1 共同声明 付属文書(仮訳) 金融サービス 第 52 回日

共同声明 付属文書(仮訳)
金融サービス
第 52 回日米財界人会議
日米経済協議会 / 米日経済協議会
2015 年 12 月 4 日
日米経済協議会ならびに米日経済協議会(以下、
「両協議会」と称する)は、日
米両国およびその他の国が持続的な経済成長を実現するために、公正、自由か
つ開かれた競争、実効的な規制、透明性、および強靭なグローバル金融機関と
いった市場原理に基づく健全な金融セクターを有することが不可欠であると考
えている。
2008年の金融危機以降、各国は、金融安定性を確保し、次の危機を回避す
るため、新しいグローバル規制の枠組みを策定する作業を国際的に続けてきた。
同時に米国および日本は、次の危機を回避し、長期にわたって両国の経済を維
持するため、広範な改革に従事してきた。両協議会は、グローバル金融システ
ムを強化し、持続可能な経済成長を最終的に促進するよう策定された合理的な
改革を全面的にサポートする。
米国では、ドッドフランク金融改革法が成立して以来5年間にわたって、米国
財務健全性監督者やその他監督者は、システム上重要な金融機関に対する財務
健全性規制・監督の強化、
「大きすぎてつぶせない問題」に対処する新たな秩序
だった清算に関する権限、ボルカールールのような銀行構造改革およびOTC
デリバティブ市場における抜本的改革を含む、一連の規制改革の実施に努めて
きた。
日本は、高齢化社会の構造的課題および社会保障制度の負担増大に直面してい
るが、G20より指示された一連の規制改革や強化されたコーポレートガバナ
ンスの実施を含め、より魅力的な金融・資本市場の形成を狙いとした重要な改
革に着手してきた。アベノミクスと一致するポジティブな景気循環に貢献する
ため、日本の金融規制当局は、金融サービス産業をさらに積極的に振興し、日
本の監督手法にグローバルなベストプラクティスを取り入れ、金融業界との効
果的な交流を強化することに取組んでいる。
この新しいグローバル規制環境において、監督者が実施する規制・監督措置は、
より幅広い公共の利益のための監督上の目的を達成するのに適切であり、ふさ
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わしいものであるべきであり、意図せざる結果や市場競争のゆがみを回避すべ
く、そうした目的を超えるべきでないと両協議会は考える。新たな国際金融基
準の体制を策定し、導入する作業は続けられており、両協議会は、米国および
日本が世界第1位および第3位の経済大国として共通の利益を持つ分野につい
て、協力してワンボイスの声明を発する重要な機会に直面している。
この文脈において、両協議会は、両国において金融サービスの健全な規制に寄
与し、かつ、国際基準の検討において、頑健かつ実効的な成果を確保すること
を助ける、次の施策や原則を採用することを日米両国政府に要請する。
■透明性:両協議会は、政策の透明性が、市場参加者の意思決定における不確
実性を軽減することで政策の効率性を高め、政策に対する理解を一層深めるこ
とを通じて金融システムの安定性を促進すると考えている。透明性は、企業が
経営および投資判断を行うに際して決定的な意味を持っており、また、その結
果、消費者にとって金融サービスの質を改善する。この観点から、両協議会は、
両国の規制当局に対して、新たな規制の検討と導入を図る際には、金融セクタ
ーとの対話を深め、市場参加者の意見を考慮することを強く要請する。
■国際協調と規制の一貫性:両協議会は、健全な規制に基づく、健全かつ活動
的な金融システムを支持し、2009年のG20ピッツバーグサミットにおい
てなされた合意の字義および精神を全面的にサポートする。しかしながら、新
たな規制の累積的な影響、すなわち新しい流動性、資金調達、レバレッジおよ
びリスクベースの資本要件は、手法の重複・複雑性と同様に、重い負担や制限
を金融機関に課すこととなり、このことは利用者のコストを引き上げ、市場へ
のアクセスを阻害してしまうといった懸念が強まっている。両協議会は、これ
らの多くのルール策定の累積的な影響が、信用供与の減少および資本市場を制
約する結果となり、経済成長および利用者のリスクヘッジ能力の両方に影響を
与えるのではないかと不安を有している。
金融危機後、新しく現れた国際的に重要な規制の数を考えると、金融市場また
は金融システムに対して予期しない悪影響がある可能性はないか、また、そう
した影響が新しいタイプの金融危機の素地を作ることにならないか十分に検討
することが不可欠である。加えて、経済成長の鈍化につながる、市場の分断や
金融サービス利用者のコスト負担増を避けるため、法域間で規制の一貫性を強
化するさらなる取組みを行うことが極めて重要である。ある二つの法域にて同
様の結果に向けて各国の事情により別々のアプローチを採用する場合には、当
該法域の監督者はルールの域外適用を回避すべきである。
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それゆえ、両協議会は規制当局に対し、実効性ある破綻処理制度の整備を通じ
て、国際的な規制の一貫性を推進し、世界経済に資する強靭な国際金融システ
ムへと発展させるよう求める。
グローバル市場の参加者が待ち構えている米国連邦準備制度理事会の政策決定
のような金融政策の変更が及ぼす恐れのある悪影響にも注意が払われるべきで
ある。
こうしたことを背景に、両協議会は、金融安定委員会および欧州委員会(資本
市場同盟の政策に関して)を含めた当局が最近、全ての規制改革の累積的な影
響を検証する取組みを打ち出していることを歓迎する。
さらに両協議会は、規制分野における米日の協力について相当の可能性がある
と見ている。例えば、国際標準を設定する機関は、国際的な保険規制を性急に
検討し続けており、米国および日本は、ベストプラクティスを共有し、考えの
一致する分野を支持するため、緊密に連携することに共通の利益を有する。
■国境を越えたデータの流通:デジタル・エコノミーは幅広い新しいビジネス
機会を生み出しており、国境を越えたデータおよび情報の流通を促進すること
によって、ビジネスを自由に展開し、世界のあらゆる場所でイノベーションを
生むことが可能になっている。しかしながら、両協議会が懸念するのは、多く
の法域においてデータ処理・蓄積の現地化を強制し、特定データの海外への移
転を制限する動きがあることである。その目的は消費者保護と主張されている
が、実際には各国にサーバーが分かれることで消費者にコストが転嫁され、情
報漏洩やハッキングに遭う可能性を高めている。さらに、会社間での海外への
データ移転の制限にとして、母国の事業所や海外の関連会社への内部的なデー
タ移転が禁じられることがよくあり、従業員情報、財務経営情報、不正防止、
マネーロンダリング防止および租税回避防止に関する情報、災害復旧、再保険
などの情報管理といった金融サービス提供者による基本的な事業活動を妨げる
可能性がある。
国境を越えたデータ流通の経済的重要性に鑑み、両協議会は、特定の国でビジ
ネスを行う条件として、データ処理やテータ蓄積施設の現地化を要件とするこ
とに強く反対する。同様に両協議会は、海外へのデータ移転に関するいかなる
制限も、合理的な事業活動や管理を阻害すべきではないと考える。
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この文脈において、TPP、TISA、および、その他貿易協定は、日本およ
び米国がこの問題に対処するために協力する重要な機会を提供している。両協
議会は現地化の強制は禁止されるべきであり、そのような禁止は、金融サービ
ス取引によるデータが他のタイプの取引で用いられるデータと何ら本質的に異
ならないことを考えると、金融サービスを含む全ての産業に適用されるべきで
ある。
■包括的な成長の確保:両協議会は、健全な金融仲介機能を妨げ、中小企業の
成長を阻害する政策とならないよう、米国及び日本がG20や金融安定理事会
およびバーゼルでの政策決定プロセスにおいて強いリーダーシップを発揮する
ことを望む。金融包摂や包括的な成長に資する取組が検討されているAPEC
のように、日米がリーダーシップをとるその他地域フォーラムにおいても、そ
うした協力が発揮されるべきである。
■分別管理された証拠金およびバーゼルⅢのレバレッジ比率:両協議会は、バ
ーゼル規制のレバレッジ比率は、分別された顧客証拠金残高のエクスポージャ
減少効果を、レバレッジ比率でのオフバランスシートのエクスポージャ計算手
法において認識すべきであると考えている。バーゼル銀行監督委員会(BCB
S)により定められ、2018年に効力を発するレバレッジ比率によって、決
済機関の資本コストが既に大きく増加しており年金基金や、リスクマネージメ
ントを目的とするデリバティブに依拠する幅広い産業全体にわたる事業を含む
利用者にこうした決済コストが転嫁されることになる。さらに、そのルールが
意味するのは、決済機関がデリバティブの決済について新しい顧客を引き受け
る可能性が低くなるということであろう。また、そのルールが意味するのは、
デリバティブの決済のためにマーケットから流動性を枯渇させてしまい、リス
クを増加させてしまうということでもあろう。
■信用リスクの標準的手法の見直し:BCBSは、2014年に信用リスクの
新しい標準的手法を提案している。両協議会は、この提案された方法を実際に
実行することは極めて困難であり、結果として、多くの地域で取引相手のリス
ク特性からかい離したリスクベースの資本要件となってしまうことを懸念して
いる。両協議会は、BCBSが本件に係る修正提案を検討していることを理解
しており、BCBSに対し、修正提案においてリスク感応度と運営能力をバラ
ンスさせることを要請する。加えて、信用リスクに係る2014年の提案が発
表された際に、BCBSは、標準的手法に基づく資本最低水準も提案している。
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両協議会は、資本最低水準導入は、より広範な資本規制の枠組みにおいて、信
用リスクの標準的手法の提案の欠点をさらに拡大するだろうということを懸念
している。
■銀行勘定の金利リスク(IRRBB)
:BCBSは資本規制の枠組みにおける
IRRBB基準の資本上の取扱いについて2つのオプションを提案している。
ひとつは最低資本要件の計算において統一的に適用される第1の柱の措置の採
用、もうひとつは第2の柱のオプションである。両協議会は、第1の柱のアプ
ローチは、多様なビジネスモデルや市場状況を扱うために必要なIRRBBの
リスク管理実務の範囲を考慮しておらず、多様なビジネスモデルや市場状況を
扱うために必要な個々の企業のIRRBBのリスク管理実務を考慮していない
と考えている。さらに、個々の企業のIRRBBのリスク管理実務は、預金ベ
ースの安定性に応じて、または、預金・貸出のバランスの水準に応じて、非常
に異なるリスク特性を有していることから、かなり相違している。
そのため、両協議会は、IRRBBを扱う賢明な方法は、監督者からの監督や
指導の下、モデルに基づく第2の柱による規制上の枠組みであると考えている。
■信用評価調整(CVA)とトレーディング勘定の抜本的見直し(FRTB):
BCBSは、CVAおよびトレーディング勘定の資本要件に影響を与える重要
な提案を発表している。我々はどんな修正も、商業銀行モデルまたは投資銀行
モデルのいずれも不利な状況に置くことなく、銀行の資本要件におけるリスク
感応度を改善することを狙いとすべきであると考えている。特に、我々はBC
BSに対し、最終的な枠組みが貸出・資本市場を弱体化させる画一的なアプロ
ーチを確実に回避するものとなるよう、内部モデルと標準的なCVAおよびF
RTBの手法を定量評価し、もし必要があれば改めて較正(re-calibrations)
を行うことを勧める。
■清算集中されないデリバティブ取引に係る証拠金規制:IOSCOとBCB
Sは、証拠金規制に関する国際標準を整備しており、各国の規制当局は現在、
規則導入を進めようとしている。両協議会は、各国の規制当局に対して、国際
的な規制機関によって提案されているものよりも厳しい基準を不必要に課す誘
惑に抵抗するよう要請する。とりわけ、米国の規制当局に対して、関連会社間
のスワップ取引に対する証拠金の差入や、第三者の信託管理人への当初証拠金
の分別管理を求める規則策定について再評価するよう要請する。
■バーゼルⅢ
新たな流動性基準/安定調達比率:2014年10月に公表さ
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れた、BCBSの安定調達比率(NSFR)は、投資家アクセスを下支えし、
資本形成を促進する重要な市場活動および機能のコストを劇的に引き上げるだ
ろう。NSFRに関連するコストは、レバレッジ比率のようにその他の新しい
ルールとも関係して、銀行およびブローカー・ディーラーの仲介機能を制約し、
その結果、株式および債券市場双方の流動性を減少させ、過大なボラティリテ
ィを生じさせるだろう。そのコストは最終的には、個人投資家や年金基金とい
ったその他の市場参加者および利用者に転嫁されるだろう。両協議会は、当局
にその懸念を真剣に受け止め、市場流動性に悪影響を与えることを回避すべく、
定期的な見直しおよびルールの再較正を行うよう要請する。
■銀行業と保険業の相違係る説明:保険は財務面でのリスクのプールと移転の
メカニズムを提供することから、保険会社は、2008年の金融危機の時代を
含む景気後退期において、金融の強化と安定性を提供する源となった。しかし
ながら、最近の規制の変更は、この役割を弱体化させ、お客様へのサービス提
供能力を損なわせている。両協議会は日米両政府に対し、保険監督者国際機構
(IAIS)によるグローバルなシステム上重要な保険会社を対象とする資本
要件と同様に、グローバルな保険資本基準の策定にあたり、銀行業と保険業の
相違に十分配慮するよう求める。
グローバルな保険資本基準の最終ゴール(ultimate goal)はスケジュール変更
されたものの、各法域においては、保険資本基準が2020年から何かしら導
入されることとなる。いかなる新たな資本規制も、支払余力を維持し、リスク
を包括的にカバーし、現行の異なる資本規制下にありつつも保険会社間の比較
の基礎となるのに十分な資本が確保されるとともに、容易に導入することが可
能な規制であるべきである。G20とFSBは、意味のある結果を犠牲にして
まで、新基準の策定/導入期限を設けるべきではない。
各国政府は、新基準の策定という面において、国際的に共通する会計および評
価基準という中では同意することを模索しており、両協議会は、市場ベースの
バランスシートの導入に関して、大部分の生命保険の負債の安定性・長期性と
調和しないボラティリティをもたらさないよう注意を払い、結果的に保険会社
が長期保証ビジネスから撤退するという状況を生みださないよう日米両国政府
に求める。
■公平な競争環境:同種の商品・サービスの提供者に対する同種の規制(すな
わち、公平な競争環境)を課すことは、金融資本市場を強化し、市場の非効率
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性や歪みを回避するための重要な規制上の原則である。両協議会は、日米両政
府に対し、ある市場参加者への待遇が他の参加者よりも優位になることで生じ
る競争上の歪みを回避するよう求める。日本においては、共済と金融庁の監督
下にある民間金融機関との間で公平な競争環境を確保することが重要である。
両協議会は、安倍政権が郵政改革に関して明確なビジョンを示していることを
歓迎し、日本政府が日本郵政グループと民間金融機関の公平な競争環境の実現
に向けて対策を講じ続けている間、建設的な役割を果たすため相談を受けるつ
もりである。
■米国の保険規制:過去150年以上にわたり、米国保険業界の州別規制は、
地域市場のニーズに応えてきた。両協議会は、米国の保険の州別規制をさらに
近代化するための継続的な取組みを歓迎する。これに加えて、両協議会は、今
後の進展を継続してモニターし、海外再保険者の担保要件の緩和や“認定再保
険者”制度の導入を含む、米国の再保険規制分野での改革を評価する。
■消費税の中立性:日本政府は、現在の消費税制度が付加価値税のグローバル・
ベスト・プラクティスに合致するように努めなければならない。とりわけ、第
三者の代理店を通じた金融商品販売に関する中立性を確保するため、消費税法
とその関連法を改正すべきである。
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上