フランス学術情報(平成 24 年 2 月分) 平成 24 年 2 月 14 日

フランス学術情報(平成 24 年 2 月分)
平成 24 年 2 月 14 日
ストラスブール研究連絡センター
●「第二回未来への投資プログラム”Initiatives d’excellence”の採択結果」
2012 年 2 月 3 日、フランス首相 François Fillon 氏は、未来への投資プログラム”Initiative
d’excellence”の第二次募集の採択結果を発表した。”Initiative d’excellence”は、世界に通用する
優れた研究・教育拠点を支援するプログラムで、既に PRES Université de Bordeaux(ボルドー地域
の 4 大学と 1 エンジニアリングスクールで構成される大学間コンソーシアム)、ストラスブール大学、
Paris Sciences et Lettres(パリ地域の 13 の高等教育・研究機関で構成されるコンソーシアム)が採択
されている。今回の第二次募集では、20 件の応募の中から次の 5 件が採択された。
- PRES Aix-Marseille Université(プロヴァンス・コートダジュール地方)
- PRES Université de Toulouse(ミディ・ピレネー地方)
- Fondation de coopération scientifique Campus Paris-Saclay(イルドフランス地方)
- PRES Université Sorbonne (イルドフランス地方)
- PRES Université Sorbonne Paris Cité(イルドフランス地方)
選考はカナダ Hydro-Québec 研究所長 Prof. Phillippe Le Prestre が委員長を務める国際審査委員
会により行われ、投資委員会委員長 René Ricol 氏、フランス高等教育研究大臣 Laurent Wauquiez
氏の承認を得て、首相によって最終決定がなされた。選考基準は、①研究の質、②教育と研究開
発能力、③地域社会・地域経済との関連性、国際共同研究の充実、④プロジェクトを効果的に行う
能力(プロジェクトの目的と方向性、人事、資金の配分)の 4 点であり、募集は、Agence National
pour la Recherche (ANR:国立研究機構)が行った。全採択プロジェクトに対し総額 77 億ユーロが支
給される。
採択されたグループは、今後 10 年間で世界のトップレベルの研究教育を行う大学になることが期
待されている。
参考資料
・フランス高等教育・研究省 HP(2012 年 2 月 3 日)
http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid59263/5-projets-selectionnes-pour-la-deuxieme-v
ague-de-l-appel-a-projets-initiatives-d-excellence.html
・DNA 紙(2012 年 2 月 4 日)「 « Iniatives d’excellence » Huit campus de rang mondial」
・Le Monde 紙(2012 年 2 月 9 日)「Huit super-universités pour surmonter le « Changhaï-choc »」
●「未来への投資プログラム-健康・バイオテクノロジー分野の第二次採択について」
2012 年 2 月 7 日、フランス労働・雇用・厚生大臣 Xavier Bertrand 氏、農業・食料・漁業・農村地
域・国土整備大臣 Bruno Le Maire 氏、高等教育研究大臣 Laurent Wauquiez 氏、投資委員会委員
長 René Ricol 氏は、未来への投資プログラムの健康・バイオテクノロジー分野の採択課題を発表し
た。同分野では、「産業化前段階のモデル開発」、「バイオロジーと健康の国内インフラ整備」、「バ
イオインフォマティクス」、「ナノ・バイオテクノロジー」のプロジェクトの募集が行われた。採択に関し、
特に重要視されたのは複合領域的なアプローチを行っているか、そして、産業界との連携がとれて
いるか、の二点である。
健康・バイオテクノロジーはフランスの研究・イノベーション戦略において要の分野である。未来
への投資プログラム-健康・バイオテクノロジー分野では全体で 15.5 億ユーロが配分される。今回
採択された 20 件には世界レベルの研究を行うために必要な基盤を整える資金が提供される。採択
プロジェクトは下図のとおり。
未来への投資プログラム-バイオロジー・健康分
野の設備 第一次・第二次採択課題分布
■農学
■エコシステム、生物多様性
■薬学、臨床
■公衆衛生
■健康のためのテクノロジー
▲産業化前段階のモデル開発
■バイオロジーと健康の国内インフラ整備
大学病院
Lyon BioTech 研究所
参考資料
・ フランス高等教育・研究省 HP(2012 年 2 月 7 日)
http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid59286/20-laureats-pour-la-seconde-vague-des-app
els-a-projets-de-l-action-sante-et-biotechnologies.html
●「2012 年大学予算の増加について」
過去 5 年間、高等教育支援はフランス政府の優先事項であり、厳しい財政状況にも関わらず、高
等教育関連予算は年々増加してきた。2012 年の全体予算は、1 億 4,700 ユーロ増加し、各大学、
エンジニアリングスクールにとって 1.4-1.5%の上昇となっている。運営費は、大学が 1.2%、エンジニ
アリングスクールが 0.9%増加している。2007 年から 2011 年にかけて、各高等教育機関の予算は、
過去最大の平均 24.8%の増加となった。特に、アンジェ大学(Université d’Angers)、リール第二大
学(Université de Lille 2)では、それぞれ、59%、61%、予算が増加している。
具体的な予算増加の内容は次の 3 点にある。
1.給与の増加:よりダイナミックな人事を可能にするためのボーナスの 10%の増加。
2.学生生活の質の向上:学生に平等な機会を与えるための奨学金の 6%の増加。
3.十分な設備を備えていないとされる 20 大学の 3.5%から 6%の予算増加
より長期的な高等教育機関支援については、Conférence des Présidents d'Universités (CPU:フラ
ンス国立大学協会)、Conférence des Directeurs des Ecoles d'Ingénieur (CDEFI:工学系グランゼコ
ール学長評議会)とフランス高等教育研究省の間で引き続き話し合いが行われる予定である。
参考資料
・フランス高等教育・研究省 HP(2012 年 1 月 16 日)
http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid59040/dotation-aux-universites-2012.html
・Le Monde 紙(2012 年 1 月 20 日)「Autonomie des universités : Le piège du budget」
●「学費値上げの議論」
大学における財政難と高等教育へのアクセスへの不平等がフランス国内で問題となっている。
Conférence des Présidents d'Universités (CPU:フランス国立大学協会)の Prof. Louis Vogel 会長は
マルセイユで 2012 年 2 月 8 日から 10 日に開催されたシンポジウムで、「より長期的な視点に立ち、
学部課程ではゆるやかに、修士・博士課程ではより大きな幅で登録料(学費)値上げするべきだ」と
述べた。また、「国は奨学金の額を大幅に増やすべきだ」とも語った。
サルコジ大統領と Laurent Wacquez 高等教育研究大臣は、登録料の値上げに対して否定的だ
が、フランスにおいて登録料は非常に低額であり、見直すべきだという声も多い。具体的には、例
えばイギリスでは最低でも年 10,500 ユーロであるのに対し、フランスでは学部課程が年 177 ユーロ、
修士課程が年 245 ユーロ、博士課程が年 372 ユーロである。一方学生一人当たりに実際にかかる
コストは、2009 年時点で年 10,220 ユーロである。
フランス国立大学協会にとって、高等教育への平等なアクセスは重要な課題の一つである。低
所得者層からの高等教育機関進学は、2007 年には 36%だったところ、現在は 31%にとどまってい
る。財源を安定的に確保することで半数以上の学生に奨学金が行き渡るようにしたいとの声もあ
る。
学費の値上げはフランス国立大学協会だけの特命事項ではなく、各大学にとっても要検討事項
となってきている。例えば、パリ第 7 大学(Université Paris-Diderot)では 4 億 3,000 万ユーロの予算
に対し、学費収入はわずか 2%に過ぎない。2007 年に大学の自治化が行われてから、フランスの高
等教育の全体予算は増加しているが、アメリカの大学の予算は約 8 倍である。
目標はフランスの高等教育モデルをその価値を否定することなく新しくすることにある。
参考資料
・Le Monde 紙(2012 年 2 月 12-13 日)“L’université s’interroge sur ses droits d’entrée”