制度を採用した。
本研究の実施にあたって、事前に収集してあった参考文献や、2012 年7月以降、慶應義
塾大学図書館やNHK放送文化研究所にて収集した参考資料に基づき、新制度をめぐるド
イツの議論を検討した。また、制度改革の背景にある、放送を取り巻くメディア環境の変
容の実態を調査するため、日本放送協会が 2012 年のオリンピックについて、放送以外に、
インターネットを利用してどのような方法で情報を発信したかについてのヒアリングを行
った。また、ドイツの憲法・メディア法に詳しい日本の研究者と、公共放送のあり方、と
くに財源について意見交換を行った。ドイツでの現地調査は、計画では 2012 年9月に行う
予定であったが、実際には、2013 年 1 月に新制度へ移行して2ヶ月余りが過ぎた 2013 年
3月 12 日から 20 日(9日間)の日程で、ケルン、マインツ、ミュンヘン、フライブルク
で研究者からのヒアリングと大学図書館での資料収集を行った。その結果、2012 年から、
個人、企業、団体などが放送負担金制度を憲法違反だとして裁判所(憲法裁判所または行
政裁判所)に提訴したり、あるいは提訴の準備をしていることが明らかとなった。この出
張の際、ライプチッヒ大学デーゲンハルト教授がドイツ小売商連盟のために違憲論の立場
から執筆した鑑定書(参考文献⑤)を入手した。
放送文化基金による助成期間は 2013 年 3 月までであったが、その後、2013 年5月上旬、
メディア法の学会参加のためドイツへ出張した折にも、放送負担金制度の合憲性について、
学会参加者と意見交換した。学会参加者の中でも、マインツ大学デル教授は、ラインラン
ト・プファルツ州憲法裁判所に申し立てられた放送負担金についての憲法異議に州政府の
代理人として関与されているとのことで、多くの情報を提供してくださった。また、5月
中旬には、大阪大学を訪問したフンボルト大学ヴァルトホフ教授(専門は公法、とくに租
税法)とも放送負担金制度について意見交換した。
結
果
(1)結果の概要
本研究の結果、2012 年以降、放送負担金制度の合憲性が裁判所で争われており、憲法裁
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判によって制度の根本が覆されることはないとしても、今後、事業所の負担のあり方など
の細かい部分については見直される可能性もあることが明らかとなった。具体的争点は、
①放送負担金が実質は税金であるのに、州にはその権限がないこと、②住居に対する支払
い義務が、複数の住居を所有する者や一人暮らしの者にとって不平等になること、③従業
員と車両の数に基づく事業所の支払い義務が、事業所の間の不平等となるほか、営業の自
由、一般的行為自由を侵害する場合があること、④徴収目的の個人情報の扱いが自己情報
コントロール権を侵害することなどである。
(2)放送負担金制度の特徴
放送負担金は、ドイツ公共放送連盟(ARD)を構成する、原則として州ごとに設立され
ている9つの放送協会、第二ドイツテレビ(ZDF)、ドイチュラントラジオの財源となる。
ただし、日本と異なり、ドイツの公共放送は、広告からも収入を得ている。なお、放送負
担金の徴収は、
「ARD、ZDF、ドイチュラントラジオ負担金サービス」
(以下では、
「負担金
サービス」と略記)という組織が行い、いったん徴収された放送負担金が各放送協会に配
分されることになっている。旧制度では、受信料徴収センター(GEZ)という組織が受信
料の徴収を行っていた。GEZ が、新制度への移行に伴い負担金サービスに改組された。
放送負担金制度では、住居(Wohnung)ごとに放送負担金を支払う義務がある。ひとつ
の住居に何人住んでいるかとは無関係に、住居1件につき月額 17.98 ユーロの放送負担金
を支払わなければならない。この金額は、2012 年 12 月までのテレビ受信機を所有する視
聴者が支払っていた放送受信料と同額である。旧制度において放送受信料は、基本料金(ラ
ジオ料金)月額 5.76 ユーロ、テレビ料金月額 12.22 ユーロであり、テレビを所有する人は
基本料金に加えてテレビ料金を支払う仕組みとなっていた。
新制度では、住居に加えて事業所(Betriebsstätten)も従業員数に応じて放送負担金を
支払う義務を負う。従業員8人までは住居1件の3分の1、19 人までは住居1件と同額、
49 人までは2件分、249 人までは5件分、499 人までは 10 件分、999 人までは 20 件分、
4999 人までは 40 件分、9999 人までは 80 件分、19999 人までは 120 件分、20000 人以上
は 180 件分と定められている。さらに、事業所は業務用の車両の数に応じて放送負担金を
支払わなければならない。1事業所に1台の場合は支払い義務を負わないが、2台目から
車両1台につき住居1件の3分の1の放送負担金を支払う義務を負う。
新制度は、これまでテレビ受信機をもち受信料を支払ってきた世帯(約9割といわれる)
にとっては、月額も徴収方法等も変更がないため、受け入れられやすいという面がある(た
だし、テレビを所有せず、ラジオだけ聴いている人にとっては、5.76 ユーロから 17.98 ユ
ーロへの値上げとなり、テレビもラジオも利用しないという人にとっては、17.98 ユーロの
放送負担金を支払う義務が新たに課されることになる)
。
また、約1割の世帯はテレビを所有していても、不払いしている場合が多いと考えられ
ているため、新制度に移行することで、不払い世帯が減り負担の公平が促進されるという
長所があると考えられている。さらに、ドイツでもこれまでは不払い対策として GEZ から
委託された調査員による訪問調査が行われてきたが、新制度ではテレビ受信機の有無を調
査員に問われるという煩わしさから解放されるというところも、新制度の長所として強調
されている。
(3)放送負担金制度の憲法上の問題
新制度については、いくつかの点で憲法上の問題が指摘されている(参考文献⑤、⑥、
⑦参照)
。このうち、制度の根本にかかわるのが、放送受信機の所有と無関係に徴収される
放送負担金は、「負担金」という名称にもかかわらず実質的には税金だという批判である。
ドイツ連邦共和国基本法(憲法)によれば、州に放送税徴収権はないため、もし放送負担
金が税金だとすれば、州は憲法上認められていない権限を行使したことになる。
次に、個人の場合、まず、住居ごとに課される放送負担金制度では、一人暮らしの者が、
ひとつの住居に家族や同居人などと一緒に暮らす者との関係で不平等に扱われているとい
う批判がある。また、2つ以上の住居を持つ者については、住居ごとに支払い義務を負う
ことになるため、この点も不平等だという指摘もある。とくに、仕事の都合で別々に暮ら
している夫婦の場合、家族の保護のため、第二の住居に課される税を免除すべきとした憲
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法判例(BVerfGE 114, 316)があるため、この憲法判例が放送負担金にも妥当するとすれ
ば、少なくとも仕事の都合で別々に暮らしている夫婦について、住居2件分の放送負担金
を徴収することは憲法上許されないということになる。
また、とくに問題視されているのが事業所の場合である。例えば、同じ従業員数でも、
本社1ヵ所のみの事業所と、本社に加えて多数の支社・支店がある事業所では、後者のほ
うが多額の放送負担金を支払う義務を負う。また、多数の車両を保有するレンタカー会社
について特別の規定が設けられていない。これらについて、不平等、営業の自由、一般的
行為自由の侵害といった問題が指摘されている。さらに、徴収のための個人情報の取り扱
いが自己情報コントロール権を侵害するという観点からの批判もある。
これに対して、州政府、州議会、公共放送協会は、放送負担金制度は合憲であると反論
している(参考文献④参照)
。放送負担金が税金か否かは、税法上の難解な問題である。ド
イツで行った研究者との意見交換の中では、今後、憲法裁判によって制度の根本が覆され
ることはないとしても、事業所の負担のあり方等、細かい部分では制度が修正される可能
性があるという意見が多かった。
(4) 放送負担金をめぐる憲法裁判
2012 年以降、放送負担金の合憲性を争う訴えが連邦や州の憲法裁判所に持ち込まれてい
る。主たるものとして、次のような裁判例がある。a)パッサウ大学の若手研究者がバイ
エルン州憲法裁判所に税法の観点などから民衆訴訟を提起している(係属中)。b)ドラッ
グストアのチェーンを展開するロスマン社も同州憲法裁判所に民衆訴訟を提起している
(係属中)
。c)ラインラント・プファルツ州憲法裁判所にも、建築会社が憲法異議を申し
立てている(係属中)
。d)ドイツ土地利用者連盟は連邦憲法裁判所に2つの憲法異議を申
立てたが、いずれも不適法を理由にすでに却下されている。この他、e)ドイツ小売商連
盟は制度の違憲性を詳細に検討したライプチヒ大学デーゲンハルト教授の鑑定書を 2013 年
1 月に公表した。さらに、レンタカー会社 SIXT が憲法裁判の準備をしていると報道されて
いる(2013 年 4 月 1 日)
。
a)パッサウ大学法学部でヘックマン教授の研究助手をしているゴイアー氏は、2012 年
8月、バイエルン州憲法裁判所に民衆訴訟を提起した(参考文献⑦参照)
。バイエルン州憲
法によれば、自己の基本権侵害とは無関係に、誰でも、無料で、州憲法裁判所に州法の合
憲性審査を求めることができる。このような制度を備えているのは、ドイツ連邦を構成す
る 16 州の中でもバイエルン州だけである。ゴイアー氏は、放送負担金州際協定に対するバ
イエルン州の同意法律を対象として民衆訴訟を提起した。具体的には、放送負担金が実質
的に税金にあたることや、事業所の支払い義務に不平等があるなど、放送負担金制度には
様々な憲法問題があると主張している。
また、同氏は、バイエルン州憲法裁判所に、放送負担金徴収の手がかりとなる個人情報
を行政庁が放送協会に提供することを差し止める仮命令を出すよう求めた。しかし、2013
年 4 月 23 日、バイエルン州憲法裁判所は仮命令についての請求を退けた。なぜなら、同氏
の民衆訴訟について、理由があるか否かが明らかではないため、結果として放送負担金徴
収を非常に困難にする個人情報提供の差止めを仮命令で認めることはできないと判断され
たためである。とはいえ、同氏の民衆訴訟の本案については、あらためてバイエルン州憲
法裁判所の判決が下される可能性がある。
b)ドラッグストアをチェーン展開しているロスマン社も、2013 年 1 月、バイエルン州
憲法裁判所に民衆訴訟を提起した。同社のチェーン店は約 1700 店あるため、新制度によれ
ば、同社は、少なくとも 20 万ユーロの放送負担金を支払わなければならないという。これ
は、旧制度で支払っていた放送受信料3万 9500 ユーロの約5倍にあたるという。同社は、
放送負担金制度が同社の一般的行為自由と平等権を侵害すると主張しており、また、放送
負担金は税金にあたるため、新制度は基本法の権限配分に違反しているという主張もして
いる。同社の民衆訴訟は、バイエルン州憲法裁判所においてゴイアー氏の民衆訴訟と併合
される可能性もある。ロスマン社は、さらに連邦憲法裁判所で放送負担金制度の合憲性を
争うことも検討していると報道されている。
c)2012 年 12 月、ある建築会社が、ラインラント・プファルツ州憲法裁判所に、憲法
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異議を申し立てた。同州憲法によれば、誰でも、憲法異議を申し立てることにより、州の
公権力行使による基本権侵害を州憲法裁判所で争うことができる。憲法異議の申立ては無
料とされている。同州では、連邦憲法裁判所の制度として広く活用されてきた憲法異議の
制度を、1992 年に州憲法に導入した。この建築会社は、放送負担金州際協定に対する同州
の同意法律に対する憲法異議申立ての中で、放送負担金制度によって、同社の営業の自由、
一般的行為の自由、自己情報コントロール権等が侵害されると主張している。この建築会
社は、同州の内外で主として道路を建築しており、約 200 人の従業員がおり、約 100 台の
車両を所有している。同社は、個人が所有する車両には放送負担金を支払う義務が課され
ていないのに、事業所の所有する車両に支払い義務が課されている点を平等違反であると
問題にしており、新制度において中規模の事業所に対して課された負担が、比例原則に違
反すると主張している。
ラインラント・プファルツ州の州都マインツ市には ZDF があるほか、同州は、伝統的に
州首相らが放送政策について会合する「放送委員会」の幹事役を務めており、放送政策の
要の州といってもよい。同州首相府と州議会議長は、この憲法異議に対し、放送負担金制
度は合憲だと反論している。前述のとおり、マインツ大学デル教授が、この憲法異議に州
政府側の代理人として関与されているとのことである。ラインラント・プファルツ州が憲
法異議についてどのような判断を下すか、今後の展開が注目される。
d)ドイツ土地利用者連盟は連邦憲法裁判所に2つの憲法異議を申立てた。1つ目の憲
法異議は、2012 年 6 月に申し立てられたもので、放送負担金を徴収するための個人情報の
取り扱いが自己情報コントロール権を侵害することを問題としていた(Aktenzeichen 1BvR
1700/12)。2つの目の憲法異議は、2012 年 11 月に申し立てられたもので、住居に対して課
される放送負担金が、一人暮らしの者にとって不平等であることを問題としていた
(Aktenzeichen 1BvR 2603/12)。連邦憲法裁判所は、憲法異議の補充性を理由に、いずれの
憲法異議についても不適法として却下した。2つの憲法異議のうち、自己情報コントロー
ル権についての憲法異議を却下した連邦憲法裁判所の部会では、同部会を構成する3人の
裁判官のうちの1人が、放送負担金制度の根拠となる鑑定書を執筆したパウル・キルヒホ
フ教授の弟であるフェルディナンド・キルヒホフ裁判官であった。ドイツ土地利用者連盟
は、キルヒホフ裁判官が、憲法異議の却下決定に兄への配慮から一定の影響力を行使した
のではないかと批判している。
e)ドイツ小売商連盟は制度の違憲性を詳細に検討したライプチヒ大学デーゲンハルト
教授の鑑定書を 2013 年 1 月に公表した(参考文献⑤)
。デーゲンハルト教授は、放送負担
金が税金にあたるため州にはその権限がなく、それゆえ憲法違反だと指摘する。また、事
業所に課された放送負担金については、すべての企業に対して一括に、従業員と車両の数
だけを手がかりに放送負担金を課すことは不平等であり、一般的行為自由を侵害すると批
判し、とりわけ、ドラッグストアのチェーン店にみられるように、事業所の数が多い場合
を問題にしている。ドイツ小売商連盟は、この鑑定書を使って裁判所で放送負担金の合憲
性を争うことはしておらず、バイエルン州憲法裁判所に係属中の、前述した2つの民衆訴
訟の行方を注視している。
(5)放送負担金に対するその他の批判
最後に、上記のような憲法裁判以外の方法でも、放送負担金制度への異論が唱えられて
いることを紹介しておきたい。
まず、事業所として放送負担金を支払う義務を負う地方公共団体から、新制度への厳し
い批判の声があがっており、制度の見直しが求められている。例えば、ケルン市は、新制
度に基づく同市の放送負担金の額が旧制度の放送受信料よりも相当に高額になることを危
惧し、当初、放送負担金の支払いを拒否する姿勢を示していた。しかし、2013 年 1 月末、
新制度の計算方法ではなく、旧制度で同市が支払っていた放送受信料と同額を放送負担金
として支払うことを、西部ドイツ放送協会(WDR)との間で合意した。ただし、この合意
は、徴収権限をもつ負担金サービスとの間で成立したものではないため、今後、その有効
性が問われる可能性もある。
また、ドイツの高級紙「フランクフルター・アルゲマイネ」をはじめ、新聞各紙も放送
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負担金について批判的な報道をする傾向がある。その背景には、ARD が iPad と iPhone に
ニュース情報を発信するためのアプリケーション(Tagesschau-App)を開発し、ニュース
を動画だけでなく、文字でも提供していることについて、2011 年、8つの新聞社が、公共
放送がインターネットで提供できるサービスの範囲を超えているとして提訴し、それ以来、
ARD と裁判で争っているという事情がある。2012 年9月 27 日、ケルン地方裁判所は、2011
年6月 15 日に提供されたニュース情報について、番組とは無関係の、活字メディアに似た
内容であると認める判決を下した。ARD は、この判決を不服として控訴した。ARD と裁判
をしている大衆紙「ビルト」など一部の新聞は、放送負担金制度を激しく攻撃しており、
それがキャンペーン報道だという批判を受けている。
この他、2013 年に入って、放送負担金制度の見直しを求める多数の請願が連邦議会と州
議会に申し立てられているという。放送負担金を批判する市民運動も広がっており、例え
ば、2013 年 3 月 23 日には、ファイスブックを通じて組織された市民らが、ミュンヘンや
ケルンで放送負担金に反対するデモ行進を行った。
ドイツでは、憲法上、放送についての立法権限が州にあるものの、放送制度のあり方を
めぐる政治的対立が連邦憲法裁判所に持ち込まれ、それについて数次にわたる放送判決が
下されている。ドイツの放送法制は、連邦憲法裁判所の憲法判例に基づいて形成されてき
たといっても過言ではない。放送負担金については、上記の憲法裁判を契機として、州政
府や公共放送協会が自発的に制度の見直しに着手する可能性もあるが、最終的には連邦憲
法裁判所の判断によって、制度のあり方が確定されることになるだろう。放送負担金につ
いては、その前にバイエルン州やラインラント・プファルツ州の憲法裁判所が判決を下す
可能性もある。放送負担金制度が連邦憲法と州憲法に適ったものとして定着し、市民に受
け入れられるためには、しばらく時間がかかりそうである。本研究の成果としては、裁判
所の判決を待つのではなく、放送負担金制度の合憲性をめぐってどのような議論が行われ
ているか、その概要を論文としてまとめる予定である。
参考文献
① Paul Kirchhof, Die Finanzierung des öffentlich-rechtlichen Rundfunks, Nomos,
Baden-Baden 2010.
② Klaus Stern u. a., Die Neuordnung der Finanzierung des öffentlich-rechtlichen
Rundfunks, C. H. Beck, München 2012.
③ Karl-E. Hain u. a., Kommerzielle Tätigkeiten der öffentlich-rechtlichen
Rundfunkanstalten, C. H. Beck, München 2013.
④ Axel Schneider, Warum der Rundfunkbeitrag keine Haushaltsabgabe ist - und
andere Fragen zum Rundfunkbeitragsstaatsvertrag, NVwZ 2013, 19 ff.
⑤ Christoph Degenhart, Verfassungsfragen des Betriebsstättenbeitrags nach dem
Rundfunkbeitragsstaatsvertrag der Länder, Rechtsgutachten, K & R 2013, Beihefter
1/2013 zu Heft 3, 1 ff.
⑥ Stefan Korioth/Maxi Koemm, Gut gemeint, doch schlecht gemacht: Die neue
Rundfunkabgabe ist verfassungswidrig!, DStR 2013, 833 ff.
⑦ Ermano Geuer, “Eine Wohnung, ein Beitrag” -Überlegungen zur Popularklage
gegen die neuen Rundfunkbeiträge, MMR-Aktuell 2012, 335995.
⑧ 杉内有介「始まったドイツの新受信料制度」放送研究と調査 2013 年 3 月号 18 頁以下。
研究発表
本研究の結果は、2013 年9月までに論文にまとめ、『阪大法学』に寄稿する予定である(11
月刊行予定)
。放送負担金制度についは、日本でも先行業績(参考文献⑧)があり、制度の
概要は明らかにされているため、拙稿では、
「制度の合憲性」の論点を中心に検討したいと
考えている。
連 絡 先
大阪大学大学院高等司法研究科 560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-6
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