特別演題抄録 - 全日本鍼灸学会

特別演題抄録
講
演
シ ン ポ ジ ウ ム
セ
ミ
ナ
ー
1
セ
ミ
ナ
ー
2
ランチョンセミナー
研究部・安全性委員会企画
実 技 セ ッ シ ョ ン
高木賞受賞記念講演
本文末のコードの意味
例:2A(B)11(第2日 A会場・モニターB会場 11:00開始のセッション)
特別講演1
こころとからだ
神戸大学医学部名誉教授
中 井 久 夫
心身二元論、特に物質としての身体から精神活動を説明しようとする還元主義にもっとも違和感を
持っておられるのは、東洋医学の方々であろうかと思う。もっとも、心身一如、こころと体は一つと
いっても、総論に重く、各論に乏しいうらみがある。
こころとからだとの関係についての私の考えを述べれば、実在のあり方はちがうが、いずれも実在で
あり、密接に関連しているが、ただ一つの視野に収めることが難しいものであると思っている。そうい
うものは手近にある。たとえば紙の裏と表である。誰も表と裏のどちらが実でありどちらが虚であると
はいわない。いずれも実在するが、同時に両方を見ることができない。そのように、探究を脳からはじ
めれば、どこまでも脳である。ここに脳終わり、こころ始まるという標識が立っているところはない。
同じように意識的なこころからはじめれば、どこまでもこころである。無意識というものも意識の中へ
の表れか行動から推論することしかできないものである。どちらかがなくなれば他方もないという構造
も紙に似ている。紙が燃えれば裏も表もない。
ただ、どうも心身二元論というものは言語と結びつているらしい、私たちは心と身体との2つの言乗
をやめて「こらだ」といった言葉に代えることはできない。私たちは言葉を発するまではこころとから
だとの間に境界などないことを「知って」いる。言葉を発すとこの2つを区別しなければならなくな
る。「ウチ」と「ソト」との区別が、生まれて最初に起こる現実の弁別であるという。さらに、意識の
中にあってこそ宇宙が認識でき、意識は宇宙を包むともいえるが、その中に意識があって、無限の入れ
子構造になってしまう。私たちはこころとからだとを考える時、いたるところで逆理に会う。さらに、
からだも、単なる物質ではない。物質は入れ代わるが身体は一つの形に止まる。また、身体は純然たる
主観でも客観でもなく、その両者を往復する、そして、両者それぞれ空間内構造だけでなく時間的構造
でもある。こういうことをいろいろな角度から考察したい。
2A(B)11
特別講演2
これからの鍼灸のあり方
東京女子医大附属東洋医学研究所教授
代 田 文 彦
日本の経済・政治・思想の分野で、随分雲行きが怪しくなってきている。詳しいことは何も解らない
し、誰もが把握できないのだろうが、日本が鎖国を解いて100年。日本という国が年を取ってきた為の
必然から生じたものかも知れない。大衆消費社会、近代民主主義の到達点を極めたときに、かつての大
英帝国、アメリカを始め、多くの国々が経験した歴史的不調。そのバランスの不調回復の為に、長年に
わたり懸命の努力を積み重ね、からくも危機を回避した、例の先進国型衰退の徴候の先触れなのだろう
か。日本の経済・政治・思想の分野だけでなく、ご多分に漏れず、日本の医療の方面も健康保険制度の
破綻の前触れを含めて、高齢社会の到来というかつてない難問を抱え、将にダブルパンチを食らった形
でうごめいている。
ここで、何か解決策を探ろうとするときに、人は歴史を考える。必ず過去に問いかけ、過去を確かめ
ながら前へ進むというのが王道であろう。
みなさまが、それぞれの立場から夫々の思いを以て、将来に向けての明るい医療を模索するためにこ
こで真剣に考えなければならない。
今、日本の現状の対応で何が恐いかといえば、一部の指導者ではあるが、かつての甘い良いおもいの
余韻に酔いしれて、夢よもう一度と姑息的な対応策にきゅうきゅうとして、時の流れとしての健康の価
値観、世界観の新しい変化に対応しようとさえしない点だ。
ここで、医療の問題を考える場合、時代の推移の必然性の延長線上に浮かび出てきた、国民が権利と
して健康を要望している中で、それに医療がどうかかわっていくかを基本に据えて考えていく必要があ
る。というのは、医療という概念の中で、時代の流れが非常に大きく変わっているのである。
世界の医療の流れの中で、改めて日本の医療の流れを段階的に捉えてみると、大きく三つの流れのプ
ロセスと捉えられる。①中国伝来の中国医学を日本人にフィットした鍼灸・漢方として改善・改良し定
着。②明治以降の所謂自然科学を根拠と主張する西洋直輸入型の「人間不在の病気」を対象とした高価
な医療。③これから21世紀に繰り広げられるであろう個人的な、人間的な、地域的な、多様な人間のニ
ーズに対応する医療。
「③のような医療は理想的であって、そんなに簡単に実現するものではない」とお考えの人も多いか
と思われるが、世間知らずの小生がいうのではなくて、WHOを始めとして多くの世界の識者が予想し
ているのであり、その証拠に、すでに予兆としてAlternative Medicine ・Complementary Medicine などの嵐
が吹き荒れ始め、時代は着実に駒を前に進めているのである。
東洋医学は、現在の医療の時代を抜け出して、次のステップで充分な役割を果たすことが出来る素材
は沢山抱えている。しかし時代の流れの本質に呼応する様に、東洋医学自体の見直しを含めて、如何に
厳しく対応するかに東洋医学の将来がかかっている。健康保持をするための軽い病気や虚弱体質がメイ
ンテーマであった漢方や鍼灸は今までは通用していたかもしれないが、これからの世代ではそのままで
は通用しない。古典派だの中医学だの科学派などとクダラナイがんじがらめの呪縛を解いて、時代の流
れの中での使命を再確認して、新しい鍼灸としての進化・拡大の為の検討を願うものである。
この世紀の変わり目の記念大会が、「新しい時代の鍼灸」の第一歩を確実に踏み出せる事を、みなさ
まと共に祈念致します。
2A(B)14
特別講演3
鍼灸の起源を考える
国立民族学博物館教授
吉 田 集 而
鍼灸は中国医学のひとつとして発展してきた。しかし、皮膚の一部に刺激を与えて病気を治療すると
いう方法は中国にしかなかったのであろうか。
1991年、オーストリアとイタリアの国境付近のアルプスで約5千年前にクレバスに落ちて死んだ男性
の遺体が偶然見つかった。氷の中で凍結されており、ほぼ完全な形で私たちの前に現れた。この遺体は
さまざまな点できわめて興味深いものであったが、今回のトピックにおいても興味深い事実をもたらし
てくれた。この遺体では皮膚が完全に残されていた。そして、腰やふくらはぎ、足首に入れ墨のような
跡が見られた。それでは何のために、身体のこのようなところに刺し跡があったのか。そのひとつの可
能性は、治療目的であったということである。
実のところ、刺し跡と入れ墨とはほとんど同じものである。骨や歯、木、棘などで皮膚を刺し、そこ
に煤から取られた墨が刷り込まれる。ただし、こうした方法ではなく、アイヌの人々の間で見られたよ
うに、黒曜石で皮膚を小さく切り、そこに色素を刷り込むという方法もある。この方法はむしろ瀉血を
連想させる。さらに、皮膚の黒い人々の間では、黒い色素を刷り込んでもさほど目立たない。そのた
め、傷口を盛り上がらせるような斑痕装飾が一般的である。もしも、針のようなもので刺すことが先に
あって、それからその刺し跡に色素が入ったとすると、入れ墨と針治療は同根ということになる。ま
た、瀉血からも入れ墨が派生してくるし、皮膚の黒い人々の間では斑痕装飾へと発展していったと考え
ることができる。
鍼灸治療の考古学的な証拠を探すことはきわめて難しい。道具としての刺すものは、針治療として特
定することは容易ではない。しかし、入れ墨ならば少しは資料がある。エジプトやアルタイ地方では入
れ墨をしたミイラが見つかっており、少なくとも4千年前には入れ墨があったことが確認できる。ま
た、縄文時代の土偶には入れ墨をしていたと思われるものが多数見つかっている。さらに、西洋と接触
する前には多くの民族で入れ墨をしていたことが記録されている。先に見たようにヨーロッパにおいて
も入れ墨が見られたし(キリスト教の普及によって消えた)、中近東にも入れ墨があった。そして、北
アフリカの民族にも見られるし、インドから東南アジア大陸部、オセアニア、ボルネオ、フィリピン、
台湾、日本、北海道、シベリア、アリュート列島、北アメリカの太平洋東岸、メキシコ、アマゾンの一
部まで入れ墨が見られる。これらの入れ墨を行う多くの民族の間では、入れ墨のひとつの目的は病気治
療であった。
もし、入れ墨の前駆として針治療があったとすれば、針治療は中国だけのものとはいえない。皮膚を
針で刺すという技法が、ひとつは針治療に、そしてもうひとつは身体装飾に発展していった。中国の鍼
灸というのは治療に特化した例であり、オセアニアなどでは身体装飾に特化した例と考えることができ
るのではないであろうか。
鍼灸と入れ墨とを結びつけて考えられたことはほとんどなかった。しかし、わずかの証拠しかない
が、この両者に関係があったことが推測される。それは鍼灸の起源と関わっているだけでなく、同時に
入れ墨の起源とも関わった話なのである。
3A(B)11
教育講演
精神免疫学の基礎と臨床
山梨医科大学精神神経医学講座教授
神 庭 重 信
生体は、内外の環境を認識し、それに適切に対応すべく生体防御系を保有している。その枢軸を成す
のが、神経(内分泌)系と免疫系である。両系は独立に機能しているのではなく、密な情報伝達システ
ムを形成して相互に調節しあっている、複雑で精緻な生体防御システムであることを知るに至った。
精神神経内分泌免疫学は、このような脳と免疫の(双方向の)連関を背景として、精神機能(精神疾
患も含む)と免疫機能(免疫が関与する疾患を向含む)との相互関係に焦点を当てて研究する学問分野
である。
脳と免疫の連関は決して新しい概念ではない。様々な心理社会的因子が免疫系へ少なからぬ影響を与
えることは、古くから直感的観察をもって語られ、またそれを検証した疫学的研究は枚挙にいとまがな
い。ストレツサーが胸腺、脾臓、リンパ節のサイズを減らすなど機能的にも脳が免疫系に影響を及ぼす
ことは半世紀も前にセリエにより見いだされていた。やがて近代的な実験系を組んだ研究により、脳と
免疫が相互に対話しながら複雑で精緻な活動を営むための構造と機能が明らかになった。すなわち脳
は、自律神経系、神経内分泌系そして体温・摂食・睡眠を介して免疫系に影響し、一方免疫系は、サイ
トカインやペプチドを介して脳機能に影響を与えている。そればかりか、かつて神経系と内分泌系が共
通の情報伝達物質と受容体を共有していることが明らかになったように、神経内分泌系と免疫系も情報
伝達の素子として共通の物質を用いており、そればかりかその作働メカニズムにおいても数多くの共通
点があることが発見された。
精神神経内分泌免疫学は、細菌やウィルスなどの病因、遺伝、感情、性格・行動、そして心理・社会
的環境などの多因子が、神経系−内分泌系−免疫系のネットワークの上に、相互に関連しあう結果とし
て、多くの病態が決定されることを詳らかにした。このことはとりもなおさず、多くの疾患が、生物・
心理・社会的に決定されるものであることを改めて強調するものである。
講演では、全人医療の重要性がヒューマニズムにとどまらないことを、精神免疫学の歴史を紹介しな
がら、述べてみたいと思う。
2A15
招待講演
伝統医学は21世紀の健康開発に貢献できるか
WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)所長
川 口 雄 次
はじめに
第三の千年紀に入った西暦2000年の今日、私達は新たな視点をもって人類のあるべき姿を見つめなお
し、その中で生命と健康、私達を取り巻く環境の問題を考える最も良い機会であると思われる。人々の
変わらぬ願いとして健康の問題を今一度突き詰めて考え、その中で問題対処法を中長期的に考案するた
め全力を尽くす必要がある。WHO(世界保健機関)はその約50年の歴史の中で様々な取り組みを行ない、
特に人類の健康水準の向上に役立ってきたが、20世紀の終わりにあたって創設されたWHO健康開発総
合研究センター(WHO神戸センター)は21世紀の健康課題にグローバルに取り組む学際的国際的機関とし
て誕生した。そのWHO神戸センターの責任者として1999年1月から就任した私は、21世紀の健康の課題
を、世界の大きく変化する潮流を捉え、健康はあらゆるセクターと関連する問題であるという観点から
予防的な方策を駆使しつつ、問題解決の方策を短期、及び中長期にわたり考え、特に過去50年から将来
50年程度を視野に見据えながら、人類の全ての人々の健康を更に開発するような活動を進めている。
伝統医学と健康
21世紀の健康を考えるとき、概ね最近の数百年間は西洋医学が世界の主流を占めてきた。しかしなが
ら、現在地域の生活や文化と密接に関係してきた伝統医学の問題をもう一度世界的に様々な方法で検証
する必要ができている。伝統医学は身体全体の調和を重視した全体的、全人的アプローチをとっている
こと、次に人間の健康のなかに占める心や魂の問題を大切な要素として含有していること、更には生活
文化、宗教との関係の中で医学医療が、食生活などを中心とする生活全般として捉えられていること、
そして自然と人間生活の調和の中で健康、疾病、医学医療を考えていることである。
伝統医学の果たす役割は何か
伝統医学がその最も有効な部分において健康に果たす貢献は、世界的高齢化という潮流の中で、個別
の疾患への対応を重視する西洋医学に比べ、全人的な健康を目指せることにある。健康問題は、今後自
己が自らの健康を守る、更に自らの健康を開発するという方向に向かうであろう為、最も自らの体とバ
ランスのとれた形を追求できる総合性のある伝統医学が重要になってくる。また今後の地球環境を考え
たときに、生物学的多様性を残す方向に寄与する伝統医学の果たす役割は大きい。天然自然物を使った
伝統医学のプロセス、そして自然からもたらされる物質の今後の新しい医学、医療への展開の可能性
は、新しい価値観を人類全体にもたらすし、伝統医学は特に多額の費用を必要としない場合が多い為、
明確な経済学的効果もある。
未来への道
伝統医学そのものが持つ価値と伝統医学的なアプローチをとることによる将来への新たな貢献・発展
が考えられる。人間を全人的にみるということ、そして人間そのものと、人間と環境のEquilibrium(均
衡)である健康を目指す総合的なアプローチが我々が求める未来への道である。これは今まで西洋医学
が培ってきたものを否定するものではなく、相互補完的により良い形でお互いに支えあうものであると
考える。伝統医学の未だ解明されていない部分を西洋医学で解決しようとする様々な試みが特に中国医
学などで盛んになっており、こうした実証的な研究をより発展させる必要がある。WHO神戸センター
は1999年に初めて伝統医学を扱った国際シンポジウムを開催し、世界の先進的な伝統医学・医療の現状
を比較・交流する活動をはじめたが、これが2000年には大きな流れとなって国際的な会議を開催し、さ
らには世界中の様々な研究を通じて、WHO神戸センターが一つの大きな役割を果たしていくことが望
まれ、これにより21世紀の健康の開発を更に進めていくことが大切なことと思われる。
2A16
大会長講演
鍼灸と漢方 −その違いと共通性
兵庫県立東洋医学研究所所長
松 本 克 彦
日本では一般に東洋医学或いは伝統医学といえば、鍼灸と漢方が主となろう。ただ一方は物理的治療
法であり、他方は薬物的治療法という基本的な違いがある。そしてこの二つの治療法は、世界中どこの
伝統医学或いは原始医療でも数千年来を通して一般的に見られる治療法といえよう。
現代医学が現在の形を整えてきたのは、せいぜい18世紀頃からと思われるが、物理的治療は、外科手
術を中心に整形における整復や固定、さらにマッサージや運動療法を主とするリハビリテーションが一
つの流れとなり、薬物療法は純粋な化学薬品の抽出とその服用、或いは注射、食事療法は栄養学という
ようにまとめられてきた。
こうした整理はそれなりに医学を大きく進歩させてきたが、中国伝統医学が数千年に渉ってまとめ上
げてきた鍼灸と漢方は取り残される結果となった。この理由は結局はいずれも複合効果に基づいた治療
法であり、さらに生体の変化を重視する治療法だからであろう。現代の科学的思考は、現象を単純化・
固定化してモデルを作り、刺激と反応或いは原因と結果を明らかにすることを基盤としている。
そのため鍼灸については主に神経生理学的なアプロ−チが行われ、漢方については有効成分の抽出と
その薬理作用の追求という方向で研究が行われてきた。しかしこうした方向性は、鍼灸或いは漢方の持
つ本来の治療効果とは結びつきにくく、ここにこれまでの科学的方法論の限界があるように思われる。
古代エジプト人やギリシャ人は自然界とその変化を、多くの神々による複合的結果と考えて多神教を
生み出したが、古代中国人も五行や六経に見られるように多元的要因の調和とその変化といった思想を
背景としている。鍼灸では臓腑−経絡説が、漢方では八綱、気血水弁証と各々の主な拠り所は違うとし
ても、素問にみられる自然との調和という精神が基礎となり、365の経穴或いは薬物を用いての組合せ
効果という点では共通している。
科学の発達は確かに人類に大きな恵みを与えてくれたが、同時にこれまでの科学的方法ですべては解
明しうるとの考え方が定着した。しかし絵画や音楽、或いは美術品などの芸術作品の良否が科学的に評
価し得るであろうか。それにもかかわらず万国共通してよい物或いは美しい景色を求めて人々が集ま
る。
最近介護保険導入を契機として医療についての価値観も大きく揺れている。医学も薬学も針灸の世界
も、大きくは福祉の中での位置づけから教育制度に至るまで、何らかの変革を余儀なくされるであろ
う。その中で伝統医学も本来もつ調和の精神をもととして、今一度人類の発展に貢献せねばならない時
期が近づきつつあるようである。
こうした意味から今回の講演では鍼灸や漢方の歴史を振り返りつつ、皆さんとともに考えてみたい。
3B15
シンポジウム 高齢社会における鍼灸の活用
高齢社会における鍼灸の活用
司会 関西鍼灸短期大学神経病研究センター所長
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室教授
若 山 育 郎
矢 野 忠
鍼灸臨床においては最も多い対象が高齢者の患者です。高齢社会を迎えた今日、この傾向は益々強く
なるであろうと思われます。そういったことから今回のシンポジウム「高齢社会における鍼灸の活用」
が企画され、そのシンポジストとして老年医学の専門の立場から森先生(京都府立医科大学)を、高齢
者患者への鍼灸医療を実践している立場から松本先生(明治鍼灸大学)と山岡先生(愛媛県立東洋医学
研究所)を迎えることになりました。
本シンポジウムでは、森先生には老年医学の専門の立場から高齢者患者をどのように捉え、その治療
はどうあるべきか、また高齢社会における鍼灸医療の活用についての話をしていただきます。更に高齢
者患者の診療に当たって鍼灸師としてどのようなことに留意しなければならないのか等についても話が
伺えたらと思います。
一方、松本先生と山岡先生には、高齢者への鍼灸治療を実践している立場から、鍼灸治療の有効ある
いは有用について話をしていただきます。特に松本先生には特別養護老人ホーム及びケアハウス等の施
設における鍼灸治療の実践とその成績について紹介していただき、鍼灸医療の役割について話をうかが
います。山岡先生には地域医療における高齢者に対する鍼灸治療の実践とその成績について紹介してい
ただき、地域医療における鍼灸医療の役割について話をうかがいます。
本シンポジウムでは3人のシンポジストからの報告を受けて、鍼灸医療はこれからの超高齢社会の中
でどのような役割を担うことが出来るのか、その可能性は、などについて司会者、シンポジスト及びフ
ロアとの活発な討論を通して、一つの方向性が呈示できればと考えています。
以下にシンポジウムの展開を示します。
第1部 シンポジストの紹介と本シンポジウムの目的について......... 司会者より
第2部 各シンポジストからのプレゼンテーション............................. シンポジストより
第3部 討論、途中指定発言者(福田文彦、明治鍼灸大学)より高齢者の心理・精神状態に対する鍼
灸治療の効果についての発表
第4部 本シンポジウム「高齢社会における鍼灸の活用」のまとめ
3A(B)13
シンポジウム 高齢社会における鍼灸の活用
1.老年医学の立場から
京都府立医科大学 附属脳・血管系老化研究センター
神経内科老年内科学講師
森 敏
国連によれば、65歳以上の人口(老齢人口)が全人口に占める割合(高齢化率)が7%になった時、
その社会を「高齢化社会」と呼びます。14%になると、「高齢社会」に入ったと云います。わが国の老
齢人口は、1970年に7%になり、1994年には14%に達しました。したがってわが国は、もう「高齢社
会」に入っていると云えます。高齢者は今後も増えつづけ、2025年には高齢化率は27.4%となり、世界
一の老人大国になると予想されています。このように高齢化が進むなか、障害を持つ高齢者もますます
増加すると考えられています。
障害性老人に適切に対応していくためには、高齢者に特有の病態を知っておくことが大切です。老年
医学では、次の5つのものが重要であるとしています。すなわち、「痴呆 Intellectual impairment」、
「尿失禁 Incontience」、「転倒 Instability」、「不動 Immobility」、「医原病 Iatrogenic」で、これは
「5Is」と呼ばれています。そこで、これらの状態を改善させる方法であれば、いずれも高齢社会では
大きな役割を果たし得ると考えられます。
上記の状態を引き起こす疾患としては、次のようなものがあげられます。脳血管疾患、パーキンソン
病、痴呆、脊髄小脳変性症、慢性関節リウマチ、変形性膝関節症、後縦靭帯骨化症、骨粗鬆症、脊柱管
狭窄症、糖尿病性神経障害、閉塞性動脈硬化症などです。これらの疾患は神経系あるいは運動系の障害
のために運動障害をきたすものが多く、主に神経内科や整形外科で取り扱われる疾患です。これらの疾
患を見ていただいても、鍼灸治療がアプローチできる疾患が多いことがお分かりいただけると思いま
す。
高齢者医療ではもう一つ重要な視点があります。それは高齢者を自立度から捉えることです。高齢者
が疾患に罹患した場合、死亡することが問題ではなく、心身の自立が奪われ要介護状態に陥らしめるこ
とが問題であるといわれています。したがって、たとえ疾患を完治させることはできなくとも、自立度
を高く保てる方法であれば、有用であるといえます。老年医学が目指すところは、単に寿命を延ばすこ
とではなく、高齢者の自立度を高め、死亡前の要介護期間をつとめて短くすることにあります。この点
においても、鍼灸医学は大いに貢献できると考えます。
以上、高齢社会における鍼灸の活用範囲はきわめて広く、皆様の積極的な取り組みを期待しておりま
す。
3A(B)13
シンポジウム 高齢社会における鍼灸の活用
2.高齢者に対する鍼灸治療の実践の立場から(1)
明治鍼灸大学老年鍼灸医学教室教授
松 本 勅
長寿であっても、心身の苦痛を抱え、日常生活が不自由であったり不快であっては長寿を享受してい
るとはいえない。演者らは特別養護老人ホーム(特養)及びケアハウス居住の寝たきりあるいは虚弱高
齢者を対象に鍼灸治療を行い、高齢者の心身の状態の改善、QOLの向上に鍼灸がいかなる役割を果たし
得るかを検討しているので、主な結果を示し、高齢者への鍼灸の活用について述べてみたい。
1.愁訴の変化
平成9年度、36名(特養19名、ケアハウス17名、67∼94歳)に、愁訴に応じた治療(局所、循経取
穴、全身調整)を、原則として週1回行い、年度最終治療日の治療直前における聞き取り調査を行っ
た。その結果、苦痛の程度のペインスケールは、肩こり、腰痛、肩関節痛、股関節痛、膝関節痛、下肢
痛、頸肩部痛、臀部痛等の疼痛は4∼6割に軽減し、食欲不振、咳・痰、足冷えなどは約3割に軽減す
るなど、軽減あるいは消退して改善を示したものは約8割を占めた。改善がみられなかった者も、その
ほとんどが治療後の一定期間(多くは1∼3日間)は軽減して楽になると述べており、高度の慢性・退
行性疾患を有している場合でも、持続効果は小さいものの直後効果は得られていることが分った。
2.全身状態、気分、睡眠、食欲、通便、歩行、ADL等の変化
同様に、聞き取り調査により調べた全身状態は、身体が軽くなったり、疲労、倦怠感等が改善した者
が7∼8割を占めた。また気分がゆったりするものが8割、睡眠状態の改善が6割、食事の状態や食欲
の改善が6割強、便通の改善が約4割にみられ、また歩行、ADLにも改善がみられた。
3.歩行速度、姿勢の変化
特養とケアハウスの22名の5週間10回の治療前後の7m歩行速度が、治療直後及び治療期間後に約2
秒改善し、起立姿勢は、背腰部の鍼治療直後に前傾姿勢や円背が改善した(写真撮影)。
4.考察及び結論
治療により、①疼痛が改善する、②全身状態が改善する、③気分がゆったりする(リラックス)、④
食欲、睡眠、便通、疲労等が改善する、⑤姿勢が改善し歩行状態も改善する等の効果がみられ、さらに
⑥日時、曜日等に無関心であった者が曜日や時間を周囲に確認して治療を待つようになり、生活のリズ
ムを取り戻す効果もみられた。これらのことから、鍼灸治療は疼痛の軽減によるADLの改善だけでな
く、心身全体の状態を良くし、日常生活の快適さや活動性を回復するのに役立ち、ひいてはQOLの向上
に役立つ有用な治療法であると考えられる。
3A(B)13
シンポジウム 高齢社会における鍼灸の活用
3.高齢者に対する鍼灸治療の実践の立場から(2)
愛媛県立中央病院東洋医学研究所
山岡傳一郎
私共の東洋医学研究所では、“灸療の運用と指導”を活動の主柱としている。一般に高齢者のかかえ
る健康課題は、多数であり、専門的発想のみでは解決しがたい問題が多い。また、今後さらにすすむで
あろう経済的逼迫状態においては、灸療を中心とした東洋医学を用いることはセルフケアやファミリー
ケアに有用であると考えられる。しかも、それは単に経済的理由のみならず、老齢化という人間本来の
運命に対して、より自然な形で対応する方がよいのではないかという住民自らの賢明さに即応するもの
であると思われる。
私共は、平成8年度から西海町国保総合健康づくり推進事業の一環として、「灸療による健康づくり
事業」を実施している。西海町は愛媛県西南端の人口3,623人、高齢者割合33.5%の過疎地域である。こ
の活動の中で私共が実践し、感じたことを報告したい。
毎月1回、灸療を希望する住民を地区公民館などに招集して行う灸療指導と在宅往診による灸療指導
を実施してきた。現在まで約250人の集団個別灸療指導と約20人の在宅往診による灸療指導および健康
教育講演などを実施してきた。灸療指導の実施方法は、
①時系列分析法により、灸療を希望する住民の総合的健康調査を実施(初診時)
②穴位所見にもとづく反応点の取穴(沢田流太極療法および深谷灸法の運用)
③灸療指導並びにお灸日誌記入説明
④経過チェック
再診時に行う、④の経過チェックは、地区のヘルパーや西海町健康推進員によって実施された。また、
灸点取穴後の施灸は鍼灸師指導もとで住民がお互いに出来るように工夫した。
病院の中から飛び出して、地域に出かけて灸療を実践するとき、私共は西洋医学はもちろん鍼をさえ
も持たない、マジック一本の灸点師としての心意気である。それは、幸いにも私共のツボ認識を高めて
くれた。そして、私共の高齢者への理解は、その苦しみ(生活苦)→その明るさ→その強さ→その威厳
への敬意と変化していった。勿論、同じ地域における個々の住民のおかれる環境の差は大きく、正直
言って私共の実践の無力さを実感し虚無感さえ抱くこともある。しかし、診療を終えて帰路に発つと
き、いつも何か私共は教えてもらっているのだなと感じることができる。それが、今後の新しい医療を
考えるためのヒントになりそうである。
3A(B)13
セミナー1 ここまでわかった鍼灸医学 −基礎と臨床との交流−
「内臓痛・消化器機能・消化器症状への鍼灸の効果」
内臓痛・消化器機能・消化器症状への鍼灸の効果
−本セミナーのめざすところ−
コーディネータ (社)全日本鍼灸学会研究部長、明治鍼灸大学教授
川喜田健司
本セミナーは、基礎と臨床分野における鍼灸研究の現状を「消化器系」にしぼり、なるべく分りやす
く紹介することを目的として企画しました。従来の基礎と臨床との対話をめざしたシンポジウムは、あ
るテーマに関して発表者が自説を紹介し、その後、それぞれの立場に立って意見交流を行うというのが
一般的であったと思います。今回のセミナーは学会の認定講習のひとつになっていますので、発表者の
各先生方には、自分の専門とされている領域について、現時点で報告されている鍼灸研究の文献を、わ
が国を含め世界的な規模で集めてもらい、その内容を総括的に解説してもらうことを依頼しています。
このような作業は、鍼灸の作用機序、またその臨床効果を適切に評価する上では不可欠なものであ
り、1997年に報告されて大いに話題となったアメリカのNIH(米国国立衛生研究所)の声明も、基本的
には同様の手順を踏んで作成されたものです。言い換えれば、鍼灸の有効性を明らかにしている質的に
レベルの高い論文がいくつあるかが、その評価の基準になるわけです。
今回の発表者の先生方は、それぞれの領域で優れた研究業績をあげておられる方ばかりです。そこ
で、現時点で知り得る限りにおいて、今回のテーマである「内臓痛・消化器機能・消化器症状への鍼灸
の効果」について、どれくらいのことが明らかにされているのかを分り易く概説していただき、その中
にご自身の研究の位置づけを明らかにしながら紹介していただく予定です。
このようなセミナーを通じて得られた資料は、日本の鍼灸研究の現状を概括するためには不可欠であ
り、今後さまざまなテーマに応じて関連する資料を系統立てて収集し、会員諸氏に利用していただける
ようなものにしていきたいと考えています。このセミナーに参加される先生からも、情報を提供してい
ただき、充実したデータベースを確立し、その成果を世界に向けてインターネットを通じて発信するこ
とで、これまで日本語で書かれた研究論文がほとんど評価されていないという現状を打破するきっかけ
にしたいと考えています。ご協力をお願いします。
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セミナー1 ここまでわかった鍼灸医学 −基礎と臨床との交流−
「内臓痛・消化器機能・消化器症状への鍼灸の効果」
1.内臓痛に対する鍼灸刺激の効果
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室助手
角 谷 英 治
内臓痛には、体壁の内面の刺激により生じるものと内臓自身から発生するものとがある。前者は限局
性の鋭い痛みが、後者は局在のあまりはっきりしない鈍い痛みが生じるとされている。内臓痛覚の受容
器は、内臓に存在する自由神経終末であり、主に交感神経系によって伝えられるが、骨盤臓器および食
道、気管は副交感神経に伝えられる。中腔性臓器の痛みに対する適合刺激は伸張、膨張あるいは強い収
縮による内圧の上昇などで、実質性臓器では被膜の急激かつ異常な伸張、内臓平滑筋の虚血、圧迫、炎
症などが適合刺激であると言われている。また、内臓自体の刺激により、同一あるいは他の皮膚分節の
体表に関連(内臓)痛を感じることもあり、古来より鍼灸等ではこれらの部位を診断、治療対象部位と
して有効に利用してきた。
消化管で内臓痛をもたらす原因疾患としては炎症性疾患(胃炎、大腸炎、腹膜炎など)、潰瘍性疾患
(胃潰瘍、十二指腸潰瘍など)、閉塞性疾患(腸閉塞など)、癌などが挙げられる。これらの疾患は、
薬物療法、外科的手術などにより短時間で治癒するものもあるが、早期に適切な治療を行わなければ重
篤な事態を引き起こしてしまう場合も少なくない。そのような情況の中で、腸閉塞により生じる内臓痛
(腹痛)、腸蠕動の異常亢進等は、病態を正確に把握しておけば、充分に鍼灸治療の対象にもなり得
る。そこで本セミナーでは、腸閉塞にともなう内臓痛に対する治療を中心に、鍼灸の効果が現在どれく
らいまで明らかにされているかを、インターネット等を用いて検索した臨床報告、基礎研究より検討
し、これまでの成果、問題点と今後の展望、課題を考えていきたい。
腸閉塞患者に対して鍼灸治療を行った外国語論文をMEDLINE(米国国立医学図書館の文献データベ
ース)で検索してみると8件検出することができる。しかし、日本からのものは1件もなく(中国:4
件、ロシア:3件、アメリカ:1件)、医学中央雑誌で日本語の文献を検索しても1件しか検出できな
い。日本においては、過去、学会の学術大会などでこれらに関する症例発表が行われてきているのであ
ろうが、論文の形になっているものはきわめて少なく、世界にはほとんど認められていないのが現状で
あろう。一方、動物モデルを用いた、内臓痛に対する鍼灸鎮痛効果の作用機序に関する研究も行われて
いるが、その数はわずかである。臨床効果が基礎研究に裏付けられ、多くの人に理解できる形で実際の
臨床の場で用いることができ、応用、発展していくためには、臨床、基礎の両面でさらなる研究を重
ね、論文の形で世界に向けて発表していくことが急務である。
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セミナー1 ここまでわかった鍼灸医学 −基礎と臨床との交流−
「内臓痛・消化器機能・消化器症状への鍼灸の効果」
2.消化器機能に対する鍼灸刺激の効果
筑波技術大学鍼灸学科助教授
野口栄太郎
現在、MEDLINEと医学中央雑誌で「鍼」と「胃・腸」他をキーワードにして検索しますと、約300件
ほどの消化器関係の鍼の論文が検索できます。本セミナーでは出来る限り数多くの報告の結果を踏まえ
て、現在に至る「消化管の鍼灸基礎研究」の成果をご紹介します。
胃運動について、鍼灸刺激と関連の深い体性感覚刺激を用いた研究では、1950年に、Babkinにより麻
酔ウサギの幽門部の動きが抑制されることがすでに報告されています。
その後、佐藤等の研究グループにより麻酔ラットの皮膚刺激による胃運動の反射性反応には、分節性
の交感神経を介した抑制反応と上脊髄性の迷走神経を介した亢進反応があることが証明されています。
鍼刺激についても、徒手鍼刺激(Neuroscience Res.,1993)で腹部刺激による抑制と後肢刺激による亢進
反応の存在が確認され、さらに鍼通電刺激(自律神経,1996)で、興奮する求心性神経線維のうち、胃
運動抑制反応にはA線維が、亢進反応にはC線維が関与することもすでに報告されています。
胃酸分泌については、1979年にナイジェリアのSodipoがAmerican journal of Chinese Medicineに、鍼灸
刺激によってヒト胃酸分泌が抑制されたという臨床研究報告をしています。また、1977年に出版され
た、StuxとPomeranzによる「Basics of Acupuncture」の第4版に、鍼による胃酸分泌反応について結果
の異なる論文が二つ引用されています。一つは意識下のイヌでの実験(Jin:Am.J.Physiol,1996)で、一つ
は麻酔ラットでの実験(Noguchi:J.J.P.,1996)です。胃酸分泌のようにストレスの影響を受けやすい器官
の反応には実験方法の違いにより結果が異なる報告もあります。
腸管の運動について、1929年に藤井がウサギに小児鍼を施し腸管運動の抑制を肉眼で観察(大阪医学
会雑誌)しています。また、腹部皮膚刺激による麻酔ラットの小腸運動の抑制(Koizumi:Brain
Res.,1980)、および十二指腸運動の抑制(Sato Y:Neuroscience Let.,1996)、鍼刺激で麻酔マウスにおけ
る小腸運動の抑制・亢進(岩:明治鍼灸医学,1990)などの報告をご紹介する予定です。
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セミナー1 ここまでわかった鍼灸医学 −基礎と臨床との交流−
「内臓痛・消化器機能・消化器症状への鍼灸の効果」
3.消化器症状に対する鍼灸治療の効果
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室助手
今 井 賢 治
消化器症状に対する鍼灸治療の臨床効果については、吐き気や嘔吐に対する検討がこれまでに数多く
なされており、それらの成果の一部はNIHの声明文で取り上げられ、鍼の効果として認められるに至っ
ている。その他、MEDLINEや医学中央誌で文献を検索する限りでは、胃潰瘍、イレウス、アカラシ
ア、胃アトニー、過敏性腸症候群などに対して鍼治療を施行している報告が見られるが、いづれも症例
数が少なく、その臨床効果を客観的に示すには至っていない。
一方、ヒトの消化器機能に対する鍼灸刺激の効果を明らかにするための実験研究を展望すると、特に
胃機能に対する鍼の作用を検討したものが多く見受けられる。ヒトの胃酸分泌動態に関する報告では、
偽食事負荷(sham feeding)や薬物の投与によって引き起こされる胃酸分泌の亢進が、鍼刺激や鍼通電
で抑制されることがTougas(1992)、Lux(1994)らの報告で一致した見解が示されている。
また、ヒトの胃運動に関しては、透視下で胃を観察しながら刺激すると蠕動運動の発現することが映
像で示され、多くの興味を集めたことがあった。最近では、新しい評価方法として胃電図を指標にした
報告が散見されるようになり、腹部への鍼刺激が胃電図を抑制するという報告(今井:1998)、鍼刺激
の部位によっては胃電図の亢進が得られるという報告(Xing W:1998)などが見られ、鍼刺激に伴う
ヒト胃運動の変化については一致した見解は未だ得られていない。また、器質的な病変がないにもかか
わらず、消化器症状を訴える機能性胃腸症患者(functional dyspepsia)では、胃電図に異常波形の出現
することがすでに知られており、Lin(1997)、Chen(1998)は鍼治療によりこの異常波形が正常波形
に復することを報告している。
本セミナーでは、(1)消化器症状に対する鍼灸治療の臨床報告を展望し、(2)特にNIHの声明文で取り
上げられた、吐気・嘔吐に対する鍼治療の効果が如何なるevidenceに立脚しているのかを紹介する。ま
た、(3)上述のヒトでの研究成果が、鍼灸の臨床効果を裏付ける上で、どのように結びついてくるのか
を考察し、この領域における現在の問題点と今後の可能性について考えてみたい。
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セミナー2 女性と鍼灸
女性と鍼灸
本セミナーのめざすところ
司 会 筑波技術短期大学教授
形 井 秀 一
戦後、特に、過去30年間の鍼灸研究の主体は、痛みに対する研究であり、臨床現場では運動器系疾患
に対する治療が大半を占めるのが日本の鍼灸の現状である。例えば、筑波技術短期大学附属診療所の初
診患者6,833名(1992年から5年間)の主訴のうち、運動器系の愁訴が占める割合は75%以上であり、
他の多くの鍼灸業態調査でも同様の傾向が報告されている。
現在の日本の鍼灸研究や臨床は、内科系の疾患を対象とする割合は低く、また、今回のセミナーを対
象とする産婦人科領域の疾患や症状の鍼灸臨床もあまり行われていないのが実状である。技術短大の主
訴別統計でも、月経障害・不妊・逆子など産婦人科領域の訴えを主訴とする患者は1.1%に過ぎなかっ
た。
産婦人科領域の症状を主訴とする女性患者の割合は低いが、一方で、鍼灸治療院を訪れる割合は、男
性よりも女性患者の方が高く、一般的に6割前後であると考えられる。
ところで、言うまでもなく、男性と異なり、女性は受胎と分娩を経て、子育てを行うが、その前提と
して定期的な月経が存在し、妊娠期間がある。従って、そのために必要な解剖・生理的な構造および機
能を有し、また、ホルモン系・神経系(特に自律神経系)・循環器系などが、複雑にその機能を及ぼし
合っている。
その複雑さが、母性を有することの意味ではあるが、それは、時に、様々な疾患や愁訴を発生させる
要因ともなる。人類は、その歴史の初めから「女性」に特有に生じる様々な疾患を抱えており、医療は
その誕生から、それら女性特有の疾患を対象とした治療を模索し続けてきた。東洋医学においても、女
性が有する疾患に対する治療が古くから行われてきたことは、良く知られていることである。
本セミナーでは、鍼灸が女性生殖器に及ぼす影響に関する基礎的研究、また、臨床的な内容として、
婦人科領域および産科領域における様々な疾患・愁訴に対する鍼灸治療の実際について解説する。
また、妊娠中の鍼灸治療の安全性についても言及する。
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セミナー2 女性と鍼灸
1.子宮の神経性調節
筑波大学附属盲学校教諭
志村まゆら
はじめに
子宮の研究は歴史的にはホルモン性調節を中心に行われてきた。19世紀まで、多くの解剖学者は妊娠
子宮にはほとんど神経が存在しないと考えていたが、近年子宮の神経支配が明らかとなり、ラット子宮
の神経性調節に関する研究が大きく進んできた。16年前に、女性神経生理学者Karen Berkley、Ann
Robbinsと佐藤優子氏のグループがラットを用いた子宮の神経性調節の研究を始め、子宮平滑筋や子宮
の血流を調節する遠心性神経、子宮の情報を刻一刻と中枢に伝える求心性神経、さらに鍼灸と関わりの
深い体性感覚刺激による反射性反応などを明らかにしてきた。本セミナーでは、ヒトとラットの子宮の
構造と神経性調節について概略を述べ、子宮の自律神経調節に関するラットを用いた生理学研究の流れ
を紹介する。
子宮の神経分布
ラット子宮は下腹神経が子宮体部と子宮頸部に、骨盤神経が子宮頸部と膣に多く分布する。いずれの
神経も遠心性・求心性神経を含んでいる。さらに子宮筋層および子宮内膜に分布する血管に沿って、ア
セチルコリン、ノルアドレナリン、CGRPに免疫活性を示す線維が見いだされている。しかし妊娠末期
には、子宮筋層の血管に分布する神経を除いて、子宮体部に分布する神経線維はほとんど消失する。
子宮の運動と血流
非妊娠時のラット子宮の機械的刺激は自律神経求心性線維を興奮させる。子宮体部と膣部では興奮す
る神経の種類が異なる。子宮平滑筋の収縮は、下腹神経および骨盤神経遠心路の刺激に誘発される。下
腹神経遠心路の興奮で子宮血流は減少し、骨盤神経遠心路の興奮で血流が増加する。
体性感覚刺激が子宮に与える影響
仙髄支配領域の会陰部や後肢足蹠の皮膚侵害性機械刺激は子宮血流を増加させる。会陰部のみは非侵
害性機械刺激でも血流増加を起こす。
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セミナー2 女性と鍼灸
2.婦人科領域と鍼灸治療
筑波技術短期大学鍼灸学科教授
形 井 秀 一
婦人科疾患は、月経周期と密接な関係にある。松本は、基礎体温を7型に分類し、型毎に黄体ホルモ
ン分泌の状態と関連づけた。本演題では、松本分類を踏まえ、最初に、月経周期とその意味、また、そ
の指標として用いられている基礎体温について述べ、さらに、月経周期に鍼灸治療がどのように影響を
及ぼすのかを基礎体温表を示しながら、具体的に紹介する。
婦人科疾患に対する鍼灸治療の報告は、月経不順、月経前緊張症、月経困難症、不妊、冷え症、更年
期障害などが主なものであるが、月経前緊張症および月経困難症、不妊、冷え症などについてこれまで
の報告のまとめを行い、自験例を紹介する。
最も一般的な愁訴と考えられる月経不順は、ホルモン療法等の西洋医学的な方法で治療を行っている
場合が少なくない。しかし、長期にホルモン連用を避けたいと鍼灸治療を受ける女性も増えている。月
経不順の患者に対する鍼灸治療の有用性は、単にホルモン分泌に対する効果の面からのみではなく、生
理周期に伴う様々な自律神経症状、不定愁訴なども含めて考えるべきであろう。
また、冷え症はいくつかにタイプ分けが可能であるが、いずれにせよ、末梢循環の不全状態であり、
自律神経の失調状態、すなわち、交感神経緊張状態が考えられる。鍼刺激は、副交感神経緊張をもたら
し、交感神経の緊張を抑制するので、冷えの改善に効果があるものと考える。
ところで、婦人科疾患の際の東洋医学的な病態の把握の方法は幾つか考えられるが、演者は、触診に
よる体表所見の把握を重視している。中でも、内臓−体性反射を始めとする神経系を考慮すると、Th10
∼L2領域とS 2∼3領域に現れる緊張や圧痛、硬結などが注目される。それらも含め、婦人科疾患の際に
経験上重要視している体表所見について紹介する。
さらに、婦人科領域で東洋医学的に独特な概念として「m血」がある。東洋医学においては、人の血
の循環が良くない状態をm血と表現し、婦人科領域においては、疾患原因の重要な要因と考えられてい
る。m血の際には、臍の周囲や下腹部に触診上独特の腫張が触れたり、同部の圧痛を患者が感じる。富
山医科薬科大学の寺澤らの所見の点数化の試みも示し、「m血」の考え方についても紹介する。
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セミナー2 女性と鍼灸
3.産科領域と鍼灸治療
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
○矢 野 忠
笹岡 知子
産科領域での鍼灸治療は、古来より安産灸や逆子の治療に代表されるように様々な局面で用いられて
きた。特に妊娠中は薬物療法が制限されるだけに有効な非薬物療法が求められ、鍼灸治療に期待が寄せ
られている。そこでこれまでに行われた産科領域における鍼灸治療の臨床研究の紹介と今後の展望につ
いて述べる。
1.つわり
悪心・嘔吐に対する内関穴の効果について概ね有効としている。しかし、研究方法において心理的な
効果の介入が否定できていないとの指摘もあり、更に今後の研究がまたれる。
2.逆子(骨盤位)
逆子については、古くから至陰の灸が用いられてきた。今日でも逆子の矯正に至陰穴は積極的に用い
られている。ここではCardini F.らによるRCTの研究成果を中心に逆子の臨床成績及びその機序につい
て紹介する。
3.早産
最近、切迫早産の管理として灸療法は他の薬物療法や点滴との組み合わせでより有効なものになると
の報告がある。それらを中心に早産の管理における灸療法の有効性について紹介するとともにその作用
機序について述べる。
4.陣痛促進(増強)・分娩時和痛・分娩時間短縮
微弱陣痛、和痛、分娩時間短縮など分娩時の種々のトラブルの対処に鍼灸治療がどのように応用され
ているかを紹介するとともにその有効性を検討する。 5.乳汁分泌不足
産褥期の妊婦に最も利用されるのが乳汁分泌不足の鍼灸治療である。これまでの成果について紹介す
る。
そもそも出産は成熟婦人において生理的な現象であり、誰もが正常な分娩が可能である。しかるに最
近は微弱陣痛などのマイナートラブルを訴える妊婦が増えてきているという。しかも治療においては薬
物療法が制限される状況だけに有効な非薬物的な治療が求められており、鍼灸治療への期待も大きい。
鍼灸治療は、その治療原理を自然治癒力の賦活においていることから産科領域での応用は広いと考えら
れる。しかし、最も重要なことは妊婦のQOLの向上と妊娠中の種々のトラブルの予防である。そのため
にも妊娠前からの体調の調整維持が重要である。すなわち女性のライフステージにあわせた女性医学と
しての鍼灸医学の研究が重要となる。今後、このような視点に立った研究により、未病治としての産科
鍼灸が確立することが必要であると考える。
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ランチョンセミナー
働く女性の健康管理
大阪労災病院産婦人科医長・勤労女性メディカルセンター
田所千加枝
女性の社会進出がとりざたされるようになっていたのにも関わらずその速度は非常に緩慢でありまし
た。その理由の一つに労働時間などの規制や職種の限定がありました。昨年、改正された男女雇用機会
均等法により充分とはいえませんが緩和されました。しかしこの改正を手放しで喜んでよいのでしょう
か?深夜労働が可能となり、職種の幅が拡がり働く女性にとっての労働環境は体力的には以前にもまし
て厳しくなりつつあるのではないでしょうか?そんな中で女性特有のライフサイクルを見据えた上での
健康管理が必要なのです。
わたくしども産婦人科医は常に女性のライフスタイルに追随して発生する健康上の問題に取り組んで
おりますが、はたして病気の予防や日常の健康管理の指導、ひいては病気以前の体調不良といわれる状
態を訴えられておられる、働く女性の皆さん一人一人が満足するまで話を聞き改善しているかどうかに
は疑問が残ります。
この問題を解決すべく勤労女性メディカルセンターで活動を続けておりますが、単一の診療科や単一
の医療機関のみではなくあらゆる分野の組織と協力して働く女性のニーズに応えていくことが必要と考
えるに至りました。
鍼灸の世界でも女性鍼灸師の増加に伴い、活躍が期待されているとのことで、働く女性である女性鍼
灸師のみなさんとともに、勤労女性の健康管理を自らの問題として取り組んでいければ幸いと考えてお
ります。
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研究部・安全性委員会企画 鍼灸臨床における過誤と対策
鍼灸臨床における安全な治療
−1999年に配付された世界保健機関(WHO)の鍼の安全性に関する指針を踏まえて−
明治鍼灸大学教授
尾 崎 昭 弘
患者中心の医療と鍼灸師の義務(倫理)
Hippocratesの誓いを源とする「ジュネ−ブ宣言(1948年9月にスイスのジュネ−ブで行われた第2
回世界医師会−WMA−総会で採択。以後、1968年8月、1983年10月、1994年9月のWMA総会にて
修正)」、「医の倫理の国際綱領(1949年10月にイギリスのロンドンで行われた第3回WMA総会
で採択。以後、1968年8月、1983年10月のWMA総会で修正)」には医師の義務が示されており、
両者は医の倫理基準として位置づけられている。
ヒトを対象とする医生物学的研究に携わる医師に対する臨床試験等での被験者の人権擁護に関す
る勧告としては、「ヘルシンキ宣言(1964年6月にフィンランドのヘルシンキで行われた第18回
WMA総会で採択。以後、1975年10月、1983年10月、1989年9月、1996年10月のWMA総会で修
正)」がある。患者の権利については、「患者の権利に関するWMAリスボン宣言(1981年9月/10
月にポルトガルのリスボンで行われた第34回WMA総会で採択。以後、1995年9月にインドネシア
のバリ島で行われた第47回WMA総会で修正)」がある。
一方、鍼灸における倫理綱領には、1987年11月に中国の北京で行われた世界鍼灸学会連合会
(WFAS)設立総会で採択された「WFAS倫理コ−ド」があり、国内的には1987年4月1日に制定され
た「(社)日本鍼灸師会倫理綱領」がある。ヘルシンキ宣言、世界鍼灸学会連合会(WFAS)倫理コー
ド、(社)日本鍼灸師会倫理綱領に共通する事項は、1)患者の命や健康を守ることを第一とするこ
と、2)患者の信頼に応えること、3)常に新しい知識や技能の吸収・体得に努めること、4)適否
を十分に認識し、不適切で価値のない治療をしないこと、5)過誤を起こさないこと、6)使命感・
倫理観・目的意識をもつことなどである。
治療にあたっては、上述の各宣言や倫理綱領などの制定の意図を十分に理解し、尊守して施術に
あたらなければならない。
鍼灸臨床における安全な治療
近年では、より安全で質の高い医療を求める気運が社会的に定着化するとともに、医療過誤に対
してはその責任を厳しく問う状況にある。安全な鍼治療の実施については、1999年にWorld Health
Organization(WHO:世界保健機関)が「Guidelines on basic training and safety in acupuncture(鍼
の基礎教育と安全性に関するガイドライン)」を示し、国内的には「鍼灸治療における感染防止の
指針(鍼灸治療における安全性ガイドライン委員会編)」が示されている。
鍼灸・柔整・手技業務での患者事故や施術者自身にみる事故などの多くは、予見・回避が可能で
あるにもかかわらず、必要な注意義務(医療勧告・指示義務、安全施術義務など)が欠如して事故
が発生している。
以上のことから、本講では上述の各宣言や倫理綱領等を踏まえながら最初に患者中心の医療、鍼灸師
の義務(倫理)、鍼灸臨床での安全な治療等についてお話し、さらに1999年に配付されたWHO(世界保健
機関)の安全性に関するガイドラインの内容を踏まえながら、(今後に)日本の鍼治療の仕方にはどの
ような改善が求められているのか等々についてお話をしたい。
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研究部・安全性委員会企画 鍼灸臨床における過誤と対策
安全性委員会による和文献調査の報告と意見交換
司会 明治鍼灸大学教授
尾 崎 昭 弘
全日本鍼灸学会研究部・安全性委員会
楳田高士(関西鍼灸短期大学助教授)
江川雅人(明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室助手)
形井秀一(筑波技術短期大学教授)
谷万喜子(関西鍼灸短期大学講師)
鍋田理恵(関西鍼灸短期大学講師)
濱田 淳(筑波大学講師)
宮本俊和(筑波大学助教授)
山下 仁(筑波技術短期大学附属診療所助手)
山田伸之(明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室講師)
発表内容
1. 総論...............形井秀一
4. 気胸...............山田伸之
7. 基礎研究.......鍋田理恵
2. 折鍼.................宮本俊和
5. 感染.................楳田高士
8. 安全管理.........濱田 淳
3. 神経障害.......江川雅人
6. 灸...................形井秀一
9. 総括...............形井秀一
1.はじめに
鍼灸は「副作用が無く安全である」と言われて来たが、副作用や過誤は皆無ではない。しかし、それ
らがどの程度発生しているのかは、これまでまとまった報告がない。全日本鍼灸学会研究部・安全性委
員会は、日本における鍼灸の有害事象に関するデータを収集し、整理・検討したので報告する。
2.発表内容
(1)対象
鍼灸に関するいわゆる和文献で、有害な事象についての学術論文、および、鍼灸臨床上の有
害事象に関する管理・予防、また、実験、調査研究、啓蒙等、関連する論文もすべて含むこと
とした。その結果、1998年3月31日までに、242タイトルが確認でき、233論文を入手した。
(2)論文収集方法
論文収集方法は、以下の4つであった。
①JOIS(データベースはJMEDICINE)で、東洋医学(ハリ・キュウ)、医療過誤、感染をキ
ーワードとして検索(1981年度以降の医学・薬学分野をカバー)
②医学中央雑誌のCD-ROM版で、ハリ、キュウ、過誤、感染をキーワードとして検索(1989
年以降をカバー)
③安全性委員会の委員が所蔵していた論文
④以上の①、②、③の論文の参考・引用文献からのいわゆる孫引き
(3)検討方法について
総論として、掲載誌の種類や数、年次推移、また、気胸、折鍼、感染などのジャンル別の論
文数と年次推移等を検討し、その後、各論として、折鍼、神経障害、気胸、感染、灸、基礎研
究、安全管理について報告する。
3.鍼灸の安全対策についての意見交換
以上の報告を踏まえ、発表者間、および参加者間等で意見交換を行う。
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実技セッション
実技1.奇経治療
兵庫地方会 鍼灸古典医学研究会会長
進行
萩 原 暉 章 、助手
小 松 秀 明
中 嶋 令 吉
最近、鍼灸臨床で多くの難治性の慢性疾患に出会います。私は臨床経験から、こういった慢性疾患で
は奇経に変動が現われることが多く、また治療においても奇経を用いた方法が有効であるとの考えをも
つに至りました。そこで今回、以上のような経験に基づいて私が日常行っております奇経治療をご紹介
申し上げます。
今回紹介いたします治療法は一般に普及している奇経治療とはかなり趣を異にしております。従来の
奇経治療は、主として『鍼灸聚英』、『鍼灸大成』などの「臓象論」を根拠とし、使用する経穴も八総
穴を主体としたものです。これに対して私の紹介いたします奇経治療は、主として李時珍の『奇経八脉
考』や岡本一抱子の『経穴密語集』などの「陰陽論」に立脚した「九道脉診」による診断・治療法であ
ります。以下に従来の奇経治療と私の行っております奇経治療との相違点および「九道脉診」の特長を
示します。詳細は実技を進めながらご説明いたします。
1.気血・陰陽と正経・奇経の関係
陽
気血:十二経脉の概念で、急性症のときは、十二経脉の変動とし
気
て現れやすい。
陰
血
陽陰:奇経八脉の概念で、慢性症のときは、奇経八脉の変動とし
て現れやすい。
2.奇経八脉の内容と分布
従来の解釈
督 脉 (陽脉の海)
任 脉 (陰脉の海)
→
→
帯 脉
陽維脉
陰維脉
陽l脉
陰l脉
衝 脉
→
→
→
→
→
→
(精汁)
(衛気)
(営血)
(悍気)
(精血)
新しい解釈(私見)
(陽)督脉
(陰)別絡
(陽)陰l脉の内臓枝
(陰)任脉
(陽)任脉の別絡(心系) (陰)任脉の別絡(心系)
(陽)帯脉
(陰)帯脉
(陽)維脉
(陰)維脉
(陽)l脉
(陰)l脉
(陽)衝脉
(陰)衝脉
3.奇経と臓器・器官および機能系統との相関
督 脉
任 脉
陽維脉
陰維脉
陽l脉
陰l脉
帯 脉
衝 脉
:
:
:
:
:
:
:
:
中枢神経系(精神作用)
主要内臓 別絡(心系):動脈系
免疫系(細網内皮系)
造血・循環器系
運動器系
運動器系 内臓枝: 脳脊髄神経系
内分泌・自律神経系
内分泌器官及び脳脊髄神経系の一部
4.「九道脉診法」の特長
(1)九道図
: 九種類の脉道を診る。
(2)内外反此
: 陽陰を診る。
(3)五臓配当図 : 五行性を診る。
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実技セッション
実技2.脈診を主とする鍼灸臨床
古典鍼灸研究会会長
井 上 雅 文
特に伝統鍼灸医学と呼ばれる中国の医学古典の記載に依拠する医療の臨床の実際は、殆ど個人の芸の
如く、経験と個人がその経験を基に工夫してきた技術の上になりたっている故、個々の病に対しても個
人固有のマニュアルがあるだけであって、伝統鍼灸医学としての共通マニュアルは存在しない。同様の
診断法を用いるが、診断技術も個人レベルの善し悪しを問題にしないので、診断結果の共通性は得られ
ない。
そうであっても、シミュレーションされた伝統的な医学理論とフィクションとしての病証・病態把握
に従い治療をすると個人の医療範囲内で上手く治せたという長い優れた業績の臨床の歴史がある。又、
伝統鍼灸は西洋現代医学のように何故そうなったのかを無視して外科手術による患部の切除や痛みを治
して麻痺(病気を変えるだけ)を残したり、部分の病を対象として、全体が病んでいる状態の流感・難
病・生活習慣病・精神神経科領域の病を苦手としない側面がある。従って、当然のことながら扱う病の
領域は全科に及び、どのような症状も病苦も身体全体のシミュレーション理論から眺めるという特徴が
ある。それ故、患者の主訴は重要だが、その主訴を持っている身体全体が受けた病因とその影響下の病
態を把握する診断は不可欠となり、治療法は部分の苦痛に対する対症療法(標治法)とその苦痛を治そ
うとしてその苦痛を顕現させている身体全体のシミュレーション(伝統医学的用語で説明された)に対
する全体療法(本治法)の二つで構成されている。
私の臨床では診断法として二つの脉診法、一つは六部定位脈診、もう一つは脈状診(祖脈による脈
診)を用いている。前者の脈診によって本治法の経脈の虚実を診断し、補瀉する経脈を選び、脈状診に
よって病因・病態を診断し、手足の要穴及び兪募穴を選ぶ。治療法は経験と古医書の記載から対症療法
と脈診による本治法がある。用鍼は30mm或いは40mm、18号鍼である。
2B10
実技3.小児鍼治療
森ノ宮医療学園専門学校講師
進行
鈴 木 紘
奥 田 功
小児鍼治療は、古くから関西地方を中心に、とくに西日本で普及した特殊な治療法である。夜泣き、
疳むしなどの神経症や他の疾患に対しての治療効果はこれまでに多くの学会報告がある。しかし、残念
なことに20年程前より少子化が進み、小児鍼治療も臨床的に激減した。理由はそれだけではないと思わ
れるが小児から夜泣きや疳むしなどがなくなったわけではない。若い両親が、夜泣きの我が子を持て余
し、口に枕を当てて、窒息死させる事件は後を絶たない。若い無知な両親に育てられた小児は悲劇であ
る。昔は、祖母が孫を連れて治療に来たのだが、核家族の時代では少なくなった。鍼灸治療は老人に対
実技セッション
する治療が一般的に見られているが、これからは小児や児童に目を向けて、治療することが、やがてこ
れらの子供たちが、鍼灸人口の増加と鍼灸治療の向上に、大きな原動力になることは確かである。
今回は、小児鍼治療の適応疾患、注意点などを述べながら治療方法を説明し、軽微な刺激と安易な手
技で、大きな治療効果を得ることの出来るこの治療法を会得し、日常臨床に活用して小児鍼治療を広め
ていただきたい。
2B15
実技4.経絡治療
−疲労に対する診断的治療を例に−
大分地方会名誉会長、弦躋塾塾長
司会
小 川 卓 良
助手
首 藤 傳 明
芝 原 敏 市
鍼灸実技担当の経絡治療学会会長岡部素明先生の急逝による代役。先生のご冥福をお祈りすると共
に、経絡治療の実技を通して、その意志の一部でも伝えられればと思う。
中国から伝わった鍼灸医学が日本伝統鍼灸として独自の発展を遂げ、江戸時代後期には中国を凌駕す
る成果を示していた。明治維新によって中断されて100年。古典に還れと柳谷素霊先生を筆頭に諸先生
が経絡治療を創設して60年を越える。古典の理論と技術とを臨床で試しながら構築した治療法は、総て
の疾病に応用できる理想の鍼灸治療体系であり、その要領を会得すれば初心者でもそれなりの臨床効果
を挙げ得る。単純なものから複雑なものまで、かなり巾が広いが、能力と経験に応じて取り入れてほし
い。今回は“疲労”を例にして、診断と治療を進めることにする。
疲労はありふれた症状だが、日本人の3人に1人は慢性的な疲労の訴えがある。21世紀には疲労、抑
鬱に代表される精神疲労が著しくなると予想される。が、原因、発現機序は不明であり、治療法が確立
されていない。東洋医学では〈未病を治す〉という考えのもと、疲れの治療法は明示されている。そし
て私は特に有効な鍼灸の治療法を有している。治療直後に疲労感が消失する治療方式は、すべての患者
の治療に共通する手法であり、「鍼灸治療上達の極意」といえる。
診 断
◎望診
鬱の顔か。元気、艶、眼裂、目の精気、動作 ○聞診
声の力、かすれ
◎問診
疲れ、睡眠、食欲 ○切診
腹診 虚実の部分
◎触診
(切経、切穴)
◎脈診
祖脈で元気の程度を知る。六部の脈状で病む場所と治療法を知る。
証の決定
脾虚証
体がだるい。落ち込む。
腎虚証
根気なく疲れ易い。おどおど。
実技セッション
肺虚証
やる気がない。くよくよ。
肝虚証
気力がない。いらいら。びくびく。
治 療
本治法と標治法 置鍼、浅刺、単刺、超浅刺。特に超浅刺は特効がある。
治療直後に疲れがとれ、やる気ができる。
気至る、気至らせる(催気)法まで話が進められたらと願っている。
2B16
実技5.灸実技 ー透熱灸の基本実技ー
明治鍼灸大学健康鍼灸医学教室教授
助手
中 村 辰 三
岡 本 芳 明
透熱灸は熱を深部まで透す灸であり、直接灸のうち一般に広く行われているものである。今回は大学
での実技の一部を披露すると同時に知熱灸など下記の項目について共通理解を得たいと考えている。
灸実技では初期の訓練法として板などを用いて、米粒・半米粒大の艾sを一定時間内に何壮立てら
れ、点火できるかという訓練をするが、この成果を各自が確認するために大学では温度センサーを用
い、一定の温度の艾sを作ることを訓練している。この灸セッションでは温度センサーによる灸のデモ
を予定している。
1.米粒大の大きさについて
米粒大と言っても術者によりその大きさも種々である。そこで演者は専門学校10校の担当者に米粒大
の艾s各10壮を作ってもらい、その重量を計測したところ、平均1.3mgであった。大阪府の資格試験委
員会では米粒大の大きさを底辺2.5∼3.0mm、高さ1.5∼2倍の円錐形であると取り決めをした。これらの
経緯から大阪4校では米粒大の大きさを底辺2.5∼3.0mm、高さ5∼6mm、重さ1.3mgの円錐形であると
決めた。
2.知熱灸や八分灸について
(1)知熱灸は直接灸の1つで瞬間灸、七分灸ともいわれている。小豆大、大豆大の艾に点火し熱
感を感じたと思われるとき、指頭またはピンセットで艾 sを取り去る。指頭で押し消すこと
もある(鍼灸医学事典:森)。
(2)瞬間灸については糸状の上質艾に点火し、その燃焼が皮膚に及んだ時指頭で押し消して瞬間
的な刺激を与える方法である。(針灸学原論:木下)。
(3)八分灸は一般に米粒大の艾sに点火し、八分まで燃焼させて熱感を感じたと思われるとき、指頭
で艾sを取り去るか、指頭で押し消して瞬間的な刺激を与える方法である。
また施灸時に空気を加減して熱さを少なく感じさせ、小児などにできる施灸法のデモを予定してい
る。
3.熱くない灸法
灸の普及には灸痕が困ることもあるが、いかに熱くなく施灸するかが大切である。その方法が提唱さ
実技セッション
れている。
(1)決して米粒大より大きくせず丁寧に施灸する。
(2)灸をすえるとき竹筒(空ビン)で圧迫する。
(3)艾を柔らかくひねり硬くひねらないこと。
3B9
実技6.経絡治療の臨床刺鍼実技
経絡治療学会副会長、明鍼会会長
岡 田 明 祐
1.管鍼法の刺鍼に就いて
「管鍼法の開祖杉山和一翁、高第島浦総検校益一刺鍼技法」の一端を披露し、現代の刺鍼治療家の刺
鍼技法に裨益する事あらばと敢えて供覧する。
2.臨床刺鍼実技供覧
3B10
高木賞受賞記念講演
鍼刺激によるラット心拍数減少反応の反射機序の検討
筑波技術短期大学鍼灸科学教室
小
林
聰
Experimental research on the reflex decrease of heart rate elicited
by acupuncture stimulation in anesthetized rats
Satoshi KOBAYASHI* Eitaro NOGUCHI* Hideo OHSAWA**
Yuko SATO** Kazushi NISHIJO*
*Department of Acupuncture, Tsukuba College of Technology
**Department of Physiology,Tsukuba College of Technology
Abstract
The reflex mechanisms of the responses in heart rate elicited by acupuncture stimulation in
anesthetized rats were examined. An acupuncture needle measuring 160μm in diameter was inserted
into skin and the underlying muscles to the hindlimb to a depth of about 5mm and was twisted once
every second for 1 min. A decrease in the heart rate was observed in 55% of 22 trials and in 70% of 20
trials when muscles separated from the overlying skin were stimulated. The response was abolished
completely by cutting the femoral and sciatic nerves. The response was not influenced by transecting of
the bilateral vagi but was totally abolished by transecting of the cardiac sympathetic nerves. Therefore,
we conclude that the decrease in heart rate elicited by acupuncture stimulation of a hindlimb is based
on a somato-autonomic reflex, in which the afferent pathway is composed of hindlimb muscle afferents
and the efferent pathway is composed of cardiac sympathetic nerves.
Key words : heart rate, acupuncture, somato-autonomic reflex, cardiac sympathetic nerve, rat
−全日本鍼灸学会雑誌第48巻2号よりAbstract のみ抜粋− 第3回高木賞受賞者
小 林 聰 (筑波技術短期大学鍼灸科学教室)
野 口 栄 太 郎 (筑波技術短期大学鍼灸科学教室)
大 沢 秀 雄 (筑波技術短期大学生理学教室)
佐 藤 優 子 (筑波技術短期大学生理学教室)
西 條 一 止 (筑波技術短期大学鍼灸科学教室)
3A10:20
一般演題抄録
一
般
口
演
ポ ス タ ー 発 表
本文末のコードの意味
例:2C9_1(第2日 C会場 9:00開始のセッション、第1番目の発表演題)
O-1
筋硬結の検討
−筋硬結形成のメカニズムについての1考察−
森ノ宮医療学園専門学校附属診療所
○湯谷 達、竹中浩司、佐藤正人
森ノ宮医療学園専門学校
尾崎朋文
川村病院神経内科
米山 榮
【緒言】我々は、第46回、47回の本学会に於いて
筋硬結の理学的所見、画像所見、組織所見の検討
を行ってきた。その結果、筋硬結には好発部位が
存在し、同部位の筋組織に筋膜肥厚や脂肪化が存
在している可能性を報告した。今回、更に症例を
重ね、筋硬結形成のメカニズムについて考察を試
みる。
【対象】川村病院における病理解剖例18例(男性
11例、女性7例、平均年齢78.9歳)を対象に、筋硬
結好発部位(第3腰椎高位)の脊柱起立筋組織を
検討した。
【方法】対象の筋組織を約1.5∼2cmの立方体で摘
出し、顕微鏡標本を作製した。標本の染色にはヘ
マトキシリン・エオジン染色(一般染色)、アザ
ン染色(線維組織を識別できる特殊染色)を用
い、光学顕微鏡による検討を行った。
【結果】主な組織変化として、大小不同・筋萎縮
12例(66.6%)、筋膜肥厚8例(44.4%)、脂肪化4
例(22.2%)を認めた。その他の組織変性所見も
散見された。また、筋膜肥厚と筋萎縮の合併は多
く認められたが、脂肪化は他の組織変化との関連
性が低い結果となった。さらに筋膜肥厚所見につ
いては、微細な組織変化から高度な組織変化ま
で、症例により様々なパターンが認められた。
【考察】今回の検討結果と過去の検討結果をふま
え、硬結形成のメカニズムを考察すると以下にま
とめられる。
1)鍼灸臨床で実際に臨床所見として触れる筋硬
結には、主に脂肪化のタイプと線維化のタイプが
存在する可能性がある。
2)筋硬結形成のメカニズムに、筋病理学的に筋
膜(特に筋内膜)の肥厚が一因になっている可能
性が考えられる。
2C9_1
キーワード:筋硬結、メカニズム、筋病理学
O-2
一噫穴刺鍼の安全性について
の検討
森ノ宮医療学園専門学校
○尾崎朋文、竹中浩司、湯谷 達
坂本豊次、森 俊豪
川村病院、小山田記念温泉病院神経内科
米山 榮
徳島大学歯学部口腔解剖学第一講座
北村清一郎
【緒言】 外後頭隆起と肩峰の中間に取穴する一噫
穴は、肩こりや寝違いの際に圧痛が出現しやす
く、治療点としての頻度の高い経穴である。しか
し、深部に肺尖が存在することから気胸の可能性
のある部位でもある。今回、遺体解剖と生体での
臨床所見とX線像により、一噫穴への刺鍼の安全
性を検討した。
【対象と方法】①男性1遺体の右側一噫穴へ前額面
上で体表に垂直に鍼先を骨に当たるまで刺入し、
刺入鍼と深部構造との関係を検討した。②①で気
胸への安全性が確保できることを確認した上で生
体17名(男11名、女6名)を対象に、両側一噫穴へ
40mm16号または50mm20号を体表に垂直に、骨様
構造に当たるまで刺入し、X線上で刺入鍼と肺尖
の関係、鍼先の達する骨の高さ、および体表−椎
骨間距離を算出した。
【結果】 ①遺体で刺入した鍼は、僧帽筋前縁・肩
甲挙筋・頭板状筋・多裂筋を貫通後、第7頸椎椎弓
に位置し、肺尖の頭後方に位置した。②生体17名
の体型のBMI分類では、肥満型が男性5名と女性1
名、標準型が男性4名と女性3名、やせ型が男性2名
と女性2名であった。鍼先の骨の高さは、34例中、
第7頸椎が27例、第6頸椎が5例、第1胸椎が2例で
あった。体表−椎骨間距離の平均値は、男性では
肥満型、標準型、やせ型で各々39±8mm、
29mm、38.7±2mm、女性では各々29.3±1mm、
28.9±3mm、26.2±2mmであった。体表-椎骨間距
離の最小値は、男性では肥満型、標準型、やせ型
で各々25mm、28.3mm、35.7mm、女性では各々
28.6mm、24.5mm、24.5mmであった。刺鍼後の胸
痛や呼吸困難などの所見は全例で認められなかっ
た。
【考察】 一噫穴の前額面上での体表に対する垂直
刺鍼は、第7頸椎を中心とした椎骨に達して、肺尖
の頭後方に位置し、外傷性気胸を起こす可能性は
無いと考えられる。刺入方向をさらに腹側方向に
すれば、鍼先が肺尖に近づくため気胸の可能性が
高まると考えらる。
2C9_2
キーワード:一噫穴、安全性、刺鍼、
外傷性気胸、局所解剖学
O-3
振動誘発指屈曲反射に及ぼす
経皮的通電刺激の影響
O-4
パーキンソン病モデルマウス
に対する頭皮鍼の効果
−上腕外側橈骨神経支配領域での比較−
関西鍼灸短期大学
日本鍼灸理療専門学校1
(財)東洋医学研究所2
昭和大学医学部第二生理学教室3 ○矢嶌裕義1,2
上田浩1、片岡静子1、宇南山伸1,2
高倉伸有1,2,3、渋谷まさと3、本間生夫2,3
【目的】 指尖掌側に振動刺激を与えると振動誘発
指屈曲反射(VFR)が誘発される。この反射は合
谷(橈骨神経知覚固有野)への鍼刺激、侵害性経
皮通電刺激(Interval 1sec、Duration 1ms)により
抑制され、非侵害性の経皮通電刺激では抑制され
なかった。これは、VFRの抑制には侵害性刺激が
必要である事を示唆する。そこで今回、侵害性、
非侵害性の経皮的通電刺激を上腕外側に与え、侵
害刺激とVFR抑制についてさらに検討した。
【方法】 被験者は実験の主旨を説明しインフォ−
ムドコンセントを得た、健康成人8名とした。被験
者の中指指尖掌側に周波数60Hz、振幅1mmの振動
刺激を与えVFRを誘発した。VFRの指標は振動刺
激中に出現した中指の最大指屈曲力とした。中指
の屈曲力は振動端子に取り付けた荷重変換器によ
り検出し増幅器を介してペンレコ−ダにて記録し
た。経皮通電刺激はSSP電極を用いInterval 1sec、
Duration 1msの単一矩形波を上腕外側部の橈骨神経
支配領域に5分間与えた。刺激電圧は、0Vを対照
群(Cont)、電気刺激を感じ始める値をTouch
Threshold群(TT)、橈骨神経支配領域の筋が収縮
し始める値をMotor Threshold群(MT)、痛みを感
じ始める値をPain Threshold群(PT)とし、それぞ
れの刺激強度について刺激前、刺激中、刺激後に
VFRの測定を行った。統計解析は分散分析、
Scheffeの多群比較を用いて行った。
【結果及び考察】 通電刺激中のPT群、MT群の
VFRはCont群に対し有意(P<0.01)に減少した。
通電刺激中のTT群のVFRはCont群に対し有意な減
少は認められなかった。橈骨神経領域の触覚レベ
ルの皮膚刺激ではVFRは抑制されないと考えられ
る。MT群の有意な減少は相反性抑制によるものと
考えられる。刺激中のMT群とPT群のVFRには有
意差は認められなかったもののPT群の減少量は
MT群より約20%大きく、VFRの抑制には侵害性入
力が重要であること示唆する。しかし、PT群では
刺激強度に伴って相反性抑制が強くなっている可
能性があり、これを除外できるパラメ−タ、ある
いは刺激部位で検討する必要があると考える。
2C9_3
キーワード:振動誘発指屈曲反射、侵害刺激、
非侵害刺激、経皮的通電、橈骨神経支配領域
○赤川淳一、中村征史
若山育郎、八瀬善郎
【目的】 パーキンソン病の動物モデルである1methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine(MPTP)
処理マウスを用い、頭皮鍼の効果を臨床的に評価
した。
【対象と方法】C57BL/6系マウスを使用し、MPTP
群5頭、MPTP+鍼群5頭、対照群5頭に分けた。
MPTP群には生理食塩水に溶解したMPTPを1回
30mg/kgで1日2回、5日間皮下注射した。MPTP+鍼
群には上記と同様の注射終了翌日からステンレス
3番鍼で、隔日2週間、計7回頭皮上の舞踏振戦抑
制区(両耳を結ぶ線の前5mm、矢状線の横1mm)
左右2ヶ所に鍼先を耳側に向けて刺鍼し、2.5Hzで5
分間通電した。対照群は同量の生理食塩水を注射
し、その後無処置とした。パーキンソン症状の評
価は臨床的観察の他、MPTP投与終了後7日目、14
日目にPole test、Traction testを行った。
【結果】MPTP群では、Pole test、Traction test各々
において、動作が鈍く感じられ、そのまま静止す
ることもあった。MPTP+鍼群では臨床観察ではや
や改善傾向を示したが、はっきりとした変化が見
られないことも多かった。Pole testでは反転時間は
対照群、MPTP群、MPTP+鍼群ともに有意な差は
見られなかったが、降下時間ではMPTP群は対照
群に比べ有意に延長し、MPTP+鍼群ではMPTP群
に比べ短縮傾向を示した。Traction testでは、
MPTP群は対照群に比べスコアが有意に低く、
MPTP+鍼群はMPTP群に比べスコアが有意に改善
した。
【考察】 頭 皮 鍼 治 療 を 施 行 し た マ ウ ス で は 、
MPTP群に比べ臨床的観察において顕著な改善は
認められなかったが、今回施行した臨床的評価法
では、改善傾向を示した。これは、MPTPにより
誘発された無動や姿勢反射障害が、頭皮鍼治療に
より改善した可能性が考えられた。
2C9_4
キーワード:MPTP、パーキンソン病、
頭皮鍼、動物モデル
O-5
微細構造にみる鍼灸刺激
関西鍼灸短期大学
○木村通郎、東家一雄、五十嵐純
戸村多郎、武田大輔、松岡裕一
O-6
胸腔鏡下胸部交感神経節切除
術における各種測定
−皮膚通電電流量・良導絡・皮膚温・
サーモグラフィー−
関西鍼灸短期大学 ○吉備 登、王 財源、楳田高士、北村 智
大阪医科大学麻酔科ペインクリニック 平井清子、久下浩史、河内 明、森川和宥
田中源重
【目的】鍼灸刺激は生体局所(経穴)に鍼や灸を
用い伝承的手法に従い物理的侵害刺激を加え、経
絡を介して生体応答を惹起する特異な生体刺激と
して東西両医学を通して受け入れられている。今
回は、それら「鍼刺激」「灸刺激」「灸頭鍼刺
激」時に惹起される生体の組織破壊(組織損傷)
について、微細形態レベル(200∼10,000倍)に検
索、刺激法の違いと惹起される生体反応について
考察を試み若干の知見を得たので報告する。
【材料と方法】材料:①使用済み鍼(本学鍼灸施
術所にて使用したディスポ−ザブル鍼のうち鍼体
に光学顕微鏡下、付着物をみるもの)。②ヘアレ
スラット皮膚組織(鍼体が組織中に入ったままの
状態のもの、灸頭鍼が組織中に入ったままのも
の、施灸直後の皮膚そのもの)。
透過電顕標本:①については付着物確認後、直
ちに鍼体ごと冷1.5%グルタ−ルアルデヒドにて30
分固定し、実体顕微鏡下付着物を鍼体から剥離
し、1%OsO 4 液にて後固定、型の如く電顕標本を
作製し観察を行った。②については、それら動物
をエ−テル深麻酔下、開胸、左心室より1.5%グル
タ−ルアルデヒド固定液を灌流し施鍼/施灸局所
皮膚組織を摘出、①に準じ電顕標本を作製し観察
した。
走査電顕標本:①の使用済み鍼は、そのまま冷
グルタ−ルアルデヒド固定後、脱水、型の如く走
査電顕標本を作製、観察した。②の試料は透過電
顕試料作製に準じ、組織を摘出、脱水過程の100%
アルコ−ル浸漬中、液体窒素にて凍結、鍼体に
沿って割断、型の如く走査電顕標本を作製、観察
した。
【結果と考察】「鍼刺激」は肉眼的には殆ど出血
は見ないが、微細形態レベルは真皮結合組織中に
微量の赤血球の遊走や膠原線維の断裂などがみら
れた。施鍼時回旋など強刺激を施した抜鍼々体で
は線維芽細胞/間葉系細胞/脂肪細胞など結合組
織成分の付着がみられ、刺激の程度に相応した微
少組織破壊がみられた。「灸刺激」では施灸回数
に相応し表皮真皮に血球成分の浸潤/肥満細胞の
脱顆粒など熱傷とは異なる炎症像がみられた。
「灸頭鍼」は当初、前二者の中間の像を予想した
が、血球成分の組織浸潤など殆どみられず「鍼刺
激」像に近い像を呈した。
【結語】「鍼刺激」「灸刺激」「灸頭鍼刺激」時
の皮膚局所組織反応について微細構造的に検索し
鍼灸刺激の生体応答について考察した。 2C9_5
【目的】 ノイロメーターで計測した皮膚通電電流
量が交感神経の機能に応じて変動するかを観察す
るために、胸腔鏡下胸部交感神経節切除術におけ
る標記各種測定をする機会を得たので報告する。
【方法】 患者は手掌多汗症を主訴とする20歳の男
性で、平成11年5月12日に大阪医科大学麻酔科に
て、Th 2 、Th 3 胸部交感神経節切除術における左右
の顔面部(四白穴)、手掌部(労宮穴)、手背部
(陽谿穴)の6部位の皮膚通電電流量の変化を3
分毎に連続自動測定した。測定は手術前日、手術
後1日、13日後、48日後にもおこなった。
また、手術前後の顔面部、手背部、足背部のサ
ーモグラムと良導絡代表測定点の計測および手術
中の手掌の皮膚表面温と深部温も測定した。
【結果】 術前の測定では6部位とも電流量が多い
が、術中は少なくなり、胸部交感神経節の切除後
は術側の手掌部のみ極端に減少し、術側の手掌皮
膚表面・深部の温度は上昇した。術後1日では6
部位とも電流量は少なく左右の手掌部はほとんど0
となった。その後、顔面部、手背部の電流量は多
少増減したが、手掌部は減少し続けた。良導絡測
定では手掌部(H1.H2.H3)の電流量は低下を示
し、連続自動測定の場合とは測定部位が同一では
ないが手掌部の電流量が低下するよく似た傾向を
示した。サーモグラムでは顔面部の変化は少な
く、手足では術後に温度が上昇した。
【考察】 胸部交感神経節切除後に手掌部の電流量
が減少し、手掌部の皮膚表面・深部温が上昇する
ことは、交感神経の機能との関連を示唆する。
【結語】 胸部交感神経節切除術における各種の測
定を行った。
1)切除後は術側の手掌の表面・深部温は上昇
し、術側手掌部の皮膚通電電流量は極端に減少し
た。
2)その後は顔面部、手背部の電流量は多少増減
したが、手掌部では減少し続けた。
2C10_1
キーワード:鍼刺激、灸刺激、灸頭鍼刺激、
組織反応、微細形態
キーワード:手掌多汗症、皮膚通電電流量、
連続測定、胸部交感神経節切除、良導絡
O-7
鍼通電頻度の違いおよび置鍼
による精神性発汗への影響
−足底部発汗による検討−
筑波大学附属盲学校
愛知医科大学第二生理
○緒方昭広
菅屋潤壹
O-8
麻酔ラットの十二指腸運動に
及ぼす灸刺激の効果
東京都立文京盲学校理療科
○田中秀樹
筑波技術短期大学鍼灸学科
大沢秀雄、野口栄太郎、佐藤優子
【目的】我々は、1997年の本学会で手掌部発汗を
指標に左下腿に対し低頻度(5Hz)および高頻度
(100Hz)の周波数による鍼通電および置鍼の影
響を報告し、低頻度の鍼通電刺激による発汗量の
減少は情動成分の抑制に基づくものと結論した。
今回、同様のことが足底部発汗にも再現される
かどうかを検討した。
【対象・方法】健常者17例(男16例、女1例)を対
象とした。発汗量の測定はKenz-Perspiro OSS 100
(スズケン社製)を用い、プローブを母趾(右ま
たは左)に装着した。血圧・心拍数は左上腕で、
GSRは右手掌部で測定した。鍼刺入部位は左側の
t門穴と合谷穴とした。鍼通電頻度は前回同様
5Hz(5Hz群)および100Hz(100Hz群)を用い
た。さらに置鍼(置鍼群)についても検討した。
精神性発汗誘発に用いた暗算負荷はかけ算(2桁×
1桁)、引き算(1000-17)、逆唱(5桁∼6桁)の
組合せを計6回実施した。統計処理は分散分析を
行った。
【結果】1.5Hz群の鍼通電20分および置鍼群の置
鍼20分の各時点で暗算負荷に対する精神性発汗の
減少が観察された。100Hz群では発汗減少はみら
れなかった。2.発汗量の時間的推移と発汗波
(Expulsion)の推移とが類似したパターンを示し
た。3.GSR、血圧、心拍数については、変化を認
めなかった。
【結論】左前腕の5Hzの鍼通電および置鍼は足底
部発汗を減少させたことにより、何れも情動成分
の抑制を引き起こしたと考えられる。よって手掌
部発汗と同様の現象が観察された。
2C10_2
【目的】「胃六灸」などで消化器系の治療で灸療
が応用される機会は多い。これまで施灸による生
体反応の機序については、液性因子を介しての報
告が多くなされてきた。今回、私達は灸の「温
熱」という体性感覚刺激により誘発される、自律
神経遠心路を介する消化管の反射性運動を検討す
る目的で、麻酔ラットを用い灸刺激による十二指
腸運動への反応の観察を行った。
【方法】鈴木医療器製艾燃焼温度測定器により艾
の燃焼温度曲線をもとめ、実験はウレタン麻酔、
人工呼吸下のWistar系ラット(6匹)を用いて、呼
吸及び体温を一定の条件下で行った。十二指腸内
に加温生食水の入ったバルーンカテーテルを挿入
し、圧トランスデューサーによる内圧の変化から
十二指腸運動を観察した。灸刺激は釜屋もぐさ本
舗製「カマヤミニ(弱)」1壮を、後肢足蹠と腹
部にそれぞれ施灸するとともに、体性感覚刺激の
比較対照としてピンチ刺激を同部位に行った。
【結果及び考察】灸刺激のピーク温度は65.9±1.4
℃で、着火からピーク温度に至る潜時は99.1±7.4
秒であった。十二指腸運動は安静時、刺激時とも
に60回/分程度の振幅の微細な収縮を伴いながら、
1回/分程度の比較的大きな収縮を繰り返してお
り、照井らの報告と一致していた。一方収縮の大
きさでは、後肢足蹠のピンチ刺激で刺激開始直後
から、灸刺激では温度上昇とともに収縮の増大が
みられた。また腹部刺激ではピンチ、灸刺激とも
収縮の大きさの減少反応が観察された。消化管運
動の体性−自律神経反射については、佐藤、山口
らが鍼及び鍼通電刺激による胃運動への効果を報
告しており、今回の十二指腸運動についても刺激
手法が異なるもののほぼ同様の傾向が観察され
た。今回の検討の結果、施灸による体性-自律神経
反射の存在が確認された。
【結語】麻酔ラットの十二指腸運動は、後肢足蹠
の灸刺激により増大し、腹部の刺激で減少した。
2C10_3
キーワード:精神性発汗、鍼通電、置鍼、情動、
GSR
キーワード:灸刺激、温熱刺激、十二指腸運動、
体性−自律神経反射、ラット
O-9
腸管運動に対する鍼・灸刺激
の影響に関する実験的研究
O-10
体性刺激がラット胃運動に及
ぼす影響について
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
○岩 昌宏、石丸圭荘、今井賢治
明治鍼灸大学外科学教室 田村隆朗、咲田雅一
明治鍼灸大学外科学教室
○池田和久、田村隆朗、咲田雅一
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
岩 昌宏、今井賢治
【目的】腸管運動に対する鍼灸刺激の効果を明確
にする目的で、体内埋め込み型テレメトリーシス
テムによるstrain gauge force transducer法を用い、
意識下ラットの空腸運動を長期間記録し、電気刺
激、鍼通電刺激の効果について検討した。
【方法】 実験動物はWistar系ラット、雄、300g、
5匹を使用した。ラットをPentobarbitalにて麻酔
し、腹部を正中切開して開腹し、strain gauge force transducerを空腸漿膜面に縫着した。実験は
手術2週間後より開始した。電気刺激は腹部に埋
め込んだ電極より100Hz、10mAにて10分間通電し
た。一方、鍼通電刺激では、ラット後肢の前脛骨
筋部に刺鍼し、100Hz、10mAにて10分間通電し
た。
【結果】刺激前後1時間における収縮波形の面積
を求め、刺激前1時間の値を100%とした増減率を
計算し無刺激時と比較した所、後肢への鍼通電刺
激では、無刺激時の95.8±5.8%に対し111.2±
14.2%と増加がみられ、腹部への電気刺激では
123.3±19.7%とさらに有意な増加がみられた。
電気刺激による影響を記録波形からみると、腹
部刺激前には1時間に約3回の周期的なIMCが観
察されたが、通電刺激直後より持続的で不規則な
phaseⅡ様の収縮波群へと変化した。後肢への鍼通
電刺激では、腹部電気刺激時ほどの運動パターン
の変化は示さなかったものの、刺激後の1∼3時
間においてIMCの出現頻度が増加した。
刺激前後での各phaseの比率を比較すると、腹部
への電気刺激では、phaseⅠ、phaseⅢ共に減少し
たが、phaseⅡは有意に増加した。一方、後肢への
鍼通電ではphaseⅠは減少したが、phaseⅡ、phase
Ⅲは有意に増加した。
【考察】腹部への電気刺激によって収縮波がphase
Ⅱ様の運動に変化し、空腸運動が亢進したこと及
び、後肢への鍼通電刺激によってphaseⅡとphase
Ⅲが増加することによりIMC頻度が増加したこと
が示唆された。
2C10_4
【目的】 体性刺激がラット胃運動に及ぼす影響に
ついて自律神経系の関与を検討するため、薬物に
よる交感神経の遮断と、迷走神経の切断を行っ
た。また体性刺激の末梢の求心路についてカプサ
イシンを用いて検討した。
【方法】 実験はウィスター系雄性ラットを使用
し、ウレタン麻酔下にて行った。胃運動は、十二
指腸より胃の幽門部に挿入したバルーンを用いて
内圧を測定した。血圧及び心拍数は大腿動脈から
モニターし、呼吸は人工呼吸下で管理し、体温は
37.5度に保った。交感神経遮断剤にグアネチジン
を使用して、0.225mmol/kgを実験前日と当日の2
回、皮下投与した。迷走神経の切断は、食道-胃接
合部で切断した。カプサイシン処置は、実験10-14
日前に0.4mmol/kgを3回にわけて皮下投与した。体
性刺激として鍼通電刺激とピンチ刺激を行った。
鍼通電刺激は体幹部と後肢へ、刺激間隔0.5msec、
刺激強度(5mA、7mA)、刺激頻度(20Hz、
100Hz)でそれぞれ30秒間行った。ピンチ刺激は
体幹部及び後肢へ鉗子にて30秒間行った。
【結果】 無処置群では、体幹部への体性刺激によ
り胃内圧が低下し、後肢への刺激では胃内圧の増
加が得られた。また交感神経遮断群では、体幹部
への体性刺激で誘発された胃内圧の低下が抑制さ
れ、さらに後肢刺激で誘発された胃内圧の増加も
抑制される傾向がみられた。迷走神経切断群で
は、体幹部刺激による胃内圧の低下には影響がな
かったが、後肢刺激による胃内圧の増加は消失し
た。カプサイシン処置群では、体幹部刺激による
胃内圧の低下が抑制され、同様に後肢への刺激に
よる内圧の増加も抑制された。
【考察】 以上の結果より、体幹部刺激による胃運
動の抑制には交感神経が、後肢刺激による胃運動
の上昇には迷走神経が関与し、さらにその求心性
の入力にはカプサイシン感受性の神経線維の関与
が示唆された。
2C10_5
キーワード:鍼通電刺激、電気刺激、ラット、
strain gauge、テレメトリー
キーワード:交感神経遮断、迷走神経切断、
カプサイシン、胃運動、体性刺激
O-11
透熱灸による皮膚血流量の変化
−壮数の違いによる近傍部と遠位部の変化−
O-12
鍼刺激がラット各種臓器血流
に与える影響
東京衛生学園専門学校東洋医療系学科 ○武田伸一、勝木裕久、篠原かおり
佐藤寛美、村上 裕、菅原之人
明治鍼灸大学生理学教室
○鶴 浩幸、岡田 薫、川喜田健司
明治鍼灸大学化学教室
小林和子
【目的】 古来より壮数の目安については様々な記
載があり、施灸の際の刺激量決定において重要な
要素の一つとされる。また灸刺激後に出現する発
赤は皮膚の侵害受容器の興奮と、これに伴う軸索
反射性血管拡張の関与が示唆されており、鍼灸刺
激の入力系と生体の防御機構を考える上で重要と
思われる。今回、レーザードップラー法(LDF)
を用いて壮数の違いによる皮膚血流量の経時的変
化を、施灸部近傍と遠位部で比較検討したので報
告する。
【方法】 健康成人15名の右曲池穴に対し、平均重
量1mgの小切艾による透熱灸を同一被験者に1.3.10
壮の計3回、1週間以上の間隔をあけて行い、LDF
による刺激部近傍と合谷穴付近の遠位部の皮膚血
流量変化を30分間測定した。施灸時の燃焼温度は
CA熱電対により、また3.10壮刺激時の被験者の熱
痛感覚の変化は電動式VASにより記録した。
【結果・考察】刺激部近傍では各壮数でコントロ
ール値に対し刺激直後から有意な血流増加が観察
され、壮数依存性に増加率が高くなるのが認めら
れた。これは皮膚の侵害受容器が壮数依存性に強
く興奮した事による時間的加重が、軸索反射性血
管拡張に反映したものと思われる。また遠位部で
は各壮数で一過性に血流量が減少し、その後コン
トロール値に回復するのが観察され、10壮刺激で
は記録終盤でやや増加する傾向が認められた。こ
れらの結果は灸の刺激量と軸索反射および皮膚交
感神経活動との関係を検討する上で、興味深い知
見と思われる。
2C15_1
【目的】鍼刺激が皮膚や筋の血流に影響を与える
ことが報告されているが、全身の臓器血流に対す
る効果については不明な点が多い。そこで本実験
ではカラードマイクロスフェア(CMS)法を用い
て、鍼刺激がラットの各種臓器血流に与える影響
について検討した。
【方法】ウレタン麻酔下のWistar系雄性ラットを
用いた(n=33)。YellowCMSは最初のサンプリン
グ時に、BlueCMSは鍼刺激後に注入した。鍼(34
号鍼)は1回目のサンプリング後に左咬筋または
右合谷相当部位に刺入し、約30分間置鍼(その間
2分ごとに1Hz、10回の捻鍼)、もしくは1回目の
サンプリング約30分後に刺入、90秒間捻鍼または
回旋鍼刺激を行った。
【結果】対照群(n=10)では2回目の臓器血流量
が1回目に対して減少傾向を示した(12臓器の平
均変化率:-23.4%)のに対し、咬筋30分鍼群
(n=10)では増加傾向を示し(+15.0%)、各臓器
ごとでは皮膚、筋、腎臓、脳、心臓で有意な差が
認められた(P<0.05)。合谷30分鍼群(n=7)では
咬筋30分鍼群とは異なる臓器血流の変化がみられ
た。血圧の経時的変化は3群とも類似しており、
実験開始時に比較すると2回のリファレンス血液
サンプル回収後は減少する傾向を示した。咬筋・
合谷90秒鍼群(n=6)では鍼刺激によって血圧が
増加したが、臓器血流量は無刺激群に類似した減
少傾向を示し、本実験の鍼刺激による臓器血流量
の増加は血圧に依存していないことが示唆され
た。
【結語】30分鍼群において血流の増加が複数の臓
器でみられたことから、今回の鍼刺激は軸索反射
等の末梢機序を介する局所反応の他、上位中枢を
介して全身性に影響を与えることが明らかとなっ
た。
2C15_2
キーワード:灸刺激、皮膚血流量、軸索反射、
皮膚交感神経
キーワード:臓器血流量、鍼、ラット、
カラードマイクロスフェア
O-13
腎血流動態に及ぼす鍼刺激の
影響の検討
明治鍼灸大学泌尿器科学教室
○手塚清恵、鈴木言枝、星 伴路
矢田康文、斉藤雅人
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
角谷英治、北小路博司
【目的】我々は非侵襲的に臓器内血流動態を観察
できる超音波カラードプラ法を用いて、鍼刺激に
よる腎血流動態の変化を観察、検討したので報告
する。
【方法】 対象者は19∼31歳(平均年齢21.2歳)の
学生ボランティア23名(男9名、女14名)であっ
た。対象者を安静腹臥位にし、超音波診断装置
(aloka社製、SSD-2000)を用いて、背部より腎を
描出後、カラードプラ法にて腎葉間動脈のVmax
(収縮期最高流速)、Vmin(拡張期最低流速)を
測定した。また、これらよりResistive Index(RI)
を算出した。RIは一般的に末梢血管抵抗を反映す
る指標と考えられている。さらに腎血流動態を観
察中持続的に血圧、心拍を測定した。刺激経穴は
内関穴と腎兪穴とし、それぞれ10分間の置鍼刺激
を行った。さらに腎兪穴には2Hzで10分間通電刺
激を行った。腎血流動態はそれぞれ1∼2分おきに
測定した。また、対照群として鍼刺激なしの状態
でも同様に測定した。
【結果】各経穴、刺激方法において刺激前、中、
後10分、20分、30分でのRIのmean±SDは無刺激群
と比較して有意な変化がなかった。血圧は鍼刺激
群、無刺激群とも時間経過に伴い上昇する傾向が
みられた。心拍は無刺激群に比べて鍼刺激中に減
少する傾向がみられた。
【考察】我々が以前行った加齢と腎血流動態の実
験では、加齢によりVminは有意に低下しRIは有意
に上昇した。しかしながら今回の一定年齢層を対
象にした実験ではVmax、Vmin、RIとも有意な変
化はみられなかった。これは一定年齢層において
腎血流動態に対する鍼刺激は影響が小さいのでは
ないかと考えられた。また対象者が正常者であっ
たために鍼刺激の影響がでにくかった可能性も考
えられた。一方、刺激群、無刺激群ともに血圧が
上昇したのは測定体位が腹臥位であること、腎血
流動態測定時に一時的に呼吸を停止させる影響に
よるものであると思われた。
2C15_3
キーワード:超音波、カラードプラ法、腎血流、
鍼刺激
O-14
麻酔ラット後肢の鍼通電刺激
による皮膚血流反応
筑波技術短期大学鍼灸学科鍼灸科学教室
○小林 聰、野口栄太郎
筑波技術短期大学鍼灸学科生理学教室
大沢秀雄、佐藤優子
【目的】 昨年の本学会で我々は麻酔ラットの後肢
に対する鍼通電刺激について、足蹠刺激と足三里
刺激では心拍数及び血圧の変化に異なる反応を引
き起こすことを報告した。今回は同様の刺激によ
る皮膚血流反応を観察し、その発現機序について
検討した。
【方法】実験はWistar系雄ラット26匹を用い、ウ
レタン麻酔、人工呼吸下で呼気ガスCO 2 濃度を一
定に保ち、直腸温を37−38℃に維持しながら行っ
た。皮膚血流は後肢膝蓋骨上及び前肢足蹠の皮膚
に、腎血流は開腹し腎表面にそれぞれドップラー
血流計の針型プローブを固定して測定し、頸動脈
より直接導出した血圧波とともにポリグラフ上に
連続記録した。鍼通電刺激は後肢足蹠あるいは下
腿外側部の足三里穴相当部位に行った。16号ステ
ンレス鍼を5mm間隔で刺入し、矩形波パルスを
20Hzで30秒間通電した。刺激強度は血流反応に関
与する神経線維の種類を確認する目的で、0.5から
10mAまでトライアルごとに変えて行った。 【結果】足蹠刺激では2mA以上の刺激(Aδ及びC
線維が興奮する強さ)でほぼ全例に血圧上昇に伴
う皮膚血流の増加反応が出現した。一方、足三里
刺激では2mA以上の刺激により、血圧の上昇する
例と下降する例が現れ、それに伴って皮膚血流の
増加反応あるいは減少反応がそれぞれ約半数づつ
出現した。これらの血圧及び皮膚血流反応は交感
神経α遮断剤投与により完全に消失した。また、
腎血流と皮膚血流の同時記録では、血圧上昇時に
は腎血流の減少反応に伴う皮膚血流の増加反応
が、血圧下降時には腎血流の増加反応に伴う皮膚
血流の減少反応がそれぞれ出現した。
【結語】 麻酔ラット後肢の鍼通電刺激による皮膚
血流の増加あるいは減少反応は腎臓を含めた内臓
血流の反射性反応に伴う血圧の上昇あるいは減少
による受動的な変化であることが明らかとなっ
た。
2C15_4
キーワード:鍼通電刺激、皮膚血流、腎血流、
交感神経、ラット
O-15
鍼通電刺激による循環反応と
その神経性機序
筑波技術短期大学鍼灸学科生理学教室
○大沢秀雄、佐藤優子
筑波技術短期大学鍼灸学科鍼灸科学教室
小林 聰、野口栄太郎
【目的】 演者らは、昨年の本学会で、麻酔ラット
の鍼通電刺激による循環反応が後肢足蹠と足三里
刺激とでは異なることを報告した。今回はこの反
応の神経性機序を検討したので、昨年度の結果と
併せて報告する。
【方法】 実験はウレタン麻酔、人工呼吸下のWistar系雄ラット10匹(3∼5カ月齢)を用いた。呼気
ガスCO 2 濃度、直腸温を生理的状態に維持しなが
ら実験を行った。血圧は大腿動脈に挿入したカ
ニューレより圧トランスデューサにより導出し
た。心拍数は血圧波よりタコメータで算出した。
刺激方法:刺激部位は後肢足蹠及び下腿外側部
(足三里)とした。16号ステンレス鍼を5mm間隔
で5mm刺入し、刺激電極とした。電気刺激はパル
ス幅0.5msecの矩形波で刺激強度及び刺激頻度を変
え、それぞれ30秒間行った。
神経性機序の検討:鍼通電刺激による循環反応の
機序を検討する目的で迷走神経、圧受容器反射求
心路(減圧神経及び頸動脈洞神経)、交感神経
(内臓神経)の切断実験を行った。
【結果】後肢足蹠への鍼通電刺激によって、Aδ
及びC線維の興奮する強度の2mA以上の刺激で強
度依存性に血圧と心拍数が亢進した。一方、足三
里刺激への鍼通電刺激によって、2mA以上の刺激
で約半数例で血圧と心拍数が共に亢進したが、残
りの約半数例では血圧は下降するものの、心拍数
は逆に上昇した。
迷走神経の切断によって、足蹠刺激による血
圧・心拍数上昇反応は影響されなかった。足三里
刺激による昇圧反応例でも影響されなかった。足
三里刺激による降圧反応例では、血圧反応は影響
されなかったが、心拍数の上昇反応は消失し、む
しろ減少した。圧受容器反射求心路の切断によっ
て、足三里刺激による降圧反応に伴う心拍数増加
反応は消失した。内臓神経切断によって足蹠・足
三里刺激による血圧反応は大部分消失した。
【考察・結論】 足蹠刺激では交感神経の興奮に
よって心拍数と血圧の上昇が生じたと考えられ
る。足三里刺激(血圧下降例)では交感神経の抑
制によって血圧の下降が生じ、迷走神経の抑制に
よって心拍数の増加が生じていると考えられる。
2C15_5
キーワード:血圧、心拍数、鍼通電刺激、
ラット、迷走神経
O-16
鍼灸治療における痛みの定量
計測の必要性について
杏林大保健学部生理学教室
○加藤幸子、大島八千代
秋元恵実、小林博子
嶋津秀昭
東海医療学園専門学校
大西明子
東京医療専門学校
谷 直樹、渡辺すずこ
【目的】鍼灸治療における鎮痛は主要な治療目的
であるが、痛みは極めて主観的な内容を伴うもの
で、その評価は容易ではない。我々はすでに様々
な要因で形成された痛みを定量化できる簡便なシ
ステムを考案し報告している。
今回この測定法を基本として、従来から痛みの
評価に用いられているペインスケールとを比較
し、痛みの評価法を検討した。評価に際して、本
法による定量的な痛み指数、患者の示すペインス
ケールに加え、治療者が問診、診察および過去の
治療経験に基づいて判断したペインスケールの3
種について比較検討し、痛みの質や大きさを正し
く評価する方法について検討した。
【方法】本法における痛み定量評価システムは、
被検者にパルス電流を通電し、電流を増加させ電
流刺激による感覚の大きさが痛みと同程度の大き
さとなったときの電流値を痛み対応電流とし、痛
み対応電流値の最小感知電流値に対する倍率を痛
み指数として定量化している。すでに報告した痛
み指数の評価に関係する基礎実験に加え、今回、
複数の痛みを同時に感じている場合、これらをそ
れぞれ分離して計測できることをボランティア10
名により実験的に確認した。また、来院した患者
(50名)の訴える痛みを、ペインスケールおよび
本法により測定し、これに加えて治療者側が治療
前後で痛みがどのように変化したと考えているか
についてもペインスケールとして提示し、これら
が互いにどのような関係を示すかを検討した。
【結果】本法により前腕および下腿前面に作った
複数の痛みを正しく分離して測定できることを、
測定値の再現性から確認できた。また、患者の示
すペインスケールは痛み指数との相関性が低く痛
みの訴えに個人差が大きいこと、これに比べ、治
療者は患者個人の痛み経験に依存することなく、
より一般的な指標で判断していることを統計的に
確認できた。
【考察】ペインスケールと痛み指数とは痛みに対
する異なった評価を与えるものであり、両者を総
合的に評価することが必要であると考える。
2C16_1
キーワード:痛み、定量評価、ペインスケール
O-17
ラットのカラゲニン炎症性痛覚
過敏に対する鍼通電刺激の影響
明治鍼灸大学外科学教室
○関戸玲奈、田村隆朗、咲田雅一
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
石丸圭荘
【目的】鍼通電刺激は下行性疼痛抑制系の賦活に
関与し種々の内因性モルヒネ様物質(morphine
like factor:MLF)を遊離させ、鎮痛に導くことが
分かっている。しかし、これらの鍼鎮痛機序を病
的状態下で検討した報告はほとんどなく、本研究
では急性炎症モデルであるカラゲニン炎症性痛覚
過敏を用い、病的状態下における鍼通電刺激によ
る影響とその鎮痛機序を検討した。
【方法】起炎物質であるカラゲニンをSD系雄性
ラットの左後肢足底の皮下に注入し痛覚過敏を引
き起こした。その後鍼通電刺激を行い、痛覚閾値
の変化を経時的に測定した。鎮痛効果の測定は、
加圧式鎮痛効果測定装置(Randall Selitto Test)を
用いた。鍼通電刺激は、左後肢(カラゲニン注入
側)鍼通電群と右後肢(非注入側)鍼通電群を設
定し、一側の前脛骨筋に低頻度通電(3Hz)と高
頻度通電(100Hz)の1時間の刺激を行った。ま
た、鎮痛機序の検討を目的に、MLF拮抗薬である
ナロキソンの腹腔内あるいは炎症局所の足底へ投
与した。
【結果】カラゲニンの左後肢足底への皮下投与に
より、左後肢では一次性痛覚過敏を生じ、右後肢
では二次性痛覚過敏を生じた。左後肢あるいは右
後肢に鍼通電刺激を行ったところ、3Hz刺激で
は、両側で鎮痛効果が見られたが100Hz刺激で
は、左後肢でのみ鎮痛効果が出現した。また、ナ
ロキソンの腹腔内投与により3Hz通電による二次
性痛覚過敏側の鎮痛効果は、わずかに拮抗される
傾向にあった。一方、一次性痛覚過敏側の鎮痛効
果は、ナロキソンの炎症局所への投与により有意
に拮抗された。
【考察】 3Hz刺激による二次性痛覚過敏の回復
は、ナロキソンで完全に拮抗されなかったのでノ
ルアドレナリン系等の関与も考えられた。さら
に、3Hz刺激による一次性痛覚過敏の回復は、炎
症局所での末梢性のMLFより引き起こされた可能
性が考えられた。
2C16_2
キーワード:カラゲニン、痛覚過敏、
鍼通電刺激、鍼鎮痛、ラット
O-18 ラットにおける鍼通電の周波数と
通電時間による鎮痛効果の違い
兵庫県立東洋医学研究所
○谷村裕充、田口静江、長瀬千秋、松本克彦
【緒言】 疼痛モデルであるカラゲニン処置ラット
に対して、刺激量を定量化し易い鍼通電を行い、
周波数と通電時間による鎮痛効果の違いについて
検討したので報告する。
【材料と方法】6∼7過令のWistar系雄ラットの右
後肢蹠部に著名な炎症を発現させる目的で1%カラ
ゲニン水溶液0.1mlを皮下投与した。これらのラッ
トを鍼処置を行わない対照群(n=8)と、両側の
大腸兪相当部位に絶縁鍼30mm18号を5mm直刺し
た実験群に分けた。①通電周波数による鎮痛効果
の違いを検討する実験では、実験群は置鍼群
(n=8)と10分間の鍼通電を行った通電群に分
け、通電群は周波数により1Hz群(n=15)、3Hz群
(n=10)、5Hz群(n=10)、10Hz群(n=12)、30Hz
群(n=11)、100Hz群(n=12)に分けた。②通電
時間による鎮痛効果の違いを検討する実験では、
1Hz、5Hz、30Hzについて通電時間により3分群、
10分群、30分群、90分群に分けた(n数は9から
15)。①②ともカラゲニン投与3時間後に炎症部の
圧刺激疼痛閾値をRandall-Selitto法で測定し、対照
群と各実験群の閾値を比較した。通電群は閾値測
定前に10.5V(peak to peak)の通電を行った。
【結果】対照群301±56gと比較したところ、①通
電周波数による鎮痛効果の違いを検討する実験で
は、1Hz群449±51g、5Hz群478±41g(P<0.01)、
3Hz群418±56g(P<0.05)に有意な疼痛閾値の増加
が見られた。②通電時間による鎮痛効果の違いを
検討する実験では、1Hz10分群449±51g、5Hz10分
群478±41g、5Hz30分群445±51gに有意な疼痛閾
値の増加が見られた(P<0.01)。
【結論・考察】 鎮痛を目的とした鍼通電治療で
は、1Hz∼5Hzの低い周波数の通電時間10分から30
分の通電が有用であることが示唆された。2C16_3
キーワード:ラット、低周波鍼通電、鎮痛効果、
カラゲニン、絶縁鍼
O-19
腹部外科手術後疼痛を想定し
た鍼鎮痛の基礎的検討
O-20
鍼通電刺激によるc-fos陽性細
胞動態に関する検討
−末梢血β-endorphin、ACTHを指標として−
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
○石丸圭荘、今井賢治、岩 昌宏
明治鍼灸大学外科学教室
田村隆朗、咲田雅一
関西鍼灸短期大学 ○伊達 馨、松尾貴子
武田大輔、増田研一
東家一雄
【目的】1997年NIHは鍼治療が術後疼痛などに有
効であると報告し、我々も腹部外科手術後疼痛に
対し鍼通電を試み鎮痛剤の使用回数を有意に減少
させ得ることを報告してきた。しかし、術後疼痛
に対する効果的通電条件や内因性鎮痛物質との関
係は明らかではない。そこで今回は、腹部外科手
術を想定し、低・高頻度通電における痛覚閾値の
変化と末梢血β-endorphinおよびACTH関係につい
て検討した。
【方法】健康成人5名を同一被験者とし①合谷、足
三里低頻度3Hz鍼通電群、②合谷、足三里高頻度
100Hz鍼通電群、さらに上腹部正中切開を想定し
切開創周囲への③腹部低頻度3Hz鍼通電群、④腹
部高頻度100Hz鍼通電群、⑤通電を行わない無処
置群を設定した。痛覚閾値の測定は安静仰臥位に
て加熱式痛覚計(PAIN THERMO METER UDH104)を用い、鍼通電前、通電後30分において痛覚
閾値の測定を行った。また、末梢血β-endorphin、
ACTH濃度は、痛覚閾値測定と同時に5mlを採血
し、RIAにて定量した。
【結果および考察】合谷、足三里低頻度通電群で
は無処置群に比し痛覚閾値の上昇とともにβ-endorphinの有意な上昇を認めた。しかし、高頻度通
電群では痛覚閾値のみ上昇しβ-endorphinの変化は
なかった。さらに、腹部への低・高頻度通電群と
もに痛覚閾値の上昇を認めるもののβ-endorphinの
増加は認められなかった。また、全群において
ACTHの増加は認められなかった。以上のことか
ら、合谷、足三里への低頻度通電は内因性鎮痛系
を賦活し、高頻度では内因性鎮痛系とは別の鎮痛
系が関与することが示唆された。さらに、ACTH
には影響を与えなかったことからストレス誘発鎮
痛との関連は考え難い。
2C16_4
【目的】鍼灸では足関節捻挫などの運動器疾患に
おける慢性疼痛の治療に際し、足関節表層皮膚局
所(阿是穴)への鍼通電刺激がしばしば著効を示
す。このような鍼通電刺激の除痛メカニズムに関
して、内因性オピオイド類産生に関与していると
考えられるc-fos遺伝子産物の脊髄での発現を指標
に検討した。
【対象と方法】Wistar系ラット(n=6)を対象に足
関節表層群、深層群とも3Hz、30分の鍼通電刺激
を行った。鍼は先端のみ通電可能なエレノード鍼
(5番、東洋医療研究所製)を用いた。それらの
動物をparaformaldehyde液で固定し、腰髄(L 3 、
L4)を取り出し凍結切片を作製、Rabbit 抗 c-fos 抗
体を用いABC法にてc-fos陽性細胞を染色し、光学
顕微鏡で観察した。
【結果】阿是穴表層刺激群と深部刺激群のラット
の腰髄後角域におけるc-fos陽性細胞数を調べたと
ころ、表層に比して深層に多く認めた。c-fos陽性
細胞は表層でⅠ∼Ⅴ層を中心に散在性に分布して
いた。それに対して深層ではⅠ∼Ⅴ層に加え灰白
質深層、中心管周辺にも認めた。また稀に非刺激
側である対側の後角や前角にも陽性細胞を認め
た。
【考察】 c-fos陽性細胞数の局在パターンの違い
は、刺激局所の末梢受容器や入力経路の違いに起
因していると考えられる。このようなc-fos陽性細
胞は、鍼通電刺激以外にもホルマリン局注などで
も報告されており、c-fos陽性細胞出現分布は刺激
強度に相応しているとされている。これに比し
て、今回の鍼通電刺激では分布領域が限局してお
り、数も少なかった。また、非刺激側である対側
の脊髄前角に陽性細胞が認められた事は、鍼灸に
おける古典的な概念(巨刺)と通じるものがある
と考えられ、今後の鍼灸臨床において大変興味深
い結果を得る事ができた。
2C16_5
キーワード:術後疼痛、鍼鎮痛、周波数、
β-endorphin、ACTH
キーワード:c-fos、絶縁鍼、鍼通電刺激、
ラット、脊髄
O-21
等速性運動時の筋疲労に対す
る鍼刺激の効果
O-22
等速性運動時の筋力に対する
円皮鍼の効果
―皮下組織刺激による検討―
筑波大学理療科教員養成施設 ○近藤 宏、宮本俊和、徳竹忠司
筑波大学臨床医学系
中野秀樹
【目的】 スポーツなどで起こる筋疲労の研究は
様々に行われているが、急性筋疲労に対して、皮
下組織刺激ついて等速性運動を行わせ検討した文
献はない。そこで今回、等速性運動時の各インタ
ーバルに、鍼先を皮下組織まで刺入する群と鍼を
刺入しない群とに分けて、最大筋出力、総仕事量
を指標として皮下組織刺激による筋疲労回復過程
の相違を明らかにすることにした。
【方法】健康成人男子15名に対し、切皮のみを行
う群(A群)、鍼管を叩くのみで鍼を刺入しない
群(B群)に分け、CYBEX350を用いて等速性運
動180deg/sec 20回を4セット行い、その各インター
バルに施術を行った。測定項目は、Peak Torqueと
Total Work、筋硬度、VASとし、刺激部位は右大
腿前面部で内側広筋上の4点と外側広筋上の4点、
合計8点とした。刺激時間は、施術開始から終了
までを50秒以内とした。被験者は、施術中アイマ
スクをし、施術者は被験者が見えていないのを確
認した上で、A群、B群の施術を行った。
【結果】1.群内においてPeak TorqueとTotal Work
は有意に減少した(P<0.05)。しかし群間に有意
差はなかった(P>0.05)。2.筋硬度は、群内にお
いて有意な増加が見られたが(P<0.05)、群間で
は有意差はなかった(P>0.05)。3.VASは各群と
も負荷後では有意に上昇し(P<0.01)、負荷前後
の差をA群とB群で比較した結果、有意差が見られ
た(P<0.05)。
【結語】 等速性運動時における筋出力、総仕事
量、筋硬度では群間においては差がなかったが、
VASでは、群内、群間において有意に差があり、
自覚的な大腿の筋疲労を鍼先を刺入した群(A
群)が刺入しない群(B群)より有意に抑えるこ
とができた。
3C9_1
キーワード:スポーツ、筋疲労、鍼、
等速性運動
筑波大学理療科教員養成施設
○泉 重樹、安藤理恵、小溝健靖
鳴海瞳子、野尻 誠、矢野繁樹
横田成美、宮本俊和
筑波大学臨床医学系
中野秀樹
【目的】 近年スポーツ分野への鍼治療の応用が進
んでいる。その中でも、円皮鍼は簡便で、貼付し
たままスポーツ活動ができるという特徴があり、
スポーツ現場でも活用されている。我々は、予め
円皮鍼を貼付しておき、その後に等速性運動負荷
を与えることで、運動中の最大筋出力、総仕事量
がどのように変化するのか、円皮鍼を貼付する部
位による効果に差が見られるのかを検討した。
【対象および方法】対象は運動習慣のない健康成
人男子19名。CYBEXによる右膝関節屈伸運動
(180deg/secで20回を1セットとし各4セット)を行
い、その前後で筋硬度、右膝関節のROM、VAS、
大腿周径の測定を行った。これを1人の被験者につ
いて、コントロール群、右腰部に円皮鍼を貼る群
および右大腿前面に円皮鍼を貼る群の計3回行っ
た。測定項目は各セットのPeak Torqueをそれぞれ
のセットでの最大筋力の指標とし、4セット通して
のPeak Torqueを疲労の指標とした。なお、各3群
の割り付け、円皮鍼施術者は、直接測定にかかわ
らない者が行い、すべての実験終了まで円皮鍼施
術者以外の検者には被験者がどの部位に刺鍼して
いるのか分からないよう実験を進行した。
【結果及び結語】Peak Torque、Total Work共に3群
間に、統計学的に有意差はなかった。また、大腿
前面と腰部での部位差も有意差はみられなかっ
た。しかし、今回の結果から、円皮鍼とTotal
Workとの関係について次のような傾向がみられ
た。①無刺激群に比べ大腿刺激群もしくは腰部刺
激群の方がTotal Workの数値が高かった。②全体
を平均値でみると、大腿刺激群、腰部刺激群、無
刺激群の順にTotal Workの数値が高かった。③平
均値以上の仕事量を発揮できる者では、腰部刺激
群、大腿刺激群、無刺激群の順にTotal Workの数
値が高かった。
3C9_2
キーワード:円皮鍼、筋力、等速性運動、
筋硬度
O-23
筋疲労に対する鍼刺激の影響
−刺入深度の違いについての比較−
明治東洋医学院専門学校
兵庫医科大学第一生理学
○古田高征
辻田純三
【目的】 我々は、48回大会にて筋疲労に対する鍼
刺激の部位差について検討し報告を行ってきた。
今回は筋疲労に対する鍼刺激の刺入深度の違い
を検討するため、膝関節の伸展運動による実験的
筋疲労モデルにおいて鍼刺激を行い筋力および筋
電図を指標に比較した。
【方法】対象は22∼39才の健康成人7名とした。被
験者は椅坐位にて股関節90度および膝関節90度の
姿勢をとらせた。運動負荷は膝関節90∼40度の範
囲の伸展運動とした。負荷はゴムベルトを用い膝
関節40度にて20kgとなるよう調整し、30回の伸展
運動を1セットとし2セット行わせた。測定項目は
運動負荷前・負荷直後・負荷後10分後・12分後・
15分後の筋力と筋電図とした。筋電図は内側広筋
部と大腿直筋・外側広筋の筋溝部から導出し積分
処理を行い積分値として検討を行った。実験の対
照は無処置とし負荷後に休息のみ取らせた。鍼刺
激は2cm刺入する刺入刺激と弾入のみを行なう切
皮刺激を設定し、運動負荷直後から10分間の置鍼
とした。また刺鍼部位は、膝蓋骨内上角から15cm
上方の内側広筋部、膝蓋骨から上前腸骨棘の上方
2/3の高さでの大腿直筋部および外側広筋部の3カ
所とした。鍼はセイリン製ディスポ鍼16号40mmを
用いた。
【結果】 筋力は対照無刺激および鍼刺激ともに運
動負荷により低下しその後上昇する傾向を示し
た。また刺入刺激および切皮刺激は対照と比較し
て上回る傾向を示した。筋電図積分値について、
対照では内側広筋部および外側広筋・大腿直筋筋
溝部ともに運動負荷前後さらにその後の経過にお
いてもあまり変化は見られなかった。また刺入刺
激および切皮刺激では負荷後増加する傾向は見ら
れたが、対照無刺激と比べ有意差は見られなかっ
た。
【考察】 鍼による筋疲労の回復の作用機序として
筋血流量によるものが考えられている。今回、切
皮刺激においても筋力の回復がみられたことから
皮膚表層を介したものも考えられるのではないか
と思われた。
3C9_3
キーワード:筋疲労、鍼、筋力、筋電図、
刺入深度
O-24
コンディショニングのための
鍼療法
防衛医大解剖学第一講座
○竹内京子
国立障害者リハビリテーションセンター理療教育部
小比賀黎子
東京地方会
一の瀬宏
筑波大学体育センター
進藤正雄
【目的】我々は、運動選手に対するポジティブフ
ィードバック(PFB)法によるトレーニング指導
を検討している。これは、医学的には異常ではな
いが競技力低下に悩む選手を対象として、超音波
断層写真像(エコー)による身体の観察と数種の姿
勢から各自の問題点をレトロスペクティブに解明
し、それを基に、選手と共に競 技力の回復または
向上に役立つトレーニングや コンディショニング
方法を検討する指導法である。今回は、このPF
B法実施過程で検討した練習あるいは試合時のコ
ンディショニングを目的とする鍼療法の結果につ
いて報告する。
【方法】対象は19∼24歳までの大学運動クラブ 所
属の60名(女16、男44)および一般成人5名(女
3、男2)である。競技種目は陸上競技、サッカー
をはじめ多岐にわたる。
前回の第48回神奈川大会で発表した脛骨骨際刺
鍼法等の方法を継続したが、施術は主として運動
前・中・終了後数時間以内に行いその効果を検討
した。
使用鍼はステンレス40mm18号、 銀製o鍼1φ
80mm、円皮鍼(セイリンS小およびジュニア)を
用いた。
補助療法用として電子鍼(瑞穂工業製、みずほ
電子鍼)や皮膚添付刺激用シール(美ノ源製、プ
ロスパイラルチップ)等を用いた。
評価は、被験者の感想・感覚、エコー像の変化、
姿勢・関節可動域の変化、トレーナビリティや競
技成績などで行った。
【結果と考察】過去の障害部位(シンスプリント
や肉離れ等)の疲労感や腰背部痛では毫鍼による
速刺速抜や運動鍼が著効であった。女子の9割、
男子の4割が筋力や全身持久力の低下を訴え、ま
た"冷え"や軽い浮腫を伴う末梢リンパ循環不全
(所謂水毒、虚証)傾向を示していたが、このよ
うな例では、運動開始前且つ反応部位に対する円
皮鍼やシール添付等の弱い持続刺激が著効であ
り、添付時間は20分から1時間ぐらいが適当刺激
であった。運動後の全身の緊張緩和や疲労回復を
目的とした場合は腰背部への o鍼による接触鍼法
が著効であった。
3C9_4
キーワード:スポーツ鍼灸、コンディショニング、
トレーナビリティ
O-25
低周波鍼通電刺激による筋血
液量・硬さの変化(2)
筑波技術短期大学鍼灸学科
○松枝宏幸、上田正一、野口栄太郎
森 英俊
【目的】低周波鍼通電刺激による皮膚血流量・筋
血液量と硬さの変化について検討した。
【方法】実験は趣旨を十分説明し同意を得て行っ
た。対象は男17名(平均年齢23.1±6.0歳)で、低
周波鍼通電刺激(1Hz、10分間)を右大腿四頭筋
に行った。
筋血液量の測定は近赤外分光法を用いて、皮膚
血流量と筋血液量を刺激前10分、刺激中、刺激後
30分まで連続的に行い、5分おきにそれぞれ5秒ず
つ皮膚血流量および総Hb量についてサンプリング
し解析した。測定にはレ−ザ−血流計(アドバン
ス社製ALF21D)および組織SO 2 ・Hb量モニター
(バイオメディカルサイエンス社製 PSA-ⅢN)
を用いた。また、硬さ測定は大腿四頭筋部を触覚
センサーシステム(アクシム社製)を用い、刺激
前後で観察した。
【結果】皮膚血流量と総Hb量が増加した。
また、大腿四頭筋部の柔軟性の向上がみられた。
【結語】低周波鍼通電刺激後、大腿四頭筋の皮膚
血流量と筋血液量の増加が示唆された。 3C9_5
キーワード:低周波鍼通電、筋血液量、
皮膚血流量、筋緊張
O-26
トリガーポイント刺激による関
連痛放散領域の筋電図学的検討
赤穂中央病院
関西鍼灸短期大学
○片野泰代
黒岩共一
【はじめに】トリガーポイント刺激時には、症状
部位に関連痛が誘発される。関連痛は、局所と遠
隔部位の両方に認められる感覚である。文献によ
る、トリガーポイント刺激局所での筋電図活動の
報告がある。感覚同様筋電図活動も遠隔部位放散
領域についても認められるのではないかと考え、
遠隔部について筋電図学的に検討したので報告す
る。
【方法】 対象は、トリガーポイントに起因する疼
痛症状を持つ20代と30代の女性各1人、40代の男
性2人の計4名である。実験は、安静臥位にて
行った。刺激点は被験者の症状部位のトリガーポ
イントである。記録点は、トリガーポイント内包
筋以外の遠隔への関連痛放散部位の隣接した2筋か
らそれぞれ1点ずつ、計2点を設定した。記録点
に、EMG表面電極を装着し、刺激前を安静コント
ロールとして、刺激終了後までを継続して記録し
た。
【結果】 トリガーポイント刺激により関連痛放散
領域上の記録点に関連痛の誘発に伴い筋電図活動
が認められた。そして筋電図活動は、刺激中止後
も継続して認められた。また、隣接筋であって
も、協働筋と拮抗筋の間では、放電の強さに差異
が観察された。
【考察】 関連痛と同一現象と思われる得気誘発時
に局所において筋電図活動が報告されている。ト
リガーポイント刺激による関連痛は、局所と同様
遠隔部位にも認められる。臨床上、鎮痛効果は局
所と関連痛放散領域の両方に認められている。こ
れらの事から関連痛の誘発、同領域の筋電図活動
と鎮痛効果発現の3要素に部位的な一致があり、相
互に関連がある可能性が示唆された。 3C10_1
キーワード:トリガーポイント、関連痛、
筋電図
O-27
実験的トリガーポイントから
記録された筋電図活動に対す
る鍼刺激の影響
明治鍼灸大学生理学教室
○伊藤和憲、岡田 薫、川喜田健司
【目的】 トリガーポイントから特異的に筋電図活
動が記録されることが報告され、その成因と筋電
図の発生機序に関して様々な議論が行われてい
る。そこで今回運動負荷により作成したトリガー
ポイントから得られる筋電図活動に対し、鍼刺激
の影響を検討した。
【方法】 実験にはインフォームドコンセントの得
られた健康成人19名を用いた。実験的トリガーポ
イントの作成には、中指に可変式のおもりを装着
しall outまで伸張性収縮運動を3セット行った。そ
の後、運動負荷2日後に圧痛点から筋電図活動を記
録し、その筋電図に対する各条件刺激の影響を観
察した。条件刺激はトリガーポイントが出現した
総指伸筋と対側の総指伸筋、対側の前脛骨筋の3ヶ
所にそれぞれ10秒間響き感覚を伴う鍼刺激を行っ
た。一方、別の被験者で筋電図記録部位の痛覚閾
値と筋電図活動を経時的に測定し、その関連を調
べた。
【結果】 全被験者において総指伸筋に硬結を伴う
トリガーポイントが出現した。その部位の筋膜付
近に鍼電極を刺入すると、17/19例の被験者で強い
重だるい感覚に同期した筋電図活動が記録され
た。その活動は持続的であり、短いものでも2分程
度安定していた。この筋電図活動は総指伸筋に鍼
刺激を加えた時に最も強く抑制され、その抑制度
は被験者の重だるい感覚の減弱と一致した。ま
た、対側の総指伸筋や前脛骨筋の刺激は、ほとん
ど影響を与えなかった。一方、筋電図記録部位の
痛覚閾値は総指伸筋の鍼刺激により上昇した。
【考察】 今回記録された筋電図活動は、トリガー
ポイントが存在する総指伸筋に刺激をした時に最
も強く抑制され、その抑制は被験者の重だるい感
覚の減弱や記録部位の痛覚閾値の上昇と一致して
いた。以上のことから筋電図の発現には重だるい
感覚の出現や痛覚閾値の低下が重要であることが
考えられた。
3C10_2
キーワード:トリガーポイント、索状硬結、
伸張性収縮運動、安静時筋電図
O-28
耳介鍼刺激のエネルギ−代謝
調節機構に対する役割
日本鍼灸理療専門学校1
(財)東洋医学研究所2、
東海大学医学部生体構造機能系生理学部門3
○小島孝昭1,2・小川一1,2、白石武昌2,3
【目的】今回は単純性肥満症モデルとして食事性
肥満ラットを用い、耳介鍼刺激による減量効果の
作用機序を血中レプチン濃度・体温に及ぼす影響
などから検討した。
【方法】Wistar-SPF/VAF雄性ラツトを生後4週齢
(体重80∼90g)から、粉末高脂質・高糖質食及
び普通食で飼育し、15週齢で普通食飼育ラットと
有意に体重増加した時点でこれを食事性肥満ラツ
トとした。実験は左側耳輪脚迷走神経分布領域の
電気抵抗が10∼50KΩ/cm 2 以下の部位を探索しス
テンレス製セイリンSPINEX(0.12mm×2mm)針
を斜∼横刺し、置鍼・固定(皮内鍼群:n=8)し
た。電気刺激装置より刺激のパルス幅0.1ms、強さ
5∼40V、 頻度50Hzで15分間通電を週2回 3週間行
ない(通電群:n=10)、迷走神経分布が無く、且
つ電気抵抗の高い(100KΩ/cm2以上)部位に刺激
した対照群(n=8)と比較検討した。尚、実験は
すべて日中明期(07:00−19:00)に、体重、摂食
量、飲水量、糞便・尿量及び直腸温の測定を隔
日、尿の生化学的検査を週1回行ない、実験開
始・終了時に糖、インスリンなど血液の生化学的
検査・レプチン値(ELISA)の測定を行った。
【結果】対照群に比して通電群などの体重減少が
認められた例ではTGの減少、HDL-コレステロ-ル
の増加、糖、インスリン値は低値を示した。レプ
チン値は普通食飼育ラットに比し、肥満対照群、
通電群・皮内鍼群ともに約3倍程度の高値を示し
ていた。耳介鍼刺激により通電群・皮内鍼群とも
に約4.3(P<0.01)、3.4(P=0.107)ng/mlと刺激前
よりも低下した。また、体温(直腸)の変化は、
対照群に比し、通電・皮内鍼群共に刺激後2∼3週
より次第に体温が上昇し(0.05∼0.76℃)、その
効果は実験終了後までにも持続した。今回の実験
では体重の変化とレプチン値及び体温は、共に高
い相関(r=0.798、0.765)が得られた。
【結語】単純性肥満症モデルとしての食事性肥満
ラットに対する耳介鍼刺激による減量効果は、間
脳視床下部の摂食調節系に関わる神経活動に伴
い、脂肪組織をはじめ、末梢性のエネルギー代謝
調節機構の促進を伴っていることが示された。
3C10_3
キーワード:耳介鍼刺激、単純性肥満モデルラット、
脂質代謝産物、血中レプチン、体(直腸)温
O-29
手術侵襲による免疫抑制に対
する鍼通電刺激の影響
明治鍼灸大学外科学教室
○田口辰樹、田村隆朗、咲田雅一
明治鍼灸大学東洋医学基礎教室
篠原昭二
【目的】手術侵襲ストレスによる免疫能の低下に
ついては多く報告されている。特に担癌患者の手
術においては、この免疫能の低下のために残存腫
瘍の増大や転移促進を来たすことが知られてい
る。そこで今回、手術侵襲による免疫能低下を鍼
通電刺激により防止できないかと考え、手術侵襲
ラットに鍼通電刺激を行って免疫能に及ぼす影響
を検討した。
【方法】動物はSD系雄性ラットを用いた。手術侵
襲ラットは腹部に5cmの正中切開を行い、一度開
腹してその後縫合閉腹した。その上、さらに背部
の皮膚を6cm切開した後縫合して閉創して作成し
た。術後1日、3日、5日、9日後に脾細胞を用いて
NK細胞活性およびmitogen(PHA、ConA、LPS)
に対するリンパ球芽球化反応による免疫能の推移
を検討し、次いで鍼通電刺激を行ってその影響を
検討した。通電方法は術後、ラットが麻酔から覚
醒した直後から開始し、その後連日行った。通電
部位は一側後肢前脛骨筋部とし、ステンレス鍼を
7mm刺入し刺激条件は2Hz、2mAで1時間通電し
た。通電中はできるだけストレスを与えないよう
無拘束でケージ内を自由に行動できるようにし
た。
【結果・考察】非通電群のNK細胞活性は術後3日
目に最も低下し、その後漸次回復したが術後9日
目にも無処置ラットに比しやや低下していた。一
方、鍼通電群では非通電群に比べて各時点におい
てわずかに上昇する傾向が見られたが有意な差で
はなかった。リンパ球芽球化反応は非通電群では
PHA、ConA、LPSいずれも術後1日目に有意に低
下し、その後徐々に回復する傾向が見られ、特に
PHA芽球化反応の低下が著しかった。通電群では
非通電群に比べ早期に回復する傾向が見られ、
PHA芽球化反応は術後3日目、ConAは術後1日目、
LPSは術後1、3日目の通電による回復が有意で
あった。以上の結果から、手術侵襲により術後1
∼3日目にNK細胞活性、リンパ球芽球化反応共に
低下すること、鍼通電刺激でこれらの低下が早期
に回復することが判った。
3C10_4
キーワード:手術侵襲、鍼通電、NK細胞活性、
芽球化反応
O-30
施灸刺激による免疫効果
−ラット肥満細胞の免疫応答について−
関西鍼灸短期大学
○松岡裕一、松尾貴子
東家一雄、木村通郎
【目的】 気管支喘息やアトピー性皮膚炎などⅠ型
アレルギーに対する施灸治療の効果が知られてい
る。今回演者らは施灸動物に於けるⅠ型アレルギ
ーのIgE標的細胞(肥満細胞)の動態に関し、施灸
局所皮膚及び所属リンパ節での細胞動態について
免疫組織学的検索を行った。
【対象と方法】6週令、雄性、9匹のWistar系ラッ
トを単日5壮施灸群(単日施灸群)、同5壮の連続3
日施灸群(連続施灸群)、および非施灸群に分け
た。施灸に際し左後肢下腿前面を除毛し前脛骨筋
膝関節部1/3の皮膚上(足三里相当部位)に半米粒
大(山正艾・1mg)の直接灸を行った。これら実
験動物での施灸群は最終施灸から72時間後にエー
テル深麻酔し、0.6%ホルムアルデヒド-0.5%酢酸に
て潅流固定を行い、それらの施灸局所皮膚、左右
所属リンパ節(鼠径リンパ節)を摘出、4μmの凍
結包埋切片を作製、0.2%トルイジンブルー溶液に
て加熱染色した。それらの切片についてメタクロ
マジーを指標に肥満細胞の動態を光学顕微鏡下で
観察した。
【結果と考察】正常皮膚組織では肥満細胞は毛細
血管、神経線維束の多い真皮下層に最も多く分布
していた。施灸皮膚局所でのの肥満細胞数は、単
日施灸群ではやや減少し、連続施灸群では逆に増
加していた。一方、単日施灸群の所属リンパ節で
は肥満細胞数は増加しており、連続施灸群では肥
満細胞数に減少傾向がみられた。また、局在分布
も異なっていた。以上の結果から皮膚局所に局在
している肥満細胞は施灸刺激により脱顆粒を呈す
るのみでなく、末梢リンパ網管から輸入リンパ管
を介して所属リンパ節辺縁洞に至り、皮質にて他
の免疫担当細胞と免疫応答した後、髄質に至り、
遠位リンパ節を経て全身性免疫応答を引き起こし
生体の恒常性維持(アレルギ−反応の抑制など)
に関与する事が推察される。
3C10_5
キーワード:ラット、灸刺激、肥満細胞、
免疫応答
O-31
光てんかんの脉診弁証
O-32
兵庫地方会 鍼灸古典医学研究会 ○近川次男
【はじめに】督脈の経絡である l脈の陽気および
任脈の経絡である l脈の陰気を、脉診に随って大
過不及を触知し、特に脉位の高さを重視した。演
者は日頃の臨床で、 l脈の肝陰虚を下焦の脉位で
よく経験している。これは内寒による副交感神経
機能の低下により、視力の異常をきたしたものと
考えられ、症例でも同じような所見を経験したの
で、ここに報告する。
【目的】 脉状診で、十二経、奇経八脉九道脉に従
い、五味・五悪・五主・五根・五労を脉状脉性に
求め、病位を脉位で精査し、病因を究明する。
【症例】 24才、男性。パチンコをしている時、て
んかん発作を起こした。
【方法】 主証のl脈の肝陰虚を補い、陰気の活性
を計り、督脈の陽気の亢りを抑制し、光調節作用
を促した。
【考察・結語】近年、冷たい飲料水、サラダ、冬
に夏野菜をとることが飲食習慣になっている。こ
のような飲食習慣は内臓を冷やし内寒となる。現
代生理学的にも、深部温が33℃になると神経障害
を起こすとある。即ち、内寒により副交感神経系
の機能低下をきたし、眼球運動や瞳孔の光調節機
能の異常を引き起こしたもので、本症例のてんか
ん発作もパチンコ台の光は誘因にすぎず、原因は
狂った食生活にあると考えられる。若い世代に基
礎体温が低く、目が吊り上がっているものが多く
見られるのも、同じような機序とも考えられる。
ついでながら、現代のいわゆる“キレル”という
現象もこうした状態と併せて捉えると、何かのヒ
ントになると思われる。
2E9_1
キーワード:脉診弁証、光てんかん
北辰会
弁証論治に基づく少数穴治療に
よる痛経の症例(北辰会方式)
○堀内秀訓
【目的】今回、ボルタレンを2錠服用しても、夜
間に痛みで覚醒してしまうほどの生理痛を長く
患っている患者に対して、北辰会方式(多面的観
察に基づく弁証論治と少数穴治療)を行った結
果、著効を得たのでここに報告する。
【症例の概要】26歳、女性。平成11年9月11日初
診。歯科医院の受付をしている。
20歳でこの職場に就職し、半年程経ってから血塊
が出始め、生理痛がひどくなった。
24歳の時から、小腹に激しい痛みが生じ、ボルタ
レンを2錠服むようになる。しかし、平成10年8月
より、血塊の大きさが500円玉以上鶏卵大未満と
なり、ボルタレンを2錠服んでも痛みが治まらな
くなった。初診時まで毎月同情況が続いており当
院受診にいたった。
【証】m血気滯と気滯血m(前者≫後者)
【治療指針】駆m血を中心に行うが理気・疏肝理
気も加え、駆m血の効率化を図る。
【治療配穴】左または右の足臨泣と、左合谷また
は百会を瀉法。
【効果】治療開始後、週に1∼2回のペースで治療
し、20日後に生理が来て痛みが半減(ボルタレン
1錠のみで治まった)し、次の生理の時は軽い痛
みが数秒繰り返しただけで全く服薬する必要がな
かった(この時点で12診目)。
【結論】多面的観察により四診合参し、正確に弁
証論治すれば、少数穴でもって、しかも短期間の
うちにかなりきつい痛経も緩解させることができ
た。
2E9_2
キーワード:北辰会方式、弁証論治、痛経、
m血気滯、駆m血
O-33
北辰会
清熱解毒の鍼による異病同治
の治験例
○大八木敏弘、堀内久子
藤本蓮風
【目的】北辰会の清熱解毒の鍼は、藤本代表が臨
床の中で、『外台秘要』の黄連解毒湯、『千金
方』の蝦蟆瘟、『素問』刺熱論などからヒントを
得て作り出した。その配穴は、霊台、両督兪に座
位で上から下へ横刺、脊中、両脾兪に伏臥位で上
から下へ横刺をする。この刺鍼法は、温病学の気
分の広範囲な熱毒に対して速やかな清熱解毒作用
がある。今回、この清熱解毒の鍼で気分の種々の
熱性疾患に対して、顕著な効果を挙げた治験例を
報告する。
【症例1】風熱による風邪:風熱を外感して39℃
の熱が出た温病【症例2】お多福風邪:風邪を引
いて耳下腺炎になったもの 【症例3】 実証の喘
息:嫁姑、仕事のストレスによる肝脾不和、肝鬱
化火による実喘【症例4】アトピ−性皮膚炎:仕
事の疲れストレスによる肝鬱化火による2症例
【症例5】熱性の皮膚炎:肝鬱化火に香辛料の多
食による体幹部を中心とする丘疹(熱) 【症例
6】牛皮癬:肝脾不和と湿熱による頸部を中心と
する丘疹【症例7】薬疹:右下肢の怪我の治療で
抗生物質を服用して熱性の薬疹(丘疹)が発性し
たもの【症例8】慢性リウマチの急性期:両足第5
指に発熱腫脹疼痛が発生したもの【症例9】リウ
マチ:肝鬱化火、発熱による微熱、右膝関節、両
足関節の腫脹疼痛、(ARA87年版StageI、Class2)
【症例10】 陽明腑実証による昏迷、膝痛 【症例
11】肝胆の湿熱による左側頚部の腫脹、熱感の強
いもの
【結果】この清熱解毒法の同一治療配穴は、温病
学の幅広い範囲の気分の諸疾患(特に炎症が激し
いもの、伝染性のキツイもので炎症が簡単に取れ
ないものなど)に対して顕著な治療効果が見られ
た。
【考察】刺熱論では、六椎下の霊台穴は、脾の熱
を表す。又黄連解毒湯は清熱解毒の効能を持ち組
成は、黄連、黄r、黄柏、山梔子で、黄色に関係
があり、五蔵の色体表では、黄色は脾に帰属する
ことから黄連解毒湯と脾の関わりは強い。症例の
ごとく、脾に関係の深い配穴が、清熱解毒に効果
があったことより、清熱解毒と脾の関係は深いと
考えられる。
2E9_3
キーワード:清熱解毒、気分、霊台、脊中、
鍼治療
O-34
糖尿病に対する古典鍼法の効果
−インスリン注射使用事例の
血糖値変化に関する1考察−
筑波技術短期大学鍼灸学科
同 診療所
○和久田哲司
丹野恭夫
【はじめに】日頃の鍼臨床活動において、糖尿病
に対する有効性を示す報告や、その疾患を伴う
種々なる症状に対して、鍼治療を行なっていく中
で、しばしば症状の軽減とともに血糖値など糖尿
病そのものの改善を経験することは多い。
今回、本学診療所において、『難経』六十九難
など古典理論を基本とする鍼治療法(以下、古典
鍼法)を、糖尿病患者に行なってきたところ、鍼
治療以前及び以後の血糖値などの変化を経時的に
観察した結果が得られたので報告する。
【対象・方法】患者:67歳、男性。53歳に糖尿病
を発症。65歳よりインスリン注射が処方(朝12単
位、夕8単位)され、1日1600Kcalの食事制限と運
動療法でコントロール中であった。1999年7月9
日、両下腿以下の痺れ・便秘及び左膝痛で来所。
鍼治療は本治として『難経』六十九難に基づき
四肢に4穴と腹部2穴、標治として背部の痞根穴
など4穴と円皮鍼、その他膝及び下腿に数穴を選
穴し副刺激法を加える。血糖値測定は簡易測定器
(Exac Tech 2A)で四日ごとに朝・夕食前の2度と
し、鍼治療前後それぞれ3箇月(20回)の変化を観
察した。
【結果】 朝食前値では各月の平均値を見ると鍼治
療後は鍼治療前に比べて10mg/dl程度有意な減少を
認めた。夕食前値では各月の平均値は全体的には
減少傾向にあるが、3箇月のトータル比較で有意で
あった。
【考察】1症例ではあるが、糖尿病患者の血糖値の
正常値への減少傾向を観察した。古典鍼法前後で
は便秘に対する漢方薬処方以外では特に使用薬物
は変わっていないこと、その他気象・社会的要因
に変化が認められないことから、鍼治療の結果で
あると考えられる。これらの変化はヘモグロビン
A1cも正常域に改善されている点などから、本治
として全身状態の改善と痞根穴を中心にした標治
的な背部刺激が、なんらかの作用を及ぼした結果
であると思われるが、これらの作用機序の考察が
急務である。
2E9_4
キーワード:糖尿病、血糖値、『難経』、
古典鍼法、インスリン
O-35 『 黄 帝 三 部 鍼 灸 甲 乙 経 』 の
「太陽中風感於寒湿発痙第四」
についての考察
関西鍼灸短期大学東洋医学基礎教室
○戸田静男
【目的】 皇甫謐著『黄帝三部鍼灸甲乙経』は、
『黄帝内経素門』、『黄帝内経霊枢』、『黄帝内
経明堂』を再編したものであるとされている。そ
の巻之一から巻之六までは、これらを参照した内
容のものがほとんどである。しかし、それ以降の
巻には病証に関すもの以外に治療経穴の解説が多
く記載されている。その内の一つである巻之七の
「太陽中風感於寒湿発痙第四」の記載と、『傷寒
論』、『金匱要略』の係わりについて考察したの
で報告する。
【方法】 今回の考察は、『黄帝三部鍼灸甲乙経』
と王叔和編著『傷寒論』、『金匱要略』を対象に
してなされた。
【結果と考察】「太陽中風感於寒湿発痙第四」に
は、「痙」の病証と具体的な種々の症状に対して
有効な経穴の解説がなされている。「痙」の解説
では、『傷寒論』、『金匱要略』にあるような
「太陽病発熱脈沈而細者曰痙」、「太陽病発汗因
致痙」などが掲載されている。皇甫謐と王叔和が
同時代の人物であることから、これらが六朝時代
の「痙」に対する一般的概念であったのか、どち
らかが参考にしたものであろう。そして、「太陽
中風感於寒湿発痙」については、鍼灸や葛根湯を
服用するべきであるとしている。また、「痙」に
関連しての種々の症状に対する治療経穴は現在で
も大いに参考になる。
【結語】 『黄帝三部鍼灸甲乙経』巻之七の「太陽
中風感於寒湿発痙第四」には、『傷寒論』、『金
匱要略』の記載と関連性があった。そして、
「痙」に関連しての種々の症状に対する治療経穴
は現在でも大いに参考になるものが多かった。
2E9_5
キーワード:『黄帝三部鍼灸甲乙経』、
『傷寒論』、『金匱要略』
O-36
パーキンソン病を基礎疾患とし
た尿失禁に対する鍼治療の1例
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
○角谷英治、北小路博司、矢野 忠
明治鍼灸大学泌尿器科学教室
鈴木言枝、星 伴路、手塚清恵
矢田康文、斉藤雅人
明治鍼灸大学大学院鍼灸基礎医学教室 渡辺 泱
【はじめに】パーキンソン病では高い割合で尿失
禁が見られることが報告されているが、薬物治療
に抵抗性を示すものも少なくない。今回我々は、
パーキンソン病を基礎疾患とした尿失禁患者に鍼
治療を施行し、有用だった1例を報告する。
【症例】81歳、女性、1986年パーキンソン病と診
断を受けた。1992年頃から明治鍼灸大学附属病院
内科にて治療を受けてきたが、1997年6月、MRIに
て多発性脳梗塞が認められ脳神経外科へ転科・入
院した。同年8月、尿失禁に対して泌尿器科にて
神経因性膀胱(過活動性膀胱)と診断され、治療
を受けることになった。
【治療方法】尿失禁に対する治療内容は、薬物単
独治療、薬物と鍼併用治療、鍼単独治療の3種類
を期間を区切って行った。薬物治療は頻尿改善薬
の投与を行い、鍼治療は左右の中q穴(BL-33)
に60mm 30号 ディスポーザブル鍼を用いて得気を
得てから10分間旋撚術刺激を行った。
【評価方法】それぞれの治療の尿失禁に対する効
果は、膀胱機能検査の数値を比較することにより
評価した。
【結果】 それぞれの期間の膀胱機能検査の結果
は、薬物治療前;膀胱容量100ml(無抑制収縮
+)、薬物単独治療期間;膀胱容量180ml(無抑
制収縮+)、薬物と鍼併用治療期間;膀胱容量
260ml(無抑制収縮−)、鍼単独治療期間;膀胱
容量220ml(無抑制収縮−)となり、薬物単独治
療後見られた無抑制収縮が薬物と鍼併用治療後に
消失し、膀胱容量も増大した。また、尿失禁量も
鍼治療施行後減少する傾向にあった。
【結語】今回我々は、パーキンソン病を基礎疾患
とした神経因性膀胱(過活動性膀胱)による尿失
禁患者に対して鍼治療を施行した。膀胱機能が改
善(無抑制収縮の消失と膀胱容量の増大)し、鍼
治療の有用性が示された。
2E10_1
キーワード:パーキンソン病、神経因性膀胱、
尿失禁、鍼治療
O-37
末梢性顔面神経麻痺に対する
鍼灸治療の1症例
富山市立砺波総合病院東洋医学科
○立野 豊、山岸達生、谷川聖明
【症例】55才、男性、会社員。
【主訴】左眼が閉じない、水が口からこぼれる。
【現病歴】98年8月29日起床時に左閉眼不能と左
耳介の水疱様湿疹を自覚し近医を受診。RamsayHunt症候群と診断され、薬物療法や低周波刺激治
療を約1ヶ月間受けたが症状は不変であった。9月
29日当院麻酔科を受診し星状神経節ブロック及び
スーパーライザー照射療法を約1ヶ月間施行され
たが症状に改善が得られず、11月2日鍼灸治療併
用を目的に当科紹介となった。
【現症】顔面患側に浅い鼻唇口、眼瞼や口角の下
垂を認める。前額作皺、閉眼、瞬目運動、頬のふ
くらませ、口笛運動は不能。味覚異常、聴覚過敏
は認めない。日本顔面神経研究会麻痺スコアに
て、40点中8点以下で完全麻痺と判断。
【四診】顔面患側はやや浮腫状で、肩背部には気
鬱を呈する。舌は薄白苔を伴う淡紅色で軽度歯根
を認める。声は低くて弱く聞き取り難く、患側の
重だるさ、眼の乾燥感を強く訴えている。腹候は
腹力軟で圧痛は認めず、脈状はやや浮、やや数、
渋で六部定位脈差診は右関上の虚と捉えた。
【治療経過】四診より脾虚証と判断した。治療は
本治法として太白穴、脾兪穴と、標治法として頚
肩部の気鬱や虚状を呈する部位に接触鍼を行っ
た。麻痺部分には接触鍼と15分間の切皮程度置鍼
を行った。麻酔科でのスーパーライザー照射療法
は継続とした。
鍼治療開始約2週後より顔面患側の重だるさが
軽減し、さらに流涙が認められ眼の乾燥感も改善
した。その後も良好な経過をとり約2ヶ月で日常
生活に支障を来さない程度に改善した。
【考察とまとめ】本症例は、発症直後から西洋医
学的治療を受けたが症状の改善が得られず、60日
以上の完全麻痺が持続した難治例と考えられた。
今回、証に基づき鍼治療を行うことにより良好な
経過が得られたことから、本症に対する鍼灸治療
の有用性を示唆する症例と考えられた。 2E10_2
キーワード:末梢性顔面神経麻痺、四診、
接触鍼、Ramsay-Hunt症候群
O-38
顔面神経麻痺患者の鍼灸治療
効果について(第2報)
埼玉医科大学東洋医学科
○新井千枝子、山口 智、小俣 浩
中村宏孝、阿部洋二郎、大野修嗣
埼玉医科大学健康管理センター
土肥 豊
パークヒルクリニック東洋医学外来
北川秀樹
【目的】われわれは、昨年度本学会において当科とパ
ークヒルクリニック東洋医学外来でこれまで取り扱っ
た末梢性顔面神経麻痺患者のうち、Bell麻痺患者群と
Ramsay-Hunt症候群を対象に患者の実態とその鍼灸治療
成績を比較した。その結果、初診時麻痺スコアはBell麻
痺よりもRamsay-Hunt症候群において低く、また、その
治療成績はBell麻痺のほうが高い改善率であった。そこ
で今回はさらに症例を追加し、末梢性顔面神経麻痺患
者の実態分析とより詳細な鍼灸治療効果について検討
したので報告する。
【方法】対象は、1996年4月から1999年8月までの3年4ヶ
月間に鍼灸治療を施行した末梢性顔面神経麻痺患者47
例についてである。こうした患者群の性別・年齢別分
類、罹病期間、初診時顔面神経麻痺スコア、治療回
数、後遺症の有無、また治療成績については、初診時
麻痺スコア、罹病期間及び治療期間、鍼治療回数との
関連性について検討した。
【結果】取り扱った患者群は女性が多く、年齢別では
40歳代が29.8%を占め、罹病期間は発症から2週間以内
の急性期に受診した例が半数以上であった。また、初
診時顔面神経麻痺スコアは6点以下でHouse-Brackmannの
分類においてGrade6、完全麻痺にあたる症例が60.4%に
認められ、Bell麻痺患者群とRamsay-Hunt症候群の初診時
麻痺スコアには有意差が認められた(P<0.02)。さら
に、こうした患者群の平均治療回数は26.4回であり、そ
の治療成績はBell麻痺において有意に高く(P<
0.0001)、患者群の初診時麻痺スコアと鍼治療による改
善率には負の相関が認められたが(r=-0.478、
P<0.0005)、他の因子との有意な関連性は認められな
かった。
【結語】顔面神経麻痺は、その病態として神経の浮
腫・膨化により神経管内において圧迫を受けることが
原因とされており、その成因は近年ウイルス感染説が
最も有力視されているが、血行障害説・免疫説なども
完全に否定できてはいないのが現状である。こうした
顔面神経麻痺の治療の目的の一つは傷害された神経や
筋の循環改善であり、鍼灸治療は神経機能の興奮や血
管の拡張、血流改善に寄与し、また通電刺激によるリ
ハビリテーション効果からも表情筋内の循環改善や廃
用性萎縮を防止するという報告もある。さらに、われ
われの今回の成績からも、鍼灸治療の有効率が高く、
また、初診時麻痺スコアが低値であっても高い改善率
が得られたことから、鍼灸治療は末梢性顔面神経麻痺
に対し、有用性の高い治療法であることが示唆され
た。
2E10_3
キーワード:末梢性顔面神経麻痺、鍼灸治療、
Ramsay-Hunt症候群、Bell麻痺
O-39
片麻痺患者へのリハビリテー
ションとしての鍼治療
−事例による検討−
関西鍼灸短期大学神経病研究センター
○鈴木俊明、鍋田理恵、谷万喜子
若山育郎、八瀬善郎
【はじめに】運動療法で解決し難い問題を鍼治療
により改善することができた症例を経験したの
で、筋電図学的評価も含めて報告する。
【症例紹介】症例は、右脳腫瘍により左片麻痺を
認めた26歳、女性である。平成5年12月に右海綿状
血管腫と診断され、左片麻痺が出現した。平成8年
2月に本学附属診療所を受診し鍼治療、運動療法を
開始した。初診時、歩行は装具なしでは不安定
で、スピードも低下していた。腱反射は全体的に
は中等度亢進、アキレス腱反射は高度亢進、筋緊
張は全体的には中等度亢進、下腿三頭筋は高度亢
進で、足関節背屈可動域は -5°と制限を認め
た。装具なしの歩行は不可能であり、足関節背屈
制限を原因とする歩行の不安定と、スピード低下
を問題点とした。
【鍼治療とその効果検討】運動療法として足関節
背屈ROM改善を目的に、足関節底屈筋群の持続的
筋伸張訓練を理学療法士により実施した。足関節
背屈ROMは軽度改善したが、不充分であったため
歩行機能改善は認められなかった。そこで、鍼治
療として麻痺側陽陵泉穴への置鍼をおこなった。
効果判定として、動作筋電図(前脛骨筋、ヒラメ
筋)、H波(ヒラメ筋)、歩行時間を治療前後に
計測した。鍼治療後には前脛骨筋の筋電図積分値
の増加、ヒラメ筋H波振幅の正常化、歩行時間の
短縮を認めた。
【まとめ】今回の鍼治療により、脊髄神経機能の
興奮性を示すH波、筋活動の程度を示す動作筋電
図、歩行機能(10m歩行時間)の全てが改善した
ことから、上位中枢機能の変化も含めた機能改善
を認めたと言える。本症例に対する鍼治療はリハ
ビリテーションの代表的な治療法である運動療法
で解決し難い点を解決し得たものとして高く評価
できる。
2E10_4
キーワード:片麻痺、リハビリテーション、
鍼治療
O-40
精神疾患の既往をもつ攣縮性
斜頸患者に対する鍼治療効果
関西鍼灸短期大学神経病研究センター
○谷万喜子、鍋田理恵、鈴木俊明
若山育郎、八瀬善郎
【はじめに】関西鍼灸短期大学附属診療所では、
攣縮性斜頸患者に対する鍼治療効果を検討してい
る。本疾患の中には、薬剤性ジストニーなど精神
疾患を併せもつ例もしばしば認められる。今回
は、本学で鍼治療をおこなった攣縮性斜頸患者の
うち、精神疾患の既往を持つ症例について治療経
過を報告する。
【対象】本学附属診療所神経内科で、鍼治療を受
けた攣縮性斜頸患者のうち、精神疾患の既往を持
つ6例(男性2名、女性4名、平均年齢30.2歳)であ
る。このうち、薬剤性ジストニーが4例、薬剤の
関与が濃厚とみられる症例が1例、薬剤の関与の
ない症例が1例であった。本学初診時までの罹病
期間は、平均16.3ヶ月(2∼34ヶ月)であった。頸
部偏倚のタイプは、側屈・回旋・屈曲が2例、側
屈・回旋1例、側屈1例、回旋1例、伸展1例であっ
た。
【鍼治療効果の検討】症状の変化を、本疾患の代
表的な評価法であるTsuiスコアおよび表面筋電図
によって検討した。表面筋電図の検査筋は、胸鎖
乳突筋、僧帽筋、板状筋の左右6部位とし、椅坐
位での安静時および頸部動作時における頸部筋の
筋活動を評価した。鍼治療は、表面筋電図評価の
結果同定した罹患筋に対しての循経取穴として、
胸鎖乳突筋には合谷穴、僧帽筋には外関穴、板状
筋には外関穴または後谿穴を用いて、週1回おこ
なった。Tsuiスコアおよび表面筋電図パターンを
初診時と比較し、効果を検討した。鍼治療10回目
(9週後)までに4例(側屈・回旋・屈曲1例、側
屈・回旋例、側屈例、回旋例)でTsuiスコアおよ
び表面筋電図所見に改善を認め、1例(側屈・回
旋・屈曲例)で表面筋電図所見の改善を認めた。
20回目(19週後)には他の1例(伸展例)にも表
面筋電図所見の改善を認めた。
【まとめ】 本研究の結果、精神症状を有する攣縮
性斜頸症例に対する鍼治療は、頸部伸展例では治
療期間を要するが、側屈、回旋など他の頸部偏倚
のタイプでは10週以内の早期に効果が認められ
た。
2E10_5
キーワード:痙縮性斜頸、精神疾患、鍼治療
O-41 「胃兪」穴と坐骨神経痛に
ついて2
北海道 東方鍼灸院 北海道 杏園堂鍼灸院
北海道 伯仁堂鍼灸院
北海道 東方鍼灸院
○吉川正子
須藤隆昭
濱野好伸
小笠原弘子
【目的】「胃兪」穴を使って、坐骨神経痛を治療
した報告はこれまでにない。坐骨神経痛の患者の
多くに、背部兪穴の「胃兪」に著明な反応(圧
痛、陥下、硬結等)が出ており、この「胃兪」穴
への施術は治癒への期間が大幅に短縮され、効果
が著しいので報告する。
【方法】坐骨神経痛の症状は、膀胱経、胆経、及
び胃経に出ることが多い。「胃兪」は膀胱経に属
するが、胃の「兪穴」でもあるから胃経の調整も
できる。「胃兪」への施術後、即時に臀部より下
肢へかけての症状(痛み、痺れ、冷え、筋緊張
等)が消失、又は緩解する。
【結果】坐骨神経痛の患者266人(年齢17歳∼91
歳)、平均56.3歳、病歴1日∼40年(1年以上が
49%以上)。治療回数1回∼34回、平均11.06回。
胃兪穴の反応は245人(92.1%)にあり、治癒161
人(65.71%)、有効71人(28.97%)、無効又は不
明13人(5.30%)であった。
【考察】“百病は脾胃より生じる”飲食の不摂や
ストレスにより脾胃の機能が低下すると、手足に
栄養が廻らなくなる。特に、寒湿の邪気(飲食、
外気等)を受けると、経脈が阻滞し、その循行部
位に痛みを生じる。坐骨神経痛は、坐骨神経への
栄養の供給が不足すると痛みを生じる。坐骨神経
痛の患者の多くに、胃の変調を認めるが、胃の病
変により臀部へ圧痛が生じる。坐骨神経痛の経路
は、膀胱経と胃経に一致するので、胃兪への施術
後、即時に臀部の圧痛が消失し症状が緩解するも
のと思われる。「胃兪」は一穴で胃の働きをよく
し、坐骨神経への栄養の補給を改善できるので、
本病の根本治療となり、治癒への期間が早まるも
のと確信する。
2E15_1
キーワード:胃兪、坐骨神経痛
O-42
急性腰痛に対する局所鍼治療
−局所治療と遠隔治療の比較−
古東整形外科 ○小澤庸宏、河村 修、古東司朗
【はじめに】今回我々は、急性腰痛に対して腰部
局所への施術を行い、腰腿点との治療成績を比較
検討したので報告する。
【対象】1998年3月より1999年11月までに急性腰痛
を訴えて来院した患者48名を対象とした。性別は
男性27名、女性21名で、年齢は12∼76才まで、平
均年齢40.4才であった。疾患は腰椎症10例、腰椎
椎間板症18例、筋筋膜性腰痛6例、腰椎椎間板ヘル
ニア7例、初診時に痛みが強く鑑別診断できなかっ
たもの7例であった。
【方法】施術は初診時の1回のみとした。施術部位
は左右の腎兪、志室、大腸兪と、腰部の最大圧痛
点1穴の計7穴を用いた。使用鍼は50mm20号ディス
ポーサブル鍼とし、10分間置鍼した。
施術効果は施術前後の指床間距離(以下、
FFD)及び、visual analogue scale(以下、VAS)を
評価した。なおFFDの前後はt検定を、VASの前
後は符号付順位検定を用いた。さらに腰腿点の治
療成績と比較した。
【結果】Ⅰ;FFDの施術効果
局所群は48例中、改善36例(75%)、不変12例
(25%)、平均改善距離8.9cmであり、施術前後に
有意差が認められた(P<0.1)。腰腿点群は50例中
改善49例(98%)、不変1例(2%)、平均改善距
離18.6cmであった。筋筋膜性腰痛の施術効果は両
群ともに改善率は100%であった。
Ⅱ;VASの施術効果
VASの評価は、施術前後の改善率が50%以上に
なったものを有効、1∼50%未満をやや有効、0%
を無効とした。その結果、局所施術群有効17例
(35%)、やや有効29例(60%)、無効2例(4%)
であり、施術前平均値8.0と施術後平均値5.3の間に
有意差が認められた(P<0.1)。腰腿点群は有効23
例(46%)、やや有効23例(46%)、無効4例
(8%)であった。筋筋膜性腰痛の施術効果は両群
ともに効果を認めた。
【考察】 急性腰痛に局所施術を行った結果、
FFD、VAS共に効果的であることがわかった。
腰腿点の治療効果と比較した結果、両群ともに
FFD、VASの改善率は高く、両群の施術効果に差
はみられなかった。
【結語】 急性腰痛に対して局所鍼治療は効果的で
あることが示唆された。
2E15_2
キーワード:急性腰痛、局所治療、遠隔治療、
FFD
O-43 上 腕 骨 外 側 上 顆 炎 に 対 す る
皮内鍼治療(第2報)
−年齢別にみる効果について−
古東整形外科 ○柏下貴廣、小澤庸宏、古東司朗
【目的】1997年全日本鍼灸学会において高原が皮
内鍼治療の効果について報告した。
今回我々は、更に症例を追加し、年齢別にみる
治療成績について検討したので報告する。
【対象】1999年5月より1999年11月までに来院した
上腕骨外側上顆炎と診断された9肢と、高原の報告
した28肢を加えた計37肢を対象とした。男性8肢、
女性29肢であった。年齢は21∼74才、平均年齢
50.5才であった。年代別では、20代2肢、30代4
肢、40代12肢、50代11肢、60代4肢、70代4肢で
あった。
【方法】評価は1;日常生活動作(以下、ADL)10
項目、2;握力、3;Visual Analogue Scale(以下
VAS)の3項目とした。
効果判定は初診時と2回目来院時(1∼6日後、平
均3日後)とした。施術部位は外側上顆部周辺にお
いて圧痛点2点とした。鍼はステンレス製皮内鍼平
軸3mmを使用した。
【結果】 Ⅰ ) A D L の 改 善 に つ い て は 改 善 3 1 肢
(84%)、不変4肢(11%)、増悪2肢(5%)であ
り、項目数は術前平均4.2項目から術後平均2.2項目
に改善した。皮内鍼によるADL障害の改善性と年
代別間に相関性は認められなかった。Ⅱ)握力の
改善については改善24肢(65%)、不変4肢
(11%)、増悪9肢(24%)であった。年代別で
は、ほぼ高齢になるにつれて握力の改善性は低下
していく傾向にあった。Ⅲ)VASの改善について
は改善29肢(78%)、不変1肢(3%)、増悪7肢
(19%)であった。年代別では高齢になるにつれ
てVASの改善性は低下していく傾向にあった。
Ⅳ)VAS改善距離とADL障害改善度の関係につい
てはVASの改善距離が長くなるにつれてADL障害
の項目数も減少していった。Ⅴ)VAS改善距離と
握力改善度との関係についてはVAS改善距離が長
くなるに従って握力も高くなった。
【考察】 上腕骨外側上顆炎に対する皮内鍼治療は
症例が若いほど改善性が良かった。よってOVERUSEによる外側上顆炎に対して皮内鍼治療は良好
な成績が得られるものと考えられた。また、上腕
骨外側上顆炎による機能障害と痛みについての相
関性が認められたことから、皮内鍼によって痛み
を取り除くことによってADLや握力の本来の機能
を回復させるに至ったと考えられる。
【結語】 上腕骨外側上顆炎に対して皮内鍼治療は
有効であり、その鎮痛作用により日常生活動作の
改善が得られるものと考える。
2E15_3
キーワード:上腕骨外側上顆炎、皮内鍼
O-44
内側型変形性膝関節症に対する
鍼治療の効果
古東整形外科
○小川貴司、森 豊、古東司朗
【目的】今回我々は内側型変形性膝関節症(以下
膝OA)に鍼治療を行い、短期間にて良好な成績を
得たので文献的考察を加えて報告する。
【対象】1999年2月から1999年9月までに膝OAと診
断された50歳以上の男女を対象とした。その内訳
は男7名、女28名、合計35名、罹患側は右28膝、
左20膝で合計48膝であった。年齢は50歳から79歳
平均65歳であった。
【方法】治療は初回から1週間までに合計3回行っ
た。施術部位は内側関節裂隙最大圧痛点、陰陵
泉、血海、内膝眼の4穴を選択した。使用した鍼
は50mm20号ステンレス製ディスポーサブル鍼を
用い、雀啄術後10分間置鍼した。痛みの評価は
Visual Analogue Scale(以下VAS)を用い、初回
治療前VASと3回目治療後VASからVASの改善率
(前後差÷治療前のPain Scale×100)を算出し
た。改善率50∼100%を有効群、0∼49%を無効群
とし、2段階で評価した。また有効群、無効群の
VAS改善cm(初回治療前VAS−3回目治療後VAS
=VAS改善cm)をそれぞれ比較した。その他、有
効群、無効群の平均治療効果持続時間をアンケー
ト形式で調査し、それぞれを比較した。
【結果】施術効果についてVAS改善率は、有効群
48例中36例75%、無効群48例中12例25%であっ
た。両群のVAS改善cmは有効群平均4.8cm、無効
群平均2.0cmで、有効群無効群間で有意な差がみ
られた(P<0.01)。治療効果持続時間は有効群平
均39.9時間、無効群21.5時間で有効群の方がなが
かった(P<0.01)。
【考察】今回の調査で我々は上記の項目の以外に
治療時平均年齢、鍼治療経験の有無、BMI、
FTA、X線grade分類について有効群と無効群の間
で検討したがすべてにおいて相関関係を見いだす
ことはできなかった。治療効果については有効群
が全症例の75%を占め、良好であった。膝内側に
は伏在神経膝蓋下枝が分布し、同神経が膝関節内
側の痛みを伝達するため、膝内側の4穴を用いた
ことにより、この神経に何らかのアプローチがで
きたのではないかと考える。また、施術手技に特
別な技術は必要としなかった。
【結語】膝OAに対して鍼治療を行い、施術に対し
ては特別な手技は用いず、48例中36例75%に有効
な結果が得られた。
2E15_4
キーワード:内側型変形性膝関節症、鍼治療
O-45
肩関節のスポーツ傷害に対する
鍼治療の1症例
−肋骨の疲労骨折が認められた症例−
東海医療学園専門学校
O-46
RCTを用いた肩凝りに対する
圧痛点鍼治療の効果
明治東洋医学院専門学校
○鍋田智之
【はじめに】演者は、平成11年4月より慶応大学
体育会硬式庭球部の依頼により、コンディショニ
ングの指導・管理を行っているが、今回、肩関節
の障害に悩む学生の鍼治療に際し貴重な経験をし
たので、その内容と経過について報告する。
【症例】20歳、男性、大学3年生。テニス歴9年、
プレースタイル:フォアハンド片手打ち、バック
ハンド片手打ち。平成11年7月頃より、肩関節の
違和感と共に疼痛、関節可動域の制限が出現し、
スポーツ外来を持つA整形外科にて精査の結果、
「オーバーユースによる腱板炎」との診断を受け
る。同科医師の指導の下、リハビリテーションと
鍼治療を行い、同年9月には疼痛も緩和し、関節
可動域の改善も認められた。他大学との対抗戦を
控えた同年10月初めに、突然、外転外旋障害を伴
う痛みが肩関節及びその周囲に起こり、念のため
先のA整形外科を受診したところ、第1肋骨の疲労
骨折がX線撮影により認められた。
【まとめ】 疲労骨折は、下腿や足部、骨盤部など
が著明であるが、今回のような例は数少なく、A
整形外科でも野球選手の2例のみである。本症例
では、鍼治療により疼痛や関節可動域の制限が緩
和され、鍼治療の有用性は認められたが、長引く
経過の場合は常に疲労骨折を念頭におくべきであ
る。スポーツ選手に対する鍼治療は単に痛みを鎮
めることに努めるだけでなく、競技特有の動作や
競技レベルを熟知し、治療に当たることが基本で
あり、今回も、肩関節をかばってテニスを続けた
結果、疲労骨折を来したものと考えられる。スポ
ーツ傷害における鍼治療を行う場合には、スポー
ツを専門とする医師やコーチなどとの連携が必要
不可欠であり、チーム医療の一翼を担えるように
研鑽が必要である。
2E15_5
【目的】 鍼灸治療において、圧痛点は治療点とし
て多く用いられている。しかし、その治療効果を
明確な対照群と比較した報告は少ない。今回我々
は、肩凝りを対象として圧痛点部の筋に鍼を刺入
した場合(刺入群)と皮膚を刺激した場合(sham
鍼群)の治療効果を、無作為化比較試験(RCT)
にて検討した。
【方法】 被験者はインフォームド・コンセントを
行い同意の得られた本校の学生ボランティアで徒
手検査によって上肢症状の認められなかった34名
を用いた。この被験者を肩凝りの程度・年齢・性
別・鍼の経験値において層別化を行い、その後封
筒法で刺入群17名(34.2±10.8歳)とsham鍼群17
名(30.8±12歳)に割り付けた。鍼治療部位は左
右の頸部・肩部・背部の6部位に分け、被験者が肩
凝りを訴える部位の圧痛点を調査し、各部位ごと
に最大2ヵ所を治療点とした。鍼治療は1週間に1回
とし 3週間行った。刺入群は40mm20号鍼を用いて
1∼2cm刺入し、5回の雀啄を加えた後5分間置鍼し
た。sham鍼群は、50mm20号鍼を40mmで切断し、
これを用いて刺入仕草を行い、5分間放置の後抜鍼
の仕草を行い刺入群とのマスキングを行った。治
療効果の評価として治療前後の圧痛閾値を測定し
た。また、肩凝りの変化を日誌に試験開始6日前か
ら約1ヶ月間の指定日にVAS法にて記録させた。試
験終了後に、どのような鍼治療を受けたと感じた
かをアンケート調査し、マスキングを評価した。
【結果】刺入群とsham鍼群の圧痛点部位は類似し
ていた。また、治療に用いた鍼の本数も同様で
あった。圧痛閾値は刺入群において治療後に顕著
な上昇を認めたが、sham鍼群では変動を認めな
かった。肩凝り感は治療直後にsham鍼群と比較し
て刺入群の顕著な低下が認められた。また、治療
回数が増加するにしたがって刺入群の治療効果が
持続する傾向を示した。両群間のマスキングは十
分であった。
【結語】 以上の結果は、鍼を筋まで刺入すること
が圧痛の改善に有効であることを示している。ま
た、圧痛点の鍼刺入治療が肩凝りに対して有効で
あることを強く示唆するものである。
2E16_1
キーワード:疲労骨折、鍼治療、スポーツ傷害、
肩関節
キーワード:無作為化比較試験、肩凝り、
圧痛点、sham鍼、鍼治療
○金子弘志、水野浩一
小山哲也、杉山誠一
O-47
五十肩での鍼灸治療の模索
−腱板の縮れ説と八綱弁証(裏熱証)から−
東京地方会
○原 正之
【はじめに】五十肩(特に凍結肩)は未だに正確
な原因が分からないままになっている、不思議な
病気である。凍結肩においては、治したと云える
報告はほとんど見あたらない。今回、McLaughlin
の「腱板の縮れ」説に共感し、また肩関節の炎症
を裏熱証として鍼灸治療を行い、良好な結果を得
たので報告する。
【症例1】57才、女性、主婦。主訴;左肩痛。現
病歴;3週間前で発症契機は無い。痛みは肩から上
腕外側で、夜間痛はない。所見;結髪動作はどう
にかできるが、結帯動作は不可。自動前挙は90
度、外転は70度。腫脹と熱感はごく軽度にある。
治療;当初は灸のみ。8診目から健筋益気をめざし
鍼を加える。経過;痛みは初診から減少。4診目に
は結髪動作は正常に、6診目に外転が160度に改
善。12診目(27日目)には結帯動作も正常になっ
た。
【症例2】78才、女性、主婦。主訴;左肩痛。現
病歴;4ヶ月前で、発症契機は特にない。某整形外
科で五十肩と診断され、薬剤や運動療法などの治
療を受けるが、痛みと可動域の増悪をみている。
夜間痛がある。所見;結髪、結帯動作は共に不
可。自動前挙は80度、外転は60度。内外旋は殆ど
不可。腫脹、熱感はある。治療;2診目までは灸の
み。3診目から鍼も加える。経過;3診目まで症状
に変化なしも、その晩より夜間痛の減少を見る。
16診目には前挙に、21診目には外転に改善が見ら
れ、結髪動作がどうにか出来る。24診目(79日
目)結髪動作が正常に、結帯動作がTh 9まで触れ、
略治。
【考察】 第1と第2肩関節は正常な三角筋に覆われ
ている(裏証)。故に、それらの炎症(熱証)に
対する治療には、細心の注意が必要である。鍼灸
の局所治療は盛熱を生じ易いため、裏熱実証では
局所を避けて、冷罨法を励行した。McLaughlinは
凍結肩を観血的に観察し、腱板が短縮して肩関節
の動きを高度に制限していることを報告してい
る。今回の鍼灸の臨床を通すと、癒着説などより
も、この「腱板の縮れ」説が最も理に適っている
ことが示唆される。この説が主流に至らないの
は、鍼灸が秘めているような治療手段を持たな
かったためではなかろうか。鍼灸側も寒熱表裏な
ど適切に実践して行かないと、秘めたる価値(健
筋益気、健脾益気)を逸しかねない。
2E16_2
キーワード:五十肩、凍結肩、鍼灸治療、
八綱弁証、腱板炎
O-48
頚部神経根症に対する鍼治療
の有効性(2)
−頚部神経根症の病型分類の試み−
三重地方会 慶福針灸
川村病院神経内科
○竹田博文
米山 榮
【はじめに】我々は入院にて安静を保った頚部神
経根症に対する鍼治療の有効性を、一昨年の本学
会において報告した。しかし、外来通院患者は安
静保持が仲々難しく患者によって予後や治療効果
の見通しの判断に迷う場合も多い。
今回通院にて鍼治療を行った頚部神経根症患者
について経過日数を観察し、どのような所見が予
後の指標となるかを検討したので、報告する。
【対象】慶福針灸および川村病院神経内科鍼灸外
来に頚肩背部∼上肢痛、しびれを訴えて来院した
5例(男3例、女2例、年齢47歳∼64歳)
【方法】
1.各症例について理学的徒手テスト・神経学的検
査を行い各所見を記録し、またMRIによる病巣
診断および鍼治療を行った。
2.疼痛を指標として症状半減および消失日数を観
察した。
3.改善所要日数と理学的所見およびMRI所見との
関連を検討した。
【結果】
1.MRI検査で5例全てに椎間板ヘルニア或いは骨
棘が描出され、MRI Grade分類はⅠ度1例、Ⅱ
度1例、Ⅲ度3例であった。
2.分節性に一致する知覚低下およびJackson test
或いは Spurling testによる放散痛は5例全てに認
めた。筋力低下は2例、頚部後屈による上肢
痛・しびれは3例に認めた。上肢腱反射低下は1
例に認め、4例は正常であった。
3.疼痛半減所要日数は9日∼55日、疼痛消失日数
は20日∼97日であった。
4.改善に要する日数が長い症例はいずれも頚部後
屈のみで上肢しびれや放散痛を認めたが、短か
い症例には認めなかった。上肢腱反射および
Jackson test、Spurling testは経過日数と関連す
る傾向はなかった。
【考察およびまとめ】頚部後屈で放散痛・しびれ
を認めた症例は、いずれもMRI Gradeが高度であ
り、経過日数も長びく傾向にあった。以上の結果
から本所見は、鍼灸臨床上頚部神経根症の予後因
子の一つとして重要であることが示唆された。
2E16_3
キーワード:頸部神経根症、予後因子、鍼治療
O-49
肩関節周囲炎に対する鍼治療
(第2報)
O-50
胸郭出口症候群に対する鍼治療
(第2報)
−手術適応と診断された1症例−
東京大学医学部アレルギー・リウマチ内科
○美根大介、小糸康治、粕谷大智
杉田正道、山本一彦
筑波技術短期大学鍼灸学科
坂井友実
【はじめに】我々は昨年の本学会において肩関節
周囲炎には大きくfreezing phaseとfrozen phaseとい
う2つの病期があり、病態が異なるため鍼治療の
効果にも相違がみられることを報告した。一般に
freezing phaseは症状の改善が得られ易いが、今回
freezing phaseでありながら他の症例とは異なった
経過を示した1例について報告する。
【症例】66歳、男性〔主訴〕右肩痛〔現病歴〕平
成10年8月から右肩の痛みを自覚。近医整形外科
にて局所注射を2ヶ月受けるが痛みが不変、D病院
を紹介されMRI撮影、腱板不全断裂と診断され
る。その後同院にて局所注射を継続していたが、
友人の紹介により当治療室で鍼治療を開始した。
〔初診時現症〕夜間痛・自発痛(-)、運動時痛
(+)、インピンジメントテスト陽性、筋萎縮:
棘上筋、棘下筋、三角筋に軽度、関節可動域:外
転140°外旋40°内旋L4、拘縮(-)。
【治療及び経過】鍼治療は疼痛の軽減と可動域の
改善、拘縮の予防を目的に棘上筋・棘下筋の低周
波鍼通電療法を中心とし、適宜他の物理療法、運
動療法を併用した。治療間隔は基本的に週一回の
ペースで行った。経過中、他のfreezing phaseの症
例とは異なり、疼痛が徐々に軽減するパターンは
見られず増悪、軽減を繰り返しながら治療開始後
6ヶ月の時点でペインスコアは10→5、関節可動域
は全方向に改善が認められた。
【考察及びまとめ】今回の症例は病期で判断する
とfreezing phaseであり疼痛の程度、関節可動域と
も改善が認められたが、治療に長期を要し十分な
結果が得られたとは言い難い。これは腱板不全断
裂という器質的変化が症状を遷延させ回復を妨げ
ていると推察され、肩関節周囲炎の鍼治療におい
ては拘縮の程度と共に器質的変化の有無が治療効
果に深く関係していると考えられる。 2E16_4
キーワード:肩関節周囲炎、freezing phase、
腱板不全断裂、鍼治療
東京大学医学部アレルギー・リウマチ内科
○小糸康治、美根大介、粕谷大智
杉田正道、山本一彦
筑波技術短期大学鍼灸学科
坂井友実
【はじめに】今回我々は罹病期間が21年と長く、
手術適応と診断された胸郭出口症候群(以下TOS
と略す)の症例について鍼治療を行い、自覚症
状、脈管テスト、サーモグラフィの変化について
検討したので報告する。
【症例】 31歳、女性〔主訴〕左上肢のしびれ感、
右上肢の脱力感〔現病歴〕昭和52年頃より両上肢
の脱力感を自覚。近医を受診するも原因は不明。
以後症状は増悪し、めまい、頚肩部痛他、多数の
愁訴が出現。平成8年、K病院にて腕神経叢造影
(右側肋鎖間隙に圧排像、左側実施せず)により
TOSと診断。手術を勧められるが本人は拒否。平
成11年8月鍼治療を希望して当科を受診。〔初診時
現症〕神経学的所見異常なし。アレンテスト
(L+/R+)、ライトテスト(L+/R+)、エデンテス
ト(L-/R-)、モ−リ−テスト(L++/R++)、ルー
ステスト(1分20秒)。
【治療及び経過】臨床所見から胸郭出口部での圧
迫による神経刺激症状が考えられた。鍼治療は圧
迫症状の改善を目的に斜角筋部、鎖骨下筋部、小
胸筋部に対し低周波鍼通電療法(1Hz、10min)を
主に行った。経過は、治療1ヶ月にて上肢症状に対
するペインスコアに改善(10→3)がみられた。
又、握力、脈管テストにおいて改善が認められ
た。不定愁訴は治療3ヶ月でCMIの身体的自覚にや
や改善が認められた。サーモグラフィによるルー
ステスト後の手指皮膚温回復の過程を観察した
が、著明な異常は認められなかった。
【考察及びまとめ】TOSの圧迫要因として神経造
影上、骨性要因と筋腱要因が報告されており、本
症例は中斜角筋による圧迫であった。比較的早期
に上肢症状の改善が認められたのは圧迫の本態が
筋によるものであったために鍼治療で局所の圧迫
が緩解されやすかったものと推察され、手術適応
症例であっても筋腱要因による腕神経叢圧迫型で
あれば鍼治療の有用性が期待できるものと推察さ
れた。
2E16_5
キーワード:胸郭出口症候群、腕神経叢造影、
サーモグラフィ、鍼治療
O-51
パニック障害に対する1症例
O-52
病状を改質した鍼灸臨床例
−脊髄小脳変性症−
大阪地方会 ○山田和正
兵庫地方会 元町なかよし鍼灸
【目的】 不安神経症の1種に「パニック障害」が
ある。このような疾患に対して薬物療法とカウン
セリングが主体に行われる事が多い。今回の症例
は、中医学的に診断・治療を行い改善が得られた
1症例を報告する。
【症例】27才、男性。現在、塾講師。平成8年5月
大学生の頃に、急に動悸・息苦しい・発熱・頭が
クラクラする・手足が冷える・手足に汗をかくと
いった発作症状が出現する。発作は夕食後・勉強
の後・不安になると出現しやすい。病院にて「パ
ニック障害」の診断を受け、薬を服用するが改善
せず平成11年3月に当治療院に来院する。
【診断】 四診合参した結果、幼少時∼大学生迄の
精神的なストレスが肝鬱気滞を形成し、大学時代
の飲食不節による湿熱の形成、労倦として睡眠を
削ってバイトをしたことが心血不足を引き起こし
これらが重なり発作を出現させたと診断した。
【弁証】肝鬱気滞、湿熱、労傷 【治療処置】 疏肝理気、清熱利湿を目的とし百
会・合谷・太衝・上廉穴などを適宜に使用する。
また、薬剤師に清熱利湿、養心を中心とした漢方
処方を依頼する。
【結果】平成11年7月時点では発作が出現しなくな
る。現在も再発を防ぐため治療を行う。
【考察】 中医学の中に「形神合一」の観点が有り
人体の構成・機能と精神活動は切り離せないもの
と考えている。今回の症例を通じて、治療効果が
得られたことが証明している。
3E9_1
キーワード:パニック障害、肝鬱気滞、湿熱、
労傷、鍼治療
○田中重喜
【目的】初期症状;患者が運転中に路側帯が二重
に視えた。以後平成5年京大病院を受診、脊髄小
脳変性症の診断後、指定病院と整体鍼灸リハビリ
に経過し、病状不良で来院。不語、失禁、失調等
を分析、Physicalなリハビリや介護の間題点を改め
鍼灸施術にMenta1な鍼灸感を呼称連動させて統合
感覚を醸成、難症離脱を動機付けて余命の活性
化、QOL改質に一定の施療結果を得たので報告す
る。介護疲労の奥さんを含め家庭の崩壊防除に得
る処があった。
【方法】脊髄小脳の機能不良で身体の平衡が執れ
ない他、呼吸困難喘鳴、不語、二重視、直立・歩
行不能、左側寒冷、不書等で寝たきり全介護を要
した。残存大脳皮質の廃用性退化を防ぐ為、鍼術
と得気:鍼感と運動し治療に参加と自律養生を具
体的に示し症状好転を動機付ける事を計った。
【結果】自律意識の復元:尿意自覚に失禁パンツ
は禁止。中極穴で尿道鍼感を発声応答さす。ベッ
ド止め和室の寝床は便所に這うて行ける。転倒骨
折を防止。臥位から転じ膝立て手をついて立ち上
がる。車椅子は不用必要時自分で漕ぐ。足三里
穴、邁歩穴、ブローカ中枢に横刺、阻力鍼刺法で
雀啄旋捻中に鍼感と発声を練習。痛のイの叫びか
ら回数を重ね会話に至る。脱着衣は自力。指趾尖
の十宣気端に棒灸雀啄知熱灸で知覚神経を励起さ
せ運動さす。廃用退行と自力厚生を自覚させた。
【結語】 施術後のMRIで萎縮進行を不認。歩行排
尿着替え挨拶謝礼改善。リハビリ時鍼灸知熱灸を
先行し無痛化とメンタルな参加意識を動機付け挽
回した。阻力鍼刺法で鍼感を発声報告は改善を見
た。毎度治療不満点を次回に書き提出させた。治
療参加を動機付け挑戦の様子が彼自身の記述に見
ゆ。本人余命活性化と介護苦労軽減で奥様自己実
現。
3E9_2
キーワード:奇穴、阻力鍼刺法、鍼感発声、介護、
雀啄灸
O-53 鍼灸治療がC型肝炎キャリアの
ウィルス量に及ぼす影響について
水嶋クリニック東洋医学研究所
○小椋加枝
水嶋丈雄
O-54
高齢者のうつ状態と鍼灸治療
(第1報)
―明治鍼灸大学附属鍼灸センター外来を受診した
高齢者患者のうつ状態と予診表の関係―
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
○益本えりか、福田文彦、中島舞子
笹岡知子、高野道代、矢野 忠
金子産婦人科
森 珠美
大澤病院
工藤大作
町立ゆきぐに鍼灸治療院
瀬沼広幸
【目的】C型慢性肝炎は、その易感染性の為、鍼
灸治療には向かないといわれてきたが、我々は鍼
灸治療が体内の免疫に影響を与えることを第48回
鍼灸学術大会で発表した。このことからC型肝炎
ウイルスに対しても 影響を与えられるのではな
いかと検討を試みた。
【方法】自然治癒症例を除外する為、2年以上の
経過をもって肝逸脱素酵素(トランスアミナー
ゼ)が正常化した群のみを選択し、C型肝炎キャ
リア(男5名、女5名、平均年齢57.8歳、平均罹病
期間15年)に対し、鍼灸治療を行った。HCVRNAウイルス量を時系的に分岐DNAブローブ法で
測定した。HCV-RNAのウイルス量の経過と変遷
と体内の免疫の動態を推測する為、治療の前後で
尿中17OHCSの測定を行った。治療は、長さ3cm経
0.16mmセイリンディスポ鍼を用い、脈診にて虚実
を調整した後、『難病鍼灸』(張仁著)の慢性病
毒性肝炎の治療に基き、大椎・至陽・肝兪・脾
兪・命門・足三里・陽陵泉・気海・三陰交を症状
に合わせて取り、長さ4cm、0.20mmのセイリンデ
ィスポ鍼にて灸頭鍼若しくは生姜灸を行った。
【結果】症例①男、37歳、罹患後20年、脾腎陽虚
証:1.2→0.5未満→0.5未満(MEQ/ml) ②男、58
歳、罹患後25年、肝鬱 m血証:6.5→0.5未満→0.5
未満 ③男、62歳、罹患後6年、肝腎陰虚証:7.8
→9.5→13→12→19 ④男、60歳、罹患後10年、肝
鬱m血証:3.7→3.9→5.1→3.4 ⑤男、58歳、罹患
後3年、肝気鬱結証:0.88→29→0.5未満→0.5未満
⑥女、55歳、罹患後7年、肝鬱水滞証:2.2→5.2→
15→19 ⑦女65歳、罹患後30年、肝脾不和証:2.1
→0.5未満→0.5未満 ⑧女47歳、罹患後15年、寒
湿阻絡証:1.3→0.5未満→0.5未満 ⑨女、73歳、
罹患後14年、腎虚水滞証:2.2→4.0 ⑩女、63
歳、罹患後20年、肝腎陰虚症:11→18
【考察】10人中5人のC型肝炎ウイルスの消失を認
め、かつ消失後3ヶ月の再検においても再燃を認
めなかった。10人中4人はウイルス量の上昇を認
める。10人中1人は一時上昇した後、減少を認め
る。何れの患者も肝臓トランスアミナーゼ値、血
小板数には変化なく、自覚症状は軽減をみた。手
技の相違によることも念頭に起き、治療前後の尿
中17OHCSを測定してみたが、いずれも分泌量は
減少し、免疫の亢進を指していた。すなわちウイ
ルス量の増減に関してはウイルスのアロタイプが
問題になると考えられる為、現段階において分析
中である。
3E9_3
【はじめに】うつ状態は「ゆううつ」「さびしい
い」などの精神症状と「睡眠障害」「食欲不振」
などの身体症状を伴う気分障害であり、高齢者で
は脳の器質的変化や社会的・環境的要因などによ
りうつ状態(軽症者が多い)を示すことがある。
このような患者が身体的愁訴の治療を目的に鍼灸
施術所に来院することも多い。しかし、うつ状態
を示す高齢者患者の来院状況を明らかにした報告
はない。そこで我々は、本附属鍼灸センターの65
歳以上の新患患者を対象にうつ状態を調査し、う
つ状態患者の来院状況と患者の年齢・主訴・簡易
な予診表との関連について検討したので報告す
る。
【対象・方法】1999年5月から11月までに明治鍼灸
大学附属鍼灸センターに来院した65歳以上の新患
患者186名のうち調査に協力が得られた121名を対
象とした。対象者のうち回答に不備がない90名
(女性46名、男性44名、平均年齢72.6歳)を検討
の対象とした。うつ状態はGeriatric Depression
Scale(GDS)簡易版、本鍼灸センターで使用して
いる消化器症状、呼吸器症状、泌尿生殖器症状、
循環器症状、精神症状などから構成されている予
診表(女性28項目、男性27項目)を使用し評価し
た。なおGDS及び予診表の調査には、基本的に治
療前に治療者以外の第三者が行った。
【結果・考察】GDSスコアの結果から、正常46名
(51.1%)、軽度うつ状態32名(35.6%)、高度う
つ状態12名(13.3%)であった。主訴は、運動器
疾患に対する愁訴が多かったがうつ状態を疑わせ
る精神症状を訴えた患者はなかった。GDSスコア
と年齢との間に相関は見られなかった。GDSスコ
アと予診表の項目全体及び精神症状項目の「は
い」の数との間には相関関係は見られなかった。
以上の結果から、鍼灸治療を希望して来院する高
齢者患者のうち軽度も含めると約半数はうつ状態
を考慮する必要があり、その状態は、主訴・年
齢・簡易な予診表では、明確にすることが出来に
くく、GDSなどによるスクリーニングを行うこと
が有用であることが示唆された。
3E9_4
キーワード:C型肝炎キャリア、鍼灸治療、
HCV-RNA、尿中17OHCS、免疫亢進
キーワード:高齢者、うつ状態、GDS
鍼灸施術所、予診表
O-55
肩こりに対する督脉接触鍼法
の影響観察について
−超音波断層写真撮影装置の活用−
東京地方会
○一の瀬宏
土肥康子
防衛医大解剖学第一講座
竹内京子
国立身障者リハビリテーションセンター理療教育部
小比賀黎子
【はじめに】肩こり及び頸こりに対する鍼灸治療
は、不定愁訴改善のひとつとして日常的に行われ
ていることである。私たちは、臨床的に督脉上の
経穴に接触鍼をすることにより、症状が緩解する
体験を得ていたが、今回、超音波断層写真撮影装
置(エコー)を用いて、肩頸部の組織の変化をと
らえることができたので報告する。
【方法】 対象者は大学ラグビー部の選手と大学職
員の女性の2名である。前者はがっしりとした体格
の持ち主であるが、頸肩のこり腰背部痛、下肢の
不調を訴えている。後者は、日常の健康管理は自
覚的に行われているが多忙であり時に腰背痛の訴
えあり。このような2者に対して先ず触診によ
り、肩こりの状態を把握し、大椎部、肩中兪付近
の筋肉組織のエコーを撮る。後にそれぞれ督脉上
の経穴至陽穴、腰の陽関穴1カ所づつを切経によ
り選び、直径1mm、長さ80mmの銀製鍼にて皮膚
刺激を数秒行った。その直後のエコーにより、術
前、術後の影像の比較を行った。
【結果】 被験者たちが、気持ちよくなった、筋肉
のこりがほぐれたような気がするということに対
して、術前、術後の影像でも患部に変化が認めら
れた。尚ラグビー選手の場合、大椎部のエコー像
は当初骨の影像は見えなかったが、術後は明瞭に
なった。
【考察】 私たちの肩こり治療に対しての督脉上の
一点の皮膚刺激法は、症状の緩解に関与している
ことを得ていたが、評価に対しては主観的、感覚
的であった。今回エコーを併用することによっ
て、こり部の組織像変化を形態学的にも客観的に
かつ容易に捕らえることができた。そして、督脉
上の治療と組織像の可視化とによって、術者から
のアドバイスと、被験者自身が症状改善への手掛
かりを得ようとする、この両者間の新たなコミニ
ケーションの形成に役立つことも示唆された。
3E9_5
キーワード:肩こり、督脉、接触鍼、
超音波断層写真撮影
O-56
東西和合の対応から鍼灸治療が
奏功した重症筋無力症の1例
−治療者の心の影響も含めての1考察−
東京地方会 はり・きゅう温故堂治療院
○沢田 寛
【はじめに】重症筋無力症と診断された患者が、
鍼灸治療と開業医との協力により、現代薬の投薬
無しに専門病院での胸腺摘出術を中止するまでに
改善した。治療経過と共に、治療者の心理的変化
も考察し報告する。
【症例】36歳、女性。既往症 特になし。家族歴
重症筋無力症(-)現病歴 1995年長女出産後か
ら疲れが溜まった感じで、1998年春頃よりものが
二重に見えたり、瞼が重なり、寝ている時にめま
いがし、嘔吐することがある。頭痛。1998年12月
28日当院初診。治療数回で症状の改善が芳しくな
いので漢方を併用することを勧め、協力医院を紹
介。医院で漢方の処方と共に検査により、抗アセ
チルコリン受容体抗体値44nmol/l(正常0.2)で重
症筋無力症と診断。都立の専門病院へ紹介、早々
の胸腺摘出術を勧められる。本人希望で急変があ
れば即座に手術と言う条件で入院手術を1999年8
月に延期。それまでの期間を鍼灸治療と漢方で加
療することになった。治療は筋力テストを主軸に
診断治療を行った。
【結果】抗アセチルコリン受容体抗体値は変化な
いものの、複視を始めとする筋力の低下が改善さ
れたので胸腺摘出術を中止。経過観察となった。
【考察・結語】当初進行していた重症筋無力症が
症状の軽減に転じた事は、鍼灸治療と医師との協
力による東西和合の対応が有効と考えられる。ま
た患者の抱える問題の傾聴等を続ける治療者の心
理的変化も影響があったのでは無いかと考えら
る。
3E10_1
キーワード:重症筋無力症、東西和合、
抗アセチルコリン抗体、鍼治療
O-57
アトピー性皮膚炎の鍼灸治療
と自己免疫疾患への応用
O-58
鍼治療は気候による関節症状
の変動に対して有効か?
−慢性関節リウマチ2症例の追跡−
東京地方会 ○飯沼浩江
関西鍼灸短期大学
【目的】本学会で1988年(38回)より表題に関し
て毎回発表してきた。今回、血清IgE(非特異)高
検出者で多量かつ長期ステロイド使用者は治癒す
るかという難しい課題で、対象者の増加があり良
好な結果が出たので鍼灸治療悪化因子も含めて報
告する。
【対象者・治療方法】(Ⅰ)血清IgE(非特異)
3,000∼18,000IU/ML検出者で、長期に多量の各種
ステロイド軟膏使用、10名(男性5名、女性5名)
内、気管支喘息合併者7名。(Ⅱ)自己免疫疾患
対象者3名。他に皮膚炎のみで抗核抗体検出者3
名。(Ⅲ)他施設の鍼灸治療で悪化したアトピー
性皮膚炎3名。《治療方法》1)30mm14号ディス
ポ鍼で数カ所の接触鍼、中級もぐさ少量を5秒∼
30秒連続燃焼38℃以下で熱感を与えない。2)皮
膚温度の精製水洗浄。3)植物多品目入りスープ
の飲用。《記録方法》1)経過写真。2)IgE、好酸
球、LDH、CH50、抗核抗体、炎症反応検査。
【結果】1)長期・多量ステロイド塗布箇所に限
定した島状の皮膚炎悪化は、当該治療で治癒。
2)潰瘍性大腸炎罹患者は53カ月再発せず。3)幼
児期に発症したアトピー性皮膚炎患者で、成人期
に悪化、抗核抗体検出を見て時々の悪化現象があ
る。4)血清IgE高値者10名中8名(内気管支喘息合
併者6名)は完全緩解。
【考察】対象者(Ⅲ)は、炎症局所の体液滲出、
むくみ、掻痒憎悪、37℃台の1カ月以上の発熱
(2例)がありだるい、ASO検出(1例)などか
ら、1)鍼灸刺激量を極限まで減じた。2)アレル
ギー疾患全域への治療開発が必要でありその1つ
として当該治療法を提案する。3)1995年の本学
会で体幹部から末梢へほぼ一定の「炎症移動現
象」を写真撮影で捕らえ、この体内システムと思
われる現象に添った治療を実施し良好な結果を得
ている。
【結論】当該治療で、アレルギー疾患全域の発症
回避とIgE高値のⅠ型アレルギーの治療効果を証明
した。行政が研究着手しているⅠ型アレルギー遺
伝子探査は、今日の社会状況では治らない理由づ
けや、優性学につながる危険があり、本研究は安
易な判断を阻止する目的もある。
3E10_2
キーワード:アトピー性皮膚炎、自己免疫疾患、
鍼灸治療、ステロイド離脱
○若山育郎、赤川淳一
佐竹栄二、八瀬善郎
【目的】 亜急性期および慢性期の慢性関節リウマ
チ(RA)患者に対し鍼治療を継続的に施行し、気
候による関節症状の変動に対する鍼治療の効果に
ついて検討した。
【症例】症例1.36歳男性。昭和62年(26歳)より
両手MP関節の腫脹、疼痛にて発症。某病院整形外
科にてRAと診断された。以降も寛解増悪を繰り返
していたが、平成11年1月、RAのコントロール目
的で鍼治療を希望して当院初診。初診時より週1か
ら2回鍼治療を継続している。症例2.57歳女性。
平成10年4月頃より両側手指のこわばり、腫脹、手
関節、膝関節、足関節の疼痛、腫脹が出現しRAと
診断、平成10年7月より当診療所にて定期的に鍼治
療を継続中である。
【方法】患者さんにはペインスコア(0∼10点)を
連日記録するよう指導した。6種類の気候パラメー
タ(平均気圧、平均気温、平均蒸気圧、相対湿
度、日照時間、平均風速)は最寄りの気象台のデ
ータを活用した。以上のデータを用いてペインス
コアと各パラメータとの関連について検討した。
【結果】 いずれも問診にて気候と関節症状と強く
関連すると訴えた症例である。症例1については、
ペインスコアは平均気温、平均蒸気圧と有意な負
の相関を示したが、この傾向は冬から夏にかけて
の期間に限られ、夏以降は平均気温、平均蒸気圧
に拘わらずほぼ一定の値を示した。また、日々の
変化に注目すると痛みの増悪は前日に比べて、湿
度が上昇し気圧、気温が下降した場合にpeakを示
す傾向があったが、鍼治療開始4ヶ月以降はそうし
た傾向は顕著ではなくなってきた。症例2は鍼治療
開始1年以降の検討であるが、各パラメータとペイ
ンスコアとの有意な関連は認められなかった。
日々の変化については気温の低下によりペインス
コアが影響を受ける傾向はやや残るものの気圧、
湿度による明らかな影響は認められなかった。
【結語】 継続的な鍼治療は慢性関節リウマチ患者
において気候による関節症状の変動を軽減する可
能性が強い。
3E10_3
キーワード:慢性関節リウマチ、気候、鍼治療
O-59
慢性関節リウマチに対する
鍼灸治療(第1報)
−QOLを指標に−
東京大学医学部アレルギー・リウマチ内科 ○粕谷大智、美根大介、小糸康治
杉田正道、山本一彦
筑波技術短期大学鍼灸学科
坂井友実
【はじめに】我々は慢性関節リウマチ(以下RAと
略す)の治療プログラムの中で、鍼灸治療の位置
付けを確認する意味でQOLの観点から鍼灸治療の
効果を検討したので報告する。
【対象と方法】当科に通院中のRA患者10例を対象
とした。内訳は全例女性、年齢45∼75歳、罹患年
数11年∼40年、Class2(8例)3(2例)である。患
者QOL評価は厚生省リウマチ調査研究事業団QOL
班の作成したAIMS-2(Arthritis Impact Measurement
Scale Ver.2)日本語版調査票を用い、鍼灸治療開
始時、開始6カ月後、1年後に評価をした。鍼灸治
療は病期別に活動性や機能障害を考慮しながら局
所と全身の治療を行った。
【結果】AIMS-2を用いたQOLの総合得点は開始時
138.5点、6カ月後 128.6点、1年後 113.9点と開始時
と比べ、6カ月後、1年後にすべての項目において
AIMS得点は低くなり、その中で有意に改善を認め
たも項目は、痛み、歩行能、上肢機能、緊張、全
体の満足度の5項目であった。
【考察およびまとめ】厚生省リウマチ調査研究事
業団QOL班がAIMS-2をもちいてQOLの調査を行っ
た結果では、RA患者が最も良くなって欲しいと希
望する病苦の第1は痛みであり、第2は歩行、つ
いで手指機能、家事、仕事など身体の不自由によ
るADLの障害が病苦の上位を占めている。RA患者
は通常、薬物療法や関節注射などの治療を行って
おり、痛みはある程度コントロールされている
が、それでも鈍痛、つっぱり感、こり感、しびれ
などの愁訴を訴える患者が多いのが現状である。
今回、鍼灸治療はそのような症状に対しても効果
が期待でき、QOLの向上に役立つものと考える。
3E10_4
キーワード:慢性関節リウマチ、QOL、
AIMS-2日本語版、鍼治療
O-60
外分泌腺障害を有するシェー
グレン症候群患者の鍼治療効
果(第3報)
−経時的変化と累積効果についての検討−
埼玉医科大学東洋医学科
○小俣 浩、山口 智、新井千枝子
中村宏孝、阿部洋二郎、浅香隆、大野修嗣
埼玉医科大学健康管理センター
土肥 豊
【目的】我々は、これまで本学会においてシェーグレン
症候群(SjS)患者の外分泌腺障害に対する鍼治療効果
を外分泌量と顔面部皮膚温度を指標に観察し報告した。
その結果、特に顔面部への高頻度鍼通電刺激は外分泌量
を増加させることがわかった。そこで今回は、SjS患者
群に対する顔面部30Hz鍼通電刺激による経時的変化と顔
面部30Hz鍼通電療法10回施行後の累積効果についても検
討したので報告する。
【対象と方法】対象は、当科外来またはリウマチ膠原病
科外来及び入院中の厚生省診断基準を満たすSjS患者群
15例(全例女性、22歳∼72歳 平均年齢53.3±13.0歳、
mean±SD)である。測定方法は、鍼治療前後の涙液分
泌量をSchirmer法、唾液分泌量をSaxon法により、また顔
面部皮膚温度変化をThermographyを用い観察し、乾燥自
覚症状の推移は、SjS診断基準の参考事項をもとに作成
した乾燥症状スコアにて評価した。鍼治療方法は、ステ
ンレス鍼(40㎜・16号)を用い顔面部の下関穴−翳風穴
に30Hz鍼通電療法を左右側に10分間行った。
【結果】 ①SjS患者群7例の1回の顔面部30HzAET前、
AET直後、30分、1時間、2時間の経時的変化では、涙液
量・唾液量・皮膚温度のいずれにも統計学的には有意差
はなかったが、涙液分泌量及び皮膚温度では経時的に増
加する傾向がみられた。②SjS患者群10例の30HzAET10
回の涙液量・唾液量の累積効果では、どちらにおいても
統計学的には有意差はなかったが、唾液分泌量が増加す
る傾向がみられた。また乾燥スコアの累積効果では、
dry eye scoreでは有意差はみられなかったが、dry mouth
scoreの初回と10回目施行後の比較では明らかな有意差が
認められた。
【考察】これらの検討結果から、経時的変化では臨床上
患者は1日間から3日間の鍼持続効果を認める者が多く、
今回の最高2時間までの検討では本来の外分泌腺反応が
得られず、さらに長時間の検討が必要と考えられた。ま
た累積効果での分泌量変化とスコア化した自覚症状の結
果の差は、患者群において分泌量と自覚症状は必ずしも
相関しないことが考えられた。このことは、口腔乾燥を
訴えるとき、口腔内において乾燥を感受する部位と分泌
する部位の差が影響するものなのか、それ以外の修飾過
程が存在するのか不明である。
【結語】 以上のことから、SjS患者群の乾燥症状に対す
る鍼治療は刺激部位や刺激頻度を考慮することでより効
果的な治療効果を得、患者の予後やQOLの向上に寄与す
るものと考える。さらにSjS患者の鍼治療は、現代医療
において有用性が高いことも示唆された。
3E10_5
キーワード:鍼療法、膠原病、
シェーグレン症候群
O-61
迎香穴刺鍼とアロマテラピーに
より嗅覚麻痺が改善した1症例
福岡地方会
○大淵千尋
【目的】アロマテラピーにおける迎香穴刺鍼の臨
床的意義について嗅覚麻痺症例を通して検討し
た。
【方法】症例報告:40才女性 嗅覚麻痺症
風邪罹患後、嗅覚麻痺症状を呈して耳鼻科を受
診。薬物投与等の治療を受けるが、いずれも無
効。当分治癒しないと言われ鍼灸治療を受ける。
鍼灸治療は、迎香穴(-)合谷(+)1Hz15分間
低周波鍼通電を施行する。
鍼:セイリンステンレス、16号50mm
低周波通電器:全医療器製オームパルサー4500
アロマテラピー患者には、ダイオード刺激点を
迎香穴として、円皮鍼を貼付。
ダイオード:柿本医療機器製
円皮鍼:セイリンジュニア
サーモグラフィー:日本アビオニクス製TVS3300
【結果】嗅覚麻痺症は、初回治療後の帰路に嗅覚
覚醒し、翌日再来の嗅覚試験は、昨日(-)が
(+)に復した。迎香穴の取穴は、ダイオード刺
激点をとった。
患者は、ダイオード刺激点に円皮鍼を貼付し、
アロマテラピーを施行した結果、香りに対して感
受性が増大した。
【結語】古来より、迎香穴は刺鍼すると宣通肺竅
の作用がはかられ嗅覚が回復し、香味をよく迎え
入れ、臭いの嗅ぎとれない症状を主治すると言わ
れている。それゆえに迎香穴刺激は、嗅覚に対す
る感受性を増大させるので、迎香穴は、無嗅覚症
の治療やアロマテラピーの効果増減に是非用いる
べき経穴である。
客観的に宣通肺竅の作用すなわち、鼻孔への外
気の侵入が増加し、鼻部の温度低下を知るため、
施術前と後のサーモグラフィーをボランティアを
使い撮影した所、サーモグラムに見られるとお
り、施術前に比し施術後は明らかに鼻部の温度低
下が示された。
また、アロマテラピーを施行するには、経絡・
経穴に熟知した鍼灸師を参加させれば、効果の増
強が期待される。
2D9_1
キーワード:迎香穴、無嗅覚症、アロマテラピー、
低周波鍼通電、サーモグラフィー
O-62 同経遠位穴による視力回復の効果
北海道
○須藤隆昭
【はじめに】視力回復に関しては、眼科医のなか
でも、それを可能とみる医師と不可能とみる医師
に意見がわかれているが、鍼灸治療によって回復
した例がいくつか報告されている。その多くが目
の周囲のツボを使用したものであった。
【目的】 吉川正子は96年のニューヨーク世界鍼灸
学会において、「弁証論治の応用による眼科治療
の標準化作業」と題し、1000眼の視力回復例につ
いて報告しているが、その中で遠位穴の有用性に
ついても述べられていた。今回はそれを一部追試
する形で、同じように私の臨床の中から1000眼の
視力回復について分析し、その効果を検討しよう
と思った。
【方法】視力回復を目的に治療にきた500人に対
し、目の周囲の圧痛点を捜し、その同じ経絡上の
反応点に刺鍼。例えば膀胱経の「睛明」に圧痛が
あれば、「至陰」。胃経の「四白」に圧痛があれ
ば「内庭」というように取穴する。さらに全体療
法も重要なので、腹部の圧痛も調べ、「期門」に
圧痛があれば「太衝」に取穴し刺鍼。20分程度置
鍼。また補助的に耳穴圧迫法と目の体操を指導。
10回の治療を1クールとする。
【結果】1クール後の視力は、変化なし6%、1ポイ
ントアップ22%、2∼4ポイントアップ53%、5ポイ
ント以上アップ19%。平均で3ポイント強がアップ
した。
【考察】 目の周囲に刺鍼するのは、顔面内出血の
危険性があり、またなんとなく恐怖感を与えるも
のだが、遠位穴を使用した場合にはそれがないの
で、子供にも抵抗なく治療ができる。また回復し
た視力も数カ月後にまた低下していくこともある
ので、維持するために目の体操とツボ刺激を家で
も続けるように指導するのも大切である。 2D9_2
キーワード:視力回復、同経遠位穴、鍼治療
O-63
耳鳴に対する鍼治療の1症例
関西鍼灸短期大学
○坂口俊二、楳田高士
川本正純、中吉隆之
藤川 治
【はじめに】感音難聴に伴う耳鳴患者に対し、継
続的に鍼治療を行い、奏効したので報告する。
【症例】 51歳女性で事務職と看護婦を兼務。主訴
は右耳鳴。初発は平成10年7月23日(テレビから聴
こえる女性の声が耳に響いた)。8月1日にT病院
を受診し、諸検査の結果から、右低音障害型感音
難聴と診断され、10日間の入院加療。しかし、退
院翌日の12日より右耳鳴(モーター音)を自覚
し、24日には聴力も500Hzで40∼50dbに低下した
ことから、メチコバール、カルナクレインおよび
柴苓湯が処方された。その後、プレゾニゾロン、
メイラックスが加えられた。11月末頃から聴力は
変化ないものの、耳鳴がやや改善されたため、柴
苓湯とメイラックスのみの服用で経過観察するこ
とになった。初診は平成11年2月25日。既往歴とし
て32歳時に子宮筋腫にて子宮全摘。40歳より白衣
高血圧症。
【治療・評価】鍼治療は週1∼2回の間隔で、耳周
辺ならびに主として四肢への置鍼もしくは低周波
鍼通電を行った。耳鳴の自覚的変化をVisual
Analogue Scale(VAS)を用いて評価した。また、
継続的な鍼治療の効果を毎治療前の血圧の変化か
ら検討した。
【経過】9診(4月5日)よりVAS8、11診(4月17
日)にVAS5、その後、VAS7が続き、17診(6月1
日)以降31診(9月24日)までVAS6が続いた。32
診(10月5日)にVAS5、36診(11月16日)にVAS2
に減少し、聴力も500Hzで25dbとなった。VASが
概ね7以上で推移した15診までとVASが6以下と
なった16診から36診までの血圧の変化を比較する
と、最高血圧について16診以降の方が、平均で均
20mmHgの低下がみられた。
【結語】 本症例では、継続的な鍼治療により、耳
鳴が自覚的に顕著に改善し、それに伴い最高血圧
の低下が認められた。
2D9_3
キーワード:耳鳴、鍼治療、VAS
O-64
脊髄腫瘍摘出後の下肢の痛み・
しびれに対する鍼治療の1症例
埼玉医科大学東洋医学科
○浅香 隆、山口 智、小俣 浩、新井千枝子
中村宏孝、阿部洋二郎、大野修嗣
埼玉医科大学健康管理センター
土肥 豊
【目的】脊髄腫瘍の中でも髄内腫瘍は比較的希で
あり、こうした患者の術後疼痛に対する積極的な
治療法は少ない。今回我々は、脊髄髄内腫瘍患者
の術後疼痛に対し鍼治療を行い、良好な成績が得
られたので報告する。
【症例】34歳、女性 〔主訴〕両下肢の痛みとしび
れ 〔愁訴〕不眠、不安感 〔現病歴〕平成10年8月
対麻痺発症し、9月には下肢に激痛が出現。徐々
に感覚鈍麻、脱力が広がり歩行困難となる。平成
11年1月8日本学神経内科を受診し、MRIにて第11
胸椎から第1腰椎レベルの脊髄髄内腫瘍を認め、
脳外科にて全摘出手術を施行。状態安定し、リハ
ビリ病棟に転科したが、依然として下肢の痛みし
びれが残存し、リハビリテーションに支障がある
ため、当外来に紹介。〔既往歴〕2歳てんかん、
15歳再生不良性貧血 〔家族歴〕特記事項なし 〔初診時現症〕HT160cm、BW 56kg、 BP 128/80
mmHg、P 58/min(整)〔神経学的所見〕知覚、
左右ともL2以下鈍麻、下肢深部反射( −)、病的
反射( − )、MMT 前脛骨筋R1/L0、下腿三頭筋
R2/L1、中臀筋R2/L1、大腿四頭筋R5/L5、上肢
R5/L5、第10胸椎∼第5腰椎の脊柱起立筋部に圧痛
及び緊張。
【治療及び経過】下肢の疼痛としびれ、腰部筋緊
張の緩和を目的とし、ステンレス鍼40mm16号を
用い、低周波鍼通電療法と置鍼を背腰部と下肢に
施術した。その結果、治療直後には痛み・しびれ
ともに変化がみられ、腰部の筋緊張はやや緩和し
た。治療の継続とともに徐々に症状は改善し、リ
ハビリテーションに対する意欲が出てきた。11回
26日目には、鎮痛効果が2日間持続するようにな
り、下肢の痛み・しびれは、pain scaleにおいて10
→3に低下し埼玉県リハビリテーションセンター
に転院した。
【考察及びまとめ】外科手術術後疼痛は、治癒を
遅らせるばかりでなく、不眠や不安など精神的な
症状をも引き起こしやすく、患者のリハビリテー
ションに大きな障害となる。今回取り扱った症例
に対する鍼治療は疼痛やしびれを緩解し、リハビ
リテーションやQOLの向上に寄与することができ
た。これらのことより、鍼治療は、現代医療にお
いて積極的な治療法の少ない、脊髄や神経の機械
的圧迫や損傷などによる痛み・しびれに対し、有
用性の高い治療法であると考える。
2D9_4
キーワード:脊髄腫瘍、鍼治療、術後疼痛
O-65
鍼灸治療により疼痛の軽減が
得られた胃癌患者の1症例
明治鍼灸大学内科学教室
○関 恵子、市田裕紀子
藤井貴章、山村義治
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学教室
福田文彦、矢野 忠
【はじめに】 癌の終末期では患者のQOLを高める
ことを目的とした緩和医療の重要性が指摘されて
いる。その中でも疼痛は、癌の浸潤による直接的
な痛みに患者の精神状態が絡み合った全人的な痛
みであり、癌患者にとって極めて深刻な問題であ
る。今回我々は、腰下肢の疼痛を主訴とする末期
胃癌患者に対して鍼灸治療を行い、疼痛及び患者
の全身状態について検討したので報告する。
【症例・方法】患者:50歳、女性。主訴:腰下肢
痛。現病歴:平成10年8月に胃癌と診断され、同
年10月に幽門側部分切除術を受け通院加療してい
たが、全身状態の悪化により平成11年8月に当院
内科に入院となった。同年10月頃より長期臥床に
より生じた筋萎縮が原因と考えられる腰下肢痛が
出現し、坐薬を使用するも疼痛は徐々に増悪傾向
であった。同年10月20日より腰下肢痛及び全身状
態に対して鍼灸治療を開始した。現症:腰殿部及
び両下肢全体に強い疼痛。治療は、疼痛部位及び
東洋医学的弁証に基づいた刺鍼を行った。鍼灸治
療は土日を含む連日行った。評価は疼痛に対して
はペインスケール及び痛みの表現を感覚的・情動
的などに分類し評価するマクギル・メルザック式
疼痛問診表(疼痛問診表)、全身状態に対しては
Perfomance Status、患者の訴え、看護記録を使用
した。
【経過・考察】腰下肢痛は鍼灸治療により一時的
ではあるが軽減を示した。その効果を非ステロイ
ド系の坐薬と比較した結果、疼痛軽減の程度は同
等であり、疼痛軽減までの時間は、鍼灸治療の方
が短時間であり、効果持続時間は坐薬の方が長時
間であった。また疼痛問診表を治療前後で比較し
た結果、鍼灸治療後では感情的スケール、坐薬使
用後では感覚的スケールに減少傾向を認めた。全
身状態は、癌の進行に伴いPerfomance Statusにお
けるGradeも進行したが、1日の大半を臥床した状
態であったのが鍼灸治療を行ってからは、歩行へ
の意欲的な姿勢なども一時的ではあるがみられる
様になった。以上の結果から鍼灸治療は、末期癌
患者における全人的な痛みの改善やQOLを高める
ことに有効な治療法になりえる可能性が示唆され
た。
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キーワード:鍼灸治療、末期癌患者、QOL、
マクギル・メルザック式疼痛問診表
O-66
鍼のひびきと虚実
山梨地方会 江南堂鍼灸院
○花輪貞良
【目的】 刺鍼時、龍頭に伝わる“ひびき”を、そ
の経穴の虚実の面から検討したので報告する。
【方法】 四診法により証を立て、反応のある経穴
を補瀉する際、龍頭から刺手へ伝わるひびきの消
長について、当初は演者自身の身体で、その後は
臨床で追試している。
【結果】 鍼尖を接触させ、僅か刺入させると龍頭
にひびきが伝わるが、その際、龍頭を半回転程さ
せる事により、より経穴の目的とする深さに到達
し、更に刺入させると経穴を鍼尖が貫通する為、
充実した脉状が潰れる事を観察した。また、“ひ
びきに高低”がある事を確認した。
【考察】 刺入し過ぎると充実した脉状が潰れる事
から、経穴に厚みがある事を確認、それは刺し加
減から0.1∼0.2mm程度と推定した。またひびきの
高低は、虚実と脉診と検脉の相関への観察から、
ひびきが高い場合は経穴の実を、低い場合は虚を
示していると推定し、更にこれを臨床面から検討
を重ねている。
【結語】 古典に記載されている文章は、その時代
に起因して簡潔に過ぎて、実際の手法は今一つ不
鮮明である。演者は自身の体を通して再検討する
方法で、しかも虚実補瀉を生体の気として、これ
をx-ENERGY=生体における未知なるエネルギー現
象として検討して来たが、今後、更に臨床上で検
討したい。
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キーワード:脉診、虚実補瀉、刺入深度、
経穴の厚み、ひびき
O-67
画像補正用カラーチャートを
用いた舌診の客観化について
神奈川地方会 中城歯科医院
○中城基雄
【目的】 舌診を臨床的に記録するには、写真撮影
をするのが一般的ではあるが、光源、フィルムの
種類、現像方法などの条件の違いにより、実際の
舌色が正しく再現されず、客観性にかける一面が
内在している。今回、画像補正用カラーチャート
「キャスマッチ」を用いて、撮影条件に左右され
る事なく、安定して再現性のある手法を考案した
ので報告する。
【方法】 まず、歯科用エックス線頭部規格撮影法
を準用し、被験者の頭部を規格位置に固定し、次
いで、被験者の舌の舌尖、舌中央、舌根、左右舌
側縁の各部に基準点を付与した。そして、基準点
直下の部位を、ミノルタ社製色彩計(cm−503d)
を用いて測色し、L*a*b*表色系の値を得た。デー
タはソニー社製パーソナルコンピューターPCG−
XR1と解析ソフト「彩チェックfor Windows98」で
処理した。また、舌の写真は、NIKON社製デジタ
ルカメラcoolpix950を用いて、「キャスマッチ」を
同一視野に入れて、過光量と減光量の2種類の条件
で撮影した。画像は、Photoshop5.5 for Windows98
でレベル補正を施し、出力画像を得た。以上の過
程により、実際の舌、コンピュータに取り込んだ
画像、出力画像の3つがL*a*b*表色系に於いて、ど
のような色の近似性を有するか、色差判定により
整合性を検討した。
【結果】実際の舌のL*a*b*表色系の値を基準色と
して設定し、それぞれの条件に対し、色差判定を
した結果、過光量、減光量ともに、著しい違いを
呈したが、「キャスマッチ」を用いたレベル補正
後のコンピューターの画像と出力画像は、本来の
舌色に近い値を認めた。
【結論】 簡便で再現性のある舌診の撮影法を検討
する為に、画像補正用カラーチャートを用いた手
法は、実際の舌色に近似した画像を得ることがで
き、有用である事が示唆された。
2D10_2
キーワード:画像補正用カラーチャート、
舌診、色彩計
O-68
鍼治療における皮膚消毒法の
検討
兵庫県立東洋医学研究所
○田口静江、松本克彦
関西鍼灸短期大学
奥田 学、吉備 登
北村 智、楳田高士
【はじめに】近年、様々な感染症がクローズアッ
プされ、鍼灸においても鍼治療後に劇症型A群連
鎖球菌感染症Toxic-shock-like syndrome(TSLS)を
発症し、下肢切断や死亡するなど極めて深刻な報
告がなされ、皮膚消毒や器具の滅菌の徹底が求め
られている。滅菌条件や手指消毒についての検討
は多く見られるが、鍼灸臨床における皮膚消毒に
ついての効果を検討した報告はほとんど見られな
い。そこで、我々が日常行っている皮膚消毒の消
毒効果と望ましい消毒手技について検討した。
【方法】関西鍼灸短期大学学生113名を対象に、1
回拭き:清拭圧200g・800g群、2回拭き:清拭圧
200g・800g群、3回拭き:清拭圧200g・800g群の
計6群(各群30名)に分け、前額部の左側を実際
に消毒し、右側をその対照とした。そして消毒部
位と対照部位の皮膚細菌をそれぞれSCDLP寒天培
地(日水製薬)を用いて採取した。採取後、37℃
で48時間培養後、細菌数を計測した。また、消毒
後の培地を無作為に選び、菌の同定を行った。
【結果・考察】 全群とも消毒後の細菌数は減少
し、消毒効果は認められた。しかし消毒後の各群
間には統計的に有意差は認められなかった。検出
された細菌にはStapylococcus sp. Bacillus sp.
Pseudmonas sp. などがみられた。Bacillus sp.につい
てはアルコール類では殺菌できない菌種のため、
消毒後の培地から多く検出されたと考えられる。
今回行った6群の消毒手技については事前に関西
鍼灸短期大学教職員18名にアンケート調査を行う
と同時に、皮膚に対する清拭圧、綿花に含まれる
アルコール含有量の測定を行い、それらを参考に
研究の条件を設定した。
【結語】各群について消毒後の細菌数は減少し、
消毒効果が認められた。しかし、今回の条件下で
は、清拭回数や清拭圧が変わっても、その効果は
ほぼ同等であった。今回の結果から望ましい消毒
手技は決定できなかったが、今後、消毒手技、消
毒剤の濃度などについてさらなる検討が望まれ
る。
2D10_3
キーワード:感染防止、皮膚消毒、消毒手技、
細菌数