マイクユナイト™ ‒ 聴覚障害児の聞こえを改善

マイクユナイト™ ‒ 聴覚障害児の聞こえを改善
アストリッド・ハスラップ、M.A.
要約
言語を習得しようとしている子どもが最適に音声を認識するためには、
きわめて良好な信号対雑音比(以
下SN比)が必要になる。聴覚障害児が同等の成果をあげるためには、
さらに良好なSN比を確保しなけれ
ばならない。残念なことに最新の補聴器をもってしても、多くの聞き取り場面において必ずしもこの要件
を十分に満たせるわけではない。この理由として、主に背景雑音、話者との距離や残響が挙げられる。
本稿では、マイクユナイト™の利用によって得られる優位性を記載する。親や教師が本製品を装着すれば、
容易に自分の声を子どもの補聴器に無線通信できるため、日常のさまざまな場面でSN比を大幅に改善さ
せることができる。
はじめに
として、音声信号のワイヤレス通信が挙げられ
小児難聴の療育は、音声増幅という観点でのみ
る。音源や話者との距離、残響および干渉雑音に
長期にわたり研究されてきた。新しい補聴器技術
よる負の影響を克服することにより、補聴器への
が登場すると、小児専門のオージオロジストが慎
ワイヤレス音声通信は最も良好な信号を届ける
重にその潜在的優位性を比較考量し、大人との
可能性が高いため、年齢を問わずお勧めできる。
対比による子どもに対するその技術の妥当性を
最近まで、補聴器の「ワイヤレス通信」は周波数
検討してきた。ある技術が成人用補聴器に普及し
変調(Frequency Modulation:FM)
システムと
てから十分な臨床的裏付けを得て小児用補聴器
同義的に扱われてきた。FMシステムはSN比を
フィッティングに応用できるようになるまでには、
15~20dB1向上させることができ、聴覚障害者
十分理にかなうだけの時間を要する。たとえば、
と話者の双方が自由に移動しながら安定した接
雑音抑制アルゴリズムが補聴器に利用されるよ
続を維持することができる。
しかし、FMシステム
うになってから10年を超えるが、学術文献の根
の実用において干渉の頻発が問題視されてい
拠に基づいて小児用補聴器フィッティングに雑音
る。また、FMシステムは多額の投資を必要とし、
抑制を適用することが推奨され始めたのは、ほん
補聴器本体の価格に匹敵することも多い。さら
のここ数年である。
に、補聴器技術は家庭内のさまざまな場面で幼
いくつかの補聴器技術には優位性があり、それに
い子どもに使用されるため、オージオロジストは
ついては疑う余地がなく、議論する必要もない
適切に使用できているかどうかだけでなく、有益
が、小児用補聴器への技術利用には障壁が存在
なSN比に対して子どもが依存状態になるのでは
する。学齢期以上の子どもへの使用がほぼ例外
ないかと危惧することがある。
したがって、未就学
なく推奨されているにもかかわらず、未就学児や
児や乳幼児へのFMシステム利用がかなり限定さ
乳幼児にはあまり利用されていない技術の一例
れている。
1
音を届ける:あらゆる年齢層に対応する
デジタルワイヤレスソリューション
子ども向けの使い方として、
マイクユナイト™は、
デジタルテクノロジーによって、補聴器に多くの
リップで留めることができる。内蔵された指向性
有益な新機能が備わった。同様に、デジタルテク
マイクが音を拾い上げるだけでなく、
ラインイン
ノロジーはワイヤレス補聴器テクノロジーを大幅
接続により強力で安定した2.4GHzデジタルワ
に向上させている。リサウンドは、2.4GHz無線
イヤレス通信方式を利用してMP3プレーヤーや
通信に基づくワイヤレス補聴器システムを導入し
タブレット、またはゲーム機器のような外部音源
ている。この技術にはさまざまな利点があり、広
から補聴器に音声を直接送信することも可能に
い周波数帯域とステレオ通信の実現による優れ
なる。マイクユナイト™は、最大7メートルの範囲
た音質、音源から補聴器への通信時間の短縮お
までワイヤレス接続を維持できる。周波数範囲は
よびプライバシーのコード化と外部妨害電波に
最大9000Hzで、補聴器の周波数帯域によって
強い通信精度などが挙げられる2 。
しかし他のデ
のみ制限される。また、
オン/オフスイッチと音量
ジタルワイヤレス補聴器システムと比較した場
調整で簡単に使用できる。LEDがバッテリー残
合、
ユーザー視点からみた最も重要なメリットは、
量、充電レベルおよびペアリングを表示する。リ
かなり距離を隔てていても音源から補聴器に音
サウンドのワイヤレス補聴器は、
マイクユナイト™
声を直接無線送信できるという点である。他のデ
から送信した音声と補聴器マイクから拾った音声
ジタルワイヤレス補聴器は、
ワイヤレス信号を受
を組み合わせることができるため、子どもが自分
信するためにユーザーが誘導磁界方式の中継器
の周りの音に反応できるようになる。これらの音
を首にかけなければならない。これでは、子ども
声バランスの比率は調整することができ、希望に
への応用に関して安全面が懸念されることは明
応じて補聴器マイクをミュートにしながら音声を
らかである。
送信することもできる。リサウンドのワイヤレス
ユナイト™ワイヤレスシステムは、
リサウンド補聴
補聴器でフィッティングした子どもは何人でも1
器と通信できる手頃な価格のワイヤレスアクセ
台のマイクユナイト™に接続できるため、多くの
サリーである。そのアクセサリーの1つがマイク
子どもが1台の話し手/教師の音声や話し声を聞
ユナイト™であり、子どもの補聴器利用を補完す
くことができ、背景雑音のSN比を向上させるこ
るのにこの上なく適している。マイクユナイト™は
とができる。さらに、
リサウンドの補聴器は、マイ
小型の個人向け携帯機器であり、音声/外部音源
クユナイト™などのストリーミング機器3台に対
をユーザーの補聴器に直接無線送信することが
応している。
したがって、たとえば1台は託児所
できる。マイクユナイト™は音源から最もクリアな
で、
もう1台は自宅で、
という使い方ができる。
SN比を向上させたい場面で教師等の衣服にク
音を拾い上げ、
リサウンド独自開発2.4GHzデジ
タルワイヤレス技術によって補聴器に直接音声
なぜSN比を向上させることが重要なのか
を送信する。
成人が音声を処理する場合、自然に言語知識を
利用して音声信号の欠落情報を穴埋めする。
した
がって、言語に堪能な成人は、聞き取りにくい条
件下やすべての音声を聞き取ることができない
場面でも内容をかなりよく理解することができ
図1. マイクユナイト™は、最大7メートルの範囲でリサウンドのワイヤレス補聴
器に音声を直接無線送信することができる。
る。逆に、子どもが音声を理解するためには、大人
2
よりも良好なきこえとSN比が必要である。子ど
ワイヤレス音声通信は違いがあるのか
もは、大人の言語運用能力を獲得するために必
音源からのワイヤレス通信によるSN比改善の優
要な言語知識を発達させる途上にあるため、
これ
位性は、FMシステムで得られた経験に基づいて
は当然のことである。表1に、いくつかの研究調
いる。音源や話者との距離、残響および背景雑音
査とその主な所見を提示する。
これらの研究所見
が音声信号に与える悪影響を克服できるというこ
から、未就学児と学齢期の子どもは大人と同じ言
れらの優位性は、10代前半の子どもに関してよく
語認識能力を獲得するために良好な聞き取り環
確立されている7。ただし、幼い子どもへの利用を
境を必要としていることがわかる。
支持する根拠はきわめて少ない。これは、補聴器
聴覚障害児は、言語発達において大きな課題に
以外にもFMシステムを購入しなければならない
直面する。音声刺激との接触を制限している聴覚
という費用面の障壁に少なくとも一部起因してい
閾値を高めるだけでなく、成人を対象とした研究
ると考えられる。この費用面の障壁は、本テクノロ
では6感音難聴は聴力正常児の必要水準よりも高
ジーを利用している低年齢児の研究対象者が少
いSN比を要することが示唆されている。これら
ないことを意味している。とはいえ、聴覚障害をも
の所見は、子どもに届けられる音声増幅の程度と
つ乳幼児や低年齢児は、
自身の聞き取り環境にお
設定について予測される内容であるが、SN比の
いて年長児と同じ課題に直面する8。子どもがコミ
改善はあらゆる言語発達段階においてきわめて
ュニケーションを図る際に、親や介護者が常にそ
重要であることを指摘している。子どもができる
ばにいるわけではない。自宅、屋外その他の子ど
だけ多くの場面で可能な限り最高の音質で音声
ものいる環境に応じて室内音響は異なる。テレビ、
信号に触れることができるようにすれば、おのず
兄弟姉妹の声、開けっ放しの窓、ペットおよび家電
と言語習得の機会が広がる。
製品などの様々な音信号が妨げになる場合があ
研究
所見
Bradley and Sato (2008) 3:
語音明瞭度結果とSN比および
る。親からの報告に基づけば、FMシステムを使用
している乳幼児への優位性として、離れた場所や
子どもの年齢との間には顕著な
雑音環境でもコミュニケーションがとれることや、
関連性がある。+15dBの SN比
子どもとたくさん話せることなどが挙げられてい
では、最低年齢の小児被験者
(6
Nishi et al. (2010) 4:
歳)
には十分とはいえない。
る9 。本試験に参加した親は、FMシステム使用時
あらゆるSN比条件下での子音
に子どもが音声を模倣する機会が増えたとも報
認識課題の全体成績は、低年齢
告している。さらにその後、Thibodeau10が乳幼
児(4~5歳)の方が成人や年長
Neuman et al. (2010) 5:
児(6~7歳および8~9歳)
より
児へのFMシステム利用によって親子交流の量と
も不良であった。
質にも良い効果が認められ、子どもが以前よりも
子どもは年 齢 が 低 い ほど( 1 2
音声に関心や注意を向けるようになったと報告し
歳、11歳、10歳、9歳、8歳、7歳
および6歳)、音声認識課題(雑
ている。このほかにもThibodeauは、雑音環境下
音下でのBKBスピーチ※)
におい
での音声認識低下など、
この年齢グループに対す
て顕著に高いSN比を必要とす
る。95%正答スコアを得るため
るFMシステム利用に異論を唱える根拠は実在し
に、9歳児は+15dBのSN比を必
ないと指摘している。言語刺激の最適化により、
要とし、6歳児は+15dB以上の
認識能力、社会性、学力が最終的に拡張されると
SN比を必要とした。
いう利点から、幼い聴覚障害児へのワイヤレス技
表1. 子どもが大人と同レベルの音声認識能力を獲得するためには大人よりも
良好なSN比を必要とすることを示す研究結果。
※BKB(Bamford-Kowal-Bench)
術利用が強く奨励される。
3
マイクユナイト™の優位性は
FMシステムにどれほど匹敵するのか
音声
(HATS)
先に記載したとおり、
リサウンドの2.4GHzによる
雑音
雑音
ワイヤレス技術は、あらゆる発達段階にある聴覚
障害児が手頃な価格で優れたSN比の優位性を
享受する機会を与えることができる。ただし、
これ
らの優位性を裏付ける根拠がFMシステムの使用
経験に基づくことを考慮すれば、
リサウンドのシ
ステムの性能がどれほど匹敵するのかを検討す
被検者
るのが妥当である。
マイクユナイト™が提供する優位性の妥当性を
確認するため、聴覚障害者に雑音環境下での音
雑音
雑音
声認識テストを受けてもらい、
マイクユナイト™と
代表格のFMシステムとを比較した。
図2. テスト環境の図解
テスト環境
テスト手順
テスト環境はマイクユナイト™の使用環境とほぼ
被験者は補聴器使用経験のある聴覚障害者であ
同じ条件になるよう設計し、雑音が補聴器ユーザ
る。全員が、マイクユナイト™使用条件に合わせ
ーの背後からだけでなく全方向から発生する状
てAL967-DWを装用し、FM使用条件に合わせ
況にした。計4台のスピーカーから65dBで常に
ては他社製耳かけ型補聴器を装用した。どの補聴
雑音を発生させた。人工の口を付けた、変換器と
器も、聴力に合わせてベント加工されたイヤーモ
しての機能を備えたブリュエル・ケアー社製の
ールド使用して行った。表2に提示した条件下に
HATS(ヘッドアンドトルソシミュレータ)11を使用
て、無作為な順序でDantaleⅡ※テストを実施し
して、
これをDantaleⅡテスト文を読み上げるスピ
た。
ーカー(話し手)とした。被検査者(聞き手)の前方
※DantaleⅡテストは語音了解閾値を測定する際に
使用するデンマーク語のテスト
2メートルの位置に椅子を置き、HATSを配置し
適応型指向性モード
た。マイクユナイト™とFM送信機をHATSに直
マイクユナイト™(補聴器マイクはミュート)
接取り付け、音声信号が発生する人工の口から
マイクユナイト™+補聴器マイク作動状態
25cmの距離に設置して同レベルの音声をマイ
他社製BTE+FMシステム併用(補聴器マイクはミュート)
クから取得できるようにした。
他社製BTE+FMシステム併用+補聴器マイク作動状態
表2. マイクユナイト™の検証試験用のテスト条件
4
結果
まとめ
適 応 型 指 向 性 モ ードで の 平 均 語 音 了 解 閾 値
言語を習得しようとしている子どもには、既にそ
(Speech Reception Threshold:SRT)
スコ
れが堪能な大人よりも良いSN比が必要である。
アは-7.3dBであった。平均SRTスコアが最も高
聴覚障害児が同年齢の健聴児と同等の音声認識
かったのはマイクユナイト™の単体使用であり、
能力を獲得するためには、著しく高いSN比が必
平均SRTスコアは-18.3dBであった。2番目に
要となる。補聴器単体では、いくつかの聞き取り
良好なSRTスコアが得られたのは、補聴器マイク
環境下において音声を理解できる最適なSN比
非作動下での他社製BTE+FMシステム併用で
を提供することができない。FMシステムは今も
あり、平均SRTスコアは-17.5dBであった。
なお教室でのSN比を向上させるために最も広く
利用されている補助装置である。
しかし、子ども
たちの学びの場は学校だけではない。就学前の
子どもは常に厳しい聞き取り環境に置かれてお
平均語音了解閾値 (N=10)
り、FMシステムの技術が未就学児にとって有益
補聴器マイク
作動時
であることも確認されている。
SRTスコア(dB)
補聴器マイク
非作動時
マイクユナイト™は、あらゆる年齢の子どもに対
してきこえとSN比を改善する新たな機会を提供
することができる。マイクユナイト™は適応型指
適応型指向性
モード
マイクユナイト™
向性の補聴器設定よりも語音了解閾値(SRT)が
他社製BTE+
FMシステム併用
大幅に向上し、代表格のFMシステムと同等のSN
比優位性を提供できることが検証によって確認
図3. さまざまなテスト条件下でのSN比改善
された。マイクユナイト™は中継器を使用せず直
接音声を補聴器に届けることが出来るため、乳幼
テスト参加者は、適応型指向性モードと比べてマ
児との使用においても有効かつ安全な使用基準
イクユナイト™やFMシステムを活用したときの方
を満たすことができる。さらに、使いやすい上に
が良い結果となった
(p<0.05)。また、
マイクユナ
必要な費用がFMシステムよりも大幅に低い。聴
イト™とFMシステム使用時とでは互いに差がな
覚障害児にとって望ましいSN比の要件を満たし
かった。以上の結果から、補聴器へのワイヤレス
ているため、マイクユナイト™は子どもが言語を
音声通信は補聴器の単体使用と比べて良いSN
習得する機会を最大限に引き出す一助となる。
比を提供することができ、マイクユナイト™はFM
システムと同等のSN比優位性を提供できる12と
いう主張をいずれも支持している。
5
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*MKD0779*
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