チャイナレポート - 新潟経済社会リサーチセンター

チャイナレポート
第24回
第四銀行上海駐在員事務所
ると外資系がシェアを落とすなか、中国地場ブランド
世界最大の市場で苦戦する
日系自動車メーカー
が3割から4割へシェアを伸ばしてきている。さらに、
外資系においては、2009年には日本が約25%を占め第
1位であったが、12年にはドイツに抜かれ、第2位へ
中国の自動車市場は、2008年のリーマン・ショック
転落。欧州勢、韓国がシェア拡大、もしくは維持を
以降、日本をはじめ先進国市場の停滞や縮小とは対照
図っているなか、日本だけがシェアを低下させている。
的に、急速に成長している。新車販売台数の推移を見
日系企業のシェア低下の背景には以下の2つの要因
てみると08年の930万台から13年には2,200万台へ増
があるといわれている。1つは小型車モデル(排気量
加、わずか5年間で2.3倍以上も市場が拡大する勢い
1.3∼1.6ℓ)における価格。中国の新車販売台数の7
を示してきている。日本における自動車販売台数の増
割近くを占める小型車における各国メーカーの中心価
加推移で考えてみると、40年前の1970年代における増
格は、中国系6万∼7万元、欧米・韓国系9万∼10万
加率とほぼ同じ水準になる。
元、日系10万∼11万元となっている。日系メーカーの
このように市場の拡大がみられるなか、自動車メー
価格は中国系に比べ5割強、欧米・韓国系に比べ1割
カーの販売シェア推移を見るとシェア拡大もしくは維
程度高くなっている。車の原価の約7割は部品コスト
持しているグループとシェアが低下しているグループ
といわれており、各国自動車メーカーは低コスト化の
に分けられる。中国系、外資系別の販売シェアは中国
ために部品の現地調達率を引き上げてきた。その結
系が4割、外資系が6割となっている。外資系が依然
果、現在の欧米・韓国系メーカーによる部品の現地調
として優勢にあるものの、過去5年間の推移を見てみ
達率は80∼90%の水準に達したといわれている。欧米
図表1 中国における自動車販売台数の推移 14年は予測台数
(百万台)
(%)
25
50
45
20
40
35
15
30
25
10
20
15
5
10
5
0
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
0
(年)
百万台(左目盛)
対前年増加率%(右目盛)
(資料)中国汽車工業協会
新潟経済社会リサーチセンター センター月報 2015.02
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チャイナレポート
世界最大の市場で苦戦する日系自動車メーカー
図表2 国別自動車販売実績の推移
09年
国
外資系ブランド
13年
シェア(%)
国
70.3
14年(1−11月)
シェア(%)
国
59.7
シェア(%)
61.9
1 位
日 本
24.9
ドイツ
18.8
ドイツ
20.7
2 位
ドイツ
19.3
日 本
16.4
日 本
15.3
3 位
アメリカ
13.0
アメリカ
12.4
アメリカ
12.8
4 位
韓 国
9.6
韓 国
8.8
韓 国
9.0
5 位
フランス
3.6
フランス
3.1
フランス
3.8
中国地場ブランド
29.7
40.3
38.1
(資料)中国汽車工業協会
系メーカーはいち早く1990年代に中国に進出。進出の
は世界最大の市場であり続けると思われる。外資系自
際に自国の部品メーカーの進出が伴わず、早い段階か
動車メーカーは中国系企業が存在感を増すなかで、コ
ら複数の地場企業(中国系、日系、欧米系)と取引を
スト競争力に勝る中国系企業と高いブランド力を持つ
進め、部品メーカーの使用する原材料、部品調達に至
外資系企業との熾烈な競争を勝ち抜いていかなければ
るまで幅広く現地調達を進めてきた経緯がある。日系
ならない。自動車メーカーによるコスト削減圧力は、
企業も現地調達率を高めてきているものの、部品メー
欧州企業で見られるように系列や既存の調達体制の枠
カーの原材料、部品には日本からの輸入品も含まれて
組みを超えた新しい取引関係を生み出していくものと
おり、実態ベースの現地調達率にはまだ差があるとい
思われる。今後の部品メーカーは、原材料や部品を含
われている。
む実質的な現地調達率を高めてコスト競争力を更に改
2つ目は、中国人消費者が日本車に対して抱くイ
善するとともに、日本への部品輸出なども視野に入れ
メージの影響が挙げられる。中国では運転マナー啓蒙
た事業の構築が重要といえそうだ。
の一環として、監視カメラによる事故現場の映像が頻
繁にテレビやインターネットを通じて公開されてい
る。公開映像では、衝突事故現場におけるぺしゃんこ
につぶれた日系メーカー車や車体の変形が少ない欧米
メーカー車の姿が映し出されている。このような映像
は中国の消費者が「欧米メーカー車の方が日本車より
も固い鋼板が使われていて安全だ」という偏った認識
を持つことを助長しており、今後は自動車の安全性に
(出典)
・中国の自動車販売数 :中国汽車工業協会
・世界自動車販売台数 :英国調査コンサルティング会社LMC
Automotive社
・自 動 車 販 売 予 測 :中国自動車技術センター自動車技術
情報研究所発表
(2014.9.25中国汽車消費網)
・中国の自動車普及率 :
「中国汽車工業年鑑」、「中国統計年鑑」
・日本の自動車普及率 :一般財団法人日本自動車工業会
・中 国 メ デ ィ ア:汽車之家記事(2014.12.2)
関する正しい知識の醸成が必要である、と中国の自動
上海駐在員事務所 佐藤 誠
車専門誌において指摘されている。
中国自動車市場の潜在力を勘案すれば、当面、中国
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